特許第6589723号(P6589723)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6589723-蛍光材料及びその製造方法 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6589723
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】蛍光材料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/80 20060101AFI20191007BHJP
   C09K 11/08 20060101ALI20191007BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20191007BHJP
   H01L 33/50 20100101ALN20191007BHJP
【FI】
   C09K11/80
   C09K11/08 B
   C04B35/50
   !H01L33/50
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-71422(P2016-71422)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-179219(P2017-179219A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】特許業務法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】碇 真憲
【審査官】 厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2010/0294939(US,A1)
【文献】 特開2007−161942(JP,A)
【文献】 特開2015−172196(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0088077(US,A1)
【文献】 国際公開第2014/168202(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/095737(WO,A1)
【文献】 特開2010−100694(JP,A)
【文献】 特開2014−206436(JP,A)
【文献】 特表2017−526103(JP,A)
【文献】 金光義彦 他,発光材料の基礎と新しい展開,株式会社オーム社,2008年 9月,p.173−179
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00 − 11/89
H01L 33/00
H01L 33/48 − 33/64
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
(GdxLuyzCewScv1-x-y-z-w-v3(AlpGaqScr512 (1)
(式中、xは0以上0.96以下、yは0以上0.5以下、zは0.01以上0.9以下、wは0.0001以上0.005以下、vは0より大きく0.04以下、x+y+z+w+v≦1であり、xとyは少なくともいずれか一方が0より大となる。pは0.4以上0.65以下、qは0.15以上0.55以下、rは0.01以上0.2以下、p+q+r=1である。QはLa、Tb、Prよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素である。)
で表される複合酸化物を主成分として含み、副成分として、シリコン酸化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物及びハフニウム酸化物よりなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を前記複合酸化物に対する質量比として0より大きく100ppm未満の範囲で含む透明セラミックスの焼結体からなり、
波長600nmでの全光線透過率が50%以上であり、波長範囲410〜480nm内にピーク波長を有する光エネルギーを吸収させたときに波長480〜710nmの光であってピーク波長が550〜600nmの範囲内にある蛍光を放出し、かつ該蛍光を波長ごとに分解した際の最大強度となる蛍光強度を100%と定義した場合において、その最大強度の60%以上の蛍光を放出する波長帯域の幅が110nm以上である蛍光材料。
【請求項2】
前記副成分がシリコン酸化物のみからなる請求項1記載の蛍光材料。
【請求項3】
前記複合酸化物の主相がガーネット構造を有することを特徴とする請求項1又は2記載の蛍光材料。
【請求項4】
前記複合酸化物の主相が少なくともGd、Lu、Y、Al、Ga、Sc、Ceをすべて含んで構成されるガーネット構造、又はLu、Y、Al、Ga、Sc、Ceをすべて含んで構成されるガーネット構造を有することを特徴とする請求項記載の蛍光材料。
【請求項5】
主成分の出発原料として、酸化ガドリニウム粉末又は酸化ルテチウム粉末と、酸化イットリウム粉末と、酸化セリウム粉末と、酸化スカンジウム粉末と、酸化アルミニウム粉末と、酸化ガリウム粉末と、必要に応じて添加されるランタン、テルビウム、プラセオジムよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類酸化物粉末とを下記式(1)で表される複合酸化物のモル比となるように所定量秤量し、更に副成分の出発原料として、この主成分の出発原料の配合量から前記複合酸化物に換算した質量に対する質量比として0より大きく100ppm未満の範囲となるように酸化シリコン粉末、酸化ジルコニウム粉末、酸化チタン粉末及び酸化ハフニウム粉末よりなる群から選択された少なくとも1つの酸化物粉末を所定量秤量して、混合した後、るつぼ内で焼成して焼成原料を作製し、該焼成原料を粉砕して原料粉末とし、この原料粉末を用いて所定形状に成形した後に焼結し、更に熱間等方圧プレス処理して下記式(1)で表される複合酸化物を主成分として含み、副成分として、シリコン酸化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物及びハフニウム酸化物よりなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を前記複合酸化物に対する質量比として0より大きく100ppm未満の範囲で含む透明セラミックスの焼結体からなり、波長600nmでの全光線透過率が50%以上であり、波長範囲410〜480nm内にピーク波長を有する光エネルギーを吸収させたときに波長480〜710nmの光であってピーク波長が550〜600nmの範囲内にある蛍光を放出し、かつ該蛍光を波長ごとに分解した際の最大強度となる蛍光強度を100%と定義した場合において、その最大強度の60%以上の蛍光を放出する波長帯域の幅が110nm以上である蛍光材料を得る蛍光材料の製造方法。
(GdxLuyzCewScv1-x-y-z-w-v3(AlpGaqScr512 (1)
(式中、xは0以上0.96以下、yは0以上0.5以下、zは0.01以上0.9以下、wは0.0001以上0.005以下、vは0より大きく0.04以下、x+y+z+w+v≦1であり、xとyは少なくともいずれか一方が0より大となる。pは0.4以上0.65以下、qは0.15以上0.55以下、rは0.01以上0.2以下、p+q+r=1である。QはLa、Tb、Prよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素である。)
【請求項6】
副成分の出発原料が酸化シリコン粉末のみからなる請求項5記載の蛍光材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長コンバータや照明用の部材として好適に用いられ、半導体レーザーの光(LD光)又は発光ダイオードの光(LED光)により励起されて可視域の蛍光を発する蛍光材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガーネット構造を有する結晶からなる蛍光体は古くから知られており、その中でもYAG:Ce蛍光粉末は最も有名で、青色LEDと組み合わせて白色光をつくる照明部材の材料として広く利用されてきた。ただしその蛍光帯域は黄色域に偏っており、赤色域や緑色域の成分が不足していた。
【0003】
その課題を解決するための検討例として、たとえば蛍光波長を黄色域から緑色域側にシフトさせる例では、特開2005−8844号公報(特許文献1)に、一般式が(Lu1-a-bab3(Al1-cGac512(但し、RはCeを必須とする少なくとも1種以上の希土類元素であり、MはSc、Y、La、Gdから選択される少なくとも1種の元素であり、0.0001≦a≦0.5、0≦b≦0.5、0.0001≦a+b<1、0≦c≦0.8である。)で表される蛍光体が、波長530nmに発光ピークを有した緑色域蛍光体となり、かつ高温時の蛍光安定性が改善されることが開示されている。
【0004】
ただし、この特許文献1では蛍光体を焼結して透明セラミックス化させる技術は確立されておらず、蛍光体を分散固定する透明母材についての検討が別途必要であった。また蛍光帯域を広げる技術についてはまったく確立されていなかった。
【0005】
蛍光粉末を支持する方法としては大きく2種類が知られている。1つはシリコーン封止剤で封止する方法、1つはガラスで封止する方法である。ところが、シリコーン封止剤で封止する方法では、シリコーン樹脂の耐熱温度である180℃以上の高温環境で使用することができなかった。また、ガラスで封止する方法では、300℃でのオンオフを繰り返すと、蛍光粉末とガラスとの線膨張係数差に起因したヒートサイクル応力割れが発生する問題があった。
【0006】
そこで、蛍光体のみからなる材料を焼結により一体化させ、かつ透明化させる技術の検討が別途なされてきた。代表的なYAGの例として特開平10−67555号公報(特許文献2)に、Al23及びY23を主成分としてガーネット結晶構造を有する透光性セラミックスであって、この透光性セラミックスは少なくとも1種以上の金属酸化物を含み、この金属酸化物の標準生成ギブスエネルギー(ΔGf°)はAl23の標準生成ギブスエネルギーよりも大きな負の値で、かつ金属酸化物の含有割合は5ppm以上20000ppm以下であることを特徴とする透光性セラミックスが開示されており、平均粒径25μm以下で且つ平均粒径の2倍以上の異常粒子を含まない、均質な構造で機械的強度に優れ、透明性にも優れた透光性セラミックスが得られることが開示された。
【0007】
更に、ガーネット型透明セラミックスの別の例として、特許第5462515号公報(特許文献3)に、(1)一般式RE3512(但し、REは一般式PrxLu3-x又はCexLu3-x(但し、0.0001≦x≦0.3000である。)で表され、MはSr、Al、Ga、Sc、Zr及びHfの少なくとも1種を示す。)で示される酸化物を主体とし、かつ、(2)a)Si又はb)Ca及びMgの少なくとも1種並びにSiを酸化物換算で100〜10000重量ppm含有するガーネット型多結晶体からなる透明セラミックスが、すぐれた透明性を有することが開示され、中でもCexLu3-xの組成のもので蛍光中心波長550nmの緑色蛍光特性が得られることが開示されている。
【0008】
また、Aサイトの範囲が広い透明セラミックスの公知文献例として、特表2013−533359号公報(特許文献4)に、化学式A3-x512:Dxによって表される組成を有するガーネットと、式BaxAl2yx+3y(x及びyは0より大きい整数である)のバリウム・アルミニウム酸化物と、を含む材料であって、前記ガーネットA3-x512:Dxにおいて、Aが、ルテチウム、イットリウム、ガドリニウム、テルビウム、スカンジウム、それ以外の希土類金属、又はこれらの組み合わせから選択され、Bが、アルミニウム、スカンジウム、ガリウム、インジウム、ホウ素、又はこれらの組み合わせから選択され、Dが、クロム、マンガンおよび希土類金属から選択される、少なくとも1種類のドーパントであり、0≦x≦2であり、前記材料において、バリウムの含有量が0.01〜2.5重量%であり、前記材料の空隙率は、前記材料の全体積の0.001〜2体積%である、材料が透過率が高い材料であることが開示されている。この材料はAサイトにスカンジウム、イットリウムとすべての希土類金属が入り、Bサイトも様々な元素が入る仕様となっているが、実際の実施例では(Lu、Ce)3Al512がメイン組成で、その中にppmレベルでイットリウムやガドリニウムを添加した例が開示されているのみである。そのため蛍光波長は500〜580nm(540nm近傍が中心波長)で特許文献3の公知内容を超えるものではなかった。
【0009】
その後、国際公開第2014/168202号(特許文献5)で、(Gd1-α-β-γαCeβTbγ3+a(Al1-u-vGauScv5-b12(LはY、Luから選択される少なくとも一つの元素)で表される組成式を有し、a、b、α、β、γ、u、vが下記範囲を満足する蛍光材料が開示されている。
0≦a≦0.1、0≦b≦0.1、0≦α≦0.3、0.0003≦β≦0.005、0.02≦γ≦0.2、0.27≦u≦0.75、0≦v≦0.02
【0010】
この特許文献5の組成は新しい組成であるが、得られた焼結体の発光特性はX線励起によるもののみであり、透明度や、LD光ないしはLED光励起の場合の蛍光波長、蛍光波長帯域についての言及はなく、その蛍光特性については未知であった。
【0011】
また、非特許文献1には、(Y0.99Ce0.013Al512、(Lu0.99Ce0.013Al512、((Gd0.9Lu0.10.99Ce0.013Al512それぞれの蛍光体を454nm、448nm、455nmで励起させた際の蛍光スペクトルの比較情報が開示されている。これによりAサイト組成を振ることで蛍光ピーク波長を緑色側やオレンジ色側にシフトさせることが可能であることが示された。ただし、帯域そのものを広帯域化する方法については未確立であった。
【0012】
以上の先行技術文献により確認されるがごとく、蛍光体のみからなる材料を焼結により一体化させて透明化し、その上で蛍光ピーク波長をチューニングする機能を有し、かつ蛍光帯域を広帯域化させることのできる透明セラミックスからなる蛍光材料は未だ得られてない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005−8844号公報
【特許文献2】特開平10−67555号公報
【特許文献3】特許第5462515号公報
【特許文献4】特表2013−533359号公報
【特許文献5】国際公開第2014/168202号
【0014】
【非特許文献1】Li J K、Li J−G、Liu S H、Li X D、 SunX D and Sakka Y 2013 Sci., Technol. Adv. Mater. 14 054201
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、LD光又はLED光の励起により蛍光を放出する透明なセラミックスの焼結体からなり、その蛍光の色が緑色からオレンジ色の範囲で調整可能であると共にその蛍光帯域が広帯域化される蛍光材料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上記目的を達成するため、下記の蛍光材料及びその製造方法を提供する。
〔1〕
下記式(1):
(GdxLuyzCewScv1-x-y-z-w-v3(AlpGaqScr512 (1)
(式中、xは0以上0.96以下、yは0以上0.5以下、zは0.01以上0.9以下、wは0.0001以上0.005以下、vは0より大きく0.04以下、x+y+z+w+v≦1であり、xとyは少なくともいずれか一方が0より大となる。pは0.4以上0.65以下、qは0.15以上0.55以下、rは0.01以上0.2以下、p+q+r=1である。QはLa、Tb、Prよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素である。)
で表される複合酸化物を主成分として含み、副成分として、シリコン酸化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物及びハフニウム酸化物よりなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を前記複合酸化物に対する質量比として0より大きく100ppm未満の範囲で含む透明セラミックスの焼結体からなり、
波長600nmでの全光線透過率が50%以上であり、波長範囲410〜480nm内にピーク波長を有する光エネルギーを吸収させたときに波長480〜710nmの光であってピーク波長が550〜600nmの範囲内にある蛍光を放出し、かつ該蛍光を波長ごとに分解した際の最大強度となる蛍光強度を100%と定義した場合において、その最大強度の60%以上の蛍光を放出する波長帯域の幅が110nm以上である蛍光材料。
〔2〕 前記副成分がシリコン酸化物のみからなる〔1〕記載の蛍光材料。
〕 前記複合酸化物の主相がガーネット構造を有することを特徴とする〔1〕又は〔2〕記載の蛍光材料。
〕 前記複合酸化物の主相が少なくともGd、Lu、Y、Al、Ga、Sc、Ceをすべて含んで構成されるガーネット構造、又はLu、Y、Al、Ga、Sc、Ceをすべて含んで構成されるガーネット構造を有することを特徴とする〔〕記載の蛍光材料。

主成分の出発原料として、酸化ガドリニウム粉末又は酸化ルテチウム粉末と、酸化イットリウム粉末と、酸化セリウム粉末と、酸化スカンジウム粉末と、酸化アルミニウム粉末と、酸化ガリウム粉末と、必要に応じて添加されるランタン、テルビウム、プラセオジムよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類酸化物粉末とを下記式(1)で表される複合酸化物のモル比となるように所定量秤量し、更に副成分の出発原料として、この主成分の出発原料の配合量から前記複合酸化物に換算した質量に対する質量比として0より大きく100ppm未満の範囲となるように酸化シリコン粉末、酸化ジルコニウム粉末、酸化チタン粉末及び酸化ハフニウム粉末よりなる群から選択された少なくとも1つの酸化物粉末を所定量秤量して、混合した後、るつぼ内で焼成して焼成原料を作製し、該焼成原料を粉砕して原料粉末とし、この原料粉末を用いて所定形状に成形した後に焼結し、更に熱間等方圧プレス処理して下記式(1)で表される複合酸化物を主成分として含み、副成分として、シリコン酸化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物及びハフニウム酸化物よりなる群から選択された少なくとも1つの酸化物を前記複合酸化物に対する質量比として0より大きく100ppm未満の範囲で含む透明セラミックスの焼結体からなり、波長600nmでの全光線透過率が50%以上であり、波長範囲410〜480nm内にピーク波長を有する光エネルギーを吸収させたときに波長480〜710nmの光であってピーク波長が550〜600nmの範囲内にある蛍光を放出し、かつ該蛍光を波長ごとに分解した際の最大強度となる蛍光強度を100%と定義した場合において、その最大強度の60%以上の蛍光を放出する波長帯域の幅が110nm以上である蛍光材料を得る蛍光材料の製造方法。
(GdxLuyzCewScv1-x-y-z-w-v3(AlpGaqScr512 (1)
(式中、xは0以上0.96以下、yは0以上0.5以下、zは0.01以上0.9以下、wは0.0001以上0.005以下、vは0より大きく0.04以下、x+y+z+w+v≦1であり、xとyは少なくともいずれか一方が0より大となる。pは0.4以上0.65以下、qは0.15以上0.55以下、rは0.01以上0.2以下、p+q+r=1である。QはLa、Tb、Prよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素である。)
〔6〕
副成分の出発原料が酸化シリコン粉末のみからなる〔5〕記載の蛍光材料の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、波長600nmでの全光線透過率が50%以上あり、波長範囲410〜480nm内にピーク波長を有するLD光又はLED光による励起で波長480〜710nmの光であってピーク波長が550〜600nmの範囲内にある蛍光を放出し、かつ該蛍光を波長ごとに分解した際の最大強度となる蛍光強度を100%と定義した場合において、その最大強度の60%以上の蛍光を放出する波長帯域の幅が110nm以上である透明セラミックスの焼結体からなる蛍光材料を提供できる。また、それを用いた照明部品を提供することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1−1の焼結材料の粉末X線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[蛍光材料]
以下、本発明に係る透明セラミックスからなる蛍光材料について説明する。
本発明に係る蛍光材料は、下記式(1)で表される複合酸化物を主成分として含む透明セラミックスの焼結体からなる。
(GdxLuyzCewScv1-x-y-z-w-v3(AlpGaqScr512 (1)
(式中、xは0以上0.96以下、yは0以上0.5以下、zは0.01以上0.9以下、wは0.0001以上0.005以下、vは0より大きく0.04以下、x+y+z+w+v≦1であり、xとyは少なくともいずれか一方が0より大となる。pは0.4以上0.65以下、qは0.15以上0.55以下、rは0.01以上0.2以下、p+q+r=1である。QはLa、Tb、Prよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素である。)
【0020】
なお、Gd、Lu、Y、Ce、Sc、Qを総称してAサイト位置の元素という。またAl、Ga、Scを総称してBサイト位置の元素という。
【0021】
上記式(1)のAサイト位置の元素のうち、Ceは、410〜480nmの波長範囲内にピーク波長を有するLD光又はLED光による励起で、480〜710nmの波長の蛍光を放出しながら速やかに低エネルギー状態に遷移する元素であり、本発明にとっては必須の元素である。
【0022】
Gd及びYの組み合わせ(即ち、xが0より大であり、yが0である場合)、場合により更にLuを含めた組み合わせ(即ち、x、y共に0より大である場合)、又はLu及びYの組み合わせ(Gdは含まず)(即ち、xが0であり、yが0より大である場合)は、その組み合わせにおける両者の濃度比を変化させることにより、励起されたCeによって放出される蛍光のピーク波長を550〜600nmの範囲で調整することができる元素である。更にGdとY、Lu、ないしはLuとYを必ず混合してその組み合わせにおける両方を添加することにより、製造温度を極端に変動させることなく、つまり安定して製造でき、かつCeによって放出される蛍光のスペクトル帯域を広帯域に安定させることができる元素群でもある。そのため本発明にとっては別の必須の元素群である。
【0023】
Scは、Aサイト位置とBサイト位置の両方を占有する元素であり、波長600nmでの全光線透過率を50%以上に高めることのできる透明性向上元素である。更にCeによって放出される蛍光のスペクトル帯域を広帯域化させることができる元素でもあり、本発明にとっては更に別の必須の元素である。
【0024】
Qは、透明セラミックス蛍光体材料の蛍光特性を調整することのできるLa、Tb、Prよりなる元素群である。具体的には、Laは、Ceによって放出される蛍光のピーク波長を長波側に広帯域化させることのできる元素であり、しかも製造温度を低下させる効果も有しており、本発明にとっては重要な元素である。
【0025】
また、Tbは、その添加量の多寡により、Ceによって放出される蛍光の強度を向上させたり、蛍光のピーク波長を短波側にシフトさせることのできる元素であり、本発明にとっては重要な元素である。
【0026】
また、Prは、その添加量の多寡により、Ceによって放出される蛍光の強度を向上させることのできる元素であり、本発明にとっては別の重要元素である。
【0027】
上記式(1)のBサイト位置の元素のうち、Alは、透明セラミックス蛍光体材料の耐熱性向上や、熱伝導率の向上をつかさどる元素であり、本発明にとっては重要な元素である。
【0028】
Gaは、透明セラミックス蛍光体材料の製造温度を低下させたり、Ceによって放出される蛍光のピーク波長を短波側に広帯域化させることのできる元素であり、本発明にとっては必須の元素である。
【0029】
本発明の蛍光材料は、上記式(1)で表される複合酸化物を主成分として含有する。更に副成分として、シリコン酸化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物、ハフニウム酸化物よりなる群から選択された少なくとも1つの酸化物材料が、前記複合酸化物の質量に対して0より大きく100ppm未満の範囲で含まれる。この副成分は波長600nmにおける全光線透過率を50%以上にすることのできる成分であり、極微量でありながらも本発明にとっては特に重要な元素群である。
【0030】
ここで、主成分として含有するとは、上記式(1)で表される複合酸化物を90質量%以上含有することを意味する。式(1)で表される複合酸化物の含有量は99質量%以上であることが好ましく、99.9質量%以上であることがより好ましく、99.99質量%以上であることが好ましく、99.999質量%以上であることが特に好ましい。
【0031】
本発明の透明セラミックス蛍光体材料は、上記の主成分と副成分とで構成されるが、更に他の元素を含有していてもよい。その他の元素としては、イッテルビウム(Yb)が例示でき、様々な不純物群として、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、燐(P)、タングステン(Ta)、モリブデン(Mo)等が典型的に例示できる。
【0032】
その他の元素の含有量は、Aサイト位置の元素の全量を100質量部としたとき、10質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることが更に好ましく、0.001質量部以下(実質的にゼロ)であることが特に好ましい。
【0033】
式(1)中、Ceに関するwは0.0001以上0.005以下の範囲であり、0.001以上0.004以下であることが好ましい。wがこの範囲にあると、励起されたCeによって放出される蛍光の強度を確保できる。wが0.0001未満であると、410〜480nmの範囲内にピーク波長を有するLD光又はLED光によって励起されるCeの濃度が薄すぎるため、励起されたCeによって放出される蛍光の強度が低下する。また、wが0.005超であると、Ceの濃度消光により再び蛍光の強度が低下し始める。
【0034】
式(1)中、Gdに関するxは0以上0.96以下の範囲であり、好ましくは0以上0.65以下、より好ましくは0以上0.6以下である。xがこの範囲にあると、励起されたCeによって放出される蛍光の強度を確保できる。xが0.96より多くなると、410〜480nmの範囲内にピーク波長を有するLD光又はLED光によって励起されたCeの持つエネルギーの一部が熱振動エネルギーに変換されてしまい、Ceによって放出される蛍光の強度を低下させてしまうため好ましくない。更に結晶構造における格子歪も増加するため、特性再現性よく製造することが難しくなり好ましくない。
【0035】
式(1)中、Luに関するyは0以上0.5以下の範囲であり、好ましくは0以上0.4以下である。yがこの範囲にあると、励起されたCeによって放出される蛍光のピーク波長を短波側にシフトさせる効果が得られる。yが0.5より多くなると、励起されたCeによって放出される蛍光のピーク波長を短波側にシフトさせる効果が飽和する。また、yの量が増えるにしたがって、蛍光材料を製造するための処理温度は単調に上昇してしまうため、好ましくない。更にLuは高価な原料であるため、過剰な使用はそもそも好ましくない。
【0036】
式(1)中、Yに関するzは0.01以上0.9以下の範囲であり、好ましくは0.3以上0.85以下である。zがこの範囲にあると、励起されたCeによって放出される蛍光の強度を強めることができ、さらに蛍光強度特性が安定するため、再現性よく製造することができる。zが0.9より多くなると、励起されたCeによって放出される蛍光のピーク波長を短波側、ないしは長波側にシフトさせる効果が弱まるため好ましくない。zが0.01より少なくなると、Ceによって放出される蛍光のスペクトル帯域の幅を広帯域化させる効果がほぼ消失してしまうため好ましくない。
【0037】
式(1)中、Scに関するv及びrはそれぞれ、0<v≦0.04、0.01≦r≦0.2である。vがこの範囲にあると、波長600nmでの全光線透過率が50%以上となる。vがゼロ、即ちScがBサイト位置にしか存在していないと、波長600nmでの全光線透過率が50%未満に低下してしまうため好ましくない。逆にvが0.04より多くなっても、再び波長600nmでの全光線透過率が50%未満に低下してしまうため好ましくない。一方、rが上記範囲にあると、蛍光強度を効率的に確保できると共に、Ceによって放出される蛍光のスペクトル帯域幅を広帯域化させる効果が得られる。rが0.01未満だと、Ceによって放出される蛍光のスペクトル帯域幅を広帯域化させる効果が失われるため好ましくない。また、rが0.2より多くなると、410〜480nmの範囲内にピーク波長を有するLD光又はLED光によって励起されたCeのエネルギーの一部が、蛍光を放出しない遷移によって低エネルギー状態に緩和してしまうため好ましくない。
【0038】
式(1)中、Alに関するpは0.4以上0.65以下の範囲である。pがこの範囲にあると、良好な耐熱性や熱伝導性が得られる。pが0.65より多くなると製造温度が上昇するため、あまり好ましくない。またpが0.4未満に低下してしまうと耐熱性や熱伝導性が有意に劣化してしまうため好ましくない。
【0039】
式(1)中、Gaに関するqは0.15以上0.55以下の範囲である。qがこの範囲にあると、蛍光強度を効率的に確保できる。qが0.15未満であると、Ceによって放出される蛍光のスペクトル帯域を広帯域化させる効果が失われるため好ましくない。また、qが0.55より多くなると、410〜480nmの範囲内にピーク波長を有するLD光又はLED光によって励起されたCeのエネルギーの一部が、蛍光を放出しない遷移によって低エネルギー状態に緩和してしまうため好ましくない。
【0040】
式(1)中、x+y+z+w+vは1以下であり、1でない場合には、QとしてLa、Tb、Prよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素が添加される。
【0041】
また式(1)中、xとyは同時に0(すなわち無添加)を選択することはできない。例えば、複合酸化物の主相が少なくともGd、Y、Al、Ga、Sc、Ceをすべて含んで構成されるガーネット構造、Gd、Lu、Y、Al、Ga、Sc、Ceをすべて含んで構成されるガーネット構造、ないしはLu、Y、Al、Ga、Sc、Ceをすべて含んで構成されるガーネット構造を有する透明セラミックスからなる蛍光材料であることが好ましい。こうすることにより、Ceによって放出される蛍光のピーク波長を550〜600nmの範囲で確実に調整することができる。
【0042】
ところで、式(1)で表される複合酸化物において、Aサイト位置の元素群の合計モル数とBサイト位置の元素群の合計モル数とは、3対5の比率である。ただし試作検討を進めた結果、Aサイト位置の元素群の合計モル数とBサイト位置の元素群の合計モル数の比率(AサイトとBサイトのモル比率、B/A)の3/5倍が1以上である場合、好ましくは1以上1.04以下である場合には、波長600nmでの全光線透過率が50%以上確保可能であることが確認されたので好ましい。AサイトとBサイトのモル比率(B/A)の3/5倍が1以上、好ましくは1以上1.04以下とするには、初めに各原料を秤量する際に、例えばAサイト位置の元素群の合計モル数の基本組成(式(1))におけるAサイト位置の元素群の合計モル数に対する比率が100%に満たないように、かつBサイト位置の元素群の合計モル数の基本組成(式(1))におけるBサイト位置の元素群の合計モル数に対する比率が100%をわずかに超えるように、意図的にオフセットさせて秤量するとよい。
即ち、このAサイト位置の元素群の合計モル数及びBサイト位置の元素群の合計モル数の比率は、各元素(酸化物であれば各元素の酸化物)の実秤量値から各々モル分率を計算することにより求めることができる。
【0043】
以上の式(1)で規定される透明セラミックスの焼結体とすれば、ガーネット格子を有する立方晶(ガーネット型立方晶)を主相とするものとなり、好ましくはガーネット型立方晶からなるものとなる。なお、主相とするとは、結晶構造としてガーネット型立方晶が全体の90体積%以上、好ましくは95体積%以上、より好ましくは99体積%以上、特に好ましくは99.9体積%以上を占めることをいう。結晶構造が立方晶であると、複屈折による散乱の影響がなくなり、波長600nmでの全光線透過率が向上するため好ましい。
【0044】
更に、ガーネット格子を有する立方晶(ガーネット型立方晶)を主相とするものとなり、好ましくはガーネット型立方晶からなるものとすることによって、本発明の透明セラミックス焼結体からなる蛍光材料では、必須元素のCe(セリウム)がガーネット型立方晶の主相の隅々にまで拡散でき、かつガーネット格子を有する立方晶中でのセリウムの偏析係数はほぼ1であるため、セリウムが粒界に偏析することも抑制され、粒界偏析や異相(第2相)の形で材料中に局所的に高濃度分布することの無い蛍光材料となる。
【0045】
なおかつ、シリコン酸化物、ジルコニウム酸化物、チタン酸化物、ハフニウム酸化物よりなる群から選択された少なくとも1つの酸化物材料からなる副成分が前記複合酸化物に対する質量比として100ppm未満の範囲に絞られて含有されているのみとすれば、この副成分中へのCeの拡散量も極めて限定的に抑制できるため、Ceが蛍光材料中の隅々にまで拡散分布しており、粒界偏析や異相(第2相)の形で材料中に局所的に高濃度分布することの無い蛍光材料とすることができるため好ましい。
以上のように、本発明の蛍光材料中でCeが局所的に高濃度分布することがなくなると、熱消光耐性の向上も期待できる。
【0046】
以上の蛍光材料によれば、波長600nmでの全光線透過率が50%以上あり、波長範囲410〜480nm内にピーク波長を有するLD光又はLED光をこの蛍光材料に入射させてこのLD光又はLED光の一部を入射側と反対側に透過させ、残りのLD光又はLED光を吸収させたときに波長480〜710nmの光であってピーク波長(蛍光強度が最大となる波長)が550〜600nmの範囲内にある蛍光を放出し、かつ該蛍光を波長ごとに分解した際の最大強度となる蛍光強度を100%と定義した場合において、その最大強度の60%以上の蛍光を放出する波長帯域の幅が110nm以上である透明セラミックスの焼結体からなる蛍光材料を提供できる。
【0047】
[蛍光材料の製造方法]
本発明の蛍光材料の製造方法としては、フローティングゾーン法、マイクロ引下げ法などの単結晶製造方法、並びにセラミックス製造法があり、いずれの製法を用いても構わない。ただし、一般に単結晶製造方法では固溶体の濃度比の設計に一定程度の制約があり、セラミックス製造法の方が本発明ではより好ましい。
【0048】
以下、本発明の透明セラミックス蛍光体材料の製造方法の例としてセラミックス製造法について更に詳述するが、本発明の技術的思想を踏襲した単結晶製造方法を排除するものではない。
【0049】
《セラミックス製造法》
[原料]
本発明で用いる原料としては、主成分の出発原料として、セリウム(Ce)、ガドリニウム(Gd)、ルテチウム(Lu)、イットリウム(Y)、スカンジウム(Sc)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、並びに必要に応じて希土類元素Q(Qはランタン(La)、テルビウム(Tb)、プラセオジム(Pr)よりなる群から選択された少なくとも1つの希土類元素である)からなる各構成元素の金属粉末、ないしは硝酸、硫酸、尿酸等の水溶液、あるいは上記元素の複合酸化物粉末等が好適に利用できる。特に、上記各元素の各酸化物粉末は安定で安全なため取扱いが容易となるため好ましい。なお、これら原料の純度は99.9質量%以上が好ましい。
【0050】
更に、副成分の出発原料として、シリコン(Si)、ジルコニウム(Zr)、チタン(Ti)、ハフニウム(Hf)よりなる群から選択された少なくとも1つの副成分構成元素の金属粉末、ないしは硝酸、硫酸、尿酸等の水溶液、上記元素のアルコキシド、あるいは上記元素の酸化物粉末等が好適に利用できる。特に、上記各元素の各酸化物粉末は安定で安全なため取扱いが容易となるため好ましい。なお、これら原料の純度は99.9質量%以上が好ましい。
【0051】
また、上記原料の粉末形状については特に限定されず、例えば角状、球状、板状の粉末が好適に利用できる。また、二次凝集している粉末であっても好適に利用できるし、スプレードライ処理等の造粒処理によって造粒された顆粒状粉末であっても好適に利用できる。更に、これらの原料粉末の調整工程については特に限定されない。共沈法、粉砕法、噴霧熱分解法、ゾルゲル法、アルコキシド加水分解法、その他あらゆる合成方法で作製された原料粉末が好適に利用できる。また、得られた原料粉末を適宜湿式ボールミル、ビーズミル、ジェットミルや乾式ジェットミル、ハンマーミル等によって処理してもよい。
【0052】
例えば、上記主成分の出発原料を式(1)の複合酸化物のモル比となるように所定量秤量し、更にこの出発原料の配合量から複合酸化物に換算した質量に対して上記副成分の出発原料を所定の配合量となるように所定量秤量して、混合してから焼成して所望の構成の複合酸化物を主成分とする焼成原料を得るとよい。即ち、酸化ガドリニウム粉末又は酸化ルテチウム粉末と、酸化イットリウム粉末と、酸化セリウム粉末と、酸化スカンジウム粉末と、酸化アルミニウム粉末と、酸化ガリウム粉末と、必要に応じて添加されるランタン、テルビウム、プラセオジムよりなる群から選択された少なくとも1つの希土類酸化物粉末と、更に副成分出発原料とを混合した後、るつぼ内で焼成して焼成原料を作製するとよい。その後、該焼成原料を粉砕して原料粉末とする。
【0053】
このときの焼成温度は、1000〜1400℃、好ましくは1200℃以上1400℃以下である。
【0054】
本発明で用いる複合酸化物原料粉末中には、製造工程での品質安定性や歩留り向上の目的で、各種の有機添加剤が添加される場合がある。本発明においては、これらについても特に限定されない。即ち、各種の分散剤、結合剤、潤滑剤、可塑剤等が好適に利用できる。
【0055】
[製造工程]
本発明では、上記原料粉末を用いて、所定形状にプレス成形した後に脱脂を行い、次いで焼結して、相対密度が最低でも95%以上に緻密化した焼結体を作製する。その後工程として熱間等方圧プレス(HIP)処理を行うことが好ましい。
【0056】
(成形)
本発明の製造方法においては、通常のプレス成形工程を好適に利用できる。即ち、ごく一般的な、原料粉末を型に充填して一定方向から加圧するプレス工程や変形可能な防水容器に密閉収納して静水圧で加圧するCIP(Cold Isostatic Pressing)工程が利用できる。なお、印加圧力は得られる成形体の相対密度を確認しながら適宜調整すればよく、特に制限されないが、例えば市販のCIP装置で対応可能な300MPa以下程度の圧力範囲で管理すると製造コストが抑えられてよい。あるいはまた、成形時に成形工程のみでなく一気に焼結まで実施してしまうホットプレス工程や放電プラズマ焼結工程、マイクロ波加熱工程なども好適に利用できる。更に、プレス成形法ではなく、鋳込み成形法による成形体の作製も可能である。加圧鋳込み成形や遠心鋳込み成形、押出し成形等の成形法も、出発原料である酸化物粉末の形状やサイズと各種の有機添加剤との組合せを最適化することで、採用可能である。
【0057】
(脱脂)
本発明の製造方法においては、通常の脱脂工程を好適に利用できる。即ち、加熱炉による昇温脱脂工程を経ることが可能である。また、この時の雰囲気ガスの種類も特に制限はなく、空気、酸素、水素、不活性ガス等が好適に利用できる。なお、テルビウムのような酸化されやすい元素を添加する場合には、酸素分圧を下げた雰囲気を選択すると、価数変動のばらつきを低減できるため好ましい。脱脂温度も特に制限はないが、もしも有機添加剤が混合されている原料を用いる場合には、その有機成分が分解消去できる温度まで昇温することが好ましい。
【0058】
(焼結)
本発明の製造方法においては、一般的な焼結工程を好適に利用できる。即ち、抵抗加熱方式、誘導加熱方式等の加熱焼結工程を好適に利用できる。この時の雰囲気は特に制限されないが、不活性ガス、酸素、水素、真空等が好適に利用できる。
【0059】
本発明の焼結工程における焼結温度は、選択される出発原料により適宜調整される。一般的には選択された出発原料を用いて、製造しようとする各種複合酸化物焼結体の融点よりも数10℃から200〜400℃程度低温側の温度が好適に選定される。また、選定される温度の近傍に立方晶以外の相に相変化する温度帯が存在するガーネット型複合酸化物焼結体を製造しようとする際には、厳密にその温度帯を外した条件となるように管理して焼結すると、立方晶以外の相の混入を抑制でき、複屈折性の散乱を低減できるメリットがある。
【0060】
本発明の焼結工程における焼結保持時間は、選択される出発原料により適宜調整される。一般的には数時間程度で十分な場合が多い。ただし、セリウムの拡散均一性向上などのために数十時間保持することも好適に採用できる。また焼結工程後の複合酸化物焼結体の相対密度は最低でも95%以上に緻密化されていなければならない。
【0061】
(熱間等方圧プレス(HIP))
本発明の製造方法においては、焼結工程を経た後に更に追加で熱間等方圧プレス(HIP(Hot Isostatic Pressing))処理を行う工程を設けることができる。
【0062】
なお、このときの加圧ガス媒体種類は、アルゴン、窒素等の不活性ガス、又はAr−O2が好適に利用できる。加圧ガス媒体により加圧する圧力は、50〜300MPaが好ましく、100〜300MPaがより好ましい。圧力50MPa未満では透明性改善効果が得られない場合があり、300MPa超では圧力を増加させてもそれ以上の透明性改善が得られず、装置への負荷が過多となり装置を損傷するおそれがある。印加圧力は市販のHIP装置で処理できる196MPa以下であると簡便で好ましい。
【0063】
また、その際の処理温度(所定保持温度)は材料の種類及び/又は焼結状態により適宜設定すればよく、例えば1000〜2000℃、好ましくは1200〜1800℃の範囲で設定される。このとき、焼結工程の場合と同様に焼結体を構成する複合酸化物の融点以下及び/又は相転移点以下とすることが必須であり、熱処理温度が2000℃超では本発明で想定している複合酸化物焼結体が融点を超えるか相転移点を超えてしまい、適正なHIP処理を行うことが困難となる。また、熱処理温度が1000℃未満では焼結体の透明性改善効果が得られない。なお、熱処理温度の保持時間については特に制限されないが、焼結体を構成する複合酸化物の特性を見極めながら適宜調整するとよい。
【0064】
なお、HIP処理するヒーター材、断熱材、処理容器は特に制限されないが、グラファイト、モリブデン(Mo)、白金(Pt)、又はタングステン(W)が好適に利用できる。
【0065】
(アニール)
本発明の製造方法においては、HIP処理を終えた後に、得られた透明酸化物セラミックス焼結体中に酸素欠損が生じてしまい、薄灰色の外観を呈する場合や、逆に易酸化性構成元素の価数があがってしまい、チャージトランスファー吸収による着色が生じる場合がある。これらの場合には、前記HIP処理温度以下(例えば、900〜1500℃)でアニール処理を施すことが好ましい。
【0066】
アニール処理の雰囲気ガス、並びに圧力は求める組成により適宜調整することが好ましい。真空、Ar、H2、N2、O2、それらの加圧環境が好適に選択できる。
【0067】
(加工)
本発明の製造方法においては、上記一連の工程によって得られた透明酸化物セラミックス焼結体を適宜所望の厚み、サイズに加工することにより、利用が想定される照明部品、照明ユニット、照明モジュールに組み込むことができる。この際、410〜480nmの範囲内にピーク波長を有するLD光又はLED光の発光波長、並びに発光強度に合わせ、色度が所望の白色レンジに収まるように厚み調整を施すことが好ましい。
なお、この色度調整は式(1)におけるCeの添加量wを変化させることによっても実行できる。
【0068】
以上の工程により、照明部品、波長コンバータに好適な、プレート状、ペレット状などの所望の形状の透明バルク体である透明セラミックス焼結体からなる蛍光材料が得られる。
【実施例】
【0069】
以下に、実施例、比較例及び参考例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0070】
[実施例1、比較例1、参考例1]
本発明の蛍光材料のうち、Gdが含まれる系について取り上げる。
出発原料として、信越化学工業(株)製の酸化ガドリニウム粉末、酸化イットリウム粉末、酸化ルテチウム粉末、酸化セリウム粉末、酸化スカンジウム粉末、酸化ランタン粉末、酸化テルビウム粉末、酸化プラセオジム粉末、並びに日本軽金属(株)製の酸化アルミニウム粉末、ヤマナカヒューテック(株)製の酸化ガリウム粉末、及びヤマナカヒューテック(株)製のオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を入手した。純度はいずれも99.9質量%以上であった。
上記原料を用いて、表1のような最終組成となる混合比率の計15種類の実施例原料、及び3種類の比較例原料を作製した。なお、SiO2の添加量は、出発原料中にTEOSを添加し、それを焼成する過程で生成されるSiO2成分の換算量を求め、その換算量の上記それ以外の出発原料の配合量から複合酸化物に換算した質量に対する比率として求めた。表1では、そのSiO2の添加量を「SiO2」の後の括弧書きとして示した(以下、同じ)。
【0071】
続いて、それぞれ互いの混入を防止するよう注意しながらエタノール中でアルミナ製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は20時間であった。その後スラリーを乾燥させ、得られた各原料粉末を1000〜1400℃で焼成処理した。そのうえで再度互いの混入を防止するよう注意しながらエタノール中でアルミナ製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は20時間であった。得られた各スラリーを、スプレードライ処理によって、いずれも平均粒径が20μmの顆粒状原料に仕上げた。
【0072】
ここで得られた各顆粒状原料の一部をアルミナるつぼに入れ、焼結工程を想定して高温マッフル炉にて1500℃にて保持時間3時間で熱処理し、それぞれの組成での焼結材料を得た。得られた各焼結材料をパナリティカル社製粉末X線回折装置で回折パターン解析した。これらのピークから試料の結晶系を特定した。その結果、いずれの焼結材料についてもガーネット型酸化物の結晶相と考えられる立方晶が確認された。一例として、図1に実施例1−1の焼結材料の粉末X線回折パターンを示す。
【0073】
次に、先ほど準備しておいた各顆粒状原料につき、それぞれ直径15mmの金型に充填し、一軸プレス成形機で厚さ15mmの円筒状に仮成形したのち、198MPaの圧力での静水圧プレス処理を施してCIP成形体を得た。得られた成形体をマッフル炉中で500〜1000℃、2時間の条件にて脱脂処理した。続いて当該乾燥成形体を抵抗加熱式大気炉に仕込み、酸素雰囲気中、1500〜1650℃で1〜20時間処理して計18種の焼結体を得た。このとき、すべてのサンプルの焼結相対密度が95%になるように焼結温度を適宜調整した。
【0074】
得られた各焼結体をカーボンヒーター製HIP炉に仕込み、Ar中、200MPa、1500〜1650℃、2時間の条件でHIP処理した。
【0075】
こうして得られた各セラミックス焼結体につき、外径φ10mm、厚み10mmになるように切断、研削、研磨処理して蛍光体ブロックを作製した。なお、このとき研磨処理した面は外径φ10mmの上下2面である。
【0076】
得られた各蛍光体ブロック、並びに参考用試料として別途購入した神島化学工業(株)製のYAG:Ce蛍光体ブロックについて日本分光(株)製の分光光度計(型式:V−670)を用いて以下の要領で波長600nmでの全光線透過率を測定した。
【0077】
(全光線透過率の測定方法)
全光線透過率は、サンプルを透過した全光線を前方散乱成分まで含めて積算して評価する方法であり、具体的には積分球で光を集光して評価する。手順としては、まず波長600nm近傍でのブランク透過率を積分球で集光してベース光量;I0を設定する。続いて、光路中にサンプルを配置し、サンプルを透過してきた全光線を積分球で集光して光量;Iを評価する。全光線透過率は以下の式で算出される。
全光線透過率=I/Io×100
【0078】
その後、参考試料を含む各蛍光体ブロックにつき、幾つかの励起波長にて、下記のように蛍光スペクトルを分析評価した。更に得られたスペクトルのプロファイル解析をおこない、光量(蛍光強度)が最大となる波長である蛍光ピーク波長、及び光量(蛍光強度)が蛍光ピーク波長における蛍光強度(最大強度)の60%以上となる波長帯域幅を求めた。
【0079】
(蛍光スペクトルの分析評価方法)
(株)堀場製作所製の蛍光分光測定装置(型式:Fluorolog−3P−22)に一部の蛍光体ブロック(実施例1−1、比較例1−1、参考例1−1)をセットし、3D測定モードでキセノンランプの励起波長を420〜480nmの範囲で変化させながら、蛍光体ブロックの各波長での蛍光出力を求めた。その結果、典型的な青色LEDの波長460nmの光での励起効率が十分高いと推察される結果が確認された。このように照明装置として典型的な青色光励起で蛍光評価が十分にできそうであり、測定時間を大幅に短縮させることもできることから、残りの蛍光体ブロックについては波長460nmの光で励起させた際の蛍光体ブロックの各波長での蛍光出力を求めて蛍光スペクトルの分析評価を行った。
【0080】
また、得られた蛍光プロファイル(又はデータ)から、それぞれの蛍光体ブロックについての蛍光ピーク波長と光量(蛍光強度)が蛍光ピーク波長における蛍光強度(最大強度)の60%以上となる波長帯域幅(表中、「60%蛍光帯域幅」と表記)を読み取って記録した。
以上の一連の評価結果をまとめて表2に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
上記結果より、実施例1−1〜15と比較例1−1との比較から、ガーネット構造のAサイト位置に少なくともGd、Y、Ceが含まれ、Bサイト位置にAl、Gaが含まれる系に、更にAサイト位置とBサイト位置の両方にScを加えること(実施例の群)で、波長600nmでの全光線透過率が50%以上に向上することが確認された。
また実施例1−1〜15と比較例1−2との比較から、ガーネット構造のAサイト位置に少なくともGd、Y、Ceが含まれ、Bサイト位置にAlが含まれる系に、更にAサイト位置とBサイト位置の両方にScを加え、かつBサイト位置にGaを加えること(実施例の群)で、波長が460nm(及び420nm、440nm、480nm)で励起した場合の蛍光量が蛍光ピーク波長における蛍光強度(最大強度)の60%以上となる波長帯域幅が110nm以上になることが確認された。
また、実施例1−1〜15と比較例1−3との比較から、ガーネット構造のAサイト位置に少なくともY、Ce、Scが含まれ、Bサイト位置にAl、Ga、Scが含まれる系に、更にAサイト位置にGdを加えること(実施例の群)で、Yだけを加えた系(比較例1−3)よりも波長が460nm(及び420nm、440nm、480nm)で励起した場合の蛍光量が蛍光ピーク波長における蛍光強度(最大強度)の60%以上となる波長帯域幅が広がり、110nm以上になることが確認された。
また、実施例1−2、1−5及び1−9〜11、更に1−15から、Gd濃度を増す組成やLaを添加する組成、あるいはGdとYが高濃度であるベース骨格にさらにLuを添加する組成で、蛍光ピーク波長が長波長側にシフトすることが確認され、実施例1−4から、Gd濃度を大きく低減させた組成で蛍光ピーク波長が短波長側にシフトすることが確認され、蛍光のピーク波長を560〜600nmの範囲で調整できることが確かめられた。
なお、参考例1−1の結果から、従来から公知のYAG:Ce蛍光体も波長が460nm(及び420nm、440nm、480nm)で励起した場合の蛍光量が蛍光ピーク波長における蛍光強度(最大強度)の60%以上となる波長帯域幅が110nm未満であることが確かめられた。
以上のことから、本実施例の蛍光材料を用いることにより、410〜480nmの波長範囲内にピーク波長を有する光エネルギーを吸収させたときに、放出される蛍光を波長ごとに分解した際の最大強度となる蛍光強度を100%と定義した場合において、その最大強度の60%以上の蛍光を放出する波長帯域幅が110nm以上になり、かつ蛍光のピーク波長を560〜600nmの範囲で調整でき、更に波長600nmでの全光線透過率が50%以上確保された透明セラミックス焼結体からなる蛍光材料を提供できる。
【0084】
[実施例2、比較例2]
本発明の蛍光材料のうち、Luが含まれる系について取り上げる。
出発原料として、信越化学工業(株)製の酸化ルテチウム粉末、酸化イットリウム粉末、酸化セリウム粉末、酸化スカンジウム粉末、酸化テルビウム粉末、酸化プラセオジム粉末、並びに日本軽金属(株)製の酸化アルミニウム粉末、ヤマナカヒューテック(株)製の酸化ガリウム粉末、及びヤマナカヒューテック(株)製のオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を入手した。純度はいずれも99.9質量%以上であった。
上記原料を用いて、表3のような最終組成となる混合比率の計5種類の実施例原料、及び1種類の比較例原料を作製した。なおSiO2の添加量は、出発原料中にTEOSを添加し、それを焼成する過程で生成されるSiO2成分の換算量を求め、その換算量の上記それ以外の出発原料の配合量から複合酸化物に換算した質量に対する比率として求めた。
【0085】
続いて、それぞれ互いの混入を防止するよう注意しながらエタノール中でアルミナ製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は20時間であった。その後スラリーを乾燥させ、得られた各原料粉末を1000〜1500℃で焼成処理した。そのうえで再度互いの混入を防止するよう注意しながらエタノール中でアルミナ製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は20時間であった。得られた各スラリーを、スプレードライ処理によって、いずれも平均粒径が20μmの顆粒状原料に仕上げた。
【0086】
ここで得られた各顆粒状原料の一部をアルミナるつぼに入れ、焼結工程を想定して高温マッフル炉にて1500℃にて保持時間3時間で熱処理し、それぞれの組成での焼結材料を得た。得られた各焼成原料をパナリティカル社製粉末X線回折装置で回折パターン解析した。これらのピークから試料の結晶系を特定した。その結果、いずれの焼結材料についてもガーネット型酸化物の結晶相と考えられる立方晶が確認された。
【0087】
次に、先ほど準備しておいた各顆粒状原料につき、それぞれ直径15mmの金型に充填し、一軸プレス成形機で厚さ15mmの円筒状に仮成形したのち、198MPaの圧力での静水圧プレス処理を施してCIP成形体を得た。得られた成形体をマッフル炉中で500〜1000℃、2時間の条件にて脱脂処理した。続いて当該乾燥成形体を抵抗加熱式大気炉に仕込み、酸素雰囲気中、1500〜1700℃で1〜20時間処理して計5種の焼結体を得た。このとき、すべてのサンプルの焼結相対密度が95%になるように焼結温度を適宜調整した。
【0088】
得られた各焼結体をカーボンヒーター製HIP炉に仕込み、Ar中、200MPa、1500〜1700℃、2時間の条件でHIP処理した。
【0089】
こうして得られた各セラミックス焼結体につき、外径φ10mm、厚み10mmになるように切断、研削、研磨処理して蛍光体ブロックを作製した。なお、このとき研磨処理した面は外径φ10mmの上下2面である。
【0090】
得られた各蛍光体ブロックについて日本分光(株)製の分光光度計(型式:V−670)を用いて、実施例1と同様の方法で波長600nmでの全光線透過率を測定した。更に、各蛍光体ブロックにつき、幾つかの励起波長にて、実施例1と同様の方法にて、蛍光スペクトルを分析評価した。続いて得られたスペクトルのプロファイル解析をおこない、光量(蛍光強度)が最大となる波長である蛍光ピーク波長、及び光量(蛍光強度)が蛍光ピーク波長における蛍光強度(最大強度)の60%以上となる波長帯域幅を求めた。
また、得られた蛍光プロファイル(又はデータ)から、それぞれの蛍光体ブロックについての蛍光ピーク波長と光量(蛍光強度)が蛍光ピーク波長における蛍光強度(最大強度)の60%以上となる波長帯域幅(表中、「60%蛍光帯域幅」と表記)を読み取って記録した。
以上の一連の評価結果をまとめて表4に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
【表4】
【0093】
上記結果より、実施例2−1〜5と比較例2−1との比較から、ガーネット構造のAサイト位置に少なくともY、Ce、Scが含まれ、Bサイト位置にAl、Ga、Scが含まれる系に、更にAサイト位置にLuを加えること(実施例の群)で、波長が460nm(及び420nm、440nm、480nm)で励起した場合の蛍光量が蛍光ピーク波長における蛍光強度(最大強度)の60%以上となる波長帯域幅が110nm以上になることが確認された。
また実施例2−1〜5から、Lu濃度を増す組成で蛍光ピーク波長が短波長側にシフトすることが確認され、波長600nmでの全光線透過率が50%以上を確保しながら、蛍光のピーク波長を550〜555nmの範囲で調整できることが確かめられた。
以上のことから本実施例の蛍光材料を用いることにより、410〜480nmの波長範囲内にピーク波長を有する光エネルギーを吸収させたときに、放出される蛍光を波長ごとに分解した際の最大強度となる蛍光強度を100%と定義した場合において、その最大強度の60%以上の蛍光を放出する波長帯域幅が110nm以上になり、かつ波長600nmでの全光線透過率が50%以上確保された透明セラミックス焼結体からなる蛍光材料を提供できる。
更に、本実施例と実施例1の群を合わせることで、蛍光のピーク波長を550〜600nmの範囲で調整可能な透明セラミックス蛍光体材料を提供できる。
【0094】
[実施例3、比較例3]
本発明の蛍光材料のうち、Gdが含まれる蛍光材料についてガーネット構造のAサイト位置の元素群の合計モル数とBサイト位置の元素群の合計モル数の比率(モル比率)を変化させた系について取り上げる。このモル比率について、単純にAサイト位置の元素群の総モル数を基本組成(式(1))におけるAサイト位置の元素群の総モル数に対して所定比率で変化させて秤量し、Bサイトの総モル数を基本組成(式(1))におけるBサイト位置の元素群の総モル数に対して所定比率で変化させて秤量するなどして変化させた。例えば、Aサイト位置の元素群の総モル数を基本組成におけるAサイト位置の元素群の総モル数の99%となるように秤量し(A=3×0.99=2.97)、Bサイトの総モル数を基本組成におけるBサイト位置の元素群の総モル数の101%となるように秤量し(B=5×1.01=5.05)、上記モル比率としてB/A×3/5=1.02とする。
【0095】
出発原料として、信越化学工業(株)製の酸化ガドリニウム粉末、酸化イットリウム粉末、酸化セリウム粉末、酸化スカンジウム粉末、並びに日本軽金属(株)製の酸化アルミニウム粉末、ヤマナカヒューテック(株)製の酸化ガリウム粉末、及びヤマナカヒューテック(株)製のオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を入手した。純度はいずれも99.9質量%以上であった。
上記原料を用いて、表5のような最終組成となる混合比率の計5種類の実施例原料、並びに1種類の比較例原料を作製した。なおSiO2の添加量は、出発原料中にTEOSを添加し、それを焼成する過程で生成されるSiO2成分の換算量を求め、その換算量の上記それ以外の出発原料の配合量から複合酸化物に換算した質量に対する比率として求めた。
【0096】
続いて、それぞれ互いの混入を防止するよう注意しながらエタノール中でアルミナ製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は20時間であった。その後スラリーを乾燥させ、得られた各原料粉末を1000〜1400℃で焼成処理した。そのうえで再度互いの混入を防止するよう注意しながらエタノール中でアルミナ製ボールミル装置にて分散・混合処理した。処理時間は20時間であった。得られた各スラリーを、スプレードライ処理によって、いずれも平均粒径が20μmの顆粒状原料に仕上げた。
【0097】
ここで得られた各顆粒状原料の一部をアルミナるつぼに入れ、焼結工程を想定して高温マッフル炉にて1500℃にて保持時間3時間で熱処理し、それぞれの組成での焼結材料を得た。得られた各焼成原料をパナリティカル社製粉 末X線回折装置で回折パターン解析した。これらのピークから試料の結晶系を特定した。その結果、いずれの焼結材料についてもガーネット型酸化物の結晶相と考えられる立方晶が確認された。
【0098】
次に、先ほど準備しておいた各顆粒状原料につき、それぞれ直径15mmの金型に充填し、一軸プレス成形機で厚さ15mmの円筒状に仮成形した後、198MPaの圧力での静水圧プレス処理を施してCIP成形体を得た。得られた成形体をマッフル炉中で500〜1000℃、2時間の条件にて脱脂処理した。続いて当該乾燥成形体を抵抗加熱式大気炉に仕込み、酸素雰囲気中、1500〜1650℃で1〜20時間処理して計6種の焼結体を得た。このとき、すべてのサンプルの焼結相対密度が95%になるように焼結温度を適宜調整した。
【0099】
得られた各焼結体をカーボンヒーター製HIP炉に仕込み、Ar中、200MPa、1500〜1650℃、2時間の条件でHIP処理した。
【0100】
こうして得られた各セラミックス焼結体につき、外径φ10mm、厚み10mmになるように切断、研削、研磨処理して蛍光体ブロックを作製した。なお、このとき研磨処理した面は外径φ10mmの上下2面である。
【0101】
得られた各蛍光体ブロックについて日本分光(株)製の分光光度計(型式:V−670)を用いて、実施例1と同様の方法で波長600nmでの全光線透過率を測定した。更に、各蛍光体ブロックにつき、幾つかの励起波長にて、実施例1と同様の方法にて、蛍光スペクトルを分析評価した。続いて得られたスペクトルのプロファイル解析をおこない、光量(蛍光強度)が最大となる波長である蛍光ピーク波長、及び光量(蛍光強度)が蛍光ピーク波長における蛍光強度(最大強度)の60%以上となる波長帯域幅を求めた。
得られた蛍光プロファイル(ないしはデータ)から、それぞれの蛍光体ブロックについての蛍光ピーク波長と光量(蛍光強度)が蛍光ピーク波長における蛍光強度(最大強度)の60%以上となる波長帯域幅(表中、「60%蛍光帯域幅」と表記)を読み取って記録した。また、実施例3−3の蛍光ピーク波長における蛍光強度(最大強度)を1とした場合のそれ以外の実施例、比較例の蛍光ピーク波長における蛍光強度(最大強度)の比率を計算により求めた。
以上の一連の評価結果をまとめて表6に示す。
【0102】
【表5】
【0103】
【表6】
【0104】
上記結果より、A3512型ガーネット構造を有する透明セラミックス焼結体からなる蛍光材料において、Aサイト位置の元素群の合計モル数とBサイト位置の元素群の合計モル数の比率(B/A)の3/5倍の値を0.98から1.04の範囲で変化させたところ、その比率が0.98の比較例3−1のみが波長600nmでの全光線透過率が50%未満となった。一方、その比率が1.0以上の実施例の群ではいずれのものでも、460nmのピーク波長を有する光エネルギーを吸収させたときに、放出される蛍光を波長ごとに分解した際の最大強度となる蛍光強度を100%と定義した場合において、その最大強度の60%以上の蛍光を放出する波長帯域幅が110nm以上になり、かつ波長600nmでの全光線透過率が50%以上確保された蛍光材料を提供できることが確認された。
【0105】
なお、これまで本発明を実施形態をもって説明してきたが、本発明はこの実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
図1