特許第6582750号(P6582750)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6582750非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582750
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20190919BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20190919BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/36 A
   H01M4/36 C
【請求項の数】6
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2015-170142(P2015-170142)
(22)【出願日】2015年8月31日
(65)【公開番号】特開2017-50056(P2017-50056A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年6月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】横山 潤
(72)【発明者】
【氏名】小向 哲史
(72)【発明者】
【氏名】古市 佑樹
【審査官】 松嶋 秀忠
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/141179(WO,A1)
【文献】 特開2013−152866(JP,A)
【文献】 特開2008−277087(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/115088(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13−62
H01M 10/05−0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:LiNi1−x−yCo2+α( ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.0006≦c≦0.0050、0.95≦a≦1.20、0≦α≦0.20、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子とからなるリチウム金属複合酸化物粒子から構成された非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
一般式:Ni1−x−yCoで表されるニッケル複合酸化物粒子と、
該ニッケル複合酸化物粒子に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計Meと、リチウム原子数との比Li/Meが0.95〜1.20となるリチウム化合物と、
前記Meに対するタングステン原子数が0.06〜0.50原子%となるタングステン化合物と、を混合して混合物を得る混合工程と、
該混合物が酸化性雰囲気中で、600〜800℃で焼成して、一次粒子表面にリチウムタングステン化合物が形成されたリチウムニッケル複合酸化物粒子を得る焼成工程と、を有し、
前記リチウムタングステン化合物が微粒子状であり、
該微粒子の粒子径が1〜500nmである、
ことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項2】
一般式:LiNi1−x−yCo2+α( ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.0006≦c≦0.0050、0.95≦a≦1.20、0≦α≦0.20、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子とからなるリチウム金属複合酸化物粒子から構成された非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
一般式:Ni1−x−yCoで表されるニッケル複合酸化物粒子と、
該ニッケル複合酸化物粒子に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計Meと、リチウム原子数との比Li/Meが0.95〜1.20となるリチウム化合物と、
前記Meに対するタングステン原子数が0.06〜0.50原子%となるタングステン化合物と、を混合して混合物を得る混合工程と、
該混合物が酸化性雰囲気中で、600〜800℃で焼成して、一次粒子表面にリチウムタングステン化合物が形成されたリチウムニッケル複合酸化物粒子を得る焼成工程と、を有し、
前記リチウムタングステン化合物が膜状であり、
該膜の厚さが1〜100nmである、
ことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項3】
一般式:LiNi1−x−yCo2+α( ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.0006≦c≦0.0050、0.95≦a≦1.20、0≦α≦0.20、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子とからなるリチウム金属複合酸化物粒子から構成された非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
一般式:Ni1−x−yCoで表されるニッケル複合酸化物粒子と、
該ニッケル複合酸化物粒子に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計Meと、リチウム原子数との比Li/Meが0.95〜1.20となるリチウム化合物と、
前記Meに対するタングステン原子数が0.06〜0.50原子%となるタングステン化合物と、を混合して混合物を得る混合工程と、
該混合物が酸化性雰囲気中で、600〜800℃で焼成して、一次粒子表面にリチウムタングステン化合物が形成されたリチウムニッケル複合酸化物粒子を得る焼成工程と、を有し、
前記リチウムタングステン化合物が微粒子状および膜状であり、
該微粒子の粒子径が1〜500nmであり、該膜の厚さが1〜100nmである、
ことを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項4】
前記リチウム化合物が、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウムから選択される少なくとも1種である、
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記タングステン化合物が、酸化タングステン、タングステン酸、パラタングステン酸アンモニウムから選択される少なくとも1種である、
ことを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に存在する炭酸リチウムに含まれるリチウム量が、前記リチウムニッケル複合酸化物粒子に対して0.02質量%以下である、
ことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、および該正極活物質を用いた非水系電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。またハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池に代表される非水系電解質二次電池がある。このリチウムイオン二次電池は、負極及び正極と電解液等で構成され、負極及び正極の活物質は、リチウムを脱離及び挿入することの可能な材料が用いられている。
【0004】
これまで主に提案されている正極活物質の材料としては、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)などを挙げることができる。
【0005】
中でも、層状又はスピネル型のリチウムニッケル複合酸化物粒子を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。すなわち、リチウムニッケル複合酸化物粒子は、サイクル特性が良く、低抵抗で高出力が得られる材料として注目されており、近年ではこのリチウムニッケル複合酸化物粒子の高出力化に必要な低抵抗化の研究が重要視されている。
【0006】
上記低抵抗化を実現する方法として異元素の添加が用いられており、とりわけW、Mo、Nb、Ta、Reなどの高価数をとることができる遷移金属が有用とされている。
【0007】
例えば、特許文献1には、Mo、W、Nb、Ta及びReから選ばれる1種以上の元素が、Mn、Ni及びCoの合計モル量に対して0.1〜5モル%含有されているリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体が提案され、一次粒子の表面部分のLi並びにMo、W、Nb、Ta及びRe以外の金属元素の合計に対するMo、W、Nb、Ta及びReの合計の原子比が、一次粒子全体の該原子比の5倍以上であることが好ましいとされている。
【0008】
この提案によれば、リチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体の低コスト化及び高安全性化と高負荷特性、粉体取り扱い性向上の両立を図ることができるとされている。しかし、この特許文献1では、0157段落にあるように焼成温度が800℃以上と高く、リチウムニッケル複合酸化物中にW等の一部が固溶してしまったり、部分的にリチウムニッケル複合酸化物の二次粒子同士の焼結が進行し、粗大化してしまったりして、リチウムニッケル複合酸化物粒子について高出力化ができないという問題があった。
【0009】
また、特許文献2には、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、そのリチウム遷移金属複合酸化物は、一次粒子及びその凝集体である二次粒子の一方又は両方からなる粒子の形態で存在し、その粒子の少なくとも表面に、モリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素及びフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を備える化合物を有する非水電解質二次電池用正極活物質が提案されている。
【0010】
これにより、より一層厳しい使用環境下においても優れた電池特性を有する非水電解質二次電池用正極活物質が得られるとされ、特に、粒子の表面にモリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素及びフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する化合物を有することにより、熱安定性、負荷特性及び出力特性の向上を損なうことなく、初期特性が向上するとしている。
【0011】
しかしながら、このモリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素及びフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種の添加元素による効果は、初期特性、すなわち初期放電容量及び初期効率の向上にあるとされ、出力特性に言及したものではない。また、開示されている製造方法によれば、添加元素をリチウム化合物と同時に熱処理した水酸化物と混合して焼成するため、リチウムニッケル複合酸化物を作った後に、モリブデン化合物を添加することとなり、リチウムニッケル複合酸化物粒子を得る工程が複雑になるという問題があった。
【0012】
さらに、特許文献3には、正極活物質の周りにTi、Al、Sn、Bi、Cu、Si、Ga、W、Zr、B、Moから選ばれた少なくとも一種を含む金属および/またはこれら複数個の組み合わせにより得られる金属間化合物、および/または酸化物を被覆した正極活物質が提案されている。
【0013】
このような被覆により、酸素ガスを吸収させ安全性を確保できるとしているが、出力特性に関しては全く開示されていない。また、開示されている製造方法は、遊星ボールミルを用いて被覆するものであり、このような被覆方法では、正極活物質に物理的なダメージを与えてしまうことにより、高出力化に必要な低抵抗化が難しいという問題があった。
【0014】
また、特許文献4には、ニッケル酸リチウムを主体とする複合酸化物粒子にタングステン酸化合物を被着させて加熱処理を行ったもので、炭酸イオンの含有量が0.15重量%以下である正極活物質が提案されている。
【0015】
この提案によれば、正極活物質の表面にタングステン酸化合物又はタングステン酸化合物の分解物が存在し、充電状態における複合酸化物粒子表面の酸化活性を抑制するため、非水電解液等の分解によるガス発生を抑制することができるとしているが、出力特性に関しては全く開示されていない。
【0016】
さらに、開示されている製造方法は、好ましくは被着成分を溶解した溶液の沸点以上に加熱した複合酸化物粒子に、タングステン酸化合物とともに硫酸化合物、硝酸化合物、ホウ酸化合物又はリン酸化合物を被着成分として溶媒に溶解した溶液を被着させるものであり、溶媒を短時間で除去するため、複合酸化物粒子表面にタングステン化合物が十分に分散されず、均一に被着されない。これにより高出力化に必要な低抵抗化が難しいという問題点がある。
【0017】
また、リチウムニッケル複合酸化物粒子の高出力化に関する改善も行われている。
例えば特許文献5には、一次粒子および、その一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなるリチウムニッケル複合酸化物粒子であって、そのリチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に、LiWO、LiWO、Liのいずれかで表されるタングステン酸リチウムを含む微粒子を有する非水系電解質二次電池用正極活物質が提案され、高容量とともに高出力が得られるとされている。
【0018】
しかし、特許文献5では、リチウムニッケル複合酸化物を作った後にタングステン化合物を添加しているため、リチウムニッケル複合酸化物粒子を得る工程が複雑になるという問題があった。また、リチウムを含むアルカリ溶液にタングステンを溶解させ、リチウムニッケル複合酸化物と混合することにより添加することから、過剰なリチウムが電池特性を低下させるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】特開2009‐289726号公報
【特許文献2】特開2005‐251716号公報
【特許文献3】特開平11‐16566号公報
【特許文献4】特開2010‐40383号公報
【特許文献5】特開2013‐125732号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
本発明は上記事情に鑑み、正極に用いられた場合に高容量とともに高出力が得られる非水系電解質二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。また、単純な工程であっても、前記正極活物質が得られる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明者は、上記課題を解決するため、非水系電解質二次電池用正極活物質として用いられているリチウムニッケル複合酸化物粒子の粉体特性、および電池の正極抵抗に対する影響について鋭意研究したところ、リチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子表面にリチウムタングステン化合物を形成させるとともに炭酸リチウムの生成を抑制することで高い電池容量(充放電容量)と出力特性を有する正極活物質を得ることができるとの知見を得た。また、前記正極活物質は、ニッケル複合酸化物粒子に、リチウム化合物とタングステン化合物を混合し、焼成することにより得られるとの知見を得て、本発明を完成した。 第1発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、一般式:LiNi1−x−yCo2+α(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.0006≦c≦0.0050、0.95≦a≦1.20、0≦α≦0.20、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子とからなるリチウム金属複合酸化物粒子から構成された非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、一般式:Ni1−x−yCoで表されるニッケル複合酸化物粒子と、該ニッケル複合酸化物粒子に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計Meと、リチウム原子数との比Li/Meが0.95〜1.20となるリチウム化合物と、Meに対するタングステン原子数が0.06〜0.50原子%となるタングステン化合物と、を混合して混合物を得る混合工程と、該混合物が酸化性雰囲気中で、600〜800℃で焼成して、一次粒子表面にリチウムタングステン化合物が形成されたリチウムニッケル複合酸化物粒子を得る焼成工程と、を有し、前記リチウムタングステン化合物が微粒子状であり、該微粒子の粒子径が1〜500nmであることを特徴とする。
発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、一般式:LiNi1−x−yCo2+α(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.0006≦c≦0.0050、0.95≦a≦1.20、0≦α≦0.20、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子とからなるリチウム金属複合酸化物粒子から構成された非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、一般式:Ni1−x−yCoで表されるニッケル複合酸化物粒子と、該ニッケル複合酸化物粒子に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計Meと、リチウム原子数との比Li/Meが0.95〜1.20となるリチウム化合物と、Meに対するタングステン原子数が0.06〜0.50原子%となるタングステン化合物と、を混合して混合物を得る混合工程と、該混合物が酸化性雰囲気中で、600〜800℃で焼成して、一次粒子表面にリチウムタングステン化合物が形成されたリチウムニッケル複合酸化物粒子を得る焼成工程と、を有し、前記リチウムタングステン化合物が膜状であり、該膜の厚さが1〜100nmであることを特徴とする。
発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、一般式:LiNi1−x−yCo2+α(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.0006≦c≦0.0050、0.95≦a≦1.20、0≦α≦0.20、Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子とからなるリチウム金属複合酸化物粒子から構成された非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、一般式:Ni1−x−yCoで表されるニッケル複合酸化物粒子と、該ニッケル複合酸化物粒子に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計Meと、リチウム原子数との比Li/Meが0.95〜1.20となるリチウム化合物と、Meに対するタングステン原子数が0.06〜0.50原子%となるタングステン化合物と、を混合して混合物を得る混合工程と、該混合物が酸化性雰囲気中で、600〜800℃で焼成して、一次粒子表面にリチウムタングステン化合物が形成されたリチウムニッケル複合酸化物粒子を得る焼成工程と、を有し、前記リチウムタングステン化合物が微粒子状および膜状であり、該微粒子の粒子径が1〜500nmであり、該膜の厚さが1〜100nmであることを特徴とする。
発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、第1発明から第発明において、リチウム化合物が、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウムから選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、第1発明から第発明において、タングステン化合物が、酸化タングステン、タングステン酸、パラタングステン酸アンモニウムから選択される少なくとも1種であることを特徴とする。
第6発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、第1発明から第5発明において、前記リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に存在する炭酸リチウムに含まれるリチウム量が、前記リチウムニッケル複合酸化物粒子に対して0.02質量%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
第1発明によれば、ニッケル複合酸化物粒子と、リチウム化合物と、タングステン化合物が同時に混合され混合物を得る混合工程があることにより、従来リチウムニッケル複合酸化物が焼成により作製された後、タングステン化合物が添加されていた複雑な工程を、単純化することができる。
また、ニッケル複合酸化物粒子が一般式:Ni1−x−yCo(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、リチウム化合物がニッケル複合酸化物粒子に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計Meと、リチウム原子数との比Li/Meが0.95〜1.20となることにより、リチウムニッケル複合酸化物粒子とリチウムタングステン化合物を合成するためのLi量を好ましい範囲とすることができ、工程を単純化した場合でも高い充放電容量及び十分な出力特性を得ることができる。
加えて、タングステン化合物がMeに対するタングステン原子数が0.06〜0.50原子%となることにより、リチウムタングステン化合物を合成するためのタングステン量を好ましい範囲とすることができ、高い充放電容量及び十分な出力特性を得ることができる。
更に、混合物が酸化性雰囲気下で、600〜800℃で焼成されることで、一次粒子表面にリチウムタングステン化合物が形成されたリチウムニッケル複合酸化物粒子を得ることができ、またリチウムタングステン化合物の生成により余剰なリチウムの残留を抑制することができ、低抵抗化が可能でかつ高容量の正極活物質の製造工程が提供できる。
合わせて、リチウムタングステン化合物が微粒子状であり、該微粒子の粒子径が1〜500nmであることにより、低抵抗化が可能な正極活物質が得られる。すなわち、粒子径が1nm未満では、微細な粒子が十分なリチウムイオン伝導度を有しない場合があり、粒子径が500nmを超えると、微粒子による被覆の形成が不均一になり、反応抵抗の低減効果が十分に得られない。
発明によれば、リチウムタングステン化合物が膜状であり、該膜の厚さが1〜100nmであることにより、低抵抗化が可能な正極活物質が得られる。すなわち、膜厚が1nm未満では、リチウムイオン伝導度を有しない場合があり、膜厚が100nmを超えると比表面積の低下で電解液との接触面積が小さくなって、反応抵抗の低減効果が十分に得られない。
発明によれば、リチウムタングステン化合物が微粒子状および膜状であり、該微粒子の粒子径が1〜500nmであり、該膜の厚さが1〜100nmであることにより、より低抵抗化が可能な正極活物質が得られる。
発明によれば、リチウム化合物が、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウムから選択される少なくとも1種であることにより、高容量の正極活物質が得られる。すなわち、リチウム化合物として、ハロゲン化物や酸化リチウムを考慮した場合、ハロゲン化物では元素が不純物として入り込んだり、酸化リチウムでは、反応不十分となったりすることがあるのに対し、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウムではそのようなことがない。
発明によれば、タングステン化合物が、酸化タングステン、タングステン酸、パラタングステン酸アンモニウムから選択される少なくとも1種であることにより、低抵抗化が可能で高容量の正極活物質が得られる。すなわちタングステン化合物として、ハロゲン化物やタングステン酸ナトリウム等を考慮した場合、ハロゲン元素やナトリウムが不純物として残留することで低抵抗化が難しくなり、電池容量が低下するところ、酸化タングステン、タングステン酸、パラタングステン酸アンモニウムではそのようなことがない。
発明によれば、リチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子の表面にリチウムタングステン化合物が形成され、その表面に存在する炭酸リチウムに含まれるリチウム量が、正極活物質に対して、0.02質量%以下とすることにより、低抵抗と高容量が可能であり、かつ充放電を繰り返す過程で発生するガス量を抑制することができ、二次電池の性能劣化を抑制できるとともに、その電池の安全性を向上させることができる
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る製造方法のフロー図である。
図2】本発明の実施形態に係る製造方法により製造した正極活物質粒子の表面の拡大図である。
図3】本発明の実施形態に係る製造方法により製造したリチウムニッケル複合酸化物の断面SEM観察結果(観察倍率30000倍)の一例である。
図4】インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図である。
図5】電池評価に使用したコイン型電池1の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について、まず非水系電解質二次電池用正極活物質について説明した後、本発明に係る非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法と、製造された正極活物質を用いた非水系電解質二次電池について説明する。
【0025】
(1) 非水系電解質二次電池用正極活物質
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質は、一般式:LiNi1−x−yCo2+α(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.0006≦c≦0.0050、0.95≦a≦1.20、0≦α≦0.20、MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表され、一次粒子および一次粒子が凝集して形成された二次粒子とからなるリチウム金属複合酸化物粒子から構成された非水系電解質二次電池用正極活物質であって、前記リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面にリチウムタングステン化合物が形成され、前記リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に存在する炭酸リチウムに含まれるリチウム量がリチウムニッケル複合酸化物粒子の重量に対して0.02質量%以下であることを特徴とするものである。
【0026】
本発明においては、一次粒子の表面にリチウムタングステン化合物を形成させる基材として一般式LiNi1−x−yCo(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、0.95≦b≦1.20、MはMn、V、Mg、Mo、Nb、YiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるリチウム金属複合酸化物粒子を用いることにより、高い充放電容量を得るものである。
【0027】
上記一般式中、xは、Li以外の金属元素(Ni、Co及びM)を1としたときの、Coの原子比を示す。xの範囲は、0≦x≦0.35であり、好ましくは0<x≦0.35である。正極活物質にコバルトを含有させることで、良好なサイクル特性を得ることができる。これは、結晶格子のニッケルの一部をコバルトに置換することにより、充放電に伴うリチウムの脱挿入による結晶格子の膨張収縮挙動を低減できるためである。
【0028】
xの範囲は、二次電池のサイクル特性向上の観点から、好ましくは、0.03≦x≦0.35であり、より好ましくは0.05≦x≦0.30である。また、xの範囲は、二次電池の高容量化の観点から、好ましくは、0.03≦x≦0.15であり、より好ましくは0.05≦x≦0.10である。一方熱安定性を重視する場合、xの範囲は、好ましくは0.07≦x≦0.25であり、より好ましくは0.10≦x≦0.20である。
【0029】
上記一般式中、yはLi以外の金属元素(Ni、Co及びM)を1としたときの、M(添加元素)の原子比を示す。Mは、Mn、V、Mg、Mo、Nb、TiおよびAlから選ばれる少なくとも1種の元素である。yの範囲は、0≦y≦0.35であり、Mを正極活物質中に添加することにより、この正極活物質を含む二次電池の耐久特性や安全性を向上させることができる。一方、yが0.35を超えると、酸化還元反応(Redox反応)に貢献する金属元素が減少し、電池容量が低下するため好ましくない。また、Mがアルミニウムである場合、正極活物質の安全性がより向上する。電池の高容量化の観点から、yの範囲は、好ましくは、Mを必ず含む0<y≦0.10であり、より好ましくは0<y≦0.05である。
【0030】
上記一般式中、bは、リチウムニッケル複合酸化物中のLi以外の金属元素(Ni、Co及びM)を1としたときの、Liの元素比を示す。bの範囲は、0.95≦b≦1.20である。bが0.95未満である場合、リチウム金属複合酸化物中のリチウムが不足して正極の反応抵抗が大きくなり、出力特性が低下することがある。また、リチウムタングステン化合物を合成するのに必要なLi量が不足してしまうため、出力特性が低下してしまうことがある。一方、bが1.20を超える場合、二次電池の安全性が低下することがある。電池出力及び安全性のバランスの観点から、bの範囲は、好ましくは0.95≦b≦1.15である。電池の高容量化の観点から、0.03≦x≦0.15、0<y≦0.10とした場合には、bの範囲は、0.95≦b≦1.05とすることが好ましく、0.95≦b≦1.00とすることがより好ましい。
【0031】
さらに、その基材が一次粒子と一次粒子が凝集して構成された二次粒子とからなるリチウム金属複合酸化物粒子(以下、二次粒子と単独で存在する一次粒子を合わせて単に「リチウム金属複合酸化物粒子」ということがある。)の形態を採り、その一次粒子の表面(一次粒子表面)に形成されたリチウムタングステン化合物により、電池容量、出力特性においてより高い電池性能を実現するものである。
【0032】
ここで、一般的に、正極活物質の表面が異種化合物により完全に被覆されてしまうと、リチウムイオンの移動(インターカレーション)が大きく制限されるため、結果的にリチウムニッケル複合酸化物の持つ高容量という長所が消されてしまう。
【0033】
対して、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」としう。)においては、リチウム金属複合酸化物粒子の表面にリチウムタングステン化合物を形成させているが、このリチウムタングステン化合物は、リチウムイオン伝導率が高く、リチウムイオンの移動を促す効果がある。このため、リチウム金属複合酸化物粒子の表面にリチウムタングステン化合物を形成させることで、電解液との界面でLiの伝導パスを形成することから、正極活物質の反応抵抗(以下、「正極抵抗」ということがある。)を低減して出力特性を向上させるものである。
【0034】
すなわち、正極抵抗が低減されることで、電池内で損失される電圧が減少し、実際に負荷側に印可される電圧が相対的に高くなるため、高出力が得られる。また、負荷側への印可電圧が高くなることで、正極でのリチウムの挿抜が十分に行われるため、電池容量も向上するものである。さらに、反応抵抗の低減により、充放電時における活物質の負荷も低減することから、サイクル特性も向上させることができる。
【0035】
そこで、このリチウムタングステン化合物は、リチウム(Li)およびタングステン(W)を含むことで、Liイオン伝導率が高く、Liイオンの移動を促す効果を有するが、この化合物中に含有されるWの50%以上が、LiWOの形態で存在することが好ましく、Wの65%以上が、LiWOの形態で存在することがより好ましい。
【0036】
すなわち、LiWOは、LiおよびWを含む化合物の中でもLiイオンの伝導パスが多く、Liイオンの移動を促す効果が高いため、Wの50%以上がLiWOの形態で存在することで、さらに高い反応抵抗の低減効果が得られる。
【0037】
ここで、電解液との接触は、一次粒子表面で起こるため、一次粒子表面に、この化合物が形成されていることが重要である。
【0038】
本発明における一次粒子表面とは、二次粒子の表面で露出している一次粒子表面と、二次粒子外部と通じて電解液が浸透可能な二次粒子の表面近傍および内部の空隙に露出している一次粒子表面を含むものである。さらに、一次粒子間の粒界であっても一次粒子の結合が不完全で電解液が浸透可能な状態となっていれば、本発明における一次粒子表面に含まれるものである。
【0039】
即ち、このリチウムタングステン化合物と電解液との接触は、一次粒子が凝集して構成された二次粒子の外面のみでなく、その二次粒子の表面近傍、および内部の空隙、さらには二次粒子を構成する一次粒子間における不完全な粒界でも生じるため、そのような一次粒子表面にも化合物を形成させ、リチウムイオンの移動を促すことが必要である。
【0040】
したがって、電解液との接触が可能な一次粒子表面の多くにリチウムタングステン化合物を形成させることで、リチウム金属複合酸化物粒子の反応抵抗をより一層低減させることが可能となる。
【0041】
さらに、このリチウムタングステン化合物の一次粒子表面上における形態は、一次粒子表面を層状物で被覆した場合には、電解液との接触面積が小さくなってしまう、また、層状物を形成すると、化合物の形成が特定の一次粒子表面に集中するという結果になり易い。したがって、被覆物としての層状物が高いリチウムイオン伝導度を持っていることにより、充放電容量の向上、反応抵抗の低減という効果が得られるものの、十分ではなく改善の余地がある。
【0042】
したがって、より高い効果を得るため、リチウムタングステン化合物は、微粒子状であり、該微粒子の粒子径が1〜500nmである微粒子としてリチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面に存在することが好ましい。
【0043】
このような形態を採ることにより、電解液との接触面積を十分なものとして、リチウムイオン伝導を効果的に向上できるため、充放電容量を向上させるとともに反応抵抗をより効果的に低減させることができる。その粒子径が1nm未満では、微細な粒子が十分なリチウムイオン伝導度を有しない場合がある。
【0044】
しかし、粒子径が500nmを超えると、微粒子の表面における形成が不均一になり、反応抵抗低減のより高い効果が得られない場合があるためである。形成をより均一なものとして高い効果を得るためには、粒子径が300nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。
【0045】
しかしながら、リチウムタングステン化合物は、全てが粒子径1〜500nmの微粒子として存在する必要がなく、好ましくは一次粒子表面に形成された微粒子の個数で50%以上が、1〜500nmの粒子径範囲で形成されていれば高い効果が得られる。
【0046】
一方、一次粒子表面を膜状に被覆すると、比表面積の低下を抑制しながら、電解液との界面でLiの伝導パスを形成させることができ、より高い充放電容量の向上、反応抵抗の低減という効果が得られる。このような膜状の化合物により一次粒子表面を被覆する場合には、膜厚1〜100nmの薄膜としてリチウム金属複合酸化物の一次粒子表面に存在することが好ましい。
【0047】
その膜厚が1nm未満では、リチウムタングステン化合物が十分なリチウムイオン伝導度を有しない場合がある。また、膜厚が100nmを超えると、リチウムイオン伝導率が低下し、反応抵抗低減効果より高い効果が得られない場合があるためである。
【0048】
しかし、この膜状のリチウムタングステン化合物は、一次粒子表面上で部分的に形成されていてもよく、全てのリチウムタングステン化合物の膜厚範囲が1〜100nmでなくてもよい。一次粒子表面に少なくとも部分的に膜厚が1〜100nmの被膜が形成されていれば、高い効果が得られる。薄膜としてリチウムタングステン化合物が形成される場合には、リチウムタングステン化合物中に含有されるタングステン量を上記の範囲に制御することで、効果を得るために十分な量の膜厚1〜100nmの被膜が形成される。
【0049】
さらに、微粒子状の形態と膜状の形態が混在して一次粒子表面にリチウムタングステン化合物が形成されている場合にも、電池特性に対する高い効果が得られる。
【0050】
一方、リチウム金属複合酸化物粒子間で不均一にリチウムタングステン化合物が形成された場合は、リチウム金属複合酸化物粒子間でのリチウムイオンの移動が不均一となるため、特定のリチウム金属複合酸化物粒子に負荷がかかり、サイクル特性の悪化や反応抵抗の上昇を招きやすい。
【0051】
したがって、リチウム金属複合酸化物粒子間においても均一にリチウムタングステン化合物が形成されていることが好ましい。
【0052】
このようなリチウム金属複合酸化物粒子におけるリチウムタングステン化合物の形成状態は、例えば、電解放射型走査電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡で観察することにより判断でき、本発明の正極活物質については、リチウム金属複合酸化物粒子の一次粒子の表面にリチウムタングステン化合物が、先に述べた形態で形成されていることを確認している。
【0053】
例えば、電界放射型走査電子顕微鏡の観察において、定倍率による観察で、任意の少なくとも2以上の異なる観察視野において、任意に抽出した50個以上の粒子(二次粒子)を観察した際に、一次粒子の表面にリチウムタングステン化合物を含むリチウム金属複合酸化物粒子の数が、観察した粒子数の90%以上となっている場合に、リチウム金属複合酸化物粒子間においても均一にリチウムタングステン化合物が形成されていると言える。
【0054】
リチウムタングステン化合物の形成量は、リチウムタングステン化合物中に含有されるタングステン量により制御することが可能であり、タングステン量を、正極活物質に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対してWの原子数が0.06〜0.50原子%、好ましくは0.08〜0.50原子%、より好ましくは0.10〜0.50原子%とする。
【0055】
これにより、電解液との接触が可能な一次粒子表面を確保しながら十分な量のリチウムタングステン化合物を形成させ、正極活物質の反応抵抗を低減させることができる。また、二次粒子内部まで充放電に効率よく寄与することが可能であることから、電池容量も向上させることができる。
【0056】
リチウムタングステン化合物中に含有されるタングステン量を、正極活物質に含まれるNi、CoおよびMの原子数の合計に対してWの原子数が0.06原子%未満とすると、リチウムタングステン化合物の形成量が少なく、正極活物質の反応抵抗を十分に低減させることができない。一方、タングステン量が0.50原子%を超えて含有すると、電解液との接触が可能な一次粒子表面が減少するため、二次粒子内部の充放電の効率が低下するため、電池容量を向上させる効果が低下する。また、リチウムタングステン化合物にリチウムが消費され、リチウムニッケル複合酸化物粒子に必要なリチウムが不足して、基材自体の電池容量及び出力特性が低下してしまうことがある。
【0057】
さらに、本発明の正極活物質においては、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に存在する炭酸リチウムに含まれるリチウム量が、正極活物質に対して0.02質量%以下、好ましくは0.017質量%以下としている。0.02質量%を超えると、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に存在する炭酸リチウムの量が多くなり、充放電を繰り返す過程で発生するガス量が増加してしまうことがあり、このように炭酸リチウム量を制限することにより、ガス発生を抑制することができ、電池の性能劣化を抑えるとともに安全性を確保することができる。また、炭酸リチウム量が多くなると、電解液と正極活物質のLiイオンの伝導が阻害されるため、正極活物質の反応抵抗の増加や充電容量の低下という問題が生じる。
【0058】
炭酸リチウムの含有量は、例えば、炭素硫黄分析装置で正極活物質中の全炭素元素(C)含有量を測定し、この測定された炭素元素(C)量は全て炭酸リチウム由来であるものとして炭酸リチウムに換算し、炭酸リチウムから含まれるリチウム量を求めることができる。
【0059】
本発明の正極活物質は、基材であるリチウム金属複合酸化物粒子を構成する一次粒子表面にリチウムタングステン化合物を形成させて正極の反応抵抗を低減させ電池特性を改善したものであり、正極活物質としての粒径、タップ密度などの粉体特性は、通常に用いられる正極活物質の範囲内であればよい。
【0060】
リチウムニッケル複合酸化物粒子の二次粒子および一次粒子表面に、リチウムタングステン化合物を設けること、炭酸リチウムを低減することによる効果は、たとえば、リチウムコバルト系複合酸化物、リチウムマンガン系複合酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン系複合酸化物などの粉末、さらに本発明で掲げた正極活物質だけでなく一般的に使用されるリチウム二次電池用正極活物質にも適用できる。
【0061】
(2) 非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
以下、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法について、図1を用いて説明する。
【0062】
[混合工程]
混合工程は、ニッケル複合酸化物粒子とリチウム化合物とタングステン化合物とを一度に混合して、混合物を得る工程である。
【0063】
混合工程では、一般式:Ni1−x−yCo(ただし、0≦x≦0.35、0≦y≦0.35、MはMn、V、Mg、Mo、Nb、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素)で表されるニッケル複合酸化物粒子を用いる。ニッケル複合酸化物粒子は、複合水酸化物の形態で用いてもよい。ニッケル複合酸化物粒子中の金属元素(Ni、Co及びM)の組成比は、得られる正極活物質においても維持される。したがって、得ようとする正極活物質と同等の金属元素の組成比を有するニッケル複合酸化物粒子を用いることで、目的とする組成比を有する正極活物質が得られる。
【0064】
混合するリチウム化合物は、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウムなどが好ましく、反応性が高い水酸化リチウムがより好ましい。リチウム化合物中に含まれるリチウム原子数とニッケル複合酸化物粒子に含まれるNi、Co及びMの原子数の合計Meとの比Li/Meは、0.95〜1.20、好ましくは0.95〜1.15とする。これにより、リチウムニッケル複合酸化物粒子とリチウムタングステン化合物を合成するためのリチウム量を好ましい範囲とすることができ、工程を単純化した場合でも高い充放電容量及び十分な出力特性を得ることができる。
【0065】
リチウム化合物としてハロゲン化物や酸化リチウムを用いることも可能であるが、ハロゲン化物では元素が不純物として入り込んだり、酸化リチウムでは、反応不十分となったりすることがあるのに対し、水酸化リチウム、炭酸リチウム、酢酸リチウムでは不純物の混入がなく、より高容量の正極活物質が得られる。また、ニッケルの割合が高い場合は水酸化リチウムがより好ましい。後述する焼成温度を低くすることができるからである。
【0066】
使用するタングステン化合物は、酸化タングステン、タングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウムなどが好ましく、不純物混入の可能性が低い酸化タングステン又はタングステン酸がより好ましい。タングステン化合物中に含まれるタングステン原子数は、ニッケル複合酸化物粒子に含まれるNi、Co及びMの原子数の合計Meに対して、0.06〜0.50原子%、好ましくは0.08〜0.05原子%、より好ましくは0.10〜0.50原子%とする。これにより、リチウムタングステン化合物を合成するためのタングステン量を好ましい範囲とすることができ、高い電池容量及び十分な出力特性を得ることができる。
【0067】
タングステン化合物として、ハロゲン化物やタングステン酸ナトリウム等を考慮した場合、ハロゲン元素やナトリウムが不純物として残留することで低抵抗化が難しくなり、電池容量が低下するところ、酸化タングステン、タングステン酸、パラタングステン酸アンモニウムではそのようなことがない。したがって、より低抵抗化が可能で高容量の正極活物質が得られる。
【0068】
ニッケル複合酸化物粒子、リチウム化合物、タングステン化合物を混合する際には、一般的な混合機を用いることができる。例えば、シェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダ―などを用いてニッケル複合酸化物粒子の形骸が破壊されない程度で十分に混合してやればよい。
【0069】
[焼成工程]
焼成工程は、ニッケル複合酸化物粒子、リチウム化合物及びタングステン化合物の混合物を焼成して、二次粒子表面及び一次粒子表面にリチウムタングステン化合物を形成させたリチウムニッケル複合酸化物粒子を得る工程である。
【0070】
焼成は酸化性雰囲気下で行い、焼成温度は600〜800℃、好ましくは、650〜790℃とする。焼成温度を600〜800℃とすることで、リチウムニッケル複合酸化物の合成反応を十分に行わせ、基材自体の電池容量及び出力特性などの電池特性を高めるとともに、合成されたリチウムニッケル複合酸化物粒子の一次粒子の表面にリチウムタングステン化合物を形成させ、高い反応抵抗の低減効果を得ることができる。600℃未満では、リチウムニッケル複合酸化物の合成反応が十分に行われない。800℃を超えるとリチウムニッケル複合酸化物中にタングステンの一部あるいは全量が固溶して電池容量が低下するとともに、リチウムタングステン化合物の形成が不十分となり、反応抵抗の低減効果も低下する。また、部分的にリチウムニッケル複合酸化物粒子同士の焼結が進行し、粗大化してしまうことで電池特性が低下してしまうことがある。
【0071】
さらに、リチウム化合物とともにタングステン化合物を混合して焼成することにより、未反応のリチウム化合物を低減することができる。リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に存在する炭酸リチウムは、焼成工程で未反応リチウムが残存した場合に、この未反応リチウムと大気中の二酸化炭素との反応により生成されるものである。この炭酸リチウムに含まれているリチウム量は、混合工程で混合するタングステン化合物を適切な量とすることにより、減らすことができる。すなわち、タングステン化合物を適切な量とすると、タングステン化合物はリチウム化合物と反応しやすいため、未反応リチウムをリチウムタングステン化合物とすることができ、炭酸リチウムを減らすことにより、炭酸リチウムに含まれるリチウム量を減らすことができる。これにより上記のごとく、電池特性を向上することができる。
【0072】
また、リチウム化合物中のリチウムは、ニッケル複合酸化物中に拡散しやすいため、リチウム化合物とともに混合されたタングステン化合物中のタングステンもリチウムとともに拡散して、リチウムニッケル複合酸化物の二次粒子内部の一次粒子表面まで拡散してリチウムタングステン化合物を形成する。特に焼成時に溶融する水酸化リチウム、炭酸リチウムなどのリチウム化合物を用いた場合には、溶融したリチウム化合物中とともにタングステン化合物が二次粒子内部の一次粒子表面に浸透して、より均一に一次粒子表面にリチウムタングステン化合物を形成させることができる。
【0073】
酸化性雰囲気中で焼成することにより、リチウムニッケル複合酸化物の合成反応が促進され、基材自体の電池特性を高めることができる。酸化性雰囲気としては、酸素を18容量%以上含有する不活性ガスとの混合ガス雰囲気が好ましく、大気雰囲気や酸素雰囲気(酸素濃度90容量%以上含有)がより好ましい。また、雰囲気中に炭酸ガスが含有されると、焼成後のリチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に存在する炭酸リチウムが増加することから、例えば、炭酸ガス濃度を50容量ppm以下とした脱炭素雰囲気とすることが好ましい。
【0074】
焼成時間は10〜20時間とすることが好ましく、10〜15時間とすることがより好ましい。10時間未満では、リチウムニッケル複合酸化物の合成反応が十分に行われず、芯材自体の充放電容量及び出力特性が低下してしまうことがある。20時間を超える場合は、生産性が著しく低下してしまう。
【0075】
また、焼成後、リチウム金属複合酸化物の一次粒子の表面に必要なリチウムタングステン化合物の量が維持できる程度に水洗してもよい。水洗することにより、リチウムニッケル複合酸化物粒子の表面に存在する炭酸リチウムをさらに低減することができる。水洗条件は、公知の水洗条件から選択することができる。
【0076】
[解砕工程]
焼成後のリチウムニッケル複合酸化物粒子は、凝集又は軽度の焼結が生じていることがある。この場合、リチウムニッケル複合酸化物粒子の凝集体又は焼結体を解砕することができる。これにより、リチウムニッケル複合酸化物粒子を適度な粒径を有する粉体として取り扱うことができるため、正極活物質として用いた場合の充填性を向上させることができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギーを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく二次粒子を分離させて、凝集体をほぐす操作のことである。
【0077】
解砕する際には、一般的な解砕機を用いることができる。例えば、ピンミルやハンマーミルなどを使用することができる。なお、この際、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整する。
【0078】
(3) 非水系電解質二次電池
本発明の製造方法により製造された正極活物質を用いている非水系電解質二次電池は、正極、負極及び非水系電解液などからなり、一般の非水系電解質二次電池と同様の構成要素により構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態を基に、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、開示している非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
【0079】
(a)正極
先に述べた非水系電解質二次電池用正極活物質を用い、例えば、以下のようにして、非水系電解質二次電池の正極を作製する。
【0080】
まず、粉末状の正極活物質、導電材、結着剤を混合し、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整等の目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。
【0081】
その正極合材ペースト中のそれぞれの混合比も、非水系電解質二次電池の性能を決定する重要な要素となる。溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60〜95質量部とし、導電材の含有量を1〜20質量部とし、結着剤の含有量を1〜20質量部とすることが好ましい。
【0082】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して、溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべく、ロールプレス等により加圧することもある。このようにして、シート状の正極を作製することができる。
【0083】
シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等をして、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。
【0084】
正極の作製にあたって、導電剤としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0085】
結着剤は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。なお、必要に応じ、正極活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。
【0086】
溶剤としては、具体的には、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。
【0087】
(b)負極
負極には、金属リチウムやリチウム合金等、あるいは、リチウムイオンを吸蔵及び脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDF等の含フッ素樹脂等を用いることができ、これらの活物質及び結着剤を分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0088】
(c)セパレータ
正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。
セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレン等の薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
【0089】
(d)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。使用する有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等から選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0090】
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO等、及びそれらの複合塩を用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤及び難燃剤等を含んでいてもよい。
【0091】
(e)電池の形状、構成
以上、説明した正極、負極、セパレータ及び非水系電解液で構成される本発明の非水系電解質二次電池の形状は、円筒型、積層型等、種々のものとすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、正極及び負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、及び、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リード等を用いて接続し、電池ケースに密閉して、非水系電解質二次電池を完成させる。
【0092】
(f)特性
本発明の正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、高容量で高出力となる。特に、より好ましい形態で得られた本発明による正極活物質を用いた非水系電解質二次電池は、例えば、2032型コイン電池の正極に用いた場合、165mAh/g以上の高い初期放電容量と低い正極抵抗が得られ、さらに高容量で高出力である。また、熱安定性が高く、安全性においても優れているといえる。
【0093】
なお、正極抵抗の測定方法を例示すれば、次のようになる。
電気化学的評価手法として一般的な交流インピーダンス法にて電池反応の周波数依存性について測定を行うと、溶液抵抗、負極抵抗と負極容量、及び正極抵抗と正極容量に基づくナイキスト線図が図4のように得られる。電極における電池反応は、電荷移動に伴う抵抗成分と電気二重層による容量成分とからなり、これらを電気回路で表すと抵抗と容量の並列回路となり、電池全体としては溶液抵抗と負極、正極の並列回路を直列に接続した等価回路で表される。
【0094】
この等価回路を用いて測定したナイキスト線図に対してフィッティング計算を行い、各抵抗成分、容量成分を見積もることができる。正極抵抗は、得られるナイキスト線図の低周波数側の半円の直径と等しい。
【0095】
以上のことから、作製される正極について、交流インピーダンス測定を行い、得られたナイキスト線図に対し等価回路でフィッティング計算することで、正極抵抗を見積もることができる。
【0096】
本発明により得られた正極活物質を用いた正極を有する二次電池について、その性能(初期放電容量、正極抵抗)を測定した。
【実施例】
【0097】
以下、本発明の実施例を用いて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0098】
(電池の製造及び評価)
正極活物質の評価には、図5に示す2032型コイン電池1(以下、コイン型電池と称す)を使用した。図5に示すように、コイン型電池1は、ケース2と、このケース2内に収容された電極3とから構成されている。
【0099】
ケース2は、中空かつ一端が開口された正極缶2aと、この正極缶2aの開口部に配置される負極缶2bとを有しており、負極缶2bを正極缶2aの開口部に配置すると、負極缶2bと正極缶2aとの間に電極3を収容する空間が形成されるように構成されている。電極3は、正極3a、セパレータ3c及び負極3bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極3aが正極缶2aの内面に接触し、負極3bが負極缶2bの内面に接触するようにケース2に収容されている。
【0100】
なお、ケース2はガスケット2cを備えており、このガスケット2cによって、正極缶2aと負極缶2bとの間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定されている。また、ガスケット2cは、正極缶2aと負極缶2bとの隙間を密封してケース2内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0101】
図5に示すコイン型電池1は、以下のようにして製作した。
まず、非水系電解質二次電池用正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、及びポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極3aを作製した。作製した正極3aを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
【0102】
この正極3aと、負極3b、セパレータ3c及び電解液とを用いて、図5に示すコイン型電池1を、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。 なお、負極3bには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。
【0103】
セパレータ3cには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiClOを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0104】
製造したコイン型電池1の性能を示す初期放電容量、正極抵抗は、以下のように評価した。初期放電容量は、コイン型電池1を製作してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(Open Circuit Voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cmとしてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。
【0105】
正極抵抗は、コイン型電池1を充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザ及びポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して交流インピーダンス法により測定すると、図4に示すナイキストプロットが得られる。
【0106】
このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、及び、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づき等価回路を用いてフィッティング計算を行い、正極抵抗の値を算出した。
【0107】
なお、本実施例では、複合水酸化物製造、正極活物質及び二次電池の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
【0108】
(実施例1)
Ni0.91Co0.06Al0.03で表されるニッケル複合酸化物100gにLi/Meが1.00、W/Me(×100%)が0.15原子%となるように、水酸化リチウムを31.7g、酸化タングステン0.46gを添加し、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBURA TypeT2C)を用いて十分に混合し、混合物を得た。
【0109】
得られた混合物をマグネシア製焼成容器に入れ、100%酸素気流中において、750℃まで昇温して10時間焼成し、その後室温まで炉冷した。炉冷後、解砕し、最後に目開き38μmの篩にかけて、正極活物質を得た。得られた正極活物質のLi/Me及びW/Me(×100%)をICP法により分析したところ、Li/Meは1.00、W/Me(×100%)が0.15原子%であることが確認された。
【0110】
[炭酸リチウム中のLi量]
得られた正極活物質の表面に存在する炭酸リチウム量を、炭素硫黄分析装置(LECO社製CS−600)で全炭素元素(C)含有量を測定し、この測定された全炭素元素の量を炭酸リチウム(LiCO)に換算することにより求め、得られた炭酸リチウム量から炭酸リチウム中のLi量を算出した。得られた正極活物質の表面に存在する炭酸リチウム中のLi量は、正極活物質の質量に対して、0.015質量%であった。
【0111】
[リチウムタングステン化合物の形態分析]
得られた正極活物質を、樹脂に埋め込み、クロスセクションポリッシャ加工を行ったものについて、倍率を5000倍としたSEMによる断面観察を行ったところ、一次粒子および一次粒子が凝集して構成された二次粒子からなり、一次粒子表面にリチウムタングステン化合物の微粒子が形成されていることが確認され、微粒子の粒子径は20〜120nmであった。また、任意の50個以上の二次粒子の断面を5000倍で観察したところ、二次粒子内部の一次粒子の表面にリチウムタングステン化合物を有する二次粒子の観察した二次粒子数に対する割合(化合物存在率)は、96%であった。
【0112】
さらに、得られた正極活物質の一次粒子の表面付近を透過型電子顕微鏡(TEM)により観察したところ、一次粒子の表面に膜厚1〜70nmのリチウムタングステン化合物の被覆が形成され、化合物はタングステン酸リチウムであることを確認した。
【0113】
また、正極活物質中のタングステン酸リチウムの存在状態について、正極活物質から溶出してくるLiを滴定することにより評価した。得られた正極活物質に純水を加えて30分間攪拌後、ろ過したろ液のpHを測定しながら塩酸を加えていくことにより出現する中和点から溶出するリチウムの化合物状態を評価したところ、タングステン酸リチウム中にはLiWOとLiWOの存在が確認され、含まれるLiWOの存在比率を算出したところ、87mol%であった。
【0114】
[電池評価]
得られた正極活物質を使用して作製された正極を有する図5に示すコイン型電池1の電池特性を評価した。なお、サイクル試験前の正極抵抗は実施例1を「1.00」とした相対値を評価値とした。初期放電容量は、210mAh/gであった。
【0115】
以下、実施例及び比較例については、実施例1と変更した物質、条件のみを示す。また、実施例1の初期放電容量、正極抵抗及び炭酸リチウム中のLi量の評価値を合わせて表1に示す。
【0116】
(実施例2)
Ni0.91Co0.06Al0.03で表されるニッケル複合酸化物100gにLi/Meが0.95となるように水酸化リチウムを30.1g添加した以外は実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに電池特性及び炭酸リチウム量の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0117】
(実施例3)
Ni0.91Co0.06Al0.03で表されるニッケル複合酸化物100gにLi/Meが1.03となるように水酸化リチウムを32.7g添加した以外は実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに電池特性及び炭酸リチウム量の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0118】
(実施例4)
Ni0.91Co0.06Al0.03で表されるニッケル複合酸化物100gにW/Me(×100%)が0.10原子%となるように、酸化タングステンを0.31g添加した以外は実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに電池特性及び炭酸リチウム量の評価を行った。SEMによる断面観察ではリチウムタングステン化合物が確認されなかったため、TEM観察により化合物存在率を評価した。その結果を表1に示す。
【0119】
(実施例5)
Ni0.91Co0.06Al0.03で表されるニッケル複合酸化物100gにW/Me(×100%)が0.30原子%となるように、酸化タングステンを0.92g添加した以外は実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに電池特性及び炭酸リチウム量の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0120】
(実施例6)
Ni0.91Co0.06Al0.03で表されるニッケル複合酸化物100gにW/Me(×100%)が0.15原子%となるように、タングステン酸0.50gを添加した以外は実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに電池特性及び炭酸リチウム量の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0121】
(実施例7)
Ni0.91Co0.06Al0.03で表されるニッケル複合酸化物100gにW/Me(×100%)が0.125原子%となるように、酸化タングステン0.39gを添加した以外は実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに電池特性及び炭酸リチウム量の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0122】
(実施例8)
Ni0.91Co0.06Al0.03で表されるニッケル複合酸化物100gにW/Me(×100%)が0.45原子%となるように、酸化タングステン1.38gを添加した以外は実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに電池特性及び炭酸リチウム量の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0123】
(実施例9)
Ni0.91Co0.06Al0.03で表されるニッケル複合酸化物100gに酸化タングステン等を加えるところは実施例1と同様であるが、焼成温度を630℃として正極活物質を得るとともに電池特性及び炭酸リチウム量の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0124】
(実施例10)
Ni0.91Co0.06Al0.03で表されるニッケル複合酸化物100gに酸化タングステン等を加えるところは実施例1と同様であるが、焼成温度を680℃として正極活物質を得るとともに電池特性及び炭酸リチウム量の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0125】
(実施例11)
Ni0.91Co0.06Al0.03で表されるニッケル複合酸化物100gに酸化タングステン等を加えるところは実施例1と同様であるが、焼成温度を730℃として正極活物質を得るとともに電池特性及び炭酸リチウム量の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0126】
(実施例12)
Ni0.91Co0.06Al0.03で表されるニッケル複合酸化物100gに酸化タングステン等を加えるところは実施例1と同様であるが、焼成温度を780℃として正極活物質を得るとともに電池特性及び炭酸リチウム量の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0127】
(比較例1)
Ni0.91Co0.06Al0.03で表されるニッケル複合酸化物100gにタングステン化合物を添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに電池特性及び炭酸リチウム量の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0128】
(比較例2)
Ni0.91Co0.06Al0.03で表されるニッケル複合酸化物100gにW/Me(×100%)が0.05原子%となるように、酸化タングステン0.16gを添加した以外は実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに電池特性及び炭酸リチウム量の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0129】
(比較例3)
Ni0.91Co0.06Al0.03で表されるニッケル複合酸化物100gにW/Me(×100%)が0.75原子%となるように、酸化タングステン2.30gを添加した以外は実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに電池特性及び炭酸リチウム量の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0130】
(比較例4)
Ni0.91Co0.06Al0.03で表されるニッケル複合酸化物100gに酸化タングステン等を加えるところは実施例1と同様であるが、焼成温度を550℃として正極活物質を得るとともに電池特性及び炭酸リチウム量の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0131】
(比較例5)
Ni0.91Co0.06Al0.03で表されるニッケル複合酸化物100gに酸化タングステン等を加えるところは実施例1と同様であるが、焼成温度を820℃として正極活物質を得るとともに電池特性及び炭酸リチウム量の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0132】
(比較例6)
3mlの純水に0.06gの水酸化リチウム(LiOH)を溶解した水溶液中に、0.055gの酸化タングステン(WO)を添加して撹拌することにより、タングステンを含有したアルカリ溶液(W)を得た。次に、比較例1で得られたリチウム金属複合酸化物粉末15gに、アルカリ溶液(W)を添加し、さらに、シェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合して、アルカリ溶液(W)とリチウム金属複合酸化物粉末の混合物を得た。
【0133】
得られた混合物を、マグネシア製焼成容器に入れ、100%酸素気流中において、昇温速度2.8℃/分で500℃まで昇温して10時間熱処理し、その後室温まで炉冷し、解砕することにより、正極活物質を得るとともに電池特性及び炭酸リチウム量の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0134】
【表1】
【0135】
[評価]
表1から明らかなように実施例1〜12の正極活物質は、本発明に従って製造されたため、比較例に比べて初期放電容量が概ね206mAh/g以上と高く、正極抵抗もおおむね1.26以下と低いものとなっており、また、充放電を繰り返す過程で発生するガスの要因である炭酸リチウム量も概ね0.018wt%以下に抑制されている。
【0136】
また、図3には、本発明の実施例で得られた正極活物質の断面SEM観察結果の一例を、図2には図3のイメージ図を示す。得られた正極活物質は一次粒子12及び一次粒子12が凝集して構成された二次粒子11からなり、断面のSEM観察とTEM観察から一次粒子12表面に微粒子状リチウムタングステン化合物14や膜状リチウムタングステン化合物13が形成されていることが確認された。リチウムタングステン化合物13、14が確認された位置を図3において矢印で示す。
【0137】
対して、比較例1では、二次粒子表面及び一次粒子表面に本発明に係るリチウムタングステン化合物が形成されていないため、正極抵抗が大幅に高く、高出力化の要求に対応することは困難である。
【0138】
本発明の非水系電解質二次電池は、常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適であり、高出力が要求される電気自動車用電池にも好適である。
【0139】
また、本発明の非水系電解質二次電池は、優れた安全性を有し、小型化、高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源として好適である。なお、本発明は、純粋に電気エネルギーで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源としても用いることができる。
【符号の説明】
【0140】
1 コイン型電池
2 ケース
2a 正極缶
2b 負極缶
2c ガスケット
3 電極
3a 正極
3b 負極
3c セパレータ
11 二次粒子
12 一次粒子
13 膜状リチウムタングステン化合物
14 微粒子状リチウムタングステン化合物
図1
図2
図3
図4
図5