【文献】
Sungmin Huh,Printability and inspectability of defects on the EUV mask for sub-32nm half pitch HVM application,PROCEEDINGS OF SPIE,2011年 3月26日,Vol. 7969,pp. 796902-1〜796902-9
【文献】
Takahiro Onoue,Development of fiducial marks on EUV blanks for defect mitigation process,PROCEEDINGS OF SPIE,2012年 3月13日,Vol. 8322,pp. 832226-1〜832226-7
【文献】
Tetsunori Murachi,Phase defect mitigation strategy: fiducial mark requirements on extreme ultraviolet lithography mask,PROCEEDINGS OF SPIE,2012年 3月23日,Vol. 8322,pp. 83221Q-1〜83221Q-11
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記反射多層膜の表面のうち、前記反射多層膜のパターニング時の露光領域より外側の部位に、FIB(Focused Ion Beam)法、または、ドライエッチングプロセスにより、少なくとも3つの凹状の基準マークを形成する工程、基準マーク形成後の反射多層膜上に、スパッタリング法により吸収層を形成して、前記基準マークを該吸収層に転写させる工程を有する、請求項1〜4のいずれかに記載の反射型マスクブランクの製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
反射多層膜の欠陥の位置は、基準マークの位置を基準位置として特定される。従来の基準マークは、検査光による検出位置の再現性が十分でないため、基準マークの位置を基準位置として欠陥の位置を精度良く特定するのが困難であった。
さらに、特許文献1に記載の技術のように、反射多層膜を成膜する基板表面に予め基準マークを形成した場合、基準マークを形成するための加工により発生した異物が、基板表面に付着して、新たな欠点を生じさせるおそれがある。
基板表面若しくは基板上に形成されたマーク形成用薄膜に基準マークを形成する場合は、基準マーク上に反射多層膜や吸収層といった機能膜を形成することになる。この場合、これら機能膜に基準マークの形状は転写されるが、機能膜の厚さに応じて基準マークの幅と深さは減少し、その結果コントラストも減少すると考えられる。そのため、基準マークの検出性が低下すると考えられる。
【0012】
特許文献2〜5に記載の技術のように、吸収層に凹状の基準マークを形成する場合、基準マークは検出性を高めるために、ある程度の深さの基準マークを形成する必要がある。しかしながら、基準マークの深さが吸収層の膜厚よりも大きくなると、吸収層を貫通し、反射多層膜や該反射多層膜の保護層など複数の材料を加工することとなる。この場合、構成材料の違いや、複数の界面の存在から加工レートに不均一が生じ、基準マークのエッジ形状に乱れが生じ、基準マークの検出性が低下すると考えられる。
【0013】
一方、吸収層の膜厚は、シャドウィング(shadowing)効果を低減するために、薄くすることが求められており、将来的に、上記問題が顕著化する可能性は非常に高いと考えられる。なお、シャドウィング効果とは、EUV光が反射型マスクに対して斜めに入射され、該マスクにおいて斜めに反射されるとき、吸収層パターンの膜厚が厚いと、入射光及び反射光が遮られ、転写パターンの寸法の変化や鮮明度の低下を招く現象を言い、パターンの微細化に伴い問題が顕著化している。
【0014】
また、特許文献1に記載の技術では、ドライエッチングプロセスを用いて基準マークを形成することで、レーザ照射等の手法を用いて形成される基準マークに比べて基準マークの検出性を高めることができるとされている。しかしながら、ドライエッチングプロセスによる基準マークの形成には、形成可能な基準マークの形状や寸法に制約があり、たとえば、サブミクロンオーダーの基準マークを形成することが困難である。また、ドライエッチングプロセスでは、基準マークを形成する部位周辺を保護するために、プロセス実施前に当該部位にレジストを塗布し、プロセス実施後に当該部位からレジストを除去する。この際、基準マークを形成する部位周辺はレジスト除去剤にさらされるため、当該部位の表面性状への影響が懸念される。
【0015】
特許文献4,5では、FIB(Focused Ion Beam)法の使用が、微細な加工が可能であるため好ましい、とされている。
しかしながら、FIB法を用いて形成された基準マークは、ドライエッチングプロセスを用いて形成された基準マークに比べて検出性が低くなる傾向がある。
また、吸収層上にマスクパターンの検査光における低反射層として金属酸化物膜を形成する場合もある。この場合、吸収層上に形成された低反射層もFIB法を用いて加工することになる。しかしながら、低反射層として形成された金属酸化物膜に対してFIB法を適用した場合、金属酸化物膜のチャージアップの影響でビーム形状が安定せず、基準マークのエッジ形状に乱れが生じ、検出性が低下すると考えられる。
【0016】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、ブランクの欠陥の位置、特に反射多層膜の欠陥の位置を精度良く特定可能な反射型マスクブランク、及び反射型マスクブランクの製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明者らは、上記した目的を達成するため、FIB法で形成された基準マークが、ドライエッチングプロセスを用いて形成された基準マークに比べて検出性が低い理由を検討し、以下の知見を得た。
通常の条件でFIB法を実施した場合、形成される基準マークは、側面がマーク上部に向かって広がるように傾斜した凹形状となる。このとき、基準マークをなす凹部の底面に対して、傾斜した側面がなす傾斜角度は90°よりも小さくなる。側面が傾斜している領域では、基準マークの深さが緩やかに変化するので、検出光に対し、十分なコントラストを得ることができない。その結果、通常条件で作製されたマークでは、検出性が低いということを見出した。特許文献4、5に記載の技術では、FIB法を用いて、基準マークの形成面に対し側壁が略垂直となった、エッジ部の傾斜角度が大きい基準マークを形成している。しかしながら、FIB法を用いて、このような基準マークを形成する場合、プローブ電流を小さくする必要があるが、プローブ電流を小さくすると加工レートが大きく減少するので、加工に長時間を要する。そのため、反射型マスクブランクを工業規模で製造する場合、スループットが低下するため問題となる。また、FIB法による加工を長時間実施することにより、基準マークの形成面がダメージを受けるおそれがある。
【0018】
ドライエッチングプロセスを用いて基準マークを形成する場合も、通常の条件で実施した場合、基準マークの形成面(底面)と、凹形状をした基準マークの側壁との境界部分(基準マークのエッジ部)での傾斜角度が小さくなる。基準マークの形成面に対し側壁が略垂直となった、エッジ部の傾斜角度が大きい基準マークを形成しようとした場合、ドライエッチングプロセスによる加工により、基準マークの形成面がダメージを受けるおそれがある。
【0019】
本発明は、上記した知見に基づいてなされたものであり、基板、露光光を反射する反射多層膜、及び前記露光光を吸収する吸収層をこの順で有する反射型マスクブランクにおいて、
前記反射多層膜の表面のうち、前記反射多層膜のパターニング時の露光領域より外側の部位に、少なくとも3つの基準マークが凹状に形成されており、
前記吸収層の膜厚は40〜90nmであり、
前記吸収層の表面には、前記基準マークから転写されたマークが形成され、その形状は凹状であり、
前記転写されたマークをなす凹部の傾斜角度βが35〜80°であり、
前記傾斜角度βと、前記基準マークをなす凹部の傾斜角度α、との差(傾斜角度β−傾斜角度α)が10°以上である、ことを特徴とする反射型マスクブランクを提供する。
【0020】
本発明の反射型マスクブランクにおいて、前記基準マークから転写されたマークがなす凹部の深さが50nm以上であることが好ましい。
【0021】
本発明の反射型マスクブランクにおいて、前記傾斜角度αが25〜45°であることが好ましい。
【0022】
本発明の反射型マスクブランクにおいて、反射多層膜表面上で3つの基準マークが同一の仮想直線に載らないことが好ましい。
【0023】
また、本発明は、上述した本発明の反射型マスクブランクの製造方法であって、前記反射多層膜の表面のうち、前記反射多層膜のパターニング時の露光領域より外側の部位に、FIB(Focused Ion Beam)法、または、ドライエッチングプロセスにより、少なくとも3つの凹状の基準マークを形成する工程、基準マーク形成後の反射多層膜上に、スパッタリング法により吸収層を形成して、前記基準マークを該吸収層に転写させる工程を有する、本発明の反射型マスクブランクの製造方法を提供する。
【0024】
本発明の反射型マスクブランクの製造方法において、スパッタリング法による吸収層形成時の圧力が0.3Pa以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、反射多層膜の欠陥の位置を精度良く特定可能な反射型マスクブランク、及び反射型マスクブランクの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、各図面において、同一の又は対応する構成については同一の又は対応する符号を付して説明を省略する。
【0028】
なお、下記の実施形態では、EUVL用の反射型マスクブランクについて説明するが、本発明は露光光としてEUV光以外の波長の光を用いる反射型マスクブランクに適用することができる。
本発明の反射型マスクブランクの全体の構造については、
図3を参照して説明する。
【0029】
図3に示す反射型マスクブランクは、基板10、EUV光を反射する反射多層膜20、及びEUV光を吸収する吸収層40をこの順で有している。
【0030】
図1、2に示すように、本発明の反射型マスクブランクでは、反射多層膜20表面に基準マーク30が形成されている。
図3、4に示すように、吸収層40の表面には、基準マーク30から転写されたマーク(転写マーク)50が形成され、その形状は凹状である。
この転写マーク50は、反射型マスクブランクの欠点検査の際に、転写マーク50を基準位置として、反射多層膜20に存在する欠陥の位置を特定するのに使用される。
但し、転写マーク50は、反射型マスクブランクの欠点検査の際に、欠点検査機で検出されるため、パターニング時の露光領域内に転写マーク50が存在すると、転写マーク50が反射型マスクブランクの欠点となるおそれがあるため、転写マーク50は、吸収層40の表面のうち、パターニング時の露光領域外に形成する。このため、反射多層膜20表面に基準マーク30もまた、反射多層膜20の表面のうち、パターニング時の露光領域外に形成する。
パターニング時の露光領域は、基板の寸法やパターニング時の露光領域に関するスペックによって異なるが、EUVL用の反射型マスクブランクの基板10として、通常使用される152.0×152.0mm□の基板の場合、132×104mm□であるので、この領域よりも外側に基準マーク30を形成する。なお、この露光領域は通常基板の中心に位置する。
以下、本明細書において、反射多層膜表面に基準マークを形成する、と記載した場合、反射多層膜表面のうち、パターニング時の露光領域より外側の部位に基準マークを形成することを指す。
なお、図示した態様では、反射多層膜20の表面のうち、パターニング時の露光領域外の四隅に基準マーク30が形成されているが、基準マークを形成する位置は、パターニング時の露光領域外である限り特に限定されない。例えば、
図2に示す基準マーク30同士の間となる位置に基準マークを形成してもよい。
【0031】
図2、4に示す反射型マスクブランクでは、反射多層膜20表面に4つの基準マーク30が形成されており、吸収層40表面には4つの転写マーク50が形成されている。但し、本発明の反射型マスクブランクにおいて、反射多層膜表面には、少なくとも3つの基準マークが形成されていればよい。したがって、吸収層表面には、少なくとも3つの転写マークが形成される。反射多層膜表面に、少なくとも3つの基準マークが形成されていることが求められる理由は以下の通り。
上述したように、吸収層40表面に形成された転写マーク50は、反射型マスクブランクの欠点検査の際に、反射多層膜20に存在する欠陥の位置を、転写マーク50を基準位置として、特定するのに使用される。より具体的には、転写マーク50は、欠陥の位置を、転写マーク50間を結ぶ軸との相対位置として、特定するのに使用される。反射多層膜20に存在する欠陥の位置を特定するのに使用される。ここで、反射多層膜20に存在する欠点の位置を正確に特定するためには、少なくとも2軸必要である。そのため、少なくとも3つの転写マーク50が存在する必要がある。そのため、反射多層膜20表面には、少なくとも3つの基準マーク30を形成する必要がある。これら3つの基準マーク30は、反射多層膜20表面上で同一の仮想直線に載らないよう配置することが好ましい。
【0032】
上述した理由により、吸収層40表面に形成された転写マーク50は、反射型マスクブランクの欠点検査の際に検出性が高いことが求められる。本発明の反射型マスクブランクでは、転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βが35〜80°である。
図3に示すように、転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βとは、凹部の底面と、傾斜面をなす側面と、の傾斜角度である。転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βが35〜80°であると、反射型マスクブランクの欠点検査の際に検出性が高い。一方、転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βが35°未満、若しくは、80°超であると、反射型マスクブランクの欠点検査の際に検出性が低くなる。転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βは、40〜75°であることが好ましく、50〜65°であることがより好ましい。
【0033】
転写マーク50がなす凹部の傾斜角度βは、転写元である基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αの影響を受ける。したがって、基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αは、転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βについて上記した範囲と同程度であることが、本来であれば好ましい。
しかしながら、基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αを、転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βについて上記した範囲と同程度とすることは、以下に述べる理由により困難である。なお、
図1,3に示すように、基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αとは、凹部の底面と、傾斜面をなす側面と、の傾斜角度である。
【0034】
高い寸法精度、形状精度が求められる基準マーク30を形成には、FIB法、または、ドライエッチングプロセスが用いられる。しかしながら、これらの手法を用いて形成される基準マーク30は、該基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αが、以下に述べる理由により小さくなる。
FIB法を用いて凹状の基準マーク30を形成する際に、該基準マーク30がなす凹部の傾斜角度αを大きくするためには、FIB法実施時のプローブ電流を小さくする必要がある。しかしながら、FIB法実施時にプローブ電流を小さくすると加工レートが大きく減少するので、加工に長時間を要する。そのため、反射型マスクブランクを工業規模で製造する場合、スループットが低下するため問題となる。また、FIB法による加工を長時間実施することにより、基準マークの形成面がダメージを受けるおそれがある。
一方、ドライエッチングプロセスを用いて基準マーク30を形成する場合も、該基準マーク30がなす凹部の傾斜角度αを大きくしようとすると、ドライエッチングプロセスによる加工により、基準マーク30の形成面がダメージを受けるおそれがある。特に、基準マーク30をなす凹部の側壁の表面性状に悪影響を与え、基準マーク30の検出性を低下させる恐れがある。
そのため、本発明の反射型マスクブランクでは、基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αが好ましくは25〜45°であることが好ましく、25〜35°であることがより好ましい。基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αを45°より大きくしようとすると、上述したFIB法やドライエッチングプロセスを用いて基準マーク30を形成する際の問題点が懸念される。一方、基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αが25°より小さいと、転写マーク50がなる凹部の傾斜角度βが上述した範囲を満たすことが困難になる。転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βは、40〜75°であることが好ましく、50〜65°であることがより好ましい。
【0035】
なお、基準マーク30をなす凹部の傾斜角度α、および、転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βは、以下の方法で測定できる。
反射多層膜20表面に形成された基準マーク30、および、吸収層40表面に形成された転写マーク50を、マーク長手方向に直交する方向で切断し、走査型電子顕微鏡(SEM)にて断面像を観察する。断面画像を2値化する。基準マーク30をなす凹部の底面および斜面のエッジ点を抽出する。さらに、転写マーク50をなす凹部の底面および斜面のエッジ点を抽出する。エッジ点から最小二乗法により近似直線を求め、基準マーク30をなす凹部の底面の近似直線と基準マーク30をなす凹部の斜面の近似直線の成す角度を傾斜角度αとし、転写マーク50をなす凹部の底面の近似直線と転写50マークをなす凹部の斜面の近似直線の成す角度を傾斜角度βとする。
【0036】
本発明の反射型マスクブランクでは、反射多層膜20上に所定の条件を満たす吸収層40を形成することにより、基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αよりも、該基準マーク30から転写されたマーク(転写マーク)50がなす凹部の傾斜角度βが大きくなる。その結果、反射型マスクブランクの欠点検査時の検出性が高くなる。本発明の反射型マスクブランクでは、転写マーク50がなす凹部の傾斜角度βと、基準マーク30をなす凹部の傾斜角度α、との差(傾斜角度β−傾斜角度α)が10°以上であるため、反射型マスクブランクの欠点検査時の転写マーク50の検出性が高い。転写マーク50がなす凹部の傾斜角度βと、基準マーク30をなす凹部の傾斜角度α、との差(傾斜角度β−傾斜角度α)が、15°以上であることが好ましく、20°以上であることがより好ましい。転写マーク50がなす凹部の傾斜角度βと、基準マーク30をなす凹部の傾斜角度α、との差(傾斜角度β−傾斜角度α)が、40°以下であることが好ましく、35°以下であることがより好ましい。
【0037】
本発明の反射型マスクブランクにおいて、上述した所定の条件の一つが吸収層40の膜厚である。吸収層40の膜厚が所定の条件を満たすことにより、基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αよりも、転写マーク50がなす凹部の傾斜角度βが大きくなる。
本発明の反射型マスクブランクは吸収層40の膜厚が40〜90nmである。吸収層40の膜厚が上記の範囲であれば、基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αよりも、転写マーク50がなす凹部の傾斜角度βが大きくなり、転写マーク50がなす凹部の傾斜角度βと、基準マーク30をなす凹部の傾斜角度α、との差(傾斜角度β−傾斜角度α)が上述した条件を満たす。
吸収層40の膜厚が40nm未満、若しくは、90nm超だと、転写マーク50がなす凹部の傾斜角度βと、基準マーク30をなす凹部の傾斜角度α、との差(傾斜角度β−傾斜角度α)が上述した条件を満たさない。
吸収層40の膜厚は、45〜85nmであることが好ましく、50〜80nmであることがより好ましい。
【0038】
本発明の反射型マスクブランクにおいて、転写マーク50がなす凹部の深さは50nm以上であることが、反射型マスクブランクの欠点検査時の転写マーク50の検出性が向上するので好ましい。転写マーク50がなす凹部の深さは60nm以上であることがより好ましく、70nm以上であることがさらに好ましい。
上述した点から明らかなように、転写マーク50がなす凹部の深さが大きいほど、反射型マスクブランクの欠点検査時の転写マーク50の検出性が向上する。しかしながら、転写マーク50がなす凹部の深さは、転写元である基準マーク30をなす凹部の深さに依存する点に留意する必要がある。吸収層40の膜厚が上述した範囲の場合、転写マーク50がなす凹部の深さは、転写元である基準マーク30をなす凹部の深さとほぼ一致する。そのため、転写マーク50がなす凹部の深さを大きくするためには、基準マーク30をなす凹部の深さを大きくする必要がある。しかしながら、基準マーク30をなす凹部の深さを大きくし過ぎると、基準マーク30の形成に要する時間が増加するため、反射型マスクブランクを工業規模で製造する場合、スループットが低下するため問題となる。また、上述したように、基準マーク30の形成には、FIB法若しくはドライエッチングプロセスが用いられるが、いずれの場合も、長時間加工を実施することにより、基準マークの形成面がダメージを受けるおそれがある。
そのため、転写マーク50がなす凹部の深さは300nm以下であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、120m以下であることがさらに好ましい。
【0039】
図4に示す転写マーク50は平面形状が十字形状である。転写マーク50の平面形状が十字形状であると、反射型マスクブランク1の欠点検査の際に、基準位置として、実際に機能する基準点を特定しやすい。平面形状が十字形状の転写マーク50では、十字形状をなす2軸の交点が基準点となる。この場合、特許文献2の
図4に示す基準マークのように、厳密には十字形状をなしていないが、視覚的に十字形状と把握できるものであってもよい。
なお、転写マーク50の平面形状は、転写元である基準マーク30の平面形状と一致するため、
図2に示すように、基準マーク30の平面形状も十字形状である。
但し、本発明の反射型マスクブランクにおける基準マークおよび転写マークの平面形状はこれに限定されず、十字形状の1辺が欠けた形状等の他の形状であってもよい。
また、転写マークの検出性を維持できる寸法範囲であれば、転写マークの寸法、および、転写元である基準マークの寸法は任意に変更可能である。但し、寸法が大きくなるほどに、加工時間が延びるため、十字形状をなす2軸の長さは4mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。同様に、十字形状をなす2軸の幅は4μm以下が好ましく、1μmがより好ましい。
【0040】
以下、本発明の反射型マスクブランクについてさらに記載する。
【0041】
(基板)
基板10は、EUVL用の反射型マスクブランク用の基板としての特性を満たすことが要求される。そのため、基板10は、低熱膨張係数(具体的には、20℃における熱膨張係数が0±0.05×10
-7/℃が好ましく、特に好ましくは0±0.03×10
-7/℃)を有し、平滑性、平坦度、およびマスクブランクまたはパターニング後のフォトマスクの洗浄等に用いる洗浄液への耐性に優れたものが好ましい。
基板10としては、具体的には低熱膨張係数を有するガラス、例えばSiO
2−TiO
2系ガラス等を用いるが、これに限定されず、β石英固溶体を析出した結晶化ガラスや石英ガラスやシリコンや金属などの基板を使用できる。
基板10は、二乗平均粗さ(Root Mean Square Roughness)Rqが0.15nm以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度を有していることがパターニング後のフォトマスクにおいて高反射率および転写精度が得られるために好ましい。
基板10の大きさや厚さなどはマスクの設計値等により適宜決定される。後で示す実施例では外形6インチ(152mm)角で、厚さ0.25インチ(6.3mm)のSiO
2−TiO
2系ガラスを用いた。
【0042】
(反射多層膜)
基板10上に形成される反射多層膜20は、EUVL用の反射型マスクブランクの反射多層膜として所望の特性を有するものである限り特に限定されない。ここで、反射多層膜20に特に要求される特性は、高EUV光線反射率である。具体的には、EUV光の波長領域の光線を入射角6度で反射多層膜20表面に照射した際に、波長13.5nm付近の光線反射率の最大値は、60%以上が好ましく、63%以上がより好ましく、65%以上がさらに好ましい。
上記の特性を満たす反射多層膜20としては、以下が挙げられる。
Si膜とMo膜とを交互に積層させたSi/Mo反射多層膜。
Be膜とMo膜とを交互に積層させたBe/Mo反射多層膜。
Si化合物とMo化合物層とを交互に積層させたSi化合物/Mo化合物反射多層膜。
Si膜、Mo膜およびRu膜をこの順番に積層させたSi/Mo/Ru反射多層膜。
Si膜、Ru膜、Mo膜およびRu膜をこの順番に積層させたSi/Ru/Mo/Ru反射多層膜。
【0043】
反射多層膜を構成する各層の膜厚および層の繰り返し単位の数は、使用する膜材料および反射層に要求されるEUV光の反射率に応じて適宜選択できる。Mo/Si反射多層膜を例にとると、EUV光の反射率の最大値が60%以上の反射多層膜とするには、反射多層膜は膜厚2.3±0.1nmのMo膜と、膜厚4.5±0.1nmのSi膜とを繰り返し単位数が30〜60になるように積層させればよい。
【0044】
なお、反射多層膜を構成する各層は、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法など、周知の乾式成膜法を用いて所望の厚さになるように成膜すればよい。例えば、イオンビームスパッタリング法を用いてMo/Si反射多層膜を形成する場合、以下のように成膜することが好ましい。ターゲットとしてSiターゲットを用い、スパッタリングガスとしてArガス(ガス圧1.3×10
-2Pa〜2.7×10
-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300〜1500V、成膜速度0.03〜0.30nm/secで厚さ4.5nmとなるようにSi膜を成膜する。次に、ターゲットとしてMoターゲットを用い、スパッタリングガスとしてArガス(ガス圧1.3×10
-2Pa〜2.7×10
-2Pa)を使用して、イオン加速電圧300〜1500V、成膜速度0.03〜0.30nm/secで厚さ2.3nmとなるようにMo膜を成膜する。これを1周期として、Si膜およびMo膜を30〜60周期積層させることによりMo/Si反射多層膜が成膜される。
【0045】
(基準マークの形成)
上述したように、本発明の反射型マスクブランクでは、反射多層膜の表面上の所定位置に、FIB法、または、ドライエッチングプロセスを用いて、凹状の基準マーク30を形成する。
【0046】
本発明の反射型マスクブランクでは、反射多層膜20と吸収層40との間に保護層が形成されていてもよい。保護層は、吸収層40をエッチング(通常はドライエッチング)して、該吸収層40にマスクパターンを形成する際に、反射多層膜20がエッチングによるダメージを受けないよう、反射多層膜20を保護することを目的として設けられる。したがって保護層の材質としては、吸収層40のエッチングによる影響を受けにくい、つまりこのエッチング速度が吸収層40よりも遅く、しかもこのエッチングによるダメージを受けにくい物質が選択される。この条件を満たす物質としては、例えばCr、Al、Ta及びこれらの窒化物、Ru及びRu化合物(RuB、RuSi等)、ならびにSiO
2、Si
3N
4、Al
2O
3やこれらの混合物が例示される。これらの中でも、Ru及びRu化合物(RuB、RuSi等)、CrNおよびSiO
2が好ましく、Ru及びRu化合物(RuB、RuSi等)が特に好ましい。
また、保護層を形成する場合、その厚さは1〜60nmが好ましく、1〜40nmがより好ましい。
【0047】
保護層を形成する場合、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法など周知の乾式成膜法を用いて成膜する。マグネトロンスパッタリング法によりRu膜を成膜する場合、以下の条件で成膜することが好ましい。
ターゲット:Ruターゲット
スパッタリングガス:Arガス(ガス圧1.0×10
-2Pa〜10×10
-1Pa)
投入電力:30〜1500V
成膜速度:1.2〜60nm/min
膜厚:2〜5nm
【0048】
反射多層膜20の上に保護層を設けた場合であっても、波長13.5nm付近の光線反射率の最大値は、60%以上が好ましく、63%以上がより好ましく、65%以上がさらに好ましい。
【0049】
なお、反射多層膜20の上に保護層を設ける場合には、該保護層表面の所定の位置に、基準マークを凹状または凸状に形成する。
【0051】
吸収層40に特に要求される特性は、EUV光線反射率が極めて低いことである。具体的には、EUV光の波長領域の光線を吸収層40表面に照射した際の、波長13.5nm付近の最大光線反射率は、6%以下が好ましい。
上記の特性を達成するため、吸収層40は、EUV光の吸収係数が高い材料で構成される。EUV光の吸収係数が高い材料としては、タンタル(Ta)を主成分とする材料を用いることが好ましい。本明細書において、タンタル(Ta)を主成分とする材料は、当該材料中Taを40at%以上含有する材料を意味する。吸収層40は、50at%以上Taを含有していれば好ましく、55at%以上含有していればより好ましい。
【0052】
吸収層40に用いるTaを主成分とする材料は、Ta以外にハフニウム(Hf)、ケイ素(Si)、ジルコニウム(Zr)、ゲルマニウム(Ge)、ホウ素(B)、パラジウム(Pd)、水素(H)および窒素(N)のうち少なくとも1成分を含有することが好ましい。Ta以外の上記の元素を含有する材料の具体例としては、例えば、TaN、TaNH、TaHf、TaHfN、TaBSi、TaBSiN、TaB、TaBN、TaSi、TaSiN、TaGe、TaGeN、TaZr、TaZrN、TaPd、TaPdNなどが挙げられる。
【0053】
上述したように、本発明の反射型マスクブランクは吸収層40の膜厚が40〜90nmであるが、吸収層40の厚さの好適範囲は、吸収層40を構成する材料によって異なる。たとえば、TaN、TaNHといったTaN系の吸収層の場合、厚さが50〜90nmの範囲が好ましい。TaPd、TaPdNといったTaPd系の吸収層の場合、厚さが40〜60nmであることが好ましい。
【0054】
上記した構成の吸収層40は、マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法などのスパッタリング法を用いて形成できる。
スパッタリング法を用いて吸収層40を形成することにより、反射多層膜20表面に形成された基準マーク30が吸収層40に転写されて、凹状の転写マーク50として吸収層40表面に形成される。
上述したように、本発明における反射型マスクブランクでは、基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αよりも、該基準マーク30から転写されたマーク(転写マーク)50がなす凹部の傾斜角度βが大きく、転写マーク50がなす凹部の傾斜角度βと、基準マーク30をなす凹部の傾斜角度α、との差(傾斜角度β−傾斜角度α)が10°以上である。
傾斜角度β−傾斜角度αを10°以上とするためには、スパッタリング法による吸収層40形成時の圧力が0.3Pa(3.0×10
-1Pa)以下であることが好ましく、0.2Pa(2.0×10
-1Pa)以下であることがより好ましく、0.1Pa(1.0×10
-1Pa)以下であることがさらに好ましい。
上述したように、傾斜角度β−傾斜角度αは、15°以上であることが好ましく、20°以上であることがより好ましい。傾斜角度β−傾斜角度αをさらに大きくするためには、高い投入電力、短いTS距離、強いカソード磁場、低い成膜温度とすることが好ましい。
【0055】
上記した構成の吸収層40を形成する際の条件の一例を以下に示す。
例えば、吸収層40として、マグネトロンスパッタリング法を用いてTaNH膜を形成する場合、以下の条件でTaNH膜を成膜することが好ましい。
ターゲット:Taターゲット
スパッタリングガス:ArとN
2とH
2の混合ガス(H
2ガス濃度1〜30vol%、N
2ガス濃度5〜75vol%、Arガス濃度10〜94vol%)
ガス圧:0.5×10
-1Pa〜3.0×10
-1Pa
投入電力:300〜2000W
成膜速度:0.5〜60nm/min
膜厚:20〜90nm
また、吸収層40として、マグネトロンスパッタリング法を用いてTaPdN膜を形成する場合、以下の条件でTaPdN膜を成膜することが好ましい。
ターゲット:TaターゲットとPdターゲットまたは、TaとPdとを含む化合物ターゲット
スパッタガス:ArとN
2の混合ガス
(N
2ガス濃度1〜80vol%、Arガス濃度5〜95vol%)
ガス圧:1.0×10
-1Pa〜3.0×10
-1Pa
投入電力:30〜1000W
成膜速度:0.5〜60nm/min
膜厚:20〜50nm
【0056】
本発明の反射型マスクブランクでは、吸収層40上にマスクパターンの検査に使用する検査光における低反射層が形成されていてもよい。
低反射層はマスクパターンの検査に使用する検査光において、低反射となるような膜で構成される。EUVマスクを作製する際、吸収層にパターンを形成した後、このパターンが設計通りに形成されているかどうか検査する。このマスクパターンの検査では、検査光として通常257nm程度の波長の光を使用した検査機が使用される。つまり、257nm程度の波長の光における、吸収層がパターン形成により除去されて露出した面と、パターン形成により除去されずに残った吸収層表面と、の反射率の差によって検査される。ここで、前者は反射層表面または保護層表面であり、通常は保護層表面である。したがって、検査光の波長に対する反射層表面または保護層表面と、吸収層表面と、の反射率の差が小さいと検査時のコントラストが悪くなり、正確な検査が出来ないことになる。検査光の波長に対する反射層表面または保護層表面と、吸収層表面と、の反射率の差が小さい場合は、低反射層の形成により、検査時のコントラストが良好となる。吸収層上に低反射層を形成する場合、該低反射層は、検査光の波長領域の光線を低反射層表面に照射した際に、該検査光の波長の最大反射率は、15%以下が好ましく、10%以下がより好ましく、5%以下がさらに好ましい。
【0057】
低反射層は、上記の特性を達成するため、検査光の波長の屈折率が吸収層よりも低い材料で構成されることが好ましい。
この特性を満たす低反射層としては、タンタル(Ta)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、ケイ素(Si)、ハフニウム(Hf)からなる群から選ばれる少なくともひとつと、酸素(O)および窒素(N)からなる群から選ばれる少なくともひとつと、を含有するものがある。このような低反射層の好適例としては、TaPdO層、TaPdON層、TaON層、CrO層、CrON層、SiON層、SiN層、HfO層、HfON層が挙げられる。
低反射層中のTa、Pd、Cr、Si、Hfの合計含有量は、10〜55at%、特に10〜50at%であると、パターン検査光の波長領域に対する光学特性を制御できるという理由で好ましい。
また、低反射層中におけるOおよびNの合計含有率が、45〜90at%、特に50〜90at%であると、パターン検査光の波長領域に対する光学特性を制御できるという理由で好ましい。なお、該低反射層中のTa、Pd、Cr、Si、Hf、OおよびNの合計含有率は95〜100at%が好ましく、97〜100at%がより好ましく、99〜100at%がさらに好ましい。
【0058】
吸収層上に低反射層を形成する場合、吸収層と低反射層との合計厚さは、40〜90nmが好ましい。また、低反射層の厚さが吸収層の厚さよりも大きいと、吸収層でのEUV光吸収特性が低下するおそれがあるので、低反射層の厚さは吸収層の厚さよりも小さいことが好ましい。このため、低反射層の厚さは1〜30nmが好ましく、1〜20nmがより好ましい。
【0059】
上記した構成の低反射層は、マグネトロンスパッタリング法やイオンビームスパッタリング法などのスパッタリング法を用いて形成できる。
スパッタリング法を用いて低反射層を形成した場合、反射多層膜20表面に形成された基準マーク30が、さらに低反射層に転写されて、凹状の転写マークとして低反射層表面に形成される。但し、上述したように、低反射層は厚さが小さいため、低反射層表面に形成された転写マークの傾斜角度は、吸収層表面に形成された転写マークの傾斜角度とほぼ同じ値になると考えられる。
【0060】
上記した構成の低反射層は、Ta、Pd、Cr、SiおよびHfのうち少なくともひとつ、を含有するターゲットを用いてスパッタリング法を行うことにより形成できる。ここで、ターゲットとしては、上述した2種類以上の金属ターゲット、および、化合物ターゲットのいずれも使用できる。
なお、2種類以上の金属ターゲットの使用は、低反射層の構成成分を調整するのに好都合である。なお、2種類以上の金属ターゲットを使用する場合、ターゲットへの投入電力を調整することによって、吸収層の構成成分を調整できる。一方、化合物ターゲットを使用する場合、形成される低反射層が所望の組成となるように、ターゲット組成をあらかじめ調整することが好ましい。
【0061】
上記のターゲットを用いたスパッタリング法は、吸収層の形成を目的とするスパッタリング法と同様、不活性ガス雰囲気中で実施できる。
但し、低反射層がOを含有する場合、He、Ar、Ne、KrおよびXeのうち少なくともひとつと、O
2と、を含む不活性ガス雰囲気中でスパッタリング法を実施する。低反射層がNを含有する場合、He、Ar、Ne、KrおよびXeのうち少なくともひとつと、N
2と、を含む不活性ガス雰囲気中でスパッタリング法を実施する。低反射層がOおよびNを含有する場合、He、Ar、Ne、KrおよびXeのうち少なくともひとつと、O
2およびN
2と、を含む不活性ガス雰囲気中でスパッタリング法を実施する。
【0062】
具体的なスパッタリング法の実施条件は、使用するターゲットやスパッタリング法を実施する不活性ガス雰囲気の組成によっても異なるが、いずれの場合においても以下の条件でスパッタリング法を実施すればよい。
不活性ガス雰囲気がArとO
2の混合ガス雰囲気の場合を例に低反射層の形成条件を以下に示す。
低反射層の形成条件
ガス圧:1.0×10
-1Pa〜50×10
-1Pa、好ましくは1.0×10
-1Pa〜40×10
-1Pa、より好ましくは1.0×10
-1Pa〜30×10
-1Pa。
スパッタリングガス:ArとO
2の混合ガス(O
2ガス濃度:3〜80vol%、好ましくは5〜60vol%、より好ましくは10〜40vol%)
投入電力:30〜1000W、好ましくは50〜750W、より好ましくは80〜500W
成膜速度:0.01〜60nm/min、好ましくは0.05〜45nm/min、より好ましくは0.1〜30nm/min
なお、Ar以外の不活性ガスあるいは複数の不活性ガスを使用する場合、その不活性ガスの合計濃度が上記したArガス濃度と同じ濃度範囲にする。また、不活性ガス雰囲気がN
2を含有する場合はN
2濃度、不活性ガス雰囲気がN
2およびO
2を含有する場合、その合計濃度を上記した酸素濃度と同じ濃度範囲にする。
【0063】
本発明の反射型マスクブランクにおいて、吸収層上に低反射層を形成することが好ましいのは、パターンの検査光の波長とEUV光の波長とが異なるからである。したがって、パターンの検査光としてEUV光(13.5nm付近)を使用する場合、吸収層上に低反射層を形成する必要はないと考えられる。検査光の波長は、パターン寸法が小さくなるに伴い短波長側にシフトする傾向があり、将来的には193nm、さらには13.5nmにシフトすることも考えられる。検査光の波長が13.5nmである場合、吸収層上に低反射層を形成する必要はないと考えられる。
【0064】
また、本発明の反射型マスクブランクは、上記の構成以外に、EUVL用の反射型マスクブランクの分野において公知の機能膜を有していてもよい。このような機能膜の具体例としては、例えば、特表2003−501823号公報に記載されているものように、基板の静電チャッキングを促すために、基板の裏面側に施される高誘電性コーティングが挙げられる。ここで、基板の裏面とは、
図1の基板10において、反射多層膜20が形成されている側とは反対側の面を指す。このような目的で基板の裏面に施す高誘電性コーティングは、シート抵抗が100Ω/□以下となるように、構成材料の電気伝導率と厚さを選択する。高誘電性コーティングの構成材料としては、公知の文献に記載されているものから広く選択できる。例えば、特表2003−501823号公報に記載の高誘電率のコーティング、具体的には、シリコン、TiN、モリブデン、クロム、またはTaSiからなるコーティングを適用できる。高誘電性コーティングの厚さは、例えば10〜1000nmとできる。
高誘電性コーティングは、公知の成膜方法、例えば、マグネトロンスパッタリング法、イオンビームスパッタリング法といったスパッタリング法、CVD法、真空蒸着法、または電解メッキ法を用いて形成できる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を用いて本発明をさらに説明する。
実施例1
本実施例では、
図3,4に示す反射型マスクブランクを作製する。
成膜用の基板10として、SiO
2−TiO
2系のガラス基板(外形6インチ(152.4mm)角、厚さが6.3mm)を使用する。このガラス基板の熱膨張率は0.2×10
-7/℃、ヤング率は67GPa、ポアソン比は0.17、比剛性は3.07×10
7m
2/s
2である。このガラス基板を研磨により、Rqが0.15nm以下の平滑な表面と100nm以下の平坦度に形成する。
【0066】
基板10の裏面側には、マグネトロンスパッタリング法を用いて厚さ100nmのCr膜を成膜することによって、シート抵抗100Ω/□の高誘電性コーティング(図示していない)を施す。
平板形状をした通常の静電チャックに、上記の手順で形成されるCr膜を用いて基板10(外形6インチ(152.4mm)角、厚さ6.3mm)を固定して、該基板10の表面上にイオンビームスパッタリング法を用いてMo膜およびSi膜を交互に成膜することを50周期繰り返すことにより、合計膜厚340nm((2.3nm+4.5nm)×50)のMo/Si反射多層膜(反射多層膜20)を形成する。この反射多層膜20は、パターニング時の露光領域が132×104mm□である。反射多層膜20表面のうち、この露光領域より外側の部位、具体的には、反射多層膜20の四隅に、FIB法により、凹状の基準マーク30を形成する(
図1,2参照)。
この基準マーク30は、
図2に示すように平面形状が十字形状である。十字形状の寸法は、十字形状をなす2つの長方形の長さが1mmであり、該2つの長方形の幅が1μmである。
この基準マーク30をなす凹部の深さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定する。
該凹部の深さは78nmである。
次に、反射多層膜20上に、吸収層40としてTaN層を、マグネトロンスパッタリング法を用いて形成して、
図3,4に示す反射型マスクブランクを得る。
TaN層の成膜条件は以下のとおりである。
TaN層の成膜条件
ターゲット:Taターゲット
スパッタリングガス:ArとN
2の混合ガス(Ar:86vol%、N
2:14vol%、ガス圧:0.1Pa)
膜厚t:80nm
【0067】
スパッタリング法を用いて吸収層40を形成することにより、反射多層膜20表面に形成された基準マーク30が吸収層40に転写されて、凹状の転写マーク50として吸収層40表面に形成される。
この転写マーク50は、
図4に示すように平面形状が十字形状である。
この転写マーク50をなす凹部の深さを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定する。転写マーク50をなす凹部の深さは78nmである。
上記の手順で得られる反射型マスクについて、転写マーク50の検出性を下記手順で評価する。結果を下記表に示す。
転写マークの検出性の評価は、半導体国際規格(SEMI規格)に基づき、ラインエッジラフネス(LER)の測長によって行う。測長走査型電子顕微鏡(CD−SEM)にて、転写マークの真上からの像を観察し、転写マークのエッジ部のLERの3σ(nm)を測長する。
評価基準は以下に示す通り。
○:3σ≦8nm
△:8nm<3σ≦40nm
×:40nm<3σ
上記の評価で△のものは、電子線描画装置(加速電圧:50kV)を用いても転写マークが検出される。さらに上記の評価で○のものは、電子線描画装置(加速電圧:50kV)を用いても転写マークが検出され、かつ検出位置再現性も良好である。
【0068】
また、上記の手順で得られる反射型マスクについて、基準マーク30をなす凹部の傾斜角度α、および、転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βを、上述した手順により断面SEM像を元にした画像処理によって測定する。基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αは34°であり、転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βは74°であり、転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βと基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αと、の差(傾斜角度β−傾斜角度α)は40°である。
【0069】
(実施例2)
FIB法を用いて反射多層膜20表面に形成される基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αが32°であり、該凹部の深さは80nmである点、および、吸収層40としてのTaN層の成膜条件のうち、投入電力が実施例1(P)の半分(1/2P)である点以外は実施例1と同様の手順を実施する。転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βは63°であり、該凹部の深さは80nmである。転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βと基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αと、の差(傾斜角度β−傾斜角度α)は31°である。
【0070】
(実施例3)
FIB法を用いて反射多層膜20表面に形成される基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αが31°であり、該凹部の深さは81nmである点、および、吸収層40としてのTaN層の成膜条件のうち、投入電力が実施例1(P)の1/4(1/4P)である点以外は実施例1と同様の手順を実施する。転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βは55°であり、該凹部の深さは81nmである。転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βと基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αと、の差(傾斜角度β−傾斜角度α)は24°である。
【0071】
(実施例4)
FIB法を用いて反射多層膜20表面に形成される基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αが30°であり、該凹部の深さは79nmである点、および、吸収層40としてのTaN層の成膜条件のうち、ガス圧が0.3Paであり、投入電力が実施例1(P)の半分(1/2P)である点以外は実施例1と同様の手順を実施する。転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βは41°であり、該凹部の深さは79nmである。転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βと基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αと、の差(傾斜角度β−傾斜角度α)は11°である。
【0072】
(実施例5)
FIB法を用いて反射多層膜20表面に形成される基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αが28°であり、該凹部の深さは78nmである点、および、吸収層40としてのTaN層の成膜条件のうち、ガス圧が0.3Paであり、投入電力が実施例1(P)の半分(1/2P)であり、TaN層の膜厚が40nmであること以外は実施例1と同様の手順を実施する。転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βは38°であり、該凹部の深さは78nmである。転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βと基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αと、の差(傾斜角度β−傾斜角度α)は10°である。
【0073】
(比較例1)
FIB法を用いて反射多層膜20表面に形成される基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αが26°であり、該凹部の深さは82nmである点、および、吸収層40としてのTaN層の成膜条件のうち、ガス圧が0.3Paであり、投入電力が実施例1(P)の1/4(1/4P)である点以外は実施例1と同様の手順を実施する。転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βは30°であり、該凹部の深さは82nmである。転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βと基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αと、の差(傾斜角度β−傾斜角度α)は4°である。
【0074】
(比較例2)
FIB法を用いて反射多層膜20表面に形成される基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αが25°であり、該凹部の深さは81nmである点、および、吸収層40としてのTaN層の成膜条件のうち、ガス圧が0.5Paであり、投入電力が実施例1(P)の1/2(1/2P)である点以外は実施例1と同様の手順を実施する。転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βは26°であり、該凹部の深さは81nmである。転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βと基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αと、の差(傾斜角度β−傾斜角度α)は1°である。
【0075】
(比較例3)
FIB法実施時のプローブ電流を小さくして、長時間加工することにより、反射多層膜20表面に形成される基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αを73°、該凹部の深さを80nmとする点、および、吸収層40としてのTaN層の成膜条件のうち、ガス圧が0.3Paであり、投入電力が実施例1(P)の1/2(1/2P)である点以外は実施例1と同様の手順を実施する。転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βは85°であり、該凹部の深さは80nmである。転写マーク50をなす凹部の傾斜角度βと基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αと、の差(傾斜角度β−傾斜角度α)は12°である。
【0076】
【表1】
表から明らかなように、傾斜角度βが35〜80°であり、傾斜角度β−傾斜角度αが10°以上である実施例1〜5は、いずれも転写マークの検出性が△もしくは○である。特に傾斜角度βが50〜65°の実施例2,3は転写マークの検出性が○である。
傾斜角度βが35°未満であり、傾斜角度β−傾斜角度αが10°未満である比較例1,2は、いずれも転写マークの検出性が×である。
FIB法実施時のプローブ電流を小さくして、長時間加工することにより、基準マーク30をなす凹部の傾斜角度αを73°とした比較例3は、FIB法による加工を長時間実施することにより、基準マークの形成面がダメージを受ける。その結果、転写マークの検出性が×であり、反射型マスクブランクに欠点が多い。