特許第6588460号(P6588460)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6588460被覆電線、端子付き被覆電線、ワイヤーハーネス及び被覆電線の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6588460
(24)【登録日】2019年9月20日
(45)【発行日】2019年10月9日
(54)【発明の名称】被覆電線、端子付き被覆電線、ワイヤーハーネス及び被覆電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/32 20060101AFI20191001BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20191001BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20191001BHJP
   H01R 4/18 20060101ALI20191001BHJP
【FI】
   H01B7/32 Z
   H01B7/00 306
   H01B7/00 301
   H01B13/00 511Z
   H01R4/18 A
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-559022(P2016-559022)
(86)(22)【出願日】2015年11月6日
(86)【国際出願番号】JP2015081342
(87)【国際公開番号】WO2016076228
(87)【国際公開日】20160519
【審査請求日】2018年6月15日
(31)【優先権主張番号】特願2014-228105(P2014-228105)
(32)【優先日】2014年11月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100143959
【弁理士】
【氏名又は名称】住吉 秀一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 祥
(72)【発明者】
【氏名】水戸瀬 賢悟
(72)【発明者】
【氏名】関谷 茂樹
【審査官】 木村 励
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−134140(JP,A)
【文献】 特開2011−60778(JP,A)
【文献】 特開2008−269945(JP,A)
【文献】 特開平11−154425(JP,A)
【文献】 特開2011−222364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/32
H01B 7/00
H01B 13/00
H01R 4/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる線材と、該線材の周囲に設けられた被覆層と、前記線材と前記被覆層の間あるいは前記被覆層内に介在する、金属もしくは金属酸化物又はその両方からなる介在片とを有し、前記介在片の平均長さが前記被覆層の厚さ未満であり、
前記介在片は、可視光の平均反射率が70%以上であることを特徴とする被覆電線。
【請求項2】
金属からなる線材と、該線材の周囲に設けられた被覆層と、前記線材と前記被覆層の間あるいは前記被覆層内に介在する、金属もしくは金属酸化物又はその両方からなる介在片とを有し、前記介在片の平均長さが前記被覆層の厚さ未満であり、
前記介在片の投影面積の最大値が100μm以上であり、欠陥から漏れ出た前記介在片を目視またはセンサによって検知可能であることを特徴とする被覆電線。
【請求項3】
前記被覆層の厚さ方向における前記介在片の平均長さが、前記被覆層の厚さの1/2以下である、請求項1または2に記載の被覆電線。
【請求項4】
前記介在片の数密度が、1個/mm〜3000個/mmである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の被覆電線。
【請求項5】
前記介在片は、前記線材と同じ金属材料からなる、請求項1〜のいずれか1項に記載の被覆電線。
【請求項6】
前記線材は、複数の素線が撚り合わされてなる撚り線である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の被覆電線。
【請求項7】
前記線材は、圧縮撚り線である請求項1〜5のいずれか1項に記載の被覆電線。
【請求項8】
被覆電線と、該被覆電線の端部に装着された端子とを備え、
前記被覆電線は、金属からなる線材と、該線材の周囲に設けられた被覆層と、前記線材と前記被覆層の間あるいは前記被覆層内に介在する、金属もしくは金属酸化物又はその両方からなる介在片とを有し、前記介在片の平均長さが前記被覆層の厚さ未満であり、
前記介在片は、可視光の平均反射率が70%以上であること、
を特徴とする、端子付き被覆電線。
【請求項9】
被覆電線と、該被覆電線の端部に装着された端子とを備え、
前記被覆電線は、金属からなる線材と、該線材の周囲に設けられた被覆層と、前記線材と前記被覆層の間あるいは前記被覆層内に介在する、金属もしくは金属酸化物又はその両方からなる介在片とを有し、前記介在片の平均長さが前記被覆層の厚さ未満であり、
前記介在片の投影面積の最大値が100μm以上であり、欠陥から漏れ出た前記介在片を目視またはセンサによって検知可能であること、
を特徴とする、端子付き被覆電線。
【請求項10】
請求項8または9に記載の端子付き被覆電線を他の電線と組み合わせてなるワイヤーハーネス。
【請求項11】
一の素線からなる線材又は複数の素線を撚り合わせた撚り線からなる線材を形成する工程と、前記線材に被覆層を形成する工程とを有する被覆電線の製造方法であって、
前記被覆層を形成する工程の前に、金属もしくは金属酸化物又はその両方からなる介在片を前記線材に付着させる工程を有することを特徴とする、被覆電線の製造方法。
【請求項12】
前記線材に介在片を付着させる工程は、前記撚り線からなる線材を形成する工程時に、前記素線同士の接触によって削り出された該素線表面の一部を、介在片として前記撚り線表面に付着させる、請求項11に記載の被覆電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体を被覆してなる被覆電線、端子付き被覆電線、ワイヤーハーネス及び被覆電線の製造方法に関し、特に、製造過程で意図せず被覆層に発生した穴などの欠陥を発見し易くした被覆電線、端子付き被覆電線、ワイヤーハーネス及び被覆電線の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、電車、航空機等の移動体の電気配線体、または産業用ロボットの電気配線体として、銅又は銅合金、アルミニウム又はアルミニウム合金の導体を含む被覆電線に、銅又は銅合金(例えば、黄銅)製、アルミニウム又はアルミニウム合金製の端子(コネクタ)が装着された、いわゆるワイヤーハーネスと呼ばれる部材が用いられてきた。昨今では、自動車の高性能化や高機能化が急速に進められており、これに伴い、車載される各種の電気機器、制御機器などの配設数が増加するとともに、これら機器に使用される電気配線体の配設数も増加する傾向にある。しかしながら、ワイヤーハーネスの製造工程で、何らかの理由により意図せずに被覆層に傷や亀裂、穴などの欠陥が生じても、欠陥が生じた電線がそのままワイヤーハーネスに組み込まれる虞がある。このような事態を防止するべく、被覆層に生じた欠陥を、被覆電線の製造工程時やワイヤーハーネスの製造工程時にも発見できる方法が求められている。
【0003】
例えば、導体に被覆層を形成する工程の直後に被覆電線を検査して、画像解析等により被覆層に形成されている欠陥を検出することにより、欠陥が生じた被覆電線を不良品として排除することが可能である。しかし、その後に被覆電線を束ねるなどして配索した電線配線体を製造する工程で意図せずに欠陥が発生した場合、上記方法で当該欠陥を検出することはできない。
【0004】
移動体の電気配線体に用いられる従来の被覆電線としては、例えば特許文献1に、自動車用ワイヤーハーネスに使用され、銅線に匹敵する特性を有するアルミニウム電線が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−134212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら上記特許文献1では、被覆層に発生した欠陥の検出方法については何ら開示も示唆もしていない。
また、被覆電線の製造時には、最終巻取り前に探傷機で被覆層の欠陥を探知する方法があるが、その方法では当該被覆電線を用いてワイヤーハーネスを製造する段階で被覆層の欠陥を探知することはできない。
本発明の目的は、被覆電線の製造工程のみならずワイヤーハーネスの製造過程で発生した欠陥を容易に検知することができ、ひいてはワイヤーハーネスの欠陥を容易に発見することが可能な被覆電線、端子付き被覆電線、ワイヤーハーネス及び被覆電線の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ワイヤーハーネスに適用される被覆電線であることを前提とし、導体と被覆層との間或いは被覆層中に複数の介在片を配置し、この介在片の適切な大きさ及び適切な密度を検討した。その結果、被覆電線やワイヤーハーネスの製造工程で被覆層に傷や穴などの欠陥が発生した際に、当該介在片が欠陥から漏れ出ることで、欠陥の発生を容易に発見できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1)金属からなる線材と、該線材の周囲に設けられた被覆層と、前記線材と前記被覆層の間あるいは前記被覆層内に介在する、金属もしくは金属酸化物又はその両方からなる介在片とを有し、前記介在片の平均長さが前記被覆層の厚さ未満であること、を特徴とする被覆電線。
(2)前記被覆層の厚さ方向における前記介在片の平均長さが、前記被覆層の厚さの1/2以下である、上記(1)記載の被覆電線。
(3)前記介在片の数密度が、1個/mm〜3000個/mm以上である、上記(1)または(2)記載の被覆電線。
(4)前記介在片は、前記線材と同じ金属材料からなる、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の被覆電線。
(5)前記介在片は、可視光の平均反射率が70%以上である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の被覆電線。
(6)前記線材は、複数の素線が撚り合わされてなる撚り線である、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の被覆電線。
(7)前記線材は、圧縮撚り線である上記(1)〜(5)のいずれかに記載の被覆電線。
(8)被覆電線と、該被覆電線の端部に装着された端子とを備え、前記被覆電線は、金属からなる線材と、該線材の周囲に設けられた被覆層と、前記線材と前記被覆層の間あるいは前記被覆層内に介在する、金属もしくは金属酸化物又はその両方からなる介在片とを有し、前記介在片の平均長さが前記被覆層の厚さ未満であることを特徴とする、端子付き被覆電線。
(9)上記(8)記載の端子付き被覆電線を他の電線と組み合わせてなるワイヤーハーネス。
(10)一の素線からなる線材又は複数の素線を撚り合わせた撚り線からなる線材を形成する工程と、前記線材に被覆層を形成する工程とを有する被覆電線の製造方法であって、
前記被覆層を形成する工程の前に、金属もしくは金属酸化物又はその両方からなる介在片を前記線材に付着させる工程を有することを特徴とする、被覆電線の製造方法。
(11)前記線材に介在片を付着させる工程は、前記撚り線からなる線材を形成する工程時に、前記素線同士の接触によって削り出された該素線表面の一部を、介在片として前記撚り線表面に付着させる、上記(10)記載の被覆電線の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、導体と被覆層との間あるいは被覆層内に複数の介在片を配置し、特に介在片の最大長さ及び/又は密度を上記範囲内の値とすることで、製造工程において被覆層に傷、亀裂、穴などの欠陥が生じたときに、介在片がこのような欠陥を介して被覆電線から外部に漏れ出す。この漏れ出した介在片を発見または検知することにより、被覆電線の製造工程のみならずワイヤーハーネスの製造工程においても、目視或いはセンサなどにより、被覆電線に欠陥が生じたことを容易に発見することが可能となる。また、被覆電線やワイヤーハーネスの良品率向上へつなげることができ、絶縁性能の良好なワイヤーハーネスを安定的に供給することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)は、本発明の実施形態に係る被覆電線の構成を概略的に示す斜視図、(b)は、(a)の線A−Aに沿う断面図である。
図2図1(b)の被覆電線の変形例を示す断面図である。
図3図1の被覆電線と端子とからなる端子付き被覆電線を示す斜視図である。
図4図3の端子付き被覆電線を備えるワイヤーハーネスを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
本実施形態の被覆電線1は、図1(a)に示すように、金属からなる線材11と、該線材の周囲に設けられた被覆層12と、線材11と被覆層12の間あるいは被覆層12内に介在する、金属もしくは金属酸化物又はその両方からなる介在片13とを有する。
【0013】
線材11は、素線11aの複数を撚り合わせてなる撚り線であり、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、銅或いは銅合金からなる。本実施形態では、線材11は撚り線であるが、これに限らず、単線からなるものであってもよい。
【0014】
被覆層12は、線材11を外部から絶縁しうるものであれば特に制限はないが、例えばポリ塩化ビニル(PVC)、架橋ポリエチレン等からなる層、又はこれらのいずれかの層を含む複層からなる絶縁層である。また、被覆層12の厚さは、顕微鏡で横断面を観察し、最大被覆厚と最小被覆厚を測定する。同様の測定を3断面で行い、得られた測定値の平均値を被覆層12の厚さとする。
【0015】
介在片13は、図1(b)に示すように、素線11aと被覆層12との界面(素線11aの外表面11b)或いはその近傍に介在しており、また、被覆層12内にも介在している。図1(a)、(b)および図2では、説明の便宜上、介在片13を図形記号「○」、「△」及び「□」で表しているが、その形状及び成分はそれぞれ同じであってもよいし、異なっていてもよい。介在片13の形状は、球形、楕円体、立方体形、直方体形、ウィスカ形など、種々の形状が挙げられる。以下、介在片13の寸法、密度及び成分について詳しく説明する。
【0016】
<介在片の寸法、密度及び成分>
介在片13の漏れによって被覆電線1の欠陥を検知するためには、被覆層12に欠陥が生じた時点で可及的速やかに介在片13が漏れ出るように、欠陥から落ち易い(小さい)サイズの介在片がよく、一方、介在片が漏れ出た際に容易に視認或いは検知できるように、ある程度のサイズの介在片を要し、該介在片13の平均長さが被覆層12の厚さ未満であることが必要である。例えば、介在片13の平面視が略楕円形状である場合、介在片13の平均長さは、介在片である粒子の長径と短径の平均値から求めることができる((平均長さ)={(長径)+(短径)}/2)。また、介在片13の平均長さは、長手方向長さとそれに直交する幅方向長さの平均値から求めてもよい。測長は拡大鏡により行う。三日月型などの略楕円以外の形状では、当該形状を含む矩形の対角線を引いたときに最長となる長さを長径、最短となる長さを短径として平均長さを算出する。介在片13の平均長さが被覆層厚さを超えると、被覆を突き破り絶縁性が失われるおそれがあるからである。中でも、被覆層12に介在片13が含有された状態で、被覆層12の厚さ方向における介在片13の平均長さは、被覆層12の厚さの1/2以下であるのが好ましい。これにより絶縁性が失われる虞を抑制し、介在片が欠陥から漏れ出やすく且つ検知し易くなる。また、目視しやすさの観点から介在片13の平均長さの下限は1μm程度が好ましく、介在片13の最も広い部分、例えば介在片13の投影面積の最大値が100μm以上であるのが好ましい。これにより、欠陥から漏れ出た介在片13を目視あるいはセンサによって検知し易くなる。
【0017】
また好ましくは、介在片13の数密度が1個/mm〜3000個/mmである。介在片13が上記数密度の範囲で存在している場合、欠陥から漏れ出た介在片13をより発見し易くなる。介在片13の数密度が3000個/mmを超えると、被覆電線1の形状の歪みや被覆層12の偏肉が発生しやすくなり、1個/mm未満であると、介在片13が欠陥から漏れ出る量が少なくなり、欠陥を検知しにくくなる。
【0018】
介在片13は、樹脂などと比較して反射率の高い金属を主成分とし、例えば可視光の平均反射率が70%以上であるものが好ましい。可視光の平均反射率が70%以上であると、作業中の床面より反射率が高いことで介在片を発見しやすくすることができる。また、1つの介在片13における金属含有率が、体積百分率で50vol%以上であるのが好ましい。介在片13は、表面や内部に金属酸化物等を含有しているが、介在片全体に対する純金属成分の金属含有率が50vol%以上であると、金属光沢により介在片13を検知し易くなる。特に、金属がCu或いはFeである場合、介在片13の金属含有率が50%未満であると、可視光の平均反射率が大きく低下する場合がある。なお、電気伝導性の低下や線材表面に特に注意が必要な場合は、介在片13は、線材11と同じかあるいは同等の成分を含有する金属または合金材料からなるのが好ましい。
【0019】
<介在片の製造方法>
介在片13自体は、金属塊の削り出しや、粉砕により作製することができる。また、素線11aと同等の成分の介在片13を用いる場合は、被覆電線1の製造工程中に素線11aから削り出したり、素線11a同士の接触による素線11aの外表面11bからの脱離によって作製する方法などが挙げられる。介在片の製造方法の具体例としては、例えば以下の方法が挙げられる。
(i)アルミナ(Al)を焼結し、得られた焼結物をボールミルで粉砕し、その後振るい機を用いて粉砕物を分級(整粒)して、所定寸法の介在片を得る。
(ii)所望組成の金属の表面を、皮をむくように切削(ピーリング)し、得られた切削物をボールミルで粉砕し、その後振るい機を用いて粉砕物を分級(整粒)して、所定寸法の介在片を得る。
【0020】
<介在片を介在させる方法>
介在片13は、線材11に被覆層12が塗布される前に素線11aの外表面11bに介在片13を存在させることで、線材11と被覆層12の間に介在片13を介在させることができる。例えば、伸線後の素線11aの外表面11bに粘着性流体を塗布した後に介在片13を付着させる方法や、線材11に被覆層12を形成するための樹脂を塗布する直前に線材11の上下左右から介在片13を吹き付ける方法などが挙げられる。
例えば、被覆層の成形工程直前に、インラインにて介在片を含む気体の流量を管理して塗布することができる。介在片密度を高める目的で線材の外表面に粘性液体をコーティングするなどしても良い。また、線材の外周部に均一に介在させる目的で、線材の外周面に上下左右の4方向からエアーと一緒に介在片を塗布しても良い。
また、線材が撚り線の場合、撚り工程で介在片を介在することもできる。例えば、塗布、コーティング、エアーと一緒に塗布、あるいは素線同士を擦らせることで介在片を作製撚り線に介在片を介在させてもよい。
【0021】
上記のように介在片を介在させる方法の場合、原則的には全ての介在片13が素線11aの外表面11bと接触しており、素線11aと被覆層12の界面に存在した状態となる。ただし例外的に、塗布工程において不可避的に介在片13と素線11aとの粘着性が弱まり、介在片13が硬化前の樹脂内に遊離し、その後樹脂が硬化することで被覆層12が形成される場合がある。この場合、介在片13は素線11aの外表面11bと接触しておらず、被覆層12内に存在しているが、このような介在片13によっても欠陥を検知することができる。
【0022】
<介在片の反射率向上>
介在片13は、該介在片の表面で入射光が反射することで生じる反射光の有無によって検知される。したがって介在片13は、視認あるいは検知容易性の観点から金属材料からなるのがより好ましい。金属材料の反射率は、表面の凹凸によっても変化するが、微視的にみれば、金属材料の表面で拡散反射光と共に強い鏡面反射光(正反射光)が発生するため、金属光沢によって介在片13をより容易に且つ確実に検知することが可能となる。なお、入射光は太陽光であってもよいし、赤外線照射装置などから照射される赤外光など検出可能な電磁波であればよい。本実施形態では、介在片13の材料は、好ましくはアルミニウム合金(6000系のアルミニウム合金)、アルミニウム酸化物(アルミナ)、マグネシウム合金及びマグネシウム酸化物の1種又は複数種である。
【0023】
<介在片の数密度の測定方法>
上述した、介在片13の数密度とは、電線単位体積当たりの介在片13の数である。電線外径がR、電線の長さLの電線に介在片がN個あったとき数密度Dは以下の計算式(1)であらわすことができる。
D=4N/πR2・L・・・(1)
数密度Dは、5箇所の介在片数密度を測定し、その平均を用いる。1箇所5cmの電線を1m間隔で、5本切り出して準備する。そして得られた電線を解体して、内部の介在片13を平坦な台の上に取り出し、目視でカウントする。あるいは、介在片13の数が多い場合には、画像解析によりその数をカウントする方法でもよい。ここで画像解析には、画像を二値化する、たとえば「Image J 」(開発元:Wayne Rasband)といったソフトウェアが使用可能である。なお線材や被覆層に残った介在片13がある場合にはそれもカウントに含める。然る後に、上記計算式(1)から各箇所の数密度を算出し、これらを平均して数密度Dを計算する。
【0024】
<電線の欠陥から漏れ出た介在片の検出方法>
被覆層形成工程後において、被覆電線の巻取工程や後述するワイヤーハーネスの製造工程などのいずれの段階でも、意図しない欠陥が発生すれば介在片を検出可能である。このとき、漏れ出た介在片を効率的に検出する方法として、例えば以下の方法がある。
(i)被覆電線をワイヤーハーネスとして組み立てる作業は、一般的に一枚の板上で行なわれるため、黒色の板を使用し、黒色の板上にこぼれ落ちた介在片を視認する。また、上記組み立て作業が床面で行われる場合には、黒色に塗布された床面を利用し、床面上にこぼれ落ちた介在片を視認する。
(ii)組み立てたワイヤーハーネスを運搬する際に黒色の通い箱(コンテナ)を用い、ワイヤーハーネスが通い箱に収納された状態で、通い箱内にこぼれ落ちた介在片を視認する。意図しない穴の発生はワイヤーハーネス組み立て前に不意の衝撃により発生する可能性があるため、ワイヤーハーネス組み立て工程にて検出することで、効率的に介在片を検出することができる。また、こぼれ落ちた介在片が通い箱内に保持されるため、こぼれ落ちた介在片13がごく少量であっても介在片を視認し易くなり、欠陥の発生を早期に発見することができる。
【0025】
<線材の他の構成>
線材は、図1に示すような複数の素線からなる撚り線であってもよいし、図2に示すような圧縮撚り線であってもよい。具体的には、線材21が、中心部に位置する素線21aがほぼ塑性変形せず、外周部に位置する素線21bが塑性変形した圧縮撚り線であってもよい。介在片23は、撚り線の場合と同様、線材21と被覆層22との間、具体的には、素線21bの外表面21b’と被覆層22との界面或いはその近傍に介在しており、また、被覆層22内にも介在している。
【0026】
線材が撚り線、圧縮撚り線、単線のいずれの場合であっても、意図せずに発生した欠陥を介在片によって検出することが可能である。特に、線材を撚り線とすることにより、伸び、屈曲特性、耐衝撃性が向上し、圧縮撚り線とすることで撚り乱れ不良の低下、ストリップ後の撚り戻りの減少など、撚り線製造工程における作業効率の向上に繋がる。
【0027】
<端子付き被覆電線の構成>
図1の被覆電線1を用い、被覆電線1の端部に端子が取り付けられてなる端子付き被覆電線を構成することができる。例えば、図3に示すように、端子付き被覆電線30は、被覆電線31と、該被覆電線の端部に取り付けられた端子32とを備える。被覆電線31は、図1の被覆電線と同様の構成であるのでその説明を省略する。
【0028】
端子32は、例えば雌型端子であり、ボックス形状を有し且つ雄型端子の挿入タブ等の挿入を許容する接続部32aと、片端閉塞管状のバレル部32bとを有する。被覆電線31の被覆層を除去した端部をバレル部32bに挿入した状態で当該バレル部32を加締めることで、線材及び被覆層がバレル32bと圧着し、被覆電線31の端部に端子が装着される。このバレル部32bは、例えば溶接により一端が閉塞された筒状に形成される。具体的には、平面展開した金属基体を立体的にプレス加工することで、断面が略C字型となる筒状体が形成され、この筒状体の開放部分(突き合わせ部)がレーザ溶接される。レーザ溶接は筒状体の長手方向に行われるので、突き合わせ溶接によって筒状体の長手方向と略同一の方向に溶接部33a(溶接ビード)が形成される。また、この後、筒状体の長手方向に垂直な方向に溶接部34bを形成することによって、バレル部32bの先端側を封止し、バレル部32bを片端閉塞管状とする。この封止によって、接続部32a側からバレル部32b内に水分等が浸入するのを防止する。なお図3の端子付き被覆電線30では被覆電線31にクローズドバレル型の端子が取り付けられているが、これに限らず、被覆電線31にオープンバレル型の端子が取り付けられてもよい。
【0029】
<ワイヤーハーネスの構成>
ワイヤーハーネス40は、図4に示すように、端子付き被覆電線31−1とその端部に取り付けられたコネクタ41−1とで構成される接続構造体42−1を有している。そしてワイヤーハーネス40は、他の端子付き被覆電線31−2,31−3,・・・とそれらの端部にそれぞれ取り付けられた他のコネクタ41−2,41−3,・・・とで構成される他の接続構造体42−2,42−3を、不図示の部材と組み合わせて巻テープ43などで束ね、更にその端部に集合コネクタ44等を配置して組み電線としたものである。このように、本実施形態の端子付き被覆電線をワイヤーハーネスに適用することにより、ワイヤーハーネスの製造過程で欠陥の発生を発見し易くなり、ワイヤーハーネスの良品率を向上へつなげることが可能になってくる。
【実施例】
【0030】
本発明を以下の実施例に基づき詳細に説明する。なお本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
Mg、Si、Fe、Mn,Cr、Zr、Niを所定量含有するように、プロペルチ式連続鋳造圧延機を用いて、溶湯を水冷した鋳型で連続的に鋳造しながら圧延を行い、φ9.5mmのアルミ合金棒材を得た。これをφ2.6mmまで第1伸線加工を施し、軟化を主目的として所定の熱処理を施した。さらにφ0.3mmの線径まで第2伸線加工を行った後、得られた7本の素線を撚り合わせて撚り線とした。その後、溶体化熱処理、時効熱処理を順に施し、アルミニウム合金撚り線(導体)を製造した。得られた撚り線に油を塗布した後、線材と同じ組成からなる平均長さ0.01mmの楕円体形状を有する介在片を吹き付け、その後厚さ0.2mmの被覆層となるように押出機でPVC樹脂の被覆を行ない、介在片を含有するアルミニウム合金被覆電線を得た。このとき吹き付けスピードを調整し、平均数密度が490個/mmとなるように介在片を吹き付けた。
【0031】
(実施例2)
タフピッチ銅をSCRにて、φ9.5mmのタフピッチ銅棒材を作製した。これをφ0.3mmの線径まで伸線加工を行った後、得られた7本の素線を撚り合わせて撚り線とした。その後、軟化熱処理を施してタフピッチ銅撚り線を製造した。得られた撚り線に油を塗布した後、マグネシウムを主成分とする平均長さ0.07mmの楕円体、ウィスカ形状を有する介在片を数密度25個/mmとなるように吹きつけ、その後厚さ0.2mmの被覆層となるように押出機でPVC樹脂被覆を行ない、介在片を含有する銅合金被覆電線を得た。
【0032】
(実施例3)
Mg、Si、Feを所定量含有するように、プロペルチ式連続鋳造圧延機を用いて、溶湯を水冷した鋳型で連続的に鋳造しながら圧延を行い、φ9.5mmのアルミ合金棒材を得た。これをφ2.6mmまで第1伸線加工を施し、軟化を主目的として所定の熱処理を施した。さらにφ0.3mmの線径まで第2伸線加工を行った後、得られた7本素線を撚り合わせて撚り線とした。その後、溶体化熱処理、時効熱処理を順に施し、アルミニウム合金撚り線を製造した。得られた撚り線に油を塗布した後、線材と同じ組成からなる平均長さ0.01mmの球体形状を有する介在片を吹き付け、その後厚さ0.2mmの被覆層となるように押出機でPVC樹脂の被覆を行ない、介在片を含有するアルミニウム合金被覆電線を得た。このとき吹き付けスピードを調整し、平均数密度が2860個/mmとなるように介在片を吹き付けた。
【0033】
(比較例1)
Mg、Si、Fe、Mn,Cr、Zr、Niを所定量含有するように、プロペルチ式連続鋳造圧延機を用いて、溶湯を水冷した鋳型で連続的に鋳造しながら圧延を行い、φ9.5mmのアルミ合金棒材を得た。これをφ2.6mmまで第1伸線加工を施し、軟化を主目的として所定の熱処理を施した。さらにφ0.3mmの線径まで第2伸線加工を行った後、得られた素線を撚り合わせて7本撚り線とした。その後、溶体化熱処理、時効熱処理を順に施し、アルミニウム合金撚り線を製造し、厚さ0.2mmの被覆層となるように押出機でPVC樹脂被覆を行ない、介在片を含有しないアルミニウム合金被覆電線を得た。
【0034】
(比較例2)
タフピッチ銅をSCRにて、φ9.5mmのタフピッチ銅棒材を作製した。これをφ0.3mmの線径まで伸線加工を行った後、得られた素線を撚り合わせて7本撚り線とした。その後、軟化熱処理を施してタフピッチ銅撚り線を製造し、厚さ0.2mmの被覆層となるように押出機でPVC樹脂被覆を行ない、介在片を含有しない銅合金被覆電線を得た。
【0035】
(比較例3)
実施例1と同一成分の導体に、当該導体と同じ組成からなる平均長さ1.1mmの楕円体形状を有する介在片を平均数密度が440個/mmとなるように吹き付け、その後厚さ0.2mmの被覆層となるように押出機でPVC樹脂被覆を行ない、介在片を含有するアルミニウム合金被覆電線を得た。
【0036】
次に、得られた各被覆電線を以下に示す方法で評価した。
(介在片の検出)
作業中に不意な衝撃で発生した穴を模擬し、被覆電線の被覆層に長さ3mm、幅0.5mmの被覆を貫通する穴を開けた。その後、黒色のシート上でワイヤーハーネス組み付けを模擬した動きを被覆電線に与え、介在片の検出を行った。被覆電線の穴からこぼれ落ちた介在片が検出された場合を良好「○」、検出されなかった場合を不良「×」とした。
【0037】
(被覆層厚さの均一性の評価)
被覆層厚さの均一性は、レーザー外径測定器により測定し、この測定した値から評価した。
【0038】
上記方法にて評価した結果を表1に示す。
【表1】
【0039】
表1に示すように、実施例1〜3では、被覆電線の穴からこぼれ落ちた介在片を黒色シート上で多数検出することができた。
【0040】
一方、比較例1,2では、被覆電線の穴からこぼれ落ちた介在片が検出されなかった。また、比較例3では、介在片の平均長さが本発明の範囲外であるため、樹脂被覆後の被覆層厚が不均一となり、被覆層不良が発生した。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明により、製造過程で被覆層に発生した傷、亀裂、穴などの欠陥を発見しやすくなり、電線仕様環境での電線特性の低下、漏電の発生を抑制し、従来よりも安全な被覆電線を提供することが可能である。よって、移動体に搭載されるハーネスや、産業用ロボットの配線体として有用であり、特に、自動車用のワイヤーハーネスに有用である。
【符号の説明】
【0042】
11 線材
11a 素線
11b 外表面
12 被覆層
13 介在片
21 線材
21a 素線
21b 素線
22 被覆層
23 介在片
21b’外表面
30 端子付き被覆電線
31 被覆電線
31−1 端子付き被覆電線
31−2,31−3 他の端子付き被覆電線
32 端子
32a 接続部
32b バレル部
33a 溶接部
34b 溶接部
40 ワイヤーハーネス
41−1 コネクタ
41−2,41−3 他のコネクタ
42−1 接続構造体
42−2,42−3 他の接続構造体
43 巻テープ
44 集合コネクタ
図1
図2
図3
図4