特許第6582757号(P6582757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582757
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】水質測定方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 5/00 20060101AFI20190919BHJP
   G01N 21/15 20060101ALI20190919BHJP
   C02F 5/10 20060101ALI20190919BHJP
   C02F 5/08 20060101ALI20190919BHJP
   G01N 33/18 20060101ALI20190919BHJP
   G01N 21/53 20060101ALN20190919BHJP
   G01N 21/59 20060101ALN20190919BHJP
【FI】
   C02F5/00 620B
   G01N21/15
   C02F5/00 620C
   C02F5/10 620A
   C02F5/08 F
   G01N33/18 106E
   !G01N21/53 Z
   !G01N21/59 C
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-172071(P2015-172071)
(22)【出願日】2015年9月1日
(65)【公開番号】特開2017-47361(P2017-47361A)
(43)【公開日】2017年3月9日
【審査請求日】2018年7月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】井上 宗亮
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 実
【審査官】 星 浩臣
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−251210(JP,A)
【文献】 特開平04−252939(JP,A)
【文献】 特開2012−187471(JP,A)
【文献】 特開2015−116538(JP,A)
【文献】 特開平03−288586(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/128730(WO,A1)
【文献】 特開2014−124611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 5/00−5/14
G01N 21/00−21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
槽部又は流路内の原水の水質をセンサによって測定する水質測定方法において、該槽部又は流路内の原水を測定ラインに分取すると共に、分取された原水にスケール分散剤を添加し、その後、該原水とセンサとを接触させて原水の水質を測定することを特徴とする水質測定方法。
【請求項2】
請求項1において、前記測定ラインにポンプが設けられており、該ポンプよりも上流側において前記スケール分散剤を原水に添加し、該ポンプよりも下流側にて原水とセンサとを接触させることを特徴とする水質測定方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記原水は鉄鋼集塵水であり、前記センサは濁度計であることを特徴とする水質測定方法。
【請求項4】
槽部又は流路に接続された測定ラインと、該測定ラインにスケール分散剤を注入するためのスケール分散剤添加手段と、該測定ラインのうち該スケール分散剤添加手段よりも下流側に設けられた濁度計とを有する水質測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は原水中の水質を測定する方法及び装置に係り、特に鉄鋼プロセスにおける集塵水(以下鉄鋼集塵水という)など、炭酸カルシウム等を主体としたスケールが析出し易い原水の水質を測定する場合に好適な水質測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼プロセスの集塵水系としては、高炉、転炉の集塵水系が主であり、その他電気炉や還元炉などの集塵水もある。鉄鋼集塵水系では、原料から飛散したダストに含まれる鉄分の他、生石灰や亜鉛なども集塵する。そのため、炭酸カルシウムや水酸化亜鉛などの飽和指数が高くなり、スケールが析出し易い。
【0003】
また、化学工場で無機凝集剤として硫酸アルミニウムを多量に使用し、その中和剤として消石灰を使用する場合も、炭酸カルシウムや硫酸カルシウムなどのスケールが水系で析出し易い。
【0004】
鉄鋼集塵水を凝集剤で凝集処理することが行われている。鉄鋼集塵水の場合、操業条件に応じてダスト飛散量が変動し、シックナーに流入する原水のSSや濁度等も変動するが、従来、鉄鋼集塵水を凝集処理するに際しては、凝集剤の注入量は一定とされることが多い。
【0005】
鉄鋼集塵水系では、凝集処理状態を常時監視することはできないため、管理者が処理水水質悪化を発見後、手動で凝集剤の注入量を変更したり、凝集助剤を追加注入する等の対応が取られるのが一般的である。そのため、人手による対応までの間は処理水の水質は悪化している状況が続く。また、原水のSS負荷の上昇に対応して凝集剤の添加量(注入量)を増加させた場合、その後原水のSS負荷が低下したときに注入量を元に戻さないと、薬注量が過剰気味となっている状況が続く。
【0006】
このように、従来の鉄鋼集塵水では水質管理・処理コスト面で最適化が困難となることが課題となっている。
【0007】
鉄鋼集塵水以外の化学工場などの排水系においても、水質変動があっても処理水質の低下を防止して安定処理するために無機凝集剤を多量に添加する場合、中和用のアルカリ剤(消石灰)も多量に必要となり、さらに高分子凝集剤も多く必要となる。
【0008】
原水の水質をセンサで測定し、測定結果に基づいて水中へのスライムコントロール剤の薬注量を制御することが特許文献1に記載されている。特許文献1には、センサに付着したスライムをワイパーで除去することが記載されている。ワイパー等によりセンサーの光透過面を清掃することは特許文献2の明細書第2頁第12行〜第13行にも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−46978
【特許文献2】実開平4−55556
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
センサによって原水の水質を測定する場合、従来は実機水に直接センサを浸漬させるようにしているため、センサにスケールが付着し易い。
【0011】
濁度や凝集状態に対応して凝集剤を注入制御するシステムにおいて、センサにスケールが付着すると測定値に誤差を与えることがある。そのため、センサへのスケール付着を防止する必要がある。なお、センサに付着したスケールはワイパーによる物理洗浄では除去できず、時間経過に伴いセンサ感度が低下し、測定誤差が大きくなる。
【0012】
本発明は、原水の水質を長期にわたって高精度に測定することができる水質測定方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の水質測定方法は、槽部又は流路内の原水の水質をセンサによって測定する水質測定方法において、該槽部又は流路内の原水を測定ラインに分取すると共に、分取された原水にスケール分散剤を添加し、その後、該原水とセンサとを接触させて原水の水質を測定することを特徴とするものである。
【0014】
本発明の水質測定装置は、槽部又は流路に接続された測定ラインと、該測定ラインにスケール分散剤を注入するためのスケール分散剤添加手段と、該測定ラインのうち該スケール分散剤添加手段よりも下流側に設けられた水質測定用センサとを有する。
【0015】
本発明では、前記測定ラインにポンプが設けられており、該ポンプよりも上流側において前記スケール分散剤を原水に添加し、該ポンプよりも下流側にて原水とセンサとを接触させることが好ましい。また、本発明では、前記原水は鉄鋼集塵水であり、前記センサは濁度計であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の水質測定方法及び装置では、原水を測定ラインに分取し、分取した原水にスケール分散剤を添加した後、該原水とセンサとを接触させて原水の水質を測定するため、センサへのスケール付着が防止され、長期にわたって精度よく水質を測定することができる。
【0017】
スケール分散剤を測定ラインのポンプよりも上流側にて原水に添加し、ポンプよりも下流側にて原水とセンサとを接触させて水質を測定するようにした場合、スケール分散剤が添加された原水がポンプ通過時に十分に撹拌され、スケール防止効果が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施の形態の説明図である。
図2】実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
【0020】
本発明において、原水としてはカルシウム、マグネシウム、シリカなどのスケール生成成分を多く含むものが挙げられ、鉄鋼集塵水が好適である。鉄鋼集塵水としては、高炉や転炉の集塵水のほか、電気炉や還元炉の集塵水などが挙げられる。また、本発明では、原水は鉄鋼集塵水に限定されるものではなく、化学工場排水であってもよい。原水は、炭酸カルシウム飽和指数(ランゲリア指数)が0以上のものが好適であるが、これに限定されない。
【0021】
水質測定用のセンサとしては濁度計が好適であるが、他のセンサであってもよい。濁度計としては光学式のものなどを用いることができる。
【0022】
本発明では、槽部又は流路内の原水を測定ラインに分取し、分取した原水にスケール分散剤を添加する。槽部は、原水を受け入れるものであればよく、受水槽、ピット等と称されるいずれのものであってもよい。流路としては、配管、暗渠、開渠などのいずれでもよい。
【0023】
測定ラインに分取した原水に添加されるスケール分散剤は、水質や対象のスケール種に応じて種類を選定するのが好ましい。特に炭酸カルシウム系のスケールにはホスホン酸系の薬剤を添加するのが好ましく、硫酸カルシウム系のスケールにはポリアクリル酸系の薬剤を添加するのが好ましい。
【0024】
スケール分散剤の添加量は、事前に試験を行って決定しておくのが好ましい。この際、水質変動を考慮して決定するのが好ましい。
【0025】
測定ラインとしては配管が好適である。測定ラインにはポンプを設けるのが好ましい。この場合、ポンプよりも上流側でスケール分散剤を添加し、ポンプよりも下流側にセンサを配置すると、ポンプ通過時にスケール分散剤と原水とが十分に撹拌混合され、センサへのスケール付着が十分に防止されるので好ましい。スケール分散剤を測定ラインの最上流部又はその直近部で添加するようにすれば、測定ライン全体にわたって、スケール析出が防止される。
【0026】
図1は本発明の一例を示すものであり、受水槽1内の原水が配管よりなる測定ライン2に分取される。測定ライン2の最上流部(吸込部)又はその直近部にスケール分散剤を添加するための薬注装置3が設けられている。測定ライン2の途中にポンプ4が設けられ、その下流側にセンサ5が設けられている。薬注装置3としては、薬液タンクと薬注ポンプとを備えたものなどを用いることができる。このセンサ5の検出値に基づいて原水への凝集剤等の薬注量を制御する。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の効果を検証するために行った実験について説明する。
【0028】
[実験No.1〜No.7]
炭酸カルシウム飽和指数2.4、Mアルカリ度1800の鉄鋼集塵水を原水として用いた。7個のビーカーにそれぞれ原水を500mLずつ収容し、スケール分散剤として栗田工業株式会社製カレントアップT−2023(ホスホン酸系)を0.6mg/L、1.2mg/L、2.0mg/L、2.4mg/L、3.0mg/L又は5.0mg/L添加した(No.2〜No.7:薬注条件下)。また、スケール分散剤を全く添加しないもの(No.1:無薬注条件)も用意した。
【0029】
原水のカルシウム硬度(以下試験前のカルシウム硬度という。)及び1時間経過後のNo.1〜7の各水のカルシウム硬度(試験後のカルシウム硬度)を測定し、スケール析出抑制率を次式に従って算出した。結果を表1及び図2に示す。
【0030】
スケール析出抑制率(%)=(1−B/A)×100
A:[試験前のカルシウム硬度]−[試験後(無薬注条件)のカルシウム硬度]
B:[試験前のカルシウム硬度]−[試験後(薬注条件下)のカルシウム硬度]
【0031】
【表1】
【0032】
表1及び図2より、スケール析出を完全に防止するには、スケール防止剤を5mg/L以上添加することが必要であることが認められた。
【0033】
[試験1]
そこで、前記原水にスケール防止剤を5mg/L添加した試験水をビーカーに収容し、濁度計(OPTEX社製)のセンサ部を浸漬し、45℃にて1週間保持した。試験水は毎日入れ替えた。1週間後、センサ部をビーカーより取り出し、水洗後、濁度0の水(純水)に浸漬し、濁度検出値を測定したところ、濁度検出値は0であった。
【0034】
[試験2]
スケール防止剤を全く添加しなかった原水を試験水としたこと以外は試験1と全く同様にして濁度計のセンサ部を原水に浸漬し、1週間後、センサ部をビーカーより取り出し、水洗後、濁度0の水(純水)に浸漬し、濁度検出値を測定した。その結果、濁度検出値は125であった。
【0035】
浸漬開始前にセンサ部を濁度0の水に浸漬したときの濁度検出値は試験1及び2のいずれも0であったから、試験1の通り、原水にスケール防止剤を5mg/L添加することにより、1週間にわたってセンサ部にスケールが全く析出せず、正確に濁度を測定できることが認められた。
【0036】
なお、この原水にスケール分散剤を5mg/L以上添加した試験水の場合、22日浸漬後でも、センサ部を濁度0の水に浸漬したときに濁度検出値0を示すことが認められた。
【0037】
また、スケール分散剤無添加の原水に1週間浸漬したセンサをブラシ洗浄後、濁度0の水に浸漬したが、濁度計検出値は125と高い値であり、スケールは殆ど除去されないことが認められた。このスケールが付着したセンサを塩酸(6N)で洗浄したところ、発泡を伴いながらスケールが溶解除去されたところから、スケールは炭酸カルシウムを主体とするものであると推定された。
【符号の説明】
【0038】
1 受水槽
2 測定ライン
3 薬注装置
4 ポンプ
5 センサ
図1
図2