特許第6589962号(P6589962)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6589962
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】腐食防止剤及び腐食防止方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 11/14 20060101AFI20191007BHJP
   C23F 11/173 20060101ALI20191007BHJP
   F28F 19/00 20060101ALN20191007BHJP
【FI】
   C23F11/14 101
   C23F11/173
   !F28F19/00 511A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-207277(P2017-207277)
(22)【出願日】2017年10月26日
(65)【公開番号】特開2019-77929(P2019-77929A)
(43)【公開日】2019年5月23日
【審査請求日】2018年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】吉川 たかし
(72)【発明者】
【氏名】永井 直宏
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−080484(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/119788(WO,A1)
【文献】 特開昭51−029338(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105734582(CN,A)
【文献】 特開2012−201966(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 11/00 − 11/18
C23F 14/00 − 17/00
F28F 11/00 − 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水系に接する金属部材の腐食を抑制する腐食防止剤であって、炭素数10〜22の長鎖脂肪族アミン、アゾール系銅用防食剤、及び重量平均分子量500〜100,000の低分子量ポリマーを含み、
長鎖脂肪族アミン、アゾール系銅用防食剤及び低分子量ポリマーの含有重量比が、長鎖脂肪族アミン:アゾール系銅用防食剤=1:0.5〜1:50、長鎖脂肪族アミン:低分子量ポリマー=1:0.5〜1:10であることを特徴とする腐食防止剤。
【請求項2】
請求項1において、更にMアルカリ度成分を含むことを特徴とする腐食防止剤。
【請求項3】
請求項1又は2において、銅系部材と鉄系部材とを含む冷却水系に適用されることを特徴とする腐食防止剤。
【請求項4】
冷却水系に接する金属部材の腐食を抑制する腐食防止方法であって、該冷却水系に、炭素数10〜22の長鎖脂肪族アミン、アゾール系銅用防食剤、及び重量平均分子量500〜100,000の低分子量ポリマーを
前記冷却水系に対する前記長鎖脂肪族アミンの添加濃度が0.5mg/L以上、アゾール系銅用防食剤の添加濃度が0.5mg/L以上、低分子量ポリマーの添加濃度が0.2mg/L以上となるように添加することを特徴とする腐食防止方法。
【請求項5】
請求項において、前記冷却水系の酸消費量を10〜300mg/Lに調整すると共に、前記長鎖脂肪族アミン、アゾール系銅用防食剤及び低分子量ポリマーの添加開始初期において、前記水系のpHを9.5以上に調整し、その後pHを7〜9.5に維持することを特徴とする腐食防止方法。
【請求項6】
請求項4又は5において、冷却水系に接する銅系部材と鉄系部材の腐食を抑制することを特徴とする腐食防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却水系に接した金属部材の腐食防止剤及び腐食防止方法に係り、特に銅系部材と鉄系部材が共存する冷却水系において、これらの金属部材の表面に防食皮膜を形成してその腐食を抑制する腐食防止剤及び腐食防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
開放循環冷却水系に設けられた金属部材、例えば、炭素鋼、銅、又は銅合金製の熱交換器、反応釜や配管は、冷却水と接触することにより腐食を受けることから、一般に、薬剤添加による防食処理が施されている。
例えば、炭素鋼製の熱交換器、反応釜や配管の腐食を抑制するために、オルトリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ヒドロキシエチリデンホスホン酸塩、ホスホノブタントリカルボン酸塩等のリン化合物が冷却水系に添加されている。亜鉛塩や重クロム酸塩のような重金属塩を単独で又は併用して添加する場合もある。
しかし、このようなリン化合物や亜鉛塩などを添加する防食処理では、水質を汚染し、環境に重篤な影響を与える可能性がある。
【0003】
これに対して、環境負荷を低減した処理方法として、リン化合物や亜鉛塩に頼らず、水質成分を調整することにより、防食効果を改善する方法が、以下の特許文献1〜3に提案されている。
【0004】
特許文献1には、開放循環冷却水系において、ランゲリア指数が1.5以上でかつシリカ濃度とカルシウム硬度の積が2000以上となるように水質を調整し、マレイン酸とイソブチレンとの共重合体を添加する金属の腐食抑制方法が開示されている。
特許文献2には、ランゲリア指数が1.5以上で、かつシリカ濃度とカルシウム硬度の積が2000以上となるように調整された水系に、マレイン酸系重合体Aと、マレイン酸系単量体と非イオン性モノエチレン系不飽和単量体との共重合体Bとを特定の割合で添加する金属の腐食抑制方法が開示されている。
特許文献3には、リン酸塩と亜鉛塩とMアルカリ度成分とが添加され、全リン酸濃度及び全亜鉛濃度をそれぞれ1mg/L以下、かつ30℃におけるランゲリア指数を1.2以上とする水系の金属腐食抑制方法が開示されている。
【0005】
しかし、特許文献1〜3の方法は、いずれもカルシウム硬度が低い水質においては、カルシウム硬度やシリカ濃度、ランゲリア指数を一定値にするために、多量の薬剤を添加する必要がある。
【0006】
一方、リン化合物や亜鉛塩などを用いずに防食する技術として有機系防食剤を用いた防食処理がある。例えば、銅管等の銅系部材の腐食を抑制するために、トリルトリアゾール、ベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾールといったアゾール系の銅用防食剤を水系に添加する水処理が行われている。
【0007】
また、皮膜性アミンである長鎖脂肪族アミンを用いる方法もあり、この方法は主としてボイラ水系における鉄系部材の腐食抑制に適用されている。長鎖脂肪族アミンによる防食のメカニズムは、長鎖脂肪族アミンが金属の表面にアミノ基を介して吸着して単分子又は多分子層の緻密な皮膜を形成することにより金属と水の接触を防止することで、金属の腐食を抑制するというものである(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公平4−33868号公報
【特許文献2】特開2007−119835号公報
【特許文献3】特開2009−299161号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】腐食センターニュース No.054(2010年8月) 水処理技術(1)「ボイラおよび周辺設備の腐食・防食」川村 文夫
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
リン化合物や亜鉛塩等の環境負荷の要因となる薬剤を用いずに、有機系防食剤を用いて、銅系部材と鉄系部材が共存する冷却水系で防食処理するために、銅系部材に対してアゾール系銅用防食剤を、鉄系部材に対して長鎖脂肪族アミンを適用すべく、これらを冷却水系に添加することが考えられるが、長鎖脂肪族アミンは銅に吸着し易いために、過剰の防食皮膜の形成で伝熱阻害を引き起こす可能性があった。
【0011】
本発明は、長鎖脂肪族アミンを用いた冷却水系の防食処理において、銅系部材に過剰な長鎖脂肪族アミンを吸着させることなく、銅系部材と鉄系部材の腐食を共に抑制することができる腐食防止剤及び腐食防止方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、長鎖脂肪族アミンを用いた防食処理において、低分子量ポリマーにより長鎖脂肪族アミンの銅系部材への過剰な吸着を防止することができ、また、アゾール系銅用防食剤により銅系部材の防食処理を行うことで、銅系部材及び鉄系部材の腐食を共に抑制することができることを見出した。
【0013】
本発明はこのような知見に基づいて達成されたものであり、以下を要旨とする。
【0014】
[1] 冷却水系に接する金属部材の腐食を抑制する腐食防止剤であって、長鎖脂肪族アミン、アゾール系銅用防食剤及び低分子量ポリマーを含むことを特徴とする腐食防止剤。
【0015】
[2] [1]において、長鎖脂肪族アミン、アゾール系銅用防食剤及び低分子量ポリマーの含有重量比が、長鎖脂肪族アミン:アゾール系銅用防食剤=1:0.5〜1:50、長鎖脂肪族アミン:低分子量ポリマー=1:0.5〜1:10であることを特徴とする腐食防止剤。
【0016】
[3] [1]又は[2]において、更にMアルカリ度成分を含むことを特徴とする腐食防止剤。
【0017】
[4] [1]ないし[3]のいずれかにおいて、銅系部材と鉄系部材とを含む冷却水系に適用されることを特徴とする腐食防止剤。
【0018】
[5] 冷却水系に接する金属部材の腐食を抑制する腐食防止方法であって、該冷却水系に、長鎖脂肪族アミン、アゾール系銅用防食剤及び低分子量ポリマーを添加することを特徴とする腐食防止方法。
【0019】
[6] [5]において、前記長鎖脂肪族アミン、アゾール系銅用防食剤及び低分子量ポリマーを、前記冷却水系に対する前記長鎖脂肪族アミンの添加濃度が0.5mg/L以上、アゾール系銅用防食剤の添加濃度が0.5mg/L以上、低分子量ポリマーの添加濃度が0.2mg/L以上となるように添加することを特徴とする腐食防止方法。
【0020】
[7] [5]又は[6]において、前記冷却水系の酸消費量を10〜300mg/Lに調整すると共に、前記長鎖脂肪族アミン、アゾール系銅用防食剤及び低分子量ポリマーの添加開始初期において、前記水系のpHを9.5以上に調整し、その後pHを7〜9.5に維持することを特徴とする腐食防止方法。
【0021】
[8] [5]ないし[7]のいずれかにおいて、冷却水系に接する銅系部材と鉄系部材の腐食を抑制することを特徴とする腐食防止方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、長鎖脂肪族アミンを用いた冷却水系の防食処理において、銅系部材に過剰な長鎖脂肪族アミンを吸着させることなく、従って、過剰な防食皮膜の形成で伝熱阻害を引き起こすことなく、銅系部材と鉄系部材の腐食を共に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の腐食防止剤及び腐食防止方法の実施の形態を詳細に説明する。
【0024】
[腐食防止剤]
本発明の腐食防止剤は、長鎖脂肪族アミンとアゾール系銅用防食剤と低分子量ポリマーを含むものであり、更にMアルカリ度成分を含むものであってもよい。
【0025】
<長鎖脂肪族アミン>
長鎖脂肪族アミンとしては、通常、ボイラ水系の防食処理等に用いられている長鎖脂肪族アミンをいずれも好適に用いることができる。
【0026】
長鎖脂肪族アミンの長鎖脂肪族基の炭素数は10〜22、特に12〜20であることが好ましい。この炭素数が10未満の場合は、金属部材に対して皮膜を形成しにくく、腐食抑制機能が不十分になる可能性がある。逆に、炭素数が22を超えるものは、薬注時の取り扱い性に劣る傾向がある。
【0027】
長鎖脂肪族アミンを構成する長鎖脂肪族基は、不飽和結合を含んでいてもよい。また、この長鎖脂肪族アミンを構成するアミノ基は、その水素部分がメチル基やエチル基などの炭化水素基により適宜置換されていてもよい。さらに、この長鎖脂肪族アミンは、脂肪酸塩であってもよい。この場合、脂肪酸塩を構成する脂肪酸としては、例えば、オレイン酸、ラウリン酸およびステアリン酸を挙げることができる。
【0028】
長鎖脂肪族アミンのうち、好ましいものとしては、例えば、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘプタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ノナデシルアミン、エイコシルアミン、ドコシルアミンなどの飽和脂肪族アミン、オレイルアミン、リシノレイルアミン、リノレイルアミン、リノレニルアミンなどの不飽和脂肪族アミン、ヤシ油アミン、硬化牛脂アミンなどの混合アミンなどを挙げることができる。また、N−オレイル−1,3−ジアミノプロパン、N−タロウ−1,3−ジアミノプロパン、N−ココ−1,3−ジアミノプロパン等のアミノ基に長鎖脂肪族基を有するものであってよい。また、N−タロウ−1,3−ジアミノプロパン−エチレンオキサイド付加物等のアルキレンオキサイド付加物であってもよい。
【0029】
これらの長鎖脂肪族アミンは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
<アゾール系銅用防食剤>
アゾール系銅用防食剤としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール等を用いることができる。
これらのアゾール系銅用防食剤は、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0031】
<低分子量ポリマー>
低分子量ポリマーとしては特に制限はなく、通常、冷却水系のスケール防止剤として用いられているものをいずれも好適に用いることができる。例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシ−3−アリルオキシ−1−プロパンスルホン酸(HAPS)、マレイン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、2−ヒドロキシエチルメタアクリレート(HEMA)、アクリル酸メチル、スチレンスルホン酸(SS)、イソプレンスルホン酸(IPS)、イソブチレン(IB)よりなる群から選ばれる1種又は2種以上のモノマーが重合又は共重合した、ホモポリマー又はコポリマー、好ましくはアクリル酸、メタアクリル酸、2−ヒドロキシ−3−アリルオキシ−1−プロパンスルホン酸(HAPS)、マレイン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)よりなる群から選ばれる1種又は2種以上のモノマーが重合又は共重合した、ホモポリマー又はコポリマーであって、重量平均分子量が500〜100,000、好ましくは500〜20,000、より好ましくは500〜7,000、さらに好ましくは500〜2,000の低分子量水溶性ポリマーが挙げられる。低分子量ポリマーとしては、特にポリアクリル酸、ポリマレイン酸、アクリル酸と2−ヒドロキシ−3−アリルオキシ−1−プロパンスルホン酸(HAPS)、スチレンスルホン酸(SS)、イソプレンスルホン酸(IPS)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)等とのコポリマー等が好ましいものとして挙げられる。
なお、ここで、低分子量ポリマーの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算の値である。
【0032】
低分子水溶性ポリマーとしては、とりわけマレイン酸又はアクリル酸のホモポリマー或いは、アクリル酸とHAPS又はAMPSとのモル比20〜80:80〜20のコポリマー、アクリルアミドとAMPSとのモル比20〜80:80〜20のコポリマー、マレイン酸とイソブチレンとのモル比50〜80:50〜20のコポリマー等が好適である。
これらの低分子ポリマーは1種を単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0033】
<Mアルカリ度成分>
本発明の腐食防止剤は、必要に応じて、冷却水系の酸消費量を調整するためのMアルカリ度成分を含有してもよい。
本発明で用いるMアルカリ度成分としては、無機アルカリでも、有機アルカリである中和性アミン(酸成分を中和し得るアミン)でもよい。
【0034】
無機アルカリとしては、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸カルシウム(CaCO)等の炭酸塩、重炭酸ナトリウム(NaHCO)、重炭酸カリウム(KHCO)等の重炭酸塩や、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)等のアルカリ金属水酸化物、水酸化カルシウム(Ca(OH))、塩化カルシウム(CaCl)等のカルシウム化合物の1種又は2種以上が挙げられる。
【0035】
中和性アミンとしては、ジメチルアミノエタノール(DMEA)、ジエチルエタノールアミン(DEEA)、モノイソプロパノールアミン(MIPA)、モノエタノールアミン(MEA)、シクロへキシルアミン(CHA)、モルホリン(MOR)、メトキシプロピルアミン(MOPA)、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0036】
なお、無機アルカリと中和性アミンとを併用してもよい。
【0037】
<配合比>
本発明の腐食防止剤に含まれる長鎖脂肪族アミン、アゾール系銅用防食剤及び低分子量ポリマーの含有重量比は、適用する冷却水系の水質や金属部材の状態によっても異なるが、本発明の腐食防止剤による銅系部材と鉄系部材の腐食抑制効果をバランスよく得る観点から、長鎖脂肪族アミンと低分子量ポリマーの比率は重量比で好ましくは1:0.5〜1:50、より好ましくは1:1〜1:5で、長鎖脂肪族アミンとアゾール系銅用防食剤の比率は重量比で好ましくは1:0.5〜1:10、より好ましくは1:1〜1:2程度である。
Mアルカリ度成分については、処理対象の冷却水系の水質に応じて適宜好適範囲で配合される。
【0038】
<薬剤形態>
本発明の腐食防止剤は、長鎖脂肪族アミン、アゾール系銅用防食剤、低分子量ポリマー、及び必要に応じて用いられるMアルカリ度成分が、予め混合されて一剤化されたものであってもよく、これらの一部又は全部が別薬剤として提供されるものであってもよい。
【0039】
また、薬剤の形態にも特に制限はなく、水や溶剤に溶解した溶液であっても、水に分散させたエマルジョンであってもよい。
特に、長鎖脂肪族アミンは、水に溶けにくいため、溶剤に溶かして使用したり、水中にエマルションとして分散させて使用したりしてもよい。
【0040】
[腐食防止方法]
本発明の腐食防止方法は、冷却水系に接する金属部材の腐食を抑制する腐食防止方法であって、該冷却水系に長鎖脂肪族アミン、アゾール系銅用防食剤及び低分子量ポリマーと、必要に応じて更にMアルカリ度成分を添加することを特徴とする。
ここで、用いる長鎖脂肪族アミン、アゾール系銅用防食剤及び低分子量ポリマーとしては、本発明の腐食防止剤に含まれる長鎖脂肪族アミン、アゾール系銅用防食剤及び低分子量ポリマーとして記載したものを用いることができ、その好適な添加重量比も、前述の本発明の腐食防止剤に含まれる含有重量比と同様である。
【0041】
長鎖脂肪族アミンは、冷却水系の長鎖脂肪族アミン濃度が0.1mg/L以上、例えば0.5〜20mg/Lとなるように添加することが好ましく、アゾール系銅用防食剤は、冷却水系のアゾール系銅用防食剤濃度が0.1mg/L以上、例えば0.5〜20mg/Lとなるように添加することが好ましく、低分子量ポリマーは、冷却水系の低分子量ポリマー濃度が0.1mg/L以上、例えば0.2〜10mg/Lとなるように添加することが好ましい。
いずれも、添加量が少ないと、その添加効果を十分に得ることができず、多過ぎても添加効果は頭打ちとなり、薬剤コストの面で好ましくない。
【0042】
本発明で処理する冷却水系は、酸消費量(pH4.8)が10〜300mg/L、特に30〜200mg/L程度となるように調整することが、防食及びスケール防止の観点から好ましい。従って、循環水中に酸消費量(pH4.8)が十分にあればMアルカリ度成分を添加する必要は無いが、足りない場合はMアルカリ度成分を添加する。特に本発明の処理を開始する際の初期pHは9.5以上とするのが防食皮膜の形成に有利であることから、必要に応じて、Mアルカリ度成分を添加することで、初期pHを9.5以上、例えば9.5〜10.5に調整することが好ましい。
なお、初期処理で冷却水系内の金属部材に防食皮膜が形成された後は、冷却水系のpHは7〜9.5程度に維持すればよく、長鎖脂肪族アミン濃度は0.1〜3mg/L、アゾール系銅用防食剤濃度は0.1〜3mg/L、低分子量ポリマー濃度は0.1〜1.5mg/L程度でよい。
【0043】
[冷却水系]
本発明において、処理対象とする冷却水系は、密閉循環冷却水系でも良いし、開放循環冷却水系でも良い。また、冷却水系の水は純水、軟水、工業用水など特に限定されない。いずれの冷却水系でもブローや飛散水などで抜けた分、破壊された皮膜の再形成などで消耗した分を補うため、上記の水質となるように薬剤の追加添加を行う。
【0044】
なお、処理対象とする冷却水系のMアルカリ度成分、pH、皮膜性アミン濃度以外の水質については特に制限はなく、一般的に冷却水系で採用される水質であればよい。
【0045】
<金属部材>
本発明において、防食対象とする金属部材には特に制限はなく、炭素鋼等の鉄系金属部材であっても良く、銅系部材であっても良いが、前述の通り、本発明は、同一冷却水系内に銅系部材と鉄系部材とが共存する場合に、銅系部材と鉄系部材の腐食を共に抑制する効果が有効に発揮される。
【実施例】
【0046】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
以下の実施例及び比較例では、試験水中に試験片を浸漬して回転させることにより、試験片を腐食させる回転腐食試験装置を用いて、以下の手順で腐食試験を行った。腐食速度の単位はmdd(mg/dm/day)とし、鉄系部材では10mdd以下を、銅系部材では1mdd以下を防食効果十分として判断した。
【0047】
[腐食試験手順]
(1) 1Lビーカーに純水1.0Lを入れた。
(2) (1)のビーカーに塩化ナトリウム水溶液(塩化物イオン濃度0.1重量%)5ml、硫酸ナトリウム水溶液(硫酸イオン0.1重量%)5mlを添加した。またMアルカリ度成分としてジメチルアミノエタノール(DMEA)溶液(Mアルカリ度として5%)を酸消費量(pH4.8)が120mg/Lとなるように添加した(ただし、比較例5では添加せず。)。また、各アゾール系銅用防食剤を10mg/L添加した(ただし、比較例4,5では添加せず。)。また、各低分子量ポリマーは固形分量として5mg/L添加した(ただし、比較例1〜3,5では添加せず。)。また、長鎖脂肪族アミンとしてN−オレイル−1,3−ジアミノプロパンまたはN−タロウ−1,3−ジアミノプロパンを10mg/L添加した(ただし、比較例5では添加せず。)。
ビーカー内の水は常に撹拌子で混ぜながら各成分を添加した。
(3) (2)で作成したビーカーを50℃の恒温水槽に入れた。
(4) 支持棒に銅試験片と軟鋼試験片(共に50mm×30mm×1mm)を取り付け、(3)のビーカー内の試験水に浸るようにした。
(5) (4)の支持棒を145rpmの回転速度で回転させて試験を開始した。
(6) 7日間の試験後、試験片を取り出して腐食減量から腐食速度を算出した。
【0048】
[実施例1〜5、比較例1〜5]
実施例1〜5及び比較例1〜5では、上記腐食試験手順のうち、(3)の工程において、表1に示す長鎖脂肪族アミン、アゾール系銅用防食剤、Mアルカリ度成分、低分子量ポリマーを表1に示す量で添加した。
【0049】
【表1】
【0050】
表1より明らかなように、本発明によれば、銅系部材の付着物を抑制して銅系部材及び鉄系部材の腐食を効果的に抑制することができる。
これに対して、低分子量ポリマーを用いていない比較例1〜3では、銅系部材への付着物の問題がある。
アゾール系銅用防食剤を用いていない比較例4では、銅系部材の腐食を十分に抑制し得ない。