特許第6588247号(P6588247)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588247
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】マルチワイヤーソー
(51)【国際特許分類】
   B23H 7/10 20060101AFI20191001BHJP
   B23H 7/02 20060101ALI20191001BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   B23H7/10 D
   B23H7/02 Q
   B23H7/10 B
   B24B27/06 Q
【請求項の数】1
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-123115(P2015-123115)
(22)【出願日】2015年6月18日
(65)【公開番号】特開2017-7004(P2017-7004A)
(43)【公開日】2017年1月12日
【審査請求日】2018年4月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100089118
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】松原 政幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 将昭
(72)【発明者】
【氏名】淵山 正毅
【審査官】 柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−140088(JP,A)
【文献】 特開平07−204941(JP,A)
【文献】 特開2014−181125(JP,A)
【文献】 特開昭56−082131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 7/10
B23H 7/02
B23H 7/06
B24B 27/06
B23D 57/00
B28D 5/04
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤと、互いに平行な回転軸を備えワイヤが複数回巻き掛けられるガイドローラ群と、該ガイドローラ群に巻き掛けられるワイヤの張力を調整する調整手段と、該ガイドローラ群に巻き掛けられたワイヤによって切断される被加工物を固定する固定基台と、固定した被加工物をワイヤに切り込む方向に移動させる移動手段と、を備えるマルチワイヤーソーであって、
該調整手段は、
ワイヤが巻き掛けられる調整ローラと、
該調整ローラの回転速度を制御する回転速度制御手段と、
巻き掛けられたワイヤを該調整ローラに供給する供給ローラと、を備え、
該供給ローラは、
回転軸方向におけるワイヤの位置を適宜変更し、該調整ローラに巻き掛けられるワイヤの位置が固定されるのを防ぐワイヤ移動手段を備え
該ワイヤ移動手段は、
該供給ローラに形成されるワイヤを案内するガイド溝であって、
該ガイド溝の少なくとも一部は該供給ローラの回転軸方向に対し斜めに形成されていることを特徴とするマルチワイヤーソー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチワイヤーソーに関する。
【背景技術】
【0002】
円柱状インゴットからウェーハを切り出す場合等における切断手段として、砥粒を用いたマルチワイヤーソーが知られている(特許文献1)。また、ワイヤーソーを用いて放電加工を行うマルチワイヤ放電加工装置もある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9−94755号公報
【特許文献2】特開2011−140088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マルチワイヤーソーは、案内するワイヤの張力を調整する調整ローラを備えているものがある。調整ローラは、ワイヤの張力を調整するため、ワイヤと強い力で接触する。そのため、ワイヤと調整ローラとがお互いに悪影響を与える恐れがある。
【0005】
そこで、本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、調整ローラとワイヤとが互いに与える悪影響を小さくすることができるマルチワイヤーソーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、ワイヤと、互いに平行な回転軸を備えワイヤが複数回巻き掛けられるガイドローラ群と、該ガイドローラ群に巻き掛けられるワイヤの張力を調整する調整手段と、該ガイドローラ群に巻き掛けられたワイヤによって切断される被加工物を固定する固定基台と、固定した被加工物をワイヤに切り込む方向に移動させる移動手段と、を備えるマルチワイヤーソーであって、該調整手段は、ワイヤが巻き掛けられる調整ローラと、該調整ローラの回転速度を制御する回転速度制御手段と、巻き掛けられたワイヤを該調整ローラに供給する供給ローラと、を備え、該供給ローラは、回転軸方向におけるワイヤの位置を適宜変更し、該調整ローラに巻き掛けられるワイヤの位置が固定されるのを防ぐワイヤ移動手段を備え、該ワイヤ移動手段は、該供給ローラに形成されるワイヤを案内するガイド溝であって、該ガイド溝の少なくとも一部は該供給ローラの回転軸方向に対し斜めに形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のマルチワイヤーソーでは、調整ローラの回転軸方向において、調整ローラに接触するワイヤの位置を移動させることができる。これにより、調整ローラの一部にワイヤが接触し続け、負荷が集中することを抑制でき、調整ローラとワイヤとが互いに与える悪影響を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、マルチワイヤ放電加工装置の構成例を示す概略図である。
図2図2は、マルチワイヤ放電加工装置の被加工物の周辺を拡大して示す概略斜視図である。
図3図3は、張力調整ユニットの概略構成を示す模式図である。
図4図4は、張力調整ユニットの動作を説明するための説明図である。
図5図5は、変形例の張力調整ユニットの概略構成を示す模式図である。
図6図6は、変形例の張力調整ユニットの動作を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成は適宜組み合わせることが可能である。また、本発明の要旨を逸脱しない範囲で構成の種々の省略、置換又は変更を行うことができる。
【0011】
〔実施形態〕
実施形態に係るマルチワイヤ放電加工装置の構成例について説明する。図1は、マルチワイヤ放電加工装置の構成例を示す概略図である。図2は、マルチワイヤ放電加工装置の被加工物の周辺を拡大して示す概略斜視図である。マルチワイヤ放電加工装置1は、図1に示すように、ワイヤRによりインゴットIを放電加工するものであり、繰り出しボビン20、巻き取りボビン21、ガイドローラ部(ガイドローラ群)30、張力調整ユニット80及び張力調整ユニット90を備えている。
【0012】
繰り出しボビン20には、未使用のワイヤRが一定量巻き回されている。ワイヤRは、切断面が円形に形成され、芯部と、芯部の周面を被覆する被覆部とから構成されている。芯部は、高純度の鋼であり、例えばピアノ線である。被覆部は、黄銅やタングステン、モリブデンなどの芯部より放電しやすい電気抵抗の低い材料で形成されている。ワイヤRの直径は、例えば、100μm〜140μm程度である。もちろん、ワイヤRの直径は、100μm〜140μmに限定されず、例えば100μm〜200μmでもよい。また、ワイヤRは、高純度の鋼である芯部と、黄銅やタングステン、モリブデンなどの被覆部とから構成されても、黄銅のみから形成されてもよい。また、ワイヤRは、その切断面が円形である例を説明したが、円形以外であってもよい。例えば、ワイヤRは、その切断面が楕円形や多角形であってもよい。
【0013】
繰り出しボビン20は、ガイドローラ部30に向けてワイヤRを繰り出す。張力調整ユニット80は、繰り出しボビン20とガイドローラ部30との間に配置され、ワイヤRが巻きかけられている。張力調整ユニット80については、後述する。ガイドローラ部30は、繰り出しボビン20の近傍に配設され、繰り出しボビン20から繰り出されたワイヤRを案内する。ガイドローラ部30は、複数のガイドローラ30a〜30jから構成されている。ガイドローラ30a〜30jは、円柱状に形成され、ワイヤRが走行する方向に間隔をおいて配設されている。
【0014】
ガイドローラ30a,30bは、繰り出しボビン20の近傍に配設され、繰り出しボビン20により繰り出され、張力調整ユニット80を通過したワイヤRを巻き掛けてワイヤRをガイドローラ30c〜30iに向けて送り出す。
【0015】
ガイドローラ30c〜30iは、並列ワイヤ部310を構成し、ワイヤRを環状に支持するように配設されている。例えば、並列ワイヤ部310のガイドローラ30c,30d,30e,30g,30h,30iは、環状のワイヤRを内側から支持し、ガイドローラ30fは、環状に構成された並列ワイヤ部310のワイヤRに対して外側から支持するように配設されている。並列ワイヤ部310は、図2に示すように、ガイドローラ30a,30bにより送り出されたワイヤRを軸方向(Y軸方向)に一定の間隔をあけて複数回巻き掛ける。並列ワイヤ部310のワイヤRは、例えば、軸方向に0.5mm〜数mm程度の間隔をあけてガイドローラ30c〜30iに8周巻き掛けられている。
【0016】
ここで、Y軸方向は、ガイドローラ30a〜30jの軸方向である。X軸方向は、Y軸方向と水平面上で直交する方向である。Z軸方向は、X軸方向及びY軸方向に直交する方向、本実施形態では、鉛直方向である。
【0017】
並列ワイヤ部310において、ガイドローラ30cは、ガイドローラ30bにより送り出されたワイヤRを巻き掛けてガイドローラ30dに送り出す。ガイドローラ30dは、ガイドローラ30cにより送り出されたワイヤRを巻き掛けてガイドローラ30eに送り出す。ガイドローラ30eは、ガイドローラ30dにより送り出されたワイヤRを巻き掛けてガイドローラ30fに送り出す。ガイドローラ30fは、ガイドローラ30eにより送り出されたワイヤRを巻き掛けてガイドローラ30gに送り出す。ガイドローラ30gは、ガイドローラ30fにより送り出されたワイヤRを巻き掛けてガイドローラ30hに送り出す。ガイドローラ30hは、ガイドローラ30gにより送り出されたワイヤRを巻き掛けてガイドローラ30iに送り出す。ガイドローラ30iは、ガイドローラ30hにより送り出されたワイヤRを巻き掛けてガイドローラ30cに送り出す。これで、並列ワイヤ部310を構成するガイドローラ30c〜30iに1周巻き掛けられたことになる。ワイヤRは、軸方向に0.5mm〜数mm程度の間隔をあけつつ並列ワイヤ部310のガイドローラ30c〜30iに残り7周巻き掛けられる。並列ワイヤ部310は、8周巻き掛けられた最後のワイヤRをガイドローラ30jに送り出す。
【0018】
ガイドローラ30jは、巻き取りボビン21の近傍に配設され、並列ワイヤ部310から送り出されたワイヤRを巻き掛けて巻き取りボビン21に送り出す。巻き取りボビン21は、ガイドローラ30jから送り出された使用済みのワイヤRを巻き取って回収する。張力調整ユニット90は、ガイドローラ部30と巻き取りボビン21との間に配置され、ワイヤRが巻き掛けられている。張力調整ユニット90については、後述する。
【0019】
なお、繰り出しボビン20、巻き取りボビン21及びガイドローラ30a〜30jは、図示しないモータによって回転駆動される。全てのガイドローラ30a〜30jをモータ駆動とする必要はなく、例えば、並列ワイヤ部310を構成しないガイドローラ30a,30b,30jを従動ローラとしてもよい。ガイドローラ30a〜30jに巻き掛けられたワイヤRが走行する速度は、0.5m/sec〜1m/sec程度である。
【0020】
並列ワイヤ部310のワイヤRは、一対のガイドローラ30g,30hによりZ軸方向に沿って一定のテンションを有して張設されている。ガイドローラ30g,30hにより張設されたワイヤRは、インゴットIをウェーハにスライスする切断ワイヤ部320を構成する。切断ワイヤ部320のワイヤRは、Z軸方向に沿って上向きへ走行する。
【0021】
インゴットIは、円柱形状であり、切断ワイヤ部320のワイヤRの間隔で円板状にスライスされる。インゴットIは、導電性がある材料であり、SiC、単結晶ダイヤ、シリコン、GaN(窒化ガリウム)等から形成される。
【0022】
切断ワイヤ部320の近傍には、インゴットIを支持する支持機構40が設けられている。支持機構40は、基台部41と、支持柱42と、駆動手段43とを備えている。基台部41は、インゴットIを固定するものである。基台部41は、基台41aと、基台41aに固定された板状のサブストレート41bとを備えている。サブストレート41bの前面41cには、インゴットIの周面Iaが導電性接着剤Bにより接着されて固定される。インゴットIは、その端面Ieが切断ワイヤ部320のワイヤRが走行するZ軸方向と略平行になるように基台部41のサブストレート41bに固定される。
【0023】
支持柱42は、棒状に形成されており、Z軸方向に立設されている。支持柱42は、一端に基台部41が固定され、他端に駆動手段43が固定されている。駆動手段43は、インゴットIとワイヤRとをX軸方向に相対移動させるものである。例えば、駆動手段43は、X軸方向に沿って延在される図示しないボールねじと、パルスモータ等で構成される駆動源とを有する。駆動手段43は、ボールねじのナットに固定された支持柱42をX軸方向に沿って移動させ、支持柱42に固定された基台部41のインゴットIを切断ワイヤ部320のワイヤRに切り込ませる。
【0024】
マルチワイヤ放電加工は、誘電体である水や油などの加工液Fの中で実施される。切断ワイヤ部320は、加工液Fが貯留された加工槽50の中に浸漬されている。加工槽50の中で、加工液Fに浸漬された切断ワイヤ部320のワイヤRがインゴットIを加工する。
【0025】
加工槽50は、上面に開口部53を有している。基台部41は、開口部53から加工層50の内部に挿入される。基台部41は、加工槽50に対してX軸方向に往復移動が可能となる。ガイドローラ30fにより送り出されたワイヤRは、開口部53から加工槽50の内部に進入する。加工槽50の内部に進入したワイヤRは、加工槽50内に配設されたガイドローラ30gにより開口部53から加工槽50の外部に送り出される。
【0026】
マルチワイヤ放電加工装置1は、ワイヤRとインゴットIに給電する給電機構60を備えている。給電機構60は、高周波パルス電源ユニット61と、ワイヤ用電極62と、図示しない基台用電極とを備えている。
【0027】
高周波パルス電源ユニット61は、ワイヤRと、基台部41に固定されたインゴットIとに高周波パルス電力を供給する。例えば、高周波パルス電源ユニット61は、高周波パルス電力の電圧を調整する電圧調整手段61aと、高周波パルス電力の周波数を所定の周波数に調整するパルス調整手段61bとを備えている。高周波パルス電源ユニット61は、ワイヤ用電極62に接続され、ワイヤ用電極62を介して高周波パルス電力をワイヤRに供給する。ワイヤ用電極62は、棒状に形成され、ガイドローラ30hとガイドローラ30iとの間に張設されるワイヤRに当接されている。また、高周波パルス電源ユニット61は、基台部41に固定される基台用電極に接続され、基台部41を介して高周波パルス電力をインゴットIに供給する。
【0028】
高周波パルス電源ユニット61から高周波パルス電力を供給して、ワイヤRとインゴットIとの極間に電圧を印加すると、ワイヤRは、正面に配置されたインゴットIに対して放電を行う。例えば、加工液F中で絶縁状態にあるインゴットIとワイヤRの間隔が数十μm位まで近づくと、両者の絶縁が破壊されて放電が発生する。この放電によってインゴットIが加熱されて溶融され、さらに液体の温度が急激に上昇することにより液体が気化し、体積膨張によって溶融箇所を飛散させる。このように、ワイヤRとインゴットIとの極間に電圧を印加することで、インゴットIを溶融すると共に飛散させる処理を断続的に行ってインゴットIの放電加工を実施する。
【0029】
マルチワイヤ放電加工装置1は、繰り出しボビン20、巻き取りボビン21、ガイドローラ30a〜30j、駆動手段43及び高周波パルス電源ユニット61を制御する制御手段70を備えている。制御手段70は、繰り出しボビン20、巻き取りボビン21及びガイドローラ30a〜30jにモータ駆動信号を出力し、ワイヤRの繰り出しや巻き取り、ワイヤRの案内をするように制御する。また、制御手段70は、駆動手段43にモータ駆動信号を出力してインゴットIを切断ワイヤ部320のワイヤRに切り込ませるように制御する。また、制御手段70は、高周波パルス電源ユニット61に制御信号を出力して高周波パルス電力の出力時間などを制御する。
【0030】
次に、張力調整ユニット80、90について説明する。図3は、張力調整ユニットの概略構成を示す模式図である。図4は、張力調整ユニットの動作を説明するための説明図である。なお、図3及び図4は、一部のガイドローラを省略している。
【0031】
張力調整ユニット80は、繰り出しボビン20とガイドローラ30aとの間に配置されている。張力調整ユニット80は、供給ローラユニット81と調整ローラユニット82とを有する。張力調整ユニット80は、ワイヤRの移動方向の上流から供給ローラユニット81、調整ローラユニット82の順で配置されている。
【0032】
供給ローラユニット81は、繰り出しボビン20から繰り出されたワイヤRを調整ローラユニット82に供給する。供給ローラユニット81は、回転軸81aと、供給ローラ81bと、を有する。回転軸81aは、筐体等に回転自在の状態で支持されている。供給ローラ81bは、ワイヤRが巻き掛けられる。供給ローラ81bは、回転軸81aに固定され、回転軸81a周りに回転する。これにより供給ローラ81bは、巻き掛けられているワイヤRの移動に従動して回転する。供給ローラ81bは、ワイヤRと接触する外周面に回転方向に沿ってガイド溝81cが形成されている。ガイド溝81cは、外周面の全周に形成され、繋がった1つの輪になっている。ガイド溝81cは、回転方向に沿って移動すると、回転軸81a方向の位置が変化する。つまり、ガイド溝81cは、供給ローラ81bの回転軸方向に対し斜めに形成されている。具体的には、回転軸81aの軸方向において、ガイド溝81cの一方の端部と他方の端部とが距離d離れている。距離dは、6mmが例示される。ガイド溝81cは、一部に回転軸81a方向と直交する部分があってもよい。
【0033】
調整ローラユニット82は、調整ローラ82aと、回転速度制御手段82bとを有する。調整ローラ82aは、表面にすべり止め手段82cが設けられている。すべり止め手段82cは、ワイヤRとの力を向上させる部材であり、摩擦抵抗が高い材料、例えばシリコーン樹脂で形成されている。回転速度制御手段82bは、調整ローラ82aに連結しており、調整ローラ82aの回転速度を制御する。
【0034】
張力調整ユニット90は、ガイドローラ30jと巻き取りボビン21との間に配置されている。張力調整ユニット90は、供給ローラユニット91と調整ローラユニット92と従動ローラ93とを有する。張力調整ユニット90は、ワイヤRの移動方向の上流から供給ローラユニット91、調整ローラユニット92、従動ローラ93の順で配置されている。供給ローラユニット91、調整ローラユニット92は、供給ローラユニット81、調整ローラユニット82と同様の機能を備えている。供給ローラユニット91は、調整ローラユニット92にワイヤRを供給する。調整ローラユニット92は、調整ローラの回転数を調整することで、上流側のガイドローラ部30に巻き掛けられているワイヤRの張力を調整する。従動ローラ93は、調整ローラユニット92と巻き取りボビン21との間に配置され、ワイヤRが巻き掛けられている。従動ローラ93は、巻き掛けられているワイヤRの移動に従動して回転する。
【0035】
次に、マルチワイヤ放電加工装置の動作例について説明する。先ず、オペレータは、基台部41にインゴットIを固定し、加工槽50内に加工液Fを貯留して、加工情報を登録する。マルチワイヤ放電加工装置1は、加工動作の開始指示があった場合に、加工動作を開始する。加工動作において、制御手段70は、高周波パルス電源ユニット61を制御し、高周波パルス電力をワイヤRとインゴットIに供給する。また、制御手段70は、繰り出しボビン20からワイヤRを繰り出し、ガイドローラ部30によりワイヤRを案内させて一定の速度でワイヤRを走行させる。
【0036】
ワイヤRは、ガイドローラ30bにより並列ワイヤ部310に送り出される。並列ワイヤ部310に送り出されたワイヤRは、切断ワイヤ部320でインゴットIを放電加工する。例えば、制御手段70は、駆動手段43を制御し、インゴットIを切断ワイヤ部320のワイヤRに向けて移動させ、ワイヤRとインゴットIとの極間に電圧を印加して放電加工を実施し、インゴットIに加工溝を形成する。例えば、インゴットIとワイヤRとが接近すると放電が発生し、インゴットIが溶融されて飛散される処理が断続的に行われ、インゴットIに加工溝が形成される。
【0037】
また、マルチワイヤ放電加工装置1は、例えば、ガイドローラ部30のワイヤの経路にワイヤの張力を計測する計測手段を設け、計測手段の計測結果に基づいて、張力調整ユニット80、90の動作を制御し、ワイヤの張力を調整する。計測装置としては、ワイヤが巻き付けられるローラを設け、ローラにかかる力から張力を計測する手段がある。
【0038】
ここで、張力調整ユニット80、90は、調整ローラユニット82、92の調整ローラの回転速度を回転速度制御手段で調整することで、調整ローラユニット82と調整ローラユニット92との間のワイヤRの張力を調整する。これにより、インゴットIと対面する位置のワイヤの張力を調整することができる。例えば、調整ローラユニット82は、調整ローラ82aの回転速度を速くすることで、張力を低くすることができる。調整ローラユニット82は、調整ローラ82aの回転速度を遅くすることで、張力を高くすることができる。調整ローラユニット92は、調整ローラの回転速度を速くすることで、張力を高くすることができる。調整ローラユニット92は、調整ローラの回転速度を遅くすることで、張力を低くすることができる。調整ローラユニット82と調整ローラユニット92との間のワイヤRの張力を調整することで、ガイドローラ部30とワイヤとの間に異物が挟まったり、ワイヤ表面の形状が変化してガイドローラ部30によるグリップ状態が変化した場合でもワイヤの張力を調整することができ、張力の変化を抑制することができる。これにより、ワイヤの振動や破断を抑制する事ができる。
【0039】
また、張力調整ユニット80は、繰り出しボビン20から繰り出されたワイヤRが供給ローラ81bに巻き掛けられる。供給ローラ81bに巻き付けられたワイヤRは、ガイド溝81cに案内される。供給ローラ81bを通過したワイヤRは、調整ローラ82aのすべり止め手段82cが設けられている面に巻き掛けられる。これにより、図3及び図4に示すように、供給ローラ81bの回転方向の向きにより、回転軸81a方向のガイド溝81cの位置が変化し、供給ローラ81bを通過したワイヤの回転軸81a方向の位置が周期的に変化する。これにより、調整ローラ82aに到達するワイヤRの回転軸方向の位置が周期的に変化し、調整ローラ82aのワイヤRが接触する回転軸方向の位置が周期的に変化する。なお、供給ローラ81bと調整ローラ82aの直径は異なっている。
【0040】
本実施形態のマルチワイヤ放電加工装置1は、供給ローラ81bに設けたガイド溝81cが回転軸方向におけるワイヤの位置を適宜変更し、調整ローラ82aに巻き掛けられるワイヤの位置が固定されるのを防ぐワイヤ移動手段となる。マルチワイヤ放電加工装置1は、回転軸方向の位置が変化するガイド溝81cを設けることで調整ローラの回転軸に直交する方向において、調整ローラに接触するワイヤの位置を移動させることができる。これにより、調整ローラの一部にワイヤが接触し続け、負荷が集中することを抑制でき、調整ローラとワイヤとが互いに与える悪影響を小さくすることができる。例えば、すべり止め手段82cの表面が損傷することを抑制できる。また、すべり止め手段82cの表面が損傷することを抑制できることで、損傷したすべり止め手段82cとワイヤRが接触することを抑制でき、ワイヤRが損傷することを抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態のようにワイヤの移動に応じて移動するガイド溝81cをワイヤ移動手段とすることで、動力を設けずに、回転軸方向のワイヤの位置を移動させることができる。
【0042】
本実施形態では、ガイドローラ部30の上流と下流のそれぞれに張力調整ユニット80、90を設けたが、張力調整ユニット80、90のいずれか一方のみを設けてもよい。
【0043】
[変形例]
図5は、変形例の張力調整ユニットの概略構成を示す模式図である。図6は、変形例の張力調整ユニットの動作を説明するための説明図である。図5及び図6に示す張力調整ユニット180は、供給ローラユニット181と調整ローラユニット82とを有する。調整ローラユニット82は、張力調整ユニット80の調整ローラユニット82と同様の構成である。張力調整ユニット180は、ワイヤRの移動方向の上流から供給ローラユニット181、調整ローラユニット82の順で配置されている。
【0044】
供給ローラユニット181は、繰り出しローラユニット20から繰り出されたワイヤRを調整ローラユニット82に供給する。供給ローラユニット181は、回転軸181aと、供給ローラ181bと、回転軸移動機構181dと、を有する。回転軸181aは、筐体等に回転自在の状態で支持されている。供給ローラ181bは、ワイヤRが巻き掛けられる。供給ローラ181bは、回転軸181aに固定され、回転軸181a周りに回転する。供給ローラ181bは、ローラRと接触する外周面に回転方向に沿ってガイド溝181cが形成されている。ガイド溝181cは、外周面の全周に形成され、繋がった1つの輪になっている。ガイド溝181cは、回転方向に沿って移動しても、回転軸181b方向に対する向きが変化しない。つまり、ガイド溝181cは、供給ローラの回転軸方向に対して直交する向きに形成されている。回転軸移動機構181dは、回転軸181aを回転自在の状態で、かつ、回転軸181aを回転軸方向に移動可能な状態で支持している。回転軸移動機構181dは、回転軸181aを回転軸方向に移動させる。回転軸移動機構181dは、回転軸181a軸方向において、回転軸181aを距離dの範囲で移動させる。距離dは、6mmが例示される。
【0045】
張力調整ユニット180は、回転軸移動機構181dで回転軸181aを回転軸方向に移動させることで、また、供給ローラ181bを通過したワイヤの軸方向の位置を移動させる。これにより、張力調整ユニット180は、張力調整ユニット80と同様に、回転軸方向において、調整ローラユニット82に接触するワイヤの位置を変化させることができる。なお、回転軸移動機構181dは、回転軸181aを連続して往復移動させてもよいし、一定時間ごとに回転軸方向の位置をステップ移動させてもよい。
【0046】
本実施形態では、マルチワイヤーソーが、放電加工を行うマルチワイヤ放電加工装置の場合としたがこれに限定されない。マルチワイヤーソーは、ワイヤに砥石が付着し、ワイヤと被加工物を接触させることで、被加工物を加工するマルチワイヤ加工装置としてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 マルチワイヤ放電加工装置
30a〜30j ガイドローラ
320 切断ワイヤ部
40 支持機構
50 加工槽
60 給電機構
80、90 張力調整ユニット
81、91 供給ローラユニット
81a 回転軸
81b 供給ローラ
81c ガイド溝
82、92 調整ローラユニット
82a 調整ローラ
82b 回転速度制御手段
93 従動ローラ
F 加工液
I インゴット
D 加工溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6