特許第6588339号(P6588339)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588339
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂硬化剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/50 20060101AFI20191001BHJP
【FI】
   C08G59/50
【請求項の数】2
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-553518(P2015-553518)
(86)(22)【出願日】2014年12月12日
(86)【国際出願番号】JP2014083053
(87)【国際公開番号】WO2015093417
(87)【国際公開日】20150625
【審査請求日】2017年10月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-259291(P2013-259291)
(32)【優先日】2013年12月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591252862
【氏名又は名称】ナミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】山田 和義
【審査官】 尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−501258(JP,A)
【文献】 特表2011−506679(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00− 59/72
C08L 63/00− 63/10
C08F 293/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度170℃〜220℃の条件下で、1時間〜16時間かけて(A)芳香族アミン硬化剤に(B)アクリルブロック共重合体を溶解させることを特徴とするエポキシ樹脂硬化剤の製造方法。
【請求項2】
(B)アクリルブロック共重合体は、(C)重合体ブロックA−(D)重合体ブロックBで構成されるジブロック共重合体、または(C)重合体ブロックA−(D)重合体ブロックB−(C)重合体ブロックAで構成されるトリブロック共重合体であり、
(A)芳香族アミン硬化剤に(B)アクリルブロック共重合体を溶解させることにより、(B)アクリルブロック共重合体を構成する(C)重合体ブロックAの一部が加水分解されてカルボン酸に修飾され、修飾された前記カルボン酸の一部と(A)芳香族アミン硬化剤とが脱水縮合されてアミド化合物に修飾されたエポキシ樹脂硬化剤を生成することを特徴とする請求項1記載のエポキシ樹脂硬化剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エポキシ樹脂硬化剤、エポキシ樹脂組成物、エポキシ樹脂硬化物、及びエポキシ樹脂硬化剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、優れた耐熱性、機械特性、電気特性及び接着性を有する。エポキシ樹脂は、この特性を活かし、配線基板、回路基板やこれらを多層化した回路板、半導体チップ、コイル、電気回路等の封止材料に使用される。或いは、エポキシ樹脂は、接着剤、塗料、繊維強化樹脂用の樹脂としても使用される。
【0003】
しかし、エポキシ樹脂は一般に脆いため、硬化剤による硬化時や使用時の応力歪、熱、力学的な衝撃等によって容易にクラックが発生するという問題がある。
【0004】
このような問題に対し、ポリブタジエン、ポリブタジエンアクリロニトリル共重合体、ポリシロキサン、アクリルブロック共重合体等のゴム弾性エラストマーを導入することにより、エポキシ樹脂を強靱化することが行われている。しかしながら、このようなゴム弾性エラストマーは、エポキシ樹脂との相溶性が悪く、形成される相分離構造のサイズが大きくなる。更に、このようなゴム弾性エラストマーを導入したエポキシ樹脂は、十分な強靱性や弾性が得られない。
【0005】
たとえば、特許文献1には、液状エポキシ樹脂、アミン硬化剤、アクリル樹脂、および無機充填剤を含有する液状封止樹脂組成物が記載されている。しかし、特許文献1の液状封止樹脂組成物は、相分離構造のサイズが大きく、また弾性率が低いという問題がある。
【0006】
或いは、特許文献2には、エポキシ樹脂、アミン硬化剤、アクリルブロック共重合体を含有する硬化性樹脂組成物(樹脂硬化物)が記載されている(特に実施例13〜15参照)。しかし、特許文献2に示される実施例の結果から明らかなように、硬化剤としてフェノールノボラック樹脂を用いる場合に比べ、アミン硬化剤を用いた樹脂硬化物は、破壊靭性値が低いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2012/046636号
【特許文献2】国際公開第2009/101961号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前述の問題点を解決するためになされたものであり、強靭性及び弾性を有するエポキシ樹脂硬化物を生成するための技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、エポキシ樹脂に対し、アミン硬化剤にアクリルブロック共重合体を溶解させた硬化剤を用いることにより、エポキシ樹脂硬化物の強靭性を高めつつ、弾性を保つことができることを見出した。本発明は、これらの発見に基づき、完成されたものである。
【0010】
本発明は、以下の通りである。
請求項1記載のエポキシ樹脂硬化剤は、(A)アミン硬化剤に(B)アクリルブロック共重合体が溶解している。
請求項2記載のエポキシ樹脂硬化剤は、請求項1記載のエポキシ樹脂硬化剤であって、加熱により、100部の(A)アミン硬化剤に対し1〜100部の(B)アクリルブロック共重合体が溶解している。
請求項3記載のエポキシ樹脂硬化剤は、請求項1または2記載のエポキシ樹脂硬化剤であって、(B)アクリルブロック共重合体の重量平均分子量が、30000〜200000である。
請求項4記載のエポキシ樹脂硬化剤は、請求項1〜3のいずれか一つに記載のエポキシ樹脂硬化剤であって、(B)アクリルブロック共重合体は、(C)重合体ブロックA−(D)重合体ブロックBで構成されるジブロック共重合体、または(C)重合体ブロックA−(D)重合体ブロックB−(C)重合体ブロックAで構成されるトリブロック共重合体である。
請求項5記載のエポキシ樹脂硬化剤は、請求項4記載のエポキシ樹脂硬化剤であって、(B)アクリルブロック共重合体における(C)重合体ブロックAの含有割合が10〜70重量%である。
請求項6記載のエポキシ樹脂硬化剤は、請求項4または5に記載のエポキシ樹脂硬化剤であって、(C)重合体ブロックAの一部はカルボン酸に修飾され、修飾されたカルボン酸の一部はアミド化合物に修飾されている。
請求項7記載のエポキシ樹脂硬化剤は、請求項4〜6のいずれか一つに記載のエポキシ樹脂硬化剤であって、(C)重合体ブロックAは、ポリメタクリル酸メチルである。
請求項8記載のエポキシ樹脂硬化剤は、請求項4〜7のいずれか一つに記載のエポキシ樹脂硬化剤であって、(D)重合体ブロックBは、ポリアクリル酸n−ブチルである。
請求項9記載のエポキシ樹脂硬化剤は、請求項1〜8のいずれか一つに記載のエポキシ樹脂硬化剤であって、(A)アミン硬化剤は、芳香族アミン硬化剤である。
請求項10記載のエポキシ樹脂組成物は、請求項1〜9のいずれか一つに記載のエポキシ樹脂硬化剤、及び(E)エポキシ樹脂を含む。
請求項11記載のエポキシ樹脂組成物は、請求項10記載のエポキシ樹脂組成物であって、無機フィラーを含む。
請求項12記載のエポキシ樹脂硬化物は、(A)アミン硬化剤に(B)アクリルブロック共重合体が溶解しているエポキシ樹脂硬化剤、及び(E)エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物を硬化させたものである。(B)アクリルブロック共重合体は、(C)重合体ブロックA−(D)重合体ブロックBで構成されるジブロック共重合体または(C)重合体ブロックA−(D)重合体ブロックB−(C)重合体ブロックAで構成されるトリブロック共重合体である。また、当該エポキシ樹脂硬化物中において、(D)重合体ブロックBは、1μm未満のサイズで相分離している。
請求項13記載のエポキシ樹脂硬化剤の製造方法は、温度170℃〜220℃の条件下で、1時間〜16時間かけて(A)アミン硬化剤に(B)アクリルブロック共重合体を溶解させる。
請求項14記載のエポキシ樹脂硬化剤の製造方法は、請求項13記載のエポキシ樹脂硬化剤の製造方法であって、(A)アミン硬化剤に(B)アクリルブロック共重合体を溶解させることにより、(B)アクリルブロック共重合体を構成する(C)重合体ブロックAの一部が加水分解されてカルボン酸に修飾され、修飾された前記カルボン酸の一部と(A)アミン硬化剤とが脱水縮合されてアミド化合物に修飾されたエポキシ樹脂硬化剤を生成する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のエポキシ樹脂硬化剤は、(A)アミン硬化剤に(B)アクリルブロック共重合体を溶解させたものである。このようなエポキシ樹脂硬化剤により硬化したエポキシ樹脂硬化物は、強靭性及び弾性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】電界放射型走査電子顕微鏡を使用して、実施例8の相分離構造を撮影した写真である。
図1B】電界放射型走査電子顕微鏡を使用して、実施例8の相分離構造を撮影した写真である。
図2A】電界放射型走査電子顕微鏡を使用して、実施例9の相分離構造を撮影した写真である。
図2B】電界放射型走査電子顕微鏡を使用して、実施例9の相分離構造を撮影した写真である。
図3A】電界放射型走査電子顕微鏡を使用して、実施例10の相分離構造を撮影した写真である。
図3B】電界放射型走査電子顕微鏡を使用して、実施例10の相分離構造を撮影した写真である。
図4】電界放射型走査電子顕微鏡を使用して、比較例5の相分離構造を撮影した写真である。
図5】上面から可視光が照射された実施例8のエポキシ樹脂硬化物を撮影した写真である。
図6】上面から可視光が照射された比較例5のエポキシ樹脂硬化物を撮影した写真である。
図7】実施例12、14、15及び比較例6の反応性を示すグラフである。
図8】実施例17及び比較例7の反応性を示すグラフである。
図9】電界放射型走査電子顕微鏡を使用して、実施例13の相分離構造を撮影した写真である。
図10】電界放射型走査電子顕微鏡を使用して、実施例14の相分離構造を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、(A)アミン硬化剤に(B)アクリルブロック共重合体が溶解しているエポキシ樹脂硬化剤である。エポキシ樹脂硬化剤は、(E)エポキシ樹脂を硬化させるために使用される。本発明の樹脂組成物(樹脂硬化物)は、(E)エポキシ樹脂を主成分とするエポキシ樹脂組成物(エポキシ樹脂硬化物)である。
【0014】
[アミン硬化剤]
(A)アミン硬化剤は、(E)エポキシ樹脂を硬化できるものであれば構造は限定されない。(A)アミン硬化剤は、たとえば、脂肪族アミン硬化剤、芳香族アミン硬化剤を用いることが可能である。
【0015】
芳香族アミン硬化剤は、たとえば、ジアミノジフェニルメタン(4,4'−メチレンジアニリン、MDA)、m−フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)、ジエチルトルエンジアミン(DETDA)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、3,3'−ジエチル−4,4'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−メチレンビス(N−メチルアニリン)、トリメチレンビス(4−アミノベンゾエート)、ポリテトラメチレンオキシド−ジ−P−アミノベンゾエート、メチレンビス(2−エチル−6−メチルアニリン)、4,4'−メチレンビス(2,6−ジメチルアニリン)、4,4'−メチレンビス(2,6−ジエチルアニリン)等が挙げられる。特に、常温で液状であるジエチルトルエンジアミン、及び3,3'−ジエチル−4,4'−ジアミノジフェニルメタンなどは、(B)アクリルブロック共重合体との混合が容易であるため好ましい。(A)アミン硬化剤は、1種類単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0016】
[アクリルブロック共重合体]
(B)アクリルブロック共重合体は、(A)アミン硬化剤に溶解できるものであれば構造は限定されない。(B)アクリルブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は、30000〜200000であることが好ましい。(B)アクリルブロック共重合体は、(C)重合体ブロックA−(D)重合体ブロックBで構成されるジブロック共重合体、または(C)重合体ブロックA−(D)重合体ブロックB−(C)重合体ブロックAで構成されるトリブロック共重合体であることが好ましい。(B)アクリルブロック共重合体は、1種類単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0017】
(C)重合体ブロックAは、剛直性を備える(ハードセグメント)。(B)アクリルブロック共重合体における(C)重合体ブロックAの含有割合は、10〜70重量%であることが好ましい。重合体ブロックAの含有割合が高いと、エポキシ樹脂硬化物の破壊靱性値の向上が図れない。一方、重合体ブロックAの含有割合が少ないと、エポキシ樹脂との相溶性が低下する。
【0018】
(C)重合体ブロックAとしては、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸プロピル、ポリメタクリル酸n−ブチル、ポリメタクリル酸グリシジル等が挙げられる。(C)重合体ブロックAは、ポリメタクリル酸メチルであることが好ましい。(C)重合体ブロックAは、修飾された重合体ブロック(たとえば、メタクリル酸メチルを水溶性モノマーで修飾したコポリマー)を用いることも可能である。
【0019】
(D)重合体ブロックBは、伸縮性(柔軟性)を備える(ソフトセグメント)。(D)重合体ブロックBとしては、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸n−ブチル、ポリアクリル酸オクチルおよびポリアクリル酸2−エチルヘキシル等が挙げられる。(D)重合体ブロックBは、ポリアクリル酸n−ブチルであることが好ましい。
【0020】
[エポキシ樹脂硬化剤]
本発明におけるエポキシ樹脂硬化剤は、(A)アミン硬化剤に(B)アクリルブロック共重合体を溶解させたものである。エポキシ樹脂硬化剤は、(E)エポキシ樹脂を硬化し得るものであって、(A)アミン硬化剤に(B)アクリルブロック共重合体を溶解させたものであれば、構造は特に限定されない。また、本発明の効果が達成される範囲であれば、他の硬化剤や共重合体を併用してもよい。
【0021】
(B)アクリルブロック共重合体の(A)アミン硬化剤への溶解は、加熱の条件下、所定時間をかけて行うことが好ましい。たとえば、温度170℃〜220℃の条件下で、1時間〜16時間かけて(A)アミン硬化剤に(B)アクリルブロック共重合体を溶解させることが好ましい。より好ましくは、温度190℃〜200℃で加熱する。加熱する際の温度は、(A)アミン硬化剤の沸点を超えないように設定することが好ましい。また、(A)アミン硬化剤と(B)アクリルブロック共重合体を混合する場合、100部の(A)アミン硬化剤に対し、1〜100部の(B)アクリルブロック共重合体が溶解していることが好ましい。この割合で混合されたエポキシ樹脂硬化剤は、当該エポキシ樹脂硬化剤を用いて得られるエポキシ樹脂硬化物の弾性率の低下を抑制する。
【0022】
[エポキシ樹脂]
本発明における(E)エポキシ樹脂は、一分子中にエポキシ基を2個以上有するものであれば、分子量や構造は限定されるものではない。(E)エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジン、ジアミノジフェニルメタン型グリシジルアミン、アミノフェノール型グリシジルアミンなどの芳香族グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、 卜リフェノールメタン型エポキシ樹脂、 卜リフェノールプロパン型エポキシ樹脂、アルキル変性卜リフェノールメタン型エポキシ樹脂、 卜リアジン核含有エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン変性フェノール型エポキシ樹脂、ナフ卜ール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレンおよび/またはビフェニレン骨格を有するナフ卜ールアラルキル型エポキシ樹脂などのアラルキル型エポキシ樹脂、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、アリサイクリックジエポキシーアジペイドなどの脂環式エポキシなどの脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられる。(E)エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂硬化剤との混合が容易となることから、液状が好ましい。具体的には、(E)エポキシ樹脂は、室温で液状のビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましい。(E)エポキシ樹脂は、1種類単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよい。また、本発明の効果が達成される範囲であれば、他の樹脂を併用してもよい。
【0023】
[エポキシ樹脂組成物及びエポキシ樹脂硬化物]
本発明におけるエポキシ樹脂組成物は、上述のエポキシ樹脂硬化剤、及び(E)エポキシ樹脂を含む。エポキシ樹脂組成物の製造方法は、上述のエポキシ樹脂硬化剤と(E)エポキシ樹脂とが均一に混合した組成物を得ることができる方法であれば、特に限定されない。
【0024】
更に、エポキシ樹脂組成物は、充填剤として、無機フィラ―を含有してもよい。また、エポキシ樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で必要に応じて添加剤等を含有してもよい。
【0025】
本発明におけるエポキシ樹脂硬化物は、上述のエポキシ樹脂組成物を硬化させたものである。本発明におけるエポキシ樹脂硬化物は、ミクロ相分離構造を有する。ミクロ相分離構造とは、複数の種類の異なるポリマー成分が互いに相溶することなく、ミクロなサイズ(1μm未満:ポリマーが粒状の場合には、その最大径のサイズ、線状の場合には、線状の最大径のサイズ。線状の最大径とは、相分離している線状構造に外接する円の直径である)で混在している構造をいう。ミクロ相分離構造を有するエポキシ樹脂硬化物は、破壊靭性値が高い。また、ミクロ相分離構造はソフトセグメントである重合体ブロックBが均一に分散しているため、ミクロ相分離構造を有するエポキシ樹脂硬化物は、弾性を有する。本発明におけるエポキシ樹脂硬化物の製造方法は、ミクロ相分離構造が形成されるものであれば、特に限定されない。
【0026】
より具体的には、ミクロ相分離構造は、エポキシ樹脂硬化物中において(D)重合体ブロックBが1μm未満のサイズで相分離している構造をいう。(D)重合体ブロックBは、典型的には、数nm〜500nmのサイズで相分離している。更に、(D)重合体ブロックBは、200nm以下のサイズで相分離していることが好ましい。
【0027】
なお、マクロ相分離構造とは、複数の種類の異なるポリマー成分が、互いに相溶することなくマクロなサイズ(1〜1000μm:ポリマーが粒状の場合には、その最大径のサイズ、線状の場合には、線状の最大径のサイズ)で混在している構造をいう。
【0028】
エポキシ樹脂硬化物の相分離構造の測定は、ミクロ相分離構造、マクロ相分離構造を確認することができれば、特に限定されない。たとえば、相分離構造の測定は、エポキシ樹脂硬化物の表面を染色剤(たとえば、四酸化ルテニウム(RuO4))により染色し、電界放射型走査電子顕微鏡(Field Emission−Scanning Electron Microscope、FE−SEM)で観察する方法がある。なお、染色剤として四酸化ルテニウムを用いる場合、重合体ブロックBは染色されるが、重合体ブロックAは染色されない。すなわち、一部の重合体ブロックのみを染色する染色剤を用いた場合には、相分離構造の測定とは、染色された重合体ブロックが相分離しているサイズを測定することとなる。
【0029】
本発明におけるエポキシ樹脂硬化物は、強靭性及び弾性を有するため、様々な分野で利用可能である。好適な例として、本発明におけるエポキシ樹脂組成物は、半導体封止材、とりわけアンダーフィル材に用いることができる。
【実施例】
【0030】
[相分離構造、破壊靭性値、及び弾性率の比較]
以下の実施例1〜7及び比較例1〜4について、相分離構造の観察、破壊靭性値及び弾性率の測定を行った。
【0031】
アミン硬化剤は、以下に示す1級アミノ基を有する芳香族アミン硬化剤のいずれかを使用した。
・日本化薬(株)製「カヤハードAA」(HDAA)
・ジアミノジフェニルメタン(DDM)
・ジエチルトルエンジアミン(DETDA)
【0032】
アクリルブロック共重合体は、重合体ブロックAをPMMA(ポリメタクリル酸メチル、ガラス転移温度:100〜120℃)、重合体ブロックBをPnBA(ポリアクリル酸n−ブチル、ガラス転移温度:−40〜−50℃)とする以下のトリブロック共重合体のいずれかを使用した。
・クラレ(株)製「LA2140e」
PMMA含有率20重量%、重量平均分子量(Mw)=80000
・クラレ(株)製「LA2250」
PMMA含有率30重量%、重量平均分子量(Mw)=80000
・クラレ(株)製「LA4285」
PMMA含有率50重量%、重量平均分子量(Mw)=80000
【0033】
エポキシ樹脂は、いずれもビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(新日鉄住友金属(株)製「YDF−8170」)を使用した。
【0034】
(実施例1)
「カヤハードAA」100部に対し「LA4285」14部を容器に入れ、180℃に設定したオイルバスに浸漬して、その内容物を2時間攪拌した。その後、容器をオイルバスから取り出して室温まで冷却しエポキシ樹脂硬化剤aを作製した。
【0035】
エポキシ樹脂100部に、エポキシ樹脂硬化剤a44.8部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0036】
(実施例2)
「カヤハードAA」100部に対し「LA4285」14部を容器に入れ、190℃に設定したオイルバスに浸漬して、その内容物を4時間攪拌した。その後、容器をオイルバスから取り出して室温まで冷却しエポキシ樹脂硬化剤bを作製した。
【0037】
エポキシ樹脂100部に、エポキシ樹脂硬化剤b44.8部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0038】
(実施例3)
「カヤハードAA」100部に対し「LA2250」14部を容器に入れ、190℃に設定したオイルバスに浸漬して、その内容物を4時間攪拌した。その後、容器をオイルバスから取り出して室温まで冷却しエポキシ樹脂硬化剤cを作製した。
【0039】
エポキシ樹脂100部に、エポキシ樹脂硬化剤c44.8部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0040】
(実施例4)
「カヤハードAA」100部に対し「LA2140e」14部を容器に入れ、190℃に設定したオイルバスに浸漬して、その内容物を4時間攪拌した。その後、容器をオイルバスから取り出して室温まで冷却しエポキシ樹脂硬化剤dを作製した。
【0041】
エポキシ樹脂100部に、エポキシ樹脂硬化剤d44.8部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0042】
(実施例5)
「カヤハードAA」100部に対し「LA2140e」14部を容器に入れ、200℃に設定したオイルバスに浸漬して、その内容物を4時間攪拌した。その後、容器をオイルバスから取り出して室温まで冷却しエポキシ樹脂硬化剤eを作製した。
【0043】
エポキシ樹脂100部に、エポキシ樹脂硬化剤e44.8部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0044】
(実施例6)
ジエチルトルエンジアミン100部に対し「LA2140e」18部を容器に入れ、190℃に設定したオイルバスに浸漬して、その内容物を4時間攪拌した。その後、容器をオイルバスから取り出して室温まで冷却しエポキシ樹脂硬化剤fを作製した。
【0045】
エポキシ樹脂100部に、エポキシ樹脂硬化剤f32.8部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0046】
(実施例7)
ジアミノジフェニルメタン100部に対し「LA2140e」16部を容器に入れ、200℃に設定したオイルバスに浸漬して、その内容物を4時間攪拌した。その後、容器をオイルバスから取り出して室温まで冷却しエポキシ樹脂硬化剤gを作製した。
【0047】
エポキシ樹脂100部に、エポキシ樹脂硬化剤g36部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0048】
(比較例1)
エポキシ樹脂100部、及び「LA4285」5.4部を容器に入れ、180℃に設定したオイルバスに漬浸して、その内容物を2時間攪拌した。その後、「カヤハードAA」39.4部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0049】
(比較例2)
エポキシ樹脂100部、及び「LA2250」5.4部を容器に入れ、180℃に設定したオイルバスに漬浸して、その内容物を2時間攪拌した。その後、「カヤハードAA」39.4部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0050】
(比較例3)
エポキシ樹脂100部、及び「LA2140e」5部を容器に入れ、180℃に設定したオイルバスに漬浸して、その内容物を2時間攪拌した。その後、ジエチルトルエンジアミン27.8部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0051】
(比較例4)
エポキシ樹脂100部、「カヤハードAA」39.4部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0052】
(相分離構造の測定)
相分離構造の測定は、以下のようにおこなった。まず、実施例1〜7及び比較例1〜4で作製したエポキシ樹脂組成物を板状に硬化(硬化条件:温度165℃、2時間)したエポキシ樹脂硬化物の表面をミクロトームで平滑にした後、当該表面を四酸化ルテニウム(RuO4)の蒸気に曝すことにより染色した。そして、染色されたエポキシ樹脂硬化物の表面を電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)で観察し、重合体ブロックBのサイズを測定した。
【0053】
(弾性率の測定)
弾性率(Gpa)の測定は、相分離構造の測定に用いたエポキシ樹脂硬化物と同様のものについて、粘弾性測定装置(Dynamic Mechanical Analyzer、DMA)により、常温(25℃)での弾性率を測定した。
【0054】
(破壊靭性値の測定)
破壊靭性値(MPam1/2)の測定は、相分離構造の測定に用いたエポキシ樹脂硬化物と同様のものについて、長さ57.2mm×幅13.0mm×厚さ6.5mmの試験片を作製し、この試験片を用いて島津オートグラフAG−IS(島津製作所製)を使用して、ASTM D−5045−91(Standeard Test Methods for Plane−Strain Fracture Toughness and Strain Energy Release Rate of Plastic Materials)に基づき測定した。その際、作製した試験片の厚さ方向の中央部に剃刀で亀裂を導入した、初期亀裂長さは、倍率50倍の読み取り顕微鏡にて0.01mmまで5点測定して平均した。結果として生じた亀裂長さは、5.8mm〜6.9mmの範囲であった。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示したように、実施例1〜7は、ミクロ相分離構造を有しており、破壊靭性値も高い値となっている。一方、比較例1〜3は、マクロ相分離構造であり、破壊靭性値は低い値となっている。また、実施例1〜7は、比較例1〜4と比べても同程度の弾性率を有している。なお、比較例4は、ブロック共重合体を配合していないため、硬化物は均一となり相分離構造は生じない。
【0057】
[アクリルブロック共重合体の配合の違いによる相分離構造及び破壊靭性値の比較]
以下の実施例8〜10及び比較例5について、相分離構造及び破壊靭性値の測定を行った。アミン硬化剤は、日本化薬(株)製「カヤハードAA」を使用し、アクリルブロック共重合体は、クラレ(株)製「LA4285」を使用し、エポキシ樹脂は、新日鉄住友金属(株)製「YDF−8170」を使用した。
【0058】
(実施例8)
「カヤハードAA」100部に対し「LA4285」14部を容器に入れ、170℃に設定したオイルバスに浸漬して、その内容物を2時間攪拌した。その後、容器をオイルバスから取り出して室温まで冷却しエポキシ樹脂硬化剤hを作製した。
【0059】
エポキシ樹脂100部に、エポキシ樹脂硬化剤h44.8部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0060】
(実施例9(実施例1と同じ))
「カヤハードAA」100部に対し「LA4285」14部を容器に入れ、180℃に設定したオイルバスに浸漬して、その内容物を2時間攪拌した。その後、容器をオイルバスから取り出して室温まで冷却しエポキシ樹脂硬化剤aを作製した。
【0061】
エポキシ樹脂100部に、エポキシ樹脂硬化剤a44.8部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作成した。
【0062】
(実施例10)
「カヤハードAA」100部に対し「LA4285」14部を容器に入れ、190℃に設定したオイルバスに浸漬して、その内容物を2時間攪拌した。その後、容器をオイルバスから取り出して室温まで冷却しエポキシ樹脂硬化剤iを作製した。
【0063】
エポキシ樹脂100部に、エポキシ樹脂硬化剤i44.8部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0064】
(比較例5(比較例1と同じ))
エポキシ樹脂100部、及び「LA4285」5.4部を容器に入れ、180℃に設定したオイルバスに漬浸して、その内容物を2時間攪拌した。その後、「カヤハードAA」39.4部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0065】
(相分離構造の測定、破壊靭性値の測定)
相分離構造の測定及び破壊靭性値の測定は、実施例1〜7及び比較例1〜4と同様の方法で行った。図1Aは、実施例8の相分離構造をFE−SEMを使用して20000倍の倍率で撮影した写真である。図1Bは、実施例8の相分離構造をFE−SEMを使用して40000倍の倍率で撮影した写真である。図2Aは、実施例9の相分離構造をFE−SEMを使用して20000倍の倍率で撮影した写真である。図2Bは、実施例9の相分離構造をFE−SEMを使用して40000倍の倍率で撮影した写真である。図3Aは、実施例10の相分離構造をFE−SEMを使用して20000倍の倍率で撮影した写真である。図3Bは、実施例10の相分離構造をFE−SEMを使用して40000倍の倍率で撮影した写真である。図4は、比較例5の相分離構造をFE−SEMを使用して3000倍の倍率で撮影した写真である。図4における円及び矢印は、重合体ブロックBの最大径を示す。
【0066】
【表2】
【0067】
表2に示したように、アミン硬化剤にアクリルブロック共重合体を配合したエポキシ樹脂硬化剤を用いてエポキシ樹脂を硬化させた場合(実施例8〜10)は、重合体ブロックBのサイズが200nm以下のミクロ相分離構造となり、破壊靭性値も高い値を示した。一方、比較例5のように、はじめにエポキシ樹脂にアクリルブロック共重合体を配合し、その後にアミン硬化剤を加える場合は、ミクロ相分離構造を取らず(比較例5では重合体ブロックBのサイズが6.5μmとなった)、破壊靭性値も低い値となった。
【0068】
[光透過性の比較]
上述の実施例8及びの比較例5について、光透過性の測定を行った。光透過性の測定は、実施例8及び比較例5のエポキシ樹脂硬化物について、長さ20mm×幅10mm×厚さ2mmの試験片を作製する。この試験片を格子模様が描かれたテストチャートの上に配し、試験片の撮影を行った。試験片が透明な場合、試験片の下に置かれたテストチャートの格子模様が確認できる。
【0069】
図5は、テストチャート上に配置された実施例8のエポキシ樹脂硬化物の上面から可視光を照射した状態を撮影した写真である。図6は、テストチャート上に配置された比較例5のエポキシ樹脂硬化物の上面から可視光を照射した状態を撮影した写真である。
【0070】
図5に示されたように、実施例8のエポキシ樹脂硬化物は、可視光を透過する性質を有することがわかる。これは、相分離構造のサイズが可視光の波長よりも短いと、当該相分離構造を有するエポキシ樹脂硬化物は、光透過性を有することを示している(逆に言えば、光透過性を有するエポキシ樹脂硬化物は、ミクロ相分離構造を有する)。
【0071】
以上の実施例及び比較例から明らかなように、(A)アミン硬化剤に予め(B)アクリルブロック共重合体を混合したエポキシ樹脂硬化剤を用いてエポキシ樹脂を硬化させることにより、強靭性が高く、且つ弾性を有する(所望の弾性を損なわない)エポキシ樹脂硬化物を得ることができる。
【0072】
[ブロック共重合体の構造について]
以下の実施例11〜17、比較例6及び比較例7について、カルボン酸含有量比及びアミド化合物含有量比の決定、反応性の測定、相分離構造の観察、破壊靭性値及び弾性率の測定を行った。
【0073】
アミン硬化剤は、上述の日本化薬(株)製「カヤハードAA」(HDAA)、ジアミノジフェニルメタン(DDM)のいずれかを使用した。
【0074】
アクリルブロック共重合体は、上述のクラレ(株)製「LA2140e」、クラレ(株)製「LA2250」、クラレ(株)製「LA4285」のいずれかを使用した。
【0075】
エポキシ樹脂は、いずれもビスフェノールF型液状エポキシ樹脂(新日鉄住友金属(株)製「YDF−8170」)を使用した。
【0076】
(実施例11)
「カヤハードAA」100部に対し「LA4285」18.7部を容器に入れ、180℃に設定したオイルバスに浸漬して、その内容物を2時間攪拌した。その後、容器をオイルバスから取り出して室温まで冷却しエポキシ樹脂硬化剤jを作製した。
【0077】
エポキシ樹脂100部に、エポキシ樹脂硬化剤j46.9部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0078】
(実施例12)
「カヤハードAA」100部に対し「LA2250」18.7部を容器に入れ、190℃に設定したオイルバスに浸漬して、その内容物を4時間攪拌した。その後、容器をオイルバスから取り出して室温まで冷却しエポキシ樹脂硬化剤kを作製した。
【0079】
エポキシ樹脂100部に、エポキシ樹脂硬化剤k46.9部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0080】
(実施例13)
「カヤハードAA」100部に対し「LA2140e」18.7部を容器に入れ、180℃に設定したオイルバスに浸漬して、その内容物を8時間攪拌した。その後、容器をオイルバスから取り出して室温まで冷却しエポキシ樹脂硬化剤lを作製した。
【0081】
エポキシ樹脂100部に、エポキシ樹脂硬化剤l46.9部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0082】
(実施例14)
「カヤハードAA」100部に対し「LA2140e」18.7部を容器に入れ、190℃に設定したオイルバスに浸漬して、その内容物を4時間攪拌した。その後、容器をオイルバスから取り出して室温まで冷却しエポキシ樹脂硬化剤mを作製した。
【0083】
エポキシ樹脂100部に、エポキシ樹脂硬化剤m46.9部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0084】
(実施例15)
「カヤハードAA」100部に対し「LA2140e」18.7部を容器に入れ、190℃に設定したオイルバスに浸漬して、その内容物を8時間攪拌した。その後、容器をオイルバスから取り出して室温まで冷却しエポキシ樹脂硬化剤nを作製した。
【0085】
エポキシ樹脂100部に、エポキシ樹脂硬化剤n46.9部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0086】
(実施例16)
「カヤハードAA」100部に対し「LA2140e」18.7部を容器に入れ、190℃に設定したオイルバスに浸漬して、その内容物を16時間攪拌した。その後、容器をオイルバスから取り出して室温まで冷却しエポキシ樹脂硬化剤oを作製した。
【0087】
エポキシ樹脂100部に、エポキシ樹脂硬化剤o46.9部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0088】
(実施例17)
ジアミノジフェニルメタン100部に対し「LA2140e」22部を容器に入れ、190℃に設定したオイルバスに浸漬して、その内容物を1時間攪拌した。その後、容器をオイルバスから取り出して室温まで冷却しエポキシ樹脂硬化剤pを作製した。
【0089】
エポキシ樹脂100部に、エポキシ樹脂硬化剤p37.8部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0090】
(比較例6)
エポキシ樹脂100部、及び「LA2140e」7.4部を容器に入れ、190℃に設定したオイルバスに漬浸して、その内容物を4時間攪拌した。その後、「カヤハードAA」39.4部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0091】
(比較例7)
エポキシ樹脂100部、及び「LA2140e」6.8部を容器に入れ、190℃に設定したオイルバスに漬浸して、その内容物を4時間攪拌した。その後、ジアミノジフェニルメタン31部を配合し、液状のエポキシ樹脂組成物を作製した。
【0092】
(カルボン酸含有量比及びアミド化合物含有量比の決定)
カルボン酸含有量比とは、作製されたエポキシ樹脂硬化剤中のアクリルブロック共重合体に含まれるカルボン酸の割合(mol%)である。アミド化合物含有量比とは、作製されたエポキシ樹脂硬化剤中のアクリルブロック共重合体に含まれるアミド化合物の割合(mol%)である。カルボン酸及びアミド化合物の割合は、エポキシ樹脂硬化剤中に含まれるアクリルブロック共重合体を分離して核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance、NMR)を用いて測定を行った。具体的には、カルボン酸及びアミド化合物をシリル化し、その合計量を測定した後、アミノ基に対して選択的に反応する誘導体化試薬(イソチオシアン酸フェニル)を用いてアミド化合物の量を測定した。
【0093】
(反応性の測定)
反応性とは、エポキシ樹脂を硬化させる性質(エポキシ樹脂とアミンの架橋により、三次元網目構造を構築する性質)のことをいう。たとえば、第1のエポキシ樹脂硬化剤を用いた場合、第2のエポキシ樹脂硬化剤を用いた場合よりもエポキシ樹脂が硬化する時間が短いとする。この場合、第1のエポキシ樹脂硬化剤は、第2のエポキシ樹脂硬化剤に比べて「反応性が高い(反応時間が短い)」と判断できる。反応性の測定は、粘度計を用い、120℃または100℃の温度条件下、初期(エポキシ樹脂組成物が測定温度に達した直後の状態)の粘度を測定した。その後、粘度を継続的に測定し、初期の粘度の5倍となった時間を反応時間として求めた。
【0094】
(相分離構造の測定、破壊靭性値の測定、弾性率の測定)
相分離構造の測定及び破壊靭性値の測定は、実施例1〜10及び比較例1〜5と同様の方法で行った。弾性率の測定は、実施例1〜7及び比較例1〜4と同様の方法で行った。
【0095】
【表3】
*エポキシ樹脂硬化剤j〜エポキシ樹脂硬化剤pの横に記載されている値は、アミンへの溶解温度及び溶解時間である。
【0096】
各実施例・比較例におけるカルボン酸含有量比及びアミド化合物含有量比は表3の通りである。
【0097】
また、表3から明らかなように、実施例11〜16は、比較例6と比較して反応時間が短くなった(反応性が高い)。また、実施例17は、比較例7と比較して反応時間が短くなった(反応性が高い)。
【0098】
ここで、図7は、120℃の温度条件下における実施例12、14、15及び比較例6の反応性(反応時間)を示すグラフである。図8は、100℃の温度条件下における実施例17及び比較例7の反応性(反応時間)を示すグラフである。いずれも、縦軸は粘度、横軸は経過時間である。
【0099】
図7のグラフから明らかなように、実施例12、14、15では、比較例6に比べてエポキシ樹脂組成物の作製から短い経過時間で粘度が高くなった(すなわち、硬化が進行した)。同様に、図8のグラフから明らかなように、実施例17では、比較例7に比べてエポキシ樹脂組成物の作製から短い経過時間で粘度が高くなった(すなわち、硬化が進行した)。
【0100】
なお、エポキシ樹脂とアミンの架橋を促進するのは、メタクリル酸等のカルボン酸であることから、反応性はカルボン酸の含有量と関係がある。カルボン酸含有量は、望ましくは1〜8の範囲である。
【0101】
更に、表3から明らかなように、実施例11〜17においても、ミクロ相分離構造を有し、強靭性が高く、且つ弾性を有する(所望の弾性を損なわない)エポキシ樹脂硬化物を得ることができた。たとえば、図9は、実施例13の相分離構造をFE−SEMを使用して5000倍の倍率で撮影した写真である。図10は、実施例14の相分離構造をFE−SEMを使用して5000倍の倍率で撮影した写真である。図9及び図10から明らかなように、実施例13及び実施例14においても、エポキシ樹脂硬化物はミクロ相分離構造を有する。一方、比較例6及び比較例7におけるエポキシ樹脂硬化物はマクロ相分離構造を有する(表3参照)。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10