特許第6590334号(P6590334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6590334
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合方法及び摩擦攪拌接合部材
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20191007BHJP
   B23K 20/16 20060101ALI20191007BHJP
   B23K 103/18 20060101ALN20191007BHJP
【FI】
   B23K20/12 310
   B23K20/12 360
   B23K20/16
   B23K103:18
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-63994(P2015-63994)
(22)【出願日】2015年3月26日
(65)【公開番号】特開2016-182628(P2016-182628A)
(43)【公開日】2016年10月20日
【審査請求日】2018年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】712004783
【氏名又は名称】株式会社総合車両製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100129632
【弁理士】
【氏名又は名称】仲 晃一
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】森貞 好昭
(72)【発明者】
【氏名】橋本 健司
(72)【発明者】
【氏名】石川 武
(72)【発明者】
【氏名】河田 直樹
【審査官】 竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−82692(JP,A)
【文献】 特開2004−255420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/00 − 20/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム又はマグネシウム合金材と鉄系材との摩擦攪拌接合方法であって、
前記マグネシウム又はマグネシウム合金材と前記鉄系材とを、前記マグネシウム又はマグネシウム合金材よりも高いアルミニウム含有量を有する金属層を介して接触させ、
摩擦攪拌接合用ツールのプローブ部の側面又は底面を、前記金属層と前記鉄系材の接触面に対して前記鉄系材側に0.05mm以上挿入させ、
前記マグネシウム又はマグネシウム合金材と前記鉄系材とを前記金属層を介して突合せ、
前記摩擦攪拌接合用ツールの回転方向と進行方向とが同一になる位置に、前記鉄系材を配置し、
前記金属層の幅を、0.05mm〜前記プローブの略直径とすること、
を特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【請求項2】
前記金属層をマグネシウム合金層とすること、
を特徴とする請求項1に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項3】
前記プローブ部の側面を前記金属層と前記鉄系材の接触面に対して前記鉄系材側に0.1〜1.5mm挿入させること、
を特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項4】
前記マグネシウム合金材をAZ31マグネシウム合金材とし、
前記金属層をAZ61マグネシウム合金層又はAZ91マグネシウム合金層とすること、
を特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項5】
前記金属層と前記マグネシウム合金材との接触界面に、前記金属層及び/又は前記マグネシウム合金材の構成元素と共晶反応する第二金属層を形成させること、
を特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項6】
前記第二金属層が銀又は亜鉛を含むこと、
を特徴とする請求項に記載の摩擦攪拌接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマグネシウム又はマグネシウム合金材と鉄系材との異材摩擦攪拌接合方法及びそれにより得られる異材摩擦攪拌接合部材に関する。
【背景技術】
【0002】
燃費の向上及び環境負荷低減の観点等から、各種輸送用機器の軽量化が切望されている。ここで、マグネシウム材は構造部材として用いることができる金属中で最も比重が小さく、汎用されている鉄系材の一部分をマグネシウム材で代替することができれば、効果的に構造部材の軽量化を達成することができる。
【0003】
しかしながら、マグネシウムと鉄は互いに固溶しない系(二相分離型)であり、極めて接合が困難である。これに対し、マグネシウム材と鉄系材との接合に関しては、これまでにも種々検討されており、主として共晶溶融を利用した接合方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1(特開2009−269071号公報)では、鋼材として亜鉛めっきを施した亜鉛めっき鋼板を、マグネシウム合金材としてAl含有マグネシウム合金材を使用し、接合に際して、MgとZnの共晶溶融を生じさせて酸化皮膜や不純物などを接合界面から排出すると共に、Al−Mg系とFe−Al系の金属間化合物を生成させ、AlMgとFeAlとが混在する複合組織を備えた化合物層を介して、両材料の新生面同士を接合する方法が開示されている。
【0005】
前記特許文献1に記載の接合方法においては、マグネシウム合金材と鋼材からなる被接合材の間に第3の材料を介在させ、Mg及び/又はFeと第3の材料に含まれる金属との間で共晶溶融を生じさせることによって、酸化皮膜が低温で容易に接合界面から排出され、被接合材の新生面同士を接触させることができ、加えて、Mg及びFeのそれぞれとAlとの金属間化合物が混在する複合組織を備えた化合物層が接合界面に介在することにより、冶金的に直接接合が困難な材料の組合せであっても相互拡散が可能となり、強固な接合が達成される、としている。
【0006】
一方で、継手の機械的特性やひずみ等の観点から、材料の溶融を伴わない固相接合が注目されており、高速で回転する円筒状のツールを被接合材に圧入し、材料との摩擦熱を利用して接合を達成する摩擦攪拌接合(FSW)の実用化が急速に進んでいる。ここで、摩擦攪拌接合はプロセス条件による接合部への入熱制御等が容易であり、異材接合にも有利な接合方法である。
【0007】
例えば、特許文献2(特開2004−255420号公報)では、鋼材とアルミニウム材との異材接合に関し、鋼材とアルミニウム材を突合わせて形成される突合わせ線に対して、ツール底面のプローブ部を鋼材側に僅かに入り込ませる(大部分をアルミニウム材に配置する)摩擦攪拌接合方法が開示されている。
【0008】
前記特許文献2に記載の摩擦攪拌接合方法においては、プローブが鋼材側に僅かに入り込んでいるために、鋼材の新しい界面が削り出されると同時に、プローブと接触しているアルミニウム材近傍の領域では、塑性流動が生じる。加えて、プローブの進行方向に対して後側となる領域では、塑性流動したアルミニウム材が大きな圧縮力を受けて、新しく露出した清浄な鋼材表面との間で接合が達成される、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−269071号公報
【特許文献2】特開2004−255420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上記特許文献1に開示されている接合方法は、脆弱な金属間化合物層の厚さを制御することが困難であることに加え、被接合材として用いることができる鋼材の種類や大きさが限定されてしまう。また、上記特許文献2に開示されている摩擦攪拌接合方法は、互いに固溶しないマグネシウムと鉄との異材接合に用いることが困難であり、当該組合せにおいては十分な継手強度を有する接合部材を得ることができない。
【0011】
また、被接合材にアルミニウムを固溶するマグネシウム合金を用いる場合、当該アルミニウムによって上記金属間化合物層(中間層)が形成され、接合が達成される。しかしながら、当該金属間化合物層(中間層)の形成によって、マグネシウム合金のアルミニウム濃度が低下し、アルミニウム欠乏層が形成されてしまう。
【0012】
アルミニウムが固溶したマグネシウム合金は当該固溶によって強度が上昇(固溶強化)しているため、アルミニウム欠乏層が形成するとマグネシウム合金の強度が低下し、それに伴って継手強度が低下してしまう。なお、アルミニウム欠乏層の形成によるマグネシウム又はマグネシウム合金材と鉄系材との異材摩擦攪拌接合継手の強度低下は、発明者が接合界面近傍の元素分布と継手強度の関係を詳細に検討して見出したものである。
【0013】
以上のような従来技術における問題点に鑑み、本発明の目的は、マグネシウム又はマグネシウム合金材と鉄系材との簡便かつ効率的な異材摩擦攪拌接合方法及び、それにより得られる高い継手強度を有する異材摩擦攪拌接合部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は上記目的を達成すべく、摩擦攪拌接合条件及び接合界面の微細組織及び元素分布と継手強度の関係等について鋭意研究を重ねた結果、マグネシウム又はマグネシウム材と鉄系材との接触界面に適当なインサート材を配置して摩擦攪拌接合を施すことが極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0015】
即ち、本発明は、
マグネシウム又はマグネシウム合金材と鉄系材との摩擦攪拌接合方法であって、
前記マグネシウム又はマグネシウム合金材と前記鉄系材とを、前記マグネシウム又はマグネシウム合金材よりも高いアルミニウム含有量を有する金属層を介して接触させ、
摩擦攪拌接合用ツールのプローブ部の側面又は底面を、前記金属層と前記鉄系材の接触面に対して前記鉄系材側に0.05mm以上入り込ませること、
を特徴とする摩擦攪拌接合方法を提供する。なお、鉄系材とは鉄を主成分とする金属材を広く含むものであり、鉄、鋼及び鋳鉄を含むものである。
【0016】
プローブを鉄系材側に0.05mm以上入り込ませることで鉄系材が僅かに切削され、摩擦攪拌接合中に鉄系材の新生面が形成される。当該新生面に、アルミニウムを含有する金属層又はマグネシウム合金材の材料流動が押圧されることで、接合界面に主として鉄とアルミニウムからなる金属間化合物層(中間層)が形成され、マグネシウム又はマグネシウム合金材と鉄系材との冶金的な接合が達成される。
【0017】
本発明の摩擦攪拌接合方法においては、前記金属層にマグネシウム合金板を用いること、が好ましい。金属層として、被接合材であるマグネシウム又はマグネシウム合金材よりも高いアルミニウム含有量を有するマグネシウム合金板を用いることで、当該マグネシウム合金板に固溶しているアルミニウムを接合界面近傍に供給することができる。
【0018】
被接合材にマグネシウム材を用いる場合、マグネシウムと鉄は互いに固溶しないことから、冶金的な接合が達成されないが、マグネシウム合金板に固溶しているアルミニウムが摩擦攪拌接合中に接合界面に供給され、主として鉄とアルミニウムからなる金属間化合物層(中間層)を形成することで良好な接合が達成される。ここで、前記金属層にアルミニウム板等を用いてもよいが、アルミニウムが固溶したマグネシウム合金板を用いることで、接合界面へのアルミニウムの供給がより円滑となる。加えて、被接合材の一方がマグネシウム又はマグネシウム合金材であることから、金属層を同種のマグネシウム合金材とすることで、被接合材と金属層の材料流動挙動の差異を小さくすることができる。
【0019】
また、被接合材にアルミニウムを固溶したマグネシウム合金を用いる場合、主として鉄とアルミニウムからなる金属間化合物層(中間層)の形成に伴い、当該金属間化合物層(中間層)の近傍にアルミニウム欠乏層が形成してしまう。これに対し、金属層として、アルミニウム板や被接合材であるマグネシウム合金材よりも高いアルミニウム含有量を有するマグネシウム合金板等を用いることで、アルミニウムを接合界面近傍に供給することができ、アルミニウム欠乏層の形成を効果的に抑制することができる。
【0020】
また、本発明の摩擦攪拌接合方法においては、
前記マグネシウム又はマグネシウム合金材と前記鉄系材とを前記金属層を介して突合せ、
前記摩擦攪拌接合用ツールの回転方向と進行方向とが同一になる位置に、前記鉄系材を配置すること、が好ましい。
【0021】
突合せ接合とすることで、プローブの回転を利用して、アルミニウムを含有する金属層又はマグネシウム合金材の材料流動を、鉄系材の新生面により強力に押圧することができ、強固な接合部を得ることができる。より具体的には、摩擦攪拌接合用ツールの回転方向と進行方向とが同一になる位置(一般的に、前進側と称呼される)に鉄系材を配置することで、鉄系材の新生面に材料流動を押圧させることができる。
【0022】
また、突合せ接合とする場合、前記プローブ部の側面を前記金属層と前記鉄系材の接触面に対して前記鉄系材側に0.1〜1.5mm入り込ませること、が好ましい。鉄系材へのプローブ部側面の挿入量を0.1mm以上とすることで、接合に必要な十分な新生面を形成させることができ、当該挿入量を1.5mm以下とすることで、接合部近傍に分散する鉄系材の切削屑に起因する接合特性の低下を抑制することができる。
【0023】
更に、突合せ接合とする場合、前記金属層の幅を、0.05mm〜前記プローブの略直径とすること、が好ましい。金属層の幅を0.05mm以上とすることで、主として鉄とアルミニウムからなる金属間化合物層(中間層)の形成及び/又はアルミニウム欠乏層の抑制に必要なアルミニウムを接合部近傍に十分供給することができる。また、金属層の幅をプローブの略直径以下とすることで、マグネシウム又はマグネシウム合金材、金属層及び鉄系材を、プローブ部によって全て確実に攪拌することができる。
【0024】
また、本発明の摩擦攪拌接合方法においては、
前記マグネシウム合金材をAZ31マグネシウム合金材とし、
前記金属層をAZ61マグネシウム合金層又はAZ91マグネシウム合金層とすること、が好ましい。
【0025】
被接合材であるマグネシウム合金材をAZ31マグネシウム合金材とすることで、当該AZ31マグネシウム合金材に含まれているアルミニウムを用いて金属間化合物層(中間層)を形成させることができる。また、AZ61マグネシウム合金及びAZ91マグネシウム合金はAZ31マグネシウム合金よりもアルミニウムの含有量が高いことに加え、アルミニウムはマグネシウムに固溶された状態で存在しているため、金属層をAZ61マグネシウム合金層又はAZ91マグネシウム合金層とすることで、被接合材であるAZ31マグネシウム合金材へのアルミニウム欠乏層の形成を効果的に抑制することができる(アルミニウムが欠乏した領域に対する金属層からのアルミニウムの供給が速やかに達成される)。
【0026】
加えて、本発明の摩擦攪拌接合方法においては、更に、金属層とマグネシウム合金材との接触界面に、金属層及び/又はマグネシウム合金材の構成元素と共晶反応する第二金属層を形成させること、が好ましく、第二金属層が銀又は亜鉛を含むこと、がより好ましい。顕著な酸化被膜を有する被接合材に摩擦攪拌接合を施す場合、攪拌部に酸化物が線状に分布し、継手特性が低下する。金属層とマグネシウム合金材の接触界面に銀層又は亜鉛層が存在することで、接合部近傍で共晶溶融が生じ、接合部から酸化物が排出されることで、酸化物の配列を抑制することができる。加えて、銀及び亜鉛がアルミニウム欠乏層に供給され、マグネシウム合金の強度低下を抑制する効果もある。
【0027】
また、本発明は、マグネシウム又はマグネシウム合金材と鉄系材との接合部材であって、接合界面に、主としてアルミニウムと鉄とから構成される金属間化合物層を有し、前記接合界面の近傍におけるアルミニウム濃度が、前記マグネシウム又はマグネシウム合金材のアルミニウム濃度と比較して、1原子%以上低下していないこと、を特徴とする摩擦攪拌接合継手も提供する。
【0028】
本発明の接合部材は、接合界面に薄い金属間化合物層(中間層)を有すると共に、アルミニウム欠乏層を有していないことから、極めて良好な継手強度を有している。本発明の効果を損なわない限りにおいて、金属間化合物層(中間層)の膜厚は特に限定されないが、1μm以下であることが好ましい。
【0029】
ここで、アルミニウム欠乏層とは、被接合材のマグネシウム合金よりもアルミニウム濃度が明瞭に低下(1原子%以上の低下)した領域を意味する。例えば、被接合材にアルミニウム濃度が略3原子%のAZ31マグネシウム合金材を用いた場合、アルミニウム濃度が略2原子%未満となる領域をアルミニウム欠乏層とみなすことができる。
【0030】
なお、本発明の摩擦攪拌接合継手は、本発明の摩擦攪拌接合方法によって簡便に得ることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、マグネシウム又はマグネシウム合金材と鉄系材の簡便かつ効率的な異材摩擦攪拌接合方法及び、それにより得られる十分な継手強度を有する異材摩擦攪拌接合部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】突合せ接合の場合における被接合材の配置を示す概略図である。
図2】本発明で用いる摩擦攪拌接合用ツールの一例を示す概略図である。
図3】被接合材と摩擦攪拌接合用ツールの位置関係を示す概略図である(突合せ接合)。
図4】第二金属層を用いる場合の被接合材と摩擦攪拌接合用ツールの位置関係を示す概略図である(突合せ接合)。
図5】被接合材と摩擦攪拌接合用ツールの位置関係を示す概略図である(重ね合せ接合)。
図6】本発明の接合部材の概略断面図である。
図7】実施例1の摩擦攪拌接合における、被接合材と摩擦攪拌接合用ツールの位置関係を示す概略図である。
図8】実施例1で用いた摩擦攪拌接合用ツールの外観写真である。
図9】引張試験片の形状を示す模式図である。
図10】実施継手1〜3及び比較継手1の引張強度を示すグラフである。
図11】実施継手4〜6及び比較継手1の引張強度を示すグラフである。
図12】実施継手7〜9及び比較継手1の引張強度を示すグラフである。
図13】実施継手10、11及び比較継手10、11の引張強度を示すグラフである。
図14】比較継手1〜9の引張強度を示すグラフである。
図15】比較継手10〜19の引張強度を示すグラフである。
図16】実施継手2、実施継手12及び比較継手1の引張強度を示すグラフである。
図17】比較継手1の接合部断面の光学顕微鏡写真である。
図18】比較継手1の接合界面近傍のSEM−EDS元素マッピングである。
図19】比較継手10の接合界面近傍のSEM−EDS元素マッピングである。
図20】比較継手11の接合界面近傍のSEM−EDS元素マッピングである。
図21】比較継手10の接合界面近傍のSEM−EDS元素マッピングである(高倍率)。
図22】比較継手11の接合界面近傍のSEM−EDS元素マッピングである(高倍率)。
図23】比較継手10の接合界面近傍のSTEM−EDS元素マッピングである。
図24】比較継手11の接合界面近傍のSTEM−EDS元素マッピングである。
図25】比較継手10破断面のAZ31マグネシウム合金板側のSEM−EDS元素マッピングである。
図26】比較継手10破断面の低炭素鋼(SPCC)板側のSEM−EDS元素マッピングである。
図27】実施継手1の接合部断面のSEM−EDS元素マッピングである。
図28】実施継手4の接合部断面のSEM−EDS元素マッピングである。
図29】実施継手8の接合部断面のSEM−EDS元素マッピングである。
図30】実施継手1の接合部断面のSEM−EDS元素マッピングである(高倍率)。
図31】実施継手12の接合断面のSEM−EDS元素マッピングである(高倍率)。
図32】引張試験片の破断位置を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、図面を参照しながら本発明の異材摩擦攪拌接合方法及びそれにより得られる摩擦攪拌接合部材の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する場合がある。また、図面は、本発明を概念的に説明するためのものであるから、表された各構成要素の寸法やそれらの比は実際のものとは異なる場合もある。
【0034】
(1)摩擦攪拌接合方法
摩擦攪拌接合とは、FSW(Friction Stir Welding)と称され、接合しようとする二つの金属材からなる被接合材それぞれの端部を突き合わせ、回転ツールの先端に設けられた突起部(プローブ)を両者の端部の間に挿入し、これら端部の長手方向に沿って回転ツールを回転させつつ移動させることによって、二つの金属部材を接合する方法である。
【0035】
本発明における「摩擦攪拌接合」とは、回転ツールを回転させつつ接合方向に向けて移動させる摩擦攪拌接合、回転ツールを回転させつつ接合部位で移動させないスポット摩擦攪拌接合、被接合材同士を接合部位で突合せる摩擦攪拌接合、及び被接合材同士を重ね合わせて一方の被接合材の側から重ね合せた部位まで回転ツールを挿入する摩擦攪拌接合の4つのいずれかの態様、並びにこれらを任意に組み合わせた態様が含まれるが、以下、代表的な態様として、突合せ接合及び重ね合せ接合について詳細に説明する。
【0036】
(1−1)突合せ接合
図1は、突合せ接合の場合における被接合材の配置を示す概略図である。マグネシウム又はマグネシウム合金材2と鉄系材4との突合せ面に、金属層6が挿入されている。なお、「金属層6の挿入」とは、薄膜、板状及び粉末状の金属層6を突合せ面に配置してもよく、従来公知の種々の方法を用いて、被接合界面に金属層6を形成させてもよい。
【0037】
摩擦攪拌接合用ツールの概略図及び突合せ接合の場合における被接合材と摩擦攪拌接合用ツールの位置関係を、図2及び図3にそれぞれ示す。摩擦攪拌接合用ツール10は、ツール本体12の底面にプローブ部14を有している。回転する摩擦攪拌接合用ツール10のプローブ部14を被接合材に圧入し、ツール本体12の底面(ショルダ部16)と被接合材(マグネシウム又はマグネシウム合金材2及び鉄系材4)とを当接させることで摩擦熱が発生し、被接合材の材料流動が生じる。
【0038】
本発明の摩擦攪拌接合においては、プローブ部14を鉄系材4に0.05mm以上挿入させる(a≧0.05mm)ことで、鉄系材4に新生面を形成させることができ、当該新生面にマグネシウム又はマグネシウム合金材2及び金属層6の材料流動を押圧することで、接合が達成される。
【0039】
プローブ部14の形状は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の形状を用いることができるが、螺子やテーパーを有さないものが好ましく、先端部分が曲面となっていないものが好ましい。プローブ部14に螺子やテーパーを有さない場合は、鉄系材4の側面にプローブ部14の側面を均一に当接させることが可能であり、鉄系材4の新生面を均一に形成することができる。また、プローブ部14の先端部分が曲面でなければ、ショルダ部16からプローブ部14の中心部又は側面部までの距離が同一となることから、被接合材の裏面に未接合部が形成される可能性が低い。
【0040】
金属層6には、マグネシウム又はマグネシウム合金材2よりも高いアルミニウム含有量を有する金属の箔、板及び粉末等を用いることができる。なお、粉末は表面積が大きく、表面に形成されている酸化被膜が継手特性を低下させる可能性があるため、接合領域への分散性を担保できる限りにおいて、粒径が大きな粉末を用いることが好ましい。また、マグネシウム又はマグネシウム合金材2及び/又は鉄系材4の突合せ面に、めっき等の従来公知の種々の方法で、マグネシウム又はマグネシウム合金材2よりも高いアルミニウム含有量を有する金属被膜を形成させてもよい。ここで、当該金属皮膜中のアルミニウム含有量を傾斜させ、鉄系材4側のアルミニウム含有量を多くすることで、最終的に得られる接合部のアルミニウム濃度を平均化することができる。
【0041】
金属層6に用いる金属は、マグネシウム又はマグネシウム合金材2よりも高いアルミニウム含有量を有していれば特に限定されず、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金及びマグネシウム合金等を用いることができるが、マグネシウム合金を用いることが好ましい。マグネシウム合金としては、例えば、AZ31マグネシウム合金、AZ61マグネシウム合金、及びAZ91マグネシウム合金等を好適に用いることができる。
【0042】
AZ系のマグネシウム合金にはアルミニウムが固溶しており、当該アルミニウムが摩擦攪拌接合中に接合部近傍に供給されることで、良好な接合継手を得ることができる。具体的には、被接合材として純マグネシウム又はアルミニウムを含有しないマグネシウム合金を用いる場合、金属層6から供給されるアルミニウムと鉄系材4の新生面が反応し、主としてアルミニウムと鉄とからなる金属間化合物(中間層)が形成される。当該金属間化合物層(中間層)により、アルミニウムを含まないマグネシウム材と鉄系材4との冶金的な接合が達成される。
【0043】
また、被接合材としてアルミニウムを含有するマグネシウム合金材を用いる場合、当該マグネシウム合金材に含まれるアルミニウムと鉄系材4の新生面とが反応し、金属間化合物層(中間層)が形成され、マグネシウム合金材と鉄系材4との冶金的な接合が達成される。しかしながら、当該金属間化合物層(中間層)の形成にアルミニウムが消費されるため、アルミニウム欠乏層が形成されてしまう。ここで、本発明においては、被接合材であるマグネシウム合金のアルミニウム濃度(原子%)よりも略1原子%以上アルミニウム濃度が低い領域をアルミニウム欠乏層と定義する。
【0044】
一般的に、アルミニウムを固溶させたマグネシウム合金は固溶強化されているため、アルミニウム濃度が低下すると強度が低下する。つまり、接合部にアルミニウム欠乏層が形成されてしまうと、当該アルミニウム欠乏層の強度に起因して継手強度が低下してしまう。金属間化合物層(中間層)が形成する組合せの異材接合においては、脆い金属間化合物層(中間層)が厚くならないように、典型的には約1μm以下の厚さとすることで継手強度が担保される。ここで、従来の溶融溶接と比較すると摩擦攪拌接合の入熱は小さいため、金属間化合物層の厚さを1μm以下とすることは比較的容易である。しかしながら、金属間化合物層の厚さを1μm以下とした場合であっても、アルミニウム欠乏層が形成されると良好な継手を得ることができない。
【0045】
本発明の摩擦攪拌接合においては、金属層6から上記アルミニウム欠乏層にアルミニウムが供給される。加えて、金属層6のアルミニウム濃度はマグネシウム又はマグネシウム合金材2よりも高いことから、マグネシウム又はマグネシウム合金材2のアルミニウム濃度(原子%)よりも略1原子%以上アルミニウム濃度が低い領域(アルミニウム欠乏層)の形成を効果的に抑制することができる。
【0046】
鉄系材4は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の鉄系材を用いることができる。鉄系材4同士の摩擦攪拌接合では、摩擦攪拌接合用ツール10の摩耗・破損等を考慮する必要があるが、本発明の摩擦攪拌接合においてはプローブ部14を僅かに鉄系材4に挿入するのみであることから、強度及び硬度の高い鉄系材であっても問題なく被接合材とすることができる。
【0047】
本発明の摩擦攪拌接合においては、マグネシウム又はマグネシウム合金材2と鉄系材4とを金属層6を介して突合せ、摩擦攪拌接合用ツール10の回転方向と進行方向とが同一になる位置に、鉄系材4を配置すること、が好ましい。
【0048】
プローブ部14の側面を鉄系材4側に挿入する量は、0.05mm以上とする必要がある。挿入量を0.05mm以上とすることで、接合に必要な新生面を鉄系材4に形成させることができ、接合界面強度の不足による継手特性の低下を抑制することができる。
【0049】
また、突合せ接合とすることで、プローブ部14の回転を利用して、アルミニウムを含有する金属層6又はマグネシウム合金材2の材料流動を、鉄系材4の新生面により強力に押圧することができ、強固な接合部を得ることができる。より具体的には、摩擦攪拌接合用ツール10の回転方向と進行方向とが同一になる位置(一般的に、前進側と称呼される)に鉄系材4を配置することで、鉄系材4の新生面に材料流動を押圧させることができる。
【0050】
また、突合せ接合とする場合、プローブ部14の側面を金属層6と鉄系材4の接触面に対して鉄系材4側に0.1〜1.5mm入り込ませること、が好ましい。鉄系材4へのプローブ部14の挿入量を0.1mm以上とすることで、接合に必要な十分な新生面を形成させることができ、当該挿入量を1.5mm以下とすることで、接合部近傍に分散する鉄系材4の切削屑に起因する接合特性の低下を抑制することができる。
【0051】
突合せ接合の場合、金属層6の幅cを、0.05mm〜プローブ部14の略直径とすること、が好ましい。金属層6の幅cを0.05mm以上とすることで、主として鉄とアルミニウムからなる金属間化合物層(中間層)の形成及び/又はアルミニウム欠乏層の抑制に必要なアルミニウムを接合部近傍に供給することができる。また、金属層6の幅cをプローブ部14の略直径以下とすることで、マグネシウム又はマグネシウム合金材2、金属層6及び鉄系材4を、プローブ部14によって全て確実に攪拌することができる。
【0052】
マグネシウム又はマグネシウム合金材2、鉄系材4及び金属層6として用いることができる材料の組合せは種々存在するが、マグネシウム合金材2をAZ31マグネシウム合金材とし、金属層6をAZ61マグネシウム合金板又はAZ91マグネシウム合金板とすること、が好ましい。
【0053】
被接合材であるマグネシウム合金材2をAZ31マグネシウム合金材とすることで、当該AZ31マグネシウム合金材に含まれているアルミニウムを用いて金属間化合物層(中間層)を形成させることができる。また、AZ61マグネシウム合金及びAZ91マグネシウム合金はAZ31マグネシウム合金よりもアルミニウムの含有量が高いことに加え、アルミニウムはマグネシウムに固溶された状態で存在しているため、金属層6をAZ61マグネシウム合金板又はAZ91マグネシウム合金板とすることで、被接合材であるAZ31マグネシウム合金材へのアルミニウム欠乏層の形成を効果的に抑制することができる。
【0054】
加えて、本発明の摩擦攪拌接合方法においては、更に、金属層6とマグネシウム合金材2との接触界面に、金属層6及び/又はマグネシウム合金材2の構成元素と共晶反応する第二金属層を形成すること、が好ましく、当該第二金属層が銀又は亜鉛を含むこと、がより好ましい。図4に、第二金属層を用いる場合の摩擦攪拌接合の模式図を示す。顕著な酸化被膜を有する被接合材に摩擦攪拌接合を施す場合、攪拌部に酸化物が線状に分布し、継手特性が悪くなってしまう。金属層6とマグネシウム合金材2との接触界面に第二金属層20が存在することで、接合部近傍で共晶溶融が生じ、接合部から酸化物を排出することで、酸化物の配列を抑制することができる。加えて、銀及び亜鉛がアルミニウム欠乏層に供給され、マグネシウム合金2の強度低下を抑制する効果もある。また、接合部に2回目の摩擦攪拌接合を施し、酸化物を破砕・分散させることでも、当該酸化物による継手特性の低下を抑制することができる。
【0055】
第二金属層20を用いる場合、第二金属層20の幅dと金属層6の幅cとの合計(d+c)を、0.05mm〜プローブ部14の略直径とすること、が好ましい。d+cを0.05mm以上とすることで、主として鉄とアルミニウムからなる金属間化合物層(中間層)の形成及び/又はアルミニウム欠乏層の抑制に必要なアルミニウムを接合部近傍に供給することができ、加えて、第二金属層20の共晶(溶融)によって、酸化物の配列を抑制することができる。また、d+cをプローブ部14の略直径以下とすることで、マグネシウム又はマグネシウム合金材2、金属層6、第二金属層20及び鉄系材4を全て確実に攪拌することができる。
【0056】
第二金属層20には、マグネシウム又はマグネシウム合金材2、及び金属層6と共晶を形成する元素を含む金属材を用いることができ、マグネシウム又はマグネシウム合金材2、及び金属層6と共晶を形成する元素としては、例えば、Cu,Ni,Ag,Au,Ba,Bi,Ca,Ce,Ga,Ge,Hg,Li,Pb,Pu,Sb,Si,Sn,Sr,Th,Tl,Y,Zn等を例示することができる。
【0057】
なお、摩擦攪拌接合には、摩擦攪拌接合用ツール10の位置を一定とする接合方法、摩擦攪拌接合用ツール10に印加する荷重を一定とする接合方法、及び摩擦攪拌接合用ツール10に対するトルクを一定とする方法が存在する。本発明の摩擦攪拌接合方法にはこれらの全ての方法を用いることができるが、摩擦攪拌接合用ツール10の位置を一定とする接合方法を用いることが好ましい。当該接合方法を用いることで、摩擦攪拌接合用ツール10と被接合材との位置関係を厳密に制御することができる。
【0058】
また、摩擦攪拌接合の主たるプロセスパラメータには、摩擦攪拌接合用ツール10の回転速度、移動速度及び荷重等が存在する。当該プロセス条件は、用いる摩擦攪拌接合用ツール10の形状及び材質や、被接合材の種類及び材質等によって適宜選定すればよいが、欠陥が存在しない良好な攪拌部が得られると共に、上記金属間化合物層(中間層)の厚さが1μm未満となる条件を好適に用いることができる。
【0059】
(1−2)重ね合せ接合
図5に、重ね合せ接合の場合における被接合材と摩擦攪拌接合用ツールの位置関係を示す。重ね合せ接合の場合、金属層6を介してマグネシウム又はマグネシウム合金2と鉄系材4を重ね合せ、プローブ部14をマグネシウム合金2側から挿入する。
【0060】
この際、プローブ部14の底面を、鉄系材4に0.05mm以上挿入させることで、鉄系材4に新生面を形成させることができ、当該新生面にマグネシウム又はマグネシウム合金材2及び金属層6の材料流動を押圧することで、接合が達成される。ここで、プローブ部14の底面を鉄系材4に挿入するために、プローブ部14の長さgを、マグネシウム又はマグネシウム合金2の厚さfと金属層6の厚さeの合計(f+e)よりも僅かに長くすることが好ましい。但し、マグネシウム又はマグネシウム合金材2への摩擦攪拌接合用ツールの圧入量が大きい場合、プローブ部14の長さgがマグネシウム又はマグネシウム合金2の厚さfと金属層6の厚さeの合計(f+e)と同程度であっても、プローブ部14の底面が鉄系材4に挿入されることになる。
【0061】
また、重ね合せ接合の場合、第二金属層20をマグネシウム又はマグネシウム合金材2と金属層6との間に挿入することで、突合せ接合の場合と同様に、第二金属層20の共晶(溶融)によって酸化物の配列を抑制することができる。
【0062】
(2)接合部材
図6に、本発明の接合部材の概略断面図を示す。なお、本発明の接合部材の代表的な態様として、図6では突合せ接合部材を示している。本発明の接合部材30は、マグネシウム又はマグネシウム合金2と鉄系材4とを摩擦攪拌接合したものであり、マグネシウム又はマグネシウム合金2と鉄系材4との接合界面に、金属間化合物層40が形成されている。
【0063】
金属間化合物層40の厚さは、本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されないが、1μm以下とすることが好ましい。金属間化合物層40の厚さを1μm以下とすることで、接合部材30の脆化を抑制することができる。
【0064】
加えて、主としてアルミニウムと鉄からなる金属間化合物層40が形成した場合、従来の接合方法では金属間化合物層40の近傍にアルミニウムの濃度が低下したアルミニウム欠乏層が形成されてしまうが、接合部材30では当該アルミニウム欠乏層が存在しない。ここで、アルミニウム欠乏層とは、マグネシウム又はマグネシウム合金材2のアルミニウム濃度(原子%)よりも略1原子%以上アルミニウム濃度が低い領域を意味する。
【0065】
マグネシウム又はマグネシウム合金材2は本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々のマグネシウム又はマグネシウム合金材を用いることができる。また、鉄系材4も本発明の効果を損なわない限りにおいて特に限定されず、従来公知の種々の鉄系材を用いることができる。
【0066】
以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明はこれらのみに限定されるものではなく、種々の設計変更が可能であり、それら設計変更は全て本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0067】
≪実施例1≫
図7に示す配置で、純マグネシウム及び低炭素鋼(SPCC)の板材をAZ61マグネシウム合金の薄板を介して突き合わせ、当該突き合わせ面に摩擦攪拌接合用ツールを挿入して摩擦攪拌接合(線接合)を施した。なお、純マグネシウムは後退側、低炭素鋼(SPCC)は前進側に配置されている。純マグネシウム、低炭素鋼(SPCC)及びAZ61マグネシウム合金の組成を表1に示す。純マグネシウム板材及び低炭素鋼(SPCC)板材のサイズは、長さ300mm×幅75mm×厚さ2mmとし、AZ61マグネシウム合金薄板のサイズは、長さ300mm×幅1.0mm×厚さ2mmとした。
【0068】
【表1】
【0069】
ここで、摩擦攪拌接合用ツールはプローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に0.5mm挿入される位置に配置し、摩擦攪拌接合用ツールの回転速度及び移動速度は、それぞれ1500rpm及び100mm/minとした。なお、摩擦攪拌接合は摩擦攪拌接合用ツールの位置制御方式で行い、摩擦攪拌接合用ツールのプローブ部底面が被接合材裏面と略同一となるように設定した。
【0070】
摩擦攪拌接合用ツールには、図8に示す超硬合金製のもの(ショルダ径:12mm,プローブ径:4mm,プローブ長:1.9mm)を用い、実施継手1を得た。なお、摩擦攪拌接合用ツールのプローブ部底面は完全なフラット形状になっており、プローブ部の側面に螺子やテーパー等は形成されていない。
【0071】
≪実施例2≫
AZ61マグネシウム合金薄板の幅を2.0mmとした以外は実施例1と同様にして、実施継手2を得た。
【0072】
≪実施例3≫
AZ61マグネシウム合金薄板の幅を3.0mmとした以外は実施例1と同様にして、実施継手3を得た。
【0073】
≪実施例4≫
AZ61マグネシウム合金薄板を純アルミニウム(A1050)薄板とし、幅を0.05mmとした以外は実施例1と同様にして、実施継手4を得た。
【0074】
≪実施例5≫
純アルミニウム(A1050)薄板の幅を0.10mmとした以外は実施例4と同様にして、実施継手5を得た。
【0075】
≪実施例6≫
純アルミニウム(A1050)薄板の幅を0.15mmとした以外は実施例4と同様にして、実施継手6を得た。
【0076】
≪実施例7≫
AZ61マグネシウム合金薄板の代替として、幅0.20mmのギャップ(被接合材の突き合わせ面に幅0.20mmのスペーサーを挿入し、ギャップを形成させた)に純アルミニウム(A1050)粉末を充填した以外は実施例1と同様にして、実施継手7を得た。
【0077】
≪実施例8≫
純アルミニウム(A1050)粉末を充填するギャップの幅を0.25mmとした以外は実施例7と同様にして、実施継手8を得た。
【0078】
≪実施例9≫
純アルミニウム(A1050)粉末を充填するギャップの幅を0.30mmとした以外は実施例7と同様にして、実施継手9を得た。
【0079】
≪実施例10≫
更に、AZ61マグネシウム合金薄板と純マグネシウム板材との界面に厚さ0.01mmの銀箔を配置した以外は実施例2と同様にして、実施継手10を得た。
【0080】
≪比較例1≫
被接合材の突き合わせ面にAZ61マグネシウム合金の薄板を挿入しなかったこと以外は 実施例1と同様にして、比較継手1を得た。
【0081】
≪比較例2≫
プローブ部側面が突き合わせ面から純マグネシウム側に0.1mmとなるように摩擦攪拌接合用ツールを配置した(プローブ部は低炭素鋼(SPCC)板側に挿入されない)こと以外は比較例1と同様にして、比較継手2を得た。
【0082】
≪比較例3≫
プローブ部側面が突き合わせ面と略同一になるように摩擦攪拌接合用ツールを配置したこと以外は比較例1と同様にして、比較継手3を得た。
【0083】
≪比較例4≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に0.1mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例1と同様にして、比較継手4を得た。
【0084】
≪比較例5≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に0.25mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例1と同様にして、比較継手5を得た。
【0085】
≪比較例6≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に1.0mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例1と同様にして、比較継手6を得た。
【0086】
≪比較例7≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に1.4mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例1と同様にして、比較継手7を得た。
【0087】
≪比較例8≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に1.7mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例1と同様にして、比較継手8を得た。
【0088】
≪比較例9≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に2.0mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例1と同様にして、比較継手9を得た。
【0089】
≪比較例10≫
被接合材の突き合わせ面にAZ61マグネシウム合金の薄板を挿入せず、被接合材として純マグネシウム板の代わりにAZ31マグネシウム合金板を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較継手10を得た。AZ31マグネシウム合金の組成を表2に示す。
【0090】
【表2】
【0091】
≪比較例11≫
被接合材の突き合わせ面にAZ61マグネシウム合金の薄板を挿入せず、被接合材として純マグネシウム板の代わりにAZ61マグネシウム合金板を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較継手11を得た。
【0092】
≪比較例12≫
被接合材の突き合わせ面にAZ61マグネシウム合金の薄板を挿入せず、被接合材として純マグネシウム板の代わりにAZ91マグネシウム合金板を用いたこと以外は実施例1と同様にして、比較継手12を得た。
【0093】
≪比較例13≫
プローブ部側面が突き合わせ面からAZ31純マグネシウム合金側に0.1mmとなるように摩擦攪拌接合用ツールを配置した(プローブ部は低炭素鋼(SPCC)板側に挿入されない)こと以外は比較例10と同様にして、比較継手13を得た。
【0094】
≪比較例14≫
プローブ部側面が突き合わせ面と略同一になるように摩擦攪拌接合用ツールを配置したこと以外は比較例10と同様にして、比較継手14を得た。
【0095】
≪比較例15≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に0.1mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例10と同様にして、比較継手15を得た。
【0096】
≪比較例16≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に0.25mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例10と同様にして、比較継手16を得た。
【0097】
≪比較例17≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に1.0mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例10と同様にして、比較継手17を得た。
【0098】
≪比較例18≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に1.4mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例10と同様にして、比較継手18を得た。
【0099】
≪比較例19≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に1.7mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例10と同様にして、比較継手19を得た。
【0100】
≪比較例20≫
プローブ部側面が低炭素鋼(SPCC)板に2.0mm挿入される位置に摩擦攪拌接合用ツールを配置した以外は比較例10と同様にして、比較継手20を得た。
【0101】
[引張試験]
上記実施例及び比較例で得られた継手を用いて、図9に示す試験片を作製し、引張強度を測定した。試験片の切り出しには放電加工機を用い、被接合材の突き合わせ面が試験片の中央に位置するように切り出した。試験片の標点距離及び幅は、それぞれ60mm及び8mmとし、接合部表面のバリ等を排除するため、試験片の厚さが1.5mmとなるまで研磨した。
【0102】
引張試験機(SHIMADZU Autograph AGS−X 10kN)を用い、クロスヘッド速度3.6mm/minで継手の引張強度を測定した。実施継手1〜3及び比較継手1の引張強度を図10に示す。接合界面に挿入するAZ61マグネシウム合金薄板の厚さが1mm及び2mmの場合(実施継手1及び2)、当該薄板を挿入しない場合(比較継手1)よりも大幅に高い引張強度が得られている。これは、AZ61マグネシウム合金薄板に含まれるアルミニウムが接合界面に供給され、鉄とアルミニウムとを主成分とする金属間化合物層が形成されたためである。AZ61マグネシウム合金薄板の厚さが3mmの場合はAZ61マグネシウム合金薄板が十分に攪拌(分断)されず、比較的大きな破片が攪拌部中に残存したため、当該破片が破壊の起点となって引張強度が低下したと考えられる。なお、摩擦攪拌条件(ツールの回転数及び移動速度等)を最適化することにより、上記破片の残存を抑制することができる。
【0103】
実施継手4〜6及び比較継手1の引張強度を図11に示す。接合界面に挿入する純アルミニウム(A1050)薄板の厚さが0.05〜0.15mmの場合(実施継手4〜6)、当該薄板を挿入しない場合(比較継手1)よりも高い引張強度が得られている。これは、純アルミニウム(A1050)薄板のアルミニウムが接合界面に供給され、鉄とアルミニウムとを主成分とする金属間化合物層が形成されたためである。
【0104】
実施継手7〜9及び比較継手1の引張強度を図12に示す。純アルミニウム(A1050)粉末を充填するギャップの幅を0.20mm及び0.25mmとした場合(実施継手7及び8)、当該粉末を用いない場合(比較継手1)よりも高い引張強度が得られている。これは、純アルミニウム(A1050)粉末のアルミニウムが接合界面に供給され、鉄とアルミニウムとを主成分とする金属間化合物が形成されたためである。
【0105】
比較継手1、10〜12の引張強度及び継手効率を図13に示す。引張強度及び継手効率は、被接合材(マグネシウム材)に含まれるアルミニウム濃度の増加に伴って高くなっている。これは、被接合材(マグネシウム材)に含まれるアルミニウムによって接合界面に金属間化合物が形成されることに加え、アルミニウム濃度が高い場合はアルミニウム欠乏層の影響が比較的小さくなることが原因である。
【0106】
比較継手1〜9の引張強度を図14に示す。低炭素鋼(SPCC)板へのプローブ挿入量が0.1〜1.4mmの場合(比較継手1、4〜7)、比較的高い継手強度が得られている。これに対し、プローブが低炭素鋼(SPCC)板に挿入されていない場合(比較継手2及び3)においては、強度が殆ど得られていない。これは、マグネシウム板の接合面において、新生面が形成されないことが主原因であると思われる。また、低炭素鋼(SPCC)板へのプローブ挿入量が大き過ぎる場合(比較継手8及び9)、引張強度が低下している。低炭素鋼(SPCC)板へのプローブ挿入量が大き過ぎる場合、プローブによるマグネシウム板の切削量が大きくなり、接合界面近傍に分散した切削片によって強度が低下したものと考えられる。
【0107】
比較継手10,13〜20の引張強度を図15に示す。低炭素鋼(SPCC)板へのプローブ挿入量が0.1〜1.4mmの場合(比較継手10、13〜18)、比較的高い継手強度が得られている。これに対し、プローブが低炭素鋼(SPCC)板に挿入されていない場合(比較継手13及び14)においては、強度が殆ど得られていない。これは、AZ31マグネシウム合金板の接合面において、新生面が形成されないことが主原因であると思われる。また、低炭素鋼(SPCC)板へのプローブ挿入量が大き過ぎる場合(比較継手19及び20)、引張強度が低下している。低炭素鋼(SPCC)板へのプローブ挿入量が大き過ぎる場合、プローブによるAZ31マグネシウム合金板の切削量が大きくなり、接合界面近傍に分散した切削片によって強度が低下したものと考えられる。
【0108】
実施継手2、実施継手10及び比較継手1の引張強度を図16に示す。図16はインサート材を用いない場合、AZ61マグネシウム合金薄板のみを用いる場合、AZ61マグネシウム合金薄板及び銀箔を用いる場合の継手強度比較であるが、AZ61マグネシウム合金薄板を用いることで継手強度が飛躍的に上昇し、更に、銀箔を用いることで、継手強度が母材(純マグネシウム)と同等程度にまで達していることが分かる。
【0109】
[接合部の断面観察]
接合部における欠陥形成の有無及び接合界面の状況等を確認するため、接合部の断面を光学顕微鏡、SEM−EDS(JEOL JSM−7001FA)及びSTEM−EDS(JEOL JEM−2100F)によって詳細に観察した。なお、SEM観察の条件は加速電圧:15kV及び照射電流:10Aとし、STEM観察の加速電圧は200kVとした。
【0110】
SEM観察用の断面試料作製には、アルゴンイオンビームと遮蔽板を用いて試料断面を研磨するクロスセクションポリッシャー(JEOL IB−09020CP)を使用した。なお、クロスセクションポリッシャーの加速電圧は5.5kVとした。また、STEM観察用の試料作製には、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)を用い、厚さ約100nmの観察試料を作製した。
【0111】
比較継手1の接合部断面の光学顕微鏡写真を図17に示す。接合部に欠陥は形成されておらず、マグネシウム板と低炭素鋼(SPCC)板との接合界面が形成されている。なお、その他の実施継手及び比較継手においても明瞭な欠陥の形成は観察されなかった。比較継手1、10及び11の接合界面近傍のSEM−EDS元素マッピングの結果を、それぞれ図18図19及び図20に示す。比較継手1では被接合材であるマグネシウム板にアルミニウムが含有されていないことから、接合界面に明瞭な金属間化合物層が観察されない。これに対し、比較継手10及び11の接合界面には、アルミニウムと鉄を主成分とする金属間化合物層が形成されている。また、より高倍率のSEM−EDS元素マッピングより、金属間化合物層近傍のアルミニウム濃度が低下していることが分かる(図21及び図22)。
【0112】
比較継手10及び11の接合界面近傍のSTEM−EDS元素マッピングの結果を、図23及び図24にそれぞれ示す。接合界面に形成されている金属間化合物層の近傍(マグネシウム合金側)のアルミニウム濃度は顕著に減少しており、母材のアルミニウム濃度と比較して、1原子%以上の減少が認められる領域(アルミニウム欠乏層)が形成している。なお、金属間化合物層の厚さは極めて薄く、比較継手10及び11共に1μm以下である。
【0113】
引張試験後の比較継手10の破断面に関し、AZ31マグネシウム合金板側及び低炭素鋼(SPCC)板側のSEM−EDS元素マッピングの結果を、図25及び図26にそれぞれ示す。低炭素鋼(SPCC)板側の破断面にはマグネシウム(Mg)が検出され、AZ31マグネシウム合金板側の破断面には鉄(Fe)が殆ど検出されないことから、AZ31マグネシウム合金板側のアルミニウム欠乏層で破断したものと考えられる。
【0114】
実施継手1、4及び8の接合部断面のSEM−EDS元素マッピングの結果を、図27図28及び図29にそれぞれ示す。全ての接合部において欠陥は認められず、良好な継手が得られていることが分かる。また、破断位置を点線で示しているが、破断位置が接合界面の金属間化合物層から離れている。これは、突き合わせ面に挿入した金属層からのアルミニウム供給により、アルミニウム欠乏層の形成が抑制された結果である。
【0115】
実施継手1の接合部断面に関し、高倍率のSEM−EDS元素マッピングの結果を図30に示す。酸化物が線状に並んだ領域が観察されることから、当該酸化物を起点とする破断が生じたものと考えられる。
【0116】
実施継手12の接合断面に関し、高倍率のSEM−EDS元素マッピングの結果を図31に示す(マッピングの領域は実施継手1に関して酸化物が観察された領域に対応している)。図31においては酸素濃度が高い領域は認められず、銀箔に起因する溶融により、酸化物の排出が達成されていることが分かる。なお、その他の領域においても同様の元素マッピングを行ったが、酸化物が存在する領域は認められなかった。
【0117】
[接合部の破断位置観察]
本発明を用いることによる破断位置の変化を明らかにするため、引張試験片の破断位置を比較した。図32に、破断後の試験片(実施継手2,実施継手12及び比較継手1)の外観写真を示す。
【0118】
接合にインサート材を用いていない比較継手1に関しては、低炭素鋼(SPCC)板と純マグネシウム板との接合界面で破断しており、これは当該接合界面の強度が不十分であることを意味している。これに対し、インサート材としてAZ61マグネシウム合金薄板を用いた実施継手2の破断位置は、攪拌部外縁(酸化物が存在する位置)にシフトしている。更に、銀箔を用いた実施継手12では、破断位置が純マグネシウム板に完全にシフトしている。これらの結果は、本発明の摩擦攪拌接合方法を用いることで十分な接合界面強度を実現することができ、特に、被接合材及び/又はインサート材であるマグネシウム合金材の構成元素と共晶反応する第二金属層を用いることで、被接合材の母材強度並みの継手強度が実現可能であることを示している。
【符号の説明】
【0119】
2・・・マグネシウム又はマグネシウム合金材、
4・・・鉄系材、
6・・・金属層、
10・・・摩擦攪拌接合用ツール、
12・・・ツール本体、
14・・・プローブ部、
16・・・ショルダ部、
20・・・第二金属層、
30・・・接合部材、
40・・・金属間化合物層。
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