(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
正極活物質と、フッ化ビニリデン単位を95質量%以上含有する重合体(A)と、ニトリル基含有単量体単位を含有する重合体(B)とを含む皮膜を集電体上に形成する工程と、
前記皮膜を、前記重合体(A)の融点以上の温度で加熱した後に冷却して、前記正極活物質と、結晶化度が40%以下である前記重合体(A)と、前記重合体(B)とを含む正極合材層を前記集電体上に形成する工程と、を含む、電解液を備えるリチウムイオン二次電池用正極の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の二次電池用正極は、リチウムイオン二次電池などの二次電池の正極として使用されるものである。そして、本発明の二次電池用正極は、本発明の二次電池用正極の製造方法を用いて製造することができる。また、本発明の二次電池は、正極として本発明の二次電池用正極を使用したものである。
なお、以下では、本発明の二次電池用正極およびその製造方法、並びに、二次電池の一例として、リチウムイオン二次電池用正極およびその製造方法、並びに、リチウムイオン二次電池について説明するが、本発明の二次電池用正極およびその製造方法、並びに、二次電池は、これらの一例に限定されるものではない。
【0026】
(リチウムイオン二次電池用正極)
本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極は、集電体と、当該集電体上に積層された正極合材層とを備える。そして、リチウムイオン二次電池用正極は、正極合材層が正極活物質と結着材とを含み、当該結着材が、フッ化ビニリデン単位を95質量%以上含有し、且つ、結晶化度が40%以下である重合体(A)と、ニトリル基含有単量体単位を含有する重合体(B)とを含むことを特徴とする。
【0027】
<集電体>
ここで、リチウムイオン二次電池用正極の集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金等の金属材料からなるものを用いることができる。これらの中でも、正極用の集電体としては、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる集電体を用いることが好ましい。この際、アルミニウムとアルミニウム合金とを組み合わせて用いてもよく、種類が異なるアルミニウム合金を組み合わせて用いてもよい。アルミニウムおよびアルミニウム合金は耐熱性を有し、電気化学的に安定であるため、優れた集電体材料である。
また、集電体の形状は、特に制限されないが、厚さ0.001〜0.5mm程度のシート状であることが好ましい。
なお、集電体の表面には、任意に、正極合材層と集電体との接着強度や導電性を高めるための中間層(例えば、導電性接着剤層)を形成してもよい。
【0028】
<正極合材層>
正極合材層は、正極活物質と、結着材とを含み、任意に、導電材と、必要に応じて配合されるその他の成分とを含有する。そして、本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極の正極合材層は、結着材として上述した重合体(A)および重合体(B)を併用しているので、柔軟性および結着性に優れている。また、本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極は、正極合材層の結着材として上述した重合体(A)を使用しているので、リチウムイオン二次電池の低温出力特性を向上させることができる。
なお、正極合材層は、集電体の片面のみに積層されていてもよいし、集電体の両面に積層されていてもよい。
【0029】
[正極活物質]
正極活物質としては、特に限定されることなく、既知の正極活物質を用いることができる。
具体的には、正極活物質としては、特に限定されることなく、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO
2)、マンガン酸リチウム(LiMn
2O
4)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO
2)、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物、Ni−Mn−Alのリチウム含有複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO
4)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO
4)、Li
1+xMn
2-xO
4(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni
0.17Li
0.2Co
0.07Mn
0.56]O
2、LiNi
0.5Mn
1.5O
4等が挙げられる。
上述した中でも、二次電池の電池容量などを向上させる観点からは、正極活物質としては、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO
2)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO
2)、Co−Ni−Mnのリチウム含有複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム含有複合酸化物、Li[Ni
0.17Li
0.2Co
0.07Mn
0.56]O
2またはLiNi
0.5Mn
1.5O
4を用いることが好ましい。
なお、正極活物質の配合量や粒径は、特に限定されることなく、従来使用されている正極活物質と同様とすることができる。
【0030】
[結着材]
結着材は、リチウムイオン二次電池用正極において、正極合材層に含まれる成分が正極合材層から脱離しないように保持し得る成分である。一般的に、正極合材層における結着材は、電解液に浸漬された際に、電解液を吸収して膨潤しながらも正極活物質同士、正極活物質と導電材、或いは、導電材同士を結着させ、正極活物質等が集電体から脱落するのを防ぐ。
【0031】
そして、本発明においては、正極合材層の柔軟性および結着性を向上させると共に二次電池の低温出力特性を向上させる観点から、結着材として、フッ化ビニリデン単位を95質量%以上含有し、且つ、正極合材層中における結晶化度が40%以下である重合体(A)と、ニトリル基含有単量体単位を含有する重合体(B)との少なくとも2種類の重合体を併用することが必要である。
【0032】
ここで、重合体(A)および重合体(B)を結着材として使用することで、正極合材層の柔軟性および結着性、並びに、二次電池の低温出力特性が向上する理由は、明らかではないが、以下の通りであると推察される。
即ち、重合体(A)は、良好な柔軟性を有すると共に結着性に優れており、また、重合体(B)は、柔軟性および結着性に優れているために、重合体(A)および重合体(B)を併用することで、正極合材層の柔軟性および結着性を高めることができる。更に、重合体(A)は、正極合材層中における結晶化度が40%以下であり、非晶質部分を多く有している。そして、重合体(A)の非晶質部分は、電解液中で膨潤し易く、また、膨潤した際には低温下においても良好なイオン伝導性を発揮する。そのため、重合体(A)を使用することで、二次電池の低温出力特性を向上させることができる。
【0033】
[[重合体(A)]]
重合体(A)は、フッ化ビニリデン由来の繰り返し単位であるフッ化ビニリデン単位を含有するフッ化ビニリデン系重合体である。具体的には、重合体(A)は、フッ化ビニリデンの単独重合体であるポリフッ化ビニリデン、または、フッ化ビニリデンと、フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体との共重合体である。
なお、フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体としては、特に限定されることなく、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、三フッ化塩化ビニル、フッ化ビニル、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどのフッ素含有単量体や、エチレン、プロピレン、1−ブテン、スチレン、α−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルトルエン、クロロスチレン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、マレイン酸、アリルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパン硫酸、(メタ)アクリル酸−3−クロロ−2−リン酸プロピル、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンリン酸などのフッ素を含有しない単量体が挙げられる。これらは、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらの中でも、重合のし易さの観点からは、フッ化ビニリデンと共重合可能な単量体としては、フッ素含有単量体が好ましく、ヘキサフルオロプロピレンがより好ましい。
【0034】
そして、重合体(A)は、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合することにより製造される。なお、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、重合体(A)中の所望の単量体単位(繰り返し単位)の含有割合に準じて定めることができる。
なお、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの反応も用いることができる。そして、重合に際しては、必要に応じて既知の乳化剤や重合開始剤を使用することができる。
【0035】
−フッ化ビニリデン単位の含有割合−
ここで、重合体(A)は、フッ化ビニリデン単位の含有割合が95質量%以上である必要があり、重合体(A)のフッ化ビニリデン単位の含有割合は、97質量%以上であることが好ましく、100質量%である(即ち、フッ化ビニリデンの単独重合体である)ことが更に好ましい。フッ化ビニリデン単位の含有割合が95質量%未満の場合には、重合体(B)と併用した場合であっても、正極合材層の柔軟性および結着性を十分に向上させることができないからである。一方、フッ化ビニリデン単位の含有割合が95質量%以上であれば、正極合材層の柔軟性および結着性を十分に向上させることができると共に、重合体(A)の結晶化度を適度な大きさとすることができる。
【0036】
−結晶化度−
また、フッ化ビニリデン系重合体である重合体(A)は、通常、α晶部分と、β晶部分と、非晶質部分とを含有している。そして、正極合材層中の重合体(A)は、α晶部分と、β晶部分と、非晶質部分との合計量に対する、α晶部分とβ晶部分との合計量の割合である結晶化度が、40%以下であることが必要であり、重合体(A)の結晶化度は、15%以上であることが好ましく、20%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましく、30%以上であることがより好ましく、38%以下であることが好ましく、35%以下であることがより好ましい。重合体(A)の結晶化度が40%を超えた場合、結晶質部分の割合が多くなり(即ち、非晶質部分の割合が少なくなり)、電解液中で良好なイオン伝導性を発揮することが困難になるため、二次電池の低温出力特性を十分に向上させることができないからである。また、重合体(A)の結晶化度が40%を超えた場合、結晶質部分の増加により重合体(A)の柔軟性が低下し、正極合材層の柔軟性を十分に高めることができなくなるからである。なお、重合体(A)の強度が低下して重合体(A)の結着力が低下するのを抑制し、正極合材層の結着性および二次電池のサイクル特性を確保する観点からは、重合体(A)の結晶化度は15%以上であることが好ましい。
【0037】
ここで、重合体(A)の結晶化度は、例えば、重合体(A)の組成の変更、後述する集電体上に形成された皮膜の熱処理(加熱及び冷却)条件の変更、並びに、併用する重合体(B)の種類および量の変更などの手段を用いて調整することができる。具体的には、重合体(A)中のフッ化ビニリデン単位の含有割合を低減すると、正極合材層における重合体(A)の結晶化度を低下させることができる。また、集電体上に形成された皮膜を重合体(A)の融点以上の温度で加熱すると、正極合材層における重合体(A)の結晶化度を低下させることができる。更に、集電体上に形成された皮膜を重合体(A)の融点以上の温度で加熱した後に冷却する際の冷却速度を高めると、正極合材層における重合体(A)の結晶化度を低下させることができる。また、重合体(A)との相溶性の高い重合体(B)を使用したり、重合体(B)の配合量を増加したりすると、重合体の分子鎖同士の相互作用により重合体(A)の結晶化が阻害され、正極合材層における重合体(A)の結晶化度を低下させることができる。
【0038】
[[重合体(B)]]
重合体(B)は、ニトリル基含有単量体単位を含む重合体である。そして、重合体(B)は、任意に、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、炭素数4以上のアルキレン構造単位、親水性基含有単量体単位、その他の単量体単位を含んでいてもよい。なお、重合体(B)は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位および/または炭素数4以上のアルキレン構造単位を含むことが好ましい。
【0039】
−ニトリル基含有単量体単位−
ニトリル基含有単量体単位は、ニトリル基含有単量体由来の繰り返し単位である。そして、重合体(B)は、結着材として重合体(B)を用いた正極合材層の結着性を高める観点から、ニトリル基含有単量体単位を含有することを必要とする。
【0040】
ここで、ニトリル基含有単量体単位を形成し得るニトリル基含有単量体としては、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。具体的には、α,β−エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を有するα,β−エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α−クロロアクリロニトリル、α−ブロモアクリロニトリルなどのα−ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどのα−アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。これらの中でも、重合体(B)の結着力を高め、正極合材層の結着性を向上させる観点からは、ニトリル基含有単量体としては、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。
これらは、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
そして、重合体(B)中のニトリル基含有単量体単位の含有割合は、重合体(B)中の全繰り返し単位(単量体単位と構造単位との合計)を100質量%とした場合に、2質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がより好ましく、50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、25質量%以下が特に好ましい。重合体(B)中のニトリル基含有単量体単位の含有割合を2質量%以上とすれば、重合体(B)を用いた正極を備える二次電池のサイクル特性および出力特性を向上させることができるからである。また、重合体(B)中のニトリル基含有単量体単位の含有割合を50質量%以下とすれば、重合体(B)の電解液に対する安定性を高めることができると共に、重合体(B)を用いた正極を備える二次電池のサイクル特性を向上させることができるからである。
【0042】
−(メタ)アクリル酸エステル単量体単位−
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位は、(メタ)アクリル酸エステル単量体由来の繰り返し単位である。そして、重合体(B)は、重合体(B)の結着力を高めて正極合材層の結着性を更に向上させると共に重合体(B)の電解液に対する安定性を高めて二次電池のサイクル特性を更に向上させる観点から、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含有することが好ましい。
【0043】
ここで、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成し得る(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−ペンチルアクリレート、イソペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n−テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−ペンチルメタクリレート、イソペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n−テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、グリシジルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステル;などが挙げられる。これらの中でも、重合体(B)の結着力を高め、正極合材層の結着性を向上させる観点からは、(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、非カルボニル性酸素原子に結合するアルキル基の炭素数が4〜10のアクリル酸アルキルエステルが好ましく、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートがより好ましい。
これらは単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0044】
そして、重合体(B)中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、重合体(B)中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上が更に好ましく、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下が更に好ましい。重合体(B)中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合を50質量%以下とすることで、重合体(B)を用いた正極を備える二次電池の出力特性を向上させることができるからである。また、重合体(B)中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合を5質量%以上とすることで、重合体(B)の柔軟性および電解液に対する安定性を高めることができ、重合体(B)を用いた電極合材層の柔軟性および二次電池のサイクル特性を向上させることができるからである。
【0045】
−炭素数4以上のアルキレン構造単位−
炭素数4以上のアルキレン構造単位は、一般式:−C
nH
2n−[但し、nは4以上の整数]で表わされるアルキレン構造で構成される繰り返し単位である。そして、重合体(B)は、二次電池のサイクル特性および出力特性を更に向上させる観点から、炭素数4以上のアルキレン構造単位を含有することが好ましい。
【0046】
ここで、炭素数4以上のアルキレン構造単位は、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、二次電池の出力特性を向上させる観点からは、炭素数4以上のアルキレン構造単位は直鎖状、すなわち直鎖アルキレン構造単位であることが好ましい。
そして、重合体(B)への炭素数4以上のアルキレン構造単位の導入方法は、特に限定はされないが、例えば以下の(1)、(2)の方法:
(1)共役ジエン単量体を含む単量体組成物から重合体を調製し、当該重合体に水素添加することで、該共役ジエン単量体単位をアルキレン構造単位に変換する方法
(2)炭素数4以上の1−オレフィン単量体を含む単量体組成物から重合体を調製する方法
が挙げられる。これらの中でも、(1)の方法が重合体(B)の製造が容易であり、好ましい。
【0047】
ここで、共役ジエン単量体としては、たとえば、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエンなどの炭素数4以上の共役ジエン化合物が挙げられる。中でも、1,3−ブタジエンが好ましい。すなわち、炭素数4以上のアルキレン構造単位は、共役ジエン単量体単位を水素化して得られる構造単位(共役ジエン水素化物単位)であることが好ましく、1,3−ブタジエン単位を水素化して得られる構造単位(1,3−ブタジエン水素化物単位)であることがより好ましい。なお、共役ジエン単量体単位の選択的な水素化は、油層水素化法や水層水素化法などの公知の方法を用いて行なうことができる。
また、炭素数4以上の1−オレフィン単量体としては、例えば、1−ブテン、1−ヘキセンなどが挙げられる。
これらの共役ジエン単量体や炭素数4以上の1−オレフィン単量体は、単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる
【0048】
そして、重合体(B)中の炭素数4以上のアルキレン構造単位の含有割合は、重合体(B)中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましく、30質量%以上がより好ましく、70質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましい。重合体(B)中の炭素数4以上のアルキレン構造単位の含有割合を上記範囲内とすることで、二次電池のサイクル特性および出力特性を十分に向上させることができるからである。また、重合体(B)中の炭素数4以上のアルキレン構造単位の含有割合を70質量%以下とすることで、重合体(B)中のニトリル基含有単量体単位の含有割合を十分に確保し、重合体(B)を用いた正極合材層の結着性を十分に高めることができるからである。
【0049】
−親水性基含有単量体単位−
親水性基含有単量体単位は、親水性基含有単量体由来の繰り返し単位である。そして、重合体(B)は、重合体(B)の結着力を高めて正極合材層の結着性を高める観点から、親水性基含有単量体単位を含有することが好ましい。
【0050】
ここで、親水性基含有単量体単位を形成し得る親水性基含有単量体としては、カルボン酸基を有する単量体、スルホン酸基を有する単量体、リン酸基を有する単量体、および、水酸基を有する単量体が挙げられる。
これらは単独で、または、2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
そして、カルボン酸基を有する単量体としては、モノカルボン酸およびその誘導体や、ジカルボン酸およびその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。
モノカルボン酸誘導体としては、2−エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α−アセトキシアクリル酸、β−trans−アリールオキシアクリル酸、α−クロロ−β−E−メトキシアクリル酸、β−ジアミノアクリル酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸や、マレイン酸メチルアリル、マレイン酸ジフェニル、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸エステルが挙げられる。
ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。
また、カルボン酸基を有する化合物としては、加水分解によりカルボキシル基を生成する酸無水物も使用できる。
その他、マレイン酸モノエチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸モノエチル、フマル酸ジエチル、フマル酸モノブチル、フマル酸ジブチル、フマル酸モノシクロヘキシル、フマル酸ジシクロヘキシル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸モノブチル、イタコン酸ジブチルなどのα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸のモノエステルおよびジエステルも挙げられる。
【0052】
スルホン酸基を有する単量体としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸−2−スルホン酸エチル、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。
なお、本発明において「(メタ)アリル」とは、アリルおよび/またはメタリルを意味する。
【0053】
リン酸基を有する単量体としては、リン酸−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸メチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチル、リン酸エチル−(メタ)アクリロイルオキシエチルなどが挙げられる。
なお、本発明において「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを意味する。
【0054】
水酸基を有する単量体としては、(メタ)アリルアルコール、3−ブテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オールなどのエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸−2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、マレイン酸ジ−2−ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ−4−ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ−2−ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式:CH
2=CR
1−COO−(C
qH
2qO)
p−H[式中、pは2〜9の整数、qは2〜4の整数、R
1は水素またはメチル基を表す。]で表されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2−ヒドロキシエチル−2’−(メタ)アクリロイルオキシサクシネートなどのジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−3−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−4−ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル−6−ヒドロキシヘキシルエーテルなどのアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコール(メタ)モノアリルエーテル類;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリル−2−クロロ−3−ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシ−3−クロロプロピルエーテルなどの、(ポリ)アルキレングリコールのハロゲンおよびヒドロキシ置換体のモノ(メタ)アリルエーテル;オイゲノール、イソオイゲノールなどの多価フェノールのモノ(メタ)アリルエーテルおよびそのハロゲン置換体;(メタ)アリル−2−ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル−2−ヒドロキシプロピルチオエーテルなどのアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;などが挙げられる。
【0055】
そして、重合体(B)中の親水性基含有単量体単位の含有割合は、重合体(B)中の全繰り返し単位を100質量%とした場合に、0.05質量%以上が好ましく、0.1質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上が更に好ましく、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましく、6質量%以下が特に好ましい。重合体(B)中の親水性基含有単量体単位の含有割合を0.05質量%以上とすることで、重合体(B)の結着力を高めて正極合材層の結着性を更に高めることができるからである。また、重合体(B)中の親水性基含有単量体単位の含有割合を30質量%以下とすることで、重合体(B)の柔軟性が低下するのを抑制して正極合材層の柔軟性が低下するのを抑制することができるからである。
【0056】
−その他の単量体単位−
重合体(B)は、本発明の効果を損なわない限りにおいて、上述した単量体単位以外の、その他の単量体単位を含んでもよい。その他の単量体単位を形成し得るその他の単量体としては、特に限定されることなく、上述した単量体と共重合可能な既知の単量体を用いることができる。
なお、重合体(B)中のその他の単量体単位の含有割合は、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。
【0057】
−重合体(B)の調製方法−
重合体(B)の調製方法は特に限定されないが、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を重合して重合体を得て、任意に、得られた重合体を水素添加することで調製することができる。
ここで、本発明において単量体組成物中の各単量体の含有割合は、重合体(B)中の各単量体単位および構造単位(繰り返し単位)の含有割合に準じて定めることができる。
重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合などいずれの反応も用いることができる。そして、重合に際しては、必要に応じて既知の乳化剤や重合開始剤を使用することができる。
水素添加の方法は、特に制限なく、触媒を用いる一般的な方法(例えば、国際公開第2012/165120号、国際公開第2013/080989号および特開2013−8485号公報参照)を使用することができる。
【0058】
なお、水素添加した重合体(B)のヨウ素価は60mg/100mg以下であることが好ましく、30mg/100mg以下であることが更に好ましく、20mg/100mg以下であることが特に好ましい。また、下限としては3mg/100mg以上であることが好ましく、8mg/100mg以上であることが更に好ましい。ヨウ素価をかかる範囲とすることで、二次電池のサイクル特性を十分に向上させることができる。なお、ヨウ素価は本明細書の実施例に記載の方法で測定することができる。
【0059】
[[重合体(A)および重合体(B)の配合比]]
ここで、結着材中における重合体(A)および重合体(B)の配合比は、重合体(A)と重合体(B)との合計量を100質量%とした場合に、重合体(B)の量の割合が、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましく、15質量%以上であることが更に好ましく、50質量%以下であることが好ましく、35質量%以下であることがより好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることが更に好ましい。重合体(A)および重合体(B)中の重合体(B)の割合を上記範囲内とすることで、正極合材層中の重合体(A)の結晶化度を適度な大きさにすることができると共に、正極合材層の柔軟性および結着性、並びに、二次電池の低温出力特性およびサイクル特性を十分に向上させることができるからである。
【0060】
[[結着材の配合量]]
そして、正極合材層において、上記重合体(A)および重合体(B)を含む結着材の配合量は、正極活物質100質量部当たり、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。結着材の配合量を正極活物質100質量部当たり0.1質量部以上とすることにより、正極合材層の結着性および柔軟性を十分に高めることができるからである。また、結着材の配合量を正極活物質100質量部当たり10質量部以下とすることにより、結着材を含む正極をリチウムイオン二次電池に適用した際に、内部抵抗が増加するのを抑制することができるからである。
なお、結着材が上記重合体(A)および重合体(B)以外のその他の重合体を含む場合、その他の重合体が結着材中で占める割合は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは5質量%以下であり、結着材はその他の重合体を含まないことが更に好ましい。
【0061】
[導電材]
導電材は、正極合材層中で正極活物質同士の電気的接触を確保するためのものである。そして、導電材としては、特に限定されることなく、既知の導電材を用いることができる。具体的には、導電材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラック、グラファイト、炭素繊維、カーボンフレーク、炭素超短繊維(例えば、カーボンナノチューブや気相成長炭素繊維など)等の導電性炭素材料;各種金属のファイバー、箔などを用いることができる。これらの中でも、リチウムイオン二次電池の出力特性を十分に向上させる観点からは、導電材としては、アセチレンブラックおよびケッチェンブラックが好ましい。
【0062】
正極合材層中の導電材の量は、正極活物質100質量部当たり、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上であり、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2.5質量部以下である。導電材の配合量が少なすぎると、正極活物質同士の電気的接触を十分に確保することができず、二次電池の出力特性を十分に向上させることができない場合があるからである。一方、導電材の配合量が多すぎると、正極合材層の密度が低下し、二次電池を十分に高容量化することができない虞があるからである。
【0063】
[その他の成分]
上記リチウムイオン二次電池用正極は、上記成分の他に、粘度調整剤、補強材、レベリング剤、電解液添加剤などの成分を含有していてもよい。これらは、電池反応に影響を及ぼさないものであれば特に限られず、公知のもの、例えば国際公開第2012/115096号に記載のものを使用することができる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0064】
(リチウムイオン二次電池用正極の製造方法)
本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、上述したリチウムイオン二次電池用正極の製造に用いることができる。そして、本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極の製造方法は、正極活物質と、フッ化ビニリデン単位を95質量%以上含有する重合体(A)と、ニトリル基含有単量体単位を含有する重合体(B)とを含む皮膜を集電体上に形成する工程(皮膜形成工程)と、集電体上に形成した皮膜を、重合体(A)の融点以上の温度で加熱した後に冷却して、正極活物質と、結晶化度が40%以下である重合体(A)と、重合体(B)とを含む正極合材層を集電体上に形成する工程(熱処理工程)とを含むことを特徴とする。即ち、本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極の製造方法では、皮膜形成工程において正極合材層の前駆体となる皮膜を集電体上に形成した後、熱処理工程において当該皮膜を熱処理し、皮膜中に含まれている重合体(A)の結晶化度を40%以下にして正極合材層とすることにより、集電体と、集電体上に積層された正極合材層とを備えるリチウムイオン二次電池用正極を製造する。
【0065】
<皮膜形成工程>
皮膜形成工程では、正極合材層に含まれることとなる成分を含有する皮膜を集電体上に形成する。具体的には、皮膜形成工程では、正極活物質と、フッ化ビニリデン単位を95質量%以上含有する重合体(A)と、ニトリル基含有単量体単位を含有する重合体(B)とを少なくとも含み、任意に、導電材と、必要に応じて配合されるその他の成分とを更に含有する皮膜を集電体上に形成する。
なお、皮膜中に含有させる成分の種類および量は、重合体(A)の結晶化度が40%以下に限定されない以外は、上述したリチウムイオン二次電池用正極の正極合材層に含有されている成分と同様のものである。
【0066】
ここで、集電体上への皮膜の形成は、皮膜に含有させる成分を水や有機溶剤などの溶媒中に分散または溶解させてなるスラリー組成物を使用し、公知の皮膜形成方法を用いて行なうことができる。具体的には、皮膜は、特に限定されることなく、(i)スラリー組成物を集電体上に塗布し、集電体上に塗布されたスラリー組成物を乾燥して皮膜を形成する方法、或いは、(ii)スラリー組成物を噴霧乾燥して複合粒子を調製し、調製した複合粒子を集電体上に供給し、加圧成形して皮膜を形成する方法、などを用いて形成することができる。
【0067】
ここで、上記(i)および(ii)の方法において、スラリー組成物の乾燥は、通常、重合体(A)の融点未満の温度、例えば、40〜140℃の温度で行なわれる。そして、一般に、スラリー組成物の乾燥時には、融点未満の温度での加熱により重合体(A)の結晶化が進むため、重合体(A)の結晶化度は高まる。そのため、通常、スラリー組成物を形成してなる皮膜中の重合体(A)の結晶化度は、40%超となる。
【0068】
<熱処理工程>
熱処理工程では、まず、皮膜形成工程において形成した皮膜を、重合体(A)の融点以上の温度で加熱する。そして、次に、加熱した皮膜を冷却して皮膜中に含まれていた重合体(A)の結晶化度を40%以下とし、正極活物質と、95質量%以上のフッ化ビニリデン単位を含有し且つ結晶化度が40%以下の重合体(A)およびニトリル基含有単量体単位を含有する重合体(B)を含む結着材とを含有する正極合材層を形成する。
なお、熱処理工程では、加熱および冷却した皮膜に対し、任意に、金型プレスまたはロールプレスなどを用い、加圧処理を施して正極合材層としてもよい。加圧処理により、正極合材層と集電体との密着性を向上させることができる。
【0069】
[皮膜の加熱]
ここで、熱処理工程において、重合体(A)の融点以上の温度で皮膜を加熱するのは、重合体(A)の融点未満の温度で皮膜を加熱した場合には、重合体(A)の結晶化が進み、重合体(A)の結晶化度が高まって、重合体(A)の結晶化度を40%以下とすることが困難になるからである。
【0070】
なお、皮膜の加熱は、特に限定されることなく、既知の乾燥炉や加熱炉を用いて行なうことができる。具体的には、皮膜の加熱は、例えば、集電体上に皮膜を形成してなる積層体のロールを真空乾燥機内で加熱することにより行なうことができる。なお、皮膜形成工程において皮膜の形成を上記(i)の方法で行なう場合、皮膜の形成(スラリー組成物の乾燥)および加熱は、同時に、または、連続して実施してもよい。
【0071】
そして、皮膜を加熱する温度は、重合体(A)の融点以上であって、皮膜中の成分が熱分解する温度未満であれば、任意の温度とすることができるが、165℃以上であることが好ましく、180℃以上であることがより好ましく、250℃以下であることが好ましく、200℃以下であることがより好ましい。皮膜を加熱する温度を165℃以上250℃以下とすれば、重合体(A)の結晶化度を適度な大きさに制御し易いからである。
また、皮膜を加熱する時間は、特に限定されることなく、例えば、1時間以上24時間以下とすることができる。皮膜を加熱する時間を1時間以上24時間以下とすれば、重合体(A)の結晶化度を適度な大きさに制御し易いからである。
【0072】
[皮膜の冷却]
加熱した皮膜の冷却は、特に限定されることなく、自然放熱や空冷など、既知の方法を用いて行なうことができる。
【0073】
ここで、通常、重合体(A)の融点以上の温度で加熱した皮膜を急激に冷却すると、重合体(A)の結晶化度は低下する(即ち、重合体(A)の非晶質部分が増加する)。一方、重合体(A)の融点以上の温度で加熱した皮膜を徐冷すると、重合体(A)の結晶化度は、急激に冷却した場合と比較して高くなる(即ち、重合体(A)の結晶質部分が増加する)。また、皮膜を加熱する温度が高いほど、重合体(A)の結晶化度は低下し易い(即ち、重合体(A)の非晶質部分が増加し易い)。そのため、熱処理工程では、皮膜を加熱する温度および皮膜を冷却する速度などを調整し、重合体(A)の結晶化度を40%以下として、正極合材層を形成する。
【0074】
なお、皮膜を冷却する速度は、特に限定されることなく、例えば、100℃/時間以上500℃/時間以下とすることができる。皮膜の冷却速度を100℃/時間以上500℃/時間以下とすれば、正極の生産性を高めつつ、重合体(A)の結晶化度を適度な大きさに制御し易いからである。
【0075】
そして、上述のようにして皮膜を加熱および冷却して得られる正極合材層中に存在する重合体(A)は、通常、α晶部分と、β晶部分と、非晶質部分とで構成されるフッ化ビニリデン系重合体となる。
【0076】
(リチウムイオン二次電池)
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、正極と、負極と、セパレーターと、電解液とを備え、正極として、本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極を用いたものである。そして、本発明に係るリチウムイオン二次電池は、本発明に係るリチウムイオン二次電池用正極を用いているので、低温出力特性に優れており、高性能である。
【0077】
<負極>
リチウムイオン二次電池の負極としては、リチウムイオン二次電池用負極として用いられる既知の負極を用いることができる。具体的には、負極としては、例えば、金属リチウムの薄板よりなる負極や、負極合材層を集電体上に形成してなる負極を用いることができる。
なお、集電体としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金等の金属材料からなるものを用いることができる。これらの中でも、負極用の集電体としては、銅からなる集電体を用いることが好ましい。また、負極合材層としては、負極活物質と結着材とを含む層を用いることができる。更に、結着材としては、特に限定されず、任意の既知の材料を用いうる。
【0078】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiAsF
6、LiBF
4、LiSbF
6、LiAlCl
4、LiClO
4、CF
3SO
3Li、C
4F
9SO
3Li、CF
3COOLi、(CF
3CO)
2NLi、(CF
3SO
2)
2NLi、(C
2F
5SO
2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF
6、LiClO
4、CF
3SO
3Liが好ましく、LiPF
6が特に好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0079】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、メチルエチルカーボネート(EMC)等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。またこれらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いのでカーボネート類を用いることが好ましく、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合物を用いることが更に好ましい。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができ、例えば0.5〜15質量%することが好ましく、2〜13質量%とすることがより好ましく、5〜10質量%とすることが更に好ましい。また、電解液には、既知の添加剤、例えばフルオロエチレンカーボネートやエチルメチルスルホンなどを添加してもよい。
【0080】
<セパレーター>
セパレーターとしては、特に限定されることなく、例えば特開2012−204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレーター全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、リチウムイオン二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0081】
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
本発明のリチウムイオン二次電池は、例えば、正極と、負極とを、セパレーターを介して重ね合わせ、これを必要に応じて電池形状に応じて巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することにより製造することができる。リチウムイオン二次電池の内部の圧力上昇、過充放電等の発生を防止するために、必要に応じて、ヒューズ、PTC素子等の過電流防止素子、エキスパンドメタル、リード板などを設けてもよい。二次電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0082】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、正極合材層中の重合体(A)の結晶化度、重合体(B)のヨウ素価、正極合材層の柔軟性および結着性、並びに、リチウムイオン二次電池の高温サイクル特性および低温出力特性は、それぞれ以下の方法を使用して測定および評価した。
【0083】
<結晶化度>
作製したリチウムイオン二次電池用正極から正極合材層を剥離し、直径2.5mmのジルコニア製ローターに充填した。そして、固体NMR装置(Bruker社製、Avance400)を使用し、
図1に示すような19F−NMRスペクトルを測定した。次に、得られた19F−NMRスペクトルのピーク(
図1に実線で示すピーク)について、中心値を固定してガウシアン関数でピークフィッティングを行った。具体的には、ピークフィッテイングソフト(OriginLab社製、Origin9.1)を使用し、19F−NMRスペクトルのピークについてピークフィッティングを行なった。その結果、80ppmの位置に破線で示されるピークが検出され、88ppmの位置に一点鎖線で示されるピークが検出され、95ppmの位置に二点鎖線で示されるピークが検出された。そこで、80ppmの位置に検出される、α晶部分に由来するピークの面積aと、88ppmの位置に検出される、非晶質部分に由来するピークの面積bと、95ppmの位置に検出される、α晶部分およびβ晶部分に由来するピークの面積cとを求めた。そして、以下の式(I)を用いて、重合体(A)の結晶化度を算出した。
結晶化度=[{(a×2)+(c−a)}/{(a×2)+(c−a)+b}]×100% ・・・(I)
<ヨウ素価>
重合体の水分散液100gを、メタノール1リットルで凝固させた後、温度60℃で12時間真空乾燥した。そして、得られた乾燥重合体のヨウ素価を、JIS K6235(2006)に従って測定した。
<柔軟性>
作製したリチウムイオン二次電池用正極の正極合材層側に、径の異なる棒を正極の幅方向(短手方向)に沿わせて載置した。そして、正極を棒に巻き付けて正極合材層が割れるかどうかを評価した。正極が割れない棒の直径が小さいほど、正極合材層の柔軟性が高く、正極が捲回性に優れていることを示す。
A=直径0.7mmの棒で割れない
B=直径0.8mmの棒で割れない
C=直径0.9mmの棒で割れない
D=直径1.0mmの棒で割れない
E=直径1.2mmの棒で割れない
<結着性>
作製したリチウムイオン二次電池用正極を、幅1.0cm×長さ10cmの矩形に切って試験片とし、正極合材層側の表面を上にして固定した。そして、試験片の正極合材層側の表面にセロハンテープを貼り付けた。この際、セロハンテープはJIS Z1522に規定されるものを用いた。その後、試験片の一端からセロハンテープを50mm/分の速度で180°方向(試験片の他端側)に引き剥がしたときの応力を測定した。測定を10回行い、応力の平均値を求めて、これをピール強度(N/m)とし、以下の基準で評価した。ピール強度が大きいほど、集電体に対する正極合材層の結着性が優れていることを示す。
A=120N/m以上
B=110N/m以上120N/m未満
C=100N/m以上110N/m未満
D=100N/m未満
<高温サイクル特性>
作製したリチウムイオン二次電池を、温度45℃の雰囲気下で、0.5Cの定電流法によって4.2Vに充電し、3.0Vまで放電する充放電を、200サイクル繰り返した。そして、200サイクル終了時の電気容量と、5サイクル終了時の電気容量との比(=(200サイクル終了時の電気容量/5サイクル終了時の電気容量)×100(%))で表される充放電容量維持率を求めた。これらの測定を、リチウムイオン二次電池5セルについて行い、各セルの充放電容量維持率の平均値を、充放電容量保持率として、以下の基準で評価した。この値が大きいほど、高温サイクル特性に優れることを示す。
A=充放電容量保持率が95%以上
B=充放電容量保持率が90%以上95%未満
C=充放電容量保持率が85%以上90%未満
D=充放電容量保持率が85%未満
<低温出力特性>
作製したリチウムイオン二次電池を、温度25℃の雰囲気下で、4.2Vまで定電流定電圧(CCCV)充電し、セルを準備した。準備したセルを、温度25℃および温度−10℃の雰囲気下で、1Cの定電流法によって2.5Vまで放電し、各温度での電気容量を求めた。そして、電気容量の比(=(温度−10℃での電気容量/温度25℃での電気容量)×100(%))で表される放電容量維持率を求めた。これらの測定を、リチウムイオン二次電池5セルについて行い、各セルの放電容量維持率の平均値を、低温出力特性として、以下の基準で評価した。この値が大きいほど、低温出力特性に優れることを示す。
A=70%以上
B=60%以上70%未満
C=50%以上60%未満
D=40%以上50%未満
E=40%未満
【0084】
(実施例1)
<重合体(A)の準備>
重合体(A)として、ポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ社製、KFポリマー#7200、融点:161℃)を準備した。
<重合体(B)の調製>
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、ニトリル基含有単量体としてのアクリロニトリル20部、(メタ)アクリル酸エステル単量体としてのブチルアクリレート30部、親水性基含有単量体としてのメタクリル酸5部をこの順で入れ、ボトル内を窒素で置換した後、共役ジエン単量体としての1,3−ブタジエン45部を圧入し、過硫酸アンモニウム0.25部を添加して、反応温度40℃で重合反応させた。そして、ニトリル基含有単量体単位、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位、親水性基含有単量体単位および共役ジエン単量体単位を含んでなる重合体を得た。なお、重合転化率は85%、重合体のヨウ素価は280mg/100mgであった。
次に、得られた重合体に対して水を添加し、全固形分濃度を12質量%に調整した重合体の溶液400mL(全固形分:48g)を、撹拌機付きの1リットルオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して重合体溶液中の溶存酸素を除去した。その後、水素添加反応触媒として、酢酸パラジウム75mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水180mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(「第一段階の水素添加反応」という)させた。このとき、重合体のヨウ素価は35mg/100mgであった。
次いで、オートクレーブを大気圧にまで戻し、更に水素添加反応触媒として、酢酸パラジウム25mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水60mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(「第二段階の水素添加反応」という)させた。
その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバボレータを用いて、固形分濃度が40%となるまで濃縮して、重合体(B)の水分散液を得た。また、重合体(B)の水分散液100部に対してN−メチル−2−ピロリドン(NMP)320部を加え、減圧下で水を蒸発させて、重合体(B)のNMP溶液を得た。該NMP溶液100gをメタノール1リットルで凝固させた後、温度60℃で一晩真空乾燥し、乾燥体を得た。そして、得られた乾燥体をNMRで分析したところ、重合体(B)は、ニトリル基含有単量体単位(アクリロニトリル単位)を20質量%、1,3−ブタジエン由来の構造単位を45質量%、親水性基含有単量体単位(メタクリル酸単位)を5質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(ブチルアクリレート単位)を30質量%含んでいた。ここで、1,3−ブタジエン由来の構造単位は、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位38.8質量%と、未水添ブタジエン単位と、1,2−付加重合構造単位とから形成されていた。なお、重合体(B)のヨウ素価は10mg/100mgであった。
<正極用スラリー組成物の製造>
正極活物質としての層状構造を有するコバルト酸リチウム(LiCoO
2、粒子径:12μm)100部と、導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業製、HS−100)2.0部と、重合体(A)のNMP溶液(固形分濃度:8.0%)を固形分相当量で1.6部と、重合体(B)のNMP溶液(固形分濃度8.0%)を固形分相当量で0.4部と、適量のNMPとをプラネタリーミキサーにて撹拌し、正極スラリーを調製した。
<リチウムイオン二次電池用正極の製造>
集電体として、厚さ20μmのアルミ箔を準備した。正極用スラリー組成物をコンマコーターでアルミ箔上に乾燥後の塗布量が20mg/cm
2になるように塗布した。そして、アルミ箔を、0.5m/分の速度で、温度60℃のオーブン内を2分間、温度120℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、正極用スラリー組成物を乾燥させてアルミ箔上に皮膜を形成した(皮膜形成工程)。次に、皮膜を形成したアルミ箔のロールを、温度165℃で2時間真空乾燥した。その後、温度25℃まで1時間かけて徐冷(冷却速度:140℃/時間)し、正極原反を得た。正極原反のプレス前の密度は、2.42g/cm
3であった。この正極原反をロールプレスで圧延し、密度が3.7g/cm
3の正極合材層とアルミ箔とからなる正極を作製した(熱処理工程)。なお、正極合材層の厚みは70μmであった。作製した正極について、柔軟性、結着性の測定を行った。また、正極合材層中の重合体(A)の結晶化度を測定した。結果を表1に示す。
<リチウムイオン二次電池用負極の製造>
ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、負極活物質としての人造黒鉛(比表面積:4m
2/g、平均粒子径:24.5μm)を100部、粘度調整剤としてのカルボキシメチルセルロースの1%水溶液(第一工業製薬株式会社製、BSH−12)を固形分相当で1部加え、イオン交換水で固形分濃度55%に調整した後、温度25℃で60分混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度52%に調整した。その後、温度25℃で更に15分混合し、混合液を得た。
得られた混合液に、結着材としてのスチレン−ブタジエン共重合体(ガラス転移点:−15℃)の40%水分散液を固形分相当量で1.0部、およびイオン交換水を入れ、最終固形分濃度が50%となるように調整し、更に10分間混合した。得られた混合物を減圧下で脱泡処理して、流動性の良い負極用スラリー組成物を得た。
得られた負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で温度60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、温度120℃にて2分間加熱処理して負極原反を得た。この負極原反をロールプレスで圧延して、厚み80μmの負極合材層を有する負極を得た。
<セパレーターの準備>
単層のポリプロピレン製セパレーター(幅65mm、長さ500mm、厚さ25μm、乾式法により製造、気孔率55%)を、5cm×5cmの正方形に切り抜いた。
<リチウムイオン二次電池の製造>
リチウムイオン二次電池の外装として、アルミニウム包材外装を用意した。上記で得られた正極を、4cm×4cmの正方形に切り出し、集電体側の表面がアルミニウム包材外装に接するように配置した。正極の正極合材層の面上に、上記で得られた正方形のセパレーターを配置した。さらに、上記で得られた負極を、4.2cm×4.2cmの正方形に切り出し、これをセパレーター上に、負極合材層側の表面がセパレーターに向かい合うよう配置した。さらに、ビニレンカーボネート(VC)を1.5%含有する、濃度1.0MのLiPF
6溶液を充填した。このLiPF
6溶液の溶媒は、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)との混合溶媒(EC/EMC=3/7(体積比))である。さらに、アルミニウム包材外装の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミニウム包材外装を閉口し、リチウムイオン二次電池を製造した。得られたリチウムイオン二次電池について、高温サイクル特性および低温出力特性を評価した。結果を表1に示す。
【0085】
(実施例2)
重合体(A)としてポリフッ化ビニリデンに替えてフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(アルケマ社製、Kynar flex 2850−00、フッ化ビニリデン単位の含有割合:97質量%、融点:155℃)を使用した以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
(実施例3)
重合体(A)としてポリフッ化ビニリデンに替えてフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(アルケマ社製、Kynar flex 2800−00、フッ化ビニリデン単位の含有割合:95質量%、融点:140℃)を使用した以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
(実施例4〜6)
正極用スラリー組成物の製造時に重合体(A)および重合体(B)の配合量を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
(実施例7)
重合体(B)の調製時に、アクリロニトリルの量を5部に変更し、1,3−ブタジエンの量を60部に変更した以外は実施例1と同様にして重合体(B)を調製した。なお、重合体(B)は、ニトリル基含有単量体単位(アクリロニトリル単位)を5質量%、1,3−ブタジエン由来の構造単位を60質量%、親水性基含有単量体単位(メタクリル酸単位)を5質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(ブチルアクリレート単位)を30質量%含んでいた。そして、1,3−ブタジエン由来の構造単位は、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位52.5質量%と、未水添ブタジエン単位と、1,2−付加重合構造単位とから形成されていた。なお、重合体(B)のヨウ素価は13mg/100mgであった。
そして、上記重合体(B)を使用した以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
(実施例8)
重合体(B)の調製時に、アクリロニトリルの量を40部に変更し、1,3−ブタジエンの量を25部に変更した以外は実施例1と同様にして重合体(B)を調製した。なお、重合体(B)は、ニトリル基含有単量体単位(アクリロニトリル単位)を40質量%、1,3−ブタジエン由来の構造単位を25質量%、親水性基含有単量体単位(メタクリル酸単位)を5質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(ブチルアクリレート単位)を30質量%含んでいた。そして、1,3−ブタジエン由来の構造単位は、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位20.6質量%と、未水添ブタジエン単位と、1,2−付加重合構造単位とから形成されていた。なお、重合体(B)のヨウ素価は8mg/100mgであった。
そして、上記重合体(B)を使用した以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
(実施例9)
重合体(B)の調製時に、ブチルアクリレート30部に替えて2−エチルヘキシルアクリレート68部を使用し、アクリロニトリルの量を15部に変更し、1,3−ブタジエンを使用せず、メタクリル酸の量を17部に変更し、第一段階の水素添加反応および第二段階の水素添加反応を実施しなかった以外は実施例1と同様にして重合体(B)を調製した。なお、重合体(B)は、ニトリル基含有単量体単位(アクリロニトリル単位)を15質量%、親水性基含有単量体単位(メタクリル酸単位)を17質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(2−エチルヘキシルアクリレート単位)を68質量%含んでいた。なお、重合体(B)のヨウ素価は10mg/100mgであった。
そして、上記重合体(B)を使用した以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(実施例10)
重合体(B)の調製時に、アクリロニトリルの量を25部に変更し、ブチルアクリレートを使用せず、1,3−ブタジエンの量を70部に変更した以外は実施例1と同様にして重合体(B)を調製した。なお、重合体(B)は、ニトリル基含有単量体単位(アクリロニトリル単位)を25質量%、1,3−ブタジエン由来の構造単位を70質量%、親水性基含有単量体単位(メタクリル酸単位)を5質量%含んでいた。そして、1,3−ブタジエン由来の構造単位は、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位63.8質量%と、未水添ブタジエン単位と、1,2−付加重合構造単位とから形成されていた。なお、重合体(B)のヨウ素価は15mg/100mgであった。
そして、上記重合体(B)を使用した以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
(実施例11)
皮膜を形成したアルミ箔のロールを真空乾燥後に温度25℃まで冷却する際の冷却速度を500℃/時間に変更した以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0093】
(実施例12)
重合体(B)の調製時に、アクリロニトリルの量を25部に変更し、メタクリル酸を使用しない以外は実施例1と同様にして重合体(B)を調製した。なお、なお、重合体(B)は、ニトリル基含有単量体単位(アクリロニトリル単位)を25質量%、1,3−ブタジエン由来の構造単位を45質量%、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位(ブチルアクリレート単位)を30質量%含んでいた。そして、1,3−ブタジエン由来の構造単位は、炭素数4以上の直鎖アルキレン構造単位38.8質量%と、未水添ブタジエン単位と、1,2−付加重合構造単位とから形成されていた。なお、重合体(B)のヨウ素価は10mg/100mgであった。
そして、上記重合体(B)を使用した以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0094】
(比較例1)
リチウムイオン二次電池用正極の製造時に皮膜を形成したアルミ箔のロールを真空乾燥する温度を150℃に変更し、温度25℃まで冷却する際に急冷(冷却速度:1500℃/時間)した以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0095】
(比較例2)
重合体(A)としてポリフッ化ビニリデンに替えてフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体(アルケマ社製、Kynar flex 275−01、フッ化ビニリデン単位の含有割合:90質量%、融点:138℃)を使用した以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
(比較例3)
正極用スラリー組成物の製造時に重合体(B)を使用せず、重合体(A)の配合量を固形分相当量で2.0部とした以外は実施例1と同様にして、正極用スラリー組成物、リチウムイオン二次電池用正極、リチウムイオン二次電池用負極およびリチウムイオン二次電池を製造し、評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
【表1】
【0098】
表1の実施例1〜12および比較例1〜3より、所定の重合体(A)および重合体(B)を結着材として使用した実施例1〜12は、正極合材層の柔軟性および結着性が優れており、且つ、二次電池の電気的特性(高温サイクル特性や低温出力特性)も良好であることが分かる。一方、所定の重合体(A)を使用していない比較例1〜2や、重合体(B)を使用していない比較例3では、正極合材層の柔軟性および結着性、並びに、二次電池の電気的特性が低下することが分かる。
また、表1の実施例1〜3より、重合体(A)の組成を調整することで、正極合材層の柔軟性および結着性、並びに、二次電池の電気的特性を向上させ得ることが分かる。
更に、表1の実施例1および実施例4〜6より、重合体(A)と重合体(B)の配合比を調整することで、正極合材層の柔軟性および結着性、並びに、二次電池の電気的特性を向上させ得ることが分かる。
また、表1の実施例1および実施例7〜10より、重合体(B)の組成を調整することで、正極合材層の柔軟性および結着性、並びに、二次電池の電気的特性を向上させ得ることが分かる。
更に、表1の実施例1および実施例11より、皮膜を加熱した後に冷却する際の冷却速度を調整することで、重合体(A)の結晶化度を調整し、正極合材層の柔軟性および結着性、並びに、二次電池の電気的特性を向上させ得ることが分かる。
更に、表1の実施例1および実施例12より、重合体(B)に親水性基含有単量体単位であるメタクリル酸単位を含有させることで、重合体(B)の結着力を高めて、正極合材層の結着性を向上させ得ることが分かる。