特許第6586679号(P6586679)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6586679
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】水中不分離性コンクリート又はモルタル
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20191001BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20191001BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20191001BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20191001BHJP
   C04B 103/44 20060101ALN20191001BHJP
   C04B 111/74 20060101ALN20191001BHJP
【FI】
   C04B28/02
   C04B18/14 F
   C04B24/38 D
   C04B18/08 Z
   C04B103:44
   C04B111:74
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-84796(P2015-84796)
(22)【出願日】2015年4月17日
(65)【公開番号】特開2016-204183(P2016-204183A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2018年2月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003687
【氏名又は名称】東京電力ホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】303057365
【氏名又は名称】株式会社安藤・間
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515106181
【氏名又は名称】長瀧 重義
(74)【代理人】
【識別番号】100158883
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 哲平
(72)【発明者】
【氏名】堤 知明
(72)【発明者】
【氏名】村上 祐治
(72)【発明者】
【氏名】澤田 純之
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 尚
(72)【発明者】
【氏名】長瀧 重義
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−177370(JP,A)
【文献】 特開2010−241618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメント、フライアッシュ、細骨材、混和剤、及び水を含んで形成される水中不分離性コンクリート又はモルタルにおいて、
前記細骨材は、全て電気炉スラグであり、
前記混和剤は、水中不分離性混和剤と、凝結遅延剤と、高性能減水剤又は高性能AE減水剤とを含み、
高流動性を長時間保持するよう配合された、ことを特徴とする水中不分離性コンクリート又はモルタル。
【請求項2】
セメント、フライアッシュ、細骨材、混和剤、及び水を含んで形成される水中不分離性コンクリート又はモルタルにおいて、
前記細骨材は、砂と電気炉スラグの混合物であり、
前記混和剤は、水中不分離性混和剤と、凝結遅延剤と、高性能減水剤又は高性能AE減水剤とを含み、
高流動性を長時間保持するよう配合された、ことを特徴とする水中不分離性コンクリート又はモルタル。
【請求項3】
凝結遅延剤の添加率を0.2%又は0.4%とし、フレッシュな状態でのスランプフローが550mm±50mmとなるよう配合された、ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の水中不分離性コンクリート又はモルタル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、長時間にわたって流動性を保持する水中不分離性コンクリート又はモルタル(以下、コンクリート又はモルタルを「コンクリート等」という。)に関するものであり、より具体的には、細骨材として電気炉スラグを使用し、さらに遅延剤を配合することで、長期流動性を備える水中不分離性コンクリート等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水中不分離性コンクリートは、セルロースを原料とする水中不分離性混和剤を添加して作られるコンクリートであり、通常のコンクリートに比べ水中での不分離性に優れるうえ、流動性と充填性においても優れたコンクリートである。そのため水中不分離性コンクリートは、海洋架橋の主塔基礎ケーソン内に打ち込むコンクリートとして使用されたり、水路床版の水中施工に使用されたり、シールド立坑の床版コンクリートとして使用されたり、様々な水中工事で採用されている。
【0003】
さらに水中不分離性コンクリートは、水中工事における適用のほか、その流動性と充填性を活かし、間隙部を充填するコンクリートとしても採用されている。特に、水が残留している地下埋設管などの空隙部を充填する場合は、水中不分離性、流動性、そして充填性を備えた水中不分離性コンクリートの採用が極めて有効となる。
【0004】
ところで、地下埋設管や地下水路、あるいは地下空洞をコンクリートで充填する場合、著しく広範囲にわたってコンクリートを打設しなければならないことがある。その際、通常のコンクリート(すなわち流動性や充填性に劣るコンクリート)であれば、数多くの打設点(注入点)を必要とするが、水中不分離性コンクリートを使用すればその打設点は大幅に削減される。
【0005】
しかしながら、水中不分離性コンクリートの流動性が高いとはいえ、その流動距離には限界がある。例えば、明石海峡大橋の主塔基礎工事では、流動距離7.5mを目標としていた。今後、地下埋設管や地下空洞などを充填するにあったては、さらに長い流動距離を実現する水中不分離性コンクリートが望まれているところである。
【0006】
流動距離を延ばすためには、コンクリートの流動性を高めると同時に、その流動性を長い時間維持する必要がある。コンクリートが自己流動する速度は極めて遅く(約1m/時間)、少なくとも目標とする流動距離に到達する間は流動性を維持しなければならない。例えば、目標流動距離を明石海峡大橋の例の2倍(15m)とすると、15時間程度は高い流動性を維持しなければないわけである。ちなみに明石海峡大橋の例では、流動性維持時間(スランプフロー保持時間)を8時間に設定していた。
【0007】
コンクリートの流動性を向上させ、さらにその流動性を長く維持させるため、骨材として電気炉スラグを利用することが知られている。土木学会「電気炉酸化スラグ骨材を用いたコンクリートの設計・施工指針(案)」でも電気炉スラグ骨材を用いたコンクリートの凝結特性について記述している。また特許文献1は、重量増加が目的ではあるものの、粗骨材や細骨材に電気炉酸化スラグを使用する水中不分離性コンクリートについて提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2014−177370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
コンクリートは時間の経過とともに硬化し強度を発揮する材料であり、所定時間待つことで完成品として供用されるのが一般的である。したがって、夏期における輸送中の硬化を防ぐ意味で凝結遅延剤を添加することはあるものの、意図的にコンクリートの硬化を遅延させることは、その目的意義から考えてこれまであまり行われることはなかった。言い換えれば、高い流動性を長い時間維持するコンクリートが必要とされる機会がなく、従来このようなコンクリートが提供されることがなかったわけである。
【0010】
本願発明の課題は、従来技術が抱える問題を解決することであり、すなわち、水中工事が可能な水中不分離性を備えるとともに、高い流動性を従来よりも長い時間維持することができる水中不分離性コンクリートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、流動性を高めるとともに、その流動性を長時間維持するため、細骨材として電気炉スラグを使用し、しかも混和剤として凝結遅延剤を添加するという点に着目してなされたものであり、積極的にコンクリート硬化を遅延させるというこれまでにない発想に基づいて行われたものである。
【0012】
本願発明の水中不分離性コンクリート等は、セメント、フライアッシュ、細骨材、混和剤、及び水を含んで形成されるものであり、細骨材は全て電気炉スラグであって、混和剤には水中不分離性混和剤と、凝結遅延剤、高性能減水剤(又は高性能AE減水剤)が含まれ、高流動性を長時間保持するよう配合されたものである。
【0013】
本願発明の水中不分離性コンクリート等は、セメント、フライアッシュ、細骨材、混和剤、及び水を含んで形成されるものであり、細骨材は砂と電気炉スラグの混合物であって、混和剤には水中不分離性混和剤と、凝結遅延剤、高性能減水剤(又は高性能AE減水剤)が含まれ、高流動性を長時間保持するよう配合されたものとすることもできる。
【0014】
本願発明の水中不分離性コンクリート等は、フレッシュな状態でのスランプフローが550mm±50mmとなるよう配合されたものとすることもできる。
【発明の効果】
【0015】
本願発明の水中不分離性コンクリート等には、次のような効果がある。
(1)電気炉スラグを細骨材として使用することから、電気炉スラグのボールベアリング作用により、高い流動性を発揮するコンクリート等となる。
(2)電気炉スラグを細骨材として使用することで、従来よりも高流動性を長く維持することができるコンクリート等となる。
(3)遅延剤を混和剤として使用することで、高流動性をさらに長い時間維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】電気炉スラグを電子顕微鏡で撮影した拡大写真図。
図2】電気炉スラグ含有の水中不分離性コンクリート等が、「高流動性」を備えていることを実証した結果を示すグラフ図。
図3】電気炉スラグが、水中不分離性コンクリート等の「流動保持性」に大きく寄与することを示すグラフ図。
図4】電気炉スラグの混合率を30%、50%、75%、100%とし、それぞれスランプフローが550mm±50mmとなるよう配合したときの高性能減水剤の添加量を示すグラフ図。
図5】凝結遅延剤の添加率を0%、0.2%、0.4%とし、それぞれスランプフローが550mm±50mmとなるよう配合した水中不分離性コンクリートについて、時間経過に伴うスランプフロー値の変化を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
水中不分離性コンクリート等の実施形態の一例を、図に基づいて説明する。本願発明の水中不分離性コンクリート等は、高い流動性(以下、「高流動性」という。)と、その流動性を長時間維持する性能(以下、「流動保持性」という。)を兼ね備えたものであり、セメント、フライアッシュ、細骨材、混和剤、及び水を主な材料として形成されたコンクリート等である。以下、主な材料について詳しく説明する。
【0018】
1.セメントとフライアッシュ
本願発明の水中不分離性コンクリート等に用いられるセメントは、普通ポルトランドセメントや中庸熱ポルトランドセメントなど、従来から用いられているセメントを使用することができる。また、セメントには混和材としてフライアッシュが添加される。石炭火力発電所において副産物として捕集されるフライアッシュは、ポゾラン反応により長期強度が増大し、すなわちコンクリートの耐久性を向上させることが知られている。さらにフライアッシュは、微細な球形粒子かならなり、そのボールベアリング効果によってコンクリートの流動性を向上させる。つまり、本願発明の目的の一つである「高流動性」に寄与する材料である。
【0019】
2.骨材
(粗骨材)
本願発明の水中不分離性コンクリートには、通常用いられている粗骨材を使用することができる。もちろん、本願発明を水中不分離性モルタルとして利用する場合は粗骨材は配合されない。
【0020】
(細骨材)
本願発明の水中不分離性コンクリート等は、細骨材として電気炉スラグが使用される。鉄鋼製造過程において副産物として生成される鉄鋼スラグは、高炉スラグと製鋼スラグに大別される。このうち高炉スラグは、銑鉄の製造過程において鉄以外の成分と石灰石等の灰分が回収されたもので、自然放冷された高炉徐冷スラグと加圧水噴射冷却による高炉水砕スラグがある。高炉スラグは潜在水硬性を備えていることから、次に説明する電気炉スラグに比べると、高流動性や流動保持性の点で劣る。
【0021】
製鋼スラグは、銑鉄やスクラップから成分を調整した鋼を製造する製鋼工程で生成される副産物であり、転炉から生成される転炉系スラグと、スクラップを原料とする電気炉製鋼工程で生成される電気炉系スラグがある。さらに電気炉スラグは、酸化精錬によって生成される電気炉酸化スラグと、還元精錬によって生成される電気炉還元スラグに分けられる。なお、本願発明の水中不分離性コンクリート等では、電気炉酸化スラグ、電気炉還元スラグのいずれを採用することもできる。
【0022】
図1は、電気炉スラグを電子顕微鏡で撮影した拡大写真図である。この図から分かるように電気炉スラグは、球形に近い形状で揃っており、しかも余分な細粒分がない。そのため、極めて高いボールベアリング作用を発揮し、水中不分離性コンクリート等の「高流動性」に大きく寄与する。このことを実証した結果を示すのが、図2のグラフ図である。なお、この図で示す水中不分離性コンクリート等は、明石海峡大橋の主塔基礎工事などで実績のあるスランプフロー550mm±50mm(500mm以上、600mm以下)となるよう配合されている。図2では、電気炉スラグを含有しない水中不分離性コンクリート等に比べて、電気炉スラグを含有する水中不分離性コンクリート等のスランプフローが10〜20mm程度大きくなることを示しており、すなわち電気炉スラグが高流動性に貢献していることを示している。
【0023】
図3は、電気炉スラグが、水中不分離性コンクリート等の「流動保持性」に大きく寄与することを示す図であり、詳しくは、目標とするスランプフロー550mm±50mmを維持できなくなるまでの時間を計測し、電気炉スラグの有無で比較してまとめたグラフ図である。ただし、ここには後述する凝結遅延剤は添加されていない。この図から分かるように、スランプフロー下限値500mmを下回る時間は、水中不分離性コンクリートの場合では、電気炉スラグを含有するものの方が2.5時間程度長くなっており、水中不分離性モルタルの場合では、電気炉スラグを含有するものの方が2.5〜4.0時間程度長くなっている。すなわちこの図では、電気炉スラグが流動保持性に貢献していることを示している。
【0024】
細骨材は、全てを電気炉スラグとすることもできるし、砂と電気炉スラグの混合物とすることもできる。表1は、電気炉スラグの混合率を30%、50%、75%、100%とし、それぞれスランプフローが550mm±50mmとなるよう配合した結果である。
【表1】
【0025】
図4は、表1の結果をまとめたものであり、高性能減水剤の添加量を示すグラフ図である。この図から分かるように、電気炉スラグの混合率を増加するにしたがって高性能減水剤の使用量が低下している。このことからも、電気炉スラグが高流動性に貢献していることが理解できる。
【0026】
3.混和剤
(水中不分離性混和剤と高性能減水剤)
地下埋設管や地下空洞などを充填する場合、地下水などが残留していることが容易に予想される。したがって、充填コンクリートは水中不分離性コンクリート等を用いるのが望ましく、本願発明でも混和剤として水中不分離性混和剤が添加される。水中不分離性混和剤としては、通常用いられるセルロース系の増粘剤を使用することができ、例えばメチルセルロース系のオーシャンSP−12を挙げることができる。高性能減水剤もコンクリートの流動性を向上させることが知られており、つまり本願発明の目的の一つである「高流動性」に寄与する材料であることから、本願発明でも混和剤として添加される。なお、高性能減水剤に代えて、高性能AE減水剤を採用することもできる。
【0027】
(凝結遅延剤)
細骨材に電気炉スラグを含有することによって、水中不分離性コンクリートのスランプフロー保持時間が2.5時間程度延びることは既に説明した。さらにスランプフロー保持時間を延ばすために混和剤として添加されるのが、凝結遅延剤である。従来、凝結遅延剤は、コンクリートの硬化を遅延させる、すなわちコンクリート構造物等の供用を遅らせることから、夏期における輸送中の硬化防止など極めて限定的な目的としてのみ使用されていた。本願発明者は、流動保持性という点に着目し、これに貢献し得る材料として凝結遅延剤の性能を積極的に利用したわけである。なお本願発明で採用する凝結遅延剤としては、通常用いられる材料を使用することができ、例えばマスターポゾリスNo.89(登録商標)を挙げることができる。
【0028】
表2は、電気炉スラグと凝結遅延剤を添加せずにスランプフローが550mm±50mmとなるよう配合した水中不分離性コンクリートと、細骨材すべてを電気炉スラグとしたうえで凝結遅延剤の添加率を0%、0.2%、0.4%とし、それぞれスランプフローが550mm±50mmとなるよう配合した水中不分離性コンクリートについて、スランプフロー値の経時変化をまとめたものである。
【表2】
【0029】
図5は、表2の結果をまとめたものであり、時間経過に伴うスランプフロー値の変化を示すグラフ図である。表2や図5から分かるように、凝結遅延剤の添加率が増加するにしたがい、スランプフロー保持時間が大幅に改善(長期化)されている。凝結遅延剤の添加率が0%の場合は、スランプフロー下限値500mmを下回る時間が8時間程度であるが、添加率を0.2%とするとスランプフロー保持時間は20時間に延長され、さらに添加率を0.4%とするとスランプフロー保持時間は28時間まで延びることが確認できる。すなわち表2や図5は、凝結遅延剤が流動保持性に大きく貢献していることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本願発明の水中不分離性コンクリート等は、狭隘な空隙や複雑な形状の空隙であって、比較的延長が長い空隙を充填する材料として、特に好適に利用することができる。管理されていない地下埋設物は多く、今後これらが劣化していき陥没等の事故が生じることを考えれば、このような空隙を効果的に充填し得る本願発明は、産業上利用できるばかりでなく社会的にも大きな貢献を期待し得る発明である。
図1
図2
図3
図4
図5