(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述の拡散防止構造では、吸着層を厚さ方向に通過した浸出水を、水平ドレーンによって外周方向へ流している。ここで、繊維マットなどで作製された水平ドレーンには重金属の吸着能力がない。このため、吸着層の厚さで吸着できなかった重金属については、水平ドレーンから排出された後、吸着装置によって吸着する必要があった。吸着装置を設けることで構成が複雑になると共に、設置用の敷地を確保しなければならず、費用が嵩むという問題があった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、吸着層における重金属の吸着能力を高め、吸着装置を設けることなく重金属の拡散を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述の目的を達成するため、本発明に係る重金属汚染土の貯蔵構造は、重金属が含まれる汚染土によって形成される汚染土層と、前記汚染土層よりも下方に、平面視において前記汚染土層の下面と同じ形状、又は、平面視において前記汚染土層の下面よりも外周方向に拡大された形状に設けられ、前記汚染土層からの浸出水を遮る遮水層と、前記汚染土層と前記遮水層の間に、平面視において前記汚染土層の下面と同じ形状、又は、平面視において前記汚染土層の下面よりも外周方向に拡大された形状に設けられ、前記浸出水に溶出された前記重金属を吸着する吸着層とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る重金属汚染土の貯蔵構造によれば、汚染土層を流下する浸出水は汚染土層の下面から吸着層に流入する。吸着層の下方に遮水層が設けられていることから、吸着層に流入した浸出水は、吸着層の内部を外周方向に向かって流れる。浸出水に溶出された重金属は、吸着層の内部を流れている際に吸着される。浸出水との接触距離を十分に確保できることから、吸着層における重金属の吸着能力を高めることができ、吸着層から排出される浸出水に関し、重金属の濃度を十分に低くできる。従って、吸着装置を設けなくても重金属の拡散を抑制できる。
【0010】
また、本発明に係る重金属汚染土の貯蔵構造は、重金属が含まれる汚染土によって形成される汚染土層と、前記汚染土層よりも下方に、平面視において前記汚染土層の下面と同じ形状、又は、平面視において前記汚染土層の下面よりも外周方向に拡大された形状に設けられ、前記汚染土層からの浸出水を遮る遮水層と、前記汚染土層と前記遮水層の間に、平面視において前記汚染土層の下面と同じ形状、又は、平面視において前記汚染土層の下面よりも外周方向に拡大された形状に設けられ、前記浸出水に溶出された前記重金属を吸着する吸着層と、前記汚染土層と前記吸着層の間に、前記汚染土層の下端外周縁から前記吸着層との境界に沿って内周方向の所定範囲を覆うと共に、前記汚染土層の下端外周縁から前記汚染土層の外周面に沿って高さ方向の所定範囲を覆う状態に形成される遮水構造とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る重金属汚染土の貯蔵構造でも、吸着層の下方に遮水層が設けられていることから、吸着層に流入した浸出水は吸着層の内部を外周方向に向かって流れ、浸出水に溶出された重金属は吸着層の内部を流れている際に吸着される。特に、この貯蔵構造において、汚染土層の下端外周部分を流れる浸出水は、遮水構造に沿って内周方向に流れた後に、遮水構造の内周縁から吸着層に流入する。このため、汚染土層の下端外周部分を流れる浸出水に関しても、吸着層を流れる際に十分な接触距離を確保できる。これにより、吸着層における重金属の吸着能力を高めることができる。そして、吸着層から排出される浸出水は、重金属の濃度が十分に低くなっているので、吸着装置を設けなくても重金属の拡散を抑制できる。
【0012】
前述の重金属汚染土の貯蔵構造において、透水係数が10
−7m/s以下の粘性土で前記遮水層が形成されている場合には、吸着層に流入した浸出水を外周方向に向けて確実に流すことができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る重金属汚染土の貯蔵構造によれば、吸着層における重金属の吸着能力を高めることができ、吸着装置を設けなくても重金属の拡散を抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1(A)に示す盛土1は、本発明に係る重金属汚染土の貯蔵構造の一例を示しており、盛土1の下側から順に、遮水層(不透水層)2と、吸着層3と、汚染土層4と、覆土層5とを備えている。
【0016】
遮水層2は、汚染土層4や吸着層3から流下した浸出水を遮るものであり、盛土1における最下層、具体的には地盤Gの表面に形成されている。遮水層2の透水係数は、ため池の遮水基準である1.0×10
−7m/s以下に定められている。本実施形態では、山砂70%と粘性土30%の混合土を締め固めることで、透水係数が9.20×10
−8m/sの遮水層2を形成している。粘性土としては、例えば、関東化成株式会社の商品名「トチクレー」を用いることができる。
【0017】
図2の斜視図から判るように、遮水層2は、平面視において汚染土層4の下面と同じ略正方形状に形成されている。また、遮水層2の厚さは例えば30cm〜50cmである。後述するように、この遮水層2は、汚染土層4からの浸出水を盛土1の外周方向へ案内する。このため、遮水層2の上面は、水平に形成されるか、外周縁に向かって僅かに下った傾斜面とされる。
【0018】
図1(A)に示すように、吸着層3は、汚染土層4と遮水層2の間に形成されている。すなわち、吸着層3の下面3dは遮水層2の上面2aに接しており、吸着層3の上面3cは汚染土層4の下面4aに接している。吸着層3は、汚染土層4から流下した浸出水に含まれる重金属を吸着するものであり、砕石と、山砂や川砂等の砂材と、重金属の吸着材を混合した混合材を締め固めることで形成される。
【0019】
本実施形態では、重金属として砒素を対象にしているため、砒素吸着材を用いている。砒素吸着材としては、例えば、石原産業株式会社の商品名「フィックスオール(登録商標)FB」を用いることができる。このフィックスオールFBは、主成分として酸化鉄及び硫酸カルシウムを含み、酸化鉄粒子の比表面積が180m
2/g以上となっている。
【0020】
吸着層3は、7号砕石90%と山砂10%を混合した混合材に、砒素吸着材を必要量(例えば30kg/m
3)添加して混合したものを、遮水層2を覆うように敷均して締め固めることで形成される。このように形成した吸着層3では、例えば透水係数が1.76×10
−3m/sになり、遮水層2の透水係数よりも1.0×10
2m/s以上高い値になっている。
【0021】
図2の斜視図から判るように、吸着層3は、汚染土層4の下面4aや遮水層2の上面2aよりも、平面視において外周方向に拡大されている。便宜上、以下の説明では、吸着層3における汚染土層4の下面4aと遮水層2の上面2aに挟まれた部分を吸着層3の主部3aといい、この主部3aよりも外周方向に拡大された部分を吸着層3の拡大部3bという。
【0022】
主部3aは、遮水層2と同様に、平面視において汚染土層4の下面4aと同じ略正方形状に形成されている。なお、本実施形態において、主部3aの厚みは30cmである。拡大部3bは、
図1(B)に示すように、断面が台形状とされ、主部3aの上面から遮水層2の下面に亘って形成されている。この例では、拡大部3bの内周縁上端(汚染土層4の下端外周縁4b)から拡大部3bの下面(地盤Gの表面)までの高さが、浸出水における吸着層3(砒素吸着材)との最短接触距離L1になる。前述したように、遮水層2の厚さが30cm〜50cm、吸着層3における主部3aの厚さが30cmであることから、最短接触距離L1は60cm〜80cmになる。
【0023】
汚染土層4は、掘削などによって生じた汚染土を盛り立てることで形成される。本実施形態の汚染土は砒素を含んだずりである。
図2に示すように、汚染土層4は、汚染土が正四角錐台に盛り立てられている。前述したように、汚染土層4の下面4aは、吸着層3における主部3aの上面や遮水層2の上面2aと同じ形状である。この盛土1では、これらの各面が平面視で重なるように、遮水層2、吸着層3、及び、汚染土層4が積層される。
【0024】
図1(A)に示すように、覆土層5は、汚染土層4の外表面を覆うことで、汚染土の飛散や流出を防止するものである。この覆土層5には砕石や土砂を用いることができる。本実施形態の覆土層5は、砕石7号を用いて形成されており、汚染土層4の上面及び外周面(法面)を一連に覆っている。
【0025】
次に、
図3を参照し、本実施形態の盛土1の施工手順について説明する。
【0026】
まず、
図3(A)に示すように、地盤Gの表面に、遮水層2となる混合土を敷均し、かつ、この混合土を囲繞するように、吸着層3(拡大部3b)となる混合材を敷均す。そして、敷均した混合土及び混合材を締め固めることで、遮水層2と拡大部3bの下側半部を形成する。
【0027】
次に、
図3(B)に示すように、吸着層3の主部3a及び拡大部3bとなる混合材を、遮水層2及び拡大部3bの下側半部の上に敷均して締め固める。これにより、遮水層2を覆う吸着層3が形成される。
【0028】
次に、
図3(C)に示すように、吸着層3の上面3cに汚染土層4となる汚染土を敷均すと共に、汚染土を囲繞するように覆土層5となる砕石等を敷均して締め固める。これにより、汚染土層4と覆土層5の下端部分が形成される。
【0029】
その後は、汚染土及び砕石等の敷均しと締固めを繰り返し行うことで、汚染土層4と覆土層5の高さが上昇される。そして、汚染土層4を最上部まで形成したならば、汚染土層4の上面に砕石等を敷均して締め固めることで、
図3(D)に示すように、盛土1が完成する。
【0030】
次に、第1実施形態の盛土1による重金属の吸着作用について説明する。
【0031】
図4に示すように、汚染土層4の浸出水は、符号F1の矢印で示すように、汚染土層4の内部を流下する。その際、汚染土に含まれる砒素が浸出水に溶出される。このため、浸出水における砒素濃度は汚染土層4の下方になるほど高くなる。浸出水は、汚染土層4の下面4aから吸着層3に流入する。ここで、吸着層3の下面3dと遮水層2の上面2aが接しているので、符号F2の矢印で示すように、吸着層3に流入した浸出水は、遮水層2の上面2aに沿って主部3aを盛土1の外周方向に向かって流れる。拡大部3bに到達すると、符号F3の矢印で示すように、浸出水は拡大部3bを下向きに流れ、拡大部3bの下面から地盤Gへ排出される。
【0032】
ここで、浸出水に溶出された砒素は、吸着層3の内部を流れている間に砒素吸着材に吸着される。浸出水の多くは、吸着層3の主部3aを流れることから浸出水との接触距離を十分に確保できる。このため、砒素を砒素吸着材へ効果的に吸着させることができ、吸着層3における重金属の吸着能力を高めることができる。
【0033】
なお、
図1(B)で説明したように、本実施形態では、汚染土層4の下端外周縁4bから吸着層3の拡大部3bに流入する浸出水が、吸着層3との接触距離が最も短くなる。この点に関し、拡大部3bの高さを十分に確保していることから、汚染土層4の下端外周縁4bから流入する浸出水についても、砒素を砒素吸着材へ効果的に吸着させることができる。
【0034】
このように、本実施形態の盛土1では、吸着層3から排出される浸出水に関して砒素の濃度を十分に低くでき、吸着装置を設けなくても砒素の拡散を抑制できる。
【0035】
また、遮水層2の上面2aに吸着層3の主部3aを積層しているので、浸出水は、主部3aの内部を上面2aに沿って外周方向に拡がりながら流れる。これにより、浸出水の流速を低く抑えるとともに流速を均等化でき、砒素を吸着層3(砒素吸着材)に効果的に吸着させることができる。
【0036】
流速を低く抑えることで砒素の吸着効率が高くなることを、通水試験によって確認した。以下、通水試験について説明する。通水試験は、
図5に示す試験装置10を用いて行った。試験装置10は、通水カラム11と、送液チューブ12と、貯留容器13と、送液ポンプ14と、三方弁15と、採取容器16とを備えている。
【0037】
通水カラム11は、模擬汚染水17を模擬吸着層18に通水させるための部材であり、円筒カラム21と、第1栓部材22と、第2栓部材23と、第1フィルタ材24と、第2フィルタ材25を備えている。円筒カラム21は、内径が100mmであり、高さ(上下方向の長さ)が150mmである。そして、円筒カラム21の下端を第1栓部材22によって塞ぐと共に第1フィルタ材24を配置した状態で、模擬吸着層18を高さが60mmとなるまで充填する。充填後、模擬吸着層18の上面3cに第2フィルタ材25を配置した状態で、円筒カラム21の上端を第2栓部材23によって塞いでいる。
【0038】
第1栓部材22及び第2栓部材23にはそれぞれ、栓の厚さ方向を貫通する貫通孔が形成されている。そして、第1栓部材22には、第1送液チューブ12aの下流側端部が挿入され、第2栓部材23には、第2送液チューブ12bの上流側端部が挿入されている。
【0039】
貯留容器13には、模擬汚染水17が貯留されるとともに、第1送液チューブ12aの上流側端部が挿入されている。送液ポンプ14は、第1送液チューブ12aの途中に設けられており、貯留容器13に貯留された模擬汚染水17を、第1送液チューブ12aを通じて所定速度で通水カラム11へ供給する。三方弁15は、第2送液チューブ12bの途中に設けられており、通水カラム11から排出された模擬汚染水17´を、第2送液チューブ12bの下流側に流すか、廃液容器(不図示)に排出するかを選択する。採取容器16には、第2送液チューブ12bの下流側端部が挿入されており、第2送液チューブ12bから排出される浸出水17´を採取する。
【0040】
図6(A)に示すように、通水試験では、模擬汚染水17として濃度が0.1mg/Lの砒素溶液を用いた。また、模擬吸着層18の土壌として4号珪砂や6号珪砂を用い、砒素吸着材として前述のフィックスオールFBを用いた。そして、所定割合で砒素吸着材を土壌に混合することにより、模擬吸着層18の基となる混合土を作製した。
【0041】
通水試験では、
図6(B)に示す5種類の試験ケースA〜Eを対象にした。試験ケースAでは、土壌のみで模擬吸着層18を作製し、2mL/minの通水速度で模擬汚染水17を模擬吸着層18へ通水した。試験ケースBでは、砒素吸着材を土壌に対して5kg/tの比率で添加及び混合して模擬吸着層18を作製した。そして、2mL/minの通水速度で模擬汚染水17を模擬吸着層18へ通水した。試験ケースCでは、砒素吸着材を土壌に対して5kg/tの比率で添加及び混合して模擬吸着層18を作製した。そして、20mL/minの通水速度で模擬汚染水17を模擬吸着層18へ通水した。試験ケースDでは、砒素吸着材を土壌に対して20kg/tの比率で添加及び混合して模擬吸着層18を作製した。そして、2mL/minの通水速度で模擬汚染水17を模擬吸着層18へ通水した。試験ケースEでは、砒素吸着材を土壌に対して20kg/tの比率で添加及び混合して模擬吸着層18を作製した。そして、20mL/minの通水速度で模擬汚染水17を模擬吸着層18へ通水した。
【0042】
通水試験の試験結果を
図6(C)のグラフに示す。このグラフの縦軸は、採取容器16で採取した浸出水17´に含まれる砒素濃度、すなわち、模擬吸着層18を通過した後の浸出水17´における砒素濃度を示している。また、グラフの横軸は、模擬吸着層18への通水量を示している。
【0043】
通水試験では、試験ケースA〜Eのそれぞれについて、模擬吸着層18へ所定量通水する毎に浸出水17´の砒素濃度を測定し、通水量と砒素濃度の関係を取得した。砒素濃度に関し、環境庁告示第46号では、土壌における環境基準値を0.01mg/Lに定めている。このため、通水試験では、砒素濃度が0.01mg/Lに到達するまでの通水量を、各試験ケースで比較した。
【0044】
試験結果について説明する。土壌のみで模擬吸着層18を作製した試験ケースAでは、通水開始後直ちに砒素濃度が0.01mg/Lを越えており、その後の砒素濃度は0.1mg/Lの近傍で推移した。
【0045】
砒素吸着材を5kg/tの比率で添加し、模擬汚染水17を2mL/minで通水した試験ケースBでは、通水量が270Lに到達するまでの期間に亘って、砒素濃度は0.001mg/L以下で概ね推移した。そして、通水量が270Lを越えると砒素濃度が上昇し、約305Lで0.01mg/Lに到達した。
【0046】
砒素吸着材を5kg/tの比率で添加し、模擬汚染水17を20mL/minで通水した試験ケースCでは、通水量が50Lに到達するまでの期間に亘って、砒素濃度は0.001mg/L以下で概ね推移した。そして、通水量が50Lを越えると砒素濃度が上昇し、約175Lで0.01mg/Lに到達した。
【0047】
砒素吸着材を20kg/tの比率で添加し、模擬汚染水17を2mL/minで通水した試験ケースDでは、通水量が340Lに到達するまでの期間に亘って、砒素濃度は0.001mg/L以下で概ね推移した。そして、通水量が340Lを越えると砒素濃度が上昇し、約635Lで0.01mg/Lに到達した。
【0048】
砒素吸着材を20kg/tの比率で添加し、模擬汚染水17を20mL/minで通水した試験ケースEでは、通水量が100Lに到達するまでの期間に亘って、砒素濃度は0.001mg/L以下で概ね推移した。そして、通水量が100Lを越えると砒素濃度が上昇し、約200Lで0.01mg/Lに到達した。
【0049】
濃度0.01mg/Lに到達するまでの通水量に関し、通水速度が20mL/minの試験ケースC,Dでは175Lと200Lであった。通水速度が2mL/minである試験ケースBでは通水量が305Lであり、試験ケースDでは通水量が635Lであることから、砒素吸着材の添加量に関わらず、通水速度が高いと濃度0.01mg/Lに到達するまでの通水量が少なくなることが確認できた。
【0050】
本実施形態の盛土1のように、遮水層2の上面2aに吸着層3の主部3aを積層すると、浸出水の流速が低く抑えられ、かつ、流速を均等化できる。このため、盛土1では、砒素を吸着層3に効果的に吸着させることができる。
【0051】
ところで、上述の第1実施形態では、吸着層3の拡大部3bによって砒素の吸着に必要な最短接触距離L1を確保していたが、この構成に限定されない。
【0052】
例えば、
図7に示す第1変形例のように、覆土層5における下端部の全周に、盛土1の内周側に向けて他の部分よりも厚みを増やした厚肉部5aを形成してもよい。厚肉部5aを形成することにより、浸出水は、
図7に符号F4の矢印で示すように、厚肉部5aの下面と遮水層2の上面2aによって挟まれた吸着層3の外周部分を流れる。吸着層3の外周部分により、砒素の吸着に必要な接触距離L2を確保できるので、吸着層3に拡大部を設けなくても済み、盛土1の形成に必要な地盤Gの面積をその分だけ小さくできる。
【0053】
また、
図8に示す第2変形例のように、汚染土層4と吸着層3の間に、汚染土層4の下端外周縁4bから吸着層3との境界に沿って内周方向の所定範囲を覆うと共に、汚染土層4の下端外周縁4bから汚染土層4の外周面(法面)に沿って高さ方向の所定範囲を覆う状態に形成される遮水部材6を配置してもよい。
【0054】
遮水部材6は、本発明に係る遮水構造の一種であり、汚染土層4の下端外周部分で浸出水の流れを規制する。この遮水部材6は、遮水シートを用いてもよいし、粘性土によって形成してもよい。この遮水部材6を設けることにより、
図8に符号F5の矢印で示すように、汚染土層4の下端外周部分を流れる浸出水は、遮水部材6に沿って内周方向に流れた後に、遮水部材6の内周縁から吸着層3に流入する。このため、汚染土層4の下端外周部分を流れる浸出水に関し、吸着層3を流れる際に十分な接触距離L3を確保できるので、吸着層3に拡大部を設けなくても済み、盛土1の形成に必要な地盤Gの面積をその分だけ小さくできる。
【0055】
さらに、
図9に示す第3変形例のように、吸着層3の拡大部3b´を主部3aよりも上方まで設け、汚染土層4の下端外周縁4bから所定高さまでの範囲を拡大部3b´で囲繞してもよい。この拡大部3b´で汚染土層4の下端部分を囲繞することにより、同図に符号F6で示すように、浸出水の拡大部拡大部3b´への流入量を前述の第1実施形態よりも増やすことができる。これにより、砒素を砒素吸着材へ効果的に吸着させることができ、吸着層3における重金属の吸着能力を一層高めることができる。
【0056】
次に、
図10を参照し、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態の盛土31も、遮水層32、吸着層33、汚染土層34、及び、覆土層35を備えている。なお、各部の構成材料については第1実施形態と同じであるため、説明を省略する。これらに加え、この盛土31は、排水シート36、及び、法面保護マット37を備えている。
【0057】
遮水層32は、正四角錐台状に形成されており、厚さがH1とされ、上面における一辺の長さがW1とされている。吸着層33は、遮水層32よりも一回り大きな正四角錐台状に形成されており、遮水層32を外側から覆っている。吸着層33の主部33aにおける一辺の長さは、遮水層32と同じくW1とされている。また、主部33aの厚さH2は、遮水層32の厚さH1と同じである。このため、拡大部33bの厚さは、遮水層32における厚さH1の2倍とされている。
【0058】
汚染土層34もまた正四角錐台状であり、吸着層33の上面に形成されている。このため、汚染土層34の下面における一辺の長さは、吸着層33の上面における一辺の長さ、すなわち遮水層32の上面における一辺の長さW1と同じである。覆土層35もまた正四角錐台状であり、汚染土層34の上面に形成されている。
【0059】
排水シート36は、通水性を有するシート状部材で作製されており、遮水層32及び吸着層33の外周部と地盤Gの間に配置されている。この排水シート36を配置することで、吸着層33の外周部から排出された浸出水を地盤Gの勾配に沿って速やかに流下させることができる。法面保護マット37は、盛土31の法面、すなわち吸着層33、汚染土層34、及び、覆土層35の外周面を保護するマット状部材である。本実施形態において、盛土31の法面は、長期保護の観点から勾配を1:1.5としている。この法面保護マット37を盛土31の法面に敷設することで、吸着層33に含まれる砒素吸着材や砂材、汚染土層34の基となる汚染土の流出が効果的に抑制される。
【0060】
上記のように形成された第2実施形態の盛土31でも、第1実施形態の盛土1と同様に、浸出水に含まれる砒素を吸着層33(砒素吸着材)によって十分に除去できるため、吸着装置を設けなくても砒素の拡散を抑制できる。
【0061】
次に、
図11を参照し、本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態では、傾斜地に形成されたすりつけ盛土41に本発明を適用した例を示している。本実施形態のすりつけ盛土41は、地盤G側から順に、遮水層42、吸着層43、汚染土層44、及び、覆土層45が設けられている。そして、遮水層42は、遮水材料(例えば山砂と粘性土の混合土)や遮水シートで形成された法面部42aと、遮水材料で形成された底部43bを備えている。吸着層43における遮水層42の上方に形成されている部分が主部43aとされ、遮水層42の外周縁から平面視において外周方向に拡大されている部分が拡大部43bとされている。なお、各部を構成する材料については第1実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0062】
上記のように形成されたすりつけ盛土41でも、第1実施形態の盛土1と同様に、浸出水に含まれる砒素を吸着層43(砒素吸着材)によって十分に除去できるため、吸着装置を設けなくても砒素の拡散を抑制できる。
【0063】
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。例えば、次のように構成してもよい。
【0064】
吸着対象の重金属に関し、前述の実施形態では砒素を例に挙げて説明したが、砒素に限定されるものではない。砒素に加え、カドミウム、鉛、六価クロム、水銀、セレン、フッ素、ホウ素など、土壌環境基準で規定される重金属であれば、吸着対象の重金属になる。
【0065】
第1実施形態の盛土1や第3実施形態のすりつけ盛土41に関し、遮水層2,42は、汚染土層4,44の下面と平面視において同じ形状であるとして説明したが、この構成に限定されない。平面視において、外周方向に拡大されていてもよい。
【0066】
前述の各実施形態では、重金属汚染土の貯蔵構造として、盛土1,31やすりつけ盛土41を例示したが、汚染土層と遮水層の間に吸着層を形成する貯蔵構造であれば、これらに限定されるものではない。