特許第6586494号(P6586494)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6586494ヒスタミン測定のためのサンプリング方法及びキット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6586494
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】ヒスタミン測定のためのサンプリング方法及びキット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/12 20060101AFI20190919BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20190919BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20190919BHJP
   G01N 33/48 20060101ALI20190919BHJP
   G01N 33/52 20060101ALI20190919BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20190919BHJP
   C12Q 1/32 20060101ALN20190919BHJP
【FI】
   G01N33/12
   G01N33/68
   G01N33/543 521
   G01N33/48 S
   G01N33/52 A
   G01N33/483 F
   !C12Q1/32
【請求項の数】9
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2018-153819(P2018-153819)
(22)【出願日】2018年8月20日
【審査請求日】2018年11月13日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】一柳 悠子
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特表2016−537009(JP,A)
【文献】 特開2005−331381(JP,A)
【文献】 特開2001−157597(JP,A)
【文献】 国際公開第2019/049966(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0099656(US,A1)
【文献】 SATO Tsuneo, et al., "Simple and rapid determination of histamine in food using a new histamine dehy
【文献】 佐藤常雄, "水産物中のヒスタミン簡易測定法の開発", Nippon Suisan Gakkaishi, 2007, Vol.73, No.5, pp.83
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)検体を非侵襲的にサンプリングし、検体から測定用の試料を取得する工程、及び
(ii)工程(i)においてサンプリングした試料を、ヒスタミン測定に供する工程、を含む、ヒスタミン食中毒検査用又はヒスタミン食中毒予防用の、ヒスタミン測定方法であって、
検体が魚である場合、非侵襲的サンプリングが、当該魚の口から、鰓孔から、肛門から、魚体表面について、腹腔について、若しくはミンチではない魚肉の切り身の表面について行われるものである、又は
検体が鶏である場合、非侵襲的サンプリングが、当該鶏の口から、肛門から、腹腔について、若しくはミンチではない鶏肉の切り身の表面について行われるものである、前記方法
【請求項2】
非侵襲的サンプリングが、綿棒を用いた拭き取りにより行われる、請求項に記載の方法。
【請求項3】
ヒスタミン測定がヒスタミンデヒドロゲナーゼを用いる比色法又は抗ヒスタミン抗体を用いるイムノクロマト法によるヒスタミン測定である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
ヒスタミン測定がヒスタミンデヒドロゲナーゼを用いる比色法であり、さらに誤反応抑制剤を用いる、請求項1又は2に記載の方法であって、誤反応抑制剤が、
(A)(i−a)ホウ酸若しくは下記式(I)又は(II):
【化1】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、H、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、チオール基、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基、及び置換された若しくは置換されていないC〜C10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択され、
は、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基により置換された又は置換されていないC〜C10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択される)で表されるボロン酸又はその塩、又は
(i−b)アルキル硫酸塩、及び
(B)双性イオンを有し、カルボキシ基を有しない化合物を含む緩衝溶液であって、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、Bis−Tris、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される緩衝液、Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)又は炭酸緩衝液
からなる群より選択される、前記方法。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項に記載のヒスタミン測定方法を行うための使用説明書、及びヒスタミン測定用試薬を含む、ヒスタミン測定キットであって、ここで前記使用説明書は検体からのサンプリングを非侵襲的に行うことを記載したものであ
検体が魚である場合、非侵襲的サンプリングが、当該魚の口から、鰓孔から、肛門から、魚体表面について、腹腔について、若しくはミンチではない魚肉の切り身の表面について行われるものである、又は
検体が鶏である場合、非侵襲的サンプリングが、当該鶏の口から、肛門から、腹腔について、若しくはミンチではない鶏肉の切り身の表面について行われるものである、前記キット。
【請求項6】
試料採取部、反応部、及び使用説明書を含むヒスタミン測定キットであって、前記反応部がヒスタミン測定試薬を含むものであり、前記使用説明書が検体からのサンプリングを非侵襲的に行うことを記載したものである、ヒスタミン食中毒検査用の、ヒスタミン測定キットであって、
検体が魚である場合、非侵襲的サンプリングが、当該魚の口から、鰓孔から、肛門から、魚体表面について、腹腔について、若しくはミンチではない魚肉の切り身の表面について行われるものである、又は
検体が鶏である場合、非侵襲的サンプリングが、当該鶏の口から、肛門から、腹腔について、若しくはミンチではない鶏肉の切り身の表面について行われるものである、前記キット
【請求項7】
ヒスタミン測定試薬が、ヒスタミンデヒドロゲナーゼ及び比色法用試薬、又は抗ヒスタミン抗体及びイムノクロマト用試薬を含む、請求項に記載のキット。
【請求項8】
ヒスタミン測定試薬が、ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、比色法用試薬及び誤反応抑制剤を含む、請求項に記載のキットであって、誤反応抑制剤が、
(A)(i−a)ホウ酸若しくは下記式(I)又は(II):
【化2】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、H、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、チオール基、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基、及び置換された若しくは置換されていないC〜C10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択され、
は、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基により置換された又は置換されていないC〜C10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択される)で表されるボロン酸又はその塩、又は
(i−b)アルキル硫酸塩、及び
(B)双性イオンを有し、カルボキシ基を有しない化合物を含む緩衝溶液であって、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、Bis−Tris、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される緩衝液、Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)又は炭酸緩衝液
からなる群より選択される、キット
【請求項9】
試料採取部、反応部、及びセンサー部を含む、使用説明書が付属したヒスタミン測定装置であって、前記反応部がヒスタミンデヒドロゲナーゼを含むものであり、前記使用説明書が検体からのサンプリングを非侵襲的に行うことを記載したものであり、前記センサー部がヒスタミンの電気化学的測定用のセンサーを備えており
検体が魚である場合、非侵襲的サンプリングが、当該魚の口から、鰓孔から、肛門から、魚体表面について、腹腔について、若しくはミンチではない魚肉の切り身の表面について行われるものである、又は
検体が鶏である場合、非侵襲的サンプリングが、当該鶏の口から、肛門から、腹腔について、若しくはミンチではない鶏肉の切り身の表面について行われるものである、
ヒスタミン食中毒検査用の、ヒスタミン測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒスタミン測定のためのサンプリング方法及びキット等に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒスタミンは体内で起こるアレルギー反応の化学伝達物質であるため、ヒスタミンを多量に蓄積した食品を摂取するとアレルギー様中毒が起こる。ヒスタミンによるアレルギー反応の具体的な症状としては、食後数分から数時間で顔面などに発赤が生じ、続いてかゆみ、じん麻疹や湿疹が出、ひどい場合はじん麻疹が全身に広がり気管支炎や血圧降下を起こす場合もある。こうしたことから、食品加工工場や食品衛生監視機関、臨床検査室などにおいてヒスタミン量を簡易且つ迅速に測定することができるヒスタミンの測定法が強く求められていた。
【0003】
例えば赤身の魚やその加工工程において、ヒスタミン産生菌が活動しヒスタミンが産生され蓄積されうる。ヒスタミンを多く含む食品を喫食するとアレルギー様中毒が生じ、これはヒスタミン食中毒と呼ばれることがある。食材中のヒスタミン量が一定以下であることを加工前に確認することは重要であるが、魚肉がヒスタミンを多く含むかは、その魚肉が腐敗していることと必ずしも相関しないため、いわゆる腐敗臭のような臭いのみで判別できない場合もあり、魚肉の鮮度測定とは別に、ヒスタミン測定が必要となる。
【0004】
ヒスタミン量の測定法としては、蛍光分析法、薄層クロマトグラフィーやペーパークロマトグラフィーを用いるクロマトグラフィー法、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法、抗原抗体反応法、及び酵素法等が知られている。本願出願人は、簡便であり、高精度であることから酵素法に着目し、これまでにヒスタミンデヒドロゲナーゼを用いてヒスタミンを測定する方法を開発している(特許文献1及び特許文献2)。
【0005】
ヒスタミン食中毒が発生した場合の原因究明のための検査には、主にHPLC法や蛍光光度法が使用される。しかしながらこれらの方法は、検査に時間がかかり、ヒスタミン食中毒の予防のための迅速な検査には不向きである。また検査がヒスタミンを蛍光標識で誘導体化する工程を必要とするなど、手間がかかり、全数検査等は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−157597号公報(特許第3926071号)
【特許文献2】特開2004−129597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願出願人が開発し、用いてきたヒスタミンデヒドロゲナーゼを用いるヒスタミン測定方法(特許文献1及び特許文献2)は、魚肉等の可食部をミンチにした後にヒスタミンを測定する必要があった。可食部をミンチにすると、その検体(個体)は商品として販売できない又は販売しにくいなど、使用用途が限られる。また、ヒスタミン測定のために、可食部の一部をミンチにしなければならない、という手間があった。また、従来のヒスタミン検査は、可食部をミンチにする等、侵襲的であることから、全数検査が実質的に不可能であったのみならず、検査できる検体数も限られ、検査頻度も少なかった。
【0008】
したがって本発明は、上記の問題点の少なくとも一部を解決しうるヒスタミン測定方法及びキットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の問題点に鑑み、検体のヒスタミン量を測定するに当たり、非侵襲的にサンプリングを行い、そのようにして得られた試験サンプルをヒスタミン測定試験に供することにより、検体を破壊することなく、当該検体に含まれる可食部におけるヒスタミンの有無を判別することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は以下の態様を包含する。
[1] (i)検体を非侵襲的にサンプリングし、検体から測定用の試料を取得する工程、及び
(ii)工程(i)においてサンプリングした試料を、ヒスタミン測定に供する工程、
を含む、ヒスタミン食中毒検査用又はヒスタミン食中毒予防用の、ヒスタミン測定方法。
[2] 検体が魚である場合、非侵襲的サンプリングが、当該魚の口から、鰓孔から、肛門から、魚体表面について、若しくはミンチではない魚肉の切り身の表面について行われるものである、又は
検体が鶏である場合、非侵襲的サンプリングが、当該鶏の口から、肛門から、若しくはミンチではない鶏肉の切り身の表面について行われるものである、
実施形態1に記載の方法。
[3] 非侵襲的サンプリングが、綿棒を用いた拭き取りにより行われる、実施形態1又は2に記載の方法。
[4] ヒスタミン測定がヒスタミンデヒドロゲナーゼを用いる比色法又は抗ヒスタミン抗体を用いるイムノクロマト法によるヒスタミン測定である、実施形態1〜3のいずれかに記載の方法。
[5] ヒスタミン測定がヒスタミンデヒドロゲナーゼを用いる比色法であり、さらに誤反応抑制剤を用いる、実施形態1〜3のいずれかに記載の方法。
[6] 実施形態1〜5のいずれかに記載のヒスタミン測定方法を行うための使用説明書、及びヒスタミン測定用試薬を含む、ヒスタミン測定キット、ここで前記使用説明書は検体からのサンプリングを非侵襲的に行うことを記載したものである、前記キット。
[7] 試料採取部、反応部、及び使用説明書を含むヒスタミン測定キットであって、前記反応部がヒスタミン測定試薬を含むものであり、前記使用説明書が検体からのサンプリングを非侵襲的に行うことを記載したものである、ヒスタミン食中毒検査用の、ヒスタミン測定キット。
[8] ヒスタミン測定試薬が、ヒスタミンデヒドロゲナーゼ及び比色法用試薬、又は抗ヒスタミン抗体及びイムノクロマト用試薬を含む、実施形態7に記載のキット。
[9] ヒスタミン測定試薬が、ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、比色法用試薬及び誤反応抑制剤を含む、実施形態7に記載のキット。
[10] 試料採取部、反応部、センサー部及び使用説明書を含むヒスタミン測定装置であって、前記反応部がヒスタミンデヒドロゲナーゼを含むものであり、前記使用説明書が検体からのサンプリングを非侵襲的に行うことを記載したものであり、前記センサー部がヒスタミンの電気化学的測定用のセンサーを備えている、ヒスタミン食中毒検査用の、ヒスタミン測定装置。
[11] 誤反応抑制剤が
(A) (i−a)ホウ酸若しくは下記式(I)又は(II):
【化1】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、H、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、チオール基、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基、及び置換された若しくは置換されていないC〜C10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択され、
は、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基により置換された若しくは置換されていないC〜C10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択される)で表されるボロン酸又はその塩、又は
(i−b)アルキル硫酸塩、
(B) 双性イオンを有し、カルボキシ基を有しない化合物を含む緩衝溶液であって、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、Bis−Tris、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される緩衝液、Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)又は炭酸緩衝液、
(C) 双性イオンを有し、スルホ基を有する化合物を含む緩衝液であって、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される緩衝液、並びに
(D) 双性イオンを有し、スルホ基を有し、かつ2位にヒドロキシ基を有する化合物を含む緩衝液であって、TAPSO、POPSO、HEPPSO、及びMOPSOからなる群から選択される緩衝液、
からなる群より選択される、上記いずれかの実施形態。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、検体を破壊することなく、当該検体に含まれるヒスタミンを測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、0〜100ppmにおけるヒスタミン量の測定結果を示す。Aは目視による色調変化、Bは色調を数値化した場合の、K値とヒスタミン量の検量線を示す。
図2図2は、ヒスタミン不検出サンプル(Aはイワシ、Bはアジ)の様々な部位をサンプリングし、測定した結果を示す。1は口、2は魚体表面、3は肛門、4は鰓孔、5は内臓除去後洗浄した腹腔内、6は三枚おろし後の中骨回りの身、7は三枚おろし後の身、8はミンチを各々の方法でサンプリング、測定した結果を示す。
図3図3は、加速試験前のイワシ(A)またはアジ(B)を非侵襲にてサンプリングし、ヒスタミン量を測定した結果を示す。1は口、2は魚体表面、3は肛門、4は鰓孔(アジのみ)をサンプリングした結果を示す。アジ(1)〜(3)は異なる個体である。
図4図4は、20℃にて18時間保存した後のイワシ(A)、またはアジ(B)三匹に含まれるヒスタミン量をそれぞれ測定した結果を示す。1は口、2は魚体表面、3は肛門、4は鰓孔、5はドリップ(アジのみ)6は内臓除去後の腹腔内、7は洗浄後の腹腔内、8は三枚おろし後の中骨回りの身、9は三枚おろし後の身、10,11は共にミンチを各々の方法でサンプリング、測定した結果を示す。イワシ(1)〜(3)は異なる個体である。またアジ(1)〜(3)は異なる個体である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.ヒスタミン測定のためのサンプリング方法
ある実施形態において、本発明は、ヒスタミン測定のためのサンプリング方法を提供する。本明細書におけるヒスタミンには、その塩も含まれる。ある実施形態において、サンプリングは、ヒスタミンを含み得る検体について行う。ヒスタミンを含み得る検体としては、魚、ミンチにされていない魚肉(例えばミンチにされていない魚の切り身、三枚におろした魚の切り身等)、畜肉、鶏肉、チーズ、醤油、魚醤及びワイン等、液状及び固形状の食品、尿及び血漿等の体液、生体物質、及び生体組織等が挙げられる。
【0014】
ある実施形態において、本発明は、ヒスタミン測定のための非侵襲的サンプリング方法を提供する。別の実施形態において本発明は、
(i)検体を非侵襲的にサンプリングし、検体から測定用の試料を取得する工程、及び
(ii)工程(i)においてサンプリングした試料を、ヒスタミン測定に供する工程、
を含む、ヒスタミン測定方法を提供する。この方法は例えば、ヒスタミン食中毒検査用又はヒスタミン食中毒予防用に用いることができる。
【0015】
ある実施形態において、検体のヒスタミン量を測定するに当たり、サンプリングは非侵襲的に行う。本明細書において「非侵襲的にサンプリングを行う」、「非侵襲的にサンプリングをする」、又は「非侵襲的なサンプリング」、とは、検体をサンプリングのために傷つけることなく、例えば魚肉であればこれをミンチにすることなく、測定用の試料を採取することをいう。なお、本明細書において「非侵襲的サンプリング」は、対象試料をサンプリングのためにさらに傷つけない手法であればよく、既に傷つけられている試料、例えば切り身にされた魚や三枚におろされた魚について、当該試料をさらに傷つけることなくサンプリングを行うことも、本明細書にいう非侵襲的サンプリングに包含されるものとする。例えば切り身にされた魚や三枚におろされた魚、鶏肉の表面などについて綿棒を用いた拭き取りにより行うサンプリングは、本明細書にいう「非侵襲的サンプリング」に該当する。
【0016】
ある実施形態において、検体が魚である場合、非侵襲的サンプリングは、当該魚の口、喉、口腔、食道、胃、肛門、腸、鰓孔、エラ、魚体表面、ミンチではない魚肉の切り身の表面について行うことができる。ある実施形態において、検体が鶏肉である場合、非侵襲的サンプリングは、ミンチではない鶏肉の切り身の表面について行うことができる。また加工前の鶏であれば、非侵襲的サンプリングは、鶏の口、喉、口腔、食道、胃、肛門、腸、について行うことができる。口からサンプリング器具を挿入することにより、口、口腔、喉、食道、胃のサンプリングを非侵襲的に行うことが可能になる。また、肛門からサンプリング器具を挿入することにより、肛門、腸のサンプリングを非侵襲的に行うことが可能になる。また、鰓孔(さいこう)からサンプリング器具を挿入することにより、エラのサンプリングを非侵襲的に行うことが可能になる。
【0017】
なお、非侵襲的とは、医学用語としては、体の開口部への又は皮膚内への器具の挿入を要しない手法について用いられることがあるが、本発明はヒト患者を対象とする医学的検査方法ではなく、主として、食されることを前提とする魚や鶏等の検体についてのヒスタミン測定方法に関するものであることから、サンプリング器具を口、鰓孔又は肛門から検体内に挿入することを伴う手法であっても本明細書にいう「非侵襲的サンプリング」に該当するものとする。本明細書において非侵襲的サンプリングのことを、検体又は検体の一部を破壊する工程を含まないサンプリング、或いは検体を実質的に破壊しないサンプリングということがある。「検体を実質的に破壊しない」、とは、原則として検体を破壊しないことを意味するが、例外的に、食される検体の可食性を損なわない、食される検体の可食部を損なわない、又は食される検体の外観など商品価値を損なわない程度に軽微な破壊は許容され、このような検体の軽微な破壊であっても、本明細書にいう「検体を実質的に破壊しない」に包含されるものとする。例えば魚について、エラが一般的に食される部位ではない場合、鰓孔からのサンプリングによりエラに軽微な損傷が生じても、食品として、或いは商品としてはほとんど問題にならないと考えられ、したがってそのようなサンプリングも本明細書にいう非侵襲的サンプリングに包含されるものとする。口や肛門からのサンプリングについても同様である。
【0018】
ある実施形態において、非侵襲的サンプリングは、綿棒を用いた拭き取りにより行うことができる。
【0019】
ある実施形態において、ヒスタミン測定はヒスタミンデヒドロゲナーゼを用いる比色法又は抗ヒスタミン抗体を用いるイムノクロマト法により行うことができる。ある実施形態において、本発明のヒスタミン測定方法は、ヒスタミンを測定することを目的として試料をミンチにする工程を含まない。
【0020】
ある実施形態において本発明は、本発明に係るヒスタミン測定方法を行うための使用説明書、及びヒスタミン測定用試薬を含む、ヒスタミン測定キットを提供する。ある実施形態において、使用説明書は検体からのサンプリングを非侵襲的に行うことを記載したものである。ある実施形態においてヒスタミン測定用試薬は、ヒスタミンデヒドロゲナーゼ及び比色法用試薬を含む。別の実施形態において、ヒスタミン測定用試薬は、抗ヒスタミン抗体及びイムノクロマト用試薬を含む。ある実施形態において、このキットに含まれるヒスタミン測定用試薬は、誤反応抑制剤を含みうる。
【0021】
ある実施形態において、本発明は、本発明のヒスタミン測定方法又はキットを用いた、ヒスタミン食中毒検査方法、及び、ヒスタミン食中毒予防方法を提供する。
【0022】
本明細書において、「ヒスタミンデヒドロゲナーゼ」とは、酸化還元酵素に分類され、以下の反応:
【化2】
によるヒスタミンの酸化を触媒する酵素である。上記反応式において、式(III)の化合物はヒスタミンであり、式(IV)の化合物は4−イミダゾリルアセトアルデヒドである。一実施形態において、メディエーターは、本明細書に記載のメディエーター、例えばPMS(フェナジニウムメチルサルフェート)であり、この場合還元型メディエーターは還元型PMS(PMSH)である。
【0023】
測定精度の点から、ヒスタミンデヒドロゲナーゼは、好ましくはヒスタミンに特異的に作用する、すなわち、ヒスタミンに特異的に作用するが他のアミンに対しては全く作用しないか、又は弱く作用することが好ましい。特に、ヒスタミンデヒドロゲナーゼは、ヒスタミンには作用するが、カダベリン及びプトレシンには作用しないことが好ましい。ヒスタミンデヒドロゲナーゼは、細菌由来、例えばリゾビウム(Rhizobium)属に属する細菌に由来するものであることが好ましい。ヒスタミンデヒドロゲナーゼは、天然に由来するものを抽出及び/又は精製して得てもよいし、生物の遺伝子情報に基づき、公知の遺伝子工学的な手法により生産されたものであってもよい。ヒスタミンデヒドロゲナーゼを生産する具体的な方法は当業者には知られており、例えば、特開2001−157597号公報に記載の方法を使用することができる。また、本発明において使用できる具体的なヒスタミンデヒドロゲナーゼとしては、特開2001−157597号公報に記載のヒスタミンデヒドロゲナーゼが挙げられる。一実施形態において、本発明のキットにおいて、ヒスタミンデヒドロゲナーゼの測定時又は保管時、好ましくは測定時の終濃度は、限定するものではないが、1mU/assay〜20U/assay、好ましくは、5mU/assay〜2U/assay、より好ましくは10mU/assay〜0.5U/assay、さらに好ましくは25mU/assay〜0.25U/assayであってよい(但し、1Uは37℃、pH9.0において1分間に1μmolの4−イミダゾリルアセトアルデヒドを生成する酵素量として定義される)。上記ヒスタミンデヒドロゲナーゼの濃度は例示であり、反応時間に応じて適宜調整することができる。
【0024】
ある実施形態において本発明のヒスタミン測定方法は、誤反応抑制剤を使用するものでありうる。本発明に使用可能な誤反応抑制剤は、
(A) (i−a)ホウ酸若しくは下記式(I)又は(II):
【化3】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、H、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、チオール基、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基、及び置換された若しくは置換されていないC〜C10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択され、
は、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基により置換された又は置換されていないC〜C10アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択される)で表されるボロン酸又はその塩、又は
(i−b)アルキル硫酸塩、
(B) 双性イオンを有し、カルボキシ基を有しない化合物を含む緩衝溶液であって、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、Bis−Tris、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される緩衝液、Tris(トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン)又は炭酸緩衝液、
(C) 双性イオンを有し、スルホ基を有する化合物を含む緩衝液であって、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される緩衝液、並びに
(D) 双性イオンを有し、スルホ基を有し、かつ2位にヒドロキシ基を有する化合物を含む緩衝液であって、TAPSO、POPSO、HEPPSO、及びMOPSOからなる群から選択される緩衝液、
からなる群より選択されるものでありうる。
【0025】
本明細書において「ホウ酸」とは、化学式B(OH)で表わされるホウ素のオキソ酸を意味する。また、本明細書において、「ボロン酸」とは、ホウ酸のヒドロキシ基を置換したものであり、以下の式(I)又は(II)で表される化合物を意味し得る:
【0026】
【化4】
(式中、R〜Rは、それぞれ独立に、H、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基、チオール基、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基、及び置換された又は置換されていないC〜C10(例えばC〜C、C〜C、又はC〜C)アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択され、Rは、ボロニル基、ハロゲン基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ニトロ基、アミノ基、スルホ基及びチオール基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基により置換された又は置換されていないC〜C10(例えばC〜C、C〜C、又はC〜C)アルキル基、アルケニル基、又はアルキニル基からなる群から選択される)。式(I)の化合物中、R〜Rの少なくとも一つはハロゲン基、好ましくはフッ素又は塩素、又は、tert‐ブトキシカルボニルアミノ基である。本明細書におけるボロン酸の例として、限定するものではないが、ブチルボロン酸、4−クロロフェニルボロン酸、4−フルオロフェニルボロン酸、及び3−[(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]フェニルボロン酸が挙げられる。
【0027】
本明細書において、「塩」とは、ある化合物の特定の置換基(例えば、ヒドロキシ基)に基づいて、塩基又は酸を用いて調製された活性化合物の塩をいう。塩は、使用した塩基又は酸により塩基性付加塩と酸付加塩とに分類できる。
【0028】
「塩基性付加塩」としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩、トリメチルアミン塩、エタノールアミン塩、ブロカイン塩等の脂肪族アミン塩、N,N−ジベンジルエチレンジアミン等のアラルキルアミン塩、ピリジン塩等の複素環芳香族アミン塩、アルギニン塩等の塩基性アミノ酸塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩等の第4級アンモニウム塩、及びアンモニウム塩等が挙げられる。
【0029】
「酸付加塩」としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、過塩素酸塩等の無機酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、乳酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、リンゴ酸塩、クエン酸塩、アスコルビン酸塩等の有機酸塩、メタンスルホン酸塩、イセチオン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩等のスルホン酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩等の酸性アミノ酸等が挙げられる。
【0030】
本発明において、ホウ酸若しくはボロン酸又はその塩の濃度は、ヒスタミンデヒドロゲナーゼによるヒスタミンの酸化に由来しない誤反応(本明細書では、単に「誤反応」とも記載する)を低減し得るものであれば特に限定されない。そのような濃度は、本願明細書の記載を参照して当業者であれば容易に決定することができる。ホウ酸若しくはボロン酸又はその塩の例として、測定時又は保管時、好ましくは測定時の終濃度として、5mM以上、10mM以上、20mM以上、25mM以上、50mM以上、80mM以上、又は100mM以上であってよく、また1000mM以下、500mM以下、400mM以下、300mM以下、200mM以下、150mM以下、又は120mM以下となるような濃度が挙げられる。例えば、測定時又は保管時の終濃度は、5mM〜1000mM、25mM〜300mM、又は50mM〜200mMであってよい。
【0031】
本発明において、アルキル硫酸塩の種類は誤反応を低減し得るものであれば特に限定されないが、例えばラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸カリウム、ステアリル硫酸ナトリウム、ステアリル硫酸ナトリウムラウリル硫酸トリエタノールアミン、ラウリル硫酸アンモニウム等のアルキル硫酸エステル塩;及びラウレス硫酸ナトリウム、ラウレス硫酸トリエタノールアミン等のポリオキシエチレンアルキル硫酸塩からなる群から選択される一種以上であってよい。アルキル硫酸塩は、例えばラウリル硫酸ナトリウムである。
【0032】
本発明において、アルキル硫酸塩の濃度は、誤反応を低減し得るものであれば特に限定されない。そのような濃度は、本願明細書の記載を参照して当業者であれば容易に決定することができる。アルキル硫酸塩の例として、測定時又は保管時、好ましくは測定時の終濃度として、0.01%以上、0.05%以上、好ましくは0.1%以上、0.5%以上、又は1%以上が挙げられ、また10%以下、5%以下、又は2%以下が挙げられ、例えば約0.05%〜2%又は約0.1〜1%となるような濃度が挙げられる。
【0033】
ヒスタミンデヒドロゲナーゼを用いた比色法によるヒスタミン測定において、ヒスタミンデヒドロゲナーゼによるヒスタミンの酸化に由来しない誤反応の程度や誤反応の低減若しくは抑制の程度は、例えば実施例で記載した様な目視確認又はIllustrator CS2(Adobe社製)等のソフトウェアを用いて数値化された色調を比較することによって評価することができる。
【0034】
一実施形態において、本発明のヒスタミン測定試薬は、メディエーターをさらに含み得る。本明細書において、「メディエーター」とは、ヒスタミンデヒドロゲナーゼによって触媒される酸化還元反応を、例えば、補因子として作用することによって、容易にする分子を指す。メディエーターは、好ましくは基質から発色試薬への電子の移行を促す物質である。反応系における適切なメディエーターは、当業者であれば容易に選択することができ、メディエーターの例として、限定するものではないが、1−メトキシPMS(1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムメチルサルフェート)、PMS(フェナジニウムメチルサルフェート)、PES(フェナジニウムエチルサルフェート)及び1−メトキシPES(1−メトキシ−5−エチルフェナジニウムエチルサルフェート)、ベンゾキノン及びその誘導体、フェリシアン化物(カリウム若しくはナトリウム塩)、フェロセン及びその誘導体、ジクロロフェノールインドフェノール、ナフトキノン及びその誘導体、フェナントロリンキノン及びその誘導体、フェナントレンキノン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、ルテニウム塩、ルテニウム錯体等が挙げられ、好ましくは1−メトキシPMS、PMS、PES及び1−メトキシPESであり、さらに好ましくは1−メトキシPMSである。一実施形態において、本発明の測定試薬は、測定時又は保管時の終濃度として、1μM以上、10μM以上、20μM以上、25μM以上、30μM以上、又は35μM以上、80μM以下、70μM以下、60μM以下、50μM以下、45μM以下、例えば1μM〜80μM、35μM〜45μM又は約42μMのメディエーターを含む。
【0035】
一実施形態において、本発明のヒスタミン測定試薬は、発色試薬をさらに含み得る。発色試薬は、ヒスタミンデヒドロゲナーゼによってヒスタミンが酸化された際に発色するものであることが好ましく、このような発色を観察することによって、簡便にヒスタミンの存在を検出することができる。発色試薬の例として、テトラゾリウム塩、例えばWST−4(2−ベンゾチアゾリル−3−(4−カルボキシ−2−メトキシフェニル)−5−[4−(2−スルホエチルカルバモイル)フェニル]−2H−テトラゾリウム)、WST−5(2,2’−ジベンゾチアゾリル−5,5’−ビス[4−ジ(2−スルホエチル)カルバモイルフェニル]−3,3’−(3,3’−ジメトキシ−4,4’−ビフェニレン)ジテトラゾリウム、二ナトリウム塩)、WST−8(2−(2−メトキシ−4−ニトロフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−(2,4−ジスルホフェニル)−2H−テトラゾリウム)、NBT(3,3’−[3,3’−ジメトキシ−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジイル]−ビス[2−(4−ニトロフェニル)−5−フェニル−2H−テトラゾリウムクロリド])、INT(2−(4−ヨードフェニル)−3−(4−ニトロフェニル)−5−フェニル−2H−テトラゾリウムクロリド)、及びXTT(2,3−ビス(2−メトキシ−4−ニトロ−5−スルフォフェニル)−5−[(フェニルアミノ)カルボニル]−2H−テトラゾリウム水酸化物)が挙げられる。WST−4、WST−5、WST−8、NBT、INT、及びXTT等のテトラゾリウム塩は、還元されるとホルマザン色素を生じる。この色素を検出することによりヒスタミンを検出することが可能となる。一実施形態において、ヒスタミンが酸化される際の発色試薬の発色反応は、前記メディエーターを介して促進される。一実施形態において、本発明の測定試薬は、測定時又は保管時の終濃度として、0.1mM以上、0.2mM以上、0.3mM以上、0.4mM以上、又は0.5mM以上、10mM以下、5mM以下、又は2mM以下、例えば0.1mM〜10mM、0.5mM〜2mM又は1.1mMの発色試薬を含む。
【0036】
一実施形態において、本発明のヒスタミン測定試薬は、バッファーをさらに含み得る。バッファーとしては、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、及びHEPPSO、ACES、Bis−Tris、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群から選択される双性イオンを有し、カルボキシ基を有さない化合物を含む緩衝液、Tris又は炭酸緩衝液が挙げられる。双性イオンを有し、カルボキシ基を有さない化合物を含む緩衝液は、好ましくはBES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、及びHEPPSOからなる群から選択され、さらに好ましくは、HEPES、TAPSO、POPSO、HEPPSO、及びEPPSからなる群より選択される。一実施形態において、緩衝液は、BES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、HEPPSO、ACES、MES、MOPSO、及びPIPESからなる群、好ましくはBES、MOPS、TES、HEPES、EPPS、TAPS、CHES、CAPS、TAPSO、POPSO、及びHEPPSOからなる群から選択される双性イオンを有し、スルホ基を有する化合物を含む緩衝液、Tris又は炭酸緩衝液であり得る。一実施形態において、緩衝液は、TAPSO、POPSO、HEPPSO、及びMOPSOからなる群、好ましくはTAPSO、POPSO、及びHEPPSOからなる群から選択される双性イオンを有し、スルホ基を有し、かつ2位にヒドロキシ基を有する化合物を含む緩衝液、Tris又は炭酸緩衝液であり得る。バッファーのpHとしては6.0〜11.0程度が好ましく、より好ましくは7.0以上、8.0以上又は8.5以上であってよく、また10.0以下又は9.5以下であってよく、例えば約8.5〜9.5であってよい。バッファーの濃度としては、測定時又は保管時、好ましくは測定時の終濃度として、例えば1mM以上、10mM以上、又は150mM以上であってよく、300mM以下、200mM以下、又は150mM以下、例えば1mM〜300mM、50mM〜150mM、又は約100mMであってよい。
【0037】
一実施形態において、本発明のヒスタミン測定試薬又は本発明のキットは、ヒスタミンを含む可能性がある試料からヒスタミンを抽出するための抽出液をさらに含み得る。抽出液は公知のものを用いればよく、例えばトリクロロ酢酸、メタノール、又は中性リン酸緩衝液(特開2001−099803号)、又はキレート剤を含む抽出液(特開2004−129597号)を使用することができ、水又は各種緩衝液を使用することもできる。また、本発明の測定試薬又は本発明のキットは、さらなる成分(例えば、糖(ラクトース、マルトース、ガラクロース、スクロース、グルコース、トレハロース等)、澱粉(可溶性澱粉を含む)、デキストリン(分岐デキストリン、シクロデキストリン、高度分岐環状デキストリン(クラスターデキストリン)を含む))及び/又は使用説明書を含んでもよい。
【0038】
一実施形態において、本発明のキットは、試料採取部、及び反応部を含み得る。試料採取部は、ヒスタミンを含む可能性がある試料を採取可能なものであれば特に限定されないが、例えば、綿棒、スポンジ、多孔性プラスティック、濾紙、不織布、スポイトが挙げられる。試料採取部は、試料採取の際の簡便性の点から、例えば棒状であることが好ましく、特に好ましくは、繊維状やスポンジ状のふき取り部分を備えた棒状の形状、例えば綿棒のような形状である。
【0039】
反応部は、試料採取部によって採取された試料にヒスタミンが存在する場合に、反応が生ずる部位である。一実施形態において、反応部は、ヒスタミン測定試薬を含む。一実施形態において、反応部に含まれるヒスタミン測定試薬はヒスタミンデヒドロゲナーゼ及び比色法用試薬、又は抗ヒスタミン抗体及びイムノクロマト用試薬を含む。一実施形態において、本明細書に記載のヒスタミンデヒドロゲナーゼ及び前記ホウ酸若しくはボロン酸又はその塩、又はアルキル硫酸ナトリウムは、上記緩衝液等の溶液中に含まれる形で、又は凍結乾燥物として含まれる形で、本発明のキット中の試料採取部又は反応部に含まれ得る。反応部は、好ましくは透明の容器であり、これにより目視により発色の有無を観察し、ヒスタミンを検出することができる。
【0040】
一実施形態において、本発明のキットは、試料採取部、及び反応部に加えて抽出部を含み得る。抽出部は、試料採取部によって採取された試料にヒスタミンが存在する場合に、このヒスタミンを抽出液中に抽出する部位である。一実施形態において、抽出部は、ヒスタミン測定試薬を含む。一実施形態において、抽出部に含まれるヒスタミン測定試薬はヒスタミンデヒドロゲナーゼ及び比色法用試薬、又は抗ヒスタミン抗体及びイムノクロマト用試薬を含む。一実施形態において、本明細書に記載のヒスタミンデヒドロゲナーゼ及び前記ホウ酸若しくはボロン酸又はその塩、又はアルキル硫酸ナトリウムは、上記緩衝液等の溶液中に含まれる形で、又は凍結乾燥物として含まれる形で、本発明のキット中の抽出部に含まれ得る。抽出部で抽出されたヒスタミンを含む試料を反応部に移し、反応を行うことができる。
【0041】
本明細書における、ヒスタミンの「検出」には、ヒスタミンの有無の検出に加えて、ヒスタミンの定量も含まれる。ヒスタミンの定量は、発色基質を用いる場合には発色の程度に基づいて行うことができる。例えば、既知濃度のヒスタミンを含むサンプルを複数、例えば2以上、好ましくは3以上、4以上、5以上用いて、これらとの比較により、好ましくは検量線に基づいて定量を行うことができる。
【0042】
一実施形態において、本発明の測定試薬又は本発明のキットは、ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、誤反応抑制剤(例えばホウ酸若しくはボロン酸又はその塩)、メディエーター、及び発色試薬を含み得る。別の実施形態において、本発明のキットは、ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、誤反応抑制剤(例えばホウ酸若しくはボロン酸又はその塩)、及びメディエーターを含み得る。
【0043】
ある実施形態において、本発明はヒスタミン測定装置を提供する。この装置は、試料採取部、反応部、センサー部及び使用説明書を含む。前記反応部はヒスタミンデヒドロゲナーゼを含みうる。前記使用説明書は検体からのサンプリングを非侵襲的に行うことを記載したものである。前記センサー部はヒスタミンの電気化学的測定用のセンサーを備えている。この装置は、ヒスタミン食中毒検査用に使用することができる。
【0044】
2.ヒスタミンを検出するための方法
一態様において、本発明は、非侵襲的にサンプリングを行い、採取した試料について、(i)ヒスタミンデヒドロゲナーゼ、及び(ii)誤反応抑制剤を使用する、ヒスタミンを検出するための方法を提供する。誤反応抑制剤としては、(ii−a)ホウ酸若しくはボロン酸又はその塩、又は(ii−b)アルキル硫酸塩等が挙げられるが、本明細書に記載の他の誤反応抑制剤を使用してもよい。
【0045】
本発明のヒスタミンを検出するための方法は、ヒスタミンをヒスタミンデヒドロゲナーゼにより酸化する工程(以下、「酸化工程」とも記載する)、及びヒスタミンデヒドロゲナーゼによるヒスタミンの酸化を検出する工程(以下、「検出工程」とも記載する)を含み得る。
【0046】
酸化工程は、当業者に公知の方法により行うことができる。例えば、ヒスタミンを含む可能性がある試料を、本明細書に記載のヒスタミンデヒドロゲナーゼを含む溶液と混合することにより行うことができる。
【0047】
検出工程もまた、当業者に公知の方法により行うことができる。ヒスタミンの酸化の検出は、例えば発色試薬を用いて、任意にメディエーターもさらに用いて、行うことができる。酸化工程の有無又は程度に基づいて、ヒスタミンの有無を検出し、又はその存在量を測定することができる。
【0048】
本発明のヒスタミンを検出するための方法は、酸化工程及び検出工程に加えて、非侵襲的サンプル採取工程及び/又はヒスタミン抽出工程を、酸化工程の前に含み得る。
【0049】
サンプル採取工程では、ヒスタミンを測定しようとする試料から、本発明の方法に適した形で、すなわち非侵襲的に、サンプリングを行う。サンプリング(試料採取ともいう)は、例えば、綿棒、スポンジ、多孔性プラスティック、濾紙、不織布、スポイト等の試料採取部を、特に好ましくは、繊維状やスポンジ状のふき取り部分を備えた棒状の形状、例えば綿棒をヒスタミンを測定しようとする試料に非侵襲的に接触させることにより行うことができる。
【0050】
ヒスタミン抽出工程では、前記の非侵襲的に採取されたサンプルからヒスタミンを抽出することにより、後の酸化工程及び検出工程を容易にする。ヒスタミン抽出工程は、ヒスタミンを測定しようとする試料(例えば、本発明の方法が非侵襲的サンプル採取工程を含む場合には、上記試料が採取された採取部)を、ヒスタミン抽出液と混合することにより行うことができる。ヒスタミン抽出液は公知のものを用いればよく、例えばトリクロロ酢酸、メタノール、又は中性リン酸緩衝液(特開2001−099803号)、又はキレート剤を含む抽出液(特開2004−129597号)、水又は各種緩衝液を使用することもできる。
【0051】
ある実施形態において、本発明の方法又はキットを用いることにより、ヒスタミン食中毒を予防又は回避しうる。すなわち、ある実施形態では、本発明の方法又はキットを用いることにより検体を測定した結果、検体からヒスタミン食中毒を引き起こしうる量のヒスタミンが検出された場合には、当該検体を、食しない、食品加工しない、又は廃棄処分とすることができる。またある実施形態において、本発明の方法及びキットを用いることにより、魚を入荷するための受け入れ検査のときに、迅速かつ簡便にヒスタミン測定を行い、検査した魚を受け入れるか否かの判断をすることができる。すなわち、ある実施形態では、本発明の方法又はキットを用いることにより魚検体を測定した結果、魚検体からヒスタミン食中毒を引き起こしうる量のヒスタミンが検出された場合には、当該魚検体を、受け入れないことができる。また、受け入れ検査段階でヒスタミンが微量検出された検体でも、その後の品質管理、温度管理、加工調理方法における安全管理等を徹底すれば、ヒスタミン量の増大を伴うことなく、加工食品を製造したり、魚肉を食事用に提供することが可能となる。
【0052】
ヒスタミン産生菌で汚染された食材を検出するためには、可食部におけるヒスタミン量が一定量を超えていないことを確認することが重要であるが、ヒスタミン含有量は、固定的なものではなく、ヒスタミン産生菌により刻々と生産されるものである。初期段階で可食部においてヒスタミン量が少なかった場合でも、その検体にヒスタミン産生菌が存在し、且つ保存状態が劣悪であった場合には、受け入れ検査時と加工時でのヒスタミン量に乖離が生じる恐れがある。一方で、ヒスタミン産生菌による汚染がない検体では、経時的なヒスタミン量の増加はほとんどないと考えられる。原料受け入れ検査におけるヒスタミン検査で重要なことは、検体の可食部にヒスタミンがどの程度含まれているかに加え、今後経時的にヒスタミン量が増えるリスクを有する検体であるか否か、すなわち、検体がヒスタミン産生菌に汚染されているか否かを感度良く且つ迅速に確認することである。したがってある実施形態では本発明は、検体がヒスタミン産生菌に汚染されているか否かを確認する方法を提供する。本発明の方法又はキットを用いることにより、可食部におけるヒスタミン量が微量である段階で、早期にリスクを発見することができ、結果に応じて食材の取扱い方法を決定することができる。たとえば、ある実施形態では、本発明の方法又はキットを用いることにより魚検体を測定した結果、魚検体から微量のヒスタミンが検出された場合には、当該魚検体につき、ヒスタミン産生菌がさらに増殖しない条件で当該魚を品質管理し、温度管理し、加工調理することができる。別の実施形態では、本発明の方法又はキットを用いることにより魚検体を測定した結果、魚検体から微量のヒスタミンが検出された場合には、当該魚検体につき、ヒスタミン産生菌がさらに増殖しない条件で当該魚を品質管理し、温度管理し、加工調理するよう指導することができる。このように、本発明の方法又はキットにより、受け入れ検査後、その検査結果に応じて魚等の食材の取り扱い方法を決定することができる。
【0053】
ある実施形態において、ヒスタミン食中毒を引き起こしうる量のヒスタミンとは、50ppmより高い濃度、60ppm以上、70ppm以上、80ppm以上、90ppm以上、又は100ppm以上の濃度のヒスタミンをいう。ある実施形態において、ヒスタミン産生菌がさらに増殖しない条件での品質管理や、温度管理を必要とする、微量のヒスタミンとは、20ppm以下、30ppm以下、40ppm以下、例えば50ppm未満の濃度のヒスタミンをいう。食品またはその可食部において許容可能なヒスタミンの基準値は日本では未設定であるが、諸外国では例えば主な魚類及び水産加工品ではCodexやEUでは100ppm、アメリカでは50ppmという基準値が設けられている。当業者であれば、本明細書の記載や各国での基準値に基づき、ヒスタミン量を指標として検体を取り扱うための自主的な管理基準値を適宜設定することができる。
【0054】
本発明により、検体を破壊することなく、当該検体に含まれるヒスタミンを測定することができる。ある実施形態において、本発明により、迅速かつ簡便にヒスタミンを測定することができる。例えばある実施形態において、本発明により、魚や鶏肉等の検査頻度を高めることができ、別の実施形態では、本発明により全数検査が可能となる。
【実施例】
【0055】
以下の実施例は、例示のみを意図したものであり、何ら本発明の技術的範囲を限定することを意図するものではない。特に断らない限り、試薬は、市販されているか、又は当技術分野で慣用の手法、公知文献の手順に従って入手又は調製する。
【0056】
<実施例1:検量線の作成>
2%トレハロース、1.08mM NBT、41.5μM 1−メトキシPMS及び0.128U ヒスタミンデヒドロゲナーゼ(特開2001−157597に従って作製)を含むヒスタミン測定試薬を、測定チューブに0.2mLずつ分取し、凍結乾燥した。イワシ一匹を三枚におろし、包丁で細かくペースト状にミンチにして均一化し、ポリスチレン製の試験管に1gを採取した。試験管に1mLの滅菌水を添加し、スパーテルにて混合した後にボルテックスミキサーにて10秒間攪拌した。この溶液を、綿棒(綿球部φ4.5mm程度)を用いてサンプリングした後、検量線作成のために、各種既知濃度のヒスタミン溶液を調製後、10μLを同綿棒に添加した。
【0057】
pHを9.0に調整した0.1M四ホウ酸ナトリウム十水和物及び0.1Mクエン酸二ナトリウム三水和物を含む0.1M HEPPSOバッファー 0.4mLを抽出液として充填した容器に綿棒を押し込み、抽出液を全量測定チューブに振り落とし、ヒスタミン測定試薬と反応させた。
【0058】
結果を図1に示す。図1に示される通り、目視によりサンプル中に含まれるヒスタミンを検出でき、そのおよその濃度も測定できることがわかった。
【0059】
図1に示すような目視における判断を数値データでも確認する目的で、以下の方法により、色調の数値化を行った。すなわち、発色後の測定試薬チューブの写真を、STYLUS TG−4 Tough(オリンパス社製)にて撮影した。その後、測定チューブの画像の中央付近の色を、CMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)に数値変換した。具体的には、Illustrator CS2(Adobe社製)を使用し、ツールウィンドウのスポイトツールにより、撮影された測定チューブ中央付近を選択し、カラーウィンドウにてCMYKカラーコードに変換した数値(%)を確認することで、数値化した。数値化は、すべて「Kの値」を用いた。0〜100ppmヒスタミン存在下において、K値とヒスタミン濃度は良好な相関性が得られ、数値化によりヒスタミンを定量することが可能であると示された。
【0060】
<実施例2:サンプルのヒスタミン含有量測定>
2%トレハロース、1.08mM NBT、41.5μM 1−メトキシPMS及び0.128U ヒスタミンデヒドロゲナーゼ(特開2001−157597に従って作製)を含むヒスタミン測定試薬を、測定チューブに0.2mLずつ分取し、凍結乾燥した。
【0061】
イワシまたはアジを用意し、綿棒(綿球部φ4.5mm程度)を用いて口の先端から約5cm及び肛門から約2cmの挿入、鰓孔からエラ及び魚体表面のふき取りを行った。魚検体は、口から5cmの綿棒の挿入により、口、口腔、食道、及び胃の一部についてサンプリングを行うことができた。また肛門から2cmの綿棒の挿入により、肛門、腸の一部のサンプリングを行うことができた。他の実験でも同様である。
【0062】
その後、内臓を除去した直後の腹腔内、洗浄後の腹腔内、三枚におろした身そのものまたは中骨回りの身をそれぞれ綿棒でふき取った。更に、可食部を包丁で細かくペースト状にミンチにして均一化し、ポリスチレン製の試験管に1gを採取した。試験管に1mLの滅菌水を添加して、スパーテルにて混合した後にボルテックスミキサーにて10秒間攪拌した溶液を綿棒にて採水した。pHを9.0に調整した0.1M四ホウ酸ナトリウム十水和物及び0.1Mクエン酸二ナトリウム三水和物を含む0.1M HEPPSOバッファー 0.4mLを抽出液として充填した容器を、ヒスタミン測定試薬の入った上部にセットした。各箇所をサンプリング済の綿棒を抽出液容器内に押し込み、抽出液を全量測定チューブに振り落とし、ヒスタミン測定試薬と反応させた。
【0063】
ミンチについて、チェックカラーヒスタミン(キッコーマンバイオケミファ社製)に従って試験して、ヒスタミン含有量を測定した結果、両サンプルともにヒスタミンは検出されなかった(一匹につき試行回数2反復で実施)。
【0064】
綿棒を用いて魚の各種部位についてサンプリングを行い、ヒスタミンを測定した結果を図2に示す。
【0065】
また、図2に示すような目視における判断を数値化データでも確認する目的で、実施例1と同様にして、色調の数値化を行った。数値化はすべて「Kの値」を用い、15分放置後の数値を以下の表1に示す。
【0066】
【表1】
【0067】
図2及び表1に示される通り、魚の様々な部位において発色は見られず、ヒスタミンが不検出であることを正確に測定できることが確認された。
【0068】
<実施例3:加速試験によるヒスタミン検出サンプルの測定>
2%トレハロース、1.08mM NBT、41.5μM 1−メトキシPMS及び0.128U ヒスタミンデヒドロゲナーゼ(特開2001−157597に従って作製)を含むヒスタミン測定試薬を、測定チューブに0.2mLずつ分取し、凍結乾燥した。
【0069】
サンプルは、イワシまたはアジを三匹用意した。加速試験前に、綿棒を用いて非侵襲にてサンプリング可能な、口の先端から約5cm、肛門から約2cmの挿入、魚体表面、エラ(アジのみ)のふき取りを行いサンプリングした。サンプリングした後、すべてのサンプルを20℃にて18時間放置した。放置後のサンプルについて、上記と同様、始めに非侵襲で可能な部位を、綿棒を用いてサンプリングした。具体的には、口の先端から約5cm及び肛門から約2cmの挿入、エラ及び魚体表面のふき取り及びドリップの採水(アジのみ)を行った。ドリップは採水できたサンプルのみ実施した。
【0070】
その後、内臓を除去した直後の腹腔内、洗浄後の腹腔内、三枚におろした身そのものまたは中骨回りの身をそれぞれ綿棒でふき取った。更に、可食部を包丁で細かくペースト状にミンチにして均一化し、ポリスチレン製の試験管に1gを採取した。試験管に1mLの滅菌水を添加して、スパーテルにて混合した後にボルテックスミキサーにて10秒間攪拌した溶液を綿棒にて採水した。
【0071】
pHを9.0に調整した0.1M四ホウ酸ナトリウム十水和物及び0.1Mクエン酸二ナトリウム三水和物を含む0.1M HEPPSOバッファー 0.4mLを抽出液として充填した容器を、ヒスタミン測定試薬の入った上部にセットした。各箇所をサンプリング済の綿棒を抽出液容器内に押し込み、抽出液を全量測定チューブに振り落とし、ヒスタミン測定試薬と反応させた。また、ミンチについては、チェックカラーヒスタミンを用いてヒスタミン量を定量した。
【0072】
20℃にて保存する前の結果を図3(Aはイワシ、Bはアジ)に示す。また、図3に示すような目視における判断を数値化データでも確認する目的で、実施例1と同様にして、色調の数値化を行った。数値化はすべて「Kの値」を用い、15分放置後の数値を以下の表2に示す。
【0073】
【表2】
【0074】
図3に及び表2に示すように、加速試験前のサンプルからは発色が見られず、数値化した値を実施例1の検量線と比較すると、どの部位においても10ppm以下となり、実施例2の結果とも一致した。
【0075】
20℃にて保存後のサンプルをチェックカラーヒスタミンにて測定したヒスタミン量を表3に、綿棒にて測定した結果を図4に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
また、図4に示すような目視における判断を数値化データでも確認する目的で、実施例1と同様にして、色調の数値化を行った。数値化はすべて「Kの値」を用い、15分放置後の数値を以下の表4に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
表4に示す通り、20℃にて18時間保存したサンプルからはすべてヒスタミンが検出され、図4のように、綿棒でサンプリングしたほぼすべての部位からも発色が確認された。
【0080】
実施例1の検量線及び表4の数値から算出した、各ミンチにおけるヒスタミン濃度(抽出時、2倍希釈されることを考慮した値)を表5に示す。
【0081】
【表5】
【0082】
表3及び表5に示す通り、チェックカラーヒスタミンによる定量値と綿棒による発色とでおおよその相関が得られた。
【0083】
ヒスタミンが不検出であると考えられる、加速試験前のサンプル(非侵襲的にサンプリングしたもの)では発色が見られなかった一方で、20℃にて保存後のサンプル(非侵襲的にサンプリングしたもの)ではヒスタミン検出が低濃度(十数ppm程度)の場合にも、口や鰓孔、肛門、ドリップで濃い発色が確認された。これは、ヒスタミン産生菌が内臓、主に腸内で繁殖し、可食部に徐々に移行することから、内臓に近接した部位での測定は、可食部における検査と比較して、高感度に検出することができるからであると考えられる。本方法により非侵襲のサンプリングで、可食部に存在する微量のヒスタミンを検出することができることが示された。これにより、サンプルの全数検査や、経時的なヒスタミン量の変化を測定することが可能となり、大規模な食中毒の防止に繋がると考えられる。
【0084】
<実施例4>
種々のヒスタミン測定を行う中で、一部の実験(下記に記載)において、ヒスタミン及びヒスタミンデヒドロゲナーゼを含まない系を用いた場合でも多少の発色が認められた。これは誤反応によるものと考えられる。誤発色の程度は、比色法を用いた目視判定で、約10ppm程度に相当するものであった。この誤差は、ヒスタミン食中毒検査のためのヒスタミン測定では許容できると考えられるが、より正確な比色法でのヒスタミン測定のために、誤発色を抑制する物質について、以下の検討を行った。
【0085】
<実験1:発色試薬の検討>
トレハロース2%、発色試薬(1.08mM WST−4、WST−5、WST−8、INT、NBT、又はXTT)、41.5μM 1−メトキシPMS、及び0.128U ヒスタミンデヒドロゲナーゼ(特開2001−157597に従って作製)を含むヒスタミン測定試薬を、測定チューブに0.2mLずつ分取し、凍結乾燥した。検量線の作成のために、各種既知濃度のヒスタミン溶液を調製後、0.1mLを綿棒に添加した。また、サンプルについては、柵状のマグロのドリップ0.1mLを綿棒に添加するか、又は柵状のマグロの表面を綿棒にて拭き取った。
【0086】
pHを9.0に調整したEDTA(2Na)0.4mLを抽出液として充填した容器に綿棒を押し込み、さらにこれらを振り落として測定チューブに移し、抽出液とヒスタミン測定試薬を反応させた。
【0087】
その結果、WST−4、WST−5、WST−8、NBT、INT、及びXTTのうちいずれの発色試薬を用いても目視によりサンプル中に含まれるヒスタミンを検出でき、そのおよその濃度も測定できることがわかった。そこで目視における判断を数値データでも確認する目的で、実施例1と同じ方法により、色調の数値化を行った。結果を以下の表に示す。
【0088】
【表6】
【0089】
また、以下の通りヒスタミン及びヒスタミンデヒドロゲナーゼを含まない系で試験を行った。具体的には、EDTA(2Na)を0.1M、pH8.5に調製し、これを0.4mL、トレハロース2%、1.08mM NBT、及び41.5μM 1−メトキシPMSを含む試薬0.2mLを凍結乾燥したものに添加した。混合後、室温で60分放置し、発色の程度を確認した。その結果、ヒスタミン及びヒスタミンデヒドロゲナーゼを含まない系でも多少の発色(誤反応)が認められた。この目視における判断を数値データでも確認する目的で、上記と同様にして、色調の数値化を行った。数値化は、すべて「Kの値」を用い、60分放置の前後の色調の差は27.45であった。
【0090】
<実験2:バッファーの検討1>
実験1において、ヒスタミンを含まないサンプルについても発色が認められたことから、この誤反応を抑制又は低減するためにバッファーの検討を行った。
【0091】
EDTA(2Na)、BES、MOPS、TES、HEPES、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、Bicine、TAPS、CHES、及びCAPSを、全て0.1M、pH8.5に調製し、これを0.4mL、トレハロース2%、1.08mM NBT、及び41.5μM 1−メトキシPMSを含む試薬0.2mLを凍結乾燥したものに添加した。混合後、室温で60分放置し、発色の程度を確認した。その結果、バッファーの使用により誤発色の抑制が見られた。この目視における判断を数値データでも確認する目的で、実施例1と同様にして、色調の数値化を行った。数値化は、すべて「Kの値」を用い、60分放置の前後の色調の差を以下の表に示す。
【0092】
【表7】
【0093】
上記の表に示される通り、ヒスタミンを含まないサンプルについてみられる誤発色は、HEPES、TAPSO、POPSO、HEPPSO、及びEPPSバッファーを用いた実験系において、顕著に抑制された。また、BES、MOPS、TES、TAPS及びCHESについても、誤反応を抑制する傾向が認められた。
【0094】
<実験3:バッファーの検討2>
EDTA(2Na)、炭酸水素ナトリウム/炭酸二ナトリウム、ホウ酸、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン全て0.1M、pH9.0となるように調製し、これを0.4mL、トレハロース2%、1.08mM NBT、及び41.5μM 1−メトキシPMSを含む試薬0.2mLを凍結乾燥したものに添加した。混合後、室温で60分放置し、発色の程度を確認した。
【0095】
その結果、誤発色の抑制が見られた。この目視における判断を数値データでも確認する目的で、実施例1と同様にして、色調の数値化を行った。数値化は、すべて「Kの値」を用い、60分放置の前後の色調の差を以下の表に示す。
【0096】
【表8】
【0097】
上記の表に示される通り、炭酸及びホウ酸は誤反応抑制作用を示した。
【0098】
<実験4:サンプル存在下での誤反応の抑制1>
包丁を用いて細かくミンチ状にした魚肉サンプル(サバ)1gを、1)0.1M HEPPSO溶液(pH8.5)、2)0.1M HEPPSO溶液(pH9.0)、3)25mMホウ酸入り0.1M HEPPSO溶液(pH8.5)、及び4)25mMホウ酸入り0.1M HEPPSO溶液(pH9.0)のいずれか1mlと混合し、スパーテルにて十分に混合した後、ボルテックスミキサーを用いて10秒間攪拌して抽出を行った。抽出液を綿棒にて採水し、予め0.4mLの上記1)〜4)の溶液を入れたポリスチレン製の試験管内で綿棒を懸濁し、全量をトレハロース2%、1.08mM NBT、及び41.5μM 1−メトキシPMSを含む試薬0.2mLを凍結乾燥したものに添加した。反応後、室温で60分放置し、発色の程度を確認した。ブランク対照としては、上記試薬を0.1M HEPPSO溶液(pH8.5又はpH9.0)0.4mLに溶解させた。なお、上記魚肉サンプルは、チェックカラーヒスタミン(キッコーマンバイオケミファ社製)を用いて事前にヒスタミン含量を測定し、ヒスタミンが検出されなかったものを用いた。本実験系ではヒスタミンデヒドロゲナーゼを反応系中に含んでおらず、すなわち、魚肉サンプル中にヒスタミンは含まれていない上に、仮に微量のヒスタミンが反応系中に存在したとしても、ヒスタミンデヒドロゲナーゼを含まないため、ヒスタミンが発色をもたらすことはないと考えられる。
【0099】
その結果、ヒスタミン及びヒスタミンデヒドロゲナーゼ非存在下でも着色が認められた。このことから、HEPPSOにより試薬由来の誤反応を抑えても、さらに反応系中に魚肉などのサンプルを加えた際には、ヒスタミンに由来しない誤反応と思われる発色を完全に抑えることはできなかった。一方、HEPPSOにさらにホウ酸を加えることによって、魚肉などのサンプルを加えた場合であっても、ヒスタミンに由来しない誤反応と思われる発色を顕著に抑制することができた。
【0100】
また、この目視における判断を数値データでも確認する目的で、実施例1と同様にして、色調の数値化を行った。数値化は、すべて「Kの値」を用い、60分放置の前後の色調の差を以下の表に示す。
【0101】
【表9】
【0102】
以上の通り、誤発色は、pH8.5及び9.0いずれにも見られ、多い場合ではヒスタミン標準品を用いて発色を行わせた場合の25ppm程度に相当する発色を示し、誤発色がヒスタミン検出の判断を誤らせうることが示唆された。また、誤発色はホウ酸を添加することによって抑制できることが示唆された。
【0103】
<実験5:サンプル存在下での誤反応の抑制2>
ミンチ状にした魚肉サンプル(サバ) 1gを、1)対照、又は25mMの以下のボロン酸:2)フェニルボロン酸、3)4−クロロフェニルボロン酸、4)4−フルオロフェニルボロン酸、5)ブチルボロン酸、又は6)3−[(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]フェニルボロン酸を含む0.1M HEPPSO(pH8.5)1mLにて抽出した。抽出は、スパーテルにて魚肉と各抽出液を十分に混合した後に、ボルテックスミキサーを用いて10秒間攪拌した。抽出液を綿棒にて採水し、予め0.4mLの上記1)〜6)の溶液を入れたポリスチレン製の試験管内で綿棒を懸濁し、全量をトレハロース2%、1.08mM NBT、及び41.5μM 1−メトキシPMSを含む試薬0.2mLを凍結乾燥したものに添加した。反応後、室温で60分放置し、発色の程度を確認した。
【0104】
その結果、誤発色の抑制が見られた。この目視における判断を数値データでも確認する目的で、実施例1と同様にして、色調の数値化を行った。数値化は、すべて「Kの値」を用い、60分放置の前後の色調の差を以下の表に示す。
【0105】
【表10】
【0106】
上記の表に示される通り、ボロン酸を加えることによって、サンプル由来の誤反応を強く抑制することができ、特に3−[(tert−ブトキシカルボニル)アミノ]フェニルボロン酸を加えた場合にその顕著は効果であった。
【0107】
<実験6:ホウ酸濃度の検討>
ミンチ状にした魚肉サンプル(サバ) 2gを、0mM〜100mMの各濃度のホウ酸を含む0.1M HEPPSO(pH8.5)2mLにて実験5と同様の方法で抽出した。0.4mLの抽出液に綿棒を懸濁し、全量をトレハロース2%、1.08mM NBT、及び41.5μM 1−メトキシPMSを含む試薬0.2mLを凍結乾燥したものに添加した。反応後、室温で60分放置し、発色の程度を確認した。その結果、ホウ酸は濃度依存的に誤反応を低減した。
【0108】
この目視における判断を数値データでも確認する目的で、実施例1と同様にして、色調の数値化を行った。数値化は、すべて「Kの値」を用い、60分放置の前後の色調の差を以下の表に示す。
【0109】
【表11】
【0110】
以上の通り、ホウ酸は濃度依存的に誤反応を低減した。
【0111】
<実験7:SDSによる誤反応の抑制>
ミンチ状にした魚肉サンプル(サバ) 2gを、0%〜1%の各濃度のSDSを含む0.1M HEPPSO(pH8.0)2mLにて実験5と同様の方法で抽出した。0.4mLの抽出液に綿棒を懸濁し、全量をトレハロース2%、1.08mM NBT、及び41.5μM 1−メトキシPMSを含む試薬0.2mLを凍結乾燥したものに添加した。反応後、室温で60分放置し、発色の程度を確認した。その結果、SDSも誤反応を低減することが確認された。
【0112】
この目視における判断を数値データでも確認する目的で、実施例1と同様にして、色調の数値化を行った。数値化は、すべて「Kの値」を用い、60分放置の前後の色調の差を以下の表に示す。
【0113】
【表12】
【0114】
以上の通り、SDSも誤反応を低減することが示された。
【0115】
<実験8:ホウ酸が呈色反応を阻害しないことの確認>
ミンチ状にした魚肉サンプル(サバ) 2gを、25mM又は100mMのホウ酸を含む0.1M HEPPSO(pH9.0)2mLにて実験5と同様の方法で抽出した。抽出後、0.4mLの抽出液に0、10、25、50、75、100ppm相当のヒスタミンを添加し、この抽出液に綿棒を懸濁し、全量をトレハロース2%、1.08mM NBT、及び41.5μM 1−メトキシPMSを含む試薬0.2mLを凍結乾燥したものに添加した。反応後、室温で15分放置し、発色の程度を確認した。その結果、ホウ酸の添加はヒスタミン由来の発色に悪影響を与えないことが確認された。この目視における判断を数値データでも確認する目的で、実施例1と同様にして、色調の数値化を行った。数値化は、すべて「Kの値」を用い、15分放置の前後の色調の差を以下の表に示す。
【0116】
【表13】
【0117】
上記の表に示す通り、ホウ酸濃度を100mMとしても測定を行うことができたため、ホウ酸の添加はヒスタミン由来の発色に悪影響を与えないことが示された。
【0118】
上記の実験のとおり、ホウ酸や式(I)又は(II)のボロン酸化合物、アルキル硫酸塩、各種の緩衝剤等により誤反応(誤発色)を抑制することができた。本発明のヒスタミン測定方法は必ずしもこのような化合物を必要としないが、これらの誤反応抑制剤を用いると、より正確なヒスタミン測定が可能となる。そのため、このような誤反応抑制剤は本発明のヒスタミン測定に用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明により、ヒスタミン測定において、検体をミンチにするなど破壊する必要がなく、非侵襲的なヒスタミン検査が可能となる。これにより、例えばそのまま食事に提供される魚肉についても、非破壊的にヒスタミンを検出することが可能となる。
【0120】
本発明を例示により説明したが、本発明の精神から逸脱することなく、種々の変法を行うことができる。本明細書において言及された文献はいずれも、参照によりその全内容を本明細書に組み入れる。
【要約】
【課題】本発明は、簡便なヒスタミン測定のためのサンプリング方法及びキットを提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、検体について非侵襲的にサンプリングを行い、得られた試料についてヒスタミンを検出する方法及びキットを提供する。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4