特許第6582013号(P6582013)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6582013剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582013
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20190912BHJP
   C09J 7/40 20180101ALI20190912BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   H01L21/78 S
   C09J7/40
   H01L21/304 622J
【請求項の数】11
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-71253(P2017-71253)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-174220(P2018-174220A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2018年8月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】松原 侑弘
(72)【発明者】
【氏名】横井 啓時
【審査官】 宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−171263(JP,A)
【文献】 特開2002−201442(JP,A)
【文献】 特開2006−049482(JP,A)
【文献】 特開2016−164953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
C09J 7/40
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムと、粘着剤層と、剥離フィルムと、マスク材層と、剥離ライナーとを、この順で有する剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープであって、前記剥離フィルム及び前記剥離ライナーはそれぞれ1つの剥離処理面を有し、該剥離フィルム及び剥離ライナーはそれぞれ前記剥離処理面で前記マスク材層と接しており、該剥離フィルムと該マスク材層間の剥離力より該剥離ライナーと該マスク材層間の剥離力が小さい、剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
【請求項2】
前記マスク材層の貯蔵弾性率が、10万Pa未満である請求項1記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
【請求項3】
前記剥離フィルムと前記マスク材層間の剥離力が、0.02N/25mm以上、1.0N/25mm未満である請求項1又は2記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
【請求項4】
前記剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープから前記剥離ライナーを除いた積層体の引張弾性率が1GPa以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
【請求項5】
前記剥離フィルムの引張弾性率が、1.5GPa以上である請求項1〜4のいずれか1項に記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
【請求項6】
前記剥離フィルムの厚さが25〜75μmである請求項1〜5のいずれか1項に記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
【請求項7】
前記基材フィルムの、前記粘着剤層とは反対側の面の材質が低密度ポリエチレン又はエチレン−酢酸ビニル共重合体である請求項1〜6のいずれか1項に記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
【請求項8】
前記マスク材層のマスク材が紫外線硬化型である請求項1〜7のいずれか1項に記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
【請求項9】
下記工程(a)〜(d)を含む半導体チップの製造に用いられる、請求項1〜8のいずれか1項に記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ
(a)前記剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープから前記剥離ライナーを剥離して半導体ウェハのパターン面側に貼り合せた状態で、該半導体ウェハの裏面を研削し、研削した半導体ウェハの裏面にウェハ固定テープを貼り合わせ、リングフレームで支持固定する工程、
(b)前記マスク一体型表面保護テープから前記基材フィルムと前記粘着剤層と前記剥離フィルムとを一体に剥離してマスク材層を表面に露出させた後、該マスク材層のうち半導体ウェハのストリートに相当する部分をレーザーにより切断して半導体ウェハのストリートを開口する工程、
(c)SFプラズマにより半導体ウェハを前記ストリートで分断して半導体チップに個片化するプラズマダイシング工程、及び、
(d)Oプラズマにより前記マスク材層を除去するアッシング工程。
【請求項10】
前記マスク材層の厚みが、前記パターン面の凹凸の最大高さより大きい請求項9記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
【請求項11】
前記パターン面の凹凸の最大高さが50μm以上である請求項9又は10記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープに関する。
【背景技術】
【0002】
最近の半導体チップの薄膜化及び小チップ化への進化はめざましい。特に、メモリカードやスマートカードの様な半導体ICチップが内蔵されたICカードでは薄膜化が要求されている。また、LED及び/又はLCD駆動用デバイスなどでは小チップ化が要求されている。今後ICカードやLED及び/又はLCD駆動用デバイスの需要が増えるにつれ半導体チップの薄膜化及び小チップ化のニーズはより一層高まるものと考えられる。
【0003】
半導体チップは、半導体ウェハをバックグラインド工程やエッチング工程等において所定厚みに薄膜化した後、ダイシング工程を経て個々のチップに分割することにより得られる。ダイシング工程においては、ダイシングをダイシングブレードにより行うブレードダイシング方式、ダイシングをレーザーで行うレーザーダイシング方式、ダイシングを水圧で行うウオータージェット方式、半導体ウェハの厚み方向にレーザーで改質層を形成し、エキスパンドして分断し個片化するステルスダイシング方式、及びダイシングをプラズマで行うプラズマダイシング方式(例えば、特許文献1参照)など、様々な方式が用いられている。
なかでも、プラズマダイシング方式はチップの分断に最適なプロセスの1つとされてきた。プラズマダイシング方式は、マスクで覆っていない箇所をプラズマで選択的にエッチングすることで、半導体ウェハを分割する方法である。このダイシング方法を用いると、選択的にチップの分断が可能であり、スクライブラインが曲がっていても問題なく分断できる。また、エッチングレートが非常に高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−19385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
プラズマダイシング方式では、六フッ化硫黄(SF)や四フッ化炭素(CF)など、半導体ウェハとの反応性が非常に高いフッ素系のガスをプラズマ発生用ガスとして用いており、その高いエッチングレートから、エッチングしない面に対してマスクによる保護が必須であり、事前にマスク形成が必要となる。
このマスク形成には、特許文献1にも記載があるように、半導体ウェハの表面にレジストを塗布した後、ストリートに相当する部分をフォトリソグラフィプロセスで除去してマスクとする技術が一般的に用いられる。そのため、プラズマダイシングを行うためには、プラズマダイシング設備に加えてフォトリソ工程設備が必要で、チップコストが上昇するという問題がある。また、プラズマエッチング後にマスク(レジスト膜)が残った状態であるため、マスク除去のために大量の溶剤を用いる必要があり、それでもマスクを完全に除去できないこともあり、不良チップが生じる場合があった。さらに、レジストによるマスキング工程を経るため、全体の処理プロセスが長くなるという不都合もあった。
剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープは、半導体ウェハの裏面研削工程においては半導体ウェハのパターン面を保護し、その後のプラズマによる個別化工程の前には、マスク一体型表面保護テープから、マスク材層を選択的に半導体ウェハに残すことが重要である。
また、各工程において選択的に必要な層を露出させるため、各層の剥離力の関係が適切に制御されている必要があり、各層の設計に大幅な制限がかかってしまう。
本発明は、プラズマダイシング方式を用いた半導体チップの製造におけるフォトリソグラフィプロセスによるマスク形成を不要とする剥離ライナー付マスク一体型の表面保護テープを提供することを課題とする。
本発明は、さらに、各層間の剥離力の関係が制御され、マスク材層をその表面状態を維持して露出できる、マスク一体型表面保護テープを提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記課題は以下の手段によって解決される。
(1)基材フィルムと、粘着剤層と、剥離フィルムと、マスク材層と、剥離ライナーとを、この順で有する剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープであって、前記剥離フィルム及び前記剥離ライナーはそれぞれ1つの剥離処理面を有し、該剥離フィルム及び剥離ライナーはそれぞれ前記剥離処理面で前記マスク材層と接しており、該剥離フィルムと該マスク材層間の剥離力より該剥離ライナーと該マスク材層間の剥離力が小さい、剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
(2)前記マスク材層の貯蔵弾性率が、10万Pa未満である(1)記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
(3)前記剥離フィルムと前記マスク材層間の剥離力が、0.02N/25mm以上、1.0N/25mm未満である(1)又は(2)記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
(4)前記剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープから前記剥離ライナーを除いた積層体の引張弾性率が1GPa以上である(1)〜(3)のいずれか1つに記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
(5)前記剥離フィルムの引張弾性率が、1.5GPa以上である(1)〜(4)のいずれか1つに記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
(6)前記剥離フィルムの厚さが25〜75μmである(1)〜(5)のいずれか1つに記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
(7)前記基材フィルムの、前記粘着剤層とは反対側の面の材質が低密度ポリエチレン又はエチレン−酢酸ビニル共重合体である(1)〜(6)のいずれか1つに記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
(8)前記マスク材層のマスク材が紫外線硬化型である(1)〜(7)のいずれか1つに記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
(9)下記工程(a)〜(d)を含む半導体チップの製造に用いられる、(1)〜(8)のいずれか1つに記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ
(a)前記剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープから前記剥離ライナーを剥離して半導体ウェハのパターン面側に貼り合せた状態で、該半導体ウェハの裏面を研削し、研削した半導体ウェハの裏面にウェハ固定テープを貼り合わせ、リングフレームで支持固定する工程、
(b)前記マスク一体型表面保護テープから前記基材フィルムと前記粘着剤層と前記剥離フィルムとを一体に剥離してマスク材層を表面に露出させた後、該マスク材層のうち半導体ウェハのストリートに相当する部分をレーザーにより切断して半導体ウェハのストリートを開口する工程、
(c)SFプラズマにより半導体ウェハを前記ストリートで分断して半導体チップに個片化するプラズマダイシング工程、及び、
(d)Oプラズマにより前記マスク材層を除去するアッシング工程。
(10)前記マスク材層の厚みが、前記パターン面の凹凸の最大高さより大きい(9)記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
(11)前記パターン面の凹凸の最大高さが50μm以上である(9)又は(10)記載の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ。
【発明の効果】
【0007】
本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープは、プラズマダイシング方式を用いた半導体チップの製造において、フォトリソグラフィプロセスによらずにマスク形成することができる。また、本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープは、剥離ライナーを剥離して、マスク材層を表面保護テープ表面に露出することができる。さらに、本発明の剥離ライナー付マスク一体型の表面保護テープは、上記薄膜化工程後においてマスク材層を半導体ウェハ表面に表面状態を維持して露出させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープの一態様の模式的な断面図である。
図2】本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープを使用する第1実施形態において、半導体ウェハへのマスク一体型表面保護テープ(剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープから剥離ライナーを除いた積層体)貼合までの工程を説明する概略断面図である。分図2(a)は半導体ウェハを示し、分図2(b)はマスク一体型表面保護テープを貼合する様子を示し、分図2(c)はマスク一体型表面保護テープを貼合した半導体ウェハを示す。
図3】本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープを使用する第1実施形態において、半導体ウェハの薄膜化と固定までの工程を説明する概略端面図である。分図3(a)は半導体ウェハの薄膜化処理を示し、分図3(b)はウェハ固定テープを貼合する様子を示し、分図3(c)は半導体ウェハをリングフレームに固定した状態を示す。
図4】本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープを使用する第1実施形態におけるマスク形成までの工程を説明する概略端面図であり、分図4(a)はマスク一体型表面保護テープからマスク材層を残して基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体を引き剥がす様子を示し、分図4(b)はマスク一体型表面保護テープのマスク材層が剥き出しになった状態を示し、分図4(c)はレーザーでストリートに相当するマスク材層を切除する工程を示す。
図5】本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープを使用する第1実施形態におけるプラズマダイシングとプラズマアッシングの工程を説明する概略端面図であり、分図5(a)はプラズマダイシングを行う様子を示し、分図5(b)はチップに個片化された状態を示し、分図5(c)はプラズマアッシングを行う様子を示す。
図6】本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープを使用する第1実施形態におけるチップをピックアップするまでの工程を説明する概略端面図であり、分図6(a)はマスク材層が除去された状態を示し、分図6(b)はチップをピックアップする様子を示す。
図7】本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープを使用する第2実施形態における紫外線照射処理を行う前後の状態を説明する概略端面図であり、分図7(a)は半導体ウェハの表裏両面をそれぞれマスク一体型表面保護テープとウェハ固定テープとで被覆し固定した状態を示し、分図7(b)は紫外線が照射される様子を示し、分図7(c)はマスク一体型表面保護テープからマスク材層を残して基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体を引き剥がす様子を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープは、好ましくは、半導体ウェハをプラズマダイシングにより分割、個別化して半導体チップを得る方法に用いられる。より詳細には、本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープは、半導体ウェハの裏面研削の際に、パターン面(表面であって、回路、素子、及び/又はバンプ等が形成された面)を保護するために、当該パターン面に貼り合わせて用いることが好ましい。
以下に説明するように、本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープを用いることにより、プラズマダイシング工程に先立つフォトリソグラフィプロセスが不要となり、半導体チップないし半導体製品の製造コストを大幅に抑えることができる。
【0010】
本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープは、さらに好ましくは、少なくとも下記工程(a)〜(d)を含む半導体チップの製造に用いられる。
(a)本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープから前記剥離ライナーを剥離して半導体ウェハのパターン面側に貼り合せた状態で、該半導体ウェハの裏面を研削し、研削した半導体ウェハの裏面にウェハ固定テープを貼り合わせ、リングフレームで支持固定する工程、
(b)前記マスク一体型表面保護テープから前記基材フィルムと前記粘着剤層と前記剥離フィルムとを剥離して(すなわちマスク一体型表面保護テープから基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体を剥離して)マスク材層を表面に露出させた後、該マスク材層のうち半導体ウェハのストリートに相当する部分をレーザーにより切断して半導体ウェハのストリートを開口する工程、
(c)SFプラズマにより半導体ウェハを前記ストリートで分断して半導体チップに個片化するプラズマダイシング工程、及び、
(d)Oプラズマにより前記マスク材層を除去するアッシング工程。
【0011】
本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープが適用される上記半導体チップの製造方法は、上記工程(d)の後、下記工程(e)を含むことが好ましい。また下記工程(e)を含む場合、当該工程(e)の後、さらに下記工程(f)を含むことが好ましい。
(e)ウェハ固定テープから半導体チップをピックアップする工程
(f)ピックアップした半導体チップをダイボンディング工程に移行する工程
【0012】
本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープは、基材フィルムと、粘着剤層と、剥離フィルムと、マスク材層と、剥離ライナーとを、この順で有する。
本発明において、上記基材フィルムと、上記粘着剤層と、上記剥離フィルムと、上記マスク材層との積層体を「マスク一体型表面保護テープ」ということがある。
また、上記基材フィルムと上記粘着剤層との積層体を「表面保護テープ」ということがある。すなわち、本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープは、表面保護テープの粘着剤層上に、さらに、剥離フィルム、マスク材層、及び剥離ライナーが設けられた積層構造のテープである。
【0013】
本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープにおいて、少なくともマスク材が感圧型であることが好ましく、感圧型であってさらに放射線硬化型(すなわち、放射線照射により硬化する特性を有すること)であることがより好ましく、マスク材が放射線硬化型であり、粘着剤が感圧型であることがさらに好ましい。粘着剤は、感圧型かつ放射線硬化型であってもよい。
マスク材が放射線硬化型である場合、上記工程(a)と上記工程(b)との間に、マスク一体型表面保護テープに放射線を照射して、マスク材を硬化させる工程(ab)を含むことが好ましい。マスク材を放射線照射により硬化させて硬化マスク材層とすると、硬化マスク材層と剥離フィルムとの層間剥離力が低下し、基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体をマスク材層からより剥離しやすくなる。
【0014】
本発明において、粘着剤層は、粘着剤組成物の塗工層を意味し、粘着剤層に含有される粘着剤が粘着力又は凝集力を発揮している状態にある。粘着剤組成物に後述する架橋剤が含有されている場合には、粘着剤組成物中の成分が反応して、粘着力及び凝集力を発揮した状態にある。また、粘着剤が放射線硬化型である場合、粘着剤層は、後述する放射線重合性化合物又は放射線硬化型粘着剤の重合硬化していない状態にある。放射線照射による粘着剤重合硬化後の粘着剤層を、硬化粘着剤層という。
本発明において、マスク材層は、マスク材組成物の塗工層を意味し、マスク材層に含有される粘着剤が粘着力又は凝集力を発揮している状態にある。マスク材組成物に後述する架橋剤が含有されている場合には、マスク材組成物中の成分が反応して、粘着力及び凝集力を発揮した状態にある。また、マスク材が、放射線硬化型である場合には、マスク材層は、後述する放射線重合性化合物又は放射線硬化型粘着剤の重合硬化していない状態にある。放射線照射によるマスク材重合硬化後の粘着剤層を、硬化マスク材層という。
【0015】
本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープを用いた半導体チップの製造方法(以下、単に「本発明が適用される製造方法」という。)について、その好ましい実施形態を、図面を参照して以下に説明するが、本発明は、本発明で規定されること以外は下記実施形態に限定されるものではない。また、各図面に示される形態は、本発明の理解を容易にするための模式図であり、各部材のサイズ、厚み、ないしは相対的な大小関係等は説明の便宜上大小を変えている場合があり、実際の関係をそのまま示すものではない。また、本発明で規定する事項以外はこれらの図面に示された外形、形状に限定されるものでもない。
【0016】
本発明が適用される製造方法の好ましい実施形態は、下記に示す第1及び2の実施形態に分類することができる。
【0017】
<第1実施形態[図1図6]>
本発明が適用される製造方法の第1の実施形態を図1図6を参照して説明する。
図1に示すように、本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ101は、基材フィルム3aa、粘着剤層3ab、剥離フィルム3ac、マスク材層3b、及び剥離ライナー3cを有する。剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ101から、剥離ライナー3cを剥離してマスク一体型表面保護テープ3とする。このとき、剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ101において、剥離フィルム3acとマスク材層3b間の剥離力より剥離ライナー3cとマスク材層3b間の剥離力が小さい。
半導体ウェハ1は、その表面Sに半導体素子の回路又はバンプなどが形成され凹凸を有するパターン面2を有している(図2(a)参照)。このパターン面2に、基材フィルム3aa、粘着剤層3ab、剥離フィルム3ac及びマスク材層3bを有するマスク一体型表面保護テープ3を貼合し(図2(b)参照)、パターン面2がマスク一体型表面保護テープ3で被覆された半導体ウェハ1を得る(図2(c)参照)。
パターン面2にマスク一体型表面保護テープ3を貼合するのに際して、剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ101から剥離ライナー3cを剥離する。このとき、剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ101は、後述する剥離力の関係を有しているから、マスク材層が剥離ライナーに付着して剥離フィルムから剥離することを防止できる。さらに、剥離ライナーを剥離しても、マスク材層の表面に剥離跡が残存しない。よって、マスク材層の表面は平坦になっており、後述するように、パターン面2とマスク材層との高い密着性を実現できる(図2(c))。この作用効果は、後述するように、追従性に優れた材料でマスク材層を形成した場合にも、同様に奏される。
本発明において、剥離ライナーの剥離方法は、特に限定されず、公知の方法を適用できる。
【0018】
次に、半導体ウェハ1の裏面Bをウェハ研削装置M1で研削し、半導体ウェハ1の厚みを薄くする(図3(a)参照)。その研削した裏面Bにはウェハ固定テープ4を貼り合わせて(図3(b)参照)、リングフレームFに支持固定する(図3(c)参照)。
【0019】
半導体ウェハ1からマスク一体型表面保護テープ3の基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体3aを剥離するとともにそのマスク材層3bは半導体ウェハ1に残して(図4(a)参照)、マスク材層3bを露出させる(図4(b)参照)。このとき、マスク一体型表面保護テープ3において、マスク材層3bと剥離フィルム3ac間の剥離力は、マスク材層3bと半導体ウェハのパターン面2との間の剥離力よりも小さい。
マスク材層の、基材フィルムと反対側表面は、未使用時には剥離ライナーに対する剥離力は上記関係を満たしているが、半導体ウェハに貼合後には表面Sに対する剥離力は逆の関係を満たす特性を有する。
剥離フィルム3acの、マスク材層3bと接触する表面は後述するように剥離処理がされているのに対して、パターン面2は剥離処理されていない。したがって、マスク材層は、剥離フィルム3acよりもパターン面2と強大な密着力で密着しており、その結果、上述の剥離力の関係を満たすこととなる。
このように、本発明では、マスク材層3bが接する面の状態(剥離処理の有無)等によって、剥離する部材との剥離力を制御し、剥離する部材を適時に選択的かつマスク材層の形状又は表面状態を損なうことなく、剥離することができる。
これにより、上記2つの剥離操作が可能になる。
そして、表面Sの側からパターン面2に格子状等に適宜形成された複数のストリート(図示せず)に対してCOレーザーLを照射して、マスク材層3bのストリートに相当する部分を除去し、半導体ウェハのストリートを開口する(図4(c)参照)。
【0020】
次に、表面S側からSFガスのプラズマP1による処理を行いストリート部分で剥き出しになった半導体ウェハ1をエッチングし(図5(a)参照)、個々のチップ7に分割して個片化する(図5(b)参照)、次いでOガスのプラズマP2によってアッシングを行い(図5(c)参照)、表面Sに残ったマスク材層3bを取り除く(図6(a)参照)。そして最後に個片化されたチップ7をピンM2により突き上げコレットM3により吸着してピックアップする(図6(b)参照)。
【0021】
ここで、SFガスを用いた半導体ウェハのSiのエッチングプロセスはBOSCHプロセスとも呼ばれ、露出したSiと、SFをプラズマ化して生成したフッ素原子とを反応させ、四フッ化ケイ素(SiF)として除去するものであり、リアクティブイオンエッチング(RIE)とも呼ばれる。一方、Oプラズマによる除去は、半導体製造プロセス中ではプラズマクリーナーとしても用いられる方法でアッシング(灰化)とも呼ばれ、有機物除去の手法の一つである。半導体デバイス表面に残った有機物残渣をクリーニングするために行われる。プラズマ化して生成した酸素原子とマスク材成分の炭素原子とを反応させ、二酸化炭素ガス(CO)等として除去するものである。なお、プラズマP1はマスク材層を除去できるのであれば、SFのプラズマ以外のプラズマ(例えば、四フッ化炭素(CF)のプラズマ)を使用することもできる。また、P2は上記アッシングが可能であれば、Oのプラズマ以外のプラズマを使用することもできる。
【0022】
<第2実施形態[図7]>
本実施形態では第1実施形態における基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体3aを剥離する工程の前に、マスク一体型表面保護テープ3に紫外線等の放射線を照射してマスク材層を硬化させる工程(ab)を含む点で第1実施形態と異なる。その他の工程は第1実施形態と同じである。
【0023】
即ち、半導体ウェハ1の表面S側にはマスク一体型表面保護テープ3を貼合し、半導体ウェハ1の研削した裏面B側にはウェハ固定テープ4を貼合し、リングフレームFに支持固定した(図3(c)、図7(a)参照)後、表面S側からマスク一体型表面保護テープ3に向けて紫外線UVを照射する(図7(b)参照)。そして、マスク一体型表面保護テープ3のマスク材層3bを硬化させた後、基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体3aを取り除いて(図7(c)参照)マスク材層3bを剥き出しにする。そしてレーザーLによりストリートに相当する部分のマスク材層3bを切除する工程に移る。
本実施形態においては、上述のように、剥離力の適時変更に加えて、積層体3aを剥離する前に、マスク材層を硬化マスク材層とする。これにより、硬化マスク材層により剥離力をさらに低下させ、上述の剥離力による選択的剥離性を補強することができる。よって、第2実施形態に用いる、本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープは、本発明の効果をさらに高い水準で実現できる。
【0024】
本実施形態で用いる剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープは、第1実施形態で示した剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ101の中でも紫外線等の放射線で硬化可能な材質をマスク材層3bに用いたものである。
マスク材層3bを紫外線等の放射線で硬化させることにより、マスク材層の表面状態をより良い状態で維持して、基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体3aとマスク材層3bとの剥離ができる。
【0025】
以下、上記第1実施形態及び第2実施形態に用いる材料等について合せて説明する。
なお、これらの実施形態に用いる装置及び材料等は、特に断りのない限り、従来から半導体ウェハの加工に用いられている通常の装置及び材料等を使用することができ、その使用条件も通常の使用方法の範囲内で目的に応じて適宜に設定、好適化することができる。また、各実施形態で共通する材質、構造、方法、効果などについては重複記載を省略する。
【0026】
下記で説明する材料は、本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ全てに適用可能な材料であり、剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープを上記方法に用いる場合に限定して適用される材料ではない。
【0027】
半導体ウェハ1は、片面にパターン面2を有するシリコンウェハなどであり、パターン面2は、半導体素子の回路などが形成された面であって、平面視においてストリートを有する。
【0028】
本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ101は、基材フィルム3aa上に粘着剤層3abが設けられ、粘着剤層3ab上に剥離フィルム3acが設けられ、剥離フィルム3ac上にマスク材層3bが設けられ、さらにマスク材層3b上に剥離ライナー3cが設けられた構成を有し、パターン面2を保護する機能を有する。即ち、後工程の工程(a)での半導体ウェハの裏面の研削工程(以下、ウェハ薄膜化工程ともいう)ではパターン面2で半導体ウェハ1を支持して半導体ウェハの裏面が研削されるため、マスク一体型表面保護テープ3はこの研削時の負荷に耐える必要がある。そのため、マスク一体型表面保護テープ3は単なるレジスト膜等とは異なり、パターン面の凹凸を吸収するだけの厚みがあって、その押圧抵抗は低く、また研削時のダストや研削水などの浸入が起こらないようにウェハ表面に密着できるだけの密着性が高いものである。
【0029】
基材フィルム3aaは、プラスチックやゴム等からなり、例えばポリエチレン(低密度ポリエチレン(LDPE)を含む)、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等のポリオレフィン樹脂、ポリブテン−1、ポリ−4−メチルペンテン−1、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン−アクリル酸共重合体、アイオノマー等のα−オレフィンの単独重合体又は共重合体、あるいはこれらの混合物、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリウレタン、スチレン−エチレン−ブテン−もしくはペンテン系共重合体等の単体もしくは2種以上を混合させたもの、さらにこれらにこれら以外の樹脂や充填材、添加剤等が配合された樹脂組成物をその材質として挙げることができ、要求特性に応じて任意に選ぶことができる。
【0030】
基材フィルム3aaは、単層構造であっても複層構造であってもよい。
基材フィルム3aaは、ポリオレフィン樹脂からなる層を有することが好ましい。この場合において、基材フィルム3aaはポリオレフィン樹脂層からなる単層でもよいし、ポリオレフィン樹脂層と他の樹脂層とからなる2層又はそれ以上の複層構造であってもよい。例えば、低密度ポリエチレンからなる層とエチレン−酢酸ビニル共重合体からなる層の積層体や、ポリプロピレンからなる層とポリエチレンテレフタレートからなる層の積層体が挙げられる。また、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレートは好適な材質の一つである。
後述するように、薄膜化工程後に、基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体を剥離するが、この際、ヒートシールを基材フィルム背面に加熱ラミネートにより貼り付けて引き剥がすのが一般的である。ヒートシールとの密着性の観点から、基材フィルムの、粘着剤層とは反対側の面の材質は、低密度ポリエチレン又はエチレン−酢酸ビニル共重合体であることが好ましい。すなわち、基材フィルムが、単層構造である場合には、基材フィルムの材質が、低密度ポリエチレン又はエチレン−酢酸ビニル共重合体であることが好ましく、また、基材フィルム3aaが複層構造である場合には、粘着剤層に接する面の反対側の層の材質が低密度ポリエチレン又はエチレン−酢酸ビニル共重合体であることが好ましい。
【0031】
基材フィルム3aaの厚さは、強度特性、伸度特性、及び放射線透過性の観点から20〜200μmが好ましく、50〜170μmがより好ましく、80〜160μmが特に好ましい。
【0032】
これらの基材フィルム3aaは、一般的な押出し法を用いて製造できる。基材フィルム3aaを種々の樹脂を積層して得る場合には、共押出し法、ラミネート法などで製造される。この際、通常のラミネートフィルムの製法に於いて普通に行われている様に、樹脂と樹脂の間に接着層を設けても良い。
【0033】
マスク一体型表面保護テープをウェハ薄膜化工程の負荷に耐えるものとするために、粘着剤層3abは、ウェハ薄膜化工程においては剥離フィルム3ac及び基材フィルム3aaとの密着性が高いことが好ましい。一方、ウェハ薄膜化工程後においては、基材フィルム3aaと剥離フィルム3acとともにマスク材層と剥離されるために、粘着剤層3abは、基材フィルム3aa及び剥離フィルム3acとの密着力が高いことが好ましい(剥離性が低いことが好ましい)。
【0034】
粘着剤層3abに含有される粘着剤について、特に指定はないが、汚染性等の観点からアクリル系粘着剤が好ましい。ここで、アクリル系粘着剤とは、(メタ)アクリル系重合体、あるいは(メタ)アクリル系重合体と架橋剤との混合物を意味する。
(メタ)アクリル系重合体とは、(メタ)アクリル酸エステルを構成成分として有する重合体もしくは共重合体、あるいはこれらの混合物を意味する。これらの重合体もしくは共重合体の質量平均分子量は、通常は30万〜100万程度である。上記(メタ)アクリル系重合体の全モノマー成分中、(メタ)アクリル酸エステル成分の割合は70モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましい。また、(メタ)アクリル系重合体の全モノマー成分中、(メタ)アクリル酸エステル成分の割合が100モル%でない場合、残部のモノマー成分は(メタ)アクリロイル基を重合性基として重合した形態で存在するモノマー成分((メタ)アクリル酸等)であることが好ましい。また、(メタ)アクリル系重合体の全モノマー成分中、後述する架橋剤と反応する官能基(例えばヒドロキシ基)を有する(メタ)アクリル酸エステル成分の割合は、1モル%以上が好ましく、2モル%以上がより好ましく、5モル%以上がより好ましく、10モル%以上がより好ましい。また当該(メタ)アクリル酸エステル成分の割合は35モル%以下が好ましく、25モル%以下がより好ましい。
上記(メタ)アクリル酸エステル成分は、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(アルキル(メタ)アクリレートともいう)であることが好ましい。この(メタ)アクリル酸アルキルエステルを構成するアルキル基の炭素数は、1〜20が好ましく、1〜15がより好ましく、1〜12がさらに好ましい。
粘着剤層3ab中の(メタ)アクリル系重合体の含有量(架橋剤と反応する前の状態に換算した含有量)は80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95〜99.9質量%がより好ましい。
【0035】
架橋剤は、(メタ)アクリル系重合体が有する官能基と反応させて粘着力及び凝集力を発揮させるために用いられる。例えば、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)トルエン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)ベンゼン、N,N,N,N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、エチレングリコールジグリシジルエーテル、テレフタル酸ジグリシジルエステルアクリレートなどの分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ化合物(以下、「エポキシ系架橋剤」ともいう。)、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート及びこれらのアダクトタイプなどの分子中に2個以上のイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(以下、「イソシアネート系架橋剤」ともいう。)、テトラメチロール−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、トリメチロール−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、トリメチロールプロパン−トリ−β−(2−メチルアジリジン)プロピオネート、トリス−2,4,6−(1−アジリジニル)−1,3,5−トリアジン、トリス〔1−(2−メチル)−アジリジニル〕ホスフィンオキシド、ヘキサ〔1−(2−メチル)−アジリジニル〕トリホスファトリアジンなどの分子中に2個以上のアジリジニル基を有するアジリジン化合物(アジリジン系架橋剤)等が挙げられる。
架橋剤の添加量は、所望の粘着力に応じて設定すればよく、(メタ)アクリル系重合体100質量部に対して0.1〜5.0質量部が適当である。
【0036】
粘着剤層3abには、非放射線硬化型である、いわゆる感圧型の粘着剤が好適に用いられる。この感圧型の粘着剤としては、上述した、(メタ)アクリル系重合体と架橋剤との混合物を好適に用いることができる。
【0037】
上記粘着剤層3abは、後述の放射線重合性化合物からなる粘着剤、又は放射線硬化型粘着剤であってもよい(すなわち、放射線硬化型の粘着剤層としてもよい)。
上記粘着剤層3abは、さらに従来公知の粘着付与剤、軟化剤、酸化防止剤等を含有していてもよい。
【0038】
上記粘着剤層3abとして、特開2014−192204号公報の段落番号0036〜0055に記載されている形態を採用することも好ましい。
【0039】
粘着剤層3abの厚さは、パターン面2に形成された素子等の保護能をより高める観点から、5〜100μmが好ましい。
【0040】
粘着剤層の形成方法は、特に限定されず、通常の方法を採用できる。例えば、粘着剤組成物を調製し、粘着剤組成物を塗布及び乾燥(例えば、加熱乾燥)して形成することができる。
粘着剤組成物は、アクリル系粘着剤、アクリル系粘着剤と放射線重合性化合物からなる粘着剤、又は放射線硬化型粘着剤に、必要に応じて通常用いられる溶剤等を加えて調製することができる。
【0041】
剥離フィルム3acの材質は特に限定されず、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンなどを用いることができる。
剥離フィルム3acは、片側に剥離処理面を有する。剥離処理としては、シリコーン系やフッ素系離型剤等をフィルム上に塗布するのが一般的である。ここで、離型剤の種類や塗布する厚さ、塗布方式などを調整すると、マスク材層と剥離フィルム間の剥離力とマスク材層と剥離ライナー間の剥離力の関係を所定の状態にすることができる。
剥離フィルム3acは、剥離処理面でマスク剤層と接するように配置される。
剥離フィルム3acの、剥離処理面と反対側の面は、密着処理されていることが好ましい。密着処理されることで、粘着剤層と剥離フィルム間の密着性が向上し、マスク材層のみが選択的に剥離される手助けとなる。密着処理としては、コロナ処理が挙げられる。
【0042】
剥離フィルムの引張弾性率は、1.5GPa以上が好ましい。引張弾性率が1.5GPa以上であると、薄膜研削後の半導体ウェハ自体の反りを抑制し、ハンドリングエラーをより低減できる。引張弾性率は、JIS K 7127により、試験速度300mm/minで測定することができる。上記引張弾性率は、剥離フィルムの材料の選択、厚さの選択等により適宜設定することができる。
剥離フィルムの厚さは、25〜75μmが好ましい。厚さがこの範囲内にあると、半導体ウェハ自体の反りを抑制でき、また剥離フィルムの剥離力が大きくなりすぎることによるチップ破壊を抑制できる。
【0043】
剥離フィルムの製造方法は、特に限定されず、通常の方法を採用できる。例えば、塗布、により製造することができる。また、市販品を使用することもできる。
【0044】
マスク材層3bは、SFプラズマに対して耐性があり、レーザー切断、Oプラズマによりマスク材を除去できることが求められる。また、パターン面の凹凸を吸収してパターン面との密着性を高め、パターン面を保護する役割を担う。剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープから、マスク材層の表面状態を維持して剥離ライナーを剥離するために、剥離フィルムとマスク材層間の密着性は剥離ライナーとマスク材層間の密着性より大きい(剥離性が低い)。マスク一体型表面保護テープをウェハ薄膜化工程の負荷に耐えるものとするために、マスク材層3bは、ウェハ薄膜化工程においては剥離フィルム3acとの密着性が高いことが好ましい。一方、ウェハ薄膜化工程後においては、ウェハ表面にマスク材層を露出して基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体を剥離するために、マスク材層と剥離フィルムとの密着性は、マスク材層と半導体ウェハとの密着性に対して低いことが好ましい(剥離性が高いことが好ましい)。かかる特性をより高いレベルで実現するために、マスク材層3bには放射線硬化型粘着剤を採用することが好ましい。マスク材層3bを放射線硬化型粘着剤層とすることにより、放射線照射によってマスク材が重合硬化して粘着力が低下するため、ウェハ薄膜化工程後にマスク材層3bに放射線を照射することにより剥離フィルム3acとの強固な密着性が解かれて剥離フィルム3acから簡単に剥離することが可能となる(この具体的実施形態は後述する)。
本明細書において「放射線」とは紫外線のような光線や電子線のような電離性放射線の双方を含む意味に用いる、本発明に用いる放射線は紫外線が好ましい。
【0045】
マスク材層は、上述の粘着剤層に用いうるアクリル系粘着剤、上述の粘着剤層に用いうるアクリル系粘着剤と後述の放射線重合性化合物とからなる粘着剤、又は放射線硬化型粘着剤を含有することが好ましく、上述のアクリル系粘着剤と後述の放射線重合性化合物からなる粘着剤、又は放射線硬化型粘着剤を含有することがより好ましい。ここで、マスク材層3bが(メタ)アクリル系粘着剤を含有するとは、(メタ)アクリル系重合体が架橋剤と反応した状態で存在する形態を含む意味である。
【0046】
マスク材層には、非放射線硬化型である、いわゆる感圧型の粘着剤が好適に用いられる。この感圧型の粘着剤としては、上述の粘着剤層に用いうる(メタ)アクリル系重合体と架橋剤との混合物を好適に用いることができる。(メタ)アクリル系重合体と架橋剤の好ましい例も同様である。
また、マスク材層は、第2実施態様の場合は、放射線硬化型であることが好ましい。放射線硬化型である粘着剤としては、上述のアクリル系粘着剤と後述の放射線重合性化合物からなる粘着剤、又は放射線硬化型粘着剤を好適に用いることができる。
【0047】
上述の、アクリル系粘着剤と放射線重合性化合物からなる粘着剤について説明する。
マスク材層に用いるアクリル系粘着剤の好ましい範囲等は、上述の粘着剤層に用いうるアクリル系粘着剤と同じである。
上記放射線重合性化合物としては、放射線の照射によって重合しうる、分子内に光重合性炭素−炭素二重結合を少なくとも2個以上有する低分子量化合物が広く用いられる。具体的には、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレートや、オリゴエステルアクリレート等のアクリレート系化合物を広く適用可能である。
【0048】
また、上記アクリレート系化合物のほかに、ウレタンアクリレート系オリゴマーを用いることもできる。ウレタンアクリレート系オリゴマーは、ポリエステル型又はポリエーテル型などのポリオール化合物と、多価イソシアナート化合物(例えば、2,4−トリレンジイソシアナート、2,6−トリレンジイソシアナート、1,3−キシリレンジイソシアナート、1,4−キシリレンジイソシアナート、ジフェニルメタン4,4−ジイソシアナートなど)を反応させて得られる末端イソシアナートウレタンプレポリマーに、ヒドロキシ基を有するアクリレートあるいはメタクリレート(例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレートなど)を反応させて得られる。
【0049】
放射線硬化型粘着剤中のアクリル系粘着剤と放射線重合性化合物との配合比としては、アクリル系粘着剤100質量部に対して放射線重合性化合物を50〜200質量部、好ましくは50〜150質量部の範囲で配合されるのが望ましい。この配合比の範囲である場合、放射線照射後にマスク材層の粘着力を大きく低下させることが可能となる。
【0050】
上述の放射線硬化型粘着剤について説明する。
放射線硬化型粘着剤として、上記(メタ)アクリル系重合体自体を放射線重合性とした、放射線重合性(メタ)アクリル系重合体を用いることも好ましい。この場合において、放射線硬化型粘着剤は架橋剤を含んでいてもよい。架橋剤としては、粘着剤層に用いうる架橋剤を使用することができる。
放射線重合性(メタ)アクリル系重合体は、重合体の分子中に、放射線、特に紫外線照射で重合反応することが可能な反応性の基を有する重合体である。このような反応性の基としては、エチレン性不飽和基すなわち、炭素−炭素二重結合(エチレン性不飽和結合)を有する基が好ましい。かかる基の例として、ビニル基、アリル基、スチリル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基などが挙げられる。
上記反応性基の重合体中への導入は、例えば、ヒドロキシ基を有する重合体と、ヒドロキシ基と反応する基(例えば、イソシアネート基)を有し、かつ上記反応性基を有する化合物〔(代表的には、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート〕とを反応させることにより行うことができる。
マスク材層3bを構成する、側鎖にエチレン性不飽和結合を有する(メタ)アクリル系重合体を構成するモノマー成分中には、アルコール部の炭素数が8〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分が含まれることが好ましい。側鎖にエチレン性不飽和結合を有する(メタ)アクリル系重合体を構成するモノマー成分中、アルコール部の炭素数が8〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分の割合は、45〜85モル%が好ましく、50〜80モル%がより好ましい。
ここで、(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分の「アルコール部」とは、エステル結合を形成しているアルコールに由来する構造を意味する(これに対し、(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分中、(メタ)アクリル酸由来の構造を酸部と呼ぶ)。例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分が2−エチルヘキシルアクリレート成分である場合、アルコール部は2−エチルヘキサノール由来の構造、酸部はアクリル酸由来の構造であり、アルコール部の炭素数は8となる。また、(メタ)アクリル酸アルキルエステル成分がラウリルアクリレート成分である場合、アルコール部は1−ドデカノール由来の構造、酸部はアクリル酸由来の構造であり、アルコール部の炭素数は12となる。
【0051】
また、放射線によりマスク材層3bを重合硬化させる場合には、放射線重合開始剤、例えばイソプロピルベンゾインエーテル、イソブチルベンゾインエーテル、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、クロロチオキサントン、ベンジルメチルケタール、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシメチルフェニルプロパン等を用いることができる。これらのうち少なくとも1種類をマスク材層に添加することにより、効率よく重合硬化を進行させることができる。
【0052】
上記マスク材層3bは、さらに光増感剤、従来公知の粘着付与剤、軟化剤、酸化防止剤等を含有していてもよい。
【0053】
上記マスク材層3bとして、特開2014−192204号公報の段落番号0036〜0055に記載されている形態を採用することも好ましい。
【0054】
また、マスク材層3bはフッ素系離型剤を含有することも好ましい。フッ素系離型剤としては、例えば、メガファック(商品名、DIC株式会社製)を挙げることができる。
【0055】
マスク材層の25℃における貯蔵弾性率は、10万Pa未満が好ましく、8万Pa未満が特に好ましい。貯蔵弾性率が、10万Pa未満であると、凹凸面があるウェハに対して、隙間なくマスク材が密着可能になるので好ましい。
貯蔵弾性率は、以下の方法により測定することができる。
貯蔵弾性率については、ずり方式の粘弾性装置(レオメトリックス製、ARES)により、周波数1Hz、25℃の条件で測定することができる。試験片は、マスク剤層を積層して、厚さ約2mm、直径8mmの円筒形にしたものを用いる。
貯蔵弾性率は、粘着剤の種類、粘着剤に含有する成分の種類、含有量等で設定できる。
【0056】
また、マスク材層3bの厚みは、貼合する半導体ウェハのパターン面の凹凸の高さより大きいことが好ましい。半導体ウェハに十分に追従しないと、空気がマスク材層と半導体ウェハ間に残ってしまい、プラズマ処理の真空工程時にマスクが破壊されることがある。また、半導体ウェハに十分に追従しないと、半導体ウェハが研削水により汚染されて、歩留まりの低下につながることがある。
マスク材層の厚さは、特に制限されないが、半導体ウェハのパターン面の凹凸の最大高さ+(0〜50)μmが好ましく、最大高さ+(0〜30)μmがより好ましく、さらに最大高さ+(0〜10)μmが好ましい。
パターン面の凹凸の最大高さは特に制限されないが、50μm以上が好ましい。
本発明の説明において、凹凸の最大高さとは、凸部のうちの最高部からウェハ表面までの距離、及び凹部のうちの最深部から半導体ウェハ表面までの距離のうちの、最大値を意味する。
【0057】
マスク材層のマスク材は、基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体をマスク材層から表面状態を維持して選択的に剥離する観点から、放射線硬化型が好ましく、紫外線硬化型がより好ましい。
【0058】
マスク材層の形成方法は、特に限定されず、通常の方法を採用できる。例えば、マスク材組成物を調製し、マスク材組成物を塗布及び乾燥(加熱乾燥を含む)して形成することができる。
マスク材組成物は、上記のアクリル系粘着剤、上述のアクリル系粘着剤と後述の放射線重合性化合物からなる粘着剤、又は上述の放射線硬化型粘着剤に、必要に応じて通常用いられる溶剤等を加えて調製することができる。
【0059】
剥離ライナーの材質は特に限定されず、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンなどを用いることができる。
剥離ライナーは、片面に剥離処理面を有する。剥離処理としては、上述の剥離フィルムと同様の処理が挙げられる。剥離ライナーは、剥離処理面でマスク剤層と接するように配置される。ここで、離型の種類や塗布する厚さ、塗布方式などを調整すると、マスク材層と剥離ライナー間の剥離力とマスク材層と剥離フィルム間の剥離力の関係を所定の状態にすることができる。
剥離ライナーの厚さは、25〜50μmが好ましい。
【0060】
剥離ライナーの製造方法は、特に限定されず、通常の方法を採用できる。例えば、塗布、により形成することができる。また、市販品を使用することもできる。
【0061】
本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープの各層間の剥離力について説明する。
(剥離ライナー剥離前)
本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープにおいて、剥離フィルム3acとマスク材層3b間の剥離力(P)より剥離ライナー3cとマスク材層3b間の剥離力(P)が小さい(P>P)。これらの剥離力を上記関係とすることにより、剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープから、マスク材層3bの表面状態を維持して、剥離ライナー3cを剥離することができる。
剥離フィルム3acとマスク材層3b間の剥離力(P)と剥離ライナー3cとマスク材層3b間の剥離力(P)の差(P−P)は、剥離ライナー3cを剥離した際に、マスク材層表面をその表面状態を維持して露出できれば特に限定されない。上記剥離力の差は、0.01N/25mm以上が好ましい。
剥離力は、23℃、50%RHの条件下、剥離角度90度、剥離速度50mm/minで測定する。その他の条件は、JIS Z 0237を参照することができる。
マスク材層3bと剥離フィルム3ac間の剥離力(P)は、0.02N/25mm以上、1.0N/25mm未満が好ましい。剥離力(P)が、0.02N/25mm以上であれば、剥離ライナー3cを剥離する際、剥離ライナー3cとマスク材層3b間で選択的に剥離しやすい。また、1.0N/25mm未満であれば、後述する基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体を剥離する際、マスク材層の表面状態を維持してマスク材層3bを半導体ウェハに残すことができる。
【0062】
(基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体の剥離時)
マスク材層3bと剥離フィルム3ac間の剥離力(P)は、マスク材層3bと半導体ウェハのパターン面2との間の剥離力(P)よりも小さい(P<P)。
このような関係とすることで、工程(b)においてマスク一体型表面保護テープから、マスク材層3bの表面状態を維持して露出させて、基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体を剥離することができる。
剥離力は、上述の方法で測定することができる。
【0063】
(第2実施形態においてマスク材が放射線硬化型の場合)
本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープが、マスク材層3bに放射線硬化型粘着剤を用いており、ウェハ薄膜化工程後、放射線照射によりマスク材層3bを硬化させる場合には、放射線照射による硬化前には、マスク材層3bと剥離フィルム3ac間の剥離力(P)とマスク材層3bと半導体ウェハのパターン面2との間の剥離力(P)の関係は第1実施形態と異なっていてもよい。例えば、放射線照射による硬化前において、マスク材層3bと半導体ウェハのパターン面2との間の剥離力(P)、及び、マスク材層3bと剥離フィルム3ac間の剥離力(P)が0.2N/25mm以上であることが好ましい。そして、放射線照射によるマスク材層3bの硬化後においては、マスク材層3bと剥離フィルム3ac間の剥離力(P)とマスク材層3bと半導体ウェハのパターン面2との間の剥離力(P)の関係は第1実施形態における関係になる。例えば、硬化マスク材層と剥離フィルム3ac間の剥離力が、硬化マスク材層と半導体ウェハのパターン面2との間の剥離力よりも低くなることが好ましい。
ここで、上記剥離力の測定において、紫外線を照射した場合を例にとると、紫外線照射条件は、紫外線を積算照射量500mJ/cmとなるように、マスク一体型表面保護テープ全体に、当該テープの基材フィルム側から照射することをいう。紫外線照射には高圧水銀灯を用いる。
剥離力は、上述の方法で測定することができる。
【0064】
マスク一体型表面保護テープ(剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープから剥離ライナーを除いた積層体)の引張弾性率は、1GPa以上が好ましい。引張弾性率が1GPa以上であると、ウェハ薄膜化工程後に半導体ウェハ自体の反りを抑制し、ハンドリングエラーをより低減できる。
引張弾性率は、JIS K 7127により、試験速度を300mm/minとして測定することができる。
【0065】
本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープは、バンプ付半導体ウェハに用いることができる。上記剥離力の適時変更が可能となり、さらには硬化マスク材層の採用可能な本発明においては、これらの作用機能を損なうことなく、マスク材層をやわらかい材料(貯蔵弾性率の低い材料)で形成することができる。この場合には、剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープは以下の特徴を有することが好ましい。
バンプ付半導体ウェハへの対応の観点からは、マスク材層3bの厚さは、パンプ高さより厚いことが好ましい。バンプ付半導体ウェハには、最大高さ250μmといったバンプを有するものもあり、さらにパンプ密度が高いものもある。貯蔵弾性率を10万Pa未満とすることにより、パターン面に密着してウェハ薄膜化工程において空気や研削水の浸入を防ぎ、また、プラズマダイシング時にはマスク材層を、表面状態を維持して露出させてマスクとすることができる。
【0066】
ウェハ固定テープ4は、半導体ウェハ1を保持し、プラズマダイシング工程にさらされても耐えうるプラズマ耐性が必要である。またピックアップ工程においては良好なピックアップ性や場合によってはエキスパンド性等も要求されるものである。また一般的にダイシングテープと称される従来のプラズマダイシング方式で利用される公知のダイシングテープを用いることができる。また、ピックアップ後のダイボンディング工程への移行を容易にするために、粘着剤層と基材フィルムとの間にダイボンディング用接着剤を積層したダイシングダイボンディングテープを用いることもできる。
【0067】
マスク材層3bを切断するレーザー照射には、紫外線又は赤外線のレーザー光を照射するレーザー照射装置を用いることができる。このレーザー照射装置は、半導体ウェハ1のストリートに沿って移動自在にレーザー照射部が配設されており、マスク材層3bを除去するために適切に制御された出力のレーザーを照射できる。なかでもCOレーザーは数W〜数十Wの大出力を得ることが可能であり、本発明に好適に利用できる。
【0068】
ウェハの切断のためのプラズマダイシング及びマスク材層除去のためのプラズマアッシングを行うには、通常のプラズマエッチング装置を用いることができる。プラズマエッチング装置は、半導体ウェハ1に対してドライエッチングを行い得る装置であって、真空チャンバ内に密閉処理空間をつくり、高周波側電極に半導体ウェハ1が載置され、その高周波側電極に対向して設けられたガス供給電極側からプラズマ発生用ガスが供給されるものが好ましい。高周波側電極に高周波電圧が印加されればガス供給電極と高周波側電極との間にプラズマが発生するため、このプラズマを利用する。発熱する高周波側電極内には冷媒を循環させて、プラズマの熱による半導体ウェハ1の昇温を防止するのが好ましい。
【0069】
本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープによれば、プラズマダイシングにおけるマスク付与機能を有するため、従来のプラズマダイシングプロセスで用いられていたレジストを設けるためのフォトリソグラフィ工程等が不要となる。また、マスクの形成に、印刷や転写等の高度な位置合せが要求される技術が不要で簡単に半導体ウェハ表面に貼合でき、レーザー装置により簡単にマスクを形成できる。
また、マスク材層3bをプラズマアッシングにより除去できるため、プラズマダイシングを行う装置と同じ装置でマスク部分の除去ができる。加えてパターン面2側(表面S側)からプラズマダイシングを行うため、ピッキング作業前にチップの上下を反転させる必要がない。これらの理由から設備を簡易化でき、プロセスコストを大幅に抑えることができる。
【0070】
また、各層の剥離力の関係が調整されており、マスク材層を必要に応じて糊残りなく露出でき、作業効率を高めることができる。
さらに、本発明剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープは、バンプ付半導体ウェハを用いる半導体チップの製造にも適用できる。しかも、本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープのマスク材層をバンプを含むパターン面によく追従する構成とすることができるので、パンプ付半導体ウェハの割れ、半導体ウェハの厚み精度の悪化等を抑制しつつウェハ薄膜化工程を効率よく行うことができる。
【0071】
上記各実施形態は本発明の一例であり、こうした形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に反しない限度において、各プロセスにおける公知のプロセスの付加や削除、変更等を行い得るものである。
【実施例】
【0072】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものでない。
【0073】
[実施例1] 剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープの作製、半導体チップの製造
<剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープの作製>
下記の手順により、図1に示される剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープを製造した。
1)粘着剤組成物Aの作成
メタクリル酸1.0mol%、2−エチルヘキシルアクリレート78mol%、2−ヒドロキシエチルアクリレート21mol%を混合し、溶液中で重合することにより質量平均分子量70万の(メタ)アクリル系重合体溶液を得た。
この(メタ)アクリル系重合体溶液に該重合体100質量部に対して、架橋剤としてコロネートL(日本ポリウレタン工業株式会社製、イソシアネート系架橋剤)を2.0質量部配合し粘着剤組成物Aを得た。
【0074】
2)マスク材組成物Aの作成
メタクリル酸1.0mol%、2−エチルヘキシルアクリレート78mol%、2−ヒドロキシエチルアクリレート21mol%を混合し、溶液中で重合することにより質量平均分子量70万の(メタ)アクリル系重合体溶液を得た。
得られた(メタ)アクリル系重合体溶液に2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(商品名:カレンズMOI、昭和電工株式会社製)を添加して、(メタ)アクリル系重合体と反応させることで以下の物性の放射線重合性(メタ)アクリル系重合体溶液を得た。(質量平均分子量:70万、二重結合量:0.90meq/g、水酸基価:33.5mgKOH/g、酸価:5.5mgKOH/g、Tg:−68℃)
得られた放射線重合性(メタ)アクリル系重合体溶液に該重合体100質量部に対して、架橋剤としてコロネートLを0.25質量部、放射線重合開始剤としてイルガキュア184(BASF社製)を5.0質量部配合し、マスク材組成物Aを得た。
【0075】
3)剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープの作製
上記粘着剤組成物Aを剥離ライナー(商品名:E7006、厚さ:25μm、東洋紡株式会社製、片面に剥離処理面を有する)の剥離処理面上に乾燥後の厚さが30μmとなるように塗工し、形成された粘着剤層を厚さ100μmのLDPE(低密度ポリエチレン)基材フィルムに貼り合せ、室温(25℃)で放置し、厚さ155μmの、剥離ライナー付き表面保護テープを得た。
上記において、形成された粘着剤層は、(メタ)アクリル系重合体と架橋剤が反応した状態にある。
別途、マスク材組成物Aを剥離フィルム(商品名:E7002、厚さ25μm、東洋紡株式会社製、片面に剥離処理面を有する)の剥離処理面上に乾燥後の厚みが60μmとなるように塗工した。得られたマスク材層を、剥離ライナー(商品名:E7006、厚さ:25μm、東洋紡株式会社製、片面に剥離処理面を有する)の剥離処理面に張り合わせ、室温(25℃)で放置することで、厚さ110μmの剥離ライナー、マスク材層及び剥離フィルム一体物を得た。なお、上記剥離フィルムについては、事前に、剥離処理されてない面にコロナ処理を施した。
上記において、形成されたマスク材層は、放射線重合性(メタ)アクリル系重合体と架橋剤が反応した状態であり、かつ放射線照射による硬化をしていない状態にある。
その後、剥離ライナー付き表面保護テープの剥離ライナーを剥がし、剥離ライナー、マスク材層及び剥離フィルム一体物のコロナ処理が施された剥離フィルム面に、粘着剤層を張り付けることで、総厚240μmの剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープを得た。
【0076】
<半導体チップの製造>
ラミネータ DR8500III(商品名:日東精機(株)社製)を用いて、スクライブライン(ストリート)付シリコンウェハ(直径8インチ、厚さ350μm)表面に、上記で得られた剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープから、剥離ライナーのみを剥がしてマスク一体型表面保護テープとし、貼り合わせた。ここで、マスク材層を残して剥離ライナーのみを剥離できていることから、剥離フィルムとマスク材層との間の剥離力と剥離ライナーとマスク材層との間の剥離力は規定の剥離力の関係を満たしていることが分かった。
その後、全自動グラインダ/ポリッシャ装置 DGP8760(商品名:ディスコ(株)社製)を用いて、前記マスク一体型表面保護テープを貼り合わせた面とは反対の面(シリコンウェハの裏面)を、シリコンウェハの厚さが50μmになるまで研削した。研削後のシリコンウェハを、ウェハマウンター RAD−2700F(商品名:リンテック(株)社製)を用いて、シリコンウェハ裏面側からダイシングテープ上にマウントし、リングフレームにて支持固定した。さらにマスク一体型テープ側から高圧水銀ランプを用いて500mJ/cmの紫外線を照射することでマスク材層と剥離フィルムとの間の剥離力を小さくし、基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体を剥離し、シリコンウェハ上に硬化マスク材層を残した。ここで、硬化マスク材層を残して基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体のみを剥離できていることから、紫外線照射後において、マスク材層と剥離フィルムとの間の剥離力とマスク材層とウェハとの間の剥離力が規定の剥離力の関係を満たすことが分かった。
次にCOレーザーでスクライブライン上のマスク材を除去し、スクライブラインを開口した。
その後、プラズマ発生用ガスとしてSFガスを用い、シリコンウェハを15μm/分のエッチング速度で5分間、マスク材層側からプラズマ照射した。このプラズマダイシングによりシリコンウェハを切断して個々のチップに分割した。次いでプラズマ発生用ガスとしてOガスを用い、1.5μm/分のエッチング速度で10分間アッシングを行い、マスク材を除去した。その後、ダイシングテープ側から紫外線を照射し(照射量200mJ/cm)、ダイシングテープの粘着力を低減させ、チップをピックアップした。
【0077】
[実施例2] 剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープの作製、半導体チップの製造
実施例1の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープの作製において、剥離フィルムを別の剥離フィルム(商品名:E7004、厚さ:25μm、東洋紡株式会社製、
片面に剥離処理面を有する)とした以外は、実施例1と同様にして実施例2の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープを得た。
この剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープを用いた以外は、実施例1と同様にして、半導体チップの製造を行った。
【0078】
[比較例1] フォトリソグラフィプロセスによるマスク形成、表面保護テープの作製、半導体チップの製造
<マスク付ウェハの作製>
レーザーを用いてチップサイズ10mm×10mm、スクライブライン幅70μmの8インチスクライブライン付シリコンウェハ(厚さ:350μm)を作成した。ポジ型感光性材料を前記スクライブライン付シリコンウェハ上に塗布し、厚み10μmのレジストマスク材層を形成した。フォトマスクを用いてスクライブライン上のみに紫外線を照射し、アルカリ性の現像液を用いてスクライブライン上のレジストマスク材層を除去し、マスク付ウェハを作製した。
【0079】
<剥離ライナー付感圧型表面保護テープの作製>
KP−1909B(商品名、日本カーバイド社製)100質量部に対して、架橋剤としてコロネートL(商品名、日本ポリウレタン工業株式会社製)0.5質量部を配合し、粘着剤組成物を得た。
この粘着剤組成物を厚さが30μmになるように剥離ライナー上に塗工し、厚み100μm厚のLDPE(低密度ポリエチレン)フィルムのコロナ処理面に貼り合せ、厚さ130μmの剥離ライナー付感圧型表面保護テープを得た。
【0080】
<半導体チップの製造>
ラミネータDR8500III(商品名:日東精機(株)社製)を用いて、上記で調製したマスク付シリコンウェハのマスク上に上記で調製した剥離ライナー付感圧型表面保護テープから、剥離ライナーを剥がして、感圧型表面保護テープを貼り合わせた。
その後、DGP8760(商品名:ディスコ(株)社製)を用いて、前記マスク付シリコンウェハの裏面を、ウェハの厚さが50μmになるまで研削した。研削後の前記マスク付シリコンウェハをRAD−2700F(商品名:リンテック(株)社製)を用いて、ウェハ裏面側からダイシングテープ上にマウントし、リングフレームにて支持固定した。その後、感圧型表面保護テープを剥離した。
その後、実施例1と同様にしてプラズマダイシングによりウェハをチップへと分割し、次いで実施例1と同様にしてアッシングによりマスクを除去し、さらに、実施例1と同様にしてチップをピックアップした。
【0081】
[試験例1] 剥離ライナーの剥離性
上記各実施例の<半導体チップの製造>において、剥離ライナーを剥離した際に要した力(剥離性)を下記評価基準により評価した。なお、剥離ライナーの剥離は、23℃、50%RHの条件下、剥離角度90度、剥離速度50mm/minで行い、剥離力を測定した。また、剥離フィルムとマスク材層間の剥離力も同様にして測定した。結果を下記表1に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
上記において、マスク材層を痛めることなく剥離ライナーのみを剥離することができたため、この結果を表2に「○」として示す。
【0084】
[試験例2] 基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体の剥離性評価
上記各実施例及び比較例の<半導体チップの製造>において、基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体又は感圧型表面保護テープを剥離可能であるかを評価した。なお、基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体又は感圧型表面保護テープの剥離はRAD−2700F(商品名:リンテック(株)社製)を用いて行った。結果を下記表2に示す。
−基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体の剥離性の評価基準−
○:基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体、又は感圧型表面保護テープを剥離することができた。
×:粘着剤層及び剥離フィルムの積層体、又は感圧型表面保護テープを剥離することができなかった。又は、マスク材層の一部が剥離されてしまった。
【0085】
[試験例3] Oプラズマアッシングによるマスク材層の除去性評価
上記各実施例及び比較例の<半導体チップの製造>において、Oプラズマアッシング(1.5μm/分のエッチング速度で10分間アッシング)後のマスク材の残留の有無を、レーザー顕微鏡を用いて調べた。結果を下記表2に示す。
−マスク材層の除去性の評価基準−
○:マスク材層の残留がない。
×:マスク材層の残留がある。
【0086】
[試験例4] 環境に対する負荷
酸性溶液及びアルカリ性溶液は、廃棄処理が煩雑であり、環境に対しての負荷が多い。加工工程にて、酸性溶液及びアルカリ性溶液を使用しているか調査した。結果を下記表2に示す。
−環境に対する負荷の評価基準−
○:酸性溶液及びアルカリ性溶液を使用していない。
×:酸性溶液及びアルカリ性溶液を使用している。
【0087】
[試験例5] 作業負荷(総合評価)
さらに、上記試験例2〜4の評価結果に基づき、下記評価基準に基づき作業負荷を総合評価した。結果を下記表2に示す。
−作業負荷の評価基準−
○: 試験例2〜4の全てに合格
×: 試験例2〜4のいずれか1つに不合格
【0088】
【表2】
【0089】
本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープは、剥離ライナーを剥がしてマスク一体型表面保護テープとすることができ、また、上述の通り、半導体ウェハへの貼り付け後には、マスク材層の表面を維持して半導体ウェハ表面に露出できた。
また、上記各試験例の結果から、半導体ウェハを加工して半導体チップを製造するに際し、本発明の剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープを用いることにより、半導体ウェハのパターン面にマスク一体型表面保護テープを貼り付け、当該テープから基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体を剥離するだけで、糊残りを生じずに簡単にマスクを形成することができ、さらに、当該マスクはOプラズマによってより確実に除去することができ、環境に対する負荷及び作業負荷を低減できることが分かった。
【符号の説明】
【0090】
101 剥離ライナー付マスク一体型表面保護テープ
1 半導体ウェハ
2 パターン面
3 マスク一体型表面保護テープ
3a 基材フィルム、粘着剤層及び剥離フィルムの積層体
3aa 基材フィルム
3ab 粘着剤層
3ac 剥離フィルム
3b マスク材層
3c 剥離ライナー
4 ウェハ固定テープ
7 チップ
S 表面
B 裏面
M1 ウェハ研削装置
M2 ピン
M3 コレット
F リングフレーム
L レーザー(COレーザー)
P1 SFガスのプラズマ
P2 Oガスのプラズマ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7