特許第6588204号(P6588204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6588204リチウムイオン二次電池用電極、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池用電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588204
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用電極、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/13 20100101AFI20191001BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20191001BHJP
【FI】
   H01M4/13
   H01M4/139
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-253111(P2014-253111)
(22)【出願日】2014年12月15日
(65)【公開番号】特開2016-115523(P2016-115523A)
(43)【公開日】2016年6月23日
【審査請求日】2017年10月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】590002817
【氏名又は名称】三星エスディアイ株式会社
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG SDI Co., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 忠佳
【審査官】 宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−229479(JP,A)
【文献】 特開2015−072753(JP,A)
【文献】 特開2016−066426(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0164079(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0321945(US,A1)
【文献】 特開平08−287954(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13− 4/1399
H01M 4/36− 4/62
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体上に設けられた活物質層と、
を備え、
前記活物質層は、
交互に縞状に並ぶ、複数の、第1の活物質パターン及び第2の活物質パターンと、
隣り合う前記第1の活物質パターンと前記第2の活物質パターンとの間に配置されたカーボン層と、
を有し、
前記カーボン層は、前記第1の活物質パターンの上面及び前記第2の活物質パターンの下面を覆い、
前記第2の活物質パターンを挟む位置におけるカーボン層同士の間隔は、1mmより大きく10mm未満である、
ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項2】
前記カーボン層は、前記活物質層を膜厚方向に貫くように設けられていることを特徴とする請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項3】
前記カーボン層は、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラックのうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のリチウムイオン二次電池用電極。
【請求項4】
正極、負極の少なくとも一方として、請求項1から3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項5】
負極として、請求項1から3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用電極を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池。
【請求項6】
集電体上に、活物質を含むスラリーを所定の間隔で縞状に塗布して、複数の第1の活物質パターンを形成し、
カーボン分散液を、少なくとも前記各第1の活物質パターンの側面を覆うように塗布して、前記各第1の活物質パターンの前記側面にカーボン層を形成し、
前記第1の活物質パターンの間に位置する前記集電体上に、前記スラリーを塗布して、複数の第2の活物質パターンを形成する、
ことを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用電極、リチウムイオン二次電池及びリチウムイオン二次電池用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電子機器、電気自動車、電力貯蔵用等の電源として高エネルギー(energy)密度を有し、高容量であるリチウムイオン(lithium ion)二次電池が広く利用されている。装置等の小型化、多機能化にしたがって装置の消費電力が増大しており、そのため、リチウムイオン二次電池の高容量化が強く求められている。要望に応じてリチウムイオン二次電池を高容量化するためには、電池内の活物質の割合を増やす必要がある。具体的には、電池内の活物質の割合を増やすために、活物質を厚く集電体に塗布し、活物質層を高密度化して電極を作製する。
【0003】
しかし、活物質を厚く集電体に塗布することにより、以下のような問題が顕著となる。充放電サイクルにおける活物質の体積変化により、集電体に応力がかかり、集電体から活物質が剥離しやすくなるという問題がある。この問題に対して、下記特許文献1では、活物質を縞状に集電体に塗布することにより、縞状の活物質の間に位置する空間によって応力を緩和させ、集電体からの活物質の剥離を防止している。
【0004】
また、活物質を厚く集電体に塗布し、活物質を乾燥させて電極を作製する際には、活物質が乾燥硬化する際に収縮することにより、活物質層にクラック(crack)が生じやすくなるという問題があった。この問題に対して、下記特許文献2では、粘度の異なる活物質塗布液を2回に分けて集電体に塗布し、活物質塗布液を乾燥させることにより、クラックの発生を抑制している。
【0005】
さらに、活物質層を厚く、高密度にすると、活物質層におけるリチウムイオン伝導が低下するという問題がある。リチウムイオン伝導が低下すると、特に活物質層の集電体側においてはリチウムイオンの授受が律速になり、充放電反応が進まずに容量が低下する。加えて、活物質層の深さ方向での充放電反応がより不均一になり、特に負極では充電時に負極表面にリチウム析出などの不可逆な反応が起こり、これによっても容量が低下する。この問題を解決するために、電極の活物質層内のイオン伝導を改善する取り組みが行われている。例えば、下記特許文献3では、活物質層に穴を形成し、穴によりリチウムイオンをスムーズに移動させることにより、活物質層内のイオン伝導を改善している。また、下記特許文献4では、活物質層に斜めの切り込みを入れて、活物質層の内部に吸収できる電解液の量を増加させることにより、活物質層内のイオン伝導を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2014−038795号公報
【特許文献2】特開2014−022220号公報
【特許文献3】特開2007−250510号公報
【特許文献4】特開2013−251147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜4に開示されたリチウムイオン二次電池においては、サイクル(cycle)寿命について満足できる値を得ることができなかった。具体的には、上記特許文献3のように活物質層に穴を形成した場合には、穴が形成された活物質層に対向する電極においては均一に充放電反応が行われないため、充放電サイクルにおいて電極の局部的な劣化が生じ、サイクル寿命として満足できる値を得ることができなかった。また、上記特許文献4のように斜めに切り込みを入れた活物質層の場合には、切れ込み部において電子伝導性が低下することから、均一に充放電反応が行われない。したがって、上記特許文献3と同様に、充放電サイクルにおいて電極の局部的な劣化が生じ、サイクル寿命として満足できる値を得ることができなかった。
【0008】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命を改善することが可能な、新規かつ改良されたリチウムイオン二次電池用電極を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、集電体と、前記集電体上に設けられた活物質層と、を備え、前記活物質層は、帯状に延びる複数の活物質パターンと、隣り合う前記活物質パターン間に配置された複数のカーボン層と、を有し、前記カーボン層同士の間隔は、1mmより大きく10mm未満である、ことを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極が提供される。
【0010】
前記カーボン層は、前記活物質層を膜厚方向に貫くように設けられてもよい。
【0011】
前記カーボン層は、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラックのうちの少なくとも1つを含んでもよい。
【0012】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、正極、負極の少なくとも一方として、上記リチウムイオン二次電池用電極を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池が提供される。
【0013】
また、上記課題を解決するために、さらなる本発明の別の観点によれば、負極として、上記リチウムイオン二次電池用電極を用いたことを特徴とするリチウムイオン二次電池が提供される。
【0014】
さらに、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、集電体上に、活物質を含むスラリーを所定の間隔で縞状に塗布して、複数の第1の活物質パターンを形成し、カーボン分散液を、少なくとも前記各第1の活物質パターンの側面を覆うように塗布して、前記各第1の活物質パターンの前記側面にカーボン層を形成し、前記第1の活物質パターンの間に位置する前記集電体上に、前記スラリーを塗布して、複数の第2の活物質パターンを形成する、ことを含むことを特徴とするリチウムイオン二次電池用電極の製造方法が提供される。
【0015】
本発明によれば、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命を改善することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
以上説明したように本発明によれば、リチウムイオン二次電池のサイクル寿命を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】リチウムイオン二次電池の構成を模式的に示す断面図である。
図2】本実施形態に係る電極を模式的に示す斜視図である。
図3】本実施形態に係る電極の模式的に示す拡大断面図である。
図4】本実施形態に係る電極の製造工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。また、図面は、発明の説明とその理解を促すための模式図であり、その形状や寸法、比などは実際の物とは異なる個所もあるが、これらは以下の説明と公知の技術を参酌して適宜、設計変更することができる。
【0019】
(リチウムイオン二次電池10の構成)
まず、図1に基づいて、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10の構成について説明する。図1は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10を厚み方向に切断した際の断面を模式的に示した図である。
【0020】
リチウムイオン二次電池10は、正極20と、負極30と、セパレータ(separator)層40とを備える。リチウムイオン二次電池10の充電到達電圧(酸化還元電位)は、例えば4.3V(vs.Li/Li)以上5.0V以下となる。また、リチウムイオン二次電池10の形態は、特に限定されない。すなわち、リチウムイオン二次電池10は、円筒形、角形、ラミネート(laminate)形、ボタン(button)形等のいずれであってもよい。
【0021】
負極30は、図1に示されるように、集電体31と負極活物質層32とを含む。正極20は、図1に示されるように、集電体21と正極活物質層22とを含む。なお、負極30及び正極20の詳細については、後で説明する。
【0022】
(セパレータ層40の構成)
セパレータ層40は、セパレータと電解液とを含む。セパレータは、特に制限されず、リチウムイオン二次電池のセパレータとして使用されるものであれば、どのようなものであってもよい。セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜、微多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。セパレータを構成する樹脂としては、例えばポリエチレン(polyethylene)、ポリプロピレン(polypropylene)等に代表されるポリオレフィン(polyolefin)系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(polyethylene terephthalate)、ポリブチレンテレフタレート(polybutylene terephthalate)等に代表されるポリエステル(polyester)系樹脂、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニリデン(VDF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル(par fluorovinyl ether)共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン(trifluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン(fluoroethylene)共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン(hexafluoroacetone)共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン(ethylene)共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン(propylene)共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン(trifluoro propylene)共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)−ヘキサフルオロプロピレン(hexafluoropropylene)共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン(ethylene)−テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)共重合体等を挙げることができる。
【0023】
非水電解液は、従来からリチウム二次電池に用いられる非水電解液と同様のものを特に限定することなく使用することができる。非水電解液は、非水溶媒に電解質塩を含有させた組成を有する。非水溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート(propylene carbonate)、エチレンカーボネート(ethylene carbonate)、ブチレンカーボネート(ethylene carbonate)、クロロエチレンカーボネート(chloroethylene carbonate)、フルオロエチレンカーボネート(fluoroEthylene carbonate)、ビニレンカーボネート(vinylene carbonate)等の環状炭酸エステル(ester)類;γ−ブチロラクトン(butyrolactone)、γ−バレロラクトン(valerolactone)等の環状エステル類;ジメチルカーボネート(dimethyl carbonate)、ジエチルカーボネート(diethyl carbonate)、エチルメチルカーボネート(ethyl methyl carbonate)等の鎖状カーボネート類;ギ酸メチル(methyl formate)、酢酸メチル(methyl acetate)、酪酸メチル(butyric acid methyl)等の鎖状エステル類;テトラヒドロフラン(tetrahydrofuran)またはその誘導体;1,3−ジオキサン(dioxane)、1,4−ジオキサン(dioxane)、1,2−ジメトキシエタン(dimethoxyethane)、1,4−ジブトキシエタン(dibutoxyethane)、メチルジグライム(methyl diglyme)等のエーテル(ether)類;アセトニトリル(acetonitrile)、ベンゾニトリル(benzonitrile)等のニトリル(nitrile)類;ジオキソラン(dioxolane)またはその誘導体;エチレンスルフィド(ethylene sulfide)、スルホラン(sulfolane)、スルトン(sultone)またはその誘導体等の単独またはそれら2種以上の混合物等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0024】
また、電解質塩としては、例えば、LiClO、LiBF、LiAsF、LiPF、LiPF6−x(CnF2n+1)x[但し、1<x<6,n=1or2]、LiSCN、LiBr、LiI、LiSO、Li10Cl10、NaClO、NaI、NaSCN、NaBr、KClO、KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CFSO、LiC(CSO、(CHNBF、(CHNBr、(CNClO、(CNI、(CNBr、(n−CNClO、(n−CNI、(CN−maleate、(CN−benzoate、(CN−phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム(stearyl sulfonic acid lithium)、オクチルスルホン酸リチウム(octyl sulfonic acid)、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム(dodecyl benzene sulphonic acid)等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。なお、電解質塩の濃度は、従来のリチウム二次電池で使用される非水電解液と同様でよく、特に制限はない。本実施形態では、適当なリチウム化合物(電解質塩)を0.8〜1.5mol/L程度の濃度で含有させた非水電解液を使用することができる。
【0025】
なお、非水電解液には、各種の添加剤を添加してもよい。このような添加剤としては、負極作用添加剤、正極作用添加剤、エステル系の添加剤、炭酸エステル系の添加剤、硫酸エステル系の添加剤、リン酸エステル系の添加剤、ホウ酸エステル系の添加剤、酸無水物系の添加剤、及び電解質系の添加剤等が挙げられる。これらのうちいずれか1種を非水電解液に添加しても良いし、複数種類の添加剤を非水電解液に添加してもよい。
【0026】
(負極30の構成)
図2を参照して、本発明の実施形態に係る負極30について説明する。図2は、本実施形態に係る負極30を厚み方向に切断した際の負極30を模式的に示す斜視図である。
【0027】
負極30は、図2に示すように、集電体31と、集電体31上に設けられた負極活物質層32とを有する。
【0028】
集電体31は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、銅、ステンレス(stainless)鋼、及びニッケルメッキ(nickel coated)鋼等で構成される。
【0029】
負極活物質層32は、集電体31の面方向に帯状に延びる複数の負極活物質パターン(pattern)33、34を有する。詳細には、負極活物質パターン33と負極活物質パターン34とは、集電体31上に交互に縞状に並ぶように設けられている。また、負極活物質パターン33と負極活物質パターン34との間にはカーボン(carbon)層35が設けられている。さらに、負極活物質パターン33の上面及び負極活物質パターン34の下面にも、カーボン層35が設けられている。なお、本実施形態においては、少なくとも負極活物質パターン33と負極活物質パターン34との間にカーボン層35が設けられていればよい。さらに、負極活物質パターン33と負極活物質パターン34との間に設けられたカーボン層35は、負極活物質層32を膜厚方向に貫くように設けられていることが好ましい。そして、この負極活物質パターン33と負極活物質パターン34との間に位置するカーボン層35同士の間隔Aは、1mmより大きく10mm未満であることが好ましい。
【0030】
負極活物質パターン33、34は、微粒子状の負極活物質及びバインダ(binder)が積層された集合体である。負極活物質パターン33、34は、さらに導電助剤を含んでもよい。負極活物質は、炭素系活物質を含む。炭素系活物質は、炭素(原子)を含み、かつ電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質である。炭素系活物質としては、例えば、黒鉛活物質(人造黒鉛、天然黒鉛、人造黒鉛と天然黒鉛との混合物、人造黒鉛を被覆した天然黒鉛等)等が挙げられる。
【0031】
前記バインダは、負極活物質の粒子を互いに良好に付着させ、また負極活物質を電流集電体に良好に付着させる役割を果たす。その代表的な例としては、ポリビニルアルコール(polyvinyl alcohol)、カルボキシメチルセルロース(carboxymethyl cellulose;CMC)、ヒドロキシプロピルセルロース(hydroxypropyl cellulose)、ポリ塩化ビニル(polyvinyl chloride)、カルボキシル化(carboxylation)されたポリ塩化ビニル、ポリビニルフルオライド(poly vinyl fluoride)、エチレンオキシド(ethylene oxide)を含むポリマー(polymer)、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)、ポリウレタン(polyurethane)、ポリテトラフルオロエチレン(polytetrafluoroethylene)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン(polyethylene)、ポリプロピレン(polypropylene)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、アクリル化(acrylic)スチレン−ブタジエンゴム、エポキシ樹脂(epoxy resin)、ナイロン(nylon)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0032】
負極活物質パターン33、34は、アセチレンブラック(acetylene black)、ケッチェンブラック(Ketjen black)、カーボンナノチューブ(carbon nanotube)からなる群から選択されるいずれか1種以上を含む導電助剤を含んでもよい。
【0033】
また、カーボン層35は、導電性を有するアセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック(carbon black)のうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0034】
さらに、図3を参照して、負極活物質層32を説明する。図3は、本実施形態に係る負極30を厚み方向に切断した際の断面の一部を拡大した図である。
【0035】
図3に示されるように、負極活物質層32に設けられた負極活物質パターン33及び負極活物質パターン34は、微粒子状の負極活物質37が積み重なり、圧縮されることにより形成されている。そして、負極活物質パターン33と負極活物質パターン34との間は、図3からわかるように、負極活物質パターン33、34の内部と比べて、負極活物質37同士の重なりが少ない。そのため、負極活物質パターン33と負極活物質パターン34との間のカーボン層35を通るイオンは、負極活物質37に邪魔されることなく、負極活物質層32の膜厚方向に沿って直線的にスムーズに移動することが可能である。したがって、イオンがスムーズに移動することができることから、負極活物質層32内でのイオン伝導が高まり、負極活物質層32内部での充放電反応が速やかに進むこととなる。その結果、負極30においては充放電反応がより均一に行われるため、負極30でのリチウム析出といった不可逆な反応を原因とするリチウムイオン二次電池10の容量の低下を避けることができ、リチウムイオン二次電池10のサイクル寿命を改善することができる。さらに、負極活物質パターン33と負極活物質パターン34との間には、カーボン層35が設けられている。負極活物質パターン33と負極活物質パターン34との間においては、負極活物質37同士の重なりが少ないことから、それを原因として負極活物質層32内の電子伝導性が低下する恐れがある。しかしながら、本実施形態においては、負極活物質パターン33と負極活物質パターン34との間に、導電性を持つアセチレンブラック等を含むカーボン層35を設けることにより、負極活物質37同士の重なりが少ないことを原因とした負極活物質層32の電子伝導性の低下を避けることができる。
【0036】
さらに、カーボン層35は、比表面積の大きいアセチレンブラック等を有するため、電解液に濡れやすい性質を持つ。したがって、電解液は、カーボン層35に導かれて、負極活物質パターン33と負極活物質パターン34との間にスムーズに浸透することができる。その結果、電解液に含まれるイオンが負極活物質パターン33と負極活物質パターン34との間をスムーズに移動することができ、負極活物質層32内でのイオン伝導をより高めることができる。
【0037】
一方、負極活物質パターン33、34の内部においては、微粒子状の負極活物質37同士の間に微小な隙間が点在しており、これらの微細な隙間が連結することにより、イオンが負極活物質層32内を移動するための移動経路38を形成している。そして、この負極活物質パターン33、34内部のイオン移動経路38は、微粒子状の負極活物質37の輪郭に沿って曲がりくねった形状をしているため、イオンがこのイオン移動経路38を通って負極活物質パターン33、34内部を負極活物質層32の膜厚方向に移動する場合には、イオンは負極活物質37を避けながら蛇行することとなる。したがって、イオンがイオン移動経路38を通る場合は、負極活物質パターン33と負極活物質パターン34との間のカーボン層35を通る場合と比べて、イオンがスムーズに移動することが難しい。それに対して、本実施形態においては、負極活物質層32内にイオンの拡散経路及び電子移動経路としてのカーボン層35を設けており、このカーボン層35においては、負極活物質37同士の重なりが少ないことから、イオンは、負極活物質37に邪魔されることなく直線的にスムーズ移動することが可能である。
【0038】
(正極20の構成)
次に、本実施形態に係る正極20について説明する。正極20は、以下に説明する事項以外は本実施形態に係る負極30と同様に構成される。したがって、ここでは、負極30と共通する事項については説明を省略する。なお、正極20の形態は、負極30と同様であり、図2及び図3によって示すことができる。これらの図においては、正極20の集電体21は負極30の集電体31に対応し、正極活物質層22は負極活物質層32に対応し、正極活物質パターンは負極活物質パターン33、34に対応し、正極20におけるカーボン層は負極30におけるカーボン層35に対応し、正極活物質は負極活物質37に対応する。
【0039】
正極20の集電体21は、導電体であればどのようなものでも良く、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、及びニッケルメッキ鋼等で構成される。
【0040】
正極活物質パターンは、微粒子状の正極活物質を少なくとも含み、導電剤と、バインダとをさらに含んでいてもよい。正極活物質は、例えばリチウムを含む固溶体酸化物であるが、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵及び放出することができる物質であれば特に制限されない。固溶体酸化物は、例えば、LiaMnxCoyNizO(1.150≦a≦1.430、0.45≦x≦0.6、0.10≦y≦0.15、0.20≦z≦0.28)、LiMnxCoyNizO(0.3≦x≦0.85、0.10≦y≦0.3、0.10≦z≦0.3)、LiMn1.5Ni0.5、Li1.20Mn0.55Co0.10Ni0.15となる。
【0041】
導電剤は、例えばケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック、天然黒鉛、人造黒鉛等であるが、正極の導電性を高めるためのものであれば特に制限されない。
【0042】
バインダは、例えばポリフッ化ビニリデン(polyvinylidene fluoride)、エチレンプロピレンジエン(ethylene−propylene−diene)三元共重合体、スチレンブタジエンゴム(styrene−butadiene rubber)、アクリロニトリルブタジエンゴム(acrylonitrile−butadiene rubber)、フッ素ゴム(fluororubber)、ポリ酢酸ビニル(polyvinyl acetate)、ポリメチルメタクリレート(polymethylmethacrylate)、ポリエチレン(polyethylene)、ニトロセルロース(cellulose nitrate)等であるが、正極活物質及び導電剤を集電体21上に結着させることができるものであれば、特に制限されない。
【0043】
なお、上述においては、正極20の正極活物質層22は、負極30と同様に、帯状に延びる複数の正極活物質パターンを有するものとして説明したが、正極20はこのような形態でなくてもよく、本実施形態においては、正極20及び負極30の少なくとも一方が、上述のようなパターンを有する活物質層を有していればよい。
【0044】
(負極30の製造方法)
図4を参照して、本実施形態に係る負極30の製造方法について説明する。図4は、本実施形態に係る負極30の各製造工程における負極30を厚み方向に切断した際の断面を模式的に示した図を示す。
【0045】
まず、負極活物質37及びバインダ等を乾式混合することで負極合剤を作製する。次いで、負極合剤を適当な溶媒に分散させることで粘度を調整し、スラリー(slurry)状の負極合剤スラリーを作製する。さらに、カーボン層35を形成するためのカーボン分散液を作製する。具体的には、アセチレンブラック等の炭素材料を適当な溶媒に分散させることでカーボン分散液を作製する。
【0046】
そして、図4(a)に示されるように、上記負極合剤スラリーを集電体31の片面上に所定の間隔で縞状に塗布する。この際、ノズル(nozzle)を用いて塗布してもよいし、筆で描くように集電体31上に塗布してもよい。この際、間隔が1mmより大きく10mm未満になるように、縞状に負極合剤スラリーを塗布することが好ましい。さらに、負極合剤スラリーを送風型乾燥機等を用いて乾燥させ、負極活物質パターン33を形成する。
【0047】
次に、上記カーボン分散液を塗布する。負極活物質パターン33の側面を少なくとも覆うように、カーボン分散液をノズル等を用いて塗布する。なお、図4(b)に示されるように、集電体31の片面全体に、すなわち負極活物質パターン33の上面及び側面、および負極活物質パターン33の間に位置する集電体31の片面上に、カーボン分散液を塗布してもよい。さらに、送風型乾燥機等を用いてカーボン分散液を乾燥させることにより、少なくとも負極活物質パターン33の側面にカーボン層35を形成する。
【0048】
さらに、図4(c)に示されるように、負極活物質パターン33の間に位置する集電体31の片面上に、負極活物質パターン33と重ならないように、上記負極合剤スラリーを縞状に塗布する。さらに、送風型乾燥機等を用いて乾燥させ、負極活物質パターン33の間に負極活物質パターン34を形成する。
【0049】
さらに、負極活物質パターン33、34を所望の密度になるように圧延した後、再度、送風型乾燥機等を用いて乾燥させ、負極30を作製する。
【0050】
(正極20の製造方法)
正極20についても、負極30と同様に作成することができる。すなわち、正極活物質及びバインダ等を乾式混合することで正極合剤を作製する。ついで、正極合剤を適当な有機溶媒に分散させることで正極合剤スラリーを作製する。その後の工程については、負極30の製造方法と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0051】
(リチウムイオン二次電池10の製造方法)
本実施形態に係る正極20及び負極30を適当な大きさに切断し、セパレータ層40を挟むことで、電極構造体を作製する。次いで、電極構造体を所望の形態(例えば、円筒形、角形、ラミネート形、ボタン形等)に加工し、当該形態の容器に挿入する。次いで、当該容器内に上記組成の電解液を注入することで、セパレータ内の各気孔に電解液を含浸させる。これにより、リチウムイオン二次電池10が作製される。
【0052】
なお、上記のリチウムイオン二次電池10では、その正極及び負極として本実施形態に係る正極20及び負極30を用いているが、正極及び負極の少なくとも一方として本実施形態に係る正極20又は負極30を用いてもよい。なお、本実施形態においては、負極として本実施形態に係る負極30を用いることが好ましい。
【実施例】
【0053】
以下では、実施例及び比較例を示しながら、本発明の実施形態に係る負極30及びそれを用いたリチウムイオン二次電池10について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池10のあくまでも一例であって、本発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池10が下記の例に限定されるものではない。
【0054】
<負極30の作製>
以下の方法により、実施例1〜4及び比較例1〜4に係る負極30を作製した。
【0055】
(実施例1)
天然黒鉛98重量%、バインダとしてCMC1.0重量%、SBR1.0重量%を混合し、更に塗布に適した粘度調整のために水を加えて負極合剤スラリーを作製した。さらに、アセチレンブラック5重量%、水75重量%、エタノール20重量%からなるカーボン分散液を作製した。上記負極合剤スラリーを集電体31である銅箔の片面に縞状に塗布し、80℃に設定した送風型乾燥機で15分乾燥し、負極活物質パターン33を形成した。この際、縞の間隔(負極活物質パターン33の間隔)を2mmとした。次に、カーボン分散液を集電体31の上面全体に塗布し、80℃に設定した送風型乾燥機で15分乾燥して、カーボン層35を形成した。次に、負極活物質パターン33の間に、負極活物質パターン33と重ならないようにして上記負極合剤スラリーを塗布し、80℃に設定した送風型乾燥機で15分乾燥して、負極活物質パターン33の間に負極活物質パターン34を形成した。所定の密度になるように、負極活物質パターン33、34を圧延した後、150℃で6時間真空乾燥し、負極30を作製した。負極30の負極活物質層32の充填密度は1.60g/ccであった。
【0056】
(実施例2)
縞の間隔(負極活物質パターン33の間隔)を3mmとしたこと以外は実施例1と同様にして負極30を作製した。
【0057】
(実施例3)
縞の間隔(負極活物質パターン33の間隔)を5mmとしたこと以外は実施例1と同様にして負極30を作製した。
【0058】
(比較例1)
比較例1においては、負極合剤スラリーを縞状に塗布せず、且つ、カーボン分散液を塗布しない。すなわち、比較例1では、負極合剤スラリーを集電体31である銅箔の片面全体に均一に塗布し、乾燥すること以外は実施例1と同様にして負極30を作製した。
【0059】
(比較例2)
カーボン分散液を塗布しないこと以外は実施例1と同様にして負極30を作製した。
【0060】
(比較例3)
カーボン分散液を塗布しないこと、および縞の間隔(負極活物質パターン33の間隔)を10mmとしたこと以外は実施例1と同様にして負極30を作製した。
【0061】
(比較例4)
縞の間隔(負極活物質パターン33の間隔)を10mmとしたこと以外は実施例1と同様にして負極30を作製した。
【0062】
(比較例5)
縞の間隔(負極活物質パターン33の間隔)を1mmとしたこと以外は実施例1と同様にして負極30を作製した。
【0063】
<負極30の強度評価>
実施例1〜3及び比較例4、5に係る圧延後の負極30に対して、JIS K5600のクロスカット法を用いて負極活物質層32の強度についての評価を行った。実施例1〜3及び比較例4に係る負極30においては分類2という結果が得られたが、比較例5に係る負極30においては分類3という結果が得られた。(結果の分類については、下記表1を参照。)すなわち、縞の間隔が2mm〜10mmまでの実施例1〜3及び比較例4に係る負極30は、縞の間隔が1mmの比較例5に係る負極30と比べて、負極活物質層32の強度が高いことがわかった。この理由としては、以下のことが考えられる。負極活物質パターン33と負極活物質パターン34との間のカーボン層35においては、微粒子状の負極活物質37同士の重なりが少ないため、負極活物質層32が崩れやすい。したがって、縞の間隔、すなわち負極活物質パターン33と負極活物質パターン34との間のカーボン層35同士の間隔Aを狭くして、負極活物質層32内に上記カーボン層35を多く分布させると、負極活物質層32が崩れやすくなるため、負極活物質層32の強度が低くなったと考えられる。負極活物質層32の強度が低下すると、リチウムイオン二次電池10の製造工程において活物質脱落が生じる原因となり、リチウムイオン二次電池10の製造工程における不良率を引き上げる可能性がある。さらに、リチウムイオン二次電池10の充放電サイクル寿命においても、負極活物質層32の強度が低下することにより、充放電に伴う活物質の体積変化により負極活物質37が集電体31から脱落しやすくなることにつながり、その結果、サイクル寿命が低下することが予想される。したがって、負極活物質パターン33と負極活物質パターン34との間のカーボン層35同士の間隔Aは、負極活物質層32の強度を低下させることを避けるように、1mmより大きいことが望ましい。
【0064】
【表1】
【0065】
<コインセルの作製>
実施例1〜3及び比較例1〜4に係る負極30を用いてコインセル(coin cell)を作製した。
【0066】
(正極20の作製)
まず、正極20を作製した。固溶体酸化物Li1.20Mn0.55Co0.10Ni0.15 96重量%、ケッチェンブラック2重量%、ポリフッ化ビニリデン2重量%をN−メチル−2−ピロリドン(N-Methyl-2-Pyrrolidone)に分散させ、正極合剤スラリーを作製した。さらに、上記正極合剤スラリーを、集電体21であるアルミニウム箔上全体に均一に塗工し、80℃に設定した送風型乾燥機で15分乾燥した。その後、集電体21を圧延し、100℃で6時間真空乾燥し、正極20を作製した。正極20の正極活物質層22の充填密度は3.0g/ccであった。
【0067】
(コインセルの作製)
上記正極20を直径13mm、実施例1〜3及び比較例1〜4に係る負極30を直径15.5mmに切断し、直径19mmの厚さ25μmのポリエチレン微多孔膜からなるセパレータ40を正極20と負極30との間に挟み、CR2032コインセル電池ケースに収容した。そして、電池ケースに、非水電解液(1.5MのLiPF エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/フルオロエチレンカーボネート=10/70/20混合溶液(体積比))を注入し、密閉して、実施例1〜4及び比較例1〜3に係るリチウムイオン二次電池10を作製した。
【0068】
<リチウムイオン二次電池10の評価>
実施例1〜3及び比較例1〜4に係るリチウムイオン二次電池10の放電レート特性及びサイクル特性を以下のように評価した。
【0069】
(放電レート特性の評価)
実施例1〜3及び比較例1〜4に係るリチウムイオン二次電池10を25℃で5mAの定電流で4.2Vまで充電し、4.2V定電圧で電流値が0.1mAとなるまで充電した後、10分の休止を入れ、5mAの定電流で2.75Vとなるまで放電した。次に前記と同様に充電し、10mAの定電流で2.75Vとなるまで放電した。そして、5mA定電流における放電容量に対する10mA定電流における放電容量の比(100分率)を求めた。
【0070】
(サイクル特性の評価)
実施例1〜3及び比較例1〜4に係るリチウムイオン二次電池10を、25℃で1It=5mAの定電流で4.2Vまで充電し、4.2V定電圧で1/50It=0.1mAとなるまで充電した後、10分の休止を入れ、1It=5mAの定電流で2.75Vとなるまで放電した。このときの放電容量を1サイクル目の放電容量とし、充放電サイクルを100回繰り返し、1サイクル目の放電容量に対する100サイクル目の放電容量の比(100分率)を求めた。
【0071】
実施例1〜3及び比較例1〜4に係るリチウムイオン二次電池10の放電レート特性及びサイクル特性を、負極30の負極活物質層32の構成とともに、以下の表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
上記表2からわかるように、実施例1〜3に係るリチウムイオン二次電池10の放電レート特性及びサイクル特性は、比較例1〜4に比べて向上している。
【0074】
具体的には、実施例1〜3の放電レート特性は、比較例1と比べて向上している。これは、実施例1〜3に係る負極30の負極活物質層32内部での充放電反応が速やかに進んでいることを示す。実施例1〜3に係る負極30においては、負極活物質層32内にパターン及びカーボン層35が設けられており、そのため、負極活物質層32内のイオン伝導が比較例1に比べて高くなり、充放電反応が速やかに進んだものと考えられる。さらに、充放電反応が速やかに進んでいることから、実施例1〜3に係る負極30においては充放電反応がより均一に行われることとなり、負極30でのリチウム析出といった不可逆な反応を原因とするリチウムイオン二次電池10の容量の低下が抑制される。その結果、実施例1〜3に係るリチウムイオン二次電池10のサイクル特性は、比較例1に比べて向上したものと考えられる。
【0075】
次に、縞の間隔(負極活物質パターン33の間隔)が同じである実施例及び比較例の放電レート特性及びサイクル特性を検討する。実施例1及び比較例2は、縞の間隔(負極活物質パターン33の間隔)が2mmである点で共通するが、カーボン層35を有する実施例1の放電レート特性及びサイクル特性は、カーボン層35の無い比較例2と比べて向上している。これは、先に説明したように、カーボン層35は、比表面積の大きいカーボンブラック等を有するため、電解液に濡れやすい。したがって、電解液中のリチウムイオンがカーボン層35を通って負極活物質パターン33、34の間にスムーズに移動することができる。加えて、電子がカーボン層35を通って負極活物質パターン33、34の間をスムーズに移動することができるため、カーボン層35を有する実施例1の放電レート特性及びサイクル特性は、カーボン層35の無い比較例2と比べて向上したと考えられる。このように、実施例1においては、カーボン層35がイオン拡散経路及び電子移動経路として機能しているものと考えられる。
【0076】
また、縞の間隔(負極活物質パターン33の間隔)が10mmである点で共通する比較例3及び比較例4においては、カーボン層35を有する比較例4の放電レート特性及びサイクル特性は、カーボン層35の無い比較例3と同程度となっている。さらに、比較例3及び比較例4の放電レート特性及びサイクル特性は、負極活物質パターン33、34及びカーボン層35の無い比較例1と同程度となっている。これは、縞の間隔(負極活物質パターン33の間隔)が10mmの場合には、間隔が大きくなったことにより、パターンを形成することによる効果及びカーボン層35による効果が小さくなったためと考えられる。
【0077】
さらに、上記表2からわかるように、実施例1〜3においては、縞の間隔、すなわち負極活物質パターン33と負極活物質パターン34との間のカーボン層35同士の間隔Aを狭くするほど、放電レート特性及びサイクル特性が向上している。これは、先に説明したように、イオンの拡散経路及び電子移動経路としてのカーボン層35が増えるため、負極活物質層32内のイオン伝導が高くなって充放電反応が速やかに進み、負極30における充放電反応がより均一に行われるためであると考えられる。このカーボン層35による効果は、すなわち負極活物質パターン33と負極活物質パターン34との間のカーボン層35同士の間隔Aが10mm程度となると顕著に現れにくくなるため、カーボン層35同士の間隔Aは10mm未満であることが望ましい。
【0078】
そして、上記の結果から、カーボン層35同士の間隔Aが狭くなるほど、すなわちイオン拡散経路及び電子移動経路としてのカーボン層35が増えるほど、電極の充放電反応が均一におこり、放電レート、サイクル特性が改善されると考えられる。しかしながら、カーボン層35同士の間隔Aが狭くなると、先に説明したように、負極活物質層32の強度が低下する傾向にある。したがって、カーボン層35同士の間隔Aは、負極活物質層32の強度を低下させることを避けるように、1mmより大きいことが望ましい。
【0079】
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10は、活物質層内にイオン拡散経路及び電子移動経路としてのカーボン層35が設けられていることから、活物質層内のイオン伝導が高く、電極での充放電反応を速やかに進めることができる。したがって、充放電反応がより均一に行われ、電極における反応不均一による劣化等を原因とする容量低下を抑制することができ、その結果、リチウムイオン二次電池10のサイクル寿命を改善することができる。
【0080】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0081】
10 リチウムイオン二次電池
20 正極
21、31 集電体
22 正極活物質層
35 カーボン層
38 イオン移動経路
30 負極
32 負極活物質層
33、34 活物質パターン
37 活物質
40 セパレータ層
図1
図2
図3
図4