(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の高周波アンテナは、渦巻きコイルであり、一端が前記高周波電源に接続されるとともに、他端が接地される、請求項1〜3のうちいずれか一項に記載のプラズマ処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施の形態におけるプラズマ処理装置について説明する。
図1には、被処理基板であるウエハWのエッチングを行うプラズマエッチング装置に、本発明のプラズマ処理装置を適用した例を示している。
プラズマエッチング装置は、接地されたアルミニウムやステンレスなどの導電体製の処理容器10を備え、処理容器10の側面にはゲートバルブ102によって開閉され、ウエハWの搬入出が行われる搬入出口101が設けられている。
【0011】
処理容器10の底面側の中央部には、処理対象のウエハWが載置される載置台と、プラズマ中のイオンの引き込み用(バイアス用)の電極とを兼ねる円板形状のサセプタ21が設けられている。サセプタ21は、絶縁体からなる円筒形状のサセプタ支持部22によって支持されると共に、給電棒31及び整合器32を介してバイアス用の高周波電源30が接続されている。高周波電源30からは、例えば13.56MHzの高周波電力が供給される。
【0012】
サセプタ21の上面には、ウエハWを静電吸着力で保持するための静電チャック23が設けられ、静電チャック23の外周側には、ウエハWの周囲を囲むフォーカスリング24が設けられている。
【0013】
またサセプタ21の内部には、冷媒たとえば冷却水(C.W.)を通流させてウエハWの温度制御を行うための冷媒流路212が設けられている。冷媒流路212は、配管213を介して不図示のチラーユニットと接続され、当該チラーユニットから温度調節された冷却水が供給される。さらにサセプタ21の内部には、静電チャック23とウエハWとの間に、伝熱ガスとして例えばHeガスを供給するためのガス供給路214が設けられている。ガス供給路214は静電チャック23を貫通し、その末端は静電チャック23の上面に開口している。
これらに加え、サセプタ21には、サセプタ21を上下方向に貫通し、静電チャック23の上面から突没して外部の搬送アーム(不図示)との間でウエハWの受け渡しを行うための不図示の昇降ピンが設けられている。
【0014】
またバッフル板11の周囲と処理容器10の内壁との間には、多数のパンチ孔が形成されたパンチングプレートからなる環状のバッフル板11が設けられている。このバッフル板11の下方側に位置する処理容器10の底面には排気口12が形成され、排気口12は排気管13を介して真空排気機構14に接続されている。これら排気口12や排気管13、真空排気機構14は、本実施の形態の排気部を構成する。
【0015】
次いで、搬入出口101の上方側の処理容器10の側壁内には、当該側壁の周方向に沿って処理ガス供給路41が形成されている。処理ガス供給路41が形成されている領域の処理容器10の内壁面には、当該処理ガス供給路41に連通する複数の処理ガス供給孔42が、互いに間隔を開けて形成されている。さらに前記処理ガス供給路41には、処理ガス供給管43を介して、例えばCF
4ガスやC
4F
8ガス、塩素ガスなどのエッチングガスである処理ガスを供給するための処理ガス供給機構44が接続されている。処理ガス供給路41、処理ガス供給孔42、処理ガス供給管43や処理ガス供給機構44は、本実施の形態の処理ガス供給部に相当する。
【0016】
処理容器10の天板部分には、例えば石英板などの誘電体で構成された誘電体窓53が気密に設けられている。誘電体窓53の上方側の空間は、導電体製の容器であるシールドボックス51によって覆われ、これら誘電体窓53とシールドボックス51とで囲まれた空間は、プラズマ発生用のアンテナ541、542を収容するアンテナ室52となる。処理容器10上に配置されたシールドボックス51は、当該処理容器10を介して接地されている。
【0017】
以下、
図2を参照しながら、処理ガスをプラズマ化するアンテナ541、542を備えたプラズマ発生部の構成について説明する。
第1の高周波アンテナであるICP(Inductively Coupled Plasma)アンテナ541は、同一平面内で導線を渦巻き状(
図2の例では上面側から見て時計回り)に捲回してなる面状の渦巻きコイルから構成される。
【0018】
真空排気された処理容器10内に処理ガスを供給し、高周波電源61からICPアンテナ541に高周波電力を印加すると、誘電体窓53を介して処理容器10内に高周波磁界が形成される。処理ガスは、この磁界の形成に伴って誘起される高周波電界によってプラズマ化する。
【0019】
ICPアンテナ541の一端(例えば内周側の端部)には、0.1〜100MHzの範囲で周波数を変化させることが可能な高周波電源61が接続されている。さらに高周波電源61側には、反射調整用の整合回路として、高周波電源61とICPアンテナ541との間に直列に接続された第1の可変コンデンサ62、及び高周波電源61の接地端と第1の可変コンデンサ62との間に、高周波電源61と並列に接続された第2の可変コンデンサ63とが設けられている。
【0020】
また、ICPアンテナ541の他端(例えば外周側の端部)は、可変容量からなり、後述の共振周波数を調整するための第3の可変コンデンサ64を介して接地されている。
これら第1〜第3の可変コンデンサ62〜64(可変コンデンサ群)は、本実施の形態のインピーダンス調整部に相当する。
【0021】
ここでICPアンテナ541を構成する渦巻きコイルの捲回方向や高周波電源を設置する端部、及び第3の可変コンデンサ64を介して接地する端部の位置は、上述の例に限定されない。ICPアンテナ541は、上面側から見て反時計回りに捲回した面状の渦巻きコイルにて構成してもよいし、高周波電源61をICPアンテナ541の外周側の端部に接続し、内周側の端部について、第3の可変コンデンサ64を介して接地してもよい。
【0022】
上述のICPアンテナ541の例えば外周側には、当該ICPアンテナ541を囲むようにして第2の高周波アンテナである受電アンテナ542が配置されている。
従来、
図3(a)に示すように、接地されたシールドボックス51内に面状の渦巻きコイルからなるプラズマアンテナ542aを配置し、不図示の高周波電源からプラズマアンテナ542aに高周波電力を供給すると、プラズマアンテナ542aとシールドボックス51との間に容量結合Cが形成されることが知られている(
図3(b)の等価回路参照)。
【0023】
プラズマアンテナ542a及び容量結合Cを含む回路は、プラズマアンテナ542aのアンテナ長(λ/2)やインダクタンス、容量結合Cの静電容量に対応した周波数Tにて共振し、プラズマ発生用のアンテナとして用いることができる。また当該回路の共振周波数は、プラズマアンテナ542aとシールドボックス51との距離を変更することにより調節できる。即ち、プラズマアンテナ542aは、アンテナ長やシールドボックス51との距離が固定された条件下で、固有の共振周波数を持っている。
【0024】
本実施の形態のプラズマエッチング装置はこのプラズマアンテナ542aを利用し、シールドボックス51内に配置されたICPアンテナ541の例えば外周側に、同一平面内で導線を渦巻き状(
図2の例では、ICPアンテナ541と同じ上面側から見て時計回り)に捲回してなる面状の渦巻きコイルからなる受電アンテナ542を配置している。当該受電アンテナ542は、その一端及び他端(内周端及び外周端)が開放端となっており、直接には高周波電源61に接続されていない。
【0025】
このとき、内外に並べて配置されたICPアンテナ541、受電アンテナ542のうち、高周波電源61に接続されたICPアンテナ541に高周波電力を供給すると、受電アンテナ542側にも高周波電力が分配され、受電アンテナ542に対応するICPプラズマを処理容器10内に形成できることを発明者らは見出した。
【0026】
上述の構成を備えたプラズマ発生部において、インピーダンス調整部を成す第1〜第3の可変コンデンサ62〜64の各容量を適切に調節し、共通の高周波電源61から供給される高周波電力の周波数を変化させていくと、互いに異なる2つの共振周波数(第1の共振周波数及び第2の共振周波数)が現れることが分かった(後述の実施例参照)。これらの共振周波数が現れる位置は、インピーダンス調整部の各容量の設定によって調節することができる。なお、これら2つの共振周波数のうち、その一方が、
図3を用いて説明したプラズマアンテナ542a単独の固有の共振周波数と同じ値となるといった制約が生じるものではない。
【0027】
またここで、2つの共振周波数が現れる位置を調整することが可能であれば、インピーダンス調整部の構成は上述の例に限られない。例えば第3の可変コンデンサ64を設けずに、ICPアンテナ541の他端を直接、接地してもよい。この場合には、例えば高周波電源61側の2つの可変コンデンサ62、63を用いて共振周波数の調節、及び反射率の調節を行うことができる。
さらに他のインピーダンス調整部の構成例として、受電アンテナ542とシールドボックス51との距離を変えることで両者間の容量が変わるので、これらの距離を変化させることにより2つの共振周波数を調整してもよい。その場合には、昇降機構を含む受電アンテナ542の高さ調整機構を設けてこれらの距離を変化させてもよい。また、シールドボックス51に電気的に接続された昇降機構付きのプレートを付設し、当該プレートと受電アンテナ542との距離を変化させてもよい。
【0028】
そして、2つの共振周波数間の周波数差が小さいとき、ICPアンテナ541の共振周波数の近傍の高周波電力を供給すると、受電アンテナ542への電力の分配が増大する一方、前記周波数差が大きくなると、受電アンテナ542への分配される電力が小さくなるという知見も得られた。
【0029】
以上に述べたICPアンテナ541、受電アンテナ542の特性を利用すれば、共通の高周波電源61を用いて異なる高周波アンテナ541、542に高周波電力を分配し、処理容器10内にICPプラズマを形成することが可能となる。そして、高周波電力の分配を変化させることにより、ウエハWの面内でプラズマ密度の分布を調節することも可能となる。
【0030】
ここで、高周波電源61に接続されたICPアンテナ541から、受電アンテナ542へ高周波電力が供給される原理の詳細は明らかでないが、
図2に仮想的に示すように、ICPアンテナ541と受電アンテナ542との間や、受電アンテナ542とシールドボックス51との間に容量結合C’、C’’が形成され、ワイヤレス給電における電磁界共鳴の原理によって給電が行われているのではないかと考えられる。本実施の形態において「電磁界共鳴」には、磁界共鳴と電界共鳴との組み合わせ、またはこれらの少なくとも一方によりICPアンテナ541から受電アンテナ542への給電が行われる場合が含まれる。
【0031】
そして、高周波電源61→ICPアンテナ541→接地端に至る給電回路に加え、高周波電源61→ICPアンテナ541→受電アンテナ542→シールドボックス51→接地端に至る給電回路が形成されることにより、2つの共振周波数が現れるものと考えられる。
なお実験結果でも説明するように、2つの共振周波数のうち、いずれの共振周波数が2つの高周波アンテナ541、542のどちらに対応するものであるかを特定することはできない。
【0032】
ここで受電アンテナ542の設計変数を挙げておくと、ICPアンテナ541のアンテナ長やシールドボックス51と受電アンテナ542との距離やICPアンテナ541と受電アンテナ542との距離を挙げることができる。そして、ICPアンテナ541へ供給される高周波電力の設計周波数(例えば後述の中心周波数)に対し、これらの変数を調節することにより、例えば設計周波数に近い固有の共振周波数を持つ受電アンテナ542を設けることができる。
【0033】
例えばICPアンテナ541及び受電アンテナ542を含む回路が12.56〜14.56(中心周波数13.56)MHzの範囲の共振周波数を持つように設計する場合には、ICPアンテナ541と受電アンテナ542との最短距離は3〜20mm、受電アンテナ542とシールドボックス51との最短距離は3〜50mmとする例が挙げられる。また前記中心周波数(13.56MHz)における高周波電力の波長をλとするとき、受電アンテナ542のアンテナ長はλ/2に周辺環境に応じた短縮率を乗じた値となり、巻き数などによっても左右されるが、例えば2〜4m程度となる。
【0034】
しかる後、第1〜第3の可変コンデンサ62〜64(インピーダンス調整部)の各容量を調整することにより、2つの共振周波数が現れる位置を調節することが可能となる。これらの可変コンデンサ62〜64の調節法としては、第3の可変コンデンサ64の容量を変化させて共振周波数を変化させつつ、第1、第2の可変コンデンサ62、63にて反射を調節する例が挙げられる。
【0035】
プラズマエッチング装置の説明に戻ると、
図1に示すようにプラズマエッチング装置は、全体の動作を統括制御する制御部7と接続されている。制御部7は不図示のCPUと記憶部とを備えたコンピュータからなり、記憶部にはプラズマエッチング装置の作用、即ち処理容器10内へのウエハWの搬入出や真空排気、処理ガスの供給量調節や、高周波電源61からの高周波電力の供給、インピーダンス調整部の容量設定などの動作についてのステップ(命令)群が組まれたプログラムが記録されている。このプログラムは、例えばハードディスク、コンパクトディスク、マグネットオプティカルディスク、メモリーカード等の記憶媒体に格納され、そこからコンピュータにインストールされる。
【0036】
以上の構成を備えたプラズマエッチング装置の作用について説明する。
例えば処理容器10に隣接して設けられた真空搬送室内の搬送アームにより、搬入出口101を介して処理対象のウエハWが処理容器10内に搬入されると、不図示の昇降ピンを上昇させて、搬送アームから昇降ピンにウエハWを受け取る。処理容器10内から搬送アームが退避すると、ゲートバルブ102が閉じられ、また昇降ピンを降下させて静電チャック23にウエハWが載置される。
【0037】
静電チャック23に直流電力を供給すると、ウエハWが吸着保持される。このとき、冷媒流路212には温度調節された冷却水が通流しており、ガス供給路214からウエハWの裏面に供給された伝熱ガスを介してウエハWの温度調整が実行される。また、処理容器10内は、真空排気機構14によって排気口12を介して真空排気が行われる。
【0038】
処理容器10内が所定の圧力となったら、真空排気機構14による真空排気を継続しつつ、処理ガス供給機構44から処理容器10内に処理ガスを供給する。また、高周波電源61からICPアンテナ541に高周波電力を供給する。さらに、サセプタ21に対しては、高周波電源30からバイアス用の高周波電力を供給する。
ICPアンテナ541に高周波電力を供給すると、当該電力の一部が受電アンテナ542にも分配され、誘電体窓53を介して、これらICPアンテナ541、受電アンテナ542の下方側にICPプラズマが形成される。
【0039】
このとき、高周波電源61からICPアンテナ541に供給される高周波電力の周波数、第1〜第3の可変コンデンサ62〜64の容量は、処理レシピなどによって予め設定されている。この結果、ICPアンテナ541、受電アンテナ542の下方側には、これらの設定値に対応した所望のプラズマ密度分布が形成され、当該プラズマ密度分布に対応して、処理ガスのイオンなどの活性種の濃度分布が形成される。
【0040】
こうして得られた活性種が、バイアス電力の作用により、サセプタ21上のウエハWに引き込まれ、ウエハWの表面に到達してエッチング処理が実行される。このとき、上述のプラズマ密度分布に対応する活性種の供給濃度分布が形成されていることにより、ウエハWの面内でエッチング処理の進行度合いを変化させることができる。
【0041】
なお、ICPアンテナ541、受電アンテナ542により形成されるプラズマ密度分布は、ウエハWの面内で不均一になるように調節する場合に限定されない。例えば、単独のICPアンテナ541を用いて形成したICPプラズマのプラズマ密度がウエハWの中央部側と外周側との間で不均一になる場合に、ICPアンテナ541、受電アンテナ542の高周波電力の分配を調節することにより、ICPアンテナ541単独でのプラズマ密度分布の不均一さを解消して、ウエハWの面内で均一な処理を行ってもよいことは勿論である。
【0042】
所定の時間だけウエハWのエッチング処理を実行したら、処理ガス供給孔42からの処理ガスの供給、及び高周波電源61、30からの高周波電力の供給を停止する。しかる後、処理容器10内の圧力調整を行い、次いでゲートバルブ102を開いて搬入時とは反対の順序で搬送アームにウエハWを受け渡し、処理後のウエハWを処理容器10から搬出する。
【0043】
本実施の形態に係るプラズマエッチング装置(プラズマ処理装置)によれば以下の効果がある。ICPアンテナ(第1の高周波アンテナ)541と並べて配置された受電アンテナ(第2の高周波アンテナ)542に対して給電を行い、さらに互いに異なる共振周波数を持つように、インピーダンス調整部を用いて調節することにより、これらの高周波アンテナ541、542に供給される高周波電力の分配を変化させることができる。この結果、処理容器10内に形成されるプラズマ密度分布を変化させ、ウエハWの処理の進行を面内で調整することができる。
【0044】
ここでICPアンテナ541及び受電アンテナ542の配置位置の関係は、ICPアンテナ541の外周側に受電アンテナ542を配置する場合に限定されない。例えば
図4に示すように、外周側に配置された渦巻きコイルの一端(例えば内周端)を高周波電源61に接続する一方、他端を接地してICPアンテナ541を構成し、内周側に配置された渦巻きコイルの両端を開放端として受電アンテナ542を構成してもよい。
この場合にもICPアンテナ541と受電アンテナ542との間、及び受電アンテナ542とICPアンテナ541との間に容量結合C’、C’’を形成して、ICPアンテナ541から受電アンテナ542に高周波電力を分配することができる。
【0045】
図5は、ICPアンテナ541の外周側に受電アンテナ542を配置したプラズマ発生部の例において、受電アンテナ542の一端(例えば外周端)と、シールドボックス51との間に第4の可変コンデンサ55を設けてICPアンテナ541を含む受電回路の共振周波数を調節する例を示している。この場合には、例えば第3の可変コンデンサ64、第4の可変コンデンサ55の容量を変化させて共振周波数を変化させつつ、第1、第2の可変コンデンサ62、63にて反射を調節することができる。
【0046】
また、第4の可変コンデンサ55の容量を固定し、第3の可変コンデンサ64によるICPアンテナ541側の共振周波数の調節のほか、第1の可変コンデンサ62を変化させて、高周波電力供給側の回路定数を変化させて、ICPアンテナ541、受電アンテナ542を含む系全体の共振周波数などを変化させ、ICPアンテナ541−受電アンテナ542間の電力の分配を調節してもよい。この場合、反射率の調整は第2の可変コンデンサ63により行う。
【0047】
さらに
図6は、ICPアンテナ541の外周側に受電アンテナ542を配置したプラズマ発生部の例において、第5の可変コンデンサ65を介して受電アンテナ542の一端(例えば内周端)を接地した例を示している。この場合には、受電アンテナ542を介して接地側に短絡させた一端側には電流が流れないことから、ICPアンテナ541から受電アンテナ542へ至る中央部側の領域でプラズマ密度を小さくすることができる。
【0048】
次いで、
図7、
図8を参照しながら、第2の実施形態に係るプラズマエッチング装置の構成について説明する。
図7、
図8において、
図1〜
図6を用いて説明したものと共通の構成要素には、これらの図に示したものと共通の符号を付してある。
第2の実施形態は、プラズマ発生部を構成するICPアンテナ541と受電アンテナ542bとの配置高さが異なり、誘電体窓53の下方の処理容器10内に受電アンテナ542が配置されている点が、ICPアンテナ541と受電アンテナ542とが共通のアンテナ室52内のほぼ同じ高さ位置に配置されている第1の実施形態と異なっている。
【0049】
この場合において、ICPアンテナ541を上面側から見たとき、受電アンテナ542bはICPアンテナ541の外周側、または内周側に配置される(
図7、
図8にはICPアンテナ541の外周側に受電アンテナ542bを配置した例を示してある)。このように、ICPアンテナ541と受電アンテナ542bの高さ位置を上下にずらして配置する場合には、上面側から見たとき、ICPアンテナ541と受電アンテナ542bとの一部が重なっていてもよい。
【0050】
プラズマアンテナ542aの構成については、
図2を用いて説明した受電アンテナ542と共通のものを用いることができる。但し、受電アンテナ542はアルミニウムや銅、カーボンブラックなどの導電体製、または石英やアルミナなどの誘電体製、フッ素樹脂や芳香族ポリエーテルケトン樹脂(例えばPEEK(polyetheretherketone))などの樹脂製のカバー56内に収容することが好ましい。
【0051】
例えば誘電体製や樹脂製のカバー56を用いる場合には、受電アンテナ542bを収容可能な円環板形状のカバー56に、受電アンテナ542bの形状に対応する溝を掘り、この溝内に受電アンテナ542bを収容した後、受電アンテナ542の上面を樹脂などで塞ぐ構成が挙げられる。また、導電体製のカバー56を用いる場合には内部が空洞の円環板形状のカバー56内に樹脂を充填して当該樹脂内に受電アンテナ542bを配置する構成が挙げられる。さらに、導電体製のカバー56については、接地する必要もある。
処理容器10内に配置した受電アンテナ542bの導線間に隙間があると、電位の高い箇所で異常放電が発生するおそれがあるため、これらの隙間を埋めることにより、異常放電の発生を抑えることができる。
【0052】
処理容器10内に受電アンテナ542bを配置する場合においても、
図8に示すように、ICPアンテナ541と受電アンテナ542との間に容量結合C’が形成され、受電アンテナ542と処理容器10との間に容量結合C’’が形成されて、2つの共振周波数が現れると共に、ICPアンテナ541から受電アンテナ542bへの高周波電力の分配を行うことができる(後述の実施例参照)。
【0053】
図8に示す例において、接地されると共に、受電アンテナ542bと容量結合する金属製の処理容器10は、受電アンテナ542から放射される電磁波をシールドすることができるので、シールドボックス51の一部を構成しているということができる。なお
図8においてはカバー56の記載を省略してある。
【0054】
ここで、
図1〜2、
図4〜8を用いて説明した各実施の形態においては、面状の渦巻きコイルにより、ICPアンテナ541や受電アンテナ542、542bを構成した実施の形態について説明したが、これらのアンテナ541、542、542bを構成する渦巻きコイルは面状に限定されない。例えば、軸線方向に伸びる、つる巻き線状の渦巻きコイルをICPアンテナ541や受電アンテナ542、542bとして用いてもよい。
【0055】
以上、
図1、
図7においては、本発明のプラズマ発生部をプラズマエッチング装置に適用した実施の形態について説明したが、当該プラズマ発生部を利用可能なプラズマ処理装置は、エッチング処理を行うものに限定されないことは勿論である。例えば、酸素ガスなどの処理ガスをプラズマによって活性化させて、ウエハWに形成されたレジスト膜を除去するプラズマアッシング装置や、プラズマにより活性化させた成膜ガス(処理ガス)をウエハWの表面で反応させてCVD(Chemical Vapor Deposition)やALD(Atomic Layer Deposition)などの成膜を行うプラズマ成膜装置などにも、本発明のプラズマ発生部は適用することができる。
【実施例】
【0056】
(実験1)
図1、
図2を用いて説明したプラズマ発生部を用い、高周波電源61から供給する高周波電力の周波数を変化させて共振周波数を調べた。
A.実験条件
巻き数2のICPアンテナ541と、巻き数5、共振周波数27MHzの受電アンテナ542とを用い、シールドボックス51内の同じ高さ位置にICPアンテナ541と受電アンテナ542とを配置した。第1の可変コンデンサ62、第2の可変コンデンサ63、第3の可変コンデンサ64の容量を固定した条件下で、高周波電源61から供給される高周波電力の周波数を10〜60MHzの範囲で変化させ、高周波電源61側から反射率を観測した。
【0057】
B.実験結果
実験結果を
図9に示す。
図9の横軸は高周波電力の周波数、縦軸は高周波電源61側から見た高周波電力の反射率を示している。
図9によれば、受電アンテナ542の共振周波数である27MHzの近傍の2箇所に、反射率が急激に小さくなる周波数が観察された。これらはICPアンテナ541、受電アンテナ542を含む回路の共振周波数である。これら共振周波数が発生する位置は、各可変コンデンサ62〜64の容量によって種々、変化し、いずれの共振周波数が2つの高周波アンテナ541、542のどちらに対応するものであるか、特定することはできない。なお、30MHzより高周波領域に現れている反射率の小さな低下は、周辺回路の固定パラメータ間での共振の影響と考えられ、ICPアンテナ541、受電アンテナ542を用いたICPプラズマ形成の観点においては無視できる。
【0058】
(実験2)
実験1と同様のプラズマ発生部を用い、第3の可変コンデンサ64の容量を変化させたときにICPアンテナ541、受電アンテナ542によって形成されるICPプラズマの状態を観察した。
A.実験条件
第3の可変コンデンサ64のCeの容量を次第に大きくする一方、高周波電源61から見た反射率が小さくなるように、高周波電源61から供給される高周波電力の周波数、第1の可変コンデンサ62、第2の可変コンデンサ63のC2、C1の値を調節してプラズマの状態を観察した。プラズマの状態の観察は、プラズマ密度分布の計測、及び写真撮影(目視)により行った。
【0059】
B.実験結果
図10にウエハWの径方向に見たプラズマ密度の分布を示す。
図10の横軸は、ウエハWの中心に対応する位置からの径方向の距離を示し、縦軸は電子密度Neを電子密度の最大値NeMaxで規格化した値を示している。
図10において、黒塗りの三角のプロットにおけるCeの容量が最も小さく、白抜きの丸のプロットのCeの容量は中程度、バツ印のプロットにてCeの容量が最大となっている。また、
図11(a)〜(c)に示した写真においては、
図11(a)はCeの容量が最も小さく、
図11(b)が中程度、
図11(c)が最大となっている。なお、
図10と
図11との間で、第3の可変コンデンサ64のCeの容量など、実験条件は同じではない。
【0060】
図10に示した結果によれば、第3の可変コンデンサ64のCeの値を大きくするにつれて、規格化電子密度の高い領域がウエハWの周縁部側へ移動する一方、中央部側では規格化電子密度が次第に小さくなっている。この傾向は、写真撮影の結果においても観察され、第3の可変コンデンサ64のCeの値を大きくするにつれて、プラズマの発光領域が周縁部側へ移動する一方、中央部側のプラズマは弱く(暗く)なっていることが分かる。 このように、ICPアンテナ541と受電アンテナ542とを備え、2つの共振周波数を持つ回路を構成するプラズマ発生部を用いることにより、高周波電源61が1つしかない場合であってもプラズマ密度分布を調整することが可能であることを確認できた。
【0061】
(実験3)
図5を用いて説明したプラズマ発生部を用い、高周波電源61から供給する高周波電力の周波数を変化させて共振周波数を調べた。
A.実験条件
実験1と同様の構成のICPアンテナ541、受電アンテナ542を用い、第1の可変コンデンサ62、第2の可変コンデンサ63の容量を各々C2:66pF、C1:77pFとし、第3の可変コンデンサ64、第4の可変コンデンサ55の容量Ce、Chについては所定の固定値とした。そして、高周波電源61から供給される高周波電力の周波数を10〜70MHzの範囲で変化させ、高周波電源61側から反射率を観測した。
【0062】
B.実験結果
実験結果を
図12に示す。
図12の横軸及び縦軸は
図9と同様である。受電アンテナ542とシールドボックス51との間に第4の可変コンデンサ55を設けた場合においても、受電アンテナ542の共振周波数である27MHzの近傍に2つの共振周波数が観察された。
【0063】
(実験4)
実験3と同様のプラズマ発生部を用い、第1の可変コンデンサ62の容量を変化させたときにICPアンテナ541、受電アンテナ542によって形成されるICPプラズマの状態を観察した。
A.実験条件
第3の可変コンデンサ64のCeは固定し、第1の可変コンデンサ62のC2の容量を次第に小さくし、高周波電源61から見た反射率が小さくなるように、高周波電源61から供給される高周波電力の周波数、第2の可変コンデンサ63のC1の値を調節してプラズマの状態を観察した。プラズマの状態の観察の手法は実験2と同様である。
【0064】
B.実験結果
図13にウエハWの径方向に見たプラズマ密度の分布を示す。
図13の横軸及び縦軸は
図10と同様である。
図13において、白抜きのひし形のプロットはC2の容量が大きく(C2:67pF)、白抜きの四角のプロットはC2の容量が小さい(C2:56pF)。また、
図14(a)、(b)に示した写真においては、
図14(a)はC2の容量が小さく、
図14(b)はC2の容量が大きい。なお、
図13と
図10との間でも、第1の可変コンデンサ62、第2の可変コンデンサ63のC2、C1などの実験条件は同じではない。
【0065】
図13に示した結果によれば、第3の可変コンデンサ64のCeの容量を固定したとき、第1の可変コンデンサ62のC2を小さくすると、規格化電子密度の高い領域がウエハWの周縁部側へ移動する一方、中央部側では規格化電子密度が次第に小さくなっている。この傾向は、写真撮影の結果においても観察され、第1の可変コンデンサ62のC2を小さくすると、プラズマの発光領域が周縁部側へ移動する一方、中央部側のプラズマは弱くなって暗くなっていることが分かる。
このように、受電アンテナ542とシールドボックス51との間に第4の可変コンデンサ55を設けた例においても、ICPアンテナ541と受電アンテナ542とを備え、2つの共振周波数を持つ回路を構成するプラズマ発生部を用いることにより、高周波電源61が1つしかない場合であってもプラズマ密度分布を調整することが可能であることを確認できた。
【0066】
(実験5)
図7、
図8を用いて説明したプラズマ発生部を用い、高周波電源61から供給する高周波電力の周波数を変化させて共振周波数を調べた。
A.実験条件
実験1と同様の構成のICPアンテナ541、受電アンテナ542bを用い、第1の可変コンデンサ62、第2の可変コンデンサ63、第3の可変コンデンサ64の容量を所定の値に固定した。そして高周波電源61から供給される高周波電力の周波数を10〜60MHzの範囲で変化させ、高周波電源61側から反射率を観測した。ここで誘電体窓53は石英板であり、受電アンテナ542bは石英製のカバー56内に収容されている。
【0067】
B.実験結果
実験結果を
図15に示す。
図15の横軸及び縦軸は
図9と同様である。ICPアンテナ541と受電アンテナ542bとの間に誘電体窓53が介在している場合であっても、I受電アンテナ542bの共振周波数である27MHzの近傍に2つの共振周波数が観察された。
【0068】
(実験6)
実験5と同様のプラズマ発生部を用い、ICPアンテナ541、受電アンテナ542によって形成されるICPプラズマの状態を観察した。
A.実験条件
第3の可変コンデンサ64のCeを所定の値に調整し、高周波電源61から見た反射率が小さくなるように、高周波電源61から供給される高周波電力の周波数、第1の可変コンデンサ62、第2の可変コンデンサ63のC2、C1の値を調節してプラズマの状態を観察した。プラズマの状態の観察は写真撮影(目視)により行った。
【0069】
B.実験結果
図16に写真撮影の結果を示す。
図16によれば、ICPアンテナ541と受電アンテナ542bとの間に誘電体窓53が介在している場合であっても、2つの共振周波数を持つ回路を構成するプラズマ発生部を用いることにより、1つの高周波電源61にてICPアンテナ541と受電アンテナ542bが配置されている位置に対応させてプラズマを発生させることが可能であることを確認できた。