特許第6584326号(P6584326)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6584326
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】Cu配線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3205 20060101AFI20190919BHJP
   H01L 21/768 20060101ALI20190919BHJP
   H01L 23/532 20060101ALI20190919BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20190919BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20190919BHJP
   C23C 16/56 20060101ALI20190919BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20190919BHJP
   C23C 16/18 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   H01L21/88 R
   H01L21/28 301R
   H01L21/285 C
   H01L21/88 M
   C23C16/56
   C23C16/40
   C23C16/18
【請求項の数】12
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2016-490(P2016-490)
(22)【出願日】2016年1月5日
(65)【公開番号】特開2016-174141(P2016-174141A)
(43)【公開日】2016年9月29日
【審査請求日】2018年9月10日
(31)【優先権主張番号】特願2015-51626(P2015-51626)
(32)【優先日】2015年3月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】松本 賢治
(72)【発明者】
【氏名】石坂 忠大
(72)【発明者】
【氏名】常 鵬
(72)【発明者】
【氏名】横山 敦
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 隆
(72)【発明者】
【氏名】永井 洋之
【審査官】 宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/173067(WO,A1)
【文献】 特開2014−236192(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/013941(WO,A1)
【文献】 特開2014−036109(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3205
C23C 16/18
C23C 16/40
C23C 16/56
H01L 21/28
H01L 21/285
H01L 21/768
H01L 23/532
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に所定パターンの凹部が形成された層間絶縁膜を有する基板に対し、前記凹部を埋めるCu配線を製造するCu配線の製造方法であって、
少なくとも前記凹部の表面に、前記層間絶縁膜との反応で自己形成バリア膜となるMnOx膜をALDにより形成する工程と、
前記MnOx膜の表面に水素ラジカル処理を施して前記MnOx膜の表面を還元する工程と、
前記水素ラジカル処理が施されて表面が還元されたMnOx膜の表面にRu膜をCVDにより形成する工程と、
その後、Ru膜の上にCu系膜をPVDにより形成して前記凹部内に前記Cu系膜を埋め込む工程とを有し、
前記Ru膜を成膜する際に、核形成が促進され、かつ表面平滑性が高い状態でRu膜が成膜されるように、前記MnOx膜の成膜条件および前記水素ラジカル処理の条件を規定して、前記MnOx膜を成膜する工程および前記MnOx膜を還元する工程を連続で行い、
前記MnOx膜の成膜条件は、基板を配置した処理容器内に、マンガン化合物ガスおよび酸素含有ガスを、前記処理容器内のパージを挟んで交互に供給するALDサイクルにより成膜を行い、その際のサイクル数が19〜31回であり、前記MnOx膜の膜厚が1.3〜2.2nmであり、基板温度が、前記マンガン化合物の熱分解温度よりも低い温度である130〜180℃であり、
前記水素ラジカル処理の条件は、基板温度が300〜400℃、処理期間が100sec以上であることを特徴とするCu配線の製造方法。
【請求項2】
前記MnOx膜の一部が、成膜の際の熱およびその後の処理の熱によりマンガンシリケートとなり、残存するMnOx膜とマンガンシリケートの合計膜厚に対する前記マンガンシリケート膜の膜厚の比が30%以上であることを特徴とする請求項1に記載のCu配線の製造方法。
【請求項3】
前記マンガン化合物がシクロペンタジエニル系マンガン化合物、アミジネート系マンガン化合物、およびアミドアミノアルカン系マンガン化合物のうちのいずれかであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のCu配線の製造方法。
【請求項4】
前記水素ラジカル処理は、水素ガスを含むガスのプラズマより派生したラジカルを前記基板に供給することにより行われることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のCu配線の製造方法。
【請求項5】
前記ALDサイクル数および前記MnOx膜の膜厚は、Ruが成膜されるきっかけとなる核密度が高くなるように設定されることを特徴とする請求項1に記載のCu膜の製造方法。
【請求項6】
前記MnOx膜の前記核密度は、前記水素ラジカル処理の温度で変化しないことを特徴とする請求項5に記載のCu膜の製造方法。
【請求項7】
前記Ru膜の表面のラフネス値は、前記MnOx膜の水素ラジカル処理の温度が高いほど低下することを特徴とする請求項6に記載のCu膜の製造方法。
【請求項8】
前記Ru膜を形成する際に、成膜原料としてルテニウムカルボニルを用い、基板温度を170〜230℃にし、前記Ru膜の膜厚を1.5〜4.5nmの範囲とすることを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載のCu配線の製造方法。
【請求項9】
前記Ru膜を形成する際に、基板温度を190〜200℃にすることを特徴とする請求項に記載のCu配線の製造方法。
【請求項10】
前記Ru膜の膜厚は、2.5〜3.8nmであることを特徴とする請求項に記載のCu配線の製造方法。
【請求項11】
前記Cu系膜の形成は、イオン化PVDにより基板温度を230〜350℃にして形成されることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のCu配線の製造方法。
【請求項12】
コンピュータ上で動作し、Cu配線製造システムを制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、請求項1から請求項11のいずれかのCu配線の製造方法が行われるように、コンピュータに前記Cu配線製造システムを制御させることを特徴とする記憶媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に形成されたトレンチやビアホールのような凹部にCuを埋め込んでCu配線を製造するCu配線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造においては、半導体ウエハに成膜処理やエッチング処理等の各種の処理を繰り返し行って所望のデバイスを製造するが、近時、半導体デバイスの高速化、配線パターンの微細化、高集積化の要求に対応して、配線の低抵抗化(導電性向上)およびエレクトロマイグレーション耐性の向上が求められている。
【0003】
このような点に対応して、配線材料にアルミニウム(Al)やタングステン(W)よりも導電性が高く(抵抗が低く)かつエレクトロマイグレーション耐性に優れている銅(Cu)が用いられるようになってきている。
【0004】
Cu配線は、層間絶縁膜にトレンチやホールを形成し、その中にCuを埋め込むことにより形成されるが、Cuが層間絶縁膜に拡散することを防止するため、Cuを埋め込む前にバリア膜が形成される。
【0005】
このようなバリア膜としては、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、窒化タンタル(TaN)、窒化チタン(TiN)等を物理的蒸着法(PVD)で形成したものが用いられてきたが、配線パターンの益々の微細化にともない、これらでは十分なステップカバレッジが得難くなっており、近時、バリア膜として良好なステップカバレッジで薄い膜を形成することができる化学的蒸着法(CVD)や原子層堆積法(ALD)による酸化マンガン(MnOx)が検討されている。しかし、MnOx膜はCu膜との密着性が弱いため、MnOx膜上に、Cuとの密着性の高いルテニウム(Ru)膜を形成し、その上にCu膜を形成してCu配線を形成する方法が提案されている(例えば特許文献1、2)。
【0006】
一方、MnOx膜の上にRu膜を成膜する際に、Ruの核形成密度が低く、良好な表面状態のRu膜を得難いことから、MnOx膜を成膜後に水素ラジカル処理を施し、その後Ru膜を成膜する技術が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−300568号公報
【特許文献2】特開2010−21447号公報
【特許文献3】国際公開第2012/173067号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、半導体デバイスのさらなる微細化が進み、トレンチ等の凹部のアスペクト比が益々大きくなり、特許文献3の技術をもってしても、凹部のMnOx膜の上に連続膜として高ステップカバレッジでRu膜を成膜することが困難であったり、良好な表面状態のRu膜を成膜することが困難となる場合が生じ、Cuの埋め込み不良が生じるおそれがある。
【0009】
したがって、本発明が解決しようとする課題は、MnOx膜の上に良好な表面状態のRu膜を良好な成膜性で連続膜として成膜することができ、良好な埋め込み性でCuを埋め込むことができるCu配線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記特許文献3の技術では、MnOx膜上にRu膜を成膜する際のRuの核形成密度が低いことを解消してRu膜を良好に成膜するために、MnOx膜を成膜後に水素ラジカル処理を施して表面を還元し、その後Ru膜を成膜しているが、半導体デバイスが微細化した場合は、単に水素ラジカル処理を施すだけでは必ずしも良好な成膜性で、良好な表面状態のRu膜を形成することができず、良好な成膜性で、良好な表面状態のRu膜を得るためには、MnOx膜成膜の際の条件および水素ラジカル処理の際の条件の最適化が必要であることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明の第1の観点は、表面に所定パターンの凹部が形成された層間絶縁膜を有する基板に対し、前記凹部を埋めるCu配線を製造するCu配線の製造方法であって、少なくとも前記凹部の表面に、前記層間絶縁膜との反応で自己形成バリア膜となるMnOx膜をALDにより形成する工程と、前記MnOx膜の表面に水素ラジカル処理を施して前記MnOx膜の表面を還元する工程と、前記水素ラジカル処理が施されて表面が還元されたMnOx膜の表面にRu膜をCVDにより形成する工程と、その後、Ru膜の上にCu系膜をPVDにより形成して前記凹部内に前記Cu系膜を埋め込む工程とを有し、前記Ru膜を成膜する際に、核形成が促進され、かつ表面平滑性が高い状態でRu膜が成膜されるように、前記MnOx膜の成膜条件および前記水素ラジカル処理の条件を規定して、前記MnOx膜を成膜する工程および前記MnOx膜を還元する工程を連続で行い、前記MnOx膜の成膜条件は、基板を配置した処理容器内に、マンガン化合物ガスおよび酸素含有ガスを、前記処理容器内のパージを挟んで交互に供給するALDサイクルにより成膜を行い、その際のサイクル数が19〜31回であり、前記MnOx膜の膜厚が1.3〜2.2nmであり、基板温度が、前記マンガン化合物の熱分解温度よりも低い温度である130〜180℃であり、前記水素ラジカル処理の条件は、基板温度が300〜400℃、処理期間が100sec以上であることを特徴とするCu配線の製造方法を提供する。
【0013】
上記第1の観点において、前記MnOx膜の一部が、成膜の際の熱およびその後の処理の熱によりマンガンシリケートとなり、残存するMnOx膜とマンガンシリケートの合計膜厚に対する前記マンガンシリケート膜の膜厚の比が30%以上であることが好ましい。
【0014】
また、前記マンガン化合物としてシクロペンタジエニル系マンガン化合物、アミジネート系マンガン化合物、およびアミドアミノアルカン系マンガン化合物のうちのいずれかを用いることが好ましい。
【0015】
記水素ラジカル処理は、水素ガスを含むガスのプラズマより派生したラジカルを前記基板に供給することにより行うことができる。
【0016】
前記ALDサイクル数および前記MnOx膜の膜厚は、Ruが成膜されるきっかけとなる核密度が高くなるように設定されることが好ましい。この場合に、前記MnOx膜の前記核密度は、前記水素ラジカル処理の温度で変化せず、前記Ru膜の表面のラフネス値は、前記MnOx膜の水素ラジカル処理の温度が高いほど低下する。
【0019】
上記第1の観点において、前記Ru膜を形成する際に、成膜原料としてルテニウムカルボニルを用い、基板温度を170〜230℃にし、前記Ru膜の膜厚を1.5〜4.5nmの範囲とすることが好ましい。また、前記Ru膜を形成する際に、基板温度を190〜200℃にすることが好ましい。このとき、前記Ru膜の膜厚は、2.5〜4nmであることが好ましい。さらに、前記Cu系膜の形成は、イオン化PVDにより基板温度を230〜350℃にして形成されることが好ましい。
【0020】
本発明の第2の観点は、コンピュータ上で動作し、Cu配線製造システムを制御するためのプログラムが記憶された記憶媒体であって、前記プログラムは、実行時に、上記Cu配線の製造方法が行われるように、コンピュータに前記Cu配線製造システムを制御させることを特徴とする記憶媒体を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、自己形成バリアとして薄く成膜できるMnOx膜をALDにより形成し、その表面に水素ラジカル処理を施してMnOx膜の表面を還元した後にRu膜をCVDにより形成し、その後Cu系膜を埋め込むにあたり、Ru膜の核形成が促進されRu膜が平滑な表面状態となるように、前記MnOx膜の成膜条件および前記水素ラジカル処理の条件を規定するので、MnOx膜の上に良好な表面状態のRu膜を所望の膜厚の連続膜として成膜することができ、良好な埋め込み性でCu系膜を埋め込むことができる。
【0022】
また、MnOx膜を薄くして、生成されるマンガンシリケートの比率を高めることにより、Cu配線の電気特性やパターンの形状性を良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係るCu配線の製造方法を示すフローチャートである。
図2】本発明の一実施形態に係るCu配線の製造方法を説明するための工程断面図である。
図3】トレンチにMnOx膜を形成して下地の層間絶縁膜との反応により自己形成バリア膜が形成されるメカニズムを説明するための図である。
図4】MnOx膜の成膜の際のALDサイクル数とRu膜の膜厚との関係を示す図である。
図5】MnOx膜の成膜の際のALDサイクル数とRu膜のHaze値との関係を示す図である。
図6】各処理段階における膜の積層構造をX線反射率測定装置(XRR)で調査した結果を示す図である。
図7】ALDサイクル数を15サイクル、21サイクル、30サイクルと変化させてMnOx膜を成膜し、MnOx膜の成膜前後のアニールをそれぞれ300℃および400℃で行ったときの膜の積層構造を分析した結果を示す図である。
図8】ALDサイクル数を15サイクル、21サイクル、30サイクルと変化させてMnOx膜を成膜し、水素ラジカル処理を行った後、Ru膜を成膜した際のRu膜の膜厚とRu膜表面のHaze値の関係を求めた図である。
図9】MnOx膜の成膜温度を変化させた際のCuの埋め込み性を示すTEM写真である。
図10】水素ラジカル処理を100℃、200℃、300℃、400℃で行った際のRu膜表面の表面モフォロジーを示すSEM写真である。
図11】水素ラジカル処理温度と、水素ラジカル処理後のMnOx膜表面のHaze値およびRu膜表面のHaze値との関係を示す図である。
図12】各水素ラジカル処理温度におけるRu膜の膜厚とRu膜表面のHaze値との関係を示す図である。
図13図12において水素ラジカル処理温度300℃と400℃の結果のみを拡大して示す図である。
図14】水素ラジカル処理の時間とRu膜の膜厚との関係を示す図である。
図15】水素ラジカル処理の時間とRu膜のHaze値との関係を示す図である。
図16】水素ラジカル処理の条件を変化させた際のCuの埋め込み性を示すTEM写真である。
図17】好ましい条件でMnOx膜の成膜および水素ラジカル処理を行った後にCVDによりRu膜を成膜した際のRu膜の膜厚とRu膜表面のHaze値との関係を示す図である。
図18】Ru−CVDの各成膜温度におけるRu膜の膜厚とRu表面のHaze値との関係を示す図である。
図19】実験例1においてMnOx膜の成膜、水素ラジカル処理、Ru膜成膜、およびCu膜の埋め込みを行ったサンプルの断面を示すTEM写真である。
図20】実験例2におけるサンプルA、サンプルB、サンプルCの断面のTEM写真である。
図21図20のサンプルCの断面をさらに拡大したTEM写真である
図22】実験例3において、従来例である#1、#2と、本発明の範囲内である#3〜#6の配線抵抗を測定した際の平均値およびそのばらつきを示す図である。
図23】実験例3において、従来例である#1、#2と、本発明の範囲内である#3〜#6の電気容量を測定した際の平均値およびそのばらつきを示す図である。
図24】実験例3において、従来例である#1、#2と、本発明の範囲内である#3〜#6のR・C積を測定した際の平均値およびそのばらつきを示す図である。
図25】実験例3において、従来例である#1、#2と、本発明の範囲内である#3〜#6のリーク電流を測定した際の平均値およびそのばらつきを示す図である。
図26】実験例3において、#1、#3〜#6における電気特性測定用Cu配線パターンの平面形状を示すSEM写真である。
図27】本発明の実施形態に係るCu配線の製造方法の実施に好適なCu配線製造システムの概略構成を示すブロック図である。
図28図27のCu配線製造システムにおけるドライ成膜処理部の一例を示す平面図である。
図29図27のCu配線製造システムにおける制御部を示すブロック図である。
図30】Cu系膜成膜装置に好適に用いることができるiPVD装置の一例を示す断面図である。
図31】MnOx膜成膜装置に好適に用いることができるALD装置の一例を示す断面図である。
図32】水素ラジカル処理装置の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0025】
<Cu配線の製造方法の一実施形態>
最初に、本発明のCu配線の製造方法の一実施形態について図1のフローチャートおよび図2の工程断面図を参照して説明する。
なお、酸化マンガンはMnO、Mn、Mn、MnO等複数の形態をとり得るため、これら全てを総称してMnOxで表す。
【0026】
まず、下層Cu配線211を含む下部構造201(詳細は省略)の上にSiO膜、低誘電率(Low−k)膜(SiCO、SiCOH等)等からなる層間絶縁膜202が形成され、層間絶縁膜202にトレンチ203およびビアホール(以下、単にビアと記す)204が所定パターンで形成された半導体ウエハ(以下、単にウエハと記す)Wを準備する(ステップ1、図2(a))。
【0027】
次に、このウエハWに対して、前処理としてデガス(Degas)プロセスや前洗浄(Pre−Clean)プロセスによって、絶縁膜表面の水分を除去するとともに、下層Cu配線211の表面に形成された酸化銅を除去し(ステップ2、図2では図示せず)、その後、トレンチ203およびビア204の表面を含む全面にCuの拡散を抑制するバリア膜としてMnOx膜205を成膜する(ステップ3、図2(b))。
【0028】
次いで、MnOx膜205に対して水素ラジカル処理を施してMnOx膜205の表面を還元する(ステップ4、図2(c))。この処理は、MnOx膜205の表面を還元してMnとし、Ru膜を成膜しやすくするための処理である。また、この処理は、MnOx膜205の一部を、層間絶縁膜202との反応によりシリケート化する機能も有する。
【0029】
その後、水素ラジカル処理を施したMnOx膜205の表面に、CuまたはCu合金に対して濡れ性の高い被濡れ層としてRu膜206を成膜する(ステップ5、図2(d))。
【0030】
次いで、Ru膜206の表面にPVD、好ましくはイオン化PVD(Ionized Physical Vapor Deposition;iPVD)によりCuまたはCu合金からなるCu系膜207を形成し、Cu系膜207をトレンチ203およびビア204に埋め込む(ステップ6、図2(e))。
【0031】
次いで、必要に応じて、その後の平坦化処理に備えて、ウエハWの全面にCuめっきを施してCu系膜207の上にCuめっきにより積み増しCu層208を形成する(ステップ7、図2(f))。なお、積み増しCu層208はPVDにより形成してもよい。積み増しCu層208の形成後、アニールを行う(ステップ8、図2(g))。
【0032】
この後、CMP(Chemical Mechanical Polishing)によりウエハW表面の全面を研磨して、積み増しCu層208、Cu系膜207、Ru膜206、バリア膜であるMnOx膜205を除去して平坦化する(ステップ9、図2(h))。これによりトレンチおよびビア内にCu配線209が形成される。
【0033】
なお、Cu配線209を形成後、ウエハW表面のCu配線209および層間絶縁膜202を含む全面に、エッチングストップ機能を有するSiNやSiCNからなるバリア膜が成膜される。また、ウエハW表面のCu配線209の上に、CoW(P)などのメタルキャップ膜を選択的に成膜してもよい。
【0034】
次に、以上の一連の工程のうち、主要な工程について詳細に説明する。
【0035】
(MnOx膜形成)
最初に、バリア膜であるMnOx膜205を形成する工程について説明する。
MnOx膜205はALDにより成膜する。MnOx膜205は成膜の際の熱、またはその後のプロセス(水素ラジカル処理やアニール処理等)の熱により、少なくとも層間絶縁膜202との境界部分で層間絶縁膜202中のSiおよびO成分と反応してマンガンシリケート(MnxSiOy(MnSiOまたはMnSiO))が形成され、自己形成バリア膜となる。
【0036】
すなわち、図3(a)に示すように、MnOx膜205は、下地である層間絶縁膜202に含まれるSiおよびOと反応するので、図3(b)に示すように、バリア膜を下地である層間絶縁膜202側に形成することができる。このため、トレンチやビアのような凹部内でのバリア膜の体積を小さくすることができ、凹部内でのバリア膜の体積を0に近付けることができる。したがって、配線中のCuの体積を増加させて配線の低抵抗化を実現することができる。配線中のCuの体積を増加させる観点からは、MnOx膜205は薄いほうが好ましい。
【0037】
MnOx膜205を成膜する際には、マンガン化合物含有ガスおよび酸素含有ガスを用い、処理容器内のパージを挟んでこれらを交互に処理容器内に供給する。
【0038】
マンガン化合物ガスとしては、シクロペンタジエニル系マンガン化合物、アミジネート系マンガン化合物、アミドアミノアルカン系マンガン化合物を好適に用いることができる。
【0039】
シクロペンタジエニル系マンガン化合物としては、CpMn[=Mn(C]、(MeCp)Mn[=Mn(CH]、(EtCp)Mn[=Mn(C]、(i−PrCp)Mn[=Mn(C]、(t−BuCp)Mn[=Mn(C]のような一般式Mn(RCで表されるビス(アルキルシクロペンタジエニル)マンガンを挙げることができる。
【0040】
アミジネート系マンガン化合物としては、米国公報US2009/0263965A1号に開示されている一般式Mn(RN−CR−NRで表されるビス(N,N'−ジアルキルアセトアミジネート)マンガンを挙げることができる。
【0041】
アミドアミノアルカン系マンガン化合物としては、国際公開第2012/060428号に開示されている一般式Mn(RN−Z−NRで表されるビス(N,N'−1−アルキルアミド−2−ジアルキルアミノアルカン)マンガンを挙げることができる。ここで、上記一般式中の“R,R,R,R”は−C2n+1(nは0以上の整数)で記述される官能基であり、“Z”は−C2n−(nは1以上の整数)で記述される官能基である。
【0042】
また、他のマンガン化合物として、カルボニル系マンガン化合物、ベータジケトン系マンガン化合物も用いることができる。カルボニル系マンガン化合物としては、デカカルボニル2マンガン(Mn(CO)10)やメチルシクロペンタジエニルトリカルボニルマンガン((CH)Mn(CO))を挙げることができる。この中では、特に、Mn(CO)10は構造が単純であるため、不純物の少ないMn膜の成膜を期待することができる。
【0043】
また、酸素含有ガスとしては、HO(水蒸気)、NO、NO、NO、O、O、H、CO、CO、メチルアルコールやエチルアルコールなどのアルコール類を用いることができる。
【0044】
このようにMnOx膜205はALDにより成膜されるが、MnOx膜205を成膜する際の条件が、その後のRu膜206の核形成および表面状態に大きな影響を及ぼすことが判明した。したがって、Ru膜を成膜する際に、核形成が促進され、かつ表面平滑性が高い状態でRu膜が成膜されるように、MnOx膜の成膜条件を設定する。そのような条件としては、MnOx膜の膜厚および成膜温度を挙げることができる。
【0045】
MnOxの膜厚、すなわちALDの際のサイクル数は、Ruの核形成に影響を及ぼし、Ruが成膜されるきっかけとなる核密度がMnOx膜205の膜厚により変化する。Ruの核密度を十分な値としてRu膜成膜を促進する観点から、MnOx膜205の膜厚は、1〜4.5nmであることが好ましい。
【0046】
このことを確認した実験について説明する。
ここでは、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)を用いてCVDにより成膜したSiO膜上に、有機Mn化合物としてアミドアミノアルカン系マンガン化合物を用いて130℃のALDによりサイクル数を変化させてMnOx膜を成膜し、水素濃度10%、300℃で30secの水素ラジカル処理を行った後、ルテニウムカルボニルを用いて180℃、300secのCVDでRu膜を成膜したサンプルを作製した。これらについて、ALDサイクル数とRu膜の膜厚との関係を図4に示し、ALDサイクル数とRu膜のHaze値(膜の表面粗さの指標、任意単位)との関係を図5に示す。なお、Ru膜の膜厚は、TEM換算値である(以下同じ)。
【0047】
図4に示すように、ALDサイクル数が17〜60サイクルで比較的厚いRu膜が形成されるが、それ以外のサイクル数では膜厚が薄くなっている。また、図5に示すように、膜の表面粗さの指標であるHazeも、Ru膜厚と同様の傾向が見られる。これは、MnOx膜の膜が薄すぎても厚すぎても、水素ラジカル処理後のMnOx膜の表面においては、Ru膜をCVD成膜するきっかけとなる核密度が低くなり、十分な成膜が行えないことを意味しており、ALDサイクル数が17〜60サイクルでRu膜の良好な成膜が達成できることが確認された。良好なRu膜を得る観点から最も望ましいのはALDサイクル数が30サイクル付近である。ALDサイクル数が17〜60サイクルに相当するMnOx膜の膜厚は、断面TEM観察によれば1.2〜4.3nmであった。サイクル数と膜厚の関係は成膜温度により多少変化するが、MnOx膜の膜厚がほぼ1〜4.5nmであればその上に所望の膜厚のRu膜が形成できる。
【0048】
一方、Cu配線においては、リーク特性等の電気特性が良好であること、および配線パターンの歪みが小さいことも求められるが、これらを良好にするためには、上記のMnOx膜の膜厚範囲内で膜厚を薄くしてマンガンシリケート量を増加させることが有効であることが判明した。上述したようにマンガンシリケートを十分生成させるためには、MnOx膜形成後、アニールすることが好ましいが、その後の水素ラジカル処理が、マンガンシリケート生成のためのアニールとして機能する。電気特性等を良好にするためには、シリケート比(Mnシリケート/MnOx+Mnシリケート)が30%以上が好ましく、そのためにはALDサイクル数が31サイクル以下が好ましい。Ru膜の平滑性を良好に維持したままマンガンシリケートを増加させて電気特性等を良好にするためには、ALDサイクル数が19〜31サイクルの範囲が好ましい。その中でもサイクル数が小さい範囲、例えば19〜25サイクル、とりわけ21サイクルが好ましい。19〜31サイクルは膜厚換算で1.3〜2.2nmに相当し、格子定数が0.44nmのMnOに換算すると3〜5層に相当するから、変動幅を見込むと、Ru膜の平滑性を良好に維持したままシリケートを増加させて電気特性等を良好にするMnOx膜の膜厚は、1〜2.5nmの範囲が好ましい。
【0049】
シリケートはMnOxよりも酸に強いので、CMP薬液や洗浄薬液に対する耐性が高い。したがって、シリケート比を高くすることは、CMPにとっても有利である。そして、シリケートがCMP薬液や洗浄薬液に対する耐性が高いことが、シリケート比増加による電気特性の向上および配線パターンの歪みの抑制につながるものと推測される。
【0050】
各処理段階における膜の積層構造をX線反射率測定装置(XRR)で調査した結果を図6に示す。ここでは、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)を用いてCVDにより成膜したSiO膜に300℃でアニールを行ったのみの段階、その上に有機Mn化合物としてアミドアミノアルカン系マンガン化合物を用いて130℃のALD(30サイクル)によりMnOxを成膜した段階、およびMnOx成膜後に400℃でアニールを行った段階での膜の積層構造を示す。なお、成膜前のアニールは水分除去処理に相当し、成膜後のアニールは水素ラジカル処理に相当する。この図に示すように、MnOx膜を成膜したままの状態ではほとんどシリケートが生成されず、その後のアニールによりシリケートが生成されることがわかる。ただし、ここでは図示しないが、MnOx膜成膜直後でもXRRでは確認できない程度のシリケートが生成されていることがXPSにより確認されている。
【0051】
次に、MnOx膜の成膜前後のアニールをそれぞれ300℃および400℃に固定して、ALDサイクル数を15サイクル、21サイクル、30サイクルと変化させてMnOx膜を成膜し、膜の積層構造を前述のXRRで分析した。その結果を図7に示す。この図に示すように、ALDサイクル数を減らすほど膜厚が薄くなり、シリケート比が増加することがわかる。具体的には、15サイクルのときは、MnOx+Mnシリケートの合計膜厚が1.47nm、Mnシリケートの膜厚が0.60nmであるからシリケート比は40.8%であり、21サイクルのときは、MnOx+Mnシリケートの合計膜厚が1.52nm、Mnシリケートの膜厚が0.58nmであるからシリケート比は38.2%であり、30サイクルのときは、MnOx+Mnシリケートの合計膜厚が2.92nm、Mnシリケートの膜厚が0.90nmであるからシリケート比は30.8%である。
【0052】
次に、SiO膜を形成した基板を300℃でアニールした後、ALDサイクル数を15サイクル、21サイクル、30サイクルと変化させてMnOx膜を成膜し、300℃または400℃で300secの水素ラジカル処理(HR)を行い、その後、その上にルテニウムカルボニルを用いて195℃のCVDにより膜厚を変化させてRu膜を成膜し、Ru膜の膜厚とRu膜表面のHaze値の関係を求めた。その結果を図8に示す。この図に示すように、MnOx膜のALDサイクル数が15サイクルになると、その上に堆積したRu膜の表面ラフネスが増加することがわかる。15サイクルのMnOx膜は膜厚に換算すると1.1nmに相当し、格子定数が0.44nmのMnOに換算すると2.4層となり、3層に満たない。一方、21サイクルのMnOx膜は膜厚に換算すると1.5nmに相当し、格子定数が0.44nmのMnOに換算すると3.4層となる。さらに、30サイクルのMnOx膜は膜厚に換算すると2.1nmに相当し、格子定数が0.44nmのMnOに換算すると4.8層となる。このことから、その上に堆積するRu膜の表面ラフネスを平坦に保つためには、MnO換算で3層以上の積層膜となっている必要があると言える。なお、Ru膜の膜厚とHaze値がこのような挙動を示すメカニズムについては、図17を参照して後で詳細に説明する。
【0053】
以上の結果から、Ru膜の表面平滑性を良好にするには、21サイクル、30サイクルが好ましく、表面平滑性を良好に維持しつつ電気特性等を上昇させるためには、MnOが3〜5層の範囲、膜厚に換算すると1.3〜2.2nm、ALDのサイクル数に換算すると19〜31サイクルが好ましく、その中でもサイクル数が小さい範囲、例えば19〜25サイクル(MnO換算で3〜4層の積層膜)がより好ましく、これらの中でも21サイクル(MnO換算で約3層の積層膜)が好ましいことが確認された。
【0054】
また、ALDでMnOx膜205を成膜する際に、成膜原料であるマンガン化合物の熱分解開始温度よりも高い成膜温度となると、成膜モードがALDモードからCVDモードに変わって表面が粗くなるとともに、MnOx膜中にカーボンが混入するようになり、その上に形成されるRu膜は不連続となり、その表面が粗くなって平滑性が失われるため、Cuの埋め込み性が悪化する。このような観点から、Ru膜の表面平滑性を高くするためには、MnOx膜205のALD成膜温度を、使用するマンガン化合物の熱分解温度よりも低い温度とすることが好ましい。なお、有機Mn化合物によるMnOxの成膜はその気化開始温度以下ではALD成膜することができない(有機Mn化合物をガスとして処理容器に供給することができない)から、気化開始温度が事実上の下限となる。
【0055】
例えば、アミドアミノアルカン系マンガン化合物(ビス(N,N'−1−アルキルアミド−2−ジアルキルアミノアルカン)マンガン)であれば、230℃付近から熱分解が始まるため、ALD成膜温度は230℃未満であることが好ましい。また、このマンガン化合物を有効に気化させるためには80℃以上に加熱する必要がある。よって、ALD成膜温度として好ましいのは、100〜180℃であり、CVDモードになることを極力防止するとともに、成膜速度を上げるためには、130℃付近が好ましい。また、他の好適なMn化合物であるシクロペンタジエニル系マンガン化合物、アミジネート系マンガン化合物についても、同様の温度範囲において同様の膜厚で成膜することができる。
【0056】
図9は、MnOx膜のALD成膜温度を変化させた際のCuの埋め込み性を示す透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。図9の(a)は、MnOx膜の成膜温度:130℃、ALDサイクル数:30サイクルとしたもの、(b)は、成膜温度:180℃、ALDサイクル数:44サイクルとしたもの、(c)は、成膜温度230℃:、ALDサイクル数:52サイクルとしたものである。なお、サイクル数は各温度でMnOx膜の膜厚が同じになるように調整している。また、他の条件は図4、5の実験に用いたサンプルと同様としている。
【0057】
図9に示すように、成膜温度130℃、180℃においては、良好なCuの埋め込み性を示しているが、成膜温度が230℃になると埋め込み性が劣化していることがわかる。これは、ここで用いたアミドアミノアルカン系マンガン化合物は230℃付近から熱分解が始まり、成膜モードがCVDモードとなって表面が粗くなるとともに、MnOx膜中にカーボンが混入するようになり、その上に形成されたRu膜は核形成が阻害されて不連続な膜となり、その表面も粗くなって平滑性が失われたためと考えられる。
【0058】
なお、MnOx膜205をALDで成膜する際の処理容器内の圧力は0.133〜13.3Paの範囲が好ましい。本実験においては、処理容器内の圧力を約1Paとした。
【0059】
(水素ラジカル処理)
次に、水素ラジカル処理について説明する。
水素ラジカル処理は、MnOx膜205を還元して表面をMnに改質する処理であり、これにより、Ru膜が成膜しやすくなる。すなわち、水素ラジカル処理により、Ru膜成膜時のインキュベーション時間を短くすることができ、成膜初期における成膜レートを高くすることができるとともに、Ruの膜質を良好にすること(低抵抗)、Ru膜の表面粗さを低減すること、およびRu膜を高ステップカバレッジで薄く均一に成膜することができる。
【0060】
水素ラジカル処理は、MnOx膜205を成膜した後、大気暴露することなく行われることが好ましい。MnOx膜を成膜後に大気暴露する場合には、水素ラジカル処理を行う処理容器において水素ラジカル処理の前にデガス処理を行うことが好ましい。
【0061】
水素ラジカル処理は、水素ラジカル(原子状水素)が生成されればその手法は問わない。例えば、リモートプラズマ処理、プラズマ処理、加熱フィラメントに水素ガスを接触させる処理を挙げることができる。
【0062】
リモートプラズマ処理は、処理容器外で誘導結合プラズマやマイクロ波プラズマ等で水素プラズマを生成し、これを処理容器内に供給し、その中の水素ラジカルにより処理するものである。
【0063】
また、プラズマ処理は、処理容器内に容量結合プラズマまたは誘導結合プラズマ等を生成し、これによって処理容器内に生成された水素プラズマ中の水素ラジカルにより処理するものである。
【0064】
さらに、加熱フィラメントに水素ガスを接触させる処理は、加熱フィラメントが触媒として機能し、接触分解反応により水素ラジカルを発生させる。
【0065】
このような水素ラジカル処理においても、上述したMnOx膜205の成膜と同様、その際の条件が、その後のRu膜206の核形成および表面状態に大きな影響を及ぼすことが判明した。したがって、Ru膜を成膜する際に、核形成が促進され、かつ表面平滑性が高い状態でRu膜が成膜されるように、水素ラジカル処理の条件を設定する。そのような条件としては、処理時間および処理温度を挙げることができる。
【0066】
水素ラジカル処理の処理温度(ウエハ温度)は、MnOx膜205の還元性を決定する重要なファクターである。処理温度が高いほどMnOx表面の還元が進み、表面平滑性が高いRu膜を得ることができると考えられる。しかし、処理温度が400℃を超えるとウエハW上にすでに形成されているCu配線に対して、層間絶縁膜の劣化やCuの拡散といった悪影響を与えるおそれがある。したがって、水素ラジカル処理の処理温度は、このような不都合を与えない範囲で高い温度であることが好ましく、200〜400℃の範囲、特に300〜400℃が好ましい。望ましくは、400℃である。また、水素ラジカル処理の処理時間もMnOx膜205の還元性を決定する重要なファクターである。十分な還元性を得るためには処理時間は100sec以上が好ましく、300sec付近がより好ましい。処理温度が200℃未満、処理時間が100sec未満では、MnOx膜205表面の還元が不十分になるおそれがあり、Ruの核形成が不十分となって所望のRu膜を形成し難いおそれがある。
【0067】
また、この水素ラジカル処理によりシリケートの比率を高くすることができる。すなわち、上述したように、シリケート比を上昇させるためには、MnOx膜を成膜した後、アニールを行うことが好ましく、水素ラジカル処理がアニールの作用を有する。シリケート比を上昇させる観点からも水素ラジカル処理の温度を高くすることが好ましい。なお、水素ラジカル処理の直前にデガスのためのアニール処理がおこなわれる場合には、このデガスアニール処理によってシリケートの比率を高くするようにしてもよい。
【0068】
水素ラジカル処理の好ましい温度を把握した実験について説明する。
ここでは、TEOSを用いたCVDにより成膜したSiO膜上に、有機Mn化合物としてアミドアミノアルカン系マンガン化合物を用いて130℃のALDによりサイクル数21サイクルとしてMnOx膜を成膜し、水素濃度10.6%、100℃、200℃、300℃、400℃と温度を変えて、300secの水素ラジカル処理(HR)を行った後、ルテニウムカルボニルを用いて195℃で80secのCVDによりRu膜を成膜した。このときのRu膜表面の表面モフォロジーのSEM観察結果を図10に示す。この図に示すように、水素ラジカル処理の温度が高いほどRu膜の表面平滑性が良好になることがわかる。
【0069】
また、これらのサンプルの水素ラジカル処理温度と、水素ラジカル処理後のMnOx膜表面のHaze値およびRu膜表面のHaze値との関係を図11に示す。この図に示すように、MnOx膜表面のHaze値は水素ラジカル処理温度を変えてもほとんど変わらないが、Ru膜表面のHaze値は水素ラジカル処理温度が上昇するほど低下することがわかる。
【0070】
同様に、MnOx膜を成膜し、同様に温度を変えて水素ラジカル処理を行った後、種々の膜厚で同様にCVD−Ru膜を成膜した際の、各水素ラジカル処理温度におけるRu膜厚とRu膜表面のHaze値との関係を図12に示す。この図に示すように、水素ラジカル処理(HR)が100℃ではHaze値が極めて大きく、また、200℃に比較すると300℃、400℃のほうがHaze値が低くなる傾向があり、Ru膜表面の平滑性を良好にするためには300℃、400℃が良好であることがわかる。
【0071】
図13は、図12において水素ラジカル処理温度300℃と400℃の結果のみを拡大して示す図であるが、この図からは、300℃よりも400℃のほうがRu膜表面の平滑性が若干良好になる傾向にあることがわかる。なお、Ru膜の膜厚とHaze値がこのような挙動を示すメカニズムについては、図17を参照して後で詳細に説明する。
【0072】
次に、水素ラジカル処理の好ましい処理時間を把握した実験について説明する。
ここでは、TEOSを用いたCVDにより成膜したSiO膜上に、有機Mn化合物としてアミドアミノアルカン系マンガン化合物を用いて130℃のALDによりサイクル数21サイクルとしてMnOx膜を成膜し、水素濃度10.6%、300℃で時間を変化させて水素ラジカル処理を行った後、ルテニウムカルボニルを用いて180℃、300secのCVDでRu膜を成膜したサンプルを作製した。これらについて、水素ラジカル処理時間とRu膜の膜厚との関係を図14に示し、水素ラジカル処理時間とRu膜のHaze値との関係を図15に示す。
【0073】
図14および図15に示すように、Ru膜厚もHaze値も水素ラジカル処理の時間が100secまでは値が小さく、時間にともなって急激に増加する傾向にあり、処理時間が100sec未満ではRu膜の核形成が不十分でありRu膜が十分に成膜されていないことがわかる。すなわち、水素ラジカル処理が100sec未満では、MnOx膜表面の還元が十分に行われず、Ru膜の核形成が不十分であることがわかる。100sec以上ではほぼ飽和しているが、安全を見ると200sec以上、例えば300sec程度が好ましい。
【0074】
次に、条件を変化させた場合のCuの埋め込み性を把握した実験について説明する。
図16は、水素ラジカル処理の条件を変化させた際のCuの埋め込み性を示す断面TEM写真である。図16の(a)は、水素ラジカル処理の条件をリモートプラズマのRF供給電力:2kW、Ar/H流量:110/13sccm(水素濃度:10.6%)、温度:300℃、処理時間:300secとした標準サンプルであり、(b)は、Ar/H流量を40/20sccm(水素濃度:33.3%)に変化させたもの、(c)は、RF供給電力を1kWに変化させたもの、(d)は、処理時間を30secに変化させたもの、(e)は、温度を100℃に変化させたものである。なお、他の膜の条件は図14、15の実験に用いたサンプルと同様としている。
【0075】
図16の(a)〜(c)までは良好な埋め込み性を示しており、水素濃度(水素分圧)やプラズマのパワーは埋め込み性に大きな影響を与えないことがわかる。しかし、処理時間が30secと短くなった(d)や、処理温度が100℃と低くなった(e)は、埋め込み性が劣化した。これは、水素ラジカル処理の処理時間が短すぎる場合や温度が低すぎる場合に、MnOx膜表面の還元が不十分になってRu膜の成膜が不十分となるためであると考えられる。
【0076】
水素ラジカル処理の際に供給されるガスとしては、水素ガスにArガス等の不活性ガスを加えたものが好ましく、この際の水素濃度は1〜50%が好ましい。また、水素ラジカル処理の処理圧力は、10〜500Paが好ましく、20〜100Paがより好ましい。
【0077】
ラジカル還元処理後のMnが再び酸化されることを防止するために、Hラジカル処置を行うためのチャンバーおよびウエハを搬送する搬送系の到達真空度を5×10−8Torr以下とすることが好ましい。また、同様の目的で、Hラジカル還元処理後、60分以内に次のRu膜の成膜を実施することが好ましい。
【0078】
(Ru膜形成)
次に、被濡れ層としてのRu膜206を形成する工程について説明する。
【0079】
Ru膜206は、ルテニウムカルボニル(Ru(CO)12)を成膜原料として用いて熱CVDにより好適に形成することができる。これにより、高純度で薄いRu膜を高ステップカバレッジで成膜することができる。Ru膜206は、ルテニウムカルボニル以外の他の成膜原料、例えば(シクロペンタジエニル)(2,4−ジメチルペンタジエニル)ルテニウム、ビス(シクロペンタジエニル)(2,4−メチルペンタジエニル)ルテニウム、(2,4−ジメチルペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム、ビス(2,4−メチルペンタジエニル)(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウムのようなルテニウムのペンタジエニル化合物を用いたCVDを用いて成膜することもできる。
【0080】
RuはCuに対する濡れ性が高いため、Cuのための下地としてRu膜を形成することにより、次のPVDによるCu膜形成の際に、良好なCuの移動性を確保することができ、トレンチやビアの開口を塞ぐオーバーハングを生じ難くすることができる。しかし、アズデポのMnOx膜の上にRu膜を成膜しても、Ruの核形成密度が低いため、MnOx膜205の表面に、水素ラジカル処理を行い、MnOx膜の還元された表面にRu膜を成膜する必要がある。このとき、上述したように、微細パターンであっても、良好な成膜性で良好な表面状態のRu膜を成膜することが可能なように、MnOx膜の成膜条件および水素ラジカル処理の条件を規定する。
【0081】
そして、適切な条件でMnOx膜の成膜処理および水素ラジカル処理を行って良好な表面状態を形成した後、適切な条件でRu−CVDを行うことにより、良好な表面状態のRu膜を高ステップカバレッジで薄く均一に形成することができる。これにより、微細なトレンチやビア内にもボイドを発生させずに確実にCuまたはCu合金を埋め込むことができる。また、Ru膜が薄いので、トレンチやビア内のCuまたはCu合金の体積を大きくすることができ、Cu配線の電気抵抗値が高くなることを極力抑えることができる。
【0082】
図17は、上述したような好ましい条件でMnOx膜の成膜および水素ラジカル処理を行った後にCVDによりRu膜を成膜した際の膜厚と膜表面のHaze値との関係を示す図である。この図に示すように、CVD−Ru膜の成膜初期段階においては、核の成長が主体となるため、Ru膜厚の増加にともなってHazeも増加する。核が成長して隣接する核どうしが繋がるようになると、Haze値は極大値をとり、その後減少に転じる。隣接するRu核が連結して連続膜になるとHaze値は極小値をとり、その後はRu膜の成長にともなってファセットも成長するため、膜厚の増加に従ってHazeは増加していく。Cuの埋め込み性が良好になるためには、下地となるCVD−Ru膜が連続膜となり、Haze値が小さくなることが必要であるが、そのようなRu膜は、図17においてHaze値が極小値をとる膜厚よりも少し厚い程度の膜厚の膜であり、図17の例ではRu膜の膜厚が2.5〜4.1nmと非常に薄い領域となる。なお、図17はRu−CVD成膜温度が175℃の例であるが、Ru−CVD成膜温度を少し高め(例えば195℃など)に設定することで、Ru膜の膜厚が1.8〜3.3nmとさらに薄い領域においても、Haze値が小さく、連続なCVD−Ru薄膜を得ることができる。すなわち、上述したような好ましい条件でMnOx膜の成膜および水素ラジカル処理を行った後にRu−CVDを行うことにより、表面性が良好(表面粗さが小さい)でかつ膜厚が1.8〜4.1nmと薄い連続膜の理想的なCVD−Ru膜を成膜することが可能である。MnOx膜の成膜条件や水素ラジカル処理の条件が好ましい範囲から外れると、Ru膜の膜厚とHazeの関係は図17のようにならず、例えば上方や右方にシフトしたような関係となり、表面状態が良好なRu膜を薄い連続膜として形成することが困難となってしまう。
【0083】
MnOx膜205の成膜条件および水素ラジカル処理の条件を上述のように好ましい範囲とした上で、Ru膜の成膜条件を適切に調整することにより所望のRu膜を成膜することができるが、その際の条件は、成膜原料としてルテニウムカルボニル(Ru(CO)12)を用いて成膜温度(ウエハ温度)を170〜230℃の範囲としてCVDを行うことが好ましい。この範囲であればRu−CVDは反応律速となり得、表面状態が良好で面内均一性の高い膜を形成することができる。ただし、成膜温度が205℃を超えると、Ru供給系や処理容器の構造によってはウエハ全面で反応律速にならないことがあるため、より好ましい成膜温度範囲は175〜205℃である。また、Ru膜表面の平滑性をより良好に保つ観点から、成膜温度範囲は190〜200℃が一層好ましく、195℃が特に好ましい。成膜温度195℃における成膜時間は75〜120sec(Ru膜厚換算で2.5〜3.8nm)が好ましい。これは、c軸方向の格子定数が0.43nmのRuに換算するとおおむね6〜9層に相当する。成膜時間75sec程度でRu膜の表面平滑性が良好になるが、この範囲内でRu膜を厚めにしたほうがCuの埋め込み性が改善され、電気特性や配線形状が改善される。
【0084】
表面平滑性の高いRu膜が形成されることにより、Cuの濡れ性が向上し、優れたCu埋め込み性を実現することができる。
【0085】
Ru膜成膜の際の好ましい温度を把握した実験について説明する。
ここでは、TEOSを用いたCVDにより成膜したSiO膜上に、有機Mn化合物としてアミドアミノアルカン系マンガン化合物を用いて130℃のALDによりサイクル数21サイクルとしてMnOx膜を成膜し、水素濃度10.6%、300℃で水素ラジカル処理を行った後、175〜205℃の温度で種々の膜厚でルテニウムカルボニルを用いたCVDによりRu膜を成膜した。その際の各成膜温度におけるRu膜の膜厚とRu表面のHaze値との関係を図18に示す。この図に示すように、Ru膜の成膜温度が高いほどRu膜表面のHaze値が小さくなって表面平滑性が良好になることが確認された。
【0086】
一方、Ru膜が薄膜化した際に、Ru膜成膜温度が205℃では、ウエハセンターの膜厚が薄く、外周の膜厚が厚いディッシュ状の膜厚プロファイルとなることが確認された。これは成膜温度が205℃では成膜温度が高すぎてウエハ全面で反応律速とならないためである。成膜温度が200℃以下では面内の膜厚はほぼ均一であったが、195℃のほうがより均一性が高かった。
【0087】
以上から、Ru膜の成膜温度が195℃および200℃のときに、表面平滑性が良好で膜厚均一性の高いRu膜が得られ、特に195℃のときに良好な結果が得られることが確認された。
【0088】
なお、CVDによるRu膜の成膜の際における圧力は1.3〜133Paの範囲であることが好ましい。
【0089】
(Cu膜形成)
次に、Cu系膜207を成膜する工程について説明する。
Cu系膜207は、上述したように、ドライプロセスであるPVDにより成膜する。このとき、ウエハにイオンを引き込みながら成膜するiPVDを用いることが好ましい。
【0090】
Cu系膜207を埋め込む際に、通常のPVD成膜の場合には、Cuの凝集により、トレンチやビアの開口を塞ぐオーバーハングが生じやすいが、iPVDを用い、ウエハに印加するバイアスパワーを調整して、Cuイオンの成膜作用とプラズマ生成ガスのイオン(Arイオン)によるエッチング作用とを制御することにより、Ru膜206上でCuまたはCu合金を移動させてオーバーハングの生成を抑制することができ、狭い開口のトレンチやビアであっても良好な埋め込み性を得ることができる。このとき、Cuの流動性を持たせて良好な埋め込み性を得る観点からCuがマイグレートする高温プロセス(65〜400℃)で行われることが好ましいが、その際の温度は230〜350℃が好ましく、300℃付近が特に好ましい。このように高温プロセスでPVD成膜することにより、Cu結晶粒を成長させることができ、粒界散乱を小さくしてCu配線の抵抗を低くすることができる。また、上述したように、Cu系膜207のための下地として、CuやCu合金に対する濡れ性が高いRu膜206を良好な表面状態で薄く均一に設けることができるので、Ru膜上でCuやCu合金が凝集せず流動し、微細な凹部においてもオーバーハングの生成を抑制することができ、ボイドを発生させずに確実にCu系膜207(CuまたはCu合金)を埋め込むことができる。
【0091】
なお、Cu系膜成膜時における処理容器内の圧力(プロセス圧力)は、0.133〜13.3Paが好ましく、4.66〜12.0Paがより好ましい。
【0092】
Cu系膜207としてCu合金を用いる場合には、代表的なものとして、Cu−Al、Cu−Mnを挙げることができる。また、他のCu合金として、Cu−Mg、Cu−Ag、Cu−Sn、Cu−Pb、Cu−Zn、Cu−Pt、Cu−Au、Cu−Ni、Cu−Co、Cu−Tiなどを用いることができる。
【0093】
以上のように、本実施形態によれば、自己形成バリアとして薄く成膜できるMnOx膜205をALDで形成し、その表面に水素ラジカル処理を施してMnOx膜205の表面を還元した後、Ru膜206をCVDで成膜し、その上にCu系膜207を成膜して、トレンチ203やビア204にCu系膜207を埋め込む際に、Ru膜206の核形成が促進されRu膜206が平滑な表面状態となるように、MnOx膜の成膜条件(具体的にはMnOx膜の膜厚(サイクル数)および成膜温度)、および水素ラジカル処理の条件(具体的には処理時間および処理温度)を規定するので、MnOx膜の上に良好な表面状態のRu膜を所望の膜厚の連続膜として成膜することができ、良好な埋め込み性でCu系膜を埋め込むことができる。
【0094】
また、バリア膜としてMnOx膜を用いることにより自己形成バリアとして薄く形成することができ、さらにRu膜も薄く均一に形成することができるので、トレンチやビア等の凹部内のCuの体積を最大化することができ、Cu配線を低抵抗化することができる。しかも、Cuを高温のiPVDで埋め込むため、Cu粒径を大きくすることができ、粒界散乱を小さくすることができるので、その点からもCu配線の低抵抗化に寄与する。
【0095】
さらに、MnOx膜のALDサイクル数を少なくして高シリケート比条件とすることにより、リーク特性等の電気特性が良好にすることができ、配線パターンの形状性を良好にすることができる。
【0096】
<実験例>
次に、本実施形態の効果を確認した実験例について説明する。
【0097】
(実験例1)
ここでは、シリコンウエハに低誘電率(Low−k)膜としてSiOC膜を形成し、ライン/スペースが60nm/60nmになるようなパターンでトレンチを形成した後、有機Mn化合物としてアミドアミノアルカン系マンガン化合物を用い、酸素含有ガスとしてHO(水蒸気)を用いて、130℃で30サイクルのALDによりMnOx膜を成膜し(設定膜厚2.1nm)、リモートプラズマを用いて300℃、300secの水素ラジカル処理を行った後、ルテニウムカルボニルを用いて175℃、300secのCVDでRu膜を成膜し(設定膜厚3.3nm)、300℃のiPVDによりCu膜を成膜して(設定膜厚150nm)、トレンチにCuを埋め込んだ。その際の断面のTEM写真を図19に示す。この図に示すように、条件を適正化することにより、Ru膜が平滑な表面状態を有する薄い連続膜として形成することができ、極めて良好なCu埋め込み性が得られることが確認された。
【0098】
(実験例2)
ここでは、シリコンウエハに低誘電率(Low−k)膜としてSiOC膜を形成し、ライン/スペースが60nm/60nmになるようなパターンでトレンチを形成した後、有機Mn化合物としてアミドアミノアルカン系マンガン化合物を用い、酸素含有ガスとしてHO(水蒸気)を用いて、130℃で21サイクルまたは30サイクルのALDによりMnOx膜を成膜し(設定膜厚1.5nmまたは2.1nm)、リモートプラズマを用いて300℃または400℃、300secの水素ラジカル処理を行った後、ルテニウムカルボニルを用いて195℃、80secまたは120secのCVDでRu膜を成膜し(設定膜厚2.9nmまたは3.8nm)、300℃のiPVDによりCu膜を成膜して(設定膜厚150nm)、トレンチにCuを埋め込み、サンプルA、サンプルB、およびサンプルCを作成した。各サンプルの条件は以下の通りである。
・サンプルA
MnOx膜のサイクル数:30サイクル(設定膜厚:2.1nm)
水素ラジカル処理温度:300℃
Ru膜成膜時間:120sec(設定膜厚:3.8nm)
・サンプルB
MnOx膜のサイクル数:30サイクル(設定膜厚:2.1nm)
水素ラジカル処理温度:400℃
Ru膜成膜時間:80sec(設定膜厚:2.9nm)
・サンプルC
MnOx膜のサイクル数:21サイクル(設定膜厚:1.5nm)
水素ラジカル処理温度:400℃
Ru膜成膜時間:120sec(設定膜厚:3.8nm)
【0099】
これらの断面のTEM写真を図20に示す。この図に示すように、いずれも極めて良好なCu埋め込み性が得られた。図21は、図20のサンプルCの断面をさらに拡大したTEM写真であるが、Ru成膜温度を195℃にすることにより、実験例1よりもRu膜表面の平滑性がさらに良好になり、さらに実験例1よりもシリケート比が高く、かつRu膜が厚くなることにより、特に良好な埋め込み性が得られている。
【0100】
(実験例3)
ここでは、シリコンウエハに層間絶縁膜としてTEOSを用いたCVDによるSiO膜を形成し、ライン/スペースが60nm/60nmで電気特性用のパターンを形成した後、バリア膜としてアミドアミノアルカン系マンガン化合物を用いて130℃のALDによりMnOx膜を形成し、水素濃度10.6%で所定温度で2kWのリモートプラズマにより300secの水素ラジカル処理を行い、次いで、ルテニウムカルボニルを用いてCVDによりRu膜を成膜した。その後、300℃のiPVDによりCuを埋め込み、さらにCMPを行って、電気特性測定用Cu配線パターンを作製した。Cu配線の形成条件としては、以下の#1〜#6の6種類とした。
【0101】
#1、#2は、いずれも
MnOx膜のサイクル数:30サイクル(設定膜厚:2.1nm)
水素ラジカル処理温度:300℃
Ru膜成膜温度:175℃
Ru膜成膜時間:300sec(設定膜厚:2.7nm)
の同じ条件で作製したものである。また、#3〜#6は#1、#2に対してRu膜の成膜条件を変化させ、一部はさらにMnOx膜のサイクル数および水素ラジカル処理温度を変化させたものであり、具体的な作製条件は以下の通りである。
・#3
MnOx膜のサイクル数:30サイクル(設定膜厚:2.1nm)
水素ラジカル処理温度:300℃
Ru膜成膜温度:195℃
Ru膜成膜時間:80sec(設定膜厚:2.9nm)
・#4
MnOx膜のサイクル数:30サイクル(設定膜厚:2.1nm)
水素ラジカル処理温度:300℃
Ru膜成膜温度:195℃
Ru膜成膜時間:120sec(設定膜厚:3.8nm)
・#5
MnOx膜のサイクル数:21サイクル(設定膜厚:1.5nm)
水素ラジカル処理温度:400℃
Ru膜成膜温度:195℃
Ru膜成膜時間:80sec(設定膜厚:2.9nm)
・#6
MnOx膜のサイクル数:21サイクル(設定膜厚:1.5nm)
水素ラジカル処理温度:400℃
Ru膜成膜温度:195℃
Ru膜成膜時間:120sec(設定膜厚:3.8nm)
【0102】
以上の#1〜#6について、配線抵抗(R)、電気容量(C)、R・C積、リーク電流をウエハ上の89点において測定し、その平均値とばらつきを求めた。これらの結果を図22〜25に示す。
【0103】
配線抵抗(R)については、図22に示すように、#3〜#6は、#1、#2に比べ、ばらつき(面内分布)が小さい。また、#3〜#6の中では、MnOx膜のALDサイクル数を少なくするとともに水素ラジカル処理温度を400℃と高くして高シリケート比にするか、Ru膜を3.8nmと厚めにすることにより、配線抵抗のばらつきが小さくなり、特に、MnOx膜のALDサイクル数を少なくし、かつRu膜を厚めにした#6において、配線抵抗のばらつきが小さかった。
【0104】
電気容量(C)については、図23に示すように、#1、#2は、ばらつきが大きかったが、#3〜#6は、#1および#2に比べ、ばらつき(面内分布)が大幅に改善している。また、配線抵抗と同様、MnOx膜を高シリケート比条件とするか、Ru膜を厚めにすることにより、配線抵抗のばらつきが小さくなり、特に、#6において、容量のばらつきが小さかった。
【0105】
R・C積については、図24に示すように、#1、#2は、ばらつきが大きかったが、#3〜#6は、#1および#2に比べ、ばらつき(面内分布)が大幅に改善している。R・C積についても、高シリケート比条件とするか、Ru膜を厚めにすることによりばらつきが小さくなり、特に、#6において、ばらつきが小さかった。#6のR・C積の値は従来のTaN/Taバリアを用いたCu配線よりも良好な値となった。
【0106】
リーク電流については、図25に示すように、#3〜#6は、#1、#2に比べ、ばらつき(面内分布)が小さい。また、#3〜#6の中では、高シリケート比条件の#5、#6が、#3、#4に比べてリーク電流が改善している。
【0107】
次に、#1、#3〜#6について電気特性測定用Cu配線パターンの平面形状をSEM観察した。その結果を図26に示す。この図に示すように、#1は、Cu配線がぐらついて歪んだ状態、すなわちwigglingが生じた状態となっている。#3、#4もwigglingが生じているが、高シリケート比条件である#5、#6についてはwigglingが改善されている。
【0108】
ライン/スペースが100nm/100nmと太配線にした他は同様に#1〜#6の条件で電気特性測定用Cu配線パターンを作成して同様の試験を行ったところ、#1およびシリケート比が低い#3、#4はwigglingが生じた他、Cu配線に窪みや欠損(Hollow Metal)が生じたのに対し、高シリケート比である#5、#6はwigglingが改善され、特に高シリケート比かつRu膜厚めの#6はHollow Metalも生じていなかった。また、太配線の場合は、シリケート比が低い条件またはRu膜厚2.9nmの条件では、本発明の範囲内でも電気特性にばらつきが生じることがあるが、Ru膜を厚めとすることにより、太配線の配線抵抗(R)、電気容量(C)の歩留まりが多少改善され、高シリケート比とすることで、太配線においてもリーク電流のばらつきを抑えることができる。これら両方を備える#6は100nmの太配線において、全ての電気特性が良好であった。
【0109】
<本発明の実施形態の実施に好適な成膜システム>
次に、本発明の実施形態に係るCu配線の製造方法の実施に好適な成膜システムについて説明する。図27は本発明の実施形態に係るCu配線の製造方法の実施に好適なCu配線製造システムの概略構成を示すブロック図、図28図27の成膜システムの主要部となるドライ成膜処理部101の一例を示す平面図、図29図27の成膜システムの制御部104を示すブロック図である。
【0110】
図27に示すように、Cu配線製造システム100は、デガス処理からCu系膜成膜までを行うドライ成膜処理部101と、積み増しCu層を形成するCuめっき処理部102と、CMP処理を行うCMP処理部103と、このCu配線製造システム100の各構成部を制御するための制御部104と、ドライ成膜処理部101とCuめっき処理部102との間でウエハWを収容したキャリアCを搬送する第1のキャリア搬送装置105と、Cuめっき処理部102とCMP処理部103との間でウエハWを収容したキャリアを搬送する第2のキャリア搬送装置106とを有している。
【0111】
図28に示すように、ドライ成膜処理部101は、デガス処理、MnOx膜の成膜、および水素ラジカル処理を行うための第1の処理セクション10と、Ru膜の成膜およびCu系膜の成膜のための第2の処理セクション20と、搬入出セクション30とを有している。
【0112】
第1の処理セクション10は、第1の真空搬送室11と、この第1の真空搬送室11の壁部に接続された、4つのMnOx膜成膜装置12a,12b,12c,12d、デガス室13、および水素ラジカル処理装置14とを有している。水素ラジカル処理装置14はウエハWのデガス処理も行えるようになっている。また、第1の真空搬送室11のデガス室13と水素ラジカル処理装置14との間の壁部には、第1の真空搬送室11と後述する第2の真空搬送室21との間でウエハWの受け渡しを行う受け渡し室15が接続されている。
【0113】
MnOx膜成膜装置12a,12b,12c,12d、デガス室13、水素ラジカル処理装置14、および受け渡し室15は、第1の真空搬送室11の各辺にゲートバルブGを介して接続され、これらは対応するゲートバルブGの開閉により、第1の真空搬送室11に対して連通・遮断される。
【0114】
第1の真空搬送室11内は所定の真空雰囲気に保持されるようになっており、その中には、ウエハWを搬送する第1の搬送機構16が設けられている。この第1の搬送機構16は、第1の真空搬送室11の略中央に配設されており、回転および伸縮可能な回転・伸縮部17と、その先端に設けられたウエハWを支持する2つの支持アーム18a,18bとを有する。第1の搬送機構16は、ウエハWをMnOx膜成膜装置12a,12b,12c,12d、デガス室13、水素ラジカル処理装置14、および受け渡し室15に対して搬入出する。
【0115】
第2の処理セクション20は、第2の真空搬送室21と、この第2の真空搬送室21の対向する壁部に接続された、Ru膜成膜装置22およびCu系膜成膜装置23とを有している。
【0116】
第2の真空搬送室21の第1の処理セクション10側の2つの壁部には、それぞれ上記デガス室13および水素ラジカル処理装置14が接続され、デガス室13と水素ラジカル処理装置14との間の壁部には、上記受け渡し室15が接続されている。すなわち、デガス室13、水素ラジカル処理装置14および受け渡し室15は、いずれも第1の真空搬送室11と第2の真空搬送室21との間に設けられ、受け渡し室15の両側にデガス室13および水素ラジカル処理装置14が配置されている。さらに、第2の真空搬送室21の搬入出セクション30側の2つの壁部には、それぞれ大気搬送および真空搬送可能なロードロック室24a,24bが接続されている。
【0117】
Ru膜成膜装置22、Cu系膜成膜装置23、デガス室13、水素ラジカル処理装置14、およびロードロック室24a,24bは、第2の真空搬送室21の各壁部にゲートバルブGを介して接続され、これらは対応するゲートバルブを開放することにより第2の真空搬送室21と連通され、対応するゲートバルブGを閉じることにより第2の真空搬送室21から遮断される。また、受け渡し室15はゲートバルブを介さずに第2の真空搬送室21に接続されている。
【0118】
第2の真空搬送室21内は所定の真空雰囲気に保持されるようになっており、その中には、Ru膜成膜装置22、Cu系膜成膜装置23、デガス室13、水素ラジカル処理装置14、ロードロック室24a,24b、および受け渡し室15に対してウエハWの搬入出を行う第2の搬送機構26が設けられている。この第2の搬送機構26は、第2の真空搬送室21の略中央に配設されており、回転および伸縮可能な回転・伸縮部27を有し、その回転・伸縮部27の先端にウエハWを支持する2つの支持アーム28a,28bが設けられており、これら2つの支持アーム28a,28bは互いに反対方向を向くように回転・伸縮部27に取り付けられている。
【0119】
搬入出セクション30は、上記ロードロック室24a,24bを挟んで第2の処理セクション20と反対側に設けられており、ロードロック室24a,24bが接続される大気搬送室31を有している。大気搬送室31の上部には清浄空気のダウンフローを形成するためのフィルター(図示せず)が設けられている。ロードロック室24a,24bと大気搬送室31との間の壁部にはゲートバルブGが設けられている。大気搬送室31のロードロック室24a,24bが接続された壁部と対向する壁部には、被処理基板としてのウエハWを収容するキャリアCを接続する2つの接続ポート32,33が設けられている。また、大気搬送室31の側面にはウエハWのアライメントを行うアライメント室34が設けられている。大気搬送室31内には、キャリアCに対するウエハWの搬入出およびロードロック室24a,24bに対するウエハWの搬入出を行う大気搬送用搬送機構36が設けられている。この大気搬送用搬送機構36は、2つの多関節アームを有しており、キャリアCの配列方向に沿ってレール38上を走行可能となっていて、それぞれの先端のハンド37上にウエハWを載せてその搬送を行うようになっている。
【0120】
Cuめっき処理部102は、Cuめっき装置およびそれに付随するアニール装置等からなっており、CMP処理部103は、CMP装置およびそれに付随する装置からなっている。
【0121】
制御部104は、図29に示すように、ドライ成膜処理部101、Cuめっき処理部102、CMP処理部103の各構成部、ならびに第1および第2のキャリア搬送装置105,106の制御を実行するマイクロプロセッサ(コンピュータ)からなるプロセスコントローラ41と、オペレータがCu配線製造システム100を管理するためにコマンドの入力操作等を行うキーボードや、Cu配線製造システム100の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなるユーザーインターフェース42と、Cu配線製造システム100で実行される処理をプロセスコントローラ41の制御にて実現するための制御プログラムや、各種データ、および処理条件に応じて処理装置の各構成部に処理を実行させるためのプログラムすなわち処理レシピが格納された記憶部43とを備えている。なお、ユーザーインターフェース42および記憶部43はプロセスコントローラ41に接続されている。
【0122】
上記レシピは記憶部43の中の記憶媒体43aに記憶されている。記憶媒体は、ハードディスクであってもよいし、CDROM、DVD等の可搬性ディスクや、フラッシュメモリ等の半導体メモリであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。
【0123】
そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース42からの指示等にて任意のレシピを記憶部43の記憶媒体43aから呼び出してプロセスコントローラ41に実行させることで、プロセスコントローラ41の制御下で、Cu配線製造システム100での所望の処理が行われる。
【0124】
次に、このようなCu配線製造システム100の動作について説明する。
エッチングおよびアッシング後のウエハが収容されたキャリアCがドライ成膜処理部101に搬送され、所定位置にセットされる。そしてキャリアCから大気搬送用搬送機構36によりトレンチやビアなどの凹部を有する所定パターンが形成されたウエハWを取り出し、アライメント室34でアライメントを行った後、ロードロック室24aまたは24bに搬送する。そのロードロック室を第2の真空搬送室21と同程度の真空度に減圧した後、第2の搬送機構26によりロードロック室のウエハWを取り出し、第2の真空搬送室21を介してデガス室13に搬送し、ウエハWのデガス処理を行う。その後、第1の搬送機構16によりデガス室13のウエハWを取り出し、第1の真空搬送室11を介してMnOx膜成膜装置12a、12b、12c、12dのいずれかに搬入し、上述したような自己形成バリア膜を形成するためのMnOx膜を成膜する。
【0125】
MnOx膜の形成後、第1の搬送機構16によりウエハWを取り出し、水素ラジカル処理装置14に搬送し、MnOx膜表面の水素ラジカル処理を行う。その後、第2の搬送機構26により水素ラジカル処理装置14からウエハWを取り出し、第2の真空搬送室を介してRu膜成膜装置22に搬送し、上述したようなRu膜を被濡れ層として成膜する。Ru膜成膜後、第2の搬送機構26によりRu膜成膜装置22からウエハWを取り出し、Cu系膜成膜装置23に搬送し、iPVDにより上述したようなCu系膜を成膜してトレンチやビアなどの凹部へのCu系膜(CuまたはCu合金)の埋め込みを行う。なお、受け渡し室15は、ウエハWを一時的に保持するバッファとして用いることができる。
【0126】
Cu系膜の形成後、第2の搬送機構26によりウエハWをロードロック室24aまたは24bに搬送し、そのロードロック室を大気圧に戻した後、大気搬送用搬送機構36によりCu系膜が形成されたウエハWを取り出し、キャリアCに戻す。このような処理をキャリア内のウエハWの数の分だけ繰り返す。
【0127】
その後、Cu系膜成膜まで終了したウエハWが収容されたキャリアCを第1のキャリア搬送装置105によりCuめっき処理部102へ搬送し、Cu系膜まで成膜したウエハWに積み増しCu層をCuめっきで形成し、次いでアニールを行う。
【0128】
その後、積み増しCu層の形成まで終了したウエハWが収容されたキャリアCを第2のキャリア搬送装置106によりCMP処理部103へ搬送し、CMP処理を行う。
【0129】
Cu配線製造システム100によれば、エッチング/アッシング後のウエハに対し、デガスからCMP処理までを一括して行うことができる。また、ドライ成膜処理部101では、エッチングおよびアッシング後のウエハに対し、大気開放することなく真空中でデガス処理、MnOx膜成膜処理、水素ラジカル処理、Ru膜成膜処理、Cu系膜成膜処理を行うので、これらの工程中での膜の酸化を防止することができ、高性能のCu配線を製造することができる。
【0130】
[iPVD装置]
次に、上記Cu配線製造システム100においてCu系膜成膜装置23に好適に用いることができるiPVD装置についてICP(Inductively Coupled Plasma)型プラズマスパッタ装置を例にとって説明する。図30は、ICP型プラズマスパッタ装置を示す断面図である。
【0131】
図30に示すように、このPVD装置は、アルミニウム等の金属からなる接地された処理容器61を有しており、処理容器61の底部62には排気口63およびガス導入口67が設けられている。排気口63には排気管64が接続されており、排気管64には圧力調整を行うスロットルバルブ65および真空ポンプ66が接続されている。また、ガス導入口67にはガス供給配管68が接続されており、ガス供給配管68には、Arガス等のプラズマ励起用ガスや他の必要なガス例えばNガス等を供給するためのガス供給源69が接続されている。また、ガス供給配管68には、ガス流量制御器、バルブ等よりなるガス制御部70が介装されている。
【0132】
処理容器61内には、被処理基板であるウエハWを載置するための載置機構72が設けられる。この載置機構72は、円板状に成形された載置台73と、この載置台73を支持する中空筒体状の支柱74とを有している。載置台73は、例えばアルミニウム合金等の導電性材料よりなり、支柱74を介して接地されている。載置台73の中には冷却ジャケット75が設けられており、その中に冷媒が供給されて載置台を冷却するようになっている。また、載置台73内には冷却ジャケット75の上に絶縁材料で被覆された抵抗ヒーター97が埋め込まれている。そして、冷却ジャケット75への冷媒の供給および抵抗ヒーター97への給電を制御することにより、ウエハ温度を所定の温度に制御できるようになっている。
【0133】
載置台73の上面側には、誘電体部材76aの中に電極76bが埋め込まれて構成されたウエハWを静電吸着するための静電チャック76が設けられている。また、支柱74の下部は、処理容器61の底部62の中心部に形成された挿通孔77を貫通して下方へ延びている。支柱74は昇降機構(図示せず)により昇降可能となっており、これにより載置機構72の全体が昇降される。
【0134】
支柱74を囲むように、伸縮可能な金属ベローズ78が設けられている。金属ベローズ78の上端は載置台73の下面に接合され、また下端は処理容器61の底部62の上面に接合されており、処理容器61内の気密性を維持しつつ載置機構72の昇降移動を許容するようになっている。
【0135】
底部62には、上方に向けて例えば3本(2本のみ図示)の支持ピン79が垂直に設けられており、また、この支持ピン79に対応させて載置台73にピン挿通孔80が形成されており、載置台73を降下させた際に、ピン挿通孔80を貫通した支持ピン79の上端部でウエハWを受けて、そのウエハWを外部より侵入する搬送アーム(図示せず)との間で移載することが可能となっている。処理容器61の下部側壁には、搬送アームを侵入させるために搬出入口81が設けられ、この搬出入口81には、開閉可能になされたゲートバルブGが設けられている。
【0136】
上述した静電チャック76の電極76bには、給電ライン82を介してチャック用電源83が接続されており、このチャック用電源83から電極76bに直流電圧を印加することにより、ウエハWが静電力により吸着保持される。また給電ライン82にはバイアス用高周波電源84が接続されており、給電ライン82を介して静電チャック76の電極76bに対してバイアス用の高周波電力を供給し、ウエハWにバイアス電力が印加されるようになっている。この高周波電力の周波数は、400kHz〜60MHzが好ましく、例えば13.56MHzが採用される。
【0137】
一方、処理容器61の天井部には、誘電体からなる透過板86がシール部材87を介して気密に設けられている。そして、この透過板86の上部に、処理容器61内の処理空間Sにプラズマ励起用ガスをプラズマ化してプラズマを発生するためのプラズマ発生源88が設けられる。
【0138】
プラズマ発生源88は、透過板86に対応して設けられた誘導コイル90を有しており、この誘導コイル90には、プラズマ発生用の例えば13.56MHzの高周波電源91が接続されて、透過板86を介して処理空間Sに高周波電力が導入され誘導電界を形成するようになっている。
【0139】
透過板86の直下には、導入された高周波電力を拡散させる金属製のバッフルプレート92が設けられる。このバッフルプレート92の下方には、上記処理空間Sの上部側方を囲むようにして例えば断面が内側に向けて傾斜した環状(截頭円錐殻状)をなすCuまたはCu合金からなるターゲット93が設けられており、このターゲット93にはArイオンを引きつけるための直流電力を印加するターゲット用の電圧可変の直流電源94が接続されている。なお、直流電源に代えて交流電源を用いてもよい。
【0140】
また、ターゲット93の外周側には、磁石95が設けられている。ターゲット93はプラズマ中のArイオンによりスパッタされ、CuまたはCu合金が放出されるとともに、これらの多くはプラズマ中を通過する際にイオン化される。
【0141】
またこのターゲット93の下部には、処理空間Sを囲むようにして例えばアルミニウムや銅よりなる円筒状の保護カバー部材96が設けられている。この保護カバー部材96は接地されている。保護カバー部材96の内側の端部は、載置台73の外周側を囲むようにして設けられている。
【0142】
このように構成されるPVD装置においては、ウエハWを処理容器61内へ搬入し、このウエハWを載置台73上に載置して静電チャック76により吸着し、制御部104の制御下で以下の動作が行われる。このとき、載置台73は、熱電対(図示せず)で検出された温度に基づいて、冷却ジャケット75への冷媒の供給および抵抗ヒーター97への給電を制御することにより温度制御される。
【0143】
まず、真空ポンプ66を動作させることにより所定の真空状態にされた処理容器61内に、ガス制御部70を操作して所定流量でArガスを流しつつスロットルバルブ65を制御して処理容器61内を所定の真空度に維持する。その後、可変直流電源94から直流電力をターゲット93に印加し、さらにプラズマ発生源88の高周波電源91から誘導コイル90に高周波電力(プラズマ電力)を供給する。一方、バイアス用高周波電源84から静電チャック76の電極76bに対して所定のバイアス用の高周波電力を供給する。
【0144】
これにより、処理容器61内においては、誘導コイル90に供給された高周波電力によりアルゴンプラズマが形成されてアルゴンイオンが生成され、これらイオンはターゲット93に印加された直流電圧に引き寄せられてターゲット93に衝突し、このターゲット93がスパッタされて粒子が放出される。この際、ターゲット93に印加する直流電圧により放出される粒子の量が最適に制御される。
【0145】
また、スパッタされたターゲット93からの粒子はプラズマ中を通る際に多くはイオン化され、イオン化されたものと電気的に中性な中性原子とが混在する状態となって下方向へ飛散して行く。このとき、この処理容器61内の圧力をある程度高くし、これによりプラズマ密度を高めることにより、粒子を高効率でイオン化することができる。この時のイオン化率は高周波電源91から供給される高周波電力により制御される。
【0146】
イオンは、バイアス用高周波電源84から静電チャック76の電極76bに印加されたバイアス用の高周波電力によりウエハW面上に形成される厚さ数mm程度のイオンシースの領域に入ると、強い指向性をもってウエハW側に加速するように引き付けられてウエハWに堆積する。これにより、Cu系膜の成膜処理が行われる。
【0147】
Cu膜成膜の際には、ウエハ温度を高く(65〜400℃)設定するとともに、バイアス用高周波電源84から静電チャック76の電極76bに対して印加されるバイアスパワーを調整してCuの成膜とArによるエッチングを調整して、Cuの流動性を良好にすることにより、開口が狭いトレンチやビアであっても良好な埋め込み性でCuを埋め込むことができる。
【0148】
[ALD装置]
次に、上記Cu配線製造システム100に用いられるMnOx膜成膜装置12a,12b,12c,12dに好適に用いることができるALD装置について説明する。図31は、ALD装置の一例を示す断面図であり、ALDによりMnOx膜を成膜するものである。なお、このALD装置は、CVD装置としてRu膜成膜装置22に用いることも可能である。
【0149】
図31に示すように、このALD装置は処理容器110を有する。処理容器110内にはウエハWを水平に載置するための載置台111が設けられている。載置台111内にはウエハの温調手段となるヒーター111aが設けられている。また、載置台111には昇降機構111bにより昇降自在な3本の昇降ピン111c(2本のみ図示)が設けられており、この昇降ピン111cを介してウエハ搬送手段(図示せず)と載置台111との間でウエハWの受け渡しが行われる。
【0150】
処理容器110の底部には排気管112の一端側が接続され、この排気管112の他端側には真空ポンプ113が接続されている。処理容器110の側壁には、ゲートバルブGにより開閉される搬送口114が形成されている。
【0151】
処理容器110の天井部には載置台111に対向するガスシャワーヘッド115が設けられている。ガスシャワーヘッド115はガス室115aを備え、ガス室115aに供給されたガスは複数設けられたガス吐出孔115bから処理容器110内に供給される。
【0152】
ガスシャワーヘッド115には、マンガン化合物含有ガスをガス室115aに導入するためのマンガン化合物ガス供給配管系116が接続される。マンガン化合物ガス供給配管系116は、ガス供給路116aを備え、ガス供給路116aの上流側には、バルブ116b、マンガン化合物ガス供給源117、マスフローコントローラ116cが接続されている。マンガン化合物ガス供給源117からは、マンガン化合物含有ガスがバブリング法により供給される。バブリングのためのキャリアガスとしてはArガス等を用いることができる。このキャリアガスはパージガスとしても機能する。
【0153】
さらに、ガスシャワーヘッド115には、酸素含有ガスをガス室115aに導入するための酸素含有ガス供給配管系118が接続される。酸素含有ガス供給配管系118もまたガス供給路118aを備えており、ガス供給路118aの上流側に、バルブ118b、マスフローコントローラ118cを介して酸素含有ガス供給源119が接続されている。酸素含有ガス供給源119からは、酸素含有ガスとして、例えば、HOガス、NOガス、NOガス、NOガス、Oガス、Oガス等が供給される。なお、酸素含有ガス供給配管系118は、Arガス等をパージガスとして供給可能となっている。
【0154】
なお、本実施形態においては、マンガン化合物含有ガスと酸素含有ガスとがガスシャワーヘッド115のガス室115aを共有する構成となっており、ガス吐出孔115bから処理容器110内に交互に供給されるようになっているが、これに限らず、ガスシャワーヘッド115においてマンガン化合物含有ガス専用のガス室と酸素含有ガス専用のガス室とが独立して設けられ、マンガン化合物含有ガスと酸素含有ガスとが別々に処理容器110内に供給されるようになっていてもよい。
【0155】
このように構成されるALD装置においては、搬送口114からウエハWを処理容器110内に搬送して、所定温度に温調された載置台111に載置する。そして、チャンバー110内を所定の圧力に調整しつつ、マンガン化合物ガス供給配管系116からのマンガン化合物含有ガスの供給と、酸素含有ガス供給配管系118からの酸素含有ガスの供給とを、処理容器110内のパージを挟んで複数回繰り返すALD法により、所定の膜厚のMnOx膜を成膜する。成膜終了後、搬送口114から処理後のウエハWを搬出する。
【0156】
[水素ラジカル処理装置]
次に、上記Cu配線製造システム100に用いられる水素ラジカル処理装置の一例について説明する。
図32は、水素ラジカル処理装置の一例を示す断面図であり、リモートプラズマ処理により処理容器内に水素ラジカルを生成するものを例にとって説明する。
【0157】
図32に示すように、この水素ラジカル処理装置は、例えばアルミニウム等により筒体に形成された水素ラジカル処理を行うための処理容器141と、処理容器141の上方に設けられた誘電体からなる円筒状のベルジャー142とを有している。ベルジャー142は処理容器141よりも小径であり、処理容器141の壁部とベルジャー142の壁部とは気密に形成され、それらの内部が連通している。
【0158】
処理容器141の内部には、ウエハWを載置する例えばAlN等のセラミックスからなる載置台143が配置されており、この載置台143内にはヒーター144が設けられている。このヒーター144はヒーター電源(図示せず)から給電されることにより発熱する。載置台143には、ウエハ搬送用の3本のウエハ支持ピン(図示せず)が載置台143の表面に対して突没可能に設けられている。
【0159】
処理容器141の底部には、排気口151が設けられており、この排気口151には排気管152が接続されている。排気管152には圧力調整を行うスロットルバルブ153および真空ポンプ154が接続されており、処理容器141およびベルジャー142内が真空引き可能となっている。一方、処理容器141の側壁には、ウエハ搬出入口161が形成されており、ウエハ搬出入口161はゲートバルブGにより開閉可能となっている。そして、ゲートバルブGを開放した状態でウエハWの搬入出が行われる。
【0160】
ベルジャー142の天壁中央には、ガス導入口171が形成されている。ガス導入口171にはガス供給配管172が接続されており、ガス供給配管172には水素ラジカル処理のために用いられる水素ガスや不活性ガス等を供給するためのガス供給源173が接続されている。また、ガス供給配管172には、ガス流量制御器、バルブ等よりなるガス制御部174が介装されている。
【0161】
ベルジャー142の周囲には、アンテナとしてコイル181が巻回されている。コイル181には高周波電源182が接続されている。そして、ベルジャー142内に水素ガスおよび不活性ガスを供給しつつコイル181に高周波電力が供給されることにより、ベルジャー142内に誘導結合プラズマが生成され、処理容器141内でウエハWのMnOx膜に対して水素プラズマ処理が施される。
【0162】
このように構成される水素ラジカル処理装置においては、ゲートバルブGを開けて、ウエハWを載置台143上に載置した後、ゲートバルブGを閉じ、処理容器141およびベルジャー142内を真空ポンプ154により排気してスロットルバルブ153によって処理容器141およびベルジャー142内を所定の圧力に調整するとともに、ヒーター144により載置台143上のウエハWを所定温度に加熱する。そして、ガス供給源173からガス供給配管172およびガス供給口171を介して処理容器141内に水素ラジカル処理のために用いられる水素ガスや不活性ガス等を供給するとともに、高周波電源182からコイル181に高周波電力を供給することにより、ベルジャー142内に水素ガスや不活性ガス等が励起されて誘導結合プラズマが生成され、その誘導結合プラズマが処理容器141内に導入される。そして、生成したプラズマ中の水素ラジカルにより、ウエハWのMnOx膜に対して水素プラズマ処理が施される。
【0163】
<他の適用>
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、ドライ成膜処理部としては、Cu系膜成膜までを図28のような一体となった処理部で行うものに限らず、デガス処理からMnOx膜成膜処理までの部分と、水素ラジカル処理からRu膜成膜処理、Cu系膜成膜処理に至るまでの処理部に分かれていてもよい。MnOx膜成膜後にウエハを大気に開放したとしても、水素ラジカル処理によりその影響をリセットすることが可能なためである。
【0164】
また、上記実施形態では、トレンチとビアとを有するウエハに本発明の方法を適用した例を示したが、トレンチのみを有する場合でも、ビアのみを有する場合でも本発明を適用できることはいうまでもない。また、シングルダマシン構造、デュアルダマシン構造の他、三次元実装構造等、種々の構造のデバイスにおけるCu配線の製造に適用することができる。
【0165】
さらに、上記実施形態では、被処理基板として半導体ウエハを例にとって説明したが、半導体ウエハにはシリコンのみならず、GaAs、SiC、GaNなどの化合物半導体も含まれ、さらに、半導体ウエハに限定されず、液晶表示装置等のFPD(フラットパネルディスプレイ)に用いるガラス基板や、セラミック基板等にも本発明を適用することができることはもちろんである。
【符号の説明】
【0166】
12a,12b,12c,12d;MnOx膜成膜装置
13;デガス室
14;水素ラジカル処理装置
22;Ru膜成膜装置
23;Cu系膜成膜装置
100;Cu配線製造システム
101;ドライ成膜処理部
102;Cuめっき処理部
103;CMP処理部
104;制御部
201;下部構造
202;層間絶縁膜
203;トレンチ
204;ビア
205;MnOx膜
206;Ru膜
207;Cu系膜
208;積み増しCu層
209;Cu配線
W;半導体ウエハ(基板)
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