(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
α型窒化ケイ素粒子および焼結助剤を含む顆粒と、前記顆粒表面に被覆される凝集防止剤を含む表面処理層と、を有する第1の前駆体を焼結させる工程(1)を含む、凝集β型窒化ケイ素の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0014】
<凝集β型窒化ケイ素の製造方法>
本形態に係る製造方法は、α型窒化ケイ素粒子および焼結助剤を含む顆粒と、前記顆粒表面に被覆される凝集防止剤を含む表面処理層と、を有する第1の前駆体を焼結させる工程(1)を含む。その他必要に応じて、凝集防止剤を除去する工程(2)をさらに含んでいてもよい。
【0015】
β型窒化ケイ素は、上述のように、柱状、棒状という形状を有することから、熱伝導性の異方性が問題となりうる。より詳細には、β型窒化ケイ素粒子をそのまま樹脂に分散させて層状の放熱シート等を成形した場合、柱状または棒状のβ型窒化ケイ素粒子の全部、または大部分が面方向に配置されうる。これに対し、厚み方向に配置されるβ型窒化ケイ素粒子はない、または少ないため、放熱シートの面方向の熱伝導性は高いが、厚み方向の熱伝導性が低くなるという、熱伝導性の異方性が生じうるのである。
【0016】
なお、かような熱伝導性の異方性に対し、特許文献1に記載の発明のように凝集したβ型窒化ケイ素を適用することが考えられる。しかしながら、六方晶窒化ホウ素は黒鉛構造であるのに対し、β型窒化ケイ素は柱状、棒状であるため、特許文献1の技術をそのまま適用することはできない。また、β型窒化ケイ素を単に凝集させようとすると、二次凝集が生じてしまい、好適な凝集粒子を得ることはできない。
【0017】
これに対し、上記製造方法によれば、熱伝導性の異方性がない、または少ない凝集β型窒化ケイ素を得ることができる。より詳細には、α型窒化ケイ素を焼結することで、β型窒化ケイ素に変換しつつ凝集させることができる。この際、顆粒中で焼結を行うことにより、凝集β型窒化ケイ素中のそれぞれのβ型窒化ケイ素はあらゆる方向に配向するため、熱伝導性の異方性がなくなる、または少なくなる。そして、前記顆粒に凝集防止剤を含む表面処理層を形成することで、凝集β型窒化ケイ素の二次凝集を防止させることができる。
【0018】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0019】
[工程(1)]
工程(1)は、α型窒化ケイ素粒子および焼結助剤を含む顆粒と、前記顆粒表面に被覆される凝集防止剤を含む表面処理層と、を有する第1の前駆体を焼結させる工程である。
【0020】
(第1の前駆体)
第1の前駆体は、顆粒および表面処理層を含む。
顆粒
顆粒は、α型窒化ケイ素粒子および焼結助剤を含む。その他必要に応じて、バインダ、溶媒、他の成分を含んでいてもよい。
顆粒の平均粒径は、10〜100μmであることが好ましく、20〜80μmであることがより好ましく、20〜60μmであることがさらに好ましい。顆粒の平均粒径が10μm以上であると、フィラー間の熱抵抗を低減できることから好ましい。一方、顆粒の平均粒径が100μm以下であると、成形体を薄層化できることから好ましい。なお、本明細書において、「平均粒径」の値は、任意の50個の粒子の粒径を透過型電子顕微鏡(TEM)により得られたイメージから測定し、その平均値を意味する。この際、「粒径」とは、粒子の輪郭線上の2点間の距離のうち、最大の長さを意味する。
【0021】
α型窒化ケイ素粒子
α型窒化ケイ素粒子としては、特に制限されず、自ら調製しても市販品を用いてもよい。自ら調製する場合の調製方法は、特に制限されず、公知の方法が適宜採用されうる。例えば、含窒素シラン化合物、非晶質窒化ケイ素を熱分解する方法が挙げられる。
【0022】
前記含窒素シラン化合物としては、特に制限されないが、シリコンジイミド、シリコンテトラアミド、シリコンニトロゲンイミド、シリコンクロルイミド等が挙げられる。
【0023】
また、前記非晶質窒化ケイ素としては、特に制限されないが、上記含窒素シラン化合物を熱分解して製造されるもの、ハロゲン化ケイ素とアンモニアとを反応させて製造されるもの等が挙げられる。
【0024】
含窒素シラン化合物、非晶質窒化ケイ素の熱分解条件についても特に制限されない。熱分解温度としては、1300〜1550℃であることが好ましく、1350〜1450℃であることがより好ましい。また、熱分解雰囲気は、窒素ガス雰囲気、アンモニアガス雰囲気であることが好ましい。
【0025】
α型窒化ケイ素粒子の平均粒径は、特に制限されないが、10μm以下であることが好ましく、0.5〜5μmであることがより好ましい。α型窒化ケイ素粒子の平均粒径が10μm以下であると、顆粒粒子の構成成分が均一化できることから好ましい。
【0026】
顆粒中のα型窒化ケイ素粒子の含有量としては、顆粒の質量に対して、80〜90質量%であることが好ましく、85〜90質量%であることがより好ましい。α型窒化ケイ素粒子の含有量が80質量%以上であると、焼結後緻密化できることから好ましい。一方、α型窒化ケイ素粒子の含有量が90質量%以下であると、結晶変換できることから好ましい。
【0027】
焼結助剤
焼結助剤は、焼結の促進、安定化、緻密な焼結体の形成の少なくとも1つを可能とする機能を有する。
【0028】
焼結助剤としては、特に制限されず、公知のものが使用されうる。具体的には、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、バリウム(Ba)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、サマリウム(Sm)、ガドリニウム(Gd)、ジスプロニウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、およびイッテルビウム(Yb)の酸化物が挙げられる。これらのうち、焼結助剤は、酸化イットリウム、酸化マグネシウム、酸化ルテニウムであることが好ましい。なお、前記焼結助剤は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
顆粒中の焼結助剤の含有量としては、顆粒の質量に対して、1〜30質量%であることが好ましく、3〜20質量%であることがより好ましい。焼結助剤の含有量が1質量%以上であると、窒化ケイ素の結晶変換が進展できることから好ましい。一方、焼結助剤の含有量が30質量%以下であると、結晶を緻密化できることから好ましい。
【0030】
バインダ
バインダは、顆粒中に含まれうる任意の成分である。当該バインダは、顆粒を形成する場合に保形性を確保する機能を有する。なお、バインダは、後述するように、通常、焼結前に除去(脱脂)されるか、焼結に伴って脱脂される。
【0031】
バインダとしては、特に制限されないが、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン;ポリエステル;エポキシ樹脂;ポリウレタン;ポリアミド;ポリビニルアルコール;ポリビニルブチラール;ポリメチル(メタ)アクリレート樹脂、ポリブチル(メタ)アクリレート樹脂等の(メタ)アクリル樹脂;ポリ塩化ビニル、ポリ酢酸ビニル等のビニル樹脂;パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックスとマイクロクリスタリンワックスとの混合ワックス等のワックス等が挙げられる。これらのうち、ポリビニルブチラール、ポリビニルアルコール、(メタ)アクリル樹脂を用いることが好ましい。なお、前記バインダは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
顆粒中のバインダの含有量としては、α型窒化ケイ素粒子の質量に対して、1〜30質量%であることが好ましく、3〜20質量%であることがより好ましい。バインダの含有量が1質量%以上であると、顆粒形態を保持できることから好ましい。一方、バインダの含有量が30質量%以下であると、焼結粒子を緻密化できることから好ましい。
【0033】
溶媒
溶媒は、顆粒中に含まれうる任意の成分である。当該溶媒は、顆粒の硬度を調整する機能を有する。なお、溶媒は、通常、焼結に伴って除去される。
【0034】
溶媒としては、特に制限されないが、水または有機溶媒が挙げられる。
【0035】
前記有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール系溶媒;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド;ジオキシラン;ピロリドン等が挙げられる。これらのうち、有機溶媒としてはアルコール系溶媒を用いることが好ましく、エタノール、イソプロピルアルコールを用いることがより好ましい。なお、前記溶媒は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
他の成分
顆粒には、得られる凝集β型窒化ケイ素の機能を調整する目的、または焼結を制御する目的等により、他の成分が含まれていてもよい。
【0037】
前記他の成分としては、β型窒化ケイ素;窒化ホウ素、窒化アルミニウム、酸化マグネシウム等の他の熱伝導性フィラー;ポリカルボン酸、無水マレイン酸、ポリエーテル等の分散剤が挙げられる。
【0038】
顆粒中の他の成分は、本発明の効果を損なわない限り、その目的等に応じて適宜含有量を変更することができる。
【0039】
顆粒の調製方法
顆粒の調製方法としては、特に制限されず、公知の方法により調製することができる。一実施形態において、顆粒の調製方法は、α型窒化ケイ素粒子および焼結助剤、並びに必要に応じてバインダ、他の成分、および溶媒を含む第1の分散液を、顆粒に成形する方法が挙げられる。
【0040】
前記第1の分散液の調製方法は特に制限されず、溶媒中にα型窒化ケイ素粒子および焼結助剤を添加して調製してもよいし、α型窒化ケイ素粒子および溶媒を含む分散液と、焼結助剤および溶媒を含む分散液とを混合して調製してもよいし、α型窒化ケイ素粒子、焼結助剤、および溶媒を含む分散液にバインダを添加して調製してもよい。
【0041】
前記第1の分散液中の溶媒の含有量は、特に制限されないが、α型窒化ケイ素粒子100質量部に対して、100〜300質量部であることが好ましく、150〜200質量部であることがより好ましい。溶媒の含有量が100質量部以上であると、スラリー粘度(第1の分散液の粘度)を低下できることから好ましい。一方、溶媒の含有量が300質量部以下であると、緻密化できることから好ましい。
【0042】
顆粒に成形する方法は、特に制限されず、スプレードライ法、押出成形法、流動層造粒、撹拌造粒等が挙げられる。
【0043】
なお、顆粒が溶媒を含有する場合、乾燥することで溶媒の少なくとも一部を除去することができる。この際、顆粒中の溶媒量を調整することで、顆粒の硬度を調整することができる。
【0044】
表面処理層
表面処理層は、焼結の際に、凝集β型窒化ケイ素どうしの二次凝集を防止する機能を有する。
【0045】
この際、表面処理層は、前記機能を発現する限り、顆粒全面に形成されていても、顆粒表面の少なくとも一部に形成されていてもよい。表面処理層は、顆粒全面に対して、好ましくは30%以上、より好ましくは50〜100%形成される。
【0046】
表面処理層は、凝集防止剤を含む。その他、必要に応じて、溶媒、他の成分を含んでいてもよい。
【0047】
表面処理層の膜厚は、0.5〜20μmであることが好ましく、0.5〜10μmであることがより好ましい。表面処理層の膜厚が0.5μm以上であると、粒子凝集を抑制できることから好ましい。一方、表面処理層の膜厚が20μm以下であると、高収率化できることから好ましい。
【0048】
凝集防止剤
凝集防止剤としては、特に制限されないが、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化チタン等の窒化物;炭化ケイ素、炭化アルミニウム、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化ニオブ、炭化タンタル、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化タングステン等の炭化物;黒鉛、グラフェン、グラファイト、カーボンブラック等の炭素材料;酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化インジウム等の酸化物;ハイドロキシアパタイト等の水酸化物;硫化モリブデン、硫化亜鉛等の硫化物;シリカ等が挙げられる。これらのうち、絶縁性および分離のしやすさの観点から、窒化物であることが好ましく、窒化ホウ素、窒化アルミニウムであることがより好ましく、窒化ホウ素であることがさらに好ましい。
【0049】
凝集防止剤の使用量としては、特に制限されないが、顆粒100質量部に対して、1〜200質量部であることが好ましく、10〜100質量部であることがより好ましい。凝集防止剤の使用量が1質量部以上であると、粒子凝集を抑制できることから好ましい。一方、凝集防止剤の使用量が200質量部以下であると高収率化できることから好ましい。
【0050】
バインダ、溶媒、他の成分
表面処理層は、顆粒と同様に、バインダ、溶媒、および他の成分の少なくとも1つを含んでいてもよい。
【0051】
表面処理層の形成方法
表面処理層は、特に制限されず、公知の方法により形成することができる。表面処理層の形成方法の具体例としては、ドライブレンド法およびウェットブレンド法等が挙げられる。
【0052】
前記ドライブレンド法は、顆粒と表面処理層に含有される成分とを混練させることにより、顆粒表面に表面処理層を形成する方法である。
【0053】
前記ウェットブレンドは、凝集防止剤および溶媒、並びに必要に応じてバインダおよび他の成分を含む第2の分散液を、混練させることにより、顆粒表面に表面処理層を形成する方法である。
【0054】
この際、表面処理層の形成には、ヘンシェルミキサ、タンブルミキサ、リボンミキサ、ボーレコンテナミキサ、ドラムミキサ、パグミキサ等のミキサ;ボールミル;V型混合機、ダブルコーン型混合機等の混合機等が使用されうる。
【0055】
なお、顆粒および表面処理層の少なくとも一方が溶媒を含有する場合、乾燥することで溶媒の少なくとも一部を除去することができる。この際、顆粒および表面処理層中の溶媒量を調整することで、第1の前駆体の硬度を調整することができる。
【0056】
脱脂
一実施形態において、顆粒および表面処理層の少なくとも一方にバインダを使用した場合、脱脂により、顆粒および表面処理層からバインダを除去(脱脂)することができる。
【0057】
脱脂方法は特に制限されないが、通常、加熱により行われる。
【0058】
加熱温度は、バインダの種類によっても異なるが、500〜1400℃であることが好ましく、600〜800℃であることがより好ましい。加熱温度が500℃以上であると、分解反応(脱脂)が短時間で完了できることから好ましい。一方、加熱温度が1400℃以下であると、脱脂工程におけるα型窒化ケイ素のβ型窒化ケイ素への変換を防止または抑制できることから好ましい。
【0059】
脱脂雰囲気は特に制限されず、空気雰囲気であっても、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の不活性ガス雰囲気であってもよい。
【0060】
(焼結)
第1の前駆体を焼結することにより、凝集β型窒化ケイ素を得ることができる。より詳細には、上述のように、α型窒化ケイ素粒子を焼結することにより、β型窒化ケイ素粒子に変換しつつ凝集させることができる。この際、顆粒内部でα型窒化ケイ素粒子の焼結を行うことで、熱伝導性の異方性はなくなる、または少なくなる。そして、形成された凝集β型窒化ケイ素は、表面処理層の存在により、二次凝集を防止することができる。
【0061】
焼結温度は、1400℃以上であることが好ましく、1700〜1900℃であることがより好ましく、1800〜1900℃であることがさらに好ましい。焼結温度が1400℃以上であると、α型窒化ケイ素をβ型窒化ケイ素に好適に変換することができる。
【0062】
焼結雰囲気は、熱分解抑制の観点から、窒素ガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の不活性ガス雰囲気であることが好ましく、窒素ガス雰囲気であることがより好ましい。
【0063】
焼結環境は、低温焼結の観点から、加圧条件であることが好ましい。この際、加圧圧力は、0.1〜1.0MPaであることが好ましく、0.8〜1.0MPaであることがより好ましい。加圧圧力が0.1MPa以上であると、緻密化できることから好ましい。一方、加圧圧力が1.0MPa以下であると、低温焼結できることから好ましい。
【0064】
焼結時間は、焼結条件によっても異なるが、1〜10時間であることが好ましく、1〜6時間であることがより好ましい。
【0065】
第1の前駆体における顆粒の粒径、硬度、焼結条件等を調節することで、凝集β型窒化ケイ素の粒径、密度、硬度等を制御することができる。
【0066】
なお、第1の前駆体にバインダ、溶媒等が含まれる場合、通常、焼結時に除去される。
【0067】
[工程(2)]
工程(2)は、工程(1)の後に行われる任意の工程であり、凝集防止剤を除去する工程である。
【0068】
工程(1)で得られた焼結体には、第1の前駆体における表面処理層に由来する層(以下、「焼結体表面層」と称することがある)が含まれうる。当該焼結体表面層は、少なくとも凝集防止剤を含む。したがって、工程(2)は、焼結体表面層の凝集防止剤を除去する工程であるといえる。この際、焼結体表面層が凝集防止剤からなる場合、工程(2)は、焼結体表面層の除去する工程であるということができる。
【0069】
凝集防止剤の除去方法は、特に制限されず、公知の方法により除去することができる。例えば、凝集防止剤と焼結体との比重差を利用したデカンテーション法、表面摩擦による除去等が挙げられる。
【0070】
<凝集β型窒化ケイ素>
一実施形態において、工程(2)を行う場合、凝集β型窒化ケイ素は、通常、β型窒化ケイ素粒子の凝集体を含む。
【0071】
また、別の一実施形態において、工程(2)を行わない場合、凝集β型窒化ケイ素は、通常、β型窒化ケイ素粒子の凝集体および前記凝集体表面に配置される凝集防止剤を含む層(上記における「焼結体表面層」に相当する)を有する。
【0072】
すなわち、上記製造方法において、工程(1)で得られた焼結体をそのまま凝集β型窒化ケイ素として用いてもよいし、工程(2)を行って得られたものを凝集β型窒化ケイ素として用いてもよい。
【0073】
なお、凝集β型窒化ケイ素の製造条件等によっては、前記凝集体および前記凝集防止剤を含む層の少なくとも一方に、バインダ、溶媒、他の成分、不純物等を含むことがある。
【0074】
ここで、凝集β型窒化ケイ素の構成を一義的に規定することは困難である。例えば、第1の前駆体を構成する顆粒の粒径、焼結条件等によって、凝集β型窒化ケイ素を構成するβ型窒化ケイ素粒子の粒径、配向等が異なりうる。
【0075】
凝集β型窒化ケイ素の平均粒径は、特に制限されないが、1μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましく、50〜100μmであることが特に好ましい。平均粒径が1μm以上であると、厚み方向の熱伝導性が向上しうることから好ましい。
【0076】
また、凝集防止剤を含む層を有する場合の凝集β型窒化ケイ素において、当該凝集防止剤を含む層の膜厚は、特に制限されないが、10μm以下であることが好ましく、5μm以下であることがより好ましい。凝集防止剤を含む層の膜厚が10μm以下であると、熱伝導性を確保できることから好ましい。
【0077】
<樹脂組成物>
本発明の一実施形態によれば、凝集β型窒化ケイ素と、樹脂と、を含む樹脂組成物が提供される。凝集β型窒化ケイ素は、熱伝導性の異方性がない、または少ないため、これを含む樹脂組成物もまた、熱伝導性の異方性がない、または少なくなる。
【0078】
凝集β型窒化ケイ素
用いられうる凝集β型窒化ケイ素は、上述したものが用いられうることからここでは説明を省略する。
【0079】
樹脂組成物中の凝集β型窒化ケイ素の含有量は、樹脂組成物の質量に対して、10〜80質量%であることが好ましく、40〜80質量%であることがより好ましい。凝集β型窒化ケイ素の含有量が10質量%以上であると、高熱伝導化できることから好ましい。一方、凝集β型窒化ケイ素の含有量が80質量%以下であると、良好な成形性を保持できることから好ましい。
【0080】
樹脂
用いられうる樹脂としては、特に制限されず、熱可塑性樹脂および熱硬化性樹脂のいずれも用いられうる。
【0081】
前記熱可塑性樹脂としては、特に制限されないが、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ゴム変性ポリスチレン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル−スチレン(AS)樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、エチレンビニルアルコール樹脂、酢酸セルロース樹脂、アイオノマー樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリアリレート樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリケトン樹脂、液晶ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、シンジオタクチックポリスチレン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂等が挙げられる。
【0082】
前記熱硬化性樹脂としては、特に制限されないが、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ジアリルテレフタレート樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂、ケトン樹脂、キシレン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂が挙げられる。
【0083】
上述の樹脂は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0084】
<熱伝導性材料>
本発明の一実施形態によれば、上述の樹脂組成物を用いてなる熱伝導性材料が提供される。
【0085】
樹脂組成物は、上述の通り、熱伝導性の異方性がない、または少ないことから、これを用いてなる熱伝導性材料もまた熱伝導性がない、または少ない。そうすると、例えば、半導体デバイスにおいて、第1の部材と第2の部材との間に、シート状の熱伝導性材料を設けた場合、第1の部材で生じた熱は、厚み方向への熱伝導性が高い熱伝導性材料および第2の部材を介して迅速に放熱することができる。その結果、より集積化や大容量化した半導体デバイスの製造が可能となり、また半導体デバイスが長寿命となりうる。
【0086】
熱伝導性材料が層状の放熱シート等の形状である場合において、当該熱伝導性材料の厚み方向の熱伝導性は、10W/m・K以上であることが好ましく、12.5W/m・K以上であることがより好ましい。なお、本明細書において、「厚み方向の熱伝導性」の値は、実施例に記載の方法で測定された値を採用するものとする。ただし、熱伝導性フィラーの充填比率は60体積%の条件とする。
【0087】
熱伝導性材料の用途としては、特に制限されないが、電子・電気部材の用途等が挙げられる。
【0088】
また、熱伝導性材料の適用形態としては、特に制限されないが、放熱接着剤、接着シート、電子基板、封止材等が挙げられる。
【0089】
熱伝導性材料の製造方法についても特に制限はなく、公知の方法を採用することができる。例えば、板状の熱伝導性材料を製造する場合には、押出成形、ブロー成形法、圧縮成形法、真空成形法、射出成形法、平面プレス法等により、樹脂組成物を成形する方法が挙げられる。また、フィルム状の熱伝導性材料を製造する場合には、溶融押出法、溶液キャスト法、インフレーションフィルム成形、押出ラミネーション成形、カレンダー成形、シート成形、繊維成形、ブロー成形、射出成形、回転成形、被覆成形等が挙げられる。
【実施例】
【0090】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」および「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り、それぞれ「質量部」および「質量%」を表す。
【0091】
<実施例1>
[工程(1)]
(第1の前駆体の調製)
α型窒化ケイ素粒子であるSN−E10(平均粒径1μm、宇部マテリアルズ株式会社製)100部と、焼結助剤である酸化イットリウム5部および酸化マグネシウム3部と、分散材であるセルナE−503(ポリカルボン酸、中京油脂株式会社製)と、溶媒であるエタノール100部と、を500mLのポリビンに投入し、鉄心入りナイロンボ−ルを入れて72時間ボ−ルミル混合した。得られた混合物に、バインダであるセルナSE−604(ポリビニルブチラート、中京油脂株式会社製)5部を添加、混合し、スプレードライ法により平均粒径30μmの顆粒を調製した。
【0092】
前記顆粒100部と、凝集防止剤であるSP3−7(窒化ホウ素、平均粒径2μm、電気化学工業株式会社製)30部と、をドライブレンド法により混合し、顆粒表面に表面処理層を形成し、被覆粒子を得た。
【0093】
次いで、得られた被覆粒子を、空気雰囲気ガス中において700℃で2時間加熱することで、被覆粒子中のバインダを除去し(脱脂)、第1の前駆体を調製した。
【0094】
(焼結)
第1の前駆体を、窒化ホウ素製のルツボに投入し、カーボンヒーターとカーボン断熱材を備えた電気炉ハイマルチ5000(富士電波工業株式会社製)を用いて、窒素ガス雰囲気、1950℃、0.9MPaの条件で6時間焼結した。
【0095】
[工程(2)]
工程(1)で得た焼結体を徐冷し、乳鉢を用いて解砕処理を行い、解砕物の20%水スラリーを調製し、デカンテーション法により上層分散液を除去した。これを2回繰り返すことで、凝集防止剤であるSP3−7(窒化ホウ素)を除去した。最後にスラリー沈殿物を乾燥することで、平均粒径35μmの凝集β型窒化ケイ素を製造した。
【0096】
<実施例2>
工程(1)における顆粒の平均粒径を50μmに変更したことを除いては、実施例1と同様の方法で凝集β型窒化ケイ素を製造した。なお、凝集β型窒化ケイ素の平均粒径は60μmであった。
【0097】
<比較例1>
市販の球状アルミナであるDAW20(平均粒径20μm、電気化学工業株式会社製)を用いた。
【0098】
<比較例2>
市販の角状α型窒化ケイ素SN−E10(平均粒径3μm、宇部マテリアルズ株式会社製)を用いた。
【0099】
<比較例3>
市販の不定形β型窒化ケイ素SN−F2(平均粒径28μm、電気化学工業株式会社製)を用いた。
【0100】
<評価>
実施例1および2、並びに比較例1〜3の熱伝導性フィラーを用いて、厚み方向の熱伝導率および接着性についての評価を行った。
【0101】
(厚み方向の熱伝導率)
試料の調製
ビスフェノールAのジグリシジルエーテルであるEPICLON 850-S(エポキシ当量188g/eq.、DIC株式会社製)45.5部と、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル30(エポキシ当量412g/eq.、阪本薬品工業株式会社製)50部と、ジシアンジアミドであるアミキュアAH−154(味の素ファインテクノ株式会社製)4.5部と、を混合して樹脂混合液を調製した。当該樹脂混合液に、所定の充填比率となるように熱伝導性フィラーを配合し、3本ロールで混練し、脱泡することで樹脂組成物を調製した。
【0102】
調製した樹脂組成物を用いて熱伝導性材料(試験片)を製造した。より詳細には、熱プレス成型により、仮硬化条件を170℃、20分、本硬化条件を170℃、2時間とし、熱伝導性材料(60×110×0.8mm)を製造した。熱伝導性材料から10×10mmを切り出し、これを試験片とした。
【0103】
厚み方向の熱伝導率の測定
熱伝導率測定装置LFA447nanoflash(NETZSCH社製)を用いて試験片の厚み方向の熱伝導率の測定を行った。
【0104】
得られた結果を、熱伝導性フィラーの充填比率とともに下記表1に示す。
【0105】
(接着性)
厚み方向の熱伝導率で調製した樹脂組成物を用いて、引っ張り剪断接着強さの測定を行った。
【0106】
試験片の作製
被着体としてアルミ板A1050(幅25mm×長さ100mm×厚み1.5mm)を用いて、JIS K6850に準拠して試験片を作製した(硬化条件170℃×2時間)。
【0107】
接着性の評価
引張試験機(ストログラフAPII、株式会社東洋精機製作所製)を用いて、引張速度10mm/min、つかみ具間隔120mmで200℃における引っ張り剪断接着強さ(接着強度)の測定を行い、以下の基準に準拠して評価を行った。
【0108】
○:接着強度が5MPa以上である
×:接着強度が5MPa未満である
得られた結果を下記表1に示す。
【表1】
【0109】
表1の結果から、実施例1および2の厚み方向の熱伝導率は、比較例1〜3の結果と対比すると、優位に高いことが分かる。