(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6584786
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】プラズマイオン源および荷電粒子ビーム装置
(51)【国際特許分類】
H01J 27/16 20060101AFI20190919BHJP
H01J 37/08 20060101ALI20190919BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20190919BHJP
H01J 37/305 20060101ALI20190919BHJP
H01J 37/317 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
H01J27/16
H01J37/08
H01J37/28 B
H01J37/305 A
H01J37/317 D
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-26842(P2015-26842)
(22)【出願日】2015年2月13日
(65)【公開番号】特開2016-149323(P2016-149323A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2018年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(72)【発明者】
【氏名】大庭 弘
(72)【発明者】
【氏名】杉山 安彦
(72)【発明者】
【氏名】岡部 衛
【審査官】
藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−142081(JP,A)
【文献】
特開2013−120750(JP,A)
【文献】
特開2014−130145(JP,A)
【文献】
特開2013−179062(JP,A)
【文献】
特開平08−288266(JP,A)
【文献】
特開2013−149865(JP,A)
【文献】
特開2010−067615(JP,A)
【文献】
米国特許第5643394(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2013/0206338(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 27/00−27/26
H01J 37/08
H01J 37/28
H01J 37/305
H01J 37/317
H05H 1/00−1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料ガスが導入されるガス導入室と、
前記ガス導入室の内部に設けられる絶縁部材と、
前記ガス導入室に接続されたプラズマ生成室と、
前記プラズマ生成室の外周に沿って巻かれ、高周波電力が印加されるコイルと、
前記ガス導入室および前記プラズマ生成室の境界に配置され、複数の貫通孔が設けられ、前記プラズマ生成室で生成されたプラズマの前記ガス導入室に対する侵入を抑制する末端電極と、
を備え、
前記貫通孔の大きさは、プラズマシース長よりも小さく形成されている、ことを特徴とするプラズマイオン源。
【請求項2】
前記絶縁部材および前記電極は、前記絶縁部材と前記電極との間に、前記貫通孔に接続されるとともにプラズマシース長よりも小さい間隔の空隙を形成する、ことを特徴とする請求項1に記載のプラズマイオン源。
【請求項3】
前記空隙は、前記絶縁部材および前記電極の各々の対向面の少なくとも何れかに設けられる凹部によって形成される、
ことを特徴とする請求項2に記載のプラズマイオン源。
【請求項4】
前記絶縁部材および前記電極を接続する接続部材を備える、ことを特徴とする請求項3に記載のプラズマイオン源。
【請求項5】
前記ガス導入室に前記原料ガスを導入する開口が設けられた接地電位部材を備え、
前記絶縁部材は、前記接地電位部材と前記電極との間における荷電粒子の直接的な移動を妨げる形状に形成されている、
ことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1つに記載のプラズマイオン源。
【請求項6】
請求項1から請求項5の何れか1つに記載のプラズマイオン源と、
前記プラズマイオン源において発生した前記原料ガスのイオンによってイオンビームを形成するイオンビーム形成部と、
試料を固定するステージと、
前記イオンビーム形成部によって形成された前記イオンビームを前記試料に照射して、前記試料の照射領域の観察、加工、および分析のうちの少なくとも何れかを行う制御部と、
を備える、
ことを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項7】
電子ビームを形成する電子ビーム形成部を備え、
前記制御部は、前記イオンビームおよび前記電子ビームを前記試料の同一領域に照射して、前記試料の照射領域の観察、加工、および分析のうちの少なくとも何れかを行う、ことを特徴とする請求項6に記載の荷電粒子ビーム装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、プラズマイオン源および荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラズマ室に導入されるガスの流量を制限する流量制限器を備え、ガス供給器とプラズマとの間の電圧降下を高圧に維持されたガスにおいて生じさせ、アーク放電を抑制するプラズマイオン源が知られている(例えば、特許文献1参照)。
従来、複数の異なる種類のガスを用いて、異なるイオン種を生成するプラズマイオン源が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−142081号公報
【特許文献2】特開2013−120750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来技術に係るプラズマイオン源においては、原料となるガスがプラズマ生成室に導入され、プラズマ生成室の周りに設置したワークコイルに高周波が印加されることによってプラズマが生成される。そして、プラズマから引き出されるイオンに加速エネルギーを与えるため、プラズマに加速電圧が印加される。
ところで、プラズマ生成室の圧力は0.1Pa〜10Pa程度であり、ガス導入絶縁部もその圧力以上であり、放電しやすい圧力領域となる。また、プラズマが導電性を有するため、ガス導入絶縁部内にプラズマが侵入すれば、直ちに放電が発生する虞がある。
これに対して上記従来技術に係るプラズマイオン源においては、ガスの圧力を高くする、または電極間距離を大きくすることによって絶縁を確保する。
しかしながら、電極間距離を大きくするとプラズマイオン源が大きくなり、構成に要する費用が嵩むという問題が生じる。一方、ガスの圧力を高くするとコンダクタンスが低下するので、プラズマイオン源のガス排出後の真空引きに要する時間、または複数の異なる種類のガスを用いる場合のガス置換に要する時間が長くなるという問題が生じる。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、所望の絶縁性を確保するためにプラズマイオン源全体の大きさが増大することを防止することが可能なプラズマイオン源および荷電粒子ビーム装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、本発明は以下の態様を採用した。
(1)本発明の一態様に係るプラズマイオン源は、原料ガスが導入されるガス導入室と、前記ガス導入室の内部に設けられる絶縁部材と、前記ガス導入室に接続されたプラズマ生成室と、前記プラズマ生成室の外周に沿って巻かれ、高周波電力が印加されるコイルと、前記ガス導入室および前記プラズマ生成室の境界に配置され、複数の貫通孔が設けられ
、前記プラズマ生成室で生成されたプラズマの前記ガス導入室に対する侵入を抑制する末端電極と、を備え、前記貫通孔の大きさは、プラズマシース長よりも小さく形成されている。
【0007】
上記(1)に記載の態様に係るプラズマイオン源によれば、複数の貫通孔が設けられた電極をガス導入室およびプラズマ生成室の境界に配置してコンダクタンスを増大させることによって、パッシェンの法則における(圧力×電極間距離)が小さい領域側での高耐電圧領域を用いて所望の絶縁性を確保することができる。これにより所望の絶縁性を確保するためにプラズマイオン源全体の大きさを増大させる必要が無く、プラズマイオン源のガス排出後の真空引きに要する時間、および複数の異なる種類のガスを用いる場合のガス置換に要する時間などが長くなることを防止することができる。
さらに、貫通孔の大きさはプラズマシース長よりも小さく形成されているので、ガス導入室に対するプラズマの侵入を抑制することができ、放電の発生を抑制することができる。これにより所望の絶縁性を確保するためにプラズマイオン源全体の大きさが増大することを、より一層、防止することができる。
【0008】
(2)上記(1)に記載のプラズマイオン源では、前記絶縁部材および前記電極は、前記絶縁部材と前記電極との間に、前記貫通孔に接続されるとともにプラズマシース長よりも小さい間隔の空隙を形成する。
上記(2)の場合、絶縁部材および電極はプラズマシース長よりも小さい間隔の空隙を形成するので、ガス導入室に対するプラズマの侵入を、より一層、抑制することができる。
【0009】
(3)上記(2)に記載のプラズマイオン源では、前記空隙は、前記絶縁部材および前記電極の各々の対向面の少なくとも何れかに設けられる凹部によって形成されてもよい。
【0010】
(4)上記(3)に記載のプラズマイオン源では、前記絶縁部材および前記電極を接続する接続部材を備えてもよい。
【0011】
(5)上記(1)から(4)の何れか1つに記載のプラズマイオン源は、前記ガス導入室に前記原料ガスを導入する開口が設けられた接地電位部材を備え、前記絶縁部材は、前記接地電位部材と前記電極との間における荷電粒子の直接的な移動を妨げる形状に形成されてもよい。
【0012】
(6)本発明の一態様に係る荷電粒子ビーム装置は、上記(1)から(5)の何れか1つに記載のプラズマイオン源と、前記プラズマイオン源において発生した前記原料ガスのイオンによってイオンビームを形成するイオンビーム形成部と、試料を固定するステージと、前記イオンビーム形成部によって形成された前記イオンビームを前記試料に照射して、前記試料の照射領域の観察、加工、および分析のうちの少なくとも何れかを行う制御部
と、を備える。
上記(6)に記載の態様に係る荷電粒子ビーム装置によれば、装置全体の大きさが増大することを防止することができる。
【0013】
(7)上記(6)に記載の荷電粒子ビーム装置は、電子ビームを形成する電子ビーム形成部を備え、前記制御部は、前記イオンビームおよび前記電子ビームを前記試料の同一領域に照射して、前記試料の照射領域の観察、加工、および分析のうちの少なくとも何れかを行ってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のプラズマイオン源によれば、所望の絶縁性を確保するためにプラズマイオン源全体の大きさを増大させる必要が無く、プラズマイオン源のガス排出後の真空引きに要する時間、および複数の異なる種類のガスを用いる場合のガス置換に要する時間などが長くなることを防止することができる。
さらに、貫通孔の大きさはプラズマシース長よりも小さく形成されているので、ガス導入室に対するプラズマの侵入を抑制することができ、放電の発生を抑制することができる。これにより所望の絶縁性を確保するためにプラズマイオン源全体の大きさが増大することを、より一層、防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム装置の構成を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るプラズマイオン源の構成を模式的に示す断面図である。
【
図3】本発明の実施形態に係るプラズマイオン源の絶縁部材をプラズマ生成室側から見た平面図である。
【
図4】
図3に示すIV−IV断面を含む絶縁部材および末端電極の断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係るパッシェンの法則に応じた火花電圧と(圧力×電極間距離)との関係を示す図である。
【
図6】本発明の実施形態の第1変形例に係るプラズマイオン源の絶縁部材および末端電極の断面図である。
【
図7】本発明の実施形態の第2変形例に係るプラズマイオン源の絶縁部材および末端電極の断面図である。
【
図8】本発明の実施形態の第3変形例に係るプラズマイオン源の絶縁部材および末端電極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態に係るプラズマイオン源および荷電粒子ビーム装置について添付図面を参照しながら説明する。
【0017】
実施形態に係る荷電粒子ビーム装置10は、
図1に示すように、内部を真空状態に維持可能な試料室11と、試料室11の内部において試料Sを固定可能なステージ12と、ステージ12を駆動する駆動機構13と、を備えている。荷電粒子ビーム装置10は、試料室11の内部における所定の照射領域(つまり走査範囲)内の照射対象に集束イオンビーム(FIB)を照射する集束イオンビーム鏡筒14を備えている。荷電粒子ビーム装置10は、試料室11の内部における所定の照射領域内の照射対象に電子ビーム(EB)を照射する電子ビーム鏡筒15を備えている。荷電粒子ビーム装置10は、集束イオンビームまたは電子ビームの照射によって照射対象から発生する二次荷電粒子(二次電子および二次イオンなど)Rを検出する検出器16を備えている。また、荷電粒子ビーム装置10は、電子ビーム鏡筒15内部に電子ビームの照射によって照射対象から発生する二次荷電粒子(反射電子)を検出する検出器(図示略)を備えている。荷電粒子ビーム装置10は、照射対象の表面にガスGaを供給するガス供給部17を備えている。荷電粒子ビーム装置10は、検出器16によって検出された二次荷電粒子に基づく画像データなどを表示する表示装置20と、制御部21と、入力デバイス22と、を備えている。
【0018】
荷電粒子ビーム装置10は、照射対象の表面に集束イオンビームを走査しながら照射することによって、スパッタリングによる各種の加工(エッチング加工など)と、デポジション膜の形成とを実行可能である。荷電粒子ビーム装置10は、試料Sに走査型電子顕微鏡などによる断面観察用の断面を形成する加工と、試料Sから透過型電子顕微鏡による透過観察用の試料片(例えば、薄片試料、針状試料など)を形成する加工となどを実行可能である。荷電粒子ビーム装置10は、試料Sなどの照射対象の表面に集束イオンビームまたは電子ビームを走査しながら照射することによって、照射対象の表面の観察を実行可能である。
【0019】
試料室11は、排気装置(図示略)によって内部を所望の真空状態になるまで排気可能であるとともに、所望の真空状態を維持可能に構成されている。
ステージ12は、試料Sを保持する。
駆動機構13は、ステージ12に接続された状態で試料室11の内部に収容されており、制御部21から出力される制御信号に応じてステージ12を所定軸に対して変位させる。駆動機構13は、水平面に平行かつ互いに直交するX軸およびY軸と、X軸およびY軸に直交する鉛直方向のZ軸とに沿って平行にステージ12を移動させる移動機構13aを備えている。駆動機構13は、ステージ12をX軸またはY軸周りに回転させるチルト機構13bと、ステージ12をZ軸周りに回転させる回転機構13cと、を備えている。
【0020】
集束イオンビーム鏡筒14は、試料室11の内部においてビーム出射部(図示略)を、照射領域内のステージ12の鉛直方向上方の位置でステージ12に臨ませるとともに、光軸を鉛直方向に平行にして、試料室11に固定されている。これによって、ステージ12に固定された試料Sなどの照射対象に鉛直方向上方から下方に向かい集束イオンビームを照射可能である。
集束イオンビーム鏡筒14は、イオンを発生させるプラズマイオン源14aと、プラズマイオン源14aから引き出されたイオンを集束および偏向させるイオン光学系14bと、を備えている。プラズマイオン源14aおよびイオン光学系14bは、制御部21から出力される制御信号に応じて制御され、集束イオンビームの照射位置および照射条件などが制御部21によって制御される。イオン光学系14bは、例えば、コンデンサレンズなどの第1静電レンズと、静電偏向器と、対物レンズなどの第2静電レンズと、などを備えている。なお、
図1では静電レンズは2組であるが、3組以上備えてもよい。この場合、各レンズ間にアパーチャを設ける。
【0021】
プラズマイオン源14aは、高周波誘導結合プラズマイオン源である。プラズマイオン源14aは、
図2に示すように、トーチ30と、第1接地電位フランジ31および第2接地電位フランジ32と、ガス導入室33と、プラズマ生成室34と、ガス導入室材35と、末端電極36と、プラズマ電極37と、絶縁部材38と、コイル39と、を備えている。
トーチ30の形状は、筒状に形成されている。トーチ30は、誘電体材料によって形成されている。誘電体材料は、例えば、石英ガラス、アルミナ、および窒化アルミニウムの何れかなどである。トーチ30の第1端部には、第1接地電位フランジ31が設けられている。トーチ30の第2端部には、第2接地電位フランジ32が設けられている。第1接地電位フランジ31および第2接地電位フランジ32は、接地電位に維持されている。第1接地電位フランジ31および第2接地電位フランジ32は、非磁性金属、例えば、銅やアルミなど、である。
トーチ30は、ガス導入室33およびプラズマ生成室34を形成している。ガス導入室33は、第1接地電位フランジ31に接続されるガス導入室材35と、トーチ30の内部に配置される末端電極36とによって形成されている。プラズマ生成室34は、末端電極36と、トーチ30の第2端部に配置されるプラズマ電極37とによって形成されている。末端電極36およびプラズマ電極37は、非磁性金属、例えば、銅やタングステンやモリブデンなど、である。プラズマが末端電極36およびプラズマ電極37をスパッタしてトーチ30の内壁に付着するため、スパッタに必要なエネルギーが高いタングステンやモリブデンの方が好ましい。ガス導入室33の内部には、絶縁部材38が収容されている。トーチ30の外部には、プラズマ生成室34の外周に沿って巻かれるコイル39が配置されている。コイル39には、RF電源39aから高周波電力が供給される。
【0022】
ガス導入室材35には、ガス供給源(図示略)から流量調整器(図示略)を介して供給される原料ガスを、ガス導入室33の内部に導入する開口部35aが設けられている。
ガス導入室33およびプラズマ生成室34の境界に配置される末端電極36には、ガス導入室33からプラズマ生成室34に原料ガスを導入する複数の貫通孔36aが設けられている。複数の貫通孔36aの各々の大きさR(例えば、円形の貫通孔36aの直径など)は、プラズマシース長よりも小さく形成されている。プラズマシース長は、例えば、数10μm〜数100μmである。
プラズマ電極37には、プラズマ生成室34から外部にイオンを引き出す開口部37aが設けられている。
【0023】
ガス導入室33内の絶縁部材38は、ボルトなどの接続部材によって末端電極36に固定されている。絶縁部材38には、
図3に示すように、接続部材(図示略)が装着される装着孔38aが形成されている。末端電極36の表面36Aに対向する絶縁部材38の対向面38Aには、
図4に示すように、凹溝38bが形成されている。凹溝38bの深さD1は、プラズマシース長よりも小さく形成されている。凹溝38bの幅Wは、深さD1よりも大きく形成されている。絶縁部材38には、凹溝38bに設けられる複数の貫通孔38cが形成されている。複数の貫通孔38cの各々の大きさ(例えば、円形の貫通孔38cの直径など)は、プラズマシース長よりも小さく形成されている。複数の貫通孔38cの各々の大きさは、例えば、プラズマ電極37における複数の貫通孔36aの大きさRと同一に形成されている。複数の貫通孔38cの各々は、例えば、プラズマ電極37における複数の貫通孔36aの各々に臨むように配置されている。
なお、プラズマ電極37には、接続部材(図示略)が装着される装着孔36bが絶縁部材38の装着孔38aに臨むように形成されている。
【0024】
絶縁部材38の形状は、ガス導入室材35と末端電極36との間における荷電粒子の直接的な移動を妨げる形状に形成されている。絶縁部材38の形状は、ガス導入室材35と末端電極36とが相互に直接見えない形状に形成されている。絶縁部材38の形状は、例えば、雄ねじ形状などに形成されている。
【0025】
プラズマ生成室34の圧力は、0.1Pa〜10Pa程度に設定されている。プラズマ生成室34とガス導入室33との間は、複数の貫通孔36aが設けられた末端電極36によってコンダクタンスが高くなるように設定されているので、ガス導入室33の圧力はプラズマ生成室34の圧力と同程度である。プラズマ生成室34の圧力は、ガス供給源(図示略)からガス導入室33に導入される原料ガスの流量に応じて調整される。流量調整器(図示略)は、ガス導入室33に導入される原料ガスの流量を調整することによって、プラズマ生成室34の圧力を所望の圧力に設定する。
プラズマ生成室34の圧力は、ガス導入室33がパッシェンの法則における(圧力×電極間距離)が小さい領域側での高耐電圧領域を用いて所望の絶縁性を確保するように設定される。パッシェンの法則は、
図5に示すように、(圧力×電極間距離)が大きい領域側および小さい領域側の各々において高耐電圧領域を有している。ガス導入室33は、(圧力×電極間距離)が小さい領域側の高耐電圧領域Aが形成されるように、プラズマ生成室34の圧力およびガス導入室33の電極間距離が設定されている。例えば、プラズマ生成室34の圧力が0.1Paとされ、ガス導入室33のガス導入室材35と末端電極36との沿面距離が30mmとされた場合、(圧力×電極間距離)は3e
−3Pa・mとなって、ガス導入室33は高耐電圧領域Aの状態となる。
【0026】
電子ビーム鏡筒15は、試料室11の内部においてビーム出射部(図示略)を、照射領域内のステージ12の鉛直方向に所定角度傾斜した傾斜方向でステージ12に臨ませるとともに、光軸を傾斜方向に平行にして、試料室11に固定されている。これによって、ステージ12に固定された試料Sなどの照射対象に傾斜方向の上方から下方に向かい電子ビームを照射可能である。
電子ビーム鏡筒15は、電子を発生させる電子源15aと、電子源15aから射出された電子を集束および偏向させる電子光学系15bと、を備えている。電子源15aおよび電子光学系15bは、制御部21から出力される制御信号に応じて制御され、電子ビームの照射位置および照射条件などが制御部21によって制御される。電子光学系15bは、例えば、電磁レンズと偏向器となどを備えている。
【0027】
なお、電子ビーム鏡筒15と集束イオンビーム鏡筒14の配置を入れ替え、電子ビーム鏡筒15を鉛直方向に、集束イオンビーム鏡筒14を鉛直方向に所定角度傾斜した傾斜方向に配置してもよい。
【0028】
検出器16は、試料Sなどの照射対象に集束イオンビームまたは電子ビームが照射されたときに照射対象から放射される二次荷電粒子(二次電子および二次イオンなど)Rの強度(つまり、二次荷電粒子の量)を検出し、二次荷電粒子Rの検出量の情報を出力する。検出器16は、試料室11の内部において二次荷電粒子Rの量を検出可能な位置、例えば照射領域内の試料Sなどの照射対象に対して斜め上方の位置などに配置され、試料室11に固定されている。
【0029】
ガス供給部17は、試料室11の内部においてガス噴射部(図示略)をステージ12に臨ませて、試料室11に固定されている。ガス供給部17は、集束イオンビームによる試料Sのエッチングを試料Sの材質に応じて選択的に促進するためのエッチング用ガスと、試料Sの表面に金属または絶縁体などの堆積物によるデポジション膜を形成するためのデポジション用ガスと、などを試料Sに供給可能である。例えば、Si系の試料Sに対するフッ化キセノンと、有機系の試料Sに対する水と、などのエッチング用ガスを、集束イオンビームの照射と共に試料Sに供給することによって、エッチングを選択的に促進させる。また、例えば、フェナントレン、プラチナ、カーボン、またはタングステンなどを含有した化合物ガスのデポジション用ガスを、集束イオンビームの照射と共に試料Sに供給することによって、デポジション用ガスから分解された固体成分を試料Sの表面に堆積させる。
【0030】
制御部21は、試料室11の外部に配置され、表示装置20と、操作者の入力操作に応じた信号を出力するマウスおよびキーボードなどの入力デバイス22とが接続されている。
制御部21は、入力デバイス22から出力される信号または予め設定された自動運転制御処理によって生成される信号などによって、荷電粒子ビーム装置10の動作を統合的に制御する。
【0031】
制御部21は、荷電粒子ビームの照射位置を走査しながら検出器16によって検出される二次荷電粒子の検出量を、照射位置に対応付けた輝度信号に変換して、二次荷電粒子の検出量の2次元位置分布によって照射対象の形状を示す画像データを生成する。制御部21は、生成した各画像データとともに、各画像データの拡大、縮小、移動、および回転などの操作を実行するための画面を、表示装置20に表示させる。制御部21は、加工設定などの各種の設定を行なうための画面を、表示装置20に表示させる。
【0032】
上述したように、本発明の実施形態によるプラズマイオン源14aによれば、複数の貫通孔36aが設けられた末端電極36をガス導入室33およびプラズマ生成室34の境界に配置してコンダクタンスを増大させることによって、パッシェンの法則における(圧力×電極間距離)が小さい領域側での高耐電圧領域Aを用いて所望の絶縁性を確保することができる。これにより所望の絶縁性を確保するためにプラズマイオン源14a全体の大きさを増大させる必要が無く、プラズマイオン源14aのガス排出後の真空引きに要する時間、および複数の異なる種類のガスを用いる場合のガス置換に要する時間などが長くなることを防止することができる。
さらに、貫通孔36aの大きさはプラズマシース長よりも小さく形成されているので、ガス導入室33に対するプラズマの侵入を抑制することができ、放電の発生を抑制することができる。これにより所望の絶縁性を確保するためにプラズマイオン源14a全体の大きさが増大することを、より一層、防止することができる。
さらに、絶縁部材38および末端電極36はプラズマシース長よりも小さい間隔の空隙を形成するので、ガス導入室33に対するプラズマの侵入を、より一層、抑制することができる。
【0033】
上述したように、本発明の実施形態による荷電粒子ビーム装置10によれば、装置全体の大きさが増大することを防止することができる。
【0034】
なお、上述した実施形態では、絶縁部材38が凹溝38bを備えるとしたが、これに限定されない。
上述した実施形態の第1変形例では、
図6に示すように、末端電極36の表面36Aに凹溝36cが形成されてもよい。凹溝36cの深さD2は、プラズマシース長よりも小さく形成されている。凹溝36cの幅は、深さD2よりも大きく形成されている。
上述した実施形態の第2変形例では、
図7に示すように、絶縁部材38の凹溝38bに加えて、末端電極36の表面36Aに凹溝36cが形成されてもよい。凹溝38bおよび凹溝36cは、互いに臨むように形成されている。凹溝38bの深さと凹溝36cの深さとを累積した値D3は、プラズマシース長よりも小さく形成されている。凹溝38bおよび凹溝36cの各々の幅は、値D3よりも大きく形成されている。
上述した実施形態の第3変形例では、
図8に示すように、絶縁部材38の凹溝38bが省略され、末端電極36の表面36Aと絶縁部材38の対向面38Aとの間に、プラズマシース長よりも小さい間隔D4の空隙が設けられてもよい。
【0035】
なお、上述した実施形態では、電子ビーム鏡筒15は省略されてもよい。
【0036】
なお、上述した実施形態では、制御部21は、ソフトウェア機能部、またはLSIなどのハードウェア機能部であってもよい。
【0037】
なお、上記の実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0038】
10…荷電粒子ビーム装置、11…試料室、12…ステージ、13…駆動機構、14…集束イオンビーム鏡筒、14a…プラズマイオン源、15…電子ビーム鏡筒、16…検出器、17…ガス供給部、20…表示装置、21…制御部、22…入力デバイス、30…トーチ、31…第1接地電位フランジ、32…第2接地電位フランジ、33…ガス導入室、34…プラズマ生成室、35…ガス導入室材、36…末端電極、37…プラズマ電極、38…絶縁部材、39…コイル