【実施例】
【0067】
≪実施例1≫
図7に示す配置で、純マグネシウム及び低炭素鋼(SPCC)の板材をAZ61マグネシウム合金の薄板を介して突き合わせ、当該突き合わせ面に摩擦攪拌接合用ツールを挿入して摩擦攪拌接合(線接合)を施した。なお、純マグネシウムは後退側、低炭素鋼(SPCC)は前進側に配置されている。純マグネシウム、低炭素鋼(SPCC)及びAZ61マグネシウム合金の組成を表1に示す。純マグネシウム板材及び低炭素鋼(SPCC)板材のサイズは、長さ300mm×幅75mm×厚さ2mmとし、AZ61マグネシウム合金薄板のサイズは、長さ300mm×幅1.0mm×厚さ2mmとした。
【0068】
【表1】
【0069】
ここで、摩擦攪拌接合用ツールはプローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に0.5mm挿入される位置に配置し、摩擦攪拌接合用ツールの回転速度及び移動速度は、それぞれ1500rpm及び100mm/minとした。なお、摩擦攪拌接合は摩擦攪拌接合用ツールの位置制御方式で行い、摩擦攪拌接合用ツールのプローブ部底面が被接合材裏面と略同一となるように設定した。
【0070】
摩擦攪拌接合用ツールには、
図8に示す超硬合金製のもの(ショルダ径:12mm,プローブ径:4mm,プローブ長:1.9mm)を用い、実施継手1を得た。なお、摩擦攪拌接合用ツールのプローブ部底面は完全なフラット形状になっており、プローブ部の側面に螺子やテーパー等は形成されていない。
【0071】
≪実施例2≫
AZ61マグネシウム合金薄板の幅を2.0mmとした以外は実施例1と同様にして、実施継手2を得た。
【0072】
≪実施例3≫
AZ61マグネシウム合金薄板の幅を3.0mmとした以外は実施例1と同様にして、実施継手3を得た。
【0073】
≪実施例4≫
AZ61マグネシウム合金薄板を純アルミニウム(A1050)薄板とし、幅を0.05mmとした以外は実施例1と同様にして、実施継手4を得た。
【0074】
≪実施例5≫
純アルミニウム(A1050)薄板の幅を0.10mmとした以外は実施例4と同様にして、実施継手5を得た。
【0075】
≪実施例6≫
純アルミニウム(A1050)薄板の幅を0.15mmとした以外は実施例4と同様にして、実施継手6を得た。
【0076】
≪実施例7≫
AZ61マグネシウム合金薄板の代替として、幅0.20mmのギャップ(被接合材の突き合わせ面に幅0.20mmのスペーサーを挿入し、ギャップを形成させた)に純アルミニウム(A1050)粉末を充填した以外は実施例1と同様にして、実施継手7を得た。
【0077】
≪実施例8≫
純アルミニウム(A1050)粉末を充填するギャップの幅を0.25mmとした以外は実施例7と同様にして、実施継手8を得た。
【0078】
≪実施例9≫
純アルミニウム(A1050)粉末を充填するギャップの幅を0.30mmとした以外は実施例7と同様にして、実施継手9を得た。
【0079】
≪実施例10≫
更に、AZ61マグネシウム合金薄板と純マグネシウム板材との界面に厚さ0.01mmの銀箔を配置した以外は実施例2と同様にして、実施継手10を得た。
【0080】
≪比較例1≫
被接合材の突き合わせ面にAZ61マグネシウム合金の薄板を挿入しなかったこと以外は 実施例1と同様にして、比較継手1を得た。
【0081】
≪比較例2≫
プローブ部側面が突き合わせ面から純マグネシウム側に0.1mmとなるように摩擦攪拌接合用ツールを配置した(プローブ部は低炭素鋼(SPCC)板側に挿入されない)こと以外は比較例1と同様にして、比較継手2を得た。
【0082】
≪比較例3≫
プローブ部側面が突き合わせ面と略同一になるように摩擦攪拌接合用ツールを配置したこと以外は比較例1と同様にして、比較継手3を得た。
【0083】
≪比較例4≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に0.1mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例1と同様にして、比較継手4を得た。
【0084】
≪比較例5≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に0.25mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例1と同様にして、比較継手5を得た。
【0085】
≪比較例6≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に1.0mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例1と同様にして、比較継手6を得た。
【0086】
≪比較例7≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に1.4mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例1と同様にして、比較継手7を得た。
【0087】
≪比較例8≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に1.7mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例1と同様にして、比較継手8を得た。
【0088】
≪比較例9≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に2.0mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例1と同様にして、比較継手9を得た。
【0089】
≪比較例10≫
被接合材の突き合わせ面にAZ61マグネシウム合金の薄板を挿入せず、被接合材として純マグネシウム板の代わりにAZ31マグネシウム合金板を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較継手10を得た。AZ31マグネシウム合金の組成を表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
≪比較例11≫
被接合材の突き合わせ面にAZ61マグネシウム合金の薄板を挿入せず、被接合材として純マグネシウム板の代わりにAZ61マグネシウム合金板を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較継手11を得た。
【0092】
≪比較例12≫
被接合材の突き合わせ面にAZ61マグネシウム合金の薄板を挿入せず、被接合材として純マグネシウム板の代わりにAZ91マグネシウム合金板を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較継手12を得た。
【0093】
≪比較例13≫
プローブ部側面が突き合わせ面からAZ31純マグネシウム合金側に0.1mmとなるように摩擦攪拌接合用ツールを配置した(プローブ部は低炭素鋼(SPCC)板側に挿入されない)こと以外は比較例10と同様にして、比較継手13を得た。
【0094】
≪比較例14≫
プローブ部側面が突き合わせ面と略同一になるように摩擦攪拌接合用ツールを配置したこと以外は比較例10と同様にして、比較継手14を得た。
【0095】
≪比較例15≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に0.1mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例10と同様にして、比較継手15を得た。
【0096】
≪比較例16≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に0.25mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例10と同様にして、比較継手16を得た。
【0097】
≪比較例17≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に1.0mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例10と同様にして、比較継手17を得た。
【0098】
≪比較例18≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に1.4mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例10と同様にして、比較継手18を得た。
【0099】
≪比較例19≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に1.7mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例10と同様にして、比較継手19を得た。
【0100】
≪比較例20≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に2.0mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例10と同様にして、比較継手20を得た。
【0101】
[引張試験]
上記実施例及び比較例で得られた継手を用いて、
図9に示す試験片を作製し、引張強度を測定した。試験片の切り出しには放電加工機を用い、被接合材の突き合わせ面が試験片の中央に位置するように切り出した。試験片の標点距離及び幅は、それぞれ60mm及び8mmとし、接合部表面のバリ等を排除するため、試験片の厚さが1.5mmとなるまで研磨した。
【0102】
引張試験機(SHIMADZU Autograph AGS−X 10kN)を用い、クロスヘッド速度3.6mm/minで継手の引張強度を測定した。実施継手1〜3及び比較継手1の引張強度を
図10に示す。接合界面に挿入するAZ61マグネシウム合金薄板の厚さが1mm及び2mmの場合(実施継手1及び2)、当該薄板を挿入しない場合(比較継手1)よりも大幅に高い引張強度が得られている。これは、AZ61マグネシウム合金薄板に含まれるアルミニウムが接合界面に供給され、鉄とアルミニウムとを主成分とする金属間化合物層が形成されたためである。AZ61マグネシウム合金薄板の厚さが3mmの場合はAZ61マグネシウム合金薄板が十分に攪拌(分断)されず、比較的大きな破片が攪拌部中に残存したため、当該破片が破壊の起点となって引張強度が低下したと考えられる。なお、摩擦攪拌条件(ツールの回転数及び移動速度等)を最適化することにより、上記破片の残存を抑制することができる。
【0103】
実施継手4〜6及び比較継手1の引張強度を
図11に示す。接合界面に挿入する純アルミニウム(A1050)薄板の厚さが0.05〜0.15mmの場合(実施継手4〜6)、当該薄板を挿入しない場合(比較継手1)よりも高い引張強度が得られている。これは、純アルミニウム(A1050)薄板のアルミニウムが接合界面に供給され、鉄とアルミニウムとを主成分とする金属間化合物層が形成されたためである。
【0104】
実施継手7〜9及び比較継手1の引張強度を
図12に示す。純アルミニウム(A1050)粉末を充填するギャップの幅を0.20mm及び0.25mmとした場合(実施継手7及び8)、当該粉末を用いない場合(比較継手1)よりも高い引張強度が得られている。これは、純アルミニウム(A1050)粉末のアルミニウムが接合界面に供給され、鉄とアルミニウムとを主成分とする金属間化合物が形成されたためである。
【0105】
比較継手1、10〜12の引張強度及び継手効率を
図13に示す。引張強度及び継手効率は、被接合材(マグネシウム材)に含まれるアルミニウム濃度の増加に伴って高くなっている。これは、被接合材(マグネシウム材)に含まれるアルミニウムによって接合界面に金属間化合物が形成されることに加え、アルミニウム濃度が高い場合はアルミニウム欠乏層の影響が比較的小さくなることが原因である。
【0106】
比較継手1〜9の引張強度を
図14に示す。低炭素鋼(SPCC)板へのプローブ挿入量が0.1〜1.4mmの場合(比較継手1、4〜7)、比較的高い継手強度が得られている。これに対し、プローブが低炭素鋼(SPCC)板に挿入されていない場合(比較継手2及び3)においては、強度が殆ど得られていない。これは、マグネシウム板の接合面において、新生面が形成されないことが主原因であると思われる。また、低炭素鋼(SPCC)板へのプローブ挿入量が大き過ぎる場合(比較継手8及び9)、引張強度が低下している。低炭素鋼(SPCC)板へのプローブ挿入量が大き過ぎる場合、プローブによるマグネシウム板の切削量が大きくなり、接合界面近傍に分散した切削片によって強度が低下したものと考えられる。
【0107】
比較継手10,13〜20の引張強度を
図15に示す。低炭素鋼(SPCC)板へのプローブ挿入量が0.1〜1.4mmの場合(比較継手10、13〜18)、比較的高い継手強度が得られている。これに対し、プローブが低炭素鋼(SPCC)板に挿入されていない場合(比較継手13及び14)においては、強度が殆ど得られていない。これは、AZ31マグネシウム合金板の接合面において、新生面が形成されないことが主原因であると思われる。また、低炭素鋼(SPCC)板へのプローブ挿入量が大き過ぎる場合(比較継手19及び20)、引張強度が低下している。低炭素鋼(SPCC)板へのプローブ挿入量が大き過ぎる場合、プローブによるAZ31マグネシウム合金板の切削量が大きくなり、接合界面近傍に分散した切削片によって強度が低下したものと考えられる。
【0108】
実施継手2、実施継手10及び比較継手1の引張強度を
図16に示す。
図16はインサート材を用いない場合、AZ61マグネシウム合金薄板のみを用いる場合、AZ61マグネシウム合金薄板及び銀箔を用いる場合の継手強度比較であるが、AZ61マグネシウム合金薄板を用いることで継手強度が飛躍的に上昇し、更に、銀箔を用いることで、継手強度が母材(純マグネシウム)と同等程度にまで達していることが分かる。
【0109】
[接合部の断面観察]
接合部における欠陥形成の有無及び接合界面の状況等を確認するため、接合部の断面を光学顕微鏡、SEM−EDS(JEOL JSM−7001FA)及びSTEM−EDS(JEOL JEM−2100F)によって詳細に観察した。なお、SEM観察の条件は加速電圧:15kV及び照射電流:10Aとし、STEM観察の加速電圧は200kVとした。
【0110】
SEM観察用の断面試料作製には、アルゴンイオンビームと遮蔽板を用いて試料断面を研磨するクロスセクションポリッシャー(JEOL IB−09020CP)を使用した。なお、クロスセクションポリッシャーの加速電圧は5.5kVとした。また、STEM観察用の試料作製には、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)を用い、厚さ約100nmの観察試料を作製した。
【0111】
比較継手1の接合部断面の光学顕微鏡写真を
図17に示す。接合部に欠陥は形成されておらず、マグネシウム板と低炭素鋼(SPCC)板との接合界面が形成されている。なお、その他の実施継手及び比較継手においても明瞭な欠陥の形成は観察されなかった。比較継手1、10及び11の接合界面近傍のSEM−EDS元素マッピングの結果を、それぞれ
図18、
図19及び
図20に示す。比較継手1では被接合材であるマグネシウム板にアルミニウムが含有されていないことから、接合界面に明瞭な金属間化合物層が観察されない。これに対し、比較継手10及び11の接合界面には、アルミニウムと鉄を主成分とする金属間化合物層が形成されている。また、より高倍率のSEM−EDS元素マッピングより、金属間化合物層近傍のアルミニウム濃度が低下していることが分かる(
図21及び
図22)。
【0112】
比較継手10及び11の接合界面近傍のSTEM−EDS元素マッピングの結果を、
図23及び
図24にそれぞれ示す。接合界面に形成されている金属間化合物層の近傍(マグネシウム合金側)のアルミニウム濃度は顕著に減少しており、母材のアルミニウム濃度と比較して、1原子%以上の減少が認められる領域(アルミニウム欠乏層)が形成している。なお、金属間化合物層の厚さは極めて薄く、比較継手10及び11共に1μm以下である。
【0113】
引張試験後の比較継手10の破断面に関し、AZ31マグネシウム合金板側及び低炭素鋼(SPCC)板側のSEM−EDS元素マッピングの結果を、
図25及び
図26にそれぞれ示す。低炭素鋼(SPCC)板側の破断面にはマグネシウム(Mg)が検出され、AZ31マグネシウム合金板側の破断面には鉄(Fe)が殆ど検出されないことから、AZ31マグネシウム合金板側のアルミニウム欠乏層で破断したものと考えられる。
【0114】
実施継手1、4及び8の接合部断面のSEM−EDS元素マッピングの結果を、
図27、
図28及び
図29にそれぞれ示す。全ての接合部において欠陥は認められず、良好な継手が得られていることが分かる。また、破断位置を点線で示しているが、破断位置が接合界面の金属間化合物層から離れている。これは、突き合わせ面に挿入した金属層からのアルミニウム供給により、アルミニウム欠乏層の形成が抑制された結果である。
【0115】
実施継手1の接合部断面に関し、高倍率のSEM−EDS元素マッピングの結果を
図30に示す。酸化物が線状に並んだ領域が観察されることから、当該酸化物を起点とする破断が生じたものと考えられる。
【0116】
実施継手12の接合断面に関し、高倍率のSEM−EDS元素マッピングの結果を
図31に示す(マッピングの領域は実施継手1に関して酸化物が観察された領域に対応している)。
図31においては酸素濃度が高い領域は認められず、銀箔に起因する溶融により、酸化物の排出が達成されていることが分かる。なお、その他の領域においても同様の元素マッピングを行ったが、酸化物が存在する領域は認められなかった。
【0117】
[接合部の破断位置観察]
本発明を用いることによる破断位置の変化を明らかにするため、引張試験片の破断位置を比較した。
図32に、破断後の試験片(実施継手2,実施継手12及び比較継手1)の外観写真を示す。
【0118】
接合にインサート材を用いていない比較継手1に関しては、低炭素鋼(SPCC)板と純マグネシウム板との接合界面で破断しており、これは当該接合界面の強度が不十分であることを意味している。これに対し、インサート材としてAZ61マグネシウム合金薄板を用いた実施継手2の破断位置は、攪拌部外縁(酸化物が存在する位置)にシフトしている。更に、銀箔を用いた実施継手12では、破断位置が純マグネシウム板に完全にシフトしている。これらの結果は、本発明の摩擦攪拌接合方法を用いることで十分な接合界面強度を実現することができ、特に、被接合材及び/又はインサート材であるマグネシウム合金材の構成元素と共晶反応する第二金属層を用いることで、被接合材の母材強度並みの継手強度が実現可能であることを示している。