特許第6586285号(P6586285)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6586285バタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6586285
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】バタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/02 20060101AFI20190919BHJP
   A23D 7/00 20060101ALI20190919BHJP
   A23L 9/20 20160101ALI20190919BHJP
【FI】
   A23D7/02
   A23D7/00 508
   A23L9/20
【請求項の数】11
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-82567(P2015-82567)
(22)【出願日】2015年4月14日
(65)【公開番号】特開2016-198069(P2016-198069A)
(43)【公開日】2016年12月1日
【審査請求日】2018年2月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100076532
【弁理士】
【氏名又は名称】羽鳥 修
(74)【代理人】
【識別番号】100143856
【弁理士】
【氏名又は名称】中野 廣己
(74)【代理人】
【識別番号】100161698
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 知子
(74)【代理人】
【識別番号】100171217
【弁理士】
【氏名又は名称】藤井 望
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(74)【代理人】
【識別番号】100155206
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 源一
(72)【発明者】
【氏名】藪下 哲成
【審査官】 伊達 利奈
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/121010(WO,A1)
【文献】 特開2014−135921(JP,A)
【文献】 特開2013−223465(JP,A)
【文献】 特開2009−039070(JP,A)
【文献】 特開2006−075137(JP,A)
【文献】 特開2004−359784(JP,A)
【文献】 特開平09−056351(JP,A)
【文献】 米国特許第06171624(US,B1)
【文献】 特開2009−232733(JP,A)
【文献】 特開2000−308820(JP,A)
【文献】 特開2001−262181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00
A23L 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物を製造する方法であって、
組成物の油相が、
大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、牛脂、豚脂、乳脂、及びカカオ脂からなる群から選択される植物油脂若しくは動物油脂、又はこれらに極度水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂を含有し、
使用油脂中、パーム系油脂の含有量が10質量%以下であり、
組成物中のグリセリンジ脂肪酸エステルの含有量を5質量%以下とし、
水相中にジグリセリン飽和脂肪酸エステルを0.1〜10質量%添加することを特徴とするバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物の製造方法
【請求項2】
油相中にグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルを0.001〜2質量%添加することを特徴とする請求項1記載のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物の製造方法
【請求項3】
ジグリセリン飽和脂肪酸エステルとグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの組成物中の含有量の質量比が50:50〜99:1であることを特徴とする請求項1又は2に記載のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物の製造方法
【請求項4】
使用油脂中、ラウリン系油脂の含有量が10質量%未満であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物の製造方法
【請求項5】
組成物中にトランス脂肪酸を実質的に含有しないことを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物の製造方法
【請求項6】
組成物がエステル交換油脂を油相中50〜100質量%含有することを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物の製造方法
【請求項7】
上記エステル交換油脂の一部又は全部が牛脂系油脂と液状油とをエステル交換したエステル交換油脂であることを特徴とする請求項記載のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物の製造方法
【請求項8】
組成物の油相が、
大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、牛脂、豚脂、乳脂、及びカカオ脂、並びにこれらに極度水素添加及び分別から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂から選ばれる一種又は二種以上の油脂のエステル交換油脂を50〜100質量%含有するか、或いは、
大豆油、菜種油、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、牛脂、豚脂、乳脂、及びカカオ脂、並びにこれらに極度水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂から選ばれる一種又は二種以上からなる、請求項1〜5の何れか1項に記載のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物の製造方法。
【請求項9】
組成物の油相が、動物系油脂と液状油のエステル交換油脂を含有するか、或いは、動物系油脂と液状油との混合油脂を含有する、請求項1〜5の何れか1項に記載のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか一項に記載の製造方法により得られるバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物を用いたバタークリームの製造方法
【請求項11】
水分含量を20〜70質量%のバタークリームを製造する、請求項10記載のバタークリームの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クリーミング性及び抱水性が良好であり、更には得られるバタークリームの口溶け及び離水耐性が良好であるバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
製菓製パン用のトッピングクリームやサンドクリームとして、油中水型クリーム、即ちバタークリームが広く用いられている。このバタークリームは、昔はその名称どおり、バターをクリーミングし、ここに卵類、液糖呈味成分などの水性原料を添加、混合、乳化することにより製造されていた。しかし現在では、水相を含有するためクリーミング性の低いバターに代えて、クリーミング性が高いショートニングを使用し、液糖及び呈味成分等を混合することにより製造されている。ここで、バタークリームには、口溶けと乳化安定性、とくに離水耐性が良好であることが要求され、また、バタークリームを製造するための油脂組成物については、容易に空気を抱き込むことのできるクリーミング性、水性原料をより多く乳化することのできる抱水性といった物性面に優れることが要求される。
【0003】
従来、上記バタークリームの原料油脂、特にバタークリームを製造するための油脂組成物としては、良好な物性や機能を有し、且つ安価である魚油が多用されてきた。この魚油は、部分水素添加により硬化させて好ましい物性を有するように調製した魚硬化油として広く利用されてきた。
しかし、近年になりマイワシ等の小魚の漁獲量が減少し魚油の生産量が不足してきたことにより、魚硬化油の使用を制限せざるを得ない状況に変わりつつある。また、硬化油はトランス酸を比較的多く含有するが、最近はこのトランス酸の含有量の少ない製品を要望する声も高い。そのため、バタークリームを製造するための油脂組成物についても魚硬化油からナタネ油、大豆油、パーム油等の植物油脂を代表とする各種の動植物油脂への置換が進められている。
【0004】
しかしながら、融点が近似することから魚硬化油の代替の主力となったパーム油、パーム分別軟部油、パーム分別硬部油などのパーム系油脂はグリセリンジ脂肪酸エステルを多く含有するという特徴があり、このためクリーミング性や抱水性が明らかに魚硬化油に比べ劣っているという問題があった。
また、パーム系油脂を使用したバタークリームは乳化安定性が十分ではない問題があり、このため、離水耐性が十分でないという問題もあった。
【0005】
そのため、油脂の脂肪酸組成やトリグリセリド組成の面の改良と、乳化剤による油脂結晶調整の2つの面からバタークリーム用油脂の改良がおこなわれた。
まず、油脂の面からの改良としては、各種の動植物油脂又はその分別油に対し、エステル交換を行なうことにより、魚硬化油と同等の物性や機能を与え、バタークリームの原料油脂として適当な油脂を得る試みが各種行なわれている。
例えば、中鎖脂肪酸トリグリセリド及びラウリン系油脂を含んでなるサンドクリーム用油脂組成物(例えば特許文献1参照)、油脂の構成脂肪酸組成において炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が50〜70質量%であり炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が20〜35質量%である油脂配合物をランダムエステル交換してなることを特徴とするクリーミング性改良油脂(例えば特許文献2参照)等が提案されている。
【0006】
しかし、これらの油脂組成物はクリーミング性には一定の改良効果は見られるが抱水性が十分ではなく、また、得られるバタークリームも離水耐性が十分でないという問題があった。さらにこれらの油脂組成物は油脂の構成脂肪酸としてラウリン酸を多く含んでいるため、保管条件によっては経時的な加水分解に伴って独特の石鹸臭が生じるおそれがあった。
一方、乳化剤の面からの改良としては、油脂にポリグリセリン脂肪酸エステルやショ糖脂肪酸エステルなどの比較的高分子量の各種の乳化剤を溶解添加することでクリーミング性や抱水性、さらには乳化安定性を改善する試みが行われてきた。(例えば特許文献3〜7参照)
【0007】
しかしこれらの乳化剤を含有するバタークリーム用油脂は、抱水性を上げるために乳化剤添加量を増やすとクリーミング性が低下してしまう問題があるため、クリーミング性と抱水性を両立させることができなかった。また、得られるバタークリームは口溶けは良好であるが、乳化安定性が十分ではない問題があり、このため、とくに高温保管時(約30℃以上)の離水耐性が十分でないという問題もあった。
【0008】
このように、魚硬化油を使用しない場合であっても、クリーミング性及び抱水性が良好であり、更には得られるバタークリームの口溶け及び離水耐性が共に良好であるバタークリーム用油脂組成物を得ることは非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−201380号公報
【特許文献2】特開2005−060614号公報
【特許文献3】特開平08−047373号公報
【特許文献4】特開2010−057378号公報
【特許文献5】特開平06−209706号公報
【特許文献6】特開平08−231981号公報
【特許文献7】特開平09−187222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って本発明の目的は、魚硬化油を使用しない場合であっても、クリーミング性及び抱水性が良好であり、更には得られるバタークリームの口溶け及び離水耐性が共に良好であるバタークリーム用油脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記目的を達成すべく種々検討したところ、バタークリーム用としてクリーミング性を重視する場合に一般的に使用される水相を含有しないショートニングではなく、水相を含有する油脂組成物をバタークリーム用油脂として使用し、その水相に、従来は油相に添加していた乳化剤を添加したところクリーミング性と抱水性の両立という問題を解決可能であり、さらに該油脂組成物を使用したバタークリームについても乳化安定性と口溶けが大きく改善されていることを知見した。
【0012】
本発明は上記知見に基づいて完成されたもので、水相中にジグリセリン飽和脂肪酸エステルを0.1〜10質量%含有することを特徴とするバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、上記バタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物を使用したバタークリームを提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、魚硬化油を使用しない場合であっても、クリーミング性及び抱水性が良好であり、更には得られるバタークリームの口溶け及び離水耐性が共に良好であるバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物について、好ましい実施形態に基づき詳述する。
【0016】
本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物は、水相中にジグリセリン飽和脂肪酸エステルを水相基準で0.1〜10質量%、好ましくは1.0〜5.0質量%、より好ましくは1.0〜3.5質量%含有する。水相中の含有量が0.1質量%未満では、抱水性改良効果もクリーミング性改良効果もほとんど見られず、また得られるバタークリームの口溶けの改良効果もほとんど認められない。また、水相中の含有量が10質量%を超えるとバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物自体の乳化安定性が悪化するおそれがある。
【0017】
ここでジグリセリン飽和脂肪酸エステルを油相に溶解すると、添加量を増量するにつれて抱水性は向上するがクリーミング性が低下してしまうため、十分なクリーミング性と抱水性を併せ持つバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物が得られない。そのため本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物は油相中にジグリセリン飽和脂肪酸エステルを実質的に含有しないことが好ましい。なお、ここで、ジグリセリン飽和脂肪酸エステルを実質的に含有しない、とは油相中にジグリセリン飽和脂肪酸エステルを溶解使用していないことを言うものであり、具体的な濃度としては油相中0.1質量%未満であり、好ましくは0.01質量%未満である。
【0018】
また、結合脂肪酸が不飽和脂肪酸であると十分な抱水性が得られないことに加え、得られるバタークリームに十分な耐熱保形性が得られない。
なお、本発明に使用するジグリセリン飽和脂肪酸エステルの結合脂肪酸の炭素数は14〜22であることが好ましく、より好ましくは16〜22である。
【0019】
本発明で使用するジグリセリン飽和脂肪酸エステルにおいて結合している脂肪酸の数は1であってもよく、2以上であってもよいが、脂肪酸の数が1であるもの、つまりジグリセリンモノ飽和脂肪酸エステルが少ない添加量で本発明の高い効果が得られる点で好ましい。
【0020】
本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物は、クリーミング性をさらに向上させることが可能であるため、油相中にグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルを油相基準で0.001〜2質量%、好ましくは0.01〜1質量%、より好ましくは0.01〜0.1質量%含有するものであることが好ましい。油相中の含有量が0.001質量%未満では、クリーミング性改良効果がほとんど見られず、また、油相中の含有量が2質量%を超えると得られるバタークリームに若干ねばりのある口溶けを感じられるようになってしまう。
【0021】
ここでグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルを水相に添加すると、上記ジグリセリン飽和脂肪酸エステルの効果を大きく阻害することに加え、バタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物自体の乳化安定性が急激に悪化する。この観点から、水相中のグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの含有量は、水相基準で0.01質量%以下であることが好ましく、0.001質量%未満であることがより好ましい。
また、結合脂肪酸が飽和脂肪酸であるとクリーミング性の改良効果が得られない。
なお、本発明に使用するグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの結合脂肪酸の炭素数は14〜22であることが好ましく、より好ましくは16〜18である。
【0022】
本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物における上記ジグリセリン飽和脂肪酸エステルとグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの組成物中の含有量の質量比は、好ましくは50:50〜99:1、より好ましくは80:20〜98:2、さらに好ましくは87:13〜96:4である。
【0023】
ジグリセリン飽和脂肪酸エステルの含有量比が50質量%未満であるとバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物自体の乳化安定性が急激に悪化することに加え、本発明の効果が得られにくいという問題があり、99質量%超であるとグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの添加効果がほとんど見られなくなってしまう。
【0024】
本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物に使用可能な食用油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、大豆油、菜種油(キャノーラ油)、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、牛脂、豚脂、乳脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂が挙げられる。
【0025】
なお本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物における上記食用油脂の含有量は好ましくは50〜99質量%、より好ましくは70〜95質量%、さらに好ましくは80〜95質量%である。
【0026】
また本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物における水分含量は好ましくは1〜50質量%、より好ましくは5〜30質量%、さらに好ましくは5〜20質量%である。
【0027】
ここで、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物は、クリーミング性及び抱水性を良好なものとするため、グリセリンジ脂肪酸エステルの含有量は5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは3質量%以下とする。そのため、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物ではグリセリンジ脂肪酸エステルを多く含有するパーム系油脂は使用しないことが好ましい。
【0028】
本発明において、パーム系油脂とは、パーム油、又はこれを原料として水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を挙げることができる。本発明では、バタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物における使用油脂中、パーム系油脂の含有量が10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましい。
【0029】
また、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物は、ラウリン系油脂を含有しないことが好ましい。ここで、「ラウリン系油脂」とは炭素数12の脂肪酸を多く含有する油脂のことをいい、具体的には、ヤシ油、パーム核油、又はこれらを原料として水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂等をいう。
【0030】
また、本発明において、「ラウリン系油脂を含有しない」とは、上記ラウリン系油脂の含有量がバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物における使用油脂中、好ましくは10質量%未満、更に好ましくは5質量%以下、最も好ましくは1質量%以下であることをいう。尚、ラウリン系油脂を原料の一部として水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を使用する場合は、その原料に使用したラウリン系油脂の含量を用いて算出するものとする。
【0031】
更に、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物は、経時的な加水分解による石鹸臭の発生を防止し、また融点降下によるバタークリームの耐熱保形性の悪化を防止するため、使用油脂の全構成脂肪酸中、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量が5質量%以下であることが好ましく、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下とすることが好ましい。
【0032】
ラウリン系油脂は、それ自体チョコレート用油脂として汎用されるように、適度の融点と口溶けを有する油脂ではあり、良好な口溶けの油脂組成物を得るために広く使用されているが、上述のように加水分解しやすく、また、融点降下をおこし、耐熱保形性が悪化する問題を有するため、水分を含有し、耐熱保形性を要求されるバタークリームやバタークリーム用油脂組成物においては特にラウリン系油脂を使用しないことが求められている。
【0033】
本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物は、後述するエステル交換油脂を使用することで、ラウリン系油脂を特に使用せずとも良好な口溶けと耐熱保形性を付与することができるため、ラウリン系油脂を含有せずとも良好な口溶けと耐熱保形性を有するバタークリームを得ることができる。
【0034】
また、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物は、トランス脂肪酸を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、「トランス脂肪酸を実質的に含有しない」とは、油脂組成物の使用油脂の全構成脂肪酸中、トランス脂肪酸含量が好ましくは10質量%未満、更に好ましくは5質量%以下であることをいう。
【0035】
水素添加は、油脂の融点を上昇させる典型的な方法であるが、部分水素添加油脂は、通常構成脂肪酸中にトランス脂肪酸が10〜50質量%程度含まれている。一方、天然油脂中にはトランス脂肪酸が殆ど存在せず、反芻動物由来の油脂に10質量%未満含まれているにすぎない。近年、上述のように、化学的な処理、特に水素添加に付されていない油脂組成物、即ち実質的にトランス脂肪酸を含まない油脂組成物であって、適切なコンシステンシーを有するものも要求されている。
【0036】
本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物では水相中にジグリセリン飽和脂肪酸エステルを0.1〜10質量%含有させ、好ましくは油相中にグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルを0.001〜2質量%含有させることにより良好なクリーミング性と抱水性を有する可塑性油脂組成物とすることが可能であるため、とくに部分水素添加油脂を使用せずとも適切なコンステンシーを有するバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物とすることができる。
【0037】
このように、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物においては、パーム系油脂及びラウリン系油脂を使用せず、さらに部分水素添加油脂を使用しないことが好ましい。
すなわち、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物では、上記食用油脂の中でも、大豆油、菜種油(キャノーラ油)、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、牛脂、豚脂、乳脂、カカオ脂等の各種植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに極度水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂を使用することが好ましい。
【0038】
なかでも本発明では良好なクリーミング性とするには、エステル交換油脂を油相中、油相基準で50〜100質量%使用することが好ましく、さらに好ましくは牛脂、豚脂、乳脂等の動物系油脂を含有する油脂配合物のエステル交換油脂を油相中、油相基準で50〜100質量%使用することが好ましく、特に好ましくは、牛脂系油脂と液状油のエステル交換油脂を油相中、油相基準で50〜100質量%使用することが好ましい。
【0039】
ここで、上記牛脂系油脂と液状油のエステル交換油脂について述べる。
なお、上記牛脂系油脂としては、牛脂、又はこれを原料として水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂を挙げることができるが、本発明では、牛脂、牛脂分別軟部油、牛脂分別硬部油、牛脂極度硬化油のうちの1種又は2種以上を使用することが好ましく、耐熱保形性と口溶けが特に良好なバタークリームが得られる点で、より好ましくは牛脂を使用する。
【0040】
上記牛脂は、産地、牛種別及び精製方法にかかわらず使用可能である。
尚、上記牛脂分別軟部油や牛脂分別硬部油は、牛脂を固体分の多い画分と液状分の多い画分とに何等かの方法で分別したもので、溶剤分別又は溶剤を使用しないドライ分別等、どの様な分別方法によって得られたものでも使用可能である。
【0041】
上記牛脂系油脂を使用して得られたエステル交換油脂は、他の動物油脂を使用した場合に比べ、SSU型トリグリセリド(1,2位に飽和脂肪酸、3位に不飽和脂肪酸が結合したグリセリントリ脂肪酸エステル)を比較的多く含有するため、結果として、粘りの強い、良好なクリーミング性と抱水性を示すバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物を得ることができる。
【0042】
上記液状油としては、大豆油、菜種油(キャノーラ油)、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油等の常温(25℃)で液状の油脂が挙げられるが、その他に、パーム油、パーム核油、ヤシ油、シア脂、サル脂、マンゴ脂、乳脂、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の常温で固体の油脂を分別することで得られた軟部油であって、常温で液状である油脂も使用することもできる。また、これらの油脂に対し、水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂についても、得られる加工油脂が常温で液状である範囲内において使用することもできる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0043】
本発明では、得られる油脂組成物の口溶けを良好なものとすることが可能な点から、上記液状油として、大豆油、菜種油(キャノーラ油)、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油等の常温で液状の油脂のうちの1種又は2種以上を使用することが好ましい。
【0044】
上記牛脂系油脂と上記液状油とをエステル交換したエステル交換油脂であるが、エステル交換時の牛脂系油脂と液状油との質量比率は、好ましくは99:1〜70:30、より好ましくは95:5〜75:25、最も好ましくは90:10〜76:24である。ここで牛脂系油脂の配合割合が70質量%未満、又は99質量%超であると、良好なクリーミング性や抱水性が得られないおそれがあり、特に牛脂系油脂の配合割合が70質量%未満であると得られるバタークリームの耐熱保形性が悪化するおそれがある。また牛脂系油脂の配合割合が99質量%を超えると、得られるバタークリームの口溶けが悪化するおそれもある。
【0045】
上記エステル交換の反応は、常法に従って行うことができ、化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよいが、良好なクリーミング性が得られる点から、ランダムエステル交換反応であることが好ましい。
【0046】
上記化学的触媒としては、例えば、ナトリウムメチラート等のアルカリ金属系触媒が挙げられ、また、上記酵素としては、位置選択性のない酵素、例えば、アルカリゲネス(Alcaligenes)属、リゾープス(Rhizopus)属、アスペルギルス(Aspergillus)属、ムコール(Mucor)属、ペニシリウム(Penicillium)属等に由来するリパーゼが挙げられる。尚、該リパーゼは、イオン交換樹脂或いはケイ藻土及びセラミック等の担体に固定化して、固定化リパーゼとして用いることもできるし、粉末の形態で用いることもできる。
【0047】
上記エステル交換油脂は、SFC(固体脂含量)が0℃で好ましくは30〜50%、より好ましくは35〜48%、特に好ましくは35〜45%であり、20℃で好ましくは7〜25%、より好ましくは10〜23%、特に好ましくは10〜20%であり、40℃で好ましくは0〜2%、より好ましくは0〜1%、特に好ましくは0%である。
【0048】
SFCが0℃で30%未満又は20℃で7%未満であると、良好なクリーミング性が得られないおそれがあり、また、得られるバタークリームに耐熱保形性を付与することができなくなる可能性がある。一方、SFCが0℃で50%を超える、及び/又は20℃で25%を超えると、得られるバタークリームの油性感が強くなり、更に、SFCが40℃で2%を超えると、口溶けが悪化してしまうことがある。
【0049】
上記のSFCは、次のようにして測定する。即ち、油脂を60℃に30分保持して完全に融解した後、0℃に30分保持して固化させる。次いで、25℃に30分保持し、テンパリングを行ない、その後、0℃に30分保持する。これを各測定温度に順次30分保持した後、SFCを測定する。
【0050】
本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物は、上記エステル交換油脂を、油相中に油相基準で好ましくは50〜100質量%、より好ましくは60〜100質量%、特に好ましくは80〜100質量%含有する。油相中の上記エステル交換油脂の含有量が50質量%未満であると、広い温度域での良好なクリーミング性や良好な抱水性を有する油脂組成物を得られにくい。また、得られるバタークリームに十分な耐熱保形性を付与することができなくなることがある。
【0051】
なお、ここで、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物の使用油脂の一部にエステル交換油脂を使用する場合、残余の油脂には風味の面から、エステル交換油脂を製造する際に使用する油脂と同様の油脂であることが風味の面から好ましい。例えば上記牛脂系油脂と液状油のエステル交換油脂を使用する場合には、牛脂系油脂及び液状油、並びにこれらに極度水素添加、分別及びエステル交換から選択される一又は二以上の処理を施した加工油脂のうちの1種又は2種以上を使用することが好ましい。
【0052】
本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物においては、油相のSFC(固体脂含量)を、10℃で好ましくは20〜60%、より好ましくは20〜50%、さらに好ましくは20〜40%、且つ、20℃で好ましくは10〜40%、より好ましくは10〜30%、さらに好ましくは10〜25%とする。SFCが10℃で20%未満であるか、又は20℃で10%未満であると、十分な硬さが得られず、広い温度範囲での良好な可塑性が得られ難い。一方、SFCが10℃で60%を超えるか、又は20℃で40%を超えると、バタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物が硬すぎて、広い温度範囲での良好な可塑性を得難い。尚、上記のSFCの測定方法は上述のとおりである。
【0053】
また、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物には、ジグリセリン飽和脂肪酸エステル、グリセリンモノ不飽和脂肪酸エステル、食用油脂以外のその他の成分を含有させることができる。その他の成分としては、例えば、水、ジグリセリン飽和脂肪酸エステル及びグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステル以外の乳化剤、増粘安定剤、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、クエン酸、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、牛乳・練乳・脱脂粉乳・カゼイン・ホエーパウダー・バター・クリーム・ナチュラルチーズ・プロセスチーズ・発酵乳等の乳や乳製品、蔗糖・液糖・はちみつ・ブドウ糖・麦芽糖・オリゴ糖・水飴・ソルビトール・還元水飴・モラセス等の糖類や糖アルコール類、デキストリン類、ステビア・アスパルテーム等の甘味料、β―カロチン・カラメル・紅麹色素等の着色料、トコフェロール・茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、卵及び各種卵加工品、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。
【0054】
上記乳化剤としては、グリセリン飽和脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、グリセリン有機酸脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、酵素処理レシチン、サポニン類等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記乳化剤の配合量は、特に制限はないが、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物中、好ましくは0〜3質量%、更に好ましくは0〜1.5質量%である。
【0055】
上記増粘安定剤としては、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、アラビアガム、アルギン酸類、ペクチン、キサンタンガム、プルラン、タマリンドシードガム、サイリウムシードガム、結晶セルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、寒天、グルコマンナン、ゼラチン、澱粉、化工澱粉等が挙げられ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。上記増粘安定剤の配合量は、特に制限はないが、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物中、好ましくは0〜10質量%、更に好ましくは0〜5質量%である。
【0056】
本発明のバタークリーム用油脂組成物中において、上記その他の成分の使用量は、それらの成分の使用目的等に応じて適宜選択することができ、特に制限されるものではないが、好ましくは本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物中、合計で50質量%以下とする。
【0057】
次に、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物の製造方法について説明する。
本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物は、食用油脂を主体とする油相に対し、ジグリセリン飽和脂肪酸エステルを0.1〜10質量%含有する水相を乳化した後、冷却可塑化させることにより製造することができる。
【0058】
具体的には、先ず、油脂に、必要に応じグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルを0.001〜2質量%並びにその他の成分としての油溶性成分を添加して油相とする。一方、水に、ジグリセリン飽和脂肪酸エステルを0.1〜10質量%並びに必要に応じその他の成分としての水溶性成分を添加して水相とする。
【0059】
次に、上記油相を溶解し、そこへ上記水相を加え、混合乳化し予備乳化物を得る。そして次に、この予備乳化物を殺菌処理するのが望ましい。殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。
次に、上記予備乳化物を冷却可塑化させて、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物を得る。冷却の際の冷却条件は、好ましくは−0.5℃/分以上、更に好ましくは−5℃/分以上とする。この際、徐冷却より、急速冷却の方が好ましい。冷却する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターとの組み合わせも挙げられる。
【0060】
また、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物を製造する際の何れかの製造工程で、窒素、空気等を含気させてもさせなくても構わない。
また、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物における「油中水型」とは、W/O型をはじめ、O/W/O型及びO/O型をも含むものである。
本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物は、油脂のクリーミング性を利用し、気相を導入することによって油脂の比重を小さくする操作を製造工程に含む、バタークリームに用いられる油脂として好適に用いることができるが、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物が糖分を含有する場合等風味成分を含有する場合はそのままクリーミングすることでバタークリームとして使用することも可能である。
【0061】
次に、本発明のバタークリームについて説明する。
バタークリームとは、マーガリンやショートニングをクリーミングし、ここに、糖液や、卵類、乳等を配合する方法、あるいは、糖液や、卵類、乳等をマーガリンやショートニングに添加し、これをクリーミングする方法、さらには、糖液や、卵類、乳等を含有する油脂組成物をクリーミングして製造される油中水型(W/O型をはじめ、O/W/O型及びO/O型をも含む)の乳化形態を持つクリームの総称であり、従来のバタークリームは、糖液等の比重の大きい原材料を多く配合するため、食感が重いものであった。本発明のバタークリームにおいては、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物を使用することにより、バタークリームの比重を小さくすることができ、また、口溶けを良好なものとすることができるので、本発明のバタークリームは軽い食感且つ良好な口溶けを有する。
【0062】
また、本発明のバタークリームは乳化安定性が良好であるため、高温保管時(約30℃以上)の離水耐性も良好である。
本発明のバタークリームにおける本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物の使用量は、バタークリームの用途や乳化形態等により異なるものであり、特に限定されるものではないが、おおよそバタークリーム中に20〜100質量%である。
【0063】
また、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物を使用したバタークリームは乳化安定性が良好であるため、水分含量が高いバタークリームとしても良好な離水耐性を有する。
そのため、本発明のバタークリームは水分含量が20〜70質量%、好ましくは20〜50質量%であることが好ましい。
【実施例】
【0064】
以下に、実施例と比較例とを共に挙げて更に本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
尚、下記実施例等において、脂肪酸含量は、特に断りのない限り、構成脂肪酸組成における脂肪酸含量を示す。
【0065】
<エステル交換油脂の製造>
〔製造例1〕エステル交換油脂Aの製造
牛脂88質量部に、菜種油12質量部を添加し、溶解した油脂配合物に、ナトリウムメチラートを触媒として非選択的エステル交換反応を行った後、脱色(白土3%、85℃、9.3×102Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×102Pa以下の減圧下)を行ない、SFC(固体脂含量)が0℃で44%、10℃で30%、20℃で17%、40℃で0%であるエステル交換油脂Aを得た。
〔製造例2〕エステル交換油脂Bの製造
牛脂60質量部に、牛脂極度硬化油40質量部を添加し、ナトリウムメチラートを触媒として非選択的エステル交換反応を行った後、脱色(白土3%、85℃、9.3×102Pa以下の減圧下)、脱臭(250℃、60分間、水蒸気吹き込み量5%、4.0×102Pa以下の減圧下)を行ない、SFC(固体脂含量)が0℃で81%、10℃で77%、20℃で67%、40℃で28%であるエステル交換油脂Bを得た。
【0066】
<バタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物の製造>
製造例1及び2で得られたエステル交換油脂A及びBを使用して、バタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物を、以下の実施例1〜8又は比較例1〜4により製造した。
【0067】
[実施例1]
エステル交換油脂Aに対し、グリセリンモノオレイン酸エステルを油相中に油相基準で0.024質量%となる量を添加し、溶解した油相84質量部と、水に対しジグリセリンモノステアリン酸エステルを水相中に水相基準で1.5質量%となる量を添加し、溶解した水相16質量部とを、65℃の温度で混合乳化してW/O型乳化物を得た。このW/O型乳化物を90℃にて殺菌し、次いでコンビネーターにて急冷可塑化して、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Aを得た。このバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Aのジグリセリン飽和脂肪酸エステルとグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの組成物中の含有量の質量比は92:8、グリセリンジ脂肪酸エステル含量は使用油脂の全構成脂肪酸中3質量%以下、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は4質量%以下であり、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で30%、20℃で17%であった。
【0068】
[実施例2]
エステル交換油脂Aに代えて、牛脂と菜種油を75:25の質量比で混合した混合油脂を使用した以外は実施例1と同様の配合・製法で本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Bを得た。このバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Bのジグリセリン飽和脂肪酸エステルとグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの組成物中の含有量の質量比は92:8、グリセリンジ脂肪酸エステル含量は3質量%以下、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は4質量%以下であり、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で29%、20℃で15%であった。
【0069】
[実施例3]
エステル交換油脂Aに代えて、エステル交換油脂Aと菜種油を75:25の質量比で混合した混合油脂を使用した以外は実施例1と同様の配合・製法で本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Cを得た。このバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Cのジグリセリン飽和脂肪酸エステルとグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの組成物中の含有量の質量比は92:8、グリセリンジ脂肪酸エステル含量は3質量%以下、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は4質量%以下であり、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で23%、20℃で13%であった。
【0070】
[実施例4]
エステル交換油脂Aに代えて、エステル交換油脂Aとエステル交換油脂Bを87.5:12.5の質量比で混合した混合油脂を使用した以外は実施例1と同様の配合・製法で本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Dを得た。このバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Dのジグリセリン飽和脂肪酸エステルとグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの組成物中の含有量の質量比は92:8、グリセリンジ脂肪酸エステル含量は3質量%以下、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は4質量%以下であり、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で36%、20℃で23%であった。
【0071】
[実施例5]
グリセリンモノオレイン酸エステルを無添加に変更した以外は実施例1と同様の配合・製法で本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Eを得た。このバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Eのジグリセリン飽和脂肪酸エステルとグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの組成物中の含有量の質量比は100:0、グリセリンジ脂肪酸エステル含量は3質量%以下、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は4質量%以下であり、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で30%、20℃で17%であった。
【0072】
[実施例6]
ジグリセリンモノステアリン酸エステルの添加量を水相中1.5質量%から3.0質量%に変更した以外は実施例1と同様の配合・製法で本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Fを得た。このバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Fのジグリセリン飽和脂肪酸エステルとグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの組成物中の含有量の質量比は96:4、グリセリンジ脂肪酸エステル含量は3質量%以下炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は4質量%以下であり、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で30%、20℃で17%であった。
【0073】
[実施例7]
ジグリセリンモノステアリン酸エステルの添加量を水相中1.5質量%から7.5質量%に変更した以外は実施例1と同様の配合・製法で本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Gを得た。このバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Gのジグリセリン飽和脂肪酸エステルとグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの組成物中の含有量の質量比は98:2、グリセリンジ脂肪酸エステル含量は3質量%以下、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は4質量%以下であり、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で30%、20℃で17%であった。
【0074】
[実施例8]
ジグリセリンモノステアリン酸エステルの添加量を水相中1.5質量%から0.75質量%に変更した以外は実施例1と同様の配合・製法で本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Hを得た。このバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Hのジグリセリン飽和脂肪酸エステルとグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの組成物中の含有量の質量比は86:14、グリセリンジ脂肪酸エステル含量は3質量%以下、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は4質量%以下であり、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で30%、20℃で17%であった。
【0075】
[比較例1]
ジグリセリンモノステアリン酸エステルを無添加とした以外は実施例1と同様の配合・製法で比較例のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Iを得た。このバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Iのジグリセリン飽和脂肪酸エステルとグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの組成物中の含有量の質量比は0:100、グリセリンジ脂肪酸エステル含量は3質量%以下、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は4質量%以下であり、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で30%、20℃で17%であった。
【0076】
[比較例2]
ジグリセリンモノステアリン酸エステルに代えてジグリセリンモノオレイン酸エステルを使用した以外は実施例1と同様の配合・製法で比較例のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Jを得た。このバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Jのジグリセリン飽和脂肪酸エステルとグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの組成物中の含有量の質量比は0:100、グリセリンジ脂肪酸エステル含量は3質量%以下、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は4質量%以下であり、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で30%、20℃で17%であった。
【0077】
[比較例3]
エステル交換油脂Aに対し、ジグリセリンモノステアリン酸エステルを油相中0.29質量%となる量及びグリセリンモノオレイン酸エステルを油相中0.024質量%となる量を添加し、溶解した油相84質量部と、水相16質量部とを、65℃の温度で混合乳化してW/O型乳化物を得た。このW/O型乳化物を90℃にて殺菌し、次いでコンビネーターにて急冷可塑化して、比較例のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Kを得た。このバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Kのジグリセリン飽和脂肪酸エステルとグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの組成物中の含有量の質量比は92:8、グリセリンジ脂肪酸エステル含量は3質量%以下、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は4質量%以下であり、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で30%、20℃で17%であった。
【0078】
[比較例4]
ジグリセリンモノステアリン酸エステルの添加量を油相中0.29質量%から0.57質量%に変更した以外は比較例3と同様の配合・製法で、比較例のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Lを得た。このバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物Lのジグリセリン飽和脂肪酸エステルとグリセリンモノ不飽和脂肪酸エステルの組成物中の含有量の質量比は96:4、グリセリンジ脂肪酸エステル含量は3質量%以下、炭素数12以下の飽和脂肪酸含量は使用油脂の全構成脂肪酸中1質量%以下、トランス脂肪酸含量は4質量%以下であり、油相のSFC(固体脂含量)が10℃で30%、20℃で17%であった。
【0079】
上記実施例1〜8及び上記比較例1〜4それぞれで得られたバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物A〜Lについて、以下の評価方法により25℃におけるクリーミング性試験と抱水性試験を行い、その評価結果を下記[表1]に記載した。
<クリーミング性評価方法>
バタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物各300gを15℃に調温し、卓上ミキサーでビーターを使用し、高速でクリーミングし、クリーミング性について下記(評価基準)に従って評価を行なった。
【0080】
(クリーミング性評価基準)
◎ 比重0.5に達するまで時間が6分未満で極めて良好
○ 6分以上12分未満で比重0.5とすることができ、良好である
× 比重0.5に達するまで12分以上かかり不良である。
【0081】
<抱水性評価方法>
上記クリーミング性評価試験により比重が0.5になったバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物300gに水を100gずつ投入混合し、抱水できなくなった点をもって抱水量とし、下記(評価基準)に従って評価を行なった。
(抱水性評価基準)
◎ 抱水量が900g以上
○ 抱水量が600g以上900g未満
△ 抱水量が300g以上600g未満
× 抱水量が300g未満
【0082】
<バタークリームの製造>
上記実施例1〜8及び上記比較例1〜4それぞれで得られたバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物100質量部に転化糖液糖(水分含量25質量%)100質量部を添加し、卓上ミキサーでビーターを使用し、比重が0.80になるまで高速でクリーミングし、水分含量が20.5質量%であるバタークリームをそれぞれ得た。
【0083】
<バタークリームの評価方法>
得られたバタークリームについて、官能試験(口溶け)及び乳化安定性試験を行ない、その評価結果を下記[表2]に記載した。尚、官能試験においては、口溶けを下記評価基準に従い5段階で評価した。また乳化安定性試験においては、菊型口金でシャーレに花型に絞り、蓋をし、これを5℃に60分調温後、20℃、25℃及び30℃の各恒温槽に一晩おき、離水の状況及び耐熱保形性の状況を観察し、下記の評価基準に従い4段階で評価した。
【0084】
(口溶け評価基準)
◎ 大変良好
○+ 良好
○ まずまず良好
△ やや劣る
× 不良
(離水耐性評価基準)
◎ 離水が見られない。
○ やや離水が見られるが、全く問題のない程度である。
△ はっきりした離水が見られる。
× 離水が激しい。
(耐熱保形性評価基準)
◎ 全く問題ない。
○ ほぼ問題ない。
△ やや悪い。
× 悪い。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
上記評価結果から分かるとおり、本発明のバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物は、クリーミング性、抱水性に良好なものであり、該バタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物から得られるバタークリームは口溶け、離水耐性及び耐熱保形性に優れるものであった(実施例1〜8)。
それに対し、ジグリセリン飽和脂肪酸エステルを含有しないバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物(比較例1)は抱水性、離水耐性及び耐熱保形性が十分ではなく、ジグリセリン飽和脂肪酸エステルに代えてジグリセリン不飽和脂肪酸エステルを使用したバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物(比較例2)は抱水性及び耐熱保形性が不良であり、ジグリセリン飽和脂肪酸エステルを水相ではなく油相に含有するバタークリーム用可塑性油中水型乳化油脂組成物(比較例3、4)はクリーミング性が不良であり、クリーミング性、抱水性、得られるバタークリームの口溶け、離水耐性、耐熱保形性の全てが良好なものはなかった。