(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の各実施形態について、図面などを参照しつつ説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0010】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状などについて模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0011】
本明細書および請求項において、ある構造体の上に他の構造体を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある構造体に接するように、直上に他の構造体を配置する場合と、ある構造体の上方に、さらに別の構造体を介して他の構造体を配置する場合との両方を含むものとする。
【0012】
本明細書および請求項において、「実質的にAのみを含む」という表現、あるいは「Aからなる」という表現は、A以外の物質を含まない状態、Aおよび不純物を含む状態、および測定誤差に起因してA以外の物質が含まれていると誤認される状態を含む。この表現がAと不純物を含む状態を指す場合には、不純物の種類と濃度に限定はない。
【0013】
(第1実施形態)
本発明の実施形態の一つである二次電池100の断面模式図を
図1(A)に示す。二次電池100は、正極110、負極120、正極110と負極120を分離するセパレータ130を有する。図示していないが、二次電池100は電解液140を有する。電解液140は主に正極110、負極120、セパレータ130の空隙や各部材間の隙間に存在する。正極110は正極集電体112と正極活物質層114を含むことができる。同様に、負極120は負極集電体122と負極活物質層124を含むことができる。
図1(A)では図示していないが、二次電池100はさらに筐体を有し、筐体によって正極110、負極120、セパレータ130、および電解液140が保持される。
【0014】
[1.セパレータ]
<1−1.構成>
セパレータ130は、正極110と負極120の間に設けられ、正極110と負極120を分離するとともに、二次電池100内で電解液140の移動を担うフィルムである。
図1(B)にセパレータ130の断面模式図を示す。セパレータ130は多孔質ポリオレフィンを含む第1の層132を有し、さらに任意の構成として、多孔質層134を有することができる。セパレータ130は、
図1(B)に示すように、2つの多孔質層134が第1の層132を挟持する構造を有することもできるが、第1の層132の一方の面のみに多孔質層134を設けてもよく、あるいは多孔質層134を設けない構成とすることもできる。第1の層132は単層の構造を有していてもよく、複数の層から構成されていてもよい。
【0015】
第1の層132は内部に連結した細孔を有する。この構造に起因し、第1の層132を電解液140が透過することができ、また、電解液140を介してリチウムイオンなどのキャリアイオンの移動が可能となる。同時に正極110と負極120の物理的接触を禁止する。一方、二次電池100が高温になった場合、第1の層132は溶融して無孔化することでキャリアイオンの移動を停止する。この動作はシャットダウンと呼ばれる。この動作により、正極110と負極120間のショートに起因する発熱や発火が防止され、高い安全性を確保することができる。
【0016】
第1の層132は、多孔質ポリオレフィンを含む。あるいは第1の層132は、多孔質ポリオレフィンから構成されていてもよい。すなわち、第1の層132は多孔質ポリオレフィンのみ、あるいは実質的に多孔質ポリオレフィンのみを含むように構成されていてもよい。当該多孔質ポリオレフィンは添加剤を含むことができる。この場合、第1の層132は、ポリオレフィンと添加剤のみ、あるいは実質的にポリオレフィンと添加剤のみで構成されていてもよい。多孔質ポリオレフィンが添加剤を含む場合、ポリオレフィンは、95重量%以上、あるいは97重量%以上の組成で多孔質ポリオレフィンに含まれることができる。また、ポリオレフィンは、95重量%以上、あるいは97重量%以上の組成で第1の層132に含まれることができる。添加剤としては、有機化合物(有機添加剤)が挙げられ、有機化合物は酸化防止剤(有機酸化防止剤)や滑剤であってもよい。
【0017】
多孔質ポリオレフィンを構成するポリオレフィンとしては、エチレンや、プロピレン、1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセンなどのα―オレフィンを重合した単独重合体、またはこれらの共重合体を挙げることができる。第1の層132には、これらの単独重合体や共重合体の混合物が含まれていてもよく、異なる分子量を有する単独重合体や共重合体の混合物が含まれていてもよい。すなわち、ポリオレフィンの分子量分布はピークを複数有していてもよい。有機添加剤はポリオレフィンの酸化を防止する機能を持つことができ、例えばフェノール類やリン酸エステル類などを有機添加剤として用いることができる。フェノール性水酸基のα位、および/またはβ位にt−ブチル基などのかさ高い置換基を有するフェノール類を用いてもよい。
【0018】
代表的なポリオレフィンとして、ポリエチレン系重合体が挙げられる。ポリエチレン系重合体を用いる場合、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレンのいずれを用いてもよい。あるいはエチレンとα―オレフィンの共重合体を用いてもよい。これらの重合体、あるいは共重合体は、重量平均分子量が10万以上の高分子量体、あるいは100万以上の超高分子量体でもよい。ポリエチレン系重合体を用いることで、より低温でシャットダウン機能を発現することができ、二次電池100に対して高い安全性を付与することができる。
【0019】
第1の層132の厚さは、4μm以上40μm以下、5μm以上30μm以下、あるいは6μm以上15μm以下とすることができる。
【0020】
第1の層132の目付は、強度、膜厚、重量、およびハンドリング性を考慮して適宜決定すればよい。例えば二次電池100の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができるように、4g/m
2以上20g/m
2以下、4g/m
2以上12g/m
2以下、あるいは5g/m
2以上10g/m
2以下とすることができる。なお目付とは、単位面積当たりの重量である。
【0021】
第1の層132の透気度は、ガーレ値で30s/100mL以上500s/100mL以下、あるいは50s/100mL以上300s/100mL以下の範囲から選択することができる。これにより、充分なイオン透過性を得ることができる。
【0022】
第1の層132の空隙率は、電解液140の保持量を高めるとともに、より確実にシャットダウン機能が発現できるよう、20体積%以上80体積%以下、あるいは30体積%以上75体積%以下の範囲から選択することができる。また、第1の層132の細孔の孔径(平均細孔径)は、充分なイオン透過性と高いシャットダウン機能を得ることができるよう、0.1μm以上0.3μm以下、あるいは0.1μm以上0.14μm以下の範囲から選択することができる。
【0023】
<1−2.特性>
第1の層132は、以下の式で定義されるパラメータXが0以上20以下、あるいは2以上20以下であり、かつ、落球試験における球の最低高さが50cm以上150cm以下である。ここで、MDtanδとTDtanδはそれぞれ、温度90℃、周波数10Hzにおける前記第1の層の粘弾性測定で得られる流れ方向(MD:Machine Direction。機械方向とも呼ばれる)の損失正接、幅方向(TD:Transverse Direction。横方向とも呼ばれる)の損失正接である。
【0025】
物質の動的粘弾性測定により得られる損失正接(以下、tanδと記す)は、貯蔵弾性率E’と損失弾性率E”から、
tanδ=E”/E’
の式で示される。損失弾性率は応力に対する不可逆変形性を示しており、貯蔵弾性率は応力に対する可逆変形性を示している。そのため、tanδは、外部からの力の変化に対する物質の変形の追随性を示している。そして、物質の面内方向におけるtanδの異方性が小さいほど、外部からの力の変化に対する物質の変形追随性が等方的となり、面方向に均等に変形することができる。
【0026】
非水電解液二次電池などの二次電池では、充放電時に電極(正極110、負極120)が膨張や収縮するため、セパレータに圧力や面方向のせん断力が加わる。このとき、セパレータを構成する第1の層132の変形追随性が等方的であれば、セパレータも均等に変形する。そのため、充放電サイクルでの電極の周期的な変形に伴って第1の層132に発生する応力の異方性も小さくなる。これにより、正極活物質層114や負極活物質層124の脱落などが起きにくくなり、二次電池の内部抵抗の増加を抑制でき、サイクル特性が向上する。
【0027】
また、高分子の応力緩和過程に関する時間―温度換算則から予想されるように、周波数10Hz、温度90℃での動的粘弾性測定を、二次電池を通常動作させる温度である20から60℃程度の温度範囲を基準としたときに対応させた時の周波数は10Hzよりもはるかに低波数であり、二次電池の充放電サイクルに伴う電極の膨張収縮運動の時間スケールに近いものとなる。したがって、10Hz、90℃における動的粘弾性の測定によって、二次電池の使用温度範囲における充放電サイクルの時間スケールに対応したレオロジー評価を行うことができる。
【0028】
tanδの異方性は、上記式で定義されるパラメータXによって評価され、このパラメータXが0以上20以下、あるいは2以上20以下であることで、充放電サイクルにおける二次電池の内部抵抗の増加を抑制することができる。
【0029】
一方、第1の層132を含むセパレータ130を用いて二次電池を作製する際、セパレータ130は所定サイズに切断される。切断の際に意図しない方向へ裂けが発生すると二次電池の歩留りが低下する。また、セパレータ130を用いて捲回型の二次電池を作製する場合、セパレータ130と電極(正極110や負極120)を円柱状の部材(以下、ピンと記す)に捲回し、その後ピンを抜き取る。この時、セパレータ130とピンとの摩擦が大きいとピンを容易に抜くことができず、セパレータ130や電極、あるいはピンが破壊され、その結果、製造工程に悪影響を及ぼし、二次電池の歩留まりが低下する。発明者らは、落球試験における球の最低高さは、切断加工性、および第1の層132と他の部材との摩擦と相関関係を有し、歩留りに大きく影響を与えることを見出した。より具体的には、落球試験の球の最低高さが50cm以上150cm以下になるように第1の層132を構成することにより、意図した方向のみに選択的にセパレータ130を切断することができ、かつ、ピンとの摩擦を低減できることが分かった。
【0030】
本明細書、および請求項において落球試験とは、以下の要領で実施される評価試験である。直径14.3mm、重さ11.9g、表面が鏡面である球を、第1の層132上に高さhから自由落下させる。高さhは、自由落下を開始する直前の球と第1の層132との距離である。球が第1の層132へ落ちた際、第1の層132に裂けが発生する高さhの最低値が、球の最低高さである。
【0031】
第1の層132は、後述するように圧延工程により得られる。圧延工程の際に表面に硬くて脆いスキン層が形成される。また、圧延工程の条件によっては、圧延する方向に配向の差が生じる。具体的には、圧延工程におけるMDとTDにおいて配向に差が生じる。TDにのみ圧延するとTDの配向が強くなり、MDにのみ圧延するとMDの配向が強くなる。スキン層の割合とMD−TDの配向バランスは、第1の層132の裂けに関係している。つまり、脆いスキン層の割合が多いほど衝撃に対して弱くなり、意図しない方向に裂けやすくなる。また、MDとTDとのどちらかに配向が偏っていると、より強く配向している方向に沿って裂けが発生しやすくなるとともに、より強く配向している方向に垂直な方向の摩擦が大きくなる。したがって、スキン層の割合およびMDとTDの配向バランスは、第1の層132の切断加工性と摩擦力に影響を及ぼす。
【0032】
発明者らは、落球試験の球の最低高さが大きいほど、スキン層の割合が小さく、かつ、MDとTDの配向差が小さいことを見出した。そして、最低高さを50cm以上とすることで、第1の層132を切断する際に意図しない方向への裂けの発生を抑制でき、かつ、他の部材との摩擦が低減できることが分かった。なお、最低高さが150cmよりも大きくするためには、第1の層132の厚さを大きくするか、空隙率を低くする必要がある。しかしながら、厚さを大きくすると二次電池のエネルギー密度が下がり、空隙率を低くすると電池特性が低下する。このため、最低高さは150cm以下であることが好ましい。
【0033】
上記パラメータを満足する第1の層132を含むセパレータ130を用いることで、後述する実施例において実験的に証明されたように、充放電サイクルにおける二次電池の内部抵抗の増加を抑制できることが分かった。さらに、このセパレータ130を用いることで、二次電池を歩留まり良く製造できることが分かった。
【0034】
なお、第1の層132の突刺強度は3N以上10N以下、あるいは3N以上8N以下が好ましい。これにより、組立プロセスにおいて二次電池に外部から圧力がかけられた際、第1の層132を含むセパレータ130が破壊されることを抑制することができ、正負極が短絡することを防止することができる。
【0035】
[2.電極]
上述したように、正極110は正極集電体112と正極活物質層114を含むことができる。同様に、負極120は負極集電体122と負極活物質層124を含むことができる(
図1(A)参照)。正極集電体112、負極集電体122はそれぞれ、正極活物質層114、負極活物質層124を保持し、電流を正極活物質層114、負極活物質層124へ供給する機能を有する。
【0036】
正極集電体112や負極集電体122には、例えば、ニッケル、ステンレス、銅、チタン、タンタル、亜鉛、鉄、コバルトなどの金属、あるいはステンレスなど、これらの金属を含む合金を用いることができる。正極集電体112や負極集電体122は、これらの金属を含む複数の膜が積層された構造を有していてもよい。
【0037】
正極活物質層114と負極活物質層124はそれぞれ、正極活物質、負極活物質を含む。正極活物質と負極活物質は、リチウムイオンなどのキャリアイオンの放出、吸収を担う物質である。
【0038】
正極活物質としては、例えば、キャリアイオンをドープ・脱ドープ可能な材料が挙げられる。具体的には、バナジウム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケルなどの遷移金属を少なくとも1種類を含むリチウム複合酸化物が挙げられる。このような複合酸化物として、ニッケル酸リチウム、コバルト酸リチウムなどのα−NaFeO
2型構造を有するリチウム複合酸化物、リチウムマンガンスピネルなどのスピネル型構造を有するリチウム複合酸化物が挙げられる。これらの複合酸化物は、平均放電電位が高い。
【0039】
リチウム複合酸化物は、他の金属元素を含んでいてもよく、例えばチタン、ジリコニウム、セリウム、イットリウム、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、銅、銀、マグネシウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、スズなどから選択される元素を含むニッケル酸リチウム(複合ニッケル酸リチウム)が挙げられる。これらの金属は、複合ニッケル酸リチウム中の金属元素の0.1mol%以上20mol%以下となるようにすることができる。これにより、高容量での使用におけるサイクル特性に優れた二次電池100を提供することができる。例えば、アルミニウム、あるいはマンガンを含み、ニッケルが85mol%以上、あるいは90mol%以上である複合ニッケル酸リチウムを正極活物質として用いることができる。
【0040】
正極活物質と同様、キャリアイオンをドープ・脱ドープ可能な材料を負極活物質として使用することができる。例えばリチウム金属またはリチウム合金などが挙げられる。あるいは、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、炭素繊維などの高分子化合物焼成体などの炭素質材料;正極よりも低い電位でリチウムイオンのドープ・脱ドープを行う酸化物、硫化物などのカルコゲン化合物;アルカリ金属と合金化する、あるいは化合するアルミニウム、鉛、スズ、ビスマス、ケイ素などの元素;アルカリ金属を格子間に挿入可能な立方晶系の金属間化合物(AlSb、Mg
2Si、NiSi
2);リチウム窒素化合物(Li
3-xM
xN(M:遷移金属))などを用いることができる。上記負極活物質のうち、天然黒鉛、人造黒鉛などの黒鉛を主成分とする炭素質材料は電位平坦性が高く、また平均放電電位が低いため、正極110と組み合わせた場合に大きなエネルギー密度を与える。例えば負極活物質として、炭素に対するシリコンの比率が5mol%以上あるいは10mol%以上である黒鉛とシリコンの混合物を使用することができる。
【0041】
正極活物質層114や負極活物質層124はそれぞれ、上記の正極活物質、負極活物質以外に、導電助剤や結着剤などを含んでもよい。
【0042】
導電助剤としては、炭素質材料が挙げられる。具体的には、天然黒鉛や人造黒鉛などの黒鉛、コークス類、カーボンブラック、熱分解炭素類、炭素繊維などの有機高分子化合物焼成体などが挙げられる。上記材料を複数混合して導電助剤として用いてもよい。
【0043】
結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレンの共重合体、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテルの共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレンの共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレンの共重合体などのフッ化ビニリデンをモノマーの一つとして用いる共重合体、熱可塑性ポリイミドやポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂、アクリル樹脂、およびスチレン−ブタジエンゴムなどが挙げられる。なお、結着剤は増粘剤としての機能も有している。
【0044】
正極110は、例えば正極活物質、導電助剤、および結着剤の混合物を正極集電体112上に塗布することによって形成することができる。この場合、混合物を作成、あるいは塗布するために溶媒を用いてもよい。あるいは、正極活物質、導電助剤、および結着剤の混合物を加圧、成形し、これを正極110上に設置することで正極110を形成してもよい。負極120も同様の手法で形成することができる。
【0045】
[3.電解液]
電解液140は溶媒と電解質を含み、電解質のうち少なくとも一部は溶媒に溶解し、電離している。溶媒としては水や有機溶媒を用いることができる。二次電池100を非水電解液二次電池として用いる場合には、有機溶媒が用いられる。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、1,2−ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタンなどのカーボネート類;1,2−ジメトキシエタン、1,3−ジメトキシプロパン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランなどのエーテル類;ギ酸メチル、酢酸メチル、γ−ブチロラクトンなどのエステル類;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類;3−メチル−2−オキサゾリドンなどのカルバメート類;スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−プロパンサルトンなどの含硫黄化合物;および上記有機溶媒にフッ素が導入された含フッ素有機溶媒などが挙げられる。これらの有機溶媒の混合溶媒を用いてもよい。
【0046】
代表的な電解質としては、リチウム塩が挙げられる。例えば、LiClO
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiSbF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2、LiC(CF
3SO
2)
3、Li
2B
10Cl
10、炭素数2から6のカルボン酸リチウム塩、LiAlCl
4などが挙げられる。上記リチウム塩は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせてもよい。
【0047】
なお電解質とは、広義には電解質が溶解した溶液を指す場合があるが、本明細書と請求項では狭義を採用する。すなわち、電解質は固体であり、溶媒に溶解することによって電離し、得られる溶液にイオン伝導性を与えるものとして取り扱う。
【0048】
[4.二次電池の組立工程]
図1(A)に示すように、負極120、セパレータ130、正極110を配置し、積層体を形成する。その後図示しない筐体へ積層体を設置し、筐体内を電解液で満たし、減圧しつつ筐体を密閉することにより、または筐体内を減圧しつつ共体内を電解液で満たしたのちに密閉することにより、二次電池100を作製することができる。二次電池100の形状は特に限定されず、薄板(ペーパー)型、円盤型、円筒型、直方体などの角柱型などであってもよい。
【0049】
(第2実施形態)
本実施形態では、第1実施形態で述べた第1の層132の作成方法について述べる。第1実施形態と同様の構成に関しては説明を割愛することがある。
【0050】
第1の層132の作成方法の一つは、(1)超高分子量ポリエチレンと、低分子量炭化水素と、孔形成剤を混練してポリオレフィン組成物を得る工程、(2)ポリオレフィン組成物を圧延ロールにて圧延してシートを成形する工程(圧延工程)、(3)工程(2)で得られたシートから孔形成剤を除去する工程、(4)工程(3)で得られたシートを延伸してフィルム状に成型する工程を含む。
【0051】
超高分子量ポリオレフィンの形状に限定はなく、たとえば粉体状に加工されたポリオレフィンを用いることができる。低分子量炭化水素としては、ポリオレフィンワックスなどの低分子量ポリオレフィンやフィッシャートロプシュワックス等の低分子量ポリメチレンが挙げられる。低分子量ポリオレフィンや低分子量ポリメチレンの重量平均分子量は、例えば200以上3000以下である。これにより、低分子量炭化水素の揮発性が抑制でき、かつ、超高分子量ポリオレフィンと均一に混合することができる。なお、本明細書と請求項では、ポリメチレンもポリオレフィンの一種として定義する。
【0052】
工程(1)では、例えば超高分子量ポリオレフィンと低分子量ポリオレフィンをミキサーで混合(一段目混合)し、この混合物に孔形成剤を添加して再度混合(二段目混合)してもよい。一段目混合では、酸化防止剤のような有機化合物を添加してもよい。これにより、ポリオレフィンと孔形成剤、低分子量ポリオレフィンが均一に混合される。均一な混合、特に、超高分子量ポリオレフィンと低分子量ポリオレフィンとの均一な混合は、混合物のかさ密度の増大などによって確認することができる。均一な混合に伴って均一な結晶化が進み、その結果、結晶分布が均一となり、Tanδの異方性を小さくすることができる。一段目混合の後、孔形成剤が添加されるまでの間には1分間以上の間隔があることが好ましい。
【0053】
工程(1)で用いる孔形成剤としては、有機充填剤、および無機充填剤が挙げられる。有機充填剤としては、例えば、可塑剤を用いてもよく、可塑剤としては流動パラフィンなどの低分子量の炭化水素が挙げられる。
【0054】
無機充填剤としては、中性、酸性、あるいはアルカリ性の溶剤に可溶な無機材料が挙げられ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、などが例示される。これら以外にも、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、硫酸マグネシウムなどの無機化合物が挙げられる。孔形成剤は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。代表的な孔形成剤として炭酸カルシウムが挙げられる。
【0055】
孔形成剤の除去が行われる工程(3)では、洗浄液として、水、あるいは有機溶剤に、酸または塩基を添加した溶液などを用いることができる。洗浄液に界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤の添加量は0.1重量%以上15重量%以下、あるいは0.1重量%以上10重量%以下の範囲で任意に選択することができる。この範囲から添加量を選択することで、高い洗浄効率が確保できるとともに、界面活性剤の残存を防止することができる。洗浄温度は25℃以上60℃以下、30℃以上55℃以下、あるいは35℃以上50℃以下の温度範囲から選択すればよい。これにより、高い洗浄効率が得られ、かつ、洗浄液の蒸発を抑制することができる。
【0056】
工程(3)では、洗浄液を用いて孔形成剤を除去した後、さらに水洗を行なってもよい。水洗時の温度は、25℃以上60℃以下、30℃以上55℃以下、あるいは35℃以上50℃以下の温度範囲から選択することができる。
【0057】
工程(4)において、延伸後の第1の層132をアニール(熱固定)してもよい。延伸後の第1の層132には、延伸による配向結晶化が生じた領域と非晶領域が混在している。アニール処理することで非晶部分の再構築(クラスター化)が起こり、ミクロな領域での力学的な不均一性が解消される。
【0058】
アニール温度は、使用するポリオレフィンの分子の運動性を考慮し、超高分子量ポリオレフィンの融点をTmとしたとき、(Tm−30℃)以上Tm未満、(Tm−20℃)以上Tm未満、あるいは(Tm−10℃)以上Tm未満の範囲から選択することができる。これにより、力学的な不均一性が解消され、かつ溶融によって細孔が閉塞することを防ぐことができる。
【0059】
(第3実施形態)
本実施形態では、セパレータ130が第1の層132とともに多孔質層134を有する態様を説明する。
【0060】
[1.構成]
第1実施形態で述べたように、多孔質層134は、第1の層132の片面、または両面に設けることができる(
図1(B)参照)。第1の層132の片面に多孔質層134が積層される場合には、多孔質層134は、第1の層132の正極110側に設けてもよく、負極120側に設けてもよい。
【0061】
多孔質層134は電解液140に不溶であり、二次電池100の使用範囲において電気化学的に安定な材料を含むことが好ましい。このような材料としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体などのポリオレフィン;ポリフッ化ビニリデンやポリテトラフルオロエチレンなどの含フッ素ポリマー;フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体などの含フッ素ポリマー;芳香族ポリアミド(アラミド);スチレン−ブタジエン共重合体およびその水素化物、メタクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−アクリル酸エステル共重合体、スチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレンプロピレンラバー、およびポリ酢酸ビニルなどのゴム類;ポリフェニレンエーテル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルアミド、ポリエステルなどの融点やガラス転移温度が180℃以上の高分子;ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、セルロースエーテル、アルギン酸ナトリウム、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリメタクリル酸などの水溶性高分子などが挙げられる。
【0062】
芳香族ポリアミドとしては、例えば、ポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)、ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)、ポリ(パラベンズアミド)、ポリ(メタベンズアミド)、ポリ(4,4’−ベンズアニリドテレフタルアミド)、ポリ(パラフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(メタフェニレン−4,4’−ビフェニレンジカルボン酸アミド)、ポリ(パラフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(メタフェニレン−2,6−ナフタレンジカルボン酸アミド)、ポリ(2−クロロパラフェニレンテレフタルアミド)、パラフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体、メタフェニレンテレフタルアミド/2,6−ジクロロパラフェニレンテレフタルアミド共重合体などが挙げられる。
【0063】
多孔質層134はフィラーを含んでもよい。フィラーとしては有機物または無機物からなるフィラーが挙げられるが、充填材と称される、無機物からなるフィラーが好適であり、シリカ、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、アルミナ、マイカ、ゼオライト、水酸化アルミニウム、ベーマイト等の無機酸化物からなるフィラーがより好ましく、シリカ、酸化マグネシウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、ベーマイトおよびアルミナからなる群から選択される少なくとも1種のフィラーがさらに好ましく、アルミナが特に好ましい。アルミナには、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ等の多くの結晶形が存在するが、何れも好適に使用することができる。この中でも、熱的安定性および化学的安定性が特に高いため、α−アルミナが最も好ましい。多孔質層134には1種類のフィラーのみを用いてもよく、2種類以上のフィラーを組み合わせて用いてもよい。
【0064】
フィラーの形状に限定はなく、フィラーは球形、円柱形、楕円形、瓢箪形などの形状をとることができる。あるいは、これらの形状が混在するフィラーを用いてもよい。
【0065】
多孔質層134がフィラーを含む場合、フィラーの含有量は、多孔質層134の1体積%以上99体積%以下、あるいは5体積%以上95体積%以下とすることができる。フィラーの含有量を上記範囲とすることにより、フィラー同士の接触によって形成される空隙が多孔質層134の材料によって閉塞されることを抑制することができ、充分なイオン透過性を得ることができるとともに、目付を調整することができる。
【0066】
多孔質層134の厚さは、0.5μm以上15μm以下、あるいは2μm以上10μm以下の範囲で選択することができる。したがって、多孔質層134を第1の層132の両面に形成する場合、多孔質層134の合計膜厚は1.0μm以上30μm以下、あるいは4μm以上20μm以下の範囲から選択することができる。
【0067】
多孔質層134の合計膜厚を1.0μm以上にすることで、二次電池100の破損などによる内部短絡をより効果的に抑制することができる。多孔質層134の合計膜厚を30μm以下とすることで、キャリアイオンの透過抵抗の増大を防ぐことでき、キャリアイオンの透過抵抗の増大に起因する正極110の劣化や電池特性、サイクル特性の低下を抑制することができる。さらに、正極110および負極120間の距離の増大を回避することができ、二次電池100の小型化に寄与することができる。
【0068】
多孔質層134の目付は、1g/m
2以上20g/m
2以下、あるいは2g/m
2以上10g/m
2以下の範囲から選択することができる。これにより、二次電池100の重量エネルギー密度や体積エネルギー密度を高くすることができる。
【0069】
多孔質層134の空隙率は、20体積%以上90体積%以下、あるいは30体積%以上80体積%以下とすることができる。これにより、多孔質層134は充分なイオン透過性を有することができる。多孔質層134が有する細孔の平均細孔径は、0.01μm以上1μm以下、あるいは0.01μm以上0.5μm以下の範囲から選択することができ、これにより、二次電池100に充分なイオン透過性を付与することができるとともに、シャットダウン機能を向上させることができる。
【0070】
上述した第1の層132と多孔質層134を含むセパレータ130の透気度は、ガーレ値で30s/100mL以上1000s/100mL以下、あるいは50s/100mL以上800s/100mL以下とすることができる。これにより、セパレータ130は十分な強度と高温での形状安定性を確保することができ、同時に充分なイオン透過性を有することができる。
【0071】
[2.形成方法]
フィラーを含む多孔質層134を形成する場合、上述した高分子や樹脂を溶媒中に溶解、あるいは分散させたのち、この混合液にフィラーを分散させて分散液(以下、塗工液と記す)を作成する。溶媒としては、水;メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、t−ブチルアルコールなどのアルコール;アセトン、トルエン、キシレン、ヘキサン、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。1種類の溶媒のみを用いてもよく、2種類以上の溶媒を用いてもよい。
【0072】
混合液にフィラーを分散させて塗工液を作成する際、例えば、機械攪拌法、超音波分散法、高圧分散法、メディア分散法などを適用してもよい。また、混合液にフィラーを分散させたのち、湿式粉砕装置を用いてフィラーの湿式粉砕を行ってもよい。
【0073】
塗工液に対し、分散剤や可塑剤、界面活性剤、pH調整剤などの添加剤を加えてもよい。
【0074】
塗工液の調整後、第1の層132上に塗工液を塗布する。例えば、ディップコーティング法、スピンコーティング法、印刷法、スプレー法などを用いて塗工液を第1の層132に直接塗布した後、溶媒を留去することで多孔質層134を第1の層132上に形成することができる。塗工液を直接第1の層132上に形成せず、別の支持体上に形成した後に第1の層132上に転載してもよい。支持体としては、樹脂製のフィルム、金属製のベルトやドラムなどを用いることができる。
【0075】
溶媒の留去には、自然乾燥、送風乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥のいずれの方法を用いてもよい。溶媒を他の溶媒(例えば低沸点溶媒)に置換してから乾燥を行ってもよい。加熱する場合には、10℃以上120℃以下、あるいは20℃以上80℃以下で行うことができる。これにより、第1の層132の細孔が収縮して透気度が低下することを回避することができる。
【0076】
多孔質層134の厚さは、塗工後の湿潤状態の塗工膜の厚さ、フィラーの含有量や高分子や樹脂の濃度などによって制御することができる。
【実施例】
【0077】
[1.セパレータの作成]
セパレータ130の作成例を以下に述べる。以下の実施例では、作成した第1の層132をセパレータ130として用いた。
【0078】
<1−1.実施例1>
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR2024、ティコナ社製)を68重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精鑞社製)32重量%、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計を100重量部として、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.4重量%、(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1重量%、ステアリン酸ナトリウム1.3重量%を加え、これらを粉末のままヘンシェルミキサーを用いて、回転数440rpmで70秒混合した。次いで全体積に対して38体積%となるように平均孔径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を加え、さらにヘンシェルミキサーを用いて、回転数440rpmで80秒混合した。このとき、粉体の軽装かさ密度は約500g/Lであった。得られた混合物を表面温度が150℃の3本の圧延ロールR1、R2、R3を用い、R1、R2で1回目の圧延、R2、R3で2回目の圧延を行い、速度比を変えた巻取りロールで引張りながら段階的に冷却し(ドロー比(巻取りロール速度/圧延ロール速度)1.4倍)、膜厚約64μmのシートを作成した。このシートを0.5重量%の非イオン系界面活性剤を含む塩酸(4mol/L)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて100℃で6.2倍に横方向に延伸したのち、126℃(ポリオレフィン樹脂組成物の融点134℃−8℃)でアニールすることでセパレータ130を得た。
【0079】
<1−2.実施例2>
超高分子量ポリエチレン粉末としてティコナ社製GUR4032を71.5重量%用いた点、ポリエチレンワックスを28.5重量%用いた点、表面温度が150℃の3本の圧延ロールR1、R2、R3を用いて膜厚約70μmのシートを作成した点、7.0倍に延伸した点、123℃(ポリオレフィン樹脂組成物の融点133℃−10℃)でアニールした点を除き、実施例1と同様の手法によりセパレータ130を得た。
【0080】
<1−3.実施例3>
超高分子量ポリエチレン粉末を70重量%用いた点、ポリエチレンワックスを30重量%用いた点、炭酸カルシウムを37体積%で用いた点、表面温度が150℃の一対の圧延ロールを用いて圧延し、速度比を変えたロールで引張りながら段階的に冷却し(ドロー比(巻取りロール速度/圧延ロール速度)1.4倍)、膜厚約41μmのシートを作成した点、6.2倍に延伸した点、熱固定処理を120℃(ポリオレフィン樹脂組成物の融点133℃−13℃)で行った点を除き、実施例2と同様の手法によりセパレータ130を得た。
【0081】
比較例として用いたセパレータの作成例を以下に述べる。以下の比較例では、作成した第1の層132をセパレータ130として用いた。
【0082】
<1−4.比較例1>
超高分子量ポリエチレン粉末(GUR4032、ティコナ社製)を70重量%、重量平均分子量1000のポリエチレンワックス(FNP−0115、日本精鑞社製)30重量%、この超高分子量ポリエチレンとポリエチレンワックスの合計を100重量部として、酸化防止剤(Irg1010、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.4重量%、(P168、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製)0.1重量%、ステアリン酸ナトリウム1.3重量%を加え、さらに全体積に対して36体積%となるように平均孔径0.1μmの炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製)を同時に加え、ヘンシェルミキサーを用いて、回転数440rpmで150秒混合した。このとき、粉体の軽装かさ密度は約350g/Lであった。こうして得られた混合物を表面温度が150℃の一対の圧延ロールを用いて圧延を行い、速度比を変えた巻取りロールで引張りながら段階的に冷却し(ドロー比(巻取りロール速度/圧延ロール速度)1.4倍)、膜厚約29μmのシートを作成した。このシートを0.5重量%の非イオン系界面活性剤を含む塩酸(4mol/L)に浸漬させることで炭酸カルシウムを除去し、続いて100℃で6.2倍に横方向に延伸したのち、115℃(ポリオレフィン樹脂組成物の融点133℃−12℃)でアニールすることで第1の層132を得た。
【0083】
<1−5.比較例2>
比較例2のセパレータとして、市販品のポリオレフィン多孔質フィルム(ポリオレフィンセパレータ)を用いた。
【0084】
[2.二次電池の作製]
実施例1から3、および比較例1、2のセパレータを含む二次電池の作製方法を以下に記す。
【0085】
<2−1.正極>
LiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2/導電材/PVDF(重量比92/5/3)の積層をアルミニウム箔に塗布することにより製造された市販の正極を加工した。ここで、LiNi
0.5Mn
0.3Co
0.2O
2は活物質層である。具体的には、正極活物質層の大きさが45mm×30mmであり、かつその外周に幅13mmで正極活物質層が形成されていない部分が残るように、アルミニウム箔を切り取り、以下に述べる組立工程において正極として用いた。正極活物質層の厚さは58μm、密度は2.50g/cm
3、正極容量は174mAh/gであった。
【0086】
<2−2.負極>
黒鉛/スチレン−1,3−ブタジエン共重合体/カルボキシメチルセルロースナトリウム(重量比98/1/1)を銅箔に塗布することにより製造された市販の負極を加工した。ここで、黒鉛が負極活物質層として機能する。具体的には、負極活物質層の大きさが50mm×35mmであり、かつその外周に幅13mmで負極活物質層が形成されていない部分が残るように、銅箔を切り取り、以下に述べる組立工程において負極として用いた。負極活物質層の厚さは49μm、の密度は1.40g/cm
3、負極容量は372mAh/gであった。
【0087】
<2−3.組立>
ラミネートパウチ内で、正極、セパレータ、および負極をこの順で積層し、積層体を得た。この時、正極活物質層の上面の全てが負極活物質層の主面と重なるように、正極および負極を配置した。
【0088】
続いて、アルミニウム層とヒートシール層が積層で形成された袋状の筐体内に積層体を配置し、さらにこの筐体に電解液を0.25mL加えた。電解液として、濃度1.0mоl/LのLiPF
6をエチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネートおよびエチレンカーボネートの体積比が50:20:30の混合溶媒に溶解させた混合溶液を用いた。そして、筐体内を減圧しつつ、筐体をヒートシールすることにより、二次電池を作製した。二次電池の設計容量は20.5mAhとした。
【0089】
[3.評価]
実施例1から3、および比較例1、2のセパレータの各種物性、およびこれらのセパレータを含む二次電池の特性の評価結果を以下に述べる。
【0090】
<3−1.膜厚>
膜厚は、株式会社ミツトヨ製の高精度デジタル測長機を用いて測定した。
【0091】
<3−2.空隙率>
第1の層132を一辺の長さ10cmの正方形に切り取り、重量W(g)を測定した。以下の式に従い、膜厚D(μm)と重量W(g)から空隙率(体積%)を算出した。
空隙率(体積%)=(1−(W/比重)/(10×10×D/10000))×100
ここで、比重は超高分子量ポリエチレン粉末の比重である。
【0092】
<3−3.軽装かさ密度>
JIS R9301−2−3に準拠して測定した。
【0093】
<3−4.融点>
セパレータ約50mgをアルミニウム製パンに詰め、セイコーインスツルメンツ製示差走査熱量計EXSTAR6000を用いて、昇温速度20℃/minでDSC(Differencial Scanning Calorimetry)サーモグラムを測定した。140℃付近の融解ピークの頂点をセパレータの融点Tmとして得た。
【0094】
<3−5.動的粘弾性測定>
アイティーケー株式会社製動的粘弾性測定装置itk DVA−225を使用し、測定周波数10Hz、測定温度90℃の条件で、セパレータの動的粘弾性の測定を行った。
【0095】
具体的には、実施例1から3と比較例1、2のセパレータを流れ方向を長手方向とする5mm幅の短冊状に切出した試験片に対し、チャック間距離を20mmとして30cNの張力を与え、流れ方向のtanδ(MDtanδ)を測定した。同様に、セパレータから幅方向を長手方向とする5mm幅の短冊状に切出した試験片に対し、チャック間距離を20mmとて30cNの張力を与え、長手方向のtanδ(TDtanδ)を測定した。測定は室温から20℃/minの速度で昇温しながら行い、90℃に到達した時のtanδの値を用いてパラメータXを算出した。
【0096】
<3−6.落球試験>
図2(A)から
図2(C)に落球試験で用いる治具を示す。
図2(A)は、セパレータ130が載置される枠200の上面図であり、
図2(B)と
図2(C)はそれぞれ、枠200上にセパレータ130とSUSプレート204を設置した状態の上面図と側面図である。枠200は47mm×35mmの穴202を有し、85mm×65mmの矩形状である。枠200の上に85mm×65mmのサイズに切り取られたセパレータ130を載置した(
図2(C))。このとき、セパレータ130のMDが穴202の長辺と平行になるようにセパレータ130を載置した。次に、
図2(B)、
図2(C)に示されるように、枠200と同形状のSUSプレート204をセパレータ130の上に載置し、各辺の中央付近において、枠200とSUSプレート204とをクランプ(ノンツイストクランプ)206で固定した。
図2(C)に示されるように、セパレータ130が枠200とSUSプレート204とで挟持される。
【0097】
この状態で、穴の上方から直径14.3mm、重さ11.9g、表面粗さRaが0.016μmの鏡面の表面を有する球を自由落下させ、セパレータ130の破壊(破れ)の有無を確認した。この操作は複数回行い、各落球試験がごとに、新たなセパレータ130を用いて試験を行った。なお、上記球の表面粗さ(Ra)は、非接触表面計測システム(菱化システム社製、VertScan(登録商標) 2.0 R5500GML)を用い、以下の測定条件にて測定した。
対物レンズ:5倍(マイケルソン型)、中間レンズ:1倍、波長フィルター:530nm、CCDカメラ:1/3インチ、測定モード:Wave、データの補正:半径 7.15mmの球面近似。
【0098】
1回目の落球試験において自由落下させる球の高さ、すなわち、球を自由落下させる直前のセパレータ130と球の距離をh1とした。1回目の落球試験の結果、セパレータ130に破壊が確認された場合、2回目の落球試験における球の高さh2を(h1−5cm)とし、セパレータ130に破壊が確認されなかった場合、2回目の落球試験における球の高さh2を(h1+5cm)とした。このようにして、球の高さを変えながら落球試験を繰り返した。すなわち、k回目(kは1以上の整数)の落球試験においてセパレータ130と球の距離hkで評価した結果、セパレータ130に破壊が確認された場合、(k+1)回目の落球試験における球の高さhk+1を(hk−5cm)とし、セパレータ130に破壊が確認されなかった場合、(k+1)回目の落球試験における球の高さhk+1を(hk+5cm)とした。破壊が確認された落球試験の回数、および、破壊が確認されなかった落球試験の回数のいずれもが5回以上になるまで落球試験を繰り返し、破壊が確認された落球試験の中で最低の球の高さを最低高さとした。
【0099】
<3−7.切断加工性>
図3(A)、
図3(B)に切断加工性の評価方法を示す。
図3(A)に示すように、MD10cm、TD5cmに切断したセパレータ130の長辺の一辺をテープ210で固定した。そして、
図3(B)に示すように、カッターナイフ212を水平方向に対して80°の角度で保持した状態で約8cm/sの速度でTDに平行に動かし、セパレータ130を3cm切断し、切断状態を確認した(図中、点線矢印参照)。切断箇所において意図しない方向(MD)への裂けが確認されたものを−、裂けが確認されなかったものを+として評価を行った。カッターナイフ212はNTカッター製の品番A300を、カッター台はコクヨ製の品番マ−44Nを用いた。刃は試験ごとに交換し、替刃としてNTカッター製の品番BA−160を使用した。
【0100】
<3−8.ピン引き抜き試験>
セパレータ130をTD62mm×MD30cmの短冊状に切断し、MDの一方の端部に300gの重りを付けた状態で、他方の端部をステンレス定規(シン
ワ株式会社製 品番13131)に5回巻きつけた。ステンレス定規は長手方向の一端に曲げつまみを有しており、セパレータのTDとステンレス定規の長手方向とが平行となるようにセパレータ130を巻いた。その後、ステンレス定規を約8cm/sの速度で曲げつまみが形成されている側に引き抜き、抜けやすさの感度(抜け感度)を評価した。具体的には、抵抗を感じることなくスムーズに引き抜けた場合を+、わずかな抵抗を感じた場合を±、抵抗があり、引き抜きにくい感覚があった場合を−とした。
【0101】
ステンレス定規の引き抜く前と引き抜いた後における、5回巻きつけた部分のセパレータ130のTDの幅をノギスで測定し、その変化量(mm)を計算した。この変化量は、ステンレス定規とセパレータ130との摩擦によって、セパレータの巻き始めの部分がステンレス定規の引き抜き方向に動き、セパレータが螺旋状に変形したときの引き抜き方向への伸び量である。
【0102】
<3−9.ピン抜け抵抗>
図4(A)、
図4(B)は、セパレータ130の表面と他の部材との摩擦の大きさを示す、ピン抜け抵抗を測定するためのそり部材220を示す図である。
図4(A)、
図4(B)はそれぞれ、そり部材の底面図、側面図である。
図4(A)に示すように、そり部材220は、先端が曲率3mmの2つの突条222を底面に有している。突条222は、28mmの間隔を空けて、互いに平行になるように配置されている。
【0103】
図5に示すように、セパレータ130をTD6cm、MD5cmに切断し、セパレータ130のTDと突条222の方向とが一致するように、セパレータ130を突条222にテープで貼り付けた。
【0104】
次に、セパレータ130が下面に貼り付けられたそり部材220をフッ素樹脂で加工された板(シルバーストーン(登録商標)加工された板)224に載せた。そり部材220の上に、重り226を設置した。重り226とそり部材220との合計重量は1800gであった。
図5に示すように、セパレータ130は、そり部材220と板224との間に配置した。シルバーストーン加工は、高速度工具鋼SKH51の板に株式会社白水産業で実施した。シルバーストーン加工の厚みは20から30μm、ハンディーサーフで測定された表面粗さRaは0.8μmであった。
【0105】
そり部材220に糸(スーパーキャスト PE 投 2号(SUNLINE製))を取り付け、滑車228を介し、オートグラフ(株式会社島津製作所 品番AG−I)を用いて20mm/minの速度でそり部材220を引っ張り、その張力を測定した。この張力は、板224とセパレータ130間の摩擦を示している。測定開始地点から10mm進んだ地点の張力F(N)を用い、以下の式に従ってピン抜け抵抗を算出した。
ピン抜け抵抗=F×1000/(9.80665/1800)
【0106】
<3−10.内部抵抗増加量>
上述した方法で作製された二次電池の充放電サイクル前後の内部抵抗の増加量は、以下の要領で求めた。温度25℃において、電圧範囲4.1〜2.7V、電流値0.2C(1時間率の放電容量による定格容量を1時間で放電する電流値を1Cとする、以下も同様)を1サイクルとする充放電を二次電池に対して4サイクル行った。こののち、LCRメーター(日置電気製、ケミカルインピーダンスメーター:形式3532−80)を用い、室温25℃において、電圧を振幅10mVで二次電池に印加し、二次電池の交流インピーダンスを測定した。
【0107】
測定結果から、周波数10Hzの直列等価抵抗値(Rs
1:Ω)と、リアクタンスが0のときの直列等価抵抗値(Rs
2:Ω)を読み取り、その差分である抵抗値(R
1:Ω)を下式に従い算出した。
R
1(Ω)=Rs
1−Rs
2
ここで、Rs
1は、主に、セパレータをLi
+イオンが透過する際の抵抗(液抵抗)、正負極内の導電抵抗、および正極と電解液との界面を移動するイオンの抵抗の合計抵抗を示している。Rs
2は、主に液抵抗を示している。そのため、R
1は、正負極内内の導電抵抗、および正負極と電解液との界面を移動するイオンの抵抗との合計を示す。
【0108】
抵抗値R
1の測定後の二次電池に対し、55℃で電圧範囲4.2〜2.7V、充電電流値1C、放電電流値10Cの定電流を1サイクルとして、100サイクルの充放電サイクル試験を行った。その後、LCRメーター(日置電気製、ケミカルインピーダンスメーター:形式3532−80)を用い、室温25℃において、電圧を振幅10mVで二次電池に印加し、二次電池の交流インピーダンスを測定した。
【0109】
抵抗値R
1の算出と同様に、測定結果から周波数10Hzの直列等価抵抗値(Rs
3:Ω)、およびリアクタンスが0のときの直列等価抵抗(Rs
4:Ω)を読み取り、100サイクル後の正負極内の導電抵抗、および正負極と電解液との界面を移動するイオンの抵抗との合計を示す抵抗値(R
2:Ω)を下式に従い算出した。
R
2(Ω)=Rs
3−Rs
4【0110】
続いて、次式に従って充放電サイクル前後の内部抵抗の増加量を算出した。
充放電サイクル前後の内部抵抗の増加量[Ω]=R
2−R
1【0111】
[4.考察]
実施例1から3、比較例1、2のセパレータ、およびこれらのセパレータを用いて作製された二次電池の特性を表1にまとめる。表1に示されるように、実施例1から3の原料となるポリオレフィン樹脂組成物の軽装かさ密度は500g/Lと大きい。これは、超高分子量ポリエチレン粉末、ポリエチレンワックス、および酸化防止剤を均一に混合した後に、炭酸カルシウムを添加して再度混合を行ったために、超高分子量ポリエチレンや炭酸カルシウム、低分子量ポリオレフィン、酸化防止剤が均一に混合されたためと考えられる。これに対し比較例1では、ポリオレフィン樹脂組成物の軽装かさ密度が350g/Lと小さく、均一な混合が達成されていないことが示唆される。均一に混合されたポリオレフィン樹脂組成物を用いて成形されたシートを延伸した後アニールすることで、ポリエチレンの結晶がミクロレベルで等方的に発達するものと考えられる。そのため、実施例1から3のセパレータでは、tanδの異方性を示すパラメータXが20以下と小さくなっていることがわかる。なお、比較例2は市販品であるため、ポリオレフィン樹脂組成物の軽装かさ密度は不明である。
【0112】
また、実施例1から3のセパレータ130は、パラメータXが20以下であり、かつ、落球試験の最低高さが50cm以上150cm以下であることが確認された。これに対し比較例1や2のセパレータは、パラメータXが20以上であり、かつ最低高さは40cm以下と低い値にとどまっている。実施例1から3では、第1の層132の圧延時の膜厚が大きいために、比較例1、2よりもスキン層の割合が少なくなっていると考えられる。また、実施例1から3では、切断加工性および抜け感度が良好であり、引き抜き前後の幅の変化量が0.04mm以下と小さいことが確認できた。これは、上述したように、実施例1から3のセパレータ130は、比較例1や2のセパレータ130よりもスキン層の割合が少なく、MDとTDの配向バランスが適切な範囲であるためと考えられる。さらに比較例1、2では、ピン抜け抵抗が0.1を超えることが確認された。ピン抜け抵抗はセパレータ130の摩擦力と相関しており、捲回型の二次電池を組み立てる際のピンの抜けやすさを示す。このため、ピン抜け抵抗を小さくすることでピンに対する滑り性が向上し、これは二次電池の製造タクト時間の減少に寄与する。
【0113】
さらに、実施例1から3のセパレータ130を使用した場合、二次電池の内部抵抗増加量が小さいことが分かった。これに対し、比較例1、2のセパレータ130を使用した場合、二次電池の内部抵抗増加量が大きくなることが確認された。すなわち、パラメータXが20を境に内部抵抗は大きく変化しており、パラメータXが20以下である実施例1から3では、充放電サイクル試験前後の内部抵抗増加量が抑えられ、比較例1や2に比べて優れた結果を示すことが分かった。
【0114】
以上のことから、パラメータXが20以下であり、かつ、落球試験の最低高さが50cm以上150cm以下であるセパレータを用いることで、内部抵抗増加量が低い二次電池を歩留まり良く、かつ短い製造タクト時間で提供できることが分かった。したがって、本発明の実施形態を適用することで、信頼性の高い二次電池を高い生産性で提供することができる。
【0115】
【表1】
【0116】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。また、各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0117】
また、上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。