特許第6588090号(P6588090)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピアの特許一覧

特許6588090膜/電極接合体、該膜/電極接合体を含む反応器及び水素を分離する方法
<>
  • 特許6588090-膜/電極接合体、該膜/電極接合体を含む反応器及び水素を分離する方法 図000004
  • 特許6588090-膜/電極接合体、該膜/電極接合体を含む反応器及び水素を分離する方法 図000005
  • 特許6588090-膜/電極接合体、該膜/電極接合体を含む反応器及び水素を分離する方法 図000006
  • 特許6588090-膜/電極接合体、該膜/電極接合体を含む反応器及び水素を分離する方法 図000007
  • 特許6588090-膜/電極接合体、該膜/電極接合体を含む反応器及び水素を分離する方法 図000008
  • 特許6588090-膜/電極接合体、該膜/電極接合体を含む反応器及び水素を分離する方法 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588090
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】膜/電極接合体、該膜/電極接合体を含む反応器及び水素を分離する方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/02 20060101AFI20191001BHJP
   C01B 3/56 20060101ALI20191001BHJP
   C25B 11/03 20060101ALI20191001BHJP
   C25B 1/02 20060101ALI20191001BHJP
   C25B 9/00 20060101ALI20191001BHJP
   C25B 9/10 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   C25B11/02 303
   C01B3/56 Z
   C25B11/03
   C25B1/02
   C25B9/00 G
   C25B9/10
【請求項の数】13
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-517019(P2017-517019)
(86)(22)【出願日】2015年9月15日
(65)【公表番号】特表2017-533346(P2017-533346A)
(43)【公表日】2017年11月9日
(86)【国際出願番号】EP2015071043
(87)【国際公開番号】WO2016050500
(87)【国際公開日】20160407
【審査請求日】2017年5月29日
(31)【優先権主張番号】14186807.5
(32)【優先日】2014年9月29日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】エヴァ ムトロ
(72)【発明者】
【氏名】グンター ベヒトロフ
(72)【発明者】
【氏名】ズィーグマー ブロイニンガー
(72)【発明者】
【氏名】ベアント バスティアン シャーク
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−522899(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/122155(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0303550(US,A1)
【文献】 S.A.Grigoriev,et.al,Pure hydrogen production by PEM electrolysis for hydrogen energy,International Journal of Hydrogen Energy,31(2006),p.171-175
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00−15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜/電極接合体(1)であって、
− アノード(7)を有する保持側(5)及びカソード(11)を有する透過側(9)を有する、選択的にプロトンを伝導する気密性の膜(3)と、
− アノード(7)とカソード(11)との間に電位差を発生させるための電圧源(13)と、
− 触媒活性材料を有する、保持側(5)のアノード触媒(15)と、
− 触媒活性材料を有する、透過側(9)のカソード触媒(17)と
を含み、ここで、
− アノード(7)が、膜(3)に隣接するガス拡散層(19)及び該層に塗布されたマイクロポーラス層(21)を有するガス拡散電極であり、該マイクロポーラス層(21)上にはアノード触媒(15)が塗布されており、
及び/又は
− カソード(11)が、膜(3)に隣接するガス拡散層(23)及び該層に塗布されたマイクロポーラス層(25)を有するガス拡散電極であり、該マイクロポーラス層(25)上にはカソード触媒(17)が塗布されており、ここで、
カソード触媒(17)は、アノード触媒(15)より少量の触媒活性材料を有し、カソード触媒(17)の触媒活性材料の量と、アノード触媒(15)の触媒活性材料の量との比が、1:1.75〜1:3.0である、前記膜/電極接合体(1)。
【請求項2】
カソード触媒(17)の触媒活性材料の量が、カソード(11)の全面積に対して、0.001mg/cm2〜1.00mg/cm2である、請求項1に記載の膜/電極接合体(1)。
【請求項3】
カソード触媒(17)の触媒活性材料の量と、アノード触媒(15)の触媒活性材料の量との比が、1:100〜1:1.25である、請求項1又は2に記載の膜/電極接合体(1)。
【請求項4】
アノード触媒(15)及び/又はカソード触媒(17)が、白金を触媒活性材料として有する、請求項1からまでのいずれか1項に記載の膜/電極接合体(1)。
【請求項5】
アノード触媒(15)及びカソード触媒(17)が、同じ触媒活性材料を有する、請求項1からまでのいずれか1項に記載の膜/電極接合体(1)。
【請求項6】
保持側(5)及び/又は透過側(9)が、それぞれ、触媒活性材料を含む膜/電極接合体(1)の活性面積を有し、ここで、該活性面積が、5cm2〜20,000cm2である、請求項1からまでのいずれか1項に記載の膜/電極接合体(1)。
【請求項7】
ガス拡散層(19,23)が、導電性及び開気孔性の材料を含む、請求項1からまでのいずれか1項に記載の膜/電極接合体(1)。
【請求項8】
ガス拡散層(19,23)及び/又はマイクロポーラス層(21,25)が炭素を有する、請求項1からまでのいずれか1項に記載の膜/電極接合体(1)。
【請求項9】
反応器であって、
− 水素を含有する混合生成物ガスが形成される化学反応を実施するための少なくとも1つの装置と、
− 請求項1からまでのいずれか1項に記載の少なくとも1つの膜/電極接合体(1)と
を含み、ここで、膜/電極接合体(1)が、前記混合生成物ガスの少なくとも一部が前記装置から膜/電極接合体(1)の保持側(5)に送り込まれ得るように前記装置と接続されている、前記反応器。
【請求項10】
水素を分離する方法であって、以下
a)水素を含有する混合生成物ガスが形成される化学反応を、請求項に記載の反応器中で実施する工程と、
b)前記混合生成物ガスを、請求項1からまでのいずれか1項に記載の膜/電極接合体(1)の保持側(5)に供給する工程と、
c)前記混合生成物ガスに含まれる水素の少なくとも一部を、請求項1からまでのいずれか1項に記載の膜/電極接合体(1)によって電気化学的に分離する工程と
を含み、ここで、膜(3)の保持側(5)にて、水素の少なくとも一部がアノード触媒(15)上で酸化されてプロトンが生じ、該プロトンが膜(3)を通り抜けた後、透過側(9)にて、カソード触媒(17)上で還元されて水素が生じる、前記方法。
【請求項11】
工程a)における化学反応が、C〜C−アルカンの脱水素芳香族化である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記混合生成物ガスから、該混合生成物ガス中に含まれる水素の少なくとも30%が分離される、請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
水素の分離を、20℃〜200℃の温度で実施する、請求項10から12までのいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜/電極接合体(Membran-Elektroden-Anordnung)、本発明による該膜/電極接合体を含む反応器、及び本発明による該膜/電極接合体を使用して水素を分離する方法に関する。
【0002】
混合反応ガスからの水素の分離は、様々な用途のために最も関心が持たれている。それというのも、水素が発生させられるどの平衡反応も、水素を取り出すと生成物側にシフトさせることができるからである。それゆえ、先行技術からは、水素を分離することができる様々な方法が知られている。
【0003】
例えば、国際公開第2007/096297号(WO2007/096297A1)は、形成される水素を、還元可能な金属酸化物による酸化によって反応混合物から取り出す方法を記載している。しかしながら、この場合、還元可能な金属酸化物を、水素の分離能を保ち続けるために時々酸素で再生しなければならないという欠点が生じる。国際公開第2007/099028号(WO2007/099028A1)では、反応において形成される水素を、酸化剤、例えば空気、酸素、CO、CO、NO及び/又はNOと反応させることが提案されている。しかしながら、この場合、元の化学反応のために用いられる出発物質に依存して、不所望の副生成物が形成し得る。そのうえ、この種の水素分離(Wasserstoff-Abtrennung)の欠点は、水素を有価原料として直接回収できる見込みがないことである。
【0004】
代替案が、国際公開2007/025882号(WO2007/025882A1)に記載されており、これによれば、選択的に水素を透過させる膜によって分離が行われる。ここでは、水素が、H分子として、有利にはパラジウム及びパラジウム合金が用いられる膜を通って移動する。その際、拡散速度は、用いられる膜の両側間の水素分圧の差に依存する。したがって、より良好な分離を達成するためには、膜の両側間で十分に高い水素分圧差が発生させられなければならず、これは、しばしば高い温度及び/又は高い圧力でのみ可能である。しかしながら、これらの措置は、エネルギー収支に悪影響を及ぼす。そのほかに、特定の反応の熱力学的平衡の位置では、十分に高い水素分圧差を発生させることは可能でない。
【0005】
国際公開第2010/115786号(WO2010/115786A1)は、水素の電気化学的分離及び電力又は水素の生成により天然ガスを芳香族に変換する方法を開示している。その際、出発物質流の反応において形成される水素の一部が、一般的な膜/電極接合体によって分離される。膜/電極接合体は、選択的にプロトンを伝導する膜を有し、該膜の各側で少なくとも1つの電極触媒を有する。その際、水素の一部が、膜のアノード側で酸化されてプロトンが生じ、該プロトンは、膜を通り抜けた後にカソード側で、電圧の印加下で水素に還元されるか又は酸素と反応して電力を発生させながら水を生成する。
【0006】
水素分離の大規模工業的な用途のためには大きな膜面積が必要である。すなわち、中でも最後に挙げた先行技術によれば、白金族、例えば白金、ロジウム、ルテニウム又はパラジウムからの貴金属をしばしば含む電極触媒のために、多くの触媒活性材料が必要である。そのため、大きな膜は、必要される触媒活性材料の量に基づき非常に高価である。それゆえ、触媒活性材料の量を減らす需要が存在する。
【0007】
前述の先行技術を考慮に入れて、本発明の課題は、反応混合物からの効果が改善された水素の分離と、同時に触媒活性材料の節約を可能にする、膜/電極接合体を提供すること、及び水素を分離する方法を示すことである。
【0008】
この課題は、本発明の第1の態様では、
− アノード(7)を有する保持側(Retentat-Seite)(5)及びカソード(11)を有する透過側(Permeat-Seite)(9)を有する、選択的にプロトンを伝導する気密性の膜(3)と、
− アノード(7)とカソード(11)との間に電位差を発生させるための電圧源(13)と、
− 触媒活性材料を有する、保持側(5)のアノード触媒(15)と、
− 触媒活性材料を有する、透過側(9)のカソード触媒(17)と
を含む膜/電極接合体(1)によって解決され、ここで、カソード触媒(17)は、アノード触媒(15)より少量の触媒活性材料を有する。
【0009】
本発明の第二の態様では、前述の課題は、
a)水素を含有する混合生成物ガスが形成される化学反応を、請求項10に記載の反応器中で実施する工程と、
b)混合生成物ガスを、前で記載したような膜/電極接合体(1)の保持側(5)に供給する工程と、
c)混合生成物ガス中に含まれる水素の少なくとも一部を、前で記載したような膜/電極接合体(1)によって電気化学的に分離する工程と
を含む、水素を分離する方法によって解決され、ここで、膜(3)の保持側(5)にて、水素の少なくとも一部がアノード触媒(15)上で酸化されてプロトンが生じ、該プロトンが膜(3)を通り抜けた後、透過側(9)にて、カソード触媒(17)上で還元されて水素が生じる。
【0010】
本発明では、混合生成物ガスからの水素の電気化学的分離が用いられる。これは、従来の膜/電極接合体による分離及び水素を分離する方法と比較して明らかにより効果的である。したがって、膜面積が同じままでも、明らかに多くの水素を分離することができ、そのため、混合生成物ガス中に留まる水素はより少なくなる。これにより、前述の先行技術と比べて、熱力学的平衡が生成物側に明らかに大きくシフトすることになり、化学反応の経済性が明らかに改善される。加えて、本発明は、水素分離のための装置的な費用を軽減させる。そのうえまた、本発明による膜/電極接合体(1)は、先行技術に記載される膜/電極接合体と比べて明らかにより少ない量の触媒活性材料で適用され得る。
【0011】
本発明を、以下で詳しく説明する。
【0012】
本発明による膜/電極接合体(1)の下記の説明で方法の特徴が言及されている場合、これらは、特に、以下でより詳細に説明される本発明による方法に関する。他方で、本発明による方法の説明に際して、膜/電極接合体(1)の物理的特徴が示されている場合、これらは、特に、以下でより詳細に説明される膜/電極接合体(1)に関する。
【0013】
本発明は、本発明の第1の態様では、
− アノード(7)を有する保持側(5)及びカソード(11)を有する透過側(9)を有する、選択的にプロトンを伝導する気密性の膜(3)と、
− アノード(7)とカソード(11)との間に電位差を発生させるための電圧源(13)と、
− 触媒活性材料を有する、保持側(5)のアノード触媒(15)と、
− 触媒活性材料を有する、透過側(9)のカソード触媒(17)と
を含む膜/電極接合体(1)に関する。ここで、カソード触媒(17)は、アノード触媒(15)より少量の触媒活性材料を有する。
【0014】
本発明による膜/電極接合体(1)は、特に、水素の分離を目的としている。これは、両電極(7,11)間に配置されている、選択的にプロトンを伝導する気密性の膜(3)を本質的に含む。膜/電極接合体(1)の両側間で電気的電位差を発生させることにより、水素を、次式に従って、保持側(5)で酸化して選択的にプロトンを生成させることができる:
→2H+2e
【0015】
それから、プロトンは、電位差に基づき膜(3)を通して輸送されることができ、透過側(9)で、次式に従って水素に還元されることができる:
2H+2e→H
【0016】
本発明による膜/電極接合体(1)は、特に水素の電気化学的分離のために、多数の利点を提供する。まず、水素が、例えば先行技術のように水素の選択的酸化とは対照的に有価副生成物として得られる。加えて、本発明による膜(3)が選択的なプロトン伝導体であるという事実に基づき、水素が高い純度で(典型的には>99.9%)得られる。そのうえ、水素が膜(3)を通過する駆動力は、先行技術のように両側の分圧差ではなく、電極(7,11)間の電気的電位差である。したがって、水素は、低い方の分圧を有する領域から高い方の分圧を有する領域に圧送されることもでき、それにより、少量の水素さえ取り出すことができ又は圧縮水素を直接発生させることができる。混合生成物ガス及び水素の圧力は、非常に柔軟に管理することができ、膜/電極接合体(1)の機械的安定性によってのみ制限される。
【0017】
更なる利点は、本発明による膜(3)が、例えばパラジウムを含んだ膜の場合のように、水素によって脆化しないという事実である。最後に、水素の電気化学的分離は、本発明による高分子膜(3)の場合、10℃〜約200℃の非常に幅広い温度範囲で用いることが可能である。セラミックプロトン伝導体は、1000℃までの温度範囲を可能にする。
【0018】
本発明による膜/電極接合体1の厚さは、250μm〜2100μm、有利には600μm〜1500μmである。
【0019】
本発明による膜/電極接合体(1)は、特に95%を超える高い水素分離率(Wasserstoff-Abtrennrate)に関して、非常に良好な電気膜の要求を満たし、経時的な性能の著しい低下を示さない。そのうえ、本発明による膜は、プロトンを十分に伝導させることができ、無視できるほど小さい電子伝導性を示し、気密性であり、機械的に安定であり、そのうえ、混合生成物ガスに対して安定性である。
【0020】
「気密性の」膜とは、ガスが原子又は分子の形態で膜の一方の側から膜の他方の側に達することができる孔を実質的に有さない膜を意味する。そのうえ、「気密性の」とは、ガスが、例えば、吸収、膜への溶解、拡散及び脱着によって膜を通って非選択的に輸送されないことを意味する。加えて、「選択的にプロトンを伝導する」との特性は、膜が特に電子伝導性ではないことを意味する。
【0021】
膜(3)は、好ましくは、プレート又はチューブとして構成されており、その際、ガス混合物を分離するために先行技術から知られている慣用の膜配置を使用することができる。本発明によれば、膜(3)には、当業者に知られており、本発明の意味において気密性で選択的にプロトンを伝導する膜(3)を形成することができる任意の材料を用いることができる。これらには、例えば、J.W.Phair及びS.P.Badwal in Ionics(2006)12,第103頁〜第115頁に挙げられている材料(特にポリベンズイミダゾール)が属する。燃料電池技術から知られている選択的にプロトンを伝導する膜も、本発明により使用することができる。
【0022】
特に、本発明の意味における気密性で選択的にプロトンを伝導する膜(3)の製造のために高分子膜が適しており、そのための適したポリマーとして、スルホン化ポリエーテルエーテルケトン(S−PEEK)、スルホン化ポリベンゾイミダゾール(S−PBI)及びスルホン化フルオロ炭化水素ポリマー(NAFION(登録商標))並びに同様に過フッ素化ポリスルホン酸、スチレン系ポリマー、ポリ(アリーレンエーテル)、ポリイミド及びポリホスファゼンを用いることができる。特に、リン酸でドープ又は含浸されているポリベンズイミダゾールをベースとするポリベンズイミダゾール膜を用いることもできる。
【0023】
「保持側」との用語は、水素を含有する生成物流が通り過ぎる膜/電極接合体(1)側を指す。それに対して、「透過側」との用語は、ガス状の水素が排出される膜/電極接合体(1)側を指す。
【0024】
「アノード触媒(15)」は、本発明の意味においては、保持側(5)の電極触媒を指すのに対して、「カソード触媒(17)」は、透過側(9)の電極触媒である。
【0025】
「触媒活性材料」として、当業者に知られており、分子状水素の原子状水素への解離、水素の酸化によるプロトン生成及びプロトンの還元による水素生成を触媒することができる慣用の化合物及び元素を使用することができる。適しているのは、例えば、Pd、Pt、Cu、Ni、Ru、Fe、Co、Cr、Mn、V、W、炭化タングステン、Mo、炭化モリブデン、Zr、Rh、Ru、Ag、Ir、Au、Re、Y、Nb並びにそれらの合金及び混合物であり、本発明によればPtが有利である。触媒活性材料は、担持されて存在してもよく、その際、有利には、炭素が担体として用いられる。
【0026】
膜/電極接合体(1)の発展形態では、カソード触媒(17)の触媒活性材料の量は、カソード(11)の全面積に対して、0.001mg/cm〜1.00mg/cm、有利には0.05mg/cm〜0.70mg/cmである。
【0027】
0.001mg/cmより少ない量では、満足のいく触媒活性はもはや保証されないが、1.00mg/cmより多い量では、触媒活性の更なる改善はもはや得られない。1.00mg/cmより多い単位面積当たりの高負荷量は、特に、比負荷が低い触媒(担持触媒)の場合、触媒層が厚くなり、このことがまた、性能全体に悪影響を及ぼす。薄い触媒層は、一般的に、物質移動特性に関する利点を有する。
【0028】
アノード触媒(15)及びカソード触媒(17)上に触媒活性材料を対称的に分布させ、同時に量を減らした場合、所望されかつ必要とされる水素分離率は得られないことが判明した。しかしながら、驚くべきことに、本発明の1つの実施形態では、触媒活性材料の非対称的な分布が、カソード触媒(17)の触媒活性材の量と、アノード触媒(15)の触媒活性材料の量との比が、1:100〜1:1.25、特に1:1.5〜5.0、有利には1:1.75〜3.0である場合に好ましい効果を生み出すことを見出した。したがって、用いられる触媒の全量が減らされ、その際、同時にアノード側で、上述のより高い負荷によって、保持側(5)の不純物に対する実質的な耐性が達成される。このようにして、長期可使時間を達成することができる。特に、カソード触媒(17)の触媒活性材料の量が明らかに減少するにもかかわらず、95%超の高い水素分離率を実現することができる。
【0029】
アノード触媒(15)及びカソード触媒(17)上での触媒活性材料の非対称的な分布の場合、保持側(5)(アノード側)でより多くの量の触媒活性材料が意図される。先行技術からは、生成物ガス中に含まれる不純物に基づき、最小量の触媒活性材料が電極触媒に存在していなければならないことが知られている。これに対して、驚くべきことに、本発明においては、水素分離率に悪影響を及ぼすことなく、透過側(9)(カソード側)に少量の触媒活性材料があるだけで十分であることがわかった。そのため、本発明は、基本的には、水素で動作させられ、かつカソード側でより高い負荷を有する非対称的な触媒負荷が先行技術である燃料電池とは異なる。
【0030】
水素の効果的な分離を達成するために、アノード触媒(15)及び/又はカソード触媒(17)が白金を触媒活性材料として有している場合に特に有利である。それに対して、文献からは、合金触媒及び卑金属触媒が、水素酸化(アノード)及び水素発生(カソード)用に知られているが、これらは白金と比べて長期安定性に関して不利である。記載した原理は、原則的に他の触媒にも適用することが可能である。
【0031】
本発明の更なる実施形態では、保持側(5)及び/又は透過側(9)は、それぞれ、触媒活性材料を含む膜/電極接合体(1)の活性面積を有する。膜/電極接合体(1)の活性面積は、5cm2〜20,000cm2、有利には25cm2〜10,000cm2である。本発明による膜/電極接合体(1)を大規模工業的に用いることを意図した場合、5cm、有利には25cmより小さい活性面積だと経済的に適していない。サイズが大きくなるにつれて欠陥率が上昇することから、10,000cm超、有利には6,000cm超の面積だと工業的な実施にもはや適していない。
【0032】
「活性面積」は、本発明の意味においては、水素の酸化/還元のために実際に利用可能な膜/電極接合体(1)の面積を指す。実際面では、これは、電極触媒(15,17)の幾何学的面積の全体は利用可能でないことを意味する。なぜなら、これらの面積は、少なくとも周辺部においてホルダー及び相応のシーリング材料を有するフレームによって覆われ、そのため縮められているからである。
【0033】
膜/電極接合体(1)の発展形態では、
− アノード(7)が、膜(3)に隣接するガス拡散層(19)及び該層に塗布されたマイクロポーラス層(21)を有するガス拡散電極であり、該マイクロポーラス層(21)上にはアノード触媒(15)が塗布されており
及び/又は
− カソード(11)が、膜(3)に隣接するガス拡散層(23)及び該層に塗布されたマイクロポーラス層(25)を有するガス拡散電極であり、該マイクロポーラス層(25)上にはカソード触媒(17)が塗布されている。
【0034】
前ですでに記載したとおり、本発明による膜(3)自体は気密性に構成されているので、保持側(5)に存在する水素と膜(3)が良好に接触するのと、分離された水素が透過側(9)に良好に運び去られることに、ガス拡散電極(7,11)がガス透過性である場合に有利である。このために、ガス拡散層(19,23)及びマイクロポーラス層(21,25)が設けられる。その際、形式的に、マイクロポーラス層(21,25)の材料は、電極材料とみなすことができ、ガス拡散層(19,23)は、担体とみなすことができる。しかし、マイクロポーラス層(21,25)及びガス拡散層(19,23)の材料は、導電性であるので、これらは、実際には一緒になって電極(7,11)を形成する。
【0035】
「ガス拡散電極」は、本発明の意味においては、ガス拡散層(19,23)、マイクロポーラス層(21,25)及び電極触媒(15,17)の全体を指す。
【0036】
「ガス拡散層」は、本発明の意味においては、ガス状態の水素が膜(3)に拡散することを可能にする多孔質層である。本発明によれば、ガス拡散層(19,23)は、0.5μm〜50μmの孔径及び100μmから500μmの厚さを有する。
【0037】
そのうえ、「マイクロポーラス層」は、本発明の意味においては、250nm〜15μmの孔径及び5μmから150μmの厚さを有する層である。
【0038】
ガス拡散層(19,23)が、導電性及び開気孔性の材料から、特に、不織布、織物、紙、フェルト、発泡体、層状物又は編物から構成されている場合に有利である。特に、ガス拡散層(19,23)は、細かいチャネル系又は層系からなる格子状の表面構造を有するプレートであってよい。これにより、分離されるべき水素が、保持側(5)で膜に近付けられ、そして形成された水素が透過側(9)に運び去られ易くなる。
【0039】
特に、ガス拡散層(19,23)及び/又はマイクロポーラス層(21,25)は、良好な電子伝導性及び炭素安定性(すなわち、化学的安定性と印加電位下での安定性の両方)を有する。
【0040】
第2の態様では、本発明は、水素を含有する混合生成物ガスが形成される化学反応を実施するための少なくとも1つの装置と、前で記載したような少なくとも1つの膜/電極接合体(1)とを含む装置に関する。ここで、膜/電極接合体(1)は、混合生成物ガスの少なくとも一部が該装置から膜/電極接合体(1)の保持側(5)に送り込まれ得るように該装置と接続されている。
【0041】
特定の実施形態では、反応器は、炭化水素を脱水素芳香族化するためのプラントである。さらに、膜/電極接合体(1)は、膜がセラミックプロトン伝導体を含む場合、反応器上又は該反応器中に直接配置していてよい。これにより、平衡をその場でシフトさせることができ、ガス流を初めから冷却する必要がなくなる。
【0042】
本発明の第3の態様は、以下
a)水素を含有する混合生成物ガスが形成される化学反応を、請求項10に記載の反応器中で実施する工程と、
b)混合生成物ガスを、前で記載したような膜/電極接合体(1)の保持側(5)に供給する工程と、
c)混合生成物ガス中に含まれる水素の少なくとも一部を、前で記載したような膜/電極接合体(1)によって電気化学的に分離する工程と
を含む、水素を分離する方法に関する。
【0043】
ここで、膜(3)の保持側(5)にて、水素の少なくとも一部がアノード触媒(15)上で酸化されてプロトンが生じ、該プロトンが膜(3)を通り抜けた後、透過側(9)にて、カソード触媒(17)上で還元されて水素が生じる。
【0044】
先行技術からの上記のいくつかの方法と比べて、本発明による方法は、化学反応又は合成の複雑で費用のかかる中断が不必要となり、かつ合成をより長期間にわたって連続的に操作できるという利点を有する。加えて、本発明による方法は、ガス状の酸化剤、例えば空気、酸素、CO、CO、NO又はNOを用いる公知の方法と比較して、酸化剤の添加によって形成される副生成物の装置的に複雑で費用のかかる分離なしに適用され得る。酸素又は空気が酸化剤として用いられる場合、例えば、水が形成され、この存在が特定の反応に悪影響を及ぼし得る。
【0045】
本発明による方法は、水素選択性膜によって水素がH分子として分離される公知の方法に比べて特に有利である。この特別な利点は、混合生成物ガスから形成された水素を電気化学的に分離することにある。本発明による電気化学的な水素分離の動力は、膜(3)の両側間の電位差である。分離は、通常使用される水素選択性膜の場合のように、膜(3)の両側間の水素分圧の差に依存しないことから、水素分離は、はるかに低い分圧及び分圧差で実施することができ、その際、好ましくは、外部から加えられる圧力差を完全になくすことができる。特に、保持側(5)及び透過側(9)では、ほぼ同じ圧力が占める。それにより、膜(3)の機械的応力が明らかに低下することから、とりわけ、膜の長期安定性が高まり、並びに膜(3)のために考慮の対象になる材料の選択の幅も広がる。そのうえまた、耐圧性の膜が用いられる場合、圧縮水素を発生させることも可能である。
【0046】
水素の電気化学的な分離は、従来の水素選択性膜による分離と比較して明らかにより効果的である。それゆえ、同じ分離能でも、必要な膜面積を小さくすることができるか、又は膜面積が同じままでも、明らかにより多くの水素を分離することができる。それゆえ、総じて本発明による方法は、装置的により少ない費用を伴う。
【0047】
水素のより効果的な分離によって、反応混合物中に留まる水素の割合は、従来の方法と比較して明らかにより低い。このようにして、先行技術に記載された方法と比べて、熱力学的平衡が所望の生成物側に明らかに大きくシフトすることになり、化学プロセスの経済性が明らかに改善される。そのうえまた、記載した方法により、電力量を測定することによって、更なる分析方法なしに所定の除去率(Abreicherungsgrade)を達成することも可能である。
【0048】
そのうえ、本発明による方法は、最後に挙げた先行技術と比べて、同じ水素分離率を実現するのに触媒活性材料の量がずっと少なくても足りるという利点を有する。
【0049】
「混合生成物ガス」との用語は、本発明の意味においては、工程a)で化学反応を実施したときに形成され、通常は所望の反応生成物及び水素を含有する混合物を指す。そのほかに、混合生成物ガスは、未反応の出発物質及び微量の他のガスを含有していてよい。
【0050】
工程c)で実施される、前で記載した膜/電極接合体(1)による電気化学的な分離においては、分離されるべき水素は、プロトンの形態で膜(3)を通して輸送される。膜(3)を通してのプロトンのこの輸送のために、好ましくは、膜/電極接合体(1)の電極(7,11)に直流電圧を印加することによって供給される電気エネルギーが用いられる。
【0051】
本発明による方法の発展形態では、工程a)での化学反応は、C〜C−アルカンの脱水素芳香族化である。この反応では、非常に多くの水素が副生成物として生じるため、この場合、本発明は、特に有効である。分離された水素は、不純物を実質的に含まない。ガス混合物中で生じる水素は、低い分圧を有するので、Hを分子として選択的に分離する膜を用いることは適切ではない。
【0052】
1つの実施形態では、混合生成物ガスから、該混合生成物ガス中に含まれる水素の少なくとも30%、有利には少なくとも50%、とりわけ有利には少なくとも70%、極めて有利には少なくとも95%、特に有利には少なくとも98%が分離される。混合生成物ガスから多くの水素が分離されればされるほど、化学反応の平衡が生成物側に大きくシフトすることになり、それによって、生成物の収率が上昇する。保持側(5)のガスが反応器中に返送される場合、このガス流は、水素をより効率的に分離することによって減少する。
【0053】
好ましくは、水素の分離は、20℃〜200℃、有利には50℃〜180℃、特に有利には60℃〜165℃の温度で実施される。そのため、本発明による方法の運用は、本発明による膜/電極接合体(1)用に考えられている。加えて、明らかにより低い温度によって、省エネ効果を達成することができる。特定の発展形態では、C〜C−アルカンの脱水素芳香族化ひいては水素の分離は、140℃〜165℃の温度で実施される。
【0054】
水素の分離のために好ましいと判明したのは、該水素の分離が、0.05mV〜2000mV、有利には50mV〜1000mV、とりわけ有利には100mV〜600mVの電圧で実施される場合である。C〜C−アルカンの有利な脱水素芳香族化においては、電圧は、特に100mV〜400mVである。
【0055】
本発明による方法に従った水素の分離は、好ましくは、0.5バール〜40バール、有利には1バール〜6バール、とりわけ有利には1バール〜4バール、特に3バール〜4バールの圧力で行われる。本発明の有利な実施形態によれば、膜(3)の保持側(5)と透過側(9)との間の圧力差は、1バール未満、有利には0.5バール未満であり、とりわけ有利には、圧力差はほぼない。
【0056】
透過側(9)で得られる水素は、最大5モル%、有利には最大2モル%、とりわけ有利には最大1モル%のガス状の不純物を含有する。そのうえまた、水素は、使用される選択的プロトン伝導性膜に応じて、30モル%まで、有利には15モル%まで、とりわけ有利には10モル%までの水を含有してよい。水の存在は、いくつかの膜タイプの場合に、例えば、特定のポリマー膜の場合に、ポリマー膜を加湿するために所望されている。透過側(9)と保持側(5)の両方から加湿することが可能である。
【0057】
分離された水素は、その後の使用前に乾燥してよい。これは、特に、加湿されなければならない特定の種類のポリマー膜によって分離が行われている場合に実施してよい。同様に、保持側のガス流は、それが反応に再び供給される場合に乾燥してよい。
【0058】
更なる目的、特徴、利点及び使用可能性は、図面に基づく本発明の実施例の以下の説明から導き出すことができる。ここで、記載されている及び/又は図示されているすべての特徴は、それ自体で又は任意の組み合わせにおいて、請求項又はそれらの引用請求項の形で本発明を要約したものとも無関係に、本発明の対象をなす。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1】水素分離のプロセスを明確に示すために膜/電極接合体1を概略的に示す図
図2a】本発明の1つの実施形態による膜/電極接合体1の断面図を概略的に示す図
図2b】本発明の別の実施形態による膜/電極接合体1の断面図を概略的に示す図
図3】実施例1からの本発明の第1の実施形態による膜/電極接合体1の経時的な水素分離率を示すためのグラフを示す図
図4】実施例3からの本発明の第1の実施形態による膜/電極接合体1の経時的な水素分離率を示すためのグラフを示す図
図5】実施例4からの本発明の第2の実施形態による膜/電極接合体1の経時的な水素の分離率を示すためのグラフを示す図
【0060】
図1には、電気膜の基本概念を示している。膜電極接合体1のアノード側(保持側5)に、本実施例では、メタン(CH)、水素(H)及び不純物(X)を含有する混合生成物ガスを供給する。アノード7では、混合生成物ガス中に含まれる水素Hが酸化されてプロトンHを生じ、電圧源13によりアノード7とカソード11との間に電位差を印加することによってプロトン伝導性膜3を通り抜ける。カソード側(透過側9)では、プロトンは、電子が与えられることで再びガス状態の水素に還元される。
【0061】
図2aは、有利な実施形態における本発明による膜/電極接合体1の構造を概略的に示す。中心部は、この実施形態では、リン酸でドープされたポリベンズイミダゾールからなる膜3を形成する。膜3は、純プロトン伝導性で気密性である。膜3の両側には、ガス拡散電極7,11が配置されている。本実施形態では、ガス拡散電極7,11は、対称構造を有している。
【0062】
図2bは、非対称構造を有する別の有利な実施形態における本発明による膜/電極接合体1の構造を概略的に示す。
【0063】
ガス拡散電極を形成するために、まず、ガス拡散層19,23として、導電性及びガス透過性の織り炭素繊維織物を使用する。これを、本発明において炭素(例えば工業用カーボンブラック)からなるマイクロポーラス層21,25でコーティングする。触媒15,17(場合により担持された触媒、例えば炭素担体上触媒)をマイクロポーラス層に塗布する。このために、例えば、白金で負荷された炭素粒子(触媒)、水、分散剤(例えばNafion(登録商標)又はEFKA(登録商標))及び増粘剤(例えばキサンタン)からインクを製造し、次いで、これをプリントする。このガス拡散電極7,11を、膜3と接合し、その際、触媒コーティングされた側は、膜と直接接触している。
【0064】
非対称膜(図2b)が対称膜(図2a)と異なる点は、アノード7と比較してカソード11に設けられている触媒の量がより少ないことである。
【0065】
実施例
第1の実施形態
本発明による膜/電極接合体1を用いるための第1の適用例は、有利には脱水素芳香族化により、天然ガスからベンゼン(及びナフタレン)を製造するための新規かつ費用効果の高い経路である。下記式
6CH→C+9H
によるこの吸熱反応は、熱力学的平衡によって制限される、700℃〜800℃での変換率が20%未満の反応である。したがって、効率を上げるために、反応しなかったメタンを再循環し、生成された水素(ベンゼン1モル当たり常に9モル)を予め取り出さなければならない。
【0066】
膜/電極接合体1の構造
膜電極接合体1は、リン酸でドープされたポリベンズイミダゾール膜3を有しており、これは、BASF SEから「Celtec P(登録商標)」の製品名で市販されている。膜3の両側には、炭素/白金からなるガス拡散電極7,11を配置していた。膜3の活性面積は、具体例では25cmであった。
【0067】
本発明により使用されるCeltec P(登録商標)膜3は、高温(120℃〜180℃)でプロトンを伝導し、かつ混合生成物ガス中のCO又は硫黄などの不純物に対する高い耐性を有するゲル型膜である。
【0068】
ガス拡散電極7,11は、導電性の炭素繊維織物から構成されていた;ガス拡散層19,23は、工業用カーボンブラック(英語で「carbon black」)からなるマイクロポーラス層21,25で覆われていた。触媒15,17として、約10%から約30%のPt(白金と炭素からなる触媒の全質量に基づく)の負荷量を有する炭素(Vulcan XC72)担持白金を使用した。ガス拡散電極7,11の白金の量は、後続の表から読み取ることができる。
【0069】
一般的な試験条件
ベンゼン製造のための本膜/電極接合体1の特定の使用に基づいて、試験ガス混合物(すなわち、アノードに供給されるガス)は、88.1%のCH及び11.4%のH並びに微量の不純物(5000ppmのC、100ppmのC及び50ppmのC)を含有していた。実験の間、カソード11を、そのつどNでフラッシングした。アノードガス流とカソードガス流の両方についての典型的な流速は、500ml/分であった。電位差として、150mVを印加した。膜/電極接合体1を加湿した(カソード側で水2g/h)。試験温度は160℃であった。この特別な膜/電極接合体1について、アノード側及びカソード側で3バールのゲージ圧を設定した。
【0070】
測定データ及び分析
実験の間、アノード7及びカソード11における電流(I)、電圧(V)、時間(t)、セル温度(T)、ゲージ圧(pAn,pKath)並びにアノード7の出口におけるガスの組成を、ガスクロマトグラフィーによって測定した。このようにして出されたデータから出発して、水素分離率を2つの異なる方法で計算することができる。一方では、測定された電流は、ファラデーの法則に従って、膜3を通って輸送されるプロトンに相当する。膜3を通って輸送される水素の、アノード7における既知の水素量に対する比は、電流ベースの水素分離の値に基づく。他方では、アノード7での既知の水素含有量とカソード11側で測定された水素含有量により、ガスクロマトグラフィーベースの水素分離として測定することができる。電流ベース及びガスクロマトグラフィーベースの分離率は、有意な差異を示さないので、図2及び図4には、ガスクロマトグラフィーベースの分離率のみを示している。
【0071】
実施例1(本発明による)
全体の白金負荷量は、0.50mg/cmであり、ここで、0.34mg/cmのPtがアノード側に存在し、カソード側には0.16mg/cmのみのPtが存在していた(非対称構造)。使用した触媒は、約30%のPtで負荷されていた。それぞれ1mg/cmのPtを有する対称セル(先行技術)と比較して、Ptの量は75%減少する。このセルにより、97%〜98%の水素を「一般的な試験条件」に記載した実験条件下でガス混合物から分離することができた。図3は、実施例1及び比較例1の水素分離率を示す。
【0072】
実施例2(本発明による)
全体の白金負荷量は、1.26mg/cmであり、ここで、0.79mg/cmのPtがアノード側に存在し、カソード側には0.47mg/cmのみのPtが存在していた(非対称構造)。使用した触媒は、約15%のPtで負荷されていた。それぞれ1mg/cmのPtを有する対称セル(先行技術)と比較して、Ptの量は37%減少する。このセルにより、99%超の水素を「一般的な試験条件」に記載した実験条件下でガス混合物から分離することができた。
【0073】
実施例3(本発明による)
全体の白金負荷量は、0.30mg/cmであり、ここで、0.20mg/cmのPtがアノード側に存在し、カソード側には0.10mg/cmのみのPtが存在していた(非対称構造)。使用した触媒は、約10%のPtで負荷されていた。それぞれ1mg/cmのPtを有する対称セル(先行技術)と比較して、Ptの量は85%減少する。このセルにより、99%超の水素を「一般的な試験条件」に記載した実験条件下でガス混合物から分離することができた。
【0074】
比較例1(本発明によらない)
全体の白金負荷量は、0.49mg/cmであり、この負荷量は、実施例1のものとほぼ同一である。実施例1と同じように、約30%で負荷されたPt触媒を使用した。実施例1とは異なり、この比較例では、アノードに0.24mg/cmのPt及びカソードに0.25mg/cmのPtを有する対称セルを試験した(対称構造)。このセルにより、93%〜96%の水素を「一般的な試験条件」に記載した実験条件下でガス混合物から分離することができ、すなわち、実施例1(97%〜98%)より明らかに低い。図3は、実施例1及び比較例1からの水素分離率を示す。
【0075】
比較例2(本発明によらない)
全体の白金負荷量は、1.26mg/cmであり、この負荷量は、実施例2のものとほぼ同一である。実施例2と同じように、約15%で負荷されたPt触媒を使用した。実施例2とは異なり、この比較例では、アノードに0.64mg/cmのPt及びカソードに0.62mg/cmのPtを有する対称セルを試験した(対称構造)。このセルにより、96%未満の水素を「一般的な試験条件」に記載した実験条件下でガス混合物から分離することができ、すなわち、実施例2(99%超)より明らかに低い。
【0076】
比較例3(本発明によらない)
全体の白金負荷量は、0.36mg/cmであり、この負荷量は、実施例3のものより高い(+0.06mg/cmPt)。実施例3と同じように、10%のPt負荷率を有する炭素担持Pt粒子触媒を使用した。実施例3とは異なり、この比較例では、アノードに0.18mg/cmのPt及びカソードに0.18mg/cmのPtを有する対称セルを試験した(対称構造)。このセルにより、98.5%未満の水素を「一般的な試験条件」に記載した実験条件下でガス混合物から分離することができ、すなわち、白金がより少ない非対称構造の実施例3(99%超)より明らかに低い。
【0077】
以下の表1は、実施例1〜3及び比較例1〜3のアノード7側及びカソード11側の触媒活性材料の量の影響について示す。Ptが同じ量の場合、対称セルを用いる場合よりも非対称セルを用いた場合に、より高い水素分離率を達成することができる。表1はまた、アノード7側よりもカソード11側で触媒活性材料がより少量で存在する場合に、明らかなコスト削減が達成され得ることを示している。表1から読み取れるように、85%までの白金含有量の低下を実現することができ、同時に、水素分離率は95%超のままである。
【0078】
【表1】
2mg/cmのPtを有する(各側でそれぞれ1mg/cmのPt)対称セルとの比較
【0079】
評価
図3は、実施例1(実線)及び比較例1(破線)による膜/電極接合体1の500時間の運転にわたる水素分離についてのグラフを示す。実施例1による非対称型の膜/電極接合体1は、500時間の運転にわたって97%超〜98%の水素分離率により良好な性能を示した。同様に、比較例3による対称型の膜/電極接合体1の水素分離率の推移を、同じ実験条件下で、同じ触媒(約30%のPt負荷率)及び同等のPt全量(約0.5mg/cmのPt)を用いて500時間の運転にわたって示している。この場合、水素分離率は、93%〜96%で明らかにより低い。
【0080】
実施例1は、微量の他の炭化水素(例えば、エタン、ベンゼン)が、膜3を損なわず、又は電極7,11を不活性化させないことを示す。
【0081】
図4は、実施例3(実線)及び比較例3(破線)による膜/電極接合体1の20時間の運転にわたる水素分離についてのグラフを示す。実施例3による非対称型の膜/電極接合体1は、99%超の水素分離率により良好な性能を示した。同様に、比較例3による対称型の膜/電極接合体1の水素分離率の推移を、同じ実験条件下で示している。この場合、水素分離率は、約98%で明らかにより低い。
【0082】
結果からさらに読み取ることができるように、白金触媒15,17の劣化は、500時間の運転にわたって非対称構造については示されなかったが、対称構造については、水素分離率の明らかな減少が、終わりに近づくにつれ観察された。特に、分離率は、所望される95%を下回った。
【0083】
第2の実施形態
本発明による膜/電極接合体1を用いるための第2の適用例は、CO、H及び微量の不純物(CH、C、C、C)を含有するガス混合物からHを分離することである。
【0084】
膜/電極接合体1の構造
膜/電極接合体1の構造は、前述の第1の実施形態で説明した構造(実施例1〜3)と同じである。ガス拡散電極7,11上の白金の量は、以下の表2から読み取ることができる。
【0085】
一般的な試験条件(実施例4)
試験ガス混合物(すなわち、アノード7に供給されるガス)は、5%のCO中のH並びに次の微量の不純物:881ppmのCH、5ppmのC、0.05ppmのC及び0.1ppmのCを含有していた。実験の間、カソード11を、Nでフラッシングした。アノードガス流とカソードガス流の両方についての典型的な流速は、500ml/分であった。電位差として、150mVを印加した。膜/電極接合体1を加湿した(アノード側で水1g/h)。試験温度は160℃であった。この特別な膜/電極接合体1について、アノード側及びカソード側で3バールのゲージ圧を設定した。
【0086】
測定データ及び分析
測定データ及び分析は、前述の第1の実施形態で挙げた測定データ及び分析と同じである(実施例1〜3)。
【0087】
実施例4(本発明による)
全体の白金負荷量は、0.68mg/cmであり、ここで、0.43mg/cmのPtがアノード側に存在し、カソード側には0.25mg/cmのPtのみが存在していた(非対称構造)。使用した触媒は、約16%のPtで負荷されていた。それぞれ1mg/cmのPtを有する対称セル(先行技術)と比較して、Ptの量は66%減少する。このセルにより、約95%の水素を「一般的な試験条件(実施例4)」に記載した実験条件下でガス混合物から分離することができた。図5は、実施例4及び比較例4からの水素分離率を示す。
【0088】
比較例4(本発明によらない)
全体の白金負荷量は、0.58mg/cmであり、この負荷量は、実施例4のものと同等である。実施例4と同じように、約16%で負荷されたPt触媒を使用した。実施例4とは異なり、この比較例では、アノードに0.29mg/cmのPt及びカソードに0.29mg/cmのPtを有する対称セルを試験した(対称構造)。このセルにより、約93%の水素を「一般的な試験条件(実施例4)」に記載した実験条件下でガス混合物から分離することができ、すなわち、実施例4(95%)より明らかに低い。図5は、実施例4及び比較例4からの水素分離率を示す。
【0089】
以下の表2は、実施例4及び比較例4のアノード7側及びカソード11側の触媒活性材料の量の影響について示す。Ptが同等量の場合、対称セルを用いる場合よりも非対称セルを用いた場合に、より高い水素分離率を達成することができる。表2はまた、アノード7側よりもカソード11側で触媒活性材料がより少量で存在する場合に、明らかなコスト削減が達成され得ることを示している。
【0090】
【表2】
2mg/cmのPtを有する(各側でそれぞれ1mg/cmのPt)対称セルとの比較
【0091】
評価
図5は、実施例4(実線)及び比較例4(破線)による膜/電極接合体1の約6時間の運転にわたる短時間試験における水素分離についてのグラフを示す。
【0092】
実施例4による非対称型の膜/電極接合体1は、比較例4による対称型の膜/電極接合体1(約93%)より明らかに高い水素分離率(約95%)を、同じ実験条件下で、同じ触媒(約16%のPt負荷率)及び同等のPt全量で示していた。
【0093】
実施例1〜3とともに、実施例4は、非対称型の膜/電極接合体1により、H及び不純物を含有する異なるガス混合物において、同等の又は同一のPt全量を有する対称型の膜/電極接合体より良好な水素分離率を得ることができることを示す。そのほかに、実施例は、非対称型の膜/電極接合体1が、加湿側(実施例1〜3におけるカソード側11、実施例4におけるアノード側7)とは無関係に、同等の又は同一のPt全量を有する対称型の膜/電極接合体1と比較してH分離率に関して有利であることを示す。
【符号の説明】
【0094】
1 膜/電極接合体、 3 プロトン伝導性膜、 5 保持側、 7 アノード、 9 透過側、 11 カソード、 13 電圧源、 15 アノード触媒、 17 カソード触媒、 19 ガス拡散層、 21 マイクロポーラス層、 23 ガス拡散層、 25 マイクロポーラス層
図1
図2a
図2b
図3
図4
図5