(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記金属膜はチタン膜であり、チタン膜によりプリコートする工程の前に、前記処理容器内をチタンナイトライド膜によりプリコートする工程を行うことを特徴とする請求項3記載の基板処理方法。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化に伴い、トランジスタのコンタクト部においても微細化が進み、更にゲート構造についてもプレーナー型から三次元構造であるマルチゲート型のフィン構造へ移行している。コンタクト部においては、下地のSi(シリコン)層あるいはSiGe(シリコンゲルマニウム)層の上にTi(チタン)膜を成膜し、SiとTiとを反応させてシリサイドを形成している。そしてTiの成膜手法としては、スパッタ成膜よりもステップカバレッジが優れるCVD(Chemical Vapor Deposition)を用いてコンタクト部を形成する手法が開発されている。
【0003】
CVDにおけるTiの成膜は、処理容器内に基板を搬入した後、TiCl
4(四塩化チタン)ガスとH
2(水素)ガスとの混合ガスをプラズマ化して行われるが、TiCl
4に含まれるCl(塩素)が不純物としてTi膜中に取り込まれてしまう。このため基板に成膜されたTi膜中にClが不純物として残留してしまうし、またClを多く含んだTi膜は不安定であることから、処理容器内に堆積したTi膜が剥がれてパーティクルとなる。更にTi成膜処理後の処理容器内の真空雰囲気中にはTi
xCl
xやCl
x成分が残留するため、基板上に成膜されたTi膜の表面をエッチングして当該表面を荒れさせてしまうし、基板の裏面にTi
xCl
xが付着して基板を汚染してしまう。
【0004】
このため基板に対して成膜処理が終了した後、基板が処理容器内に置かれている状態で処理容器内にNH
3(アンモニア)ガスを流し、Ti膜中のClを還元して除去すると共にTi膜の表面を窒化させてTiN(チタンナイトライド)膜を形成し、膜を安定させる後処理をおこなっている。更にまた、基板の入れ替え時において、処理容器内に基板が置かれていない状態で既述の混合ガスをプラズマ化して処理容器内の雰囲気中に残留しているClを除去しながら、処理容器内を覆っているTi膜の表面にTiN膜を成膜して膜の安定化を図っている。
【0005】
また処理容器内をクリーニングした後、基板に対して成膜を行う前に、処理容器の内壁、載置台の表面、処理ガスを供給するガスシャワーヘッドの表面に対して事前に薄膜を成膜するプリコートが行われる。従来ではこのプリコート膜についても、Ti膜を成膜した後、処理容器内にNH
3ガスを通流させるかあるいはNH
3プラズマ発生させることによりTi膜の表面を窒化させて安定化させている。
【0006】
しかしながら、デバイスの微細化に伴ってTi膜が薄膜化していくと、基板が処理容器内に載置された状態でNH
3ガスを流すことにより、Ti膜中に取り込まれるN(窒素)がTi膜の表面を窒化させるだけでなく、Ti膜とSi膜との界面におけるシリサイド化の反応を阻害してしまう。更にプリコート膜がTiN膜であり、また基板の成膜時に処理容器の内壁やガスシャワーヘッドの表面に成膜されたTi膜を基板の入れ替え時に窒化してTiN膜としているため、基板の成膜処理時に生成したプラズマにより、詳しくはアルゴン(Ar)
+イオンによりこれらTiN膜がスパッタされて、基板上に成膜している膜中にNが取り込まれてしまう。このようにして取り込まれたNもシリサイド化の反応を阻害してしまう。この結果、デバイスの微細化がより進むと、良好で低抵抗なコンタクトを形成することが困難になるという課題がある。
【0007】
特許文献1には、プラズマCVDによりTi膜の成膜処理を行うチャンバ内に塩素ガスを導入してクリーニングし、チャンバ内のニッケル部材と反応して生成されたニッケル塩化物を水素活性種により分解する技術が記載されているが、本発明とは構成要件が異なる。
また特許文献2には、プラズマCVDによりTi膜の成膜処理を行うチャンバ内にH
2ガスを流したままTiCl
4ガスを間欠的に供給する技術が記載されている。この技術は、膜中のClを除去しつつ、低温プロセスを実現することを目的としており、本発明の目的とは異なることから、手法においても本発明とは異なる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態に係る基板処理方法は、
図1に示すマルチチャンバーシステムにより行われる。被処理基板である半導体ウエハ(以下「ウエハ」という)Wはロードポート11上の搬送容器Cから搬送アーム15により取り出されて、アライメント室16→常圧搬送室12→ロードロック室13に搬送される。次いでウエハWは、真空搬送室14内の搬送アーム19により、ロードロック室13から取り出されて、まずプロセスモジュールであるCOR処理装置90に搬送される。
【0015】
COR処理装置90は、ウエハWに反応ガスであるHFガス及びNH
3ガスと、希釈ガスであるArガス及びN
2ガスと、を供給するように構成されている。これによりウエハW表面のSi膜に形成される自然酸化層(SiO
2層)がHFガスとNH
3ガスと反応して、(NH
4)
2SiF
6(珪フッ化アンモニウム)や水などの反応生成物になる。次いでウエハWは、アニール装置91に搬送され、例えば175℃に加熱される。これによりCOR処理装置90にて形成された珪フッ化アンモニウムや水などの反応生成物が揮発して除去される。その後ウエハWはプラズマ処理装置2にて後述のようにして、例えば表面にSi膜が形成されたウエハWにTi膜がプラズマCVDによって成膜され、続いて熱ALD装置92にてTi膜の表面にTiN膜が成膜される。なお
図1中の100はゲートバルブである。
【0016】
またマルチチャンバーシステムは、例えばコンピュータからなる制御部9が設けられている。この制御部9は、プログラム、メモリ、CPUからなるデータ処理部などを備えている。プログラムは、マルチチャンバーシステム内の搬送動作に関するプログラム及び各プロセスモジュールである、COR処理装置90、アニール装置91、プラズマ処理装置2及び熱ALD装置92におけるプロセスレシピや前処理、後処理などを行うためのレシピ(プログラム)などを含んでいる。プログラムは、コンピュータ記憶媒体、例えばフレキシブルディスク、コンパクトディスク、ハードディスク、MO(光磁気ディスク)などの記憶部に格納されて制御部9にインストールされる。
【0017】
次いでプラズマ処理装置2について
図2を参照して説明する。プラズマ処理装置2は、アースに接地された気密な金属製の略円筒状の処理容器20を備えている。処理容器20の底面の中央部には下方に向けて突出する例えば円筒状の排気室21が形成され、排気室21における側面には、排気路22が接続されている。この排気路22には例えばバタフライバルブからなる圧力調整バルブなどを備えた圧力調整部23を介して真空ポンプなどの真空排気部24が接続され、処理容器20内が所定の真空圧力まで減圧できるように構成されている。また処理容器20の側面には、図示しない搬送室との間でウエハWの搬入出を行うための搬送口25が形成され、この搬送口25はゲートバルブ100により開閉自在に構成されている。
【0018】
処理容器20内にはウエハWを略水平に保持するための例えばニッケル(Ni)により構成された載置台3が設けられている。載置台3は、その下面の中心部に、金属製の支持部材31が接続される。支持部材31の下端はフランジ33が形成されており、フランジ33は接地間隔固定用のスペーサ34を介して排気室21の底面に固定されている。
【0019】
また載置台3にはヒータ36が埋設され、制御部9からの制御信号に基づいて、図示しない電源部から給電されることによってウエハWが設定温度、例えば450℃程度の温度に加熱されるように構成されている。載置台3の表面には、ウエハWを保持するための凹部であるポケット32が形成されており、ウエハWはポケット32内に載置される。さらに載置台3には、周方向に例えば3つの貫通孔37が形成され、この貫通孔37には、載置台3上のウエハWを保持して昇降させるための昇降部材をなす3本の昇降ピン41が設けられている。これら昇降ピン41は、例えばアルミナ等のセラミックスや石英により構成されている。昇降ピン41は、支持体42及び昇降軸43を介して処理容器20の外部に設けられた例えばエアシリンダよりなる昇降機構44に接続されている。昇降機構44は排気室21の下部に設置され、排気室21の下面に形成された昇降軸43用の開口部211と昇降機構44との間にはベローズ体45が設けられている。
【0020】
処理容器20の天井部には、絶縁部材28を介して上部電極をなすNi製のガスシャワーヘッド5が設けられ、このガスシャワーヘッド5には整合器511を介して、例えば300〜2500Wの高周波電力を印加する高周波電源51が接続されている。従って本発明のプラズマ処理装置2は、処理容器20内に励起されるガスを供給すると共に、上部電極をなすガスシャワーヘッド5と下部電極をなす載置台3との間に高周波電力が印加されてプラズマが発生する平行平板型プラズマ処理装置として構成されている。
【0021】
ガスシャワーヘッド5の内部には、ガス供給室52が形成され、ガス供給室52の下面には、処理容器20内へ処理ガスを分散供給するための多数の孔53が、例えば均等に配置されている。またガスシャワーヘッド5における、例えばガス供給室52の上方側には加熱機構54が埋設されており、後述する制御部9からの制御信号に基づいて、図示しない電源部から加熱機構54に給電されることによって設定温度に加熱されるようになっている。
【0022】
ガス供給室52にはガス供給路6の下流側端部が接続され、このガス供給路6の上流側には、TiCl
4を含む原料ガスを供給する供給用流路となるTiCl
4ガス供給管611、還元ガスを供給するH
2ガス供給管621、窒化用のNH
3ガスを供給するNH
3ガス供給管631、及びArガス供給管641が合流されている。TiCl
4ガス供給管611の上流側端部には、TiCl
4ガス供給源61が接続され、上流側から流量調整部M1、バルブV1が介設されている。H
2ガス供給管621の上流側端部には、H
2ガス供給源62が接続され、上流側から流量調整部M2、バルブV2が介設されている。NH
3ガス供給管631の上流側端部には、NH
3ガス供給源63が接続され、上流側から流量調整部M3、バルブV3が介設されている。Arガス供給管641の上流側端部には、Arガス供給源64が接続され、上流側から流量調整部M4、バルブV4が介設されている。
またプラズマ処理装置2は、既述の制御部9が接続され、制御部9には、後述するプリコート処理及びウエハWに対するプラズマ処理を含む処理を進行させるように命令(各ステップ)が組み込まれたプログラムを備えている。
【0023】
続いて本発明の実施の形態に係る基板処理方法の作用について説明する。先ず既述のようにして、COR処理装置90及びアニール装置91にて、Si膜表面の自然酸化層が除去されたウエハWは、プラズマ処理装置2にてSi膜の表面にTi膜が成膜されるが、プラズマ処理装置2においては、予めプラズマ処理装置2の内面にTi膜を成膜するプリコート処理が行われている。プリコートのタイミングとしては、プラズマ処理装置2を設置して初めて運転を行うとき、あるいはプラズマ処理装置2のメンテナンスを終了した後などが挙げられる。
【0024】
プリコート処理について
図3のフローチャートを参照して説明する。プラズマ処理装置2においては、ウエハWを搬入せずに、まず真空排気部24により処理容器20内の排気を行い圧力を例えば200Paに設定する。次いで処理容器20内にTiCl
4ガス、Arガス及びH
2ガスを夫々供給する。さらに高周波電源51からの高周波電力を印加する。これにより処理容器20内にプラズマが生成し、TiCl
4とH
2との反応により処理容器20の内面、ガスシャワーヘッド5の下面及び載置台3の表面に例えば膜厚5nmのTi膜が成膜される(ステップS1)。
【0025】
次いでTiCl
4ガス及びH
2ガスの供給を停止すると共に、処理容器20内にNH
3ガス及びArガスを供給し、高周波電源51から高周波電力を印加する。これによりNH
3ガスが活性化され、ステップS1にて処理容器20、ガスシャワーヘッド5及び載置台3に成膜されたTi膜が窒化されてTiN膜になる(ステップS2)。
そしてステップS2のTi膜の窒化処理の後、再びステップS1のTi膜の成膜を行い、さらにその後ステップS2のTi膜の窒化処理を行う。このようにステップS1のTi膜の成膜と、ステップS2のTi膜の窒化処理と、をn(nは1以上の自然数)回繰り返し行い、200nm以上、例えば550nmの膜厚のTiN膜を成膜する。
【0026】
処理容器20、ガスシャワーヘッド5及び載置台3は、既述のように例えばNiで構成されている。Niの表面にTi膜を成膜すると、NiとTiとが反応し反応生成物となり固着してしまう。そのため、Ti膜を成膜した後、速やかに窒化してTiN膜とする。なおステップS2においては、処理容器20内にNH
3ガスを供給して、高周波電力を印加せずにTi膜を窒化してもよい。
【0027】
続いて処理容器20内へのNH
3ガスの供給を停止し、TiCl
4ガス、Arガス及びH
2ガスを供給し、高周波電源51から高周波電力を印加する(ステップS3)。これにより処理容器20の内面、ガスシャワーヘッド5の下面及び載置台3の表面に成膜されたTiN膜の表面に例えば5nmの膜厚でTi膜を成膜する。
【0028】
更にその後TiCl
4ガス及びArガスの供給を停止し、処理容器20内にH
2ガスを供給した状態で高周波電源51により、高周波電力を印加する。これにより処理容器20内においては、H
2ガスが活性化されてプラズマ化する(ステップS4)。ステップS1及びステップS3におけるTi膜の成膜のときにTiCl
4ガスを供給しているため、処理容器20内の雰囲気中や処理容器20の内壁には、Tiの塩化物や塩素単体が残留している。なお明細書中では、Tiの塩化物を総称してTiCl
xとして示し、塩素単体を総称してCl
xと示す。これら処理容器20内に残留するTiCl
xやCl
xを含む成分がH
2ガスのプラズマにより還元されて除去される。なおステップS4においては、H
2ガスと共に、Arガスを供給してもよい。
【0029】
そしてステップS4のTiCl
xやCl
xを含む成分の還元除去処理の後、再びステップS3のTi膜の成膜を行い、さらにその後ステップS4のTiCl
xやCl
xを含む成分の還元除去処理を行う。このようにステップS3のTi膜の成膜と、ステップS4のTiCl
xやCl
xを含む成分の還元除去処理と、をm(mは1以上の自然数)回繰り返し行い、300nm以上、例えば850nmの膜厚のTi膜を成膜する。
【0030】
このように
図3に示すステップS1からステップS4のプリコート処理を行うことにより、処理容器20内においては、処理容器20を構成する例えばNiなどの金属表面に例えば550nmの膜厚のTiN膜が成膜され、さらにTiN膜の表面に850nmのTi膜が成膜された状態となる。そしてさらに処理容器20内から、TiCl
xやCl
xを含む成分が除去された状態となっている。そして十分にTiCl
xやCl
xを含む成分が除去された後、Arガス、H
2ガスの供給を停止すると共に、高周波電力の印加を停止し、プリコートを終了する。
【0031】
次いでプリコート処理を行ったプラズマ処理装置2におけるウエハWの処理について
図4を参照して説明する。先ず既述のように自然酸化膜が除去されたウエハWが搬送アーム19と昇降ピン41との協働作用により載置台3に載置される。(ステップS11)。
その後ゲートバルブ100を閉じ、真空排気部24により排気を行い、処理容器20内の圧力を例えば133Paに設定する。その後、処理容器20内にTiCl
4ガスを例えば10sccmの流量、Arガスを例えば1000sccmの流量、及びH
2ガスを例えば10sccmの流量で夫々供給し、高周波電源51から高周波電力を印加する(ステップS12)。これによりTiCl
4ガスとH
2ガスとが活性化されて反応し、ウエハWの表面に例えば5nmの膜厚のTi膜が成膜される。
【0032】
なお後述するが、
図5(a)に示すようにTi膜103と下地のSi膜101との界面は成膜時に反応してTiSi
xとなる。しかしながら成膜時にすべてのTi膜103がSiと反応してTiSi
xとなるわけではなく、表面から深層に向かい徐々にTi膜103からTiSi
x膜102に変化する状態となる。そのためTi膜103の膜厚及びTiSi
x膜102の膜厚を蛍光X線分析(XRF)や偏光解析法(エリプソメトリー)等により簡易的に膜厚を測定することが困難である。そのため、ここではTi膜103の膜厚は、下地膜をSi膜101からSiO
2膜に代えたことを除いて同様に成膜したときに成膜されるTi膜103の膜厚で示している。
【0033】
Si膜101の表面にTi膜103を成膜すると
図5(a)に示すようにSi膜101とTi膜103との界面にてTiのシリサイド化が起こる。そのためSi膜101とTi膜103と間には、TiSi
x膜102の層が形成される。なお明細書中では、シリサイド化したTiを総称してTiSi
xと表記する。その後TiCl
4ガス及びH
2ガスの供給を停止すると共に、高周波電力の印加を停止し、処理容器20内にArガスを供給する(ステップS13)。これにより処理容器20に残留するTiCl
4ガス及びH
2ガスが除去されて、TiCl
4及びH
2の反応が停止し、Ti膜103の成膜が停止する。
【0034】
その後処理容器20内にウエハWを載置した状態で、Arガスの供給を停止し、圧力を例えば200Paに設定する。そして処理容器20内にH
2ガスを例えば4000sccmの流量で供給し、例えば1350Wの高周波電力を60秒間印加して第1の還元処理を行う(ステップS14)。これにより
図6に示すように処理容器20内にて、H
2ガスが活性化される。なおステップS14において、H
2ガスと共に、Arガスを供給してもよい。
ステップS12において、TiCl
4ガス及びH
2ガスを供給しているため、処理容器20内やウエハWの表面には、TiCl
xやCl
xを含む成分が残留している。そしてステップS14にてH
2ガスを活性化すると、H
2ガスを活性化して得たプラズマにより、TiCl
xやCl
xを含む成分が還元されて除去される。なお
図6、及び後述の
図7においては、プラズマ処理装置2は簡略化して記載した。
【0035】
そしてH
2ガスの供給を停止すると共に高周波電力の印加を停止し、ゲートバルブ100を開き、搬送アーム19によりウエハWをプラズマ処理装置2から搬出する(ステップS15)。さらに続いて、ゲートバルブ100を閉じ、処理容器20を密閉した後、
図7に示すように処理容器20内にウエハWを載置していない状態で、第2の還元処理を例えば60秒間行う(ステップS16)。この第2の還元処理は、処理容器20内の圧力を例えば200Paとし、例えば4000sccmの流量のH
2ガスを処理容器20に供給し、例えば1350Wの高周波電力を印加することにより、処理容器20内にH
2ガスのプラズマを励起することにより行われる。これにより、第1の還元処理を行っても完全には除去しきれず処理容器20内にTiCl
xやCl
xを含む成分が残存している場合にも、この第2の還元処理により、処理容器20内に残存しているTiCl
xやCl
xを含む成分がより確実に還元されて除去される。なおステップS16において、H
2ガスと共に、Arガスを供給してもよい。
従ってプラズマ処理装置2において、後続のウエハWを搬入してTi膜103の成膜処理を行うときに処理容器20内に残存しているTiCl
xやCl
xを含む成分を抑制することができる。
【0036】
一方プラズマ処理装置2から搬出されたウエハWは、搬送アーム19により熱ALD装置92に搬入される。そして熱ALD装置92において、処理容器20内にN
2ガスを供給しながら、TiCl
4ガスと、NH
3ガスと、を所定の時間間隔で交互に繰り返し供給する。これにより
図5(b)に示すようにTi膜103の表層にTiN膜104が積層される。
【0037】
こうして
図5(b)に示すようにTi膜103の表層にTiN膜104が成膜されたウエハWは、搬送アーム19により、真空雰囲気のロードロック室13に搬送される。次いでロードロック室13を大気雰囲気に切り替えた後、ウエハWは、搬送アーム65により、例えば元の搬送容器Cに戻される。そしてTiN膜104が成膜されたウエハWの表層には、後工程において、例えば電極を形成するタングステン(W)膜が成膜される。
【0038】
上述のように実施の形態においては、プラズマ処理装置2において、表面にSi膜101が形成されたウエハWにTi膜103を成膜している。Si膜101の表面にTi膜103を成膜するにあたって、Ti膜103中にCl原子が取り込まれてしまうと、膜中に取り込まれたCl原子が水素原子と反応して、HClとなり、Ti膜103の表面を荒らしてしまう。そのためTiCl
4ガスを供給した後、処理容器20内に残存するTiCl
xやCl
xを含む成分を除去する必要がある。
【0039】
TiCl
xやCl
xを含む成分を除去するにあたっては、背景技術に記載したように、例えばNH
3ガスを用い、NH
4Clなどの反応生成物として除去することができる。しかしながらNH
3ガスを用いた場合には、処理容器20内にN原子が残留し、ウエハWに成膜されるTi膜103中にN原子が取り込まれてTiのシリサイド化の反応が阻害される。そのためTi膜103の薄膜化が進むと電気的特性への悪影響が顕在化してくる。
【0040】
上述の実施の形態によれば、プラズマ処理装置2において、ウエハWのSi膜101の表面にTi膜103を成膜した後、処理容器20中のTiCl
xやCl
xを含む成分を除去するにあたってH
2ガスを活性化して得たプラズマ(水素プラズマ)を用いている。そのため処理容器20内のN原子が抑制され、ウエハWに成膜されるTi膜103中におけるN原子の取り込みを抑制することができる。従ってTi膜103とSi膜101との界面におけるTiのシリサイド化の反応が阻害されずTiSi
x膜102が均一な膜厚で形成される。
【0041】
また処理容器20中にウエハWを置いた状態で長時間プラズマ処理を行うとウエハWにダメージが及ぶおそれがある。従ってウエハWが置かれた状態とウエハWを搬出した状態とに分担して水素プラズマによる還元処理を行うこと(第1の還元処理と第2の還元処理とを行うこと)が好ましい。
【0042】
第2の還元処理においてもNH
3ガスを用いずに水素プラズマによりTiCl
xやCl
xを含む成分を除去している。そのため処理容器20内にN原子の残留を抑制することができる。従ってプラズマ処理装置2に、後続のウエハWを搬入して、ウエハWにTi膜103の成膜を行うときにTi膜103中のN原子の取り込みを抑制することができる。
【0043】
また第1の還元処理と、第2の還元処理との内、ウエハWが置かれた状態で水素プラズマによる還元処理を行う第1の還元処理のみを行う場合にもウエハWに成膜されるTi膜103中におけるN原子の取り込みを抑制することができるため効果を得ることができる。さらにウエハWを搬出した状態で水素プラズマによる還元処理を行う第2の還元処理のみを行うようにした場合にも、同様に処理容器20中に残るN原子を抑制することができるため、後続のウエハWに成膜するTi膜103中におけるN原子の取り込みを抑制することができるため効果を得ることができる。
第2の還元処理は、処理容器20内にウエハWを載置していないため、第1の還元処理よりも長い時間、例えば90秒行うようにしてもよい。また例えば第1の還元処理は、例えばH
2ガスの供給流量を少なくして、プラズマの強度を低くし、第2の還元処理においては、H
2ガスの供給流量を多くしてプラズマの強度を上げるようにしてもよい。
【0044】
さらにプラズマ処理装置2の処理容器20の内面にプリコートを行うにあたって、処理容器20の内面にTiN膜を成膜した後、TiN膜の表面を覆うようにTi膜を成膜している。既述のように例えばNiなどの金属表面にTi膜を成膜するとNiとTiとの反応生成物が固着してしまい、その反応生成物を除去することが困難になる。そのためNiの表面に成膜したTi膜は窒化してTiN膜とされるが、プロセス時にプラズマにより、TiN膜がスパッタされ、N原子が離脱して、ウエハWに形成されるTi膜103にN原子が取り込まれるおそれがある
【0045】
これに対してNi表面に成膜したTiN膜の更に表面にTi膜を成膜し、水素プラズマにより還元処理を行っている。従ってプリコート膜の表面は、Clが除去された安定したTi膜になっているので、プロセス時にプリコート膜からNが離脱することを抑制することができ、またTi膜の膜剥がれのおそれがない。
【0046】
またウエハWに成膜するTi膜103の厚さが薄くなると、Ti膜103の表面のNがSi膜101とTi膜103との界面まで到達しやすくなるため、シリサイド化を阻害しやすくなる。そのためステップS12おいて、Si膜101の表面に積層するTi膜103の厚さ(下地膜をSi膜101からSiO
2膜に代えたことを除いて同様にTi膜103を成膜したときに成膜されるTi膜103の膜厚)は、例えば10nm以下である場合には、より効果が大きい。
また本発明は、TiCl
4ガスに代えて、TiF
4などのガスを用いてTi膜103を成膜する基板処理方法であってもよい。更に例えばタンタル(Ta)膜をプラズマCVDにより成膜する基板処理方法であってもよい。
さらに原料ガス、例えばTiCl
4ガスと、反応ガス、例えばプラズマ化したH
2ガスと、を交互に間欠的に繰り返し供給してTi膜103を成膜するALD法であってもよい。
【実施例】
【0047】
本発明の効果を検証するために実施例1、2及び比較例に係るサンプルを作成し、以下の試験を行った。
(実施例1)
上述の実施の形態に従い処理を行ったウエハWを実施例1とした。
(実施例2)
図8(a)に示すように
図3に示したプリコート処理にてステップS2においてNH
3ガスを用いて、Ti膜の窒化を行い、またその後にステップS3、及びS4を行なわずにプリコートしたプラズマ処理装置2により、実施例1と同様のプロセス処理を行ったウエハWを実施例2とした。実施例2では、ステップS1及びステップS2を例えばn回繰り返して、TiN膜を膜厚850nmに成膜した。
(比較例)
図4に示したウエハWの処理のプロセスにおいて、ステップS14における第1の還元処理をNH
3ガスを用いて行い、ステップS16における第2の還元処理をNH
3ガスを用いたプラズマ処理によりTiN膜を成膜した。またプリコート膜として膜厚550nmのTiN膜のみを成膜した例を比較例とした。なお
図8(a)のステップS1、S2及び
図8(b)のステップS21〜S26は、夫々比較例におけるプリコート処理とプロセス処理とにおけるステップ群を示す。
【0048】
実施例1、2及び比較例に従って処理されたウエハWについて表面X線光電子分光分析を用いてN原子の濃度を確認した。
図9はこの結果を示し横軸は、照射したX線を基準としたときの光電子の結合エネルギー、縦軸は、観測された光電子の強度を示した特性図である。なお結合エネルギーが398eVとなる位置に現れるピークはN原子を示す。
【0049】
図9に示すように比較例においては、N原子が多く検出されており、Ti膜103中の濃度で50.1原子%程度のN原子が観測された。これに対して実施例1では、1.3原子%程度のN原子が観測され、実施例2では、10.6原子%のN原子が観測されていた。
この
図9の結果について
図10に模式的に示した。
図10に示すように比較例においては、Ti膜103中のN原子の濃度は50原子%程度であるが、プリコートを除いて、第1の還元処理及び第2の還元処理を実施例1と同様に水素プラズマを用いることで、ウエハWに形成されたTi膜103中のN原子の濃度を10原子%程度まで低減できることが分かる。更に処理容器20内に行うプリコートをTiN膜のみとすることに代えて、TiN膜の表面をTi膜により覆い、次いで水素プラズマ処理を行うことにより、ウエハWに形成されたTi膜103中のN原子の濃度を2原子%以下まで低減できることが分かる。
【0050】
この結果によれば、処理容器20内にウエハWがおかれたときに行う第1の還元処理及びウエハWの入れ替え時に行う第2の還元処理において、水素プラズマを用いることで、Ti膜103中のN原子の濃度を低減することができる。さらに処理容器20内に行うプリコートをTiN膜の表面をTi膜により覆うようにすることで、さらにウエハWに形成されたTi膜103中のN原子の濃度を低減することができると言える。
【0051】
また実施例及び比較例1により成膜したサンプルについて成膜されたTi膜103の膜厚と、表面粗さを測定した。なお膜厚は、蛍光X線分析により各サンプル中のTi原子の量を測定し、PVD(物理気相成長法)にてTi膜103を成膜したときのTi原子の密度の膜の場合における膜厚に換算して表記している。またパーティクル測定器によりサンプルの表面の測定を行い、算出されたヘイズレベルの値を表面粗さとした。
図11はこの結果を示し、実施例1及び比較例に係るサンプルについて、PVD換算膜厚と、表面粗さと、を示す特性図である。
図11に示すように比較例に比べて実施例1のサンプルでは、ウエハWのTi膜103の膜厚に対する表面粗さの値が小さくなっていることが分かる。
【0052】
また実施例1、2及び比較例の各々のサンプルにおいて、Ti膜103を成膜した後In situにて、Ti膜103の上層に酸化防止用のTiNのcapを成膜した。その後実施例1、2に及び比較例のサンプルを真空雰囲気でアニール処理を行い、シリサイド反応をより促進させて、TiSi
x膜102を形成した後、TiSi
x膜102のシート抵抗を測定して、比抵抗を算出して比較した。TiSi
x膜102の比抵抗は、TiN膜104単膜で測定したシート抵抗をサンプル中のTiN膜104分の抵抗に換算してサンプルのシート抵抗から差し引くことにより算出した。
図12はこの結果を示し、実施例1、2及び比較例におけるTiSi
x膜102の比抵抗を示す特性図である。
この結果実施例1のTiSi
x膜102の比抵抗は207μΩ・cmであり、実施例2のTiSi
x膜102の比抵抗は472μΩ・cmであった。また比較例のTiSi
x膜102の比抵抗は620μΩ・cmであった。実施例では、比較例に比べて、TiSi
x膜102の比抵抗が大きく減少しており、特に実施例1では、比較例の1/3に減少していた。
【0053】
さらに実施例1、2及び比較例のシート抵抗を測定したサンプルの断面を透過型電子顕微鏡にて撮影した。
図13はこの結果を示す。また各写真中の各々5ヶ所の地点にてTiSi
x膜102の膜厚について測定し、平均値を求めた。
図14はこの結果を示し実施例1、2及び比較例における各サンプルのTiSi
x膜102の膜厚を示す特性図である。なお
図14の箱ひげ図において、ひげの上端及び下端は夫々最大値及び最小値を示し、箱の上下の位置は、夫々中央値から見て、第3四分位数と、第1四分位数と、を示す。
【0054】
図14に示すように実施例1においては、TiSi
x膜102の平均膜厚は、7.2nmであった。また比較例では、TiSi
x膜102が明確に形成されておらず、TiSi
x膜102の平均膜厚は、15.8nmであった。比較例は、実施例1と比較してウエハWの表面粗さも大きく、TiSi
x膜102の膜厚のばらつきも大きかった。さらにTiSi
x膜102の表面粗さも大きかった。
また実施例2では、TiSi
x膜102の平均膜厚は、14.3nmであり、比較例では、TiSi
x膜102の平均膜厚は、15.8nmであり、比較例に比べて改善が見られた。
【0055】
このように実施例1、2のサンプルに比べ、比較例のサンプルでは、TiSi
x膜102の膜厚が均一ではないため、
図13に示すように表面粗さが大きくなっている。これに対して実施例1では、TiSi
x膜102の膜厚が均一に形成されているため、表面粗さが小さくなっている。
また当該サンプルをX線結晶構造解析によりTiSi
x膜102の結晶性を確認した。
図15はこの結果を示し、実施例1、2及び比較例におけるX線結晶構造解析の結果を示す。
図15に示すように、実施例1においては、C49相のTiSi
2(061)及びC49相のTiSi
2(200)の結晶を示すピークが大きく現れていた。また実施例2においてもC49相のTiSi
2(061)及びC49相のTiSi
2(200)の結晶を示すピークが見られたが、比較例においては、C49相のTiSi
2(060)の結晶を示すピークが僅かに見られ、C49相のTiSi
2(061)及びC49相のTiSi
2(200)の結晶を示すピークはほとんど見られなかった。このように実施例1、2は、比較例に比べてシリサイド化が促進されて、TiSi
x膜102の結晶化が進行していることが確認できる。
【0056】
このように本発明によれば、Ti膜103中に取り込まれるN原子を抑制することができるため、Ti膜103とSi膜101との界面におけるTiのシリサイド化の阻害を抑制することができ、その結果膜厚が均一かつ低抵抗なTiSi
x膜102を形成することができると言える。