特許第6589762号(P6589762)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6589762
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】両面研磨装置
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/12 20120101AFI20191007BHJP
   B24B 37/16 20120101ALI20191007BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   B24B37/12 D
   B24B37/16
   H01L21/304 621A
   H01L21/304 622F
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-138464(P2016-138464)
(22)【出願日】2016年7月13日
(65)【公開番号】特開2018-8342(P2018-8342A)
(43)【公開日】2018年1月18日
【審査請求日】2018年7月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【弁理士】
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】江▲崎▼ 圭佑
【審査官】 亀田 貴志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−147731(JP,A)
【文献】 米国特許第06376378(US,B1)
【文献】 米国特許第07156726(US,B1)
【文献】 特開2000−317813(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/132073(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00 − 37/34
B24B 7/14
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心部に中央孔をそれぞれ有するドーナツ形状の上定盤及び下定盤を備え、ウェーハを保持するキャリアを前記上定盤及び下定盤により挾圧しながら、前記上定盤及び下定盤のそれぞれの前記中央孔に設置されたサンギアと前記上定盤及び下定盤の各外周部に設置されたインターナルギアにて回転させることにより、前記ウェーハの両面を同時に研磨する両面研磨装置において、
前記上定盤と前記下定盤の各内周部に、前記上定盤の内周部に向かって前記上定盤の研磨面が上方へ傾斜する内周側切落し部X1と前記下定盤の内周部に向かって前記下定盤の研磨面が下方へ傾斜する内周側切落し部Y1がそれぞれ形成されるか、前記上定盤と前記下定盤の各外周部に、前記上定盤の外周部に向かって前記上定盤の研磨面が上方へ傾斜する外周側切落し部X2と前記下定盤の外周部に向かって前記下定盤の研磨面が下方へ傾斜する外周側切落し部Y2がそれぞれ形成されるか、或いは前記上定盤と前記下定盤の各外周部と各内周部の双方に前記内周側切落し部X1、Y1と前記外周側切落し部X2、Y2がそれぞれ形成され、
前記内周側切落し部X1、Y1と前記外周側切落し部X2、Y2は、前記上定盤又は下定盤の各内周部又は各外周部に沿ってそれぞれリング状に設けられ
前記内周側切落し部X1、Y1の鉛直方向における切落し量をそれぞれA1、B1(μm)とするとき、前記A1、B1(μm)が10μm≦A1+B1≦70μmの範囲を満たすように制御され、
前記外周側切落し部X2、Y2の鉛直方向における切落し量をそれぞれA2、B2(μm)とするとき、前記A2、B2(μm)が10μm≦A2+B2≦70μmの範囲を満たすように制御されることを特徴とする両面研磨装置。
【請求項2】
前記上定盤と下定盤の各内周部と各外周部の双方に前記内周側切落し部X1、Y1と前記外周側切落し部X2、Y2がそれぞれ形成されることを特徴とする請求項1記載の両面研磨装置。
【請求項3】
前記ウェーハの直径をR(mm)、前記内周側切落し部X1、Y1の水平方向における幅をそれぞれC1、D1(mm)とするとき、前記C1、D1(mm)が0.15×R≦(C1、D1)≦0.25×Rの範囲を満たすように制御され、
前記外周側切落し部X2、Y2の水平方向における幅をそれぞれC2、D2(mm)とするとき、前記C2、D2(mm)が0.15×R(mm)≦(C2、D2)≦0.25×R(mm)の範囲を満たすように制御されることを特徴とする請求項1又は2記載の両面研磨装置。
【請求項4】
前記内周側切落し部X1、Y1及び外周側切落し部X2、Y2の各傾斜面が直線的な傾斜面である請求項1ないしいずれか1項に記載の両面研磨装置。
【請求項5】
請求項1ないしいずれか1項に記載の両面研磨装置を用いてウェーハの両面を同時に研磨する両面研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハの表裏面を同時に研磨する両面研磨装置及びこの装置を用いた両面研磨方法に関する。更に詳しくは、ウェーハ外周部におけるロールオフ量を低減し、ウェーハの外周部及び全面形状における平坦度を向上させることができる両面研磨装置及びこの装置を用いた両面研磨方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えばシリコン単結晶をスライスして得られたシリコンウェーハ等の半導体ウェーハの製造工程では、ウェーハの平坦度を改善する目的で、ウェーハの表裏面を同時に研磨する両面研磨が一般的に採用されている。
【0003】
ウェーハの両面研磨には、一般に、研磨面に研磨布がそれぞれ貼付された上定盤及び下定盤を備え、ウェーハを保持するキャリアをこの上定盤と下定盤により挟圧しながら回転させることにより、ウェーハ両面の研磨を同時に行う両面研磨装置が用いられている。図7は、一般的な両面研磨工程において、研磨時間が図7(a)〜図7(e)の順に経過する際に、その経過に従ってウェーハの形状が変化していく様子を表した図である。なお、図7には、図7(a)〜図7(e)の各時点におけるウェーハの厚さとキャリアプレートの厚さの大小関係も示している。図7(a)〜図7(e)において、縦軸はウェーハの厚みを示しており、横軸はウェーハの半径をRとしたときのウェーハ中心からの位置を示している。即ち、これらの図は、それぞれウェーハの鉛直方向における断面形状の様子を、ウェーハ中心からの各位置における厚さによって表したものであり、右拡大図はそのウェーハ外周部(エッジ部)の一端を拡大したものである。
【0004】
図7に示すように、両面研磨では、上定盤及び下定盤に貼付された研磨布でウェーハの表裏面が同時に研磨され、研磨時間の経過とともに、図7(a)〜図7(e)のように形状が変化していく。図7(a)に示す研磨工程の初期段階では、ウェーハ全面形状(グローバル形状)は、中心部付近の厚みが大きい凸形状となっており、ウェーハ外周部に大きなダレ(ロールオフ)がみられる。また、この初期段階では、ウェーハの厚みはキャリアプレートの厚みより十分に厚くなっている。続く図7(b)の段階では、ウェーハの全面形状は、上述の凸形状よりも若干平坦な形状に近づくものの、初期段階でみられたウェーハ外周部のロールオフは残っている。更に研磨が進行し、図7(c)の段階になると、ウェーハの厚みとキャリアプレートの厚みは、ほぼ等しくなり、ウェーハの全面形状は、ほぼ平坦な形状となる。また、研磨布は弾性体であり、一定の圧力を掛けて研磨することから、特に図7(a)、図7(b)の段階では、研磨中に研磨布が一定量沈み込むことで、ウェーハ外周部には中心部付近に比べて大きな応力が掛かっている。一方、ウェーハの厚みとキャリアプレートの厚みがほぼ等しくなると、ウェーハ外周部に掛かる研磨布からの応力がキャリアプレートに分散され、当該応力が低減される。このため、図7(c)の段階では、ウェーハ外周部にみられたロールオフ量が小さくなっている。
【0005】
その後、図7(d)の段階まで研磨が進行すると、ウェーハ中心部付近が凹んだ形状となり、ウェーハ外周部が切上がり形状となる。この段階から、更に研磨が進行して、図7(e)の段階になると、図7(d)の段階における形状から、ウェーハ中心部付近が更に凹んだ形状となり、ウェーハ外周部の切上がり量も更に大きくなる。また、ウェーハの厚みも、キャリアプレートの厚みに対して更に薄くなっている。
【0006】
以上のことから、平坦度が高く、ウェーハ外周部におけるロールオフが少ないウェーハを得るためには、ウェーハの厚みがキャリアプレートの厚みとほぼ同等になるように制御して研磨を行うのが一般的であり、この制御は、従来、研磨時間の調整等により行っていた。
【0007】
しかし、研磨時間の調整による制御では、装置を停止するタイミングのずれや研磨環境の影響等を受けることで、正確に制御することが困難であった。また、近年のマイクロエレクトロニクスデバイス構造の微細化や半導体ウェーハの大口径化等に伴い、製造されるウェーハ形状、特に平坦度やナノトポロジー等のより高度な制御が求められている。このため、ウェーハ外周部におけるロールオフがより少なく、また、良好な平坦度やナノトポロジーを有するウェーハを得るために、研磨工程の改良だけでなく、研磨装置においても様々な改良の試みが検討されている。
【0008】
研磨圧力を均一化するためには、研磨中に定盤の形状変形等が起こらないこと、即ち定盤の剛性が重要である。しかしながら、研磨時の熱変形によって、ウェーハ表面に掛かる研磨布からの圧力がウェーハ面内で不均一になってしまうという問題があった。この場合、研磨速度及び研磨量もウェーハ面内において不均一となり、ウェーハが平坦に研磨されなくなってしまう。このような問題を解消する両面研磨装置として、例えば、研磨時の上下定盤の変形を予め把握しておき、定盤作製過程で研磨時の変形を打ち消す形状に上下定盤を加工させた両面研磨装置が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この両面研磨装置では、上下定盤の形状を、研磨中の熱的環境に起因した定盤の熱変形を見込んだ形状に作製しておくことで、研磨中の定盤変形の影響が打ち消され、これによって研磨中のウェーハに加わる研磨圧力を均一化し、平坦度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002−166357号公報(請求項1、段落[0023]、図3
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、研磨中においては、定盤外周部の方が定盤面内よりもウェーハに対して周速が大きいため、ウェーハ外周部の走行量が大きくなり、定盤面内で研磨圧力を一定に制御すると、ウェーハ外周部における研磨が促進されてしまうという課題が見出された。上記従来の特許文献1に示された両面研磨装置では、熱的環境等に起因する定盤の変形については考慮されているものの、定盤外周部の周速や走行量の違い等は考慮されていない。特許文献1に示された両面研磨装置では、単に研磨圧力が均一になるように制御されているので、ウェーハ外周部における研磨が早く進行してそのロールオフ量が多くなり、平坦度が悪化してしまう。このように、従来の方法では、特にウェーハ外周部におけるロールオフを十分に抑制できないことから、ウェーハ外周部における平坦度とウェーハの全面形状における平坦度を両立させて研磨を行うのが難しく、近年の要求に十分に対応することが困難であった。
【0011】
本発明の目的は、ウェーハ外周部におけるロールオフ量を低減し、ウェーハの外周部及び全面形状における平坦度を向上させることができる両面研磨装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の観点は、中心部に中央孔をそれぞれ有するドーナツ形状の上定盤及び下定盤を備え、ウェーハを保持するキャリアを上定盤及び下定盤により挾圧しながら、上定盤及び下定盤の各中央孔に設置されたサンギアと上定盤及び下定盤の各外周部に設置されたインターナルギアにて回転させることにより、ウェーハの両面を同時に研磨する両面研磨装置において、上定盤と下定盤の各内周部に、上定盤の内周部に向かって上定盤の研磨面が上方へ傾斜する内周側切落し部X1と下定盤の内周部に向かって下定盤の研磨面が下方へ傾斜する内周側切落し部Y1がそれぞれ形成されるか、上定盤と下定盤の各外周部に、上定盤の外周部に向かって上定盤の研磨面が上方へ傾斜する外周側切落し部X2と下定盤の外周部に向かって下定盤の研磨面が下方へ傾斜する外周側切落し部Y2がそれぞれ形成されるか、或いは上定盤と下定盤の各外周部と各内周部の双方に内周側切落し部X1、Y1と外周側切落し部X2、Y2がそれぞれ形成され、内周側切落し部X1、Y1と外周側切落し部X2、Y2は、上定盤又は下定盤の各内周部又は各外周部に沿ってそれぞれリング状に設けられ、前記内周側切落し部X1、Y1の鉛直方向における切落し量をそれぞれA1、B1(μm)とするとき、前記A1、B1(μm)が10μm≦A1+B1≦70μmの範囲を満たすように制御され、前記外周側切落し部X2、Y2の鉛直方向における切落し量をそれぞれA2、B2(μm)とするとき、前記A2、B2(μm)が10μm≦A2+B2≦70μmの範囲を満たすように制御されることを特徴とする。
【0013】
本発明の第2の観点は、第1の観点に基づく発明であって、更に上定盤と下定盤の各内周部と各外周部の双方に切落し部がそれぞれ設けられることを特徴とする。
【0015】
本発明の第の観点は、第1又は第2の観点に基づく発明であって、ウェーハの直径をR(mm)、内周側切落し部X1、Y1の水平方向における幅をそれぞれC1、D1(mm)とするとき、C1、D1(mm)が0.15×R(mm)≦(C1、D1)≦0.25×R(mm)の範囲を満たすように制御され、外周側切落し部X2、Y2の水平方向における幅をそれぞれC2、D2(mm)とするとき、C2、D2(mm)が0.15×R(mm)≦(C2、D2)≦0.25×R(mm)の範囲を満たすように制御されることを特徴とする。
【0016】
本発明の第の観点は、第1ないし第の観点に基づく発明であって、内周側切落し部X1、Y1及び外周側切落し部X2、Y2の各傾斜面が直線的な傾斜面であることを特徴とする。
【0017】
本発明の第の観点は、第1ないし第の観点の両面研磨装置を用いてウェーハの両面を同時に研磨する両面研磨方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1の観点の両面研磨装置は、中心部に中央孔をそれぞれ有するドーナツ形状の上定盤及び下定盤を備え、ウェーハを保持するキャリアを上定盤及び下定盤により挾圧しながら、上定盤及び下定盤の各中央孔に設置されたサンギアと上定盤及び下定盤の各外周部に設置されたインターナルギアにて回転させることにより、ウェーハの両面を同時に研磨する両面研磨装置である。そして、上定盤と下定盤の各内周部に、上定盤の内周部に向かって上定盤の研磨面が上方へ傾斜する内周側切落し部X1と下定盤の内周部に向かって下定盤の研磨面が下方へ傾斜する内周側切落し部Y1がそれぞれ形成されるか、上定盤と下定盤の各外周部に、上定盤の外周部に向かって上定盤の研磨面が上方へ傾斜する外周側切落し部X2と下定盤の外周部に向かって下定盤の研磨面が下方へ傾斜する外周側切落し部Y2がそれぞれ形成されるか、或いは上定盤と下定盤の各外周部と各内周部の双方に内周側切落し部X1、Y1と外周側切落し部X2、Y2がそれぞれ形成され、内周側切落し部X1、Y1と外周側切落し部X2、Y2は、上定盤又は下定盤の各内周部又は各外周部に沿ってそれぞれリング状に設けられる。これにより、ウェーハ外周部の研磨圧力がウェーハ中心部付近の研磨圧力に比べて低減されるため、ウェーハ外周部におけるロールオフ量が低下し、ウェーハの外周部及び全面形状における平坦度を向上させることができる。
また本発明の第1の観点の両面研磨装置は、内周側切落し部X1、Y1の鉛直方向における切落し量をそれぞれA1、B1(μm)とするとき、A1、B1(μm)が10μm≦A1+B1≦70μmの範囲を満たすように制御され、外周側切落し部X2、Y2の鉛直方向における切落し量をそれぞれA2、B2(μm)とするとき、A2、B2(μm)が10μm≦A2+B2≦70μmの範囲を満たすように制御される。これにより、切落し部がより適正な範囲に制御されるため、ウェーハ外周部における研磨圧力もより適正な圧力に低減される。そのため、ウェーハ外周部におけるロールオフ量の低減効果がより一層高められる。なお、A1とB1は、特に、同じ値であっても、異なる値であってもよい。A2とB2についても同様である。
【0019】
本発明の第2の観点の両面研磨装置では、上定盤又は下定盤の各内周部又は各外周部に内周側切落し部X、Y及び外周側切落し部X、Yがそれぞれ設けられる。即ち、両定盤の内周部及び外周部の全てに切落し部が設けられるため、ウェーハ外周部におけるロールオフ量の低減効果がより一層高められる。
【0021】
本発明の第の観点の方法では、ウェーハの直径をR(mm)、内周側切落し部X1、Y1の水平方向における幅をそれぞれC1、D1(mm)とするとき、C1、D1(mm)は0.15×R(mm)≦(C1、D1)≦0.25×R(mm)の範囲を満たすように制御され、外周側切落し部X2、Y2の水平方向における幅をそれぞれC2、D2(mm)とするとき、C2、D2(mm)は0.15×R(mm)≦(C2、D2)≦0.25×R(mm)の範囲を満たすように制御される。このように、切落し部の水平方向における幅を所定の範囲に制御することにより、ロールオフが起こりやすいウェーハ外周部の水平方向の幅をより適正な範囲に制御しながら、ウェーハ外周部における研磨圧力を低減させることができる。これにより、ウェーハ外周部におけるロールオフ量の低減効果がより一層高められる。なお、C1とD1は、同じ値であっても、異なる値であってもよいが、同じ値であるか、より近い値であることが好ましい。C2とD2についても同様である。
【0022】
本発明の第の観点の方法では、上定盤に設けられた切落し部と下定盤に設けられた各切落し部の傾斜面が直線的な傾斜面であるため、定盤の加工が容易となる。
【0023】
本発明の第の観点の方法では、上述の本発明の両面研磨装置を用いてウェーハの両面を同時に研磨するため、ウェーハの外周部及び全面形状における平坦度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明実施形態の方法で使用される研磨装置の一例を示した概略断面図である。
図2】本発明実施形態の下定盤を上面から視た概略図である。
図3図2におけるA−A線断面図である。
図4】研磨中にウェーハが研磨布の最内外周部まで到達しない場合の説明図である。
図5】切落し部の傾斜面における断面形状の一例を示した模式図である。
図6】外周部の周速の違いによる影響が従来法に比べて低減されることを示す説明図である。図6(a)は研磨圧力がウェーハ面内に一定の研磨圧力が掛かる従来例を示し、図6(b)は研磨圧力がウェーハ外周部で低下する本実施形態を示す。
図7】一般的な両面研磨工程において研磨時間の経過に従ってウェーハ形状が変化していく様子を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0026】
本発明は、中心部に中央孔をそれぞれ有し、研磨面に研磨布がそれぞれ貼付されたドーナツ形状の上定盤及び下定盤を備え、ウェーハを保持するキャリアを上定盤及び下定盤により挟圧しながら、上定盤及び下定盤の各中央孔に設置されたサンギアと上定盤及び下定盤の各外周部に設置されたインターナルギアにて回転させることにより、ウェーハの両面を同時に研磨する両面研磨装置の改良である。
【0027】
本発明の両面研磨装置は、後述する上下両定盤及びこれに貼付される研磨布の構成を除いて特に限定されず、一般的な両面研磨装置を用いることができる。例えば、図1に示す装置10は、本発明実施形態で用いられる両面研磨装置の一例を示した概略図であり、この装置10では、上定盤12、下定盤13の構成以外は、一般的な両面研磨装置と同様の構成である。なお、図1図6において、同一符号は同一部品又は部材を示す。
【0028】
装置10は、図1に示すように、中心部に中央孔がそれぞれ設けられたドーナツ形状の上定盤12及び下定盤13からなる2つの定盤を備える。上定盤12及び下定盤13のそれぞれの全面には研磨布22及び23が貼付される。なお、上定盤12と下定盤13の間の各中央孔にはサンギア24が、各周縁部にはインターナルギア25が設けられている。このインターナルギア25の内径は、上定盤12及び下定盤13の各外径よりも大きい。研磨布23が貼付された下定盤13上には、上定盤12と下定盤13で挟まれるようにキャリアプレート14が設置され、キャリアプレート14の保持孔内には被研磨体としてのウェーハ16が配置される。
【0029】
一方、上定盤12には、スラリー(研磨液)17が供給されるスラリー供給孔18が設けられ、供給孔18の上方には供給管19が設けられており、供給管19から供給されたスラリー17は供給孔18を通じてウェーハ16へ供給される。上定盤12は、上定盤12に貼付された研磨布22がウェーハ16の表側表面に接するように下定盤13に相対向して設置され、上定盤12を加圧することにより、キャリアプレート14内のウェーハ16が上定盤12と下定盤13により挟圧される。
【0030】
キャリアプレート14の外周部には、サンギア24及びインターナルギア25に噛合する外周歯が設けられる。また、上定盤12と下定盤13の各中央孔には軸20が設けられ、上定盤12と下定盤13が、図示しない動力源により回転駆動するに伴い、キャリアプレート14は自転しながらサンギア24を中心に公転する。このとき、ウェーハ16はキャリアプレート14の自転により、図1に示すように移動する。
【0031】
この実施の形態は、このような両面研磨装置の改良であり、その特徴ある構成は、図1及び図2に示すように、上定盤12と下定盤13の各外周部と各内周部の双方に内周側切落し部X、Yと外周側切落し部X、Yがそれぞれ形成され、内周側切落し部X、Yと外周側切落し部X、Yは、上定盤12又は下定盤13の各内周部又は各外周部に沿ってそれぞれリング状に設けられることにある。別の実施の形態として、上定盤12と下定盤13の各内周部に、上定盤12の内周部に向かって上定盤12の研磨面が上方へ傾斜する内周側切落し部Xと下定盤13の内周部に向かって下定盤13の研磨面が下方へ傾斜する内周側切落し部Yがそれぞれ形成されるだけでもよい。更に別の実施の形態として、上定盤12と下定盤13の各外周部に、上定盤12の外周部に向かって上定盤12の研磨面が上方へ傾斜する外周側切落し部Xと下定盤の外周部に向かって下定盤の研磨面が下方へ傾斜する外周側切落し部Yがそれぞれ形成されるだけでもよい。上記内周側切落し部X、Yと上記外周側切落し部X、Yは、上定盤12又は下定盤13の各内周部又は各外周部に沿ってそれぞれリング状に設けられ、上定盤12及び下定盤13の各内周部又は各外周部に切落し部X、X、Y、Yが設けられる。
【0032】
図6(a)に示すように、定盤面内で研磨圧力が一定の場合、定盤の外周部では定盤面内よりもウェーハに対して周速が大きい(即ち走行量が大きい)。そのため、ウェーハ16外周部の研磨が促進されること等に起因してウェーハ外周部におけるロールオフ量が大きくなる。一方、本発明の両面研磨装置10では、図6(b)に示すように、上定盤12及び下定盤13の各内周部又は各外周部に切落し部X、X、Y、Yが設けられる。これにより、上定盤12、下定盤13の各内周部又は各外周部における研磨圧力が定盤面内の研磨圧力に比べて低下するため、ウェーハ16外周部の研磨が若干抑制されて、図6(b)の一点鎖線で囲んだ部分では、ウェーハ外周部におけるロールオフ量が低下し、ウェーハ16の外周部及び全面形状における平坦度を向上させることができる。図6(a)及び(b)において、矢印の線の長さは研磨圧力の大きさを示している。この実施の形態のように、内周側切落し部X、Y及び外周側切落し部X、Yの全てを形成することが好ましい。一般に、ウェーハ16の全面形状における平坦度を表す指標としては、後述のGBIRが、またウェーハ16外周部における平坦度を表す指標としては後述のESFQRが用いられることが多い。即ち、本発明の両面研磨方法では、研磨後のウェーハ16において、これらのGBIRとESFQRとを両立させることができる。
【0033】
ここで、図3(a)に示すように、内周側切落し部X、Yの鉛直方向における切落し量をそれぞれA、B(μm)とするとき、A、B(μm)が10μm≦A+B≦70μmの範囲を満たすように制御され、外周側切落し部X、Yの鉛直方向における切落し量をそれぞれA、B(μm)とするとき、A、B(μm)が10μm≦A+B≦70μmの範囲を満たすように制御されることが好ましい。A+B又はA+Bが下限値の10μm未満では、ウェーハ16外周部における研磨圧力の低減効果が十分に得られにくい。一方、上限値の70μmを超えると、研磨布とウェーハの接触する部分が少なくなり、平坦度を十分に向上することができない。このうち、A、B(μm)が30μm≦A+B≦50μmの範囲を満たすように、またA、B(μm)が30μm≦A+B≦50μmの範囲を満たすように制御することが特に好ましい。また、両面研磨機では上下定盤を挟圧しながら加工するためA+B、及びA+Bで上記範囲を満たせばよく、AとB、及びAとBは特に同じ値にしなくてもよい。
【0034】
また、図3(b)に示すように、ウェーハ16の直径をR(mm)、内周側切落し部X、Yの水平方向における幅をそれぞれC、D(mm)とするとき、C、D(mm)が0.15×R(mm)≦(C、D)≦0.25×R(mm)の範囲を満たすように制御され、外周側切落し部X、Yの水平方向における幅をそれぞれC、D(mm)とするとき、C、D(mm)が0.15×R(mm)≦(C、D)≦0.25×R(mm)の範囲を満たすように制御されることが好ましい。C、D、C、Dが下限値未満では、上下定盤の平坦部分と切落し部との境界が不連続になることがあるためである。一方、上限値を超えると、研磨圧力の低下する領域がウェーハ16の外周部以外の部分にも及んでしまう。そのため、ウェーハ16の全面形状における平坦度が損なわれ、GBIRが悪化する場合がある。このうち、C、D(mm)が0.15×R(mm)≦(C、D)≦0.20×R(mm)の範囲を満たすように、C、D(mm)が0.15×R(mm)≦(C、D)≦0.20×R(mm)の範囲を満たすように制御されることが特に好ましい。なお、CとDは同じ値であるか、より近い値であれば、上下定盤による研磨圧力をウェーハ16外周部へ均等に伝達することができるのでより好ましい。CとDについても同様である。
【0035】
なお、図4に示すように、研磨中にウェーハ16が研磨布22、23の最内外周部まで走行しない場合には、鉛直方向の切落し量B、水平方向の幅Dは、研磨中にウェーハ16が到達する研磨布11の最も外周側の地点又は最も内周側の地点をそれぞれ起点として測定される。図示しないが、全ての切落し部において同じである。
【0036】
また、内周側切落し部X、Y及び外周側切落し部X、Yの傾斜面は、図5(a)に示すような直線的な傾斜面のほか、図5(b)、図5(c)のように、曲面を含んだ傾斜面等で構成されていてもよい。このうち、定盤への加工の容易さから、図5(a)に示すような直線的な傾斜面であることが好ましい。
【0037】
上定盤12、下定盤13に、内周側切落し部X、Y、外周側切落し部X、Yを形成する方法としては、例えば一般的な研磨装置に設けられた上定盤12、下定盤13の各内周部又は各外周部を砥石等を用いて研削する方法が挙げられる。
【0038】
以上、本発明の両面研磨装置を使用すれば、ウェーハ外周部におけるロールオフ量を低減し、ウェーハの外周部及び全面形状における平坦度を向上させることができる。なお、上述の本発明の両面研磨装置を用いた両面研磨方法では、上述した定盤の構成以外の、研磨を実施するときの具体的な手順やその他の条件については、特に限定されず、周知の条件で行うことができる。
【実施例】
【0039】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0040】
<実施例1>
図1に示す両面研磨装置10を用い、内周側切落し部X、Yの鉛直方向における切落し量A、B、外周側切落し部X、Yの鉛直方向における切落し量A、B、内周側切落し部X、Yの水平方向における幅をそれぞれC、D、外周側切落し部X、Yの水平方向における幅C、Dの条件を、各試験例ごとに以下の表1のように変更してウェーハの両面研磨を行った。ここでウェーハは直径300mmのシリコンウェーハを用いた。各試験例において、A=A=B=Bである。ここで、内周側切落し部X、Yの水平方向における幅をそれぞれC、D、外周側切落し部X、Yの水平方向における幅C、Dは、全て51mmとした。また、切落し部は、上定盤及び下定盤の各内周部及び各外周部を研削機で研削することにより形成した。なお、試験例1では、切落し部を形成せずにウェーハの両面研磨を行った。
【0041】
具体的には、研磨液(ニッタ・ハース社製 商品名:nalco2350)、研磨布(ニッタ・ハース社製 商品名:suba800)、ウェーハ(直径R:300mm、厚さ:790mm)、キャリア(厚さ:778mm)を用いて、定盤回転数:20〜30rpm、圧加工面:300g/cm、狙い厚み:780mmの条件で両面研磨を行った。
【0042】
<評価>
(i) GBIR:両面研磨後のウェーハ全面の平坦度について、測定装置(KLA Tencor社製 型名:Wafer Sight2)を用いてGBIRを測定することにより評価した。このときの測定条件は、測定範囲を、ウェーハの外周部2mmを除外した296mmとした。GBIR(Grobal Backside Ideal focalplane Range)とは、ウェーハの全面形状の平坦度を示す指標として用いられる値である。このGBIRは、ウェーハの裏面を完全に吸着したと仮定した場合におけるウェーハの裏面を基準として、ウェーハ全体の最大厚みと最小厚みとの差を算出することにより求められる。
【0043】
(ii)ESFQRmax:両面研磨後のウェーハ外周部の平坦度について、上述の測定装置(KLA Tencor社製 型名:Wafer Sight2)を用いてESFQRmaxを測定することにより評価した。ESFQRmaxとは、全てのセクター(ウェーハ外周部に複数形成した扇形の領域)のESFQRの中の最大値を示すものであり、ESFQR(Edge flatness metric,Sector based,Front surface referenced,Site Front least sQuares Range)とは、セクター内のSFQRを測定したものである。ESFQRmaxの測定条件は、最外周部2mmの領域を除くウェーハ外周部30mmの領域を、72の扇形のセクターに分割して測定した。
【0044】
【表1】
【0045】
表1から明らかなように、切落し部を形成していない試験例1に比べ、これらを形成した試験例2〜8では、GBIR、ESFQRmaxが低い値を示しており、ウェーハ外周部及び全面形状ともに優れた平坦度が得られたことがわかる。一方、切落し量が70μmを超えた試験例9では、GBIR、ESFQRmaxが、試験例1よりも悪化していることがわかる。
【0046】
また、切落し量は、10μmから平坦度の改善効果が得られ、50μmまでは、切落し量の増加に伴って平坦度が良好になることが確認された。一方、切落し量が50μmを超えると平坦度は若干悪化する傾向がみられた。これは、切落し量が大きくなると上定盤及び下定盤に貼付された研磨布とウェーハの接触が弱くなり、平坦度の悪化に繋がったと考えられる。試験例2〜8の数値結果から判断すると、70μmまでが、平坦度の改善効果を得る上で好ましい範囲と考えられる。
【0047】
<実施例2>
図1に示す両面研磨装置10を用い、内周側切落し部X、Yの水平方向における幅C、D、外周側切落し部X、Yの水平方向における幅C、Dの条件を、各試験例ごとに以下の表2のように変更してウェーハの両面研磨を行った。ここで、ウェーハは直径300mmのシリコンウェーハを用いた。また表2に示す係数αとは、切落し部をそれぞれウェーハ直径Rに対する長さ、即ちC、C、D、D=α×Rで表したときの係数αである。また、今回の各試験例において、C=C=D=Dである。また、内周側切落し部X、Yの鉛直方向における切落し量A、Bと、外周側切落し部X、Yの鉛直方向における切落し量A、Bは、全て実施例1にて最適値と判断された50μmに固定した。他の実施条件、及び評価条件は、実施例1と同様である。なお、表2に示す試験例10、試験例14は、それぞれ上述の表1に示す試験例1、試験例6と同じ試験例である。
【0048】
【表2】
【0049】
表2から明らかなように、切落し部を形成していない試験例10に比べ、試験例11〜15では、GBIRに改善が見られていることがわかる。また試験例12〜16で、ESFQRmaxが低い値を示している。この結果から、特に試験例12〜15においてウェーハ外周部及び全面形状ともに優れた平坦度が得られたといえる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、例えばシリコンウェーハに代表される半導体ウェーハの製造工程において、ウェーハの平坦度を得るためのウェーハの両面研磨に利用できる。
【符号の説明】
【0051】
10 両面研磨装置
12 上定盤
13 下定盤
16 ウェーハ
22,23 研磨布
内周側切落し部(上定盤側)
外周側切落し部(上定盤側)
内周側切落し部(下定盤側)
外周側切落し部(下定盤側)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7