特許第6590256号(P6590256)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6590256
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】沈降槽の操業方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/24 20060101AFI20191007BHJP
   B01D 21/18 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   B01D21/24 J
   B01D21/18 K
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-102338(P2016-102338)
(22)【出願日】2016年5月23日
(65)【公開番号】特開2017-209601(P2017-209601A)
(43)【公開日】2017年11月30日
【審査請求日】2018年10月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】田邉 秋宏
(72)【発明者】
【氏名】佐々井 茂
(72)【発明者】
【氏名】鶴見 泰輔
【審査官】 山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭50−041161(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0343331(US,A1)
【文献】 特開平10−216468(JP,A)
【文献】 特開昭54−073451(JP,A)
【文献】 実開昭61−118604(JP,U)
【文献】 特表2017−528594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 21/00−21/34
B01D 53/34−53/85
B01D 53/92,53/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯留したスラリー中の銅製錬の排ガスから生じた硫酸鉛を含有する固体分を集める傾斜面となる逆錐形内面を有して前記スラリーを沈降濃縮する沈降槽を含み、
前記沈降槽の下端部にあって、前記固体分を濃縮して抜き出す底抜き部と、
一端に吐出口を有し、前記吐出口から貯留したスラリー中に気体を吹き入れる吹き込み部と、
前記貯留したスラリーの液面から放出される気体を吸引する気体回収部とを備え、
前記吹き込み部が、少なくとも前記沈降槽内に設けられ、
前記吐出口が、前記沈降槽内の下部に位置している沈降槽システムを用い、前記傾斜面に堆積した銅製錬の排ガスから生じた硫酸鉛を含有する前記固体分を、前記気体を吹きつけて底抜き部内へ移動させることを特徴とする沈降槽の操業方法。
【請求項2】
前記沈降槽システムの吹き込み部が、前記沈降槽の傾斜面に沿って延在していることを特徴とする請求項1に記載の沈降槽の操業方法。
【請求項3】
前記沈降槽の前記吐出口が、前記吹き込み部の下部にあることを特徴とする請求項1又は2に記載の沈降槽の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
固体粒子を含む懸濁液の固液分離を固体粒子と液体の比重の差を利用して行う、内部にスラリーの掻き寄せ機を有さない逆円錐型の沈降槽において、沈降槽へ導入した時よりも固体の質量割合を増加させたスラリーを抜き出すことを目的とした、沈降槽の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、図1に示す固液分離を固体粒子と液体の比重の差を利用してスラリーの固液分離を行う沈降槽10において、液体よりも比重の大きい固体粒子は沈降槽底部10aに沈降するため、沈降槽側面から底部にかけて固体分が堆積していき、底抜き部13からポンプ等(図示せず)によって回収される。一方、オーバーフロー樋bからは、固体の質量割合の減少した清澄液Lが回収される。このようにして、沈降槽10に導入されたスラリーsは固液分離されている。
【0003】
さらに側面から底部にかけて堆積した固体分の濃縮された濃縮スラリーsは、底部から順に、底抜き部13からポンプ等(図示せず)により排出されるが、一部のスラリーは、さらに含む固体の質量比を増加させ、その固体分を側面に堆積させた状態となり、その堆積量は沈降槽の使用と共に図2で示すように増加していく。
【0004】
図2は、図1に示す一般的な沈降槽10における、内部のスラリー堆積状況の概略を示す模式図である。
側面への固体質量比が増加したスラリーsの堆積量が増加していくにつれ、底抜き部13への流路は狭くなり、ポンプ等(図示せず)による固体分の排出量が減少することで、最終的に底抜き部13の閉塞に至る。
このように従来の技術には、側面への固体分の堆積量増加に対しての抑制措置は無く、沈降槽の操業における課題となっていた。
【0005】
なお図1、2において、10は従来の沈降槽、10aは沈降槽底部、13は底抜き部、14はスラリー投入部、bはオーバーフロー樋、Lは固体の質量割合の減少した清澄液、sはスラリー、sは固体分の濃縮された濃縮スラリー、sは沈降槽の側面に堆積した固体質量比が増加したスラリーである。
【0006】
このような沈降槽10において、底抜き部13が閉塞した場合、底抜き部13から水を逆流させる等の方法で閉塞を解消させることになるが、この解消方法は一時的に沈降槽底部からのスラリー抜出と沈降槽への工程液流入を止め、沈降槽の操業を停止させる必要があるという問題点があった。
また、沈降槽側面への固体質量比が増加したスラリーsの堆積量が増加すると、沈降槽内部の液体の滞留が可能な容積(以下、有効容積)が減少するため、沈降槽10に導入された工程液の滞留時間が減少することとなる。このことによる沈降槽の固液分離能力低下も、問題となっていた。
【0007】
たとえば、銅製錬プロセスにおいて、排ガス中には鉛(酸化鉛)やその他の金属元素が粒子として浮遊しているが、排ガスに水や硫酸を添加することによってこれら金属元素を硫酸塩として捕集している。その硫酸塩の多くは溶解性のものとして知られているが、硫酸鉛は不溶性であるため析出する。そこで、鉛の選択的な分離を期待して、排ガスを処理したスラリーを沈降槽で処理している。
【0008】
ところで、析出物は形状がさまざまにばらつくことが知られており、球形のものは少ない。このため、横方向へは移動しにくく、沈降槽の斜面に堆積しやすいという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−073712号公報
【特許文献2】特開平07−080210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来技術では抑制できなかった、沈降槽側面への固体分の堆積量増加を抑制する事を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、沈降槽の側面1箇所以上から気体を吹き込み、吹き込まれた気体の撹拌力によって、沈降槽側面に固体分が堆積することを抑制するため、沈降槽側面への固体分の堆積量増加が抑制されることとなる。
【0012】
その本発明の第1の発明は、貯留したスラリー中の銅製錬の排ガスから生じた硫酸鉛を含有する固体分を集める傾斜面となる逆錐形内面を有してそのスラリーを沈降濃縮する沈降槽を含み、その沈降槽の下端部にあって、集められた固体分を濃縮して抜き出す底抜き部と、一端に吐出口を有し、その吐出口から貯留したスラリー中に気体を吹き入れる吹き込み部と、その貯留したスラリーの液面から放出される気体を吸引する気体回収部とを備え、その吹き込み部が、少なくとも前記沈降槽内に設けられ、吐出口が沈降槽内の下部に位置している沈降槽システムを用い、前記傾斜面に堆積した銅製錬の排ガスから生じた硫酸鉛を含有する固体分を、気体を吹きつけて底抜き部内へ移動させることを特徴とする沈降槽の操業方法である。
【0013】
本発明の第2の発明は、第1の発明における沈降槽システムの吹き込み部が、沈降槽の傾斜面に沿って延在していることを特徴とする沈降槽の操業方法である。
【0014】
本発明の第3の発明は、第1及び第2の発明における沈降槽の吐出口が、吹き込み部の下部にあることを特徴とする沈降槽の操業方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明で沈降槽の操業を行った場合、沈降槽側面へのスラリーの固体分堆積を極めて抑制するため、底部の閉塞や、その閉塞状態から堆積物が一気に崩れて底抜き部に殺到し、底抜き部以降の装置の損傷の発生が減少または防止されることとなり、これにより、沈降槽底部の閉塞とその解消に伴う操業停止が不要となり、沈降槽の操業停止時間削減が可能となる。
また、沈降槽側面のスラリーの固体分堆積量が減少することで、沈降槽の有効容積が確保されることとなり、沈降槽の固液分離能力の維持が可能となるため、本発明の工業的価値は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】スラリーの固液分離を固体粒子と液体の比重の差を利用して行う一般的な沈降槽システムの構造を示す概略断面模式図である。
図2図1で示した一般的な沈降槽システムにおける内部のスラリー堆積状況の概略を示す模式図である。
図3】本発明に係る沈降槽システムを説明する構造模式図で、(a)は逆四角錐形沈降槽Aの平面模式図、(b)は(a)におけるa−a’線断面模式図で、(c)は他の例で逆円錐形沈降槽Bの平面模式図であり、気体吹き込みを実施するための吹き込み部の設置位置とその指標を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の、スラリーの固液分離を固体粒子と液体の比重の差を利用して行う沈降槽システムにおける、沈降槽の側面への固体分の堆積量増加を抑制する運転方法について、図3を用いて説明する。図3は、本発明に係る沈降槽システムを説明する構造模式図で、(a)は沈降槽が逆四角錐形状である沈降槽システムAの平面模式図、(b)は断面模式図、(c)は沈降槽が逆円錐形状である沈降槽システムBの平面模式図で、気体吹き込みを実施するための吹き込み部の設置位置とその指標を示す図である。図3においてAは本発明に係る沈降槽システム、Bは本発明に係る他の沈降槽システム、1は沈降槽、2は吹き込み部、2aは吹き込み部吐出口、3は底抜き部、3aは底抜き口、4はスラリー投入部、Pは気体の吹き込み圧力、Sgは沈降槽内面の傾斜面である。
なお、気体の吹き込み圧力Pに対向する吹き込み部吐出口のスラリーから受けるヘッド圧がPである。さらに、沈降槽内面は、図3に示す逆四角錐形内面や、逆多角錐形内面、或いは逆円錐内面などでも良い。
【0018】
図3に示すように吹き込み部2を、沈降槽1の沈降槽内面の傾斜面Sgに沿って1箇所以上(図3では、各傾斜面の中央に対向して2カ所設置)に配置する。なお、吹き込み部の配置位置は、符号2’で示す傾斜面の隅側に設けても良く、その配置状況は、沈降槽の堆積状態により、配置位置、配置数を適宜決めて行われる。
さらに、各吹き込み部2の設置位置は、図3に示すように底抜き部3の入口(底抜き口3a)、すなわち沈降槽1の最底部の位置を基準として、沈降槽1の上部液面Lの高さをH[m]、吹き込み部2の吐出口2aの高さをh[m]とすると、h/Hの値は0を超え、1未満となるが、スラリー中の固体分の堆積を効果的に抑制するため、0.5未満となる位置が好ましい。また、吹き込み部2の吐出口2aの高さhは、沈降槽の最底部よりも上方に設けられることが望ましい。特に、底抜き口に外接する球領域よりも上方に設けることがよい。このようにすることによって、底抜き部入口周辺を吹き込み部2が塞ぐ心配がなく、円滑な抜出ができる。
【0019】
気体の吹き込み圧力Pは、沈降槽内部のスラリーから受けるヘッド圧Pを上回り、沈降槽内部への気体吹き込みが可能な程度に高い圧力であればよい。
即ち、スラリーの平均密度をM[g/cm]とおくと、スラリーが均一な場合、ヘッド圧Pは(H−h)×M×0.01となる。通常、スラリーは溶質や懸濁質を含んで水より重いので、ヘッド圧Pは(H−h)×0.01以上である。
【0020】
ところで、沈降槽1の側壁や底部には局所的に固体分が密集していることが多く、スラリーが均一な場合と比較してヘッド圧が10倍近くなることがあるので、沈降槽1の底部に設けられた底抜き部3からの固体分の回収に支障をきたさないようにするため、気体の吹き込み圧力Pはヘッド圧Pの10倍までは高めることが望ましい。
言い換えると、気体の吹き込み圧力Pは(H−h)×0.01〜(H−h)×0.1[MPa]、または(H−h)×M×0.01〜(H−h)×M×0.1[MPa]が望ましい。
【0021】
さらに吹き込み部吐出口2aの周囲が固体分で閉塞しないよう、気体の吐出は常時行うのがよい。一方、吹き込み部内で気体を搬送するポンプやコンプレッサー(図示せず)の供給圧が時間的に変動する場合は、逆流を防ぐために吹き込み部2からは間欠的に吐出するのがよい。またポンプ(図示せず)と吐出口2aの間には、圧力計(図示せず)を備える。
【0022】
吹き込み部吐出口2aの周囲が固体分で閉塞した場合に、その閉塞を気体で取り除くことを想定すると、気体の吹き込み圧力は高い方がよい。そこで、気体の吹き込み圧力を高めるために、閉止弁(図示せず)を用いるなどによって一時的に気体の吐出を停止することができる。
これまで述べたように、吹き込み部吐出口2aから気体を吹き込むことで、鉛以外の金属元素を含有する硫酸塩は、上澄みとして回収でき、その後、硫化水素や水硫化ナトリウムなどの硫化剤を添加して硫化澱物として分離することができる。
【0023】
なお、吹き込んだ気体は液面へ浮上するが、沈降槽の上方にフードや吸引ダクト(図示せず)を設けて気体を回収することができる。これによって、スラリーが有害ガスや有価ガスを含有していてもそれを回収することができ、吹き込む気体として有価なものを用いることもできる。
【0024】
吹き込み部2の吐出口2aは、吹き込み部下端部に設けることが望ましい。これによって、吐出口2aから吹き込み部2に侵入する固体分を最小限に抑えることができる。吐出口2aは複数個設けることができる。吐出口の位置は、堆積物の分布状況にあわせて設けることができる。たとえば、沈降槽1の下に行くほど堆積物が多くなることが想定されるので、吹き込み部2に開ける吐出口2aは、沈降槽下部に重点的に設ける。
【0025】
吹き込み部2は、液面Lの上方から挿入することができ、沈降槽1の側面の傾斜面Sgに沿って挿入すると、固定がやりやすいうえ、挿入動作によって堆積物を押しのけることもできる。
さらに、吹き込み部吐出口2aの位置は、その高さを調節できることが望ましい。高さの調節方法としては、吹き込み部2を固定する位置を調節する方法、吹き込み部2の先端部を繰り出し機構(いわゆる望遠鏡の接眼部や伸縮ストロー)にする方法、蛇腹構造にする方法などがある。
【0026】
以上、説明したように本発明を用いれば、沈降槽の底面または傾斜面のスラリーを横方向へ移動させる掻き寄せ機がなくとも、また掻き寄せ機を駆動するモーターがなくとも沈降槽によって固形分を定常的に分離することができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例を示し、本発明を説明する。
試験結果を表1に纏めて示す。
【実施例1】
【0028】
図3(b)、(c)に示す、沈降槽システムを用い、逆四角錐形内面状のH=6.6[m]で、逆錐形の沈降槽内面の各傾斜面に沿って、h=1.6[m]の位置に吐出口2aが設置されるように吹き込み部2を4か所設置し、0.3MPaの圧力で気体(具体的には、空気)吹き込みを実施しながら、操業を行った。
操業から2年後に、沈降槽内部の固体分堆積量(質量)[wet-t]を測定し、その間の底抜き部の閉塞発生数[回]を表1に示す。なお、吹き込んだ気体は液面へ浮上するが、沈降槽の上方に回収部としてフード(図示せず)を設けて回収した。
【0029】
(比較例1)
実施例1で用いた沈降槽システムと同じものを使用したが、気体(具体的には、空気)吹き込みを実施せずに操業を行った。
操業開始から2年後の沈降槽内部の固体分堆積量(質量)[wet-t]と、その2年間の底抜き部の閉塞発生数[回]を表1に纏めて示す。
【0030】
【表1】
【0031】
表1から明らかなように、沈降槽に固体分が溜まるのを抑制し、且つ沈降槽底部の底抜き部3の閉塞をも抑制していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
上記したように、スラリーの固液分離を行う沈降槽において、本発明の操業方法によって沈降槽側面への固体分堆積量増加を抑制することは、容易に実施できるうえ、沈降槽底部底抜き部閉塞の予防と沈降槽の固液分離能力の維持を可能とするため、沈降槽の操業方法に適している。
【符号の説明】
【0033】
A 本発明に係る沈降槽システム
B 本発明に係る他の沈降槽システム
1 沈降槽
2 吹き込み部
2a 吹き込み部吐出口
3、13 底抜き部
3a 底抜き口
4、14 スラリー投入部
10 従来の沈降槽
10a 沈降槽底部
オーバーフロー樋
Sg 沈降槽内面の傾斜面
固体の質量割合の減少した清澄液
沈降槽内スラリーの液面(清澄液Lの液面に相当)
s スラリー
固体分の濃縮された濃縮スラリー
沈降槽の側面に堆積した固体質量比が増加したスラリー
気体の吹き込み圧力
図1
図2
図3