特許第6582810号(P6582810)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6582810中空重合体粒子の製造方法および中空重合体粒子の水性分散液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582810
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】中空重合体粒子の製造方法および中空重合体粒子の水性分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/44 20060101AFI20190919BHJP
   C08F 267/06 20060101ALI20190919BHJP
   C08L 51/06 20060101ALI20190919BHJP
   C08K 5/47 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   C08F8/44
   C08F267/06
   C08L51/06
   C08K5/47
【請求項の数】3
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-189115(P2015-189115)
(22)【出願日】2015年9月28日
(65)【公開番号】特開2016-169360(P2016-169360A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2018年3月16日
(31)【優先権主張番号】特願2015-48921(P2015-48921)
(32)【優先日】2015年3月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112427
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 芳洋
(72)【発明者】
【氏名】山口 敦史
【審査官】 水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−293213(JP,A)
【文献】 特開2009−120784(JP,A)
【文献】 特開2009−079166(JP,A)
【文献】 特開2014−070078(JP,A)
【文献】 特表2008−513475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00−246/00
C08F 301/00
C08F 2/00−2/60
C08F 251/00−291/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)酸性基含有単量体20〜60重量%およびこれと共重合可能な他の単量体80〜40重量%からなる単量体混合物(a)を共重合してなるコア重合体と、
(2)酸性基含有単量体0〜15重量%およびこれと共重合可能な他の単量体100〜85重量%からなる単量体混合物(b)を共重合することによって形成された、実質的に前記コア重合体を包囲するシェル重合体とを含む構造を有する構造体における、
前記コア重合体に含まれる酸性基の少なくとも一部が中和されることによって形成された少なくとも一つのボイドを有することを特徴とする中空重合体粒子の製造方法であって、
前記コア重合体の形成後、前記シェル重合体の形成前に防腐剤を添加することにより得られる中空重合体粒子の製造方法
【請求項2】
請求項1記載の製造方法を含む中空重合体粒子の水性分散液の製造方法
【請求項3】
酸性基含有単量体20〜60重量%およびこれと共重合可能な他の単量体80〜40重量%からなる単量体混合物(a)を共重合してなるコア重合体を形成させるコア重合体形成工程と、
酸性基含有単量体0〜15重量%およびこれと共重合可能な他の単量体100〜85重量%からなる単量体混合物(b)を共重合することによって形成されたシェルを前記コア重合体に被覆させるシェル重合体形成工程と、
前記コア重合体を中和させる塩基処理工程と
を含む中空重合体粒子の製造方法であって、
前記コア重合体形成工程後、前記シェル重合体形成工程前に防腐剤を添加する工程を含む中空重合体粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空重合体粒子、その水性分散液および中空重合体粒子の製造方法に関するものである。より詳しくは、保存安定性に優れ、凝集物が少なく、さらに空隙率の高い中空重合体粒子およびその水性分散液、また、この中空重合体粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中空重合体粒子は、粒子中に密実均一に重合体が充填された重合体粒子と比べて、光を良く散乱させ、光の透過性を低くすることから、隠蔽剤や不透明度、白色度などの光学的性質に優れた有機顔料として水系塗料、紙塗工用組成物などの用途で汎用されている。
【0003】
このような用途においては、塗料や塗工紙などの軽量化および中空重合体粒子による断熱化、不透明化などの効果を向上させるために、配合する中空重合体粒子の空隙率を高めることが望まれている。また、凝集物を低減させ、このような空隙率の高い中空重合体粒子を効率よく、安定的に製造するという重合安定性を高めることも求められている。
たとえば、特許文献1では連鎖移動剤の存在下で中空重合体粒子の製造を行うことにより、空隙率の高い中空重合体粒子を効率よく、安定的に得ている。
【0004】
ここで、中空重合体粒子は、製造後、通常、タンクやドラム缶、一斗缶等に保存されるが、中空重合体粒子の製造条件等によっては、保存中に菌類が繁殖し、異臭を発生させるなど、保存安定性に問題が発生する場合があった。
【0005】
特許文献2においては、中空重合体粒子の製造後に、中空重合体粒子に対して、所定量の2−メチル4−イソチアゾリン−3−オンと所定量の2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンとを加えた中空重合体粒子の組成物を得ている。
【0006】
しかし、特許文献2のように中空重合体粒子の製造後に、防腐剤を添加すると、凝集物を十分に低減させることができないため重合安定性が十分ではなかった。さらに、この中空重合体粒子の保存安定性は、十分でない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−179493号公報
【特許文献2】特開2009−120784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、保存安定性に優れ、重合安定性が高く、空隙率の高い、中空重合体粒子およびこの中空重合体粒子の水性分散液を提供することである。また、本発明は、この中空重合体粒子の製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定のタイミングで防腐剤を添加することにより上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明によれば、
(I) (1)酸性基含有単量体20〜60重量%およびこれと共重合可能な他の単量体80〜40重量%からなる単量体混合物(a)を共重合してなるコア重合体と、(2)酸性基含有単量体0〜15重量%およびこれと共重合可能な他の単量体100〜85重量%からなる単量体混合物(b)を共重合することによって形成された、実質的に前記コア重合体を包囲するシェル重合体とを含む構造を有する構造体における、前記コア重合体に含まれる酸性基の少なくとも一部が中和されることによって形成された少なくとも一つのボイドを有することを特徴とする中空重合体粒子であって、前記コア重合体の形成後、前記シェル重合体の形成前に防腐剤を添加することにより得られる中空重合体粒子、
(II) (I)記載の中空重合体粒子の水性分散液、
(III) 酸性基含有単量体20〜60重量%およびこれと共重合可能な他の単量体80〜40重量%からなる単量体混合物(a)を共重合してなるコア重合体を形成させるコア重合体形成工程と、酸性基含有単量体0〜15重量%およびこれと共重合可能な他の単量体100〜85重量%からなる単量体混合物(b)を共重合することによって形成されたシェルを前記コア重合体に被覆させるシェル重合体形成工程と、前記コア重合体を中和させる塩基処理工程とを含む中空重合体粒子の製造方法であって、前記コア重合体形成工程後、前記シェル重合体形成工程前に防腐剤を添加する工程を含む中空重合体粒子の製造方法
が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、保存安定性に優れ、重合安定性が高く、空隙率の高い、中空重合体粒子およびこの中空重合体粒子の水性分散液が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の中空重合体粒子について説明する。本発明の中空重合体粒子は、(1)酸性基含有単量体20〜60重量%およびこれと共重合可能な他の単量体80〜40重量%からなる単量体混合物(a)を共重合してなるコア重合体と、(2)酸性基含有単量体0〜15重量%およびこれと共重合可能な他の単量体100〜85重量%からなる単量体混合物(b)を共重合することによって形成された、実質的に前記コア重合体を包囲するシェル重合体とを含む構造を有する構造体における、前記コア重合体に含まれる酸性基の少なくとも一部が中和されることによって形成された少なくとも一つのボイドを有することを特徴とする中空重合体粒子であって、前記コア重合体の形成後、前記シェル重合体の形成前に防腐剤を添加することにより得られる。
【0013】
(コア重合体)
コア重合体は、酸性基含有単量体20〜60重量%、好ましくは30〜50重量%およびこれと共重合可能な他の単量体80〜40重量%、好ましくは70〜50重量%からなる単量体混合物(a)を共重合して得られる。
【0014】
酸性基含有単量体の量が過小であると、塩基処理工程において重合体粒子中に塩基が浸透し難くなり、重合体粒子中にボイドの形成が困難となる。また、その量が過大であると、コア重合体がシェル重合体の外側へ移動し易くなり、重合時や塩基処理工程での安定性が損なわれ、凝集物発生量が多くなる。
【0015】
本発明で使用する酸性基含有単量体は酸性を示す官能基を有する単量体であって、その具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、ケイ皮酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸; イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、ブテントリカルボン酸などのエチレン性不飽和多価カルボン酸;イタコン酸モノエチル、フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチルなどのエチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル化物; スチレンスルホン酸などのスルホン酸基含有単量体などを挙げることができる。これらの酸性基含有単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0016】
これらの中でも適度に親水性が強い酸を選択することにより、酸性基が重合体粒子の外側に局在するのを抑え、シェル重合体によるコア重合体の被覆が容易になり、重合体粒子内のボイドの形成が容易になる。酸性基含有単量体の中でもエチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、メタクリル酸がより好ましい。
【0017】
酸性基含有単量体と共重合可能な他の単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、ハロゲン化スチレンなどの芳香族ビニル単量体; メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ) アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどのエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体;(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのエチレン性不飽和カルボン酸アミド単量体;ブタジエン、イソプレンなどの共役ジエン単量体; 酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル単量体;塩化ビニルなどのハロゲン化ビニル単量体; 塩化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン単量体;ビニルピリジンなどを挙げることができる。これらの単量体の中でもエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体が好ましい。これらの単量体は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
また、単量体混合物(a)中には、例えば、ジビニルベンゼン、ジアリルフタレート、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの架橋性単量体を必要に応じて配合してもよい。ただし、架橋性単量体を多量に使用するとボイド形成が困難になるので、その使用量は安定なボイド形成が維持できる範囲とすることが好ましい。単量体混合物(a)中の架橋性単量体の含有割合は、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下である。
【0019】
単量体混合物(a)の共重合は、通常、水性媒体中で行なわれる。そのため、共重合により得られるコア重合体は、通常、水性分散液の状態で得られる。水性媒体としては、通常、水が用いられ、製造時の重合体の粒子の分散安定性を損なわない範囲で、メタノール、エタノールなどの水溶性有機溶媒を併用してもよい。水性媒体の使用量は、単量体混合物(a)100重量部に対して、通常、100〜1000重量部、好ましくは200〜600重量部である。水性媒体の使用量を下限以上にすることにより、重合時の凝集物の発生量を抑制させることができ、水性媒体の使用量を上限以下にすることにより、中空重合体粒子の生産性が向上する。
【0020】
コア重合体を形成するための重合方法としては、通常、乳化重合法が採られる。ただし、他の重合法によって得られた重合体を転相法によってコア重合体を含有する水性分散液としてもよい。
【0021】
重合方式としては、回分式、半連続式、連続式などのいずれの方式を採用してもよい。また、重合温度は、特に限定されず、低温、高温のいずれでもよい。また、重合圧力、重合時間も格別限定されることなく、公知の条件が採られる。
【0022】
また、コア重合体の形成の際に単量体混合物(a)の他に、重合用副資材として、公知のもの、例えば、各種乳化剤、重合開始剤、キレート剤、電解質、界面活性剤などの各種添加剤を使用することができる。
【0023】
また、コア重合体の形成はシードを用いて重合を行うことが望ましい。シードを使用すれば生成するコア重合体の粒子径を制御することが容易となる。シードの組成は格別限定されない。
【0024】
重合反応における単量体混合物(a)の重合転化率は、通常、90重量%以上、好ましくは97重量% 以上であり、生成する共重合体の組成は使用した単量体混合物(a)の組成とほぼ同じである。
【0025】
コア重合体の粒子の体積平均粒子径は、好ましくは100〜600nm、より好ましくは250〜400nmである。この粒子径を下限以上にすることにより、空隙率が高く、粒子径が大きい中空重合体粒子を製造するのが容易になる傾向があり、逆に、上限以下にすることによりシェル重合体によるコア重合体の被覆が容易になり、重合体粒子内のボイド形成が容易になる傾向がある。
【0026】
コア重合体粒子における酸性基含有単量体単位の半径方向の分布は、特に限定されない。単量体混合物の組成を逐次変化させて重合反応系に添加しながら共重合を行うことができるが、このような重合方法によって、コア重合体粒子中に酸性基含有単量体単位の含有量に半径方向の分布を生じる場合には、酸性基含有単量体単位の最も少ない部分が、該部分を形成する全単量体単位に対して酸性基含有単量体単位を10重量%以上、好ましくは15重量%以上含有することが好ましい。この割合が10重量%未満では、中空重合体粒子のボイドの中に小粒子が生成し、空隙率が低くなることがある。
【0027】
(防腐剤)
本発明においては、コア重合体の形成後、シェル重合体の形成前に、防腐剤を添加する。防腐剤をコア重合体の形成後、シェル重合体の形成前に添加することで、菌類の繁殖を効果的に抑制することができる。そのため、中空重合体粒子の水性分散液等の組成物における異臭の発生等を防ぐことができるため、保存安定性に優れる。
【0028】
コア重合体の形成後とは、前記の単量体混合物(a)の重合反応が概ね終了してコア重合体が概ね形成された後であればよく、シェル重合体形成前とは、後述するシェル重合体形成用の単量体混合物(b)の重合反応が開始される時点付近よりも前であればよく、重合反応が開始される前に添加が完全に終了していなくてもよい。
本発明において、防腐剤を添加する時点は前記の通り、コア重合体の形成後からシェル重合体の形成前までの間であれば特に限定はなく、この間に、防腐剤を一括添加しても、逐次添加してもよいが、コア重合体の形成直後に添加を完了させることが、得られる中空重合体粒子の保存安定性に優れるために好ましい。
また、本発明においては、このように、コア重合体の形成後、シェル重合体の形成前に、防腐剤を添加することにより、コア重合体を形成した後、シェル重合体を形成するまでの期間が長期間となる場合においても、コア重合体およびコア重合体の水性分散液における菌類の繁殖を効果的に抑制することができる。
【0029】
防腐剤としては、例えば、イソチアゾリン系化合物が挙げられる。イソチアゾリン系化合物は、一般的には下記構造式(1)で表される。
【化1】
(式中、Yは水素又は置換されていてもよい炭化水素基を、X1及びX2は、それぞれ、水
素、ハロゲン又は炭素数1〜6のアルキル基をそれぞれ示す。なお、X1、X2が共同して
芳香環を形成してもよい。なお、X1及びX2は、それぞれ同一でもよく、相異なっていて
もよい。)
【0030】
まず、上記構造式(1)で表されるイソチアゾリン系化合物について説明する。
上記構造式(1)において、Yは水素原子又は置換されていてもよい炭化水素基を示す。Yで示される置換されていてもよい炭化水素基の置換基としては、例えばヒドロキシル基、ハロゲン(例えば塩素、フッ素、臭素、ヨウ素等)、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基等)、炭素数6〜10のアリールオキシ基(例えばフェノキシ基等)、炭素数1〜4のアルキルチオ基(例えばメチルチオ基、エチルチオ基等)及び炭素数6〜10のアリールチオ基(例えばフェニルチオ基等)等が挙げられる。前記置換基の中では、ハロゲン原子、炭素数1〜4のアルコキシ基が好ましい。これらの置換基は1〜5個、好ましくは1〜3個の範囲で前記炭化水素基の水素を置換していてもよく、また前記置換基はそれぞれ同一でもよく、相異なっていてもよい。
【0031】
Yで示される置換されていてもよい炭化水素基の該炭化水素基としては、例えば炭素数1〜10のアルキル基、炭素数2〜6のアルケニル基、炭素数2〜6のアルキニル基、炭素数3〜10のシクロアルキル基、炭素数6〜14のアリール基等が挙げられる。前記炭化水素基の中では炭素数1〜10のアルキル基や炭素数3〜10のシクロアルキル基が好ましく、炭素数1〜10のアルキル基がより好ましい。
【0032】
前記炭素数1〜10のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、sec−オクチル基、tert−オクチル基、ノニル基及びデシル基等が挙げられる。これらアルキル基の中では、例えばメチル基、エチル基等の炭素数1〜3のアルキル基や、例えばオクチル基、tert−オクチル基等の炭素数7〜10のアルキル基がより好ましく、炭素数1〜3のアルキル基がより好ましい。
【0033】
前記炭素数2〜6のアルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基、イソプロペニル基、1−プロペニル基、2−プロペニル基、2−メチル−1−プロペニル基等が挙げられる。前記アルケニル基の中では、ビニル基、アリル基が好ましい。前記炭素数2〜6のアルキニル基としては、例えばエチニル基、1−プロピニル基、2−プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基等が挙げられる。前記アルキニル基の中では、エチニル基、プロピニル基が好ましい。
【0034】
前記炭素数3〜10のシクロアルキル基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。前記シクロアルキル基の中では、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が好ましい。
【0035】
前記炭素数6〜14のアリール基としては、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。前記アリール基の中では、フェニル基が好ましい。
【0036】
以上説明したように、Yで示される置換されていてもよい炭化水素基として種々のものが挙げられるが、これら炭化水素基の中では、メチル基やオクチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0037】
上記構造式(1)において、X1及びX2は、同一又は相異なる水素、ハロゲン又は炭素数1〜6のアルキル基をそれぞれ示す。
【0038】
前記ハロゲンとしては、例えば、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素が挙げられ、これらの中では塩素が好ましい。
【0039】
前記炭素数1〜6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。前記アルキル基の中では、例えばメチル基、エチル基、プロピル基等の炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。以上説明した置換基の中で、X1としては水素又は塩素がより好ましく、塩素がさらに好ましい。また、X2としては水素又は塩素がより好ましく、水素がさらに好ましい。
【0040】
上記構造式(1)で表されるイソチアゾリン系化合物の具体例としては、例えば5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−エチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、4,5−ジクロロ−2−シクロヘキシル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−エチル−4−イソチアゾリン−3−オン、5−クロロ−2−t−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。
【0041】
これらの化合物の中では、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(以下において「CIT」と表すことがある。)、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン(以下において「MIT」と表すことがある。)、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン(以下において「OIT」と表すことがある。)、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンが好ましく、CITやMIT、OITがより好ましい。
【0042】
下記構造式(2)は、上記構造式(1)において、X1、X2が共同して芳香環を形成したもののうち、ベンゼン環を形成した場合を示す。
【化2】
(式中、Yは構造式(1)の場合と同様であり、X3〜X6は水素、ハロゲン、ヒドロキシ
ル基、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数1〜
4のアルコキシ基をそれぞれ示す。)
【0043】
上記構造式(2)式において、X3〜X6は、水素、ヒドロキシル基、ハロゲン(例えば塩素、フッ素、臭素、ヨウ素等)、シアノ基、アミノ基、カルボキシル基、炭素数1〜4のアルキル基(例えばメチル基、エチル基、プロピル基等)、炭素数1〜4のアルコキシ基(例えばメトキシ及びエトキシ等)等が挙げられるが、これらの中では、ハロゲンや炭素数1〜4のアルキル基が好ましい。これらX3〜X6は、それぞれ同一でもよく、相異なっていてもよい。
【0044】
上記構造式(2)で表わされるイソチアゾリン系化合物としては、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン(以下において「BIT」と表すことがある。)、N−メチル−1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン等が挙げられる。
【0045】
これらイソチアゾリン系化合物は、単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。上記イソチアゾリン系化合物の中でも、MIT、OIT、CITおよびBITがより好ましく、OIT、CITおよびBITのうちの少なくとも一種とMITとを併用することが特に好ましい。
【0046】
なお、イソチアゾリン系化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0047】
防腐剤は、コア重合体100重量部に対して0.0001〜0.1重量部の割合で用いることが好ましく、0.001〜0.05重量部の割合で用いることがより好ましい。防腐剤の使用量が少なすぎると、中空重合体粒子中における菌類の繁殖を抑制することができないため、中空重合体粒子の水性分散液等の中空重合体粒子組成物の保存性安定性が低下する傾向となる。防腐剤の使用量が多すぎても、それ以上の防腐効果は望めない。
【0048】
(シェル重合体)
シェル重合体は、実質的にコア重合体を包み込むものである。ここでいう実質的にコア重合体を包み込むとは、一部シェル重合体がコア重合体に内包される場合もありうるが塩基処理後にボイドの形成が確認できるものをいう。シェル重合体は、コア重合体粒子の存在下に、酸性基含有単量体0〜15重量%、好ましくは1〜12重量%、より好ましくは3〜9重量%およびこれと共重合可能な単量体100〜85重量%、好ましくは99〜88重量%、より好ましくは97〜91重量%からなる単量体混合物(b)を、共重合することによりコア重合体の外周に形成される。
【0049】
なお、シェル重合体により形成されるシェル層は、単一の重合体層で形成されていてもよく、または、複数の重合体層で形成されていてもよい。複数の重合体層で形成される場合、それぞれの層が上記組成に関する要件を満足する限り、それぞれの重合体層の組成は格別限定されるものではない。
【0050】
単量体混合物(b)中の酸性基含有単量体の含有割合が15重量%を超えると、塩基処理工程における条件制御が困難となり、中空重合体粒子を安定して得ることができない。より効率よく、空隙率の高い中空重合体粒子を安定的に生成させるには、単量体混合物(b)中に酸性基含有単量体を上記範囲で含有させることが好ましい。
【0051】
シェル重合体の形成に必要に応じて添加される酸性基含有単量体の具体例としては、コア重合体の形成に用いる酸性基含有単量体として例示したものと同様な単量体を挙げることができる。
【0052】
また、酸性基含有単量体と共重合可能な他の単量体の具体例としては、コア重合体の形成に用いる共重合可能な他の単量体として例示したものと同様な単量体を挙げることができる。
【0053】
本発明においては、シェル重合体を形成する際に、臭気を抑える観点から、連鎖移動剤を用いないことが好ましい。
【0054】
コア重合体とシェル重合体との重量比(コア重合体/シェル重合体)は、通常、3/97〜70/30、好ましくは5/95〜50/50、より好ましくは8/92〜30/70の範囲である。
【0055】
シェル重合体の割合を上限以下にすることにより、塩基処理工程において塩基が重合体粒子内部へ浸透しやすくなり、重合体粒子中のボイド形成が容易になる傾向がある。また、シェル重合体の割合を下限以上にすることにより、重合時または塩基処理工程においてコア重合体がシェル重合体の外側に移動するのを抑え、ボイド形成が容易となる傾向がある。
【0056】
シェル重合体を形成するための重合方法としては、通常は乳化重合法が採用され、また、回分式、連続式、半連続式などいずれの方式も採用でき、また、重合条件としては、コア重合体の場合と同様の条件を使用することができる。また、重合の際に使用することができる重合用副資材としては、コア重合体の場合と同様に公知の重合副資材を使用することができる。
【0057】
(塩基処理)
本発明の中空重合体粒子は、コア重合体およびシェル重合体からなる少なくとも2層構造を有する重合体粒子のコア重合体に含まれる酸性基の少なくとも一部が中和されることによって形成された少なくとも一つのボイドを有する。例えば、上記重合体粒子の水性分散液に塩基を添加して水性分散液のpHを7以上とすることによって、重合体粒子内に少なくとも一つのボイドを形成することができる(ボイドは水性分散液を形成する水性液で充満している)。
【0058】
塩基としては、揮発性塩基および/または不揮発性塩基を用いることができる。
揮発性塩基としては、例えば、アンモニア、水酸化アンモニウム、モルホリン、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどが挙げられる。
【0059】
不揮発性塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどのアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム、水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物;炭酸ナトリウム、重炭酸カリウムなどのアルカリ金属(重)炭酸塩;炭酸アンモニウム、重炭酸アンモニウムなどの(重)炭酸アンモニウム塩;などが挙げられる。
【0060】
塩基の中でも、揮発性塩基が好ましく、アンモニアおよび水酸化アンモニウムがより好ましく使用できる。
【0061】
塩基の使用量は、前記コア重合体の酸性基の少なくとも一部を中和して、前記重合体粒子を含有する水性分散液のpHを7以上とする量である。
【0062】
塩基を水性分散液に添加して、前記コア重合体の酸性基の少なくとも一部を中和させるためには、塩基が重合体粒子内部に拡散する時間が必要であり、従って、塩基を添加した後、時間をかけて攪拌を十分に行うことが望ましい。
【0063】
塩基処理における処理温度は、重合体粒子を十分に軟化させうる温度以上が好ましい。塩基添加後の処理時間は、通常、15分〜90分程度である。
【0064】
塩基の添加により水性分散液の安定性が低下することがあるが、これを防ぐために、塩基を添加する前に、アニオン界面活性剤や非イオン界面活性剤を単独または併用して添加してもよい。
【0065】
塩基処理工程において、特開平3−26724号公報に開示されている方法に準じて、有機溶剤の存在下に塩基を添加してもよい。有機溶剤の使用によって重合体粒子が軟化し、塩基の拡散が促進される。有機溶剤としては、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素、アルコール類、エーテル類、ケトン類、飽和カルボン酸エステル類などが挙げられる。有機溶剤は、前記重合体粒子100重量部に対して、通常、0.1〜1000重量部の範囲で使用する。使用した有機溶剤は、塩基処理の後、蒸発させて除去することができる。
【0066】
塩基処理工程において、有機溶剤のかわりに、重合性単量体を存在させてもよい。重合性単量体としては、通常、酸性基を含まない単量体を使用する。重合性単量体は、前記重合体粒子100重量部に対して、通常、1〜20重量部、好ましくは2〜10重量部の範囲で使用する。重合性単量体は新たに添加してもよいし、シェル重合体の形成時に過剰に添加しておき、重合禁止剤または還元剤等を添加して重合反応を停止させた状態で上記塩基処理を行ってもよい。過剰の重合性単量体は、塩基処理後に重合開始剤などを添加して重合させることにより処理することができる。
【0067】
コア重合体の形成、防腐剤の添加、シェル重合体の形成および塩基処理は、同一の反応器内で段階的に行なっても、前段階の工程を行なった後、前段階の生成物を別の反応器に移送し、その反応器内で次段階の工程を行なってもよい。
【0068】
本発明の中空重合体粒子の数平均粒子径は、通常、0.2〜3μm、好ましくは0.4〜2μm、より好ましくは0.8〜1.5μmである。この粒子径は、透過型電子顕微鏡を用いて、中空重合体粒子200個の最大粒子径を測定し、単純平均した値である。
【0069】
本発明の中空重合体粒子の空隙率は、通常、48〜60%、好ましくは50〜55%である。なお、空隙率は、透過型電子顕微鏡を用いて、中空重合体粒子200個について、各粒子における最大粒子径とボイドの最大径とを測定し、その数値から計算して求められる空隙率を単純平均した値である。
【0070】
また、得られる中空重合体粒子中に含まれる防腐剤の量は、中空重合体粒子100重量部に対して、好ましくは1.0×10-5重量部以上、より好ましくは1.0×10-4重量部以上であり、また、好ましくは5.0×10-2重量部未満、より好ましくは5.0×10-3重量部未満である。
【0071】
また、本発明の中空重合体粒子の水性分散液に含まれる凝集物量は、好ましくは0.15%以下、より好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0.05%以下である。ここで、凝集物量は、中空重合体粒子の固形分量に対する凝集物量の割合であり、凝集物は中空重合体粒子の水性分散液を325メッシュの金網で捕集した捕集物を、乾燥することにより得られる。
【0072】
本発明の中空重合体粒子の水性分散液に含まれる凝集物量は少ないため、水性分散液中の凝集物を除去する必要が無いか、凝集物を除去するための濾過時間が短くなる。そのため、生産性に優れ、さらには、重合反応器の清掃工程の頻度も少なくすることができ、作業性にも優れる。
【0073】
本発明の中空重合体粒子およびその水性分散液は、例えば、紙、インキ、繊維、皮革等のコーティング、塗料等の用途における有機顔料、光散乱剤又は光散乱助剤; 感熱プリンター用紙、熱転写プリンター用紙や感熱紙の感熱層下塗りの断熱層; インクジェット紙の吸収性充填剤、製紙工程の内添充填剤、修正インキや修正リボン用の高隠蔽性顔料、マイクロカプセル材料、電子写真に用いられるトナーの中間材料、空気による断熱特性を利用する用途、樹脂、セメント、コンクリートなどへの内添による軽量化などの空気による軽量化を利用する用途、半導体封止材料等に添加し、空気の低誘電性を利用する用途などに用いることができる。中でも、紙塗工組成物に好適である。紙塗工組成物は、本発明の中空重合体粒子の水性分散液に、たとえば、炭酸カルシウム、クレイ、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、タルク、酸化チタン、サチンホワイト、水酸化アルミニウム、シリカ、雲母などの無機顔料を配合して得られる。さらには、このような塗工組成物を原紙に塗工して表面塗工層を形成させることで、塗工紙を得ることができる。そして、このようにして得られる塗被紙は、上述した中空重合体粒子を含有するものであるため、塗工紙の不透明度を向上させるのみならず、高光沢な塗工紙を製造することができる。このような特性を活かし、上記塗工紙を書籍、雑誌などの出版物やチラシ、パンフレット、ポスターなどの商業用印刷物用に好適に用いることができる。
【実施例】
【0074】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、特に断りのない限り、「部」は重量基準である。
中空重合体粒子の水性分散液及び中空重合体粒子の物性は以下のように測定した。
【0075】
中空重合体粒子の水性分散液の保存安定性
実施例および比較例にて得られた中空重合体粒子の水性分散液100グラムに、防腐剤未添加で菌数107個/ml以上の腐敗した中空重合体粒子の水性分散液10グラムを、1週間間隔で繰り返し8回添加し、添加後から48時間後の菌数を測定して、評価を行った。なお、菌数の測定は、市販の「イージーカルトTTC」(Orion Diagnostica社製、フィンランド)を用い、30℃で48時間培養した後、コロニー数を観察して行った。保存安定性の評価基準は、菌数が103個/ml未満であった場合を「○」とし、菌数が103〜104個/mlであった場合を「△」とし、菌数が104個/mlを超えた場合を「×」とした。
【0076】
中空重合体粒子の水性分散液の凝集物発生量
総固形分量が150グラムに相当する中空重合体粒子を含有する水性分散液を、325メッシュの金網でろ過し、金網上の残存物を水洗した後、105℃で4時間乾燥した。次いで、総固形分量150グラムに対する金網上の残存物の乾燥重量の割合を百分率で求めた。
【0077】
中空重合体粒子の空隙率
中空重合体粒子200個それぞれの最大粒子径と空隙の最大径を、透過型電子顕微鏡により測定し、下記の式により計算される「空隙率」を単純に平均した値を中空重合体粒子の「空隙率」とした。
「空隙率」=[(空隙の最大径)3/(最大粒子径)3]×100(%)
【0078】
実施例1
(コア重合体の形成)
メタクリル酸メチル(MMA)50部、アクリル酸ブチル(BA)10部、メタクリル酸(MAA)40部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム0.9部、トリポリリン酸ナトリウム0.15部及びイオン交換水80部を、撹拌装置付き耐圧容器に添加し、次いで撹拌し、コア重合体形成用の単量体混合物(a)の乳化物を調製した。
【0079】
次に撹拌装置付き反応容器に、イオン交換水800部、MMA100部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5部及び過硫酸カリウム5部を添加し、次いで撹拌した。その後、反応容器を80℃に昇温して重合反応を行い、体積平均粒径82nmのシードラテックスを得た。
【0080】
イオン交換水40部及び上記シードラテックス0.28部(固形分として)を撹拌装置付き反応容器に添加した後、85℃に昇温した。次いで、3重量%の過硫酸カリウム水溶液1.63部を添加し、その後、上記単量体混合物(a)の乳化物の全量のうち、7重量%に相当する量を3時間にわたり、反応容器に連続的に添加した後、更に反応を1時間行った。
【0081】
その後イオン交換水250部及び3重量%の過硫酸カリウム水溶液18.6部を反応容器に添加し、反応温度を85℃に保ちながら、上記単量体混合物の乳化物の残部を、3時間にわたって反応容器に連続的に添加した後、更に反応を2時間行った。その後、反応容器を室温まで冷却し、コア重合体を含む水性分散液を得た。なお、重合転化率は99%以上であり、コア重合体の粒子の動的光散乱粒子測定装置N4(コールター社製)による体積平均粒径は420nmであった。
【0082】
コア重合体を10部含む水性分散液に、防腐剤として、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを7.5×10-5部、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを2.1×10-4部それぞれ添加し、防腐剤を添加したコア重合体を含む水性分散液を得た。
【0083】
(シェル重合体の形成)
MMA8.7部、BA1.8部、MAA0.7部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム0.02部及びイオン交換水17.8部を、撹拌装置付き耐圧容器に添加し、次いで撹拌し、シェル重合体形成用の単量体混合物(b−1)の乳化物を調製した。
【0084】
また、スチレン(ST)88.3部、メタクリル酸(MAA)0.6部、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム0.3部及びイオン交換水39.5部を撹拌装置付き耐圧容器に添加し、次いで撹拌して、シェル重合体形成用の単量体混合物(b−2)の乳化物を調製した。
【0085】
イオン交換水130部及び上記防腐剤の添加されたコア重合体粒子を含む水性分散液を、コア重合体の重量が10部となるように撹拌装置付き反応容器に添加し、次いで85℃に昇温した。次いで、4重量%の過硫酸カリウム水溶液10部を添加し、その後、シェル重合体形成用の単量体混合物(b−1)を20分間にわたり反応容器に連続的に添加して重合した。続いて、シェル重合体形成用の単量体混合物(b−2)を120分間にわたり反応容器に連続的に添加して重合し、コア重合体を実質的に包囲するシェル重合体を形成した。
【0086】
(空隙の形成(塩基処理))
5重量%のアンモニア水22.5部を反応容器に添加し、90℃で1時間、塩基による空隙の形成を行った。反応液のpHは、1時間にわたって7以上であった。
反応系が室温まで冷却され、中空重合体粒子を含む水性分散液が得られた。重合転化率は99%以上であった。
【0087】
中空重合体粒子の水性分散液の保存安定性の評価、凝集物発生量および中空重合体粒子の空隙率の測定を行った。結果を表1に示す。
【0088】
実施例2
コア重合体形成用の単量体混合物(a)およびシェル重合体形成用の単量体混合物(b−1)及び(b−2)の組成を表1に示すように変更した。また、コア重合体の水性分散液に添加する防腐剤を、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを1.5×10-4部と1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オンを1.5×10-4部に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。中空重合体粒子の水性分散液の保存安定性の評価、凝集物発生量および中空重合体粒子の空隙率の測定を行った。結果を表1に示す。
【0089】
実施例3
コア重合体形成用の単量体混合物(a)およびシェル重合体形成用の単量体混合物(b−1)及び(b−2)の組成を表1に示すように変更した。また、コア重合体の水性分散液に添加する防腐剤として、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オンを2.0×10-3部と、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オンを4.0×10-4部に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。中空重合体粒子の水性分散液の保存安定性の評価、凝集物発生量および中空重合体粒子の空隙率の測定を行った。結果を表1に示す。
【0090】
比較例1
コア重合体粒子の水性分散液に防腐剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様の操作を行った。中空重合体粒子の水性分散液の保存安定性の評価、凝集物発生量および中空重合体粒子の空隙率の測定を行った。結果を表1に示す。
【0091】
比較例2〜3
コア重合体形成用の単量体混合物(a)の組成を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。中空重合体粒子の水性分散液の保存安定性の評価、凝集物発生量および中空重合体粒子の空隙率の測定を行った。結果を表1に示す。
【0092】
比較例4
シェル重合体形成用の単量体混合物(b−1)および(b−2)の組成を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。空隙の形成の際に、全量凝集したため、中空重合体粒子の水性分散液の保存安定性の評価、凝集物発生量および中空重合体粒子の空隙率の測定を行うことはできなかった。
【0093】
比較例5〜7
コア重合体の水性分散液に防腐剤を添加せず、中空重合体粒子の水性分散液に対して、表1に示す防腐剤を添加した以外は、実施例1と同様の操作を行った。中空重合体粒子の水性分散液の保存安定性の評価、凝集物発生量および中空重合体粒子の空隙率の測定を行った。結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
表1に示すように、(1)酸性基含有単量体20〜60重量%およびこれと共重合可能な他の単量体80〜40重量%からなる単量体混合物(a)を共重合してなるコア重合体と、(2)酸性基含有単量体0〜15重量%およびこれと共重合可能な他の単量体100〜85重量%からなる単量体混合物(b)を共重合することによって形成された、実質的に前記コア重合体を包囲するシェル重合体とを含む構造を有する構造体における、前記コア重合体に含まれる酸性基の少なくとも一部が中和されることによって形成された少なくとも一つのボイドを有することを特徴とする中空重合体粒子であって、前記コア重合体の形成後、前記シェル重合体の形成前に防腐剤を添加することにより得られる中空重合体粒子の空隙率は高く、この中空重合体粒子の水性分散液の保存安定性は良好であり、凝集物発生量も少なかった(実施例1〜3)。
【0096】
一方、中空重合体粒子を製造する際に防腐剤を用いないと、中空重合体粒子の水性分散液の保存安定性に劣り、凝集物発生量も多くなり、中空重合体粒子の空隙率はやや低かった(比較例1)。
【0097】
また、コア重合体形成用の単量体組成物(a)中の酸性基含有単量体が少ないと、中空重合体粒子の水性分散液の保存安定性に劣り、凝集物発生量も多くなり、中空重合体粒子の空隙率は低かった(比較例2)。
【0098】
また、コア重合体形成用の単量体組成物(a)中の酸性基含有単量体が多いと、中空重合体粒子の水性分散液の保存安定性にやや劣り、凝集物発生量が著しく多かった(比較例3)。
【0099】
また、シェル重合体形成用の単量体組成物(b)中の酸性基含有単量体が多いと、中和を行う際に、すべて凝集し、所望の中空重合体粒子の水性分散液を得ることはできなかった(比較例4)。
【0100】
また、コア重合体の形成後、シェル重合体の形成前に防腐剤を添加せずに、中空重合体粒子を製造した後、この中空重合体粒子の水性分散液に防腐剤を添加した場合には、中空重合体粒子の水性分散液の保存安定性にやや劣り、凝集物発生量が多く、中空重合体粒子の空隙率もやや低かった(比較例5および6)。
【0101】
また、コア重合体の形成後、シェル重合体の形成前に防腐剤を添加せずに、中空重合体粒子を製造した後、この中空重合体粒子の水性分散液に防腐剤を添加した場合であって、比較例5および6よりも防腐剤の量を増やした場合には、中空重合体粒子の水性分散液の保存安定性は良好となるものの、凝集物発生量が多く、中空重合体粒子の空隙率もやや低かった(比較例7)。