(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記所定のめっき電圧を前記基板と前記不溶解アノードとの間に印加しながら、前記硫酸銅めっき液中に不活性ガスを供給することにより前記硫酸銅めっき液中の溶存酸素濃度を低下させることを特徴とする請求項1に記載のめっき方法。
前記順方向電圧を前記基板と前記不溶解アノードとの間に印加しながら、前記硫酸銅めっき液中に不活性ガスを供給することにより前記硫酸銅めっき液中の溶存酸素濃度を低下させることを特徴とする請求項3に記載のめっき方法。
前記順方向電圧を前記基板と前記不溶解アノードとの間に印加しながら、前記硫酸銅めっき液を脱気装置に通過させることにより前記硫酸銅めっき液中の溶存酸素濃度を低下させることを特徴とする請求項3に記載のめっき方法。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスやプリント配線の分野において、銅めっきプロセスが広く採用されている。この銅めっきプロセスを実施するためのめっき装置について
図13を参照して説明する。
図13に示すように、めっき装置はめっき液を保持するめっき槽100と、めっき槽100内のめっき液に浸漬されたアノード101と、アノード101を保持するアノードホルダ102と、基板Wを保持する基板ホルダ103とを備えている。基板Wおよびアノード101は、互いに対向するようにめっき槽100のめっき液中に配置されている。アノード101は電源104の正極に接続され、基板Wは電源104の負極に接続される。アノード101と基板Wとの間に電圧を印加することで電流がアノード101からめっき液を通って基板Wに流れ、基板Wがめっきされる。以下、アノード101からめっき液を通って基板Wに流れる電流を順方向電流と呼ぶ。
【0003】
アノード101として含リン銅などからなる溶解アノードが使用されることがある。しかしながら、このような溶解アノードを使用すると、アノード101の表面にブラックフィルムが析出することがある。このブラックフィルムの析出を管理しつつ適切に基板Wをめっきすることは困難であるため、基板Wの表面に形成される銅膜に欠陥が生じることがある。
【0004】
図14Aは、基板Wの表面の断面を示す模式図である。
図14Aに示すように、絶縁膜109の表面にはビアホールと呼ばれる凹部110が形成されている。さらに、絶縁膜109の平坦な表面および凹部110の表面上にはシード層などの導電層114が形成されている。TSV(Through Silicon Via)などアスペクト比が高い凹部110内に金属を析出させる場合、凹部110の開口部の周囲での金属の析出を防止するために、金属の析出を抑制する抑制剤を含む添加剤が使用される。しかしながら、銅を含む溶解アノードが使用されると、一価の銅イオン(C
+)の形で銅が溶解し、この一価の銅イオンが添加剤と結合して添加剤が還元されてしまう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、近年、溶解アノードの代わりに不溶解アノードが使用される傾向がある。アノード101として不溶解アノードを使用して銅めっきを行うと、基板W上では銅イオンが還元されて基板Wに銅膜が形成され、アノード101上では水の電気分解が起こって酸素が発生する。電圧の印加を停止すると、異種金属である基板Wおよびアノード101がめっき液中での異なる自然電位を持つことにより、
図13に示すように、電流がアノード101から電源104を通って基板Wに流れる。つまり、基板Wのめっき時とは逆方向の電流が流れる。その結果、基板Wに形成された銅膜が溶解してしまう。以下、このような逆方向に流れる電流を逆方向電流と呼ぶ。
【0006】
逆方向電流の大きさは主にめっき液中の溶存酸素濃度に依存し、特にめっき直後の溶存酸素濃度が高い状態では逆方向電流は大きくなりやすい。この逆方向電流は、基板Wとの電位差が大きい不溶解アノードを使用したときに特に顕著に起こり、基板Wと同種金属である含リン銅からなる溶解アノードを使用したときは逆方向電流はほとんど流れない。
【0007】
銅は一価の銅イオン(Cu
+)または二価の銅イオン(Cu
2+)として溶解するが、一価の銅イオンは不安定であるため、直ぐに酸化して二価の銅イオンになる。添加剤中に金属の析出を促進する促進剤(例えばSPSなど)が含まれていると、一価の銅イオン(Cu
+)の酸化に対する反応として促進剤が還元され、添加剤の性質が変化してしまう。例えば、促進剤がSPSであれば、SPSが還元されてMPSとなる。
【0008】
凹部110の底部から優先的に金属を析出させる、いわゆるボトムアップ成長を実現するためには、抑制剤と促進剤とのバランスが重要である。逆方向電流が流れて添加剤(促進剤)が還元されると、抑制剤と促進剤とのバランスが崩れてしまい、凹部110内にボイド(空隙)などの欠陥が形成されてしまう。
【0009】
上述したように、基板Wとアノード101との間に逆方向電流が流れると、SPSが還元されてMPSが過剰の状態になる。銅めっきに対して強い促進作用を有するMPSが過剰になると、本来、抑制剤によりめっきが抑制されるべき領域がめっきされ、凹部101内にボイド(空隙)などの欠陥が形成されてしまう。この場合、MPSは基板W上のボトムアップめっきを阻害する電解液成分といえる。
【0010】
図14Bに示す例では、導電層114上にフォトレジスト111が形成されている。基板Wとアノード101との間に電圧を印加すると、フォトレジスト111の開口部および凹部110内に銅112が析出する。しかしながら、抑制剤と促進剤とのバランスが崩れると、銅112のボトムアップ成長が達成されず、凹部110の上方の銅112に、ディンプルと呼ばれる窪み113が形成されてしまう。
【0011】
図14Cに示すように、フォトレジスト111を有しない基板Wに銅112を析出させる場合であっても、めっき後に銅112の表面が平坦にならず窪み113が形成される可能性がある。さらに、凹部110内にボイドが形成される可能性がある。
【0012】
図14Dに示す例では、下層配線115の上に導電層114が形成され、さらに導電層114上にフォトレジスト111が形成されている。フォトレジスト111の開口部内に銅112をめっきにより堆積させる場合(バンプ形成)であっても、添加剤の働きが阻害されて銅112の表面に凹凸が形成されたり、歪な形状のバンプが形成されることがある。
【0013】
なお、本明細書において、ボトムアップめっきとは、
図14Aから
図14Dに示すような被めっき領域に所望のモフォロジーを達成するためのめっき技術である。すなわち、ボトムアップめっきは、絶縁物(フォトレジストを含む)に覆われた開口部または凹部の底部から上方に徐々に進行するめっき技術を指す。ボトムアップめっきが実現しない場合、堆積した金属の形状が歪になったり、金属内にボイドが生じたりする。
【0014】
以下に説明する実施形態によれば、添加剤の性質の変化を防止することができるめっき方法が提供される。さらに詳しくは、ボトムアップめっきを阻害する電解液成分の生成を防ぎつつウェハなどの基板にめっきを行うことができるめっき方法が提供される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上述した目的を達成するために、めっき方法の一態様は、基板のボトムアップめっきを阻害する電解液成分の生成を防ぎつつ基板にめっきを行う方法であって、表面に凹部が形成され、前記凹部内の少なくとも一部に導電層が形成された基板を準備し、添加剤を含む硫酸銅めっき液に不溶解アノードおよび前記基板を接触させ、前記基板と前記不溶解アノードとの間にめっき電源によって所定のめっき電圧を印加して前記基板をめっきし、前記不溶解アノードと前記基板との間にダイオードを配置することにより、前記所定のめっき電圧が印加されていないときに、前記不溶解アノードから前記めっき電源を通って前記基板に流れる逆方向電流を低下させる工程を含み、前記ダイオードは、
めっきにより析出される銅膜に形成され得る窪みの深さの所定の許容値に基づいて選択された逆方向電流の許容値を有することを特徴とするめっき方法。
【0016】
めっき方法の一態様は、基板のボトムアップめっきを阻害する電解液成分の生成を防ぎつつ基板にめっきを行う方法であって、表面に凹部が形成され、前記凹部内の少なくとも一部に導電層が形成された基板を準備し、添加剤を含む硫酸銅めっき液に不溶解アノードおよび前記基板を接触させ、所定のめっき電圧よりも低い順方向電圧を前記基板と前記不溶解アノードとの間に印加することにより、
前記不溶解アノードからめっき電源を通って前記基板に流れる逆方向電流を低下させて前記導電層の溶解を防止し、その後、前記基板と前記不溶解アノードとの間に
前記めっき電源によって前記所定のめっき電圧を印加して前記基板をめっき
し、その後、前記所定のめっき電圧よりも低い順方向電圧を前記基板と前記不溶解アノードとの間に印加することにより、前記不溶解アノードから前記めっき電源を通って前記基板に流れる逆方向電流を低下させることを特徴とする。
【0017】
めっき方法の一
参考例は、基板のボトムアップめっきを阻害する電解液成分の生成を防ぎつつ基板にめっきを行う方法であって、表面に凹部が形成され、前記凹部内の少なくとも一部に導電層が形成された基板を準備し、添加剤を含む硫酸銅めっき液に不溶解アノードおよび前記基板を接触させ、前記基板と前記不溶解アノードとの間にめっき電源によって所定のめっき電圧を印加して前記基板をめっきし、前記硫酸銅めっき液中の添加剤の濃度の変化に基づいて前記硫酸銅めっき液への添加剤の補給を行うことにより、前記硫酸銅めっき液中の添加剤の濃度を制御し、前記所定のめっき電圧が印加されていないときに、前記不溶解アノードと前記基板との間の電気的接続を遮断することを特徴とする。
【0018】
めっき方法の一
参考例は、基板のボトムアップめっきを阻害する電解液成分の生成を防ぎつつ基板にめっきを行う方法であって、表面に凹部が形成され、前記凹部内の少なくとも一部に導電層が形成された基板を準備し、添加剤を含む硫酸銅めっき液に不溶解アノードおよび前記基板を接触させ、前記基板と前記不溶解アノードとの間にめっき電源によって所定のめっき電圧を印加して前記基板をめっきし、前記硫酸銅めっき液中の添加剤の濃度の変化に基づいて前記硫酸銅めっき液への添加剤の補給を行うことにより、前記硫酸銅めっき液中の添加剤の濃度を制御し、前記不溶解アノードと前記基板との間に配置された抵抗器により、前記所定のめっき電圧が印加されていないときに、前記不溶解アノードから前記めっき電源を通って前記基板に流れる逆方向電流を低下させることを特徴とする。
【0019】
めっき方法の一態様は、基板のボトムアップめっきを阻害する電解液成分の生成を防ぎつつ基板にめっきを行う方法であって、表面に凹部が形成され、前記凹部内の少なくとも一部に導電層が形成された基板を準備し、添加剤を含む硫酸銅めっき液に不溶解アノードおよび前記基板を接触させ、前記基板と前記不溶解アノードとの間にめっき電源によって所定のめっき電圧を印加して前記基板をめっきし、前記所定のめっき電圧が印加されていないときに、前記不溶解アノードから前記めっき電源を通って前記基板に流れる逆方向電流を測定し、前記測定された逆方向電流の累積値が所定のしきい値に達した場合は、前記硫酸銅めっき液の少なくとも一部を新たなめっき液に交換することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
上述した態様によれば、逆方向電流が防止される。したがって、めっき液中の添加剤の性質が変化することを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施形態について図面を参照して説明する。
図1乃至
図12において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
図1は、一実施形態に係るめっき装置を示す概略図である。
図1に示すように、このめっき装置は、内部にめっき液を保持するめっき槽1と、めっき槽1内に配置されたアノード3と、アノード3を保持するアノードホルダ2と、ウェハなどの基板Wを保持するための基板ホルダ6とを備えている。基板ホルダ6は、基板Wを着脱自在に保持し、かつ基板Wをめっき槽1内のめっき液に浸漬させるように構成されている。アノード3および基板Wは鉛直に配置され、めっき液中で互いに対向するように配置される。
【0023】
めっき槽1は、めっき液を貯留する貯留槽8と、貯留槽8に隣接するオーバーフロー槽10とを備えている。めっき液には、金属の析出を促進する促進剤、および金属の析出を抑制する抑制剤などの添加剤が含まれている。めっき液は貯留槽8をオーバーフローして、オーバーフロー槽10に流れ込むようになっている。貯留槽8とオーバーフロー槽10とは循環ライン11によって接続されている。循環ライン11の一端はオーバーフロー槽10の底部に接続され、循環ライン11の他端は貯留槽8の底部に接続されている。循環ライン11にはポンプPが取り付けられている。このポンプPが駆動されると、オーバーフロー槽10内のめっき液は循環ライン11を通って貯留槽8内に戻される。
【0024】
めっき液に含まれる促進剤、抑制剤などの添加剤はめっきの進行により消費されるため、めっき液中の添加剤の濃度は徐々に変化する。そのため、めっき性能を維持するために添加剤をめっき液に補給して添加剤の濃度を所定範囲内に制御する必要がある。添加剤を補給する方法は、循環ライン11からめっき液を一部抜き出して添加剤を補充するか、またはめっき液の一部を廃棄して所定濃度の添加剤を含む新鮮なめっき液を供給する方法がある。添加剤を補給するタイミングは、めっき処理を行った基板の枚数、あるいは電解量が所定値に達した時、あるいは、添加剤濃度測定器13を用いて添加剤濃度を測定し、添加剤の濃度が所定のしきい値を下回った時である。
【0025】
めっき装置は、貯留槽8内のめっき液を攪拌するパドル12と、基板W上の電位分布を調整する調整板(レギュレーションプレート)14とをさらに備えている。調整板14は、パドル12とアノード3との間に配置されており、めっき液中の電場を制限するための開口14aを有している。パドル12は、基板ホルダ6に保持された基板Wの表面近傍に配置されている。パドル12は、鉛直に配置されており、基板Wと平行に往復運動することでめっき液を攪拌し、基板Wのめっき中に、十分な金属イオンを基板Wの表面に均一に供給することができる。
【0026】
アノード3は正極側電線16を介してめっき電源15の正極に接続され、基板Wは負極側電線17を介してめっき電源15の負極に接続される。めっき電源15によりアノード3と基板Wとの間に電圧を印加すると、電流はアノード3からめっき液を通って基板Wの表面に流れる。その結果、基板Wの表面に銅が析出し、基板Wに銅膜が形成される。基板Wのめっき時の電流の流れ方向は、順方向の流れである。本実施形態では、アノード3として不溶解アノードが使用され、めっき液として硫酸銅めっき液が使用される。不溶解アノードの材料の一例として、チタン(Ti)などの導体に酸化イリジウム(IrO
2)または白金(Pt)を被覆したものが挙げられる。
【0027】
電圧の印加が停止されると、基板Wのめっきが終了される。しかしながら、上述したように、電圧の印加が停止されたときに、基板Wおよびアノード3の自然電位に差が生じることにより逆方向電流(
図13参照)が流れてしまい、その結果、めっき液に含まれる添加剤(促進剤)の性質が変化してしまう。性質が変化した添加剤は、望ましいモフォロジーを実現するためにめっき液中に添加された添加剤の働きを阻害する。より具体的には、性質が変化した添加剤は、望ましいボトムアップめっきを阻害する成分となる。そこで、逆方向電流を低下させる、好ましくは0にまで低下させるために、めっき装置は、アノード3と基板Wとの間に設けられた逆電流防止器としてのダイオード20を備えている。
【0028】
ダイオード20は正極側電線16に取り付けられている。ダイオード20は負極側電線17に取り付けられてもよい。ダイオード20は順方向電流の流れを許容するが、逆方向電流の流れを許容しないように構成されている。したがって、ダイオード20は逆方向電流を阻止することができる。
【0029】
電流がダイオード20に流れるとダイオード20は発熱する。ダイオード20が高温になると、ダイオード20の電気特性が変化し、ダイオード20は、逆方向電流の流れを許容することがある。そこで、めっき電源15およびダイオード20の近傍にはファン21が配置されている。ダイオード20はめっき電源15の近傍に配置されている。したがって、1つのファン21でめっき電源15およびダイオード20の両方を冷却することができる。
【0030】
ダイオード20の耐電圧はその種類によって異なる。基板Wおよびアノード3での酸化還元反応によって起電力が生じると、起電力の大きさに従った逆方向電流がダイオード20に流れる。逆方向電流が流れたときにダイオード20が破壊されないようにするためには、起電力よりも大きな耐電圧を有するダイオードを選ぶ必要がある。例えば、1.5Vの起電力が発生する場合、耐電圧が2.0V以上のダイオード20を選択することが望ましい。
【0031】
図2は金属膜に形成された窪み(ディンプル)の深さと逆方向電流値との関係を示すグラフである。より具体的には、
図2は、
図14Bに示すフォトレジスト111で囲まれた領域にめっきにより銅112を析出させたときの実験結果を示している。この実験では、添加剤を含むめっき液に基板を浸漬させ、この状態でめっきを行って
図14Bに示すように銅112を析出させた。基板のめっき後、基板をめっき液に浸漬させたまま5分間放置した。めっき終了から10秒経過したときに、逆方向電流を測定した。その後、別の基板をこのめっき液に浸漬させてめっきし、銅112の窪み(ディンプル)113の深さを測定した。このような一連の工程を、耐電圧の異なる複数種のダイオードを用いて繰り返し行なった。
【0032】
図2の横軸は、ダイオードの種類によって異なる逆方向電流の測定値を示しており、縦軸は銅112の窪み113の深さを示している。
図2に示すように、逆方向電流の値が大きくなるほど、窪み113も深くなっている。この実験結果から、窪み113の深さの許容値と、逆方向電流の対応する許容値を決定することができる。例えば、窪み113の深さの許容値を5μmに決定した場合、逆方向電流の許容値は50mAである。したがって、逆方向電流が50mA未満であれば、銅膜に形成される窪み(ディンプル)113は小さいと判断することができる。
【0033】
図3は凹部内に析出した銅のボトムアップ率と逆方向電流値との関係を調べた実験結果を示すグラフである。この実験では、アスペクト比の高い凹部を有する基板にめっきを行って凹部内に銅を析出させた。銅を凹部内に析出させた後、意図的に逆方向電流を流し、めっき液中の添加剤の性質を変化させた。その後、別の基板をこのめっき液に浸漬させてめっきし、銅のボトムアップ率を算出した。銅のボトムアップ率とは、凹部の深さに対する、凹部内に析出した銅の高さの割合である(ボトムアップ率=銅の高さ/凹部の深さ×100)。
【0034】
図3の横軸は逆方向電流値を示しており、縦軸は銅のボトムアップ率を示している。白抜きのバーは逆方向電流を流す前の銅のボトムアップ率を表しており、斜線入りのバーは逆方向電流を流した後の銅のボトムアップ率を表している。
図3は、688mAの逆方向電流を120秒間流したときの実験結果、および34mAの逆方向電流を200秒間流したときの実験結果を示している。
図3に示す実験結果から、逆方向電流が大きいと、銅のボトムアップ率が低下することが分かる。
【0035】
理想的なダイオードは逆方向へ電流が流れることを完全に阻止するが、実際には僅かな逆方向電流がダイオードを流れる。このダイオードを通過する逆方向電流の値が高いと、逆方向電流がめっき液中の添加剤に影響を与えてしまう。そこで、上述した実験結果に基づいて、使用すべきダイオードを選択することが好ましい。例えば、逆方向電流の許容値が50mAであれば、50mA未満の逆方向電流が流れることを許容するダイオードが使用される。このように、逆方向電流によってめっき液中の添加剤の性質が変化することを確実に防止するために、実験結果に基づいて逆方向電流の許容値を決定し、その許容値に基づいてダイオードを選択することが好ましい。
【0036】
図4は、他の実施形態に係るめっき装置を示す図である。本実施形態のめっき装置は、逆方向電流を防止するための電圧をアノード3と基板Wとの間に印加するように構成されている。
図4に示すように、本実施形態のめっき装置はダイオードを備えていない。代わりに、めっき電源15は、電圧を第1の電圧と第2の電圧との間で切り替えるように構成されている。第1の電圧は基板Wをめっきするために必要な所定のめっき電圧である。第2の電圧は、第1の電圧(めっき電圧)が印加されていないときにアノード3と基板Wとの間に発生する起電力(電位差)よりも大きな順方向電圧である。
【0037】
第2の電圧は第1の電圧よりも低く設定されている。より具体的には、第2の電圧は基板Wのめっきに影響を与えない大きさである。第2の電圧がアノード3と基板Wとの間に印加されると、順方向電流はアノード3からめっき液を通じて基板Wに流れる。この順方向電流は、第1の電圧がアノード3と基板Wとの間に印加されているときに流れる順方向電流よりも小さい。したがって、第2の電圧を印加しているとき、基板Wのめっきは実質的に進行せず、かつ逆方向電流が防止される。
【0038】
本実施形態のめっき装置は次のように運転される。基板Wをめっき液に浸漬させた直後、めっき電源15は、基板Wとアノード3との間に第2の電圧(順方向電圧)を印加する。第2の電圧は、逆方向電流の発生を防止し、めっき液中に含まれる添加剤の性質の変化を防止する。次いで、めっき電源15は、基板Wとアノード3との間に第1の電圧(めっき電圧)を印加して、基板Wのめっきを開始する。第1の電圧を印加すると、金属が基板Wの表面に析出し、基板Wに金属膜が形成される。めっきを開始してから所定の時間が経過した後、第1の電圧の印加が停止され、これによりめっきが終了する。めっきの終了直後、めっき電源15は、アノード3と基板Wとの間に第2の電圧(順方向電圧)を印加して、逆方向電流の発生を防止する。したがって、めっき終了後においても添加剤の性質は変化しない。めっきの終了後、基板Wは基板ホルダ6とともに図示しない搬送機構によってめっき液から引き上げられる。
【0039】
めっきされる基板Wの表面にはシード層などの導電層(
図14A乃至
図14Dの符号114参照)が形成されている。基板Wのめっき前に基板Wに逆方向電流が流れると、導電層が溶解してしまうおそれがある。特に、凹部のアスペクト比が高い場合、凹部の側面に形成された導電層は薄くなる傾向がある。基板Wのめっき前に逆方向電流が流れると、凹部の側面の導電層が溶解し、金属膜が凹部の側面に形成されないおそれがある。そこで、このような導電層の溶解を防止するために、基板Wのめっき前に第2の電圧(順方向電圧)を印加して、逆方向電流の発生を防止する。
【0040】
図5に示すように、めっき電源15とは別に補助電源25を設け、この補助電源25から第2の電圧を印加してもよい。補助電源25はめっき電源15に並列に接続されている。具体的には、補助電源25は正極側電線16および負極側電線17に接続されている。補助電源25は、基板Wをめっき液に浸漬させてからめっきを開始するまでの間、およびめっきを終了してから基板Wをめっき液から引き上げるまでの間に第2の電圧(順方向電圧)を印加する。めっき電源15は、基板Wをめっきする間、第1の電圧(めっき電圧)を印加する。このように、補助電源25から第2の電圧を印加しても逆方向電流の発生を防止することができる。
【0041】
めっき電源15は、電圧を切り替える代わりに、電流を第1の電流と第2の電流との間で切り替えるように構成されてもよい。これら第1の電流および第2の電流は順方向電流である。第1の電流は基板Wをめっきするための電流であり、第2の電流は逆方向電流を阻止するための電流である。第2の電流は、基板Wのめっきを行っていない時に生じる逆方向電流以上である。第2の電流は第1の電流よりも低く、かつ基板Wのめっきに影響を与えない程度の大きさである。
【0042】
めっき電源15に代えて、補助電源25から第2の電流をアノード3と基板Wとの間に流してもよい。この場合、補助電源25は、基板Wをめっき液に浸漬させてからめっきを開始するまでの間、およびめっきを終了してから基板Wをめっき液から引き上げるまでの間に第2の電流を流す。
【0043】
図6は、めっき装置のさらに他の実施形態を示す図である。このめっき装置は、めっき電源15とアノード3との電気的接続を遮断する開閉スイッチ26を備えている。開閉スイッチ26は、めっき電源15とアノード3とを接続する正極側電線16に取り付けられている。開閉スイッチ26が開かれると、めっき電源15とアノード3との電気的な接続が遮断され、逆方向電流は流れない。めっき電源15と基板Wとの電気的接続を遮断するために、開閉スイッチ26を負極側電線17に取り付けてもよい。
【0044】
本実施形態のめっき装置は次のように運転される。まず、開閉スイッチ26が開かれ、この状態で基板Wがめっき液に浸漬される。開閉スイッチ26が閉じられると同時に、めっき電源15はアノード3と基板Wとの間に電圧を印加して基板Wのめっきを開始する。基板Wのめっき終了直後、開閉スイッチ26が再び開かれる。そして、基板Wは基板ホルダ6とともに図示しない搬送機構によってめっき液から引き上げられる。このように、基板Wをめっき液に浸漬させてからめっきを開始するまでの間、およびめっきを終了してから基板Wをめっき液から引き上げるまでの間、開閉スイッチ26を開くことで、逆方向電流が防止される。
【0045】
図7は開閉スイッチ26を開いた場合と開かなかった場合での逆方向電流の発生を調べた実験の結果を示すグラフである。横軸は時間を示しており、縦軸は逆方向電流の測定値を示している。
図7には、めっき開始前の逆方向電流値と、めっき後の逆方向電流値が示されている。三角マークは開閉スイッチ26を開かなかった場合の逆方向電流値を表しており、丸マークは開閉スイッチ26を開いた場合の逆方向電流値を表している。
【0046】
図7に示すように、開閉スイッチ26を開かなかった場合、基板Wのめっきを開始する前におよそ25mAの逆方向電流が流れた。これに対し、開閉スイッチ26を開いた場合、逆方向電流は全く流れなかった。めっき液を攪拌した場合と撹拌しなかった場合とでは、逆方向電流の値に差異はなかった。
【0047】
開閉スイッチ26を開かなかった場合、めっき終了後10秒経過した時点で約150mAの逆方向電流が流れた。めっき終了直後に大きな逆方向電流が流れる理由は、めっきが終了したときにめっき液中の溶存酸素濃度が高くなり、アノード3と基板Wとの間の電位差が大きくなるためである。より具体的には、めっき終了直後は、めっき中にアノード3から発生していた酸素ガスによりめっき液中の溶存酸素濃度が高くなっている。この状態では、基板Wの自然電位は、溶存酸素の還元反応電流の増加に伴って卑にシフトする。そのため基板Wとアノード3との間の電位差が大きくなり、大きな逆方向電流が流れる。逆方向電流の値は時間の経過とともに徐々に減少するが、めっきの終了後300秒経過してもおよそ20mAの逆方向電流が流れている。
【0048】
これに対し、開閉スイッチ26を開いた場合、逆方向電流の値は0であった。このように、開閉スイッチ26を開いてアノード3と基板Wとの電気的接続を遮断することにより、逆方向電流を0にまで低下させることができるため、添加剤の性質の変化を防止することができる。その結果、基板Wの表面に均一な厚さの金属膜を形成することができる。
【0049】
図8に示すように、開閉スイッチ26に代えて、逆方向電流を低下させるための抵抗器30をアノード3と基板Wとの間に設けてもよい。
図8では抵抗器30は負極側電線17に取り付けられているが、抵抗器30は正極側電線16に取り付けられてもよい。
【0050】
図9は、めっき装置のさらに他の実施形態を示す図である。このめっき装置は、逆方向電流を低下させるための装置として、
図9に示すように、窒素ガスなどの不活性ガスをめっき液に供給する不活性ガス供給ユニット35と、めっき槽1内のめっき液を脱気する脱気装置40とを備えている。不活性ガス供給ユニット35および脱気装置40は、めっき液中の溶存酸素濃度を低減することによって、逆方向電流を低下させるように構成される。
【0051】
不活性ガス供給ユニット35は、めっき槽1の底部に配置される散気管36と、散気管36に不活性ガスを供給する不活性ガス供給ライン37とを備えている。不活性ガス供給ユニット35は、不活性ガスをめっき液中に供給することで、めっき液中の溶存酸素濃度を低下させることができる。したがって、基板Wとアノード3との間の酸化還元反応を弱めることができ、結果として、逆方向電流を小さくすることができる。
【0052】
基板Wをめっきする間、すなわち第1の電圧(めっき電圧)を印加している間、およびめっきを終了してから基板Wをめっき液から引き上げるまでの間に、不活性ガスをめっき液中に供給することが望ましい。これにより、基板めっき時のめっき液中の溶存酸素濃度の上昇を抑制し、さらにめっきが終了してからもめっき液中の溶存酸素濃度を低下させて逆方向電流を低下させることができる。
【0053】
脱気装置40は、貯留槽8とオーバーフロー槽10とを接続する循環ライン11に取り付けられており、循環ライン11を通るめっき液から溶存酸素を取り除く。したがって、基板Wとアノード3との間の酸化還元反応を弱めることができ、結果として、逆方向電流を小さくすることができる。なお、
図9に示す実施形態のめっき装置は不活性ガス供給装置35および脱気装置40を備えているが、別の実施形態として、めっき装置は不活性ガス供給装置35および脱気装置40のうち、いずれか一方のみを備えてもよい。
【0054】
不活性ガス供給装置35および脱気装置40によってめっき液中の溶存酸素濃度を低下させる利点は、逆方向電流を低下させることだけではない。つまり、めっき液中の溶存酸素濃度が高いと、添加剤、特に促進剤は、めっき液中の酸素によって酸化分解され、消耗が進んでしまう。不活性ガス供給装置35および脱気装置40によってめっき液中の溶存酸素濃度を低下させ、添加剤の酸化分解を抑えることができる。
【0055】
図9に示す実施形態は、先に説明した実施形態と適宜組み合わせることができる。例えば、
図10に示すように、ダイオード20と、不活性ガス供給ユニット35と、脱気装置40とを組み合わせてもよい。当然、不活性ガス供給装置35および脱気装置40のうちの一方とダイオード20とを組み合わせてもよい。このような組み合わせにより、めっき液中の溶存酸素濃度を低下させつつ、添加剤の酸化分解を抑え、かつ逆方向電流を阻止することができる。めっき液中の溶存酸素濃度を低下させることにより、基板Wとアノード3との間の電位差を小さくすることができる。その結果、比較的耐電圧の小さなダイオードを使用することができる。
【0056】
また、
図4に示す実施形態に
図9に示す実施形態を組み合わせてもよい。この場合、不活性ガスは基板Wとアノード3との間に第1の電圧(めっき電圧)を印加する前後、すなわち、第2の電圧を印加しているときに供給される。
【0057】
さらに、めっき装置は、めっき槽1内のめっき液が空気に接触しないように、
図11に示すように、めっき槽1の上端に開閉自在に構成された蓋50を備えてもよい。
図11は蓋50を備えためっき装置を示す図である。蓋50はめっき槽1(貯留槽8およびオーバーフロー槽10)を覆っており、扉50aを有している。基板ホルダ6は扉50aを通じてめっき槽1内に搬入され、めっき槽1から取り出される。
【0058】
蓋50には窒素ガスなどの不活性ガスを導入する不活性ガス導入ライン51が接続されている。不活性ガス導入ライン51には開閉バルブ52が取り付けられている。さらに、蓋50には排気ライン53が接続されており、排気ライン53には排気装置54が取り付けられている。扉50aが閉じられた状態で開閉バルブ52が開かれ、不活性ガス導入ライン51を通じてめっき槽1内に不活性ガスが導入されると同時に排気装置54が駆動される。めっき液に接触する空気は排気ライン53を通じて除去され、蓋50とめっき液の液面との間の空間は不活性ガスで満たされる。したがって、めっき槽1内のめっき液は空気中の酸素に接触しない。
【0059】
基板ホルダ6をめっき槽1内に投入するとき、扉50aは開かれ、めっき槽1内の所定位置に基板ホルダ6が配置される。基板ホルダ6が配置された後、扉50aは再び閉じられる。このように、蓋50および不活性ガス導入ライン51を設けることで、めっき液と空気との接触を遮断することができるため、めっき液に溶解する酸素量を低減することができる。
【0060】
図12は、めっき装置のさらに他の実施形態を示す図である。このめっき装置は、
図12に示すように、めっき装置は逆方向電流を測定する電流計42を備えている。電流計42は負極側電線17に設けられている。電流計42は正極側電線16に設けられてもよい。電流計42には累積電流算出器43が接続されており、累積電流算出器43は電流計42によって測定された電流値を累積して逆方向電流の累積値を算出するように構成されている。
【0061】
累積電流算出器43にはめっき槽1内のめっき液の少なくとも一部を新たなめっき液に置換するめっき液置換装置44が接続されている。このめっき液置換装置44は、めっき槽1に新たなめっき液を供給するめっき液供給装置45と、めっき槽1から使用済みのめっき液を排出する排出ライン46とを備えている。めっき液供給装置45は、オーバーフロー槽10に新たなめっき液を供給するように構成されている。排出ライン46はオーバーフロー槽10の底部に接続されている。排出ライン46は排出弁47を備えており、この排出弁47を開くと、オーバーフロー槽10内のめっき液を排出するように構成されている。
【0062】
電流計42は逆方向電流を測定し、逆方向電流の測定値を累積電流算出器43に送る。累積電流算出器43は、逆方向電流の測定値を累積し、逆方向電流の累積値を算出するように構成されている。そして、累積電流算出器43は、累積値が所定のしきい値に達したときにめっき液置換装置44にめっき液置換指令信号を送る。このめっき液置換指令信号を受け、排出ライン46は排出弁47を開いてオーバーフロー槽10内のめっき液を排出し、次いで、めっき液供給装置45はオーバーフロー槽10内に新たなめっき液を供給する。このように、逆方向電流の累積値が所定の値に達したときに、めっき槽1内のめっき液の少なくとも一部を入れ替えることで、性質が変化した添加剤が増えることを防止することができる。
【0063】
一般に、めっき槽1内に添加剤の副生成物が蓄積されることを防止するために、定期的にめっき液の供給および排出が繰り返される。上述した各実施形態によれば、逆方向電流が低減されるので、副生成物の発生を抑制することができる。したがって、めっき液の供給量および排出量を低減させることができる。例えば、逆方向電流の値を1/10に低下させると、めっき液の供給量および排出量を1/10に減少させることができる。
【0065】
これまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術思想の範囲内において、種々の異なる形態で実施されてよいことは勿論である。