(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
  マンガンニッケル複合水酸化物と、リチウム化合物とを混合して焼成することによってリチウムマンガンニッケル複合酸化物を得るリチウムマンガンニッケル複合酸化物の製造方法であって、
  前記マンガンニッケル複合水酸化物は、
  一般式(A):Mn1−x−yNixMy(OH)2+α(0<x≦0.27、0≦y≦0.05、0≦α≦0.5、Mは、Mg、Al、Ca、Ba、Sr、Ti、V、Fe、Cr、Co、Cu、Zr、Nb、Mo、Wから選択される少なくとも1種の元素)で表され、
  SO4の含有量が0重量%超0.90重量%以下、及びNaの含有量が0.04重量%以下であり、
  BET比表面積が40m2/g以上70m2/g以下であり、
  粒度分布の広がりを示す指標である〔(d90−d10)/平均粒径〕により求められる値が0.90以下である、
  リチウムマンガンニッケル複合酸化物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
  以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施の形態」という)について、以下の順序で詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
  1.マンガンニッケル複合水酸化物
  2.マンガンニッケル複合水酸化物の製造方法
  3.リチウムマンガンニッケル複合酸化物
  4.リチウムマンガンニッケル複合酸化物の製造方法
  5.正極活物質を用いた非水系電解質二次電池
 
【0026】
  ≪1.マンガンニッケル複合水酸化物≫
  (1)組成
  本実施の形態に係るマンガンニッケル複合水酸化物(以下、単に「複合水酸化物」ともいう)は、一般式(A):Mn
1−x−yNi
xM
y(OH)
2+α(0≦x≦0.27、0≦y≦0.05、0≦α≦0.5、Mは、Mg、Al、Ca、Ba、Sr、Ti、V、Fe、Cr、Co、Cu、Zr、Nb、Mo、Wから選択される少なくとも1種の元素)で表されるマンガンニッケル複合水酸化物である。
 
【0027】
  ニッケル(Ni)は、二次電池の高電位化及び高容量化に寄与する元素である。ニッケルの含有量を示す「x」の値としては、0以上0.27以下であれば特に制限されないが、0.20以上であることが好ましい。「x」の値が0.20未満であると、この複合水酸化物を前駆体とする正極活物質を正極として構成した二次電池において、5V級の電圧における電池容量が減少してしまう。一方で、「x」の値の上限値としては、0.27以下であり、0.26以下であるものが好ましく、0.25以下であるものがより好ましい。「x」の値が0.27を超えると、スピネル構造単相から構成される正極活物質を得ることができなくなる。
 
【0028】
  本実施の形態に係る複合水酸化物は、マンガン、ニッケルに加えて、所定量の添加元素Mを含有することができる。このような添加元素Mとしては、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、Ti(チタン)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、コバルト(Co)、銅(Cu)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)から選択される少なくとも1種の元素を用いることができる。これらの添加元素Mは、この複合水酸化物を前駆体として得られる正極活物質を用いて構成される、二次電池の用途や要求される性能に応じて適宜選択されるものである。
 
【0029】
  添加元素Mの含有量を示す「y」としては、特に制限されないが、好ましくは0以上0.05以下、好ましく0以上0.025以下、より好ましくは0.015以上とする。「y」の値をこのような範囲に制御することにより、目的とする電池特性を確保しつつ、二次電池の用途や要求される性能に応じた特性を付与することができる。なお、「y」の値が0.05を超えると、Redox反応に寄与する金属元素が減少し、電池容量が低下する可能性があり、また正極抵抗の上昇の原因となる。
 
【0030】
  (2)不純物
  本実施の形態に係る複合水酸化物は、上述した必須の構成元素以外に、製造工程で含有する不純物としてのSO
4及びNaの含有量が少ない。具体的には、SO
4の含有量が0.90重量%以下であることが好ましく、0.60重量%以下であることがより好ましい。また、Naの含有量が0.04重量%以下であることが好ましい。複合水酸化物において、これらの不純物の含有量が多いと、この複合水酸化物とリチウム化合物とを混合して正極活物質とする際に、硫酸リチウム(又は硫酸ナトリウム)が正極活物質の表層に形成されて不導体被膜となってしまうため、これを正極活物質として用いて構成した電池が高抵抗を有し、容量が低下する原因となる。
 
【0031】
  (3)BET比表面積
  本実施の形態に係る複合水酸化物のBET比表面積は、40m
2/g以上且つ70m
2/g以下である。BET比表面積が40m
2/g以下の複合水酸化物は、表面積が小さく、リチウム化合物との反応性に乏しいため、リチウム化合物と共に焼成する際に、一部の粒子が成長せず、得られる複合酸化物全体としての結晶性が低下する。そのような結晶性の低い正極活物質から構成される電池では、リチウムの移動が困難になり、電気抵抗が増加する。一方で、BET比表面積が70m
2/gを超える複合水酸化物を用いてリチウム化合物と混合して焼成すると、その複合水酸化物の表面積が大き過ぎるために、リチウム化合物との反応性が高くなり過ぎるため、得られるリチウムマンガンニッケル複合酸化物の粒子は異常凝集粉を形成する。そのような異常凝集粉を正極活物質として用いた電池では、導電材と均一に混合されないために抵抗が増加する。なお、凝集粉をハンマーミル等で解砕することで凝集が解消されることもあるが、工数の増加によりコストが増加すること、及び解砕時に発生する粒子の歪によって結晶性が低下し、それに伴って抵抗も増加することから、凝集粉を解砕することは好ましくない。
 
【0032】
  (4)粒度分布
  本実施の形態に係る複合水酸化物は、その粒子の粒度分布の広がりを示す指標である、〔(d
90−d
10)/平均粒径〕式から求められる値が、0.90以下である。
 
【0033】
  ここで、d
90及びd
10は、無作為に粒径を測定した全粒子数のうち、それぞれ90%又は10%の粒子の粒径が含まれる最小の長さを表し、〔(d
90−d
10)/平均粒径〕から求められる値が大きいほど、かかる粒子の粒度分布が広範囲であることを表す。そして、「粒度分布が広範囲である」とは、複合水酸化物中に、その平均粒径に対して粒径が非常に小さい微粒子や、平均粒径に対して非常に粒径の大きい粒子(粗大粒子)が多く存在することを意味する。
 
【0034】
  複合水酸化物中に非常に小さい微粒子が多く存在すると、これを原料として用いて得られるリチウムマンガンニッケル複合酸化物は、異常凝集物を形成する。このような異常凝集物は、電池を構成する際に導電材と均一に混合されないために、得られる電池の電気抵抗が増加する。
 
【0035】
  また、複合水酸化物中に粗大粒子が多く存在すると、これを原料として用いてリチウムマンガンニッケル複合酸化物を調製する際に、複合水酸化物の粒子とリチウム化合物との接触面積が小さくなり、これらの間での反応が効率よく進行しなくなるため、得られるリチウムマンガンニッケル複合酸化物は、結晶性の低い粒子となる。そのため、このようなリチウムマンガンニッケル複合酸化物により構成される電池は、リチウムイオンの移動効率が悪化し、その結果として、電気抵抗が増加する。
 
【0036】
  ≪2.マンガンニッケル複合水酸化物の製造方法≫
  本実施の形態に係るマンガンニッケル複合水酸化物は、マンガン及びニッケルを含有する水溶液から、マンガンニッケル複合水酸化物を晶析させることによって製造することができる。具体的には、反応晶析により結晶を得る際の金属塩として硫酸塩を用い、アルカリ水溶液として用いる水酸化ナトリウムの溶液に、Na基準で20%以下となるように炭酸ナトリウムを混合させたアルカリ混合水溶液を用いて水酸化物を析出させることを特徴としている。
 
【0037】
  (1)晶析反応
  晶析反応は、上述したように、マンガン及びニッケルを含有する水溶液から、マンガンニッケル複合水酸化物を晶析させる反応である。この晶析反応としては、特に制限されないが、例えば、核生成工程と、粒子成長工程とを含む反応が挙げられる。以下に、核生成工程と、粒子成長工程とのそれぞれについて具体的に説明する。
 
【0038】
  (1−a)核生成工程
  核生成工程は、マンガン及びニッケルを含有する水溶液から、マンガンニッケル複合水酸化物の微細な核(微細一次粒子)を生成する工程である。
 
【0039】
  核生成工程においては、先ず、少なくともマンガン及びニッケルを含有する混合水溶液を調製する。得られる複合水酸化物に含まれる各金属元素の組成比は、晶析反応に供する混合水溶液に含まれる金属元素の原子数の合計に対する、各金属元素の原子数の比率と概ね同様となる。したがって、目的とする複合水酸化物の組成比と同一となるように、混合水溶液中における各金属イオンの組成比を調整することで、目的とする組成の複合水酸化物を得ることができる。
 
【0040】
  次に、反応槽内に、アルカリ水溶液と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液と、水とを供給し、これらを混合することにより反応前水溶液を調製する。このとき、各水溶液の供給量を制御することによって、反応前水溶液のpH値を、液温25℃基準で、好ましくは12.0以上14.0以下に調整するとともに、アンモニウムイオン濃度を、好ましくは3g/L以上25g/L以下に調整する。また、反応前水溶液の温度を、好ましくは20℃以上60℃以下に調整するとともに、反応槽内の雰囲気を、好ましくは弱酸性雰囲気又は非酸化性雰囲気に置換する。より具体的には、反応槽内に窒素等の不活性ガスを導入し、反応槽内の酸素濃度を1容量%以下に調整する。
 
【0041】
  そして、反応前水溶液のpH値、アンモニウムイオン濃度、温度及び反応槽内の雰囲気が、上述の条件に調整されたことを確認した後、この反応前水溶液を撹拌しながら、調製したマンガン及びニッケルを含有する混合水溶液を供給する。これにより、反応槽内に、反応前水溶液と混合水溶液とが混合した反応水溶液が生成する。
 
【0042】
  次いで、反応水溶液中において、マンガンニッケル複合水酸化物からなる微細な核(微細一次粒子)を析出させる。析出させる核の量としては、特に制限されないが、核生成工程及び粒子成長工程で供給する金属化合物の全質量に対して、0.1質量%以上とすることが好ましい。また、核生成工程において析出させる核の量の上限値としては、核生成工程及び粒子成長工程で供給する金属化合物の全質量に対して、2質量%以下とすることが好ましく、1.5質量%以下とすることがより好ましい。このような量で、核を析出させることによって、特に粒度分布の狭い複合水酸化物を得ることができる。
 
【0043】
  なお、反応水溶液のpH値及びアンモニウムイオン濃度は、核生成に伴って変化するため、反応水溶液には、混合水溶液と共にアルカリ水溶液及びアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を供給して、pH値及びアンモニウムイオン濃度が上述の範囲に維持されるように制御することが好ましい。
 
【0044】
  核生成工程は、反応水溶液中に所定量の核が生成された時点で終了する。このときの核の生成量は、反応水溶液に供給した金属化合物の量によって判断することができる。
 
【0045】
  (1−b)粒子成長工程
  粒子成長工程は、上述した核生成工程において生成した核を成長させ、マンガンニッケル複合水酸化物の粒子を得る工程である。
 
【0046】
  粒子成長工程では、先ず、核生成工程の終了後の反応水溶液に硫酸等の酸性水溶液を供給し、反応水溶液のpH値を、液温25℃基準で、好ましくは10.5以上12.0以下となるように調整する。反応水溶液のpH値をこのような範囲に調整し維持することにより、反応水溶液中における新たな核生成を抑制して、粒子成長を優先して起こさせることができる。
 
【0047】
  続いて、反応水溶液に混合水溶液の供給を開始し、目的とする粒径(平均粒径で1μm〜10μm程度)となるまで混合水溶液の供給を継続して、複合水酸化物粒子を成長させる。このとき、反応水溶液に、混合水溶液と共に、アルカリ水溶液及びアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を供給し、反応水溶液のpH値が好ましくは10.5以上12.0以下の範囲に、また、アンモニウムイオン濃度が好ましくは3g/L以上25g/L以下の範囲に維持されるように制御することが好ましい。
 
【0048】
  そして、このようにして核を成長させて得られた複合水酸化物を、固液分離し、残留するアルカリカチオン等の不純物を洗浄した後、100℃以上の温度で乾燥することにより、粉末状の複合水酸化物を得ることができる。
 
【0049】
  (2)供給水溶液
  次に、複合水酸化物の原料となる混合水溶液、pH制御のためのアルカリ水溶液、及びアンモニウムイオン濃度を制御するためのアンモニウムイオン供給体を含む水溶液について説明する。
 
【0050】
  (2−a)混合水溶液
  本実施の形態においては、混合水溶液に含まれるマンガン化合物及びニッケル化合物として、硫酸塩を用いる。具体的には、硫酸マンガン及び硫酸ニッケルを用いることが好ましい。このようにマンガン源及びニッケル源として硫酸塩を用いた混合水溶液を用いて晶析を行うことで、例えば
図1の写真図に示すような粒子が球状性を有する複合水酸化物であって、また、
図2に例示するようなその粒度分布が狭い正規分布を有する複合水酸化物粒子が生成する。
 
【0051】
  ここで、硫酸塩以外の金属塩としては、例えば、硝酸塩や塩化物塩が挙げられる。しかしながら、例えば、金属塩として硝酸塩である硝酸マンガン及び硝酸ニッケルを用いて晶析反応を行うと、反応槽内のNO
3イオンの影響によって、粒子成長中でも核生成が同時に進行するため、例えば
図3の写真図に示すような微細で球状性を呈さない粒子が散見されるようになる。また、
図4に例示するようにその粒度分布において広がりが大きいものとなり、特に粒径の小さい微粒子側にピークが見られるようになる。さらに、このような複合水酸化物を原料として得られるリチウムマンガンニッケル複合酸化物では、
図5に例示されるように、その粒度分布において異常凝集体のピークが観察されるようになる。
 
【0052】
  また、金属塩に塩化物塩である塩化マンガン及び塩化ニッケルを用いて晶析反応を行うと、得られる複合水酸化物は、例えば
図6の写真図に示すように球状性を呈し、且つ、
図7に例示するようにその粒度分布が広がりの小さな複合水酸化物が生成されるものの、Clイオンの影響に伴い、一次粒子が大きく成長し、粒子は緻密に成長するため、BET比表面積は20〜30m
2/gと著しく小さくなる。そのため、このようにして得られた複合金属水酸化物粒子は、リチウム化合物との反応性が低いものとなる。
 
【0053】
  以上のことから、金属塩としては、硫酸塩を使用することが好ましい。
 
【0054】
  また、複合水酸化物中に添加元素M(Mは、Mg、Al、Ca、Ba、Sr、V、Fe、Cr、Ti、Co、Cu、Zr、Nb、Mo、Wから選ばれる少なくとも1種の元素)を含有させる場合、添加元素Mを供給するための化合物としては、特に制限されないが、水溶性の化合物を用いることが好ましい。具体的には、硫酸塩を用いることが好ましく、例えば、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウム、硫酸バナジウム、バナジン酸アンモニウム、硫酸鉄、硫酸クロム、硫酸チタン、硫酸コバルト、硫酸銅、硫酸ジルコニウム、シュウ酸ニオブ、モリブデン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウム等が挙げられる。なお、添加元素Mの添加量は微量であるため、硫酸塩以外の金属塩を用いても、反応水溶液中のSO
4の含有量は極微量であり、粉体特性に影響を及ぼすことはない。
 
【0055】
  混合水溶液の濃度としては、特に制限されないが、混合水溶液に含まれる金属化合物の合計で、1mol/L以上であることが好ましい。混合水溶液の濃度が1mol/L未満であると、反応槽あたりの晶析物量が少なくなるため、生産性が低下する。一方、混合水溶液の濃度の上限値としては、2.6mol/L以下であることが好ましく、2.3mol/L以下であることがより好ましい。混合水溶液の濃度が、2.6mol/Lを超えると、反応温度が低下した際に飽和濃度を超え、各金属化合物の結晶が再析出して、配管等を詰まらせるおそれがある。
 
【0056】
  なお、上述したマンガン化合物、ニッケル化合物、及び添加元素Mの化合物は、必ずしも混合水溶液として反応槽に供給しなくてもよい。例えば、混合によって目的の化合物以外の化合物が生成されてしまう場合、全金属化合物水溶液の合計の濃度が上述の範囲となるように、個別に金属化合物水溶液を調製して、その水溶液を所定の割合で反応槽内に供給してもよい。
 
【0057】
  また、混合水溶液の供給量としては、特に制限されないが、晶析反応終了時点で、反応水溶液中の生成物の濃度が、好ましくは30g/L、より好ましくは50g/Lとなるように供給する。この濃度が30g/L未満であると、一次粒子の凝集が不十分になるおそれがある。一方、晶析反応終了時点での反応水溶液中の生成物の濃度の上限値としては、好ましくは200g/L以下、より好ましくは150g/L以下となるように混合水溶液の供給量を調整する。この濃度が200g/Lを超えると、反応水溶液に供給する混合水溶液が十分に混合せず、粒子成長に偏りが生じるおそれがある。
 
【0058】
  (2−b)アルカリ水溶液
  アルカリ水溶液としては、水酸化ナトリウムと、炭酸ナトリウムとを含有するアルカリ混合水溶液を用いる。
 
【0059】
  ここで、水酸化ナトリウムは安価であるため、アルカリ水溶液として水酸化ナトリウムの溶液を用いることは経済性の観点から好ましい。しかしながら、水酸化ナトリウムは、SO
4と難溶性の硫酸根の複塩を形成し、それがマンガンニッケル複合水酸化物中に取り込まれるため、マンガンニッケル複合水酸化物中のSO
4の含有量が増加する可能性が高まる。
 
【0060】
  本発明者らは、水酸化ナトリウムの溶液に炭酸ナトリウムを添加して得られるアルカリ混合水溶液を用いることで、複合水酸化物中に取り込まれるSO
4の含有量を低減させることができることを見出した。この理由は定かではないが、ナトリウムイオンが、炭酸イオンとともに硫酸根よりも安定な複塩を形成するためであると考えられ、また、その複塩がマンガンニッケル複合水酸化物の結晶構造中に取り込まれにくいためであると考えられる。
 
【0061】
  このように、炭酸ナトリウムをアルカリ水溶液中に添加したアルカリ混合水溶液を用いることにより、マンガンニッケル複合水酸化物の結晶構造中に取り込まれるSO
4量を低減させることができる。
 
【0062】
  アルカリ混合水溶液中における炭酸ナトリウムの含有量に関して、炭酸ナトリウムを多く用いるほど複合水酸化物に取り込まれるSO
4含有量を低減させることができると考えられるが、過剰となった炭酸イオンとナトリウムイオンとにより形成された過剰な複塩が水酸化物の結晶構造に取り込まれるようになってしまう可能性があり、その結果として得られるマンガンニッケル複合水酸化物中のNa含有量が増加する可能性が高まる。
 
【0063】
  したがって、水酸化ナトリウム溶液に対する炭酸ナトリウムの混合比としては、得られるアルカリ混合水溶液中に含まれる全ナトリウムのモル数に対する炭酸ナトリウム由来のナトリウムのモル数の割合が20%以下となる比率とし、15%以下となる比率であることがより好ましく、このような割合となるようにアルカリ混合水溶液を調製する。
 
【0064】
  また、水酸化ナトリウム溶液に対する炭酸ナトリウムの混合比において、全ナトリウムのモル数に対する炭酸ナトリウム由来のナトリウムのモル数の割合の下限値としては、特に制限されず、炭酸ナトリウムがアルカリ混合水溶液中に含まれていればよい(0%超)。また、好ましくは0.1%以上とし、より好ましくは1%以上とし、さらに好ましくは2%以上とする。炭酸ナトリウムがアルカリ混合水溶液中に含まれていれば、この炭酸ナトリウムの混合比がごく僅かであっても、SO
4含有量の低減効果を得ることができる。
 
【0065】
  なお、アルカリ混合水溶液の供給方法としては、反応水溶液のpH値が局所的に高くならず且つ所定の範囲に維持される限り特に制限されない。例えば、反応水溶液を十分に撹拌しながら、定量ポンプ等の流量制御が可能なポンプにより供給する方法が挙げられる。
 
【0066】
  (2−c)アンモニウムイオン供給体を含む水溶液
  アンモニウムイオン供給体を含む水溶液としては、特に制限されないが、具体的には、アンモニア水、又は硫酸アンモニウムや塩化アンモニウム等のアンモニウム塩の水溶液を使用することができる。
 
【0067】
  アンモニウムイオン供給体としてアンモニア水を使用する場合、その濃度は、特に制限されないが、具体的には20質量%以上であることが好ましく、22質量以上であることがより好ましい。また、アンモニア水を使用する場合の濃度の上限値としては、30質量%以下であることが好ましく、28質量%以下であることがより好ましい。アンモニア水の濃度をこのような範囲とすることにより、揮発等によるアンモニアの損失を最小限に抑制することができるため、生産効率の向上を図ることができる。
 
【0068】
  なお、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液の供給方法としては、特に制限されないが、例えば、アルカリ混合水溶液と同様に、流量制御が可能なポンプにより供給する方法が挙げられる。
 
【0069】
  (3)反応条件
  (3−a)pH値
  本実施の形態に係る複合水酸化物の製造方法においては、液温25℃基準におけるpH値を、核生成工程においては12.0以上14.0以下の範囲に、粒子成長工程においては10.5以上12.0以下の範囲に制御することが好ましい。なお、いずれの工程においても、晶析反応中のpH値の変動幅は±0.2以内に維持することが好ましい。pH値の変動幅が大きいと、核生成量と粒子成長の割合が一定とならず、粒度分布の狭い複合水酸化物粒子が得られなくなるおそれがある。
 
【0070】
    [核生成工程]
  核生成工程における反応水溶液のpH値としては、特に制限されないが、液温25℃基準で、好ましくは12.0以上、より好ましくは12.3以上となるよう制御する。pH値が12.0未満では、核生成とともに、生成した核の成長(粒子成長)が進むため、得られる複合水酸化物粒子の粒径が不均一となり、粒度分布が広くなる。一方で、pH値の上限値としては、液温25℃基準で、好ましくは14.0以下、より好ましくは13.5以下となるよう制御する。pH値が14.0を超えると、生成する核が微細になりすぎるため、反応水溶液がゲル化するという問題が生じる。
 
【0071】
    [粒子成長工程]
  粒子成長工程における反応水溶液のpH値としては、液温25℃基準で、好ましくは10.5以上、より好ましくは10.7以上となるよう制御する。一方、pH値の上限値としては、液温25℃基準で、好ましくは12.0以上、より好ましくは11.8以上となるよう制御する。粒子成長工程におけるpH値をこのような範囲に制御することにより、新たな核の生成が抑制されて粒子成長が優先的に進行するため、得られる複合水酸化物粒子を均質で且つ粒度分布が狭いものとすることができる。これに対して、pH値が10.5未満では、アンモニウムイオン濃度が上昇し、金属イオンの溶解度が高くなるため、晶析反応の速度が遅くなるばかりでなく、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増加し、生産性が悪化する。また、pH値が12.0を超えると、粒子成長工程における核生成量が増加し、得られる複合水酸化物粒子の粒径が不均一となる可能性がある。
 
【0072】
  なお、反応水溶液中のpH値が12.0である場合、核生成と粒子成長の境界条件であるため、反応水溶液中に存在する核の有無により、核生成工程又は粒子成長工程のいずれかの条件とすることができる。即ち、核生成工程でのpH値を12.0より高くして多量に核生成させた後、粒子成長工程でのpH値を12.0とすると、反応水溶液中に多量の核が存在するようになるために粒子成長が優先して起こるようになって、粒径分布が狭い複合水酸化物をより効率的に得ることができる。一方、核生成工程でのpH値を12.0とすると、反応水溶液中に成長する核が存在しないために核生成が優先して起こるようになる。この場合、粒子成長工程でのpH値を12.0より小さくすることで、生成した核が効果的に成長させることができ、良好な複合水酸化物を得ることができる。
 
【0073】
  (3−b)アンモニウムイオン濃度
  反応水溶液中のアンモニウムイオン濃度としては、特に制限されないが、好ましくは3g/L以上、より好ましくは5g/L以上の範囲内で一定値に保持する。反応水溶液中において、アンモニウムイオンは錯化剤として機能するため、アンモニウムイオン濃度が3g/L未満であると、金属イオンの溶解度を一定に保持することができない可能性がある。また、反応水溶液がゲル化しやすくなり、形状や粒径の整った複合水酸化物粒子を得ることが困難となる。一方で、アンモニウムイオン濃度の上限値としては、好ましくは25g/L以下、より好ましくは15g/L以下の範囲内で一定値に保持する。アンモニウムイオン濃度が25g/Lを超えると、金属イオンの溶解度が大きくなりすぎるため、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増加し、組成ずれ等の原因となる。
 
【0074】
  なお、晶析反応中にアンモニウムイオン濃度が変動すると、金属イオンの溶解度が変動し、均一な複合水酸化物粒子が形成されなくなるおそれがある。このため、核生成工程と粒子成長工程を通じて、アンモニウムイオン濃度の変動幅を一定の範囲に制御することが好ましく、具体的には±5g/Lの変動幅に制御することが好ましい。
 
【0075】
  (3−c)反応温度
  反応水溶液の温度(反応温度)としては、特に制限されないが、核生成工程と粒子成長工程を通じて、好ましくは20℃以上、より好ましくは20℃以上60℃以下の範囲に制御する。反応温度が20℃未満であると、反応水溶液の溶解度が低くなることに起因して、核生成が起こりやすくなり、得られる複合水酸化物粒子の平均粒径や粒度分布の制御が困難となることがある。また、60℃を超えると、アンモニアの揮発が促進され、反応水溶液中のアンモニウムイオンを一定範囲に制御するために供給するアンモニウムイオン供給体を含む水溶液の量が増加し、生産コストが増加するおそれがある。
 
【0076】
  (3−d)複合水酸化物の粒径制御
  複合水酸化物の粒径は、粒子成長工程における反応時間により制御することができる。即ち、所望の粒径に達するまで粒子成長工程での反応を継続すればよい。
 
【0077】
  また、複合水酸化物粒子の粒径は、粒子成長工程における条件のみならず、核生成工程における反応水溶液中のpH値や核生成のために投入した金属化合物の量によっても制御することができる。即ち、核生成時のpH値をより高pH値側にシフトさせることによって、又は核生成時間をより長くして投入する金属化合物量を増やすことによって、生成する核の数を多くする。これにより、粒子成長工程での反応を同条件で行った場合でも、得られる複合水酸化物粒子の粒径を小さくすることができる。また一方、生成する核の数が少なくなるように、pH値や核生成時間を制御することによって、得られる複合水酸化物粒子の粒径を大きくすることができる。
 
【0078】
  ≪3.リチウムマンガンニッケル複合酸化物≫
  (1)組成
  本実施の形態に係る複合水酸化物を用いて、一般式(B):Li
tMn
2(1−x−y)Ni
2xM
2yO
4(0.96≦t≦1.20、0.20≦x≦0.28、0≦y≦0.05、Mは、Mg、Al、Ca、Ba、Sr、Ti、V、Fe、Cr、Co、Cu、Zr、Nb、Mo、Wから選択される少なくとも1種の元素)で表され、スピネル構造を有する立方晶系のリチウムマンガンニッケル複合酸化物(以下、単に「複合酸化物」ともいう)を得ることができる。
 
【0079】
  このリチウムマンガンニッケル複合酸化物は、正極活物質として用いることができ、このような複合酸化物を含む正極活物質を用いることによって、例えば非水系電解質二次電池を構成することができる。
 
【0080】
  リチウムマンガンニッケル複合酸化物において、リチウム(Li)の含有量を示す「t」の値としては、0.96以上1.20以下であれば特に制限されないが、0.98以上であるものが好ましく、1.00以上であるものがより好ましい。「t」の値を上述の範囲に調整することにより、このリチウムマンガンニッケル複合酸化物を含む正極活物質により構成される二次電池の出力特性及び容量特性を向上させることができる。これに対して、「t」の値が0.96未満であると、二次電池の正極抵抗が大きくなるため、出力特性を向上させることができない。また、「t」の値が1.20を超えると、初期放電容量が低下する。
 
【0081】
  なお、一般式(B)における、「x」の値及び「y」の値の範囲や、それらの臨界的意義は、上述した一般式(A)における各値の範囲やそれらの臨界的意義と同様であるため、ここでの説明は省略する。
 
【0082】
  (2)不純物
  本実施の形態に係る複合酸化物は、不純物であるSO
4の含有量が0.90重量%以下であり、Naの含有量が0.04重量%以下である。SO
4及びNaは、主に硫酸リチウム(又は硫酸ナトリウム)として複合酸化物の粒子中に不純物として存在することがあり、正極活物質の表層に形成されて不導体被膜となる。これらの不純物は、この複合酸化物を正極活物質として電池を構成したときの高抵抗の原因となるが、SO
4含有量が0.90重量%より大きい場合、あるいはNa含有量が0.04重量%より大きい場合に、特にこの影響を著しく受ける。
 
【0083】
  ≪4.リチウムマンガンニッケル複合酸化物の製造方法≫
  リチウムマンガンニッケル複合酸化物粒子を含む正極活物質の製造方法としては、特に制限されないが、上述した複合水酸化物にリチウムを混合させてリチウム混合物とし(混合工程)、その後、そのリチウム混合物を所定の条件下で焼成してリチウムマンガンニッケル複合酸化物粒子を得る(焼成工程)という方法を挙げることができる。
 
【0084】
  なお、正極活物質の製造方法として、上述した混合工程や焼成工程のほかに、必要に応じて、焼成工程前にリチウム混合物を仮焼する工程(仮焼工程)、焼成後のリチウムマンガンニッケル複合酸化物粒子を解砕する工程(解砕工程)、リチウムマンガンニッケル複合酸化物粒子をアニール処理する工程(アニール処理工程)等を設けることもできる。以下、工程ごとに順を追って詳細に説明する。
 
【0085】
  (1)混合工程
  混合工程は、上述した複合水酸化物にリチウム化合物を混合させ、リチウム混合物を得る工程である。
 
【0086】
  リチウム以外の金属(Mn、Ni、及び添加元素M)の原子数の合計(Me)に対する、リチウムの原子数(Li)の比[Li/Me]としては、特に制限されないが、好ましくは0.48以上、より好ましくは0.49以上、さらに好ましくは0.50以上となるようにリチウム化合物を混合する。また、比[Li/Me]の上限値としては、好ましくは0.60以下となるようにリチウム化合物を混合する。焼成工程の前後でLi/Meは変化せず、この混合工程におけるLi/Meがリチウムマンガンニッケル複合酸化物におけるLi/Meとなる。そのため、リチウム混合物におけるLi/Meが、目的の組成のリチウムマンガンニッケル複合酸化物のLi/Meと同じになるように、原料の複合水酸化物にリチウム化合物を混合することが必要となる。
 
【0087】
  リチウム化合物としては、特に制限されるものではなく、例えば、水酸化リチウム、硝酸リチウム、炭酸リチウム、又はこれらの混合物を使用することができる。その中でも特に、取扱いの容易さや品質の安定性の観点から炭酸リチウムを用いることが好ましい。
 
【0088】
  複合水酸化物とリチウム化合物とは、焼成前に、微粉が生じない程度に十分に混合しておくことが好ましい。混合が不十分であると、個々の粒子間でLi/Meにばらつきが生じ、十分な電池特性を得ることができない。なお、混合には、一般的な混合機を使用することができる。具体的には、シェーカーミキサやレーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダ等を用いることができる。
 
【0089】
  (2)仮焼工程
  必須の態様ではないが、リチウム化合物として水酸化リチウムや炭酸リチウムを使用する場合には、得られたリチウム混合物に対して、後述する焼成工程での焼成前に、その焼成温度よりも低く、且つ350℃以上750℃以下の温度で、1時間〜20時間程度保持して仮焼することが好ましい。
 
【0090】
  このような仮焼処理では、リチウム混合物が、水酸化リチウムや炭酸リチウムの融点近傍又は反応温度近傍で一定時間保持されるため、原料の複合水酸化物中へのリチウムの拡散を促進させることができ、得られるリチウムマンガンニッケル複合酸化物粒子の組成をより均一なものとすることができる。なお、仮焼温度は、焼成温度よりも低く、且つ400℃以上700℃以下とすることがより好ましく、この温度での保持時間は15時間以下とすることがより好ましい。
 
【0091】
  (3)焼成工程
  焼成工程は、混合工程で得られたリチウム混合物、あるいは混合工程後に仮焼工程にて仮焼処理が施されたリチウム混合物を、所定の温度で焼成する工程である。
 
【0092】
  焼成工程における焼成処理は、焼成炉にリチウム混合物を投入して行うことができる。焼成炉としては、後述する雰囲気でリチウム混合物を焼成できるものであれば、特に制限されず、バッチ式又は連続式のいずれの炉も用いることができる。その中でも、ガス発生のない電気炉を使用することが好ましい。
 
【0093】
  焼成雰囲気としては、酸化性雰囲気であれば特に制限されず、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気、即ち大気〜酸素気流中で行うことが好ましく、コスト面を考慮すると空気気流中で行うことがより好ましい。酸素濃度が18容量%未満であると、酸化反応が十分に進行せず、リチウムマンガンニッケル複合酸化物粒子の結晶性が十分なものとならないおそれがある。
 
【0094】
  焼成温度としては、特に制限されないが、850℃超であることが好ましく、860℃以上であることがより好ましく、875℃以上であることがさらに好ましい。焼成温度が850℃以下では、得られるリチウムマンガンニッケル複合酸化物粒子の比表面積が大きくなりすぎるため、二次電池内でそのリチウムマンガンニッケル複合酸化物粒子を含む正極活物質と電解液との間で生じる副反応により被膜が形成され、正極抵抗が増加する。一方、焼成温度の上限値としては、950℃未満であることが好ましく、940℃以下であることがより好ましく、925℃以下であることがさらに好ましい。原料とする複合水酸化物又はリチウムマンガンニッケル複合酸化物には、中空粒子を有するものが含まれるが、このような中空粒子を950℃以上で焼成すると、粒子間で焼結が進行して中空構造が消失するおそれがある。中空構造が消失すると、中空構造を有する粒子に比べて比表面積が小さくなるため、これを正極活物質として二次電池を構成した場合に正極抵抗が増加し、出力特性が低下するおそれがある。
 
【0095】
  焼成温度における保持時間(焼成時間)としては、3時間以上とすることが好ましく、5時間とすることがより好ましい。焼成時間が3時間未満であると、複合水酸化物とリチウム化合物とを十分に反応させることができないことがある。一方で、焼成時間の上限値としては、24時間以下とすることが好ましい。24時間を超えても、それ以上の効果を得ることができないばかりか生産性の悪化を招く。
 
【0096】
  (4)解砕工程
  解砕工程は、焼成工程における焼成により凝集又は軽度の焼結が生じて得られた、リチウムマンガンニッケル複合酸化物粒子の凝集体又は焼結体を解砕する工程である。
 
【0097】
  焼成後のリチウムマンガンニッケル複合酸化物粒子は、凝集又は軽度の焼結が生じている場合がある。このような場合、そのリチウムマンガンニッケル複合酸化物粒子の凝集体又は焼結体を解砕することが好ましい。これにより、リチウムマンガンニッケル複合酸化物粒子を適度な粒径を有する粉体として取り扱うことができ、正極活物質として用いた場合の充填性をより向上させることができる。なお、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキング等により生じた複数の二次粒子からなる凝集体に対して、機械的エネルギーを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく二次粒子を分離させる操作をいう。
 
【0098】
  解砕の方法としては、特に制限されず、公知の手段を用いることができる。具体的には、ピンミルやハンマーミル等を用いた方法が挙げられる。なお、このとき、二次粒子を破壊しないように解砕力を適切な範囲に調整することが好ましい。
 
【0099】
  (5)アニール処理工程
  アニール処理工程は、焼成後又は解砕後のリチウムマンガンニッケル複合酸化物粒子を、焼成工程における焼成温度よりも低温域でアニール処理をする工程である。このように、リチウムマンガンニッケル複合酸化物粒子に対してアニール処理を施すことにより、高温域の焼成で生成したリチウムマンガンニッケル複合酸化物粒子中の酸素欠陥を減少させ、その結晶性を高めることができる。
 
【0100】
  アニール処理の雰囲気としては、酸化性雰囲気であれば特に制限されないが、焼成工程における雰囲気と同様に、酸素濃度が18容量%以上100容量%以下の雰囲気、即ち、大気〜酸素気流中で行うことが好ましく、コスト面を考慮すると空気気流中で行うことがより好ましい。酸素濃度が18容量%未満では、酸化反応が十分に進行せず、晶析反応や雰囲気等に由来して生成したリチウムマンガンニッケル複合酸化物粒子中の酸素欠陥を十分に減らすことができない可能性がある。
 
【0101】
  アニール処理の温度としては、焼成温度よりも低温であれば特に限定されず、500℃以上であることが好ましく、600℃以上であることがより好ましく、650℃以上であることがさらに好ましい。アニール処理温度が500℃未満であると、酸素欠陥を十分に減らすことができない可能性がある。一方で、アニール処理の温度の上限値としては、800℃以下であることが好ましく、750℃以下であることがより好ましい。アニール処理温度が800℃を超えると、リチウムマンガンニッケル複合酸化物粒子中にさらに酸素欠陥が生じてしまい、結晶性が悪化する。
 
【0102】
  アニール処理の時間としては、特に制限されるものではなく、5時間以上であることが好ましく、10時間以上であることがより好ましく、20時間以上であることがさらに好ましい。アニール処理時間が5時間未満では、酸素欠陥を十分に減らすことができない可能性がある。一方で、アニール処理の時間の上限値としては、40時間以下であることが好ましい。アニール処理時間が40時間を超えても、それ以上の効果が得られないばかりか生産性が悪化する。
 
【0103】
  ≪5.正極活物質を用いた非水系電解質二次電池≫
  非水系電解質二次電池は、正極活物質を有する正極と、負極と、セパレータと、非水系電解液とを備える。なお、以下に説明する実施形態は、例示に過ぎず、この非水系電解質二次電池は、本明細書に記載されている実施形態をもとに、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、以下の説明は、この非水系電解質二次電池の用途を特に制限するものではない。
 
【0104】
  (1)正極
  正極は、例えば、正極活物質と、その正極活物質を含む正極合材が塗布された集電体とにより構成される。本実施の形態においては、その正極活物質として、上述したマンガンニッケル複合水酸化物とリチウム化合物とを混合し、焼成して得られたリチウムマンガンニッケル複合酸化物を含む正極活物質を用いる。
 
【0105】
  正極は、正極活物質を用いて、例えば以下のようにして作製することができる。なお、正極の作製方法は、以下の方法に制限されず、他の方法により作製してもよい。
 
【0106】
  先ず、リチウムマンガンニッケル複合酸化物を含む粉末状の正極活物質と、導電材と、結着剤とを混合し、さらに必要に応じて活性炭や粘度調整等の目的とする溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。正極合材ペースト中のそれぞれの混合比としては、二次電池の用途や要求される性能に応じて適宜選択されるものであって特に制限されないが、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部としたとき、一般の非水系電解質二次電池の正極と同様に、正極活物質の含有量を60質量部以上95質量部以下とし、導電材の含有量を1質量部以上20質量部以下とし、結着剤の含有量を1質量部以上20質量部以下とすることができる。
 
【0107】
  次に、得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させる。また、必要に応じて、電極密度を高めるべく、ロールプレス等により加圧することもできる。このような操作により、シート状の正極を作製することができる。なお、シート状の正極は、目的とする電池の大きさに応じて適当な大きさに裁断等をして電池の作製に供することができる。
 
【0108】
  導電材としては、特に制限されず、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、及び膨張黒鉛等)や、アセチレンブラックやケッチェンブラック(登録商標)等のカーボンブラック系材料等を用いることができる。
 
【0109】
  結着剤としては、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすものであれば特に制限されず、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸等を用いることができる。
 
【0110】
  また、正極活物質、導電材、及び活性炭を分散させ、結着剤を溶解するために、溶剤を正極合材に添加することもできる。溶剤としては、特に制限されないが、例えば、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することができる。
 
【0111】
  (2)負極
  負極としては、金属リチウムやリチウム合金等、又はリチウムイオンを吸蔵及び脱離できる負極活物質に、結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布し、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用することができる。
 
【0112】
  負極活物質としては、特に制限されるものではなく、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、コークス等の炭素物質の粉状体を用いることができる。また、負極結着剤としては、正極同様、PVDF等の含フッ素樹脂を用いることができる。また、これらの負極活物質及び結着剤を分散させる溶剤として、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
 
【0113】
  (3)セパレータ
  正極と負極との間には、セパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、ポリエチレンやポリプロピレン等の薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
 
【0114】
  (4)非水系電解液
  非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
 
【0115】
  有機溶媒としては、特に制限されるものではなく、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネート等の環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタン等のエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトン等の硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチル等のリン化合物等が挙げられ、これらを1種単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
 
【0116】
  支持塩としては、特に制限されるものではなく、例えば、LiPF
6、LiBF
4、LiClO
4、LiAsF
6、LiN(CF
3SO
2)
2、及びそれらの複合塩等を用いることができる。
 
【0117】
  なお、必須の態様ではないが、非水系電解液には、電池特性を改善するために、ラジカル捕捉剤、界面活性剤、及び難燃剤等を含有させることができる。
 
【0118】
  (5)電池の形状及び構成
  非水系電解質二次電池の形状としては、特に制限されるものではなく、例えば、円筒形や積層形等の種々の形状とすることができる。
 
【0119】
  いずれの形状であっても、正極及び負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に非水系電解液を含浸させる。そして、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、及び、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、それぞれ集電用リード等を用いて接続し、電池ケースに密閉する。このようにして、非水系電解質二次電池を作製することができる。
 
【0120】
  (6)特性
  本実施の形態においては、正極活物質として上述したリチウムマンガンニッケル複合酸化物粒子を用いており、このような正極活物質を構成した非水系電解質二次電池では、高い作動電位を有しながらも、高容量で、出力特性に優れたものとなる。具体的には、2032型コイン電池を構成し、電流密度を0.1mA/cm
2として、カットオフ電圧5.0Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電した場合に、130mAh/g以上、好ましくは135mAh/g以上の初期放電容量が得られる。また、このような2032型コイン電池の正極抵抗を22Ω以下、好ましくは21Ω以下とすることができる。
 
【0121】
  (7)非水系電解質二次電池の用途
  このような非水系電解質二次電池は、上述したような特性を有するため、常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末等)の電源に好適に用いることができる。また、この非水系電解質二次電池は、小型化、高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源としても好適である。
 
【0122】
  なお、この非水系電解質二次電池は、純粋に電気エネルギーのみで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の燃焼機関と併用する、いわゆるハイブリッド車用の電源としても用いることができる。
 
【実施例】
【0123】
  以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら制限されるものではない。
【0124】
  <実施例1>
  [複合水酸化物の作製、及び、複合酸化物の作製]
  先ず、下記表1に示すように、硫酸マンガン及び硫酸ニッケルを、MnとNiのモル比が1.50:0.50になるように純水に溶かし、MnとNiの合計の濃度が1.9mol%/Lになるように調整して混合水溶液を得た。次に、水酸化ナトリウムの溶液に、炭酸ナトリウムを、全ナトリウムのモル数に対する炭酸ナトリウム由来のナトリウムのモル数の割合が15%になるように添加混合してアルカリ混合水溶液を得た。
【0125】
  次に、5Lの反応槽内に純水を入れて40℃になるように設定し、反応槽内に窒素を導入して酸素濃度が0.1%以下になるようにした。この反応槽に、アルカリ混合水溶液及び25%アンモニア水を適当量加え、反応槽内のpHが25℃基準で12.0、アンモニウムイオン濃度が10g/Lとなるように調整し、反応前の水溶液を得た。このようにして得た反応前の水溶液に、マンガンとニッケルとを含有する混合水溶液をポンプで適当量添加して、マンガンニッケル複合水酸化物の核生成を行った。なお、このとき、適宜反応槽内の反応溶液をサンプリングしてpH及びアンモニウムイオン濃度の測定を行い、一定に維持されるようにした。
【0126】
  マンガンニッケル複合水酸化物の核生成が終了したところでアルカリ混合水溶液の供給を終了し、同時に硫酸を用いて反応槽内のpHを25℃基準で11.0になるように調整した。この状態で再度、混合水溶液と、アルカリ混合水溶液と、25%アンモニア水とを、それぞれポンプを用いて供給した。混合水溶液等を相当量供給後、各溶液のポンプを停止して終了した。なお、これらの水溶液を供給している間、適宜反応槽内の反応溶液をサンプリングしてpH及びアンモニウムイオン濃度の測定を行い、一定に維持されるようにした。
【0127】
  次に、得られたマンガンニッケル複合水酸化物をろ過、乾燥して粉末を得た。なお、マンガンニッケル複合水酸化物の組成を確認するために、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析(VARIAN社製,725ES)により化学分析を行った。下記表2に、その結果を示す。
【0128】
  得られた複合水酸化物に、Li/Me比(なお、本実施例においては、Me=Mn+Niである)が0.50となるように秤量した炭酸リチウムを添加し、ターブラーシェーカミキサ(株式会社ダルトン製,T2F)を用いて混合することにより、マンガンニッケル複合水酸化物と炭酸リチウムとの混合物(リチウム混合物)を得た。
【0129】
  次に、得られたリチウム混合物を、雰囲気焼成炉(広築製,HAF−2020S)により、大気雰囲気下、900℃で12時間焼成した。このようにして得られた焼成物を解砕した後、再び、雰囲気焼成炉により、700℃で36時間保持して再焼成を行い、リチウムマンガンニッケル複合酸化物を得た。
【0130】
  なお、得られたリチウムマンガンニッケル複合酸化物の各成分の組成比は、ICP発光分光分析により化学分析して求めた。また、BET比表面積の評価は、タッピング・粉末減少式密充填式カサ密度測定器(筒井理化学株式会社製,TPM−1P型)用いて評価した。また、球状性の有無については、走査型電子顕微鏡(SEM)(JEOL社製,JSM−7001F)を用いて観察した。下記表2に、各評価の結果を示す。
【0131】
  [二次電池の作製]
  得られたリチウムマンガンニッケル複合酸化物の正極活物質としての評価には、2032型コイン電池1(以下、「コイン型電池」という)を作製して行った。なお、
図8の概略構成図を用いてコイン型電池の構造について説明する。
【0132】
  コイン型電池1は、ケース2と、ケース2内に収容された電極3とから構成される。ケース2は、中空且つ一端が開口された正極缶2aと、この正極缶2aの開口部に配置される負極缶2bとを有しており、負極缶2bを正極缶2aの開口部に配置すると、負極缶2bと正極缶2aとの間に電極3を収容する空間が形成されるように構成される。また、電極3は、正極3aと、セパレータ3cと、負極3bとにより構成され、この順で並ぶように積層されており、正極3aが正極缶2aの内面に接触し、負極3bが負極缶2bの内面に接触するようにケース2に収容される。なお、ケース2は、ガスケット2cを備えており、このガスケット2cによって正極缶2aと負極缶2bとの間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定される。また、ガスケット2cは、正極缶2aと負極缶2bとの隙間を密封してケース2内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有する。
【0133】
  このようなコイン型電池1は、以下のようにして作製した。
【0134】
  先ず、得られたリチウムマンガンニッケル複合酸化物52.5mgと、アセチレンブラック15mgと、ポリテトラフッ化エチレン樹脂(PTFE)7.5mgとを混合し、直径10mmで10mg程度の重量になるまで薄膜化して、正極3aを作製し、これを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
【0135】
  次に、正極3aを用いて、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内でコイン型電池1を作製した。このとき、負極3bには、直径14mmの円盤状に打ち抜かれたリチウム箔又は平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンが銅箔に塗布された負極シートを用いた。また、セパレータ3cには、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を、電解液には、1MのLiPF
6を支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との3:7混合液(富山薬品工業株式会社製)をそれぞれ用いた。
【0136】
  [二次電池の評価]
  コイン型電池1の正極放電容量及び正極抵抗を以下のように測定して、その性能を評価した。
【0137】
  正極放電容量は、電流密度を0.1mA/cm
2として、カットオフ電圧5.0Vまで充電し、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を測定した。
【0138】
  正極抵抗は、DC−IR抵抗を測定することにより評価した。具体的には、コイン型電池1を初期放電容量の60%まで充電し、1分間の休止を挟み、所定の電流密度で10秒間放電した後、再度1分間の休止を挟み、再度所定の電流密度で10秒間充電した。この操作を、電流密度0.4mA/cm
2、1.3mA/cm
2、4.0mA/cm
2、及び6.6mA/cm
2のそれぞれの電流密度において行い、それぞれの放電開始時の電圧と、放電終了までの電圧の差を測定した。次に、電流密度を縦軸に、電圧差を横軸としたときに、それぞれの測定値をプロットし、得られた直線関係について一次線形近似により傾きを求め、この傾きを正極抵抗(DC−IR抵抗)とした。表2に、これらの結果を示す。
【0139】
  <実施例2〜8及び比較例1〜5>
  実施例2〜8及び比較例1〜5では、下記表1に示すとおり、混合水溶液のモル比、添加元素の有無とその際のモル比、及びアルカリ混合水溶液の混合比を変更した。それ以外は、実施例1と同様にしてマンガンニッケル複合水酸化物及びリチウムマンガンニッケル複合酸化物を合成し、二次電池を作製して各種評価を行った。表2に、結果を示す。
【0140】
  <比較例6及び比較例7>
  混合水溶液を調製するための金属塩として、比較例6においては、硝酸マンガン及び硝酸ニッケルを用い、比較例7においては、塩化マンガン及び塩化ニッケルを用いた。それ以外は、実施例1と同様にしてマンガンニッケル複合水酸化物及びリチウムマンガンニッケル複合酸化物を合成し、二次電池を作製して各種評価を行った。表2に、結果を示す。
【0141】
【表1】
【0142】
【表2】