(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6586553
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム用高エネルギー線硬化性アクリロキシ官能シリコーン組成物、及びそれを用いた誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム
(51)【国際特許分類】
B28B 1/30 20060101AFI20191001BHJP
C08F 2/46 20060101ALI20191001BHJP
C08F 2/00 20060101ALI20191001BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20191001BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20191001BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20191001BHJP
C09D 4/00 20060101ALI20191001BHJP
C09D 183/08 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
B28B1/30
C08F2/46
C08F2/00 C
B32B27/00 L
B32B27/30 A
B32B27/00 101
C09K3/00 R
C09D4/00
C09D183/08
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-552800(P2016-552800)
(86)(22)【出願日】2014年11月11日
(65)【公表番号】特表2017-505250(P2017-505250A)
(43)【公表日】2017年2月16日
(86)【国際出願番号】JP2014080286
(87)【国際公開番号】WO2015068860
(87)【国際公開日】20150514
【審査請求日】2017年11月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-233089(P2013-233089)
(32)【優先日】2013年11月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】719000328
【氏名又は名称】ダウ・東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 修司
(72)【発明者】
【氏名】谷 俊和
(72)【発明者】
【氏名】田中 英文
【審査官】
手島 理
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−269589(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/145864(WO,A1)
【文献】
国際公開第2007/102370(WO,A1)
【文献】
特開平06−184256(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/30
C08F 2/46
C08F 2/00
B32B 27/00
B32B 27/30
C09K 3/00
C09D 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分:
(A)少なくとも1種類の多官能性アクリレート、
(B)以下の(B1)および(B2)から選ばれる少なくとも1種類以上のシロキサン化合物
(B1)アミノ変性オルガノポリシロキサン(ここで、(B1)成分中のアミノ基のモル量は、(A)成分中のアクリレート官能基のモル量よりも少ない量である)
(B2)少なくとも1種の多官能アクリレートとアミノ変性オルガノポリシロキサンのマイケル付加反応物、
(C)脂肪族不飽和基を有するオルガノアルコキシシラン、
を含有してなり、紫外線、電子線およびガンマ線から選ばれる高エネルギー線硬化性アクリロキシ官能シリコーン組成物からなる誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム用剥離剤組成物。
【請求項2】
さらに、(D)コロイダルシリカを含有することを特徴とする、請求項1に記載の誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム用剥離剤組成物。
【請求項3】
さらに、(E)本組成物を液状にする有機溶剤を含有することを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム用剥離剤組成物。
【請求項4】
(E)成分が、アルコールを含む有機溶剤である、請求項3に記載の誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム用剥離剤組成物。
【請求項5】
さらに、(E)本組成物を液状にする有機溶剤を含有してなり、(A)成分100重量部に対して、(B1)成分1〜30重量部、(C)成分1〜30重量部、(D)成分0〜100重量部、及び(E)成分10〜1000重量部を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム用剥離剤組成物。
【請求項6】
さらに、(E)本組成物を液状にする有機溶剤を含有してなり、(A)成分100重量部に対して、(B2)成分1〜100重量部、(C)成分1〜30重量部、(D)成分0〜100重量部、及び(E)成分10〜1000重量部を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム用剥離剤組成物。
【請求項7】
さらに(C)成分の加水分解用の(G)水を含有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム用剥離剤組成物。
【請求項8】
さらに(G)水を(C)成分100重量部に対して1〜50重量部含有することを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム用剥離剤組成物。
【請求項9】
(B)成分の重量が、(A)成分の重量の1/5以下であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム用剥離剤組成物。
【請求項10】
(A)成分が5官能性以上のアクリレートを含むことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム用剥離剤組成物。
【請求項11】
さらに(F)少なくとも1種の光重合開始剤を含有することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム用剥離剤組成物。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の剥離剤組成物を硬化させてなる硬化層とシート状基材とを有する誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム。
【請求項13】
請求項12に記載の誘電体セラミック成形材料用剥離フィルムを用い、前記フィルム上の硬化した剥離剤組成物の層の上にセラミックスラリーを塗工し、塗工したセラミックスラリーを乾燥させる工程を含む、誘電体セラミック形成材料の製造方法。
【請求項14】
セラミックグリーンシートの製造方法である、請求項13に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線等の高エネルギー線の照射により硬化するアクリロキシ官能シリコーン組成物を誘電体セラミック形成材料用剥離フィルムの剥離層に用いること、および当該剥離層を備えた誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム、特にセラミックグリーンシート成形用剥離フィルムに関する。また、本発明は、前記剥離フィルムを用いることを特徴とする、誘電体セラミック形成材料、特にセラミックグリーンシートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、積層セラミックコンデンサ、積層インダクタ、及び多層セラミック基板などの積層セラミック製品、特に積層セラミック電子部品を製造する場合には、誘電体セラミック形成材料として、焼成前のセラミック原料を必要に応じてバインダー及び溶剤等とともに混合してペースト状混合物にし、これをプラスチック製のキャリアフィルム上に塗工しかつ乾燥させて誘電体セラミック成形材料、例えばセラミックグリーンシートとよばれるシートを作製し、さらに、このセラミックグリーンシート上に、ペースト状にした内部電極材料を印刷して内部電極を形成させ、その電極パターンどうしを位置合わせしながら複数枚のセラミックグリーンシートを積層させた後に、そのシートを圧着して一体化させ、さらにそれを焼成することによって、積層セラミック製品、特に積層セラミック電子部品を製造する方法が知られている。
【0003】
これらの誘電体セラミック形成材料、特に、セラミックグリーンシートは、例えば、チタン酸バリウムや酸化チタンなどのセラミック原料及び分散媒等を含有するセラミックスラリーを剥離フィルム上に塗工し、さらにこれを乾燥させることによって作ることができる。キャリアフィルムともよばれるこの剥離フィルム上にセラミックスラリーを塗工及び乾燥させて得られるセラミックグリーンシートは、その後の工程において遅くともセラミックを焼成する工程の前には剥離フィルムから剥離される。剥離フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレートなどのベースフィルムの表面に、ポリシロキサン等のシリコーン系化合物を用いてセラミックグリーンシートに対する剥離性を付与した剥離フィルムが一般に使用されている(特許文献1〜8)。この剥離フィルムは、その剥離フィルム上に成形した薄いセラミックグリーンシートをその剥離フィルムから破断させることなく剥離することができる剥離特性が必要である。
【0004】
さらに近年では、電子機器の小型化および高性能化に伴い、積層セラミックコンデンサや多層セラミック基板の小型化および多層化が進み、それに伴って、セラミックグリーンシートの薄膜化が進んでいる。
【0005】
セラミックグリーンシート用のキャリアフィルムにも用いることができる剥離性を基材フィルムに付与するための材料として、本発明者は、取り扱いが容易であり、基材表面に硬化層を形成することができ、粘着性物質に対する良好な剥離性と硬化層の円滑なすべり性を基材表面に付与することができる硬化性オルガノポリシロキサン組成物として、(A) 25℃における粘度が20〜500mPa・sであり、炭素原子数4〜12の高級アルケニル基の含有量が1.0〜5.0質量%の範囲にある1種類以上のオルガノポリシロキサン 100質量部、(B) 25℃における粘度が1,000,000mPa・s以上の液状乃至ガム状を呈し、炭素原子数2〜12のアルケニル基の含有量が0.005〜0.100質量%の範囲にあるオルガノポリシロキサン 0.5〜15質量部、(C) 一分子中に2以上のケイ素結合水素原子(Si−H)を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン (A)成分および(B)成分中のアルケニル基に対する(C)成分中のSiH基のモル比が0.5〜5となる量、および(D) 白金系触媒 触媒量、を含有してなる硬化性オルガノポリシロキサン組成物を既に提案している(特開2011−26582号公報)。一方、本件出願人は、特開2004−269589号公報において、剥離剤と異なる技術分野において、剥離性やセラミックグリーンシートの形成とは異なる技術的効果(具体的には、保存安定性に優れ、硬化後は、耐擦傷性、透明性、撥水性、密着性に優れた硬化皮膜を形成し得ること)を期待して、高エネルギー線硬化性アクリロキシ官能シリコーン組成物を提案した。また、本件出願人は、当該文献の段落0024において、その一般的なコーティング剤としての性能に基づいて、保護フィルム等の用途を提案した。しかしながら、当該文献には、かかる組成物を粘着性・流動性を有する物質に対する剥離剤、特にセラミックグリーンシート等の誘電体セラミック形成材料の製造に用いる剥離フィルムに用いることは何ら記載も示唆もなされておらず、具体的な動機づけを与えるような技術的効果も開示されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−011710号公報
【特許文献2】特開2004−182836号公報
【特許文献3】特開2004−216613号公報
【特許文献4】特開2008−254207号公報
【特許文献5】特開2009−034947号公報
【特許文献6】特開2009−215428号公報
【特許文献7】特開2009−227976号公報
【特許文献8】特開2009−227977号公報
【特許文献9】特開2011−026582号公報
【特許文献10】特開2004−269589号公報(特許4646497)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したとおり、積層セラミックコンデンサや多層セラミック基板を小型化および/または多層化するために、薄膜状のセラミックグリーンシートを作成する場合、基材フィルム上に塗工したセラミックスラリーを乾燥させた後の厚みが3μm以下になると、セラミックスラリーを塗工して乾燥させたときに、セラミックスラリーの塗工部分の端部が収縮して、塗工部分の端部の厚みがそれよりも内側部分よりも厚くなる、いわゆる端部収縮の発生、ピンホールの形成、および/または不均一な塗工が生じやすくなるという問題点があった。また、成形したセラミックグリーンシートを基材フィルム、すなわち剥離フィルムから剥離させるときに、膜厚が薄いことによるセラミックグリーンシートの強度の低下によって、シートの破断等の不具合が起こりやすくなるという問題点があった。
【0008】
さらに、セラミックグリーンシートを用いて製造される電子材料及び電子部品は、その用途に応じて、用いる無機セラミック原料、バインダー樹脂、分散剤、および有機溶剤等の種類が異なるので、剥離フィルムに塗工するセラミックスラリーの種類によって、剥離フィルムに対するセラミックスラリーの塗工性が変わる。したがって、用いるセラミックスラリーの種類にかかわらず、セラミックスラリーに対する良好な塗工性と、得られるセラミックグリーンシートに対する良好な剥離性の両方を備えた剥離フィルムが今も求められている。
【0009】
一方、上述したとおり、基材フィルム表面に剥離性を付与するための材料として本発明者が特開2011−026582号公報に開示した硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、実質的に無溶剤型、すなわち溶剤を含まない硬化性オルガノポリシロキサン組成物であり、ディスプレイの表面保護シート等に用いる材料としては有用であるが、これをそのままセラミックグリーンシートの剥離フィルム用の材料として用いるには適していない点があった。
【0010】
本発明は、この様な実状に鑑みてなされたものであり、セラミックグリーンシート成形用フィルム、すなわちいわゆるキャリアフィルムであって、その表面上へのセラミックスラリーの塗工性に優れるとともに、その表面上に形成されたセラミックグリーンシートの剥離性にも優れたセラミックグリーンシート成形用剥離フィルム、およびそのフィルムを製造するために適した剥離剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、セラミックグリーンシート成形用剥離フィルムに用いるための基材フィルムの表面特性を改質するための剥離剤組成物として、下記の高エネルギー線硬化性アクリロキシ官能シリコーン組成物をシート状基材、例えば基材フィルム上にコーティングし、硬化させて得られる剥離フィルムが、誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム、特に、セラミックグリーンシート成形用剥離フィルムとして優れた特性を示すことを発見して本発明を完成させた。すなわち、本発明の誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム、特に、セラミックグリーンシート成形用剥離フィルムに用いる剥離剤組成物は、以下の成分(A)乃至(E):
(A)少なくとも1種類の多官能性アクリレート、
(B)以下の(B1)および(B2)から選ばれる少なくとも1種類以上のシロキサン化合物
(B1)アミノ変性オルガノポリシロキサン(ここで、(B1)成分中のアミノ基のモル量は、(A)成分中のアクリレート官能基のモル量よりも少ない量である)
(B2)少なくとも1種の多官能アクリレートとアミノ変性オルガノポリシロキサンのマイケル付加反応物、
(C)脂肪族不飽和基を有するオルガノアルコキシシラン、
(D)任意選択により場合によってはコロイダルシリカ、及び
(E)任意選択により場合によっては本組成物を液状にする有機溶剤
を含有してなり、紫外線、電子線およびガンマ線から選ばれる高エネルギー線硬化性アクリロキシ官能シリコーン組成物からなる。特に、各成分の分散性と取り扱い作業性の見地から、アルコールを含む有機溶剤を含むことができ、かつ、好ましい。
【0012】
さらに、上記組成物では、上記(A)成分100重量部に対して、(B1)成分1〜30重量部、(C)成分1〜30重量部、(D)成分0〜100重量部、及び(E)成分10〜1000重量部を含むことが好ましい。
【0013】
また、(A)成分100重量部に対して、(B2)成分1〜100重量部、(C)成分1〜30重量部、(D)成分0〜100重量部、及び(E)成分10〜1000重量部を含むことが好ましい。
(B2)成分は上記(A)成分と前記の未反応の(B1)成分の反応生成物に該当し、(B)成分として、各々を単独で用いてもよく、併用してもよい。
【0014】
さらに、上記いずれの組成物も、上記(C)成分を加水分解させるための(G)水をさらに含むことができる。
【0015】
上記高エネルギー線硬化性アクリロキシ官能シリコーン組成物が(G)水を含む場合、水は(C)成分100重量部に対して1〜50重量部であることが好ましい。
【0016】
また、上記各組成物においては、(B)成分の重量が、(A)成分の重量の1/5以下であることが好ましい。
【0017】
また、上記各組成物においては、(A)成分が5官能性以上のアクリレートを含むことが好ましい。
【0018】
上記各組成物は、さらに(F)少なくとも1種の光重合開始剤を含有してもよい。
【0019】
本発明は、さらに、上記いずれかの組成物からなる誘電体セラミック形成材料用の剥離剤組成物を硬化させてなる硬化層とシート状基材とを有する誘電体セラミック形成材料用剥離フィルムを提供する。当該剥離フィルムは、特に、セラミックグリーンシート形成用剥離フィルムとして好適である。
【0020】
上記硬化層は、上記のいずれかの高エネルギー線硬化性アクリロキシ官能シリコーン組成物からなる剥離剤組成物を0.01〜0.5g/m
2となる量でシート状基材上に塗工し、さらに塗工した組成物を紫外線、電子線およびガンマ線から選ばれる高エネルギー線の照射により硬化させて得られる硬化層であってよい。
【0021】
上記シート状基材は、プラスチックフィルムであることが好ましい。
【0022】
本発明はさらに誘電体セラミック形成材料、特に、セラミックグリーンシートの製造方法も提供し、この方法では上述した本発明のセラミックグリーンシート成形用剥離フィルムを用いて、そのフィルム上の硬化したシリコーン組成物の層の上にセラミックスラリーを塗工し、塗工したセラミックスラリーを乾燥させる工程を含む。
【発明の効果】
【0023】
本発明の高エネルギー線硬化性アクリロキシ官能シリコーン組成物からなる剥離剤組成物を使用して得られる誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム、特に、セラミックグリーンシート成形用剥離フィルムは、そのフィルムへのセラミックスラリーの塗工性に優れている。具体的には、本発明の剥離剤組成物を硬化させて得られる硬化層の表面にセラミックスラリーを塗工して乾燥させた場合、塗工したセラミックスラリーの端部が収縮してその端部の厚みがそれより内側よりも厚くなる、いわゆる端部収縮が発生することを抑制することができる。また、本発明に係る誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム、特に、セラミックグリーンシート成形用剥離フィルムは、その上に成形した誘電体セラミック形成材料、特に、セラミックグリーンシートの剥離性にも優れ、低い剥離力でセラミックグリーンシートを、フィルム、すなわちキャリアフィルムの剥離剤層から剥離することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上述したとおり、本発明は、剥離フィルムからの誘電体セラミック形成材料、特に、セラミックグリーンシートの剥離性に優れ、かつフィルム上へのセラミックスラリーの塗工性に優れた誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム、特に、セラミックグリーンシート成形用剥離フィルム、及びその剥離シートを製造するのに適した高エネルギー線硬化性アクリロキシ官能シリコーン組成物に関する。本発明において用いる高エネルギー線硬化性アクリロキシ官能シリコーン組成物を構成する各成分、及び本発明の硬化性シリコーン組成物を用いて製造した剥離フィルムについて以下に詳細に説明する。
【0025】
[(A)成分]
(A)成分は本発明の硬化性シリコーン組成物に高エネルギー線硬化性を付与する成分であり、2官能性以上のアクリレートが使用できる。(A)成分としては、具体的には、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート,1,4−ブタンジオールジアクリレート,エチレングリコールジアクリレート,ジエチレングリコールジアクリレート,テトラエチレングリコールジアクリレート,トリプロピレングリコールジアクリレート,ネオペンチルグリコールジアクリレート,1,4−ブタンジオールジメタクリレート,ポリ(ブタンジオール)ジアクリレート,テトラエチレングリコールジメタクリレート,1,3−ブチレングリコールジアクリレート,トリエチレングリコールジアクリレート,トリイソプロピレングリコールジアクリレート,ポリエチレングリコールジアクリレート,ビスフェノールAジメタクリレート等の2官能性アクリレートモノマー;トリメチロールプロパントリアクリレート,トリメチロールプロパントリメタクリレート,ペンタエリスリトールモノヒドロキシトリアクリレート,トリメチロールプロパントリエトキシトリアクリレート等の3官能性アクリレートモノマー;ペンタエリスリトールテトラアクリレート,ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等の4官能性アクリレートモノマー;ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート,ジペンタエリスリトール(モノヒドロキシ)ペンタアクリレート等の5官能性以上のアクリレートモノマーが挙げられる。多官能性アクリレートのオリゴマーも使用でき、具体的には、ビスフェノールAエポキシジアクリレート,6官能性芳香族ウレタンアクリレート[商標:Ebecryl220],脂肪族ウレタンジアクリレート[商標:Ebecryl230],四官能性ポリエステルアクリレート[商標:Ebecryl80]が挙げられる。これらの多官能アクリレートは、1種を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。中でも、(A)成分として5官能性以上のアクリレートを含むことが好ましく、その含有量は(A)成分の30重量%以上であることが好ましく、50重量%以上がより好ましく、80重量%以上がさらに好ましい。
【0026】
[(B)成分]
(B)成分は、本発明の硬化性シリコーン組成物から得られる硬化皮膜に撥水性や潤滑性を付与する成分であり、以下の(B1)および(B2)から選ばれる少なくとも1種類以上のシロキサン化合物である。
(B1)アミノ変性オルガノポリシロキサン(ここで、(B1)成分中のアミノ基のモル量は、(A)成分中のアクリレート官能基のモル量よりも少ない量である)
(B2)少なくとも1種の多官能アクリレートとアミノ変性オルガノポリシロキサンのマイケル付加反応物
(B1)成分は、分子鎖末端や側鎖の一部にアミノ官能性有機基を有するオルガノポリシロキサンフルイドが挙げられる。アミノ官能性有機基としては、2−アミノエチル基、3−アミノプロピル基、3−(2−アミノエチル)アミノプロピル基、及び6−アミノヘキシル基が例示される。アミノ官能性有機基以外のケイ素原子に結合する基としては、メチル基、エチル基、及びプロピル基等のアルキル基;フェニル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、及びプロポキシ基等のアルコキシ基;並びに、水酸基が挙げられる。これらの中でもメチル基が好ましい。オルガノポリシロキサンの分子構造は、直鎖状もしくは一部分岐を有する直鎖状であることが好ましい。またオルガノポリシロキサンのシロキサン重合度は、2〜1000の範囲であることが好ましく、2〜500の範囲がより好ましく、2〜300の範囲が特に好ましい。このような(B)成分としては、下記式で表される1級アミノ基を有するオルガノポリシロキサンが好ましい成分として例示される。下記平均分子式中、Meはメチル基である。
【0028】
本発明に用いる硬化性シリコーン組成物中の(B1)成分の配合量は、(B1)成分中のアミノ基の合計のモル量が、(A)成分中のアクリレート官能基のモル量よりも少なくなる量である。さらに、良好な特性の硬化被膜が得られることから、(B1)成分の重量が(A)成分の重量の1/5以下であることが好ましい。
【0029】
[(B2)成分]
(B2)成分は、少なくとも1種の多官能アクリレートとアミノ変性オルガノポリシロキサンのマイケル付加反応物であって、上記(A)成分中のアクリレート官能基と(B1)成分中のアミノ基が反応して得られる反応生成物に相当する。かかる(B2)成分は、(B1)成分を用いた場合にも、最終的に硬化反応の過程において形成されるため、予め、反応させた(B2)成分を、前記の(B1)成分に代えて、あるいは、前記(B1)成分と共に、本発明に係る硬化性シリコーン組成物に配合することができる。
【0030】
[(C)成分]
(C)成分は、硬化時には、(A)成分と架橋して硬化物の架橋度を向上させ、硬化層と基材との密着性を改善する他、任意成分である(D)成分のコロイダルシリカを表面処理して(A)成分や(B)成分との親和性を向上させ、本発明の組成物に良好な保存安定性を付与することもできる成分である。脂肪族不飽和結合を有する基としては、3−(メタクリルオキシ)プロピル基、及び3−(アクリルオキシ)プロピル基等のアクリル基含有有機基;並びに、ビニル基、アリル基等のアルケニル基が挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、及びブトキシ基が例示される。このような(C)成分としては、3−(メタクリルオキシ)プロピルトリメトキシシラン,3−(メタクリルオキシ)プロピルトリエトキシシラン,3−(メタクリルオキシ)プロピルメチルジメトキシシラン,3−(アクリルオキシ)プロピルトリメトキシシラン,ビニルトリメトキシシラン,ビニルトリエトキシシラン,メチルビニルジメトキシシラン,及びアリルトリエトキシシランが例示される。
【0031】
[(D)成分]
(D)成分は、任意成分であって必要に応じて用いても用いなくてもよい。(D)成分は本発明の硬化性シリコーン組成物から形成される硬化皮膜を高硬度化してその耐擦傷性を向上させる成分である。このような(D)成分としては、水分散性のコロイダルシリカ、アルコール分散性のコロイダルシリカ、及び有機溶剤に分散したコロイダルシリカが挙げられる。コロイダルシリカの平均粒子径は、通常、数nm〜数十nmの範囲である。本発明の剥離性硬化皮膜は、その用途に鑑みて、必ずしも硬度や耐擦傷性を要求されるものではないが、剥離性および剥離層の強度の見地から、(D)成分を含有することができ、かつ好ましい。なお(D)成分を用いる場合は、その量は、上記(A)成分100重量部に対して1〜100重量部であることが好ましい。
【0032】
[(E)成分]
(E)成分は、任意成分であって必要に応じて用いても用いなくてもよい。(E)成分は本組成物を液状にするための有機溶剤である。前記の(A)〜(C)成分および任意選択により場合によっては(D)成分を均一に分散させ、かつ、シート状基材に塗工できる形態にするために、(E)成分は、アルコールを含む有機溶剤であることが好ましい。(E)成分中のアルコールとしては、メタノール,エタノール,イソプロピルアルコール,ブタノール,イソブチルアルコール,エチレングリコール,ジエチレングリコール,トリエチレングリコール,エチレングリコールモノメチルエーテル,ジエチレングリコールモノメチルエーテル,及びトリエチレングリコールモノメチルエーテルが挙げられるがこれらに限定されない。また、アルコール以外の有機溶剤としては、アセトン,メチルエチルケトン,及びメチルイソブチルケトン等のケトン;トルエン及びキシレン等の芳香族系炭化水素;ヘキサン,オクタン,及びヘプタン等の脂肪族系炭化水素;クロロホルム,塩化メチレン,トリクロロエチレン,及び四塩化炭素等の有機塩素系溶剤;酢酸エチル,酢酸ブチル,及び酢酸イソブチル等の脂肪族カルボン酸エステルが例として挙げられる。(E)成分はアルコール単独でもよく、アルコールと他の溶剤の混合物であってもよい。また、アルコール、他の溶剤ともにそれぞれ2種以上を併用してもよい。アルコールの含有率は、全溶剤合計量の10〜90重量%の範囲であることが好ましく、30〜70重量%がより好ましい。
【0033】
[各成分の配合量]
各成分の配合量は特に限定されないが、(A)成分100重量部に対して、(B1)成分および(C)成分は、それぞれ1〜30重量部の範囲であることが好ましく、1〜20重量部の範囲がより好ましい。(D)成分は任意成分であり、(A)成分100重量部に対して0〜100重量部の範囲であってよく、1〜80重量の範囲がより好ましい。(E)成分は任意成分であり、(E)成分を用いる場合には良好な塗工性の組成物を得るために、(A)成分100重量部に対して10〜1000重量部の範囲であることが好ましく、10〜500重量の範囲がより好ましい。また、(B1)成分に代えて、または(B1)成分と共に、(B2)成分を用いる場合、(B2)成分は(A)成分100重量部に対して1〜100重量部の範囲であることが好ましく、1〜50重量の範囲がより好ましい。
【0034】
[(F)成分]
(F)成分は、本発明の硬化性シリコーン組成物を高エネルギー線、例えば紫外線の照射により硬化させる場合にその組成物に添加されることが好ましい。(F)成分の具体例としては、例えば、2−メチル−{4−(メチルチオ)フェニル}−2−モルフォリノ−1−プロパン[日本チバガイギー社製;商品名イルガキュア907],及び1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン[日本チバガイギー社製;商品名イルガキュア184]が挙げられる。この他にも、ベンゾフェノン,アセトフェノン,ベンゾインあるいは各種のベンゾイン誘導体や公知の光重合開始剤が(F)成分として使用できる。このような光重合開始剤は1種類を単独で使用してもよく、2種類以上の混合物を使用してもよい。本発明の硬化性シリコーン組成物への(F)成分の配合量は特に限定されないが、(A)成分100重量部に対して1〜30重量部の範囲が好ましく、1〜20重量部の範囲がより好ましい。
【0035】
[(G)成分]
(G)成分は水であり、(C)成分の加水分解に使用される任意の成分である。(G)成分を用いる場合は、その配合量は、(C)成分100重量部に対して1〜50重量部の範囲が好ましく、5〜30重量部の範囲がより好ましい。なお、(C)成分は、通常、(D)成分のコロイダルシリカ表面のシラノール基と反応し、さらに(G)成分によって加水分解される。このため(G)成分の配合量は、(C)成分を完全に加水分解し得る量より少なくてもよい。
【0036】
[その他の任意成分]
本発明の組成物には、本発明の目的を損なわない範囲であれば、上記以外の成分を添加配合してもよい。たとえば、テトラメトキシシラン,テトラエトキシシラン,及びテトライソプロポキシシラン等のテトラアルコキシシラン;メチルトリメトキシシラン,メチルトリエトキシシラン,メチルトリイソプロポキシシラン,エチルトリメトキシシラン,エチルトリエトキシシラン,及びエチルトリイソプロポキシシラン等のアルキルアルコキシシランがその他の成分として挙げられる。
【0037】
さらに本発明の組成物には、必要に応じて、増粘剤;紫外線吸収剤;各種顔料,染料等の着色剤;アルミニウムペースト,タルク,ガラスフリット,金属粉の他、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT),フェノチアジン(PTZ)等のアクリレート類の自己重合禁止剤などを添加配合することができる。
【0038】
本発明に用いる高エネルギー硬化性アクリロキシ官能シリコーン組成物には、上述した成分に加えて、硬化したシリコーンの表面特性を改質するための種々の添加剤をさらに添加してもよく、例えば、本発明の硬化性シリコーン組成物には帯電防止剤を添加することができる。
【0039】
帯電防止剤は、公知のイオン性または非イオン性の帯電防止剤を特に制限なく用いることができ主成分に親水性基を持つシリコーンオイルを添加する方法(特開昭52−103499号公報)、スルホン酸塩を添加する方法(特公平3−59096 号公報)、含フッ素シリコーンオイルを添加する方法(特開平1−83085 号公報、同1−83086 号公報、同1−121390号公報)、界面活性剤を含有したシリコーンオイルを添加する方法(特開平1−294099号公報)、導電粉を添加する方法(特開平2−69763 号公報、同3−292180号公報、同4−86765 号公報)等が例示できる。特に、本発明の硬化性オルガノポリシロキサン組成物との相溶性がよいことから、リチウム塩またはポリエーテル変性ポリシロキサンである帯電防止剤の使用が好適である。これらのイオン性帯電防止剤またはポリエーテル変性ポリシロキサン等は、例えば、特開2009-30028号公報、特開2012-157978号公報、または特開2011-178828号公報に開示のものが特に制限なく使用できる。また、帯電防止の観点から、前記の帯電防止剤の添加剤としての使用だけでなく、界面活性剤系、シリコーン系、有機ホウ素系、導電性高分子系、金属酸化物系、および蒸着金属系などから選択される帯電防止剤による基材の処理を行ってもよい。
【0040】
[本発明に用いる硬化性シリコーン組成物の製造方法]
本発明の組成物の製造方法は特に限定されないが、通常、構成成分の単純な攪拌により均一な混合物が得られる。このとき、(A)成分と(B1)成分を予め反応させてから、他の成分を配合することが好ましい。(A)成分と(B1)成分の付加反応生成物は上記(B2)成分に該当する。(A)成分中のアクリレート官能基のモル量よりも(B1)成分中のアミノ基のモル量が少ないので、(A)成分と(B1)成分の反応後は、(A)成分と(B1)成分のマイケル付加反応生成物(B2)と、未反応の(A)成分からなる混合物となる。本発明の硬化性シリコーン組成物の製法として、具体的には、(A)成分と(B)成分を(E)成分中で、室温から溶剤の還流温度の範囲で1分間〜20時間混合して反応させた後、(C)成分および(D)成分を加え、必要に応じてさらに(G)成分を添加して、室温から溶剤の還流温度の範囲で1分間〜20時間混合する方法が挙げられる。また、(A)成分と(B)成分を(E)成分中で、室温から溶剤の還流温度の範囲で1分間〜20時間混合して反応させた後、(C)成分と(D)成分の混合物に(G)成分を混合したもの、あるいは、(C)成分と(D)成分と(G)成分の混合物を添加して、室温から溶剤の還流温度の範囲で1分間〜20時間混合する方法が挙げられる。(F)成分は冷却後に添加混合してもよい。
【0041】
本発明に係る硬化性アクリロキシ官能シリコーン組成物は各種基材に塗布して乾燥後、高エネルギー線を照射することにより極めて短時間で硬化する。ここで、高エネルギー線とは、紫外線、電子線およびガンマ線から選ばれる化学反応を促進する低波長かつ照射エネルギーの大きな光線であり、特に、工業的には、紫外線の使用が好ましい。紫外線を使用した場合には、極めて短時間で硬化薄膜層が形成される。紫外線照射量は、少なくとも2mJ/cm
2であり、好ましくは10〜2000mJ/cm
2である。また、高エネルギー線として電子線やガンマ(γ)線を使用する場合は、(F)成分を配合しなくてもよい。尚、本発明組成物は常温で乾燥するが、より早く乾燥させる場合には加熱すればよい。
【0042】
上記の高エネルギー線硬化性アクリロキシ官能シリコーン組成物は保存安定性に優れ、硬化後は、耐擦傷性、透明性、撥水性、密着性、耐候性、及び/又は耐紫外線性に優れる高硬度の薄膜層を形成できる。さらに、(A)成分と(B)成分を予め反応させることにより、硬化皮膜からのオイルの滲み出しがより一層抑えられ、硬化皮膜の経時安定性に優れるという利点を有する。本発明においては、上記の硬化性アクリロキシ官能シリコーン組成物を基材、特にシート状基材上に塗工し、高エネルギー線、具体的には、紫外線、電子線またはガンマ線を照射することによって基材上に硬化したシリコーン被膜の層が形成される。こうして形成された薄膜層は、その層の上へのセラミックスラリーの塗工性が良好であり、かつ、スラリーの乾燥後に得られる誘電体セラミック形成材料をその層から剥離しやすいという特徴を有するので、本発明の硬化性シリコーン組成物は、誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム、特にセラミックグリーンシート成形用剥離フィルムのための剥離剤組成物として用いるのに適している。
【0043】
[塗工方法及び基材]
硬化性アクリロキシ官能シリコーン組成物のシート状基材上への塗工方法は、公知の任意の方法を用いて行うことができるが、例えば、ディップコーティング法、カーテンコート法、グラビアコート法、バーコート法、スプレーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ロールコート法、およびダイコート法などの公知のコーティング方法を用いることができる。
【0044】
硬化性アクリロキシ官能シリコーン組成物をシート状基材の上に塗工して硬化させる場合、硬化したシリコーン組成物の層の厚さは特に限定されないが、0.01〜3μmであることが好ましく、0.03〜1μmであることがさらに好ましい。シート状基材上の硬化したシリコーン組成物の層の厚さが0.01μm未満の場合、これをセラミックグリーンシート成形用剥離フィルムとして用いたときには、その層が剥離剤層として十分な機能を示さないおそれがある。一方、シート状基材の上の硬化したシリコーン組成物の層の厚さが3μmを超える場合、得られる誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム、特に、セラミックグリーンシート成形用剥離フィルムをロール状に巻き取ったときにブロッキングが発生するおそれがある。
【0045】
本発明組成物が適用される基材は特に限定されない。基材の材質としては、例えば、ポリエチレン,ポリプロピレン、ポリメチルペンテン等のポリオレフィン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンイソフタレート,ポリエチレン−2,6−ナフタレート,ポリブチレンテレフタレートやこれらの共重合体等のポリエステル系樹脂;ポリオキシメチレン等のポリアミド系樹脂;ポリスチレン,ポリ(メタ)アクリル酸エステル,ポリアクリロニトリル,ポリ酢酸ビニル,ポリカーボネート,セロファン,ポリイミド,ポリエーテルイミド,ポリフェニレンスルフォン,ポリスルフォン,ポリエーテルケトン,アイオノマー樹脂,フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂;メラミン樹脂,ポリウレタン樹脂,エポキシ樹脂,フェノール樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,アルキッド樹脂,ユリア樹脂,及びシリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。基材の形状は特に限定されないが、セラミックグリーンシート成形用剥離フィルムを製造するためには一般にシート状基材が用いられる。基材としては特に、熱可塑性プラスチックフィルムが好ましい。基材の厚さは特に限定されないが、シート状の場合には、通常、5〜100μmの範囲である。このフィルムは単層であってもよいし、同種または異種のプラスチックからなる2層以上の多層から構成されていてもよい。本発明に用いるシート状基材としては、プラスチックフィルム、特にポリエステルフィルムが好ましく、なかでもポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。なかでも、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムをシート状基材として用いることが好ましい。ポリエチレンテレフタレートフィルムは、加工時、使用時等において、埃等が発生しにくい。したがって、埃等によって生じる、シート状基材へのセラミックスラリーの塗工不良を有効に防止することができる。また、ポリエチレンテレフタレートフィルムに帯電防止処理を行い、これをシート状基材として用いることも、シート状基材へのセラミックスラリーの塗工不良等の発生の防止に有効である。
【0046】
シート状基材の厚さは、一般に、10〜300μmであり、好ましくは15〜200μmであり、特に好ましくは20〜125μmである。
【0047】
また、シート状基材の表面に塗工して硬化させたシリコーン組成物とシート状基材の表面との間の密着性を向上させるために、所望によりシート状基材の片面または両面に、酸化法または凸凹化法などによる表面処理、あるいはプライマー処理を施すことができる。酸化法としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ放電処理、クロム酸化処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン処理、および紫外線照射処理などが挙げられ、また、凸凹化法としては、例えば、サンドブラスト法、及び溶射処理法などが挙げられる。また、表面処理法としてウレタン樹脂を用いた公知のアンカー処理も挙げられる。これらの表面処理法は、シート状基材の種類に応じて適した方法を選択することができるが、シート状基材の表面処理によって得られる所望する効果の高さ及び操作の簡便性によって、コロナ放電処理法が好ましい方法としてあげられる。
【0048】
さらに、硬化したシリコーン組成物の層とは反対側のシート状基材の表面、あるいはシート状基材とシリコーン組成物の層との間には、上述した帯電防止層のほか、その他の層を任意選択で設けてもよい。
【0049】
シート状基材とその上に本発明の高エネルギー線硬化性アクリロキシ官能シリコーン組成物を塗工して硬化させて得られる硬化層とを有するシート状物品は、誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム、特に、セラミックグリーンシート成形用剥離フィルムとして用いるのに非常に適している。セラミックグリーンシートは、本発明のセラミックグリーンシート成形用剥離フィルムの上、すなわち硬化したシリコーン組成物の面の側にセラミックスラリーを塗工し、そのスラリーを乾燥させる工程を含む方法で作成することができる。より具体的には、任意の塗工方法、たとえば、スロットダイ塗工法やドクターブレード法を使用して、セラミックスラリーを本発明のセラミックグリーンシート成形用剥離フィルム上に形成された硬化したシリコーン組成物の層の表面に塗工し、さらに乾燥させることによって、セラミックグリーンシートを形成させる。このとき、本発明の硬化性シリコーン組成物を用いて剥離層を形成させたセラミックグリーンシート成形用剥離フィルムを用いると、塗工したセラミックスラリーの端部が収縮して、その端部の厚さがそれより内側のセラミックスラリーの厚さよりも厚くなる現象、いわゆる端部収縮の発生が抑えられ、それとともに、セラミックスラリー塗工面でのピンホールの発生、及びセラミックスラリーの塗工むらの発生も抑制される。また、本発明のセラミックグリーンシート成形用剥離フィルムを用いた場合、硬化したシリコーン組成物からなる表面が良好な剥離性を有するので、その上に強度の低い薄膜のセラミックグリーンシートを形成した場合でも、セラミックグリーンシートにヒビあるいは破断などの不具合を発生させることなく、低い剥離力でセラミックグリーンシートをその下の硬化したシリコーンの層から剥離させることができる。
【0050】
このように、本発明のセラミックグリーンシート形成用剥離フィルムは、セラミックスラリーに対する優れた塗工性と、その後形成されたセラミックグリーンシートに対する優れた剥離性を備えている。
【実施例】
【0051】
以下に、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例の記載中、「Me」はメチル基、「Vi」はビニル基を表す。
【0052】
[実施例]
フラスコに、8.56gのトルエン、8.53gのイソブタノール、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(60wt%)とジペンタエリスリトール(モノヒドロキシ)ペンタアクリレート(40wt%)の混合物21.3g(アクリレート官能基量:0.22モル)、及び0.01gのジブチルヒドロキシトルエンを投入してこれらを攪拌した。次いで、平均分子式:NH
2C
3H
6-Me
2SiO(Me
2SiO)
9SiMe
2-C
3H
6NH
2で示されるアミノ変性ジメチルポリシロキサンフルイド0.457g(アミノ基量:0.0006モル)を加えて50℃に加熱し、1時間攪拌して反応混合物を得た。次いで、これに5.3gの3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、53.3gのコロイダルシリカのIPA分散液(濃度30wt%、コロイダルシリカの平均粒子径13nm)、及び0.53gの水を順に加えて、さらに1時間攪拌を行った。混合物を室温まで冷却後、2.25gの光重合開始剤[日本チバガイギー社製;商品名イルガキュア184]、及び4.0mgのフェノチアジンを加えて、組成物Iを調製した。この組成物Iを、乾燥後の塗工量が0.15g/m
2となるように38ミクロンの厚さのPETフィルム上へ塗工し、120℃に熱した熱風循環式オーブンにて30秒間乾燥させた後、600mJ/cm
2のUV照射を行うことにより硬化させて、PETフィルム上に硬化したシリコーン被膜を有する塗工フィルムIを得た。塗工フィルムI上に、別途調整したポリビニルブチラート樹脂(積水化学(株)製BM−1)3.0部、トルエン55.0部、メタノール33.0部、及びn−ブタノール9.0部からなるセラミックスラリー用バインダー樹脂溶液Iを、乾燥後の膜厚が1.6〜2.0ミクロンとなるようにマイヤーバーを用いて塗工し、105℃に熱した熱風循環式オーブンにて90秒間乾燥させ、セラミックスラリーバインダー樹脂硬化皮膜Iを得た。目視によりフィルム上を観察したところ、当該硬化皮膜Iは一様に塗工されており、皮膜の端部においてもバインダー樹脂溶液のハジキは観察されなかった。
【0053】
[比較例]
上記の実施例中の組成物Iの代わりに、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にヘキセニル基を有するポリジメチルシロキサン 19.0部、分子鎖両末端がトリメチルシロキシ基で封鎖され、側鎖にビニル基を有するポリジメチルシロキサン 9.0部、粘度25mPa・s(25℃)の分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルメチルハイドロジェンポリシロキサンを全組成物中のSiH/Vi比が1.5となる量として 2.1部、トルエン 67部、および3−メチル−1−ブチン−3−オール 1.0部、白金系ヒドロシリル化反応触媒(製品名SRX212、東レ・ダウコーニング社市販品)2.0部、トルエン450部、及びヘキサン450部からなる溶剤型シリコーン剥離剤組成物を、乾燥後の塗工量が0.15g/m
2となるように38ミクロンの厚さのPETフィルム上へ塗工し、120℃に熱した熱風循環式オーブンにて30秒間乾燥させた後、600mJ/cm
2のUV照射を行うことにより、PETフィルム上に硬化したシリコーン皮膜を有する塗工フィルムIIを得た。塗工フィルムII上に、上記セラミックスラリー用バインダー樹脂溶液Iを塗工し、乾燥させて、セラミックスラリーバインダー樹脂硬化皮膜IIを得た。目視によりフィルム上を観察したところ、当該硬化皮膜IIは一様に塗工されておらず、特に塗膜の端部においてバインダー樹脂溶液のハジキが確認された。
【0054】
本発明に用いる高エネルギー線硬化性アクリロキシ官能シリコーン組成物は、上記(A)成分〜(C)成分を必須成分として含み、(D)及び(E)成分を任意選択成分として含んでいてもよく、保存安定性に優れている。この組成物は、硬化により、耐擦傷性、透明性、撥水性、及び基材への密着性に優れる高硬度の硬化薄膜を形成できる。当該硬化皮膜は、セラミックスラリーに対する塗工性に優れ、かつ、その乾燥により得られる誘電体セラミック形成材料、より具体的にはセラミックグリーンシートの剥離性に著しく優れるものである。この硬化性シリコーン組成物をシート状基材に塗工して硬化させて得られるフィルムは、その硬化したシリコーン組成物上へのセラミックスラリーの均一な塗工性を示し、誘電体セラミック形成材料用剥離フィルム、特に、セラミックグリーンシート成形用剥離フィルムとして用いるのに適している。