(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6584162
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】積層封止膜形成方法および形成装置
(51)【国際特許分類】
H05B 33/10 20060101AFI20190919BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20190919BHJP
H05B 33/04 20060101ALI20190919BHJP
C23C 14/12 20060101ALI20190919BHJP
C23C 14/00 20060101ALI20190919BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20190919BHJP
C23C 16/455 20060101ALI20190919BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20190919BHJP
C23C 14/22 20060101ALI20190919BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20190919BHJP
C08G 85/00 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
H05B33/10
H05B33/14 A
H05B33/04
C23C14/12
C23C14/00 B
C23C16/40
C23C16/455
C23C14/06 Q
C23C14/22 Z
B32B9/00 A
C08G85/00
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-124480(P2015-124480)
(22)【出願日】2015年6月22日
(65)【公開番号】特開2017-10749(P2017-10749A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年5月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】里吉 務
(72)【発明者】
【氏名】仙波 昌平
【審査官】
岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−124228(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第104638117(CN,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2011−0000818(KR,A)
【文献】
米国特許出願公開第2014/0299845(US,A1)
【文献】
特表2010−532917(JP,A)
【文献】
特開平04−045259(JP,A)
【文献】
特開2007−134099(JP,A)
【文献】
特開2004−281247(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/093016(WO,A1)
【文献】
特開2004−183096(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2010−0064870(KR,A)
【文献】
特表2015−513609(JP,A)
【文献】
特開2013−101969(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 33/10
B32B 9/00
C08G 85/00
C23C 14/00
C23C 14/06
C23C 14/12
C23C 14/22
C23C 16/40
C23C 16/455
H01L 51/50
H05B 33/04
H05B 33/12
H05B 33/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積層封止膜形成装置により、基板上に発光層である有機EL層が複数形成された有機EL素子上に無機膜と有機膜とが積層された構造の積層封止膜を形成する積層封止膜形成方法であって、
前記積層封止膜形成装置は、
有機EL素子が収容される処理容器と、
前記無機膜を原子層堆積法で形成するための無機膜原料ガスおよび前記有機膜を蒸着重合法で形成するための有機膜原料ガスを前記処理容器内に供給する原料ガス供給部と、
前記処理容器内を排気する排気ユニットと、
前記処理容器内で前記有機EL素子を載置する載置台と、
前記載置台の載置面の温度温調する第1温調ユニットと、
前記処理容器の前記載置台以外の部分の温度を温調する第2温調ユニットと、
を有し、
積層封止膜形成方法は、
原子層堆積法により無機膜を形成する工程と、
蒸着重合法により有機膜を形成する工程とを、
前記処理容器内で交互に複数回繰り返し、
前記無機膜を形成する工程および前記有機膜を形成する工程を実施している間、前記載置台の載置面の温度を、前記第1温調ユニットにより、蒸着重合により前記有機膜を成膜可能な第1の温度に温調し、前記処理容器の前記載置台以外の部分の温度を、前記第2温調ユニットにより、蒸着重合により前記有機膜の成膜が生じない第2の温度に温調することを特徴とする積層封止膜形成方法。
【請求項2】
前記無機膜として酸化アルミニウムを用いることを特徴とする請求項1に記載の積層封止膜形成方法。
【請求項3】
前記有機膜としてポリウレアまたはポリイミドを用いることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の積層封止膜形成方法。
【請求項4】
前記無機膜の膜厚は50nm以下であり、前記有機膜の膜厚は500nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の積層封止膜形成方法。
【請求項5】
前記積層封止膜の膜厚は、1μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の積層封止膜形成方法。
【請求項6】
基板上に発光層である有機EL層が複数形成された有機EL素子上に、無機膜と有機膜とが積層された構造の積層封止膜を形成する積層封止膜形成装置であって、
有機EL素子が収容される処理容器と、
前記無機膜を原子層堆積法で形成するための第1無機膜原料ガスおよび第2無機膜原料ガスを前記処理容器内に供給する第1無機膜原料ガス供給ユニットおよび第2無機膜原料ガス供給ユニットと、
前記有機膜を蒸着重合法で形成するための第1有機膜原料ガスおよび第2有機膜原料ガスを前記処理容器内に供給する第1有機膜原料ガス供給ユニットおよび第2有機膜原料ガス供給ユニットと、
前記処理容器内を排気する排気ユニットと、
前記処理容器内で前記有機EL素子を載置する載置台と、
前記載置台の載置面の温度に温調する第1温調ユニットと、
前記処理容器の前記載置台以外の部分の温度を温調する第2温調ユニットと、
制御部と、
を有し、
前記制御部は、
前記第1無機膜原料ガスおよび前記第2無機膜原料ガスを交互に前記処理容器内に供給して原子層堆積法により前記無機膜を形成する工程と、前記第1有機膜原料ガスおよび前記第2有機膜原料ガスを同時に前記処理容器内に供給して蒸着重合法により前記有機膜を形成する工程と、を交互に複数回繰り返すように制御するとともに、前記無機膜を形成する工程および前記有機膜を形成する工程を実施している間、前記第1温調ユニットが、前記載置台の載置面の温度を、蒸着重合により前記有機膜を成膜可能な第1の温度に温調するように、かつ、前記第2温調ユニットが、前記処理容器の前記載置台以外の部分の温度を、蒸着重合により前記有機膜の成膜が生じない第2の温度に温調するように制御することを特徴とする積層封止膜形成装置。
【請求項7】
前記無機膜として酸化アルミニウムを用いることを特徴とする請求項6に記載の積層封止膜形成装置。
【請求項8】
前記有機膜としてポリウレアまたはポリイミドを用いることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の積層封止膜形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL素子に用いられる積層封止膜を形成する積層封止膜形成方法および形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子を用いた有機EL表示装置は、低消費電力であり、自然発光型であり、有機発光材料に由来する多彩な色調の発光が得られるため、次世代の表示装置として注目されている。
【0003】
有機EL素子は、基板上にマトリックス状に設けられた複数の素子形成領域に、発光層である有機EL層と電極層等が積層された状態で形成される。
【0004】
このような有機EL素子を用いた有機EL表示装置としては、有機EL層として白色発光するものを用い、レッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)に対応するフィルター部を有するカラーフィルターを組み合わせたものが知られている。
【0005】
有機EL層を形成する有機化合物は、一般に、水分や酸素などにより劣化しやすいため、有機EL層界面への水分や酸素などの混入を防止することを目的として、有機EL素子に対応する領域に、有機EL層に影響を与えない程度の温度で封止膜を形成することが行われている。
【0006】
有機EL素子の封止膜としては、無機膜と有機膜とを積層した積層封止膜が提案されている(例えば特許文献1、2)。また、無機系の封止膜としてはAl
2O
3等が知られており(例えば特許文献3,4)、有機系の封止膜としてはポリイミドやポリウレアが知られている(例えば特許文献4)。
【0007】
特許文献1には、積層封止膜の例として、厚さが60nmの第1の無機膜(酸化アルミニウム膜)と、厚さ1.3μmの第1の有機膜とを形成した後、厚さが40nmの第2の無機膜、第1の有機膜と同様の条件の第2の有機膜、を形成し、さらに第2の無機膜および第1の有機膜と同様の条件で、第3の無機膜、第3の有機膜、第4の無機膜を形成したものが示されている。このように、従来は、一層あたりの膜厚を比較的厚いものとし、無機膜と有機膜との繰り返し回数を3〜4回程度として封止性を確保している。
【0008】
一方、非特許文献1には、無機膜と有機膜との積層封止膜において、積層数が多いほど、封止性能が高いことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第5162179号公報
【特許文献2】特許第4987648号公報
【特許文献3】特開2013−235726号公報
【特許文献4】特開2015−15499号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】AppliedPhysics Letters 102, 161908(2013)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、このように積層封止膜の個々の膜の膜厚を大きくして封止性能を確保しようとすると、繰り返し回数が少なくても積層封止膜全体の厚さが厚いものとなってしまう。積層封止膜が厚くなると光透過率が低下する。また、積層封止膜が厚くなることにより発光層である有機EL層とカラーフィルターとの間のギャップが広いものとなり、有機EL層から、カラーフィルターのレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)に対応するフィルター部への光の取り出し角度が小さいものとなるとともに、隣接するフィルター部への光漏れを防止する観点から、フィルター部どうしを区画するブラックマトリックス(BM)の面積を大きくして遮光性を高める必要があり、相対的にフィルター部の面積が小さいものとなる。このため、光の取り出し効率が低下する。
【0012】
近時、有機EL表示装置に要求される画像や映像の画質は益々高いものとなり、積層封止膜が厚くなることによる光透過率の低下や光取り出し効率の低下が画質に与える影響が無視し得ないものとなりつつある。
【0013】
一方、非特許文献1に記載されているように積層数を増やすことにより封止性能を高めることができるため、無機膜および有機膜の膜厚を薄くして積層数を増やすことにより積層封止膜全体を薄くしつつ封止性能を確保することが考えられる。しかし、特許文献1にも記載されているように、積層封止膜を製造する際には、無機膜と有機膜とを別個の装置で成膜することが技術常識であり、積層を繰り返すたびに装置間で基板を搬送する時間が必要であり、積層数を増やすほど生産性が低下する。また、搬送時、パーティクル等の異物が素子上に付着する確率が高くなり、異物により封止性能を低下させる欠陥が発生する確率も高くなる。
【0014】
したがって、本発明は、膜厚が薄くかつ高封止性能を有する積層封止膜を、生産性の低下や異物付着を抑制しつつ形成することができる積層封止膜形成方法および形成装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、本発明の第1の観点は、
積層封止膜形成装置により、基板上に発光層である有機EL層が複数形成された有機EL素子上に無機膜と有機膜とが積層された構造の積層封止膜を形成する積層封止膜形成方法であって、
前記積層封止膜形成装置は、有機EL素子が収容される処理容器と、前記無機膜を原子層堆積法で形成するための無機膜原料ガスおよび前記有機膜を蒸着重合法で形成するための有機膜原料ガスを前記処理容器内に供給する原料ガス供給部と、前記処理容器内を排気する排気ユニットと、前記処理容器内で前記有機EL素子を載置する載置台と、前記載置台の載置面の温度温調する第1温調ユニットと、前記処理容器の前記載置台以外の部分の温度を温調する第2温調ユニットと、を有し、積層封止膜形成方法は、原子層堆積法により無機膜を形成する工程と、蒸着重合法により有機膜を形成する工程とを、
前記処理容器内で交互に複数回繰り返
し、前記無機膜を形成する工程および前記有機膜を形成する工程を実施している間、前記載置台の載置面の温度を、前記第1温調ユニットにより、蒸着重合により前記有機膜を成膜可能な第1の温度に温調し、前記処理容器の前記載置台以外の部分の温度を、前記第2温調ユニットにより、蒸着重合により前記有機膜の成膜が生じない第2の温度に温調することを特徴とする積層封止膜形成方法を提供する。
【0016】
本発明の第2の観点は、基板上に発光層である有機EL層が複数形成された有機EL素子上に、無機膜と有機膜とが積層された構造の積層封止膜を形成する積層封止膜形成装置であって、有機EL素子が収容される処理容器と、前記無機膜を原子層堆積法で形成するための第1無機膜原料ガスおよび第2無機膜原料ガスを前記処理容器内に供給する第1無機膜原料ガス供給ユニットおよび第2無機膜原料ガス供給ユニットと、前記有機膜を蒸着重合法で形成するための第1有機膜原料ガスおよび第2有機膜原料ガスを前記処理容器内に供給する第1有機膜原料ガス供給ユニットおよび第2有機膜原料ガス供給ユニットと、前記処理容器内を排気する排気ユニットと、
前記処理容器内で前記有機EL素子を載置する載置台と、前記載置台の載置面の温度に温調する第1温調ユニットと、前記処理容器の前記載置台以外の部分の温度を温調する第2温調ユニットと、制御部と、を有し、前記制御部は、前記第1無機膜原料ガスおよび前記第2無機膜原料ガスを交互に前記処理容器内に供給して原子層堆積法により前記無機膜を形成する
工程と、前記第1有機膜原料ガスおよび前記第2有機膜原料ガスを同時に前記処理容器内に供給して蒸着重合法により前記有機膜を形成する
工程と、を交互に複数回繰り返すように制御する
とともに、前記無機膜を形成する工程および前記有機膜を形成する工程を実施している間、前記第1温調ユニットが、前記載置台の載置面の温度を、蒸着重合により前記有機膜を成膜可能な第1の温度に温調するように、かつ、前記第2温調ユニットが、前記処理容器の前記載置台以外の部分の温度を、蒸着重合により前記有機膜の成膜が生じない第2の温度に温調するように制御することを特徴とする積層封止膜形成装置を提供する。
【0017】
前記無機膜として酸化アルミニウムを好適に用いることができる。また、前記有機膜としてポリウレアまたはポリイミドを好適に用いることができる。
【0018】
前記無機膜の膜厚は50nm以下であり、前記有機膜の膜厚は500nm以下であることが好ましい。また、前記積層封止膜の膜厚は、1μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、積層封止膜を形成するに際し、無機膜を原子層堆積法により成膜し、有機膜を蒸着重合法で成膜するので、これらを薄く形成することができ、これらの積層数を多くすることにより水分や酸素などの封止性を高くしても積層封止膜全体の膜厚を薄くすることができ、また、ALD法による無機膜は薄くて封止機能の高い膜であるので、これらを封止性能が確保できる積層数で積層しても積層封止膜全体の膜厚を薄くすることができる。また、無機膜と有機膜とを同一の処理容器内で成膜するので、生産性の低下や異物付着を抑制することができる。
さらに、無機膜を形成する工程および有機膜を形成する工程を実施している間、第1温調ユニットが、載置台の載置面の温度を、蒸着重合により前記有機膜を成膜可能な第1の温度に温調し、第2温調ユニットが前記処理容器の前記載置台以外の部分の温度を、蒸着重合により前記有機膜の成膜が生じない第2の温度に温調するので、有機膜を有機EL素子のみに成膜でき、その結果メンテナンス周期を長くすることができ、かつ載置台以外の部分に有機膜が成膜することによる悪影響を防止できる。さらにまた、ALD法による無機膜は薄いため載置台以外の部分に形成されてもメンテナンス性に大きな影響を与えないので、有機膜を形成する工程と、無機膜を形成する工程を同じ温度で実施して処理効率が高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】積層封止膜を形成する積層封止膜形成装置を示す断面図である。
【
図2】基板上に有機EL層が複数形成された有機EL素子を示す断面図である。
【
図3】有機EL素子上に本発明の実施形態に係る製造方法で積層封止膜を形成した状態を示す断面図である。
【
図4】有機EL素子上に従来の製造方法で積層封止膜を形成した状態を示す断面図である。
【
図5】従来の製造方法で形成された厚い積層封止膜を用いた場合の有機EL層とカラーフィルターとの配置を説明するための断面図である。
【
図6】本発明の実施形態の製造方法で形成された薄い積層封止膜を用いた場合の有機EL層とカラーフィルターとの配置を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、積層封止膜を形成する積層封止膜形成装置を示す断面図である。
【0023】
積層封止膜形成装置100は、発光層である有機EL層を含む有機EL素子に無機膜と有機膜との積層封止膜を形成するものであり、無機膜を原子層堆積法(ALD法)により成膜し、有機膜を蒸着重合法により成膜するものである。
【0024】
この積層封止膜形成装置100は、有機EL素子Sに成膜処理を行う処理部1と、処理部1の処理空間に処理に必要なガスを供給するガス供給部2と、処理部1の処理空間を排気する排気ユニット3と、制御部4とを備えている。
【0025】
処理部1は、成膜処理のための処理空間を画成する処理容器11と、処理容器11内に設けられた基板上に有機EL層および電極等が形成された有機EL素子Sを載置するための載置台12と、載置台12を第1の温度に温調する第1温調ユニット13と、処理容器11の載置台12以外の部分を第2の温度に温調する第2温調ユニット14とを有している。また、図示していないが、処理容器11の側壁には、有機EL素子Sを搬入および搬出するための搬入出口が設けられており、この搬入出口はゲートバルブで開閉可能となっている。
【0026】
第1温調ユニット13は、載置台12の内部に設けられた温調媒体流路(図示せず)に温調媒体を通流させることにより、載置台12の載置面の温度を第1の温度に温調する。第1の温度は、蒸着重合により有機膜を成膜可能な温度である。また、第2温調ユニット14は、処理容器11の壁部等の、被処理体である有機EL素子Sが載置されている載置台12以外の部分に設けられた温調媒体流路(図示せず)に温調媒体を通流させることにより、載置台12以外の部分の温度を第2の温度に温調する。第2の温度は、蒸着重合による有機膜の成膜が生じない温度である。
【0027】
ガス供給部2は、ALD法により無機膜を成膜する際に用いる第1無機膜原料ガスおよび第2無機膜原料ガスをそれぞれ供給する第1無機膜原料ガス供給ユニット21および第2無機膜原料ガス供給ユニット22、ならびに蒸着重合法により有機膜を成膜する際に用いる第1有機膜原料ガスおよび第2有機膜原料ガスをそれぞれ供給する第1有機膜原料ガス供給ユニット23および第2有機膜原料ガス供給ユニット24を有する。また、第1無機膜原料ガス供給ユニット21、第2無機膜原料ガス供給ユニット22、第1有機膜原料ガス供給ユニット23、および第2有機膜原料ガス供給ユニット24には、それぞれ処理容器11に第1無機膜原料ガス、第2無機膜原料ガス、第1有機膜原料ガス、および第2有機膜原料ガスを供給する、第1ガス供給配管25、第2ガス供給配管26、第3ガス供給配管27、および第4ガス供給配管28が接続されている。また、第1ガス供給配管25、第2ガス供給配管26、第3ガス供給配管27、および第4ガス供給配管28には、それぞれ第1開閉バルブ29、第2開閉バルブ30、第3開閉バルブ31、および第4開閉バルブ32が設けられている。
【0028】
なお、図示しないが、その他に不活性ガス等からなるパージガスや希釈ガスを供給するガス供給ユニットおよびガス供給配管が設けられている。また、やはり図示していないが、第1ガス供給配管25、第2ガス供給配管26、第3ガス供給配管27、および第4ガス供給配管28には、流量制御器が設けられている。
【0029】
ALD法により形成される無機膜としては、水分や酸素を封止する機能を有し、絶縁性を有する材料が用いられ、酸化アルミニウム(Al
2O
3)を好適に用いることができる。Al
2O
3膜は封止性が高く、ALD成膜することで欠陥が非常に少なく、カバレッジが良好な膜となる。無機膜としてAl
2O
3膜を成膜する際には、第1無機膜原料ガスとして、トリメチルアルミニウム(TMA)を好適に用いることができ、第2無機膜原料ガスとして、H
2OガスやO
3を好適に用いることができる。そして、開閉バルブ29および30を操作することにより、第1無機膜原料ガスおよび第2無機膜原料ガスを処理容器内のパージを挟んで交互に供給する。
【0030】
蒸着重合法により形成される有機膜は、無機膜に生じた欠陥やクラックを分離し、さらに基板の曲げによって無機膜に生じるクラックの発生を抑制する機能を有する。有機膜としては、透明な樹脂材料が用いられ、ポリウレアやポリイミドを好適に用いることができる。これらの中ではポリウレアが特に好ましい。ポリウレア膜は、透明度が高く、カバレッジが非常に良好で薄膜化に有利である。有機膜としてポリウレア膜を成膜する際には、第1有機膜原料ガスおよび第2有機膜原料ガスとして、ジアミンモノマーおよびイソシアネートモノマーを用いることができ、これらがN
2ガス、Heガス、Arガス等の不活性ガスからなるキャリアガスとともに処理容器11内に供給される。また、ポリイミド膜を成膜する際に用いる第1有機膜原料ガスおよび第2有機膜原料ガスとしては、ピロメリット酸二無水物および4,4'−オキシジアニリンを挙げることができる。有機膜を成膜する際には、開閉バルブ31および32を同時に開くことにより第1有機膜原料ガスおよび第2有機膜原料ガスが同時に処理容器11内に供給される。
【0031】
排気ユニット3は、処理容器11の側壁のガス導入部分に対向する位置に接続された排気配管41と、排気配管41に設けられた圧力制御バルブ42と、排気配管41を介して処理容器11内を排気する真空ポンプ43と、排気配管41における真空ポンプ43の下流側に設けられた排ガス処理設備44とを有する。なお、排気配管41にも第2温調ユニット14から温調媒体が通流され、蒸着重合による有機膜の成膜が生じない第2の温度に温調されるようになっている。
【0032】
制御部4は、開閉バルブ29,30,31,32、真空ポンプ43、第1および第2温調ユニット13,14等、積層封止膜形成装置100の各構成部を制御するためのものであり、マイクロプロセッサ(コンピュータ)を有している。制御部4は、積層封止膜形成装置100で無機膜と有機膜とを交互に成膜して積層封止膜を形成する処理を実行するためのプログラムである処理レシピをその中の記憶媒体に格納しており、所定の処理レシピを呼び出して、積層封止膜形成装置100に積層封止膜を形成する処理を実行させる。
【0033】
次に、積層封止膜の形成方法について説明する。
最初に
図2に示すように、基板101上に下部電極102、有機EL層103および上部電極104を形成した有機EL素子Sを準備する。なお、電子輸送層等の他の層が形成されていてもよい。
【0034】
基板101の材料は特に限定されないが、例えばガラス板、セラミックス板、プラスチックフィルム、金属板等を挙げることができる。基板101には額縁状をなすバンク105がマトリックス状に形成されており、バンク105内に下部電極102および有機EL層103が形成される。したがって、複数の有機EL層103が基板101上に島状に形成される。また、基板101には駆動回路(図示せず)が形成されている。
【0035】
有機EL層は、電極から電子および正孔が注入されることが可能であり、注入された電荷が移動して正孔と電子が再結合して発光することが可能な有機発光物質からなる。有機発光物質としては、一般的に発光層に用いられる低分子または高分子の有機物質であればよく、特に限定されない。
【0036】
このようにして得られた有機EL素子Sに封止膜を形成するにあたっては、この有機EL素子Sを
図1の形成装置100の処理容器11内に搬入し、載置台12上に載置する。このとき、第1温調ユニット13により、載置台12上面の温度を蒸着重合により有機膜を成膜可能な第1の温度、例えば100℃に温調し、第2温調ユニット14により処理容器11の壁部等の載置台12以外の部分の温度を蒸着重合による有機膜の成膜が生じない第2の温度、例えば150℃に温調している。そして、真空ポンプ43により排気しつつ圧力制御バルブ42により処理容器11内を所定の圧力に減圧し、最初にALD法による無機膜の成膜を行い、次いで蒸着重合による有機膜の成膜を行い、これらを複数回交互に繰り返して、
図3に示すように、無機膜201と有機膜202とが複数回積層された積層封止膜203を製造する。積層数としては無機膜201が5層以上であることが好ましい。
図3では、無機膜201が5層、有機膜202が4層の場合を示している。
【0037】
ALD法により無機膜201を成膜する際には、第1開閉バルブ29および第2開閉バルブ30の開閉動作の切り替えにより、第1無機膜原料ガス供給ユニット21から処理容器11への第1無機膜原料ガスの供給と、第2無機膜原料ガス供給ユニット22から処理容器11への第2無機膜原料ガスの供給とを、図示しないパージガス配管からのパージガスによる処理容器11のパージを挟んで交互に実施する。第1無機膜原料ガスは化合物ガス、第2無機膜原料ガスは還元ガスであり、最初に第1無機膜原料ガスを有機EL素子Sの表面に吸着させた後、第2無機膜原料ガスの供給により還元して極薄い単位膜を形成し、これを繰り返すことにより所定の膜厚を有する無機膜201が形成される。
【0038】
無機膜201は、水分や酸素を封止する機能を有し、絶縁性を有する膜であり、ALD法で成膜することにより、欠陥が少なくカバレッジが良好な膜となり、薄くて封止機能の高い膜となる。このような無機膜201としては酸化アルミニウム(Al
2O
3)を好適に用いることができる。Al
2O
3膜は封止性が高く、ALD成膜することで欠陥が非常に少なく、カバレッジが良好な膜となる。
【0039】
無機膜としてAl
2O
3膜を成膜する際には、第1無機膜原料ガスとして、トリメチルアルミニウム(TMA)を好適に用いることができ、第2無機膜原料ガスとして、H
2OガスやO
3を好適に用いることができる。
【0040】
蒸着重合法で有機膜202の成膜の際には、第3開閉バルブ31および第4開閉バルブ32を開いて、第1有機膜原料ガス供給ユニット23および第2有機膜原料ガス供給ユニット24から処理容器11へ第1有機膜原料ガスおよび第2有機膜原料ガスを同時に供給する。第1有機膜原料ガスおよび第2有機膜原料ガスはモノマーであり、これらが有機EL素子Sに蒸着され、重合して有機膜202となる。
【0041】
有機膜202は、無機膜に生じた欠陥やクラックを他の層から分離し、さらに基板の曲げによって無機膜に生じるクラックの発生を抑制する機能を有し、蒸着重合法を用いることによりカバレッジが良好で薄膜化が容易となる。有機膜202としては、透明な樹脂材料が用いられ、ポリウレアやポリイミドを好適に用いることができる。これらの中ではポリウレアが特に好ましい。ポリウレア膜は、透明度が高く、カバレッジが非常に良好で薄膜化に有利であり、積層封止膜203の有機膜202として適している。
【0042】
有機膜としてポリウレア膜を成膜する際には、第1有機膜原料ガスおよび第2有機膜原料ガスとして、ジアミンモノマーおよびイソシアネートモノマーを用いることができる。これらをN
2ガス、Heガス、Arガス等の不活性ガスからなるキャリアガスとともに処理容器11内に供給することにより、これらモノマーが重合してポリウレア膜となる。また、ポリイミド膜を成膜する際には、第1有機膜原料ガスおよび第2有機膜原料ガスとして、ピロメリット酸二無水物および4,4'−オキシジアニリンを用いることができる。これらを同様にキャリアガスとともに処理容器11内に供給することにより重合してポリイミド膜となる。
【0043】
無機膜201の膜厚は50nm以下が好ましく、30nm以下がより好ましい。封止性能を確保する観点からは、10nm以上が好ましい。また、有機膜202の膜厚は500nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましい。良好な成膜性を得る観点からは、50nm以上が好ましい。積層封止膜203の全体の膜厚は、1μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。
【0044】
蒸着重合法で有機膜202を成膜する際には、第1温調ユニット13により、載置台12の載置面の温度を蒸着重合により有機膜を成膜可能な第1の温度に温調し、第2温調ユニット14により、載置台12以外の部分の温度を蒸着重合による有機膜の成膜が生じない第2の温度に温調する。蒸着重合反応は所定の温度以下で生じ、その温度よりも高くなると蒸着重合反応は生じなくなるので、このように温調することにより、有機膜202は被処理体である有機EL素子Sのみに成膜され、載置台12以外の部分にはほとんど成膜されないようにすることができる。有機膜は無機膜よりも厚く形成され、これが処理容器11の壁部等の載置台12以外の部分に付着すると、メンテナンス周期が短くなってしまうが、このように載置台12以外の部分の温度を蒸着重合による有機膜の成膜が生じない第2の温度に温調することにより、そのような不都合を生じ難くすることができる。また、このように載置台12以外の部分に有機膜が生じ難いので、ALD法による無機膜201の成膜の際に載置台12以外の部分の有機膜が悪影響を与えるおそれも少ない。
【0045】
有機膜202としてポリウレア膜を適用する場合には、第1の温度が100℃以下、好ましくは50〜100℃であり、第2の温度が100℃より高い温度、好ましくは150〜180℃である。
【0046】
ALD法によって無機膜201を成膜する際には、室温から数百℃の広い範囲で成膜可能であるが、処理効率を考慮すると有機膜202のときの温度設定を変えることなく成膜処理を行うことが好ましい。このとき、第2の温度に設定されている処理容器11の壁部等の載置台12以外の部分にも膜が形成されるが、無機膜201は有機膜202より薄いため、処理容器11の壁部等の載置台12以外の部分に形成される膜の膜厚は薄く、メンテナンス性に対して大きな影響は与えない。また、このように載置台12以外の部分に形成される膜が薄いため、有機膜202の成膜時に悪影響を与えるおそれも少ない。
【0047】
従来は、このような積層封止膜において、一層あたりの膜厚を厚くすることで封止性能を高めることを指向いていた。例えば
図4に示すように、CVD法やスパッタリング法により、膜厚が数十から数百nm程度の無機膜201′と数μm程度の有機膜202′を3層程度積層して全体の厚さが数μmの積層封止膜203′を形成していた。
【0048】
しかし、このように積層封止膜の膜厚が厚くなると光透過率が低下する。また、積層封止膜が厚くなると、
図5に示すように、発光層である有機EL層103とカラーフィルター301との間のギャップが広いものとなり、有機EL層から、カラーフィルター301のレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)に対応するフィルター部302への光の取り出し角度θが小さいものとなる。また、有機EL層103とカラーフィルター301との間のギャップが広いものとなることにより、隣接するフィルター部302への光漏れが生じやすくなるため、フィルター部302どうしを区画するブラックマトリックス(BM)303の面積を大きくして遮光性を高める必要があり、相対的にフィルター部の面積が小さいものとなる。このように光の取り出し角度θが小さいことおよびラックマトリックス(BM)303の面積が大きいことにより、光の取り出し効率が低下する。
【0049】
以上のように、積層封止膜が厚くなることにより、光透過率の低下や光取り出し効率の低下が生じ、要求される画質が得難くなりつつある。
【0050】
これに対し、本実施形態では、ALD法により無機膜201を形成し、蒸着重合法で有機膜202を形成することにより、これらの膜厚を薄くする。ALD法による無機膜201、特にAl
2O
3膜は、欠陥が少なくカバレッジが良好な膜となって薄くて封止機能の高い膜となり、蒸着重合法による有機膜202、特にポリウレア膜やポリイミド膜はカバレッジが良好で薄膜化が容易となる。したがって、これらを封止性能が確保できる積層数で積層しても、積層封止膜203の全体の膜厚を1μm以下程度と薄くすることができる。これにより、積層封止膜203の光透過率を高めることができる。また、
図6に示すように、有機EL層103とカラーフィルター301との間のギャップが従来よりも狭くなるため、フィルター部302への光の取り出し角度θを従来よりも広げることができる。しかも、光漏れし難くなるため、ブラックマトリックス(BM)303の面積を従来よりも小さくすることができる。このため、光の取り出し効率が従来よりも向上する。さらに、ALD法はCVD法やスパッタ法に比べて成膜速度が遅いが、全体の膜厚を薄くすることができるので、全体の成膜時間を従来と同等以下とすることができる。
【0051】
また、従来、積層封止膜を製造する際には、無機膜と有機膜とは異質の膜であるため、別個の装置で成膜することが技術常識であった。このため、積層を繰り返すたびに装置間で基板を搬送する時間が必要であり、積層数を増やすほど生産性が低下する。また、搬送時、パーティクル等の異物が素子上に付着する確率が高くなり、異物により封止性能を低下させる欠陥が発生する確率も高くなる。
【0052】
これに対し、本実施形態では、このような技術常識に反して、無機膜201と有機膜202とを一つの装置の処理容器内で成膜する。これにより、被処理体である有機EL素子Sを異なる装置間で搬送することなく、無機膜201と有機膜202とを繰り返し成膜して積層封止膜203を形成することができるので、積層数を増やしても生産性の低下が少なく、また、搬送時における異物の付着も防止することができる。
【0053】
すなわち、本実施形態では、積層封止膜を形成するに際し、無機膜をALD法により成膜し、有機膜を蒸着重合法で成膜するので、これらを薄く形成することができ、また、ALD法による無機膜は薄くて封止機能の高い膜であるので、これらを封止性能が確保できる積層数で積層しても積層封止膜全体の膜厚を薄くすることができる。また、無機膜と有機膜とを同一の処理容器内で成膜するので、生産性の低下や異物付着を抑制することができる。
【0054】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、ALD法による無機膜としてAl
2O
3膜を用い、蒸着重合法による有機膜としてポリウレアまたはポリイミドを用いた例を示したが、これに限るものではない。また、上記実施形態では、枚葉式の装置により積層封止膜を形成した例について示したが、複数の有機EL素子に一括して積層封止膜を形成するバッチ式の装置を用いてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1;処理部
2;ガス供給部
3;排気ユニット
4;制御部
11;処理容器
12;載置台
13;第1温調ユニット
14;第2温調ユニット
21;第1無機膜原料ガス供給ユニット
22;第2無機膜原料ガス供給ユニット
23;第1有機膜原料ガス供給ユニット
24;第2有機膜原料ガス供給ユニット
29,30,31,32;開閉バルブ
25,26,27,28;ガス供給配管
41;排気配管
42;圧力制御バルブ
43;真空ポンプ
44;排ガス処理設備
100;積層封止膜形成装置
101;基板
102;下部電極
103;有機EL層
104;上部電極
201;無機膜
202;有機膜
203;積層封止膜
301;カラーフィルター
302;フィルター部
303;ブラックマトリックス
S;有機EL素子