(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
n側層と、p側層と、前記n側層と前記p側層の間に設けられ、AlとGaとNとを含む井戸層と、AlとGaとNとを含み、Alの含有量が前記井戸層より大きい障壁層とを有してなる活性層と、を備えた窒化物半導体発光素子であって、
前記活性層と前記p側層との間に電子ブロック構造層を有し、
前記電子ブロック構造層は、
バンドギャップが前記障壁層より大きい第1電子ブロック層と、
前記p側層と前記第1電子ブロック層の間に設けられ、前記障壁層より大きく前記第1電子ブロック層より小さいバンドギャップを有する第2電子ブロック層と、
前記第1電子ブロック層と前記第2電子ブロック層の間に設けられ、バンドギャップが前記第2電子ブロック層より小さい中間層と、を有し、前記中間層のバンドギャップは、前記障壁層のバンドギャップより小さい窒化物半導体発光素子。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態に係る窒化物半導体発光素子について説明する。尚、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
実施形態
本実施形態の窒化物半導体発光素子は、
図1に示すように、基板10上に、n側層13と、p側層15と、n側層13とp側層15の間に設けられた活性層14とを含み、例えば、220〜350nmの深紫外光を発光するように構成されている。本実施形態の窒化物半導体発光素子において、活性層14は、例えば、AlとGaとNとを含む井戸層142と、AlとGaとNとを含む障壁層141,143とを含む量子井戸構造を有してなる。活性層14において、井戸層142は、所望の深紫外光の波長に対応するバンドギャップとなるように、例えば、アルミニウム組成が設定され、障壁層141,143は、バンドキャップが井戸層142より大きくなるように、例えば、アルミニウム組成xが設定される。
例えば、ピーク波長が280nmの深紫外光を発光する窒化物半導体発光素子では、例えば、井戸層142を、アルミニウム組成xが0.45であるAl
0.45Ga
0.55Nからなる窒化物半導体により構成し、障壁層141,143を、アルミニウム組成yが0.56であるAl
0.56Ga
0.44Nからなる窒化物半導体により構成する。
尚、本明細書において、AlとGaとNを含む3元混晶の窒化物半導体を、単にAlGaNと表記することもある。
【0012】
また、本実施形態の窒化物半導体発光素子は、p側層15と活性層14の間に、設けられ、n側層13から活性層14に注入された電子が井戸層142で再結合することなくp側層に流出するのを阻止する電子ブロック構造層20を有している。
【0013】
ここで、特に、本実施形態の窒化物半導体発光素子において、電子ブロック構造層20は、
(i)障壁層141,143より大きいバンドギャップを有する第1電子ブロック層21を、活性層14側に含み、
(ii)障壁層141,143より大きく第1電子ブロック層21より小さいバンドギャップを有する第2電子ブロック層23を、p側層15側に含み、
(iii)第1電子ブロック層21と第2電子ブロック層23の間に、第1電子ブロック層21及び第2電子ブロック層23より小さいバンドギャップを有する中間層(負担軽減層)22を含む。
以上のように構成された電子ブロック構造層20は、第1電子ブロック層21と第2電子ブロック層23とを有することによって、電子ブロック効果、すなわち、電子のオーバーフローを抑制して活性層14への電子注入効率を高め、発光効率を向上させることができる。一方、この電子ブロック効果で生じる強い電界に起因して、第2電子ブロック層23が劣化することが考えられる。しかし、本実施形態では、電子ブロック構造層20に中間層22を有することによって、第2電子ブロック層23の劣化を抑制することができる。より具体的には、第2電子ブロック層23を越えた正孔が、第1電子ブロック層21にブロックされ、電子の豊富な活性層14側に近い中間層22に溜まる結果、第2電子ブロック層23にかかる電界が緩和されるためと考えられる。したがって、本実施形態に係る電子ブロック構造層20を備えた窒化物半導体発光素子は、発光効率を高くできかつ寿命を長くできる。
【0014】
電子ブロック構造層20は、電子ブロック効果が得られる限り、第1電子ブロック層21と活性層14の間に他の層を含んでいても良く、第2電子ブロック層23とp側層15の間に他の層を含んでいても良い。しかしながら、本実施形態の窒化物半導体発光素子では、第1電子ブロック層21と活性層14とは接していることが好ましく、これにより、第1電子ブロック層21による高い電子ブロック効果が得られる。尚、第1電子ブロック層21が活性層14と接する場合、第1電子ブロック層21は井戸層と接していても良いし、障壁層と接していてもよい。また、第2電子ブロック層23とp側層15とは接していることが好ましく、これにより、活性層14への正孔の注入効率の低下を抑えることができ、光出力の低下を抑制できる。さらに、中間層22と第1電子ブロック層21の間及び中間層22と第2電子ブロック層23の間には、第2電子ブロック層23の劣化を抑制することができる限り、他の層を含んでいても良い。しかしながら、本実施形態では、中間層22は第1電子ブロック層21又は第2電子ブロック層23に接していることが好ましく、中間層22が第1電子ブロック層21及び第2電子ブロック層23の双方に接していることがより好ましい。中間層22が第1電子ブロック層21及び第2電子ブロック層23のいずれか一方、好ましくは双方に接していると、第2電子ブロック層23にかかる電界の緩和効果を大きくでき、第2電子ブロック層23の劣化を効果的に抑制できる。
【0015】
実施形態の電子ブロック構造層20は、第1電子ブロック層21、中間層22及び第2電子ブロック層23を含んで構成されているので、第1電子ブロック層21を第2電子ブロック層23より薄くしても良好な電子ブロック効果が得られる。第1電子ブロック層21を第2電子ブロック層23より薄くすると、トンネル効果によって電子が第1電子ブロック層21を通過して活性層に到達することが可能になる。これにより、中間層における発光を防止しながら中間層に正孔を留めることができるので、第2電子ブロック層23への電界集中を緩和でき、第2電子ブロック層23の劣化を抑制できる。また、バンドギャップの大きい第1電子ブロック層21を薄く設けることにより、順方向電圧の増大を抑制しながらに、電子ブロック効果を高めることができる。
【0016】
第1電子ブロック層21が厚すぎると、井戸層のバンドギャップに生じる歪みが大きくなるため電界が集中しやすく、言い換えると、バンドギャップが小さくなるので、発光再結合のほとんどがこのバンドギャップの小さな部分で起こる結果、電界が集中して、発光素子の寿命が短くなる。かかる点からも、第1電子ブロック層21は薄い方が好ましい。ただし、第1電子ブロック層21が薄すぎると、電子ブロック効果が低下して、第2電子ブロック層23の劣化抑制効果が小さくなる。また、中間層22の厚さを第2電子ブロック層23の厚さよりも薄くすることにより、第2電子ブロック層23の電界の集中を防ぎつつ、より効果的に中間層22による発光を防止できる。尚、第1電子ブロック層21と中間層22とを合わせた厚さは、第2電子ブロック層23の厚さよりも薄いことがより好ましい。
【0017】
第1電子ブロック層21は、例えば、アルミニウム組成z1が障壁層141,143のアルミニウム組成yより大きいAl
z1Ga
1−z1Nからなる窒化物半導体により構成することができる。第1電子ブロック層21は、電子ブロック効果を高くするために、アルミニウム組成z1は大きいほど好ましく、より好ましくはアルミニウム組成z1が1であるAlNにより構成する。
【0018】
第2電子ブロック層23は、例えば、アルミニウム組成z2が、障壁層141,143のアルミニウム組成yより大きく第1電子ブロック層21のアルミニウム組成z1より小さいAl
z2Ga
1−z2Nからなる窒化物半導体により構成することができる。井戸層142を、Al
0.45Ga
0.55Nからなる窒化物半導体により構成し、障壁層141,143を、Al
0.56Ga
0.44Nからなる窒化物半導体により構成し、第1電子ブロック層21をAlNにより構成した場合、例えば、第2電子ブロック層23は、アルミニウム組成z2が0.78であるAl
0.78Ga
0.22Nからなる窒化物半導体により構成する。
【0019】
中間層22は、例えば、第2電子ブロック層23のアルミニウム組成z2より小さい、好ましくは障壁層141,143のアルミニウム組成yより小さいアルミニウム組成rであるAl
rGa
1−rNからなる窒化物半導体により構成することができ、好ましくは、井戸層142のアルミニウム組成xと等しいか又は大きいアルミニウム組成rのAl
rGa
1−rNからなる窒化物半導体により構成する。
【0020】
本実施形態の窒化物半導体発光素子において、電子ブロック構造層20は、例えば、上記(i)〜(iii)に示した条件を満足する限り、以下の種々の形態をとることができる。以下、
図2及び
図3を参照しながら、電子ブロック構造層20の構成例について説明する。
図2及び
図3にはそれぞれ、形態1〜3の電子ブロック構造層20のバンド構造を示している。尚、
図2及び
図3には、後述するn側の第2の組成傾斜層132、活性層14、p側クラッド層151、p側組成傾斜クラッド層152、p側低濃度ドープ層153を含めて示している。
【0021】
電子ブロック構造層20の形態1.
図2には、形態1の電子ブロック構造層20のバンド構造を示している。
この形態1の電子ブロック構造層20では、中間層22のバンドギャップを井戸層142のバンドギャップと同一に設定している。例えば、井戸層142を、Al
xGa
1−xNからなる窒化物半導体により構成した場合、中間層22を、アルミニウム組成rが井戸層142のアルミニウム組成xと等しいAl
rGa
1−rNからなる窒化物半導体により構成する。
以上の形態1の電子ブロック構造層20によれば、中間層22により第2電子ブロック層23の負担を軽減することができる結果、第2電子ブロック層23の劣化に起因した寿命の低下を抑制することができる。
【0022】
電子ブロック構造層20の形態2.
図3には、形態2の電子ブロック構造層20のバンド構造を示している。
この形態2の電子ブロック構造層20では、中間層22のバンドギャップを井戸層142のバンドギャップより大きくして、障壁層141,143のバンドギャップより小さくしている。例えば、井戸層142を、Al
xGa
1−xNからなる窒化物半導体により構成し、障壁層141,143を、Al
yGa
1−yNからなる窒化物半導体により構成した場合、中間層22を、アルミニウム組成rが井戸層142のアルミニウム組成xより大きく、障壁層141,143のアルミニウム組成yより小さいAl
rGa
1−rNからなる窒化物半導体により構成する。
以上の形態2の電子ブロック構造層20によれば、井戸層142へのキャリア注入効率の低下をより抑制することができると共に、形態1と同様に第2電子ブロック層23の負担を軽減することができる。
【0023】
以上の形態1及び2の電子ブロック構造層20は、いずれも中間層22のバンドギャップを障壁層141,143のバンドギャップより小さくした。しかしながら、本実施形態は、これに限定されるものではなく、中間層22のバンドギャップは、第1電子ブロック層21及び第2電子ブロック層23より小さければよく、障壁層141,143のバンドギャップと同一又は大きくてなっていてもよい。
【0024】
電子ブロック構造層20のp型不純物
電子ブロック構造層20は、活性層14とp側層15の間に設けられる層であることから必要に応じてp型不純物を含む。しかしながら、本実施形態では、第1電子ブロック層21、中間層22及び第2電子ブロック層23の少なくとも1つの層は、ノンドープ層であることが好ましい。電子ブロック構造層20を構成する少なくとも1つの層がノンドープ層であると、井戸層142に拡散するp型不純物を減らすことができるため、寿命の低下を抑制することができる。
さらに、本実施形態では、第1電子ブロック層21がノンドープ層であることがより好ましく、第1電子ブロック層21がノンドープ層であると、井戸層142に拡散するp型不純物をさらに減らすことができるため、寿命の低下をより効果的に抑制することができる。
【0025】
ここで、ノンドープ層とは、当該層を成長させる際に、p型又はn型不純物の不純物をドープすることなく形成した層(例えば、有機金属気相成長法で当該層を成長させる場合には、不純物の原料ガスを止めて成長した層)のことをいい、不純物濃度が1×10
−16以下の実質的に不純物を含まない層を意味する。
【0026】
以上のように構成された電子ブロック構造層20は、
図5に示すように、中間層22を設けることなく、第1電子ブロック層21と第2電子ブロック層23の2層により構成された電子ブロック構造に比較すると、電子ブロック構造層20にかかる負担が軽減され、電子ブロック構造層20の劣化を抑えることができる。
したがって、電子ブロック構造層20を備えた本実施形態の窒化物半導体発光素子は、第1電子ブロック層21と第2電子ブロック層23の2層により構成された電子ブロック構造を有する窒化物半導体発光素子に比較すると、寿命を長くすることができる。
【0027】
また、以上のように構成された電子ブロック構造層20は、
図4の参考例に示す
第1電子ブロック層21と第2電子ブロック層23とを同じバンドギャップを持つように構成した参考例の窒化物半導体発光素子に比較すると発光強度を高くできる。
すなわち、実施形態の電子ブロック構造層20を備えた窒化物半導体発光素子は、発光強度を高くできかつ寿命を長くすることができる。
【0028】
尚、本実施形態に窒化物半導体発光素子において、中間層22は、井戸層142と同じ又は井戸層142より大きいバンドギャップを有している。このため、発光波長を250nm以上に設定すると、中間層22と、第1電子ブロック層21及び第2電子ブロック層23との間でバンドギャップの差が大きくなるように設定することができる結果、中間層22により負担軽減効果がより顕著に現れる。また、発光波長が310nm以下になると、第1電子ブロック層21及び第2電子ブロック層23の電子ブロック効果で生じる電界がより強くなることから、中間層22により負担軽減効果がより効果的に発揮される。したがって、本実施形態に窒化物半導体発光素子において、発光波長を250nm〜310nmの範囲に設定した場合には、電子ブロック構造層20の劣化をより効果的に抑えることができる。
【0029】
本実施形態の窒化物半導体発光素子において、第1電子ブロック層21は井戸層142に接して設けられている。このように井戸層142に接して第1電子ブロック層21を設けると、電子のオーバーフローを効果的に抑制することができる。
しかしながら、本実施形態の窒化物半導体発光素子では、活性層14のp層側の最外層として障壁層を設けるようにして、第1電子ブロック層21を最外層の障壁層に接するように設けてもよい。このように最外層の障壁層に接して第1電子ブロック層21を設けると、井戸層142へのp型不純物の拡散を効果的に抑制することができる。
さらに、本実施形態の窒化物半導体発光素子では、活性層14と第1電子ブロック層21の間に必要に応じて別の層を設けてもよい。
【0030】
以下、本実施形態における電子ブロック構造20以外の層の構成について詳細に説明する。
【0031】
[基板10]
基板10として、例えば、サファイア基板を用いることができる。サファイア基板は、深紫外光に対して透明であり、深紫外光を発光する窒化物半導体発光素子用の基板として適している。さらに、c面、より好ましくはc面からa軸方向又はm軸方向に0.2°以上2°以下の範囲で傾いた面を上面とするサファイア基板が窒化物半導体の成長に適している。
【0032】
[バッファ層11]
バッファ層11は、例えば、基板10の上面に成長されたAlN(窒化アルミニウム)からなり、その上に成長される窒化物半導体層とサファイアとの格子不整合を緩和する。
窒化アルミニウムはバンドギャップが極めて大きく、深紫外光に対して透明であり、サファイア基板側から深紫外光を取り出す場合には適している。バッファ層11の成長初期には、サファイア基板との格子不整合および熱膨張係数差に起因する多数の欠陥が導入されることがある。したがって、バッファ層11は、一定以上の厚み以上形成することが好ましく、例えば、2μm以上の厚さに形成する。一方、バッファ層11の厚さの上限は特に制限はないが、生産性を低下させることかせないよう例えば4μm以下とする。バッファ層11(窒化アルミニウム)は、単結晶であることが好ましく、単結晶の窒化アルミニウムはc軸配向性を高くできるので、活性層14の結晶配向が向上する結果、発光効率を向上させることができる。
【0033】
[超格子層12]
超格子層12は、格子定数の小さい第1層と第1層より格子定数の大きい第2層とを交互に多周期積層することで、上層に形成される層に加わる応力を緩和させる。これにより、第1の組成傾斜層131におけるクラックの発生を防止する。超格子層12は、例えば、交互に積層された窒化アルミニウム(AlN)層と窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)層により構成される。
【0034】
バッファ層11に接する超格子層12の最下層は、窒化アルミニウム(AlN)層であってもよいし、窒化アルミニウムガリウム層(AlGaN)であってもよい。第1の組成傾斜層131に接する超格子層12の最上層も、窒化アルミニウム(AlN)層であってもよいし、窒化アルミニウムガリウム層(AlGaN)であってもよい。また、窒化アルミニウム層及び/又は窒化アルミニウムガリウム層には、目的に応じて例えばn型不純物などの添加元素をドープさせても良い。サファイア基板10側から深紫外光を取り出す場合には、窒化アルミニウムガリウム層の組成は、活性層から発せられる深紫外光の光子エネルギーよりも大きなバンドギャップを持つように調整される。
【0035】
[n側層13]
n側層13は、第1の組成傾斜層131と第2の組成傾斜層132を含む。
第1の組成傾斜層131
第1の組成傾斜層131は、超格子層側から第2の組成傾斜層側に向けて(この方向を上方向とする)組成が連続的に変化する層であり、例えば、超格子層の上面に接して形成される。この第1の組成傾斜層131により、第1の組成傾斜層131に接して形成される第2の組成傾斜層132の結晶性を高めることができる。
第1の組成傾斜層131は、例えば、アンドープの窒化アルミニウムガリウムからなり、窒化アルミニウムガリウム(Al
mAl1Ga
1−mAl1N)におけるアルミニウム比mAl1が、上方向に順次又は徐々に減少する。なお、アルミニウム比mAl1は、窒化アルミニウムガリウム中のガリウム及びアルミニウムの和に対するアルミニウムの比で定義する。なお、サファイア基板10側から深紫外光を取り出す場合には、第1の組成傾斜層全体が、活性層から発せられる深紫外光に対して透明であるよう、mAl1の最小値は調整される。
【0036】
第2の組成傾斜層132
第2の組成傾斜層132は、第1の組成傾斜層131側から活性層14側に向けて組成が連続的に変化する層であり、第1の組成傾斜層131の上面に接して形成される。この第2の組成傾斜層132は、例えば、n型不純物ドープの窒化アルミニウムガリウムからなり、窒化アルミニウムガリウム(Al
mAl2Ga
1−mAl2N)におけるアルミニウム比mAl2が、上方向に順次又は徐々に減少する。このような第2の組成傾斜層132によれば、n電極が設けられる部分を低アルミニウム組成にすることができる。つまり低アルミニウム組成とすることにより、n型不純物をより活性化することができ、n電極と第2の組成傾斜層132との接触抵抗を低減することができる。ここで、n型不純物は、例えば、シリコンである。
なお、サファイア基板10側から深紫外光を取り出す場合には、第2の組成傾斜層全体が、活性層から発せられる深紫外光に対して透明であるよう、mAl2の最小値は調整される。
【0037】
第1及び第2の組成傾斜層の関係
第1の組成傾斜層131及び第2の組成傾斜層132の組成及びその組成変化の仕方は夫々独立して設定することができる。しかし、第1の組成傾斜層131上面におけるアルミニウム比mAl1(以下、mAl1uとする。)が第2の組成傾斜層132下面におけるアルミニウム比mAl2(以下、mAl2bとする。)以上であると、第2の組成傾斜層132全体に圧縮応力を加えることができ、クラックの発生を抑制できるため好ましい。mAl1u>mAl2とし、かつmAl1uとmAl2bの差を比較的小さくすると、格子不整合による界面での欠陥発生を防ぐことができるためより好ましい。より好ましい範囲を比で表すと、mAl1u/mAl2bとして1.00以上1.02以下である。また、第1の組成傾斜層131及び第2の組成傾斜層132によりn側層13が構成され、第1の組成傾斜層131の上面に接してn電極31が形成される。
【0038】
[活性層14]
活性層14は、例えば、深紫外光を発するIII族窒化物半導体からなる井戸層142及び障壁層141,143を有し、第2の組成傾斜層132の上面に形成される。井戸層142及び障壁層141,143は、例えば、一般式In
aAl
bGa
1−a−bN(0≦a≦0.1、0.4≦b≦1.0、a+b≦1.0)で表されるIII族窒化物により構成することができる。本実施形態において、ピーク波長が280nmの深紫外光を発光する窒化物半導体発光素子とする場合、例えば、井戸層142を、Al
xGa
1−xNからなる3元の窒化物半導体とし、アルミニウム組成xが0.45であるAl
0.45Ga
0.55Nからなる窒化物半導体により構成することができる。その場合、障壁層141,143は、Al
yGa
1−yNからなる3元の窒化物半導体とし、アルミニウム組成yが0.56であるAl
0.56Ga
0.44Nからなる窒化物半導体により構成することができる。
図1には、2つの井戸層142と2つの障壁層141,143、具体的には、第2の組成傾斜層132に接して障壁層141を含み、電子ブロック構造20に向かって順に、井戸層142,障壁層143及び井戸層142を含む活性層14を例示している。また、活性層14において、各層の膜厚は、例えば、障壁層141の膜厚:50nm、障壁層143の膜厚:2.5nm、井戸層142の膜厚:4.4nmに設定される。尚、
図1には、最下層に障壁層141を形成してその障壁層141が第2の組成傾斜層132に接するように、最上層に井戸層142を形成してその井戸層142が第1電子ブロック層21に接するように活性層14を設けている。このように構成した活性層14によれば、電子のオーバーフローを抑制すると共に、正孔の活性層14への拡散を促進することができる。
しかしながら、本実施形態では、活性層14において、井戸層と障壁層は目的に応じて種々の配置をとることができ、例えば、最上層に障壁層を形成することもできるし、最下層に井戸層を形成するようにもできる。
また、本実施形態では、活性層14は、井戸層を2以上含む多重量子井戸構造に限定されるものではなく、単一量子井戸構造であってもよく、また、量子井戸構造でなくてもよい。
【0039】
[p側層15]
p側層15は、p側クラッド層151、p側組成傾斜クラッド層152,p側低濃度ドープ層153,p側コンタクト層154を含み、電子ブロック構造層20から離れるにしたがって、段階的又は徐々にバンドギャップが小さくなるように構成される。このように、電子ブロック構造層20に近づくにしたがって、バンドギャップが大きくなるようにすると、p側低濃度ドープ層153のホールがp側組成傾斜クラッド層152を越えやすくなり、活性層にホールを効率良く供給できる。
【0040】
p側クラッド層151
p側クラッド層151は、第2電子ブロック層23よりバンドギャップが小さくなるように構成され、例えば、アルミニウム比が第2電子ブロック層23より小さいAlGaN層からなる。例えば、第2電子ブロック層23を、アルミニウム組成z2が0.78であるAl
0.78Ga
0.22Nからなる窒化物半導体により構成した場合、p側クラッド層151は、例えば、Al
0.63Ga
0.37Nからなる窒化物半導体により構成することができる。
【0041】
p側組成傾斜クラッド層152
p側組成傾斜クラッド層152は、p側クラッド層151から離れるにしたがってバンドギャップが徐々に小さくなるように構成される。例えば、p側クラッド層151を、Al
0.63Ga
0.37Nからなる窒化物半導体により構成し、p側低濃度ドープ層153をGaNで構成する場合、p側組成傾斜クラッド層152を、Al
mAl3Ga
1−mAl3Nにより構成し、Al
0.6Ga
0.4NからGaNまでアルミニウム比mAl3が順次減少するように構成する。これにより、p側低濃度ドープ層153のホールがp側組成傾斜クラッド層152をより越えやすくなり、活性層にホールをより効率良く供給できる。
【0042】
p側低濃度ドープ層153
p側低濃度ドープ層153は、例えば、GaNからなり、電流を横方向に拡散する役割を果たす。
【0043】
p側コンタクト層154
p側コンタクト層154は、例えば、GaNからなり、p側低濃度ドープ層153より高い濃度でp型不純物を含む。p型不純物は、好ましくはマグネシウムである。
【0044】
以下、実施例を用いてより具体的に説明する。
【実施例】
【0045】
実施例1.
直径7.62cm(3インチ)の、c面を上面とするサファイア基板10の上面に、厚さ3.5μmの窒化アルミニウムからなるバッファ層11を形成した。
次に、バッファ層11が形成された基板10を反応容器に設置し、原料ガスとしてアンモニア、トリメチルアルミニウム(TMA)を用いて、厚さ約0.1μmの単結晶の窒化アルミニウムからなるバッファ層を成長させた。
【0046】
引き続きアンモニア、TMA及びトリメチルガリウム(TMG)を用いて、厚さ約27.0nmのAl
0.7Ga
0.3Nからなる層(層a)を形成した。次にTMGの導入を止め、アンモニア及びTMAを用いて、厚さ約10.2nmのAlNからなる層(層b)を形成した。層a及び層bを交互に夫々30回繰り返し形成し、超格子層12を形成した。
【0047】
引き続きアンモニア、TMA及びTMGを用いて、アンドープであり、Al
0.7Ga
0.3NからAl
0.56Ga
0.44Nまで上方向へmAl1が順次減少する第1の組成傾斜層131を500nmの厚さに形成した。
【0048】
引き続きアンモニア、TMA、TMG及びモノシラン用いて、シリコンドープであり、Al
0.56Ga
0.44NからAl
0.45Ga
0.55Nまで上方向へmAl2が順次減少する第2の組成傾斜層132を2500nmの厚さに形成した。
【0049】
第2の組成傾斜層132の形成後、全てのガスを一旦止め、反応容器内を970℃、26.7kPa(200Torr)に調整した。調整後、アンモニア、TMA、トリエチルガリウム(TEG)及びモノシランを用いて、厚さ約50.0nmのシリコンドープのAl
0.56Ga
0.44Nからなる障壁層141を形成した。
【0050】
次にモノシランの導入を止め、アンモニア、TMA及びTEGを用いて、厚さ約4.4nmのAl
0.45Ga
0.55Nからなる井戸層142を形成した。引き続きアンモニア、TMA、TEG及びモノシランを用いて、厚さ約2.5nmのシリコンドープのAl
0.56Ga
0.44Nからなる障壁層143を形成した。次いで、モノシランの導入を止め、アンモニア、TMA及びTEGを用いて、厚さ約4.4nmのAl
0.45Ga
0.55Nからなる井戸層142を形成した。
以上のようにして、活性層14を形成した。
【0051】
活性層形成後、全てのガスを一旦止め、反応容器内を870℃、13.3kPaに調整する。調整後、アンモニア及びTMAを用いて、厚さ約1.0nmのp型不純物(Mg)ドープの窒化アルミニウムからなる第1電子ブロック層21を形成した。
【0052】
次に、アンモニア、TMA、及びTMG(又はTEG)を用いて、厚さ約1.0nmのAl
0.45Ga
0.55Nからなる中間層22を形成した。
【0053】
引き続きアンモニア、TMA、及びTMG(又はTEG)を用いて、厚さ約4.0nmのp型不純物ドープのAl
0.78Ga
0.22Nからなる第2電子ブロック層23を形成した。
【0054】
引き続きアンモニア、TMA、TMG(又はTEG)、及びビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg;マグネソセン)を用いて、厚さ約78.0nmのマグネシウムドープのAl
0.63Ga
0.37Nからなるp側クラッド層151を形成した。
【0055】
引き続きアンモニア、TMA、TMG(又はTEG)、及びCp2Mgを用いて、マグネシウムドープであり、Al
0.6Ga
0.4NからGaNまで上方向へmAl3が順次減少するp側組成傾斜層152を23nmの厚さに形成した。
【0056】
引き続きアンモニア、TMG及びCp2Mgを用いて、厚さ約300.0nmのマグネシウムドープの窒化ガリウムからなるp側低濃度ドープ層153を形成した。
【0057】
続いて、アンモニア、TMG及びCp2Mgを用いて、厚さ約15nmのマグネシウムドープの窒化ガリウムからなるp側コンタクト層154を形成した。
【0058】
[n側層露出]
所定の領域のみエッチングされる様、その所定の領域を除いてマスクを形成した。マスクを形成した後、半導体積層体をドライエッチング装置に入れ、p側層側から約0.8μmエッチングを施し、所定の領域にn側層を露出させた。エッチング後ドライエッチング装置から半導体積層体を取り出し、マスクを除去した。
【0059】
[n電極形成]
露出したn側層の電極形成領域のみスパッタされるようマスクを形成した。続いて、半導体積層体をスパッタ装置に入れ、例えばチタンとアルミニウムの合金をスパッタした。その後、マスクを除去することにより、露出したn側層の上面にn電極が形成された。この時点では一枚のウェハに複数の半導体積層体が形成され、個々の半導体積層体は同一のn側層を共有している状態である。
【0060】
[p電極形成]
p側コンタクト層154の上面のみスパッタされるようマスクを形成した。続いて、半導体積層体をスパッタ装置に入れ、例えばITOをスパッタした。その後、マスクを除去することにより、p側コンタクト層154の上面にp電極が形成された。
【0061】
[個片化]
以上の工程を経た後、ウェハを個々の素子ごとに分割した。
【0062】
以上のようにして、波長280nmの深紫外を発光するように実施例1の窒化物半導体発光素子を作製することができた。
【0063】
[寿命試験]
上記実施例1と同じ条件で半導体積層体を形成した個片化前のウェハと、比較例として中間層22を形成せずに第1電子ブロック層21上に第2電子ブロック層22を形成した以外は実施例1と同じ条件のウェハとについて、それぞれ常温下で150mAを印加して継続使用し、1分間隔で光出力を測定(20mA)する寿命試験を行った。この結果を
図6に示す。なお、
図6は、初期の光出力を100%としたときの経時変化を示している。
【0064】
実施例1の窒化物半導体発光素子は、800分経過後も85%を維持しているのに対して、比較例の窒化物半導体発光素子は60%を下回っており、実施例1の窒化物半導体発光素子の寿命が改善されているのが分かる。
【0065】
実施例2.
実施例2として、第1電子ブロック層21の厚さを変更した以外は、実施例1の窒化物半導体発光素子と同様にして6個の窒化物半導体発光素子(サンプルNo.1〜6)を作製して、一定時間経過後の発光出力の維持率を評価した。
維持率は、加速試験により評価した。具体的には、各発光素子につき、加速試験前と150mAにて700分通電した加速試験後にそれぞれ20mAにおける光出力を測定し、試験前後における光出力の維持率を算出したものである。
その結果を、
図7に示す。
ここで、各窒化物半導体発光素子における第1電子ブロック層21の厚さは、以下の表1に示すようにした。
【0066】
表1
【0067】
以上の
図7に示す結果から、AlNからなる第1電子ブロック層21の厚さが、0.9〜2.0nm範囲の厚さであるときに高い電子ブロック効果が得られ、0.9〜1.3nmの範囲の厚さであるときにより高い電子ブロック効果が得られることが確認された。
【0068】
第1電子ブロック層21(AlN層)が0.5nm程度まで薄くなると、電子ブロック効果の低下に起因すると思われる維持率の低下が見られた。第1電子ブロック層21(AlN層)が2.3nm程度まで厚くなると、維持率の低下が見られた。これは、井戸層のバンドギャップに生じる歪みが大きくなるため電界が集中しやすく、すなわち、バンドギャップが小さくなるので、発光再結合のほとんどがこのバンドギャップの小さな部分で起こる結果、電界が集中して、素子寿命が低下したものと考えられる。