特許第6583388号(P6583388)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6583388
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】沈殿槽
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/24 20060101AFI20190919BHJP
   B01D 21/02 20060101ALI20190919BHJP
   B01D 21/06 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   B01D21/24 T
   B01D21/02 S
   B01D21/06 A
   B01D21/24 D
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-217426(P2017-217426)
(22)【出願日】2017年11月10日
(65)【公開番号】特開2019-88999(P2019-88999A)
(43)【公開日】2019年6月13日
【審査請求日】2018年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】清水 哲
【審査官】 高橋 成典
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−286706(JP,A)
【文献】 特開昭52−075049(JP,A)
【文献】 特開2010−201324(JP,A)
【文献】 特開昭55−051410(JP,A)
【文献】 実開平6−7805(JP,U)
【文献】 特許第6183525(JP,B1)
【文献】 米国特許第6193888(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00 − 21/01
21/02 − 21/34
C02F 1/52 − 1/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
槽体の中央部のセンターウェルから該槽体内の下部に供給された被処理水が、該槽体内を上昇し、該槽体上部のトラフから清澄水となって流出する沈殿槽において、
該トラフとして、前記槽体の内周壁に沿う第1のトラフと、該第1のトラフと前記センターウェルとの間に配置された第2のトラフとを備えた沈殿槽であって、
前記第2のトラフは、前記センターウェルの周囲を周回する環状であり、該第2のトラフは、内周側の上端及び外周側の上端にそれぞれVノッチが設けられており、
前記第1のトラフと第2のトラフとを連結する連結水路が放射方向に設けられており、
前記槽体の内周壁と前記センターウェルとの間には、放射方向に延伸する部分を該連結水路を除いては具備せず、
被処理水を前記センターウェル内に旋回方向に導入する旋回導入手段と、前記センターウェルの下端に対峙して水の流れ方向を変更するためのプレートとが設けられており、これにより前記槽体内の上昇流が旋回流を形成することを特徴とする沈殿槽。
【請求項2】
請求項1において、前記槽体の内周壁の平面視形状が円形又は正多角形であることを特徴とする沈殿槽。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥を沈降分離するための沈殿槽に係り、特に被処理水がセンターウェルを介して沈殿槽下部に供給される沈殿槽に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、活性汚泥処理設備や凝集沈殿処理設備等では、汚泥混合液(凝集処理液)を処理水と汚泥とに分離する手段として固液分離槽(沈殿槽)を用いた沈降分離が一般的に採用されている。この沈降分離では、汚泥混合液中の濁質や微細なSSを効率的に除去して良好な処理水を得るために、沈殿槽内に汚泥ゾーン(スラッジブランケット層)を形成し、センターウェル(フィードウェル)を経て、汚泥混合液をこの汚泥ゾーンの下部から流入させて汚泥ゾーンを通過させることにより、汚泥混合液中の濁質や微細なSSを濾過分離するスラッジブランケット濾過方式が採用されている。
【0003】
センターウェル型の沈殿槽として、槽体の中央部のセンターウェルの下端に対峙して水平にプレートを設け、センターウェルからの流出水の流れ方向を放射方向に変更するよう構成することが公知である(特許文献1,2)。
【0004】
凝集沈殿装置において、沈殿槽での固液分離を効果的に行って高清澄な処理水を得るためには、生成させた凝集フロックを破壊させることなく沈殿槽に導入することが重要である。即ち、凝集フロックが破壊されて微細化すると、その沈降性が悪くなり、処理水側に流出して処理水の水質が悪化する。
【0005】
特許文献3には、円筒状のセンターウェル上部にセンターウェルより径の大きい円筒状の流入部を形成しておき、流入配管から流入部の周壁の接線方向に被処理水を供給することにより、流入部では周壁に沿った旋回流が形成され、そのままセンターウェルに導入されることによりセンターウェル内を旋回しながら下降する流れを形成することで、被処理水の導入時の乱流の発生を防ぎ、凝集フロックの破壊を抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−66533号公報
【特許文献2】特開2007−69189公報
【特許文献3】特開2017−87090号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1〜3の通り、沈殿槽内で上昇した処理水は、槽内周壁に沿って設けられたトラフ(溢流堰)に溢流して取り出される。このようにトラフが沈殿槽の内周壁に沿って設けられている沈殿槽にあっては、沈殿槽内の上向流LVが高い場合、水面付近の浅い領域において、トラフのある槽内周壁付近の流速が、トラフのないセンターウェル付近よりも大きくなり、トラフに流入する処理水中のSS(懸濁物質)濃度が高くなるおそれがある。
【0008】
本発明は、被処理水がセンターウェルから槽内に流入し、槽内を上昇し、トラフから流出する沈殿槽において、槽内の上昇LVが高い場合であっても、トラフ近傍での水の流速増大が抑制され、処理水の水質を良好に保つことができる沈殿槽を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の沈殿槽は、槽体の中央部のセンターウェルから該槽体内の下部に供給された被処理水が、該槽体内を上昇し、該槽体上部のトラフから清澄水となって流出する沈殿槽において、該トラフとして、前記槽体の内周壁に沿う第1のトラフと、該第1のトラフと前記センターウェルとの間に配置された第2のトラフとを備えたことを特徴とする。
【0010】
本発明の一態様では、前記第2のトラフは、前記センターウェルの周囲を周回する環状である。
【0011】
本発明の一態様では、被処理水を前記センターウェル内に旋回させながら導入する旋回導入手段と、前記センターウェルの下端に対峙して水の流れ方向を変更するためのプレートとが設けられており、これにより前記槽体内の上昇流が旋回流を形成する。
【0012】
本発明の一態様では、前記槽体の内周壁の平面視形状が円形又は正n角形(n≧6)である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の沈殿槽では、トラフとして、槽体上部内周壁に沿う第1のトラフと、第1のトラフとセンターウェルとの間の第2のトラフとが設けられているので、槽体内の上昇LVが大きい場合でも、トラフ近傍での水の流速増大が抑制され、処理水の水質を良好に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施の形態に係る沈殿槽の縦断面図である。
図2図1の沈殿槽の平面図である。
図3】別の実施の形態に係る沈殿槽の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。図1,2は第1の実施の形態に係る沈殿槽を有する凝集沈殿装置を示すものである。
【0016】
この実施の形態に係る沈殿槽にあっては、槽体1の内周壁の平面視形状は円形であるが、正多角形(ただし、六角形以上)であってもよい。該槽体1の中央部にセンターウェル2が設置されている。このセンターウェル2は上下両端が開放した円筒状であり、その上端2tは槽体1内の水面位WLよりも上方に突出している。この水面位WLは、後述のトラフ13,15のオーバーフローレベルである。上端2tは、全周にわたって均一高さである。
【0017】
センターウェル2の上部には、センターウェル上部部材としてセンターウェル2よりも大径のセンターウェルアッパー3が設けられている。センターウェルアッパー3は、センターウェル2の上部外周面に接続され、水平方向に拡開する平板状の底面3aと、該底面3aの外周縁から起立する周壁3bとを有する。センターウェル2の上部と、底面3aと、周壁3bとで囲まれた部分が、センターウェル2の上部外周を囲む環状水路Cとなっている。水面位WLのレベルとセンターウェル2の上端2tのレベルとの差(高低差)は好ましくは0〜10cm特に好ましくは0〜5cmである。
【0018】
該環状水路C内に被処理水を周回方向に流入させるように、被処理水の導入部材として導入管8が設けられている。この導入管8の末端部は、図2のように、周壁3bに沿って延在しており、被処理水は周壁3bに沿って環状水路C内に流入し、環状水路C内を旋回し、センターウェル2の上端2tをオーバーフローしてセンターウェル2内に流入する。
【0019】
環状水路Cの直径(周壁3bの内周面の直径)は、センターウェル2の上端2tの外径の1.2〜2.0倍特に1.4〜1.8倍程度が好ましい。
【0020】
この実施の形態では、底面3aは水平である。上端2tと底面3aとの高低差は好ましくは5〜50cm特に好ましくは10〜40cmである。
【0021】
このセンターウェル2の下端に対峙して、センターウェル2からの原水の流れ方向を放射方向とするためのフラットバッフルと通称されるプレート4が設けられている。この実施の形態では、プレート4は水平円板状である。プレート4はセンターウェル2の下端よりも所定距離下方に位置している。プレート4とセンターウェル2とは同軸状に配置されている。
【0022】
このプレート4の中央部には、後述のレーキシャフト10が貫通しており、プレート4は該レーキシャフト10に支持されている。ただし、プレート4は支持部材(図示略)を介してセンターウェル2に支持されてもよい。
【0023】
なお、プレート4の半径はセンターウェル2の半径以上かつ半径の1.5倍以下であり、好ましくはセンターウェル2の半径の1〜1.3倍程度である。
【0024】
槽体1の底面は中央に向って下り勾配となっており、その中央部には、沈降した汚泥を集めて排出するためのピット6が設けられている。ピット6内の汚泥は、排泥管7を介して槽体1外に排出される。ただし、槽体1の底面は水平であってもよい。
【0025】
槽体1の底面に沿ってレーキ板11を回転させるようにレーキ装置が設けられている。このレーキ装置は、前記センターウェル2の軸心部分を通って上下方向に延設されたレーキシャフト10と、該レーキシャフト10の下部から放射方向に延設された支持アーム12と、該アーム12に取り付けられたレーキ板11と、レーキシャフト10の上端が連なった駆動装置(図示略)とを有する。
【0026】
レーキ板11は、レーキが回転したときに、槽体底面上の堆積物を槽体底面の中央側へ移動させるように各アーム12の長手方向と斜交方向に配設されている。
【0027】
槽体1の内周壁面の上部に沿って第1のトラフ(溢流堰)13が設けられている。また、第1のトラフ13とセンターウェル2との間に、センターウェル2を周回する環状の第2のトラフ15が設けられている。この実施の形態では、第2のトラフ15の平面視形状は円形である。第2のトラフ15と第1のトラフ13とは同心円状である。トラフ13,15の上端にはV字形のノッチ(切欠部)が所定間隔をおいて設けられている。槽体1内の水は、該Vノッチを介してトラフ13,15内に流入する。このトラフ13,15への溢流レベルが槽体1内の水面位WLである。トラフ15に流入した水は連絡水路14Lを通じてトラフ13に流入し、またトラフ13に流入した水は清澄水流出口14から処理水として槽外に流出する。このように、トラフやトラフ間の連絡水路14Lが槽体1の中心軸から放射方向に延伸する部分を極力削減することによって、槽内の上向流が旋回流など水平方向の流れがあった場合でも、その流れが阻害されることを低減することができる。
【0028】
この槽体1の水深即ち槽体底面から水面位WLまでの高さは、好ましくは100〜400cmであり、より好ましくは100〜250cmである。
【0029】
槽体1の直径(内径)は1〜20m程度が好ましい。トラフ13,15の幅は0.1〜0.5mm程度が好ましい。トラフ13,15のVノッチは均等に、0.3〜0.8mピッチで設けられることが好ましい。センターウェル2の周壁面と第2トラフ15の内周壁面とに囲まれた水面領域の水面積をS1、当該水面領域に接する第2トラフ15のVノッチの個数をV1とし、また、第2トラフ15の外周壁面と第1トラフ13の内周壁面とに囲まれた水面領域の水面積をS2、当該水面領域に接する第2トラフ15及び第1トラフ13のVノッチの合計個数V2とすると、S1/S2とV1/V2の比が同程度(例えば0.8〜1.2程度)となるように設計することが好ましい。
連絡水路14L、清澄水流出口14の幅は0.1〜0.5m程度であることが好ましい。
【0030】
プレート4の上面の槽体底面(ピット6周縁部)からの高さは20〜150cmであり、好ましくは25〜120cm特に30〜80cmである。
【0031】
センターウェル2内の下降流速(LV)は10cm/sec以下、例えば1〜6cm/sec、特に2〜4cm/sec程度が好ましい。
【0032】
センターウェル2の下端とプレート4の上面との間の原水出口の上下間隔は、この原水出口から流出する原水の水平方向の線速度が1〜10cm/sec特に2〜6cm/sec程度となるように設定するのが好適である。
【0033】
槽体1内の上昇流速(LV)は1m/hr以上、例えば1〜15m/hr、特に2〜8m/hr程度が好ましい。
【0034】
このように構成された沈殿槽において、被処理水はセンターウェルアッパー3内の環状水路Cに供給され、環状水路C内を旋回し、センターウェル2の上端をオーバーフローしてセンターウェル2内に流入し、センターウェル2内を下降し、センターウェル2の下端とプレート4との間から放射方向に流出する。その後、水は槽体1内を上昇し、トラフ13,15へオーバーフローにより流出する。トラフ15内の水は連絡水路14Lを通じてトラフ13に流出し、トラフ13内の水は、清澄水流出口14より排出される。トラフ15からの水は、配管を用いて取り出されてもよい。この配管は、水面の上方に設けられるのが好ましい。この配管は、サイホン管であってもよく、ポンプを有した配管であってもよい。
【0035】
この実施の形態では被処理水は、センターウェル2の下端とプレート4との間の原水出口からスラッジブランケット内に緩やかに流入するようになり、効率的に汚泥が沈降分離されるようになる。
【0036】
槽体1の底面上に沈降した汚泥は、レーキによってピット6に掻き集められ、排泥管7から排出される。
【0037】
この実施の形態では、環状水路Cやセンターウェル2内で局所的に流速が大きくなって凝集フロックが破壊されることを防ぐことができる。また、センターウェル2の上端2tの高さとセンターウェル内の水位(水面位WLと実質的に等しい。)との高低差をなるべく低くすることによって、被処理水の落下の衝撃による凝集フロックの破壊を防止することができるので、汚泥が効率よく分離される。
【0038】
上記実施の形態では、第2のトラフ15は平面視形状が円環形とされているが、多角形環形であってもよい。図3はトラフ15が八角形環形である沈殿槽1を示している。八角形の代りに六角形等とされてもよい。センターウェル2からの距離がなるべく均一になるように、また槽体1内の上昇流が旋回流を形成している場合、旋回を阻害しないようにするために、六角形又はそれ以上の多角形特に正多角形であることが好ましい。なお、多角形のトラフは、直線状の短いトラフ(多角形の一辺の長さのトラフ)を連結して製造することができる。
【0039】
上記実施の形態では、トラフとして第1及び第2のトラフ13,15が設けられており、平面視が二重環状のトラフ配列となっているが、センターウェル2を周回する第3又はそれ以上のトラフを設け、三重又はそれ以上の多重環状のトラフ配列としてもよい。
【0040】
二重トラフの場合、
第1トラフ13の内周壁面の槽体軸心からの距離(半径)R1、
第2トラフ15の幅(槽体径方向の幅)d2、内周壁面の槽体軸心からの距離(半径)R2、
センターウェル2の半径r、
とすると、(R1−d2−R2)と(R2−r)が同程度(例えば比が0.8〜1.2程度)となるように設計することが好ましい。
【0041】
一方、三重トラフの場合、
第1トラフ13の内周壁面の槽体軸心からの距離(半径)R1、
第2トラフ15の幅(槽体径方向の幅)d2、内周壁面の槽体軸心からの距離(半径)R2、
第3トラフの幅(槽体径方向の幅)d3、内周壁面の槽体軸心からの距離(半径)R3(R2>R3)、
センターウェル2の半径r、
とすると、(R1−d2−R2)と(R2−d3−R3)と(R3−r)が同程度(例えば各々の比が0.8〜1.2程度)となるように設計することが好ましい。
【0042】
上記実施の形態では、センターウェル2の上端部はセンターウェルアッパー3の底面3aよりも上方に立ち上るものとなっているが、センターウェル2の上端を該底面3aと同一高さとしてもよい。このようにすると、環状水路C内を旋回する被処理水は、旋回流を保ったままセンターウェル2内に流入し、センターウェル2の下端から旋回しながら槽体1内に流出する。そして、槽体1内では水が旋回しながら上昇する。
【0043】
上記実施の形態では、プレート4は水平とされているが、少なくとも中心付近が放射方向に向って15°未満の傾斜面となってもよい。ただし、少なくとも外周部は水平であることが好ましい。
【0044】
上記実施の形態では、導入部材として導入管8が設けられているが、導入部材として樋状水路を設けてもよい。
【0045】
上記実施の形態では、センターウェル2は上端から下端まで等径とされているが、下部を大径としてもよい。この場合、下端ほど大径となるテーパ形としてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 槽体
2 センターウェル
2t 上端
3 センターウェルアッパー
3a 底面
3b 周壁
4 プレート
6 ピット
8 導入管
10 レーキシャフト
13,15 トラフ
図1
図2
図3