特許第6586799号(P6586799)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6586799研磨剤、研磨剤セット及び基体の研磨方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6586799
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】研磨剤、研磨剤セット及び基体の研磨方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20191001BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20191001BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20191001BHJP
【FI】
   C09K3/14 550D
   H01L21/304 622D
   H01L21/304 621D
   B24B37/00 H
   C09K3/14 550Z
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-136393(P2015-136393)
(22)【出願日】2015年7月7日
(65)【公開番号】特開2017-19893(P2017-19893A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2018年6月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100160897
【弁理士】
【氏名又は名称】古下 智也
(72)【発明者】
【氏名】岩野 友洋
(72)【発明者】
【氏名】深沢 正人
【審査官】 櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/070542(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/098197(WO,A1)
【文献】 特開2014−216613(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/008193(WO,A1)
【文献】 特表2009−518852(JP,A)
【文献】 特表2013−507786(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
B24B 37/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状媒体と、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒と、カルボキシル基を含むポリオキシアルキレン化合物と、を含有し、
前記ポリオキシアルキレン化合物の重量平均分子量が3500以上であり、
前記ポリオキシアルキレン化合物が、アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体であり、
前記(メタ)アクリル酸に対する前記アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの共重合比(モル比)が80/20以上である、研磨剤。
【請求項2】
前記ポリオキシアルキレン化合物の含有量が当該研磨剤の全質量を基準として0.001質量%以上である、請求項1に記載の研磨剤。
【請求項3】
前記ポリオキシアルキレン化合物のポリオキシアルキレン部の分子量が400以上である、請求項1又は2に記載の研磨剤。
【請求項4】
前記4価金属元素が4価セリウムである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の研磨剤。
【請求項5】
前記砥粒が、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液を遠心加速度1.59×10Gで50分遠心分離したときに不揮発分含量300ppm以上の液相を与えるものである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の研磨剤。
【請求項6】
窒化珪素を含む被研磨面を研磨するために使用される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の研磨剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の研磨剤の構成成分が第一の液と第二の液とに分けて保存され、前記第一の液が前記砥粒及び液状媒体を含み、前記第二の液が前記ポリオキシアルキレン化合物及び液状媒体を含む、研磨剤セット。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の研磨剤を用いて基体の被研磨面を研磨する工程を備え、前記被研磨面が窒化珪素を含む、基体の研磨方法。
【請求項9】
請求項7に記載の研磨剤セットにおける前記第一の液と前記第二の液とを混合して得られる研磨剤を用いて基体の被研磨面を研磨する工程を備え、前記被研磨面が窒化珪素を含む、基体の研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨剤、研磨剤セット及び基体の研磨方法に関する。特に、本発明は、化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)用の研磨剤、研磨剤セット及び基体の研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体素子の製造工程では、更なる配線の微細化を達成することが求められており、研磨時に発生する研磨傷が問題となっている。例えば、従来の酸化セリウム系研磨剤を用いて研磨を行った際に微小な研磨傷が発生しても、この研磨傷の大きさが従来の配線幅より小さいものであれば問題にならなかったが、更なる配線の微細化を達成しようとする場合には、研磨傷が微小であっても問題となってしまう。
【0003】
この問題に対し、4価金属元素の水酸化物の粒子を用いた研磨剤が検討されている(例えば、下記特許文献1〜3参照)。また、4価金属元素の水酸化物の粒子の製造方法についても検討されている(例えば、下記特許文献4、5参照)。これらの技術は、4価金属元素の水酸化物の粒子が有する化学的作用を活かしつつ機械的作用を極力小さくすることによって、粒子による研磨傷を低減しようとするものである。
【0004】
ところで、近年、窒化珪素がハードマスク又はキャップの構成材料として用いられる半導体素子がある。このような半導体素子の製造工程では、窒化珪素の一部又は全部を除去する必要がある。窒化珪素を除去する方法としては、例えばドライエッチングが挙げられる。しかしながら、窒化珪素をCMPプロセスで除去することができれば、プロセスを簡略化できるため、スループットの向上及びコスト低減が可能である。
【0005】
窒化珪素を除去するためのCMP用研磨剤としては、研磨砥粒(例えば、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、セリア等を含有する砥粒)、pH調整剤、添加剤などを組み合わせた研磨剤組成物が種々検討されている(例えば、下記特許文献6〜8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2002/067309号
【特許文献2】国際公開第2012/070541号
【特許文献3】国際公開第2012/070542号
【特許文献4】特開2006−249129号公報
【特許文献5】国際公開第2012/070544号
【特許文献6】特開2010−041037号公報
【特許文献7】特表2009−530811号公報
【特許文献8】特許第5188980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年研究が盛んに行われているトランジスタ構造であるFinFET構造、半導体素子のゲート部等のように、窒化珪素に加えて他の様々な被研磨材料(酸化珪素、ポリシリコン等)を含む被研磨面の研磨では、複数の被研磨材料を同時に研磨して除去すること、又は、特定の被研磨材料が被研磨面に露出した際に研磨を止めることが必要である場合がある。このような場合、例えば、窒化珪素のみを除去する、又は、窒化珪素及び他の被研磨材料(例えば酸化珪素)の両方を除去するといったように、状況に応じて、対象物の研磨速度を制御することが必要である場合がある。しかしながら、窒化珪素は、酸化珪素、ポリシリコン等の被研磨材料と比べて充分な研磨速度が得られにくい(除去されにくい)。そのため、窒化珪素の研磨速度を改善すると共に、窒化珪素と、酸化珪素等の他の被研磨材料との研磨速度の調整は課題とされている。
【0008】
本発明は、上記課題を解決しようとするものであり、酸化珪素の研磨速度を抑制しつつ、窒化珪素を高速に研磨できる研磨剤、研磨剤セット及び基体の研磨方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒と、カルボキシル基を含むポリオキシアルキレン化合物とを併用することにより、酸化珪素の研磨速度を抑制しつつ、窒化珪素を高速に研磨できることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明は、液状媒体と、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒と、カルボキシル基を含むポリオキシアルキレン化合物と、を含有し、前記ポリオキシアルキレン化合物の重量平均分子量が3500以上である、研磨剤を提供する。本発明に係る研磨剤によれば、酸化珪素の研磨速度を抑制しつつ、窒化珪素を高速に研磨することができる。
【0011】
前記ポリオキシアルキレン化合物の含有量は、研磨剤の全質量を基準として0.001質量%以上であることが好ましい。これにより、酸化珪素の研磨速度を更に抑制できると共に、窒化珪素を更に高速に研磨することができる。
【0012】
前記ポリオキシアルキレン化合物のポリオキシアルキレン部の分子量は、400以上であることが好ましい。これにより、酸化珪素の研磨速度を更に抑制することができる。
【0013】
前記4価金属元素は、4価セリウムであることが好ましい。これにより、窒化珪素の研磨速度を更に向上させつつ、被研磨面における研磨傷の発生を抑制できる。ところで、従来、セリウム系粒子は、酸化珪素を高速に研磨できる材料として使われており、酸化珪素の研磨速度を窒化珪素の研磨速度以下に調整することは非常に困難である。一方、本発明では、前記4価金属元素が4価セリウムである場合であっても、酸化珪素の研磨速度を窒化珪素の研磨速度以下に調整することができる。
【0014】
前記砥粒は、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液を遠心加速度1.59×10Gで50分遠心分離したときに不揮発分含量300ppm以上の液相を与えるものであることが好ましい。これにより、窒化珪素を更に高速に研磨することができる。なお、「ppm」は、質量ppm、すなわち「parts per million mass」を意味するものとする。
【0015】
本発明の一態様は、窒化珪素を含む被研磨面の研磨への前記研磨剤の使用に関する。すなわち、本発明に係る研磨剤は、窒化珪素を含む被研磨面を研磨するために使用されることが好ましい。
【0016】
本発明は、前記研磨剤の構成成分が第一の液と第二の液とに分けて保存され、前記第一の液が前記砥粒及び液状媒体を含み、前記第二の液が前記ポリオキシアルキレン化合物及び液状媒体を含む、研磨剤セットを提供する。本発明に係る研磨剤セットによれば、本発明に係る研磨剤と同様の上記効果を得ることができる。
【0017】
本発明は、前記研磨剤を用いて基体の被研磨面を研磨する工程を備え、前記被研磨面が窒化珪素を含む、基体の研磨方法を提供する。このような基体の研磨方法によれば、本発明に係る研磨剤と同様の上記効果を得ることができる。
【0018】
本発明は、前記研磨剤セットにおける前記第一の液と前記第二の液とを混合して得られる研磨剤を用いて基体の被研磨面を研磨する工程を備え、前記被研磨面が窒化珪素を含む、基体の研磨方法を提供する。このような基体の研磨方法によれば、本発明に係る研磨剤と同様の上記効果を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、酸化珪素の研磨速度を抑制しつつ、窒化珪素を高速に研磨できる研磨剤、研磨剤セット及び基体の研磨方法を提供することができる。また、本発明によれば、窒化珪素の研磨への研磨剤又は研磨剤セットの使用を提供できる。さらに、本発明によれば、窒化珪素と他の被研磨材料(例えば、酸化珪素等の絶縁材料;ポリシリコン、シリコン等のシリコン類)とを含む被研磨面において窒化珪素を研磨しつつ他の被研磨材料の研磨量を調整する研磨工程への研磨剤又は研磨剤セットの使用を提供することができる。特に、本発明によれば、酸化珪素に対する窒化珪素の研磨選択比(研磨速度比:窒化珪素の研磨速度/酸化珪素の研磨速度)を1以上(酸化珪素の研磨速度に比べて窒化珪素が同等又はそれより高い研磨速度を有する)に調整することができる研磨剤、研磨剤セット及び基体の研磨方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】アングルロータの一例を示す断面模式図である。
図2】High−kメタルゲート製造工程の一部を示す断面模式図である。
図3】Fin−FETと呼ばれるマルチゲート素子の製造工程の一部を示す断面模式図である。
図4】トランジスタにおけるゲート構造の製造工程の一部を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態に係る研磨剤、研磨剤セット、及び、前記研磨剤又は前記研磨剤セットを用いた基体の研磨方法について詳細に説明する。
【0022】
<定義>
本明細書において、「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の作用が達成されれば、本用語に含まれる。
【0023】
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0024】
本明細書において、「研磨速度(Polishing Rate)」とは、単位時間当たりに材料が除去される速度(除去速度=Removal Rate)を意味する。
【0025】
本明細書において、「研磨剤(Abrasive)」とは、研磨時に被研磨面に触れる組成物として定義される。「研磨剤」という語句自体は、研磨剤に含有される成分を何ら限定しない。後述するように、本実施形態に係る研磨剤は砥粒(Abrasive Grain)を含有する。砥粒は、「研磨粒子」(Abrasive Particle)ともいわれるが、本明細書では「砥粒」という。砥粒は、一般的には固体粒子である。この場合、研磨時に、砥粒が有する機械的作用、及び、砥粒(主に砥粒の表面)が有する化学的作用によって、除去対象物が除去(Remove)されると考えられるが、メカニズムはこれに限定されない。
【0026】
<研磨剤及び研磨剤セット>
本実施形態に係る研磨剤は、例えばCMP用研磨剤である。具体的には、本実施形態に係る研磨剤は、液状媒体と、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒と、カルボキシル基を含むポリオキシアルキレン化合物とを少なくとも含有する。本実施形態に係る研磨剤によれば、窒化珪素を高速に研磨することができると共に、窒化珪素と他の被研磨材料との研磨速度を調整することができる。他の被研磨材料としては、絶縁材料(本明細書において「窒化珪素」は絶縁材料に含まれないものとする。)、シリコン材料等が挙げられる。絶縁材料としては、酸化珪素等が挙げられる。シリコン材料としては、ポリシリコン、シリコン等のシリコン類などが挙げられる。
【0027】
以下、必須成分、及び、任意に添加できる成分について説明する。
【0028】
(砥粒)
本実施形態に係る研磨剤は、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒を含有する。「4価金属元素の水酸化物」は、4価の金属(M4+)と、少なくとも一つの水酸化物イオン(OH)とを含む化合物である。4価金属元素の水酸化物は、水酸化物イオン以外の陰イオン(例えば、硝酸イオンNO、硫酸イオンSO2−)を含んでいてもよい。例えば、4価金属元素の水酸化物は、4価金属元素に結合した陰イオン(例えば硝酸イオン、硫酸イオン)を含んでいてもよい。前記4価金属元素の水酸化物を含む砥粒は、シリカ粒子、アルミナ粒子、セリア粒子等の従来の砥粒と比較して、窒化珪素を高研磨速度で研磨できる。
【0029】
4価金属元素は、窒化珪素を更に高速に研磨すると共に被研磨面における研磨傷の発生を更に抑制する観点から、希土類元素及びジルコニウムからなる群より選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。4価金属元素としては、窒化珪素を更に高速に研磨すると共に被研磨面における研磨傷の発生を更に抑制する観点から、希土類元素が好ましい。4価を取り得る希土類元素としては、セリウム、プラセオジム、テルビウム等のランタノイドなどが挙げられ、入手が容易であると共に窒化珪素の研磨速度に更に優れる観点から、セリウム(4価セリウム)がより好ましい。希土類元素の水酸化物とジルコニウムの水酸化物とを併用してもよく、希土類元素から二種以上を選択して使用することもできる。
【0030】
4価金属元素の水酸化物は、4価金属元素を含む塩と、塩基性化合物(アルカリ源)とを反応させることにより作製できる。例えば、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒を作製する方法としては、4価金属元素を含む塩と、塩基性化合物を含むアルカリ液とを混合する手法が使用できる。この方法は、例えば、「希土類の科学」[足立吟也編、株式会社化学同人、1999年]304〜305頁に説明されている。また、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒を作製する方法としては、前記特許文献5に記載の方法を用いてもよい。
【0031】
4価金属元素を含む塩としては、従来公知のものを特に制限なく使用でき、M(SO、M(NH(NO、M(NH(SO(Mは希土類元素を示す。)、Zr(SO・4HO等が挙げられ、中でも、M(NH(NOが好ましい。Mとしては、化学的に活性なセリウム(Ce)が好ましい。以上より、4価金属元素を含む塩としては、Ce(NH(NOがより好ましい。
【0032】
塩基性化合物としては、従来公知のものを特に制限なく使用できる。塩基性化合物としては、イミダゾール、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、グアニジン、トリエチルアミン、ピリジン、ピペリジン、ピロリジン、キトサン等の有機塩基;アンモニア、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム等の無機塩基などが挙げられる。これらのうち、窒化珪素の研磨速度を更に向上させる観点から、アンモニア及びイミダゾールからなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、イミダゾールがより好ましい。
【0033】
前記方法で合成された4価金属元素の水酸化物を含む砥粒は、洗浄して金属不純物を除去できる。砥粒の洗浄方法としては、遠心分離等で固液分離を数回繰り返す方法などが使用できる。遠心分離、透析、限外濾過、イオン交換樹脂等によるイオンの除去などの工程で砥粒を洗浄することもできる。
【0034】
前記で得られた砥粒が凝集している場合、適切な方法で砥粒を液状媒体(例えば水)中に分散させることが好ましい。砥粒を液状媒体に分散させる方法としては、通常の撹拌機による分散処理;ホモジナイザ、超音波分散機、湿式ボールミル等を用いた機械的な分散処理;遠心分離、透析、限外ろ過、イオン交換樹脂等による夾雑イオンの除去処理などが挙げられる。分散方法及び粒径制御方法については、例えば、「分散技術大全集」[株式会社情報機構、2005年7月]第三章「各種分散機の最新開発動向と選定基準」に記述されている方法を用いることができる。前記洗浄処理を行って、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒を含有する分散液の電気伝導度を下げる(例えば500mS/m以下)ことによっても、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒の分散性を高めることができる。前記洗浄処理を分散処理として適用してもよく、前記洗浄処理と分散処理とを併用してもよい。
【0035】
本実施形態に係る研磨剤において、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒と、他の砥粒とを併用してもよい。このような他の砥粒としては、シリカ粒子、アルミナ粒子、セリア粒子等が挙げられる。4価金属元素の水酸化物を含む砥粒として、4価金属元素の水酸化物粒子とシリカ粒子とを含む複合粒子等を用いることもできる。
【0036】
前記4価金属元素の水酸化物の含有量の下限は、砥粒の全質量を基準として80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましく、98質量%以上が特に好ましく、99質量%以上が極めて好ましい。前記砥粒は、研磨剤の調製が容易であると共に研磨特性に更に優れる観点から、前記4価金属元素の水酸化物からなる(実質的に砥粒の100質量%が前記4価金属元素の水酸化物である)ことが好ましい。
【0037】
4価金属元素の水酸化物を含む砥粒は、窒化珪素の研磨速度を更に向上させる観点から、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において、波長400nmの光に対して吸光度1.00以上を与えるものであることが好ましい。なお、砥粒の含有量を所定量に調整した「水分散液」とは、所定量の砥粒と水とを含む液を意味する。研磨速度の向上効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、本発明者は次のように考えている。すなわち、4価金属元素の水酸化物の製造条件等に応じて、4価の金属(M4+)、1〜3つの水酸化物イオン(OH)及び1〜3つの陰イオン(Xc−)からなるM(OH)(式中、a+b×c=4である)を含む粒子が砥粒の一部として生成するものと考えられる(なお、このような粒子も「4価金属元素の水酸化物を含む砥粒」である)。M(OH)では、電子吸引性の陰イオン(Xc−)が作用して水酸化物イオンの反応性が向上しており、M(OH)の存在量が増加するに伴い研磨速度が向上するものと考えられる。そして、M(OH)を含む粒子が波長400nmの光を吸光するため、M(OH)の存在量が増加して波長400nmの光に対する吸光度が高くなるに伴い、研磨速度が向上するものと考えられる。
【0038】
なお、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒は、例えば、M(OH)(式中、a+b×c=4dである)のように複核化合物又は複核錯体であってもよい。以下においては、M(OH)を一例として説明する。
【0039】
4価金属元素の水酸化物を含む砥粒は、M(OH)だけでなく、M(OH)、MO等も含み得る。陰イオン(Xc−)としては、NO、SO2−等が挙げられる。
【0040】
なお、砥粒がM(OH)を含むことは、砥粒を純水でよく洗浄した後にFT−IR ATR法(Fourier transform Infrared Spectrometer Attenuated Total Reflection法、フーリエ変換赤外分光光度計全反射測定法)で陰イオン(Xc−)に該当するピークを検出する方法により確認できる。XPS法(X−ray Photoelectron Spectroscopy、X線光電子分光法)により、陰イオン(Xc−)の存在を確認することもできる。
【0041】
前記砥粒は、窒化珪素の研磨速度を更に向上させる観点から、当該砥粒の含有量を0.0065質量%に調整した水分散液において、波長290nmの光に対して吸光度1.000以上を与えるものであることが好ましい。このような研磨速度の向上効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、本発明者は次のように考えている。すなわち、4価金属元素の水酸化物の製造条件等に応じて生成するM(OH)を含む粒子は、計算上、波長290nm付近に吸収のピークを有し、例えばCe4+(OHNOからなる粒子は波長290nmに吸収のピークを有する。そのため、M(OH)の存在量が増加して波長290nmの光に対する吸光度が高くなるに伴い、研磨速度が向上するものと考えられる。
【0042】
前記4価金属元素の水酸化物(例えばM(OH))は、波長450nm以上、特に波長450〜600nmの光を吸光しない傾向がある。従って、不純物を含むことにより研磨に対して悪影響が生じることを抑制して、更に優れた研磨速度で窒化珪素を研磨する観点で、前記砥粒は、当該砥粒の含有量を0.0065質量%に調整した水分散液において、波長450〜600nmの光に対して吸光度0.010以下を与えるものであることが好ましい。
【0043】
前記砥粒は、窒化珪素の研磨速度を更に向上させる観点から、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において、波長500nmの光に対して光透過率50%/cm以上を与えるものであることが好ましい。このような研磨速度の向上効果が得られる理由は必ずしも明らかではないが、本発明者は次のように考えている。すなわち、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒が有する砥粒としての作用は、機械的作用よりも化学的作用の方が支配的になると考えられる。そのため、砥粒の大きさよりも砥粒の数の方が、より研磨速度に寄与すると考えられる。
【0044】
砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において光透過率が低い場合、その水分散液に存在する砥粒は、粒径の大きい粒子(以下「粗大粒子」という。)が相対的に多く存在すると考えられる。このような砥粒を含む研磨剤に添加剤を添加すると、粗大粒子を核として他の粒子が凝集する。その結果、単位面積当たりの被研磨面に作用する砥粒数(有効砥粒数)が減少し、被研磨面に接する砥粒の比表面積が減少するため、研磨速度が低下する場合があると考えられる。
【0045】
一方、砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液において光透過率が高い場合、その水分散液に存在する砥粒は、前記「粗大粒子」が少ない状態であると考えられる。このように粗大粒子の存在量が少ない場合は、研磨剤に添加剤を添加しても、凝集の核になるような粗大粒子が少ないため、砥粒同士の凝集が抑えられるか、又は、凝集粒子の大きさが小さくなる。その結果、単位面積当たりの被研磨面に作用する砥粒数(有効砥粒数)が維持され、被研磨面に接する砥粒の比表面積が維持されるため、研磨速度が低下し難くなり、窒化珪素の研磨速度が向上し易くなると考えられる。
【0046】
研磨剤に含まれる砥粒が水分散液において与える吸光度及び光透過率は、例えば、株式会社日立製作所製の分光光度計(装置名:U3310)を用いて測定できる。具体的には例えば、砥粒の含有量を1.0質量%又は0.0065質量%に調整した水分散液を測定サンプルとして調製する。この測定サンプルを1cm角のセルに約4mL(Lは「リットル」を示す。以下同じ)入れ、装置内にセルを設置する。次に、波長200〜600nmの範囲で吸光度測定を行い、得られたチャートから吸光度及び光透過率を判断する。
【0047】
研磨剤に含まれる砥粒が水分散液において与える吸光度及び光透過率は、砥粒以外の固体成分、及び、水以外の液体成分を除去した後、所定の砥粒の含有量の水分散液を調製し、当該水分散液を用いて測定することができる。研磨剤に含まれる成分によっても異なるが、固体成分又は液体成分の除去には、数千G以下の重力加速度をかけられる遠心機を用いた遠心分離、数万G以上の重力加速度をかけられる超遠心機を用いた超遠心分離等の遠心分離法;分配クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、ゲル浸透クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等のクロマトグラフィー法;自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、限外ろ過等のろ過法;減圧蒸留、常圧蒸留等の蒸留法などを用いることができ、これらを適宜組み合わせてもよい。
【0048】
例えば、重量平均分子量が数万以上(例えば5万以上)の化合物を含む場合は、クロマトグラフィー法、ろ過法等が挙げられ、ゲル浸透クロマトグラフィー、限外ろ過が好ましい。ろ過法を用いる場合は、研磨剤に含まれる砥粒は、適切な条件の設定により、フィルタを通過させることができる。重量平均分子量が数万以下(例えば5万未満)の化合物を含む場合は、クロマトグラフィー法、ろ過法、蒸留法等が挙げられ、ゲル浸透クロマトグラフィー、限外ろ過、減圧蒸留が好ましい。複数種類の砥粒が含まれる場合、ろ過法、遠心分離法等が挙げられ、ろ過法の場合はろ液に、遠心分離法の場合は液相に、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒がより多く含まれる。
【0049】
前記クロマトグラフィー法で砥粒を分離する方法として、例えば、下記条件によって、砥粒及び/又は他成分を分取することができる。
【0050】
試料溶液:研磨剤100μL
検出器:株式会社日立製作所製、UV−VISディテクター、商品名「L−4200」、波長:400nm
インテグレータ:株式会社日立製作所製、GPCインテグレータ、商品名「D−2500」
ポンプ:株式会社日立製作所製、商品名「L−7100」
カラム:日立化成株式会社製、水系HPLC用充填カラム、商品名「GL−W550S」
溶離液:脱イオン水
測定温度:23℃
流速:1mL/min(圧力:40〜50kg/cm程度)
測定時間:60分
【0051】
なお、クロマトグラフィーを行う前に、脱気装置を用いて溶離液の脱気処理を行うことが好ましい。脱気装置を使用できない場合は、溶離液を事前に超音波等で脱気処理することが好ましい。
【0052】
研磨剤に含まれる成分によっては、上記条件では砥粒を分取できない可能性がある。この場合、試料溶液量、カラム種類、溶離液種類、測定温度、流速等を最適化することで分離することができる。また、研磨剤のpHを調整することで、研磨剤に含まれる成分の留出時間を調整し、砥粒と分離できる可能性がある。研磨剤に不溶成分がある場合、必要に応じて、ろ過、遠心分離等で不溶成分を除去することが好ましい。
【0053】
前記砥粒は、窒化珪素の更に優れた研磨速度を得る観点から、当該砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液を遠心加速度1.59×10Gで50分遠心分離したときに不揮発分含量300ppm以上の上澄み液(液相)を与えるものであることが好ましい。
【0054】
遠心分離後の上澄み液に含まれる不揮発分含量が高い場合に研磨速度の向上効果が得られる理由について、本発明者は次のように考えている。一般的に、砥粒を含む研磨剤において、遠心加速度1.59×10Gで50分遠心分離した場合には、ほとんど全ての砥粒が沈降する。しかしながら、本実施形態に係る研磨剤は、含まれる砥粒の粒径が充分に小さいため、前記条件で遠心分離を行っても沈降しない微細粒子が多く含まれる。すなわち、不揮発分含量が増加するに伴い砥粒中の微細粒子の割合が増加し、被研磨面に接する砥粒の表面積が増大するものと考えられる。これにより、化学的作用による研磨の進行が促進され、研磨速度が向上すると考えられる。
【0055】
砥粒の含有量が1.0質量%に調整された水分散液を遠心分離した際の上澄み液の不揮発分含量の下限は、窒化珪素の更に優れた研磨速度を容易に得る観点から、400ppm以上がより好ましく、500ppm以上が更に好ましく、600ppm以上が特に好ましく、700ppm以上が極めて好ましく、750ppm以上が非常に好ましい。上澄み液の不揮発分含量の上限は、例えば10000ppm(1.0質量%)である。
【0056】
前記遠心分離を行う装置としては、チューブが所定の角度で配置されてなるアングルロータ、及び、チューブの角度が可変であり遠心分離中にチューブが水平又はほぼ水平になるスイングロータのいずれも使用することができる。
【0057】
図1は、アングルロータの一例を示す断面模式図である。アングルロータARは、回転軸A1を中心として左右対称であり、図1では、その一方側(図中左側)のみを図示し、他方側(図中右側)を省略している。図1において、A2はチューブ角であり、Rminは回転軸A1からチューブまでの最小半径であり、Rmaxは回転軸A1からチューブまでの最大半径である。Ravは回転軸A1からチューブまでの平均半径であり、「(Rmin+Rmax)/2」として求められる。
【0058】
このような遠心分離装置において、遠心加速度[単位:G]は下記式(1)から求めることができる。
遠心加速度[G]=1118×R×N×10−8 ・・・(1)
[式中、Rは回転半径(cm)を示し、Nは1分間当たりの回転数(rpm=min−1)を示す。]
【0059】
本実施形態においては、式(1)中の回転半径Rとして図1中の平均半径Ravの値を用いて、遠心加速度が1.59×10Gとなるように回転数Nを設定して遠心分離を行う。なお、図1のようなアングルロータに代えてスイングロータを使用する場合は、遠心分離中のチューブの状態から最小半径Rmin、最大半径Rmax、平均半径Ravをそれぞれ求めて条件を設定する。
【0060】
前記砥粒は、例えば、アングルロータとして日立工機株式会社製の超遠心分離機70P−72を用いて、大粒子と微細粒子とに分離できる。70P−72を用いた水分散液の遠心分離は、具体的には例えば、以下のようにして行うことができる。まず、砥粒の含有量を1.0質量%に調整した水分散液を調製し、これを遠沈管(チューブ)に充填した後に遠沈管をロータに設置する。そして、回転数50000min−1で50分間回転させた後、ロータから遠沈管を取出し、遠沈管内の上澄み液を採取する。上澄み液の不揮発分含量は、採取した上澄み液の質量と、上澄み液を乾燥した後の残留分の質量とを量ることにより算出できる。
【0061】
砥粒の平均粒径の下限は、窒化珪素の更に優れた研磨速度を得る観点から、1nm以上が好ましく、2nm以上がより好ましく、3nm以上が更に好ましく、5nm以上が特に好ましい。砥粒の平均粒径の上限は、被研磨面に傷がつくことを更に抑制する観点から、300nm以下が好ましく、250nm以下がより好ましく、200nm以下が更に好ましい。上記観点から、砥粒の平均粒径は、1nm以上300nm以下であることがより好ましい。
【0062】
砥粒の「平均粒径」とは、砥粒の平均二次粒径を意味する。砥粒の平均粒径は、例えば、研磨剤、又は、後述する研磨剤セットにおけるスラリについて、光子相関法で測定できる。具体的には例えば、砥粒の平均粒径は、マルバーン社製の装置名:ゼータサイザー3000HS、ベックマンコールター社製の装置名:N5等で測定できる。N5を用いた測定方法は、下記のとおりである。具体的には例えば、砥粒の含有量を0.2質量%に調整した水分散液を調製し、この水分散液を1cm角のセルに約4mL入れ、装置内にセルを設置する。分散媒の屈折率を1.33、粘度を0.887mPa・sに設定し、25℃において測定を行い、表示される平均粒径値を砥粒の平均粒径として採用できる。
【0063】
砥粒の含有量の下限は、窒化珪素の更に優れた研磨速度を得る観点から、研磨剤の全質量を基準として0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.02質量%以上が更に好ましく、0.04質量%以上が特に好ましい。砥粒の含有量の上限は、研磨剤の保存安定性が高くなる観点から、研磨剤の全質量を基準として20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましい。上記観点から、砥粒の含有量は、研磨剤の全質量を基準として0.005質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
【0064】
また、砥粒の含有量を更に少なくすることにより、コスト及び研磨傷を更に低減できる点で好ましい。従来、砥粒の含有量が少なくなると、窒化珪素等の研磨速度が低下する傾向がある。一方、4価金属元素の水酸化物を含む砥粒は、少量でも所定の研磨速度を得ることができるため、研磨速度と、砥粒の含有量を少なくすることによる利点とのバランスをとりつつ、砥粒の含有量を更に低減することができる。このような観点で、砥粒の含有量の上限は、5.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下が特に好ましく、0.3質量%以下が極めて好ましい。
【0065】
(液状媒体)
本実施形態に係る研磨剤における液状媒体としては、特に制限はないが、脱イオン水、超純水等の水が好ましい。液状媒体の含有量は、他の構成成分の含有量を除いた研磨剤の残部でよく、特に限定されない。
【0066】
(添加剤)
本実施形態に係る研磨剤は、添加剤を含有する。ここで、「添加剤」とは、研磨速度、研磨選択性等の研磨特性;砥粒の分散性、保存安定性等の研磨剤特性などを調整するために、液状媒体及び砥粒以外に研磨剤が含有する物質を指す。添加剤は、一種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用できる。
【0067】
[第一の添加剤]
本実施形態に係る研磨剤は、第一の添加剤として、カルボキシル基を含むポリオキシアルキレン化合物を含有する。第一の添加剤は、窒化珪素の研磨速度を高速に維持しつつ、酸化珪素の研磨速度を抑える効果がある。この効果が得られる理由としては、第一の添加剤が酸化珪素を保護することで研磨速度を抑制していると推測される。
【0068】
第一の添加剤としては、例えば、アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートと(メタ)アクリル酸との共重合体が挙げられる。アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートのアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。アルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートのポリオキシアルキレン部としては、ポリオキシエチレン鎖、ポリオキシプロピレン鎖等が挙げられる。第一の添加剤としては、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレートとアクリル酸との共重合体、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートとアクリル酸との共重合体、メトキシポリエチレングリコールモノアクリレートとメタクリル酸との共重合体、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートとメタクリル酸との共重合体等が挙げられる。
【0069】
(メタ)アクリル酸に対するアルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの共重合比(モル比)は、80/20以上が好ましく、85/15以上がより好ましく、90/10以上が更に好ましい。(メタ)アクリル酸に対するアルコキシポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートの共重合比(モル比)は、98/2以下が好ましく、95/5以下がより好ましく、90/10以下が更に好ましい。
【0070】
第一の添加剤は、一種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用できる。第一の添加剤は、いずれも窒化珪素の研磨速度を高速に維持しつつ、酸化珪素の研磨速度を抑制する効果がある。
【0071】
第一の添加剤は、特に限定されないが、水溶性が高い観点から、ポリオキシエチレン化合物が好ましい。
【0072】
第一の添加剤のポリオキシアルキレン部の分子量は、酸化珪素の研磨速度を更に抑制できる観点から、高いほうが好ましい。第一の添加剤のポリオキシアルキレン部の分子量は、400以上が好ましく、600以上がより好ましく、800以上が更に好ましく、1000以上が特に好ましい。前記ポリオキシアルキレン部の分子量の上限は、例えば50000であってもよい。
【0073】
第一の添加剤の重量平均分子量は、酸化珪素の研磨速度を抑制しつつ窒化珪素を高速に研磨する観点から、3500以上である。第一の添加剤の重量平均分子量は、酸化珪素の研磨速度を更に抑制できる観点から、分子量が大きいほうが好ましい。第一の添加剤の重量平均分子量は、4000以上が好ましく、5000以上がより好ましく、10000以上が更に好ましく、20000以上が特に好ましい。第一の添加剤の重量平均分子量の上限は、特に限定されないが、水溶性や取扱いの容易さの観点から、1000000以下が好ましく、900000以下がより好ましく、800000以下が更に好ましく、700000以下が特に好ましい。
【0074】
なお、重量平均分子量は、例えば、標準ポリスチレンの検量線を用いてゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)により下記の条件で測定することができる。
使用機器:LC−20AD(株式会社島津製作所製)
カラム:Gelpack GL−W540+Gelpack GL−W550(日立化成株式会社製、商品名、計2本、カラムサイズ:10.7mmI.D.×300mm)
溶離液:0.1M NaCl水溶液
測定温度:40℃
流量:1.0mL/min
試料濃度:0.2質量%
検出器:RID−10A(株式会社島津製作所製)
【0075】
第一の添加剤の含有量の下限は、酸化珪素の研磨速度を更に抑制できる観点、及び、窒化珪素を更に高速に研磨することができる観点から、研磨剤の全質量を基準として0.001質量%以上が好ましく、0.005質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上が更に好ましく、0.03質量%以上が特に好ましく、0.05質量%以上が極めて好ましい。第一の添加剤の含有量の上限は、砥粒の分散安定性に優れる観点から、研磨剤の全質量を基準として10質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下が更に好ましく、2.0質量%以下が特に好ましく、1.0質量%以下が極めて好ましく、0.7質量%以下が非常に好ましく、0.5質量%以下がより一層好ましい。上記観点から、第一の添加剤の含有量は、研磨剤の全質量を基準として0.001質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0076】
[第二の添加剤]
本実施形態に係る研磨剤は、研磨速度、研磨選択性等の研磨特性;砥粒の分散性、保存安定性等の研磨剤特性などを調整する目的で、前記第一の添加剤の他に、第二の添加剤を更に含有していてもよい。
【0077】
第二の添加剤としては、カルボン酸(前記第一の添加剤に該当する化合物を除く)、アミノ酸等が挙げられる。これらは、一種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用できる。これらの化合物を用いることにより、砥粒の分散性及び研磨特性のバランスが向上する。なお、アミノ酸はカルボキシル基を有するが、カルボン酸としては、アミノ酸に該当する化合物を除く。
【0078】
カルボン酸は、pHを安定化させると共に窒化珪素の研磨速度を更に向上させる効果がある。カルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、乳酸等が挙げられる。
【0079】
アミノ酸は、前記4価金属元素の水酸化物を含む砥粒の分散性を向上させ、窒化珪素の研磨速度を更に向上させる効果がある。アミノ酸としては、アルギニン、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、ヒスチジン、プロリン、チロシン、トリプトファン、セリン、トレオニン、グリシン、α−アラニン、β−アラニン、メチオニン、システイン、フェニルアラニン、ロイシン、バリン、イソロイシン等が挙げられる。
【0080】
第二の添加剤を使用する場合、第二の添加剤の含有量の下限は、砥粒の沈降を抑制しつつ第二の添加剤の添加効果を得る観点から、研磨剤の全質量を基準として0.001質量%以上が好ましく、0.003質量%以上がより好ましく、0.005質量%以上が更に好ましい。第二の添加剤の含有量の上限は、砥粒の沈降を抑制しつつ第二の添加剤の添加効果を得る観点から、研磨剤の全質量を基準として10質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下が更に好ましい。上記観点から、第二の添加剤の含有量は、研磨剤の全質量を基準として0.001質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
【0081】
[水溶性高分子]
本実施形態に係る研磨剤は、平坦性、面内均一性、酸化珪素に対する窒化珪素の研磨選択性(窒化珪素の研磨速度/酸化珪素の研磨速度)、ポリシリコンに対する窒化珪素の研磨選択性(窒化珪素の研磨速度/ポリシリコンの研磨速度)等の研磨特性を調整する目的で、水溶性高分子を含有していてもよい。ここで、「水溶性高分子」とは、25℃において水100gに対して0.1g以上溶解する高分子として定義する。なお、第一の添加剤に該当する高分子は「水溶性高分子」に含まれないものとする。
【0082】
水溶性高分子としては、特に制限はなく、アルギン酸、ペクチン酸、カルボキシメチルセルロース、寒天、カードラン、グアーガム、デキストリン、シクロデキストリン、プルラン等の多糖類;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクロレイン等のビニル系ポリマ;ポリグリセリン、ポリグリセリン誘導体等のグリセリン系ポリマなどが挙げられる。水溶性高分子は、一種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用できる。
【0083】
水溶性高分子を使用する場合、水溶性高分子の含有量の下限は、砥粒の沈降を抑制しつつ水溶性高分子の添加効果を得る観点から、研磨剤の全質量を基準として0.0001質量%以上が好ましく、0.001質量%以上がより好ましく、0.01質量%以上が更に好ましい。水溶性高分子の含有量の上限は、砥粒の沈降を抑制しつつ水溶性高分子の添加効果を得る観点から、研磨剤の全質量を基準として10質量%以下が好ましく、5.0質量%以下がより好ましく、1.0質量%以下が更に好ましく、0.5質量%以下が特に好ましい。上記の観点から、水溶性高分子の含有量は、研磨剤の全質量を基準として0.0001質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0084】
[その他の添加剤]
本実施形態に係る研磨剤は、研磨特性を調整する目的で、前記第一の添加剤、前記第二の添加剤及び水溶性高分子の他に、その他の添加剤を更に含有していてもよい。その他の添加剤としては、酸化剤(例えば過酸化水素)、並びに、後述するpH調整剤及び緩衝剤等が挙げられる。これらは、一種類を単独で又は二種類以上を組み合わせて使用できる。
【0085】
(研磨剤の特性)
本実施形態に係る研磨剤のpHの下限は、窒化珪素の研磨速度を更に向上させる観点から、3.0以上が好ましく、3.5以上がより好ましく、4.0以上が更に好ましく、4.5以上が特に好ましい。研磨剤のpHの上限は、窒化珪素の研磨速度を更に向上させる観点から、9.0以下が好ましく、8.5以下がより好ましく、8.0以下が更に好ましく、7.5以下が特に好ましい。上記の観点から、研磨剤のpHは、3.0以上9.0以下がより好ましい。pHは液温25℃におけるpHと定義する。
【0086】
研磨剤のpHは、無機酸、有機酸等の酸成分;アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、イミダゾール、2−メチルイミダゾール等のアルカリ成分などによって調整できる。また、pHを安定化させるため、緩衝液を添加してもよい。このような緩衝液としては、酢酸塩緩衝液、フタル酸塩緩衝液等が挙げられる。
【0087】
本実施形態に係る研磨剤のpHは、pHメータ(例えば、電気化学計器株式会社製の型番PHL−40)で測定できる。具体的には例えば、フタル酸塩pH緩衝液(pH4.01)と中性リン酸塩pH緩衝液(pH6.86)とを標準緩衝液として用いてpHメータを2点校正した後、pHメータの電極を研磨剤に入れて、2min以上経過して安定した後の値を測定する。このとき、標準緩衝液及び研磨剤の液温は共に25℃とする。
【0088】
本実施形態に係る研磨剤は、砥粒、第一の添加剤及び液状媒体を少なくとも含む一液式研磨剤として保存してもよく、スラリ(第一の液)と添加液(第二の液)とを混合して前記研磨剤となるように前記研磨剤の構成成分をスラリと添加液とに分けた二液式の研磨剤セット(例えばCMP用研磨剤セット)として保存してもよい。スラリは、例えば、砥粒及び液状媒体を少なくとも含む。添加液は、例えば、第一の添加剤及び液状媒体を少なくとも含む。第一の添加剤、第二の添加剤、水溶性高分子及び緩衝液は、スラリ及び添加液のうち添加液に含まれることが好ましい。なお、前記研磨剤の構成成分は、三液以上に分けた研磨剤セットとして保存してもよい。
【0089】
前記研磨剤セットにおいては、研磨直前又は研磨時に、スラリ及び添加液が混合されて研磨剤が調製される。また、一液式研磨剤は、液状媒体の含有量を減じた研磨剤用貯蔵液として保存されると共に、研磨時に液状媒体で希釈して用いられてもよい。二液式の研磨剤セットは、液状媒体の含有量を減じたスラリ用貯蔵液及び添加液用貯蔵液として保存されると共に、研磨時に液状媒体で希釈して用いられてもよい。
【0090】
一液式研磨剤を用いて研磨する場合、研磨定盤上への研磨剤の供給方法としては、研磨剤を直接送液して供給する方法;研磨剤用貯蔵液及び液状媒体を別々の配管で送液し、これらを合流、混合させて供給する方法;あらかじめ研磨剤用貯蔵液及び液状媒体を混合しておき供給する方法等を用いることができる。
【0091】
スラリと添加液とに分けた二液式の研磨剤セットとして保存する場合、これら二液の配合を任意に変えることにより研磨速度を調整できる。研磨剤セットを用いて研磨する場合、研磨定盤上への研磨剤の供給方法としては、例えば、下記に示す方法が挙げられる。例えば、スラリと添加液とを別々の配管で送液し、これらの配管を合流、混合させて供給する方法;スラリ用貯蔵液、添加液用貯蔵液及び液状媒体を別々の配管で送液し、これらを合流、混合させて供給する方法;あらかじめスラリ及び添加液を混合しておき供給する方法;あらかじめスラリ用貯蔵液、添加液用貯蔵液及び液状媒体を混合しておき供給する方法を用いることができる。また、前記研磨剤セットにおけるスラリと添加液とをそれぞれ研磨定盤上へ供給する方法を用いることもできる。この場合、研磨定盤上においてスラリ及び添加液が混合されて得られる研磨剤を用いて被研磨面が研磨される。
【0092】
<基体の研磨方法>
本実施形態に係る基体の研磨方法は、前記一液式研磨剤を用いて基体の被研磨面を研磨する研磨工程を備えていてもよく、前記研磨剤セットにおけるスラリと添加液とを混合して得られる研磨剤を用いて基体の被研磨面を研磨する研磨工程を備えていてもよい。
【0093】
本実施形態に係る基体の研磨方法において、被研磨面は、例えば窒化珪素を含む。研磨工程は、前記一液式研磨剤、又は、前記研磨剤セットにおけるスラリと添加液とを混合して得られる研磨剤を用いて、窒化珪素と他の被研磨材料とを含む被研磨面において特定の被研磨材料(例えば窒化珪素)を選択的に研磨する研磨工程であってもよい。この場合、基体は、例えば、窒化珪素を含む部材と、他の被研磨材料を含む部材とを有していてもよい。他の被研磨材料としては、絶縁材料(本明細書において「窒化珪素」は絶縁材料に含まれないものとする。)、シリコン材料等が挙げられる。絶縁材料としては、酸化珪素等が挙げられる。シリコン材料としては、ポリシリコン、シリコン等のシリコン類などが挙げられる。
【0094】
窒化珪素の研磨速度は、30nm/min以上が好ましく、40nm/min以上がより好ましく、45nm/min以上が更に好ましく、50nm/min以上が特に好ましい。研磨速度が30nm/min以上であることにより、デバイス製造におけるスループット向上に大きく貢献できる。
【0095】
研磨工程では、例えば、被研磨材料(窒化珪素、及び/又は、窒化珪素以外の被研磨材料)を有する基体の当該被研磨材料を研磨定盤の研磨パッド(研磨布)に押圧した状態で、前記研磨剤を被研磨材料と研磨パッドとの間に供給し、基体と研磨定盤とを相対的に動かして被研磨材料を研磨する。研磨工程では、例えば、被研磨材料の少なくとも一部を研磨により除去する。被研磨材料は、例えば膜状(被研磨膜)であってもよい。
【0096】
研磨対象である基体としては、基板等が挙げられる。基体としては、半導体素子製造に係る基板(例えば、STIパターン、ゲートパターン、配線パターン等が形成された半導体基板)上に被研磨材料が形成された基体などが挙げられる。
【0097】
本実施形態に係る基体の研磨方法の具体例について、図面を用いて詳細に説明する。
【0098】
図2は、High−kメタルゲート製造工程の一部を示す断面模式図である。まず、図2(a)に示す基板100aを用意する。基板100aでは、シリコン基板1の上に、ポリシリコン等のダミーゲート材料2からなる凸部が間隔をおいて設けられている。ダミーゲート材料2から構成される凹凸形状に追従するように窒化珪素のキャップ材料3が設けられている。凹部を埋め込み、かつ、キャップ材料3全体が覆われるように酸化珪素等の絶縁材料(例えば絶縁膜)4が設けられている。
【0099】
次に、絶縁材料を除去可能であり、かつ、窒化珪素の研磨速度の小さい公知のCMP用研磨剤を用いて基板100aを研磨する。これにより、絶縁材料4の表層部を除去して凸部のキャップ材料3を露出させることにより、図2(b)に示す基板100bを得る。
【0100】
続いて、本実施形態に係る研磨剤を用いて凸部のキャップ材料3を除去し、ダミーゲート材料2が露出した段階で研磨を停止することにより、図2(c)に示す基板100cを得る。ここで用いる研磨剤としては、窒化珪素に対して高い研磨速度を有し、かつ、酸化珪素等の絶縁材料及びポリシリコン等のダミーゲート材料に対して低い研磨速度を示す研磨剤を用いることが好ましい。
【0101】
図3は、Fin−FETと呼ばれるマルチゲート素子の製造工程の一部を示す断面模式図である。図3(a)に示すように、所定の形状に加工されたシリコン基板11と、酸化珪素等の絶縁材料12と、窒化珪素のハードマスク13とを有する基板110aを用意する。ハードマスク13は、シリコン基板11上に設けられている。絶縁材料12は、シリコン基板11及びハードマスク13を覆うように設けられている。
【0102】
次に、絶縁材料を除去可能であり、かつ、窒化珪素の研磨速度の小さい公知のCMP用研磨剤を用いて基板110aを研磨する。これにより、絶縁材料12の表層部を除去してハードマスク13を露出させることにより、図3(b)に示す基板110bを得る。
【0103】
続いて、本実施形態に係る研磨剤を用いてハードマスク13を除去し、シリコン基板11が露出した段階で研磨を停止することにより、図3(c)に示す基板110cを得る。ここで用いる研磨剤としては、窒化珪素に対して高い研磨速度を有し、かつ、酸化珪素等の絶縁材料に対して低い研磨速度を示す研磨剤を用いることが好ましい。
【0104】
図4は、トランジスタにおけるゲート構造の製造工程の一部を示す断面模式図である。図4(a)に示すように、所定の形状に加工されたシリコン基板21と、酸化珪素等の絶縁材料22と、窒化珪素のキャップ材料23と、ポリシリコン等のダミーゲート材料24とを有する基板120aを用意する。絶縁材料22及びダミーゲート材料24は、シリコン基板21上に設けられている。キャップ材料23は、シリコン基板21、絶縁材料22及びダミーゲート材料24を覆うように設けられている。
【0105】
次に、本実施形態に係る研磨剤を用いてキャップ材料23の表層部を除去し、絶縁材料22が露出した段階で研磨を停止することにより、図4(b)に示す基板120bを得る。ここで用いる研磨剤としては、窒化珪素に対して高い研磨速度を有し、かつ、酸化珪素等の絶縁材料に対して低い研磨速度を示す研磨剤を用いることが好ましい。
【0106】
以下、本実施形態に係る基体(半導体基板等)の研磨方法を更に説明する。本実施形態に係る研磨方法において、研磨装置としては、被研磨面を有する基体(半導体基板等)を保持可能なホルダーと、研磨パッドを貼り付け可能な研磨定盤とを有する一般的な研磨装置を使用できる。ホルダー及び研磨定盤のそれぞれには、例えば、回転数が変更可能なモータ等が取り付けてある。研磨装置としては、APPLIED MATERIALS社製の研磨装置(商品名:Mirra−3400、Reflexion LK)、株式会社荏原製作所製の研磨装置(商品名:F REX−300)等が挙げられる。
【0107】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、発泡体、非発泡体等が使用できる。研磨パッドの材質としては、ポリウレタン、アクリル樹脂、ポリエステル、アクリル−エステル共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリ4−メチルペンテン、セルロース、セルロースエステル、ポリアミド(例えば、ナイロン(商標名)及びアラミド)、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリシロキサン共重合体、オキシラン化合物、フェノール樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、エポキシ樹脂等の樹脂が使用できる。研磨パッドの材質としては、特に、研磨速度及び平坦性に更に優れる観点から、発泡ポリウレタン及び非発泡ポリウレタンが好ましい。研磨パッドには、研磨剤がたまるような溝加工が施されていてもよい。
【0108】
研磨条件に制限はないが、研磨定盤の回転速度は、基体が飛び出さないように200min−1以下が好ましく、基体にかける研磨圧力(加工荷重)は、研磨傷が発生することを充分に抑制し易い観点から、100kPa以下が好ましい。研磨している間、ポンプ等で連続的に研磨剤を研磨パッドに供給することが好ましい。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に研磨剤で覆われていることが好ましい。
【0109】
研磨終了後の基体は、流水中でよく洗浄して、基体に付着した粒子を除去することが好ましい。洗浄には、純水以外に希フッ酸又はアンモニア水を用いてもよく、洗浄効率を高めるためにブラシを用いてもよい。また、洗浄後は、基体に付着した水滴を、スピンドライヤ等を用いて払い落としてから基体を乾燥させることが好ましい。
【実施例】
【0110】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0111】
<4価金属元素の水酸化物の合成>
7.603Lの水を容器に入れた後、濃度50質量%の硝酸セリウムアンモニウム水溶液(化学式:Ce(NH(NO、式量:548.2g/mol、日本化学産業株式会社製、商品名50%CAN液)を0.715L加えて混合した。その後、液温を40℃に調整して金属塩水溶液(金属塩濃度:0.114mol/L)を得た。
【0112】
次に、イミダゾールを水に溶解させて濃度0.7mol/Lの水溶液を4.566L用意した後、液温を40℃に調整してアルカリ液を得た。
【0113】
前記金属塩水溶液の入った容器を、水を張った水槽に入れた。外部循環装置クールニクスサーキュレータ(東京理化器械株式会社(EYELA)製、商品名クーリングサーモポンプ CTP101)を用いて、水槽の水温を40℃に調整した。水温を40℃に保持しつつ、撹拌速度400min−1で金属塩水溶液を撹拌しながら、前記アルカリ液を混合速度8.5×10−6/min(8.5mL/min)で容器内に加え、4価セリウムの水酸化物を含む砥粒を含有するスラリ前駆体1を得た。スラリ前駆体1のpHは2.2であった。なお、羽根部全長5cmの3枚羽根ピッチパドルを用いて金属塩水溶液を撹拌した。
【0114】
分画分子量50000の中空糸フィルタを用いて、得られたスラリ前駆体1を循環させながら限外ろ過して、導電率が50mS/m以下になるまでイオン分を除去することにより、スラリ前駆体2を得た。前記限外ろ過は、液面センサを用いて、スラリ前駆体1の入ったタンクの水位を一定にするように水を添加しながら行った。得られたスラリ前駆体2を適量とり、乾燥前後の質量を量ることにより、スラリ前駆体2の不揮発分含量(4価セリウムの水酸化物を含む砥粒の含量)を算出した。なお、この段階で不揮発分含量が1.0質量%未満であった場合には、水を添加せずに限外ろ過を更に行うことにより、1.1質量%を超える程度に濃縮した。最後に、適量の水を追加し、セリウム水酸化物(4価セリウムの水酸化物)を含む砥粒を含有するセリウム水酸化物スラリ用貯蔵液(砥粒の含有量:1.0質量%)を調製した。
【0115】
<平均粒径の測定>
セリウム水酸化物スラリ用貯蔵液を適量採取し、砥粒の含有量が0.2質量%となるように水で希釈して測定サンプル(水分散液)を得た。測定サンプルを1cm角のセルに約4mL入れ、ベックマンコールター社製の装置名:N5内にセルを設置した。分散媒の屈折率を1.33、粘度を0.887mPa・sに設定し、25℃において測定を行い、表示された平均粒径値を平均二次粒径(平均粒径)とした。結果は21nmであった。
【0116】
<吸光度及び光透過率の測定>
セリウム水酸化物スラリ用貯蔵液(砥粒の含有量:1.0質量%)を適量採取し、砥粒の含有量が0.0065質量%(65ppm)となるように水で希釈して測定サンプル(水分散液)を得た。測定サンプルを1cm角のセルに約4mL入れ、株式会社日立製作所製の分光光度計(装置名:U3310)内にセルを設置した。波長200〜600nmの範囲で吸光度測定を行い、波長290nmの光に対する吸光度と、波長450〜600nmの光に対する吸光度とを測定した。波長290nmの光に対する吸光度は、1.248であった。波長450〜600nmの光に対する吸光度は、0.010以下であった。
【0117】
セリウム水酸化物スラリ用貯蔵液(砥粒の含有量:1.0質量%)を1cm角のセルに約4mL入れ、株式会社日立製作所製の分光光度計(装置名:U3310)内にセルを設置した。波長200〜600nmの範囲で吸光度測定を行い、波長400nmの光に対する吸光度と、波長500nmの光に対する光透過率とを測定した。波長400nmの光に対する吸光度は、1.436であった。波長500nmの光に対する光透過率は、99%/cmであった。
【0118】
<上澄み液の不揮発分含量の測定>
セリウム水酸化物スラリ用貯蔵液(砥粒の含有量:1.0質量%)を日立工機株式会社製の超遠心分離機(装置名:70P−72)に付属の遠沈管(チューブ)に充填し、前記超遠心分離機を用いて回転数50000min−1で50分間遠心分離した。前記超遠心分離機において、チューブ角は26°、最小半径Rminは3.53cm、最大半径Rmaxは7.83cm、平均半径Ravは5.68cmであった。平均半径Ravから計算される遠心加速度は、158756G≒1.59×10Gであった。遠心分離後の遠沈管から上澄み液を5.0gとり、アルミシャーレに入れて150℃で1時間乾燥させた。乾燥前後の質量を量ることにより、上澄み液に含まれる不揮発分含量(4価セリウムの水酸化物を含む砥粒の含量)を算出したところ、764ppmであった。
【0119】
<CMP用研磨剤の調製>
研磨剤を下記のとおり調製した。研磨剤のpHは、下記表1に示したとおりに調整した。
【0120】
[実施例1]
メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油株式会社製PME−400)とアクリル酸(大阪有機化学工業株式会社製)との共重合体:重量平均分子量Mw6800(モル比90/10)(以下、「カルボキシル基を含むポリオキシアルキレン化合物A1」と呼ぶ)0.2質量%を含有する添加液用貯蔵液500gと、セリウム水酸化物スラリ用貯蔵液50gと、水450gとを混合することにより、表1に記載される組成のCMP用研磨剤(1000g)を調製した。当該CMP用研磨剤は、セリウム水酸化物を含む砥粒を0.05質量%、カルボキシル基を含むポリオキシアルキレン化合物A1を0.1質量%含有する。
【0121】
[実施例2]
カルボキシル基を含むポリオキシアルキレン化合物A1をメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油株式会社製PME−1000)とアクリル酸(大阪有機化学工業株式会社製)との共重合体A2:重量平均分子量Mw22800(モル比90/10)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、表1に記載される組成のCMP用研磨剤を調製した。
【0122】
[比較例1]
カルボキシル基を含むポリオキシアルキレン化合物A1をメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油株式会社製PME−200)とアクリル酸(大阪有機化学工業株式会社製)との共重合体A3:重量平均分子量Mw3000(モル比90/10)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、表1に記載される組成のCMP用研磨剤を調製した。
【0123】
[比較例2]
カルボキシル基を含むポリオキシアルキレン化合物A1をメトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油株式会社製PME−400)の重合体A4に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、表1に記載される組成のCMP用研磨剤を調製した。
【0124】
[比較例3]
セリウム水酸化物スラリ用貯蔵液50gと、水950gとを混合することにより、表1に記載される組成のCMP用研磨剤(1000g)を調製した。
【0125】
<液状特性評価>
前記で得られたCMP用研磨剤のpHを下記の条件で評価した。
【0126】
(pH測定条件)
測定温度:25±5℃
測定装置:電気化学計器株式会社製、型番PHL−40
測定方法:標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液、pH:4.01(25℃);中性リン酸塩pH緩衝液、pH6.86(25℃))を用いて2点校正した後、電極をCMP用研磨剤に入れて、2min以上経過して安定した後のpHを前記測定装置により測定した。
【0127】
<CMP評価:ブランケットウエハ評価>
前記CMP用研磨剤のそれぞれを用いて下記CMP条件で被研磨基板を研磨した。
【0128】
(CMP条件)
・研磨装置:Mirra−3400(APPLIED MATERIALS社製)
・CMP用研磨剤流量:200mL/min
・被研磨基板:パターンが形成されていないブランケットウエハとして、厚さ1000nmの酸化珪素膜をシリコン基板上にプラズマCVD法で形成した基板と、厚さ200nmの窒化珪素膜をシリコン基板上にCVD法で形成した基板とを用いた。
・研磨パッド:独立気泡を有する発泡ポリウレタン樹脂(ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社製、型番IC1010)、ショアD硬度=60
・研磨圧力:20kPa(3.0psi)
・基板及び研磨定盤の回転数:基板/研磨定盤=93/87min−1
・研磨時間:1min
・ウエハの洗浄及び乾燥:CMP処理後、PVC(ポリ塩化ビニル)ブラシによる洗浄を行い、続いて、スピンドライヤで乾燥させた。
【0129】
(ブランケットウエハ研磨速度の測定)
前記条件で研磨及び洗浄した各被研磨膜(酸化珪素膜、窒化珪素膜)の研磨速度(酸化珪素膜の研磨速度:SiORR、窒化珪素膜の研磨速度:SiNRR)を下記式より求めた。また、研磨選択比SiNRR/SiORRを求めた。なお、研磨前後での各被研磨膜の膜厚差は、光干渉式膜厚装置(フィルメトリクス社製、商品名:F80)を用いて求めた。
(研磨速度:RR)=(研磨前後での各被研磨膜の膜厚差(nm))/(研磨時間(min))
【0130】
実施例及び比較例で得られた各測定結果を表1に示す。なお、表1中の記号は下記のとおりである。
A1:メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油株式会社製PME−400)とアクリル酸との共重合体(モル比90/10)
A2:メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油株式会社製PME−1000)とアクリル酸との共重合体(モル比90/10)
A3:メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油株式会社製PME−200)とアクリル酸との共重合体(モル比90/10)
A4:メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(日油株式会社製PME−400)の重合体
【0131】
【表1】
【0132】
本発明によれば、酸化珪素の研磨速度を抑制しつつ、窒化珪素を高速に研磨できる研磨剤、研磨剤セット及び研磨方法を提供できる。
【符号の説明】
【0133】
1,11,21…シリコン基板、2,24…ダミーゲート材料、3,23…キャップ材料、4,12,22…絶縁材料、13…ハードマスク、100a,100b,100c,110a,110b,110c,120a,120b…基板、AR…アングルロータ、A1…回転軸、A2…チューブ角、Rmin…最小半径、Rmax…最大半径、Rav…平均半径。
図1
図2
図3
図4