特許第6587075号(P6587075)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6587075ウエハー支持構造体、その製造方法、および、ウエハーの加工におけるその構造体の使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6587075
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】ウエハー支持構造体、その製造方法、および、ウエハーの加工におけるその構造体の使用
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/683 20060101AFI20191001BHJP
   C09J 183/06 20060101ALI20191001BHJP
   B32B 9/00 20060101ALI20191001BHJP
   B32B 25/04 20060101ALI20191001BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   H01L21/68 N
   C09J183/06
   B32B9/00 A
   B32B25/04
   H01L21/304 622J
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-514852(P2017-514852)
(86)(22)【出願日】2015年9月22日
(65)【公表番号】特表2017-536690(P2017-536690A)
(43)【公表日】2017年12月7日
(86)【国際出願番号】IB2015057291
(87)【国際公開番号】WO2016046741
(87)【国際公開日】20160331
【審査請求日】2018年7月10日
(31)【優先権主張番号】102014219095.9
(32)【優先日】2014年9月22日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】特許業務法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】ローレンス,フィリップ
【審査官】 宮久保 博幸
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−528688(JP,A)
【文献】 特表2006−508540(JP,A)
【文献】 特開2013−222761(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/017294(WO,A1)
【文献】 ATANACIO A J; LATELLA B A; BARBE C J; ET AL,MECHANICAL PROPERTIES AND ADHESION CHARACTERISTICS OF HYBRID SOL-GEL THIN FILMS,SURFACE AND COATINGS TECHNOLOGY,NL,ELSEVIER,2005年 3月21日,VOL:192, NR:2-3,PAGE(S):354 - 364
【文献】 KOHEI WATANUKI; ATSUTOSHI INOKUCHI; AKINORI BANBA; ET AL,EVALUATION OF NARROW GAP FILLING ABILITY IN SHALLOW TRENCH ISOLATION BY ORGANOSILOXANE SOL-GEL PRECURSOR,ECS TRANSACTIONS,米国,2010年 1月 1日,PAGE(S):135 - 143,URL,http://dx.doi.org/10.1149/1.3481600
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
B32B 9/00
B32B 25/04
C09J 183/06
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエハー支持構造体であって、
ウエハーと、
支持部とエラストマーを備え、該エラストマー層は前記ウエハーに対向して設けられている、支持部システムと、
接続層とを含む構造を備え、
前記接続層は、ゾルゲル層であり、モノマー(1)Si(OR1)と、以下のモノマー(2)Si(OR1)R2、(3)Si(OR1)R3R4、および(4)Si(OR1)R5R6R7の1つ、2つ、または全てとから製造可能であり、
各R1は、他とは独立して、HまたはC−Cアルキル基を表し、
R2、R3、R4、R5、R6、およびR7は、それぞれ互いに独立して、
−C20アルキル基、
フッ化C−C20アルキル基、
−C20アミノアルキル基、
−C20アルケニル基、
アリール基、
フッ化アリール基、
モノ、ジ、トリC−Cアルキル化アリール基(前記アルキル化アリール基の有するアルキル基は、そのC原子数に関しては互いに独立しており、および/またはフッ化されていてもよい)、または
−C20エポキシ基を表す、
ウエハー支持構造体。
【請求項2】
前記モノマー(2)、(3)および(4)の物質量の合計に対する前記モノマー(1)のモル比は、0.032(1:31.25)から1.6(1.6:1)ある、請求項1に記載のウエハー支持構造体。
【請求項3】
前記接続層の層厚が10nm〜200nmある、請求項1または2に記載のウエハー
支持構造体。
【請求項4】
各R1は、他とは独立して、C−Cアルキル基を表し、および/または、
R2、R3、R4、R5、R6、およびR7は、それぞれ互いに独立して、
−Cアルキル基、
フッ化C−Cアルキル基、
−Cアルケニル基またはフェニル基を表す、請求項1乃至3のうちいずれか一項に記載のウエハー支持構造体。
【請求項5】
前記エラストマー層は、有機シリコン層である、請求項1乃至4のうちいずれか一項に記載のウエハー支持構造体。
【請求項6】
前記構造における接着力が最も低い面は、前記接続層と前記エラストマー層との間の境界面である、請求項1乃至5のうちいずれか一項に記載のウエハー支持構造体。
【請求項7】
前記ウエハーは、前記接続層に対向する側に電子部品を備える、請求項1乃至6のうちいずれか一項に記載のウエハー支持構造体。
【請求項8】
前記支持部は、ガラス板、または第2ウエハーである、請求項1乃至7のうちいずれか一項に記載のウエハー支持構造体。
【請求項9】
前記接続層と前記エラストマー層との間の接着力は、引張速度0.1mm/秒である場合、≦300N/mある、請求項1乃至8のうちいずれか一項に記載のウエハー支持構造体。
【請求項10】
ウエハーの背面側の加工方法であって、
b)請求項1乃至9のうちいずれか一項に記載のウエハー支持構造体の前記ウエハーの背面側を加工するステップを含む方法。
【請求項11】
ウエハーの背面側の加工方法であって、
a)請求項1乃至9のうちいずれか一項に記載のウエハー支持構造体を用意するステップと、
b)前記ウエハーの背面側を加工するステップと、
c)前記エラストマー層と前記接層との間の境界面に沿って前記ウエハー支持構造体を機械的に分離するステップとを含む方法。
【請求項12】
ステップc)の後に、前記接続層を前記ウエハーから化学的に除去する、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエハーと、支持部およびエラストマー層を有する支持部システムと、ゾルゲル層である接続層とを備えるウエハー支持構造体に関する。また、本発明は、本発明のウエハー支持構造体のためのコーティングされたウエハーと、対応するウエハー支持構造体用の接続層としてのゾルゲル層の使用と、ウエハーの背面の加工方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、出来る限り薄い電子部品および回路の需要が高まっている。このような電子部品および回路(ダイオード、トランジスタ、IC、センサーなど)を製造する場合、ウエハー(場合により、シリコン、ヒ化ガリウムなどからなるドープされたディスク)上に、所望の電子機能を生ずるための構造および層が様々なテクノロジーを用いて搭載される。現在、これらのウエハーには、これらに必要な製造ステップが完了した後に、前面(活性面または搭載された構造が在る面)に保護フィルムまたは他の保護層が設けられる。このフィルムまたは層は、その後続くウエハーの背面側の薄化および/または他の加工中に、ウエハー前面と、特に、ウエハー前面に搭載される電気的且つ機械的な構造とを保護することを目的としている。薄化は、ウエハーの背面の研磨、ラッピング、研削、またはエッチングなどの技術によって行われる。
【0003】
このステップの目的は、ウエハーの元の厚みを低減することである。この際、低減の程度は、薄化および/またはさらなる後続の処理ステップの間に予想される機械的且つ熱的な負荷によって決定的に決められる。なぜなら、ウエハーは、薄化される時には多数の処理ステップを既に経ているため、既に高い経済的価値を有しており、そのため、ウエハーが破損するリスクを出来る限り低く保つ必要があるからである。それゆえ、実際に所望される程度に薄化することは、ウエハーの破損により損失が大きくなり過ぎるため、大抵の場合は不可能である。
【0004】
従来技術によれば、薄化の後に、ウエハーの破壊特性を改善するために、ウエハー背面を化学的に処理する場合が多い。最終的な洗浄ステップの後に、保護フィルムがウエハー上面から剥がされるか、または、その他の方法により除去される。そして、さらなる製造ステップ、ならびに/または、ウエハーの特性を向上するための措置、および品質コントロールなどの検査を続けることができる。薄化されたウエハーの背面は、金属層で被覆されていることが多い。このコーティング方法は、大抵、スパッタリングまたは同様の真空蒸着法により行われ、しばしば熱による負荷がかかる。
【0005】
その後、ウエハーは背面を下にして(活性面を上にして)ソーイングフィルム(ダイシングテープ)、エキスパンドテープ、またはフレームに搭載される。続いて、ウエハーの個別化が行われ、すなわち、ウエハーを個別化された部品(マイクロチップ、ダイ)に分割する。この個別化は、多くの場合、回転式分離ディスクまたは他の機械的なソーイング装置(ダイシング装置)により行われる。レーザー分離方法も用いられる。あるいは、切れ込みを入れるなどの一部補助的な方法が用いられる個別化の際にもウエハーは割られる。
【0006】
上記の理由から、従来の方法では、非常に薄いウエハーを取り扱う、すなわち製造することは非常に難しい。これらの問題は、特に、薄化の際および薄化の後にウエハーを機械的な負荷に曝す必要があるために生じる。これらの負荷は、特に、
−ウエハーが非常に強く薄化される場合、ウエハーの薄化の間、ウエハーがカールする
傾向がある、
−薄化の間のウエハー前面を保護する保護テープまたは保護層の引き離しの間、
−ウエハーをソーイングフィルム(ダイシングテープ)上へ搭載している間、および
−個々の製造ステップ間の搬送の間、特に、ウエハーを個別化してから背面コーティングを行うときに少なくとも熱的な負荷も生じる、背面コーティングの際、に生じる。
【0007】
上記の方法の代わりに、今日では、薄化処理の前にウエハーの前面を、切れ込み構造の研削、切り込み、トレンチおよび/または構造の化学エッチング、プラズマエッチングにより構造化しておき、これらの構造により、後続の薄化処理の間に背面側からの機械的および/または化学的な方法によってウエハーが個別化されるようにする方法も用いられる。
【0008】
ウエハーの薄化および更なる加工の際の上記技術の代替は、独国特許出願公開第10353530号明細書および国際公開第2004/051708号に開示されている。これらの文献において、ウエハーの薄化および後続の加工のために、分離層および支持層を使用することが提案されており、この場合、分離層は、ウエハーに対してよりも支持層に対してより強く接着するプラズマポリマー層である。プラズマ重合方法に基づき当業者により調節可能なプラズマポリマー層の接着特性または剥離特性により、ウエハーに対してよりも支持層に対してより高い接着強度を有するように層を構成する事が可能である。この場合、非常に薄いウエハーでも高すぎる機械的な負荷が生じることなく分離層(および支持層)から分離することができるように、ウエハーに対する接着強度を調節することができる。
【0009】
上記文献に開示された方法の欠点は、文献で提案された支持層が最適に適合されていないことである。特に、三次元構造のウエハー表面(例えばバンプが設けられたウエハーまたはその表面にアンダーカットの施されたウエハー)では、提案された支持層(例えば、ポリイミドまたはポリアミド)が固すぎる。プラズマポリマー分離層は、均一の厚さでウエハーの表面構造を実質的に覆うため、アンダーカット等の中間空間、またはバンプ間の中間空間は、支持層用の材料により充填されることになる。この場合、支持層が硬いため、ウエハーを破損することなく支持層を再び分離することができなくなる。支持層が表面構造を完全に被覆しない場合は、支持層と分離層との間の接着に悪影響を及ぼす中空空間が残ってしまい、望ましくない封止体となる可能性がある。また、支持層とウエハーとの熱膨張係数が異なるためにウエハーに対する更なる機械的応力が生じる。
【0010】
国際公開第2007/09946号A1に、薄化されたウエハーを薄化の後に機械的に分離することができる分離方法が開示されている。このことは、エラストマー層と組み合わせたプラズマポリマー分離層の使用によって可能になっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術に基づき、本発明の課題は、加工された、特に、薄化後のウエハーを、ウエハーを損傷することなく機械的に分離できるようにする、向上されたウエハー支持構造体を提供することであった。ここでは、ウエハー支持構造体の製造のために、特に、使用される装置に関しては、必要な技術的コストができる限り少ないことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は、本発明に基づき、ウエハー支持構造体により達成され、該ウエハー支持構造体は、
ウエハーと、
支持部とエラストマーを備え、該エラストマー層は前記ウエハーに対向して設けられて
いる、支持部システムと、
接続層とを備え、
該接続層は、ゾルゲル層であり、モノマーである
(1)Si(OR1)と、
以下のモノマー、すなわち
(2)Si(OR1)R2、
(3)Si(OR1)R3R4、および
(4)Si(OR1)R5R6R7
の1つ、2つ、または全てとから製造可能であり、
各R1は、他とは独立して、HまたはC−Cアルキル基を表し、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は、それぞれ互いに独立して、C−C20アルキル基、フッ化C−C20アルキル基、C−C20アミノアルキル基、C−C20アルケニル基、アリール基、フッ化アリール基、モノ、ジ、またはトリC−Cアルキル化アリール基(前記アルキル化物がそのC原子数に関して互いに独立しており、および/または、前記基がフッ化されていてもよいモノ、ジ、またはトリC−Cアルキル化アリール基)、もしくは、C−C20エポキシ基を表す。
この場合、ウエハーはその前面に電子部品を備えることが好ましく、前面は本発明に基づいて使用される接続層により保護される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明のウエハー支持構造体の製造を概略的に示す図である。
図2図2は、本発明のウエハー支持構造体の分離を概略的に示す図である。
図3図3は、本発明のウエハー支持構造体における接続層とエラストマー層との間の接着力の算定に使用した装置の概略を示す図である。
図4図4は、撹拌浸漬によりウエハーからゾルゲル層を除去するべく、各洗浄液毎の作用時間に対する膜厚の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によると、接続層において、それぞれ他とは独立して、HまたはC−Cアルキル基を表し、および/または、R2、R3、R4、R5、R6およびR7がそれぞれ互いに独立して、C−Cアルキル基、フッ化C−Cアルキル基、C−Cアミノアルキル基、C−Cアルケニル基、アリール基、フッ化アリール基、モノ、ジ、トリC−Cアルキル化アリール基(前記アルキル化物がそのC原子数に関して互いに独立しており、および/または、基がフッ化されていてもよいモノ、ジ、トリC−Cアルキル化アリール基)、もしくは、C−Cエポキシ基を表すウエハー支持構造体が好ましい。
【0015】
接続層の製造の際の好ましい溶媒は、アルコール、特に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、水、非プロトン性溶媒、特に、PGMEA(1−メトキシ−2−プロピルアセテート)、アセトン、または酢酸エチルからなる群より選択される。特に好ましい溶媒は、アルコール、特に、2−プロパノールおよび2−メチル−1−プロパノールからなる群より選択される。
【0016】
接続層の製造の際のゾルゲル反応用の好ましい活性剤は、酸および塩基、特に、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)、ギ酸、塩酸、および硫酸からなる群より選択される。更に好ましい活性剤は、ルイス酸またはルイス塩基、トリブチルスズなどの有機金属化合物、もしくは、TBAF(フッ化テトラブチルアンモニウム)またはフッ化セシウムなどのフッ素含有化合物である。この場合、特に好ましい活性剤は、TMAH、TBAF、および硫酸である。
【0017】
本発明の接続層において、各R1は、他とは独立して、HまたはC−Cアルキル基を表し、および/または、R2、R3、R4、R5、R6およびR7は、それぞれ互いに独立して、C−Cアルキル基またはフッ化Cアルキル基を示すことが特に好ましい。
【0018】
驚くべきことに、本発明のウエハー支持構造体は非常に簡単に、特に、ウエハーに対する大きな機械的応力なしで再度分離される。ここでは、ゾルゲル層は、分離後に、例えば化学的に除去することができる。
【0019】
本発明に基づいて使用されるゾルゲル層は、一般的にその特性を条件に適合させることができる、という利点を有する。ここでは、450℃≦までは化学的変化せずに温度耐性のあるゾルゲル層が好ましい。本発明に基づいて使用されるゾルゲル層は、シリコンベースであり、したがって、エラストマー、特に、シリコンベースのエラストマーと良好な相溶性を有する。更に、本発明に基づいて使用される接続層は、低コストであり且つ毒性はない。完全に重合化された後ゾルゲル層は、化学的に長期間に亘って一定である。ゾルゲル層は例えば液体から製造可能であるからであるため、使用されるモノマーに基づいて、一般的なウエハー製造プロセスに良好に導入可能である。
【0020】
本発明のウエハー支持構造体は、モノマー(2)、(3)および(4)の物質量の合計に対するモノマー(1)のモル比が、0.032(1:31.25)から1.6(1.6:1)、好ましくは0.05から1(1:20から1:1)、特に好ましくは0.064から0.5(1:15.63から0.5:1)であることが好ましい。
【0021】
これらのモル比、特に、好ましい変形例によって、本発明のウエハー支持構造体のための特に適した接続層が製造される。
【0022】
本発明のウエハー支持構造体は、接続層の層厚が10nm〜200nm、好ましくは20nm〜150nm、特に好ましくは30nm〜100nmであることが好ましい。
【0023】
好ましい層厚により、ウエハーから支持部システムを特にストレスなく分離できるようになる。
【0024】
本発明のウエハー支持構造体は、エラストマー層が有機シリコン層であることが好ましい。
【0025】
エラストマー層(つまり、エラストマーからなる層)は、メチルシリコン、フェニルシリコン、エポキシアルキルシリコン、エポキシアリールアルキルシリコン、またはメチルフェニルシリコンなどの混合された官能基を有するシリコン、(触媒により)アルキル基を介して前記官能基の少なくとも1つと架橋されたシリコンエラストマー、およびシリコン樹脂との、それぞれ充填剤を伴った、または伴わないそれらの混合物からなる群より選択される材料からなる層であることが好ましい。
【0026】
エラストマー層は、40〜100、好ましくは45〜90、さらに好ましくは50〜80、特に好ましくは55〜75のショアA硬度を有することが好ましい。ショア硬度は、この場合、DIN 53505−A−87に基づいて決定される。
【0027】
本発明のウエハー支持構造体は、構造において最も低い接着力を有する面が接続層とエラストマー層との間の境界面であることが好ましい。これは、測定例1に基づく接着力判断の際の分離を行うことが好ましい面でもある。
【0028】
各層間の接着力(接着強度)を、当業者は、DIN EN ISO 46182007−03に従って決定し、接着力は、「コーティングとその下地との間の全結合力」として定義される。(境界面として)最も低い接着力の面となる層間の接着力は測定例1に従って決定されることが好ましい。
【0029】
この特に好ましい本発明のウエハー支持構造体の利点は、エラストマー材料の特性(柔軟性、膨張可能性)に基づき、理想的な接続がエラストマー層とウエハー上の接続層との間に製造されることである。特に、接続層とエラストマー層との間の接着強度は、本発明のウエハー支持構造体の分離の際にエラストマー材料が完全に接続層から除去されるように設定することができる。この場合、この分離は、機械的に行われることが好ましい。
【0030】
本発明のウエハー支持構造体は、ウエハーの接続層に対向する面(前面)に電子部品を有することが好ましい。
【0031】
本発明のウエハー支持構造体は、支持部がガラス板または第2ウエハーであることが好ましい。
【0032】
適切なガラス板または適切なウエハーを選択することによって、支持部および処理されるウエハー(第1ウエハー)の熱膨張係数を、本発明のウエハー支持構造体において、たとえ、システムが加熱されるか、または、機械的な負荷により発熱に曝されても応力が生じないか、または非常に僅かにしか応力が生じないように、互いに適合させることができる。
【0033】
本発明のウエハー支持構造体のコーティングされたウエハーもまた本発明の一部であり、コーティングは、上記で定義したような接続層である。
【0034】
このコーティングされたウエハーは、上記で定義したように、支持部システムを接続層上に搭載することにより、本発明のウエハー支持構造体のための前段として使用され得る。
【0035】
本発明のコーティングされたウエハーは、接続層がウエハーとは反対側に≧80°、好ましくは≧83°の静的水接触角、および/または、15mJ/m〜25mJ/mの表面エネルギーを有することが好ましい。
【0036】
本発明はまた、本発明のウエハー支持構造体の製造、または、本発明のコーティングウエハーの製造のための、上記で定義された接続層の使用にも関する。
【0037】
さらに、本発明は、以下のステップ、すなわち
a)本発明のウエハー支持構造体を用意するステップと、
b)ウエハーの背面側を加工するステップと、
c)エラストマー層と接層との間の界面に沿ってウエハー支持構造体を機械的に分離するステップと
を有するウエハーの背面の加工方法にも関する。
【0038】
ウエハーの背面側の加工は、特に、メタライジング、薄化TSV(Through Silicon via、シリコン貫通電極)接触、リソグラフィー技術であってもよい。
【0039】
本発明の方法のための機械的な分離は、以下のように行われることが好ましい。
【0040】
ウエハー支持構造体を真空によって、または、機械的に、両側に固定し、支持部側にお
ける柔軟な固定を、一方側から持ち上げ始め、これにより、支持部をウエハーから分離する。この過程は国際公開第002010072826号A2に記載されたように、特に図3およびその説明において記載されるように実施される。
【0041】
本発明の方法は、ステップc)の後にウエハーから接続層を化学的に除去することが好ましい。
【0042】
この化学的な除去は、基本的には、各適した手段によって行うことができる。この場合、接続層が確実に除去され、他方で、ウエハーと、特に、ウエハー上に場合によっては設けられた電子部品とが影響を受けて引っ張られないことに注意しなければならない。
【0043】
この場合、接続層の化学的な除去に適切な手段は、強酸およびアルカリ、ならびに、TBAF、CsF、HFまたはKHF2などのフッ化物イオンを提供する化合物である。
【0044】
接続層の化学的除去に特に好ましいのは、フッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF)である。
【0045】
TBAFは、多数の用途が知られているが、ここで提案された特定の用途についてはこれまで知られていない。したがって、TBAFは、例えば、シリル含有保護基を除去するための手段として、ゾルゲルシステムの生成の際には活性剤/触媒として、シリコーン用の除去剤として、および、相間移動触媒として知られている。ゾルゲル層に対する使用可能性は、特に、本発明との関係においてこれまで知られていなかった。
【0046】
接続層のための適切な表面エネルギーを調節するために、当業者は、以下の措置の一つまたは複数を行う。
【0047】
メチトリメトキシシランまたはフェニルトリメトキシシランなどのアルキル基により修飾されたシラン(調節剤)に対するテトラエトキシシラン(TEOS)などの純粋な構造形成剤の割合は、高い程度で表面エネルギー、それゆえ、結果として生じる中間層とエラストマーとの接着力を決定する。調節剤の割合が高いほど、表面エネルギーが低くなる。ヘキサデシルトリメトキシシランまたはフッ化アルキル基などの多くのアルカリ基を有するシランにより調節剤を置換するか、または該シランを調節剤に追加すると、表面エネルギーをさらに低下させることができる。
【0048】
適切な活性剤とその量の選択により、混合物の活性化までの時間と貯蔵安定性との双方が影響を受ける。この場合、活性剤含有量が低いほど、混合物は活性化により時間がかかるが、貯蔵安定性も顕著に上昇する。活性剤の量の低減により、結果として生じる表面エネルギーも影響される。添加する活性剤が少なくなると、表面エネルギーは低下する。したがって、活性剤の選択も結果として生じる接着力に影響し、接着力は、硫酸などの酸ベースの活性剤では、TMAHベースの活性剤に比べて最大35%上昇する。しかし、TBAFによるTMAHの等モル置換の際の接着力は、ほぼ変化しない。活性剤として鉱酸または有機酸、鉱塩または有機塩基、ルイス酸およびルイス塩基、ならびにフッ化物イオン放出化合物を使用することができる。
【0049】
接続層の硬化の間の温度も重要である。低すぎる温度を選択すると、十分な架橋が行われず、結果として生じる接着力は、支持部およびデバイスウエハーからのスムースな分離のためには強すぎる。約165℃では、接着力は最小であり、200℃を上回ると再びやや上昇する。
【0050】
図1は、本発明のウエハー支持構造体の製造を概略的に示す。なお、
符号1はウエハー(場合によっては電子部品を有する)、
符号2は接続層前駆体(液状)、
符号3は接続層、
符号4はエラストマー(硬化前)、
符号5はエラストマー層、
符号7は支持部を意味する。
【0051】
図2は、本発明のウエハー支持構造体の分離を概略的に示す。この場合、符号は図1における符号と同じ意味を有する。更に、
符号9は第2支持部を意味する。
【0052】
図1a)において、まずウエハー1の前面を接続層3(ゾルゲル層)用の液状のモノマー2によってコーティングする。エラストマー層5のための材料4は、最初はまだ液状である。
【0053】
図1のステップb)において、ゾルゲル層3が架橋により製造される。このことは、一般に、熱に曝すことにより起こる。
【0054】
図1c)は、本発明のウエハー支持構造体1,3,5を完成した形態で示し、この図では、図1b)に基づき、まず、エラストマー層4のための材料が適用された。続いて、未だ(完全には)硬化しきっていないエラストマー層に支持部7がもたらされ、その後、エラストマー層4用の材料がエラストマー層5になるように硬化された。
【0055】
図2a)では、既に薄化されたウエハー1が第2支持部9上に搭載されている。図2bによると、支持部7およびエラストマー層が機械的に接続層から分離される。図2c)において、接続層3がウエハーから化学的に除去されることを概略的に示す(洗浄)。同時に、支持部7も同様に化学的にエラストマー層5の残留部から分離させることができる。
【実施例】
【0056】
実施例
測定例
測定例1 接続層とエラストマー層との間の接着力の算定
図1c)のように接続されたウエハーは、図3の装置および構造に組み込まれ、真空によって上部保持板および下部保持板に固定される。図3において、
1は上部保持板、
2は上部真空供給源、
3は支持部、
4はエラストマー、
5は接続層を有するデバイスウエハー(直径300mm)、
6は下部真空プレート、
7は下部保持板、
8は終点、
9は真空供給源である。
【0057】
上部保持板は、柔軟に形成され、2.2GPa−2.4GPaのEモジュールを有するポリカーボネート(商品名MakroIon(登録商標)、Bayer AG社)からなる。板は、厚さ5mm、幅340mm、長さ400mmである。保持板は、ウエハー(直径300mm)から突出する長辺に力導入が行われるように取り付けられている。
【0058】
力測定の前に、ウエハースタックは、上部保持板の自由端を矢印の方向に持ち上げるこ
とで、ウエハー上を横断するように延びている分離線がその最大の長さになるように、ウエハー半分まで分離される。分離線がさらに移動すると有効な自由レバーアーム長が長くなり、それにより、測定点において矢印方向に沿って測定される力も拡大する。最大測定張力は、例えば245mmの有効レバーアーム長にて実験的に得られる測定値として使用される。この場合、レバーアームにおける力作用点は、ウエハー縁部から95mm離れている。ウエハーの直径が300mm以外である場合、当業者は、変更されたレバー長さと分離線の変更された長さとの双方を考慮に入れて、接着力測定の際に300mmの直径のウエハーに換算する。
【0059】
測定例2 水接触角の決定
静的水接触角は、DIN 55660−2:2011−12に基づいて決定される。
【0060】
測定例3 表面エネルギーの決定
表面エネルギー(自由表面エネルギー)は、DIN 55660−2:2011−12に基づいて決定される。
【0061】
測定例4 水転がり角の決定
傾斜板上にウエハーを固定する。続いて、水滴(脱イオン化され、且つ、粒子除去された(0.22μm)、Waters−Millipore社、Milli−Q)を50μL、25μLまたは10μLのいずれかでウエハー上にもたらす。水滴がゆっくりと動き始める角度を算定する。全体として水滴の大きさ毎に三回測定過程を実施する。好ましい値は、完全に硬化した接続層上において50μLの水滴については10°〜13°、および/または、25μLの滴については18°〜25°、および/または10μLの滴については28°〜55°の範囲である。
疑わしい場合、この測定例における、特に、25μLについて記載したような水転がり角を特定する。
【0062】
実施例
実施例1
−イソプロパノール(IPA、99.8%、Carl Roth社)(97.75体積%)と、テトラエトキシシラン(TEOS、≧99.0%、Sigma−Aldrich社)(0.5体積%)と、メチルトリメトキシシラン(MTMS、≧98.0%、Sigma−Aldrich社)(1.5体積%)とを混合した。続いて、活性剤(ブレンステッド酸もしくはルイス酸、ブレンステッド塩基もしくはルイス塩基、またはフッ化物イオンドナー)、ここでは0.25体積%の水酸化テトラメチルアンモニウム(H2O中にTMAH2.38質量%、Micro Chemicals社)を加えた。
【0063】
−使用前にディップコートにより活性を検査した。この目的のために、加工されていない新しいシリコンウエハーの細長い小片(約1cm×5cm)を溶液に短期間浸した。前駆体の乾燥の際に層が形成される溶液がスピンコートに適している。活性までの時間は、濃度および活性剤含有量に応じて、数分から数日に及ぶ。
【0064】
−加工されるウエハーは、前駆体によって完全にコーティングされ(200mmのウエハーについては約10mL、300mmのウエハーについては約20mL)、約30秒の放置時間の後に20秒間1000rpmで回転させた。
【0065】
−続いて、未だ湿っている層を165℃で10分間アニールし、これにより、層厚が元の60nm〜80nmから40nm〜60nmに低下し、層が硬化した。水転がり角(50μLの滴)は、この場合10°〜13°となり、水接触角(10μLの滴、静的)は、95°〜105°となった。
【0066】
−第2シリコンウエハーを付加架橋性シリコン接着剤によりコーティングし、圧力を下げた(約0.3mbarの)接合チャンバにおいて、(国際公開第2010/061004号A1に記載のような)「力フリーボンディング」により、両ウエハーを接続した。
【0067】
−シリコン接着剤を10分間硬化させた後、ウエハースタックに更なるプロセスを行うことができる。
【0068】
−ウエハースタックを分離するため、1箇所で開始され、すなわち、ウエハーの比較的小さな一部を他の部分から外し始めた。続いて、真空板に固定された下部ウエハーを第2真空板から分離した。この場合、ゾルゲル層はデバイスウエハー上に残り、ゾルゲル分離層とシリコン接着剤との間で分離を実施した。
【0069】
−この層の除去のために、ウエハーを、メチルイソブチルケトン(MIBK)中に2.5質量%のフッ化テトラブチルアンモニウム(TBAF、97%、Sigma−Aldrich社)からなる溶液に10分〜20分間振盪動作(撹拌浸漬)し、続いて、イソプロパノールにより洗浄した。
【0070】
あるいは、ゾルゲル層が設けられたウエハーを4センチメートル×4センチメートルの大きさのピースに分割し、これらのピースをエッチング溶液に浸漬した(静的浸漬)。静的浸漬についての値は、撹拌浸漬についての値よりも低く、直接比較することはできない。
【0071】
層は、この場合、アセトン、イソプロパノール、MIBK、ガソリンなどの有機溶解材料に対して耐性があるが、水、芳香族炭化水素、および塩素付加炭化水素にも耐性がある。有機溶媒と有機溶媒に溶解されたエッチング剤(TBAF)との組み合わせのみが除去に繋がる。
【0072】
実施例2 接続層のための代替の混合物
−94.15体積%のIPA
−2.5体積%のTEOS
−2.5体積%のMTMS
−0.6体積%の水(H2O)
−0.25体積%の塩酸(HClaq、1Mの標準溶液から希釈された0.95重量%、Carl Roth社)
【0073】
実施例3 接続層のための代替の混合物
−97.25体積%のイソプロパノール
−0.5体積%のTEOS
−1体積%のMTMS
−1体積%のヘキサデカントリメトキシシラン(HDTMS、ABCR Research Chemicals社)[16415−12−6]または
1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクチルトリエトキシシラン(FAS,ABCR Research Chemicals社)[51851−37−7]
−0.25体積%のTMAH
【0074】
実施例2および3における化学薬品は、更に具体的にしない限り、実施例1の化学薬品に相当している。
【0075】
実施例4 水接触角
測定例2および3によると、完全に硬化した後に、実施例1〜3の層について、以下の値が測定された。
【表1】
【0076】
実施例5 撹拌浸漬
ゾルゲル層が設けられた300mm(直径)の大きさのウエハーを、振盪板に固定し、300mLの洗浄液でインキュベートした。使用した洗浄液を図4に示す。洗浄処理の前後に、ゾルゲル層の層厚を干渉計によって測定し、作用時間と層厚減少から、エッチング率を
エッチング率=層厚減少/時間
から決定した。一般にTBAF含有溶液は洗浄剤よりも好ましいことが分かった。
【0077】
実施例6 静的浸漬
ゾルゲル層が設けられた4センチメートル×4センチメートルの大きさのウエハー片を50mLのエッチング液に浸漬した。この場合、溶液の運動は避けた。エッチング率は実施例5の等式に基づいて決定される。溶液の運動が無いことにより、撹拌浸漬(実施例5)よりも低いエッチング率となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0078】
【特許文献1】独国特許出願公開第10353530号明細書
【特許文献2】国際公開第2004/051708号
【特許文献3】国際公開第2007/09946号A1
【特許文献4】国際公開第2010/072826号A2
【特許文献5】国際公開第2010/061004号A1
図1
図2
図3
図4