特許第6586960号(P6586960)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6586960塩化アルカリ電解用イオン交換膜及び塩化アルカリ電解装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6586960
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】塩化アルカリ電解用イオン交換膜及び塩化アルカリ電解装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 13/08 20060101AFI20191001BHJP
   C25B 1/46 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   C25B13/08 303
   C25B1/46
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-557831(P2016-557831)
(86)(22)【出願日】2015年11月6日
(86)【国際出願番号】JP2015081377
(87)【国際公開番号】WO2016072506
(87)【国際公開日】20160512
【審査請求日】2018年7月26日
(31)【優先権主張番号】特願2014-227273(P2014-227273)
(32)【優先日】2014年11月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】山木 泰
(72)【発明者】
【氏名】金子 隆之
(72)【発明者】
【氏名】草野 博光
(72)【発明者】
【氏名】西尾 拓久央
(72)【発明者】
【氏名】梅村 和郎
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−140843(JP,A)
【文献】 特開2014−058707(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/129399(WO,A1)
【文献】 特開2013−163857(JP,A)
【文献】 特開平08−120100(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102336043(CN,A)
【文献】 中国特許出願公開第103014758(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 13/08
C25B 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(C)、2層以上のスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(S)、及び補強材を含む塩化アルカリ電解用イオン交換膜であって、
前記層(S)は、層(Sa)と層(Sb)とを含み、前記層(Sa)は前記層(C)に隣接する層であり、前記層(Sb)は前記層(C)に隣接しない層であり、
補強材は、前記層(Sa)とは接しない状態で、前記層(Sb)中に層(Sb)と略並行に配置され、
補強材は、層(S)の厚さに対する、層(Sb)のうちの補強材を介して層(C)とは反対側に位置する層(Sb)の厚さの比が、0.05〜0.6となる位置に配置され、
層(Sb)の厚さに対する、層(Sa)の厚さの比が0.4以下であり、
かつ、前記層(Sa)のイオン交換容量が前記層(Sb)のイオン交換容量よりも低く、層(C)のイオン交換容量と、層(Sa)のイオン交換容量の差が0.5ミリ当量/グラム乾燥樹脂以下であることを特徴とする塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
【請求項2】
層(Sa)のイオン交換容量と(Sb)のイオン交換容量の差が、0.01〜0.5ミリ当量/グラム乾燥樹脂である請求項1に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
【請求項3】
層(Sb)のイオン交換容量が0.51〜2.01ミリ当量/グラム乾燥樹脂である請求項1又は2に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
【請求項4】
層(Sa)の厚さが1〜50μmである請求項1〜のいずれか一項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
【請求項5】
補強材を介して層(C)側に位置する層(Sa)と層(Sb)との厚さの合計が30〜140μmであり、補強材を介して層(C)とは反対側に位置する層(Sb)の厚さが10〜60μmである請求項1〜のいずれか一項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
【請求項6】
層(C)のイオン交換容量が0.5〜2.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂であり、層(Sa)のイオン交換容量が0.5〜2.0である請求項1〜のいずれか一項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
【請求項7】
層(C)の厚さが5〜50μmである請求項1〜のいずれか一項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
【請求項8】
陰極及び陽極を備える電解槽と、前記電解槽内を前記陰極側の陰極室と前記陽極側の陽極室とに区切るように層(C)が陰極側となり、かつ、層(S)が陽極側となるように前記電解槽内に装着された請求項1〜のいずれか一項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜とを有する、塩化アルカリ電解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化アルカリ電解用イオン交換膜及び塩化アルカリ電解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
海水等の塩化アルカリ水溶液を電解し、水酸化アルカリと塩素とを製造する塩化アルカリ電解法に用いられるイオン交換膜としては、イオン交換基(カルボン酸型官能基、スルホン酸型官能基等)を有する含フッ素ポリマーからなる電解質膜が知られている。電解質膜は、機械的強度や寸法安定性を維持する点から、通常、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記す。)糸等を平織りした織布からなる補強材で補強される。
【0003】
補強材を有する塩化アルカリ電解用イオン交換膜としては、例えば、以下の(1)〜(4)が順に積層されたイオン交換膜が知られている(特許文献1)。
(1)カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含むイオン交換容量が0.8ミリ当量/グラム乾燥樹脂のポリマーA層、
(2)スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含むイオン交換容量が0.98ミリ当量/グラム乾燥樹脂のポリマーB層、
(3)補強材、
(4)スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含むイオン交換容量が1.05ミリ当量/グラム乾燥樹脂のポリマーC層。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−163858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
イオン交換膜に使用されるカルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーは、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーと比較して、イオン交換容量が低く、含水率も低いものが使用されることが多い。そのため、特許文献1のイオン交換膜は、膜抵抗を低くするために、ポリマーB層のイオン交換容量を高くすると、陽極室内で液循環が不充分な部分が発生した場合、ポリマーB層とポリマーA層のイオン交換容量の相違により含水率差が大きくなり、ポリマーB層とC層の間で電気透析水の差による剥離(いわゆる、水ブリスター)が生じることがある。一方、ポリマーB層のイオン交換容量を小さくすると、水ブリスターによる剥離は抑制され、剥離耐性は向上するものの、イオン交換容量が小さいことにより、膜抵抗が高くなって電解電圧が上昇してしまう。ポリマーB層のイオン交換容量を小さくして剥離耐性を確保しつつ、イオン交換容量の小さいポリマーB層を、なるべく薄くして膜抵抗を下げる方法も考えられるが、ポリマーB層が薄いと、補強材がよりポリマーA層に近い位置になり、補強材によるアルカリ金属イオンの移動の遮蔽の影響が顕著となり、膜抵抗はかえって高くなってしまう。
このように、従来のイオン交換膜の構成においては、電解電圧と剥離耐性の双方が充足されたイオン交換膜を得ることは難しかった。
【0006】
本発明は、膜強度が高く、膜抵抗が低く塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減でき、かつ、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(S)とカルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(C)の間での、剥離を抑制できる塩化アルカリ電解用イオン交換膜、及び該塩化アルカリ電解用イオン交換膜を用いた塩化アルカリ電解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨は、以下の[1]〜[11]にある。
[1]カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(C)、2層以上のスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(S)、及び補強材を含む塩化アルカリ電解用イオン交換膜であって、
前記層(S)は、層(Sa)と層(Sb)とを含み、前記層(Sa)は前記層(C)に隣接する層であり、前記層(Sb)は前記層(C)に隣接しない層であり、
補強材は、前記層(Sa)とは接しない状態で、前記層(Sb)中に層(Sb)と略並行に配置され、
かつ、前記層(Sa)のイオン交換容量が前記層(Sb)のイオン交換容量よりも低いことを特徴とする塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
[2]層(Sa)のイオン交換容量と(Sb)のイオン交換容量の差が、0.01〜0.5ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、上記[1]に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
[3]層(Sb)のイオン交換容量が0.51〜2.01ミリ当量/グラム乾燥樹脂である、上記[1]又は[2]に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
[4]補強材が、層(S)の厚さに対する、層(Sb)のうちの補強材を介して層(C)とは反対側に位置する層(Sb)の厚さの比が、0.05〜0.6となる位置に配置される、上記[1]〜[3]のいずれかに記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
[5]層(Sb)の厚さに対する、層(Sa)の厚さの比が0.4以下である、上記[1]〜[4]のいずれかに記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
[6]層(Sa)の厚さが1〜50μmである、上記[1]〜[5]のいずれかに記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
[7]補強材を介して層(C)側に位置する層(Sa)と層(Sb)との厚さの合計が30〜140μmであり、補強材を介して層(C)とは反対側に位置する層(Sb)の厚さが10〜60μmである、上記[1]〜[6]のいずれかに記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
[8]層(C)のイオン交換容量と、層(Sa)のイオン交換容量の差が0.5ミリ当量/グラム乾燥樹脂以下である、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
[9]層(C)のイオン交換容量が0.5〜2.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂であり、層(Sa)のイオン交換容量が0.5〜2.0である、上記[1]〜[8]のいずれかに記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
[10]層(C)の厚さが5〜50μmである、上記[1]〜[9]のいずれかに記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
[11]陰極及び陽極を備える電解槽と、前記電解槽内を前記陰極側の陰極室と前記陽極側の陽極室とに区切るように層(C)が陰極側となり、かつ、層(S)が陽極側となるように前記電解槽内に装着された、上記[1]〜[10]のいずれかに記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜とを有する、塩化アルカリ電解装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜は、膜強度が高く、膜抵抗が低く塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減でき、かつ層(S)と層(C)の間で剥離が生じることを抑制することができる。
本発明の塩化アルカリ電解装置は、塩化アルカリ電解用イオン交換膜の膜強度を高く、層(S)と層(C)の間で剥離を生じにくく、また、膜抵抗が低く塩化アルカリ電解時の電解電圧を低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の一例を示した模式断面図である。
図2】本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の他の例を示した模式断面図である。
図3】本発明の塩化アルカリ電解装置の一例を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の用語の定義は、本明細書及び特許請求の範囲にわたって適用される。
「イオン交換基」とは、該基に含まれるイオンの少なくとも一部が、他のイオンに交換し得る基である。
「カルボン酸型官能基」とは、カルボン酸基(−COOH)、又はCOOM(ただし、Mはアルカリ金属又は第4級アンモニウム塩基である。)を意味する。
「スルホン酸型官能基」とは、スルホン酸基(−SOH)、又はSO(ただし、Mはアルカリ金属又は第4級アンモニウム塩基である。)を意味する。
「イオン交換基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の公知の処理によってイオン交換基に変換できる基を意味する。
「カルボン酸型官能基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の公知の処理によって、カルボン酸型官能基に変換できる基を意味する。
「スルホン酸型官能基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の公知の処理によって、スルホン酸型官能基に変換できる基を意味する。
「ペルフルオロカーボンポリマー」とは、ポリマー中の炭素原子に結合している水素原子の全部が、フッ素原子に置換されたポリマーを意味する。ペルフルオロカーボンポリマー中のフッ素原子の一部は、塩素原子又は臭素原子に置換されていてもよい。
「モノマー」とは、重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する化合物を意味する。
「構成単位」とは、ポリマー中に存在してポリマーを構成する、モノマーに由来する部分を意味する。炭素−炭素不飽和二重結合を有するモノマーの付加重合により生じる、該モノマーに由来する構成単位は、該不飽和二重結合が開裂して生じた2価の構成単位である。また、ある構成単位の構造を、ポリマー形成後に化学的に変換したものも構成単位という。なお、以下、場合により、個々のモノマーに由来する構成単位をそのモノマー名に「構成単位」を付した名称で呼ぶ。
本発明においては、「スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(S)」は層(Sa)と層(Sb)を含む2層以上が存在するが、単に「層(S)」と記載した場合は、これら複数の層の全てを意味する。
「層(Sb)」は1層又は複数の層となるが、層が複数層からなる場合の、「層(Sb)」とは複数層の全てを意味する。
本発明において、製造工程にて、同一の型の官能基を有し、かつ、同じイオン交換容量の層同士、或いはフィルム同士であって、これらの層やフィルムを、互いに接合して形成された層は一つの層とみなす。
【0011】
本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜は、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(C)と、2層以上のスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(S)、及び補強材を含み、層(C)と層(S)とが積層されたイオン交換膜である。
また、後述する層(S)中の層(Sb)中には、補強材が配置されており、補強材によりイオン交換膜の機械的強度や寸法安定性が向上する。
層(S)は2層以上の層からなる複層構造となっている。層(S)は、層(Sa)と層(Sb)とを含み、層(Sa)は層(C)に隣接する層であり、層(Sb)は前記層(C)に隣接しない層である。これらの層(S)のうち、層(C)に接する層(Sa)は補強材と接しない層であり、層(C)に接しない層(Sb)は、単層又は2層以上の層の積層体である。なお、層(Sb)が複数層からなる場合は、層(Sb)と記載した場合は、複数層の全ての層を意味する。
補強材は、前記層(Sa)とは接しない状態で、前記層(Sb)中に層(Sb)と略並行に配置されている。
【0012】
図1図2は、本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の一例を示す模式断面図である。図1の塩化アルカリ電解用イオン交換膜1(以下、「イオン交換膜1」と記す。)では、補強材20は層(Sb)16に配置されており、層(Sa)14とは接していない。また、図2の塩化アルカリ電解用イオン交換膜2(以下、「イオン交換膜2」と記す。)では、補強材20は層(Sb)18Aと層(Sb)18Bの間に積層され、層(Sa)14とは接していない。このように、補強材が層(Sb)に中に配置されることにより、層(Sa)と補強材とが接しない構造となる。補強材は、層(Sb)に埋設されていてもよく、2層の層(Sb)間に積層されていてもよい。
また、層(Sa)のイオン交換容量は、層(Sb)のイオン交換容量よりも低い。
【0013】
本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜は、イオン交換基を有する含フッ素ポリマーを含む電解質膜が、補強材で補強された構成を有する。
電解質膜は、高い電流効率を発現する機能を有し、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーからなる層(C)と、2層以上のスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーからなる層(S)とからなる積層膜である。層(S)は層(Sa)、及び1層又は2層以上からなる層(Sb)の2層以上の層を含む。
層(Sb)は1層でもよく、2層以上からなっていてもよい。
補強材は、層(S)内の層(Sa)とは接しない状態で、層(Sb)中に、層(Sb)と略並行に配置されている。
なお、各層の境界面が明確に存在しない場合、例えば、各層の界面が、連続的にイオン交換容量が変化するような界面であった場合には、隣接する2層の各イオン交換容量の中間の値を有する点を、層の界面とする。
【0014】
本発明のイオン交換膜においては、層(Sa)のイオン交換容量が、層(Sb)のイオン交換容量よりも低い点が特徴の一つである。
電解質膜の層(C)を形成するカルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーは、層(S)を形成するスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーと比較して、イオン交換容量が低く、含水率も低いポリマーが使用されることが多い。剥離耐性を向上させるには、層(S)を構成するポリマーとして、イオン交換容量が低く、含水率も低いポリマーを使用することが考えられる。しかし、イオン交換容量の低いスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを使用すると、剥離耐性は向上するものの、電解電圧が上昇してしまう。
本発明のイオン交換膜では、よりイオン交換容量の低い層(Sa)を設けて、イオン交換容量が低いポリマーの使用割合を少なくするとともに、層(Sb)にイオン交換容量がより高いポリマーを使用することにより膜抵抗を低減させた。
【0015】
イオン交換膜を構成する補強材は、前記層(Sa)とは接しない状態で、層(Sb)中に、層(Sb)と略並行に配置される。補強材は、一つの層(Sb)の中に配置されていてもよいし、二つの層(Sb)の間に積層されて配置されていてもよい。補強材が層(C)に近い位置であると、遮蔽の影響で膜抵抗が上昇してしまう。そこで、本発明のイオン交換膜では、補強材は層(Sa)とは接しない状態で、層(Sb)中に配置される。これにより、膜抵抗を下げても電解電圧を低くできる。
補強材は、層(Sb)中の、層(C)とは反対側のイオン交換膜表面に近い位置に配置することが好ましい。ここで、補強材の位置がイオン交換膜表面に非常に近い位置であった場合には、補強材によってイオン交換膜の表面に凹凸が生じる場合があるが、このような場合であっても、本発明の効果に何ら影響はない。
【0016】
補強材を介して層(C)とは反対側に位置する層(Sb)の厚さは、10〜60μmが好ましく、10〜40μmがより好ましい。該層(Sb)の厚さが前記下限値以上であれば、補強材が電解質膜中に収まり、補強材の剥離耐性が向上する。また、電解質膜の表面に補強材が近づきすぎることがなく、電解質膜の表面にクラックが入りにくく、その結果、機械的強度の低下が抑えられる。また、該層(Sb)の厚さが前記上限値以下であれば、イオン交換膜の膜抵抗が充分に低く抑えられ、電解電圧の上昇が充分に抑えられる。
【0017】
補強材を介して層(C)側に位置する層(S)(すなわち、層(Sa)と層(Sb))の厚さの合計は、30〜140μmが好ましく、30〜100μmがより好ましい。補強材を介して層(C)側に位置する層(S)の厚さの合計値が前記下限値以上であれば、イオン交換膜の機械的強度が充分に高く、前記上限値以下であれば、イオン交換膜の膜抵抗が充分に低く抑えられ、電解電圧の上昇が充分に抑えられる。
【0018】
層(S)中の補強材の相対的な位置は、層(S)の厚さに対する、補強材を介して層(C)とは反対側に位置する層(Sb)の厚さの比が、0.05〜0.6となる位置が好ましく、0.05〜0.5となる位置がより好ましく、0.05〜0.4となる位置がさらに好ましい。前記比の下限値以上であれば、層(Sb)の表面にクラックが入りにくくイオン交換膜の機械的強度が充分に高くなり、上限値以下であれば遮蔽による影響を抑制しつつイオン交換膜を薄くすることができ、電解電圧を低減できる。
【0019】
層(Sa)は層(Sb)よりもイオン交換容量が低いので、電解電圧を低減するためにはできるだけ薄い層とすることが好ましい。しかし、従来のイオン交換膜の構成では、層(Sa)を薄い層とすると、補強材の位置が層(C)と近くなり、遮蔽の影響が大きくなり、かえって電解電圧が高くなることがあった。しかし、本発明のイオン交換膜によれば、層(Sa)が薄い層であったとしても、補強材の位置を層(C)から離れた位置とすることが可能であり、より低い電解電圧を実現することが可能である。
【0020】
すなわち、本発明のイオン交換膜は、層(S)を複数の層として、層(Sa)のイオン交換容量を層(Sb)のそれよりも低くすることにより、剥離耐性を確保しつつ、層(Sb)のイオン交換容量を高くして、より膜抵抗を低くした。さらに、補強材を層(Sa)に接しないようにすることにより、補強材を層(C)から離れた位置として、遮蔽の影響を小さくし、膜抵抗を小さくした。
このように、本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜は、従来トレードオフの関係にあった、低い電解電圧と高い剥離耐性とを両立し、非常に低い電解電圧を実現しつつ、剥離耐性が高いイオン交換膜となっている。
【0021】
層(C)は、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層である。カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーとしては、例えば、カルボン酸型官能基を有する含フッ素モノマーに由来する構成単位と、含フッ素オレフィンに由来する構成単位とを有する共重合体が挙げられる。
カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーは、後述する工程(b)にて、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーの、カルボン酸型官能基に変換できる基をカルボン酸型官能基に転換することによって得られる。
【0022】
層(C)のイオン交換容量は、0.5〜2.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましく、0.7〜1.1ミリ当量/グラム乾燥樹脂がより好ましい。層(C)のイオン交換容量が下限値以上であれば、膜の電気抵抗が低くなり、電解電圧を低くできる。イオン交換容量が上限値以下であれば、分子量の高いポリマーの合成が容易であり、また、ポリマーの過度の膨潤が抑えられる。
【0023】
層(C)の厚さは、5〜50μmが好ましく、10〜35μmがより好ましい。層(C)の厚さが前記下限値以上であれば、高い電流効率が発現しやすい。また、塩化ナトリウムの電解を行った場合には、製品となる水酸化ナトリウム中の塩化ナトリウム量を少なくできる。層(C)の厚さが前記上限値以下であれば、イオン交換膜の膜抵抗が低く抑えられ、電解電圧が低くなりやすい。
【0024】
層(S)はスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層であり、層(C)に隣接する層(Sa)と、層(C)と接しない層(Sb)とを含み、層(Sa)、層(Sb)及び補強材からなる。層(S)は2層以上が積層された積層構造、すなわち、層(Sa)と層(Sb)の1層以上とが積層された構造を有する。
スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーとしては、スルホン酸型官能基を有する含フッ素モノマーに由来する構成単位と、含フッ素オレフィンに由来する構成単位を有する共重合体が挙げられる。スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーは、後述する工程(b)にて、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーの、スルホン酸型官能基に変換できる基をスルホン酸型官能基に転換することによって得てもよい。
【0025】
本発明においては、層(Sa)のイオン交換容量は、層(Sb)のイオン交換容量よりも低い。層(Sb)が複数層の場合は、層(Sb)における全ての層(Sb)のイオン交換容量よりも、全ての層(Sa)のイオン交換容量の方が低くなっているのが好ましい。
層(Sa)のイオン交換容量を低くすることにより、層(Sa)と層(C)の水の移動量の差が小さくなるため剥離耐性が向上する。これは、層(Sa)と層(C)との含水率の差が小さくなることにより、水の移動量の差が小さくなったためと考えられる。
また、層(Sb)のイオン交換容量を高くすることにより、層(S)全体としてイオン交換容量を充分に高く保持できるため、膜全体としての膜抵抗が充分に小さくなり、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低くすることができる。
【0026】
層(Sa)のイオン交換容量と、層(Sb)のイオン交換容量との差は、0.01〜0.5ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましく、0.03〜0.3ミリ当量/グラム乾燥樹脂がより好ましい。前記イオン交換容量の差が前記下限値以上であれば、剥離耐性が向上する。前記イオン交換容量の差が前記上限値以下であれば、層(Sb)のイオン交換容量を充分に高く保持できるため、膜全体としての膜抵抗が充分に小さくなり、塩化アルカリ電解時の電解電圧が低くなる。
【0027】
層(C)と層(Sa)のイオン交換容量の差は、0.5ミリ当量/グラム乾燥樹脂以下が好ましく、0.35ミリ当量/グラム乾燥樹脂以下がより好ましい。層(C)と層(Sa)のイオン交換容量の差が前記上限値以下であれば剥離耐性が向上する。
また、層(C)と層(Sa)の含水率の差は、15.5%以下が好ましく、13%以下がより好ましい。
層(C)と層(Sa)の含水率の差が前記上限値以下であれば剥離耐性が向上する。
【0028】
層(Sa)のイオン交換容量は、0.5〜2.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましく、0.8〜2.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂がより好ましい。層(Sa)のイオン交換容量が前記下限値以上であれば、イオン交換膜の膜抵抗を低くしやすく、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低くしやすい。層(Sa)のイオン交換容量が前記上限値以下であれば剥離耐性が向上する。
【0029】
層(Sb)のイオン交換容量は、電解電圧の低減の観点からは高い方がより好ましい。しかし、イオン交換容量が高いスルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーは、合成が難しく、機械的強度が低下する傾向にある。
層(Sb)のイオン交換容量は、0.51〜2.01ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましく、0.9〜2.01ミリ当量/グラム乾燥樹脂がより好ましい。層(Sb)のイオン交換容量が前記下限値以上であれば、イオン交換膜の膜抵抗を低くしやすく、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低くしやすい。層(Sb)のイオン交換容量が前記上限値以下であれば、膜としての強度を維持できる。
【0030】
層(Sb)の厚さに対する、層(Sa)の厚さの比は、0.4以下が好ましい。層(Sa)の厚さと比較して層(Sb)が厚いと、イオン交換膜の膜抵抗を低くしやすく、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低くしやすい。層(Sb)の厚さと比較して層(Sa)が薄いと剥離耐性が向上する。
前記比の下限値は、0.01が好ましく、0.04がより好ましい。前記比が前記下限値以上であれば、単層フィルム成形が容易となる。
【0031】
層(Sa)の厚さは、1〜50μmが好ましく、1〜40μmがより好ましい。層(Sa)の厚さが前記下限値以上であれば剥離耐性が向上する。層(Sa)の厚さが前記上限値以下であれば、膜抵抗を低くしやすく、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低くしやすい。
【0032】
本発明における補強材としては、織布、不織布、フィブリル、多孔体等が挙げられ、強度の点から、織布が好ましい。補強材の材料としては、PTFE等の含フッ素ポリマーが挙げられる。補強材は、層(Sa)とは接しない状態で、層(Sb)中に、層(Sb)と略並行に配置される。
補強材の形状は薄膜状であり、その厚みは60〜150μmが好ましく、80〜130μmがより好ましい。また、層(Sb)中に、層(Sb)と略平行に配置されるとは、Sb層がSa層と接する面と補強材との距離が電解槽で使用する範囲でほぼ均一である状態で配置されることを意味する。
【0033】
本発明のイオン交換膜の製造方法は、例えば、下記の工程(a)及び(b)を経て製造する方法が好ましい。
工程(a):イオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体膜を、補強材で補強された強化前駆体膜として得る工程。
工程(b):工程(a)で得た強化前駆体膜を、アルカリ性水溶液に接触させることによって、イオン交換基に変換できる基を加水分解してイオン交換基に変換し、イオン交換膜を得る工程。
【0034】
工程(a)では、共押出法によって、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーからなる前駆体層(C’)と、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーからなる前駆体層(S’a)との積層膜を得る。
また、層(Sb)については、別途、単層押出法によって、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーからなる前駆体層(S’b−1)と前駆体層(S’b−2)とを得る。
次いで、前駆体層(S’b−2)、補強材、前駆体層(S’b−1)、前駆体層(S’a)及び前駆体層(C’)の順に配置し、積層ロール又は真空積層装置を用いて、これらを積層する。この際、前駆体層(S’a)と前駆体層(C’)との積層膜は、前駆体層(S’a)が前駆体層(S’b−1)に接するように配置する。
前駆体層(S’a)は、工程(b)で、イオン交換基に変換できる基をイオン交換基に変換した後に層(Sa)となる。
前駆体層(S’b−1)と前駆体層(S’b−2)を接合した層は、工程(b)で、イオン交換基に変換できる基をイオン交換基に変換した後に層(Sb)となる。ここで、前駆体層(S’b−1)と前駆体(S’b−2)の加水分解処理後のイオン交換容量が同じ場合は、層(Sb)は単層となり、異なる場合は、層(Sb)は2層となる。
他の方法としては、層押出法によって、前駆体(C’)、前駆体(S’a)、及び前駆体(S’b−1)の積層膜を得て、別途、単層押出法によって、前駆体層(S’b−2)を得た後に、それらと補強材とを積層する方法が挙げられる。
【0035】
工程(a)における、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーとしては、例えば、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーに由来する構成単位と、含フッ素オレフィンに由来する構成単位とを有する共重合体が挙げられる。
【0036】
カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとしては、分子中に1個以上のフッ素原子を有し、エチレン性の二重結合を有し、かつ、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する化合物であれば、特に限定されず、従来から公知のものを用いることができる。
【0037】
前記含フッ素モノマーとしては、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性等に優れる点から、下式(1)で表されるモノマーが好ましい。
CF=CF−(O)−(CF−(CFCFX)−(O)−(CF−(CFCFX’)−A ・・・(1)。
【0038】
式(1)におけるXは、フッ素原子又はトリフルオロメチル基である。また、X’は、フッ素原子又はトリフルオロメチル基である。1分子中にX及びX’の両方が存在する場合、及びX、X’が2以上存在する場合、それぞれは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0039】
は、カルボン酸型官能基に変換できる基であり、加水分解によって、カルボン酸型官能基に変換し得る官能基である。カルボン酸型官能基に変換し得る官能基としては、−CN、−COF、−COOR(ただし、Rは炭素原子数1〜10のアルキル基である。)、−COONR(ただし、R及びRは、水素原子又は炭素原子数1〜10のアルキル基である。R及びRは、同一であってもよく、異なっていてもよい。)等が挙げられる。
【0040】
pは、0又は1であり、qは、0〜12の整数であり、rは、0〜3の整数であり、sは、0又は1であり、tは、0〜12の整数であり、uは、0〜3の整数である。ただし、p及びsが同時に0になることはなく、r及びuが同時に0になることはない。すなわち、1≦p+sであり、1≦r+uである。
【0041】
式(1)で表されるモノマーの具体例としては、下記の化合物が挙げられる。製造が容易である点から、p=1、q=0、r=1、s=0〜1、t=1〜3、u=0〜1である化合物が好ましい。
CF=CF−O−CFCF−COOCH
CF=CF−O−CFCF−CF−COOCH
CF=CF−O−CFCF−CFCF−COOCH
CF=CF−O−CFCF−O−CFCF−COOCH
CF=CF−O−CFCF−O−CFCF−CF−COOCH
CF=CF−O−CFCF−O−CFCF−CFCF−COOCH
CF=CF−O−CF−CFCF−O−CFCF−COOCH
CF=CF−O−CFCF(CF)−O−CFCF−COOCH
CF=CF−O−CFCF(CF)−O−CF−CFCF−COOCH
カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーは、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0042】
含フッ素オレフィンとしては、例えば、分子中に1個以上のフッ素原子を有する、炭素原子数が2〜3のフルオロオレフィンが挙げられる。フルオロオレフィンとしては、テトラフルオロエチレン(CF=CF)(以下、TFEと記す。)、クロロトリフルオロエチレン(CF=CFCl)、フッ化ビニリデン(CF=CH)、フッ化ビニル(CH=CHF)、ヘキサフルオロプロピレン(CF=CFCF)等が挙げられる。なかでも、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、TFEが特に好ましい。
含フッ素オレフィンは、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
本発明においては、層(C)を形成する含フッ素ポリマーに、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマー及び含フッ素オレフィンに加えて、さらに、他のモノマーを用いてもよい。他のモノマーとしては、CF=CF−R(ただし、Rは炭素原子数2〜10のペルフルオロアルキル基である。)、CF=CF−ORf1(ただし、Rf1は炭素原子数1〜10のペルフルオロアルキル基である。)、CF=CFO(CFCF=CF(ただし、vは1〜3の整数である。)等が挙げられる。他のモノマーを共重合させることによって、イオン交換膜の可撓性や機械的強度を向上できる。
他のモノマーの割合は、イオン交換性能の維持の点から、全モノマー(100質量%)のうち30質量%以下が好ましく、特に、5〜25質量%が好ましい。また、他のモノマーの割合は、含フッ素ポリマー中の全構成単位(100モル%)のうち30モル%以下が好ましく、特に、5〜20モル%が好ましい。
【0044】
カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーの分子量は、イオン交換膜としての機械的強度及び製膜性の点から、TQ値で150℃以上が好ましく、170〜340℃がより好ましく、170〜300℃がさらに好ましい。
【0045】
前記工程(a)において、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーとしては、例えば、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーに由来する構成単位と、含フッ素オレフィンに由来する構成単位とを有する共重合体が挙げられる。
【0046】
前記含フッ素モノマーとしては、分子中に1個以上のフッ素原子を有し、エチレン性の二重結合を有し、かつスルホン酸型官能基に変換できる基を有する化合物であれば、特に限定されず、従来から公知のものを用いることができる。
【0047】
スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとしては、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、下式(2)で表される化合物又は下式(3)で表される化合物が好ましい。
CF=CF−O−Rf2−A ・・・(2)、
CF=CF−Rf2−A ・・・(3)。
【0048】
f2は、炭素数1〜20のペルフルオロアルキレン基であり、エーテル性の酸素原子を含んでいてもよく、直鎖状又は分岐状のいずれでもよい。
は、スルホン酸型官能基に変換できる基である。スルホン酸型官能基に変換できる基は、加水分解によってスルホン酸型官能基に変換し得る官能基である。スルホン酸型官能基に変換し得る官能基としては、−SOF、−SOCl、−SOBr等が挙げられる。
【0049】
式(2)で表される化合物としては、具体的には、下記の化合物が好ましい。
CF=CF−O−(CF−SOF(ただし、aは1〜8の整数である。)、
CF=CF−O−CFCF(CF)O(CF−SOF(ただし、aは1〜8の整数である。)、
CF=CF[OCFCF(CF)]SOF(ただし、aは1〜5の整数である。)。
【0050】
式(3)で表される化合物としては、具体的には、下記の化合物が好ましい。
CF=CF(CF−SOF(ただし、bは1〜8の整数である。)、
CF=CF−CF−O−(CF−SOF(ただし、bは1〜8の整数である。)。
【0051】
スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとしては、工業的な合成が容易である点から、下記の化合物がより好ましい。
CF=CFOCFCFSOF、
CF=CFOCFCFCFSOF、
CF=CFOCFCFCFCFSOF、
CF=CFOCFCF(CF)OCFCFSOF、
CF=CFOCFCF(CF)OCFCFCFSOF、
CF=CFOCFCF(CF)SOF、
CF=CFCFCFSOF、
CF=CFCFCFCFSOF、
CF=CF−CF−O−CFCF−SOF。
スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーは、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
含フッ素オレフィンとしては、先に例示したものが挙げられ、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、TFEが特に好ましい。
含フッ素オレフィンは、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0053】
本発明においては、層(S)を形成する含フッ素ポリマーに、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマー及び含フッ素オレフィンに加えて、さらに他のモノマーを用いてもよい。他のモノマーとしては、先に例示したものが挙げられる。他のモノマーを共重合させることによって、イオン交換膜の可撓性や機械的強度を向上できる。他のモノマーの割合は、イオン交換性能の維持の点から、全モノマー(100質量%)のうち30質量%以下が好ましく、特に、5〜25質量%が好ましい。また、他のモノマーの割合は、含フッ素ポリマー中の全構成単位(100モル%)のうち30モル%以下が好ましく、特に、5〜25モル%が好ましい。
【0054】
スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーの分子量は、イオン交換膜としての機械的強度及び製膜性の点から、TQ値で150℃以上が好ましく、170〜340℃がより好ましく、170〜300℃がさらに好ましい。
【0055】
工程(b)においては、工程(a)で得た強化前駆体膜の、カルボン酸型官能基に変換できる基及びスルホン酸型官能基に変換できる基を、加水分解して、それぞれカルボン酸型官能基及びスルホン酸型官能基に転換することによって、イオン交換膜が得られる。
加水分解の方法としては、たとえば、日本特開平1−140987号公報に開示されているような、水溶性有機化合物とアルカリ金属の水酸化物との混合物を用いる方法が好ましい。
【0056】
本発明の塩化アルカリ電解装置は、本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜を有する以外は、公知の態様を採用できる。図3は、本発明の塩化アルカリ電解装置の一例を示した模式図である。
塩化アルカリ電解装置100は、陰極112及び陽極114を備える電解槽110と、電解槽110内を陰極室116と陽極室118とに区切るように電解槽110内に装着されるイオン交換膜1と、を有する。
イオン交換膜1は、層(C)12が陰極112側、層(Sb)16が陽極114側となるように電解槽110内に装着する。
【0057】
陰極112は、イオン交換膜1に接触させて配置してもよく、イオン交換膜1との間に間隔を開けて配置してもよい。
陰極室116を構成する材料としては、水酸化ナトリウム及び水素に耐性がある材料が好ましい。該材料としては、ステンレス、ニッケル等が挙げられる。
陽極室118を構成する材料としては、塩化ナトリウム及び塩素に耐性がある材料が好ましい。該材料としては、チタンが挙げられる。
また、陰極の材料は、好ましくは基材としてステンレスやニッケルが用いられ、電極触媒層としてNi―S 合金,ラネーNi,NiO,Ni―Sn 合金,Pt やRu などの白金族元素等が使用され、陽極の材料は、好ましくは酸化物被覆層を有するチタン等が使用される。
【0058】
例えば、塩化ナトリウム水溶液を電解して水酸化ナトリウム水溶液を製造する場合は、塩化アルカリ電解装置100の陽極室118に塩化ナトリウム水溶液を供給し、陰極室116に水酸化ナトリウム水溶液を供給し、陰極室116から排出される水酸化ナトリウム水溶液の濃度を所定の濃度(たとえば32質量%)に保ちながら、塩化ナトリウム水溶液を電解する。
【0059】
本発明の塩化アルカリ電解装置は、塩化アルカリ電解用イオン交換膜の膜強度が高く、層(Sa)と層(C)の間で剥離が生じにくく、また膜抵抗が低く塩化アルカリ電解時の電解電圧が低い。
【実施例】
【0060】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されない。例1〜3、10、12は実施例であり、例4〜9、11、13は比較例である。
【0061】
(TQ値の測定)
TQ値は、重合体の分子量に関係する値であって、容量流速:100mm/秒を示す温度として求めた。容量流速は、島津フローテスターCFD−100D(島津製作所社製)を用い、イオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを、3MPaの加圧下に、オリフィス(径:1mm、長さ:1mm)から溶融、流出させたときの流出量(単位:mm/秒))とした。
【0062】
(イオン交換容量の測定)
イオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーの約0.5gを、そのTQ値より約10℃高い温度にて平板プレスしてフィルム状にし、得られたフィルム状のサンプルを透過型赤外分光分析装置によって分析した。得られたスペクトルのCFピーク、CHピーク、OHピーク、CFピーク、SOFピークの各ピーク高さを用いて、カルボン酸型官能基に変換できる基またはスルホン酸型官能基に変換できる基を有する構成単位の割合を算出し、これを、加水分解処理後に得られる含フッ素ポリマーにおけるカルボン酸型官能基またはスルホン酸型官能基を有する構成単位の割合とし、イオン交換容量が既知のサンプルを検量線として用い、イオン交換容量を求めた。
【0063】
(含水率の測定の測定)
含フッ素ポリマーを、単体で押出し成形し、厚さ100μmのフィルムを得た。得られたフィルムを、ジメチルスルホキシド(DMSO)と水酸化カリウム(KOH)を含む水溶液に浸漬して加水分解した。加水分解後のフィルムを、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬し、対イオンがNaイオンである単層のイオン交換膜を得た。このイオン交換膜の質量(M)を測定した後、水洗し、乾燥させた後の質量(M)を測定した。
下式により、層(C1)と層(S2)の含水率(単位:%)を算出した。
(含水率)=[(M−M)/M]×100
【0064】
(電解電圧、電流効率の測定)
イオン交換膜を、層(C)が陰極に面するように、有効通電面積が1.5dm2(電解面サイズが縦150mm×横100mm)の試験用電解槽内に配置し、陽極としてはチタンのパンチドメタル(短径4mm、長径8mm)に酸化ルテニウムと酸化イリジウムと酸化チタンの固溶体を被覆したものを用い、陰極としてはSUS304製パンチドメタル(短径5mm、長径10mm)にルテニウム入りラネーニッケルを電着したものを用い、電極と膜が直接接し、ギャップが生じないように設置した。
陰極室から排出される水酸化ナトリウム濃度:32質量%、陽極室に供給する塩化ナトリウム濃度:200g/Lとなるように調整しながら、温度:90℃、電流密度:6kA/mの条件で、塩化ナトリウム水溶液の電解を行い、運転開始から3〜10日後の電解電圧(V)及び電流効率(%)を測定した。
【0065】
(剥離耐性評価)
イオン交換膜を、層(C)が陰極に面するように、上記と同じ試験用電解槽に配置した。また、陽極室内の電解面上部の縦50mm×横100mmの範囲に、陽極の外側に電極面から2.5mm離間するようにTi製プレートを配置した。このように、Ti製プレートと陽極との間に、塩素ガスが滞留する部位を形成した状態で、陰極室から排出される水酸化ナトリウム濃度:32質量%、陽極室に供給する塩化ナトリウム濃度:200g/L、温度:90℃、電流:120Aの条件で、塩化ナトリウム水溶液の電解を3日間行った。3日間の電解後、取り外したイオン交換膜の電解面上部から50mmの部分の幅方向の長さd1(mm)に対する、当該部分における剥離面の長さの和d2(mm)の比率P(%)を下式より算出した。
P=d2/d1×100
Pの値が小さい程、剥離耐性に優れ、Pの値が大きい程、剥離耐性が低い。
【0066】
〔例1〕
TFEと、下式(1−1)で表されるカルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとを共重合して、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(加水分解処理後のイオン交換容量:1.06ミリ当量/グラム乾燥樹脂、TQ:225℃)(以下、ポリマーC1と記す。)を調製した。
CF=CF−O−CFCF−CF−COOCH ・・・(1−1)。
【0067】
TFEと、下式(2−1)で表されるスルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとを共重合して、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(加水分解処理後のイオン交換容量:1.00ミリ当量/グラム乾燥樹脂、TQ:235℃)(以下、ポリマーS1と記す。)を調製した。
CF=CF−O−CFCF(CF)−O−CFCF−SOF ・・・(2−1)。
同様に、TFEと式(2−1)で表されるスルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとを共重合して、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(加水分解処理後のイオン交換容量:1.13ミリ当量/グラム乾燥樹脂、TQ:225℃)(以下、ポリマーS2と記す。)を調製した。
【0068】
ポリマーC1とポリマーS1とを共押し出し法により成形し、ポリマーC1からなる前駆体層(C1’)(厚さ:12μm)、及びポリマーS1からなる前駆体層(S’1)(厚さ:24μm)の2層構成のフィルムAを得た。
また、ポリマーS2を溶融押し出し法により成形し、前駆体層(S’2−1)となるフィルムB(厚さ:44μm)と、前駆体層(S’2−2)となるフィルムC(厚さ:30μm)を得た。
【0069】
PTFEフィルムを急速延伸した後に、100デニールの太さにスリットして得たモノフィラメントのPTFE糸と、5デニールのPETフィラメントを6本引き揃えて撚った、30デニールのマルチフィラメントのPET糸とを、PTFE糸1本に対してPET糸2本の交互配列で平織りし、補強材(織布、PTFE糸の密度:27本/インチ、PET糸の密度:53本/インチ)を得た。
フィルムC、補強材、フィルムB、フィルムA、離型用PETフィルム(厚さ:100μm)の順に、かつ、フィルムAの前駆体層(C1’)が離型用PETフィルム側となるように重ね、ロールを用いて積層した。離型用PETフィルムを剥がし、強化前駆体膜を得た。
酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)の29.0質量%、メチルセルロースの1.3質量%、シクロヘキサノールの4.6質量%、シクロヘキサンの1.5質量%及び水の63.6質量%からなるペーストを、強化前駆体膜の前駆体層(S’2−2)の上層側にロールプレスにより転写し、ガス開放性被覆層を形成した。酸化ジルコニウムの付着量は、20g/mとした。
【0070】
片面にガス開放性被覆層を形成した強化前駆体膜を、5質量%のジメチルスルホキシド及び30質量%の水酸化カリウムの水溶液に、95℃で8分間浸漬した。これにより、ポリマーC1の−COOCH3、及びポリマーS1、S2の−SOFを加水分解して、イオン交換基に転換し、前駆体層(C1’)を層(C1)、前駆体層(S’1)を層(Sa)である層(S1)、前駆体層(S’2−1)及び前駆体層(S’2−2)を層(Sb)である層(S2)とした膜を得た。層(C1)の含水率は11.8%、層(S1)の含水率は22.5%であった。
ポリマーS2の酸型ポリマーを2.5質量%含むエタノール溶液に、酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)を13質量%の濃度で分散させた分散液を調製した。該分散液を、前記膜の層(C1)側に噴霧し、ガス開放性被覆層を形成し、両面にガス開放性被覆層が形成されたイオン交換膜を得た。酸化ジルコニウムの付着量は3g/mとした。
得られたイオン交換膜について評価を行った結果を表1に示す。
【0071】
〔例2〕
TFEと、式(2−1)で表されるスルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとを共重合して、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(加水分解処理後のイオン交換容量:1.10ミリ当量/グラム乾燥樹脂、TQ:225℃)(以下、ポリマーS3と記す。)を調製した。
ポリマーS3を溶融押し出し法により成形し、前駆体層(S’2−1)となるフィルムD(厚さ:44μm)と前駆体層(S’2−2)となるフィルムE(厚さ:30μm)を得た。
フィルムBの代わりにフィルムDを使用し、フィルムCの代わりにフィルムEを使用した以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。得られたイオン交換膜について評価を行った結果を表1に示す。
【0072】
〔例3〕
例1のフィルムBの代わりにフィルムDを使用した以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。得られたイオン交換膜について評価を行った結果を表1に示す。
【0073】
〔例4〕
ポリマーC1とポリマーS2とを共押し出し法により成形し、ポリマーC1からなる前駆体層(C1’)(厚さ:12μm)及びポリマーS2からなる前駆体層(S’1)(厚さ:68μm)の2層構成のフィルムFを得た。また、例1と同様にしてフィルムC及び補強材を得た。
フィルムC、補強材、フィルムF、離型用PETフィルム(厚さ:100μm)の順に、かつ、フィルムFの前駆体層(C1’)が離型用PETフィルム側となるように重ね、ロールを用いて積層した。離型用PETフィルムを剥がし、強化前駆体膜を得た。該強化前駆体膜を用いる以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。層(S1)の含水率は29.3%であった。得られたイオン交換膜について評価を行った結果を表1に示す。
【0074】
〔例5〕
ポリマーC1とポリマーS3とを共押し出し法により成形し、ポリマーC1からなる前駆体層(C1’)(厚さ:12μm)、及びポリマーS3からなる前駆体層(S’1)(厚さ:68μm)の2層構成のフィルムGを得た。また、例1と同様にしてフィルムC及び補強材を得た。
フィルムC、補強材、フィルムG、離型用PETフィルム(厚さ:100μm)の順に、かつ、フィルムGの前駆体層(C1’)が離型用PETフィルム側となるように重ね、ロールを用いて積層した。離型用PETフィルムを剥がし、強化前駆体膜を得た。該強化前駆体膜を用いる以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。層(S1)の含水率は27.5%であった。得られたイオン交換膜について評価を行った結果を表1に示す。
【0075】
〔例6〕
例1と同様にして補強材を得た。例2と同様にしてフィルムEを得た。例4と同様にしてフィルムGを得た。
フィルムE、補強材、フィルムG、離型用PETフィルム(厚さ:100μm)の順に、かつ、フィルムGの前駆体層(C1’)が離型用PETフィルム側となるように重ね、ロールを用いて積層した。離型用PETフィルムを剥がし、強化前駆体膜を得た。該強化前駆体膜を用いる以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。得られたイオン交換膜について評価を行った結果を表1に示す。
【0076】
〔例7〕
ポリマーC1とポリマーS1とを共押し出し法により成形し、ポリマーC1からなる前駆体層(C1’)(厚さ:12μm)、及びポリマーS1からなる前駆体層(S’1)(厚さ:68μm)の2層構成のフィルムHを得た。例1と同様にして補強材及びフィルムCを得た。
フィルムC、補強材、フィルムH、離型用PETフィルム(厚さ:100μm)の順に、かつ、フィルムHの前駆体層(C1’)が離型用PETフィルム側となるように重ね、ロールを用いて積層した。離型用PETフィルムを剥がし、強化前駆体膜を得た。該強化前駆体膜を用いる以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。得られたイオン交換膜について評価を行った結果を表1に示す。
【0077】
〔例8〕
例1と同様にして補強材を得た。例2と同様にしてフィルムEを得た。例7と同様にしてフィルムHを得た。
フィルムE、補強材、フィルムH、離型用PETフィルム(厚さ:100μm)の順に、かつ、フィルムHの前駆体層(C1’)が離型用PETフィルム側となるように重ね、ロールを用いて積層した。離型用PETフィルムを剥がし、強化前駆体膜を得た。該強化前駆体膜を用いる以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。得られたイオン交換膜について評価を行った結果を表1に示す。
【0078】
〔例9〕
ポリマーS1を溶融押し出し法により成形し、前駆体層(S’)となるフィルムI(厚さ:30μm)を得た。例1と同様にして補強材を得た。例7と同様にしてフィルムHを得た。
フィルムI、補強材、フィルムH、離型用PETフィルム(厚さ:100μm)の順に、かつ、フィルムHの前駆体層(C1’)が離型用PETフィルム側となるように重ね、ロールを用いて積層した。離型用PETフィルムを剥がし、強化前駆体膜を得た。該強化前駆体膜を用いる以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。得られたイオン交換膜について評価を行った結果を表1に示す。
【0079】
〔例10〕
TFEと、下式(1−1)で表されるカルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとを共重合して、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(加水分解処理後のイオン交換容量:1.00ミリ当量/グラム乾燥樹脂、TQ:240℃)(以下、ポリマーC2と記す。)を調製した。
ポリマーC2とポリマーS1とを共押し出し法により成形し、ポリマーC2からなる前駆体層(C2’)(厚さ:17μm)、及びポリマーS1からなる前駆体層(S’1)(厚さ:20μm)の2層構成のフィルムJを得た。
フィルムAの代わりにフィルムJを使用した以外は、例2と同様にしてイオン交換膜を得た。層(C1)の含水率は10.6%であった。得られたイオン交換膜について評価を行った結果を表1に示す。
【0080】
〔例11〕
ポリマーC2とポリマーS1とを共押し出し法により成形し、ポリマーC2からなる前駆体層(C2’)(厚さ:17μm)、及びポリマーS1からなる前駆体層(S’1)(厚さ:70μm)の2層構成のフィルムKを得た。
フィルムHの代わりにフィルムKを使用した以外は、例8と同様にしてイオン交換膜を得た。得られたイオン交換膜について評価を行った結果を表1に示す。
【0081】
〔例12〕
TFEと、下式(1−1)で表されるカルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとを共重合して、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(加水分解処理後のイオン交換容量:0.95ミリ当量/グラム乾燥樹脂、TQ:245℃)(以下、ポリマーC3と記す。)を調製した。
ポリマーC3とポリマーS1とを共押し出し法により成形し、ポリマーC3からなる前駆体層(C3’)(厚さ:17μm)、及びポリマーS1からなる前駆体層(S’1)(厚さ:20μm)の2層構成のフィルムLを得た。
フィルムAの代わりにフィルムLを使用した以外は、例2と同様にしてイオン交換膜を得た。層(C1)の含水率は9.5%であった。得られたイオン交換膜について評価を行った結果を表1に示す。
【0082】
〔例13〕
ポリマーC3とポリマーS1とを共押し出し法により成形し、ポリマーC3からなる前駆体層(C3’)(厚さ:17μm)、及びポリマーS1からなる前駆体層(S’1)(厚さ:70μm)の2層構成のフィルムMを得た。
フィルムHの代わりにフィルムMを使用した以外は、例8と同様にしてイオン交換膜を得た。得られたイオン交換膜について評価を行った結果を表1に示す。
【0083】
【表1】
なお、表中、「−」はその材料を使用しなかったことを表す。
【0084】
表1に示すように、本発明の例1、2、3のイオン交換膜は、充分な電流効率が得られ、電解電圧が低く、かつ剥離耐性に優れていた。
一方、本発明の膜構成とは異なる例4〜6のイオン交換膜は、剥離耐性が不充分であった。同様に、本発明の膜構成とは異なる例7〜9のイオン交換膜においても、例1、2、3のイオン交換膜に比べて、電解電圧が高かった。
さらに、本発明の例10及び12のイオン交換膜は、それぞれ、本発明の膜構成とは異なる例11及び13と比べて、剥離耐性は同等であったが、電解電圧が低かった。例10及び12のイオン交換膜は、電解電圧の絶対値は高いが、同等のイオン交換容量のポリマーを使用した例11及び13よりも電解電圧が大幅に低く、本発明の膜構成とする効果が大きいことが分かった。
なお、電解電圧の差が0.01Vであっても、実際に工業的に電解を行った場合のコストの差は非常に大きく、0.01Vの差は工業的な観点からは極めて大きな差である。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜を有する電解装置は、工業的な塩化ナトリウム水溶液や塩化カリウム水溶液など電解して、塩素と水酸化ナトリウ若しくは水酸化カリウムを製造するために広範に使用される。
なお、2014年11月7日に出願された日本特許出願2014−227273号の明細書、特許請求の範囲、図面及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。
【符号の説明】
【0086】
1、2:塩化アルカリ電解用イオン交換膜 10:電解質膜 12:層(C) 14:層(Sa) 16:層(Sb) 18A:層(Sb) 18B:層(Sb) 20:補強材 100:塩化アルカリ電解装置 110: 電解槽 112:陰極 114:陽極 116:陰極室 118:陽極室 121:NaCl水 122:淡NaCl水 123:電気透析水
図1
図2
図3