(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
農業用の作業車両によって圃場に畝立てや播種などの作業を行う場合には、作業車両の運転者は、作業車両の後部に備えられる作業機の作業状態を確認するため、後方に振り返りつつ、直進運転をすることを強いられる。農場によっては500m以上の長さがあり、この距離を直進させるのは運転者の負担が大きい。そこで、実施形態の操舵制御装置は、進行方向を撮像した画像から車両走行の目標となる目標ランプを検出し、その目標ランプに向かって車両を自動的に操舵させることで、運転者の負担を軽減させる。
【0015】
圃場を走行する作業車両は、地面の傾斜や凹凸、土塊などの影響を受けて、車両の向きまたは進行方向の変化や横滑りが頻繁に発生するので、作業車両を元の目標とするラインに戻すために、頻繁に前輪を操舵する必要がある。従来の一般的な操舵制御方法では、まず、車両を戻すために必要な走行軌跡、次に、その走行軌跡を得るための旋回半径、その旋回半径を得るための前輪の操舵角(以下、単に「舵角」という場合がある。)の順に計算し、その舵角を目標舵角として設定する。続いて、舵角センサから現在の舵角を読み取り、舵角が目標舵角となるようにモータ等を駆動しフィードバック制御を行う。このとき、車両の舵角と旋回半径の関係は、地面の硬さなどによって変化する。例えば、硬い舗装路などと比べて、柔らかい地面ではタイヤのグリップ力が低下するため、同じ舵角に対して旋回半径は大きくなる。このため、所望の旋回半径を得るには、地面の硬さなどに応じて舵角を変化させる必要がある。例えば目標とする旋回半径から舵角を計算する際に、地面の柔らかさなどに応じて予め設定した定数を乗算し、操舵量を一定割合で増減させる手法が用いられる。しかし、適切な定数を設定することは難しく、また、圃場内の地面も均一でないため、作業車両の走行軌跡の誤差が拡大する要因となる。そこで実施形態の操舵制御装置は、車両に搭載したカメラによる複数の撮像画像から現在の旋回半径を算出し、これを目標とする旋回半径となるように、舵角を増減される制御方法である。これにより、舵角センサが不要になると共に、旋回半径をフィードバックの制御対象とするため、地面の硬さなどの影響を受け難く、走行軌跡の誤差をより小さくすることが出来る。
【0016】
図1は、圃場における実施形態に係る操舵制御装置20を側方から見たときの説明図である。
図2は、圃場における実施形態に係る操舵制御装置20を上方から見たときの説明図である。図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。車両1は、操縦室3、左前輪8aと右前輪8b(以下、総称する場合は「前輪8」という)、左後輪10aと右後輪10b(以下、総称する場合は「後輪10」という)を有し、作業機16が装着される。操舵制御装置20は、車両1に搭載され、左ブレーキ機構6aと右ブレーキ機構(不図示)(以下、総称する場合は「ブレーキ機構6」という)、カメラ11、ECU(Electronic control unit)12、操舵駆動機構14およびステアリング機構15を備える。
【0017】
車両1は、農用トラクタや土木用作業車両などの作業車両であってよく、車両1の後方には作業機16が取り付けられる。作業機16は、たとえば、圃場4において播種や畝立てなどの作業をする。
【0018】
ステアリング機構15は、ステアリングホイール(不図示)、ステアリングシャフト(不図示)、およびステアリングシャフトの動きを前輪の動きに変換するギヤ装置(不図示)と、を有する。ステアリング機構15は、ハンドルとしてのステアリングホイールの回動を前輪8の転舵運動に変換する。ステアリングホイールは、操縦室3内に設けられ、運転者によって回動操作される。ステアリングシャフトは、ステアリングホイールとともに回転するように一端がステアリングホイールに連結されており、ステアリングホイールの回転をギヤ装置に伝達する回転軸として機能する。
【0019】
操舵駆動機構14は、モータを駆動し、ステアリング機構15に転舵力を与える。操舵駆動機構14はECU12に接続されている。なお、操舵駆動機構14は、液圧式であってよく、液圧ポンプを駆動して、ステアリング機構15に転舵力を与えてよい。
【0020】
ブレーキ機構6は、運転者のブレーキペダル(不図示)の操作量に応じて後輪10に制動力を与える。ブレーキペダルは、左後輪用ブレーキペダルと右後輪用ブレーキペダルを有する。運転者が各ブレーキペダルを操作することで、左後輪10aと右後輪10bに対して個別に制動力を与えることができる。たとえば、車両1を右方向に旋回するとき、運転者が、右後輪用ブレーキペダルを踏み込んで右後輪10bに制動力を与えることで、右後輪10bを軸として車両1を小回りさせることができる。ブレーキ機構6は、ECU12に接続され、ECU12により後輪10に与える制動力を制御されてよい。なお、車両1の前輪8に、ブレーキ機構は無くてよい。更に、ブレーキ機構6はECU12に接続され、ECU12によって左または右のブレーキ機構6が動作され、車両1を旋回させることができる。
【0021】
目標ランプ2は、発光部21および発光部21を収容する筐体24を備える。発光部21は、筐体24の開口から発光する。発光部21は、発光ダイオード(LED)であってよく、所定の大きさを有し、目標部として機能する。発光部21は、所定の制御周期で点滅してよい。目標部は、ECU12が既知の大きさであって、カメラ11によって撮像した画像からECU12にて目標部を認識できるように発光する。
【0022】
操縦室3の上部には、単眼のカメラ11が配置される。カメラ11は、撮像部として機能し、車両走行の目標となる目標ランプ2および進行方向の地面を撮像し、前方の遠景と、前方の地面とを撮像する。前方の遠景とは、例えば地平線を含む車両前方の遠景をいう。カメラ11の向きは車両の正面方向に合わせられる。カメラ11は、撮像した画像をECU12に出力する。またカメラ11には傾斜センサが設けられ、撮像時の地面に対する傾斜角として、車両のロール角およびピッチ角をECU12に出力してよい。またカメラ11はステレオカメラであってよい。
【0023】
図2に示す目標走行ライン26は、撮像画像に含まれる目標ランプ2の位置と車両1の初期位置との関係で定まる。
図2では目標ランプ2が車両走行の目標とする方向の位置に配置されている。車両1の初期位置とは、運転者がECU12に接続された自動操舵開始スイッチ(不図示)をオンしたときの車両1の位置をいい、操舵制御装置20による操舵制御を開始する位置をいう。運転者による自動操舵開始スイッチのオン/オフにより、操舵制御装置20による制御が実行/停止される。
【0024】
運転者が自動操舵開始スイッチをオンすると、ECU12は、カメラ11から撮像画像を受け取り、目標ランプ2が撮像された画像から目標ランプ2の位置を算出し、車両1の初期位置と目標ランプ2の位置とを結ぶラインを目標走行ライン26として定める。
【0025】
ECU12は、撮像された撮像画像を処理する画像処理手段として機能するとともに、車両1の操舵を制御する操舵制御手段としても機能する。ECU12は、各種演算処理を実行するCPU、各種制御プログラムを格納するROM、データ格納やプログラム実行のためのワークエリアとして利用されるRAM、エンジン停止時にも記憶内容を保持できるバックアップRAM等の不揮発性メモリ、入出力インターフェース、各種センサ等から入力されたアナログ信号をデジタル信号に変換して取り込むためのA/Dコンバータ、計時用のタイマ等を備えるものである。なお、画像処理手段と走行制御手段は、それぞれ画像処理装置と操舵制御装置とする、別のユニットであってよい。
【0026】
図3は、実施形態に係るECU12の機能構成を示す。ECU12は、画像取得部30、画像処理部32、記憶部34および操舵制御部36を備える。画像取得部30は、カメラ11が所定の撮像周期で撮像した撮像画像を取得する。
【0027】
画像処理部32は、画像取得部30から受け取った撮像画像を処理する。画像処理部32は、特開2010−200674号公報に記載するように、撮像画像から目標走行ライン26に対する横偏差と、目標ランプ2に対する車両のヨー角を算出し、算出した横偏差とヨー角にもとづいて目標舵角を算出して、操舵制御部36に供給する。また、画像処理部32は、撮像画像から車両の旋回状態を算出して、操舵制御部36に供給する。記憶部34には撮像画像の情報が記憶される。
【0028】
ヨー角は、車両1の向きと、目標ランプ2と車両1の位置とを結ぶラインと、にもとづく鋭角である。たとえば、車両1の前後方向が目標ランプ2に対して真っ直ぐ向いていれば、ヨー角をゼロとしてよい。車両1の左右への横偏差がそれぞれプラスとマイナスで算出される場合に、横偏差がゼロである位置が目標走行ライン26上の位置となる。車両の旋回状態は、車両の走行距離および旋回角にもとづく状態量であり、例えば車両の旋回半径または推定舵角であってよい。推定舵角は、撮像画像から算出した車両の旋回状態を示す状態量であって、目標舵角と比較するため舵角として換算した数値である。画像処理部32は、車両の旋回状態として推定舵角を操舵制御部36に供給する。
【0029】
目標舵角は、目標位置に向かう目標走行ライン26上を車両が走行するように算出される。たとえば、操舵制御部36は、目標ランプ2に対するヨー角がゼロであり車両1の進行方向が目標ランプ2に真っ直ぐ向いている場合であっても、横偏差にもとづいて横偏差を小さくするように前輪8を操舵する。
【0030】
操舵制御部36は、操舵駆動機構14を駆動して前輪8の舵角を制御する。操舵制御部36は、画像処理部32から受け取った目標舵角と推定舵角とにもとづいて車両1を走行するように制御する。操舵制御部36は、目標舵角から推定舵角を減算して舵角修正量を算出し、舵角修正量に応じたモータの駆動量を操舵駆動機構14に送出する。例えば圃場の地面が想定以上に軟弱なために、目標舵角で操舵制御を行っても車両の旋回量が不足するような場合には、推定舵角は目標舵角より低い値が算出され、舵角修正量が生成されて追加の操舵制御が行われることで所望の旋回量を得ることができる。
【0031】
実施形態の操舵制御装置20を既存の作業車両に取り付ける場合、一般のユーザがステアリング機構15のステアリングシャフトなどに舵角センサを取り付けることは難しい。そこで、例えば舵角センサを取付容易な前輪8に取り付けてもよいが、泥などにより耐久性が低くなるという問題がある。操舵制御装置20は、圃場の凹凸により前輪8が転舵されても、画像処理結果によって舵角を修正し、舵角センサを用いずとも精度良く操舵を制御でき、コストを抑えることができる。
【0032】
図4は、実施形態に係る画像処理部32の機能構成を示す。画像処理部32は、目標領域検出部40、目標舵角算出部42、目標領域追跡部44、旋回角算出部46、特徴領域設定部48、特徴領域追跡部50、走行距離算出部52および旋回状態推定部54を有する。
【0033】
目標領域検出部40は、画像取得部30から受け取った撮像画像における画像上の発光部21(以下、「目標領域」という)を検出する。具体的には、目標領域検出部40は、所定の閾値以上の輝度を示す画素の集合を目標ランプ2として検出し、それらの画素の集合を含む領域を目標領域として検出する。目標領域検出部40において、点滅する発光部21を撮像した撮像画像を受け取り、点灯した発光部21の撮像画像と消灯した発光部21の撮像画像の輝度を比較し、所定の輝度差以上の画素の集合を目標ランプ2として判定してよく、所定の輝度差以上の画素の集合が所定の面積および所定のアスペクト比を満たせば、目標ランプ2であると判定してよい。さらに、点滅する発光部21の撮像画像を受け取り、目標領域検出部40が検出した目標領域において、発光部21の点滅の周期に応じた輝度の時間的変化を満たすかどうか判定し、目標領域の検出が妥当であるかどうか判定してよい。
【0034】
目標領域検出部40は、撮像画像と、検出した目標領域の位置情報を記憶部34に記憶させる。目標領域検出部40は、目標舵角算出部42および目標領域追跡部44に目標領域の位置情報を供給する。なお、位置情報は、実空間の距離に対応する仮想2次元空間または仮想3次元空間の座標であってよい。また、位置情報は、撮像画像の画素を単位とする仮想2次元空間の座標であってよく、撮像画像上の所定の位置を基準とした座標であってよい。
【0035】
目標舵角算出部42は、目標領域検出部40から目標領域の位置情報を受け取り、車両1の向きと目標領域の位置から目標ランプ2に対する車両1のヨー角を算出する。車両1の向きは、あらかじめ設定されたカメラ11の撮像方向であってよく、たとえば撮像画像の中心位置を通る縦方向のベクトルであってよい。また、目標舵角算出部42は、撮像画像から目標走行ライン26からの横偏差を算出する。目標舵角算出部42は、算出したヨー角および横偏差にもとづいて目標走行ライン26上に目標位置を設定し、車両1が目標位置に直進するように目標舵角を算出する。
【0036】
目標領域追跡部44は、車両走行中に新たに撮像された撮像画像から目標領域を検出し、目標領域の位置情報を導出する。目標領域追跡部44は、新たに撮像された撮像画像の目標領域の位置情報を記憶部34に記憶させる。
【0037】
旋回角算出部46は、過去の目標領域の位置情報と新たに算出した目標領域の位置情報から、撮像画像上の横座標の位置変化量を算出し、その位置変化量にもとづいて車両の旋回角を算出する。旋回角算出部46は、実空間上で遠方にある目標ランプ2の位置変化を用いて車両の旋回角を算出するため、車両の近傍に位置する領域の位置変化を用いる場合と比べて、車両の旋回角を精度良く算出できる。旋回角算出部46は、算出した旋回角を旋回状態推定部54に送出する。
【0038】
ここで、凹凸の多い圃場を走行したときは、走行に伴って車体が頻繁に振動する状態で撮像する場合が想定され、算出した目標領域の位置情報には、ノイズ状の細かい変動が含まれる。旋回角算出部46は、例えば0.1秒間隔で撮像される撮像画像に対し、過去5回分の位置変化量を移動平均処理した値から車両の旋回角を算出する。また、0.1秒毎に算出される位置変化量をフィルター処理によって平滑化してよい。これにより、ノイズ状の細かい振動の影響を抑えることができ、旋回角を精度よく算出できる。
【0039】
特徴領域設定部48は、画像取得部30から目標領域検出部40と並行して、撮像画像を供給される。特徴領域設定部48は、撮像画像から特徴的な部分画像を検出し、それを撮像画像の複数の画素値から構成される特徴領域として設定する。特徴領域とは、所定の閾値以上の輝度勾配が分布している領域であってよく、大きさが定められたウィンドウ内の部分画像であってよい。
【0040】
特徴領域設定部48は、目標領域より実空間上で車両に近い位置に特徴領域を設定してよい。つまり、特徴領域設定部48は、特徴領域が撮像画像上で目標領域より縦方向下側に位置するよう設定する。
【0041】
特徴領域設定部48は、特徴領域追跡部50が設定された特徴領域を追跡できなくなった場合に、新たに特徴領域を設定する。特徴領域として検出した領域は、車両1が進行すれば、大きくなり、変形する。そこで、特徴領域の形状は縦方向に短い長方形に定められてよい。特徴領域設定部48は、設定した特徴領域をテンプレートとして、画素値情報および位置情報を記憶部34に記憶させる。なお、特徴領域は複数設定されてよい。
【0042】
特徴領域追跡部50は、新たな撮像画像が撮像される度に、設定された特徴領域のテンプレートと同じような輝度勾配等をもつ領域を探索して追跡する。特徴領域追跡部50は、テンプレートの位置の周囲の位置座標の範囲を探索する。特徴領域追跡部50は、テンプレートと新たな撮像画像上のウィンドウで取り出した領域との画素値分布が所定の閾値以上に一致していれば、新たな撮像画像上のウィンドウがテンプレートと実空間上の同じ領域であると判定する。たとえば、特徴領域追跡部50は、正規化相関法などの手法を用いて、新たな撮像画像上のウィンドウがテンプレートと実空間上の同じ領域であるかどうか判定する。
【0043】
特徴領域追跡部50は、テンプレートと実空間上の同じ領域であると判定すれば、その新たな撮像画像上のウィンドウの位置情報を走行距離算出部52に送出する。特徴領域追跡部50は、テンプレートと実空間上で同じ領域である新たな撮像画像上の領域がなければ、特徴領域設定部48に新たな特徴領域を設定するよう指令信号を供給する。
【0044】
特徴領域のテンプレートは、同じ領域であると判定されるたびに、その撮像画像上の位置が記憶部34に記憶され、また、次回の撮像までの間に車両が移動する量を推算し、次回の撮像画像において推定されるテンプレートの位置と、その位置での変位量に応じて特徴領域を拡大、変形して新たなテンプレートを生成し、記憶部34に記憶する。
【0045】
走行距離算出部52は、追跡する特徴領域の位置の変化量から車両の走行距離を算出する。ある特徴領域の、前回の処理で追跡した位置と、今回の処理で追跡した位置の変化量を算出し、その位置変化量にもとづいて車両の走行距離を算出する。特徴領域は、車両に近い領域ほど撮像画像上の縦方向の位置変化量が大きくなる。実空間上で目標領域より車両に近い位置で特徴領域の位置変化量を算出することで、走行距離を精度良く算出できる。走行距離算出部52は、算出した走行距離を旋回状態推定部54に送出する。
【0046】
旋回状態推定部54は、算出された走行距離および旋回角にもとづいて車両の旋回状態を推定する。旋回状態推定部54は、走行距離および旋回角により車両の旋回半径を算出し、旋回半径と車両のホイールベースにもとづいて推定舵角を算出する。
【0047】
操舵制御部36は、目標舵角と推定舵角にもとづいて操舵を制御する。このように、撮像画像から車両の旋回状態を推定して舵角を修正することで、車両の実際の挙動を操舵に反映し、精度良く操舵制御ができる。撮像画像を参照して画像処理について詳細に説明する。
【0048】
図5は、撮像画像上の目標領域および特徴領域を説明するための図である。
図5(a)に示す撮像画像60は車両走行中の時刻t1に撮像され、
図5(b)に示す撮像画像62は時刻t1より後の時刻t2に撮像された画像である。また、
図6は、
図5に示す撮像画像を写真で示す図である。
【0049】
撮像画像60および撮像画像62には、圃場にて車両走行の目標となる目標ランプ2および進行方向の地面が撮像されている。
図5(a)に示す目標領域64aは目標ランプ2を含む領域であり、点滅する発光部21が点灯した状態であり、
図5(b)に示す目標領域64bは発光部21が消灯した状態である。目標領域64aは発光部21が中央に位置するように設定される。また、発光部21は点灯と消灯の異なる状態があるため、撮像画像上で追跡するには、目標領域64aは目標ランプ2より広く、周囲の風景も含むように設定され、発光部21の形状に応じて縦方向jに長尺の長方形状のウィンドウに設定される。このように、カメラ11により撮像される撮像画像は、進行方向の少し先の地面だけでなく、進行方向の先の遠景まで含む。
【0050】
図5(a)に示す特徴領域66a、特徴領域68a、特徴領域70a、特徴領域72aおよび特徴領域74aは、目標ランプ2より手前の地面上で、予め設定した閾値以上に明暗の変化が大きい撮像画像上の特徴的な領域に設定され、また、横方向iに長尺の長方形状のウィンドウに設定される。
図5(a)に示す各特徴領域は、縦方向jに離れて複数設定される。
図5(b)に示す特徴領域66b、特徴領域68b、特徴領域70b、特徴領域72bおよび特徴領域74bは、パターンマッチングによる追跡処理により、特徴領域66a、特徴領域68a、特徴領域70a、特徴領域72aおよび特徴領域74aのそれぞれと実空間上で同じ領域であると判定された領域である。
【0051】
図7は、時刻t2の撮像画像62であって、時刻t2の撮像画像62に時刻t1の撮像画像60で検出された目標領域および特徴領域の位置を、説明用として重ね書きしたものである。また、
図8は、
図7に示す撮像画像を写真で示す図である。
【0052】
車両の進行による撮像位置の変化により、時刻t1で撮像された各特徴領域が、時刻t2での撮像画像62上では下側に移動する。各特徴領域の位置変化量は、最も下側にある特徴領域74aと特徴領域74bが最も大きくなる。車両から遠方にある領域ほど、縦方向jの位置変化量が小さく、車両に近い領域ほど縦方向jの位置変化量が大きくなり、車両に近い領域ほど縦方向jの位置変化量を精度良く算出できる。
【0053】
目標領域64aと目標領域64bの横方向iの位置ずれは、カメラ11の向き、つまり車両の進行方向が変化したことを示す。撮像画像上での横方向iの変化量は、車両の方向の変化と、車両の前後・左右の移動の両方が影響する。車両から遠い領域ほど、前後・左右の移動の影響は小さくなり、車両の方向の変化を精度よく抽出できるようになる。このように、特徴領域より車両から遠方にある目標領域の位置変化量をもとに旋回角を算出することで、旋回角を精度良く算出できる。
【0054】
図9は、特徴領域の追跡により車両1の移動軌跡を算出する方法を説明するための平面図である。
図9(a)では、時刻t1での車両1と特徴領域66aとの位置関係を示す。特徴領域66aは、車両1の中心ライン76aの延長線上に設定された状態である。カメラ11は車両1の中心ライン76a上に設置されるため、撮像画像の中心ラインは、車両1の中心ライン76aと一致している。
【0055】
図9(b)では、時刻t2の車両1と特徴領域66bとの位置関係を示す。特徴領域66bは、特徴領域66aと実空間上で同じ領域である。時刻t2では、車両1の前進により特徴領域66bは車両1に接近するとともに、撮像画像の中心ライン76bから右側に位置した状態となる。
【0056】
図9(c)に示すように特徴領域66bを、
図9(c)の左右中央の位置になるように配置すると、車両1は左方向に少し旋回した状態となる。続いて、特徴領域66aと特徴領域66bは実空間上で同じ領域であるので、これを重ね合わせると
図9(d)に示すようになり、時刻t1から時刻t2の間での車両1の移動軌跡78、つまり移動量および旋回量がわかる。このように撮像画像から特徴領域を追跡することで、車両1の移動軌跡を算出できる。また、特徴領域追跡部50は、
図5(a)に示すような複数の特徴領域を追跡し、その算出結果を平均化することで、車両1の移動軌跡を精度よく算出できる。
【0057】
走行距離の算出方法を詳細に説明する。撮像画像上での縦座標jbの実空間での車両前後方向の座標Zは、下記式(1)により算出され、横座標ibの実空間での横座標Xは、下記式(2)により算出される。ここで、実3次元空間でのXYZ座標は次のように設定する。まず、カメラ11の直下の地面上を原点とし、垂直上向きにY座標または高さH、車両の前後方向をZ座標、左右方向をX座標とする。
Z=(CAH)/(PWV・(jv−jb)) ・・・(1)
X=Z・PWH(ib−iv) ・・・(2)
CAHは地面からカメラまでの高さ、PWVは1画素の上下方向の視野角のtan値、jvは撮像画像上での地平線の縦座標、PWHは1画素の左右方向の視野角のtan値、ivは撮像画像上の車両の正面方向の横座標である。これにより、撮像画像上の位置を実空間での位置に変換でき、式(1)を用いて撮像画像上の縦方向jの位置変化量から、車両の走行距離を算出できる。
【0058】
旋回角の算出方法を詳細に説明する。車両1の旋回角dSは、撮像画像上の目標領域の横方向iの位置変化量n1にもとづいて、下記式(3)により算出できる。
dS=n1×PWH ・・・(3)
次に走行距離と旋回角から推定舵角を算出する方法を詳細に説明する。
【0059】
図10は、旋回する車両の動きを説明するための図である。
図10では、旋回する車両に設けられた時刻t1でのカメラ11と時刻t2でのカメラ11の位置を示す。なお、実際には車両の中央付近にカメラ11が設けられているが、ここでは説明の簡略化のためカメラ11が後輪車軸の中央の真上に設定されているものとして、推定舵角の算出方法を説明する。
【0060】
車両が旋回半径Rrで旋回する場合のZ軸方向の走行距離dZと旋回角dSとの関係は下記式(4)となり、式(4)から旋回半径Rrを算出する下記式(5)が導かれる。
dZ=Rr×sin(dS) ・・・(4)
Rr=dZ/sin(dS) ・・・(5)
【0061】
旋回半径Rrと車両のホイールベースWbと舵角Swの関係は、以下の式(6)を満たす。
tan(Sw)=Wb/Rr ・・・(6)
式(5)と式(6)から下記式(7)が導かれる。
tan(Sw)=
(Wb/dZ)×sin(dS) ・・・(7)
式(7)は、旋回角dS、走行距離dZ、舵角Swの関係を示し、旋回角dSおよび走行距離dZから舵角Swが算出される。舵角Swを推定舵角に置き換えることで推定舵角が算出できる。このように、旋回角dSおよび走行距離dZから舵角を推定でき、車両の旋回状態を推定できる。
【0062】
図11は、変形例の操舵制御装置20の画像処理を説明するための図である。
図11(a)に示す撮像画像80は車両走行中の時刻t1に撮像され、
図11(b)に示す撮像画像82は、時刻t1より後の時刻t2に撮像された画像である。また、
図12は、
図11に示す撮像画像を写真で示す図である。
【0063】
変形例の操舵制御装置20では目標ランプ2を使用せず、圃場に形成された畝や溝などの凹凸を撮像画像から走行の目標となる目標走行ライン26として検出し、車両が目標走行ライン26上を走行するように操舵を制御する。そのため、変形例の操舵制御装置20は、
図5で示した実施形態の操舵制御装置20と比べて、目標領域および特徴領域の設定方法が異なる。
【0064】
図11(a)に示す車両走行の目標となる目標領域84は、消失点85を含む複数の画素値から構成される。また、特徴領域86a、特徴領域88aおよび特徴領域90aは、横方向iに並んで設定される。
【0065】
目標領域検出部40は、操舵制御を開始時に撮像画像80から消失点85を検出し、消失点85を含む複数の画素値を目標領域84として設定する。消失点85の縦座標jは水平線87上にあり、横座標iは車両の正面方向の横座標ivに位置する。検出した目標領域84の画素値および位置情報を記憶部34に記憶する。目標領域検出部40は、特徴領域より実空間上で遠方に位置する特徴的な領域であって、操舵制御の開始時に撮像画像の横座標iの中央に位置する目標領域として検出してもよい。また、水平線87の縦座標jは、車両1に取り付けた傾斜センサの検出結果にもとづいて、撮像画像上の水平線87の縦座標jを算出してよい。
【0066】
特徴領域設定部48は、撮像画像80の複数の画素値から構成される領域を横一列に直線状に複数設定し、特徴領域86a、特徴領域88aおよび特徴領域90aは横一列に直線状に設定される。特徴領域設定部48は、横一列の特徴領域に集合に限定されず、上下方向に直線状の特徴領域の集合を複数設定してよい。
【0067】
図11(b)において、目標領域追跡部44は、車両走行中に新たに撮像された撮像画像82から目標領域88を検出し、目標領域88の位置情報を導出する。目標領域追跡部44は、新たな撮像画像82の目標領域88の位置情報を記憶部34に記憶させる。目標領域追跡部44は、パターンマッチングにより、目標領域84の画素値と最も一致する撮像画像82の領域を目標領域84と、実空間上で同じ領域であると判定する。
【0068】
また、特徴領域追跡部50は、新たな撮像画像が取得されるたびに、特徴領域86a、特徴領域88aおよび特徴領域90aのそれぞれの画素値と最も一致する領域を実空間上で同じ領域であると判定して、特徴領域86b、特徴領域88bおよび特徴領域90bを導出する。
【0069】
図11(a)に示す横一列の直線状に設定した各特徴領域が、
図11(b)では、縦方向jにずれている。これは、地面の凹凸によりカメラ11と各特徴領域との実空間の間隔が異なるためである。特徴領域86b、特徴領域88bおよび特徴領域90bのうち、溝の底に設定された特徴領域88bが実空間で最もカメラ11から離れているためである。変形例の操舵制御装置20は、特徴領域86b、特徴領域88bおよび特徴領域90bの縦方向jの位置変化により地面の凹凸(畝や溝)を検出することができ、畝や溝に沿って車両が走行するように操舵を制御する。
【0070】
図13は、時刻t2の撮像画像であって、時刻t1の撮像画像80の目標領域および特徴領域を、時刻t2の撮像画像82に説明用として重ね書きしたものである。時刻t2の撮像画像82に上書きした撮像画像80の目標領域および特徴領域は、撮像画像80上での位置情報である。また、
図14は、
図13に示す撮像画像を写真で示す図である。
【0071】
時刻t1の目標領域84aの位置と時刻t2の目標領域84bの位置が移動しており、時刻t1の特徴領域86a、88a、90aと、時刻t2の特徴領域86b、88b、90bとの位置が移動している。
【0072】
旋回角算出部46は、時刻t1の目標領域84aと時刻t2の目標領域84bの横座標の位置変化量を算出し、その位置変化量にもとづいて車両の旋回角を算出する。
【0073】
走行距離算出部52は、時刻t1の特徴領域86a、88a、90aと、時刻t2の特徴領域86b、88b、90bとのそれぞれの縦座標の位置変化量を算出し、それらの位置変化量を平均化し、平均化して位置変化量にもとづいて車両の走行距離を算出する。
【0074】
旋回状態推定部54は、旋回角と走行距離から推定舵角を算出し、車両の旋回状態を推定する。操舵制御部36は、推定舵角を目標舵角に反映して操舵を制御する。このように変形例の操舵制御装置20においては、目標ランプ2を用いることなく操舵を制御でき、コストを抑えることができる。
【0075】
以上、本発明について実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素の組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0076】
実施形態では、スイッチを押せば操舵制御装置20が車両を自動で走行させる制御、つまり操舵量および走行を制御する態様を示したが、この態様に限られない。操舵制御装置20が車両1の操舵量を制御して、運転者がアクセルペダルなどで車両進行を制御してもよい。
【0077】
実施形態では、傾斜センサの検出結果にもとづいて撮像画像を補正する態様も示したが、この態様に限られない。画像処理部32は、撮像画像から水平線を検出してもよい。画像処理部32は、撮像画像上で直線状に輝度差を持つ境界線で、横軸に対する傾斜角が所定の範囲内にある画素値の集合を水平線として検出する。画像処理部32は、地平線が横軸と平行になるように撮像画像を回転させる補正をしてよい。