特許第6582824号(P6582824)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6582824ニッケルマンガン含有複合水酸化物およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6582824
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】ニッケルマンガン含有複合水酸化物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20190919BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20190919BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20190919BHJP
【FI】
   C01G53/00 A
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】7
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2015-193650(P2015-193650)
(22)【出願日】2015年9月30日
(65)【公開番号】特開2017-65975(P2017-65975A)
(43)【公開日】2017年4月6日
【審査請求日】2018年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】特許業務法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】金田 治輝
(72)【発明者】
【氏名】安藤 孝晃
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 亮三
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−119093(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/136760(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/049185(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/061399(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/065391(WO,A1)
【文献】 特開2013−129589(JP,A)
【文献】 Longwei LIANG, et al.,Co-precipitation synthesis of Ni0.6Co0.2Mn0.2(OH)2 precursor and characterization of LiNi0.6Co0.2Mn02 cathode material for secondary lithium batteries,Electrochimica Acta,2014年 3月 3日,Vol.130,Page. 82-89,Available online 3 March 2014
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00 − 53/12
H01M 4/505
H01M 4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:NiMn(OH)(x+y+z=1、0.1≦x≦0.7、0.1≦y≦0.5、0.1≦z≦0.5、Mは、Co、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の元素)で表され、一次粒子が凝集した二次粒子で構成され、該二次粒子のメジアン径D50が1μm〜6μmの範囲にあり、粒径分布の広がりを示す指標である〔(D90−D10)/D50〕が0.50以下であり、かつ、JIS2512:2012によるタップ密度が、1.60g/cm〜(0.04×D50+1.60)g/cmの範囲にある、ニッケルマンガン含有複合水酸化物。
【請求項2】
ワーデル球形度が、0.70〜0.98の範囲にある、請求項1に記載のニッケルマンガン含有複合水酸化物。
【請求項3】
ニッケルおよびマンガンを含有する金属化合物が溶解した原料溶液を用いて、晶析反応によって、一般式:NiMn(OH)(x+y+z=1、0.1≦x≦0.7、0.1≦y≦0.5、0.1≦z≦0.5、Mは、Co、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の元素)で表されるニッケルマンガン含有複合水酸化物を製造するための方法であって、
酸素濃度が5容量%以下の非酸化性雰囲気中において、前記原料溶液のうちの、前記晶析反応の全体に用いる金属化合物に含有される金属元素の全物質量の0.6%〜5.0%に相当する量の原料溶液を含み、アンモニウムイオン濃度が3g/L〜25g/Lの範囲となり、かつ、液温25℃基準でのpH値が12.0〜14.0の範囲となるように調整された核生成用水溶液を、攪拌所要動力が6.0kW/m〜30kW/mの範囲となるように制御して撹拌して、核生成を行う核生成工程と、
前記核を含有する前記核生成用水溶液の液温25℃基準でのpH値を、前記核生成工程における前記pH値よりも低く、かつ、10.5〜12.0の範囲となるように調整して、あるいは、アンモニウムイオン濃度が3g/L〜25g/Lの範囲となり、かつ、前記核生成工程における前記pH値よりも低く、かつ、10.5〜12.0の範囲となるように調整された成分調整水溶液に、前記核を含有する前記核生成用水溶液もしくは該核生成用水溶液から液体成分の一部を除去したものを添加することにより、粒子成長用水溶液を得て、該粒子成長用水溶液を、アンモニウムイオン濃度が3g/L〜25g/Lの範囲、かつ、液温25℃基準でのpH値が10.5〜12.0の範囲にそれぞれ維持されるように制御し、前記原料溶液を供給して、前記核を成長させる粒子成長工程と、
を備える、
ニッケルマンガン含有複合水酸化物の製造方法。
【請求項4】
一般式:LiNiMn(0.95≦a≦1.15、x+y+z=1、0.1≦x≦0.7、0.1≦y≦0.5、0.1≦z≦0.5、Mは、Co、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の元素)で表され、一次粒子が凝集した二次粒子で構成され、該二次粒子のメジアン径D50が1μm〜6μmの範囲にあり、粒径分布の広がりを示す指標である〔(D90−D10)/D50〕が0.50以下であり、かつ、JIS2512:2012によるタップ密度が1.89g/cm〜(0.09×D50+1.80)g/cmの範囲にある、層状構造を有する六方晶系のリチウムニッケルマンガン含有複合酸化物からなる、非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項5】
ワーデル球形度が0.60〜0.98である、請求項4に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
【請求項6】
一般式:LiNiMn(0.95≦a≦1.15、x+y+z=1、0.1≦x≦0.7、0.1≦y≦0.5、0.1≦z≦0.5、Mは、Co、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の元素)で表され、一次粒子が凝集した二次粒子で構成された、層状構造を有する六方晶系のリチウムニッケルマンガン含有複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
請求項1または2に記載のニッケルマンガン含有複合水酸化物に、リチウム以外の金属元素の原子数の合計に対するリチウム原子数の比が0.95〜1.15の範囲となるように、リチウム化合物を混合してリチウム混合物を得る混合工程と、該リチウム混合物を酸化性雰囲気中において750℃〜1000℃の範囲の温度で焼成する焼成工程と、
を備える、
非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
請求項4または5に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を、正極材料として用いている、非水系電解質二次電池。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体として用いられるニッケルマンガン含有複合水酸化物およびその製造方法、および、非水系電解質二次電池用正極活物質およびその製造方法、さらには、非水系電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギ密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。このような二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。非水系電解質二次電池であるリチウムイオン二次電池の正極材料にはリチウム遷移金属含有複合酸化物などが用いられ、負極材料には、リチウム金属、リチウム合金、金属酸化物、あるいはカーボン材料などが用いられている。これらの材料は、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料である。
【0003】
このようなリチウムイオン二次電池については、現在、研究開発が盛んに行われているところである。この中でも、リチウム遷移金属含有複合酸化物、特に、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギ密度を有する電池として期待され、実用化されている。またコバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)やリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi0.33Co0.33Mn0.33)などの開発も進められている。
【0004】
これらの中でも、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、比較的安価であり、熱安定性や耐久性などのバランスに優れているため、正極活物質として注目されている。しかしながら、その放電容量はリチウムニッケル複合酸化物に比べて劣るため、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物には、放電容量を向上させることや、エネルギ密度をより高める観点から粒子の充填性を向上させることが求められている。さらには、優れたサイクル特性を有することも求められている。
【0005】
高いエネルギ密度かつ高いサイクル特性を得るためには、小粒径で、粒径分布が狭い正極活物質とすることが有効である。粒径分布が広い正極活物質を使用した場合、電極内で粒子に印加される電圧が不均一となることに起因して、充放電を繰り返すと微細な粒子が選択的に劣化し、放電容量が低下してしまう。さらには、放電容量の劣化が早くなることにより、サイクル特性が低下する。
【0006】
リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる正極活物質は、通常、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を前駆体として製造されるため、正極活物質を小粒径かつ粒径分布の狭い粒子により構成するためには、その前駆体となるリチウムニッケルコバルトマンガン複合水酸化物も、同様に小粒径かつ粒径分布の狭い粒子により構成することが必要とされる。
【0007】
たとえば、特開2004−210560号公報では、実質的にマンガンとニッケルの含有比が1:1である複合水酸化物で、平均粒径が5μm〜15μm、タップ密度が0.6g/ml〜1.4g/ml、バルク密度が0.4g/ml〜1.0g/ml、比表面積が20m/g〜55m/g、含有硫酸根が0.25質量%〜0.45質量%であり、かつ、X線回折において15≦2θ≦25にあるピークの最大強度(I)と、30≦2θ≦40にあるピークの最大強度(I)との比(I/I)が、1〜6であることを特徴とする、マンガンニッケル複合水酸化物が提案されている。また、その二次粒子の表面および内部の構造は、一次粒子によるひだ状壁により網状を形成し、そのひだ状壁で囲まれた空間が比較的大きいとされている。
【0008】
さらに、その製造方法として、マンガンイオンの酸化の程度を一定の範囲に制御しつつ、pH値が9〜13の水溶液中で、錯化剤の存在下、マンガンとニッケルの原子数比が実質的に1:1であるマンガン塩とニッケル塩の混合水溶液を、アルカリ溶液と適当な攪拌条件下で反応させて生じる粒子を共沈殿させることが開示されている。
【0009】
しかしながら、特開2004−210560号公報では、リチウムマンガンニッケル複合水酸化物の粒子構造については検討されているものの、開示されている電子顕微鏡写真からも明らかなように、得られた粒子には粗大粒子と微細粒子が混在しており、その粒径の均一化についての検討はなされていない。
【0010】
一方、リチウム遷移金属複合酸化物の粒径分布に関して、たとえば、特開2008−147068号公報には、粒径分布曲線において、累積頻度が50%となるときの粒径を意味する平均径D50が3μm〜15μm、最小粒径が0.5μm以上、最大粒径が50μm以下の粒径分布を有する粒子であり、かつ、累積頻度が10%と90%となるときの粒径であるD10およびD90との関係において、D10/D50が0.60〜0.90、D10/D90が0.30〜0.70であるリチウム遷移金属複合酸化物が開示されている。そして、このリチウム遷移金属複合酸化物は、高い充填性を有し、充放電特性および出力特性に優れ、充放電負荷の大きな条件の下であっても、劣化しにくいので、このリチウム遷移金属複合酸化物を正極材料として用いれば、優れた出力特性を持ち、かつ、サイクル特性の劣化の少ない非水系電解質二次電池を得ることができるとされている。
【0011】
しかしながら、特開2008−147068号公報に開示されているリチウム遷移金属複合酸化物は、平均粒径3μm〜15μmに対して、最小粒径が0.5μm以上、最大粒径が50μm以下となっていることから、微細粒子および粗大粒子が含まれている。また、上記のD10/D50およびD10/D90で規定される粒径分布では、リチウム遷移金属複合酸化物の粒径分布の範囲が狭いとはいえない。したがって、このような粒径の均一性が不十分である正極活物質を正極材料として用いても、非水系電解質二次電池の電池特性の十分な改善を図ることは困難である。
【0012】
また、粒径分布を改善することを目的とした、正極活物質の前駆体としての遷移金属複合水酸化物の製造方法についても、さまざまな提案がなされている。たとえば、特開2003−086182号公報では、2種以上の遷移金属塩を含む水溶液を、または異なる遷移金属塩の2種以上の水溶液とアルカリ溶液とを同時に反応槽に投入し、還元剤を共存させながら、または不活性ガスを通気しながら共沈させることにより、前駆体である遷移金属複合水酸化物または遷移金属複合酸化物を得る方法が提案されている。
【0013】
しかし、この技術は、生成した結晶を分級しながら回収するものであるため、均一な粒径の生成物を得るためには、製造条件を厳密に管理する必要があると考えられる。このため、この技術を適用した工業的規模の生産は困難である。しかも、この技術では、大きな粒径の結晶粒子は得ることができても、小粒径の結晶粒子を得ることは困難である。
【0014】
さらに、国際公開WO2012/169274号公報では、層状構造を有する六方晶系のリチウムニッケル含有複合酸化物からなる正極活物質であって、平均粒径が8μmを超え、16μm以下であり、粒度分布の広がりを示す指標である〔(D90−D10)/平均粒径〕が0.60以下である、非水系電解質二次電池用正極活物質が開示されている。また、その製造方法として、液温25℃基準でのpH値が12.0〜14.0となるように制御して核生成を行った後、該形成された核を含有する粒子成長用水溶液を液温25℃基準でのpH値が10.5〜12.0、かつ、核生成工程におけるpH値よりも低いpH値となるように制御して前記粒子を成長させ、この際、少なくとも前記核生成工程における単位体積あたりの撹拌所要動力を0.5kW/m3〜4kW/m3に制御することが提案されている。この技術では、粒度分布の均一化による充填性や出力特性についての改善がある程度図られているが、充填性についてはさらなる改善の余地がある。
【0015】
これに対して、特開2003−151546号公報では、充填性を改善する観点から、正極活物質の粒子性状に着目して、六角柱状の粒子により構成された正極活物質が提案されている。この正極活物質は、優れた充填性を示すものの、焼成と粉砕を2回以上行うといった方法が取られ、工業的な生産には向いていない。また、角型や板状の粒子は、所望の電池特性を得るためには、その結晶面を特異的に成長させる必要があり、品質的に安定しないという欠点がある。さらに、電極作製のために正極材料を塗布する際に、その結晶配向が適切となるように塗布することはきわめて困難であり、高い結晶配向性による高密度化を達成させるためには、特殊な塗工工程を用いる必要があり、その製造コストが高くなるという問題がある。
【0016】
また、特開2003−051311号公報では、粒径の大きい粒子と粒径の小さい粒子を分離し、かつ、これらの混合比を調節することにより、粒径の異なる粒子を適切に混合させて、全体として高い充填性を有し、優れたレート特性と放電容量とを両立させた正極活物質が提案されている。しかしながら、この技術では、2種類の粒径の異なる粒子を作製する必要があるため、同様にその製造コストが高くなるという問題があるとともに、粒径の小さい粒子が充放電の繰り返しにより選択的に劣化するという問題の解決も図られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開2004−210560号公報
【特許文献2】特開2008−147068号公報
【特許文献3】特開2003−086182号公報
【特許文献4】国際公開WO2012/169274号公報
【特許文献5】特開2003−151546号公報
【特許文献6】特開2003−051311号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上述のように、非水系電解質二次電池の性能を十分に向上させることができる正極活物質、その前駆体、さらにはこれらの工業的規模の生産技術については、現時点では開発されてない。
【0019】
このような問題点に鑑み、本発明は、高いエネルギ密度および高いサイクル特性を備えた非水系電解質二次電池、このような電池特性を備えた非水系電解質二次電池を実現するための、高い充填性を備えた非水系電解質二次電池用正極活物質、さらには、このような材料特性を備えた正極活物質を実現するための、小粒径で、粒径分布が狭く、さらには高い球形度を備えたニッケルマンガン含有複合水酸化物を、工業的な製造工程により、提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明のニッケルマンガン含有複合水酸化物は、一般式:NiMn(OH)(x+y+z=1、0.1≦x≦0.7、0.1≦y≦0.5、0.1≦z≦0.5、Mは、Co、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の元素)で表され、一次粒子が凝集した二次粒子で構成され、該二次粒子のメジアン径D50が1μm〜6μmの範囲にあり、粒径分布の広がりを示す指標である〔(D90−D10)/D50〕が0.50以下であり、かつ、JIS2512:2012によるタップ密度が、1.60g/cm〜(0.04×D50+1.60)g/cmの範囲にあることを特徴とする。
【0021】
前記ニッケルマンガン含有複合水酸化物のワーデル球形度が、0.70〜0.98の範囲にあることが好ましい。
【0022】
本発明のニッケルマンガン含有複合水酸化物の製造方法は、少なくともニッケルおよびマンガンを含有する金属化合物が溶解した原料溶液を用いて、晶析反応によって、一般式:NiMn(OH)(x+y+z=1、0.1≦x≦0.7、0.1≦y≦0.5、0.1≦z≦0.5、Mは、Co、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の元素)で表されるニッケルマンガン含有複合水酸化物を製造するための方法であって、
酸素濃度が5容量%以下の非酸化性雰囲気中において、前記原料溶液のうちの、前記晶析反応の全体に用いる金属化合物に含有される金属元素の全物質量の0.6%〜5.0%に相当する量の原料溶液を含み、アンモニウムイオン濃度が3g/L〜25g/Lの範囲となり、かつ、液温25℃基準でのpH値が12.0〜14.0の範囲となるように調整された核生成用水溶液を、攪拌所要動力が6.0kW/m〜30kW/mの範囲となるように制御して撹拌して、核生成を行う核生成工程と、
前記核を含有する粒子成長用水溶液を、アンモニウムイオン濃度が3g/L〜25g/Lの範囲となり、かつ、液温25℃基準でのpH値が10.5〜12.0となるように調整し、前記原料溶液を供給して、前記核を成長させる粒子成長工程と、
を備えることを特徴とする。
【0023】
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質は、一般式:LiNiMn(0.95≦a≦1.15、x+y+z=1、0.1≦x≦0.7、0.1≦y≦0.5、0.1≦z≦0.5、Mは、Co、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の元素)で表され、一次粒子が凝集した二次粒子で構成され、該二次粒子のメジアン径D50が1μm〜6μmの範囲にあり、粒径分布の広がりを示す指標である〔(D90−D10)/D50〕が0.50以下であり、かつ、JIS2512:2012によるタップ密度が1.89g/cm〜(0.09×D50+1.80)g/cmの範囲にある、層状構造を有する六方晶系のリチウムニッケルマンガン含有複合酸化物からなることを特徴とする。
【0024】
前記正極活物質のワーデル球形度が、0.60〜0.98の範囲にあることが好ましい。
【0025】
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法は、一般式:LiNiMn(0.95≦a≦1.15、x+y+z=1、0.1≦x≦0.7、0.1≦y≦0.5、0.1≦z≦0.5、Mは、Co、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の元素)で表され、一次粒子が凝集した二次粒子で構成された、層状構造を有する六方晶系のリチウムニッケルマンガン含有複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であって、
前記ニッケルマンガン含有複合水酸化物に、リチウム以外の金属元素の原子数の合計に対するリチウム原子数の比が0.95〜1.15の範囲となるように、リチウム化合物を混合してリチウム混合物を得る混合工程と、該リチウム混合物を酸化性雰囲気中において750℃〜1000℃の範囲の温度で焼成する焼成工程と、
を備えることを特徴とする。
【0026】
本発明の非水系電解質二次電池は、前記非水系電解質二次電池用正極活物質を、正極材料として用いていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明により、小粒径であって、粒径分布が狭く、さらには高い球形度を有するニッケルマンガン含有複合水酸化物、および、その粒子性状を引き継ぎ、高い充填性を有する非水系電解質二次電池用正極活物質が提供される。本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質を、正極材料として用いることにより、高エネルギ密度かつ高サイクル特性を兼ね備えた非水系電解質二次電池が提供される。
【0028】
さらに、本発明では、ニッケルマンガン含有複合水酸化物および正極活物質を工業的規模の生産手段によって容易に得ることが可能であることから、本発明の工業的価値はきわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1図1は、本発明のニッケルマンガン含有複合水酸化物のSEM像である。
図2図2は、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質のSEM像である。
図3図3は、電池評価に用いたコイン型電池の概略断面図である。
図4図4は、インピーダンス評価の測定例と解析に使用した等価回路の概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明者らは、上記課題を解決するため、粒子の球状性や充填性に着目し、非水系電解質二次電池用正極活物質の粉体特性について鋭意検討したところ、小粒径で、特定の粒径範囲とタップ密度を備え、さらに、高い球形度を有することにより、高い充填性を備えた、正極活物質を得ることができ、この正極活物質を正極材料として用いることにより、高いエネルギ密度と高いサイクル特性を兼ね備えた非水系電解質二次電池を提供することが可能であるとの知見を得た。
【0031】
また、本発明の正極活物質の前駆体となる本発明のニッケルマンガン含有複合水酸化物は、本発明の正極活物質と同等の優れた粉体特性を備える。そして、このような優れた粉体特性を備えた本発明のニッケルマンガン含有複合水酸化物を製造するためには、晶析工程において核生成工程と粒子成長工程とを分離し、かつ、該核生成工程において供給する原料溶液の割合を全原料溶液に対して特定比率となるようにし、さらに核生成工程における核生成用水溶液を撹拌する撹拌動力を制御することが必要であるとの知見を得た。
【0032】
本発明は、これらの知見に基づいて、完成するに至ったものである。本発明は、(1)非水系電解質二次電池用正極活物質の前駆体となるニッケルマンガン含有複合水酸化物とその製造方法、(2)非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法、(3)非水系電解質二次電池に大別される。
【0033】
非水系電解質二次電池の性能は、正極材料として採用される非水系電解質二次電池用正極活物質の材料特性による影響が大きい。優れた電池特性を示す非水系電解質二次電池用正極活物質を得るためには、粒子構造と粒径と粒径分布とが、所定の状態と範囲に設定された正極活物質を用いることが好ましい。このような正極活物質を得るためには、その前駆体であるニッケルマンガン含有複合水酸化物を、所定の粒子構造と粒径と粒径分布とする必要がある。
【0034】
以下、上記(1)〜(3)の発明のそれぞれについて詳細に説明するが、最初に、本発明の最大の特徴である、ニッケルマンガン含有複合水酸化物とその製造方法について説明する。
【0035】
(1−1)ニッケルマンガン含有複合水酸化物
本発明のニッケルマンガン含有複合水酸化物は、一般式:NiMn(OH)(x+y+z=1、0.1≦x≦0.7、0.1≦y≦0.5、0.1≦z≦0.5、Mは、Co、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の元素)で表され、複数の板状あるいは針状の一次粒子が凝集して形成された二次粒子で構成され、該二次粒子は、メジアン径D50が1μm〜6μmの範囲にあり、粒径分布の広がりを示す指標である〔(D90−D10)/D50〕が0.50以下である。
【0036】
(粒子構造)
本発明のニッケルマンガン含有複合水酸化物は、図1に例示されるように、複数の板状一次粒子が凝集して形成された二次粒子となっており、具体的には、ワーデル球形度Ψが0.70〜0.98の範囲にある略球状であることが好ましい。ここで、ワーデル球形度Ψは、面積相当径をD1、外接円直径をD2としたとき、Ψ=D1/D2と定義され、この値が1に近づくほど粒子は球形に近づくことを意味している。本発明では、前駆体であるニッケルマンガン含有複合水酸化物が、高いワーデル球形度Ψを有するため、焼成工程において粒子が焼き締まり、球形度の高い正極活物質を得ることができる。
【0037】
また、板状一次粒子がランダムな方向に凝集して二次粒子を形成した場合に、より好ましい粒子構造となる。板状一次粒子がランダムな方向に凝集することで、一次粒子同士間にほぼ均一に空隙が生じるため、リチウム化合物と混合して焼成するとき、溶融したリチウム化合物が二次粒子内へ侵入しやすくなり、リチウムの拡散が十分に行われる。
【0038】
さらに、一次粒子がランダムな方向に凝集していることにより、上記焼成工程における二次粒子の収縮が、二次粒子の内部と表層部とで均等に生じることから、正極活物質の内部に十分な大きさを有する空間を形成することができるため、好ましい。
【0039】
ワーデル球形度Ψの測定には、画像解析付きレーザ光回折散乱式粒度分析計や走査型電子顕微鏡画像を用いることができる。数十〜数百個程度の粒子をサンプルとして観察し、それらのワーデル球形度Ψを算出して、その平均値を求めることにより得られる。
【0040】
本発明のニッケルマンガン含有複合水酸化物のワーデル球形度Ψは、好ましくは0.70〜0.98の範囲であり、より好ましくは0.70〜0.95の範囲である。この値が0.70未満であると、得られる正極活物質の充填性が低下しやすく、一方、0.98を超えると、その充填時に正極活物質を構成する二次粒子間に空隙を生じやすくなる。
【0041】
(メジアン径D50)
本発明のニッケルマンガン含有複合水酸化物は、そのメジアン径D50が、1μm〜6μmの範囲にあることが好ましく、2μm〜5.5μmの範囲にあることがより好ましい。ここで、メジアン径D50は、粒子数を粒径の小さい方から累積し、累積分布が50体積%となるときの粒径を意味する。正極活物質の前駆体であるニッケルマンガン含有複合水酸化物のメジアン径をこの範囲に調整することにより、正極活物質のD50を、1μm〜6μmの範囲とすることができる。前駆体の粒径分布と、それを用いて得られる正極活物質の粒径分布とは相関があるため、所望の電池特性を獲得するために、好ましい粒径分布の前駆体を得る必要がある。
【0042】
前駆体であるニッケルマンガン含有複合水酸化物のD50が1μm未満であると、正極活物質のD50も小さくなり、二次電池において、正極活物質の充填密度が低下する結果、容積あたりの電池容量が低下する。一方、ニッケルマンガン含有複合水酸化物のD50が6μmを超えると、正極活物質の比表面積が低下して、電解液との界面が減少する結果、二次電池の正極の抵抗が上昇して、その出力特性およびサイクル特性が低下する。
【0043】
(粒径分布)
本発明のニッケルマンガン含有複合水酸化物の粒径分布は、その粒径分布の広がりを示す指標である〔(D90−D10)/D50〕が0.50以下、好ましくは0.46以下となるように調整される。上述のように、前駆体の粒径分布とそれを用いて得られる正極活物質の粒径分布との間に相関があるため、ニッケルマンガン含有複合水酸化物の粒径分布が広いとき、すなわち、〔(D90−D10)/D50〕が、0.50より大きい場合には、得られる正極活物質の粒径分布も広くなる。その結果、正極活物質において、微細粒子と粗大粒子とが混在することとなり、二次電池の特性上、好ましくない。
【0044】
具体的には、微細粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合、微細粒子の局所的な反応に起因して発熱する可能性があり、電池の安全性が低下するとともに、微細粒子が選択的に劣化するため、二次電池のサイクル特性が悪化してしまう。一方、粗大粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合、電解液と正極活物質との反応面積が小さくなるため、反応抵抗の増加により二次電池の電池出力が低下する。
【0045】
よって、本発明のニッケルマンガン含有複合水酸化物において、粒径分布の広がりを示す指標である〔(D90−D10)/D50〕を0.50以下となるように調整することにより、これを前駆体として用いて得られる正極活物質の粒径分布〔(D90−D10)/D50〕が0.50以下となり、その粒径を均一化することができる。
【0046】
このような本発明のニッケルマンガン含有複合水酸化物を前駆体として形成された正極活物質を二次電池の正極材料として用いることにより、二次電池において、高エネルギ密度かつ良好なサイクル特性の両立を達成することができる。
【0047】
前記指標は、小さいほど正極活物質の粒径分布を狭くすることができるが、現実的な下限は0.1程度である。
【0048】
なお、粒径分布の広がりを示す指標〔(D90−D10)/D50〕において、D10は、粒子数を粒径の小さい方から累積し、累積頻度が10%となるときの粒径を意味する。同様に、D90は、粒子数を粒径の小さい方から累積し、累積頻度が90%となるときの粒径を意味する。なお、本発明において、D50、D90、D10を求める手段は特に限定されないが、たとえば、レーザ光回折散乱式粒度分析計で測定した体積積算値から求めることができる。
【0049】
(粒子の組成)
本発明のニッケルマンガン含有複合水酸化物の組成は、一般式:NiMn(OH)(x+y+z=1、0.1≦x≦0.7、0.1≦y≦0.5、0.1≦z≦0.5、Mは、Co、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の元素)で表されるように調整される。このような組成を有するニッケルマンガン含有複合水酸化物を前駆体として作製した正極活物質を正極材料とすることにより、高容量かつサイクル特性に優れた二次電池を構成することができる。
【0050】
このニッケルマンガン含有複合水酸化物の組成比(x:y:z)は、焼成工程の後も維持される。したがって、本発明のニッケルマンガン含有複合水酸化物の組成比は、最終的に得ようとする正極活物質に要求される組成比と同様となるように調整される。
【0051】
(1−2)ニッケルマンガン含有複合水酸化物の製造方法
本発明の複合水酸化物の製造方法は、少なくともニッケルおよびマンガンを含有する金属化合物が溶解した原料溶液を用いて、晶析反応によって、ニッケルマンガン含有複合水酸化物を製造する方法であって、(a)核生成を行う核生成工程と、(b)核生成工程において生成された核を成長させる粒子成長工程とから構成される。
【0052】
すなわち、従来の連続晶析法では、核生成反応と粒子成長反応とが同じ槽内において同時に進行するため、得られる複合水酸化物の粒径分布が広くなってしまう。これに対して、本発明の複合水酸化物の製造方法では、主として核生成反応が生じる工程(核生成工程)と、主として粒子成長反応が生じる工程(粒子成長工程)とを、それぞれの反応時間によって明確に分離することにより、得られる複合水酸化物において狭い粒径分布を達成している点に特徴がある。また、核生成工程と粒子成長工程に用いられる原料溶液量の比率を制御することにより、小粒径で高いタップ密度を有する複合水酸化物を得る点に特徴がある。さらに、晶析反応時の雰囲気を制御することにより、得られるニッケルマンガン含有複合水酸化物の粒子構造を密にする点に特徴がある。
【0053】
(a)核生成工程
まず、少なくともニッケル化合物およびマンガン化合物を含む、複数の金属化合物を、所定の割合で水に溶解させ、原料溶液を作製する。本発明のニッケルマンガン含有複合水酸化物の製造方法では、後の工程で表面に被覆される添加金属元素を除いて、得られるニッケルマンガン含有複合水酸化物の組成は、原料溶液の組成と実質的に同一となる。
【0054】
したがって、原料溶液におけるそれぞれの金属元素の物質量の比率が、本発明のニッケルマンガン含有複合水酸化物中におけるそれぞれの金属の組成と同じ値となるように、水に溶解させる金属化合物の割合を調節して、原料溶液を作製する。
【0055】
一方、反応槽には、pH調整剤である水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ水溶液、アンモニウムイオン供給体であるアンモニア水溶液、および水を供給して混合して反応前水溶液を形成する。この反応前水溶液について、そのpH値を、アルカリ水溶液の供給量を調整することにより、液温25℃基準でのpH値が12.0〜14.0の範囲、好ましくは12.3〜13.5の範囲、より好ましくは12.5〜13.3の範囲となるように調節する。
【0056】
また、反応前水溶液中のアンモニウムイオンの濃度を、アンモニア水溶液の供給量を調整することにより、3g/L〜25g/Lの範囲、好ましくは5g/L〜20g/Lの範囲となるように調節する。
【0057】
なお、反応前水溶液の温度についても、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃〜60℃の範囲となるように調節する。反応槽内の水溶液のpH値、アンモニウムイオンの濃度については、それぞれ一般的なpH計、イオンメータによって測定可能である。
【0058】
反応槽内の雰囲気は非酸化性雰囲気とする。反応槽内に不活性ガスを導入し、反応雰囲気を酸素濃度5体積%以下、好ましくは2体積%以下の非酸化性雰囲気に制御する。酸素濃度が5体積%より高くなると、生成する核が疎になってしまい、粒子密度が低下し正極活物質の粒子密度が低下する。しかも球形度の低い核が生成するため、後に粒子成長を行っても、球形度の高い粒子が得られず、充填性が低下する。
【0059】
反応槽内において反応前水溶液の温度、pH値、アンモニウムイオン濃度が調整されると、この反応前水溶液を攪拌しながら原料溶液を反応槽内に供給する。これにより、反応槽内には、反応前水溶液と原料溶液とが混合した、核生成工程における反応水溶液である核生成用水溶液が形成され、この核生成用水溶液中において複合水酸化物の微細な核が生成されることになる。このとき、核生成用水溶液のpH値は上記範囲にあるので、生成した核はほとんど成長することなく、核の生成が優先的に生じる。
【0060】
本発明では、核生成工程において、晶析反応の全体に用いられる原料溶液中の金属化合物に由来する金属元素の全物質量のうち、0.6%〜5.0%、好ましくは0.7%〜5.0%、より好ましくは0.8%〜4.5%に相当する量の原料溶液を、核生成工程に用いる。
【0061】
核生成工程と粒子成長工程とで、モル濃度が等しい原料溶液を用いる場合には、原料溶液の液量を指標として制御することができ、たとえば、原料溶液の全液量の0.6%〜5.0%(原料溶液の全液量が26Lの場合、0.156L〜1.3L)を核生成工程に用いて、残りを粒子成長工程に用いる。このような範囲とすることで、凝集を抑制しながら、タップ密度の高い小粒径な粒子を得ることができる。また、核生成工程において用いられる原料溶液中の金属元素を適切に制御することで、より高い球形度を達成して、その充填性をより高いものとすることができる。
【0062】
また、このとき核生成用水溶液を撹拌するための攪拌所要動力を、6.0kW/m〜30kW/m、好ましくは8kW/m〜30kW/m、より好ましくは10kW/m〜25kW/mとなるように調節する。
【0063】
なお、原料溶液の供給による核生成に伴って、核生成用水溶液内のpH値およびアンモニウムイオンの濃度が変化するので、核生成用水溶液に対して、原料溶液とともに、アルカリ水溶液、アンモニア水溶液を供給して、核生成用水溶液の液温25℃基準でのpH値が12.0〜14.0の範囲、アンモニウムイオンの濃度が3g/L〜25g/Lの範囲で、それぞれ維持されるように制御する。
【0064】
核生成用水溶液に対する原料溶液、アルカリ水溶液、およびアンモニア水溶液の供給により、核生成用水溶液内で、新しい核の生成が連続的に生じる。そして、核生成用水溶液中に、所定量の核が生成した段階で、核生成工程を終了する。所定量の核が生成したか否かの判断は、核生成用水溶液に添加した金属塩の量を測定することにより行う。
【0065】
(b)粒子成長工程
核生成工程の終了後、核生成用水溶液の液温25℃基準でのpH値を10.5〜12.0の範囲、好ましくは11.0〜12.0の範囲となるように調整して、粒子成長工程における反応水溶液である粒子成長用水溶液を得る。具体的には、この調整時のpHの制御は、アルカリ水溶液の供給量を調節することにより行う。粒子成長工程においても、粒子成長用水溶液を撹拌するための攪拌所要動力を、好ましくは3.0kW/m3〜25kW/m3、より好ましくは5kW/3〜25kW/m3、さらに好ましくは6kW/3〜20kW/m3となるように調節する。
【0066】
粒子成長用水溶液のpH値を上記範囲とすることにより、核の生成反応よりも核の成長反応の方が優先して生じるので、粒子成長工程において、粒子成長用水溶液内に新たな核はほとんど生成することなく、核が成長(粒子成長)して、所定の粒径を有するニッケルマンガン含有複合水酸化物が形成される。
【0067】
核生成工程と同様に、粒子成長工程においても、原料溶液の供給による粒子成長の反応に伴って、粒子成長用水溶液のpH値およびアンモニウムイオンの濃度が変化するので、粒子成長用水溶液に対して、原料溶液とともに、アルカリ水溶液、アンモニア水溶液を供給して、粒子成長用水溶液の液温25℃基準でのpH値が10.5〜12.0の範囲、アンモニウムイオンの濃度が3g/L〜25g/Lの範囲に、それぞれ維持されるように制御する。
【0068】
なお、反応槽内の雰囲気は非酸化性雰囲気とする。反応槽内に不活性ガスを導入し、反応雰囲気を酸素濃度5体積%以下、好ましくは2体積%以下の非酸化性雰囲気に制御する。酸素濃度が5体積%より高くなると、ニッケル、マンガンなどの金属の酸化が進み、疎な粒子となる。しかも、成長後の粒子のモフォロジが崩れ、タップ密度の高い粒子が得られない。ここでいう「モフォロジ」とは、粒子の外形、平均粒径、粒度分布の広がりを示す指標、球形度、結晶構造などの粒子の形態、構造に関わる特性である。
【0069】
その後、原料溶液全量から核生成工程で用いた液量を差し引いた原料溶液量を滴下、あるいはニッケルマンガン含有複合水酸化物が所定の粒径まで成長した時点で、粒子成長工程を終了する。ここで、生成するニッケルマンガン含有複合水酸化物の粒径は、予備試験により、核生成工程と粒子成長工程のそれぞれの工程における反応水溶液(核生成用水溶液および粒子成長用水溶液)への金属塩の添加量と得られる粒子の粒径との関係を求めておけば、それぞれの工程での金属塩の添加量から容易に判断される。
【0070】
以上のように、本発明のニッケルマンガン含有複合水酸化物の製造方法においては、核生成工程では核生成が優先して起こり、核の成長はほとんど生じず、逆に、粒子成長工程では核成長のみが生じ、新しい核はほとんど生成されない。このため、核生成工程では、粒径分布が狭く均質な核を形成させることができ、また、粒子成長工程では、均一に核を成長させることができる。したがって、本発明の製造方法では、粒径分布が狭く、均質なニッケルマンガン含有複合水酸化物を得ることができる。
【0071】
本実施形態では、核生成工程が終了した核生成用水溶液のpHを調整して粒子成長用水溶液を形成して、核生成工程から引き続いて粒子成長工程を行っているので、粒子成長工程への移行を迅速に行うことができるという利点がある。さらに、核生成工程から粒子成長工程への移行は、反応水溶液のpHを調整するだけで移行でき、pHの調整も一時的にアルカリ水溶液の供給を停止することで容易に行うことができるという利点がある。なお、原料溶液のpHは、金属化合物を構成する酸と同種の無機酸、たとえば、硫酸塩の場合、硫酸を反応水溶液に添加することでも調整することができる。
【0072】
しかしながら、核生成用水溶液とは別に、粒子成長工程に適したpH、アンモニウムイオン濃度に調整された成分調整水溶液を形成しておき、この成分調整水溶液に、別の反応槽で核生成工程を行って生成した核を含有する水溶液(核生成用水溶液、好ましくは核生成用水溶液から液体成分の一部を除去したもの)を添加して反応水溶液とし、この反応水溶液を粒子成長用水溶液として粒子成長工程を行ってもよい。
【0073】
この場合、核生成工程と粒子成長工程の分離を、より確実に行うことができるので、それぞれの工程における反応水溶液の状態を、それぞれの工程に最適な条件とすることができる。特に、粒子成長工程の開始時点から、粒子成長用水溶液のpHを最適な条件とすることができる。粒子成長工程で形成されるニッケルマンガン含有複合水酸化物を、より粒径分布の範囲が狭く、かつ、均質なものとすることができる。
【0074】
(pH制御)
上述のように、核生成工程においては、反応水溶液の液温25℃基準でのpH値が、12.0〜14.0の範囲、好ましくは12.3〜13.5の範囲となるように制御する必要がある。pH値が14.0を超える場合、生成する核が微細になり過ぎ、反応水溶液がゲル化する問題がある。また、pH値が12.0未満では、核形成とともに核の成長反応が生じるので、形成される核の粒径分布の範囲が広くなり不均質なものとなってしまう。すなわち、核生成工程において、上述の範囲に反応水溶液のpH値を制御することで、核の成長を抑制してほぼ核生成のみを起こすことができ、形成される核も均質かつ粒径分布の範囲が狭いものとすることができる。
【0075】
一方、粒子成長工程においては、反応水溶液の液温25℃基準でのpH値が、核生成工程のpH値より低く、かつ10.5〜12.0の範囲、好ましくは11.0〜12.0の範囲となるように制御する必要がある。pH値が12.0を超える場合、あらたに生成される核が多くなり、微細二次粒子が生成するため、粒径分布が良好な水酸化物が得られない。また、pH値が10.5未満では、アンモニアイオンによる溶解度が高く、析出せずに液中に残る金属イオンが増えるため、生産効率が悪化する。すなわち、粒子成長工程において、上述の範囲に反応水溶液のpHを制御することで、核生成工程で生成した核の成長のみを優先的に起こさせ、新たな核形成を抑制することができ、得られるニッケルマンガン含有複合水酸化物を均質かつ粒径分布の範囲が狭いものとすることができる。
【0076】
核生成工程および粒子成長工程のいずれにおいても、pHの変動幅は、設定値の上下0.2以内とすることが好ましい。pHの変動幅が大きい場合、核生成と粒子成長が一定とならず、粒径分布の範囲の狭い均一なニッケルマンガン含有複合水酸化物が得られない場合がある。
【0077】
なお、pH値が12の場合は、核生成と核成長の境界条件であるため、反応水溶液中に存在する核の有無により、核生成工程もしくは粒子成長工程のいずれかの条件とすることができる。
【0078】
すなわち、核生成工程のpH値を12より高くして多量に核生成させた後、粒子成長工程でpH値を12とすると、反応水溶液中に多量の核が存在するため、核の成長が優先して起こり、粒径分布が狭く比較的大きな粒径のニッケルマンガン含有複合水酸化物が得られる。
【0079】
一方、反応水溶液中に核が存在しない状態、すなわち、核生成工程においてpH値を12とした場合、成長する核が存在しないため、核生成が優先して起こり、粒子成長工程のpH値を12より小さくすることで、生成した核が成長して良好なニッケルマンガン含有複合水酸化物が得られる。
【0080】
いずれの場合においても、粒子成長工程のpH値を核生成工程のpH値より低い値で制御すればよく、核生成と粒子成長を明確に分離するためには、粒子成長工程のpH値を核生成工程のpH値より0.5以上低くすることが好ましく、1.0以上低くすることがより好ましい。
【0081】
(核生成量)
核生成工程において生成する核の量は、小粒径かつ粒径分布が良好で、さらに球形度の高いニッケルマンガン含有複合水酸化物を得るために、全体量、つまり、複合水酸化物を得るための晶析反応の全体に供給する全金属塩の0.6mol%〜5.0mol%の範囲、好ましくは0.7mol%〜5.0mol%の範囲、より好ましくは0.8mol%〜4.5mol%の範囲である。これは、核生成工程と粒子成長工程に用いる原料溶液の供給量を調整することにより制御することができる。
【0082】
(金属化合物)
金属化合物としては、目的とする金属を含有する化合物を用いる。使用する化合物は、水溶性の化合物を用いることが好ましく、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩などがあげられる。たとえば、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンなどが好ましく用いられる。
【0083】
(攪拌所要動力)
本発明では、ニッケルマンガン含有複合水酸化物の粒径や球形度を、核生成工程におけるpHの制御、核生成のために投入した原料量とともに攪拌所要動力を制御することにより調整している。核生成工程における攪拌所要動力は、生成する核の凝集度合いに影響し、その後の粒子成長にも大きく影響する。メジアン径D50が1μm〜6μmの範囲であり、かつ球状性の高い粒子を得るためには、少なくとも核生成工程における反応水溶液の単位体積あたりの攪拌所要動力を、6.0kW/m〜30kW/m、好ましくは10kW/m〜25kW/mとなるように制御することが必要である。撹拌所要動力を制御することで、凝集による粗大粒子の生成が抑制されるとともに、一次粒子の成長も適度に調整されて粒子密度自体が向上して、正極活物質において、その充填密度が改善される。
【0084】
核生成工程における攪拌所要動力が6.0kW/m未満では、生成した核同士が凝集しやすくなり、粒径分布が広くなったり、粗大粒子が生成したりして、得られるニッケルマンガン含有複合水酸化物のメジアン径D50が6μmを超える場合がある。また、凝集すると成長後の粒子のモフォロジが崩れ、すなわち球状性が悪化するため、タップ密度の低下を招く。一方で、攪拌所要動力が30kW/mを超えると、攪拌による熱の発生のため槽内の核生成反応が不安定となったり、攪拌せん断力がほとんど変化せずに凝集抑制の効果も変わらなくなったりする。さらに、安全面の観点からも30kW/mを超えないようにする方が好ましい。粒子成長工程において攪拌所要動力は核生成工程と同様でよいが、ある程度成長させると凝集はほとんど起こらないため、核生成工程よりも小さい攪拌所要動力で反応させても問題はない。
【0085】
(原料溶液の濃度)
原料溶液の濃度は、金属化合物の合計で1mol/L〜2.6mol/L、好ましくは1.5mol/L〜2.2mol/Lとすることが好ましい。原料溶液の濃度が1mol/L未満では、反応槽あたりの晶析物量が少なくなるために生産性が低下して好ましくない。
【0086】
一方、原料溶液の塩濃度が2.6mol/Lを超えると、常温での飽和濃度を超えるため、結晶が再析出して設備の配管を詰まらせるなどの危険がある。
【0087】
また、金属化合物は、必ずしも原料溶液として反応槽に供給しなくてもよく、たとえば、混合すると反応して化合物が生成される金属化合物を用いる場合、全金属化合物水溶液の合計の濃度が上記範囲となるように、個別に金属化合物水溶液を調製して、個々の金属化合物の水溶液として所定の割合で同時に反応槽内に供給してもよい。
【0088】
(アンモニア濃度)
反応水溶液中のアンモニア濃度は、以下の問題を生じさせないために、好ましくは3g/L〜25g/Lの範囲、好ましくは5g/L〜20g/Lの範囲で一定値に保持する。
【0089】
アンモニアは錯化剤として作用するため、アンモニア濃度が3g/L未満であると、金属イオンの溶解度を一定に保持することができず、形状および粒径が整った板状の水酸化物一次粒子が形成されず、ゲル状の核が生成しやすいため粒径分布も広がりやすい。
【0090】
一方、上記アンモニア濃度が25g/Lを超える濃度では、金属イオンの溶解度が大きくなり過ぎ、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増えて、組成のずれなどが起きる。
【0091】
また、アンモニア濃度が変動すると、金属イオンの溶解度が変動し、均一な水酸化物が形成されないため、一定値に保持することが好ましい。たとえば、アンモニア濃度は、上限と下限の幅を5g/L程度として所望の濃度に保持することが好ましい。
【0092】
なお、アンモニウムイオン供給体については、特に限定されないが、たとえば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウムなどを使用することができる。
【0093】
(反応雰囲気)
核生成工程においては、反応槽内の雰囲気は酸素濃度が5体積%以下,好ましくは2体積%以下の非酸化性雰囲気とする。酸素濃度が5体積%より高くなると、粒子密度が低下するとともに、後に粒子成長を行っても、球形度の高い粒子が得られない。一方、粒子成長工程においても、反応槽内の雰囲気は同様に非酸化性雰囲気とする。酸素濃度が5体積%より高くなると、ニッケル、マンガンなどの金属の酸化が進み、疎な粒子となる。しかも、成長後の粒子のモフォロジが崩れ、タップ密度の高い粒子が得られない。
【0094】
(反応液温度)
反応槽内において、反応液の温度は、好ましくは20℃以上、特に好ましくは20〜60℃に設定する。反応液の温度が20℃未満の場合、溶解度が低いため核発生が起こりやすく制御が難しくなる。一方、60℃を超えると、アンモニアの揮発が促進されるため、所定のアンモニア濃度を保つために、過剰のアンモニウムイオン供給体を添加しなければならず、コスト高となる。
【0095】
(アルカリ水溶液)
反応水溶液中のpHを調整するアルカリ水溶液については、特に限定されるものではなく、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物水溶液を用いることができる。係るアルカリ金属水酸化物の場合、直接、反応水溶液中に供給してもよいが、反応槽内における反応水溶液のpH制御の容易さから、水溶液として反応槽内の反応水溶液に添加することが好ましい。
【0096】
また、アルカリ水溶液を反応槽に添加する方法についても、特に限定されるものではなく、反応水溶液を十分に攪拌しながら、定量ポンプなど、流量制御が可能なポンプで、反応水溶液のpH値が所定の範囲に保持されるように、添加すればよい。
【0097】
(製造設備)
本発明のニッケルマンガン含有複合水酸化物の製造方法では、反応が完了するまで生成物を回収しない方式の装置を用いる。たとえば、撹拌機が設置された通常に用いられるバッチ反応槽などである。このような装置を採用すると、一般的なオーバーフローによって生成物を回収する連続晶析装置のように、成長中の粒子がオーバーフロー液と同時に回収されるという問題が生じないため、粒径分布が狭く粒径の揃った粒子を得ることができる。
【0098】
また、反応雰囲気を制御する必要があるため、密閉式の装置などの雰囲気制御可能な装置を用いる。このような装置を用いることで、得られるニッケルマンガン含有複合水酸化物を上記構造のものとすることができるとともに、核生成反応や粒子成長反応をほぼ均一に進めることができるので、粒径分布の狭い粒子を得ることができる。
【0099】
(2−1)非水系電解質二次電池用正極活物質
本発明の正極活物質は、一般式:LiNiMn(0.95≦a≦1.15、x+y+z=1、0.1≦x≦0.7、0.1≦y≦0.5、0.1≦z≦0.5、Mは、Co、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の元素)で表され、層状構造を有する六方晶系の結晶構造を有するリチウムニッケルマンガン含有複合酸化物からなる。
【0100】
(組成)
本発明の正極活物質は、リチウムニッケルマンガン含有複合酸化物であるが、その組成が、一般式:LiNiMn(0.95≦a≦1.15、x+y+z=1、0.1≦x≦0.7、0.1≦y≦0.5、0.1≦z≦0.5、Mは、Co、Ti、V、Cr、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、およびWから選択される1種以上の元素)で表さるように調整される。
【0101】
本発明の正極活物質においては、リチウムの過剰量を示すaが、0.95〜1.15の範囲、好ましくは0.95〜1.07の範囲である。リチウムの過剰量aが0.95未満の場合、得られた正極活物質を用いた非水系電解質二次電池の充放電容量が低下する。さらに、反応抵抗が大きくなるため、二次電池の出力が低くなってしまう。一方、aの値が大きくなるに応じて充放電容量は増加するが、1.15を超える場合、焼成時に焼結や凝集が発生したり、マンガン酸リチウムなどの異相が形成されたりして、放電容量の低下につながることがある。
【0102】
(メジアン径D50)
本発明の正極活物質は、メジアン径D50が1μm〜6μmの範囲である。メジアン径D50が1μm未満の場合には、正極活物質の充填性が大きく低下し、単位重量あたりの電池容量を高くすることができない。一方、メジアン径D50が6μmを超えると、充填性は大きく悪化しないものの、サイクル特性の低下や比表面積が低下して、電解液との界面が減少することにより、正極の抵抗が上昇して二次電池の出力特性が低下する。
【0103】
したがって、本発明の正極活物質を、メジアン径D50が1μm〜6μm、好ましくは2μm〜5.5μmとなるように調整すれば、この正極活物質を正極に用いた二次電池では、正極活物質が高充填されて質量あたりの電池容量を大きくすることができるとともに、高いサイクル特性、高い安全性、高出力などに優れた電池特性が得られる。
【0104】
(粒径分布)
本発明の正極活物質は、その粒径分布の広がりを示す指標である〔(D90−D10)/D50〕が0.50以下、好ましくは0.45以下である。粒径分布が広範囲になっている場合、正極活物質に、メジアン径D50に対して粒径が非常に小さい微細粒子や、メジアン径D50に対して非常に粒径の大きい粗大粒子が多く存在することになる。微細粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合には、微細粒子の局所的な反応に起因して発熱する可能性があり、安全性が低下するとともに、微細粒子が選択的に劣化するのでサイクル特性が悪化してしまう。一方、粗大粒子が多く存在する正極活物質を用いて正極を形成した場合には、電解液と正極活物質との反応面積が十分に取れず、反応抵抗の増加による電池出力が低下する。
【0105】
したがって、正極活物質の粒径分布を前記指標〔(D90−D10)/D50〕が0.50以下とすることで、微細粒子や粗大粒子の割合を少なくすることができ、この正極活物質を正極に用いた電池は、安全性に優れ、良好なサイクル特性および電池出力を有するものとなる。なお、メジアン径D50や、D90、D10は、上述したニッケルマンガン含有複合水酸化物に用いられているものと同様のものであり、測定も同様にして行うことができる。
【0106】
前記指標は、小さいほど良好な電池特性が得られるが、ニッケルマンガン含有複合水酸化物と同様にその下限は0.1程度である。
【0107】
(粒子構造)
本発明の正極活物質は、図2に例示されるように、本発明のニッケルマンガン含有複合水酸化物と同様に、一次粒子が凝集して形成された二次粒子により構成される。粒子の球形度Ψは、好ましくは0.60〜0.98の範囲であり、より好ましくは0.70〜0.95の範囲である。粒子の球形度Ψを0.60〜0.98の範囲とすることで、正極活物質の充填性がより高いものとなり、高エネルギ密度が得られる。球形度が0.60未満あるいは0.98を超えると、充填性に乏しく、空隙を生じやすくなるために、高エネルギ密度が得られないことがある。球形度の測定には画像解析付きレーザ光回折散乱式粒度分析計や走査型電子顕微鏡写真を用いることができる。数十〜数百個程度の粒子を観察し、それらの球形度を算出して平均値を求めることにより得られる。
【0108】
(2−2)非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
本発明の正極活物質の製造方法は、上記平均粒径、粒径分布、粒子構造および組成となるように正極活物質を製造できるのであれば、特に限定されないが、以下の方法を採用すれば、該正極活物質をより確実に製造できるので、好ましい。
【0109】
本発明の正極活物質の製造方法は、(a)正極活物質の原料となるニッケルマンガン含有複合水酸化物とリチウム化合物を混合して混合物を形成する混合工程、(b)混合工程で形成された混合物を焼成する焼成工程を含むものである。以下、それぞれの工程を説明する。
【0110】
(a)混合工程
混合工程は、上記晶析工程で得られたニッケルコバルトマンガン含有複合水酸化物(前駆体)とリチウム化合物と混合してリチウム混合物を得る工程である。リチウム化合物には炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、塩化リチウムなどを選択することができるが、反応性や不純物混入の観点から、炭酸リチウム、水酸化リチウムを用いることが望ましい。リチウム化合物とニッケルコバルトマンガン含有複合水酸化物の混合には、たとえばシェーカミキサやレーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いることができ、ニッケルマンガン含有複合水酸化物の形骸が破壊されない程度で、リチウム化合物とニッケルマンガン含有複合水酸化物とが十分に混合されればよい。ニッケルコバルトマンガン含有複合水酸化物とリチウム化合物とは、リチウム混合物中の上記Li/Meが、0.95〜1.15となるように、混合される。つまり、リチウム混合物におけるLi/Meが、本発明の正極活物質におけるLi/Meと同じになるように混合される。これは、焼成工程前後で、Li/Meは変化しないので、この混合工程で混合するLi/Meが正極活物質におけるLi/Meとなるからである。
【0111】
(b)焼成工程
焼成工程は、前記混合工程で得られたリチウム混合物を熱処理してリチウム遷移金属複合酸化物を作製する。
【0112】
リチウム混合物の熱処理は、酸化性雰囲気中において、750℃〜1000℃の範囲の焼成温度で、5〜20時間保持して焼成することにより行われる。このとき、2段階で焼成を行ってもよく、1段階目の焼成温度は2段階目の焼成温度より低い温度であればよい。たとえば、2段目の焼成温度が900℃であれば、1段目の焼成温度は700℃〜800℃程度の任意の温度が選択される。
【0113】
焼成温度は、750℃〜1000℃、好ましくは780℃〜950℃の範囲、より好ましくは800℃〜900℃の範囲とし、保持時間は5時間〜10時間とすることが好ましい。焼成温度が750℃未満であると、前駆体中へのリチウムの拡散が十分に行われなくなり、余剰のリチウムや未反応の粒子が残ったり、結晶構造が不十分になったりして、十分な電池特性が得られないという問題が生じる。また、焼成温度が1000℃を超えると、形成されたリチウム複合酸化物間で激しく焼結が生じるとともに、異常粒成長を生じる可能性がある。異常粒成長が生じると、焼成後の粒子が粗大となってしまい、粒子形態を保持できなくなる可能性がある。その結果、正極活物質を形成したときに、比表面積が低下して正極の抵抗が上昇して電池容量が低下するという問題が生じる。また、カチオンミキシングが生じることで電池特性が低下する可能性がある。
【0114】
焼成に用いられる炉は、特に限定されるものではなく、大気ないしは酸素気流中でリチウム混合物を焼成できるものであればよいが、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の炉をいずれも用いることができる。
【0115】
焼成によって得られたリチウム複合酸化物は、粒子間の焼結は抑制されているが、弱い焼結や凝集により粗大な粒子を形成していることがある。このような場合には、解砕により上記焼結や凝集を解消して粒径分布を調整することが好ましい。
【0116】
(3)非水系電解質二次電池
本発明の非水系電解質二次電池は、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質を正極材料として用いた正極を採用したものである。まず、本発明の非水系電解質二次電池の構造を説明する。
【0117】
本発明の非水系電解質二次電池は、正極材料に本発明の正極活物質を用いたこと以外は、一般的な非水系電解質二次電池と実質的に同様の構造を備えている。
【0118】
具体的には、本発明の二次電池は、ケースと、このケース内に収容された正極、負極、非水系電解液およびセパレータを備えた構造を有している。より具体的にいえば、セパレータを介して正極と負極とを積層させて電極体とし、得られた電極体に非水系電解液を含浸させ、正極の正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極の負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、それぞれ集電用リードなどを用いて接続し、ケースに密閉することによって、本発明の二次電池は形成される。
【0119】
なお、本発明の二次電池の構造は、上記例に限定されないのはいうまでもなく、また、その外形も筒形や積層形など、種々の形状を採用することができる。
【0120】
(正極)
まず、本発明の二次電池の特徴である正極について説明する。正極は、シート状の部材であり、本発明の正極活物質を含有する正極合材ペーストを、たとえば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布乾燥して形成されている。
【0121】
なお、正極は、使用する電池にあわせて適宜処理される。たとえば、目的とする電池に応じて適当な大きさに形成する裁断処理や、電極密度を高めるためにロールプレスなどによる加圧圧縮処理等が行われる。
【0122】
前記正極合材ペーストは、正極合材に、溶剤を添加して混練して形成されたものである。正極合材は、粉末状になっている本発明の正極活物質と、導電材および結着剤とを混合して形成されたものである。
【0123】
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。この導電材は、特に限定されないが、たとえば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0124】
結着剤は、正極活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすものである。この正極合材に使用される結着剤は、特に限定されないが、たとえば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸などを用いることができる。
【0125】
なお、正極合材には、活性炭などを添加してもよく、活性炭などを添加することによって、正極の電気二重層容量を増加させることができる。
【0126】
溶剤は、結着剤を溶解して、正極活物質、導電材および活性炭などを結着剤中に分散させるものである。この溶剤は特に限定されないが、たとえば、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0127】
また、正極合材ペースト中における各物質の混合比は、特に限定されない。たとえば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様、正極活物質の含有量を60〜95質量部、導電材の含有量を1〜20質量部、結着剤の含有量を1〜20質量部とすることができる。
【0128】
(負極)
負極は、銅などの金属箔集電体の表面に、負極合材ペーストを塗布し、乾燥して形成されたシート状の部材である。この負極は、負極合材ペーストを構成する成分やその配合、集電体の素材などは異なるものの、実質的に前記正極と同様の方法によって形成され、正極と同様に、必要に応じて各種処理が行われる。
【0129】
負極合材ペーストは、負極活物質と結着剤とを混合した負極合材に、適当な溶剤を加えてペースト状にしたものである。
【0130】
負極活物質は、たとえば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質や、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる吸蔵物質を採用することができる。
【0131】
吸蔵物質は、特に限定されないが、たとえば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。係る吸蔵物質を負極活物質に採用した場合には、正極同様に、結着剤として、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、負極活物質を結着剤中に分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
【0132】
(セパレータ)
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解質を保持する機能を有している。係るセパレータは、たとえば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されない。
【0133】
(非水系電解液)
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0134】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート;また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート;さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物;エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物;リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を、単独で、あるいは2種以上を混合して、用いることができる。
【0135】
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
【0136】
なお、非水系電解液は、電池特性改善のため、ラジカル捕捉剤、界面活性剤、難燃剤などを含んでいてもよい。
【0137】
(本発明の非水系電解質二次電池の特性)
本発明の非水系電解質二次電池は、上記構成であり、本発明の正極活物質を用いた正極を有しているので、高い初期放電容量、優れたサイクル特性を有する。しかも、従来のリチウムニッケル系酸化物の正極活物質との比較においても、充填性が高いため、エネルギ密度が高いといえる。
【実施例】
【0138】
(実施例1)
[ニッケルマンガン含有複合水酸化物の製造]
ニッケルマンガン含有複合水酸化物を、以下に示す方法により作製した。なお、全ての実施例において、和光純薬工業株式会社製試薬(特級)を原料として用い、ニッケルマンガン含有複合水酸化物、正極活物質、および二次電池を作製した。
【0139】
(核生成工程)
まず、反応槽(6L)内に、水を1.2L入れて撹拌しながら、槽内温度を42℃に設定した。このときの反応槽内は、非酸化性雰囲気(酸素濃度:1体積%)とした。この反応槽内の水に、25質量%水酸化ナトリウム水溶液と25質量%アンモニア水を適量加えて、槽内の反応液の液温25℃基準でのpH値が13.2となるように、さらに、そのアンモニア濃度が13g/Lとなるように調節して、反応前水溶液とした。
【0140】
次に、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを水に溶かして2.0mol/Lの原料溶液を2.5L調製した。この原料溶液では、各金属元素のモル比が、Ni:Co:Mn=54:20:26となるように調整した。
【0141】
この原料溶液を、攪拌所要動力を21kW/mの下で、反応槽内の反応前水溶液に12.5mL/minの割合で0.1L(核生成工程において、晶析工程に用いる原料溶液の全液量のうち4.0%)加えて、反応水溶液とした。同時に、25質量%アンモニア水および25質量%水酸化ナトリウム水溶液も、この反応水溶液に一定速度で加えていき、核生成用水溶液中のアンモニア濃度を上記値に保持した状態で、25℃基準でのpH値を13.0(核生成pH値)に制御しながら、8分間晶析させて核生成を行った。
【0142】
(粒子成長工程)
核生成終了後、反応水溶液の液温25℃基準でのpH値が11.6になるまで、25質量%水酸化ナトリウム水溶液の供給のみを一時停止した。
【0143】
反応水溶液の25℃基準でのpH値が11.6に到達した後、攪拌所要動力を6.0kW/mに調節し、反応水溶液(粒子成長用水溶液)に、再度、25質量%水酸化ナトリウム水溶液の供給を再開し、アンモニア濃度を13g/Lに保持し、かつ、液温25℃基準でのpH値を11.6、に制御したまま、原料溶液2.4Lを12.5mL/minの割合で加えていき、全量を供給して晶析を行った後、晶析を終了させた。そして、生成物を水洗、濾過、乾燥させてニッケルマンガン含有複合水酸化物を得た。なお、上記核生成工程に使用した原料溶液の割合は、4.0%となる。上記晶析において、pHは、pHコントローラにより水酸化ナトリウム水溶液の供給流量を調整することで制御され、変動幅は設定値の上下0.2の範囲内であった。
【0144】
(複合水酸化物の分析)
得られた複合水酸化物について、その試料を無機酸により溶解した後、ICP発光分光法により化学分析を行ったところ、その組成は、Ni0.54Co0.20Mn0.26(OH)であった。
【0145】
また、このニッケルマンガン含有複合水酸化物について、メジアン径D50、および粒径分布を示す〔(D90−D10)/D50〕値を、レーザ回折散乱式粒径分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)を用いて測定した体積積算値から算出して求めた。その結果、メジアン径D50は2.9μmであり、〔(D90−D10)/D50〕値は、0.40であった。
【0146】
次に、得られたニッケルマンガン含有複合水酸化物の形状をSEM(株式会社日立ハイテクノロジース製、走査電子顕微鏡S−4700)を用いて観察を行ったところ、略球状であり、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。SEMによる観察結果を図1に示す。上記SEM像から粒子のワーデル球形度の算出を行い、タッピングマシン(蔵元科学器械製、KRS−406)により、JIS2512:2012によるタップ密度を求めた。その結果、ワーデル球形度は0.85であり、タップ密度は1.71g/cmであった。
【0147】
(正極活物質の製造)
(1)混合工程
得られたニッケルコバルトマンガン含有複合水酸化物と、炭酸リチウムとを、Li/Meが1.05になるように秤量した後、前駆体の形骸が維持される程度の強さでシェーカミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製、TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合してリチウム混合物を得た。
【0148】
(2)焼成工程
このリチウム混合物をマグネシア製の焼成容器に挿入し、密閉式電気炉を用いて、流量10L/分の大気雰囲気中で昇温速度2.77℃/分で700℃まで昇温して2時間保持し、1段目の焼成を行った。その後、同様の昇温速度で850℃まで昇温して5時間保持し、2段目の焼成を行った後、室温まで炉冷し、正極活物質として、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を得た。
【0149】
(正極活物質の分析)
ニッケルマンガン含有複合水酸化物と同様の方法で、得られた正極活物質の粒径分布を測定したところ、メジアン径D50は3.0μmであり、〔(D90−D10)/D50〕値は、0.41であった。
【0150】
また、ニッケルマンガン含有複合水酸化物と同様の方法で、SEMにより正極活物質の観察を行ったところ、得られた正極活物質は、略球状であり、粒径がほぼ均一に揃っていることが確認された。この正極活物質のSEM観察結果を図2に示す。得られた正極活物質について、SEM像から粒子のワーデル球形度の算出を行い、タッピングマシン(蔵元科学器械製、KRS−406)により、JIS2512:2012によるタップ密度を求めた。その結果、ワーデル球形度は0.73であり、タップ密度は2.18g/cmであった。
【0151】
また、得られた正極活物質について、X線回折装置(スペクトリス社製、X’Pert PRO)を用いて、Cu−Kα線による粉末X線回折で分析したところ、この正極活物質の構成組織および結晶構造は、六方晶の層状結晶リチウムニッケルマンガン含有複合酸化物の単相であることを確認した。
【0152】
さらに、同様にICP発光分光法により、正極活物質の組成分析を行ったところ、組成はLi1.05Ni0.54Co0.20Mn0.26であることを確認した。
【0153】
(二次電池の製造)
得られた正極活物質の評価には、2032型コイン電池を使用した。図3に示すように、このコイン型電池1は、ケース2と、このケース2内に収容された電極3とから構成されている。
【0154】
ケース2は、中空かつ一端が開口された正極缶2aと、この正極缶2aの開口部に配置される負極缶2bとを有しており、負極缶2bを正極缶2aの開口部に配置すると、負極缶2bと正極缶2aとの間に電極3を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0155】
電極3は、正極3a、セパレータ3cおよび負極3bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極3aが正極缶2aの内面に接触し、負極3bが負極缶2bの内面に接触するようにケース2に収容されている。
【0156】
なお、ケース2は、ガスケット2cを備えており、このガスケット2cによって、正極缶2aと負極缶2bとの間が電気的に絶縁状態を維持するように固定されている。また、ガスケット2cは、正極缶2aと負極缶2bとの隙間を密封して、ケース2内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0157】
このコイン型電池1を、以下のようにして作製した。まず、得られた正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極3aを作製した。作製した正極3aを、真空乾燥機中、120℃で12時間乾燥した。この正極3aと、負極3b、セパレータ3cおよび電解液とを用いて、コイン型電池1を、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0158】
なお、負極3bには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれた平均粒径20μm程度の黒鉛粉末と、ポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。また、セパレータ3cには、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiClOを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0159】
(電池評価)
得られたコイン型電池1の性能を評価する、初期放電容量、サイクル容量維持率、正極抵抗は、以下のように定義される。
【0160】
初期放電容量は、コイン型電池1を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(opencircuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cmとしてカットオフ電圧4.3Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量である。
【0161】
サイクル容量維持率は、60℃、正極に対する電流密度を2mA/cmとして、4.1Vまで充電して3.0Vまで放電を行うサイクルを500回繰り返し、充放電を繰り返した後の放電容量と初期放電容量の比を計算して容量維持率とした。充放電容量の測定には,マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
【0162】
また、正極抵抗は、以下のようにして評価した。コイン型電池1を充電電位4.1Vで充電して、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製、1255B)を使用して、交流インピーダンス法により測定すると、図4に示すナイキストプロットが得られる。このナイキストプロットは、溶液抵抗、負極抵抗とその容量、および、正極抵抗とその容量を示す特性曲線の和として表しているため、このナイキストプロットに基づき等価回路を用いてフィッティング計算して、正極抵抗の値を算出した。
【0163】
上記正極活物質を用いて形成された正極を有するコイン型電池について、電池評価を行ったところ、初期放電容量は179.1mAh/gであり、正極抵抗は2.3Ωであった。また、500サイクル後の容量維持率は81.0%であった。
【0164】
本実施例により得られたニッケルマンガン含有複合水酸化物の特性を表1に、正極活物質の特性およびこの正極活物質を用いて製造したコイン型電池の各評価を表2に、それぞれ示す。
【0165】
また、以下の実施例1〜4および比較例1〜9で得られる結果についても同様に、表1および表2に示す。
【0166】
(実施例2)
ニッケルマンガン含有複合水酸化物製造工程における核生成工程において、槽内の反応液のpH値を13.0としたこと以外は、実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0167】
(実施例3)
ニッケルマンガン含有複合水酸化物製造工程における核生成工程において、反応槽内の反応前水溶液に加える原料溶液量を0.05L(核生成工程において、晶析工程に用いる原料溶液の全液量のうち2.0%)としたこと以外は、実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0168】
(実施例4)
ニッケルマンガン含有複合水酸化物製造工程における粒子成長工程において、槽内の反応液のpH値を11.8としたこと以外は、実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0169】
(比較例1)
ニッケルマンガン含有複合水酸化物製造工程における核生成工程において、反応槽内の反応前水溶液に加える原料溶液量を0.0125L(核生成工程において、晶析工程に用いる原料溶液の全液量のうち0.5%)としたこと以外は、実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0170】
(比較例2)
ニッケルマンガン含有複合水酸化物製造工程における核生成工程において、反応槽内の反応前水溶液に加える原料溶液量を0.625L(核生成工程において、晶析工程に用いる原料溶液の全液量のうち25%)としたこと以外は、実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0171】
(比較例3)
ニッケルマンガン含有複合水酸化物製造工程における核生成工程において、反応槽内の酸素濃度を8体積%としたこと以外は実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0172】
(比較例4)
ニッケルマンガン含有複合水酸化物製造工程における核生成工程において、槽内の反応液の25℃基準でのpH値を11.0としたこと以外は、実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0173】
(比較例5)
ニッケルマンガン含有複合水酸化物製造工程における粒子成長工程において、槽内の反応液の25℃基準でのpH値を10.0としたこと以外は、実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0174】
(比較例6)
ニッケルマンガン含有複合水酸化物製造工程における核生成工程において、攪拌所要動力を4.0kW/mとしたこと以外は、実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0175】
(比較例7)
正極活物質製造工程における焼成工程において、前駆体として実施例1で作製したニッケルマンガン含有複合水酸化物を用いて、Li/Meを0.92としたこと以外は、実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0176】
(比較例8)
正極活物質製造工程における焼成工程において、前駆体として実施例1で作製したニッケルマンガン含有複合水酸化物を用いて、1段目および2段目の焼成温度を730℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0177】
(比較例9)
正極活物質製造工程における焼成工程において、前駆体として実施例1で作製したニッケルマンガン含有複合水酸化物を用いて、2段目の焼成温度を1050℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、非水系電解質二次電池用正極活物質を得るとともに評価を行った。
【0178】
【表1】
【0179】
【表2】
【0180】
(評価)
実施例1〜4のニッケルマンガン含有複合水酸化物は、メジアン径D50および粒径分布の広がりを示す指標である(D90−D10)/D50〕値のいずれもが、好ましい範囲にあり、粒径分布も所定範囲であるため、ほぼ均一な粒径を有する粒子となっている。さらに、ワーデル球形度が大きく、タップ密度についても小粒径ではあるが高く、高エネルギ密度を示す正極活物質の前駆体として最適な粒子となっている。
【0181】
また、本発明の正極活物質も、メジアン径D50、〔(D90−D10)/D50〕値が好ましい範囲にあり、高いタップ密度、球形度を有しており、充填性に優れた粒子となっている。これらの正極活物質を用いたコイン型電池は、初期放電容量および効率が高く、サイクル特性に優れ、さらには正極抵抗も低いものとなっており、優れた特性を有している。
【0182】
一方、比較例1は、核生成工程での原料溶液量の比率が小さいため、生成する核の量が少なくなった結果、メジアン径D50が大きい。また、球形度についても好ましい範囲よりも小さな値となっている。このため、得られた正極活物質もメジアン径D50が大きく、初期放電容量および効率が低く、粒径が増大したことに伴う比表面積の低下により、抵抗についても上昇がみられる。さらに、サイクル特性についても悪化がみられる。
【0183】
比較例2では、核生成工程での原料溶液量の比率が多いため、生成する核の量は多くなるものの凝集が起こり、結果的に実質的な核の量が少なくなる。このため、粒子成長後のメジアン径D50が大きくなり、かつ凝集粒子であるため、球形度が低下している。このため、得られた正極活物質も、球形度が低く、メジアン径D50が大きいにも関わらず、タップ密度が低くなっている。メジアン径D50が大きいため初期放電容量および効率が低く、粒径が増大したことに伴う比表面積の低下により、抵抗についても上昇がみられる。さらに、サイクル特性についても悪化がみられる。
【0184】
比較例3では、晶析工程における酸素濃度を高くしたため、金属元素(特に、マンガン)の酸化が起こり、板状の一次粒子が生成している。この結果、タップ密度が著しく低下した粒子となっている。このため、得られた正極活物質も、タップ密度が低く、高いエネルギ密度を得られにくい形態となっている。また、一次粒子が大きいため、比表面積の低下により、抵抗についても上昇がみられ、容量についても低くなっている。さらに、サイクル特性についても悪化がみられる。
【0185】
比較例4では、核生成工程のpHを低くしたため、生成する核の量が少なくなり、球状性の悪い凝集した核が生成したため、粒子成長後のメジアン径D50が大きくなり、球形度も低い。このため、得られた正極活物質も、メジアン径D50が大きいにも関わらず、タップ密度が低くなっている。また、メジアン径D50が大きいため初期放電容量および効率が低く、粒径が増大したことに伴う比表面積の低下により、抵抗についても上昇がみられる。さらに、サイクル特性についても悪化がみられる。
【0186】
比較例5では、粒子成長工程のpHが低いため、メジアン径D50が大きく、粒径分布の広い粒子となっている。また、低いpH領域で成長させているため、球形度については高い値を示している。このため、得られた正極活物質についても、メジアン径D50が大きく、粒径分布の広い粒子となっている。また、タップ密度は高いものの、粒径分布が広いために、初期放電容量および効率が低く、粒径が増大したことに伴う比表面積の低下により、抵抗についても上昇がみられる。さらに、サイクル特性についても悪化がみられる。
【0187】
比較例6では、核生成工程の攪拌所要動力が小さいため、メジアン径D50が大きく、粒径分布の広い粒子となっている。また、核生成工程において凝集が起こっているため球形度の低い粒子となっている。このため、得られた正極活物質についても、メジアン径D50が大きく、粒径分布の広い粒子となっている。また、球形度も低くなっている。加えて、初期放電容量および効率が実施例と比較すると低く、粒径が増大したことに伴う比表面積の低下により、抵抗についても上昇がみられる。さらに、サイクル特性についても悪化がみられる。
【0188】
比較例7は、Li/Me比が低いために、結晶性の低い正極活物質となっている。このため、初期放電容量および効率が低く、抵抗についても上昇がみられる。さらに、サイクル特性についても悪化がみられる。
【0189】
比較例8は、焼成温度が低いために、極めて結晶性の低い正極活物質となっている。このため、タップ密度が低く、初期放電容量および効率が著しく低いものとなっている。極めて低い結晶性のために、反応抵抗が大きく、サイクル特性についても悪化がみられる。
【0190】
比較例9は、焼成温度が高いために、焼結および凝集が進み、さらにはカチオンミキシングが起こっている。このため、メジアン径D50が大きく、粒径分布が広くなっており、球形度が低いためにタップ密度も極めて低い。また、初期放電容量および効率が極めて低く、抵抗も著しく大きい。さらに、サイクル特性についても大きな悪化がみられる。
【0191】
以上の実施例1〜4、および比較例1〜9の結果から、本発明により得られる有利な効果は明らかである。
【符号の説明】
【0192】
1 コイン型電池
2 ケース
2a 正極缶
2b 負極缶
2c ガスケット
3 電極
3a 正極
3b 負極
3c セパレータ


図1
図2
図3
図4