特許第6583983号(P6583983)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6583983リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法、及びこれを含むリチウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6583983
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法、及びこれを含むリチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20190919BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20190919BHJP
   C01G 51/08 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   C01G51/08
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-265200(P2014-265200)
(22)【出願日】2014年12月26日
(65)【公開番号】特開2015-130343(P2015-130343A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2017年9月29日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0167340
(32)【優先日】2013年12月30日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100070024
【弁理士】
【氏名又は名称】松永 宣行
(74)【代理人】
【識別番号】100159042
【弁理士】
【氏名又は名称】辻 徹二
(72)【発明者】
【氏名】キム,セ・ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ムン,ジョン・ソク
(72)【発明者】
【氏名】シム,ジェ・ハ
(72)【発明者】
【氏名】ユ,テ・ファン
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/069790(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0367609(US,A1)
【文献】 国際公開第2003/044881(WO,A1)
【文献】 特表2012−504316(JP,A)
【文献】 特開2012−038562(JP,A)
【文献】 特開2014−107269(JP,A)
【文献】 Jianming Zheng et al.,Improved electrochemical performance of Li[Li0.2Mn0.54Ni0.13Co0.13]O2 cathode material by fluorine incorporation,Electrochimica Acta,Elsevier,2013年 5月10日,Vol.105,pp.200-208
【文献】 S.-H.Kang et al.,Layered Li(Li0.2Ni0.15+0.5zCo0.10Mn0.55-0.5z)O2-zFz cathode materials for Li-ion secondary batteries,Journal of Power Sources,Elsevier,2005年 5月25日,Vol.146,pp.654-657
【文献】 J.M.Zheng et al.,A comparison of preparation method on the electrochemical performance of cathode material Li[Li0.2Mn0.54Ni0.13Co0.13]O2 for lithium ion battery,Electrochimica Acta,Elsevier,2010年12月23日,Vol.56,pp.3071-3078
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36− 4/62
H01M 4/13− 4/1399
H01M 10/05−10/0587
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式:Li1+(c−a)/2NiCoMn2−x(式中、0.1≦c−a≦0.4、0.13≦a≦0.3、0.03≦b≦0.2、0.4≦c≦0.6、(a+b+c)+(1+(c−a)/2)=2、0<x≦0.15、1≦a/b≦6、1.9≦c/a≦4.0、0.04≦b/(a+b+c)≦0.25)で表されるリチウム複合遷移金属酸化物を含む正極活物質であって、上記リチウム複合遷移金属酸化物が、層状構造のLiMnOを含み、
2次粒子の平均粒径が2〜5μmであり、1次粒子の平均粒径が50〜500nmである正極活物質。
【請求項2】
比表面積が3〜10m/gである、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
菱面体晶(rhombohedral)構造の物質と単斜晶(monoclinic)構造の物質の混合物である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項4】
一般式:Nia′Cob′Mnc′(OH)(式中、0.15≦a′<0.354、0.036≦b′<0.24、0.48≦c′<0.72、a′+b′+c′=1)の実験式で表される複合遷移金属水酸化物を用意する工程と、
上記複合遷移金属水酸化物とリチウム供給源とフッ素供給源を混合した後、得られた混合物を600〜800℃で熱処理する工程とを含む、請求項1〜のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。
【請求項5】
上記リチウム供給源として、LiCO、LiOH、LiNO、LiCHCOO及びこれらの混合物からなる群より選択された1種以上を使用する、請求項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項6】
上記フッ素供給源として、LiF、NHF、NaF、KF、CsF、RbF、TiF、AgF、AgF、BaF、CaF、CuF、CdF、FeF、HgF、Hg、MnF、MgF、NiF、PbF、SnF、SrF、XeF、ZnF、AlF、BF、BiF、CeF、CrF、DyF、EuF、GaF、GdF、FeF、HoF、InF、LaF、LuF、MnF、NdF、VOF、PrF、SbF、ScF、SmF、TbF、TiF、TmF、YF、YbF、TIF、CeF、GeF、HfF、SiF、SnF、TiF、VF、ZrF、NbF、SbF、TaF、BiF、MoF、ReF、SF、WF及びこれらの混合物からなる群より選択された1種以上を使用する、請求項に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜のいずれかに記載の正極活物質を含むリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池用正極活物質、その製造方法、及び該正極活物質を含むリチウム二次電池に関し、より詳細には、フッ素でドープされた、リチウムが過剰でマンガンがリッチである層状構造のリチウム複合遷移金属酸化物において、リチウムと遷移金属の組成比を最適化することによって、リチウム二次電池の電圧降下を減らすことができるリチウム二次電池用正極活物質、その製造方法、及び該正極活物質を含むリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
IT技術が次第に発達するに伴い、リチウムイオン二次電池のバッテリー容量及び寿命が共に向上している。この向上は、入手可能な材料であるLiCoOに基くセルの設計の発展によるものである。しかし、セルの設計に基いて発展してきた高容量バッテリーも、最近のスマート機器や電気自動車などに使用するには容量の限界に到逹しており、リチウム二次電池に用いるための新たな材料の必要が生じている。リチウム二次電池の容量は、正極活物質に依存するところが大きいため、最近、過剰量のリチウムを含む層状構造のリチウム複合遷移金属酸化物に関する研究が、活発に行われている。
【0003】
正極活物質としては、主に、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO)が使用されている。その他、層状結晶構造のLiMnO、スピネル結晶構造のLiMnなどのリチウム含有マンガン酸化物や、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)の使用が検討されてきた。
【0004】
上記の正極活物質の中でも、LiCoOは、寿命特性及び充放電効率に優れているため、正極活物質として最も広く使用されている。しかし、LiCoOは、構造的安定性が低く、且つ原料として使用されるコバルトの資源的限界に起因して、価格競争力に限界があるという短所があるため、電気自動車などの分野における動力源として大量に使用するには限界がある。
【0005】
LiNiO系正極活物質は、比較的価格が安くて、高い放電容量の電池特性を有しているが、充放電サイクルに伴う体積変化に従って、結晶構造の急激な相転移が現われ、空気及び湿気に曝されたときに、安全性が急激に低下するという問題がある。
【0006】
また、LiMnOなどのリチウム含有マンガン酸化物は、熱的安全性に優れていて、比較的価格が安いという長所があるが、容量が小さくて、サイクル特性が悪くて、高温特性が悪いという問題点がある。
【0007】
リチウムマンガン酸化物の中でもスピネル系リチウムマンガン酸化物の場合、4V領域(3.7V〜4.3V)と3V領域(2.7V〜3.1V)で比較的平坦な電位を示し、これら2つの領域が共に使用される場合、約260mAh/g以上の大きな理論的容量(理論容量は、3V領域と4V領域のいずれについても約130mAh/gである。)を得ることができる。しかし、上記3V領域では、サイクル及び貯蔵特性が非常に低下するため、スピネル系リチウムマンガン酸化物の利用は、難しいであろう。加えて、スピネル系リチウムマンガン酸化物のみを正極活物質として使用する場合、リチウムソースを正極活物質に依存する現在のリチウム二次電池のシステムの下では、3V領域での充放電に使用することができるリチウムソースがないため、得られる容量の半分しか使用することができないという限界がある。さらに、上記スピネル系リチウムマンガン酸化物は、4V領域と3V領域の間で急激な電圧降下が発生し、不連続的な電圧プロファイル(profile)を示すので、4V領域及び3V領域における出力不足の問題が発生する可能性がある。したがって、電気自動車などの分野における中型もしくは大型のデバイスの動力源として、スピネル系リチウムマンガン酸化物を利用することは、実際には難しい。
【0008】
スピネル系リチウムマンガン酸化物の上述の短所を解消し、マンガン系活物質の優れた熱的安全性を確保するために、層状のリチウムマンガン酸化物が提案されている。
【0009】
特に、マンガン(Mn)の含有量が他の遷移金属の含有量よりも大きいものである層状構造のxLiMnO・(1−x)LiMO(0<x<1、M=Co、Ni、Mnなど)は、高電圧で過充電時に非常に大きい容量を示すものの、初期の不可逆容量が大きいという短所がある。
【0010】
複合遷移金属(Ni、Mn及びCoからなる群より選択された2つ以上)に対するリチウムの等量比が1である層状構造のリチウム複合遷移金属酸化物において、各元素は、規則的な構造でLiMO(式中、Mは、+3及び+4の酸化数を有する2種以上の遷移金属である。)を形成する。しかし、複合遷移金属に対するリチウムの等量比が1を超えるリチウム複合遷移金属酸化物は、リチウム層、酸素層、遷移金属層、酸素層及びリチウム層の繰り返し結晶構造を形成するであろう。リチウムが遷移金属層の一部の位置を占めるように、LiM′O(式中、M′は、Mn、Tiのような+4の酸化数を有する遷移金属である。)が形成されるであろう。LiM′Oは、LiMOに比べてLiの含有率が大きいので、高容量を実現することができる。しかし、LiM′Oは、4.4Vより小さな電圧では活性化されないので、4.4V以上の電圧で充放電されることが必要である。LiM′Oが4.4V以上の電圧で充放電された場合、LiMOからLiが50%以上脱着されると同時に、遷移金属も溶出されるので、リチウム二次電池の電圧の降下が持続的に発生するという問題が生じうる。
【0011】
したがって、高容量を有しながら、急激な電圧降下領域がない、すなわち全SOC(State Of Charge)領域で均一なプロファイルを示すことによって安定性が改善されたリチウム二次電池に対する必要性は、中型もしくは大型のデバイスの電源の用途において、高くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】大韓民国特許公開第10−2011−0076955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、フッ素でドープされた過剰−リチウムかつリッチ−マンガンであるリチウム複合遷移金属酸化物を含み、4.4V以上の電圧で充放電を繰り返しても、リチウム二次電池の電圧降下を抑制することができるリチウム二次電池用正極活物質及びその製造方法を提供する。
【0014】
また、本発明は、4.4V以上の電圧で充放電を繰り返す場合であっても、電圧降下が顕著に減少するリチウム二次電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の一態様によると、一般式:Li1+(c−a)/2NiCoMn2−x(式中、0.1≦c−a≦0.4、0.13≦a≦0.3、0.03≦b≦0.2、0.4≦c≦0.6、(a+b+c)+(1+(c−a)/2)=2、0<x≦0.15、1≦a/b≦6、1.9≦c/a≦4.0、0.04≦b/(a+b+c)≦0.25)で表されるリチウム複合遷移金属酸化物を含む正極活物質(陽極活物質)が提供される。このリチウム複合遷移金属酸化物は、層状構造のLiMnOを含む。
【0016】
本態様の正極活物質は、比表面積が3〜10m/gであることが好ましく、2次粒子の平均粒径が2〜5μmであることが好ましく、1次粒子の平均粒径が50〜500nmであることが好ましい。
【0017】
本発明の他の態様によると、前記態様の正極活物質を製造する方法であって、一般式:Nia′Cob′Mnc′(OH)(式中、0.15≦a′<0.354、0.036≦b′<0.24、0.48≦c′<0.72、a′+b′+c′=1の実験式(組成式)で表される複合遷移金属水酸化物を用意する工程(段階)と、複合遷移金属水酸化物とリチウム供給源とフッ素供給源を混合した後、得られた混合物を600〜800℃で熱処理する工程とを含む正極活物質の製造方法が提供される。
【0018】
本発明のさらに他の態様によると、上記正極活物質を含むリチウム二次電池が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によるフッ素でドープされた、リチウムが過剰でマンガンがリッチであるリチウム複合遷移金属酸化物を含むリチウム二次電池用正極活物質を使用する場合、4.4V以上の電圧で充放電を繰り返しても、リチウム二次電池の電圧降下を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好ましい実施形態を説明する。本発明の実施形態は、様々な他の形態に変形されることができ、本発明の範囲は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。本発明の実施形態は、当業界で平均的な知識を有する者に本発明をさらに完全に説明するために提供されるものである。したがって、図面における要素の形状及びサイズなどは、さらに明確な説明のために誇張されることができ、図面上の同一の符号で表示される要素は、同一の要素である。
【0021】
本発明の実施形態の一例は、フッ素でドープされた、リチウムが過剰でマンガンがリッチであるリチウム複合遷移金属酸化物を含む正極活物質に関するものであり、より具体的には、コバルトのモル組成比率を0.2以下に限定し、リチウム組成をマンガン及びニッケル組成と一定の関連を有するように調節することによって、2.5〜4.7Vの範囲で充放電を繰り返しても、電圧降下が発生しないリチウム二次電池用正極活物質に関する。
【0022】
本発明の一態様は、Li1+(c−a)/2NiCoMn2−x(0.1≦c−a≦0.4、0.13≦a≦0.3、0.03≦b≦0.2、0.4≦c≦0.6、(a+b+c)+(1+(c−a)/2)=2、0<x≦0.15、1≦a/b≦6、1.9≦c/a≦4.0、0.04≦b/(a+b+c)≦0.25)で表されるリチウム複合遷移金属酸化物を含む正極活物質であり、上記リチウム複合遷移金属酸化物が、層状構造のLiMnOを含むことができるものである。
【0023】
上記実施形態例において、コバルトのモル組成比率は、好ましくは0.03〜0.2である。コバルトのモル組成比率が0.03未満の場合には、高いレート(high rate)での容量が小さいため、コバルトは、最小でも0.03のモル組成比率で含まれなければならない。コバルトのモル組成比率が0.2を超える場合には、高いレートでの容量及びレート特性(rate capability)などは向上する。しかし、LiMnOを用いた大きな容量の実現のために、2.5〜4.7Vの範囲内で充放電を繰り返す場合、コバルトが溶出して、分離膜に析出し、分離膜の孔を塞いでしまうため、持続的な充放電は難しい。また、充放電中に電圧が持続的に減少し、安定性及び信頼性が低下することがある。上記実験式に示すとおり、ニッケル、コバルト及びマンガンの比率を限定し、かつ、これら遷移金属とリチウムの比率を限定することによって、高いレートでの安定的な容量及び電圧を維持することができる。
【0024】
リチウムが過剰でマンガンがリッチであるリチウム複合遷移金属酸化物の形成メカニズムを説明する。まず、マンガンとニッケルが1:1のモル比で反応し、次に、残りのマンガンが、過剰のリチウムと反応して、LiMnOが形成される。したがって、ニッケルとマンガンの組成比を調節することによって、LiMnOの生成量(含有量)を調節することができる。また、酸素との電荷均衡(charge balance)などを考慮して、(c−a)/2と同量の過剰リチウムをさらに加えた場合、ニッケルと反応せずに残っているマンガンは、過剰リチウムと反応して、LiMnOを形成させる。すなわち、マンガンとニッケルの組成が定まれば、それに応じて、過剰リチウムの量が定まり、それによって最終的に、LiMnOの生成量(含有量)が定まる。
【0025】
上記実施形態例において、リチウム複合遷移金属酸化物には、フッ素がドープされることができる。フッ素がドープされた場合、正極活物質の粒子の表面が安定化され、正極活物質の構造転移を防止することができる。また、正極活物質を低温で焼成した場合であっても、正極活物質の結晶化度を確保することができ、リチウム二次電池の寿命特性を向上させることができる。フッ素のドープ量は、限定されるものではないが、好ましくは、モル比で0を超え、0.15以下である。フッ素をドープしない場合には、寿命特性を確保しにくい。フッ素のドープ量がモル比で0.15を超える場合、容量が減少する傾向を示す。
【0026】
上記実施形態例の正極活物質は、LiMnOを含むので、リチウム複合遷移金属酸化物(LiMO)が単独で存在する場合と比較して、電気伝導度が低い。しかし、この問題は、正極活物質粒子と電解液が接触する面積(正極活物質の比表面積)を増加させて、電子とLiイオンの移動経路を短縮させることによって、解決されうる。正極活物質粒子と電解液が接触する面積を増加させるために、正極活物質粒子のサイズを小さくすることができる。上記実施形態例の正極活物質は、平均粒径が2〜5μmであることが好ましい。粒子サイズ分析機(particle size analyzer)で測定される粒子のサイズは、数万個の小さい粒子が球状に凝集してなる2次粒子に関する。このような2次粒子を構成する微細粒子は、1次粒子と称される。正極活物質の2次粒子の平均粒径が2μm未満の場合、正極活物質について大きな比表面積を確保することができるものの、正極活物質粒子の表面と電解液との副反応が増大するため、寿命特性が低下し、好ましくない。また、2次粒子の平均粒径は、5μm以下であることが好ましい。これにより、リチウムイオンの移動経路を短縮させて、イオン伝導性を確保することができる。
【0027】
上記実施形態例において、1次粒子の形状及びサイズ、及び、2次粒子のサイズを制御することによって、高いレートでの高容量を実現することができる。言い換えれば、正極活物質の粒子と電解液の接触面積を増加させるために、正極活物質の粒子のサイズを小さくすることができる。粒子サイズが小さい場合にも高容量を実現するためには、2次粒子を構成している1次粒子のサイズの制御が必要である。すなわち、1次粒子の平均粒径は、50〜500nmであり、1次粒子の形態は、短軸:長軸の比率が1:1〜1:2である球形または楕円形であることが好ましい。1次粒子の短軸:長軸の比が1:2を超える棒状の形態の場合には、高容量の実現が難しい。
【0028】
上記実施形態例における正極活物質の比表面積は、好ましくは、3〜10m/gである。該比表面積が3m/g未満の場合には、電解液と接触する面積が小さいため、レート特性が低下する。電池の容量及びレート特性の点では、比表面積を増加させることが好ましい。該比表面積が過度に大きい場合には、寿命特性が低下する。特に、正極活物質の粉末表面に、電解液との副反応によって被膜が形成され、この被膜が抵抗として作用する。充放電サイクルが繰り返されるほど、電池の容量が低下する。該比表面積が10m/gを超える場合には、このような傾向が加速され、電池の安定性が低下する。
【0029】
上記実施形態例において、リチウム複合遷移金属酸化物に含まれているLiMnOは、層状構造を有することができる。リチウム複合遷移金属酸化物(LiMO)(ここで、Mは、Ni、Co及びMnである。)は、菱面体晶(rhombohedral)構造を有し、LiMnOは、単斜晶(monoclinic)構造を有する。
【0030】
本発明の他の態様は、前記態様の正極活物質の製造方法であって、一般式:Nia′Cob′Mnc′(OH)(式中、0.15≦a′<0.354、0.036≦b′<0.24、0.48≦c′<0.72、a′+b′+c′=1)の実験式で表される複合遷移金属水酸化物を用意する工程(段階)と、複合遷移金属水酸化物、リチウム供給源及びフッ素供給源を混合した後、得られた混合物を600〜800℃で熱処理する工程(段階)とを含む、フッ素でドープされたリチウム複合遷移金属酸化物を含む正極活物質の製造方法である。
【0031】
複合遷移金属酸化物の前駆体としては、炭酸塩の形態よりも水酸化物の形態のほうが好ましい。複合遷移金属の前駆体が炭酸塩の形態を有する場合、合成された正極活物質の比表面積が大きいという長所がある。しかし、正極活物質粒子の内部に気孔が多数形成されることがあり、この場合、電池の体積当たりの容量が減少する。
【0032】
まず、合成しようとする複合遷移金属の前駆体を考慮して、各遷移金属の塩を一定のモル比で水に溶解することによって、前駆体溶液を調製することができる。この際、ニッケル塩としては、ニッケル硫酸塩、ニッケル硝酸塩、ニッケル炭酸塩のうち1種を使用することができ、コバルト塩としては、コバルト硫酸塩、コバルト硝酸塩、コバルト炭酸塩のうち1種以上を使用することができ、マンガン塩としては、マンガン硫酸塩、マンガン硝酸塩、マンガン炭酸塩のうち1種以上を使用することができる。例えば、ニッケル、コバルト及びマンガンの各硫酸塩を一定のモル比で秤量した後、これらを水に投入し、複合遷移金属前駆体溶液を調製することができる。
【0033】
次に、複合遷移金属前駆体溶液にNaOH、NHOH、KOHなどの塩基を投入して沈澱させることによって、水酸化物の形態の複合遷移金属前駆体を合成することができる。反応溶液のpHは、10〜12であることが好ましい。pHが10未満の場合には、粒子の核生成速度よりも粒子凝集速度のほうが大きいため、粒子が3μmよりも大きなサイズに形成される。pHが12を超える場合には、粒子の核生成速度が粒子の凝集速度よりも大きいため、粒子が凝集せず、Ni、Co、Mnの各成分が均質に混合した複合遷移金属水酸化物を得るのが困難である。
【0034】
次に、沈澱した水酸化物形態の複合遷移金属酸化物の前駆体(複合遷移金属水酸化物)の粉末の表面に吸着されているSO2−、NH、NO、Na、Kなどを、蒸留水を用いて数回洗浄し、高純度の複合遷移金属水酸化物を得ることができる。得られた複合遷移金属水酸化物を、水分含有量が0.1wt%以下になるように、150℃のオーブンで24時間以上乾燥させる。このようにして得た複合遷移金属水酸化物は、実験式:Nia′Cob′Mnc′(OH)(式中、0.15≦a′<0.354、0.036≦b′<0.24、0.48≦c′<0.72、a′+b′+c′=1)で表すことができる。
【0035】
次に、上記複合遷移金属水酸化物、リチウム供給源、及びフッ素供給源を均質に混合した後、熱処理すれば、リチウム複合遷移金属酸化物を製造することができる。熱処理は、600〜800℃の温度で行うことが好ましい。該温度が600℃未満では、リチウム供給源(例えば、LiCO)と複合遷移金属水酸化物との間に固溶が生じないため、二次相が生成することがある。該温度が800℃を超えると、過度の粒成長(grain growth)に起因して、正極活物質の平均粒径が5μmを超えることがある。また、正極活物質の比表面積が2m/g未満になって、電池特性が低下することがある。
【0036】
リチウム供給源としては、LiCO、LiOH、LiNO、LiCHCOOまたはこれらを組み合わせて使用することができる。フッ素供給源としては、LiF、NHF、NaF、KF、CsF、RbF、TiF、AgF、AgF、BaF、CaF、CuF、CdF、FeF、HgF、Hg、MnF、MgF、NiF、PbF、SnF、SrF、XeF、ZnF、AlF、BF、BiF、CeF、CrF、DyF、EuF、GaF、GdF、FeF、HoF、InF、LaF、LuF、MnF、NdF、VOF、PrF、SbF、ScF、SmF、TbF、TiF、TmF、YF、YbF、TIF、CeF、GeF、HfF、SiF、SnF、TiF、VF、ZrF、NbF、SbF、TaF、BiF、MoF、ReF、SF、WFまたはこれらを組み合わせて使用することができる。
【0037】
本発明のさらに他の態様は、上記正極活物質を含むリチウム二次電池に関する。
【0038】
上記実施形態例の正極活物質は、リチウム二次電池の正極素材(陽極素材)として用いることができ、正極活物質の組成及び結晶構造などを除いて公知の二次電池と同一の構造を有し、公知の製造方法によって製造することができる。好ましくは、正極(陽極)と負極(陰極)の間に多孔性分離膜を入れて、電解質を加えることによって、リチウム二次電池を製造することができる。負極としてはリチウム金属、分離膜としては多孔性ポリエチレンフィルム、電解質としては1.3M LiPF(EC/DMC/EC=5:3:2)溶液を使用することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明について実施例及び比較例を通じて詳しく説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
実施例1
Ni:Co:Mn=2.5:1.0:6.5(モル比)になるように、硫酸ニッケル(NiSO・6HO)834g、硫酸コバルト(CoSO・7HO)354g、硫酸マンガン(MnSO・HO)1493gを蒸留水4487gに添加し、2Mの金属塩水溶液を調製した。次いで、この金属塩水溶液を10L連続反応器に100ml/分で投入した。次いで、2M濃度のアンモニア水(NHOH)を上記反応器に10ml/分で投入した。次いで、pH11が維持されるように、2M濃度の水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液を自動的に投入した。反応器の温度を50℃に維持して、500rpmで撹拌を連続的に行い、反応器内の反応溶液の滞留時間を10時間に調節した。このようにして得た反応溶液をフィルタで濾過し、蒸留水で洗浄した後、120℃のオーブンで24時間乾燥し、ニッケルコバルトマンガンの複合遷移金属水酸化物を得た。
【0041】
上記複合遷移金属水酸化物と炭酸リチウム(LiCO)とフッ化リチウム(LiF)のモル当量比が1:1.403:0.058になるように、上記複合遷移金属水酸化物100gと、炭酸リチウム(LiCO)57gと、フッ化リチウム(LiF)1.7gを混合した後、得られた混合物を750℃で10時間焼成し、フッ素がドープされたリチウム複合遷移金属酸化物(Li1.17Ni0.21Co0.08Mn0.541.950.05)粉末を得た。
【0042】
上記リチウム複合遷移金属酸化物(正極活物質)と、「Denka Black」(導電剤)と、ポリビニリデンフルオライド(バインダー)を、92:4:4の重量比で有機溶媒に投入して、混合し、スラリーを得た。このスラリーをアルミニウムホイルの上に均一にコーティングし、正極を作製した。負極としてはリチウム金属、分離膜としては多孔性ポリエチレンフィルム、電解質としては1.3MのLiPF(EC/DMC/EC=5:3:2)溶液を使用して、正極と負極の間に多孔性分離膜を挿入し、電解質を投入することによって、コイン電池(coin cell)を製作した。
【0043】
実施例2
複合遷移金属水酸化物の合成時に、ニッケルとコバルトとマンガンのモル比が2.75:0.5:6.75になるように、NiSO・6HO 934g、CoSO・7HO 181g、MnSO・HO 1573gを蒸留水4530gに投入し、水溶液を調製した点を除いて、実施例1と同様にして電池を製作した(Li1.17Ni0.23Co0.04Mn0.561.950.05)。
【0044】
実施例3
複合遷移金属水酸化物の合成時に、ニッケルとコバルトとマンガンのモル比が2:2:6になるように、NiSO・6HO 333g、CoSO・7HO 356g、MnSO・HO 689gを蒸留水2066gに投入し、水溶液を調製した点を除いて、実施例1と同様にして、電池を製作した(Li1.17Ni0.17Co0.17Mn0.501.950.05)。
【0045】
比較例1
複合遷移金属水酸化物の合成時に、ニッケルとコバルトとマンガンのモル比が4.0:3.8:2.2になるように、NiSO・6HO 301g、CoSO・7HO 247g、MnSO・HO 254gを蒸留水1782gに投入し、水溶液を調製した点を除いて、実施例1と同様にして、電池を製作した(Li1.17Ni0.28Co0.21Mn0.341.950.05)。
【0046】
比較例2
複合遷移金属水酸化物の合成時にニッケル、コバルト、マンガンのモル比率が4.5:0.2:5.3になるように、NiSO・6HO 883g、CoSO・7HO 32g、MnSO・HO 715gを蒸留水4235gに投入し、水溶液を製造した点を除いて、実施例1と同様に電池を製作した(Li1.17Ni0.38Co0.01Mn0.441.950.05)。
【0047】
比較例3
複合遷移金属水酸化物の合成時に、ニッケルとコバルトとマンガンのモル比が2.9:0.5:6.6になるように、NiSO・6HO 963g、CoSO・7HO 187g、MnSO・HO 1520gを蒸留水4530gに投入し、水溶液を製造した点、及び、正極活物質の合成の過程で1000℃での熱処理を行った点を除いて、実施例1と同様にして、電池を製作した(Li1.17Ni0.24Co0.04Mn0.551.950.05)。
【0048】
評価
[正極活物質の物理的特性]
実施例及び比較例によって製造されたフッ素でドープされたリチウム複合遷移金属酸化物について、平均粒径(D50)及び比表面積を測定した。その結果を表1に示す。
【0049】
平均粒径(D50)は、Malvern社の「Mastersizer 2000」を用いて測定した。比表面積は、BET測定器(Macsorb HM Model 1208)を用いて測定した。
【0050】
[電池性能評価]
実施例及び比較例によって製作したコインセルを25℃の恒温で24時間放置した後、充放電試験装置(Toyo System社)を用いて、電池容量及び電圧降下を測定した。その結果を表1に示す。
【0051】
高レート特性は、2.5〜4.7Vの電圧範囲で充放電して測定した。ここで、0.33Cでの放電容量に対して3Cでの放電容量の比、すなわち、(3Cでの放電容量)/(0.33Cでの放電容量)x100を、電池の高レート特性とした。電圧降下は、2番目のサイクルでの平均電圧と50番目のサイクルでの平均電圧を測定した後、その差を計算した。すなわち、電圧降下=(2番目のサイクルでの平均電圧)−(50番目のサイクルでの平均電圧)である。サイクル試験は、2.5〜4.6Vの電圧範囲で1Cで充放電する方法で行った。
【0052】
【表1】
【0053】
表1の実施例1〜3及び比較例1〜2の中で、比較例1は、コバルトのモル組成比率が本発明の範囲(0.03〜0.2)より大きい場合である。実施例1〜3は、比較例1に比べて電圧降下が顕著に小さい。また、比較例2は、コバルトのモル組成比率が本発明の範囲(0.03〜0.2)より小さい場合である。実施例1〜3は、比較例2に比べて高レート特性に顕著に優れている。これらの結果から、リチウム複合遷移金属酸化物中のコバルトのモル組成比率を0.03〜0.2の範囲に制御することによって、リチウム二次電池の電圧降下が顕著に低減され、また、優れた高レート特性が確保されることがわかる。
【0054】
また、実施例1〜3と比較例3を比較すると、比較例3は、コバルトのモル組成比率が0.04であって、本発明の範囲内に属するものの、高い温度での熱処理によって、平均粒径が大きくなり、比表面積が小さい。実施例1〜3は、比較例3に比べて電圧降下が顕著に小さい。これらの結果から、正極活物質の平均粒径を2〜5μmの範囲内に制御すると共に、正極活物質の比表面積を3〜10m/gの範囲内に制御することによって、リチウム二次電池の電圧降下が顕著に低減されることがわかる。
【0055】
本発明を説明するために用いた用語は、特定の実施例を説明するためのものであって、本発明を限定しようとするものではない。単数の表現は、文脈上明らかではない限り、複数の意味を含むと見なすべきである。「含む」、「有する」などの用語は、明細書に記載された特徴、数字、段階、動作、構成要素またはこれらを組み合わせたものが存在することを意味するものであって、これらの存在を排除するためのものではない。本発明は、前述した実施形態及び添付の図面によって限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲によって限定されるものである。したがって、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で、当該技術分野における通常の知識を有する者によって、多様な形態の置換、変形及び変更が可能であり、これらも、本発明の範囲に属すると言えるものである。