(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6590909
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】ポリマーおよびその架橋体
(51)【国際特許分類】
C08F 230/02 20060101AFI20191007BHJP
C08F 220/36 20060101ALI20191007BHJP
C08F 220/18 20060101ALI20191007BHJP
C08F 220/30 20060101ALI20191007BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20191007BHJP
C09D 133/10 20060101ALI20191007BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20191007BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20191007BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
C08F230/02
C08F220/36
C08F220/18
C08F220/30
C08J7/00 302
C09D133/10
C09K3/18
A61L27/34
A61L27/50 300
A61L27/50
【請求項の数】11
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-503682(P2017-503682)
(86)(22)【出願日】2016年3月2日
(86)【国際出願番号】JP2016056407
(87)【国際公開番号】WO2016140259
(87)【国際公開日】20160909
【審査請求日】2018年12月5日
(31)【優先権主張番号】特願2015-41174(P2015-41174)
(32)【優先日】2015年3月3日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 戦略的イノベーション創出推進プログラム、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088904
【弁理士】
【氏名又は名称】庄司 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100124453
【弁理士】
【氏名又は名称】資延 由利子
(74)【代理人】
【識別番号】100135208
【弁理士】
【氏名又は名称】大杉 卓也
(72)【発明者】
【氏名】石原 一彦
(72)【発明者】
【氏名】井上 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】深澤 今日子
(72)【発明者】
【氏名】松田 将
(72)【発明者】
【氏名】山田 智
(72)【発明者】
【氏名】野田 朋澄
【審査官】
岡谷 祐哉
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−59367(JP,A)
【文献】
特表2014−520191(JP,A)
【文献】
特表2013−539399(JP,A)
【文献】
特開2012−46761(JP,A)
【文献】
特開2002−212491(JP,A)
【文献】
国際公開第00/01424(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08C
C08F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1a)〜式(1c)で表される構成単位を有し、各構成単位の比率a、bおよびcが、
a/(a+b+c)=0.30〜0.90、
b/(a+b+c)=0.01〜0.69、
c/(a+b+c)=0.01〜0.20
であり、重量平均分子量が10,000〜1,000,000である共重合体。
【化1】
【化2】
(式中、nは3〜17である)
【化3】
(式中、Xは、−H又は−OH基である)
【請求項2】
前記の式(1a)で表される構成単位が2−メタクリロイルオキシエチル−2−トリメチルアンモニオエチルホスフェートであり、前記の式(1b)で表される構成単位がメタクリル酸ブチルであり、及び前記の式(1c)で表される構成単位が4−メタクリロイルオキシベンゾフェノンである請求項1に記載の共重合体。
【請求項3】
前記の式(1a)で表される構成単位が2−メタクリロイルオキシエチル−2−トリメチルアンモニオエチルホスフェートであり、前記の式(1b)で表される構成単位がメタクリル酸ブチルであり、及び前記の式(1c)で表される構成単位が4−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノンである請求項1に記載の共重合体。
【請求項4】
前記の式(1a)で表される構成単位が2−メタクリロイルオキシエチル−2−トリメチルアンモニオエチルホスフェートであり、前記の式(1b)で表される構成単位がステアリルメタクリレートであり、及び前記の式(1c)で表される構成単位が4−メタクリロイルオキシベンゾフェノンである請求項1に記載の共重合体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1に記載の共重合体を含む表面処理剤。
【請求項6】
タンパク質吸着抑制用表面処理剤である請求項5に記載の表面処理剤。
【請求項7】
細胞接着抑制用表面処理剤である請求項5に記載の表面処理剤。
【請求項8】
請求項1〜4のいずれか1に記載の共重合体又は請求項5〜7のいずれか1に記載の表面処理剤を、基材表面にコーティングした後、該基材表面に光照射して、該基材表面に架橋体を形成することを特徴とする架橋体の形成方法。
【請求項9】
請求項8に記載の架橋体の形成方法により得られた架橋体。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1に記載の共重合体又は請求項5〜7のいずれか1に記載の表面処理剤に光照射して得られる架橋体。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の架橋体を含む医療用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマー及び該ポリマーより形成される架橋体に関する。
本出願は、参照によりここに援用されるところの日本特願2015−041174号優先権を請求する。
【背景技術】
【0002】
ホスホリルコリン基含有ポリマーは、血液適合性に代表される優れた生体適合性を有する。そのために、ホスホリルコリン基含有ポリマーにより生体適合性に乏しい基材表面を被膜形成することで生体適合化させる用途に利用されている。具体的には、例えば、人工心臓、人工肺、人工血管、コンタクトレンズ等の各種医療機器への表面処理剤に応用されている(非特許文献1)。
このとき多くは、ポリマーを、生体適合性を付与すべき基材表面に対して物理結合あるいは化学結合にて基材表面に結合し、含水被膜ゲルを形成することで用いている。物理結合を基材表面に行うには、ホスホリルコリン基を有するポリマーに疎水基を有するコモノマーを導入して物理結合する方法やイオン性基を導入してイオン結合する方法が挙げられる。
しかしこれらの方法は、ポリマーの構造の一部を別の官能基で置き換える必要があり、ホスホリルコリン基の機能を十分に発揮できない。さらには基材との親和性が不十分であれば耐久性が不十分となりはがれてしまうこととなる。一方、化学結合性基を導入したホスホリルコリン基ポリマーは基材表面と化学結合するため、少ない官能基の導入で基材と結合し、比較的耐久性の高い被膜を形成することができる(特許文献1)。しかしこの場合には、基材表面に官能基があることが必須要件となり、またホスホリルコリン基ポリマー同士の結合は一般的にないため、耐久性も十分ではなかった。さらには、化学結合時の未反応官能基を後処理で不活性化する工程についても必要であり実用上の多くの課題を有していた。
そこで、光反応性を有するホスホリルコリン基ポリマーが提案されている(特許文献2)。このポリマーは、基材の選択において化学結合性官能基がなくても基材表面に結合することができ、且つ被膜形成性にも優れている。しかし、アジド基を有することから、製造時と輸送時の安全性と製造後の安定性確保には十分な管理が必要であり、したがって市場に提供するには供給安定性とスケールアップ性の点から課題を有していた。
【0003】
生体適合性化すべき基材表面への光反応性基を有し、生体適合性化すべき基材表面を被覆するための安定な架橋体を基材表面に有するためのポリマーならびにその架橋体については十分な追求がなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許6090901号明細書
【特許文献2】特開2010−059367号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】石原一彦,MMJ the Mainichi medical journal誌,「医療の森:明日への展望(2):医療用新素材『MPCポリマー』」,2010年,第6巻,第2号,p.68−70
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
生体適合性化すべき基材表面への光反応性基を有し、該表面を被覆するための安定な架橋体を形成するためのポリマーについては十分な追求がなされていなかった。
すなわち本発明の課題は、医療材料用途に用いられるに十分な生体適合性を有するポリマーと該ポリマーを用いて基材表面を生体適合性に改変する架橋体形成方法を提供することであり、詳しくは、基材表面にホスホリルコリン基の特長である蛋白質吸着抑制効果と細胞接着抑制効果を与えることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ホスホリルコリン構成単位、疎水性構成単位、および光反応性構成単位を特定比率で含有する共重合体が、上記の課題を解決することの知見を見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.下記式(1a)〜式(1c)で表される構成単位を有し、各構成単位の比率a、bおよびcが、
a/(a+b+c)=0.30〜0.90、
b/(a+b+c)=0.01〜0.69、
c/(a+b+c)=0.01〜0.20
であり、重量平均分子量が10,000〜1,000,000である共重合体。
【化1】
【化2】
(式中、nは3〜17である)
【化3】
(式中、Xは、−H又は−OH基である)
2.前記の式(1a)で表される構成単位が2−メタクリロイルオキシエチル−2−トリメチルアンモニオエチルホスフェートであり、前記の式(1b)で表される構成単位がメタクリル酸ブチルであり、及び前記の式(1c)で表される構成単位が4−メタクリロイルオキシベンゾフェノンである前項1に記載の共重合体。
3.前記の式(1a)で表される構成単位が2−メタクリロイルオキシエチル−2−トリメチルアンモニオエチルホスフェートであり、前記の式(1b)で表される構成単位がメタクリル酸ブチルであり、及び前記の式(1c)で表される構成単位が4−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノンである前項1に記載の共重合体。
4.前記の式(1a)で表される構成単位が2−メタクリロイルオキシエチル−2−トリメチルアンモニオエチルホスフェートであり、前記の式(1b)で表される構成単位がステアリルメタクリレートであり、及び前記の式(1c)で表される構成単位が4−メタクリロイルオキシベンゾフェノンである前項1に記載の共重合体。
5.前項1〜4のいずれか1に記載の共重合体を含む表面処理剤。
6.タンパク質吸着抑制用表面処理剤である前項5に記載の表面処理剤。
7.細胞接着抑制用表面処理剤である前項5に記載の表面処理剤。
8.前項1〜4のいずれか1に記載の共重合体又は前項5〜7のいずれか1に記載の表面処理剤を、基材表面にコーティングした後、該基材表面に光照射して、該基材表面に架橋体を形成することを特徴とする架橋体の形成方法。
9.前項8に記載の架橋体の形成方法により得られた架橋体。
10.前項1〜4のいずれか1に記載の共重合体又は前項5〜7のいずれか1に記載の表面処理剤に光照射して得られる架橋体。
11.前項9又は前項10に記載の架橋体を含む医療用具。
12.下記式(1a)〜式(1c)で表される構成単位を有し、各構成単位の比率a、bおよびcが、
a/(a+b+c)=0.30〜0.90、
b/(a+b+c)=0.01〜0.69、
c/(a+b+c)=0.01〜0.20
であり、重量平均分子量が10,000〜1,000,000である共重合体を用いて表面処理剤を製造するための用途。
【化4】
【化5】
(式中、nは3〜17である)
【化6】
(式中、Xは、−H又は−OH基である)
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリマーを基材にコーティングし、さらに該基材に光照射を行うことで、該基材を生体適合性に改変した生体適合性材料を提供することができる。
【0009】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明の対象の共重合体は、下記式(1a)〜式(1c)で表される構成単位を有し、各構成単位の比率a、bおよびcが、a/(a+b+c)=0.30〜0.90、b/(a+b+c)=0.01〜0.69、c/(a+b+c)=0.01〜0.20であり、重量平均分子量が10,000〜1,000,000である共重合体である。
【0011】
【化8】
式中、nは3〜17である。
【0012】
【化9】
式中、Xは、−H又は−OH基である。
【0013】
本発明の共重合体は、ホスホリルコリン構成単位、疎水性構成単位、および光反応性構成単位からなる共重合体である。
本発明の対象の表面処理剤は、本発明の共重合体を含む。
本発明の対象の架橋体の形成方法は、本発明の共重合体又は本発明の表面処理剤を基材表面にコーティングした後、該基材表面に光照射して、該基材表面に架橋体を形成することを特徴とする。
本発明の対象の架橋体は、本発明の架橋体の形成方法により得られる、又は、本発明の共重合体又は本発明の表面処理剤に光照射して得られる。
本発明の対象の医療用具は、本発明の架橋体を含む。
【0014】
本発明の共重合体の各構成単位について、下記に説明する。
〔ホスホリルコリン構成単位〕
本発明の共重合体は、ホスホリルコリン(PC)基含有単量体に基づく構成単位(参照:2a)を共重合体構造中に含む。共重合体構造中、ホスホリルコリン基は、生体膜の主成分であるリン脂質と同様の構造を有する極性基である。ホスホリルコリン基を共重合体(ポリマー)中に導入することで、蛋白質吸着抑制、細胞吸着抑制、抗血栓性、親水性などの生体適合性をポリマーに付与することができる。
さらに、該ポリマーを基材表面上で光処理等することで基材に生体適合性を付与できる。
前記PC基含有単量体としては、2−メタクリロイルオキシエチル−2'−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート(参照:3a)が挙げられる。
【0016】
〔疎水性構成単位〕
本発明の共重合体は、疎水性基含有単量体に基づく構成単位(参照:2b)を共重合体構造中に含む。疎水性基は、疎水性基材表面への物理吸着により、当該ポリマーの塗布性を向上させることができる。
該疎水性基含有単量体としては、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル等の疎水性置換基を有するメタクリル酸エステルが挙げられるが、特に限定されない。
【0018】
〔光反応性構成単位〕
本発明の共重合体は、光反応性ベンゾフェノン基含有単量体に基づく構成単位(参照:2c)を共重合体構造中に含む。ベンゾフェノン基は、光照射により反応性に富む三重項励起状態となり、基材あるいはポリマーから水素原子を引き抜くことで結合し得るものである。該ベンゾフェノン基含有単量体としては、4−メタクリロイルオキシベンゾフェノン(MBP)、4−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン(MHP)が挙げられるが、特に限定されない。
【0019】
【化12】
なお、上記式中のXは、−H又は−OH基である。
【0020】
本発明の共重合体の重量平均分子量が10,000未満の場合は、ポリマーの精製が困難であり、1,000,000を超える場合は、製造時の粘性が高くなりすぎ取り扱いが困難となるおそれがある。
式(1a)、式(1b)および式(1c)中、a、bおよびcは、式(2a)、(2b)および(2c)の3つの構成単位の比率(構成比)、すなわち対応するモノマーのモル比率を表す。
ここで、a、bおよびcは、当該構成単位の比率を表しているのみであって、本発明のポリマーが式(2a)で表されるブロックと、式(2b)で表されるブロックと、式(2c)で表されるブロックからなる、ブロックポリマーのみを意味するものではない。本発明のポリマーは、式(2a)と式(2b)と式(2c)のモノマーがランダムに共重合されたランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、あるいは、ランダム部とブロック部が混在する共重合体であってもよい。また、交互共重合体部が存在してもよい。
また、当該構成単位の比率を表すa、bおよびcの比は、任意に調製可能であり、水性媒体に可溶なポリマーであればよい。
加えて、a/(a+b+c)=0.30〜0.90、好ましくは0.30〜0.80、b/(a+b+c)=0.01〜0.69、好ましくは0.05〜0.65、c/(a+b+c)=0.01〜0.20、好ましくは0.05〜0.10を満たすものである。
別の記載方法として、a:b:cが100:1〜230:1〜67を満たすものである。a、b、cは比率を表し、nは3〜17、Xは、−H又は−OH基である。
【0021】
本発明の共重合体のホスホリルコリン構成単位、疎水性構成単位、および光反応性構成単位の組合せは、以下の通りであるが、特に限定されない(左がホスホリルコリン構成単位、中が疎水性構成単位、及び右が光反応性構成単位を示す)。
MPC―メタクリル酸ブチル―MBP
MPC―メタクリル酸ブチル―MHP
MPC―メタクリル酸ヘキシル―MBP
MPC―メタクリル酸ヘキシル―MHP
MPC―メタクリル酸2−エチルヘキシル―MBP
MPC―メタクリル酸2−エチルヘキシル―MHP
MPC―メタクリル酸デシル―MBP
MPC―メタクリル酸デシル―MHP
MPC―メタクリル酸ドデシル―MBP
MPC―メタクリル酸ドデシル―MHP
MPC―メタクリル酸トリデシル―MBP
MPC―メタクリル酸トリデシル―MHP
MPC―メタクリル酸ステアリル(ステアリルメタクリレート)―MBP
MPC―メタクリル酸ステアリル―MHP
上記の本発明の共重合体のホスホリルコリン構成単位の比率a、疎水性構成単位の比率bおよび光反応性構成単位の比率cは、a/(a+b+c)=0.30〜0.90、好ましくは0.30〜0.80、b/(a+b+c)=0.01〜0.69、好ましくは0.05〜0.65、c/(a+b+c)=0.01〜0.20、好ましくは0.05〜0.10を満たすものである。
別の記載方法として、本発明の共重合体のホスホリルコリン構成単位の比率a、疎水性構成単位の比率bおよび光反応性構成単位の比率cは、a:b:cが100:1〜230:1〜67を満たすものである。
【0022】
さらに、下記の実施例より、より好ましい本発明の共重合体のホスホリルコリン構成単位、疎水性構成単位、および光反応性構成単位の組合せは、MPC―メタクリル酸ブチル―MBPである(合成例2)。また、より好ましい本発明の共重合体のホスホリルコリン構成単位の比率a、疎水性構成単位の比率bおよび光反応性構成単位の比率cは、a:b:cが0.5〜0.7:0.2〜0.4:0.05〜0.15を満たすものである。
【0023】
次に、本発明のポリマーの製造方法例について説明する。
本発明の共重合体は、例えば、下記式(3a)で示されるMPC(2−メタクリロイルオキシエチル−2−トリメチルアンモニオエチルホスフェート)と、下記式(3b:n=3)で示されるBMAと、下記式(3c)で示されるMBP(XがH)若しくはMHP(XがOH基)を、MPC、BMAおよびMBP若しくはMHPの合計量に対して、MPCをモル比率で0.30〜0.90、BMAをモル比率で0.01〜0.69%、MBP若しくはMHPをモル比率で0.01〜0.20%の割合で含む単量体組成物を重合させることで得ることができる。
さらに共重合可能な他のモノマーを構成成分として含有してもよい。
【0025】
上記単量体組成物の重合反応は、例えば、ラジカル重合開始剤の存在下、窒素、二酸化炭素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスで反応系内を置換して、または当該雰囲気において、ラジカル重合、例えば、塊状重合、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等の公知の方法により行うことができる。
得られる重合体の精製等の観点から、溶液重合が好ましい。この重合反応により、式(1a)、式(1b)および式(1c)で示される構成単位を有する共重合体が得られる。なお、該共重合体は、上記の通り、ランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよく、あるいは、ランダム部とブロック部が混在する共重合体であってもよい。また、交互共重合体部が存在してもよい。
該共重合体を精製する場合、その精製は、再沈殿法、透析法、限外濾過法等の一般的な精製方法により行うことができる。
【0026】
ラジカル重合開始剤としては、アゾ系ラジカル重合開始剤、有機化酸化物、過硫酸化物が挙げられる。
アゾ系ラジカル重合開始剤としては、例えば、2,2−アゾビス(2−アミノプロピル)二塩酸塩、2,2−アゾビス(2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン)二塩酸塩、4,4−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2−アゾビスイソブチルアミド二水和物、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート、1−((1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ)ホルムアミド、2,2'−アゾビス(2−メチル−N−フェニルプロピオンアミヂン)ジハイドロクロライド、2,2'−アゾビス(2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)−プロピオンアミド)、2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミド)ジハイドレート、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2'−アゾビス(2−(ヒドロキシメチル)プロピオニトリル)等が挙げられる。
有機過酸化物としては、過酸化ベンゾイル、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシピバレート、t−ブチルペルオキシジイソブチレート、過酸化ラウロイル、t−ブチルペルオキシネオデカノエート、コハク酸ペルオキシド(=サクシニルペルオキシド)、グルタルペルオキシド、サクシニルペルオキシグルタレート、t−ブチルペルオキシマレート、t−ブチルペルオキシピバレート、ジ−2−エトキシエチルペルオキシカーボネート、3−ヒドロキシ−1,1−ジメチルブチルペルオキシピバレート等が挙げられる。
過硫酸化物としては、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム等が挙げられる。
これらのラジカル重合開始剤は、単独で用いても混合物で用いてもよい。重合開始剤の使用量は、単量体組成物100質量部に対して通常0.001〜10質量部、好ましくは0.01〜5.0質量部である。
【0027】
上記単量体組成物の重合反応は、溶媒の存在下で行うことができる。該溶媒としては、単量体組成物を溶解し、単量体組成物と重合開始剤添加前に反応しないものが使用できる。例えば、水、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、含窒素系溶媒が挙げられる。アルコール系溶媒としてはメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等、ケトン系溶媒としてはアセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等、エステル系溶媒としては酢酸エチル等、エーテル系溶媒としてはエチルセロソルブ、テトラヒドロフラン、N−メチルピロリドン等、含窒素系溶媒としてはアセトニトリルニトロメタン等が挙げられる。好ましくは、水、アルコールまたはそれらの混合溶媒が挙げられる。
重合反応時の温度は、使用する重合開始剤や溶媒の種類によって、また所望の分子量によって適宜適した温度を選択すればよいが、40〜100℃の範囲が好ましい。
【0028】
次に、本発明のポリマーで生体適合性化すべき基材表面上に架橋体を形成する方法について説明する。
本発明のポリマーで基材上に架橋体を形成する場合、本発明のポリマーが溶解可能な適当な溶媒、例えば、水、生理食塩水、各種緩衝液(リン酸緩衝液や炭酸緩衝液など)、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノール、もしくはこれらを混合したものに溶解し、本発明のポリマーを目的の基材上に塗布すればよい。さらに好ましくはポリマーを0.02mg/cm
2以上存在させるのがよい。
架橋体を基材表面上に形成させるため、ポリマーが塗布された基材に200nmから360nmの紫外光を照射すればよい。さらに好ましくは、約254nmの光を照射するのがよい。
本発明の表面処理剤は、0.01wt%〜5wt%、好ましくは0.1wt%〜2.5wt%、より好ましくは0.1wt%〜1.0wt%の本発明のポリマーを含む。
【0029】
ここで用いられる基材としては、プロトンを引き抜くことができるものが好ましく、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、環状ポリオレフィン、ポリジメチルシロキサン、ポリエステル、ポリウレタンなどの各種プラスチック素材がよい。さらに、これら基材の形状は、その使用目的に応じた形状を有する。例えば、板状、シャーレ形状、多数の穴を持つ形状、精密な流路が形成された形状といった形状を持つ。
【0030】
本発明のポリマーから形成された架橋体は、高分子鎖間が架橋された三次元網目構造を有し、生体適合性、親水性、含水性、構造柔軟性、物質吸収性等に優れており、特に生体適合性に優れる。従って、本発明のポリマーから形成された架橋体を基材表面に形成させることにより、生体適合性を該基材に付与することができる。一般的に、ホスホリルコリン基が示す生体適合性は血液適合性であり、これは基材表面に蛋白質や細胞が吸着・接着しないことを特長としている。
そして、これらの性質を利用することで、架橋体の薬物の徐放担体や細胞の足場、表面修飾材料や、止血剤等の創傷治癒促進剤などの医療用具への展開が可能である。
本発明の医療用具の具体例としては、例えば、コンタクトレンズ、移植細胞の足場として機能する基材、創傷部被覆剤、創傷治癒促進剤、止血剤、薬物除放材、表面修飾材料、止血剤等、イムノクロマト、ELISAなどの診断薬用基材、シャーレ、マイクロプレート、フラスコ、バッグなどの細胞培養用基材、マイクロ流路、セル等を例示することができる。
【0031】
本発明は、本発明の表面処理剤を製造するための用途も対象とする。
下記式(1a)〜式(1c)で表される構成単位を有し、各構成単位の比率a、bおよびcが、a/(a+b+c)=0.30〜0.90、b/(a+b+c)=0.01〜0.69、c/(a+b+c)=0.01〜0.20であり、重量平均分子量が10,000〜1,000,000である共重合体を用いて表面処理剤を製造するための用途。
【0033】
【化15】
式中、nは3〜17である。
【0034】
【化16】
式中、Xは、−H又は−OH基である。
【実施例】
【0035】
以下、実施例に基づき本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、合成例中の各種測定は以下に示す方法に従って実施した。
【0036】
<重量平均分量の測定>
得られたポリマー5mgを、0.1mol/L硫酸ナトリウム水溶液1gへ溶解し、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により重量平均分量を測定する。測定条件は以下の通りである。
装置:RI−8020、DP−8020、SD−8022、AS−8020(以上東ソー(株)製)、865−CO(日本分光(株)製)、カラム:Shodex OHpak(昭和電工(株)製)、移動相:0.1mol/L硫酸ナトリウム水溶液、標準物質:プルラン、検出:視差屈折率計、重量平均分子量(Mw)の算出:分子量計プログラム(SC−8020用GPCプログラム)、流速1.0ml/分、カラム温度:40℃、試料溶液注入量:100μL、測定時間:30分間。
【0037】
〔合成例1〕
2−メタクリロイルオキシエチル−2−トリメチルアンモニオエチルホスフェート(MPC)18.2335g(0.0618mol)、メタクリル酸ブチル(BMA)19.0257g(0.134mol)、4−メタクリロイルオキシベンゾフェノン(MBP)2.7408g(0.0103mol)をエタノール(EtOH)155.1124gに溶解し、温度計と冷却管を付けた300mLの4つ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、65℃でアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)の10wt%EtOH溶液を4.8876g(2.98mmol)加えて6時間重合反応させることでモノマー仕込み組成からなるポリマーが得られた。反応終了後、ジエチルエーテルで沈殿精製した。得られたポリマーについて、
1H NMR、重量平均分子量の測定結果を以下および表1に示す。
<合成例1のポリマー>
(
1H NMR)
0.70−1.35 ppm(−
CH3)、1.35−2.60 ppm(−
CH2−C−、−O−CH
2−
CH2−
CH2−CH
3)、3.15−3.40 ppm(−N
+(
CH3)
3)、3.60−3.80 ppm(−
CH2−N
+(CH
3)
3)、3.80−4.15 ppm(−P−O−
CH2−、−C(O)−O−
CH2−CH
2−)、4.15−4.40 ppm(−O−
CH2−
CH2−O−P−)、7.20−8.00 ppm(−
C6H4−C(O)−
C6H5)
以上の結果より、式(2a)で示されるMPCに基づく比率が30mol%、式(2b)(n=3)で示されるBMAに基づく比率が65mol%、式(2c)で示されるMBPに基づく比率が5mol%で、重量平均分子量が18,000のポリマーであることを確認した。
【0038】
〔合成例2〕
MPC28.7540g(0.0974mol)、BMA6.9239g(0.0487mol)、MBP4.3221g(0.0162mol)をEtOH155.1124gに溶解し、温度計と冷却管を付けた300mLの4つ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、65℃でAIBNの10wt%EtOH溶液を4.8876g(2.98mmol)加えて6時間重合反応させることでモノマー仕込み組成からなるポリマーが得られた。反応終了後、ジエチルエーテルで沈殿精製した。得られたポリマーについて、
1H NMR、重量平均分子量の測定結果を以下および表1に示す。
<合成例2のポリマー>
(
1H NMR)
0.70−1.35 ppm(−
CH3)、1.35−2.60 ppm(−
CH2−C−、−O−CH
2−
CH2−
CH2−CH
3)、3.15−3.40 ppm(−N
+(
CH3)
3)、3.60−3.80 ppm(−
CH2−N
+(CH
3)
3)、3.80−4.15 ppm(−P−O−
CH2−、−C(O)−O−
CH2−CH
2−)、4.15−4.40 ppm(−O−
CH2−
CH2−O−P−)、7.20−8.00 ppm(−
C6H4−C(O)−
C6H5)
以上の結果より、式(2a)で示されるMPCに基づく比率が60mol%、式(2b)(n=3)で示されるBMAに基づく比率が30mol%、式(2c)で示されるMBPに基づく比率が10mol%で、重量平均分子量が118,000のポリマーであることを確認した。
【0039】
〔合成例3〕
MPC35.5350g(0.120mol)、BMA4.0644g(0.0286mol)、MBP0.4006g(0.00150mol)をEtOH155.1124gに溶解し、温度計と冷却管を付けた300mLの4つ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、65℃でAIBNの10wt%EtOH溶液を4.8876g(2.98mmol)加えて6時間重合反応させることでモノマー仕込み組成からなるポリマーが得られた。反応終了後、ジエチルエーテルで沈殿精製した。得られたポリマーについて、
1H NMR、重量平均分子量の測定結果を以下および表1に示す。
<合成例3のポリマー>
(
1H NMR)
0.70−1.35 ppm(−
CH3)、1.35−2.60 ppm(−
CH2−C−、−O−CH
2−
CH2−
CH2−CH
3)、3.15−3.40 ppm(−N
+(
CH3)
3)、3.60−3.80 ppm(−
CH2−N
+(CH
3)
3)、3.80−4.15 ppm(−P−O−
CH2−、−C(O)−O−
CH2−CH
2−)、4.15−4.40 ppm(−O−
CH2−
CH2−O−P−)、7.20−8.00 ppm(−
C6H4−C(O)−
C6H5)
以上の結果より、式(2a)で示されるMPCに基づく比率が80mol%、式(2b)(n=3)で示されるBMAに基づく比率が19mol%、式(2c)で示されるMBPに基づく比率が1mol%で、重量平均分子量が145,000のポリマーであることを確認した。
【0040】
〔合成例4〕
MPC34.1025g(0.116mol)、BMA2.0529g(0.0144mol)、MBP3.8446g(0.0144mol)をEtOH115.1124gに溶解し、温度計と冷却管を付けた300mLの4つ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、60℃でAIBNの10wt%EtOH溶液を4.8876g(2.98mmol)加えて6時間重合反応させることでモノマー仕込み組成からなるポリマーが得られた。反応終了後、ジエチルエーテルで沈殿精製した。得られたポリマーについて、
1H NMR、重量平均分子量の測定結果を以下および表1に示す。
<合成例4のポリマー>
(
1H NMR)
0.70−1.35 ppm(−
CH3)、1.35−2.60 ppm(−
CH2−C−、−O−CH
2−
CH2−
CH2−CH
3)、3.15−3.40 ppm(−N
+(
CH3)
3)、3.60−3.80 ppm(−
CH2−N
+(CH
3)
3)、3.80−4.15 ppm(−P−O−
CH2−、−C(O)−O−
CH2−CH
2−)、4.15−4.40 ppm(−O−
CH2−
CH2−O−P−)、7.20−8.00 ppm(−
C6H4−C(O)−
C6H5)
以上の結果より、式(2a)で示されるMPCに基づく比率が80mol%、式(2b)(n=3)で示されるBMAに基づく比率が10mol%、式(2c)で示されるMBPに基づく比率が10mol%で、重量平均分子量が520,000のポリマーであることを確認した。
【0041】
〔合成例5〕
MPC32.7810g(0.111mol)、BMA0.1973g(0.00139mol)、MBP7.0217g(0.0264mol)をEtOH155.1124gに溶解し、温度計と冷却管を付けた300mLの4つ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、65℃でAIBNの10wt%EtOH溶液を4.8876g(2.98mmol)加えて6時間重合反応させることでモノマー仕込み組成からなるポリマーが得られた。反応終了後、ジエチルエーテルで沈殿精製した。得られたポリマーについて、
1H NMR、重量平均分子量の測定結果を以下および表1に示す。
<合成例5のポリマー>
(
1H NMR)
0.70−1.35 ppm(−
CH3)、1.35−2.60 ppm(−
CH2−C−、−O−CH
2−
CH2−
CH2−CH
3)、3.15−3.40 ppm(−N
+(
CH3)
3)、3.60−3.80 ppm(−
CH2−N
+(CH
3)
3)、3.80−4.15 ppm(−P−O−
CH2−、−C(O)−O−
CH2−CH
2−)、4.15−4.40 ppm(−O−
CH2−
CH2−O−P−)、7.20−8.00 ppm(−
C6H4−C(O)−
C6H5)
以上の結果より、式(2a)で示されるMPCに基づく比率が80mol%、式(2b)(n=3)で示されるBMAに基づく比率が1mol%、式(2c)で示されるMBPに基づく比率が19mol%で、重量平均分子量が135,000のポリマーであることを確認した。
【0042】
〔合成例6〕
MPC28.5686g(0.0968mol)、BMA6.8793g(0.0484mol)、MHP4.5521g(0.0161mol)をEtOH155.1124gに溶解し、温度計と冷却管を付けた300mLの4つ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、65℃でAIBNの10wt%EtOH溶液を4.8876g(2.98mmol)加えて6時間重合反応させることでモノマー仕込み組成からなるポリマーが得られた。反応終了後、ジエチルエーテルで沈殿精製した。得られたポリマーについて、
1H NMR、重量平均分子量の測定結果を以下および表1に示す。
<合成例6のポリマー>
(
1H NMR)
0.70−1.35 ppm(−
CH3)、1.35−2.60 ppm(−
CH2−C−、−O−CH
2−
CH2−
CH2−CH
3)、3.15−3.40 ppm(−N
+(
CH3)
3)、3.60−3.80 ppm(−
CH2−N
+(CH
3)
3)、3.80−4.15 ppm(−P−O−
CH2−、−C(O)−O−
CH2−CH
2−)、4.15−4.40 ppm(−O−
CH2−
CH2−O−P−)、7.20−8.00 ppm(−
C6H3(OH)−C(O)−
C6H5)
以上の結果より、式(2a)で示されるMPCに基づく比率が60mol%、式(2b)(n=3)で示されるBMAに基づく比率が30mol%、式(2c)で示されるMHPに基づく比率が10mol%で、重量平均分子量が120,000のポリマーであることを確認した。
【0043】
〔合成例7〕
MPC31.8408g(0.108mol)、ステアリルメタクリレート(SMA)4.5696g(0.0135mol)、MBP3.5896g(0.0135mol)をEtOH155.1124gに溶解し、温度計と冷却管を付けた300mLの4つ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、65℃でAIBNの10wt%EtOH溶液を4.8876g(2.98mmol)加えて6時間重合反応させることでモノマー仕込み組成からなるポリマーが得られた。反応終了後、ジエチルエーテルで沈殿精製した。得られたポリマーについて、
1H NMR、重量平均分子量の測定結果を以下および表1に示す。
<合成例7のポリマー>
(
1H NMR)
0.70−1.35 ppm(−
CH3)、1.35−2.60 ppm(−
CH2−C−、−O−CH
2−(
CH2)
16−CH
3)、3.15−3.40 ppm(−N
+(
CH3)
3)、3.60−3.80 ppm(−
CH2−N
+(CH
3)
3)、3.80−4.15 ppm(−P−O−
CH2−、−C(O)−O−
CH2−CH
2−)、4.15−4.40 ppm(−O−
CH2−
CH2−O−P−)、7.20−8.00 ppm(−
C6H4−C(O)−
C6H5)
以上の結果より、式(2a)で示されるMPCに基づく比率が80mol%、式(2b)(n=17)で示されるSMAに基づく比率が10mol%、式(2c)で示されるMBPに基づく比率が10mol%で、重量平均分子量が120,000のポリマーであることを確認した。
【0044】
〔比較合成例1〕
MPC40.0000g(0.136mol)をEtOH155.1124gに溶解し、温度計と冷却管を付けた300mLの4つ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、65℃でAIBNの10wt%EtOH溶液を4.8876g(2.98mmol)加えて、6時間重合反応させることでモノマー仕込み組成からなるポリマーが得られた。反応終了後、ジエチルエーテルで沈殿精製した。得られたポリマーについて、合成例1と同様に各測定を行った。
1H NMR、重量平均分子量の測定結果を以下および表1に示す。
<比較合成例1のポリマー>
(
1H NMR)
0.70−1.45 ppm(−
CH3)、1.45−2.60 ppm(−
CH2−C−)、3.20−3.40 ppm(−N
+(
CH3)
3)、3.60−3.80 ppm(−
CH2−N
+(CH
3)
3)、4.00−4.15 ppm(−P−O−
CH2−)、4.15−4.40 ppm(−O−
CH2−
CH2−O−P−)
以上の結果より、式(2a)に示されるMPCに基づく比率が100mol%で、重量平均分子量が188,000のポリマーであることを確認した。
【0045】
〔比較合成例2〕
MPC35.9400g(0.122mol)、BMA4.0600g(0.0286mol)をEtOH155.1124gに溶解し、温度計と冷却管を付けた300mLの4つ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、65℃でAIBNの10wt%EtOH溶液を4.8876g(2.98mmol)加えて6時間重合反応させることでモノマー仕込み組成からなるポリマーが得られた。反応終了後、ジエチルエーテルで沈殿精製した。得られたポリマーについて、
1H NMR、重量平均分子量の測定結果を以下および表1に示す。
<比較合成例2のポリマー>
(
1H NMR)
0.70−1.35 ppm(−
CH3)、1.35−2.60 ppm(−
CH2−C−、−O−CH
2−
CH2−
CH2−CH
3)、3.15−3.40 ppm(−N
+(
CH3)
3)、3.60−3.80 ppm(−
CH2−N
+(CH
3)
3)、3.80−4.15 ppm(−P−O−
CH2−、−C(O)−O−
CH2−CH
2−)、4.15−4.40 ppm(−O−
CH2−
CH2−O−P−)
以上の結果より、式(2a)で示されるMPCに基づく比率が81mol%、式(2b)で示されるBMAに基づく比率が19mol%で、重量平均分子量が138,000のポリマーであることを確認した。
【0046】
<比較合成例3>
MPC18.2000g(0.0616mol)、ベンゾフェノン基を有しないアミノエチルメタクリレート(AEMA)1.2000g(7.25mmol)を80.0gイオン交換水に溶解し、温度計と冷却管を付けた300mLの4つ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、60℃で2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(V−50)を0.1492g(0.550mmol)加えて8時間重合反応させることでモノマー仕込み組成からなるポリマーが得られた。反応終了後、透析精製した。得られたポリマーの化学構造について、
1H NMRにより確認した。また、重量平均分子量の測定結果を以下および表1に示す。
<比較合成例3のポリマー>
(
1H NMR)
0.70−1.45 ppm(−
CH3)、1.45−2.60 ppm(−
CH2−C−)、3.20−3.40 ppm(−N
+(
CH3)
3)、3.20−3.50 ppm(−
CH2−NH
2)、3.60−3.80 ppm(−
CH2−N
+(CH
3)
3)、4.00−4.15 ppm(−P−O−
CH2−)、4.15−4.40 ppm(−C(O)−O−
CH2−、−O−
CH2−
CH2−O−P−)
以上の結果より、式(2a)で示されるMPCに基づく比率が90mol%、AEMAに基づく比率が10mol%で、重量平均分子量が800,000のポリマーであることを確認した。
【0047】
【表1】
【0048】
〔実施例1−1−1〕
合成例1のポリマーをエタノールに0.5wt%となるように溶解し、ポリスチレン製96ウェルプレート(ワトソン社製)のウェル底面に対して、0.02mg/cm
2となるようにポリマー被膜を形成させた後に、DNA−FIX((株)アトー科学機器製)を用いて254nmの光を7分間照射した。光照射後、エタノールを200μL/well加え、室温にて2時間静置した。その後、エタノールを除去し、新たなエタノールを200μL/well加え、除去するという洗浄工程を3回行った。エタノールによる洗浄後、DULBECCO'S PHOSPHATE BUFFERED SALINE(以下PBSとする)で24000倍希釈したHRP標識IgG(BioRad社製)を100μL/well加え、室温にて1時間静置した。ウェル内のHRP標識IgG溶液を除去し、0.05%Tween20の入ったリン酸緩衝液を200μL/well加え、除去する洗浄工程を4回繰り返した。洗浄後に、HRP用発色液(KPL社製)を100μL/well加え、室温にて10分間反応させ、10分後に2N硫酸を50μL/well加えることで反応を停止させ、450nmの吸光度を測定することでウェル内に吸着した蛋白質を検出した。
【0049】
〔実施例1−1−2〕
合成例1のポリマーを用い、ウェル内のポリマー量が0.08mg/cm
2となるように調製し、実施例1−1−1と同様の実験を行った。
〔実施例1−1−3〕
合成例1のポリマーを用い、ウェル内のポリマー量が0.12mg/cm
2となるように調製し、実施例1−1−1と同様の実験を行った。
〔実施例1−2−1〜1−7−3〕
合成例2〜7のポリマーを用い、ウェル内のポリマー量が0.02、0.08、0.12mg/cm
2となるように調製し、実施例1−1−1と同様の実験を行った。
【0050】
〔比較例1−1−1〜1−3−3〕
比較合成例1、比較合成例2と比較合成例3のポリマーを用い、ウェル内のポリマー量が0.02、0.08、0.12mg/cm
2となるように調製し、実施例1−1−1と同様の実験を行った。
〔比較例1−4〕
ポリマー被膜のないポリスチレン製96ウェルプレート(ワトソン社製)を用いて比較例1−1−1と同様の実験を行った。
ポリマー被膜のないウェルの吸光度を蛋白質吸着率100%として、実施例1−1−1〜1−7−3と比較例1−1−1〜1−3−3の蛋白質吸着率を算出した。
以上により、表2に吸光度と蛋白質吸着率を示した。
【0051】
表2から明らかなように、合成例1〜7のポリマーの架橋体を基材表面に形成させ、光を照射することにより、蛋白質(HRP標識IgG)の吸着を抑制する基材表面を形成できたことを確認した。
一方、比較合成例1(疎水性構成単位、光反応性構成単位を有しないポリマー)、比較合成例2(光反応性構成単位を有しないポリマー)及び比較合成例3(疎水性構成単位を有さず、ベンゾフェノン基を有しないがアミノ基を有するポリマー)においては、光照射により、基材表面にポリマー架橋体が形成されないために、蛋白質が接着してしまう結果となった。
以上の結果より、本発明の架橋体は、基材表面への光照射により蛋白質が吸着しない生体適合性を付与できることを確認した。
【0052】
【表2】
【0053】
〔実施例2−1−1〕
合成例1のポリマーをエタノールに0.5wt%となるように溶解し、ポリスチレン製96ウェルプレート(ワトソン社製)にウェル底面に対して、0.02mg/cm
2となるようにポリマー被膜を形成させた後に、DNA−FIX((株)アトー科学機器)を用いて254nmの光を7分間照射した。光照射後、エタノールを200μL/well加え、室温にて2時間静置した。その後、エタノールを除去し、新たなエタノールを200μL/well加え、除去するという洗浄工程を3回行い、クリーンベンチ内にてUVランプを照射しながら3時間乾燥させた。10%牛胎児血清(GIBCO社製)と1%ペニシリン−ストレプトマイシン(Sigma社製)を含むMEMα培地(Invitrogen社製、以下P19培地とする)を用いた培養したマウス胚性癌細胞P19.CL6細胞(以下P19とする)を0.25%トリプシン処理により回収し、P19培地にて5000cells/mLに希釈し、それを100μL/well播種し、37℃の5%CO
2インキュベーター(以下インキュベーター)で3日間培養した。3日後培地を除去し、0.5mg/mLのMTTを含むP19培地を100μL/well加え、インキュベーターにて1時間培養した。1時間後培地を除去し、静かにPBSを100μL/well加え、PBSを除去した。その後、ジメチルスルホキシド(キシダ化学製)を100μL/well加え、室温で10分間振盪しながら色素を抽出し、マイクロプレートリーダー(SPECTRA Max M3、Molecular Devices社製)を用いて570nmの吸光度を測定した。
【0054】
〔実施例2−1−2〕
合成例1のポリマーを用い、ウェル内のポリマー量が0.08mg/cm
2となるように調製し、実施例2−1−1と同様の実験を行った。
〔実施例2−1−3〕
合成例1のポリマーを用い、ウェル内のポリマー量が0.12mg/cm
2となるように調製し、実施例2−1−1と同様の実験を行った。
〔実施例2−2−1〜2−5−3〕
合成例1、2、3、6、7のポリマーを用い、ウェル内のポリマー量が0.02、0.08、0.12mg/cm
2となるように調製し、実施例2−1−1と同様の実験を行った。
【0055】
〔比較例2−1−1〜2−3−3〕
比較合成例1、比較合成例2と比較合成例3のポリマーを用い、ウェル内のポリマー量が0.02、0.08、0.12mg/cm
2となるように調製し、実施例2−1−1と同様の実験を行った。
〔比較例2−4〕
ポリマー被膜のないポリスチレン製96ウェルプレート(ワトソン社製)を用いて比較例1−1−1と同様の実験を行った。
ポリマー被膜のないウェル(比較例2−4)の吸光度を細胞接着率100%として、実施例2−1−1〜2−5−3と比較例2−1−1〜2−3−3の細胞接着率を算出した。
以上により、表3に得られた吸光度と細胞接着率を示した。
【0056】
【表3】
【0057】
表3から明らかなように、合成例1、2、3、6、7のポリマーから成る架橋体を基材表面に形成させ、光を照射することにより、細胞の接着を抑制する基材表面を形成できることを確認した。
一方、比較合成例1(疎水性構成単位、光反応性構成単位を有しないポリマー)、比較合成例2(光反応性構成単位を有しないポリマー)及び比較合成例3(疎水性構成単位を有さず、ベンゾフェノン基を有しないがアミノ基を有するポリマー)においては、光照射により、基材表面にポリマー架橋体が形成されないために、細胞が接着してしまう結果となった。
以上の結果より、本発明の架橋体は、基材表面への光照射により細胞が吸着しない生体適合性を付与できることを確認した。
【0058】
以上の結果より、本発明の架橋体には、蛋白質、細胞等が接着しないことを確認した。これにより本発明の架橋体を含む医療用具は、高い生体適合性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0059】
新規な共重合体及び該共重合体より形成される架橋体を提供することができる。