(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記負荷変動安定化回路のインピーダンスと、前記接続部から前記処理容器側を見た際の負荷インピーダンスとが、整合周波数に対して並列共振を起こさないように設定される、
請求項5に記載のプラズマ処理装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く。
(はじめに)
PEALD(Plasma Enhanced Atomic Layer Deposition)等、二つ以上の工程を高速に切り替えて成膜する方法では、高い特性の成膜が可能となるためその重要度が増している。サイクル中の一回のプラズマ生成時間が数秒と短く、かつ、プロセス中の圧力が各工程間で大きく変動する場合、高速なプラズマ着火と、処理容器内の圧力の安定化とをどのように実現するかが課題となる。
【0012】
そこで、本実施形態にかかるプラズマ処理装置は、大きな圧力変動がある環境において、各工程を高速に切り替えて成膜する場合、プラズマ側での高周波の反射を抑えてプラズマに十分なパワーを供給し、安定してプラズマを生成することを実現する。
【0013】
そのために、本実施形態では、以下の三つの条件を満たすプラズマ処理装置を提案する。
1.大きな圧力変動がある中で高速かつ安定的に(大きな高周波の反射がなく)、プラズマをオン及びオフできること
2.13MHz以上の周波数の高周波電力を供給しても負荷インピーダンスの変動を抑制できること
3.システムが安価にできること(高性能の整合器等を使わない)
以下では、上記条件を満たすプラズマ処理装置の構成の一例について、
図1を参照しながら説明する。
【0014】
[プラズマ処理装置の構成]
プラズマ処理装置1は、周波数可変電源10、負荷変動安定化回路20、給電線30及び処理容器40を有する。本実施形態では、高周波電力が供給されるプラズマ処理装置1に容量結合型プラズマ処理装置が使用される。
【0015】
ただし、本実施形態にかかるプラズマ処理装置1は、容量結合型プラズマ(CCP:Capacitively Coupled Plasma)装置だけでなく、誘導結合型プラズマ(ICP:Inductively Coupled Plasma)等を使用することができる。
【0016】
また、本明細書では、プラズマ処理対象として半導体ウェハWについて説明するが、プラズマ処理対象はこれに限らない。プラズマ処理対象の他の例としては、LCD(Liquid Crystal Display)、FPD(Flat Panel Display)等に用いられる各種基板や、フォトマスク、CD基板、プリント基板等が挙げられる。
【0017】
周波数可変電源10は、所望する一定のパワーに制御された13MHz以上の高周波の電力を供給する電源の一例である。周波数可変電源10は、出力周波数を変化させることでプラズマ側の負荷インピーダンスとの整合を行う機能を有する。なお、高周波の電力を供給する電源としては、周波数可変電源10に替えて、出力周波数を変化させる機能を有しない高周波電源を使用してもよい。
【0018】
処理容器40には、処理容器40に設けられた電極もしくはプラズマ励起用アンテナ(ICPの場合)に周波数可変電源10から所定の周波数の高周波電力が供給される。処理容器40の内部に供給されたガスは、高周波電力により電離及び解離し、これにより、上部電極101と下部電極102との間のプラズマ処理空間にプラズマが形成される。下部電極102に載置された半導体ウェハWには、プラズマによりエッチングや成膜等の微細加工が施される。
【0019】
周波数可変電源10と処理容器40との間には、電気的な基点となる接続部Cが設けられている。負荷変動安定化回路20は、接続部Cにて、プラズマ処理が行われる処理容器40と並列に接続され、接続部Cからプラズマ側を見た際の負荷インピーダンス(以下、「プラズマ側回路の負荷インピーダンス」又は「プラズマ側回路の負荷」ともいう。)の変動を抑制する。
図1の例では、プラズマ側回路は、接続部Cからプラズマまでの給電線30を含む処理容器側負荷と、処理容器側負荷と並列接続された形で配置された負荷変動安定化回路20を含む構成を指す。
【0020】
ここで、処理容器側負荷とは、プラズマの負荷インピーダンスのみならず、プラズマから接続部Cまでの給電線30のインピーダンスを含めた負荷をいう。通常、プラズマはC(キャパシタンス)成分である。ここで、高周波の給電ラインである給電線30は金属バー(銅製)により構成されているが、金属バー自体がL(インダクタンス)成分を持っている。このため、どこを基点にとるかによっては、処理容器側負荷の符号が変わってしまう可能性がある。そこで、本実施形態では、周波数可変電源10と接続された給電ラインにおける処理容器40と負荷変動安定化回路20との接続部Cを、プラズマ側を見た際の負荷インピーダンス、すなわち、プラズマ側負荷および処理容器側負荷の基点とする。これにより、処理容器側負荷は、プラズマの負荷インピーダンスにプラズマから接続部Cまでの給電線30のインピーダンスを加えた値となる。
【0021】
図2に示すように、負荷変動安定化回路20は、可変コンデンサ21及びコイル22の少なくともいずれか一方、又はその組み合わせから構成されている。
図2(a)及び
図2(b)では、負荷変動安定化回路20は、可変コンデンサ21及びコイル22から構成されている。可変コンデンサ21及びコイル22は、
図2(a)に示すように直列に接続されていてもよいし、
図2(b)に示すように並列に接続されている。
【0022】
また、負荷変動安定化回路20を構成する素子は、可変素子であってもよく、固定素子であってもよい。つまり、負荷変動安定化回路20を構成する素子は、可変コンデンサ21やコイル22に限られず、固定のコンデンサや可変のコイルであってもよく、それらの組合わせであってもよい。
【0023】
負荷変動安定化回路20に可変コンデンサ及び可変コイルを使用する場合、固定素子よりも性能が高くなるが、コストも高くなる。また、可変コンデンサ及び可変コイルでは、ユーザによる設定操作が必要になり、煩雑な面がある。そこで、例えば、プロセスレシピ(圧力/パワー/ガス系が設定されているレシピ)によらず、ある程度一定のインピーダンスで、プラズマ側の負荷変動を抑制できるのであれば固定素子で構成されてもよい。
【0024】
また、プロセスレシピ毎に調整が必要な場合等、負荷変動安定化回路20のコイル又はコンデンサの少なくとも一方を可変にしてもよい。この場合の可変素子には、高速な変動は不要であるため、従来からあるモータ駆動で可変素子を動作させることができる。
【0025】
[負荷変動安定化回路]
次に、負荷変動安定化回路20の働きについて詳しく説明する。
図3に示すように、接続部Cから並列に接続される負荷変動安定化回路20のインピーダンスZa及び処理容器側回路の負荷インピーダンスZp(すなわち、接続部Cからプラズマを含む処理容器側を見た際の負荷インピーダンス)は以下の式で示される。
【0026】
負荷変動安定化回路のインピーダンス Za=Ra+iXa
処理容器側の負荷インピーダンス Zp=Rp+iXp
負荷変動安定化回路のインピーダンスと処理容器側の負荷インピーダンスとを合計した、トータルのインピーダンス(プラズマ側の負荷)Ztotは以下の式で示される。
【0027】
トータルのインピーダンス(プラズマ側の負荷) Ztot=Rtot+iXtot
(ア)本実施形態にかかる負荷変動安定化回路20のR(抵抗)成分であるRaは、極力小さいことが好ましい。負荷変動安定化回路20のRaが大きいと、負荷変動安定化回路20における高周波電力の損失が大きくなり、プラズマ側に供給される高周波電力が少なくなり、パワー効率が低下するためである。
【0028】
(イ)また、本実施形態にかかる負荷変動安定化回路20のX(リアクタンス)成分であるXaは、処理容器側の負荷インピーダンスのX成分であるXpと同一符号であって、かつ、負荷変動安定化回路20のXaは、処理容器側回路の負荷インピーダンスのXpに対して同一又は所定の大きさの範囲内の値である。また、負荷変動安定化回路20のXaの符号と、処理容器側回路の負荷インピーダンスのXpの符号とは、いずれも正である。
【0029】
本実施形態にかかるプラズマ処理装置1では、
図3において、接続部Cの右側に位置する点線で囲まれた処理容器側回路の負荷と、接続部Cの左側に位置する点線で囲まれた負荷変動安定化回路20側の負荷とを同一符号にすることが重要である。また、負荷変動安定化回路20のXaが、処理容器側のXpに対して同一又は所定範囲の大きさである。これにより、高性能でコストが高い整合回路を設けなくても、負荷変動安定化回路20によってプラズマ側の負荷変動を小さくすることができる。以下では、負荷変動安定化回路20と処理容器側の負荷のX成分が同一符号である必要性について説明する。
【0030】
[負荷変動安定化回路とプラズマ側の負荷のX成分が同一符号である必要性]
処理容器側回路の負荷インピーダンスZpと負荷変動安定化回路20のインピーダンスZaとを加算したトータルのインピーダンスZtotは以下の式(1)により表される。
【0032】
式(1)に基づき、処理容器側回路の負荷インピーダンスZpのX成分であるXp、及び負荷変動安定化回路20のインピーダンスZaのX成分であるXaが異符号の場合、トータルのインピーダンスZtotの第1項及び第2項の分母が小さくなる(つまり、(Xp+Xa)
2が小さくなる)。これにより、相対的に第1項及び第2項の分子が大きくなる。そのため、プラズマ側回路の負荷インピーダンスZpのうちのR成分のRpやX成分のXpが変化した場合、トータルのインピーダンスZtotは、負荷変動安定化回路20を付加しても大きく変動してしまう。
【0033】
以下に式(1)を簡略化した式(2)を導く。なお、以下の式(1)を簡略化した式(2)は、説明の便宜のための簡略化であり、実際のインピーダンスZtot、Za、Zpは、簡略化していない式(1)に基づき算出される。
【0034】
上記(ア)の条件に基づき、負荷変動安定化回路20は、低損失である。これにより、負荷変動安定化回路20のRaがほぼ「0」に等しいとすることができる。よって、式(1)の負荷変動安定化回路20のインピーダンスZaの実数成分Raに「0」を代入する。
【0035】
処理容器側回路の負荷インピーダンスZpの実数成分Rpは、虚数成分Xpと負荷変動安定化回路の虚数成分Xaとの和よりも非常に小さい。よって、Rp<<Xp+Xaの式が成り立つ。以上の条件に基づき式(1)から式(2)が導かれる。
【0037】
周波数可変電源10は、処理容器側回路の負荷インピーダンスZpの虚数成分Xpが変化しても追従できるが、処理容器側回路の負荷インピーダンスZpの実数成分Rpが変化すると追従できずに反射波が発生する。よって、式(2)に基づき、周波数可変電源10は、第2項に示すプラズマ側の負荷変動には追従できるとして、ここでは第1項のみに着目して説明する。ただし、第1項のみに着目して説明を行うのは、便宜上、説明をわかり易くするためのものであり、実際の制御では第2項も含めた処理容器側回路の負荷インピーダンスZpに応じて負荷変動安定化回路20が、プラズマ側負荷の変動を抑制するように機能する。
【0038】
処理容器側回路の負荷インピーダンスZpの実数成分Rpが5割増えた場合、負荷変動安定化回路20を含めたトータルのインピーダンスZtotは、
{Xa
2/(Xp+Xa)
2}×0.5Rp
だけ増えることになる。
【0039】
負荷変動安定化回路20のインピーダンスZaの虚数成分Xaが、処理容器側回路の負荷インピーダンスZpの虚数成分Xpと「同一符号」、かつ、処理容器側回路の負荷インピーダンスZpの虚数成分Xpに対して0.5倍から1.5倍の範囲内であれば、プラズマ側の負荷の変動幅を小さくできる。負荷変動安定化回路20のインピーダンスZaが小さいと、ほとんどの電流が負荷変動安定化回路20に流れ、処理容器40に電流が流れなくなり、プラズマ側で消費されるパワーが少なくなり、パワー効率が低下する。
【0040】
図4は、処理容器側回路の負荷インピーダンスZpの実数成分Rpが1Ωから1.5Ωに5割増えた場合、負荷変動安定化回路20を含めたトータルのインピーダンスZtotのうちの実数成分Rtotの変化の一例を示す。処理容器側回路の負荷インピーダンスZpの虚数成分Xpを−100Ω、負荷変動安定化回路20のインピーダンスZaの虚数成分Xaを−100Ωとした。
【0041】
トータルのインピーダンスZtotの実数成分Rtotは、式(1)に基づき算出されたものである。これによれば、処理容器側回路の負荷インピーダンスZpの実数成分Rpが1Ωから1.5Ωへ5割増えた場合であっても、トータルのインピーダンスZtotの実数成分Rtotの変動は、処理容器側回路の負荷インピーダンスZpの実数成分Rpの変動の1/4に抑制されている。以上から、負荷変動安定化回路20によりプラズマ側の負荷インピーダンスZpの変動を抑制できることがわかる。
【0042】
図5は、負荷変動安定化回路20のリアクタンス依存及びパワー効率の一例を示すものである。パワー効率は、周波数可変電源10から出力されたトータルのパワーのうちプラズマ側に入力されたパワーの割合をいう。なお、本実施形態にかかる周波数可変電源10は、パワーを一定に制御する。例えば、周波数可変電源10から100Wに制御された高周波電力が出力されると、
図6(a)に示すように、負荷変動安定化回路20がない場合であって、プラズマ側の負荷が1Ωの場合、処理容器40(プラズマ)には、10Aの電流が流れる。周波数可変電源10に接続された給電ラインにも10Aの電流が流れる。
【0043】
図6(b)に示すように、インピーダンスが1Ωに設定された負荷変動安定化回路20を処理容器側回路に並列に接続した場合、パワー一定制御により周波数可変電源10から100Wの高周波電力が出力されると、負荷変動安定化回路20には10Aの電流が流れる。負荷変動安定化回路20では抵抗Ra≒0であるため、パワー損失はほぼ0であり、パワー一定制御の場合、処理容器側回路では、プラズマ処理装置1に100W、10Aの電流が流れる。つまり、パワー一定制御では、負荷変動安定化回路20を処理容器側回路に並列に接続した場合、周波数可変電源10に接続された給電ラインに流れる電流は、負荷変動安定化回路20が並列に接続されていなかったときの10Aから20Aに増えることになるが、実際に消費されるパワーは、負荷変動安定化回路20が接続されていない場合と同等の100Wということになる。
【0044】
以上に説明した周波数可変電源10のパワー一定制御に基づき、負荷変動安定化回路20のリアクタンス依存と負荷変動の抑制効果について
図5(a)及び
図5(b)に示し、パワー効率について
図5(c)に示す。
【0045】
図5(a)に示すトータルのインピーダンスZtotの実数成分Rtotは、処理容器側回路の負荷インピーダンスZpの実数成分Rpを1Ωから1.5Ωに変化させた場合に、式(1)に基づき算出されたものである。その際、処理容器側回路の負荷インピーダンスZpの虚数成分Xpは−100Ω、負荷変動安定化回路20のインピーダンスZaの実数成分Raは0.01Ωに設定している。
【0046】
まず、
図5(c)に示すように、負荷変動安定化回路20のインピーダンスZaの虚数成分Xaが「0」及びその近傍の領域Aは、パワー効率が低いため使用できない。
【0047】
また、
図5(b)に示すトータルのインピーダンスZtotの実数成分Rtotの変化が激しい、すなわち、負荷変動安定化回路20のインピーダンスZaの虚数成分Xaと処理容器側回路の負荷インピーダンスZpの虚数成分Xpとの符号が逆の領域Bでは、インピーダンスの変動幅ΔRtotが大きく、負荷変動が逆に増大するため使用できない。
【0048】
また、
図7(a)に示すように、LC直列回路(コンデンサとコイルとが直列に接続)の場合、周波数fが0に近い領域ではC成分によりLC直列回路のリアクタンスXがマイナス側に∞になる。また、周波数fが高い領域ではL成分によりリアクタンスXがプラス側に∞になる。共振周波数ではL成分とC成分のXの均衡がとれて、X=0となる。
【0049】
よって、
図5(a)から、負荷変動安定化回路20の虚数成分Xaとしては、処理容器側回路の虚数成分Xpと同符号であり、また、虚数成分Xaは、虚数成分Xpに対して0.5倍から1.5倍の範囲内であることが好ましいことがわかる。
【0050】
以上から、パワー効率が高い領域であって、インピーダンスの変化が緩やかな領域、すなわち、負荷変動安定化回路20のインピーダンスZaの虚数成分Xaが、プラズマ側回路の負荷インピーダンスZpの虚数成分Xpに対して同一又は所定範囲内にあるときが現実的な使用領域に相当する。本実施形態の場合、0.5Xp≦Xa≦1.5Xpが、負荷変動安定化回路20のインピーダンスZaの虚数成分Xaが、処理容器側回路の負荷インピーダンスZpの虚数成分Xpに対して同一又は所定範囲内にあるときであり、現実的な使用領域に相当する。
【0051】
一方、
図7(b)に示すように、LC並列回路(コンデンサとコイルとが並列に接続)の場合、周波数が0から共振周波数までの間はL成分によるLC並列回路のインピーダンスの虚数成分Xの変化が支配的である。また、共振周波数よりも周波数fが高い領域ではC成分によるインピーダンスの虚数成分Xの変化が支配的になる。なお、共振周波数におけるXは、L成分による+∞とC成分による−∞とが同居することになるので、負荷変動が非常に大きくなってしまう。このため、並列共振周波数においてインピーダンスの整合を行うことは不可能である。
【0052】
よって、周波数可変電源10の出力周波数は、負荷変動安定化回路20が有するインピーダンスZaと、接続部Cから処理容器側を見た際の負荷インピーダンスZpとが、整合周波数に対して並列共振を起こさないように設定される。
【0053】
[実験例]
最後に、周波数可変電源10から周波数13MHz±1MHz(可変)、パワー500Wの周波数電力を出力した場合の実験結果について、
図8を参照しながら説明する。この実験例では、プラズマ処理装置1は、処理容器40の内部に400sccmの0
2ガスを供給し、プラズマを生成する。また、本実験例では、処理容器40の内部の上部電極101及び下部電極102の間隔は15.8mmであった。本実験例では、直径300mmの半導体ウェハWが下部電極102上に載置され、上部電極101及び下部電極102の間のプラズマ処理空間に形成された0
2プラズマによって半導体ウェハWにプラズマ処理が施された。
【0054】
本実施形態のプラズマ処理装置1では、本来整合回路は不要である。周波数可変電源10を使用する場合には、実際には整合回路ではなく適切な定数をもつ固定の回路を用いる。しかしながら、本実験例では、実験の都合上、そのような適切な定数を持つ固定の回路を用意する替わりに、
図8に示す整合回路11の回路素子を固定して使用した。また、本来は、本実験において、高速な整合を示すために圧力を高速に変動させても周波数可変電源10が高速に追従し反射が小さく抑えられていることを示すべきではあるが、周波数可変電源10の高速性については一般に良く知られている。よって、周波数可変電源10の高速追従性ではなく、前述した二つの工程をサイクリックに実行するプロセスにおける圧力変動に対する追従性に着目して本実験を行った。
【0055】
実験の際、1.2T(160Pa)で反射波のパワー(Pr)が0Wとなるように整合回路11の素子を調整して固定する。その上で圧力を変動(上げる)するにつれ、整合を外れて高周波電力がプラズマ(処理容器)側に供給されずに反射し、反射波のパワー(Pr)が上昇する現象が出てくる。
【0056】
プラズマ処理装置1に負荷変動安定化回路20を取り付けていない場合(
図8の上図のグラフの回路なしの場合)、急激に反射波のパワー(Pr)が大きくなり圧力が6T(800Pa)及びその付近の場合、500Wの入力パワーに対して200Wもの反射が発生してしまう。
【0057】
これに対して、プラズマ処理装置1に負荷変動安定化回路20を取り付けた場合(
図8の上図のグラフの回路ありの場合)、圧力を8T(1067Pa)まで変化させても反射波のパワー(Pr)は50W以下に抑制できている。つまり、負荷変動安定化回路20を取り付けた場合、取り付けない場合に比べて反射波パワーの差分D1が200W程度抑制できることがわかった。
【0058】
この効果は、負荷変動安定化回路20に、処理容器側回路と同程度の電流が流れることによって実現できている。このため、負荷変動安定化回路20によるパワー損失が課題となる。そこで、
図8のシステム図のプラズマ側回路の給電線30と処理容器40との間に電流センサ200を取り付け、プラズマ側回路に流れる電流を評価することで、負荷変動安定化回路20によって発生するパワー損失の程度を評価した。その結果を、
図8の下図のグラフに示す。
【0059】
負荷変動安定化回路20によってパワー損失が発生している場合、プラズマで消費されるパワーはその分だけ減少し、結果的にプラズマ側回路に流れる電流値も減少する。実際に測定してみると、反射が0Wの領域(1.2T)では、負荷変動安定化回路の有無によって電流値に差異はない。これは、負荷変動安定化回路20によるパワー損失が十分に小さいことを意味する。
【0060】
その上で圧力を上げていくにつれ、負荷変動安定化回路20を取り付けた場合(回路あり)のほうが、取り付けない場合(回路なし)に比べて差分D2だけ多くの電流が流れていることが分かる。これは、負荷変動安定化回路20がない場合には大きな反射が発生して、パワーが処理容器側に伝わらず、電流が目減りしたことを示す。一方で負荷変動安定化回路20がある場合には反射が抑制できているため、負荷変動安定化回路20を取り付けない場合に比べてプラズマ側に多くの電流を流すことができている。
【0061】
このように、負荷変動安定化回路20を処理容器側回路に並列に接続することで大きな圧力変動があっても負荷変動安定化回路20を取り付けない場合に比べて反射波のパワーを抑制し、かつ負荷変動安定化回路20内でのパワー損失も問題にならないという状態を実現することができることが証明できた。
【0062】
本実施形態では、負荷変動安定化回路20をプラズマ側回路に並列に接続することで、負荷変動安定化回路20にも電流が流れているので、周波数可変電源10から見た場合には、プラズマの生成以外に消費されているパワーも存在する。しかしながら、プラズマの生成以外に消費されたパワーは反射された電力に比べれば問題にならない程少量である。よって、本実施形態にかかる負荷変動安定化回路20によれば、周波数可変電源10から出力されるパワーに対する利用効率は格段に向上しているといえる。また、負荷変動安定化回路20により反射波のパワーが減少するため、周波数可変電源10から出力されたパワーをプラズマ負荷側に十分に供給できる。
【0063】
以上、プラズマ処理装置を上記実施形態により説明したが、本発明にかかるプラズマ処理装置は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形及び改良が可能である。上記複数の実施形態に記載された事項は、矛盾しない範囲で組み合わせることができる。
【0064】
例えば、本発明にかかるプラズマ処理装置では、周波数可変電源10の替わりに出力周波数を可変に制御する機能を有しない高周波電源を使用する場合、負荷変動安定化回路20とともに整合回路を設置することが好ましい。ただし、負荷変動安定化回路20のみでインピーダンス整合が図れる場合には整合回路を設けなくてもよい。