(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ハードコート層が設けられた保護層(以下、「HC層付きフィルム」ということがある。)は、その製造時や市場流通時(偏光層に貼合される前)にハードコート層(以下、「HC層」ということがある。)に傷がつくこと等を抑制するために、HC層付きフィルムのHC層側が保護フィルムで覆われた積層フィルムとされることがある。また、HC層付きフィルムは、偏光板を得るために偏光層表面に貼合して用いられることがあるが、偏光層とHC層付きフィルムとの貼合は、それぞれの長尺物を用いて連続的に行われることが通常である。そのため、上記した積層フィルムも長尺物として得られ、この長尺の積層フィルムがロール状に巻取られた積層フィルム巻回体とされて市場流通や保管等がなされる。
【0005】
そして、偏光層とHC層付きフィルムとの貼合時には、積層フィルム巻回体を巻出して得られた積層フィルムから保護フィルムを剥離した後、HC層付きフィルムを偏光層に貼合して、HC層付きフィルムを有する偏光板を得る。このようにして得られた偏光板では、そのHC層付きフィルム側の表面にスジが視認される場合があることを本発明者らは見出した。
【0006】
本発明は、ハードコートフィルムが設けられた偏光板等のハードコートフィルム付き積層体の表面におけるスジの発生を抑制することができる積層フィルム巻回体、ハードコートフィルム付き積層体、及び偏光板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下に示す積層フィルム巻回体及び偏光板を提供する。
〔1〕 積層フィルムがロール状に巻取られた積層フィルム巻回体であって、
前記積層フィルムは、基材層及びハードコート層を有するハードコートフィルムと、保護フィルムとを有し、
前記保護フィルムは、少なくとも樹脂フィルムを有し、
前記積層フィルムから剥離された前記保護フィルムは、その巻回方向における温度23℃、相対湿度55%での引張弾性率をE[MPa]とし、前記樹脂フィルムの厚みをt[mm]とするとき、下記式(I):
3.0≦E×t≦500 (I)
の関係を満たす、積層フィルム巻回体。
【0008】
〔2〕 前記積層フィルムから剥離された前記ハードコートフィルムの巻回軸方向の膜厚分布の標準偏差は、0.25μm以上である、〔1〕に記載の積層フィルム巻回体。
【0009】
〔3〕 前記ハードコートフィルムの厚みは、30μm以下であり、
前記ハードコートフィルムの巻回方向における温度23℃、相対湿度55%での引張弾性率は、3000MPa以下である、〔1〕又は〔2〕に記載の積層フィルム巻回体。
【0010】
〔4〕 前記積層フィルムから剥離された前記ハードコートフィルムの鉛筆硬度は、H未満である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の積層フィルム巻回体。
【0011】
〔5〕 前記引張弾性率Eは、50MPa以上5000MPa以下である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の積層フィルム巻回体。
【0012】
〔6〕 前記厚みtは、0.010mm以上0.200mm以下である、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の積層フィルム巻回体。
【0013】
〔7〕 前記保護フィルムは、前記ハードコートフィルムの前記ハードコート層側に設けられる、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の積層フィルム巻回体。
【0014】
〔8〕 〔1〕〜〔7〕に記載の積層フィルムから剥離されたハードコートフィルムと被着体とを有するハードコートフィルム付き積層体。
【0015】
〔9〕 〔1〕〜〔7〕に記載の積層フィルムから剥離されたハードコートフィルムと偏光層とを有する偏光板。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、スジの発生が抑制された偏光板等のハードコートフィルム付き積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(積層フィルム巻回体)
本実施形態の積層フィルム巻回体は、積層フィルムがロール状に巻取られた積層フィルム巻回体である。積層フィルムはハードコートフィルム(以下、「HCフィルム」ということがある。)と保護フィルムとを有する。HCフィルムは、基材層及びハードコート層(以下、「HC層」ということがある。)を有する。HCフィルムは、例えば偏光層の表面を保護するための保護層として用いることができ、後述するように例えば偏光層に積層されて偏光板を構成することができる。保護フィルムは、HCフィルムのHC層表面を保護するための保護層として用いたり、HCフィルムを巻回体とする場合等にHC層と基材層との間にブロッキングが生じることを抑制するために用いたりすることができる。HC層表面を保護するために保護フィルムを用いる場合には、保護フィルムはHCフィルムのHC層側に設けることができる。また、HC層と基材層との間にブロッキングが生じることを抑制するために用いる場合には、保護フィルムはHCフィルムの基材層側に設けることができる。保護フィルムは、通常HCフィルムの片面に設けられるが、HCフィルムの両面に設けられてもよい。
【0018】
保護フィルムは、少なくとも樹脂フィルムを有する。例えば、保護フィルムが自己粘着性を有する場合、保護フィルムは樹脂フィルムのみで構成することができる。本明細書において自己粘着性とは、粘着剤層等の付着のための手段を設けることなくそれ自身で付着し、かつ、その付着状態を維持することが可能な性質をいう。自己粘着性を有する保護フィルムは、粘着剤層を有する保護フィルムに比較すると全体の厚みを小さくすることができる。保護フィルムは、例えば樹脂フィルムが自己粘着性を有していない場合等には、樹脂フィルムと、樹脂フィルム上に形成された粘着剤層とを有するものであってもよい。この場合、粘着剤層は、HCフィルムに対して剥離可能であることが好ましい。
【0019】
積層フィルムから剥離された保護フィルムは、その巻回方向(流れ方向)における温度23℃、相対湿度55%での引張弾性率をE[MPa]とし、保護フィルムをなす樹脂フィルムの厚みをt[mm]とするとき、下記式(I):
3.0≦E×t≦500 (I)
の関係を満たす。上記式(I)中の「E×t」は、3.5MPa・mm以上であることが好ましく、5MPa・mm以上であることがより好ましく、10MPa・mm以上であることがさらに好ましく、場合によっては、100MPa・mm以上であってもよく、120MPa・mm以上であってもよく、150MPa・mm以上であってもよく、200MPa・mm以上であってもよい。また、上記式(I)中の「E×t」は、400MPa・mm以下であることが好ましく、300MPa・mm以下であってもよく、280MPa・mm以下であってもよく、場合によっては、200MPa・mm以下であってもよく、150MPa・mm以下であってもよく、100MPa・mm以下であってもよく、50MPa・mm以下であってもよく、20MPa・mm以下であってもよい。積層フィルムから剥離された保護フィルムが上記式(I)の関係を満たすことにより、HCフィルム付き偏光板のHCフィルム側に発生するスジを抑制することができる。また、上記式(I)中の「E×t」の値を大きくすることにより、積層フィルム巻回体を巻き出した積層フィルムから剥離されたHCフィルムに生じるスジの発生も抑制しやすくなる。
【0020】
式(I)中の「E×t」は、保護フィルムの剛性を表していると考えることができる。tは、保護フィルムに含まれる樹脂フィルムの厚みを表すが、保護フィルムが粘着剤層を有する場合も、粘着剤層の引張弾性率は樹脂フィルムの引張弾性率に比べて十分に小さいため、式(I)中の「E×t」は、保護フィルムの剛性を表しているといえる。保護フィルムの剛性が上記式(I)の範囲内であることにより、積層フィルムから剥離されたHCフィルムに生じるスジや、HCフィルム付き偏光板のHCフィルム側に発生するスジが抑制される理由は明らかではないが、次のように推測される。
【0021】
HCフィルム付き偏光板のHCフィルム側に発生するスジや、積層フィルムから剥離されたHCフィルムに生じるスジは、積層フィルム巻回体を巻出して得られるHCフィルムのフィルム面全体が水平面に沿って平坦とならずに部分的に変形していることによって生じると推測される。このようなHCフィルムにおける変形は、積層フィルムに用いる保護フィルムの剛性が小さく、保護フィルムが変形しやすい場合に生じやすいと考えられる。例えば、積層フィルム巻回体では、保護フィルムを間に挟んで径方向にHCフィルムが重なり合っているが、重なり合うHCフィルム間に存在する保護フィルムの剛性が低いと、重なり合うHCフィルムのうちの一方のHCフィルムの変形が保護フィルムを介して他方のHCフィルムにも影響を及ぼし、結果としてHCフィルムの変形量が大きくなりやすいと考えられる。また、積層フィルム巻回体は、積層フィルムの巻回時に空気を巻込んで巻回され、巻回後に巻込まれた空気が徐々に抜けることによって巻締められることにより、積層フィルムや積層フィルムをなす各フィルムが変形すると考えられる。このとき、保護フィルムの剛性が小さいと、この巻締めに伴って保護フィルムが変形しやすく、この保護フィルムの変形がHCフィルムに影響を及ぼし、積層フィルム巻回体から巻出されたHCフィルムの変形量が大きくなりやすいと考えられる。
【0022】
これに対し、保護フィルムの剛性が大きい場合には、保護フィルムを間に挟んで径方向に重なり合うHCフィルムのうちの一方のHCフィルムの変形が他方のHCフィルムに影響を及ぼしにくくなるため、HCフィルムの変形量が大きくなることを抑制できると考えられる。また、保護フィルムの剛性が大きいと、積層フィルム巻回体に巻締めが生じた場合にも、保護フィルムが変形しにくいため、保護フィルムの変形がHCフィルムに及ぼす影響を小さくすることができ、積層フィルム巻回体から巻出されたHCフィルムの変形量を小さくすることができると考えられる。さらに、保護フィルムの剛性を大きくすることにより、HCフィルムが変形しようとする動きを抑制することもできるため、HCフィルムの変形量を小さくすることができると考えられる。ただし、保護フィルムの剛性が大きくなりすぎると、積層フィルムを巻回しにくくなり、良好な巻姿の積層フィルム巻回体が得られにくくなる傾向にあるため、保護フィルムの剛性は、式(I)の範囲とすることが好ましい。
【0023】
積層フィルムから剥離された保護フィルムの巻回方向における温度23℃、相対湿度55%での引張弾性率E[MPa]は、50MPa以上であることが好ましく、70MPa以上であることがより好ましく、100MPa以上であってもよく、場合によっては、200MPa以上であってもよく、500MPa以上であってもよく、1000MPa以上であってもよく、2000MPa以上であってもよく、3000MPa以上であってもよい。また、上記引張弾性率E[MPa]は、5000MPa以下であることが好ましく、4500MPa以下であることがより好ましく、4000MPa以下であってもよく、場合によっては、3500MPa以下であってもよく、3000MPa以下であってもよく、2000MPa以下であってもよく、1000MPa以下であってもよく、500MPa以下であってもよく、300MPa以下であってもよく、200MPa以下であってもよい。上記引張弾性率Eが上記の範囲内であることにより、剛性の高い保護フィルムを得やすい。
【0024】
上記厚みt[mm]は、0.010mm以上であることが好ましく、0.030mm以上であることがより好ましく、0.035mm以上であってもよく、また、0.200mm以下であることが好ましく、0.150mm以下であることがより好ましく、0.100mm以下であってもよい。上記厚みtが上記の範囲内であることにより、剛性の高い保護フィルムを得やすい。
【0025】
積層フィルム巻回体において、積層フィルムから剥離されたHCフィルムの巻回軸方向(幅方向)の膜厚分布の標準偏差は、0.25μm以上であることが好ましい。HCフィルムの上記膜厚分布の標準偏差は、0.25μm超であってもよく、0.27μm以上であってもよく、また、通常2μm以下であり、1μm以下であってもよい。HCフィルムの巻回軸方向(幅方向)の膜厚分布の標準偏差は、後述する実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0026】
積層フィルム巻回体を巻き出した積層フィルムから剥離されたHCフィルムの巻回軸方向の膜厚分布の標準偏差が大きい場合、積層フィルムとされる前のHCフィルムの巻回軸方向の膜厚分布の標準偏差も大きいと考えられる。そして、このような膜厚分布の標準偏差の大きいHCフィルムを積層フィルムとしたり、積層フィルム巻回体としたりすることにより、HCフィルムに変形が生じやすいと考えられる。これは、膜厚分布の標準偏差の大きいHCフィルムを保護フィルムと貼合し、積層フィルムとして巻回すると、保護フィルムを介してHCフィルムが重なり合うこと、積層フィルムの巻回時に空気を巻き込むことに起因していると考えられる。すなわち、積層フィルム巻回体では、保護フィルムを介してHCフィルムが重なり合うため、HCフィルムに生じている膜厚分布は、重なり合った部分のHCフィルムに影響を及ぼす。この影響は、積層フィルムとされる前のHCフィルムの膜厚分布の標準偏差が大きい場合に顕著となりやすい。また、積層フィルムの巻回時に巻き込まれた空気は、積層フィルム巻回体から徐々に抜け出て巻締められるが、HCフィルムの膜厚分布の標準偏差が大きい場合、巻回時に巻き込まれる空気量にばらつきが生じやすく、積層フィルム巻回体からの空気の抜け具合も不均一になりやすい。そのため、積層フィルムとされる前のHCフィルムの巻回軸方向の膜厚分布の標準偏差が大きい場合、積層フィルム巻回体を巻き出した積層フィルムから剥離されたHCフィルムに変形が生じやすいと考えられる。
【0027】
本実施形態の積層フィルム巻回体では、上記式(I)の関係を満たす保護フィルムを用いている。そのため、積層フィルム巻回体を巻き出した積層フィルムから剥離して得られるHCフィルムの巻回軸方向の膜厚分布の標準偏差が0.25μm以上のもの、すなわち、積層フィルムとされる前の膜厚分布の標準偏差が大きいと考えられるHCフィルムを用いた場合にも、保護フィルムの剛性により、HCフィルムを変形しにくくすることができる。具体的には、保護フィルムが式(I)の範囲の剛性を有することにより、保護フィルムを間に挟んで径方向に重なり合うHCフィルムのうちの一方のHCフィルムの変形が他方のHCフィルムに影響を及ぼしにくくなり、積層フィルム巻回体を巻出して得られる積層フィルムから剥離されたHCフィルムの変形が抑制される。また、保護フィルムが式(I)の範囲の剛性を有することにより、積層フィルム巻回体に巻締めが生じた場合にも、保護フィルムを変形しにくくし、保護フィルムの変形がHCフィルムの変形に影響することを抑制することができる。さらに、保護フィルムが式(I)の範囲の剛性を有することにより、HCフィルムが変形することを抑制することもできる。その結果、積層フィルムから剥離されたHCフィルムに生じるスジを抑制することができ、このようなHCフィルムを用いて得られるHCフィルム付き偏光板において、そのHCフィルム側に発生するスジを抑制できると考えられる。
【0028】
積層フィルム巻回体の積層フィルムから剥離されたHCフィルムの巻回軸方向の膜厚分布の標準偏差が0.25μm以上であるものは、例えば、積層フィルムとされる前のHCフィルムとして膜厚分布の標準偏差の大きいものを用いた場合、HCフィルムとされる前の基材層として膜厚分布の標準偏差の大きいものを用いた場合等に得られやすい。また、HC層を形成するために基材層に塗工される光硬化性樹脂組成物の粘度、基材層上に塗工された光硬化性樹脂組成物を硬化させる場合の硬化条件(照射する光の照度や光量)、HCフィルムと保護フィルムとを積層して積層フィルムを得る際の積層条件(積層時にHCフィルムや保護フィルムに付与される張力)、積層フィルムを巻回するときの張力等の各種条件に応じて、積層フィルム巻回体の積層フィルムから剥離されたHCフィルムの巻回軸方向の膜厚分布の標準偏差が0.25μm以上となることがある。
【0029】
積層フィルム巻回体において、積層フィルムから剥離されたHCフィルムの厚みは、30μm以下であることが好ましい。HCフィルムの厚みは、28μm以下であってもよく、25μm以下であってもよく、23μm以下であってもよく、また、通常8μm以上であり、10μm以上であってもよく、12μm以上であってもよい。HCフィルムに含まれる基材層の厚みは、29μm以下であってもよく、25μm以下であってもよく、20μm以下であってもよく、また、5μm以上であってもよく、10μm以上であってもよい。HCフィルムに含まれるHC層の厚みは、15μm以下であってもよく、10μm以下であってもよく、5μm以下であってもよく、また、0.1μm以上であってもよく、0.5μm以上であってもよく、1μm以上であってもよい。上記の範囲の厚みを有するHCフィルムにおいて、上記式(I)の関係を満たす保護フィルムを用いることにより、積層フィルムから剥離されたHCフィルムに生じるスジや、HCフィルム付き積層体のHCフィルム側に発生するスジを好適に抑制することができる。HCフィルムの厚みは、後述する実施例に記載のHCフィルムの厚みの測定方法によって測定することができる。また、基材層及びHC層の厚みも、後述する実施例に記載のHCフィルムの厚みの測定方法に準じて測定することができる。
【0030】
また、積層フィルム巻回体において、HCフィルムの巻回方向(流れ方向)における温度23℃、相対湿度55%での引張弾性率は、3000MPa以下であることが好ましい。HCフィルムの上記引張弾性率は、2800MPa以下であってもよく、2500MPa以下であってもよく、また、通常800MPa以上であり、1000MPa以上であってよく、1200MPa以上であってもよい。上記の範囲の引張弾性率を有するHCフィルムにおいて、上記式(I)の関係を満たす保護フィルムを用いることにより、積層フィルムから剥離されたHCフィルムに生じるスジや、HCフィルム付き積層体のHCフィルム側に発生するスジを好適に抑制することができる。HCフィルムの巻回方向における温度23℃、相対湿度55%での引張弾性率は、後述する実施例に記載の方法によって測定することができる。
【0031】
HCフィルムの厚みが小さい場合や、上記した引張弾性率が小さい場合、HCフィルムが上記した各種の要因の影響を受けて変形しやすくなるため、積層フィルム巻回体から得られるHCフィルムの部分的な変形の変形量が大きくなりやすい。そのため、厚みが30μm以下であり、上記引張弾性率が3000MPa以下であるHCフィルムを用いる場合に、上記式(I)の関係を満たす保護フィルムを用いることにより、積層フィルムから剥離されたHCフィルムに生じるスジや、HCフィルム付き積層体に発生するスジを好適に抑制することができる。
【0032】
積層フィルム巻回体において、積層フィルムから剥離されたHCフィルムの鉛筆硬度は、H未満(Hよりも柔らかいもの)であってもよく、例えばF、HB、B、2B、3B、4Bであってもよく、通常5B以上である。HCフィルムの鉛筆硬度は、JIS K5600−5−4:1999に規定される鉛筆硬度試験にしたがって測定することができる。HCフィルムの鉛筆硬度が低いと、HCフィルムが上記した各種の要因の影響を受けて変形しやすくなるため、上記したHCフィルムの部分的な変形の変形量が大きくなりやすい。そのため、鉛筆硬度がH未満のHCフィルムにおいて、上記式(I)の関係を満たす保護フィルムを用いることにより、積層フィルムから剥離されたHCフィルムに生じるスジや、HCフィルム付き積層体に発生するスジを好適に抑制することができる。HCフィルムの鉛筆硬度は、HC層の材料や厚み、基材層の材料や厚み等を調整することによって調整することができる。
【0033】
(ハードコートフィルム付き積層体(HCフィルム付き積層体)及び偏光板)
本実施形態のHCフィルム付き積層体は、上記した積層フィルム巻回体が巻出された積層フィルムから剥離されたHCフィルムと被着体とを有する。HCフィルム付き積層体は、上記した積層フィルム巻回体が巻出された積層フィルムから保護フィルムを剥離してHCフィルムを得、このHCフィルムと被着体とを接着層を介して積層することによって得ることができる。上記で説明した保護フィルムを用いることにより、積層フィルムから剥離されたHCフィルムに生じるスジを抑制し、HCフィルム側でのスジの発生が抑制されたHCフィルム付き積層体を得ることができる。
【0034】
被着体としては、表面硬度を高め、表面の擦り傷を防止することが求められる物品であれば特に限定されない。例えば、偏光層等の光学素子;タッチパネルディスプレイ;液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の画像表示装置のパネル;スマートフォンやタブレット端末、音楽プレーヤー、ノートパソコン等の携帯用電子機器のフロントケース、リアケース、バッテリーケース;ゴーグルやメガネ等のレンズ;CDやDVD、ブルーレイディスク等の光記録媒体;建材化粧シート;自動車のガラス、ヘッドライト、外装部品、内装部品、電装部品、サンルーフ等に用いることができる。特に、HCフィルムをなす基材層を透明基材とすることにより、光学素子や画像表示装置のパネル、光記録媒体等の光学用途に好適に用いることができる。被着体が偏光層である場合、偏光層とHCフィルムとを有するHCフィルム付き積層体は偏光板として用いることができる。
【0035】
HCフィルムと被着体とを積層するための接着層としては、接着剤を用いた接着剤層、粘着剤層を用いた粘着剤層等を挙げることができる。接着層は通常1層であるが、2層以上であってもよい。
【0036】
HCフィルム付き積層体が偏光板である場合(被着体が偏光層である場合)、偏光層とHCフィルムとは接着剤層を介して積層されることが好ましい。偏光板は、偏光層の片面に接着剤層を介してHCフィルムが設けられていてもよく、偏光層の両面に接着剤層を介してHCフィルムが設けられていてもよい。また、偏光層の一方の面に接着剤層を介してHCフィルムを設け、他方の面に接着剤層を介して、HCフィルムとは別の例えばHC層を有していない基材層を保護層として設けてもよい。
【0037】
以下、上記で説明した積層フィルム巻回体、ハードコートフィルム付き積層体、偏光板、及び、これらをなす各層の詳細についてさらに説明する。
【0038】
(積層フィルム巻回体)
積層フィルム巻回体は、例えば積層フィルムの後述する保護フィルム側が外面となるように、巻芯に巻回して得ることができる。積層フィルム巻回体の巻回軸方向の長さは、特に限定されないが、通常800mm以上2000mm以下であり、1000mm以上であってもよく、1200mm以上であってもよく、また、1800mm以下であってもよく、1500mm以下であってもよい。積層フィルム巻回体の直径は特に限定されないが、通常50mm以上1000mm以下であり、100mm以上であってよく、300mm以上であってもよく、また、800mm以下であってもよく、500mm以下であってもよい。
【0039】
(積層フィルム)
積層フィルム巻回体における積層フィルムは、巻回軸方向(幅方向)の長さは、例えば800mm以上2000mm以下であり、1000mm以上であってもよく、1200mm以上であってもよく、また、1800mm以下であってもよく、1500mm以下であってもよい。また、積層フィルム巻回体における積層フィルムの長さ(巻長)は、例えば1000m以上5000m以下とすることができ、1500m以上であってもよく、2000m以上であってもよく、また、4500m以下であってもよく、4000m以下であってもよい。
【0040】
積層フィルムは、HCフィルムと保護フィルムとを積層して形成することができる。保護フィルムの粘着性(粘着剤層を有する場合は粘着剤層)を利用して、HCフィルムのHC層側や基材層側に保護フィルムを貼合すればよい。
【0041】
(ハードコートフィルム(HCフィルム))
HCフィルムをなす基材層は、被着体表面を保護するとともに、HC層を支持するために用いられる。基材層としては、特に限定されないが、樹脂製のフィルムであることが好ましい。HCフィルムを偏光層等の光学フィルムに貼合して用いる場合には、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮断性、等方性、延伸性等に優れる熱可塑性樹脂から形成された樹脂製のフィルムを用いることが好ましい。このような熱可塑性樹脂の具体例としては、トリアセチルセルロース等のセルロース樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂;ポリスルホン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ナイロンや芳香族ポリアミド等のポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン樹脂;シクロ系及びノルボルネン構造を有する環状ポリオレフィン樹脂(ノルボルネン系樹脂ともいう);(メタ)アクリル樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリビニルアルコール樹脂、並びにこれらの混合物を挙げることができる。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリル又はメタクリルのいずれでもよいことを意味する。(メタ)アクリレート等の「(メタ)」も同様の意味である。
【0042】
HCフィルムをなすHC層は、基材層の表面硬度を高め、表面の擦り傷を防止する等のために用いられる。HC層を形成する材料は、例えば光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂等を挙げることができ、これらのうち光硬化性樹脂が好ましい。
【0043】
光硬化性樹脂としては、(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂を用いることが好ましく、例えば、多官能(メタ)アクリレート;多官能ウレタン化(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、及び必要に応じて水酸基を2個以上含むアルキル基を有する(メタ)アクリルポリマーを含む光硬化性混合物等が挙げられる。このうち、基材層への接着性及び生産性の観点から、光硬化性混合物が好ましい。
【0044】
多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパンのジ−又はトリ−(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのトリ−又はテトラ−(メタ)アクリレート、分子内に水酸基を少なくとも1個有する(メタ)アクリレートとジイソシアネートとの反応生成物である多官能ウレタン化(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの多官能(メタ)アクリレートは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
上記光硬化性樹脂混合物を形成する際に用いられる多官能ウレタン化(メタ)アクリレートとしては、例えば、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステル、ポリオール、並びにジイソシアネートを用いて製造される。具体的には、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルとポリオールから、分子内に水酸基を少なくとも1個有するヒドロキシ(メタ)アクリレートを調製し、これをジイソシアネートと反応させることにより、多官能ウレタン化(メタ)アクリレートを製造することができる。このようにして製造される多官能ウレタン化(メタ)アクリレートは、前述した光硬化性樹脂としての機能を有する。その製造にあたっては、(メタ)アクリル酸及び/又は(メタ)アクリル酸エステルは、それぞれ1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよく、ポリオール及びジイソシアネートも同様に、それぞれ1種を用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
多官能ウレタン化(メタ)アクリレートを形成する際に用いられる(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸の鎖状又は環状アルキルエステルを用いることができ、その具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等のシクロアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0047】
多官能ウレタン化(メタ)アクリレートを形成する際に用いられるポリオールは、分子内に水酸基を少なくとも2個有する化合物であり、その具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ヒドロキシピバリン酸のネオペンチルグリコールエステル、シクロヘキサンジメチロール、1,4−シクロヘキサンジオール、スピログリコール、トリシクロデカンジメチロール、水添ビスフェノールA、エチレンオキサイド付加ビスフェノールA、プロピレンオキサイド付加ビスフェノールA、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、グルコース類等が挙げられる。
【0048】
多官能ウレタン化(メタ)アクリレートを形成する際に用いられるジイソシアネートは、分子内に2個のイソシアナト基(−NCO)を有する化合物であり、芳香族、脂肪族又は脂環式の各種ジイソシアネートを用いることができ、その具体例としては、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、2,4−トリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、及びこれらのうち芳香環を有するジイソシアネートの核水添物等が挙げられる。
【0049】
上記光硬化性樹脂混合物を形成する際に用いられる水酸基を2個以上含むアルキル基を有する(メタ)アクリルポリマーは、1つの構成単位中に水酸基を2個以上含むアルキル基を有するものであり、その具体例としては、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートを構成単位として含むポリマーや、2,3−ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートとともに、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートを構成単位として含むポリマー等が挙げられる。
【0050】
(メタ)アクリル系の光硬化性樹脂は、光重合開始剤と組み合せて光硬化性樹脂組成物として用いることが好ましい。光硬化性樹脂組成物には、必要に応じて、レベリング剤、酸化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、レベリング剤、消泡剤等の添加剤を添加することもできる。
【0051】
HC層は、基材層の片面に溶媒を含むハードコート液(以下、「HC液」ということがある。)を塗布した後、HC液を乾燥させ、さらに乾燥させたHC液を硬化させることにより形成することができる。HC液は、光硬化性樹脂組成物に溶媒を添加して混合することにより調製することができる。溶媒としては、光硬化性樹脂組成物を構成する成分を溶解し得る有機溶媒から適宜選択することができる。HC液を塗布する方法は特に限定されず、バーコーターを用いて塗布する方法、スプレー等を用いて噴霧によって塗布する方法等、当該分野において公知の方法を用いることができる。基材層に塗布されたHC液の乾燥は、例えば加熱乾燥、真空乾燥、風乾等により行うことができる。乾燥後のHC液の硬化方法は、HC層を形成する材料によって適宜選択すればよく、例えば、紫外線や電子線等の活性エネルギー線を照射する方法、加熱する方法等を挙げることができる。
【0052】
(保護フィルム)
保護フィルムは、HCフィルムのHC層表面を保護するためや、HCフィルムを巻回体とする場合等にHC層と基材層とがブロッキングすることを防止するために用いることができ、HCフィルムのHC層表面やHCフィルムの基材層表面に設けることができる。上記したように、保護フィルムは、樹脂フィルムを有していてもよく、樹脂フィルムが自己粘着性を有していない場合は、HCフィルムに貼合するための粘着剤層を有していてもよい。保護フィルムをなす樹脂フィルムとしては、特に限定されず、例えば、HCフィルムをなす基材層を形成するための熱可塑性樹脂から形成されたフィルムを挙げることができる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂やポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレン共重合体等のポリオレフィン樹脂が挙げられる。また、自己粘着性を有する保護フィルムは、例えばポリプロピレン系樹脂及びポリエチレン系樹脂等を用いて形成することができる。保護フィルムが有していてもよい粘着剤層をなす粘着剤としては、例えば後述するものを用いることができる。
【0053】
保護フィルムの厚み(粘着剤層を含む場合は、粘着剤層を含めた場合の厚み)は特に限定されないが、例えば、10μm以上200μm以下とすることができ、30μm以上であってもよく、40μm以上であってもよく、50μm以上であってもよく、また、150μm以下であってもよく、120μm以下であってもよく、100μm以下であってもよい。保護フィルムが粘着剤層を有する場合、粘着剤層の厚みは、例えば、5μm以上100μm以下とすることができ、10μm以上であってもよく、12μm以上であってもよく、また、50μm以下であってもよく、40μm以下であってもよい。保護フィルムや粘着剤層の厚みは、後述する実施例に記載のHCフィルムの厚みの測定方法に準じて測定することができる。
【0054】
積層フィルム巻回体において、積層フィルムから剥離された保護フィルムの巻回軸方向の膜厚分布の標準偏差は、0.68μm以下であることが好ましく、0.65μm以下であってもよく、0.60μm以下であってもよい。保護フィルムの巻回軸方向(幅方向)の膜厚分布の標準偏差は、後述する実施例に記載されたHCフィルムの膜厚分布の標準偏差を測定する方法と同様の方法で測定することができる。保護フィルムの巻回軸方向の膜厚分布の標準偏差が大きい場合、HCフィルムと貼合される前の保護フィルムの膜厚分布の標準偏差も大きいことが推測される。このような保護フィルムがHCフィルムと貼合されて積層フィルムをなし、これを巻回して積層フィルム巻回体とした場合に、HCフィルムにより大きい変形量で上記した変形を生じさせやすくなると考えられる。そのため、積層フィルムから剥離された保護フィルムの巻回軸方向の膜厚分布の標準偏差は小さいことが好ましい。積層フィルム巻回体の積層フィルムから剥離された保護フィルムの巻回軸方向の膜厚分布の標準偏差は、積層フィルムとされる前の保護フィルムとして膜厚分布の標準偏差を調整する、HCフィルムと保護フィルムとを積層して積層フィルムを得る際の積層条件(積層時のHCフィルムや保護フィルムに付与される張力)を調整する、積層フィルムを巻回するときの張力を調整する等によって調整することができる。
【0055】
(偏光層)
偏光層は、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム(以下、「PVA系樹脂フィルム」ということがある。)に、ヨウ素等の二色性色素が吸着配向しているものであってもよく、液晶化合物中で二色性色素が配向した層であってもよい。
【0056】
PVA系樹脂フィルムは、ポリビニルアルコール系樹脂を用いて形成されたフィルムである。ポリビニルアルコール系樹脂とは、ビニルアルコール由来の構成単位を50質量%以上含む樹脂をいう。ポリビニルアルコール系樹脂としては、ポリ酢酸ビニル系樹脂を鹸化したものを用いることができる。ポリ酢酸ビニル系樹脂の鹸化度は、JIS K 6727(1994)に準拠して求めることができ、例えば80.0〜100.0モル%の範囲とすることができる。
【0057】
ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニル、酢酸ビニルとこれに共重合可能な他の単量体との共重合体等を挙げることができる。酢酸ビニルに共重合可能な他の単量体としては、例えば不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類、アンモニウム基を有する(メタ)アクリルアミド類等を挙げることができる。
【0058】
PVA系樹脂フィルムの一例は、ポリビニルアルコール系樹脂を製膜してなる未延伸フィルムであってもよく、この未延伸フィルムを延伸した延伸フィルムであってもよい。PVA系樹脂フィルムが延伸フィルムである場合、縦一軸延伸された延伸フィルムであることが好ましく、乾式延伸された延伸フィルムであることが好ましい。PVA系樹脂フィルムが延伸フィルムである場合の延伸倍率は、通常は1.1〜8倍である。
【0059】
液晶化合物中で二色性色素が配向した層である偏光層としては、例えば、重合性液晶化合物中で二色性色素を配向させ、この重合性液晶化合物を重合させた硬化層としたものが挙げられる。このような偏光層は、基材フィルム上に、重合性液晶化合物及び二色性色素を含む偏光層形成用組成物を塗布し、重合性液晶化合物を液晶状態を保持したまま重合して硬化させて形成することができる。このようにして得られた偏光層は、基材フィルムに積層された状態にあり、基材フィルムをそのまま偏光層の他方の面(HCフィルムが設けられる側とは反対側の面)に設けられる保護層として用いてもよい。あるいは、偏光層に対して基材フィルムを剥離可能とした基材フィルム付き偏光層を、接着層を介してHCフィルムに積層した後に、基材フィルムを剥離してもよい。
【0060】
(粘着剤層)
粘着剤層をなす粘着剤としては、いわゆる感圧型接着剤と称される粘着剤を挙げることができ、従来公知の粘着剤を特に制限なく用いることができる。粘着剤としては、例えば、(メタ)アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、ポリビニルエーテル系等のベースポリマーを有する粘着剤を用いることができる。また、活性エネルギー線硬化型粘着剤、熱硬化型粘着剤等であってもよい。これらの中でも、透明性、粘着力、再剥離性(以下、リワーク性ともいう。)、耐候性、耐熱性等に優れる(メタ)アクリル系樹脂をベースポリマーとした粘着剤が好適である。
【0061】
(接着剤層)
接着剤層をなす接着剤としては、例えば、水系接着剤、活性エネルギー線硬化型接着剤、粘着剤等のうち1又は2種以上を組み合せて形成することができる。水系接着剤としては、例えばポリビニルアルコール系樹脂水溶液、水系二液型ウレタン系エマルジョン接着剤等を挙げることができる。活性エネルギー線硬化型接着剤としては、紫外線等の活性エネルギー線を照射することによって硬化する接着剤であり、例えば重合性化合物及び光重合性開始剤を含むもの、光反応性樹脂を含むもの、バインダー樹脂及び光反応性架橋剤を含むもの等を挙げることができる。上記重合性化合物としては、光硬化性エポキシ系モノマー、光硬化性(メタ)アクリル系モノマー、光硬化性ウレタン系モノマー等の光重合性モノマーや、これらモノマーに由来するオリゴマー等を挙げることができる。上記光重合開始剤としては、紫外線等の活性エネルギー線を照射して中性ラジカル、アニオンラジカル、カチオンラジカルといった活性種を発生する物質を含むものを挙げることができる。
【実施例】
【0062】
[厚みの測定]
接触式膜厚計(デジマイクロMH−15M、(株)ニコン製)を用いて、測定対象となるフィルムの巻回軸方向(幅方向)の両端部より50mm内側の位置及び幅方向の中央の位置の合計3カ所の厚みを測定し、その平均値を、測定対象のフィルムの厚みとした。
【0063】
[引張弾性率の測定]
測定対象となるフィルムの巻回軸方向の中心部から、巻回方向(測定対象となるフィルムの長さ方向)の長さ100mm×巻回軸方向(測定対象となるフィルムの幅方向)の長さ25mmの長方形の試験片を切り出した。次いで、切り出した試験片のそれぞれを引張試験機〔(株)島津製作所製 AUTOGRAPH AG−1S試験機〕の上下つかみ具で、つかみ具の間隔が5cmとなるように上記試験片の長辺方向(巻回方向)両端を挟み、温度23℃、相対湿度55%の環境下、引張速度1mm/分で試験片を長辺方向に引張り、得られる応力−ひずみ曲線における初期の直線の傾きから、23℃でのMDにおける引張弾性率〔MPa〕を算出した。
【0064】
[膜厚分布の標準偏差の測定]
各実施例及び比較例で得た積層フィルム巻回体を巻き出して得られた積層フィルムから剥離したHCフィルムについて、巻回軸方向の膜厚分布の標準偏差を次の手順で測定した。非接触式連続膜厚計(卓上型オフライン静電容量式厚み計測装置TOF−C、(株)山文電気製)を用い、測定対象となるHCフィルムの巻回軸方向(幅方向)の一方の端部から他方の端部まで(幅1330mm)、1mmピッチで厚みを測定し、この測定値から標準偏差を算出した。
【0065】
[鉛筆硬度の測定]
HCフィルムの鉛筆硬度は、JIS K5600−5−4:1999に規定される鉛筆硬度試験にしたがって、HCフィルムをHC層側が上になるようにガラス板の上において測定した。
【0066】
〔比較例1〕
HCフィルムのHC層上に、自己粘着性を有する保護フィルム(FF1035、トレデガー社製、ポリエチレンフィルム、厚み30μm)を積層した積層フィルム巻回体(比較)を複数準備した。HCフィルムは、基材層が厚み25μmの(メタ)アクリル系樹脂フィルムであり、HC層が厚み3μmの(メタ)アクリル系紫外線硬化樹脂の層であった。
【0067】
また、複数の積層フィルム巻回体(比較)を巻出して得られた積層フィルムから剥離したそれぞれのHCフィルム(比較)について、厚み、引張弾性率、膜厚分布の標準偏差、鉛筆硬度の測定を行い、平均値を算出した。上記で得たそれぞれのHCフィルム(比較)の表面を目視で観察したところ、いずれのHCフィルム(比較)においても、積層フィルム巻回体(比較)における巻回方向に沿う方向の強いスジが視認された。さらに、複数の積層フィルム巻回体(比較)を巻出して得られた積層フィルムから剥離したそれぞれの保護フィルム(比較)の厚み、引張弾性率の測定を行い、その平均値を算出して、式(I)における「E×t」を算出した。その結果を表1に示す。
【0068】
次に、偏光層として、ポリビニルアルコール系樹脂フィルム(PVA系樹脂フィルム)に、二色性色素であるヨウ素が吸着配向したものを準備した。この偏光層に、水系接着剤を用いて、複数の積層フィルム巻回体(比較)を巻出して得られた積層フィルムから剥離したそれぞれのHCフィルムの基材層側を積層して複数の偏光板(比較)を得た。上記水系接着剤としては、ポリビニルアルコール粉末〔日本合成化学工業(株)製の商品名「ゴーセファイマー」、平均重合度:1100〕を95℃の熱水に溶解して得られた濃度3重量%のポリビニルアルコール水溶液に、架橋剤〔日本合成化学工業(株)製のグリオキシル酸ナトリウム〕をポリビニルアルコール粉末10重量部に対して1重量部の割合で混合した水溶液を用いた。接着剤層の厚みは0.1μmであった。得られた複数の偏光板(比較)について、HCフィルム側から目視で観察を行ったところ、いずれの偏光板(比較)においても、積層フィルム巻回体(比較)における巻回方向に沿う方向のスジが視認された。
【0069】
〔実施例1〕
比較例1で用いたHCフィルムのHC層上に、自己粘着性を有する保護フィルム(ポリエチレンフィルム(PE)、厚み46μm)を積層した積層フィルム巻回体(1)を複数準備した。
【0070】
また、複数の積層フィルム巻回体(1)を巻出して得られた積層フィルムから剥離したそれぞれのHCフィルム(1)について、厚み、引張弾性率、膜厚分布の標準偏差、鉛筆硬度の測定を行い、その平均値を算出した。これらのHCフィルム(1)の表面を目視で観察したところ、いずれのHCフィルム(1)においても、積層フィルム巻回体(1)における巻回方向に沿う方向のスジが視認された。さらに、複数の積層フィルム巻回体(1)を巻出して得られた積層フィルムから剥離したそれぞれの保護フィルム(1)の厚み、引張弾性率の測定を行い、その平均値を算出して、式(I)における「E×t」を算出した。その結果を表1に示す。
【0071】
次に、この積層フィルム巻回体(1)を用い、比較例1と同様にして複数の偏光板(1)を得た。得られた複数の偏光板(1)について、HCフィルム側から目視で観察を行ったところ、いずれもスジは視認されなかった。
【0072】
〔実施例2〕
比較例1で用いたHCフィルムのHC層上に、自己粘着性を有する保護フィルム(ポリエチレンフィルム、厚み40μm)を積層した積層フィルム巻回体(2)を複数準備した。
【0073】
また、複数の積層フィルム巻回体(2)を巻出して得られた積層フィルムから剥離したそれぞれのHCフィルム(2)について、厚み、引張弾性率、膜厚分布の標準偏差、鉛筆硬度の測定を行い、その平均値を算出した。これらのHCフィルム(2)の表面を目視で観察したところ、積層フィルム巻回体(2)における巻回方向に沿う方向の弱いスジが視認されるものと視認されないものとが存在した。さらに、複数の積層フィルム巻回体(2)を巻出して得られた積層フィルムから剥離したそれぞれの保護フィルム(2)の厚み、引張弾性率の測定を行い、その平均値を算出して、式(I)における「E×t」を算出した。その結果を表1に示す。
【0074】
次に、この積層フィルム巻回体(2)を用い、比較例1と同様にして複数の偏光板(2)を得た。得られた複数の偏光板(2)について、HCフィルム側から目視で観察を行ったところ、いずれもスジは視認されなかった。
【0075】
〔実施例3〜5〕
自己粘着性を有する保護フィルムに代えて、表1に示す厚みの樹脂フィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET))に、アクリル系粘着剤を用いて厚み15μmの粘着剤層を設けた保護フィルムを用いたこと以外は、比較例1と同様にして積層フィルム巻回体(3)〜(5)を準備した。
【0076】
また、それぞれ複数の積層フィルム巻回体(3)〜(5)を巻出して得られた積層フィルムから剥離したそれぞれ複数のHCフィルム(3)〜(5)について、厚み、引張弾性率、膜厚分布の標準偏差、鉛筆硬度の測定を行い、その平均値を算出した。上記で得たそれぞれ複数のHCフィルム(3)〜(5)の表面を目視で観察したところ、いずれのHCフィルム(3)〜(5)においても、スジは視認されなかった。さらに、それぞれ複数の積層フィルム巻回体(3)〜(5)を巻出して得られた積層フィルムから剥離したそれぞれ複数の保護フィルム(3)〜(5)の厚み、引張弾性率の測定を行い、その平均値を算出して、式(I)における「E×t」を算出した。その結果を表1に示す。
【0077】
次に、これらの積層フィルム巻回体(3)〜(5)を用い、比較例1と同様にしてそれぞれ複数の偏光板(3)〜(5)を得た。得られたそれぞれ複数の偏光板(3)〜(5)について、HCフィルム側から目視で観察を行ったところ、いずれもスジは視認されなかった。
【0078】
【表1】
【課題】ハードコートフィルムが設けられた偏光板等のハードコートフィルム付き積層体の表面におけるスジの発生を抑制することができる積層フィルム巻回体、ハードコートフィルム付き積層体、及び偏光板を提供する。
【解決手段】積層フィルム巻回体は、積層フィルムがロール状に巻取られたものである。積層フィルムは、基材層及びハードコート層を有するハードコートフィルムと、保護フィルムとを有する。保護フィルムは、少なくとも樹脂フィルムを有する。積層フィルムから剥離された保護フィルムは、その巻回方向における温度23℃、相対湿度55%での引張弾性率をE[MPa]とし、樹脂フィルムの厚みをt[mm]とするとき、下記式(I):