(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
陰極および陽極を備える塩化アルカリ電解槽と、前記電解槽内を前記陰極側の陰極室と前記陽極側の陽極室とに区切るように設置させて用いられる塩化アルカリ電解用イオン交換膜であって、
該塩化アルカリ電解用イオン交換膜は、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(S)と前記層(S)中に層(S)と略並行に配置された補強材とを有し、
前記層(S)は、最も陽極側に配置された1層の層(Sa)と、層(Sa)よりも陰極側に配置された1層以上の層(Sb)と、層(Sa)と層(Sb)間もしくは層(Sb)中に配置された補強材との積層体であり、
補強材は、緯糸および経糸に補強糸、および、緯糸および経糸に犠牲糸を任意に用いた織物であり、
補強糸の長さ方向に直交する層(S)の断面において、補強糸の中心から隣の補強糸の中心までの平均距離(d1)は750〜1000μmであり、層(S)中には、犠牲糸が溶出してなる溶出部が存在し、前記溶出部の断面積と前記溶出部内に残存する犠牲糸の断面積との総面積(P)は500〜5000μm2であり、隣り合う補強糸間の溶出部の平均数は4〜6個であり、
かつ、前記層(Sa)のイオン交換容量が1.15ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上である、ことを特徴とする塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
層(S)の最も陰極側の面に、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む1層以上の層(C)を有する、請求項1または2に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
補強糸の長さ方向に直交する断面において、前記平均距離(d1)および平均距離(d2)を決定するために測定した全ての測定箇所において、下式(1’)を満たす関係が成立する、請求項4に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
0.5≦{d2’/d1×(n+1)}≦1.5 ・・・(1’)
但し、式(1’)中の記号は以下の意味を示す。
d2’:任意の測定箇所における、溶出部の中心から、隣の溶出部の中心までの距離。
d1およびn:前記と同じ。
補強糸の長さ方向に直交する断面において、前記平均距離(d1)および平均距離(d3)を決定するために測定した全ての測定箇所において、下式(2’)を満たす関係が成立する、請求項6に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜。
0.5≦{d3’/d1×(n+1)}≦1.5 ・・・(2’)
但し、式(1’)中の記号は以下の意味を示す。
d3’:任意の測定箇所における補強糸の中心から、隣の溶出部の中心までの距離。
d1およびn:前記と同じ。
陰極および陽極を備える電解槽と、請求項1〜8のいずれか一項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜を有し、前記塩化アルカリ電解用イオン交換膜は、前記電解槽内の陽極と陰極との間に略並行に設置され、かつ陰極側の陰極室と前記陽極側の陽極室とに区切るように設置されてなる塩化アルカリ電解装置。
イオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体膜中に、補強糸と犠牲糸とからなる補強布が配置された強化前駆体膜を得て、次に前記強化前駆体膜をアルカリ性水溶液に接触させることによって、イオン交換基に変換できる基をイオン交換基に変換するとともに、補強布中の犠牲糸の少なくとも一部を溶出させて、イオン交換基を有する含フッ素ポリマーと、補強布中の犠牲糸の少なくとも一部が溶出した補強材と、溶出部を有するイオン交換膜を得る、請求項1に記載のイオン交換膜の製造方法。
塩化アルカリ電解時に層(Sa)よりも陰極側に位置する層(Sb)のイオン交換容量が、前記層(Sa)のイオン交換容量よりも低い、請求項10に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
前記層(Sa)とは反対側の面に、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(C)を更に有する、請求項10または11に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
前記補強布の布面に直交する方向から見た前記補強糸の幅が70〜160μmである、請求項10〜14のいずれか一項に記載の塩化アルカリ電解用イオン交換膜の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の用語の定義は、本明細書および特許請求の範囲にわたって適用される。
「イオン交換基」とは、該基に含まれるイオンの少なくとも一部が他のイオンに交換し得る基である。下記のカルボン酸型官能基、スルホン酸型官能基等が挙げられる。
「カルボン酸型官能基」とは、カルボン酸基(−COOH)、カルボン酸塩基(−COOM
1。但し、M
1はアルカリ金属または第4級アンモニウム塩基である。)を意味する。
「スルホン酸型官能基」とは、スルホン酸基(−SO
3H)、またはスルホン酸塩基(−SO
3M
2。但し、M
2はアルカリ金属または第4級アンモニウム塩基である。)を意味する。
「イオン交換基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の公知の処理によって、イオン交換基に変換できる基を意味する。
「カルボン酸型官能基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の公知の処理によって、カルボン酸型官能基に変換できる基を意味する。
「スルホン酸型官能基に変換できる基」とは、加水分解処理、酸型化処理等の公知の処理によって、スルホン酸型官能基に変換できる基を意味する。
【0013】
「ペルフルオロカーボンポリマー」とは、ポリマー中の炭素原子に結合している水素原子の全部がフッ素原子に置換されたポリマーを意味する。ペルフルオロカーボンポリマー中のフッ素原子の一部は、塩素原子または臭素原子に置換されていてもよい。
「モノマー」とは、重合反応性の炭素−炭素二重結合を有する化合物を意味する。
「単位(構成単位)」とは、ポリマー中に存在してポリマーを構成する、モノマーに由来する部分を意味する。炭素−炭素不飽和二重結合を有するモノマーの付加重合により生じる、該モノマーに由来する単位は、該不飽和二重結合が開裂して生じた2価の単位である。また、ある単位の構造をポリマー形成後に化学的に変換したものも単位という。なお、以下、場合により、個々のモノマーに由来する単位をそのモノマー名に「単位」を付して記載する。
【0014】
「補強布」とは、イオン交換膜の強度の向上させるための「補強材」の原料として用いられる布状の織物を意味する。「補強布」は、経糸に補強糸と犠牲糸を、緯糸に補強糸と犠牲糸を、製織してなる織物からなる。経糸と緯糸は、平織布等の通常の製織法による場合は直交している。
「補強糸」とは、補強布の経糸と、緯糸を、それぞれ構成する糸である。「補強糸」はり、水酸化ナトリウム水溶液(例えば、濃度が32質量%の水溶液)に浸漬しても溶解しない材料からなり、溶出部を形成しない材料からなる。よって補強糸は、イオン交換膜の製造時にアルカリ水溶液に浸漬した後も溶解せずに残存し、塩化アルカリ電解用イオン交換膜の機械的強度や寸法安定性を維持する。
「犠牲糸」とは、補強布の経糸と、緯糸を構成する糸であり、水酸化ナトリウム水溶液(濃度が32質量%の水溶液)に浸漬した時に、水酸化ナトリウム水溶液に溶解することから、溶出して溶出部を形成する材料からなる。イオン交換膜の製造においてアルカリ水溶液に浸漬されることにより、層(S)中に存在する補強布中の犠牲糸の一部または全部が溶出してなる溶出部が形成される。犠牲糸の一部が溶出する場合には、溶出部の中に、溶出残りの犠牲糸が存在する。
【0015】
補強糸および犠牲糸は、それぞれ1本のフィラメントからなるモノフィラメントであっても、2本以上のフィラメントからなるマルチフィラメントであってもよい。マルチフィラメントの場合は、2本以上のフィラメントの集合体が1本の糸となる。糸の太さは、1本の場合は最大直径、マルリチフィラメントである場合は、複数の糸の束を1本とみなしたときの最大直径をいう。
「溶出部」は、一本の犠牲糸が、水酸化ナトリウム水溶液(例えば、濃度が32質量%の水溶液)に浸漬されることにより溶出した結果、イオン交換膜内部に生成する孔を意味する。一本の犠牲糸がモノフィラメントの場合は、該モノフィラメントの材料の少なくとも一部が溶出してイオン交換膜内部に1つの孔が形成される。1本の犠牲糸がマルチフィラメントの場合は、該マルチフィラメントの少なくとも一部が溶出してイオン交換膜内部に複数の孔の集まりが形成されるが、この複数の孔の集まりが1つの溶出部である。前記孔の集まりは、それぞれ単独に孔を形成している必要はなく、例えば相互に貫通して1つの孔の形状となっていてもよい。
「補強材」は、イオン交換膜の製造工程において、フッ素系ポリマーからなる強化前駆体膜の間に積層された補強布がアルカリ水溶液に浸漬されることにより、犠牲糸の一部または全部が溶出した材料である。補強布の犠牲糸の一部が溶出した場合の補強材は、溶出残りの犠牲糸と補強糸とからなる。犠牲糸の全部が溶解した場合の補強材は、補強糸のみからなる。即ち、補強材は、補強糸と、任意に含まれる犠牲糸から形成される材料である。
【0016】
補強材を構成する補強糸は、経糸と緯糸に使われる。経糸と緯糸は、通常、直交しており、それぞれイオン交換膜のMD方向とTD方向と並行に存在する。なお、MD(Machine Direction)とは、ロール装置を使用するイオン交換膜の製造において、前駆体膜、強化前駆体膜、およびイオン交換膜が搬送される方向である。TD(Transverse Direction)とはMD方向と垂直の方向である。
「補強糸の中心」とは、補強糸の糸が伸びる方向(すなわち長さ方向)に直交する断面における、補強糸の最大直径の1/2の点を意味する。補強糸は、経糸および緯糸に用いられていることから、それらの長さ方向は2方向が存在する。
補強糸の断面が真円である場合の補強糸の中心は円の中心点であるが、真円以外の場合は、最大直径の1/2である点をいう。また補強糸がマルチフィラメントである場合の中心は、一番離れた中心を結ぶ線の1/2の点をいう。
「溶出部の中心」とは、犠牲糸のイオン交換膜が伸びる方向(すなわち長さ方向)に直交する断面における、溶出部の幅方向の中心を意味する。犠牲糸も経糸および緯糸に用いられていることから、それらの長さ方向は、2方向が存在する。犠牲糸がモノフィラメントである場合には、溶出前の犠牲糸の中心と溶出孔の中心とは一致する。犠牲糸がマルチフィラメントである場合の溶出孔の中心とは、前記断面において、幅方向の一方の孔の端部ともう一方の孔の端部との中間点をいう。
【0017】
「開口率」とは、補強材の面方向の面積に対する、補強糸を除いた部分の面積の百分率(%)を意味する。
「強化前駆体膜」とは、イオン交換基に変換できる基を有するフッ素系ポリマーを含む前駆体膜中に、補強糸と犠牲糸とからなる補強布が配置された膜を意味する。イオン交換基に変換できる基を有するフッ素系ポリマーを含む前駆体膜を2枚製造し、2枚の前駆体膜の間に補強布を積層することが好ましい。
「前駆体膜」とは、イオン交換基に変換できる基を有するフッ素系ポリマーを含む膜を意味する。イオン交換基に変換できる基を有するフッ素系ポリマーの単層からなる膜であってもよく、複数の層からなる膜であってもよい。
本発明において、製造工程にて、同一の型の官能基を有しかつ同じイオン交換容量の層同士、フィルム同士、層とフィルムを接合して形成された層は一つの層とみなす。
【0018】
<塩化アルカリ電解用イオン交換膜>
本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜(以下、単にイオン交換膜とも記す。)は、塩化アルカリ電解時の陽極と陰極との間に略垂直に設置又は装着させて用いられる塩化アルカリ電解用に用いられる。該イオン交換膜は、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(S)を有するイオン交換膜であり、層(S)は、1層の層(Sa)と、1層以上の層(Sb)とからなる。また、層(Sa)は、層(S)の最も陽極側に配置され、層(Sb)は層(Sa)よりも陰極側に配置される。
更に、層(Sa)と層(Sb)間には補強材が配置され、これらが積層されて積層体の構造を有する。
【0019】
補強材は、補強糸と任意に含まれる犠牲糸とからなる。補強材は補強布から得られるが、補強布の犠牲糸の材料の少なくとも一部は、イオン交換真膜の製造工程において溶出して形成され、層(S)中に溶出部を形成している。補強材は、イオン交換膜の機械的強度や寸法安定性が向上させる機能を有する。
層(S)を形成する層(Sb)は、1つの層から形成されていてもよく、2つ以上の層から形成されていてもよい。層(Sb)が2つ以上の層からなる場合においても、本明細書においては「層(Sb)」と記載し、全ての層(Sb)を意味する。
本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜は、層(S)の最も陰極側の面に、カルボン酸化型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む1層以上の層(C)を更に有することが好ましい。
【0020】
図1は、本発明のイオン交換膜の一例を示す模式断面図である。
イオン交換膜1は、イオン交換基を有する含フッ素ポリマーを含む電解質膜10が、補強材20で補強されたものである。
電解質膜10は、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(C)12と、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(S)14とからなる積層体である。層(S)14は、塩化アルカリ電解時に陰極側に位置する層(Sb)16と、塩化アルカリ電解時に陽極側に位置する層(Sa)18との2層構成になっている。すなわち、電解質膜10は、層(C)12、層(Sb)16および層(Sa)18がこの順に積層された積層体である。また、層(S)14における層(Sb)16と層(Sa)18の間に補強材20が配置されている。
補強材20は、電解質膜10を補強する材料であり、補強糸22と任意に含まれる犠牲糸24とを製織した織物からなるが、イオン交換膜の製造工程において、犠牲糸の全部が溶出した場合には、補強材は補強糸のみからなる。
層(S)14は、犠牲糸24を構成する2本のフィラメント26の材料の少なくとも一部が溶出して形成された2つ以上の孔の集まりからなる溶出部28を有している。
イオン交換膜1は、塩化アルカリ電解時に、層(Sa)18が陽極に面するように電解槽内に配置される。
【0021】
<塩化アルカリ電解用イオン交換膜の構成>
本発明のイオン交換膜は、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む電解質膜が、補強材で補強されたものである。
電解質膜は、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(S)を少なくとも備え、必要に応じて、高い電流効率を発現する機能層としての、カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(C)を更に備える膜である。電解質膜は、層(S)のみからなる膜であってもよく、層(S)と層(C)が積層された積層膜であってもよい。層(S)は、層(Sa)と層(Sb)とからなる積層構造を有する。
【0022】
イオン交換膜が補強材で補強されている場合、補強糸は膜内でのナトリウムイオン等の陽イオンの移動を妨げるため、イオン交換膜内の補強糸の陰極側近傍が実質的に電解部として作用しない領域(以下、電流遮蔽領域と記す。)となると考えられる。そのため、補強糸の間隔を狭くしてその密度を高めると、イオン交換膜内の電流遮蔽領域がより多くなり、膜抵抗が上昇して電解電圧が高くなると考えられる。
これに対して、本発明のイオン交換膜では、補強糸の長さ方向に直交する断面において、補強糸の中心からその隣の補強糸の中心までの平均距離(d1)を750〜1000μm、溶出部の断面積と、当該溶出部内に残存する犠牲糸の断面積とを合計した総面積(P)を500〜5000μm
2、隣り合う補強糸間の溶出部の平均数(n)を4〜6個に制御することで、膜強度を高めつつ膜抵抗を低減できる。
【0023】
前記した総面積(P)が小さいときは、補強糸近傍において溶出部の部分をナトリウムイオン等が通過しにくく、総面積(P)が大きいときに比べて補強糸近傍の膜抵抗が高くなる。一方、補強糸から離れた部分は溶出部の体積が、総面積(P)が大きいときに比べて小さいため、余分な抵抗が増えず、膜抵抗が低くなる。また、前記した総面積(P)が大きいときは、補強糸近傍において溶出部の部分を電気浸透水とともにナトリウムイオン等が通過しやすく、電流遮蔽領域がより小さくなるため、総面積(P)が小さいときに比べて補強糸近傍の膜抵抗が低くなる。一方、補強糸から離れた部分は溶出部の体積が、総面積(P)が小さいときに比べて大きいため、余分な抵抗が増えて膜抵抗が高くなる。
【0024】
また、前記した溶出部の平均数(n)が小さいときは、総面積(P)が小さい場合と同様に、補強糸近傍でナトリウムイオン等が通過しにくく、溶出部の平均数(n)が大きいときに比べて補強糸近傍の膜抵抗が高くなる。一方、補強糸から離れた部分は溶出部の体積が小さくなるので、余分な抵抗が増えず、溶出部の平均数(n)が大きいときに比べて膜抵抗が低くなる。また、前記した溶出部の平均数(n)が大きいときは、補強糸近傍でナトリウムイオン等が通過しやすく、電流遮蔽領域がより小さくなることで、溶出部の平均数(n)が小さいときに比べて補強糸近傍の膜抵抗が低くなる。一方、補強糸から離れた部分は溶出部の体積が大きくなるので、余分な抵抗が増えて、溶出部の平均数(n)が小さいときに比べて膜抵抗が高くなる。
【0025】
本発明では、前記した総面積(P)および溶出部の平均数(n)を特定の範囲に制御することで、補強糸近傍の電流遮蔽領域を小さくして補強糸近傍の膜抵抗を低くしつつ、補強糸から離れた部分溶出部の体積がある程度小さく維持されているため当該部分での膜抵抗の上昇が抑えられている。このように、補強糸から離れた部分での膜抵抗の上昇度合いに比べて、補強糸近傍の膜抵抗の低下度合いが大きくなるため、膜全体としての膜抵抗が低くなり、補強糸の間隔を狭くして膜強度を高めても塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減できると考えられる。
【0026】
また、本発明では、層(S)における塩化アルカリ電解時に最も陽極に面する側に位置する層(Sa)のイオン交換容量が1.15ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上であるため、層(S)における該層(Sa)の含水率が高くなる。層(Sa)の含水率が高くなることで、それに伴って層(S)における層(Sb)の含水率も充分に高くなり、結果としてイオン交換膜の膜全体としての膜抵抗が充分に小さくなる。そのため、塩化アルカリ電解時の電解電圧が低くなる。
【0027】
本発明では、平均距離(d1)、総面積(P)、および溶出部の平均数(n)を特定の範囲内に制御することと、層(S)における層(Sa)のイオン交換容量を1.15ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上にする。このようなイオン交換膜を用いることによる電解電圧低減効果は、平均距離(d1)、総面積(P)、溶出部の平均数(n)の制御と、層(S)における層(Sa)のイオン交換容量の制御とを個々に実施した場合の電解電圧低減効果の足し合わせた効果よりも大きな相乗効果が得られ、塩化アルカリ電解時の電解電圧が予想外に低くなる。
【0028】
[電解質膜]
以下、電解質膜を構成する各層について説明する。
(層(S))
スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーとしては、スルホン酸型官能基を有する含フッ素モノマーに由来する単位と、含フッ素オレフィンに由来する単位との共重合体が挙げられる。
スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーは、後述する工程(b)にて、後述するスルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーのスルホン酸型官能基に変換できる基をスルホン酸型官能基に転換することによって得られる。
【0029】
<層(S)のイオン交換容量>
層(S)における塩化アルカリ電解時に最も陽極側に位置する層(Sa)のイオン交換容量は、1.15ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上である。層(Sa)のイオン交換容量が1.15ミリ当量/グラム乾燥樹脂以上であることで、層(S)における層(Sa)の含水率が高くなる。また、それに伴って層(S)における層(Sa)よりも陰極側に位置する層(Sb)の含水率も充分に高くなる。これにより、結果としてイオン交換膜の膜全体としての膜抵抗が充分に小さくなり、塩化アルカリ電解時の電解電圧が低くなる。
層(S)における層(Sa)のイオン交換容量の下限値は、1.2ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましく、1.3ミリ当量/グラム乾燥樹脂がより好ましい。層(Sa)のイオン交換容量の上限値は、成形安定性および膜強度の点から、2.0ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましく、1.8ミリ当量/グラム乾燥樹脂がより好ましい。
【0030】
本発明では、層(Sa)のイオン交換容量と層(Sb)のイオン交換容量は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
層(Sb)のイオン交換容量は、膜強度が高くなる点から、層(Sa)のイオン交換容量よりも低くなっていることが好ましい。
【0031】
層(Sb)のイオン交換容量は、0.6〜1.19ミリ当量/グラム乾燥樹脂が好ましく、0.7〜1.19ミリ当量/グラム乾燥樹脂がより好ましい。層(Sb)のイオン交換容量が前記下限値以上であれば、イオン交換膜の膜抵抗を低くしやすく、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低くしやすい。層(Sb)のイオン交換容量が前記上限値以下であれば、電解中に求められる膜としての強度および塩析出による劣化耐性を維持できる。
【0032】
<層(S)の厚さ>
層(Sb)の厚さは、30〜140μmが好ましく、30〜100μmがより好ましい。層(Sb)の厚さが前記下限値以上であれば、イオン交換膜の機械的強度が充分に高くなる。層(Sb)の厚さが前記上限値以下であれば、イオン交換膜の膜抵抗が充分に低く抑えられ、電解電圧の上昇が充分に抑えられる。
【0033】
層(Sa)の厚さは、10〜60μmが好ましく、10〜40μmがより好ましい。層(Sa)の厚さが前記下限値以上であれば、補強布が電解質膜中に収まり、補強布の剥離耐性が向上する。また、電解質膜の表面に補強布が近づきすぎることがなく、電解質膜の表面にクラックが入りにくく、その結果、機械的強度の低下が抑えられる。層(Sa)の厚さが前記上限値以下であれば、イオン交換膜の膜抵抗が充分に低く抑えられ、電解電圧の上昇が充分に抑えられる。
【0034】
(層(C))
カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーとしては、例えば、カルボン酸型官能基を有する含フッ素モノマーに由来する単位と、含フッ素オレフィンに由来する単位との共重合体が挙げられる。
カルボン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーは、後述する工程(b)にて、後述するカルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーのカルボン酸型官能基に変換できる基をカルボン酸型官能基に転換することによって得られる。
【0035】
層(C)の厚さは、5〜50μmが好ましく、10〜35μmがより好ましい。層(C)の厚さが前記下限値以上であれば、高い電流効率が発現しやすい。また、塩化ナトリウムの電解を行った場合には、製品となる水酸化ナトリウム中の塩化ナトリウム量を少なくできる。層(C)の厚さが前記上限値以下であれば、イオン交換膜の膜抵抗が低く抑えられ、電解電圧が低くなりやすい。
【0036】
[補強材の位置]
補強材は、スルホン酸型官能基を有する含フッ素ポリマーを含む層(S)中に配置されている。層(S)中に配置されているとは、同一の型の官能基を有しかつ同じイオン交換容量の層同士、フィルム同士、層とフィルムを積層する際にその間に積層されて1つの層に配置されるか、またはイオン交換容量等が異なる2つの層(S)間に積層されていることを意味する。
補強布は層(Sa)と層(Sb)の間に積層されるか、又は層(Sb)層中に配置されていることが好ましく、層(Sa)と層(Sb)の間に積層されることがより好ましい。
【0037】
[補強材]
補強材は電解質膜を補強する補強材であり、補強糸と犠牲糸とを製織した織物である。
【0038】
本発明のイオン交換膜において、補強材を形成する補強糸の長さ方向に直交する断面において測定される、補強糸間の平均距離、溶出孔の平均数、および溶出孔の断面積と溶出孔内に存在する溶出残りの犠牲糸の断面積とを合計面積(P)が、それぞれ特定の範囲にあることが、本発明の効果を発揮するために重要である。
補強糸の長さ方向に直交する断面における、補強糸の中心からその隣の補強糸の中心までの平均距離(d1)は、750〜1000μmであり、800〜1000μmが好ましく、800〜930μmがより好ましく、800〜900μmが特に好ましい。平均距離(d1)が前記範囲内であれば、膜強度を高めつつ、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減できる。前記平均距離(d1)が前記下限値以上であれば、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減しやすい。前記平均距離(d1)が前記上限値以下であれば、イオン交換膜の膜強度の高くしやすい。
補強材は、経糸、緯糸は、それぞれ、イオン交換膜の製造におけるMD方向、TD方向と同一の方向になるように層(Sa)と層(Sb)間に積層される。
補強糸の長さ方向に直交する断面には、経糸の長さ方向に直交するMD断面(MD方向に垂直に裁断した断面)と緯糸の長さ方向に直交するTD断面(TD方向に垂直に裁断した断面)のそれぞれの断面が存在し、両断面の測定値である。また平均距離(d1)とは、補強糸の中心からその隣の補強糸の中心までの距離の測定値の平均値である。平均距離の測定は、各断面における無作為に選んだ各10箇所の距離を測定し、それらの測定値を平均した値である。他の平均値についても、同様に測定される。
【0039】
本発明では、経糸および緯糸に用いた補強糸の長さ方向に直交する断面における、補強糸の中心からその隣の補強糸の中心までの距離が、全ての測定箇所において前記範囲内となっていることが好ましい。これにより、膜強度を高めつつ、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減する効果が得られやすくなる。全ての測定箇所とは、平均値を算出するために無作為に測定した点の全てをいう。d1以外の値においても、同様である。
【0040】
補強布における補強糸の密度(打ち込み数)は、22〜33本/インチが好ましく、25〜30本/インチがより好ましい。補強糸の密度が前記下限値以上であれば、補強材としての機械的強度が充分に高くなる。補強糸の密度が前記上限値以下であれば、イオン交換膜の膜抵抗が充分に低く抑えられ、電解電圧の上昇が充分に抑えられる。
【0041】
犠牲糸の密度は、補強糸の密度の偶数倍が好ましい。具体的には、犠牲糸の密度は、補強糸の密度の4倍または6倍が好ましい。奇数倍の場合、補強糸の経糸と緯糸とが交互に上下に交差しないため、犠牲糸が溶出した後に、織物組織が形成されない。
補強糸および犠牲糸の合計の密度は、製織のしやすさ、目ずれの起きにくさの点から、110〜198本/インチが好ましい。
【0042】
補強材の開口率は、60〜90%が好ましく、70〜85%がより好ましい。前記補強材の開口率が前記下限値以上であれば、イオン交換膜の膜抵抗が充分に低く抑えられ、電解電圧の上昇が充分に抑えられる。前記補強材の開口率が前記上限値以下であれば、補強材としての機械的強度が充分に高くなる。前記補強材の開口率は、光学顕微鏡写真から求めることができる。
【0043】
補強材の厚さは、60〜150μmが好ましく、80〜130μmがより好ましい。補強材の厚さが前記下限値以上であれば、補強材としての機械的強度が充分に高くなる。補強材の厚さが前記上限値以下であれば、糸交点の厚みが抑えられ、補強材の電流遮蔽による電解電圧上昇の影響を充分に抑えられる。
【0044】
(補強糸)
補強糸としては、塩化アルカリ電解における高温、塩素、次亜塩素酸ナトリウム、水酸化ナトリウムに対する耐性を有するものが好ましい。
補強糸としては、機械的強度、耐熱性、耐薬品性の点から、含フッ素ポリマーを含む糸が好ましく、ペルフルオロカーボンポリマーを含む糸がより好ましく、PTFEを含む糸が更に好ましく、PTFEのみからなるPTFE糸が特に好ましい。
【0045】
補強糸は、モノフィラメントであってもよく、マルチフィラメントであってもよい。補強糸がPTFE糸の場合、紡糸が容易である点から、モノフィラメントが好ましく、PTFEフィルムをスリットして得られたテープヤーンがより好ましい。
【0046】
補強糸の繊度は、50〜200デニールが好ましく、80〜150デニールがより好ましい。補強糸の繊度が前記下限値以上であれば、機械的強度が充分に高くなる。補強糸の繊度が前記上限値以下であれば、イオン交換膜の膜抵抗が充分に低く抑えられ、電解電圧の上昇が充分に抑えられる。また、電解質膜の表面に補強糸が近づきすぎることがなく、電解質膜の表面にクラックが入りにくく、その結果、機械的強度の低下が抑えられる。
【0047】
補強材の布面に直交する方向から見た補強糸の幅は、70〜160μmであり、90〜150μmが好ましく、100〜130μmがより好ましい。補強糸の幅が前記下限値以上であれば、イオン交換膜の膜強度が高くなりやすい。補強糸の幅が前記上限値以下であれば、イオン交換膜の膜抵抗を低くしやすく、電解電圧の上昇を抑えやすい。
【0048】
(犠牲糸)
犠牲糸は、下記段階(i)においてその材料の一部または全部がアルカリ性水溶液に溶出し、溶出した後の層(S)には溶出部が形成される。また段階(i)を経て得られたイオン交換膜は、その後、電解槽に配置され、塩化アルカリ電解の本運転の前に、下記段階(ii)のコンディショニング運転が行われる。段階(i)で犠牲糸の溶解残りがあった場合においても、段階(ii)において、犠牲糸はその材料の残部の大部分、好ましくは全部がアルカリ性水溶液に溶出して除去される。
段階(i):イオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体膜が補強布で補強された強化前駆体膜をアルカリ性水溶液に浸漬させることによって、イオン交換基に変換できる基を加水分解してイオン交換基に変換してイオン交換膜を製造する。
段階(ii):イオン交換膜を電解槽に配置し、塩化アルカリ電解の本運転前のコンディショニング運転を行う。
【0049】
犠牲糸としては、PET、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTと記す。)、ポリトリメチレンテレフタレート(以下、PTTと記す。)、レーヨン、およびセルロースからなる群から選ばれる少なくとも1種を含む糸が好ましい。また、PETのみからなるPET糸、PETおよびPBTの混合物からなるPET/PBT糸、PBTのみからなるPBT糸、またはPTTのみからなるPTT糸がより好ましい。
【0050】
犠牲糸としては、コストの点からは、PET糸が好ましい。犠牲糸としては、段階(i)の際にアルカリ性水溶液に溶出しにくく、機械的強度が充分に高いイオン交換膜が得られる点からは、PBT糸又はPTT糸が好ましく、PTT糸が特に好ましい。犠牲糸としては、コストと、イオン交換膜の機械的強度とのバランスの点からは、PET/PBTの混紡糸が好ましい。
【0051】
犠牲糸は、フィラメントが複数集まったマルチフィラメントであってもよく、モノフィラメントであってもよい。アルカリ水溶液との接触面積が広くなり、段階(ii)の際に犠牲糸が容易にアルカリ性水溶液に溶出する点から、マルチフィラメントが好ましい。
【0052】
犠牲糸がマルチフィラメントの場合、犠牲糸の1本あたりのフィラメントの数は、2〜32本が好ましく、2〜16本がより好ましく、2〜8本が更に好ましい。フィラメントの数が前記下限値以上であれば、段階(ii)の際に犠牲糸がアルカリ性水溶液に溶出しやすい。フィラメントの数が前記上限値以下であれば、犠牲糸の繊度が必要以上に大きくならない。
【0053】
犠牲糸の繊度は、段階(i)の前において、7〜100デニールが好ましく、9〜60デニールがより好ましく、12〜40デニールが更に好ましい。犠牲糸の繊度が前記下限値以上であれば、機械的強度が充分に高くなるとともに、織布性が充分高くなる。犠牲糸の繊度が前記上限値以下であれば、犠牲糸が溶出した後に形成される孔が電解質膜の表面に近づきすぎることがなく、電解質膜の表面にクラックが入りにくく、その結果、機械的強度の低下が抑えられる。
【0054】
(溶出部)
本発明のイオン交換膜は、層(S)に、上記段階(i)、段階(ii)の際に犠牲糸の材料の少なくとも一部が溶出して形成された溶出部を有している。犠牲糸が2本以上のフィラメントからなるマルチフィラメントの場合、該マルチフィラメントの材料の少なくとも一部が溶出し、2つ以上の孔の集まりからなる溶出部が形成される。犠牲糸がモノフィラメントからなる場合は、該モノフィラメントの材料の少なくとも一部が溶出した1つの孔からなる溶出部が形成される。段階(i)において、犠牲糸の一部が溶出せず残った場合には、溶出部の中に溶出残りの犠牲糸が存在する。
【0055】
イオン交換膜では、段階(i)の後においても犠牲糸の一部が残存し、犠牲糸のフィラメントのまわりに溶出部が形成されていることが好ましい。これにより、イオン交換膜の製造後から塩化アルカリ電解のコンディショニング運転の前までのイオン交換膜の取り扱い時や、コンディショニング運転の際の電解槽へのイオン交換膜の設置時において、イオン交換膜にクラック等の破損が発生しにくくなる。
段階(i)の後に犠牲糸の一部が残存していたとしても、段階(ii)の際に犠牲糸の大部分、好ましくは全部がアルカリ性水溶液に溶出し、除去されるため、イオン交換膜を用いた塩化アルカリ電解の本運転の時点では、膜抵抗に影響を及ぼさない。電解槽にイオン交換膜を設置した後は、イオン交換膜に外部から大きな力が作用することはないため、犠牲糸が完全にアルカリ性水溶液に溶出し、除去されても、イオン交換膜にクラック等の破損は発生しにくい。
なお、本発明では、段階(i)の際に犠牲糸の全てを溶出させ、段階(ii)を行う前に犠牲糸が残存していない溶出部を形成させてもよい。
【0056】
イオン交換膜の補強糸の長さ方向に直交する断面における、溶出部の断面積と、当該溶出部内に残存する犠牲糸の断面積とを合計した総面積(P)は、500〜5000μm
2であり、1000〜5000μm
2が好ましく、1000〜4000μm
2がより好ましく、1000〜3000μm
2が特に好ましい。前記総面積(P)が前記下限値以上であれば、製織時に犠牲糸の糸切れを起こさず補強布を製作でき、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減できる。前記総面積(P)が前記上限値以下であれば、製織時に補強糸の間に犠牲糸を収めることができ、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減できる。
前記総面積(P)は、90℃で2時間以上乾燥したイオン交換膜の断面を光学電子顕微鏡にて観察し、画像ソフトを用いて測定される。
本発明においては、補強糸の長さ方向に直交する断面において、総面積(P)が前記範囲にある。補強糸の長さ方向に直交する断面とは、イオン交換膜のMD方向に垂直に裁断した断面(以下、「MD断面」という。)およびTD方向に垂直に裁断した断面(以下、「TD断面」という。)から選ばれる少なくとも一方の断面を意味する。すなわち、MD断面における総面積(P)およびTD断面における総面積(P)の少なくとも一方の総面積(P)が前記の範囲にある。
また、本発明においてイオン交換膜のMD断面は、イオン交換膜に埋設される補強材中のMD方向と垂直に配置された補強糸、犠牲糸および溶出孔と重ならない断面が好ましく、TD断面も同様である。
本発明における断面における総面積(P)は、MD断面における総面積(P)およびTD断面における総面積(P)の平均値が前記範囲にあることがより好ましく、MD断面における総面積(P)およびTD断面における総面積(P)の両方が前記の範囲にあることが更に好ましい。
MD断面における総面積(P)は、イオン交換膜のMD断面において、無作為に10箇所の溶出孔について総面積(P)を測定し、それらの平均値を求めることにより得られる。TD断面にける総面積(P)も同様にして求めることにより得られる。
イオン交換膜において、犠牲糸が完全に溶解している場合には、総面積(P)は溶出孔の断面積となり、溶出孔内に溶出残りの犠牲糸が存在する場合には、総面積(P)は溶出孔の断面積と溶出残りの犠牲糸の断面積とを合計した面積となる。
【0057】
イオン交換膜の補強糸の長さ方向に直交する断面における、隣り合う補強糸間の溶出部の平均数(n)は、4〜6個であり、4個が特に好ましい。前記溶出部の平均数(n)が4〜6個であることで、膜強度を高めつつ、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減できる。なお、マルチフィラメントの犠牲糸1本から形成される溶出孔は1個と数える
【0058】
イオン交換膜の補強糸の長さ方向に直交する断面における、溶出部の中心から、その隣の溶出部の中心までの平均距離(d2)は、下式(1)の関係を満たすことが好ましく、下式(1−1)の関係を満たすことがより好ましく、下式(1−2)を満たすことが更に好ましい。これにより、膜強度を高めつつ、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減する効果が得られやすくなる。
0.5≦{d2/d1×(n+1)}≦1.5 ・・・(1)
0.7≦{d2/d1×(n+1)}≦1.4 ・・・(1−1)
0.8≦{d2/d1×(n+1)}≦1.2 ・・・(1−2)
但し、d1:補強糸の中心から隣の補強糸の中心までの平均距離。
d2:溶出孔の中心から、隣の溶出孔の中心までの平均距離。
n:隣り合う補強糸間の溶出孔の数。
なお、本発明においては、補強糸の長さ方向に直交する断面において、前記平均距離(d1)および平均距離(d2)が、前記式の関係を満たすことが好ましい。補強糸の長さ方向に直交する断面とは、イオン交換膜のMD断面およびTD断面から選ばれる少なくとも一方の断面を意味する。すなわち、MD断面およびTD断面から選ばれる少なくとも一方の断面における平均距離(d1)および平均距離(d2)が、前記式の関係を満たすことが好ましい。
本発明においては、MD断面における平均距離(d1)とTD断面における平均距離(d1)との平均値およびMD断面における平均距離(d2)とTD断面における平均距離(d2)との平均値が前記式を満たすことが好ましく、MD断面およびTD断面の両方において平均距離(d1)および平均距離(d2)が前記式の関係を満たすことがさらに好ましい。
MD断面における平均距離(d1)と平均距離(d2)の値は、イオン交換膜のMD断面において、無作為に各10箇所の平均距離(d1)と平均距離(d2)を測定し、それらの平均値を求めることにより得られる。TD断面における平均距離(d1)および平均距離(d2)も同様にして求めることにより得られる。
【0059】
本発明では、イオン交換膜の補強糸の長さ方向に直交する断面における、溶出部の中心から、その隣の溶出部の中心までの距離(d2’)の全ての測定箇所において、前記式(1’)の関係を満たすことが好ましく、下式(1’−1)の関係を満たすことがより好ましく、式(1’−2)の関係を満たすことがさらに好ましい。これにより、膜強度を高めつつ、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減する効果が得られやすくなる。なお、距離d2’における、平均距離(d2)を決定するために測定した全ての測定箇所とは、前記平均距離(d2)を算出するために測定した全ての測定箇所を意味する。具体的には、MD断面またはTD断面において、平均距離(d2)を得るために測定した各10個所の測定点をいう。
0.5≦{d2’/d1×(n+1)}≦1.5 ・・・(1’)
0.7≦{d2’/d1×(n+1)}≦1.4 ・・・(1’−1)
0.8≦{d2’/d1×(n+1)}≦1.2 ・・・(1’−2)
但し、式(1’)中の記号は以下の意味を示す。
d2’:溶出部の中心から、隣の溶出部の中心までの距離。
d1およびn:前記と同じ。
【0060】
また、イオン交換膜の補強糸の長さ方向に直交する断面における、補強糸の中心から、その隣の溶出部の中心までの平均距離(d3)は、下式(2)の関係を満たすことが好ましく、下式(2−1)の関係を満たすことがより好ましく、下式(2−2)を満たすことがさらに好ましい。これにより、膜強度を高めつつ、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減する効果が得られやすくなる。
0.5≦{d3/d1×(n+1)}≦1.5 ・・・(2)
0.8≦{d3/d1×(n+1)}≦1.5 ・・・(2−1)
0.9≦{d3/d1×(n+1)}≦1.4 ・・・(2−2)
但し、式(2)中の記号は以下の意味を示す。
d3:補強糸の中心から、隣の溶出孔の中心までの平均距離。
d1およびn:前記と同じ。
【0061】
なお、本発明においては、補強糸の長さ方向に直交する断面において、前記平均距離(d1)および平均距離(d3)が、前記式の関係を満たすことが好ましい。補強糸の長さ方向に直交する断面とは、イオン交換膜のMD断面またはTD断面の少なくとも一方の断面を意味する。すなわち、MD断面およびTD断面から選ばれる少なくとも一方の断面における平均距離(d1)および平均距離(d3)が、前記式の関係を満たすことが好ましい。
本発明においては、MD断面における平均距離(d1)とTD断面における平均距離(d1)との平均値およびMD断面における平均距離(d3)とTD断面における平均距離(d3)との平均値が前記式を満たすことが好ましく、MD断面およびTD断面の両方において平均距離(d1)および平均距離(d3)が前記式の関係を満たすことが更に好ましい。
MD断面における平均距離(d1)と平均距離(d3)の値は、イオン交換膜のMD断面において、無作為に10箇所の平均距離(d1)と平均距離(d3)を測定し、それらの平均値を求めることにより得られる。TD断面における平均距離(d1)および平均距離(d3)も同様にして求めることにより得られる。
【0062】
本発明では、イオン交換膜の補強糸の長さ方向に直交する断面における、補強糸の中心から、その隣の溶出部の中心までの距離d3’の全てが、前記式(2’)の関係を満たすことが好ましく、下式(2’−1)の関係を満たすことがより好ましく、式(2’−2)の関係を満たすことが更に好ましい。これにより、膜強度を高めつつ、塩化アルカリ電解時の電解電圧を低減する効果が得られやすくなる。なお、距離d3’における、平均距離(d3)を決定するために測定した全ての測定箇所とは、前記平均距離(d3)を算出するために測定した全ての測定箇所を意味する。具体的には、任意のMD断面またはTD断面において、平均距離(d3)を得るために測定した各10個所の測定箇所をいう。
0.5≦{d3’/d1×(n+1)}≦1.5 ・・・(2’)
0.8≦{d3’/d1×(n+1)}≦1.5 ・・・(2’−1)
0.9≦{d3’/d1×(n+1)}≦1.4 ・・・(2’−2)
但し、式(1’)中の記号は以下の意味を示す。
d3’:補強糸の中心から、隣の溶出部の中心までの距離。
d1およびn:前記と同じ。
【0063】
[製造方法]
図1に示される層(Sa)、補強布、層(Sb)および層(C)からなるイオン交換膜の場合を例にして、イオン交換膜の製造方法の1例を示す。イオン交換膜は、例えば、下記の工程(a)、工程(b)を経て製造される。
工程(a):イオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを含む前駆体膜が、補強糸と犠牲糸とからなる補強布で補強された強化前駆体膜を得る。
工程(b):強化前駆体膜をアルカリ性水溶液に接触させることによって、前駆体基を加水分解してイオン交換基に変換し、イオン交換膜を得る。
【0064】
(工程(a))
共押出法によって、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーからなる前駆体層(C’)と、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーからなる前駆体層(S’1)との積層体を得る。
別途、単層押出法によって、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーからなる前駆体層(S’2)を得る。
ついで、前駆体層(S’2)、補強布、前駆体層(S’1)と前駆体層(C’)との積層膜の順に配置し、積層ロールまたは真空積層装置を用いてこれらを積層して強化前駆体膜を得る。この際、前駆体層(S’1)と前駆体層(C’)との積層膜は、前駆体層(S’1)が補強布に接するように配置する。強化前駆体膜を加水分解処理することにより、前駆体層(S’1)は層(Sb)、前駆体層(S’2)は層(Sa)となり、層(Sa)、補強材、層(Sb)、層(C)がこの順に積層されたイオン交換膜が得られる。
【0065】
(カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー)
カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーとしては、例えば、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーに由来する単位と、含フッ素オレフィンに由来する単位とを有する共重合体が挙げられる。
【0066】
カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとしては、分子中に1個以上のフッ素原子を有し、エチレン性の二重結合を有し、かつカルボン酸型官能基に変換できる基を有する化合物であれば、特に限定されず、従来から公知のものを用いることができる。
【0067】
カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとしては、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、下式(3)で表されるモノマーが好ましい。
CF
2=CF−(O)
p−(CF
2)
q−(CF
2CFX)
r−(O)
s−(CF
2)
t−(CF
2CFX’)
u−A
1 ・・・(3)。
【0068】
式(3)におけるXは、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。また、X’は、フッ素原子またはトリフルオロメチル基である。1分子中にXおよびX’の両方が存在する場合、それぞれは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0069】
A
1は、カルボン酸型官能基に変換できる基である。カルボン酸型官能基に変換できる基は、加水分解によってカルボン酸型官能基に変換し得る官能基である。カルボン酸型官能基に変換し得る官能基としては、−CN、−COF、−COOR
1(但し、R
1は炭素原子数1〜10のアルキル基である。)、−COONR
2R
3(但し、R
2およびR
3は、水素原子または炭素原子数1〜10のアルキル基である。R
2およびR
3は、同一であってもよく、異なっていてもよい。)等が挙げられる。
【0070】
pは、0または1であり、qは、0〜12の整数であり、rは、0〜3の整数であり、sは、0または1であり、tは、0〜12の整数であり、uは、0〜3の整数である。但し、pおよびsが同時に0になることはなく、rおよびuが同時に0になることはない。すなわち、1≦p+sであり、1≦r+uである。
【0071】
式(3)で表されるモノマーの具体例としては、下記の化合物が挙げられ、製造が容易である点から、p=1、q=0、r=1、s=0〜1、t=1〜3、u=0〜1である化合物が好ましい。
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−O−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−O−CF
2CF
2−CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−O−CF
2CF
2−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2−CF
2CF
2−O−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF(CF
3)−O−CF
2CF
2−COOCH
3、
CF
2=CF−O−CF
2CF(CF
3)−O−CF
2−CF
2CF
2−COOCH
2。
カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
含フッ素オレフィンとしては、例えば、分子中に1個以上のフッ素原子を有する炭素原子数が2〜3のフルオロオレフィンが挙げられる。フルオロオレフィンとしては、テトラフルオロエチレン(CF
2=CF
2)(以下、TFEと記す。)、クロロトリフルオロエチレン(CF
2=CFCl)、フッ化ビニリデン(CF
2=CH
2)、フッ化ビニル(CH
2=CHF)、ヘキサフルオロプロピレン(CF
2=CFCF
3)等が挙げられる。なかでも、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、TFEが特に好ましい。含フッ素オレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0073】
本発明において、層(C)を形成する含フッ素ポリマーには、カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーおよび含フッ素オレフィンに加えて、更に他のモノマーを用いてもよい。他のモノマーとしては、CF
2=CF
2−R
f、CF
2=CF−OR
f(但し、R
fは炭素原子数1〜10のペルフルオロアルキル基である。)、CF
2=CFO(CF
2)
vCF=CF
2(但し、vは1〜3の整数である。)等が挙げられる。他のモノマーを共重合させることによって、イオン交換膜の可撓性や機械的強度を向上できる。他のモノマーの割合は、イオン交換性能の維持の点から、全モノマー(100質量%)のうち30質量%以下が好ましい。
【0074】
カルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーの分子量は、イオン交換膜としての機械的強度および製膜性の点から、TQ値で150℃以上が好ましく、170〜340℃がより好ましく、170〜300℃が更に好ましい。
【0075】
(スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー)
スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーとしては、例えば、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーに由来する単位と、含フッ素オレフィンに由来する単位とを有する共重合体が挙げられる。
【0076】
スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとしては、分子中に1個以上のフッ素原子を有し、エチレン性の二重結合を有し、かつスルホン酸型官能基に変換できる基を有するモノマーであれば、特に限定されず、従来から公知のものを用いることができる。
【0077】
スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとしては、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、下式(4)で表されるモノマーまたは下式(5)で表されるモノマーが好ましい。
CF
2=CF−O−R
f2−A
2 ・・・(4)、
CF
2=CF−R
f2−A
2 ・・・(5)。
【0078】
R
f2は、炭素数1〜20のペルフルオロアルキレン基であり、エーテル性の酸素原子を含んでいてもよく、直鎖状または分岐状のいずれでもよい。
A
2は、スルホン酸型官能基に変換できる基である。スルホン酸型官能基に変換できる基は、加水分解によってスルホン酸型官能基に変換し得る官能基である。スルホン酸型官能基に変換し得る官能基としては、−SO
2F、−SO
2Cl、−SO
2Br等が挙げられる。
【0079】
式(4)で表されるモノマーとしては、具体的には下記のモノマーが好ましい。
CF
2=CF−O−(CF
2)
a−SO
2F(但し、aは1〜8の整数である。)、
CF
2=CF−O−CF
2CF(CF
3)O(CF
2)
a−SO
2F(但し、aは1〜8の整数である。)、
CF
2=CF[OCF
2CF(CF
3)]
aSO
2F(但し、aは1〜5の整数である。)
【0080】
式(5)で表されるモノマーとしては、具体的には下記のモノマーが好ましい。
CF
2=CF(CF
2)
b−SO
2F(但し、bは0〜8の整数である。)、
CF
2=CF−CF
2−O−(CF
2)
b−SO
2F(但し、bは1〜8の整数である。)
【0081】
スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとしては、工業的な合成が容易である点から、下記のモノマーがより好ましい。
CF
2=CFOCF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF
2CF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)OCF
2CF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFOCF
2CF(CF
3)SO
2F、
CF
2=CFCF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CFCF
2CF
2CF
2SO
2F、
CF
2=CF−CF
2−O−CF
2CF
2−SO
2F。
スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0082】
含フッ素オレフィンとしては、先に例示したものが挙げられ、モノマーの製造コスト、他のモノマーとの反応性、得られる含フッ素ポリマーの特性に優れる点から、TFEが特に好ましい。含フッ素オレフィンは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0083】
本発明においては、層(S)を形成する含フッ素ポリマーに、スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーおよび含フッ素オレフィンに加えて、更に他のモノマーを用いてもよい。他のモノマーとしては、先に例示したものが挙げられる。他のモノマーを共重合させることによって、イオン交換膜の可撓性や機械的強度を向上できる。他のモノマーの割合は、イオン交換性能の維持の点から、全モノマー(100質量%)のうち30質量%以下が好ましい。
【0084】
スルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーの分子量は、イオン交換膜としての機械的強度および製膜性の点から、TQ値で150℃以上が好ましく、170〜340℃がより好ましく、170〜300℃が更に好ましい。
【0085】
(工程(b))
このようにして得られた強化前駆体膜の、カルボン酸型官能基に変換できる基およびスルホン酸型官能基に変換できる基を、加水分解してそれぞれカルボン酸型官能基およびスルホン酸型官能基に転換することによって、イオン交換膜が得られる。加水分解の方法としては、例えば、特開平1−140987号公報に記載されているような、水溶性有機化合物とアルカリ金属の水酸化物との混合物を用いる方法が好ましい。
【0086】
工程(b)においては、強化前駆体膜をアルカリ性水溶液に接触させることによって、犠牲糸の少なくとも一部を加水分解してアルカリ性水溶液に溶出させることが好ましい。
【0087】
<塩化アルカリ電解装置>
本発明の塩化アルカリ電解装置は、本発明の塩化アルカリ電解用イオン交換膜を有する以外は、公知の態様を採用できる。
図3は、本発明の塩化アルカリ電解装置の一例を示した模式図である。
本実施形態の塩化アルカリ電解装置100は、陰極112および陽極114を備える電解槽110と、電解槽110内を陰極112側の陰極室116と陽極114側の陽極室118とに区切るように電解槽110内に装着されるイオン交換膜1と、を有する。
イオン交換膜1は、層(C)12が陰極112側、層(S)14の層(Sa)が陽極114側となるように電解槽110内に装着する。
【0088】
陰極112は、イオン交換膜1に接触させて配置してもよく、イオン交換膜1との間に間隔を開けて配置してもよい。
陰極室116を構成する材料としては、水酸化ナトリウムおよび水素に耐性がある材料が好ましい。該材料としては、ステンレス、ニッケル等が挙げられる。陽極室118を構成する材料としては、塩化ナトリウムおよび塩素に耐性がある材料が好ましい。該材料としては、チタンが挙げられる。
また、陰極の材料は、好ましくは基材としてステンレスやニッケルが用いられ、電極触媒層としてNi―S 合金,ラネーNi,NiO,Ni―Sn 合金,Pt やRu などの白金族元素等が使用され、陽極の材料は、好ましくは酸化物被覆層を有するチタン等が使用される。
【0089】
例えば、塩化カリウム水溶液を電解して水酸化ナトリウム水溶液を製造する場合は、塩化アルカリ電解装置100の陽極室118に塩化ナトリウム水溶液を供給し、陰極室116に水酸化カリウム水溶液を供給し、陰極室116から排出される水酸化ナトリウム水溶液の濃度を所定の濃度(例えば、32質量%)に保ちながら、塩化ナトリウム水溶液を電解する。
【実施例】
【0090】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の記載によっては限定されない。例1〜3は、実施例であり、例4〜8は、比較例である。
(TQ値)
TQ値は、ポリマーの分子量に関係する値であって、容量流速:100mm
3/秒を示す温度として求めた。容量流速は、島津フローテスターCFD−100D(島津製作所社製)を用い、イオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーを3MPaの加圧下にオリフィス(径:1mm、長さ:1mm)から溶融、流出させたときの流出量(単位:mm
3/秒)とした。
【0091】
(イオン交換容量)
イオン交換基に変換できる基を有する含フッ素ポリマーの約0.5gを、そのTQ値より約10℃高い温度にて平板プレスしてフィルム状にし、得られたフィルム状のサンプルを透過型赤外分光分析装置によって分析した。得られたスペクトルのCF
2ピーク、CH
3ピーク、OHピーク、CFピーク、SO
2Fピークの各ピーク高さを用いて、カルボン酸型官能基に変換できる基またはスルホン酸型官能基に変換できる基を有する単位の割合を算出し、これを、加水分解処理後に得られる含フッ素ポリマーにおけるカルボン酸型官能基またはスルホン酸型官能基を有する単位の割合とし、イオン交換容量が既知のサンプルを検量線として用い、イオン交換容量を求めた。
なお、末端基が酸型もしくはK型もしくはNa型であるイオン交換基を有するフィルムに関しても、同様に測定が可能である。
【0092】
(補強糸、溶出部の距離)
90℃で2時間以上乾燥させたイオン交換膜の断面を光学顕微鏡にて観察し、画像ソフト(イノテック社製Pixs2000 PRO)を用いて、MD断面(MD方向に垂直に裁断した断面)およびTD断面(TD方向に垂直に裁断した断面)のそれぞれにおいて、補強糸の中心からその隣の補強糸の中心までの距離を各10箇所ずつ測定し、それらの平均から平均値d1を求めた。また、平均値d2、d3についても同様に求めた。
なお、平均値d1〜3は、工程(a)および(b)を経て製造されたイオン交換膜に配置された補強布の値であり、製織後すなわち工程(a)および工程(b)を経る前の値とは異なる。
【0093】
(断面積の測定方法)
大気中、90℃で2時間以上乾燥させたイオン交換膜の補強糸の長さ方向に垂直に切断した断面を光学顕微鏡にて観察し、画像ソフト(イノテック社製Pixs2000 PRO)を用いて、溶出部の断面積と、当該溶出部内に残存する犠牲糸の断面積とを合計した総面積(P)を測定した。総面積(P)は、MD断面およびTD断面において無作為に各10箇所ずつ測定を行った。MD断面について、総断面積(S)を10箇所の測定値の平均値として求めた。TD断面についても同様にして総面積(S)を求めた。
犠牲糸が完全に溶解している場合には、総面積(S)は溶出孔の断面積となり、溶出孔内に溶出残りの犠牲糸が存在する場合には、総面積(S)は溶出孔の断面積と溶出残りの犠牲糸の断面積とを合計した値となる。
【0094】
(補強糸の幅の測定方法)
大気中、90℃で2時間以上乾燥させたイオン交換膜の断面を光学顕微鏡にて観察し、画像ソフト(イノテック社製Pixs2000 PRO)を用いて、補強布の布面に直交する方向(面に対して垂直な方向)から見た補強糸の幅を測定した。該補強糸の幅は、MD断面およびTD断面において各10箇所ずつ測定を行った。MD断面ついて、補強糸の幅を10箇所の測定値の平均値として求めた。TD断面についても同様にして補強糸の幅を求めた。
【0095】
(電解電圧の測定方法)
イオン交換膜を、層(C)が陰極に面するように、有効通電面積が1.5dm2(電解面サイズが縦150mm×横100mm)の試験用電解槽内に配置し、陽極としてはチタンのパンチドメタル(短径4mm、長径8mm)に酸化ルテニウムと酸化イリジウムと酸化チタンの固溶体を被覆したものを用い、陰極としてはSUS304製パンチドメタル(短径5mm、長径10mm)にルテニウム入りラネーニッケルを電着したものを用い、電極と膜が直接接し、ギャップが生じないように設置した。
陰極室から排出される水酸化ナトリウム濃度:32質量%、陽極室に供給する塩化ナトリウム濃度:200g/Lとなるように調整しながら、温度:90℃、電流密度:6kA/m
2の条件で、塩化ナトリウム水溶液の電解を行い、運転開始から3〜10日後の電解電圧(V)及び電流効率(%)を測定した。
【0096】
(開口率の測定方法)
開口率は、大気中、90℃で2時間以上乾燥させたイオン交換膜の、補強糸の長さ方向に垂直に切断した断面を光学顕微鏡にて観察し、画像ソフト(イノテック社製Pixs2000 PRO)を用いて、開口率を算出した。算出は、MD断面(MD方向に垂直に裁断した断面)およびTD断面(TD方向に垂直に裁断した断面)のそれぞれにおいて、補強糸の中心からその隣の補強糸の中心までの距離および補強糸の幅を各10箇所ずつ測定し、以下の式から算出した。
{(MD断面の補強糸間の距離―MD断面の補強糸の幅)×(TD断面の補強糸間の距離―TD断面の補強糸の幅)}/{(MD断面の補強糸間の距離)×(TD断面の補強糸間の距離)}×100
【0097】
〔例1〕
TFEと下式(3−1)で表されるカルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとを共重合してカルボン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(イオン交換容量:1.06ミリ当量/グラム乾燥樹脂、TQ:225℃)(以下、ポリマーCと記す。)を合成した。
CF
2=CF−O−CF
2CF
2−CF
2−COOCH
3 ・・・(3−1)。
【0098】
TFEと下式(4−1)で表されるスルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとを共重合してスルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(イオン交換容量:1.1ミリ当量/グラム乾燥樹脂、TQ:235℃)(以下、ポリマーS1と記す。)を合成した。同様に、TFEと下式(4−1)で表されるスルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとを共重合してスルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(イオン交換容量:1.25ミリ当量/グラム乾燥樹脂、TQ:235℃)(以下、ポリマーS2と記す。)を合成した。
CF
2=CF−O−CF
2CF(CF
3)−O−CF
2CF
2−SO
2F ・・(4−1)
【0099】
ポリマーCとポリマーS1とを共押し出し法により成形し、ポリマーCからなる前駆体層(C’)(厚さ:12μm)およびポリマーS1からなる前駆体層(S’1)(厚さ:68μm)の2層構成のフィルムAを得た。
また、ポリマーS2を溶融押し出し法により成形し、前駆体層(S’2)となるフィルムB(厚さ:30μm)を得た。
【0100】
PTFEフィルムを急速延伸した後、100デニールの太さにスリットして得たモノフィラメントに2000回/mの撚糸をかけたPTFE糸を補強糸とした。9デニールのPETフィラメントを2本引き揃えた18デニールのマルチフィラメントからなるPET糸を犠牲糸とした。補強糸1本と犠牲糸4本とが交互に配列されるように平織りし、補強布(補強糸の密度:27本/インチ、犠牲糸の密度:108本/インチ)を得た。
フィルムB、補強布、フィルムA、離型用PETフィルム(厚さ:100μm)の順に、かつフィルムAの前駆体層(C’)が離型用PETフィルム側となるように重ね、ロールを用いて積層した。離型用PETフィルムを剥がし、強化前駆体膜を得た。
酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)の29.0質量%、メチルセルロースの1.3質量%、シクロヘキサノールの4.6質量%、シクロヘキサンの1.5質量%および水の63.6質量%からなるペーストを、強化前駆体膜の前駆体層(S’2)の上層側にロールプレスにより転写し、ガス開放性被覆層を形成した。酸化ジルコニウムの付着量は、20g/m
2とした。
【0101】
片面にガス開放性被覆層を形成した強化前駆体膜を、5質量%のジメチルスルホキシドおよび30質量%の水酸化カリウムの水溶液に95℃で8分間浸漬した。これにより、ポリマーCの−COOCH
3ならびにポリマーS1およびポリマーS2の−SO
2Fを加水分解してイオン交換基に転換し、前駆体層(C’)を層(C)に、前駆体層(S’1)および前駆体(S’2)をそれぞれ層(S1)および層(S2)とした膜を得た。
ポリマーS1の酸型ポリマーを2.5質量%含むエタノール溶液に、酸化ジルコニウム(平均粒子径:1μm)を13質量%の濃度で分散させた分散液を調製した。該分散液を、前記膜の層(C)側に噴霧し、ガス開放性被覆層を形成し、両面にガス開放性被覆層が形成されたイオン交換膜を得た。酸化ジルコニウムの付着量は3g/m
2とした。
【0102】
〔例2〕
TFEと前記式(4−1)で表されるスルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素モノマーとを共重合してスルホン酸型官能基に変換できる基を有する含フッ素ポリマー(イオン交換容量:1.30ミリ当量/グラム乾燥樹脂、TQ:235℃)(以下、ポリマーS3と記す。)を合成した。
ポリマーS2をポリマーS3に変更した以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0103】
〔例3〕
犠牲糸として、16デニールのPETフィラメントを2本引き揃えた32デニールのマルチフィラメントからなるPET糸を用い、ポリマーS2をポリマーS3に変更した以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0104】
〔例4〕
犠牲糸として、5デニールのモノフィラメントを6本引き揃えて撚った30デニールのマルチフィラメントからなるPET糸を用い、補強布における補強糸の密度を27本/インチ、犠牲糸の密度を54本/インチとし、更にポリマーS2をポリマーS1に変更した以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0105】
〔例5〕
犠牲糸として、5デニールのモノフィラメントを6本引き揃えて撚った30デニールのマルチフィラメントからなるPET糸を用い、補強布における補強糸の密度を27本/インチ、犠牲糸の密度を54本/インチとした以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0106】
〔例6〕
犠牲糸として、5デニールのモノフィラメントを6本引き揃えて撚った30デニールのマルチフィラメントからなるPET糸を用い、補強布における補強糸の密度を27本/インチ、犠牲糸の密度を54本/インチとし、更にポリマーS2をポリマーS3に変更した以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0107】
〔例7〕
ポリマーS2をポリマーS1に変更した以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0108】
〔例8〕
犠牲糸として、16デニールのPETフィラメントを2本引き揃えた32デニールのマルチフィラメントからなるPET糸を用い、ポリマーS2をポリマーS1に変更した以外は、例1と同様にしてイオン交換膜を得た。
【0109】
各例におけるイオン交換膜の各平均距離d1〜d3、総面積(P)、補強糸の幅および電解電圧の測定結果を表1に示す。
【0110】
【表1】
【0111】
本発明の条件を満たすイオン交換膜を用いた例1〜3では、溶出部の平均数(n)が4未満で、層(S)の層(Sa)のイオン交換容量が1.15ミリ当量/グラム乾燥樹脂未満のイオン交換膜を用いた例4に比べて、平均値距離(d1)が小さいにも関わらず電解電圧が低かった。
【0112】
また、例1〜3は、例4と比較して、層(Sa)のイオン交換容量を1.25ミリ当量/グラム乾燥樹脂とした例5で電圧差が−20mV、溶出部の平均数(n)を4とした例7で電圧差が−40mVであり、これらを足し合わせた電圧差は−60mVである。これに対し、例5と例7の対策を組み合わせた例1の例4に対する電圧差は−70mVであり、例5と例7を足し合わせた電圧差よりも大きく、相乗効果が見られた。
同様に、例1〜3は、例4と比較して、層(Sa)のイオン交換容量を1.30ミリ当量/グラム乾燥樹脂とした例6で電圧差が−25mV、溶出部の平均数(n)を4とした例7で電圧差が−40mVであり、これらを足し合わせた電圧差は−65mVである。これに対し、例6と例7の対策を組み合わせた例2の例4に対する電圧差は−75mVであり、例6と例7を足し合わせた電圧差よりも大きく、相乗効果が見られた。
【0113】
同様に、例1〜3は、例4と比較して、層(Sa)のイオン交換容量を1.30ミリ当量/グラム乾燥樹脂とした例6で電圧差が−25mV、溶出部の平均数(n)を4とした例8で電圧差が−40mVであり、これらを足し合わせた電圧差は−65mVである。これに対し、例6と例8の対策を組み合わせた例3の例4に対する電圧差は−85mVであり、例6と例8を足し合わせた電圧差よりも大きく、相乗効果が見られた。
なお、例1〜3の平均距離d1〜d3、総面積(P)、補強糸の幅の測定においては、各10箇所全てで上記範囲内の測定値であった。