(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582386
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】鉛蓄電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/12 20060101AFI20190919BHJP
【FI】
H01M10/12 K
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-212412(P2014-212412)
(22)【出願日】2014年10月17日
(65)【公開番号】特開2016-81736(P2016-81736A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2017年9月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【弁理士】
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】小林 真輔
(72)【発明者】
【氏名】丸山 和也
【審査官】
山内 達人
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/142072(WO,A1)
【文献】
米国特許第05169659(US,A)
【文献】
特開2011−233390(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/058058(WO,A1)
【文献】
特開2009−170234(JP,A)
【文献】
特開平07−240227(JP,A)
【文献】
特開平07−201331(JP,A)
【文献】
特開2006−049025(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/124920(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/06
H01M 4/14
Japio−GPG/FX
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セパレータを介して正極板と負極板を交互に積層した極板群を電槽に収納する鉛蓄電池において、前記正極板の総表面積をS、前記極板群の体積をVとしたとき、S/Vが3.95cm−1以上5.2cm−1以下であり、かつ、前記正極板の活物質量をX、前記負極板の活物質量をYとしたとき、X/Yが1.35以上1.47以下であることを特徴とする鉛蓄電池。
【請求項2】
請求項1において、S/Vが4.2cm−1以上であり、かつ、X/Yが1.45以上であることを特徴とする鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉛蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉛蓄電池は、信頼性、価格の安さから産業用、民生用に広く用いられており、特に自動車用鉛蓄電池(いわゆるバッテリー)の需要が多い。
【0003】
近年、環境保護及び燃費改善の取り組みとして、停車時にはエンジンを停止させ、発進時に再始動するアイドリングストップスタート(以下ISSと略す)車の開発が加速されている。ISS車に搭載さている鉛蓄電池は頻繁にエンジン始動、停止が繰り返されることにより、始動時に大電流放電回数が増え、停車中には電装品への電力供給が必要となり、放電負荷が多くなる。車両の充電はオルタネータによるが、これはエンジンを動力源としているために停車中にはスットプしてしまう。これらISS特有の使用条件により、鉛蓄電池は完全には充電されない状態、すなわち部分充電状態(PSOC:Partial State Of Charge)で使用される。
【0004】
PSOC状態で鉛蓄電池を使用した場合、従来の満充電状態で使用される状況では発生しなかった問題が発生する。これは、負極格子体の集電部(耳部)が放電され、集電部の厚みが減少してしまう、いわゆる耳痩せ現象が知られている。前記耳痩せ現象が発生すると、集電部の抵抗が増加して、鉛蓄電池の充放電特性が低下し、サイクル寿命性能が低下する。
【0005】
特許文献1では、鉛−錫合金層を負極格子体の耳部の表面に設け、かつ、満充電後における負極活物質に0.25〜0.75質量%のカーボンを含ませることで、耳痩せを抑制させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】再公表WO2010/032782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
負極板は、負極格子体に活物質ペーストを充填して作製される。前記活物質ペーストは、鉛粉に有機添加剤、カーボン、硫酸バリウムを混合し、水及び希硫酸を添加、混練して作製される。カーボンあるいは炭素材は、導電補助剤として添加されている。
【0008】
通常、鉛蓄電池において、満充電後における負極活物質に対して、カーボンは0.1〜0.3質量%含まれている。0.5質量%以上カーボン量を増やすと活物質ペーストが固くなり、負極格子体への充填がしにくくなり、充填不良が発生し歩留りが低下する。
【0009】
活物質ペーストを適正な固さにするために、前記混練時に加える水の量を増やし、水分量を多くする方法がある。しかし、ペースト水分量を増やした負極板は、充填後の熟成、乾燥工程で水分が抜けることで活物質が収縮し、負極板表面に亀裂が生じる。このような状態では、続く電池の組み立て工程において、活物質の脱落が生じることになる。従って、ペースト水分量を増やすことは好ましくない。
【0010】
本発明の目的は、ペースト仕様を変えることなく、負極集電部の耳痩せを緩和することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで本発明は、上記課題を解決するために以下の構成とする。
【0012】
第1の発明は、セパレータを介して正極板と負極板を交互に積層した極板群を電槽に収納する鉛蓄電池において、前記正極板の総表面積をS、前記極板群の体積をVとしたとき、S/Vが3.95cm
-1以上であり、かつ、前記正極板の活物質量をX、前記負極板の活物質量をYとしたとき、X/Yが1.35以上とする。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、S/Vが4.2cm
-1以上であり、かつ、X/Yが1.45以上とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ペースト仕様を変えることなく、負極集電部の耳痩せを緩和することができ、サイクル寿命特性に優れた鉛蓄電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図4】微多孔性のポリエチレン製シートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。
【0017】
(格子体)
格子体は、鉛−カルシウム-スズ系合金シートに切れ目をいれて拡開した
図2に示すエキスパンド格子体1を用いた。集電部2を除いた寸法は、正極用が幅145mm、高さ115mm、厚さ1.5mm、負極用が幅145mm、高さ115mm、厚さ1.3mmである。なお、集電部2は耳部とも呼ばれる。
【0018】
(正極板)
ボールミル法によって作製した酸化度70%の鉛粉に、鉛丹化度90%の鉛丹を希硫酸と混合・反応させたスラリと水および希硫酸を加えて混練し、活物質ペーストを作製する。この活物質ペーストを、前記正極用エキスパンド格子体1に充填し、常法により熟成・乾燥後に、
図3に示す正極板3を得る。
図2において、活物質ペーストを充填した部分が充填部4である。
【0019】
(負極板)
ボールミル法によって作製した酸化度70%の鉛粉に、添加剤として、炭素粉末、リグニン粉末、バリウム化合物粉末を加え混合する。続いて、水および希硫酸を加えて混練し、活物質ペーストを作製する。この活物質ペーストを、前記負極用エキスパンド格子体に充填し、常法により熟成・乾燥して負極板とする。
【0020】
(袋セパレータ)
図4に微多孔性のポリエチレン製シート6を示す。ポリエチレン製シート6の片面には、長手方向にセパレータのリブ7が設けられており、ポリエチレン製シート6のベース部の厚みは0.2mm、リブ7を含めた総厚みは0.8mmである。ポリエチレン製シート6を長さ235mm、幅152mmに切り出し二つ折りにする。続いて両側部をメカニカルシール、又は熱溶着し、
図5のような袋セパレータ8に加工する。
【0021】
(ストラップ形成と極板群)
図5に示すように、前記袋セパレータ8に負極板5を入れ、正極板7枚と袋セパレータに包まれた負極板8枚を交互に積層する。正極、負極それぞれの集電部2をキャストオンストラップ(Cast On Strap)法で溶接し、
図1に示す溶接部、すなわちストラップ9を形成させ、極板群10を得る。
なお、ストラップ9の合金組成としては、鉛−アンチモン系合金または鉛−スズ系合金を用いることができる。
【0022】
(電槽)
図6にポリプロピレン製の電槽11を示す。電槽11は、隔壁12によって6区画に分割され、セル室13を設けられる。前記極板群10は別名単電池といい、これは2Vの電池能力しかない。自動車用の電装品は、直流電圧12Vを昇圧または降圧して駆動するため、極板群10を6個直列接続して、2V×6=12Vとしている。そのため、セル室13は6個必要である。
電槽11の隔壁12の両面及び電槽11の両端面の内壁面に、リブ14が電槽11の高さ方向に複数本設けられている。リブ14は、極板群を適切に加圧する役割がある。
【0023】
(電池の作製)
前記極板群10を電槽11のセル室13に挿入し、隣あう極板群同士のストラップ9を隔壁貫通溶接で溶接する。前記電槽11にポリプロピレン製の蓋15を熱溶着し、
図7に示す電池16を作製する。なお、
図7に示す両端のセル室に収納する極板群10には、ストラップ9に柱状部分を付与した極柱を形成する。これは、蓋15に突設された正極端子17Aおよび負極端子17Bに接続させるためのものである。
【0024】
続いて、蓋15のセル室13に対応した注液口18から電解液である希硫酸を注液し、周囲温度40℃、電流25Aで20時間通電して電槽化成する。電槽化成後、電解液液面を調整し、JISD5301規定の80D23形電池を作製した。
【0025】
(正極板の総表面積、極板群の体積)
正極板3の総表面積とは、鉛蓄電池の最小単位である単電池、すなわち前記セル室13内に収容される極板群10において、この中の正極板3の発電に関与する部分の表面積の合計である。これは、
図3において、各正極板の集電部2および活物質ペーストの未充填部を除いた部分の表と裏両面の表面積の合計に、極板群10を構成する正極板の枚数を乗じたものである。
すなわち、極板群10当たりの正極板の総表面積Sは、
図3から(数1)で与えられる。なお、本発明では、Sの単位として〔cm
2〕を用いる。
S=(充填部幅×充填部高さ)×2×正極板枚数 ・・・(数1)
極板群10の体積とは、鉛蓄電池の最小単位である1セル内に収容される極板群の各部のうち、集電部2およびストラップ9を含まない部分で、袋セパレータ8の極板に当接していないはみ出し部分と極板群10の両端面のリブ7の高さを含む外形寸法から計算される見かけの体積である。
【0026】
すなわち、極板群10の体積Vは、
図1から(数2)で与えられる。なお、本発明では、Vの単位として〔cm
3〕を用いる。
V=極板群幅×極板群厚さ×極板群高さ ・・・(数2)
(活物質量)
活物質量とは、電槽化成後の活物質の総量で、極板総質量から格子体総質量を引いた値である。
【0027】
すなわち、正極活物質量は、1枚の正極板3の活物質量に、極板群10を構成する正極板の枚数を乗じたものである。負極活物質量は、1枚の負極板4の活物質量に、極板群10を構成する負極板の枚数を乗じたものである。
【0028】
(評価試験)
前記電池に25℃環境下で以下の試験を実施する。
(ア)電流59Aで59秒間定電流放電。
(イ)電流300Aで1秒間定電流放電。
(ウ)定電圧14.0V、制限電流100Aで1分間定電流・定電圧充電。
(エ)(ア)から(ウ)を1サイクルとして充放電を繰り返す。
電池の寿命判定は、(イ)の1秒目電流が7.2V以下となったときとする。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0030】
(実施例1)
前記80D23形電池において、S/Vが以下のようになるように作製した。
(数1)から、S=(14.5×11)×2×7=2233〔cm
2〕
(数2)から、V= 14.5×3.36×11.6=565〔cm
3〕
従って、S/Vは3.95cm
-1となる。
X/Yは1.35になるように作製した。
【0031】
(実施例2)
実施例1において、S/Vが3.95cm
-1であり、X/Yは1.4となる電池を作製した。
【0032】
(実施例3)
実施例1において、S/Vが3.95cm
-1であり、X/Yは1.45となる電池を作製した。
【0033】
(実施例4)
実施例1において、S/Vが3.95cm
-1であり、X/Yは1.47となる電池を作製した。
【0034】
(実施例5)
実施例1において、S/Vが4.1cm
-1であり、X/Yは1.35となる電池を作製した。
【0035】
(実施例6)
実施例1において、S/Vが4.1cm
-1であり、X/Yは1.4となる電池を作製した。
【0036】
(実施例7)
実施例1において、S/Vが4.1cm
-1であり、X/Yは1.45となる電池を作製した。
【0037】
(実施例8)
実施例1において、S/Vが4.1cm
-1であり、X/Yは1.47となる電池を作製した。
【0038】
(実施例9)
実施例1において、S/Vが4.2cm
-1であり、X/Yは1.35となる電池を作製した。
【0039】
(実施例10)
実施例1において、S/Vが4.2cm
-1であり、X/Yは1.4となる電池を作製した。
【0040】
(実施例11)
実施例1において、S/Vが4.2cm
-1であり、X/Yは1.45となる電池を作製した。
【0041】
(実施例12)
実施例1において、S/Vが4.2cm
-1であり、X/Yは1.47となる電池を作製した。
【0042】
(実施例13)
実施例1において、S/Vが4.3cm
-1であり、X/Yは1.35となる電池を作製した。
【0043】
(実施例14)
実施例1において、S/Vが4.3cm
-1であり、X/Yは1.4となる電池を作製した。
【0044】
(実施例15)
実施例1において、S/Vが4.3cm
-1であり、X/Yは1.45となる電池を作製した。
【0045】
(実施例16)
実施例1において、S/Vが4.3cm
-1であり、X/Yは1.47となる電池を作製した。
【0046】
(比較例1)
実施例1において、S/Vが3.95cm
-1であり、X/Yは1.33となる電池を作製した。
【0047】
(比較例2)
実施例1において、S/Vが4.1cm
-1であり、X/Yは1.33となる電池を作製した。
【0048】
(比較例3)
実施例1において、S/Vが4.2cm
-1であり、X/Yは1.33となる電池を作製した。
【0049】
(比較例4)
実施例1において、S/Vが4.3cm
-1であり、X/Yは1.33となる電池を作製した。
【0050】
(比較例5)
実施例1において、S/Vが3.9cm
-1であり、X/Yは1.35となる電池を作製した。
【0051】
(比較例6)
実施例1において、S/Vが3.9cm
-1であり、X/Yは1.4となる電池を作製した。
【0052】
(比較例7)
実施例1において、S/Vが3.9cm
-1であり、X/Yは1.45となる電池を作製した。
【0053】
(比較例8)
実施例1において、S/Vが3.9cm
-1であり、X/Yは1.47となる電池を作製した。
【0054】
(比較例9)
実施例1において、S/Vが3.9cm
-1であり、X/Yは1.33となる電池を作製した。
【0055】
表1に、これらの鉛蓄電池の寿命試験を行ったときのサイクル数の結果を示す。
【0056】
【表1】
【0057】
本発明を用いた実施例1〜16は、寿命サイクル数が優れることが分かる。寿命モードを検証するため、比較例9の寿命サイクル数で各電池を解体したところ、集電部(耳部)の厚みは比較例9が最も薄く、実施例11、12、15、16が最も厚かった。これより、
本実施例では、負極集電部の耳痩せを緩和することができ、サイクル寿命特性が向上したといえる。
【0058】
これらの理由は、定かではないが極板群体積に対する正極板の総表面積の比率(S/V)が3.95cm
-1以上であることで充電時の過電圧の上昇を緩やかにしたと考えられる。また、負極活物質に対する正極活物質の比率(X/Y)を1.35以上とすることで、負極耳部で生成した硫酸鉛が完全に金属鉛に還元されるためであると考えられる。特に、正極板の表面積が増えることで抵抗が減少し、より過電圧が低下すると考えられるので、S/Vが4.2cm
-1以上にあると好ましい。また、正極の活物質量が増えることでより負極が充分卑な電位で還元されるためであると考えられるので、X/Yが1.45以上にあると好ましい。
【0059】
なお、本発明において上限値を規定していないが、鉛蓄電池の実用上、S/Vの上限は5.2cm
-1、X/Yの上限は1.6が好ましい。
【0060】
なお、本発明においてはS/Vの上限値を規定していないが、鉛蓄電池の実用上、上限は5.2cm
-1が好ましい。
【0061】
上記実施例において、極板の厚みを調整してS/Vを変えたが、エキスパンド格子体1の厚み、ポリエチレン製シート6のベース厚み、リブ7の高さを変えることによってもS/Vを変えることもできる。
【符号の説明】
【0062】
1.エキスパンド格子体、2.集電部、3.正極板、4.充填部、5.負極板、6.ポリエチレン製シート、7.リブ、8.袋セパレータ、9.ストラップ、10.極板群、11.電槽、12.隔壁、13.セル室、14.リブ、15.蓋、16.電池、17A.正極端子、17B.負極端子、18.注液口