(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記被覆層がSi、Al、Ti、Nb、Zr、Sn、Ta、Wから選択された1種以上の元素を含有する窒素酸化物を含むことを特徴とする請求項1または3に記載の透光性基板。
前記被覆層がSi、Al、Ti、Nb、Zr、Sn、Ta、Wから選択された1種以上の元素を含有する窒化物を含むことを特徴とする請求項1、3、4のいずれか一項に記載の透光性基板。
前記透明導電膜は、前記ガラス基板に近い側から前記ガラス基板から遠い側に向かって、酸化の程度が連続的にまたは不連続に低下する、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の透光性基板。
前記被覆層がSi、Al、Ti、Nb、Zr、Sn、Ta、Wから選択された1種以上の元素を含有する酸化物を含むことを特徴とする請求項13に記載の透光性基板の製造方法。
前記被覆層がSi、Al、Ti、Nb、Zr、Sn、Ta、Wから選択された1種以上の元素を含有する窒素酸化物を含むことを特徴とする請求項13または15に記載の透光性基板の製造方法。
前記被覆層がSi、Al、Ti、Nb、Zr、Sn、Ta、Wから選択された1種以上の元素を含有する窒化物を含むことを特徴とする請求項13、15、16のいずれか一項に記載の透光性基板の製造方法。
前記透明導電膜を成膜するステップにおいて、前記透明導電膜は、前記ガラス基板に近い側の方が、前記ガラス基板から遠い側に比べて酸化の程度が高い状態となるように成膜されていることを特徴とする請求項14に記載の透光性基板の製造方法。
前記透明導電膜を成膜するステップにおいて、前記透明導電膜は、前記ガラス基板に近い側から前記ガラス基板から遠い側に向かって、酸化の程度が連続的にまたは不連続に低下する、請求項13乃至18のいずれか一項に記載の透光性基板の製造方法。
前記透明導電膜を成膜するステップにおいて、前記透明導電膜は、2nm〜500nmの厚さを有する、請求項13乃至19のいずれか一項に記載の透光性基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して、本発明について詳しく説明する。
【0036】
なお、本実施の形態では、透明導電膜としてITO膜を用いた例により説明しているが、ITO膜だけではなく各種透明導電膜を成膜する際には、Bi等を含有するガラス基板や散乱層に着色を生じる恐れがある。このため、本実施形態の透光性基板においては、ITO膜に限定されるものではなく、ITO膜にかえて各種透明導電膜を適用できる。そして、ITO膜にかえて透明導電膜を適用した場合においても、透明導電膜はITO膜を例に説明した各種条件(パラメータ)を充足することが好ましい。すなわち、以下の本文中の「ITO膜」、「ITO層」は「透明導電膜」、「透明導電層」に読み替えることができる。
【0037】
透明導電膜としては上述のITO膜に加えて、例えばSnO
2(酸化スズ)膜、GZO(ガリウム亜鉛酸化物)膜、IZO(インジウム亜鉛酸化物)膜、AZO(AlドープZnO)膜、TaドープSnO
2膜、およびTiドープIn
2O
3膜等が挙げられる。
【0038】
(第1の透光性基板)
図1には、本発明の一形態による第1の透光性基板の概略的な断面図を示す。
【0039】
図1に示すように、本発明の一形態による第1の透光性基板100は、ガラス基板110と、該ガラス基板110上に形成された被覆層120と、該被覆層120上に形成されたITO膜130とを有している。
【0040】
ガラス基板110は、ビスマス(Bi)、チタン(Ti)、およびスズ(Sn)のうちの少なくとも一つの元素を含む。
【0041】
そして、ガラス基板110上には、すなわち、ガラス基板110と、ITO膜130との間には被覆層120が設けられている。被覆層120は、乾式の成膜方法により成膜された膜となっている。
【0042】
ここで、このような被覆層120の効果について説明する。
【0043】
本願発明者らの検討によれば、ガラス基板の上にITO膜を形成した際、しばしば、ガラス基板に着色が生じることが認められている。このようなガラス基板の着色は、透光性基板、さらには有機LED素子の特性に大きな影響を及ぼす。例えば、着色が生じたガラス基板を備える有機LED素子では、使用時に、有機発光層において生じた光が素子内部で吸収されてしまい、光の取り出し効率が大きく低下してしまうという問題が生じ得る。
【0044】
なお、国際公開第2009/017035号の段落[0130]に、散乱層ベース材の透過率と有機LED素子における光取り出し効率の関係が示されており、散乱層の吸収が強くなるに従って、有機LEDの光取り出し効率が低下することが示されている。したがって、本実施形態の透光性基板においては、ガラス基板や後述する散乱層の着色を抑制し、ガラス基板や散乱層の吸収を抑制することによって、有機LED素子からの光の取り出し効率を向上することができる。
【0045】
このようなガラス基板の着色は、ガラス基板に特定の成分が含まれている場合、より具体的には、ガラス基板中に、ビスマス(Bi)、チタン(Ti)、およびスズ(Sn)のうちの少なくとも一つの元素(以下、これらの元素をまとめて「被還元性元素」と称する)が含まれている場合に、生じる傾向にある。
【0046】
一方、通常、ITO膜を成膜する際の雰囲気は、比較的酸素の少ない雰囲気となっている。これは、「酸素過剰」な雰囲気下でITO膜を成膜すると、得られるITO膜の導電性が低下してしまい、素子の電極として使用することが難しくなるからである。
【0047】
これらの事実から考察すると、ガラス基板の着色は、ガラス基板上にITO膜を成膜する際に、ガラス基板の晒される環境が酸素欠乏となることに起因しているものと考えられる。すなわち、ITO膜の成膜過程において、ガラス基板の近傍が酸化性の弱い雰囲気となるため、ガラス基板中の被還元性元素が還元され、これにより、ガラス基板が着色するものと考えられる。
【0048】
以上の考察に基づき、本発明では、ガラス基板110の、ITO膜130と対向する面に乾式の成膜方法により成膜された被覆層120を設けている。
【0049】
湿式の成膜方法により成膜された膜は、乾燥工程等において溶媒(分散媒)が蒸発するため膜内に微細な孔を有する。これに対して、乾式の成膜方法により成膜された膜は、溶媒(分散媒)の蒸発を伴わないため、緻密な膜とすることができる。
【0050】
そして、このような緻密な膜である被覆層120をガラス基板110のITO膜130と対向する面に設けておくことにより、ITO膜130を成膜する際の雰囲気による、ガラス基板110に含まれる被還元性元素の還元反応を抑制することができる。これは、被覆層120がバリア層として機能するためと考えられる。
【0051】
このように、乾式の成膜方法により成膜された被覆層120を設けることにより、ITO膜130を成膜する際の雰囲気である酸化性の弱い雰囲気と、ガラス基板110に含まれる被還元性元素とが接触する確率を低減できる。このため、ガラス基板110の着色の発生を有意に抑制することが可能になる。また、被覆層120は、例えば、ITO膜130のパターン処理の際などにおいて、ガラス基板110の溶出や劣化等を防止する耐エッチングバリアとしても機能する。
【0052】
ここで、被覆層120を形成する際の乾式の成膜方法については特に限定されるものではないが、例えば、スパッタ法やプラズマCVD法を挙げることができる。なお、スパッタ法により被覆層120を形成する場合、その成膜する際の雰囲気として、アルゴンおよび/または酸素を含む雰囲気中で成膜できる。特に生産性の観点から、アルゴンを含む雰囲気中で成膜を行うことが好ましい。なお、この場合、成膜した被覆層120には雰囲気中のアルゴンが混入することから、得られる被覆層は、アルゴンを含む膜とすることができる。
【0053】
ガラス基板等に着色が生じる問題はITO膜の成膜に特有の問題であるため、被覆層120の成膜の際の雰囲気中の酸素濃度は特に問題とならない。ただし、被覆層120を成膜する過程においてもガラス基板110に着色が生じることを確実に防止するため、酸素を含む雰囲気下で被覆層120の成膜を行うことが好ましい。例えば被覆層120を成膜する際の雰囲気中の酸素濃度を10vol%以上とすることが好ましく、15vol%以上とすることがより好ましい。なお、酸素濃度の上限値は特に限定されるものではなく、成膜する被覆層の材料等により選択することができる。例えば90vol%以下とすることが好ましく、80vol%以下とすることがより好ましい。
【0054】
また、被覆層120については上述のように乾式の成膜方法により成膜されていればよく、その材質や構成は特に限定されるものではない。また、被覆層120は1種類の物質のみから構成されている必要はなく、複数の物質が含まれていてもよい。また、複数の層から構成することもできる。例えば、被覆層120は、Si、Al、Ti、Nb、Zr、Sn、Ta、Wから選択された1種以上の元素を含有する酸化物を含むことができる。また、被覆層120は、Si、Al、Ti、Nb、Zr、Sn、Ta、Wから選択された1種以上の元素を含有する窒素酸化物を含むことができる。また、被覆層120は、Si、Al、Ti、Nb、Zr、Sn、Ta、Wから選択された1種以上の元素を含有する窒化物を含むことができる。
【0055】
また、被覆層120は、充填率が例えば85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。この場合の上限値は特に限定されず、例えば100%以下とすることができる。被覆層120の充填率が上記範囲の場合、特に、ITO膜130を成膜する際の雰囲気による、ガラス基板110に含まれる被還元性元素の還元反応を抑制することができるため好ましい。
【0056】
なお、ここで、充填率とは、実測密度を、被覆層の組成から算出した理論密度で除し、100倍することにより算出できる。例えば、X線反射率測定器を用いて測定した膜の実測密度を、膜の組成から算出した理論密度で除し、得られた値を100倍することにより算出できる。被覆膜の密度測定に当たって、膜厚方向の密度変化がある場合は、膜中で最も高い密度を該被覆膜の実測密度とすることができる。
【0057】
また、被覆膜120のITO膜130を積層する面については表面粗さ(算術平均粗さ)Raは2.0nm以下であることが好ましく、1.0nm以下であることがより好ましい。なお下限値については特に限定されず、例えば0nm以上であればよい。
【0058】
表面粗さRaが上記範囲の場合、被覆層120のITO膜130を積層する面が平滑であることを示しており、ITOの結晶核が良好に成長するため好ましい。
【0059】
また、被覆層120の屈折率は、ガラス基板110の屈折率に近い方が好ましい。これはガラス基板110の屈折率と被覆層120の屈折率の差が大きい場合には、被覆層120の膜厚バラツキにより、有機LEDの発光色が干渉の影響を受けてばらつく場合があるためである。一方ガラス基板110の屈折率と被覆層120の屈折率が近い場合には、被覆層120の膜厚ばらつきがあっても干渉条件が変化しない為、有機LEDの発光色は変動を受けないためである。波長550nmの光に対する、ガラス基板110の屈折率と被覆層120の屈折率の差は、マイナス0.15以上プラス0.15以下であることが好ましく、マイナス0.1以上プラス0.1以下であることがより好ましく、マイナス0.05以上プラス0.05以下であることがさらに好ましい。
【0060】
被覆層は、ITO膜のエッチング液(例えば塩酸50at%と塩化第二鉄50at%混合液)に対して侵食されにくい性質を有することが好ましい。これは、ITOのパターニングの際に被覆層が侵食されてしまうと、散乱層のベース材やガラス基板もエッチング液に侵食されて、素子として使用できなくなるおそれがあるためである。そのため、被覆層は酸化亜鉛等の酸性液に溶けやすい材料は適さない。
【0061】
ITO膜130は、第1の透光性基板100から完成製品、例えば有機LED素子が構成された際に、一方の電極(陽極)として機能する。
【0062】
ITO膜130は、前記ガラス基板110に近い側にある第1の表面132と、前記ガラス基板110から遠い側にある第2の表面134とを有する。
【0063】
本実施形態において、ITO膜130の構成は特に限定されるものではなく、例えば、上述のように、所定の導電性を得るために比較的酸素の少ない雰囲気において成膜してもよい。これは、本実施形態の第1の透光性基板は上述の被覆層120を設けているため、ITO膜130の成膜条件によらずガラス基板の着色を抑制できるためである。
【0064】
ITO膜130としては、上述のように、比較的酸素の少ない雰囲気において成膜してもよく、ITO膜130を成膜する際に成膜条件を変化させずに略均一な組成を有するITO膜130とすることができる。また特に、ITO膜130は、第1の表面132側が第2の表面134側に比べて、酸化度合い(酸化の程度)が高い状態とすることが好ましい。この場合、第2の表面134側での導電性は、第1の表面132側よりも高くなる。
【0065】
ここで、ITO膜130の第1の表面132側が第2の表面134側に比べて、酸化度合い(酸化の程度)が高い状態とした場合の効果について説明する。
【0066】
上述のように、通常、ITO膜を成膜する際の雰囲気は、比較的酸素の少ない雰囲気となっており、従来は係る雰囲気に起因してガラス基板が着色していたと考えられる。これについて本実施形態の第1の透光性基板においては、所定の被覆層120を設けることにより、ガラス基板の着色を抑制している。
【0067】
そして、上述のように、ITO膜130の第1の表面132側が第2の表面134側に比べて、酸化度合い(酸化の程度)が高い状態とする場合、ITO膜の成膜過程において、初期の段階では、成膜雰囲気を従来よりも「酸素過剰」な条件とすることとなる。これにより、成膜の際のガラス基板の近傍の雰囲気がより強い酸化性となり、ガラス基板中の被還元性元素の還元を特に抑制できる。その結果、上記被覆層120の働きとあわせて、ガラス基板の着色をより抑制することができる。
【0068】
ただし、ITO膜全体をそのような「酸素過剰」な条件で成膜してしまうと、今度は、前述のように、ITO膜の抵抗が高くなってしまい、ITO膜を素子の電極として使用することができなくなってしまう。
【0069】
このため、初期の「酸素過剰」な条件下での成膜によって、「酸化の程度が高い」ITO膜部分(以降、「第1のITO部分」136と称する)が形成された以降は、成膜条件を例えば通常のものに戻し、「酸化の程度が低い」ITO膜部分(以降、「第2のITO部分」138と称する)を形成し、ITO膜全体を構成することが好ましい。
【0070】
このような方法でITO膜130を形成した場合、被覆層120に加えて第1のITO部分136も、第2のITO部分138を成膜する際に、ガラス基板110に含まれる被還元性元素の還元反応に対するバリア層として機能する。このため、従来のような酸素欠乏環境で第2のITO部分138を成膜しても、ガラス基板110中の被還元性元素が還元されることを特に抑制することができる。その結果、ガラス基板110の着色がより有意に抑制される。
【0071】
またこの場合、第2のITO部分138は、第1のITO部分136に比べて導電性が高くなっているため、これにより、ITO膜130全体としての抵抗上昇を抑制できる。
【0072】
従って、成膜条件を変化させることなくITO膜130を成膜した場合と比較して、ガラス基板110の着色をより抑制し、ITO膜130の抵抗上昇も抑制することが可能となる。
【0073】
上述のように、ITO膜130が、酸化の程度が高い第1のITO部分136および酸化の程度が低い第2のITO部分138を有する場合において、第1のITO部分136から第2のITO部分138までの間の酸化の程度の変化の態様は、特に限定されない。
【0074】
例えば、ITO膜130の酸化の程度は、第1の表面132から第2の表面134まで、連続的に変化しても良く、または不連続に(例えばステップ状に)変化しても良く、連続部分と不連続部分を組み合わせた態様で変化しても良い。また、酸化の程度が連続的に変化する場合、その変化は、直線的であっても曲線的であっても良い。あるいは、第1のITO部分136と第2のITO部分138との間に、酸化の程度が最も低い、第3のITO部分が存在しても良い。
【0075】
さらに言えば、第1のITO部分136および第2のITO部分138という表現は、単なる便宜的なものに過ぎず、両者は、必ずしも明確に識別できる必要はない。
【0076】
なお、ここまでの説明で用いてきた、ITO膜の「酸化の程度」および「酸化度合い」という用語は、2つの比較対象の間の差異を表現するために相対的に使用される指標であることに留意する必要がある。
【0077】
ITO膜130の「酸化度合い」は、例えば、2つの比較対象のそれぞれに対して、X線光電子分光法(XPS)分析を行うことにより、相対的に評価できる。
【0078】
ITO膜130の抵抗率は特に限定されるものではないが、例えば、2.38×10
−4Ωcm未満であっても良い。
【0079】
なお、ここでいうITO膜130の抵抗率とは、ITO膜130全体での抵抗率を意味している。従って、成膜条件を変化させずに成膜され略均一な組成を有する構成の場合であっても、ITO膜内での酸化の程度が異なった構成(均一ではない構成)であっても、ITO膜130の抵抗率が上記範囲に入っていることが好ましく、膜の構成は限定されない。
【0080】
また、ITO膜130の膜厚は特に限定されるものではなく、供給する電力、基材搬送速度等に応じて選択可能だが、例えば2nm〜520nmの厚さを有してもよく、より好ましくは2nm〜500nmの厚さとすることができる。
【0081】
また、ITO膜は、消衰係数が0.0086以下であることが好ましい。消衰係数は例えばエリプソメトリー法により評価可能であり、ITO膜を成膜する際の雰囲気によりその値が変化する。そして、ITO膜の消衰係数が上記範囲にあることは、少なくともITO膜の一部を成膜する際に十分に酸素の少ない雰囲気下において成膜がなされたことを意味している。このため、ITO膜が、消衰係数について上記規定を満たす場合、該ITO膜のホール抵抗率が十分に低いことを示している。なお、ここでの消衰係数は、ITO膜が単層の場合や後述のように多層から構成されている場合のいずれの場合であってもITO膜全体について測定した場合の値である。なお、本明細書において消衰係数は波長550nmにおけるものと定義する。
【0082】
なお、既述のように、ITO膜は各種透明導電膜とすることもできる。ITO膜にかえて透明導電膜とした場合、透明導電膜は上述のITO膜と同様の条件を満たすことが好ましい。透明導電膜については既述のため、ここでは説明を省略する。
【0083】
(第2の透光性基板)
次に、本発明の一形態による第2の透光性基板について説明する。
【0084】
図2には、本発明の一形態による第2の透光性基板の概略的な断面図を示す。
【0085】
図2に示すように、第2の透光性基板200も、基本的に、第1の透光性基板100と同様に構成される。従って、
図2において、
図1と同様の部材には、
図1の部材の参照符号に100を加えた参照符号が使用されている。
【0086】
しかしながら、
図2に示す第2の透光性基板200は、ITO膜230の構成が、
図1のITO膜130とは異なっている。すなわち、第1の表面232および第2の表面234を有するITO膜230は、少なくとも2つの層を有する多層化構造を有する。例えば、
図2において、ITO膜230は、ガラス基板210に近い側に設置された第1のITO層235と、ガラス基板210から遠い側に配置された第2のITO層237とを有する。
【0087】
そして、この場合、第1のITO層235と、第2のITO層237の構成は特に限定されるものではない。例えば、第1のITO層235と、第2のITO層237の酸化の程度は同じ、または、いずれか一方のITO層について他方のITO層よりも酸化の程度を高い状態とすることができる。
【0088】
ただし、第1のITO層235は、第2のITO層237に比べて、酸化の程度が高い状態となっていることが好ましい。この場合、第2のITO層237は、第1のITO層235に比べて、導電性が高くなる。
【0089】
このように第1のITO層235の方が第2のITO層237に比べて酸化の程度が高い場合、第2のITO層237を成膜する際、第1のITO層235を成膜する際よりも酸化性の低い雰囲気で成膜することとなる。
【0090】
しかし、被覆層220に加えて第1のITO層235が、該第2のITO層237を成膜する際の雰囲気による、ガラス基板210に含まれる被還元性元素の還元反応を抑制するバリア層として機能する。このため、ガラス基板210の変色をより抑制でき好ましい。また、酸化の程度の低い第2のITO層237を設けることにより、ITO膜230の抵抗上昇抑制の効果も得ることができる。
【0091】
なお、
図2の例では、ITO膜230は、2層構造であるが、ITO膜230は、3層以上の多層化構造で構成されても良い。この場合、ガラス基板に最も近い側のITO膜が、他のITO膜に比べて、より酸化の程度が高い状態となるように構成されることが好ましい。
【0092】
第1のITO層235は、例えば、1nm〜20nmの厚さを有しても良い。同様に、第2のITO層237は、例えば、1nm〜500nmの厚さを有しても良い。ITO膜230全体の厚さは、例えば、2nm〜520nmの範囲であっても良く、2nm〜500nmであることがより好ましい。
【0093】
また、ITO膜230全体の抵抗率は、例えば、2.38×10
−4Ωcm未満であっても良い。なお、ここでいうITO膜230の抵抗率とは、ITO膜230全体での抵抗率を意味している。
【0094】
また、ITO膜は、消衰係数が0.0086以下であることが好ましい。消衰係数については第1の透光性基板において説明したため、ここでは省略する。
【0095】
なお、既述のように、ITO膜は各種透明導電膜とすることもできる。ITO膜にかえて透明導電膜とした場合、透明導電膜は上述のITO膜と同様の条件を満たすことが好ましい。また、第2の透光性基板においては、例えば第1のITO層235、第2のITO層237はそれぞれ第1の透明導電層、第2の透明導電層とすることができる。第1の透明導電層と、第2の透明導電層とは、組成が異なっていてもよい。
【0096】
透明導電膜については既述のため、ここでは説明を省略する。
【0097】
(第3の透光性基板)
以上、ガラス基板と、ITO膜と、被覆層とで構成される透光性基板を例に、本発明の構成および効果について説明した。しかしながら、本発明は、そのような態様に限られるものではない。
【0098】
例えば、最近では、透光性基板および有機LED素子からの光取り出し効率を高めることを目的として、ITO膜を設置するためのガラス基板の表面に、光を散乱させるための散乱層を設置することが提案されている。
【0099】
ここで、そのような散乱層は、例えば、ガラス製のベース材と、該ベース材中に分散された散乱物質とで構成される。従って、ガラス製の散乱層が前述の「被還元性元素」を含む場合にも、前述のような問題、すなわち、散乱層の上部にITO膜を成膜する際に、散乱層が着色するという問題が生じ得る。
【0100】
そこで、以下、そのような散乱層の着色の問題を有意に抑制するための、本発明の一実施例による別の透光性基板の構成について説明する。
【0101】
図3には、本発明の一形態による第3の透光性基板300の概略的な断面図を示す。
【0102】
図3に示すように、第3の透光性基板300は、ガラス基板310と、散乱層340と、被覆層320、ITO膜330とを有する。
【0103】
この形態では、前述のガラス基板110、210とは異なり、ガラス基板310は、必ずしも、前述の被還元性元素を含む必要はない。このため、第3の透光性基板においてガラス基板310は、ビスマス(Bi)、チタン(Ti)、およびスズ(Sn)のうちの少なくとも一つの元素、すなわち「被還元性元素」を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。
【0104】
散乱層340は、第1の屈折率を有するガラス製のベース材341と、該ベース材341中に分散された、前記ベース材341とは異なる第2の屈折率を有する複数の散乱物質342とで構成される。散乱層340は、ビスマス(Bi)、チタン(Ti)、およびスズ(Sn)のうちの少なくとも一つの元素、すなわち「被還元性元素」を含む。なお、散乱層340が被還元性元素を含むとは、散乱層340を構成するベース材341および散乱物質342のうち、少なくとも一方が被還元性元素を含んでいることを意味している。
【0105】
そして、散乱層340とITO膜330との間には、乾式の成膜方法により成膜された被覆層320が設置されている。被覆層320は乾式の成膜方法により成膜されているため緻密な膜となっている。
【0106】
被覆層320を形成する際の乾式の成膜方法については特に限定されるものではないが、例えば、スパッタ法やプラズマCVD法を挙げることができる。なお、スパッタ法により被覆層320を形成する際、その成膜する際の雰囲気として、アルゴンおよび/または酸素を含む雰囲気中で成膜を行うことができる。特に生産性の観点から、アルゴンを含む雰囲気中で成膜を行うことが好ましい。なお、この場合、成膜した被覆層320には雰囲気中のアルゴンが混入することから、得られる被覆層は、アルゴンを含む膜とすることができる。
【0107】
散乱層に着色が生じる問題はITO膜の成膜に特有の問題であるため、被覆層320の成膜の際の雰囲気中の酸素濃度は特に問題とならない。ただし、被覆層320を成膜する過程においても散乱層340に着色が生じることを確実に防止するため、酸素を含む雰囲気下で被覆層320の成膜を行うことが好ましい。例えば被覆層320を成膜する際の雰囲気中の酸素濃度を10vol%以上とすることが好ましく、15vol%以上とすることがより好ましい。なお、酸素濃度の上限値は特に限定されるものではなく、成膜する被覆層の材料等により選択することができる。例えば90vol%以下とすることが好ましく、80vol%以下とすることがより好ましい。
【0108】
また、被覆層320については上述のように乾式の成膜方法により成膜されていればよく、その材質や構成は特に限定されるものではない。また、被覆層320は1種類の物質のみから構成されている必要はなく、複数の物質が含まれていてもよい。また、複数の層から構成することもできる。例えば、被覆層320は、Si、Al、Ti、Nb、Zr、Sn、Ta、Wから選択された1種以上の元素を含有する酸化物を含むことができる。また、被覆層320は、Si、Al、Ti、Nb、Zr、Sn、Ta、Wから選択された1種以上の元素を含有する窒素酸化物を含むことができる。また、被覆層320は、Si、Al、Ti、Nb、Zr、Sn、Ta、Wから選択された1種以上の元素を含有する窒化物を含むことができる。
【0109】
また、被覆層320は、充填率が例えば85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。この場合の上限値は特に限定されず、例えば100%以下とすることができる。被覆層320の充填率が上記範囲の場合、特に、ITO膜330を成膜する際の雰囲気による、散乱層340に含まれる被還元性元素の還元反応を抑制することができるため好ましい。
【0110】
なお、充填率の算出方法については既に説明したためここでは説明を省略する。
【0111】
また、被覆膜320のITO膜330を積層する面については表面粗さ(算術平均粗さ)Raは2.0nm以下であることが好ましく、1.0nm以下であることがより好ましい。なお下限値については特に限定されず、例えば0nm以上であればよい。
【0112】
表面粗さRaが上記範囲の場合、被覆層320のITO膜330を積層する面が平滑であることを示しており、ITOの結晶核が良好に成長するため好ましい。
【0113】
また、被覆層320の屈折率は、ベース材341の屈折率に近い方が好ましい。これはベース材341の屈折率と被覆層320の屈折率の差が大きい場合には、被覆層320の膜厚バラツキにより、有機LEDの発光色が干渉の影響を受けてばらつく場合があるためである。一方ベース材341の屈折率と被覆層320の屈折率が近い場合には、被覆層320の膜厚ばらつきがあっても干渉条件が変化しない為、有機LEDの発光色は変動を受けないためである。波長550nmの光に対する、ベース材341の屈折率と被覆層320の屈折率の差は、マイナス0.15以上プラス0.15以下であることが好ましく、マイナス0.1以上プラス0.1以下であることがより好ましく、マイナス0.5以上プラス0.5以下であることがさらに好ましい。
【0114】
係る緻密な膜である被覆層320を散乱層340のITO膜330と対向する面に設けておくことにより、ITO膜330を成膜する際の雰囲気による、散乱層340に含まれる被還元性元素の還元反応を抑制することができる。これは、被覆層320がバリア層として機能するためと考えられる。
【0115】
このように、乾式の成膜方法により成膜された被覆層320を設けることにより、ITO膜330を成膜する際の雰囲気である酸化性の弱い雰囲気と、散乱層340に含まれる被還元性元素とが接触する確率を低減できる。このため、散乱層340の着色の発生を有意に抑制することが可能になる。また、被覆層320は、例えば、ITO膜330のパターン処理の際などにおいて、散乱層340の溶出や劣化等を防止する耐エッチングバリアとしても機能する。
【0116】
ITO膜330は、第3の透光性基板300から完成製品、例えば有機LED素子が構成された際に、一方の電極(陽極)として機能する。ITO膜330は、前記ガラス基板310に近い側にある第1の表面332と、前記ガラス基板310から遠い側にある第2の表面334とを有する。
【0117】
ITO膜330の構成は特に限定されるものではなく、例えば第1、第2の透光性基板で説明したような各種形態とすることができる。なお、
図3においてはITO膜330が2層からなる例を示しているが、係る形態に限定されるものではなく、後述のように単層または2層以上により構成することもできる。
【0118】
例えばITO膜330は成膜工程中、その成膜条件を変化させることなく成膜された膜の組成が略均一な一層(単層)のITO膜から構成することができる。
【0119】
また、ITO膜を一層で構成する場合の他の形態として、第1の透光性基板で説明したようにITO膜330は、第1の表面332側が第2の表面334側に比べて、酸化度合い(酸化の程度)が高い状態とすることができる。この場合、第2の表面334側での導電性は、第1の表面332側よりも高くなる。
【0120】
ITO膜330をこのように構成することにより、ITO膜の成膜過程において、初期の段階では、成膜雰囲気を従来よりも「酸素過剰」な条件とすることとなる。これにより、成膜の際の散乱層の近傍の雰囲気がより強い酸化性となり、散乱層中の被還元性元素の還元を特に抑制することができる。その結果、被覆層320の働きとあわせて、散乱層の着色をより抑制することができる。
【0121】
そして、初期の「酸素過剰」な条件下での成膜によって、「酸化の程度が高い」ITO膜部分(第1のITO部分)が形成された以降は、成膜条件を例えば通常のものに戻し、「酸化の程度が低い」ITO膜部分(第2のITO部分)を形成し、ITO膜全体を構成することが好ましい。
【0122】
このような方法でITO膜330を形成した場合、第1の透光性基板において説明したように、被覆層320に加えて、第1のITO部分も、第2のITO部分を成膜する際に、散乱層340に含まれる被還元性元素の還元反応に対するバリア層として機能する。このため、酸素欠乏環境で第2のITO部分を成膜しても、散乱層340中の被還元性元素が還元されることを特に抑制することができる。その結果、散乱層340の着色がより有意に抑制される。
【0123】
またこの場合、第2のITO部分は、第1のITO部分に比べて導電性が高くなっているため、これにより、ITO膜330全体としての抵抗上昇を抑制することができる。
【0124】
従って、成膜条件を変化させることなくITO膜330を成膜した場合と比較して、ガラス基板310の着色をより抑制し、ITO膜330の抵抗上昇も抑制することが可能となる。
【0125】
上述のように、ITO膜330が、酸化の程度が高い第1のITO部分および酸化の程度が低い第2のITO部分を有する場合において、第1のITO部分から第2のITO部分までの間の酸化の程度の変化の態様は、特に限定されない。
【0126】
例えば、ITO膜330の酸化の程度は、第1の表面332から第2の表面334まで、連続的に変化しても良く、または不連続に(例えばステップ状に)変化しても良く、連続部分と不連続部分を組み合わせた態様で変化しても良い。また、酸化の程度が連続的に変化する場合、その変化は、直線的であっても曲線的であっても良い。あるいは、第1のITO部分と第2のITO部分の間に、酸化の程度が最も低い、第3のITO部分が存在しても良い。
【0127】
また第1の透光性基板においても説明したように、第1のITO部分および第2のITO部分という表現は、単なる便宜的なものに過ぎず、両者は、必ずしも明確に識別できる必要はない。
【0128】
また、ITO膜330は、多層化構造を有する構造とすることができる。例えば
図3に示すように、少なくとも2層の膜で構成され、ガラス基板310に近い側の第1のITO層335およびガラス基板から遠い側の第2のITO層337の2層を有する構成とすることができる。
【0129】
この場合、前述の
図2に示した透光性基板200のITO膜230と同様に、第1のITO層335は、第2のITO層337に比べて酸化の程度が高い状態とすることが好ましい。このような構成とした場合、第2のITO層337は、第1のITO層335に比べて導電性が高くなっている。
【0130】
このように構成する場合、第1のITO層335を、従来よりも「酸素過剰」な雰囲気下で形成することとなり、第1のITO層335の成膜中に、散乱層340中の被還元性元素が還元されることを有意に抑制することができる。そして、第2のITO層337は、第1のITO層335の成膜条件に比べて、より酸素の少ない雰囲気下、例えば従来と同等の酸化性の弱い雰囲気下で成膜する。この場合、被覆層320および第1のITO層335の存在のため、すなわち、被覆層320および第1のITO層335がバリア層として機能するため、第2のITO層337を成膜する際にも、散乱層340に含まれる被還元性元素の還元反応は、抑制される。
【0131】
その結果、散乱層340に着色を生じさせることなく、第2のITO層337に比べて酸化の程度の高い状態の第1のITO層335と、第1のITO層335に比べて高導電性の第2のITO層337と、を有するITO膜330を形成することができる。
【0132】
第1のITO層335は、例えば、1nm〜20nmの厚さを有しても良い。同様に、第2のITO層337は、例えば、1nm〜500nmの厚さを有しても良い。ITO膜330全体の厚さは、例えば、2nm〜520nmの範囲であることが好ましく、2nm〜500nmとすることがより好ましい。
【0133】
また、ITO膜330全体の抵抗率は、例えば、2.38×10
−4Ωcm未満であっても良い。
【0134】
なお、ここでいうITO膜330の抵抗率とは、ITO膜330全体での抵抗率を意味している。この際のITO膜330の構成は限定されるものではない。このため、ITO膜330は上述のように、成膜条件を変化させずに成膜され略均一な組成を有する構成であっても良い。また、上述のように酸化の程度が高い第1のITO部分336および酸化の程度が低い第2のITO部分338を有し、ITO膜内での酸化の程度が異なった構成(均一ではない構成)とすることもできる。また、ITO膜330が複数の層から構成されていてもよい。
【0135】
また、ITO膜は、消衰係数が0.0086以下であることが好ましい。消衰係数については第1の透光性基板において説明したため、ここでは省略する。
【0136】
以上のことから、第3の透光性基板300においても、乾式の成膜方法により成膜された被覆層320を設けることにより散乱層340の着色防止と、ITO膜330の抵抗上昇抑制の両方の効果を得ることが可能となる。
【0137】
なお、既述のように、ITO膜は各種透明導電膜とすることもできる。ITO膜に変えて透明導電膜とした場合、透明導電膜はITO膜と同様の条件を満たすことが好ましい。透明導電膜については既述のため、ここでは説明を省略する。
【0138】
(有機LED素子)
次に、
図4を参照して、本発明の一形態による有機LED素子について説明する。
【0139】
図4には、本発明の一形態による有機LED素子の一例の概略的な断面図を示す。
【0140】
図4に示すように、本発明の一形態による有機LED素子400は、ガラス基板410と、散乱層440と、被覆層420と、第1の電極(陽極)層430と、有機発光層450と、第2の電極(陰極)層460とを、この順に積層することにより構成される。
【0141】
ガラス基板410は、上部に有機LED素子を構成する各層を支持する役割を有する。
図4の例では、有機LED素子400の下側の表面(すなわちガラス基板410の露出面)が光取り出し面470となる。
【0142】
散乱層440は、第1の屈折率を有するガラス製のベース材441と、該ベース材441中に分散された、前記ベース材441とは異なる第2の屈折率を有する複数の散乱物質442とで構成することができる。
【0143】
散乱層440は、有機発光層450から生じる光を効果的に散乱させ、有機LED素子400内で全反射される光の量を低減する役割を有する。従って、
図4の構成の有機LED素子400では、光取り出し面470から出射される光量を向上させることができる。
【0144】
散乱層440は、前述のような「被還元性元素」を含む。
【0145】
散乱層440と第1の電極430との間には、乾式の成膜方法で成膜された被覆層420が設けられている。
【0146】
被覆層420の構成は第1〜第3の透光性基板で説明したものと同様の構成とすることができる。具体的な構成例については既に説明したため、ここでは省略する。
【0147】
該被覆層420を設けることにより、ITO膜430を成膜する際の雰囲気による、散乱層440に含まれる被還元性元素の還元反応を抑制することができる。これは、被覆層420がバリア層として機能するためと考えられる。
【0148】
このように、乾式の成膜方法により成膜された被覆層420を設けることにより、ITO膜430を成膜する際の雰囲気である酸化性の弱い雰囲気と、散乱層440に含まれる被還元性元素とが接触する確率を低減することができる。このため、散乱層440の着色の発生を有意に抑制することが可能になる。また、被覆層420は、散乱層の表面を平滑化して、以降の層の成膜処理を容易化する平滑化層として機能することができる。さらに、例えば、第1の電極層(ITO膜)430のパターン処理の際などにおいて、散乱層440の溶出や劣化等を防止する耐エッチングバリアとしても機能する。
【0149】
第1の電極層430は、ITO膜で構成することができる。また、既述のように各種透明導電膜で構成することもできる。一方、第2の電極層460は、例えばアルミニウムや銀のような金属で構成することができる。
【0150】
有機発光層450は、通常の場合、発光層の他、電子輸送層、電子注入層、ホール輸送層、ホール注入層など、複数の層で構成することができる。
【0151】
ここで、第1の電極層430を構成するITO膜は、第1〜第3の透光性基板で説明した各種形態とすることができる。
図4では、ITO膜は、ガラス基板410に近い側の第1のITO層435と、ガラス基板410から遠い側の第2のITO層437との2層で構成された例を示しているが係る形態に限定されるものではない。例えば、単層により構成することもでき、多層化構造を有しても良い。ITO膜のその他の構成については、第1〜第3の透光性基板において説明したためここでは説明を省略する。
【0152】
このように構成された第1の電極層430を備える有機LED素子400においても、上述のように被覆層420を設けているため、散乱層440についてより確実に着色防止を図ることができる。また、第1の電極層430の抵抗上昇を抑制することもできる。
【0153】
なお、有機LED素子の構成として、
図4を例に説明しているが、係る形態に限定されるものではない。
図4における、ガラス基板410、散乱層440、被覆層420、第1の電極層430までの部分は、既に説明した第1〜第3の透光性基板の構成とすることができる。
【0154】
また、
図4では、有機LED素子400は、散乱層440を有する構成を例に説明したが、有機LED素子において、散乱層440は、必ずしも必要ではなく、省略されても良い。ただし、そのような散乱層を含まない有機LED素子の場合、第1の透光性基板、第2の透光性基板において説明したようにガラス基板は、被還元性元素を含む組成を有する。
【0155】
(各構成素子について)
次に、有機LED素子400を構成する各素子の詳細について説明する。なお、以下に示す素子の一部は、
図1〜
図3に示した透光性基板100〜300においても同様に使用され得ることに留意する必要がある。
【0156】
(ガラス基板410)
ガラス基板410は、可視光に対する透過率が高い材料で構成される。ガラス基板の材料としては、アルカリガラス、無アルカリガラスまたは石英ガラスなどの無機ガラスが挙げられる。
【0157】
なお、有機LED素子が散乱層440を有しない場合、ガラス基板410中には、被還元性元素が含まれる。
【0158】
ガラス基板410の厚さは、特に限られないが、例えば、0.1mm〜2.0mmの範囲であっても良い。強度および重量を考慮すると、ガラス基板410の厚さは、0.5mm〜1.4mmであることが好ましい。
【0159】
(散乱層440)
散乱層440は、ベース材441と、該ベース材441中に分散された複数の散乱物質442とを有する。ベース材441は、第1の屈折率を有し、散乱物質442は、ベース材とは異なる第2の屈折率を有する。
【0160】
散乱層440は、前述の被還元性元素を含む。
【0161】
なお、散乱層440中の散乱物質442の存在量は、散乱層440の内部から外側に向かって小さくなっていることが好ましく、この場合、高効率の光取り出しを実現することができる。
【0162】
ベース材441は、ガラスで構成され、ガラスの材料としては、ソーダライムガラス、ホウケイ酸塩ガラス、無アルカリガラス、および石英ガラスなどの無機ガラスが使用される。
【0163】
散乱物質442は、例えば、気泡、析出結晶、ベース材とは異なる材料粒子、分相ガラス等で構成される。分相ガラスとは、2種類以上のガラス相により構成されるガラスをいう。
【0164】
ベース材441の屈折率と散乱物質442の屈折率の差は、大きい方が良く、このためには、ベース材441として高屈折率ガラスを使用し、散乱物質442として気泡を使用することが好ましい。
【0165】
ベース材441用の高屈折率のガラスのため、ネットワークフォーマとして、P
2O
5、SiO
2、B
2O
3、GeO
2、およびTeO
2のうちの一種類または二種類以上の成分を選定し、高屈折率成分として、TiO
2、Nb
2O
5、WO
3、Bi
2O
3、La
2O
3、Gd
2O
3、Y
2O
3、ZrO
2、ZnO、BaO、PbO、およびSb
2O
3のうちの一種類または二種類以上の成分を選定しても良い。さらに、ガラスの特性を調整するため、アルカリ酸化物、アルカリ土類酸化物、フッ化物などを、屈折率に影響を及ぼさない範囲で、添加しても良い。
【0166】
従って、ベース材441を構成するガラス系の材料としては、例えば、B
2O
3−ZnO−La
2O
3系、P
2O
5−B
2O
3−R’
2O−R”O−TiO
2−Nb
2O
5−WO
3−Bi
2O
3系、TeO
2−ZnO系、B
2O
3−Bi
2O
3系、SiO
2−Bi
2O
3系、SiO
2−ZnO系、B
2O
3−ZnO系、P
2O
5−ZnO系などが挙げられる。ここで、R’はアルカリ金属元素、R”はアルカリ土類金属元素を示す。なお、以上の材料系は、一例に過ぎず、上記条件を満たすような構成であれば、使用材料は、特に限られない。
【0167】
ベース材441に、着色剤を添加することにより、発光の色味を変化させることもできる。着色剤としては、遷移金属酸化物、希土類金属酸化物、および金属コロイドなどを、単独でまたは組み合わせて使うことができる。
【0168】
(被覆層420)
散乱層440と第1の電極層430との間には、被覆層420が設置されている。なお、散乱層440を設けない場合には、ガラス基板410上に形成することができる。
【0169】
被覆層420は、乾式の成膜方法により成膜された膜である。乾式の成膜方法により成膜された膜の場合、湿式の成膜方法により成膜された膜と比較して緻密な膜とすることができる。このため、ITO膜を成膜する際の酸化性の弱い雰囲気においても該雰囲気とガラス基板または散乱層とが接触する確率を低減することができ、ガラス基板または散乱層の着色の発生を有意に抑制することが可能になる。また、ITO膜を成膜する際に、その雰囲気を酸素リッチな雰囲気とする必要がなくなることから、ITO膜(第1の電極膜)の抵抗上昇を抑制することも可能になる。
【0170】
被覆層420は上述のように乾式の成膜方法により成膜された膜であればよく、被覆層420を形成する際の乾式の成膜方法については特に限定されるものではないが、例えば、スパッタ法やプラズマCVD法を挙げることができる。なお、スパッタ法により被覆層420を形成する際、その成膜する際の雰囲気として、アルゴンおよび/または酸素を含む雰囲気中で成膜を行うことができる。特に生産性の観点から、アルゴンを含む雰囲気中で成膜を行うことが好ましい。なお、この場合、成膜した被覆層420には雰囲気中のアルゴンが混入することから、得られる被覆層420は、アルゴンを含む膜とすることができる。
【0171】
散乱層等に着色が生じる問題はITO膜の成膜に特有の問題であるため、被覆層420の成膜の際の雰囲気中の酸素濃度は特に問題とならない。ただし、被覆層420を成膜する過程においても散乱層440またはガラス基板410に着色が生じることを確実に防止するため、酸素を含む雰囲気下で被覆層420の成膜を行うことが好ましい。例えば被覆層420を成膜する際の雰囲気中の酸素濃度を10vol%以上とすることが好ましく、15vol%以上とすることがより好ましい。なお、酸素濃度の上限値は特に限定されるものではなく、成膜する被覆層の材料等により選択することができる。例えば90vol%以下とすることが好ましく、80vol%以下とすることがより好ましい。
【0172】
また、被覆層420については上述のように乾式の成膜方法により成膜されていればよく、その材質や構成は特に限定されるものではない。また、被覆層420は1種類の物質のみから構成されている必要はなく、複数の物質が含まれていてもよい。また、複数の層から構成することもできる。例えば、被覆層420は、Si、Al、Ti、Nb、Zr,Sn、Ta、Wから選択された1種以上の元素を含有する酸化物を含むことができる。また、被覆層420は、Si、Al、Ti、Nb、Zr,Sn、Ta、Wから選択された1種以上の元素を含有する窒素酸化物を含むことができる。また、被覆層420は、Si、Al、Ti、Nb、Zr,Sn、Ta、Wから選択された1種以上の元素を含有する窒化物を含むことができる。
【0173】
また、被覆層420は、充填率が例えば85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。この場合の上限値は特に限定されず、例えば100%以下とすることができる。被覆層420の充填率が上記範囲の場合、特に、ITO膜430を成膜する際の雰囲気による、散乱層またはガラス基板に含まれる被還元性元素の還元反応を抑制することができるため好ましい。
【0174】
なお、充填率の算出方法については既に説明したためここでは説明を省略する。
【0175】
また、被覆層420のITO膜430を積層する面については表面粗さ(算術平均粗さ)Raは2.0nm以下であることが好ましく、1.0nm以下であることがより好ましい。なお下限値については特に限定されず、例えば0nm以上であればよい。
【0176】
表面粗さRaが上記範囲の場合、被覆層420のITO膜430を積層する面が平滑であることを示しており、ITOの結晶核が良好に成長するため好ましい。
【0177】
被覆層420の屈折率は、ベース材441の屈折率に近い方が好ましい。これはベース材441の屈折率と被覆層420の屈折率の差が大きい場合には、被覆層420の膜厚バラツキにより、有機LEDの発光色が干渉の影響を受けてばらついてしまう場合があるためである。一方ベース材441の屈折率と被覆層420の屈折率が近い場合には、被覆層420の膜厚ばらつきがあっても干渉条件が変化しない為、有機LEDの発光色は変動を受けないためである。波長550nmの光に対する、ベース材441の屈折率と被覆層420の屈折率の差は、例えばマイナス0.15以上プラス0.15以下であることが好ましく、マイナス0.1以上プラス0.1以下であることがより好ましく、マイナス0.05以上プラス0.05以下であることがさらに好ましい。
【0178】
また、取り出し効率をより向上させるため、被覆層420の屈折率は、第1の電極層430よりも高いことが好ましい。ただし、上記のように被覆層420の屈折率と、ベース材441の屈折率との差は小さい方が好ましい。
【0179】
被覆層420の膜厚は、特に限られない。被覆層420の膜厚は、例えば、50nm〜500μmの範囲であっても良い。
【0180】
(第1の電極層430)
第1の電極層430は、前述のように、ITO膜で構成される。ITO膜は上述のように単層から構成することもでき、2層以上の多層化構造とすることもできる。
【0181】
例えば
図4に示したように、ITO膜はガラス基板410に近い側の第1のITO層435と、ガラス基板410から遠い側の第2のITO層437との2層で構成されても良い。この場合、第1のITO層435は、第2のITO層437に比べて酸化の程度が高い状態となるように構成されていることが好ましく、このように構成した場合、第2のITO層437は、第1のITO層435に比べて導電性が高くなるように構成される。
【0182】
第1のITO層435の厚さは、特に限られないが、例えば、1nm〜20nmの範囲であることが好ましい。第2のITO層437の厚さは、特に限られないが、例えば、1nm〜500nmの範囲であることが好ましい。ITO膜全体の厚さは、例えば、2nm〜520nmの範囲であることが好ましく、2nm〜500nmとすることがより好ましい。
【0183】
なお、第1の電極層430を構成するITO膜は、3層以上の層で構成されても良い。あるいは、前述の
図1に示したように、ITO膜は、単一の層で構成することもできる。この場合、特に第1の電極層430の第1の表面432から第2の表面434に沿って、酸化の程度が連続的にまたは不連続に変化(低下)するように構成されていることが好ましい。
【0184】
第1の電極層430の総厚さは、50nm以上であることが好ましい。
【0185】
第1の電極層430の屈折率は、1.65〜2.2の範囲であることが好ましい。なお、第1の電極層430の屈折率は、散乱層440を構成するベース材441の屈折率や第2の電極層460の反射率を考慮して、決定することが好ましい。導波路計算や第2の電極層460の反射率等を考慮すると、第1の電極層430とベース材441の屈折率の差は、0.2以下であることが好ましい。
【0186】
なお、第1の電極層430は既述のようにITO膜にかえて各種透明導電膜により構成することもできる。第1の電極層430を各種透明導電膜とした場合でも、ITO膜と同様に上述した各種条件を充足することが好ましい。また、透明導電膜については既述のため説明を省略する。
【0187】
(有機発光層450)
有機発光層450は、発光機能を有する層であり、通常の場合、ホール注入層と、ホール輸送層と、発光層と、電子輸送層と、電子注入層とにより構成される。ただし、有機発光層450は、発光層を有していれば、必ずしも他の層の全てを有する必要はないことは、当業者には明らかである。なお、通常の場合、有機発光層450の屈折率は、1.7〜1.8の範囲とすることが好ましい。
【0188】
ホール注入層は、第1の電極層430からのホール注入の障壁を低くするため、イオン化ポテンシャルの差が小さいものが好ましい。電極からホール注入層への電荷の注入効率が高まると、有機LED素子400の駆動電圧が下がり、電荷の注入効率が高まる。
【0189】
ホール注入層の材料としては、高分子材料または低分子材料が使用される。高分子材料の中では、ポリスチレンスルフォン酸(PSS)がドープされたポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT:PSS)が良く使用され、低分子材料の中では、フタロシアニン系の銅フタロシアニン(CuPc)が広く用いられる。
【0190】
ホール輸送層は、前述のホール注入層から注入されたホールを発光層に輸送する役割をする。ホール輸送層には、例えば、トリフェニルアミン誘導体、N,N’−ビス(1−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(NPD)、N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス[N−フェニル−N−(2−ナフチル)−4’−アミノビフェニル−4−イル] −1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン(NPTE)、1,1’−ビス[(ジ−4−トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(HTM2)、およびN,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(TPD)などが用いられる。
【0191】
ホール輸送層の厚さは、例えば10nm〜150nmの範囲とすることができる。ホール輸送層の厚さが薄いほど、有機LED素子を低電圧化できるが、電極間短絡の問題から、10nm〜150nmの範囲とすることが好ましい。
【0192】
発光層は、注入された電子とホールが再結合する場を提供する役割を有する。有機発光材料としては、例えば低分子系または高分子系のものが使用される。
【0193】
発光層には、例えば、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム錯体(Alq
3)、ビス(8−ヒドロキシ)キナルジンアルミニウムフェノキサイド(Alq’
2OPh)、ビス(8−ヒドロキシ)キナルジンアルミニウム−2,5−ジメチルフェノキサイド(BAlq)、モノ(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)リチウム錯体(Liq)、モノ(8−キノリノラート)ナトリウム錯体(Naq)、モノ(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)リチウム錯体、モノ(2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナート)ナトリウム錯体およびビス(8−キノリノラート)カルシウム錯体(Caq
2)などのキノリン誘導体の金属錯体、テトラフェニルブタジエン、フェニルキナクドリン(QD)、アントラセン、ペリレン、並びにコロネンなどの蛍光性物質が挙げられる。
【0194】
ホスト材料としては、キノリノラート錯体を使用しても良く、特に、8−キノリノールおよびその誘導体を配位子としたアルミニウム錯体が使用されても良い。
【0195】
電子輸送層は、電極から注入された電子を輸送する役割をする。電子輸送層には、例えば、キノリノールアルミニウム錯体(Alq
3)、オキサジアゾール誘導体(例えば、2,5−ビス(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール(END)、および2−(4−t−ブチルフェニル) −5−(4−ビフェニル))−1,3,4−オキサジアゾール(PBD)など)、トリアゾール誘導体、バソフェナントロリン誘導体、およびシロール誘導体などが用いられる。
【0196】
電子注入層は、例えば、第2の電極層460との界面に、リチウム(Li)、セシウム(Cs)等のアルカリ金属をドープした層を設けることにより構成される。
【0197】
(第2の電極層460)
第2の電極層460には例えば、仕事関数の小さな金属またはその合金を用いることができる。第2の電極層460には、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、および周期表第3属の金属などを好ましく用いることができる。第2の電極層460には、例えば、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、またはこれらの合金などをより好ましく用いることができる。
【0198】
また、アルミニウム(Al)、マグネシウム銀(MgAg)の共蒸着膜、フッ化リチウム(LiF)または酸化リチウム(Li
2O)の薄膜上に、アルミニウム(Al)を蒸着した積層電極が用いられても良い。さらに、カルシウム(Ca)またはバリウム(Ba)と、アルミニウム(Al)との積層膜が用いられても良い。
【0199】
(本発明の一形態による透光性基板の製造方法)
次に、図面を参照して、本発明の一形態による透光性基板の製造方法の一例について説明する。なお、ここでは、一例として、
図3に示した透光性基板300の構成を例に、その製造方法について説明する。ただし、以降の説明の一部は、
図1および
図2に示した透光性基板100、200の製造方法にも、同様に適用することができる。このため、以下に記載した以外の事項については、第1〜第3の透光性基板で説明したものと同様の構成とすることができる。
【0200】
図5には、本発明の一形態による透光性基板を製造する際の概略的なフロー図を示す。
【0201】
図5に示すように、この透光性基板の製造方法は、
(a)ガラス基板上に、ガラスからなるベース材と、該ベース材中に分散された複数の散乱物質とを有する散乱層を設置するステップであって、前記散乱層は、Bi(ビスマス)、Ti(チタン)、およびSn(スズ)からなる群から選定された少なくとも一つの元素を含むステップ(ステップS110)と、
(b)前記散乱層上に、乾式の成膜方法により被覆層を成膜するステップ(ステップS120)と、
(c)前記被覆層上にITO膜を成膜するステップ(ステップS130)と、
を有する。以下、各ステップについて詳しく説明する。なお、以下の説明では、明確化のため、各部材の参照符号として、
図3に示した参照符号を使用することにする。
【0202】
(ステップS110)
まず、ガラス基板310が準備される。次に、このガラス基板310上に、被還元性元素を含む散乱層340が形成される。
【0203】
散乱層340の形成方法は、特に限られないが、ここでは、特に、「フリットペースト法」により、散乱層340を形成する方法について説明する。ただし、その他の方法で散乱層340を形成しても良いことは、当業者には明らかである。
【0204】
フリットペースト法とは、フリットペーストと呼ばれるガラス材料を含むペーストを調製し(調製工程)、このフリットペーストを被設置基板の表面に塗布して、パターン化し(パターン形成工程)、さらにフリットペーストを焼成すること(焼成工程)により、被設置基板の表面に、所望のガラス製の膜を形成する方法である。以下、各工程について簡単に説明する。
【0205】
(調製工程)
まず、ガラス粉末、樹脂、および溶剤等を含むフリットペーストが調製される。
【0206】
ガラス粉末は、最終的に散乱層340のベース材341を形成する材料で構成される。ガラス粉末の組成は、所望の散乱特性が得られ、フリットペースト化して焼成することが可能なものであれば特に限られない。ただし、本発明では、散乱層は、被還元性元素を含む。
【0207】
ガラス粉末の組成は、例えば、P
2O
5を20〜30mol%、B
2O
3を3〜14mol%、Bi
2O
3を10〜20mol%、TiO
2を3〜15mol%、Nb
2O
5を10〜20mol%、WO
3を5〜15mol%含み、Li
2OとNa
2OとK
2Oの総量が10〜20mol%であり、以上の成分の総量が、90mol%以上のものであっても良い。また、SiO
2は0〜30mol%、B
2O
3は10〜60mol%、ZnOは0〜40mol%、Bi
2O
3は0〜40mol%、P
2O
5は0〜40mol%、アルカリ金属酸化物は0〜20mol%であり、以上の成分の総量が、90mol%以上のものであっても良い。ガラス粉末の粒径は、例えば、1μm〜100μmの範囲とすることができる。
【0208】
なお、最終的に得られる散乱層の熱膨張特性を制御するため、ガラス粉末には、所定量のフィラーを添加しても良い。フィラーには、例えば、ジルコン、シリカ、またはアルミナなどの粒子が使用され、粒径は、通常、0.1μm〜20μmの範囲とすることができる。
【0209】
樹脂には、例えば、エチルセルロース、ニトロセルロース、アクリル樹脂、酢酸ビニル、ブチラール樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、およびロジン樹脂などが用いられる。なお、ブチラール樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、およびロジン樹脂を添加すると、フリットペースト塗布膜の強度が向上する。
【0210】
溶剤は、樹脂を溶解し、粘度を調整する役割を有する。溶剤には、例えば、エーテル系溶剤(ブチルカルビトール(BC)、ブチルカルビトールアセテート(BCA)、ジプロピレングリコールブチルエーテル、トリプロピレングリコールブチルエーテル、酢酸ブチルセロソルブ)、アルコール系溶剤(α−テルピネオール、パインオイル)、エステル系溶剤(2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート)、フタル酸エステル系溶剤(DBP(ジブチルフタレート)、DMP(ジメチルフタレート)、DOP(ジオクチルフタレート))がある。主に用いられているのは、α−テルピネオールや2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート)である。なお、DBP(ジブチルフタレート)、DMP(ジメチルフタレート)、DOP(ジオクチルフタレート)は、可塑剤としても機能する。
【0211】
その他、フリットペーストには、粘度の調整やフリット分散促進のため、界面活性剤を添加しても良い。また、表面改質のため、シランカップリング剤を使用しても良い。
【0212】
これらの原料を混合し、ガラス原料が均一に分散されたフリットペーストを調製する。
【0213】
(パターン形成工程)
次に、前述の方法で調製したフリットペーストを、ガラス基板310上に塗布し、パターン化する。塗布の方法およびパターン化の方法は、特に限られない。例えば、スクリーン印刷機を用いて、ガラス基板310上にフリットペーストをパターン印刷しても良い。あるいは、ドクターブレード印刷法またはダイコート印刷法を利用しても良い。
【0214】
その後、フリットペースト膜は、乾燥される。
【0215】
(焼成工程)
次に、フリットペースト膜が焼成される。通常、焼成は、2段階のステップで行われる。第1のステップでは、フリットペースト膜中の樹脂が分解、消失され、第2のステップでは、ガラス粉末が軟化、焼結される。
【0216】
第1のステップは、大気雰囲気下で、フリットペースト膜を200℃〜400℃の温度範囲に保持することにより行われる。ただし、処理温度は、フリットペーストに含まれる樹脂の材料によって変化する。例えば、樹脂がエチルセルロースの場合は、処理温度は、350℃〜400℃程度であり、樹脂がニトロセルロースの場合は、処理温度は、200℃〜300℃程度であっても良い。なお処理時間は、通常、30分から1時間程度である。
【0217】
第2のステップは、大気雰囲気下で、フリットペースト膜を、含まれるガラス粉末の軟化温度±30℃の温度範囲に保持することにより行われる。処理温度は、例えば、450℃〜600℃の範囲である。また、処理時間は、特に限られないが、例えば、30分〜1時間である。
【0218】
第2のステップ後に、ガラス粉末が軟化、焼結して、散乱層340のベース材341が形成される。また、フリットペースト膜中に内包させた散乱物質によって、例えば内在する気泡などによって、ベース材341中に均一に分散された散乱物質342が得られる。
【0219】
その後、ガラス基板310を冷却することにより、散乱層340を形成することができる。最終的に得られる散乱層340の厚さは例えば、5μm〜50μmの範囲であっても良い。
【0220】
なお、
図1、
図2に示したように散乱層を有しない透光性基板を製造する場合には、本工程を、(a´)Bi(ビスマス)、Ti(チタン)、およびSn(スズ)からなる群から選定された少なくとも一つの元素を含むガラス基板を準備するステップ(S110´)とすることができる。
【0221】
(ステップS120)
次に、散乱層340の上部に、被覆層320が成膜される。
【0222】
被覆層320は、乾式の成膜方法により成膜される。被覆層320を形成する際の乾式の成膜方法については特に限定されるものではないが、例えば、スパッタ法やプラズマCVD法を挙げることができる。なお、スパッタ法により被覆層320を形成する際、その成膜する際の雰囲気として、アルゴンおよび/または酸素を含む雰囲気中で成膜を行うことができる。特に生産性の観点から、アルゴンを含む雰囲気中で成膜を行うことが好ましい。なお、この場合、成膜した被覆層320には雰囲気中のアルゴンが混入することから、得られる被覆層320は、アルゴンを含む膜とすることができる。
【0223】
散乱層等に着色が生じる問題はITO膜の成膜に特有の問題であるため、被覆層320の成膜の際の雰囲気中の酸素濃度は特に問題とならない。ただし、被覆層320を成膜する過程においても散乱層340またはガラス基板310に着色が生じることを確実に防止するため、酸素を含む雰囲気下で被覆層320の成膜を行うことが好ましい。例えば被覆層320を成膜する際の雰囲気中の酸素濃度を2vol%以上とすることが好ましく、10vol%以上とすることがより好ましい。なお、酸素濃度の上限値は特に限定されるものではなく、成膜する被覆層の材料等により選択することができる。例えば90vol%以下とすることが好ましく、80vol%以下とすることがより好ましい。
【0224】
また、被覆層320については上述のように乾式の成膜方法により成膜されていればよく、その材質や構成は特に限定されるものではない。また、被覆層320は1種類の物質のみから構成されている必要はなく、複数の物質が含まれていてもよい。また、複数の層から構成することもできる。例えば、被覆層320は、Si、Al、Ti、Nb、Zr、Sn、Ta、Wから選択された1種以上の元素を含有する酸化物を含むことができる。また、被覆層320は、Si、Al、Ti、Nb、Zr、Sn、Ta、Wから選択された1種以上の元素を含有する窒素酸化物を含むことができる。また、被覆層320は、Si、Al、Ti、Nb、Zr、Sn、Ta、Wから選択された1種以上の元素を含有する窒化物を含むことができる。
【0225】
また、被覆層320は、充填率が例えば85%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。この場合の上限値は特に限定されず、例えば100%以下とすることができる。被覆層320の充填率が上記範囲の場合、特に、ITO膜330を成膜する際の雰囲気による散乱層またはガラス基板に含まれる被還元性元素の還元反応を抑制することができるため好ましい。
【0226】
なお、充填率の算出方法については既に説明したためここでは説明を省略する。
【0227】
また、被覆膜320のITO膜330を積層する面については表面粗さ(算術平均粗さ)Raは2.0nm以下であることが好ましく、1.0nm以下であることがより好ましい。なお下限値については特に限定されず、例えば0nm以上であればよい。
【0228】
表面粗さRaが上記範囲の場合、被覆層320のITO膜330を積層する面が平滑であることを示しており、ITOの結晶核が良好に成長するため好ましい。
【0229】
また、被覆層320の屈折率は、ベース材341の屈折率に近い方が好ましい。これはベース材341の屈折率と被覆層320の屈折率の差が大きい場合には、被覆層320の膜厚バラツキにより、有機LEDの発光色が干渉の影響を受けてばらついてしまうからである。一方ベース材341の屈折率と被覆層320の屈折率が近い場合には、被覆層320の膜厚ばらつきがあっても干渉条件が変化しない為、有機LEDの発光色は変動を受けないためである。波長550nmの光に対する、ベース材341の屈折率と被覆層320の屈折率の差は例えばマイナス0.15以上プラス0.15以下であることが好ましく、マイナス0.1以上プラス0.1以下であることがより好ましく、マイナス0.05以上プラス0.05以下であることがさらに好ましい。
【0230】
なお、散乱層を有しない透光性基板を製造する場合には、被覆層の屈折率は、ガラス基板の屈折率に近い方が好ましい。この場合については第1の透光性基板で既に説明したため説明を省略する。
【0231】
また、取り出し効率をより向上させるため、被覆層320の屈折率は、ITO膜330よりも高いことが好ましい。ただし、上記のように被覆層320の屈折率と、散乱層340の屈折率との差は小さい方が好ましい。
【0232】
被覆層320の膜厚は、特に限られない。被覆層320の膜厚は、例えば、50nm〜500μmの範囲であっても良い。
【0233】
なお、
図1、
図2に示したように散乱層を有しない透光性基板を製造する場合には、本工程を、(b´)前記ガラス基板上に、乾式の成膜方法により被覆層を成膜するステップ(S120´)とすることができる。被覆層の成膜方法については上述の方法と同様にして行うことができる。
【0234】
(ステップS130)
次に、被覆層320の上部に、ITO膜330が成膜される。
【0235】
ITO膜330の設置方法は、特に限られず、例えば、スパッタ法、蒸着法、および気相成膜法等の成膜法により設置されても良い。
【0236】
以下、一例として、スパッタ法により、ITO膜330を形成する方法について説明する。なお、ここでは、ITO膜330が第1のITO層335と第2のITO層337から構成される場合を例に説明するが、既述のように、ITO膜は単層から構成することもできる。単層からなるITO膜については第1の透光性基板で既述のため、説明を省略する。
【0237】
スパッタ法によりITO膜330を形成する場合、ITO膜330は例えば、第1のITO層335を成膜するための第1の成膜工程と、第2のITO層337を成膜するための第2の成膜工程によって成膜することができる。
【0238】
(i 第1の成膜工程)
一般に、スパッタ法によりITO膜を成膜する場合、金属インジウムと金属スズの合金からなるターゲット、またはITOターゲットが使用される。
【0239】
プラズマのパワー密度は、装置の規模によっても変化するが、例えば、0.2W/cm
2〜5W/cm
2の範囲とすることが好ましい。
【0240】
また、スパッタリングガスとして、不活性ガスと酸素の混合ガスを使用することができる。
【0241】
本発明による一実施形態の製造方法では、第1の成膜工程において、従来よりも酸化性の強い雰囲気、すなわち「酸素過剰」な条件下で、第1のITO層335が成膜されることが好ましい。
【0242】
ここでは、以下の理由により、プラズマパワー密度P
d(W/cm
2)に対するスパッタリングガスの酸素分圧P
O2(vol%)の比R(vol%・cm
2/W)、すなわちR=P
O2/P
dを用いて、成膜環境の酸化性を規定する。
【0243】
すなわち、例えば、スパッタリングガス中に含まれる酸素の量は、スパッタリング装置の規模および種類、ならびにプラズマのパワー等、各種成膜条件によって変動する。従って、成膜環境の酸化性を、単にスパッタリングガス中の酸素分圧で表すことは難しい。しかしながら、指標R(vol%・cm
2/W)(R=P
O2/P
d)を使用した場合、前述のような変動因子の影響が規格化され、成膜環境の酸化性をより適正に比較することが可能になる。
【0244】
なお、前記定義によれば、指標R(vol%・cm
2/W)が大きいほど、その環境は、より酸化性であり、「酸素過剰」な条件であるといえる。上述のように酸素過剰な条件で第1のITO層335を成膜する場合、指標R(vol%・cm
2/W)は、1.03(vol%・cm
2/W)よりも大きいことが好ましく、1.5(vol%・cm
2/W)以上であることがより好ましい。指標R(vol%・cm
2/W)は、例えば、約1.6以上、または約2以上とすることもできる。
【0245】
このような「酸素過剰」な条件下で第1のITO層335を成膜することにより、スパッタリング処理中に、散乱層340中の被還元性元素が還元されることを有意に抑制することができる。また、「酸素過剰」な条件下で、スパッタリング成膜を行うことにより、散乱層340上に、酸化の程度が高い第1のITO層335を成膜することができる。
【0246】
(ii 第2の成膜工程)
次に、第1のITO層335の上部に、第2のITO層337が成膜される。
【0247】
第2のITO層337は、第1の成膜工程で選定された成膜環境よりも酸化性の弱い条件、すなわち、第1の成膜工程における指標R(vol%・cm
2/W)よりも小さな指標R(vol%・cm
2/W)を示す環境下で成膜される。例えば、第2のITO層337は、従来のITO膜の成膜の際に一般に採用されているような条件下で成膜されても良い。
【0248】
第2の成膜工程において、指標R(vol%・cm
2/W)は、1.03以下であることが好ましい。
【0249】
ここで、第2のITO層337を成膜する際には、散乱層340の上部に、既に、被覆層320および酸化の程度が高い第1のITO層335が形成されている。このため、被覆層320および第1のITO層335のバリア効果により、第2のITO層337を成膜中に、散乱層340に含まれる被還元性元素が還元されることを抑制することができる。
【0250】
従って、第2の成膜工程においても、散乱層340に着色を生じさせることなく、第2のITO層337を成膜することができる。
【0251】
以上のような第1の成膜工程および第2の成膜工程を経て、第1のITO層335および第2のITO層337を有するITO膜330を形成することができる。
【0252】
ここで、第2のITO層337は、指標Rがより小さな条件(すなわち、より酸化性の弱い条件)下で成膜されるため、第1のITO層335に比べて、膜の導電性を高めることができる。従って、ITO膜330全体を、酸化の程度が高い状態の第1のITO層335で構成した場合に比べて、ITO膜330の抵抗率を低減させることができる。
【0253】
例えば、ITO膜330全体の抵抗率は、従来の方法で成膜されるITO膜と遜色のない値、例えば1.5×10
−4Ωcm程度にすることができる。
【0254】
このようにして、第2のITO層337に比べて酸化の程度が高い状態の第1のITO層335と、該第1のITO層335に比べて高導電性の第2のITO層337と、を有するITO膜330を形成することができる。
【0255】
その後、ITO膜330は、エッチング処理等により、パターン化されても良い。
【0256】
なお、ステップS130の工程についてはITO膜にかえて、各種透明導電膜を成膜する工程とすることもできる。透明導電膜についてもITO膜と同様にして成膜できる。透明導電性膜については既述のためここでは説明を省略する。
【0257】
以上の工程により、ガラス基板310、散乱層340、被覆層320、およびITO膜330を有する透光性基板300を製造することができる。
【0258】
なお、透光性基板300から有機LED素子を製造する場合は、さらに、有機発光層および第2の電極層を順次形成すれば良い。
【0259】
例えば、蒸着法および/または塗布法等により、ITO膜330上に、有機発光層(例えば
図4における有機発光層450)が設置されても良い。また、例えば、蒸着法、スパッタ法、気相成膜法等により、有機発光層上に、第2の電極層(例えば
図4における第2の電極層460)が設置されても良い。
【0260】
なお、上記記載では、明確に識別することが可能な2つのITO層335および337を有する複層構造のITO膜330が形成される場合を例に、本発明の一実施例による製造方法について説明した。このような複層構造のITO膜330は、例えば、プラズマ密度および酸素分圧等のような成膜条件を変更する前に、一旦成膜過程を中断した場合などに形成されやすい。
【0261】
しかしながら、本発明の透光性基板においては、被覆層を設けることにより、ITO膜を成膜する成膜条件に関わらず、ガラス基板や散乱層に含まれる被還元性元素が還元されることを抑制することができる。このため、本発明の製造方法は、上記形態に限られるものではなく、スパッタ法により、例えば、
図1に示すような、特性の異なる2つの部分136、138を有する単層構造のITO膜130が成膜されても良い。そのような単層構造のITO膜130は、例えば、成膜条件を変更する際に、成膜処理を中断せず、成膜を継続的に実施させること等により、構成することができる。また、成膜条件を変化させることなく、通常のITO膜の成膜条件(酸化性の弱い雰囲気)、例えば、指標Rが1.03以下の条件下、単層のITO膜を成膜してもよい。
【0262】
また、上記記載では、ITO膜330は、スパッタ法により成膜される例を示したが、これは単なる一例であって、ITO膜330は、その他の成膜方法で形成されても良い。
【0263】
以上、ガラス基板の上にITO膜が設置されて構成される透光性基板および有機LED素子を例に、本発明の課題およびそれを解決するための思想について説明した。
【0264】
しかしながら、本発明の適用範囲は、そのような透光性基板および有機LED素子に限られるものではない。
【0265】
例えば、既述のように、透光性基板の電極層には、ITO膜以外にも各種導電性酸化物、例えば、GZO(ガリウム亜鉛酸化物)、IZO(Indium Zinc Oxide:インジウム亜鉛酸化物)、AZO(AlドープZnO)、SnO
2、TaドープSnO
2、およびTiドープIn
2O
3等が使用され得る。このような導電性酸化物は、通常、ITO膜を成膜する場合と同様の条件、すなわち酸素欠乏が生じやすい環境下で、ガラス基板上に成膜される。従って、ITO膜以外の各種導電性酸化物を成膜する場合にも、ガラス基板の着色という同様の課題が生じ得る。そのような課題に対しても、本発明を適用することにより、問題を解決することができる。
【実施例】
【0266】
次に、本発明の実施例について説明する。例1、2、5〜8が実施例、例3、4が比較例である。
【0267】
以下の方法により、Biを含有する散乱層を備えたガラス基板の散乱層上に被覆層、ITO膜を成膜し、得られたサンプルの特性を評価した。
【0268】
(例1)
以下の手順により透光性基板のサンプル(以下、「サンプル1」と称する)を作製した。
【0269】
一方の面に散乱層を備えたガラス基板を用意した。この際、散乱層はベース材としてBiを含有するガラスを用いている。
【0270】
そして、該散乱層上に被覆層を成膜した。
【0271】
被覆層は反応性スパッタにより成膜した。
【0272】
成膜は、散乱層を備えたガラス基板を250℃に加熱し、ターゲットとして28at%Si−72at%Snターゲットを用い、スパッタの際の反応ガスとしてはアルゴンと酸素を用い、この際酸素濃度は80vol%としてスパッタ装置により行った。被覆層として、190nmのSTO膜(Si、Sn、Oを組成として含む混合膜)を成膜した。
【0273】
被覆層を成膜後、後述の方法により被覆層の屈折率、表面粗さRa、充填率の測定を行った。例2〜8についても被覆層の成膜後、同様にして測定を行った。
【0274】
次に被覆層上にITO膜の成膜を行った。
【0275】
ITO膜は被覆層と同様に反応性スパッタにより成膜した。
【0276】
成膜は、被覆層まで形成された基板を380℃に加熱し、ターゲットとしてはITOターゲットを用い、スパッタの際の反応ガスとしてはアルゴンと酸素を用い、この際酸素濃度は0.79vol%としてスパッタ装置により行った。膜厚150nmのITO膜を成膜した。
【0277】
(例2)
例1と同様の方法により、透光性基板のサンプル(以下、「サンプル2」と称する)を作製した。
【0278】
ただし、この例2では、散乱層上に被覆層を成膜する際の条件を以下の条件としてサンプルを作製した。
【0279】
被覆層は反応性スパッタにより成膜した。
【0280】
成膜は、散乱層を備えたガラス基板を250℃に加熱し、ターゲットとしてSiターゲットを用い、スパッタの際の反応ガスとしてはアルゴンと酸素を用い、この際酸素濃度は50vol%としてスパッタ装置により行った。被覆層として、30nmのSiO
2膜を成膜した。
【0281】
その後、例1と同様にしてITO膜を成膜した。
【0282】
これにより、サンプル2が得られた。
【0283】
(例3)
例1と同様の方法により、透光性基板のサンプル(以下、「サンプル3」と称する)を作製した。
【0284】
ただし、この例3では、散乱層上に被覆層を成膜する際の条件を以下の条件としてサンプルを作製した。
【0285】
被覆層は以下の手順により成膜した。
【0286】
まず、チタネートテトラノルマルブトキシドと、3−グリシジロキシプロピルトリメトキシシランを40:60(体積比)の割合で混合したものを、溶剤(1−ブタノール)で希釈し、塗布に適した粘度を持つ被覆層形成用の液体を得た。この被覆層形成用の液体を、ガラス基板上に形成された散乱層上に滴下し、スピンコーターを用いて塗布膜を形成した。
【0287】
塗布膜を120℃に保持した乾燥機に投入し、10分間保持することにより、乾燥膜厚0.6μmの乾燥膜を得た。
【0288】
乾燥膜は、475℃で1時間保持して焼成し、これにより150nmの焼成膜を得た。
【0289】
再度、焼成膜の上に被覆層形成用の液体を塗布し、乾燥、焼成し、2層積層することにより、300nmの焼成膜で形成された被覆層を得た。
【0290】
その後、例1と同様にしてITO膜を成膜した。
【0291】
これにより、サンプル3が得られた。
【0292】
(例4)
例3と同様の方法により、透光性基板のサンプル(以下、「サンプル4」と称する)を作製した。
【0293】
ただし、この例4では、ITO膜を以下の条件により成膜した。その他の条件は、例3の場合と同様である。
【0294】
ITO膜は同様に反応性スパッタにより成膜した。
【0295】
成膜は、被覆層まで形成された基板を380℃に加熱し、ターゲットとしてはITOターゲットを用い、スパッタの際の反応ガスとしてはアルゴンと酸素を用い、この際酸素濃度は2.3vol%としてスパッタ装置により行った。膜厚150nmのITO膜を成膜した。
【0296】
これにより、サンプル4が得られた。
【0297】
(例5)
例1と同様の方法により透光性基板のサンプル(以下、「サンプル5」と称する)を作製した。
【0298】
ただし、例5では、散乱層上に被覆層を成膜する際の条件を以下の条件としてサンプルを作製した。
【0299】
被覆層は反応性スパッタにより成膜した。
【0300】
成膜は、散乱層を備えたガラス基板を250℃に加熱し、ターゲットとして40at%Si−60at%Snターゲットを用い、スパッタの際の反応ガスとしてはアルゴンと酸素を用い、この際酸素濃度は50vol%としてスパッタ装置により行った。被覆層として、300nmのSTO膜(Si、Sn、Oを組成として含む混合膜)を成膜した。
【0301】
その後、例1と同様にしてITO膜の成膜を行った。
【0302】
これにより、サンプル5が得られた。
【0303】
(例6)
例1と同様の方法により、透光性基板のサンプル(以下、「サンプル6」と称する)を作製した。
【0304】
ただし、この例6では、散乱層上に被覆層を成膜する際の条件を以下の条件としてサンプルを作製した。
【0305】
被覆層は反応性スパッタにより成膜した。
【0306】
成膜は、散乱層を備えたガラス基板を250℃に加熱し、ターゲットとして40at%Si−60at%Snターゲットを用い、スパッタの際の反応ガスとしてはアルゴンと酸素を用い、この際酸素濃度は50vol%としてスパッタ装置により行った。被覆層として、150nmのSTO膜(Si、Sn、Oを組成として含む混合膜)を成膜した。
【0307】
その後、例1と同様にしてITO膜を成膜した。
【0308】
これにより、サンプル6が得られた。
【0309】
(例7)
例1と同様の方法により、透光性基板のサンプル(以下、「サンプル7」と称する)を作製した。
【0310】
ただし、この例7では、散乱層上に被覆層を成膜する際の条件を以下の条件としてサンプルを作製した。
【0311】
被覆層は反応性スパッタにより成膜した。
【0312】
成膜は、散乱層を備えたガラス基板を250℃に加熱し、ターゲットとして28at%Si−72at%Snターゲットを用い、スパッタの際の反応ガスとしてはアルゴンと酸素を用い、この際酸素濃度は50vol%としてスパッタ装置により行った。被覆層として、300nmのSTO膜(Si、Sn、Oを組成として含む混合膜)を成膜した。
【0313】
その後、例1と同様にしてITO膜の成膜を行った。
【0314】
これにより、サンプル7が得られた。
【0315】
(例8)
例1と同様の方法により、透光性基板のサンプル(以下、「サンプル8」と称する)を作製した。
【0316】
ただし、この例8では、散乱層上に被覆層を成膜する際の条件を以下の条件としてサンプルを作製した。
【0317】
被覆層は反応性スパッタにより成膜した。
【0318】
成膜は、散乱層を備えたガラス基板を室温とし、ターゲットとして40at%Si−60at%Snターゲットを用い、スパッタの際の反応ガスとしてはアルゴンと酸素を用い、この際酸素濃度は50vol%としてスパッタ装置により行った。被覆層として、300nmのSTO膜(Si、Sn、Oを組成として含む混合膜)を成膜した。
【0319】
その後例1と同様にしてITO膜の成膜を行った。
【0320】
これにより、サンプル8が得られた。
【0321】
以下の表1に、サンプル1〜8の被覆層の成膜方法、及び、後述の評価の結果をまとめて示す。
【0322】
【表1】
(評価)
上述のようにサンプル1〜8について、被覆層を成膜後に被覆層の屈折率、表面粗さ(算術平均粗さ)Ra、充填率の測定を行った。また、サンプル1〜8についてITO膜を成膜後に着色評価試験、電気抵抗率測定と吸収量測定を行った。評価方法とその結果について以下に説明する。
【0323】
(被覆層の屈折率測定)
被覆層の屈折率はエリプソメーター(J.A.Woollam社 Spectroscopic Ellipsometery M−2000DI)を用いて測定を実施した。
【0324】
結果を表1に「波長550nmの光に対する屈折率」として示す。
【0325】
(被覆層の表面粗さRa測定)
被覆層のITO膜を成膜する面についてJIS B 0601 2001で定義されている表面粗さ(算術平均粗さ)Raを測定した。表面粗さ(算術平均粗さ)Raは原子間力顕微鏡(セイコーエプソン社 SPM3800)を用い、測定を実施した。
【0326】
測定は、被覆層の表面のうち任意の箇所で、3μm四方の範囲について行った。
【0327】
結果を表1に「表面粗さRa」として示す。
【0328】
(被覆層の充填率測定)
被覆層の充填率(充填密度)はX線反射率測定器を用いて膜の実測密度を測定し、該実測密度を、膜の組成から算出した理論密度で除し、得られた値を100倍して算出した。被覆膜の密度測定は膜厚方向の密度変化がある場合は、膜中で、もっとも高い密度を実測密度として用いている。
【0329】
結果を表1に「充填率」として示す。
【0330】
(着色評価試験)
着色評価試験は、下記の手順で実施した。
(1)ITO膜を成膜したサンプルを塩化鉄水溶液にて被覆層とITO膜とをウエットエッチングする。
(2)サンプルの分光吸収量を分光装置(パーキンエルマー社製、Lambda950)にて評価する。この際の分光吸収量の値を表1において、「ITO成膜後の基材の波長550nmにおける吸収量(%)」として示す。
(3)波長550nmにおける吸収量が基材ガラスの吸収よりも1%以上大きいものは、ITO成膜プロセス中に基材に着色が生じていると判断する。また、この場合、Bi還元由来の吸収があると判断する。着色評価試験の結果を、表1に「Bi還元成分由来の吸収の有無」として示す。
【0331】
なお、被覆層、ITO膜を形成する前のガラス基板(基材ガラス)、すなわち、散乱層が設けられたガラス基板について同様の測定を行ったところ、ガラス基板の波長550nmにおける吸収量は、約3.5%であった。
【0332】
(電気抵抗率測定)
サンプル1〜8のITO膜の電気抵抗率を、ホール効果測定装置により測定した。結果を表1に「電気抵抗率」として示す。
【0333】
なお、本測定は着色評価試験の前に行っている。
【0334】
(吸収量測定)
次にサンプル1〜8のガラス基板と、散乱層と、被覆層と、ITO膜と、を含む透光性基板の吸収量測定を行なった。吸収量の測定は分光装置(パーキンエルマー社製、Lambda950)を用いて行った。この結果を「サンプルの波長550nmにおける吸収量」として表1に示す。
【0335】
なお、本測定は着色評価試験の前に行っている。
【0336】
まず、着色評価試験の結果によると、サンプル1、2、4、5、6、7、8は、着色していないものの、サンプル3は、着色していることが確認された。
【0337】
また、電気抵抗率測定の結果、表1に示すようにサンプル1、2、3、5、6、7、8については、電気抵抗率は2.38×10
−4Ωcm未満と、十分に小さいが、サンプル4については電気抵抗率が高くなっていることが確認された。
【0338】
これは、サンプル4以外については、酸素濃度が低い領域でITO膜を成膜したのに対して、サンプル4は他のサンプルと比較して酸素濃度が高い雰囲気においてITO膜を成膜したためと考えられる。
【0339】
表1に示したサンプルの波長550nmにおける吸収量を比較すると、サンプル1、2、4、5、6、7、8は8.7%以下と低くなっているのに対して、サンプル3は13.2%と非常に高くなっていることが確認された。これは、サンプル3は上述のように散乱層に着色が生じたためと考えられる。
【0340】
また、サンプル5、6は吸収量がそれぞれ6.8%、5.7%と、7.0%以下になっており、他のサンプルと比較して非常に低くなっていることが確認できた。
【0341】
ここで、表1に示すように、乾式で被覆層を成膜したサンプル1、2、5〜8では被覆層の充填率が96%〜99%の範囲に分布していた。これに対して、湿式で被覆層を成膜したサンプル3、4では、被覆層の充填率が81%、82%と低くなっていることが分かる。そして、ITO膜を成膜する際の酸素濃度が同じ、サンプル1〜3、5〜8で比較すると上述のようにサンプル3の場合にのみ着色が生じていた。
【0342】
被覆層の充填率と、着色評価試験の結果から、被覆層の充填率を高くすることにより、ITO成膜時の雰囲気によらず散乱層の着色を防止できることがわかる。そして、乾式で被覆層を成膜することにより、被覆層の充填率が高くなることが確認できた。
【0343】
また、サンプル1、2、5〜8において、被覆層表面の表面粗さRaが2.0nm以下と低くなっていることが確認できた。中でも、サンプルの波長550nmにおける吸収量が7.0%よりも低いサンプル5、6は、被覆層の表面粗さが1.0nm以下になっていることが確認できた。これは、被覆層の表面粗さRaが平滑であるほどITOの結晶核が良好に成長することができたためと考えられる。
【0344】
そして、被覆層の屈折率を比較すると、サンプル2以外は屈折率が1.86から1.91の間であり、この実施例ではベース材の波長550nmの光に対する屈折率が1.9であり、屈折率がベース材(約1.9)に近くなっている。このようにベース材の屈折率と被覆層の屈折率が近い場合には、被覆層の膜厚にばらつきがあっても干渉条件が変化しない為、有機LEDの発光色は変動を受けず、安定した発光層の色合いを得ることが可能になる。尚、ベース材の屈折率に制限はないが、有機LEDの光取り出しを良好にするには、ベース材の屈折率が1.7以上から2.1以下であると好ましく、1.8以上2.0以下であるとなお好ましい。
【0345】
以上の評価の結果から総合評価を行った。総合評価の基準として、散乱層に着色がなく、電気抵抗率が十分に小さいサンプルを○とした。散乱層に着色がみられるか、電気抵抗率が高くなっているサンプルについては総合評価を×とした。また、散乱層に着色がなく、電気抵抗率が十分に小さく、かつサンプルの波長550nmにおける吸収量が7.0%以下のサンプルの総合評価は◎とした。結果を表1に示す。
【0346】
これによると、実施例であるサンプル1、2、5〜8についてはいずれも総合評価は○または◎となった。特にサンプル5、6は、散乱層に着色がなく、電気抵抗率が十分に低く、サンプルの波長550nmにおける吸収量は7.0%以下になっており、特に性能が優れていることが確認できた。
【0347】
これに対して、比較例であるサンプル3、4は散乱層に着色が生じるか、電気抵抗率が高くなっており、総合評価は×となった。
【0348】
以上のように、実施例であるサンプル1、2、5〜8では乾式の成膜方法により成膜された被覆層が、ITO膜を成膜する際の周辺雰囲気による、散乱層に含まれる被還元性元素の還元反応を抑制するバリア層として機能したため、散乱層に着色がみられなかった。また、ITO膜を成膜する際に酸素濃度が低い条件で成膜したため、電気抵抗率も十分に小さくすることができている。
【0349】
これに対して、比較例であるサンプル3については、被覆層を設けたものの湿式の成膜方法により成膜したため、散乱層に含まれる被還元性元素が、ITO膜を成膜する際の周辺雰囲気によって還元され、散乱層に着色がみられた。
【0350】
また、比較例であるサンプル4については、ITO膜を成膜する際の周辺雰囲気中の酸素濃度を他のサンプルよりも高くしたため、湿式の成膜方法により被覆層を成膜したものの、散乱層の着色を防ぐことはできた。しかしながら、上述のように酸素濃度が高い条件下でITO膜を成膜したため、電気抵抗率が高くなった。
【0351】
以上のように、乾式の成膜方法により被覆層を成膜した場合、緻密な被覆層を形成し、該被覆層はITO膜を成膜する際の低酸素雰囲気による、散乱層等に含まれるBi
2O
3等の被還元性元素の還元反応を抑制するバリア層として機能することができる。このため、ITO膜を低酸素濃度の雰囲気で成膜した場合でも散乱層の着色を防止することができ、散乱層(またはガラス基板)の低吸収とITO膜の低抵抗とを両立できることが確認できた。
【0352】
以上に透光性基板、有機LED素子、透光性基板の製造方法を、実施形態および実施例等で説明したが、本発明は上記実施形態および実施例等に限定されない。特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0353】
本出願は、2013年5月9日に日本国特許庁に出願された特願2013−099112号、及び2013年12月18日に日本国特許庁に出願された特願2013−261821号に基づく優先権を主張するものであり、特願2013−099112号、及び特願2013−261821号の全内容を本国際出願に援用する。