特許第6586525号(P6586525)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6586525
(24)【登録日】2019年9月13日
(45)【発行日】2019年10月2日
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/28 20060101AFI20190919BHJP
   H01J 37/073 20060101ALI20190919BHJP
   H01J 37/244 20060101ALI20190919BHJP
   H01J 37/04 20060101ALI20190919BHJP
【FI】
   H01J37/28 B
   H01J37/073
   H01J37/244
   H01J37/04 A
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-523220(P2018-523220)
(86)(22)【出願日】2016年6月23日
(86)【国際出願番号】JP2016068603
(87)【国際公開番号】WO2017221362
(87)【国際公開日】20171228
【審査請求日】2018年12月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 光宏
(72)【発明者】
【氏名】板橋 洋憲
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博文
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 勉
(72)【発明者】
【氏名】笹島 正弘
(72)【発明者】
【氏名】津野 夏規
(72)【発明者】
【氏名】中村 洋平
【審査官】 鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−019258(JP,A)
【文献】 特開2004−151045(JP,A)
【文献】 特開2013−097869(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0099805(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/28
H01J 37/04
H01J 37/073
H01J 37/244
H01J 37/22
H01J 37/147
H01J 37/256
G01N 23/225
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子銃と、
前記荷電粒子銃から放出された荷電粒子線を試料上で走査する走査偏向器と、
前記走査偏向器へ入力する走査制御電圧を発生する走査制御電圧発生部と、
前記走査偏向器へ外部から入力され、前記走査制御電圧とは異なる外部走査制御電圧を検出する検出部と、
検出された前記外部走査制御電圧に基づいて前記荷電粒子線の照射画素座標を算出する演算部と、
前記照射画素座標に応じて前記荷電粒子線の前記試料への照射を制御する照射制御部と、
を有する荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1記載の荷電粒子線装置において、
前記荷電粒子線の照射により前記試料から放出された二次粒子を検出する二次粒子検出器と、
前記二次粒子検出器から出力される二次粒子データを、前記照射画素座標に応じて画像化する信号処理部と、
前記信号処理部で画像化された二次粒子画像を表示する画像表示部と、
をさらに備える荷電粒子線装置。
【請求項3】
請求項1記載の荷電粒子線装置において、
前記照射制御部は、照射時間、照射と照射の間隔時間、および照射と照射の間隔画素数を制御する荷電粒子線装置。
【請求項4】
請求項2記載の荷電粒子線装置において、
前記照射制御部は、照射時間、照射と照射の間隔時間、および照射と照射の間隔画素数を制御する荷電粒子線装置。
【請求項5】
請求項1記載の荷電粒子線装置において、
前記走査偏向器へ前記外部走査制御電圧を印加する外部走査制御電圧発生部を備えた、エネルギー分散型X線分析装置、後方散乱電子回折装置、或いは超電導遷移端温度計型X線マイクロカロリメータ装置が搭載されている荷電粒子線装置。
【請求項12】
請求項1記載の荷電粒子線装置において、
前記荷電粒子線装置は、ブランカを備え、
前記照射制御部は、前記ブランカにより前記荷電粒子銃からの前記荷電粒子線の前記試料への照射のON/OFFを制御する荷電粒子線装置。
【請求項13】
請求項1記載の荷電粒子線装置において、
前記荷電粒子銃は、光励起荷電粒子銃であり、
前記照射制御部は、前記光励起荷電粒子銃の励起光制御部を制御して前記光励起荷電粒子銃からの前記荷電粒子線の前記試料への照射のON/OFFを制御する荷電粒子線装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線装置の一つである走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)は、電子源から放出された電子を電子レンズで収束して細い電子線とし、走査偏向器が生じる磁界または電界によって試料上で走査する。電子線の照射によって試料から発生した荷電粒子(二次電子あるいは反射電子)を、電子検出器によって検出し、電子線の走査と同期して画像データに変換すると走査像が得られる。
【0003】
電子線の照射によって、試料からは上記の荷電粒子だけでなく電磁波(X線や光)も放出される。特にエネルギー分散型X線分析(EDX:Energy Dispersive X−ray spectrometry)装置をSEMに搭載し、特性X線を検出することによって試料の組成分析を行うことは、試料形状の観察に並んでSEMのアプリケーションの一つとして定着しつつある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−184040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、導電性試料だけでなく、機能性セラミックスなどの非導電性試料がSEMの観察やEDXの分析対象となる事例が増えている。特に、本来の表面状態を正確に観察または分析するため試料表面に導電性物質の蒸着処理が施されないことも多く、その場合は試料周辺を数十から数百Paの低真空環境とする手法が用いられる。
【0006】
試料周辺を低真空環境にすると、電子線とガス分子の相互作用によってガス分子のイオン化が生じる。試料が非導電性の場合、正の電荷にイオン化されたガス分子は帯電起因となる試料表面の電子と結合し、試料の帯電を緩和することができる。しかしながら、低真空環境を電子線が通過すると、残留ガスとの衝突により電子の散乱が起こる。その結果、電子線の照射径が増大し、観察画像の空間分解能の低下やホワイトノイズを生むなどの問題が起こる。また、EDXの分析においては散乱電子によって分析対象以外の領域のX線励起が生じ、分析精度が低下するという課題がある。
【0007】
高真空環境のままで、導電性物質の蒸着処理が施されない非導電性試料の帯電を抑制する方法として、電子線の走査速度を上げて単位時間当たりに試料に照射する電子の数を減らす方法、観察する試料の帯電時定数に応じて走査線間の間隔を変え、試料表面の帯電を抑制する方法、複数のピクセルを飛ばしてピクセル間を移動するときの電子線の走査速度を高速に設定し、電子線照射による試料表面の帯電を緩和する方法、電子線のパルス化により、照射する電子数を制御し、画像化する方法等が知られている。
【0008】
しかしながら、EDX装置など外部から電子線走査を制御する装置が搭載されたSEMにおいて、EDX装置など外部側からの電子線の走査制御時にはSEM側では試料上の電子線の位置の把握ができず、高真空環境において上記方法を用いて非導電性試料の帯電を抑制することができない。
【0009】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、高真空環境下の非導電性試料に対しても、安定した荷電粒子や電磁波を検出し、該試料の観察または分析が可能な荷電粒子線装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための一実施形態として、
荷電粒子銃と、
前記荷電粒子銃から放出された荷電粒子線を試料上で走査する走査偏向器と、
前記走査偏向器へ外部から入力される走査制御電圧を検出する検出部と、
検出された前記走査制御電圧に基づいて前記荷電粒子線の照射画素座標を算出する演算部と、
前記照射画素座標に応じて前記荷電粒子線の前記試料への照射を制御する照射制御部と、
を有する荷電粒子線装置とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高真空環境下の非導電性試料に対しても、安定した荷電粒子や電磁波を検出し、該試料の観察または分析が可能な荷電粒子線装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1に係る、EDX装置を搭載可能なSEMの一例を示す概略全体構成図(一部断面図)。
図2】実施例1に係る、EDX装置を搭載したSEMの一例を示す概略全体構成図(一部断面図)。
図3】X走査制御電圧およびY走査制御電圧の説明図。
図4】実施例1に係るSEMにおいて、電子線照射条件の設定GUIの一例を示す図。
図5図2に示すSEMにおけるEDX分析時のブランキング動作の説明図。
図6】実施例2に係る、EDX装置を搭載可能なSEMの一例を示す概略全体構成図(一部断面図)。
図7図6に示すSEMが具備する光励起電子銃の説明図。
図8】実施例2に係る、EDX装置を搭載したSEMの一例を示す概略全体構成図(一部断面図)。
図9】従来技術を参照して発明者が再構成した、EDX装置を搭載可能なSEMの一例を示す概略全体構成図(一部断面図)。
図10】従来技術を参照して発明者が再構成した、EDX装置を搭載したSEMの一例を示す概略全体構成図(一部断面図)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
発明者等は上記目的を達成するに当たり、特許文献1に記載の構成を参考に再構成したEDX装置搭載の、或いは搭載可能なSEMについて検討した。
【0014】
図9は、再構成したEDX搭載可能なSEMの概略全体構成図(一部断面図)を示す。筐体11内には電子銃12が配置され、この電子銃12より電子線20が放出される。第1集束レンズ13のレンズ作用を受け、絞り15を通過した電子線20は、第2集束レンズ16を通り、X走査偏向器17、Y走査偏向器18によって偏向され、対物レンズ19のレンズ作用を受け試料ステージ22上に置載された試料21の表面で焦点を結ぶように照射される。電子線20の試料21上における照射位置を制御するため、SEM主制御部151から出力される走査制御電圧に基づいて走査駆動部30でX走査偏向器17、Y走査偏向器18の駆動電流を生成する。試料21上における電子線20の照射位置からは、二次電子23や特性X線24が発生する。
【0015】
このうち二次電子のエネルギーは一般に50eV以下と定義され、試料表面までの距離が長い場所で励起されたものは、試料表面に到達するまでにエネルギーを失い試料内部で吸収される。従って、二次電子像は主に試料の表面形状を反映したコントラストを有するという特徴をもつ。加えて、二次電子はエネルギーが小さいことから試料表面近傍の電位の影響も受けやすい。非導電性試料に対して得られる二次電子像には、帯電に伴う異常コントラストが見られることが多い。また、半導体デバイス試料に対しては、内部構造を反映した電位コントラストを得るために二次電子像が観察される事例も多い。
【0016】
二次電子23は二次電子検出器25によって検出され、検出信号処理部26でアナログ−ディジタル(AD)変換される。AD変換された検出信号は、SEM主制御部151から検出信号処理部26に入力される積算タイミング信号に基づいて、ある画素由来の二次電子データとして積算された後、画像データに変換される。画像データは、走査速度に応じて1ライン画像データの取得完了毎または1フレーム画像データの取得完了毎に検出信号処理部26からSEM主制御部151を経由してコンピュータ35に転送され、モニタ37にSEM画像として表示される。
【0017】
電子銃12の制御は電子銃制御部34が、第1集束レンズ13、第2集束レンズ16、および対物レンズ19の制御は電子光学系制御部33が、試料ステージ22の制御は試料ステージ制御部27が行うが、その操作は操作インターフェース36を使用してコンピュータ35に入力された設定値を、SEM主制御部151がそれぞれ電子銃制御部34、電子光学系制御部33、および試料ステージ制御部27に伝送することによって行われる。
【0018】
SEM主制御部151には走査制御電圧切換部29があり、SEM側走査制御電圧生成部38から入力される走査制御電圧と、EDX装置に設けられているEDX側走査制御電圧生成部53から入力される走査制御電圧のどちらを走査駆動部30に入力するかを切り換える。図3に示すようなX走査用、Y走査用のそれぞれの走査制御電圧に基づいて走査駆動部30に設けられたX走査駆動部31、Y走査駆動部32を駆動し、X走査偏向器17、Y走査偏向器18に流れる電流を制御して、電子線20の2次元走査を行う。尚、本再構成例においてはX走査偏向器17、Y走査偏向器18を電磁偏向器として記述したが、静電偏向器であっても構わない。
【0019】
図10は、再構成したEDX装置搭載のSEMの概略全体構成図(一部断面図)を示す。なお、図9に示す符号と同じ符号は同じ構成を示す。搭載するEDX装置の例としては、特許文献1に記載のEDX装置が挙げられる。SEMの筐体11にはEDX検出器51が装着され、試料21から発生した特性X線24を検出し、該検出信号はEDX主制御部52においてその波高値に基づいてエネルギースペクトルに変換される。エネルギースペクトルデータはコンピュータ54に転送され、モニタ56にエネルギースペクトル画像、または元素マッピング画像として表示される。EDX主制御部52にはEDX側走査制御電圧生成部53があり、ここで生成された走査制御電圧がSEM主制御部151に入力される。
【0020】
また、コンピュータ35とコンピュータ54は通信ケーブルで接続されており、EDX分析の開始にあたってはコンピュータ54からコンピュータ35にEDX分析開始コマンドが送信される。該コマンド受信後、コンピュータ35はSEM主制御部151に該情報を転送し、走査制御電圧切換部29を操作して走査駆動部30に入力する走査制御電圧の入力元をSEM側走査制御電圧生成部38からEDX側走査制御電圧生成部53に切り換える。すなわち、EDX分析中は電子線20の走査制御はEDX装置が担う。このとき、SEM側では電子線の加速電圧や電子線量等を固定するように制御するが、電子線の走査は行わないため試料上での電子線の位置を把握することができない。
【0021】
一般的に、荷電粒子検出器や電磁波検出器は、試料から発生した荷電粒子または電磁波の入射がなくなった後も、出力信号が一定時間持続するような応答時間特性を有する。検出器への荷電粒子または電磁波の入射がなくなってから、その入射由来の出力信号がなくなるまでの時間を、以下では出力持続時間と呼ぶことにする。例えば、EDXにおいてX線検出に使用されるシリコンドリフト検出器(SDD:Silicon Drift Detector)では、検出器に入射したX線により発生した電荷が、検出器内に印加された電界に応じて収集電極に集められるが、そのドリフト時間は検出面積に依存し、結果的にSDDの出力持続時間はマイクロ秒オーダーとなる。
【0022】
観察や分析の対象領域を構成する最小単位を、観察や分析の差異にかかわらず以下では画素と呼ぶことにする。前記のような出力持続時間を有する検出器を用いて、連続して検出される2画素間あるいは複数画素間の信号の重複が発生した場合、検出された信号がどの画素から放出されたかの判別ができず、観察や分析の結果の空間分解能が低下する。
【0023】
これを防ぐために、電子線が画素間を移動する前後に、前記の出力持続時間よりも長い時間にわたり、検出データを破棄する処理がなされるのが一般的である。
【0024】
しかしながら試料の帯電抑制のために、観察する試料の帯電時定数に応じて走査線間の間隔を変え、試料表面の帯電を抑制する方法、或いは複数のピクセルを飛ばしてピクセル間を移動するときの電子線の走査速度を高速に設定し、電子線照射による試料表面の帯電を緩和する方法を適用する場合、次の制限が生じる。
【0025】
すなわち、試料に連続照射される電子線がある画素に滞留する時間が、検出器の出力持続時間よりも短いとき、画素間の信号の重複を防ぐために検出データを破棄する処理が実行されると、検出データが残らなくなってしまう。従って、電子線がある画素に滞留する時間には下限があり、その下限時間が試料の帯電抑制に有効なほど短い時間でなければ、帯電抑制の効果を得ることが困難となる。
【0026】
電子線のパルス化により、照射する電子数を制御し、画像化する方法で電子線をブランキングし、断続的に試料に照射することにより、ある画素に電子線が照射される時間と、検出器の出力持続時間に応じた電子線の遮断時間を個別に設定することが可能となる。しかしながら、EDX装置側にブランキング制御信号の出力機能がない場合はその追加が必要となることや、EDX装置からブランキング制御信号を出力できても、ブランキング手段およびブランキングの応答時間特性はSEMの装置構成に依存するため、電子線に対する所望の断続照射制御の可否は不確実となり、EDX装置の汎用性の維持と帯電抑制機能の両立は困難となる。
【0027】
そこで、発明者等は上記課題を解決する方法について検討した結果、外部から入力される走査制御電圧を検出し、その検出値に基づいて荷電粒子線が照射される試料上の画素座標を算出し、その画素座標に応じて荷電粒子線の照射を制御すればよいことに思い至った。これにより、EDX装置など外部側からの電子線の走査制御時においてもSEM側で試料上の電子線の位置把握が可能となり、高真空環境において、例えば上記方法を用いて非導電性試料の帯電を抑制することができる。
【0028】
以下、本発明の実施例について、図面を用いて説明する。実施例においては一次荷電粒子として電子を用いたSEMについて説明するが、走査透過電子顕微鏡(STEM)にも適用可能である。また、一次荷電粒子としてイオンを用いた装置(走査イオン顕微鏡SIM等)にも適用可能である。その場合、光学系は静電レンズ、静電偏向器に置き換わるが、本発明の適用に影響するものではない。また、実施例においては外部からSEMに走査制御電圧を入力してSEMの走査制御を行う装置として、EDX装置を挙げるが、後方散乱電子回折(EBSD:Electron BackScatter Diffraction)装置や、超伝導遷移端温度計(TES:Transition Edge Sensor)型X線マイクロカロリメータ装置などを搭載する場合にも適用可能である。
【実施例1】
【0029】
本発明の第1の実施例に係る、EDX装置搭載可能な、或いはEDX装置搭載を搭載したSEMついて図1から図5を用いて説明する。尚、図1および図2に記載の符号に関し、従来技術として説明した図9および図10と同じ符号箇所については、同一構成を示す。
【0030】
図1は、本実施例に係る、EDX装置搭載可能なSEMの概略全体構成図(一部断面図)を示す。本実施例のSEM主制御部28は図9および図10のSEM主制御部151に加えて、次の機能を有する。すなわち、SEM主制御部28においては、走査制御電圧切換部29のX走査用、Y走査用出力は、それぞれ分岐してX走査検出用AD変換器41、Y走査検出用AD変換器40でAD変換され、演算器42に入力される。
【0031】
走査制御電圧は、図3に示すとおり1画素滞留時間または1ライン走査時間に相当する一定時間は値が変化せず、次の画素または次のラインに移行するタイミングで矩形状に変化する。従って、演算器42において前回と現在の入力値の差分が、事前に設定された閾値(例えば、隣接画素間の移行であれば10mV、1走査周期完了に伴う振り戻し時は数V)を超えるか否かを判定することによって、X走査、Y走査それぞれの画素移行タイミングを検出することが可能である。
【0032】
加えて、該画素移行タイミングの検出回数をカウントすること、ならびに走査制御電圧の振り戻しを検出することによって、現在の走査制御電圧が偏向目標とする画素座標の算出が可能である。尚、AD変換器の入力電圧に重畳する高周波数ノイズ成分を除去するために、演算器42での差分演算前に直前の複数回分のディジタルデータを加算平均してもよい。
【0033】
演算器42は、上記演算に基づいて画素移行タイミングを検出すると、SEM主制御部28が備えるブランキング制御部45に画素移行タイミング信号を入力するとともに、上記のとおり算出した現在の走査制御電圧が偏向目標とする画素座標データを記憶部43に記録する。
【0034】
ブランキング制御部45は、予め設定されたブランキング周期と、ブランキング周期内の電子線照射ONの割合を百分率で表したDuty比と、電子線を照射した画素から次に電子線を照射する画素までの間に挟まれる電子線を照射しない画素数である画素飛ばし数と、演算器42によって更新される現在の上記画素座標データと、を記憶する記憶部43にアクセスする手段を有し、該画素移行タイミング信号と記憶部43より参照した上記記憶内容に応じて、電子線20の試料21上への照射ON/OFFを制御するため、ブランキング駆動部39にブランキング制御信号を入力する。ブランキング駆動部39は、該ブランキング制御信号に基づきブランカ14の電圧を生成する。ブランカ14に電圧が印加されると、電子線20が絞り15の穴の外にまで偏向され、試料21への照射がOFFとなる。
【0035】
ブランキング制御部45は、演算器42からの画素移行タイミング信号の他に、SEM主制御部28が備える画素移行タイミング信号生成部44からの入力手段も具備し、コンピュータ35に入力された設定条件に応じて、入力元を選択することができる。あるいは両方の入力を遮断してブランキング制御をOFFすることもできる。さらに、ブランキング制御部45は、上記と同様に演算器42または画素移行タイミング信号生成部44から入力される画素移行タイミング信号と、記憶部43より参照した上記記憶内容に応じて電子線20の試料21上への照射ON/OFFを判別し、二次電子検出器25の検出信号を取り込むか破棄するかを制御する積算タイミング信号を検出信号処理部26に入力する。
【0036】
本実施例のSEMが具備する電子線照射条件の設定画面71を図4に示す。該電子線照射条件の設定画面71は設定項目として、1画素滞留時間に相当するDwell time72、電子線のブランキング周期73、上記したDuty比74、上記した画素飛ばし数75、および1回のY走査で取得される画像データを1フレームとし1枚の二次電子像を形成するにあたって積算処理に使用するフレームの数を表したフレーム積算数76、ならびに上記のブランキング動作をSEM側走査制御電圧と連動させるか否かを設定するSEM走査連動チェックボックス77、同様に上記のブランキング動作をEDX側走査制御電圧と連動させるか否かを設定するEDX走査連動チェックボックス78、とを有する。
【0037】
プルダウンリストより選択またはテキスト入力されたDwell time72の設定時間に応じて、該設定時間のn分の1(n=1、2、3、・・・)に相当する選択肢がブランキング周期73のプルダウンリストに表示される。また、プルダウンリストより選択された画素飛ばし数s(s=0、1、2、3、・・・)に応じて、画素の積算回数p(p=1、2、3、・・・)が走査領域にわたって均一となるように(s+1)・pに相当する選択肢がフレーム積算数76のプルダウンリストに表示される。SEM走査連動チェックボックス77とEDX走査連動チェックボックス78は排他関係にあり、同時に両方をチェックしてONすることはできないが、両方ともにチェックを付けずにOFFすることはできる。その場合、SEM側、EDX装置側のどちらの走査制御電圧に基づいて電子線の走査が開始されても、該電子線照射条件の設定画面71で設定されたブランキング動作は実行されない。
【0038】
図2は、本実施例に係る、EDX装置を搭載したSEMの概略全体構成図(一部断面図)を示す。該構成においてEDX装置による元素マッピング分析を実施する手順を説明する。
【0039】
必要となる電子線20の加速電圧は、分析対象となる元素の特性X線の臨界励起電圧によって規定され、十分な特性X線強度を得るためには臨界励起電圧の2倍以上の加速電圧を印加することが望ましい。含まれる元素が不明な場合は、一般的に15kV〜20kVが設定される。軽元素に対する分析の定量性を重要視する場合や、電子線20の試料21内での拡散領域を低減し分析の空間分解能を上げる場合は、それらの条件に応じてより低い加速電圧が設定される。電子線走査領域の倍率を元素マッピング分析時に想定する倍率に設定し、試料ステージ22を操作して分析対象領域近傍の観察視野に移動する。
【0040】
電子線20の照射電流量の調整は、図4に示される電子線照射条件の設定画面71において、EDX走査連動チェックボックス78を予めOFFした上で実施し、EDX装置のGUIに表示されるDead−time(不感時間)が所定の範囲(例えば、20〜30%)になるようにSEMの第1集束レンズ13、第2集束レンズ16の設定を操作し行う。
【0041】
加速電圧と照射電流量を設定した後は、上記電子線照射条件の設定画面71にて元素マッピング分析時に想定する値に応じてDwell time72をプルダウンリストから選択またはテキスト入力する。
【0042】
次にブランキング周期73やDuty比74をそれぞれプルダウンリストから設定する。SEM走査連動チェックボックス77をONにした後、SEM側で電子線20の走査を開始し、二次電子像を取得する。該二次電子像に試料21の帯電に起因する異常コントラストが視認される場合は、上記で設定したブランキング周期73やDuty比74を変更する。また、上記に加えて画素飛ばし数75ならびにフレーム積算数76を設定し、再度取得した二次電子像に上記異常コントラストが見られるか否かを確認する。
【0043】
直前の電子線照射の影響が残留する場合など、必要であれば観察視野を移動しながら、ブランキング周期73、Duty比74、画素飛ばし数75、フレーム積算数76の変更と二次電子像の取得を繰り返し、二次電子像に上記異常コントラストが表れない電子線照射条件を見つける。特に、Duty比74を下げる必要があった場合は、特性X線のカウントレートが下がっていることが予想されるので、さらにフレーム積算数を上げても上記異常コントラストの見られない二次電子像が取得可能かどうかを確認しておくことが望ましい。
【0044】
上記のようにして所望の電子線照射条件が求まった後は、該電子線照射条件の内のフレーム積算数76と同じ設定値をEDX装置側のGUIに設定する。分析対象領域に観察視野を移動し、上記電子線照射条件の設定画面71にてEDX走査連動チェックボックス78をONにして、EDX装置側で元素マッピング分析を開始する。
【0045】
分析の開始にあたり、上記したとおりコンピュータ54からコンピュータ35にはEDX分析開始コマンドが送信され、走査制御電圧切換部29が選択する走査制御電圧の入力元をEDX装置側に切り換えるので、SEMは分析の開始を検知することができる。
【0046】
図5は、図2に示すSEMにおけるEDX分析時のブランキング動作の説明図である。EDX装置側からSEM側に入力される走査制御電圧の時間波形を基準として、EDX装置側ではX線信号取込タイミングが制御される。SEM側では、上記したとおりEDX装置側から入力される走査制御電圧に基づいてX走査偏向器17、Y走査偏向器18を駆動しながら、X走査検出用AD変換器41、Y走査検出用AD変換器40ならびに演算器42によって画素移行タイミングを検出するとともに偏向目標となる画素座標を算出する。
【0047】
演算器42は記憶部43にアクセスして画素座標データを更新した後、ブランキング制御部45に画素移行タイミング信号を入力する。EDX側走査制御電圧における画素移行タイミングに対し、SEM側で検出される画素移行タイミングには、システムクロック間の時間差、AD変換器の変換周期やディジタルデータの加算平均処理、差分演算や閾値との比較、記憶部43へのアクセスに要する処理時間の合計分の遅れが生じるが、EDX分析時のDwell time(通常、数μs以上)に対して100ns程度と短く、無視できる範囲である。また、厳密には画素移行タイミング信号の入力からブランカ14への電圧印加が完了するまでの遅れ時間も生じるが、それも数十ns程度と短く、無視できる範囲である。
【0048】
ブランキング制御部45は、記憶部43の記憶内容と画素移行タイミング信号に基づいてブランキング制御信号をブランキング駆動部39に入力するとともに、積算タイミング信号を検出信号処理部26に入力する。検出信号処理部26が該積算タイミング信号に基づいて二次電子検出器25から取り込んだ二次電子データは、フレーム積算を行うことによって、元素マッピング分析中の試料21の帯電状態を反映した二次電子像として画像化することができ、SEMのモニタ37に表示することによって、分析途中および分析完了後の試料の帯電状態を確認することができる。また、検出信号処理部26が上記積算タイミング信号に基づいて二次電子検出器25から取り込んだ二次電子データは、SEM主制御部28からEDX主制御部52にVideo信号として入力される。図5を用いて説明したとおり、二次電子データはEDX装置側からSEM側に入力される走査制御電圧の画素移行タイミングにほぼ同期して取り込まれるので、EDX装置側でも画素との対応付けが可能である。従って、EDX装置側にも上記Video信号のフレーム積算機能が具備されていれば、EDX装置のモニタ56に二次電子像を表示することができる。
【0049】
以上本実施例によれば、従来技術同様にEDX分析中はEDX装置側が走査制御を担う形態を維持しつつ、画素移行タイミングの検出と現在の偏向目標となる画素座標の算出によって、事前に求めた画素毎の電子線照射条件をEDX分析に適用し、高真空環境下に置かれた非導電性試料に対してでも、分析中の該試料の帯電を抑制することができる。
【実施例2】
【0050】
実施例2について、図6から図8を用いて説明する。尚、実施例1に記載され本実施例に未記載の事項は特段の事情がない限り本実施例にも適用することができる。
【0051】
図6は、本実施例に係る、EDX装置を搭載可能なSEMの一例を示す概略全体構成図(一部断面図)である。本実施例のSEMは、図1に示すSEMの電子銃12が光励起電子銃91に、電子銃制御部34が光励起電子銃制御部92に置き換わり、ブランカ14およびブランキング駆動部39が除かれた構成となっている。
【0052】
光励起電子銃制御部92は、高電圧生成部93および励起光制御部94を備える。高電圧生成部93が生成した加速電圧および引出し電圧は、光励起電子銃91内の後述する電極に導入される。また、励起光制御部94は波長600nmから800nmのレーザ光を生成し、該レーザ光は光ファイバなどの光伝送手段によって光励起電子銃91内に導入される。
【0053】
該光励起電子銃91の詳細を図7に示す。光励起電子銃91は、透明基板101、GaAs膜102、ホルダ103、集光レンズ104、窓105、光ファイバ106、引出し電極107から構成される。透明基板101にGaAs膜102が貼り付けられており、GaAs膜は金属製のホルダ103に接触する構造となっている。
【0054】
ホルダ103には上記高電圧生成部93が生成した加速電圧(図7中Vacc)が印加され、また、ホルダ103の下方に配置された引出し電極107には同じく上記高電圧生成部93が生成した引出し電圧(図7中Vext)が印加される。
【0055】
光ファイバ106端面より射出された上記励起光制御部94が生成したレーザ光108は、筐体11の窓105を通り、集光レンズ104のレンズ作用によってGaAs膜102上で焦点を結ぶ。筐体11内のGaAs膜102周辺は排気手段(図示略)によって圧力10−8Pa以下の超高真空となっており、GaAs膜102上の上記レーザ光108の焦点近傍ではGaAs膜102の価電子帯にある電子が伝導帯に励起され、該電子が負の電子親和力(NEA:Negative Electron Affinity)によって表面から超高真空中に放出される。放出された該電子は引出し電圧Vextが印加された引出し電極107によって電子光学系に導かれ、電子線20となる。
【0056】
本実施例のSEMにおいては、ブランキング制御部45から光励起電子銃制御部92内の励起光制御部94にブランキング制御信号が入力される。励起光制御部94は該ブランキング制御信号に基づいてレーザ光をON/OFFし、該レーザ光のON/OFFによって光励起電子銃91から放出される電子線20もON/OFFされる。すなわち、ブランキング制御部45が出力するブランキング制御信号によって、電子線20の試料21への照射ON/OFFが制御される。
【0057】
図8は、本実施例に係る、EDX装置を搭載したSEMの概略全体構成図(一部断面図)である。図6の説明によって明らかなように、EDX装置からSEMに入力される走査制御電圧に対して、画素移行タイミングを検出するとともに現在の偏向目標となる画素座標を算出することによって、事前に求めた画素毎の電子線照射条件をEDX分析に適用し、高真空環境下に置載された非導電性試料に対してでも、分析中の該試料の帯電を抑制することができる。なお、符号55は操作インターフェースを示す。
【0058】
加えて、本実施例においては実施例1のように電子線をブランカで偏向させて試料への照射をOFFする必要がないので、電子光学系からブランカの設備を省くことができ、ブランカが有する電子線への偏向ノイズが除去できることや、設計の自由度の点で有利である。
【0059】
以上、本実施例によれば、高真空環境下の非導電性試料に対しても、安定した荷電粒子や電磁波を検出し、該試料の観察または分析が可能な荷電粒子線装置を提供することができる。また、電子銃として光励起電子銃を用いることにより、電子光学系からブランカの設備を省くことができ、ブランカが有する電子線への偏向ノイズが除去できる、また、設計の自由度が向上する。
【0060】
なお、本発明は以下の実施形態を含む。
(1)光励起荷電粒子銃と、
前記光励起荷電粒子銃から放出された荷電粒子線を試料に走査する走査偏向器と、
前記走査偏向器へ外部から入力される走査制御電圧を検出する検出部と、
検出された前記走査制御電圧に基づいて前記荷電粒子線の照射画素座標を算出する演算部と、
前記照射画素座標に応じて前記荷電粒子線の前記試料への照射を制御する照射制御部と、を有する荷電粒子線装置。
(2)荷電粒子銃と、
前記荷電粒子銃から放出された荷電粒子線を試料上で走査する走査偏向器と、
前記走査偏向器へ入力する走査制御電圧を発生する走査制御電圧発生部と、
前記走査偏向器へ外部から入力され、前記走査制御電圧とは異なる外部走査制御電圧を検出する検出部と、
検出された前記外部走査制御電圧に基づいて前記荷電粒子線の照射画素座標を算出する演算部と、
前記照射画素座標に応じて前記荷電粒子線の前記試料への照射を制御する照射制御部と、
を有する荷電粒子線装置。
(3)上記(2)記載の荷電粒子線装置において、
前記荷電粒子線装置は、ブランカを備え、
前記照射制御部は、前記ブランカにより前記荷電粒子銃からの前記荷電粒子線の前記試料への照射のON/OFFを制御する荷電粒子線装置。
(4)上記(2)記載の荷電粒子線装置において、
前記荷電粒子銃は、光励起荷電粒子銃であり、
前記照射制御部は、前記光励起荷電粒子銃の励起光制御部を制御して前記光励起荷電粒子銃からの前記荷電粒子線の前記試料への照射のON/OFFを制御する荷電粒子線装置。
【0061】
また、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0062】
11…筐体、12…電子銃、13…第1集束レンズ、14…ブランカ、15…絞り、16…第2集束レンズ、17…X走査偏向器、18…Y走査偏向器、19…対物レンズ、20…電子線、21…試料、22…試料ステージ、23…二次電子、24…特性X線、25…二次電子検出器、26…検出信号処理部、27…試料ステージ制御部、28…SEM主制御部、29…走査制御電圧切換部、30…走査駆動部、31…X走査駆動部、32…Y走査駆動部、33…電子光学系制御部、34…電子銃制御部、35…コンピュータ、36…操作インターフェース、37…モニタ、38…SEM側走査制御電圧生成部、39…ブランキング駆動部、40…Y走査検出用AD変換器、41…X走査検出用AD変換器、42…演算器、43…記憶部、44…画素移行タイミング信号生成部、45…ブランキング制御部、51…EDX検出器、52…EDX主制御部、53…EDX側走査制御電圧生成部、54…コンピュータ、55…操作インターフェース、56…モニタ、71…電子線照射条件の設定画面、72…Dwell time、73…ブランキング周期、74…Duty比、75…画素飛ばし数、76…フレーム積算数、77…SEM走査連動チェックボックス、78…EDX走査連動チェックボックス、91…光励起電子銃、92…光励起電子銃制御部、93…高電圧生成部、94…励起光制御部、101…透明基板、102…GaAs膜、103…ホルダ、104…集光レンズ、105…窓、106…光ファイバ、107…引出し電極、108…レーザ光、151…SEM主制御部。
図1
図2
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図4
図5
図6
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図8
図9
図10