特許第6587070号(P6587070)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6587070
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】β−ユークリプタイト微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/26 20060101AFI20191001BHJP
【FI】
   C01B33/26
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-570515(P2016-570515)
(86)(22)【出願日】2015年12月16日
(86)【国際出願番号】JP2015085295
(87)【国際公開番号】WO2016117248
(87)【国際公開日】20160728
【審査請求日】2018年10月1日
(31)【優先権主張番号】特願2015-10654(P2015-10654)
(32)【優先日】2015年1月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】加藤 博和
(72)【発明者】
【氏名】伊左治 忠之
(72)【発明者】
【氏名】鹿島 吉恭
(72)【発明者】
【氏名】中島 淳一
【審査官】 手島 理
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−131042(JP,A)
【文献】 特開2014−123703(JP,A)
【文献】 GHOSH N. N., PRAMANIK P.,Synthesis of eucryptite and eucryptite-zirconia composite powders using aqueous sol-gel technique.,Materials Science and Engineering B,スイス,1997年,B49 No.1,p.79-83
【文献】 GHOSH N.N.,SAHA S.K.,PRAMANIK P.,Sol-gel synthesis of multicomponent ceramic powders with metal formate precursors.,British Ceramic Transactions,英国,1998年,Vol.97 No.4,p. 180-184,ISSN 0967-9782
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20− 39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性リチウム塩、水溶性アルミニウム塩及び透過型電子顕微鏡観察による一次粒子径が2〜50nmであるコロイダルシリカをリチウム原子、アルミニウム原子、ケイ素原子のモル比(Li:Al:Si)=1:1:1で含有する混合溶液を50℃以上300℃未満の温度雰囲気に噴霧して乾燥し、その後大気中又は酸化雰囲気中で600〜1300℃の温度雰囲気で焼成することを特徴とするβ−ユークリプタイト微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記β−ユークリプタイト微粒子において、α相の(121)面のX線回折ピーク強度Iαとβ相の(102)面に帰属するX線回折ピーク強度Iβとの比Iα/Iβが0.05未満であり、且つ結晶子径が80nm未満であることを特徴とする請求項1に記載のβ−ユークリプタイト微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記水溶性リチウム塩がリチウムの有機酸塩である請求項1又は2に記載のβ−ユークリプタイト微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記水溶性アルミニウム塩がアルミニウムの有機酸塩である請求項1又は2に記載のβ−ユークリプタイト微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記リチウムの有機酸塩及び/又はアルミニウムの有機酸塩を構成する有機酸が、クエン酸、シュウ酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、ギ酸、酢酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項3又は4に記載のβ−ユークリプタイト微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、β−ユークリプタイト微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化につれて、主要部品であるプリント配線基板の需要が増大している。プリント配線回路の高集積化、多層化に伴い、半導体封止材料と基板の熱膨張係数(CTE:Coefficient of Thermal Exapansion)の差が大きいと回路の破壊の原因になる。このため、エポキシ樹脂等の耐熱性に優れた樹脂にCTEの小さな無機物として非晶質シリカをフィラーとして充填して半導体封止材料のCTEを低減する技術が用いられている。しかし、非晶質シリカは小さい値ではあるが、正のCTEを有する物質であり、エポキシ樹脂等に充填して用いても封止材のCTEを下げる効果が不十分であった。
【0003】
一方、β−ユークリプタイト(β−LiAlSiO4)は負のCTEを有する金属酸化物であるが、半導体封止材料のCTEを低減させるフィラーとして利用するには、樹脂への充填密度を上げるために粒子径をできる限り小さくする必要がある。
【0004】
特許文献1では絶縁複合材料に用いるユークリプタイトフィラーが開示されている。出発材料としてLiO2、SiO2、Al23が用いられ、単一相のユークリプタイトを合成するには1000〜1400℃の熱処理が好ましいことが開示されている。
【0005】
特許文献2では塩化リチウム、塩化アルミニウム、珪酸ナトリウムの各水溶液を混合した後、沈殿又は析出させてナノサイズのシード粒子を形成させ、所定の方法により不純物のナトリウムイオンを除去し、700〜1300℃で熱処理する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−255004号公報
【特許文献2】特開2014−131042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、酸化物を原料に用いているため、β−ユークリプタイトを得るには1000℃を超える高温が必要である。そのため、得られるβ−ユークリプタイトは粉砕性や解砕性に優れず、エポキシ樹脂等への充填密度を上げることが難しくなり、複合材料のCTEを低減させるフィラーとして有用ではない。
【0008】
特許文献2の製造方法では、塩化リチウム、塩化アルミニウムと珪酸ナトリウムとの中和反応によって沈殿物又は析出物が生じるため、各元素の分布が不均一になり、β−ユークリプタイトを得るために必要な熱処理温度が高くなるので好ましくない。さらに洗浄工程は製造方法を煩雑にするだけでなく、ナトリウムイオンの残存やリチウムイオンの一部の除去が避けられないため、得られるユークリプタイトは正のCTEを有する結晶相(α相)との混相になり、CTEを低減する効果が小さなものとなる。
【0009】
本願発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、ナトリウムイオンの除去が不要で且つ、従来技術よりも低温の熱処理でβ−ユークリプタイト微粒子を得る製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、水溶性リチウム塩、水溶性アルミニウム塩及びコロイダルシリカを含有する溶液を噴霧乾燥し、その後大気中で焼成することにより600〜1300℃の範囲でβ−ユークリプタイト微粒子の製造が可能であることを見出した。
【0011】
即ち、本願発明は、以下の第1観点〜第5観点のいずれか一つに記載のβ−ユークリプタイト微粒子の製造方法に関する。
第1観点としては、水溶性リチウム塩、水溶性アルミニウム塩及び透過型電子顕微鏡観察による一次粒子径が2〜50nmであるコロイダルシリカをリチウム原子、アルミニウム原子、ケイ素原子のモル比(Li:Al:Si)=1:1:1で含有する混合溶液を50℃以上300℃未満の温度雰囲気に噴霧して乾燥し、その後大気中又は酸化雰囲気中で600〜1300℃の温度雰囲気で焼成することを特徴とするβ−ユークリプタイト微粒子の製造方法、
第2観点としては、前記β−ユークリプタイト微粒子において、α相の(121)面のX線回折ピーク強度Iαとβ相の(102)面に帰属するX線回折ピーク強度Iβとの比Iα/Iβが0.05未満であり、且つ結晶子径が80nm未満であることを特徴とする第1観点に記載のβ−ユークリプタイト微粒子の製造方法、
第3観点としては、前記水溶性リチウム塩がリチウムの有機酸塩である第1観点又は第2観点に記載のβ−ユークリプタイト微粒子の製造方法、
第4観点としては、前記水溶性アルミニウム塩がアルミニウムの有機酸塩である第1観点又は第2観点に記載のβ−ユークリプタイト微粒子の製造方法、
第5観点としては、前記リチウムの有機酸塩及び/又はアルミニウムの有機酸塩を構成する有機酸が、クエン酸、シュウ酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、ギ酸、酢酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である第3観点又は第4観点に記載のβ−ユークリプタイト微粒子の製造方法、である。
【発明の効果】
【0012】
本願発明の製造方法により、焼成温度が600〜1300℃の範囲で解砕性に優れ、α相の(121)面のX線回折ピーク強度Iαとβ相の(102)面に帰属するX線回折ピーク強度Iβとの比Iα/Iβが0.05未満であり、結晶子径が80nm未満であるβ−ユークリプタイト微粒子を製造することできる。
【0013】
本願発明により製造されたβ−ユークリプタイト微粒子は、半導体封止材等のフィラーとして使用される場合にフィラー粒子の充填密度を上げることが可能であり、絶縁性向上やCTE低減に高い効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本願発明はβ−ユークリプタイト微粒子の製造方法に関するものである。本願発明において水溶性リチウム塩、水溶性アルミニウム塩及びコロイダルシリカを含有する溶液の調製法は、特に限定されるものではなく、水溶性リチウム塩、水溶性アルミニウム塩及びコロイダルシリカを任意の方法で混合すればよい。
【0015】
水溶性リチウム塩、水溶性アルミニウム塩及びコロイダルシリカを含有する溶液において、リチウム原子、アルミニウム原子、ケイ素原子の混合割合はモル比でLi:Al:Si=1:1:1である。Liに対してAlとSiが過剰であると焼成後にAl23やSiO2が副生し、β−ユークリプタイト微粒子のCTEが増大する原因になるので好ましくない。
【0016】
また、水溶性リチウム塩、水溶性アルミニウム塩及びコロイダルシリカを含有する溶液を調製する際に、水溶性リチウム塩はその粉末を用いても良いが、あらかじめ水溶液として用いることが好ましい。該水溶液のLi2O換算の固形分濃度は任意で構わないが、1〜20質量%であることが好ましい。また、該水溶液のAl23換算の固形分濃度は任意で構わないが、1〜20質量%であることが好ましい。コロイダルシリカは、その水分散液を用いることが好ましく、そのSiO2換算の固形分濃度は任意で構わないが、1〜40質量%であることが好ましい。
【0017】
本願発明において使用される水溶性リチウム塩は、25℃の水に1質量%以上溶解するリチウム塩であり、塩化リチウム、硝酸リチウム、硫酸リチウム等の無機酸塩、クエン酸リチウム、シュウ酸リチウム、グリコール酸リチウム、リンゴ酸リチウム、酒石酸リチウム、乳酸リチウム、マロン酸リチウム、コハク酸リチウム、ギ酸リチウム、酢酸リチウム等の有機酸塩が挙がられる。
【0018】
また、水溶性リチウム塩としては、水酸化リチウムや炭酸リチウムを塩酸、硝酸、硫酸、クエン酸、シュウ酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、ギ酸、酢酸等の酸で溶解したものを使用することもできる。
【0019】
前記の水溶性リチウム塩は、単独で用いることができ、また、2種以上を混合して用いることもできる。
【0020】
本願発明において使用される水溶性アルミニウム塩は、25℃の水に1質量%以上溶解するアルミニウム塩であり、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム等の無機酸塩、クエン酸アルミニウム、シュウ酸アルミニウム、グリコール酸アルミニウム、リンゴ酸アルミニウム、酒石酸アルミニウム、乳酸アルミニウム、マロン酸アルミニウム、コハク酸アルミニウム、ギ酸アルミニウム、酢酸アルミニウム等の有機酸塩が挙がられる。
【0021】
また、水溶性アルミニウム塩としては、乾燥水酸化アルミニウムゲルを塩酸、硝酸、クエン酸、シュウ酸、グリコール酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、マロン酸、コハク酸、ギ酸、酢酸等の酸で解膠又は溶解した塩基性塩を好ましく使用することができる。
【0022】
乾燥水酸化アルミニウムゲルと酸との混合割合は、乾燥水酸化アルミニウムゲルが加熱により解膠又は溶解できるならば特に限定されない。このときの加熱温度は80℃以上が好ましい。
【0023】
本願発明において使用されるコロイダルシリカの一次粒子径は透過型電子顕微鏡観察により測定されたものであり、その範囲は2〜50nmであり、2〜25nmであることが好ましい。一次粒子径が1nm未満では混合溶液の安定性が悪くなりゲル化する場合がある。また、コロイダルシリカの一次粒子径が50nmを超えると非晶質のシリカが残存したり、正の熱膨張係数を有するα−ユークリプタイト(以下、α相と表記)が生成しやすくなるので好ましくない。
【0024】
コロイダルシリカの製造方法は特に制限はなく、水ガラスを原料としてコロイド粒子を成長させる方法やシリコンアルコキシドを加水分解した後、粒子成長させる方法等により製造されたものを用いることができる。
【0025】
原料となるコロイダルシリカは市販品を用いることができる。コロイダルシリカは、通常その水分散体が水性シリカゾルとして市販されている(例えば、スノーテックス(登録商標)OXS、スノーテックスO、スノーテックス30等)。
【0026】
また、その有機溶媒分散体がオルガノシリカゾルとして市販されている。オルガノシリカゾルの分散媒は、メタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル等が知られている。これらの内、水性媒体中のナトリウムイオンを除去して得られる酸性シリカゾルを使用することが好ましい。
【0027】
原料となる水溶性リチウム塩、水溶性アルミニウム塩及びコロイダルシリカをリチウム原子、アルミニウム原子、ケイ素原子のモル比(Li:Al:Si)=1:1:1で含有する溶液を乾燥する際、水溶性リチウム塩、水溶性アルミニウム塩及びコロイダルシリカが均一に混合された状態で乾燥されることが好ましく、溶液における均一な混合状態を維持したまま噴霧して乾燥可能なスプレードライヤー又はそれに準じた噴霧乾燥装置を用いることが好ましい。また、フラスコ等の容器に入れて常圧乾燥や減圧乾燥した場合、均一な混合状態を維持したまま乾燥することが難しくなり、焼成して得られるβ−ユークリプタイト中のα相の割合が増大する原因になる。
【0028】
スプレードライヤー又はそれに準じた噴霧乾燥装置で乾燥する際の温度雰囲気は50℃以上300℃未満であり、使用する水溶性リチウム塩、水溶性アルミニウム塩及びコロイダルシリカの分解温度以下であることが好ましい。乾燥する際の雰囲気は特に限定されず、大気中、酸化雰囲気中、還元雰囲気中、又は不活性雰囲気中のいずれでも良い。
【0029】
得られた乾燥粉の焼成は、大気中又は酸化雰囲気中の温度雰囲気が600〜1300℃の範囲であり、好ましくは600〜1000℃の範囲である。また、焼成時間は0.5〜50時間であり、好ましくは1〜20時間で行われる。
【0030】
焼成時の温度雰囲気が1300℃を超える場合、得られるβ−ユークリプタイト微粒子の焼結が進行し、解砕しにくくなる。そのため、半導体封止材等のフィラーとして使用する際にフィラー粒子の充填密度を上げることが困難になるので好ましくない。
【0031】
また、焼成時の温度雰囲気が600℃未満の場合には、水溶性リチウム塩、水溶性アルミニウム塩及びコロイダルシリカが十分に反応せず、炭素が残存したり、β−ユークリプタイトが生成しにくくなるので好ましくない。
【0032】
また、前記の600〜1300℃の焼成の前に大気中又は酸化雰囲気中で300℃以上600℃未満の範囲で仮焼成を行うことが好ましい。この仮焼成により前記乾燥粉に有機酸に由来する炭素成分が残留していた場合でも該炭素成分を600〜1300℃の焼成の前に除去することができる。
【0033】
α相は正の熱膨張係数を有するので、β−ユークリプタイトに混在するα相は少ないことが望ましい。その指標としてα相の(121)面のX線回折ピーク強度Iαとβ相の(102)面に帰属するX線回折ピーク強度Iβとの比Iα/Iβが0.05未満であることが好ましく、0.01未満であることがより好ましい。X線回折ピークの強度比Iα/Iβは、X線回折装置(X線=CuKα)で2θ=22.3〜22.5°に出現するα相の最強線(121)面の回折ピーク強度Iα、2θ=25.2〜25.4°に出現するβ相の最強線(102)面の回折ピーク強度Iβから算出される。
【0034】
β−ユークリプタイト微粒子の結晶子径は1nm以上、80nm未満であることが好ましい。結晶子径が80nm以上では、β−ユークリプタイト微粒子の焼結が進行して焼成後の解砕が難しくなるためである。α相は、1000℃を超える高温で焼成することでβ相に転位することが知られているが、転位のために高温で焼成すると焼結により解砕しにくくなるので、製造条件の制御によりα相の生成を抑制すべきである。
【0035】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本願発明をより具体的に説明するが、本願発明は下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0036】
〔X線回折分析〕
リガク社製X線回折装置RINT Ultima+にて、X線源;Cu、電圧;40kV、電流;40mAで、STEP幅;0.04°、積算時間;0.5SEC/STEP、発散スリット1°、発散縦制限スリット10mm、散乱スリット1°、受光スリット0.3mmの条件で測定した。
〔結晶子径の測定〕
各試料のX線回折データを解析ソフトJADEを用いて、シェラーの式に基づいて結晶子径の算出を行なった。α相は(121)面に垂直方向の結晶子径、β相は(102)面に垂直方向の結晶子径を採用した。
〔X線回折強度比〕
各試料のX線回折データにおいて、2θ=22.3〜22.5°に出現するα相の最強線(121)面のピーク強度Iαと2θ=25.2〜25.4°に出現するβ相の最強線(102)面のピーク強度Iβとの比Iα/Iβにより算出した。
【0037】
[製造例1]クエン酸アルミニウム水溶液の製造
純水750gにクエン酸一水和物(関東化学(株)製、特級、99.5質量%)210.1g(1モル)を溶解し、得られたクエン酸水溶液を撹拌しながら乾燥水酸化アルミニウムゲル(協和化学(株)製、商品名;キョーワード200S、Al2353.3質量%)95.6g(0.5モル)を添加し、85℃で2時間加熱した。加熱中に水分の一部が揮発したので純水51gを添加して1019.6gに調整した。これをガラス濾紙(アドバンテック製、GA−100)及び定量濾紙(アドバンテック製、No.5C)に通液し、淡黄色透明のクエン酸アルミニウム水溶液を得た。得られたクエン酸アルミニウム水溶液の固形分濃度(Al23換算)は5.00質量%であった。
【0038】
[製造例2]クエン酸リチウム水溶液の製造
純水734.6gに水酸化リチウム一水和物(関東(株)製、特級、98.0質量%)37.76g(0.9モル)を溶解し、クエン酸一水和物(関東化学(株)製、特級、99.5質量%)63.0g(0.3モル)を添加し、室温下で10分撹拌することにより、クエン酸リチウム水溶液を得た。得られたクエン酸リチウム水溶液の固形分濃度(Li2O換算)は1.60質量%であった。
【0039】
[製造例3]シュウ酸アルミニウム水溶液の製造
純水1469.6gにシュウ酸二水和物(関東化学(株)製、特級、99.5質量%)378.8g(3モル)を溶解し、得られたシュウ酸水溶液を撹拌しながら乾燥水酸化アルミニウムゲル(協和化学(株)製、商品名;キョーワード200S、Al2353.3質量%)191.3g(1モル)を添加し、85℃で2時間加熱した。加熱中に水分の一部が揮発したので純水45gを添加して2039.2gに調整した。これをガラス濾紙(アドバンテック製、GA−100)及び定量濾紙(アドバンテック製、No.5C)に通液し、淡黄色透明のシュウ酸アルミニウム水溶液を得た。得られたシュウ酸アルミニウム水溶液の固形分濃度(Al23換算)は5.00質量%であった。
【0040】
[製造例4]シュウ酸リチウム水溶液の製造
純水819.1gに水酸化リチウム一水和物(関東(株)製、特級、98.0質量%)42.0g(1モル)を溶解し、シュウ酸二水和物(関東化学(株)製、特級、99.5質量%)63.0g(0.5モル)を添加し、室温化で10分撹拌することにより、シュウ酸リチウム水溶液を得た。得られたシュウ酸リチウム水溶液の固形分濃度(Li2O換算)は1.62質量%であった。
【0041】
[製造例5]マロン酸アルミニウム水溶液の製造
純水767.7gにマロン酸(関東化学(株)製、特級、99.5質量%)156.1g(1.5モル)を溶解し、得られたマロン酸水溶液を撹拌しながら乾燥水酸化アルミニウムゲル(協和化学(株)製、商品名;キョーワード200S、Al2353.3質量%)95.6g(0.5モル)を添加し、85℃で2時間加熱した。加熱中に水分の一部が揮発したので純水45gを添加して1019.6gに調整した。これをガラス濾紙(アドバンテック製、GA−100)及び定量濾紙(アドバンテック製、No.5C)に通液し、淡黄色透明のマロン酸アルミニウム水溶液を得た。得られたマロン酸アルミニウム水溶液の固形分濃度(Al23換算)は5.00質量%であった。
【0042】
[製造例6]マロン酸リチウム水溶液の製造
純水370.4gに水酸化リチウム一水和物(関東(株)製、特級、98.0質量%)42.0g(1モル)を溶解し、マロン酸(関東化学(株)製、特級、99.5質量%)52.0g(0.5モル)を添加し、室温下で10分間撹拌することにより、マロン酸リチウム水溶液を得た。得られたマロン酸リチウム水溶液の固形分濃度(Li2O換算)は3.22質量%であった。
【0043】
[実施例1]
コロイダルシリカ(スノーテックス(登録商標)OXS、日産化学工業(株)製、シリカ濃度10.5質量%、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子径5nm)515.0g(SiO20.9モル)に、製造例1で得られたクエン酸アルミニウム水溶液917.6g(Al230.45モル)及び製造例2で得られたクエン酸リチウム水溶液835.4gを添加し、室温下で10分間撹拌した。得られた混合液の比重は1.075、pHは2.8、電気伝導度は15.0mS/cmであった。得られた混合液をスプレードライヤー(パルビスミニスプレーGB210−A型、ヤマト科学(株)製)を使用して、入口温度185℃、アトマイジングエアー圧力1.4kgf/cm2、アスピレーター流量0.50m3/分、混合液の送液速度4g/分の条件にて乾燥を行った。このときの出口温度は80±3℃であった。得られた乾燥粉3.0gをアルミナ坩堝に入れ、電気炉を使用して大気中で800℃の温度で1時間焼成することにより、薄く灰色を帯びた白色粉末0.7gを得た。得られた粉末をX線回折分析により同定したところ、生成相はβ−ユークリプタイトのほぼ単相からなり、X線回折ピークの強度比Iα/Iβは0.01未満であった。β相の結晶子径は62nmであった。窒素吸着法による比表面積は1.6m2/gであった。
【0044】
[実施例2]
大気中で800℃で焼成する前に、電気炉を使用して大気中で500℃の温度で5時間の仮焼成を行った以外は実施例1と同様に行った。得られた白色粉末をX線回折分析により同定したところ、生成相はβ−ユークリプタイトのほぼ単相からなり、X線回折ピークの強度比Iα/Iβは0.01未満であった。β相の結晶子径は61nmであった。窒素吸着法による比表面積は1.3m2/gであった。
【0045】
[実施例3]
コロイダルシリカ(スノーテックス(登録商標)OXS、日産化学工業(株)製、シリカ濃度10.5質量%、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子径5nm)572.2g(SiO21モル)に、製造例3で得られたシュウ酸アルミニウム水溶液1019・6g(Al230.5モル)及び製造例4で得られたシュウ酸リチウム水溶液924.1g(Li2O0.5モル)添加し、室温下で10分間撹拌した。得られた混合液の比重は1.068、pHは2.0、電気伝導度は22.3mS/cmであった。得られた混合液をスプレードライヤー(パルビスミニスプレーGB210−A型、ヤマト科学(株)製)を使用して、入口温度185℃、アトマイジングエアー圧力1.4kgf/cm2、アスピレーター流量0.50m3/分、混合液の送液速度4g/分の条件にて乾燥を行った。このときの出口温度は80±3℃であった。得られた乾燥粉3.0gをアルミナ坩堝に入れ、電気炉を使用して大気中で800℃の温度で1時間焼成することにより、白色粉末1.1gを得た。得られた白色粉末をX線回折分析により同定したところ、生成相はβ−ユークリプタイトのほぼ単相からなり、X線回折ピークの強度比Iα/Iβは0.02であった。β相の結晶子径は46nmであった。窒素吸着法による比表面積は4.1m2/gであった。
【0046】
[実施例4]
コロイダルシリカ、クエン酸アルミニウム水溶液及びクエン酸リチウム水溶液の混合液をスプレードライヤーで乾燥した後、大気中で1時間焼成する際の温度を900℃とした以外は実施例1と同様に行い、白色粉末0.9gを得た。得られた白色粉末をX線回折分析により同定したところ、生成相はβ−ユークリプタイトのほぼ単相からなり、X線回折ピークの強度比Iα/Iβは0.01未満であった。β相の結晶子径は66nmであった。窒素吸着法による比表面積は1.6m2/gであった。
【0047】
[実施例5]
コロイダルシリカ、シュウ酸アルミニウム水溶液及びシュウ酸リチウム水溶液の混合液をスプレードライヤーで乾燥した後、大気中での焼成を600℃で20時間とした以外は実施例3と同様に行い、白色粉末1.1gを得た。得られた白色粉末をX線回折分析により同定したところ、生成相はβ−ユークリプタイトのほぼ単相からなり、X線回折ピークの強度比Iα/Iβは0.03であった。結晶子径は44nmであった。窒素吸着法による比表面積は7.3m2/gであった。
【0048】
[実施例6]
コロイダルシリカ(スノーテックス(登録商標)OXS、日産化学工業(株)製、シリカ濃度10.5質量%、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子径5nm)の代わりに、コロイダルシリカ(スノーテックス(登録商標)OL、日産化学工業(株)製、シリカ濃度40.5質量%、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子径42nm)を用いた以外は実施例1と同様に行なった。得られた薄く灰色を帯びた白色粉末をX線回折分析により同定したところ、生成相はβ−ユークリプタイトのほぼ単相からなり、X線回折ピークの強度比Iα/Iβは0.03であった。β相の結晶子径は24nmであった。窒素吸着法による比表面積は24.7m2/gであった。
【0049】
[実施例7]
コロイダルシリカ(スノーテックス(登録商標)OXS、日産化学工業(株)製、シリカ濃度10.5質量%、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子径5nm)572.2g(SiO21モル)に、製造例5で得られたマロン酸アルミニウム水溶液1019.6g(Al230.5モル)及び製造例6で得られたマロン酸リチウム水溶液464.4g(Li2O0.5モル)添加し、室温下で10分間撹拌した。得られた混合液の比重は1.090、pHは3.83、電気伝導度は15.6mS/cmであった。得られた混合液をスプレードライヤー(パルビスミニスプレーGB210−A型、ヤマト科学(株)製)を使用して、入口温度185℃、アトマイジングエアー圧力1.4kgf/cm2、アスピレーター流量0.50m3/分、混合液の送液速度4g/分の条件にて乾燥を行った。このときの出口温度は80±3℃であった。得られた乾燥粉3.0gをアルミナ坩堝に入れ、電気炉を使用して大気中で500℃の温度で5時間の仮焼成を行い、次いで大気中で800℃の温度で1時間焼成することにより、白色粉末0.8gを得た。得られた白色粉末をX線回折分析により同定したところ、生成相はβ−ユークリプタイトのほぼ単相からなり、X線回折ピークの強度比Iα/Iβは0.04であった。β相の結晶子径は41nmであった。窒素吸着法による比表面積は2.7m2/gであった。
【0050】
[比較例1]
電気炉を用いた大気中での焼成を500℃で5時間の焼成のみとした以外は実施例1と同様に行った。得られた黒色粉末をX線回折分析により同定したところ、ハローパターンが観測され、β−ユークリプタイトの結晶相は確認できなかった。
【0051】
[比較例2]
混合液の乾燥方法をスプレードライヤーの代わりに、混合液をナスフラスコに入れてロータリーエバポレーターを用いて30Torrで減圧乾燥した以外は実施例1と同様に行なった。得られた薄く灰色を帯びた白色粉末をX線回折分析により同定したところ、生成相はα相とβ相との混相であり、X線回折ピークの強度比Iα/Iβは0.13であった。β相の結晶子径は34nmであった。窒素吸着法による比表面積は10.1m2/gであった。
【0052】
[比較例3]
コロイダルシリカ(スノーテックス(登録商標)OXS、日産化学工業(株)製、シリカ濃度10.5質量%、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子径5nm)の代わりに、コロイダルシリカ(スノーテックス(登録商標)OZL、日産化学工業(株)製、シリカ濃度35.5質量%、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子径80nm)を用いた以外は実施例1と同様に行なった。得られた薄く灰色を帯びた白色粉末をX線回折分析により同定したところ、生成相はα相とβ相との混相であり、X線回折ピークの強度比Iα/Iβは0.08であり、さらにアモルファス相によるハローパターンが観察された。β相の結晶子径は34nmであった。窒素吸着法による比表面積は10.1m2/gであった。
【0053】
[比較例4]
コロイダルシリカ(スノーテックス(登録商標)OXS、日産化学工業(株)製、シリカ濃度10.5質量%、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子径5nm)57.2gに、水酸化リチウム一水和物4.20gを純水50gに溶解させた水溶液を添加し、次いで乾燥水酸化アルミニウムゲル(協和化学(株)製、商品名;キョーワード200S、Al2353.3質量%)9.57gを投入して10分間混合した。得られた混合スラリーをナスフラスコに入れてロータリーエバポレーターを用いて30Torrで減圧乾燥した。得られた白色粉末をアルミナ坩堝に入れ、電気炉を使用して大気中で800℃の温度で1時間焼成した。得られた白色粉末をX線回折分析により同定したところ、生成相はα相とβ相との混相であり、X線回折ピークの強度比Iα/Iβは0.17であった。β相の結晶子径は24nmであった。窒素吸着法による比表面積は24.8m2/gであった。
【0054】
[比較例5]
コロイダルシリカ(スノーテックス(登録商標)OXS、日産化学工業(株)製、シリカ濃度10.5質量%、透過型電子顕微鏡観察による一次粒子径5nm)57.2gに、水酸化リチウム一水和物4.20gを純水50gに溶解させた水溶液を添加し、次いで乾燥水酸化アルミニウムゲル(協和化学(株)製、商品名;キョーワード200S、Al2353.3質量%)9.57gを投入して10分間混合した。得られた混合スラリーをスプレードライヤー(パルビスミニスプレーGB210−A型、ヤマト科学(株)製)を使用して、入口温度185℃、アトマイジングエアー圧力1.4kgf/cm2、アスピレーター流量0.50m3/分、混合液の送液速度4g/分の条件にて乾燥を行おうとしたところ、直ちにノズルが詰まり噴霧できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本願発明の製造方法では、従来よりも低い焼成温度でβ−ユークリプタイト微粒子を得られるため、焼成後の粉末は粉砕性や解砕性に優れ、プリント配線基板や半導体封止材に用いられる樹脂の絶縁性向上やCTEを低減するフィラーとして有用である。