特許第6591301号(P6591301)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6591301水上ロボットの位置制御システムおよび位置制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6591301
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】水上ロボットの位置制御システムおよび位置制御方法
(51)【国際特許分類】
   B63H 25/04 20060101AFI20191007BHJP
   B63C 11/00 20060101ALI20191007BHJP
   B63B 21/16 20060101ALI20191007BHJP
   B63B 21/64 20060101ALI20191007BHJP
   B63B 49/00 20060101ALI20191007BHJP
   B63H 25/26 20060101ALI20191007BHJP
   B63H 25/42 20060101ALI20191007BHJP
   B63H 25/52 20060101ALI20191007BHJP
   G01C 15/00 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   B63H25/04 Z
   B63C11/00 A
   B63B21/16
   B63B21/64
   B63B49/00 Z
   B63H25/26
   B63H25/42 F
   B63H25/52
   G01C15/00 102C
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-13724(P2016-13724)
(22)【出願日】2016年1月27日
(65)【公開番号】特開2017-132358(P2017-132358A)
(43)【公開日】2017年8月3日
【審査請求日】2018年10月17日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年9月15日北海道大学において開催された日本機械学会2015年度年次大会で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年9月12日 日本機械学会2015年度年次大会において発行された日本機械学会2015年度年次大会DVD論文集 講演番号 G1500403にて公開
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「インフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト/インフラ維持管理用ロボット技術・非破壊検査装置開発/可変構成型水中調査用ロボットの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有隅 仁
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晋
【審査官】 杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−020382(JP,A)
【文献】 特開平06−263086(JP,A)
【文献】 特開2005−096771(JP,A)
【文献】 特開2013−100027(JP,A)
【文献】 特開2010−105551(JP,A)
【文献】 特開平11−129978(JP,A)
【文献】 特開2011−11734(JP,A)
【文献】 特開平11−129991(JP,A)
【文献】 特開2005−255058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 25/04
B63B 21/16
B63B 21/64
B63B 49/00
B63C 11/00
B63H 25/26
B63H 25/42
B63H 25/52
G01C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陸地側に設置された少なくとも1個の係留装置と、前記係留装置から繰出・巻取られるワイヤと、ワイヤ先端に結合された水上ロボットと、前記水上ロボットに設けた少なくとも1個のラダーを有し、かつ、前記係留装置と前記ラダーを合わせて3つ以上備えてなる水上ロボットの位置制御システムであって、
前記係留装置は、ワイヤの繰出・巻取を制御する係留装置制御手段を備え、
前記水上ロボットは、水上ロボットの位置及び姿勢を検知するGPS・慣性計測装置と、前記ラダーの角度検知手段と、前記ラダーを駆動制御するラダー制御手段を備え、
前記係留装置制御手段及び前記ラダー制御手段は、各々の制御装置の情報を相互に送受信する通信システムを備え、前記係留装置制御手段及び前記ラダー制御手段により水上ロボットの位置を制御目標に制御することを特徴とする水上ロボットの位置制御システム。
【請求項2】
陸地側に設置された少なくとも1個の係留装置と、前記係留装置から繰出・巻取られるワイヤと、ワイヤ先端に結合された水上ロボットと、前記水上ロボットに設けた少なくとも1個のラダーを有し、さらに、ワイヤ先端と前記水上ロボットの結合点に設けたワイヤ結合点移動機構、水上ロボットの重心移動機構、前記ラダーの設置位置を移動可能なラダー移動機構の3つの移動機構のうち少なくとも1つの移動機構を備えてなる水上ロボットの位置制御システムであって、
前記係留装置は、ワイヤの繰出・巻取を制御する係留装置制御手段を備え、
前記水上ロボットは、水上ロボットの位置及び姿勢を検知するGPS・慣性計測装置と、前記ラダーの角度検知手段と、前記ラダーを駆動制御するラダー制御手段を備え、
前記係留装置制御手段及び前記ラダー制御手段は、各々の制御装置の情報を相互に送受信する通信システムを備え、前記係留装置制御手段及び前記ラダー制御手段により水上ロボットの位置を制御目標に制御することを特徴とする水上ロボットの位置制御システム。
【請求項3】
請求項1記載の水上ロボットの位置制御システムにおいて、
陸地側に設置された前記係留装置を1個と、前記ラダー2個を備え、当該2個のラダーは、船尾側に2個設けるか、または、船尾側に1個及び船首側に1個設けたことを特徴とする水上ロボットの位置制御システム。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかに記載の水上ロボットの位置制御システムにおいて、
前記ラダーの駆動系にウォームギアを用いたことを特徴とする水上ロボットの位置制御システム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の水上ロボットの位置制御システムにおいて、
前記水上ロボットは、さらに、スラスタを備えていることを特徴とする水上ロボットの位置制御システム。
【請求項6】
陸地側に設置された少なくとも1個の係留装置と、前記係留装置から繰出・巻取られるワイヤと、ワイヤ先端に結合された水上ロボットと、前記水上ロボットに設けた少なくとも1個のラダーを有し、かつ、前記係留装置と前記ラダーを合わせて3つ以上備え、水上ロボットの位置及び姿勢を検知するGPS・慣性計測装置及び前記ラダーの角度検知手段を有する水上ロボットの位置制御方法であって、
係留装置制御手段によりワイヤの繰出・巻取を駆動制御し、ラダー制御手段により前記ラダーを駆動制御するとともに、
前記係留装置制御手段及び前記ラダー制御手段は、各々の制御手段の情報を相互に送受信して、水上ロボットの位置を制御目標に制御することを特徴とする水上ロボットの位置制御方法。
【請求項7】
陸地側に設置された少なくとも1個の係留装置と、前記係留装置から繰出・巻取られるワイヤと、ワイヤ先端に結合された水上ロボットと、前記水上ロボットに設けた少なくとも1個のラダーを有し、さらに、ワイヤ先端と前記水上ロボットの結合点に設けたワイヤ結合点移動機構、水上ロボットの重心移動機構、前記ラダーの設置位置を移動可能なラダー移動機構の3つの移動機構のうち少なくとも1つの移動機構を備え、水上ロボットの位置及び姿勢を検知するGPS・慣性計測装置及び前記ラダーの角度検知手段を有する水上ロボットの位置制御方法であって、
係留装置制御手段によりワイヤの繰出・巻取を駆動制御し、ラダー制御手段により前記ラダーを駆動制御するとともに、
前記係留装置制御手段及び前記ラダー制御手段は、各々の制御手段の情報を相互に送受信して、水上ロボットの位置を制御目標に制御することを特徴とする水上ロボットの位置制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水上/水中環境の調査に用いる水中調査用ロボットの位置制御に関し、特に、ラダーを備えた水上ロボットと陸地に設置した係留装置をワイヤで連結してなる水中調査用ロボットの位置制御システムおよび位置制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
河川施設の調査対象として河床・護床や護岸・擁壁、橋脚・橋台、堰のゲート部があるが、河川では水量や水流の変化などがこれらの対象に悪影響を与える。例えば、河川に架かる橋の橋台・橋脚基礎で河床が洗掘され、その結果、橋梁の崩落が起きうる。また、河川の増水や流れによる浸食、運ばれて堆積した土砂等により、護岸や堤防に長時間に渡り負荷がかかり、これらを保護する水制が破損することなどによる決壊が起きうる。そこで、橋脚基礎の洗掘状況把握や護岸の点検は、従来、人がウォーターバイクに乗りながら水中カメラを降ろして対象箇所を点検したり、流水下でダイバーが潜水して目視点検したりする方法が取られてきたが、調査費用が高い、人の安全を考慮する必要があるため流れが急なときや増水時は点検ができない、全国の橋の数に対してダイバー等の点検業者の数が不足している、などの問題があったが、現時点では、河川における水中調査作業に対して、未だロボット等による自動化技術は確立されていないのが現状であった。
そこで、本発明者等は、既に非特許文献1で、システムの機体やセンサ等の装置部をアタッチメント化(モジュール化)して、それらを環境や作業に応じて組み替えられる機能を有する可変構成システムを提案(図19参照)しており、例えば、図20に示すスラスタを備えた水上ロボットと、水上ロボットに設けたワイヤ操出・巻取装置と、ワイヤ先端に連結された水中ロボットと、水中ロボットに搭載された環境測定器からなる可変構成型水中調査用ロボット、あるいは、図21に示す陸地側に設置された係留装置と、係留装置から操出・巻取されるワイヤと、ワイヤ先端に連結されスラスタを備えた水上ロボットと、水上ロボットの船底に搭載されたソナーあるいは曳航する水中カメラからなる可変構成型水中調査用ロボット等を提案している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】“可変構成型水中調査用ロボットの研究開発−無人水上航行機による河床状況把握−”有隅仁他2名,Proceedings of the 2015 JSME Conference on Robotics and Mechatronics, Kyoto, Japan, May 17-19,2015
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−000596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図20の構成では、水上ロボットの位置はGPS及び慣性計測装置で割り出せるが水中ロボットの位置がワイヤの湾曲やたわみがあると正確に同定することが難しい、また、スラスタ駆動のため駆動源となるバッテリー電力の消耗が早い、また、水上ロボットは自立航行をさせるため水流の急変などで転覆や遠方に流されて行方不明になる恐れがある等の問題点があった。図21の構成では、陸地側からワイヤで水上ロボットを係留しているので行方不明になるおそれはなく、ワイヤ張力で水流による流体抗力の一部を支持するのでバッテリー電力の消耗は幾分抑えられるが、位置を保つためにはスラスタを駆動させねばならず依然としてスラスタ駆動のためバッテリー電力の消耗が問題となる。さらに、スラスタ駆動のため、スラスタによって発生する気泡やスラスタの回転音などによりソナー等の測定データにノイズが含まれる問題があった。一方、特許文献1には、空中ラダーと呼ばれる回転可能なプロペラを船首側に設けることにより、気泡を発生させずに直進、後進、旋回が可能な船舶が提案されているが、流水下で航行・停留するためには、常時、プロペラを駆動し続ける必要があり、電力消費が早いという問題があった。
そこで、本発明が解決しようとする課題は、上記問題点を解決した水中調査用の水上ロボットの位置制御システムおよび位置制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記問題点を解決するために、本発明では、従来のスラスタや空中プロペラによる水上ロボットの位置制御に代えて、水上ロボットに設けたラダー機構と陸地側に設けた係留装置、係留装置から繰り出され水上ロボットに繋がるワイヤを採用した点に特徴がある。
すなわち、本発明は、陸地側に設置された少なくとも1個の係留装置と、前記係留装置から繰出・巻取られるワイヤと、ワイヤ先端に結合された水上ロボットと、前記水上ロボットに設けた少なくとも1個のラダーを有し、かつ、前記係留装置と前記ラダーを合わせて3つ以上備えてなる水上ロボットの位置制御システムであって、
前記係留装置は、ワイヤの繰出・巻取を制御する係留装置制御手段を備え、
前記水上ロボットは、水上ロボットの位置及び姿勢を検知するGPS・慣性計測装置と、前記ラダーの角度検知手段と、前記ラダーを駆動制御するラダー制御手段を備え、
前記係留装置制御手段及び前記ラダー制御手段は、各々の制御装置の情報を相互に送受信する通信システムを備え、前記係留装置制御手段及び前記ラダー制御手段により水上ロボットの位置を制御目標に制御することを特徴とする。
また、本発明は、陸地側に設置された少なくとも1個の係留装置と、前記係留装置から繰出・巻取られるワイヤと、ワイヤ先端に結合された水上ロボットと、前記水上ロボットに設けた少なくとも1個のラダーを有し、さらに、ワイヤ先端と前記水上ロボットの結合点に設けたワイヤ結合点移動機構、水上ロボットの重心移動機構、前記ラダーの設置位置を移動可能なラダー移動機構の3つの移動機構のうち少なくとも1つの移動機構を備えてなる水上ロボットの位置制御システムであって、
前記係留装置は、ワイヤの繰出・巻取を制御する係留装置制御手段を備え、
前記水上ロボットは、水上ロボットの位置及び姿勢を検知するGPS・慣性計測装置と、前記ラダーの角度検知手段と、前記ラダーを駆動制御するラダー制御手段を備え、
前記係留装置制御手段及び前記ラダー制御手段は、各々の制御装置の情報を相互に送受信する通信システムを備え、前記係留装置制御手段及び前記ラダー制御手段により水上ロボットの位置を制御目標に制御することを特徴とする。
また、本発明は上記水上ロボットの位置制御システムにおいて、
陸地側に設置された前記係留装置を1個と、前記ラダー2個を備え、当該2個のラダーは、船尾側に2個設けるか、または、船尾側に1個及び船首側に1個設けたことを特徴とする。
また、本発明は上記水上ロボットの位置制御システムにおいて、
前記ラダーの駆動系にウォームギアを用いたことを特徴とする。
また、本発明は上記水上ロボットの位置制御システムにおいて、
前記水上ロボットは、さらに、スラスタを備えていることを特徴とする。
また、本発明は、陸地側に設置された少なくとも1個の係留装置と、前記係留装置から繰出・巻取られるワイヤと、ワイヤ先端に結合された水上ロボットと、前記水上ロボットに設けた少なくとも1個のラダーを有し、かつ、前記係留装置と前記ラダーを合わせて3つ以上備え、水上ロボットの位置及び姿勢を検知するGPS・慣性計測装置及び前記ラダーの角度検知手段を有する水上ロボットの位置制御方法であって、
係留装置制御手段によりワイヤの繰出・巻取を駆動制御し、ラダー制御手段により前記ラダーを駆動制御するとともに、
前記係留装置制御手段及び前記ラダー制御手段は、各々の制御手段の情報を相互に送受信して、水上ロボットの位置を制御目標に制御することを特徴とする。
また、本発明は、陸地側に設置された少なくとも1個の係留装置と、前記係留装置から繰出・巻取られるワイヤと、ワイヤ先端に結合された水上ロボットと、前記水上ロボットに設けた少なくとも1個のラダーを有し、さらに、ワイヤ先端と前記水上ロボットの結合点に設けたワイヤ結合点移動機構、水上ロボットの重心移動機構、前記ラダーの設置位置を移動可能なラダー移動機構の3つの移動機構のうち少なくとも1つの移動機構を備え、水上ロボットの位置及び姿勢を検知するGPS・慣性計測装置及び前記ラダーの角度検知手段を有する水上ロボットの位置制御方法であって、
係留装置制御手段によりワイヤの繰出・巻取を駆動制御し、ラダー制御手段により前記ラダーを駆動制御するとともに、
前記係留装置制御手段及び前記ラダー制御手段は、各々の制御手段の情報を相互に送受信して、水上ロボットの位置を制御目標に制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、水上ロボットの位置制御を、従来のスラスタや空中プロペラの駆動に代えて、水上ロボットに設けたラダーと陸地側に設けた係留装置、係留装置から繰り出され水上ロボットに連結するワイヤを用いて行うため、船底に装着したソナーが気泡や推進装置(スラスタ)の発生音に影響されることがない。また、ラダー角度ならびにワイヤを機構的に保持する機構を採用したので、常時、推進装置を駆動する必要がなく、電力消費を抑えることができる。さらに、水上ロボットが陸地側に設置された係留装置とワイヤを介して繋がっているので、流水下で水上ロボットが流されて破損や転覆、喪失する危険性が回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、ワイヤ(wire)の係留装置(mooring system)とラダー(rudder)による本発明の水上ロボットの位置制御システムの基本モデル(係留装置1とラダー2)における水上ロボットの運動を説明した図である。
図2図2は、図1の本発明の基本モデルを用いた目標運動の制御例1を示した図である。
図3図3は、本発明の基本モデルを係留装置1とラダー1の場合について説明した図である。
図4図4は、本発明の基本モデル(係留装置1とラダー1とラダー移動機構)における制御システムを説明した図である。
図5図5は、本発明の基本モデル(係留装置1とラダー1とワイヤ結合点移動機構)における制御システムを説明した図である。
図6図6は、本発明の基本モデル(係留装置1とラダー1と重心移動機構)における制御システムを説明した図である。
図7図7は、本発明の本発明の基本モデル(係留装置1とラダー2)における制御システムにおいて、ラダーを船尾側と船首側に設けた例を説明した図である。
図8図8は、本発明の本発明の基本モデル(係留装置1とラダー2)を用いて、係留装置を支点にして円弧上を移動させる例を示した図である。
図9図9は、本発明の基本モデル(係留装置1とラダー2)で、ワイヤ長可変の目標運動の制御例を説明した図である。
図10図10は、本発明の位置制御システムの基本構成を説明した図である。
図11図11は、ソナーのビームを振る方向を示した図であり、通常は船体の進行方向に垂直な方向で、かつ左右均等の角度で振る。
図12図12は、本発明の基本モデル(係留装置1とラダー2)を用いてソナーによる地形マップの生成する際の操船例。
図13図13は、本発明の基本モデル(係留装置2とラダー1)を説明した図である。
図14図14は、図13で片方のワイヤをアンカーで河底に固定しこのワイヤを水上ロボット側で繰出・巻取り制御する本発明の構成例。
図15図15は、本発明の基本モデル(係留装置1とラダー2)で、さらにスラスタを追加し、モジュール化した構成例。船底にソナーや水中観測機が搭載できる。
図16図16は、図15の装置で直線移動と波状移動を行わせる例。
図17図17は、図15の装置で橋脚の洗堀を観測する例。
図18図18は、本発明のラダー駆動系に用いるウォームとウォームホイール(ウォームギア)の例。
図19図19は、発明者等が既に非特許文献1で提案した従来のモジュール化した可変構成型水中調査用ロボットの基本構成。
図20図20は、発明者等が既に非特許文献1で提案した従来の可変構成型水中調査用ロボットによる、実際の作業に照らした構成例である。
図21図21は、発明者等が既に非特許文献1で提案した従来の可変構成型水中調査用ロボットによる、実際の作業に照らした係留装置を用いた構成例である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
一般に流水下の水上ロボットに作用する力として重力、浮力、流体抗力、揚力などが挙げられるが、ここでは鉛直方向の運動は無視し、水平面運動では主に流体抗力と揚力が働くとする。また、抗力と揚力の合力を流体作用力と呼び、水上ロボットに作用する水平方向の外力は流体作用力とワイヤに発生する張力とする。さらに、水上ロボットはi本のワイヤで係留され、水上ロボットにはk個のラダーが装備されていると仮定する。図1はi=1,k=2の場合を示す。図1に示すように、船体の喫水部(draft)が受ける流体作用力ベクトルをFd、ワイヤh(ただしh=1,2,…,i)の張力ベクトルの水平方向成分をFc(h)、ならびにラダーj(ただしh=1,2,…,k)が受ける流体作用力ベクトルの水平方向成分をFr(j)、船体の質量をmb、慣性モーメントをIb、水上ロボットの重心Gの位置ベクトルおよび姿勢ベクトルを、
水上ロボットの重心Gから水上ロボットの喫水部、ワイヤh、ラダーjのそれぞれの流体作用力が作用する各点までの位置ベクトルを、
とする。このとき水上ロボットの重心Gに作用する力ベクトルFbとモーメントベクトルMbは次式で表される。
したがって、水上ロボットの運動方程式は以下のようになる。
なお、流体作用力ベクトルFd、Fr(j)はそれぞれ抗力ベクトルfDd、fDr(j)揚力ベクトルfLd、fLr(j)に分けられ、次式で表すことができる。
ここで、以降においてXnという変数の表記がある場合、添え字nはdまたはrを表し、nがdの場合は水上ロボットの喫水部を、nがrの場合はラダーを表す変数Xであるとする。流体の密度をρ、物体(喫水部またはラダー)と流体の相対速度ベクトルをvn、流体の流れに垂直な面に対する物体(喫水部またはラダー)の射影面積をSDn、流体の流れに平行な面に対する物体(喫水部またはラダー)の射影面積をSLn、抗力係数をCDn、揚力係数をCLn、水平面内で相対速度ベクトルvnに垂直な単位ベクトルをepn、とすると、水上ロボットの喫水部とラダーに作用する抗力ベクトルfDnと揚力ベクトルfLnは次式で求まる。
よって、機構定数mb、Ibや密度ρを既知とし、係数CDn、CLnの値が実験等で与えられ、相対速度ベクトルvnや射影面積SDn、SLn、位置ベクトル
を算出でき、かつ全てのワイヤの張力ベクトルFc(h)をセンサ等により測定できる、あるいは全てのワイヤをバネ・ダンパなどでモデル化してその伸びからワイヤ張力ベクトルFc(h)を計算できるものとすると、水上ロボット重心にかかる合力Fb、合モーメントMbが求められるので、運動方程式により水上ロボットの時々刻々の位置・姿勢を算出できる。以上、運動方程式の2つの式と流体作用力の4つの式ならびに水上ロボットの形状モデルにより係留された水上ロボットの大まかな挙動を把握できる。
【実施例】
【0010】
(係留装置1個とラダー1個で構成された場合の目標運動の制御例1)
図2に目標運動の制御例1を示す。図2左に示すように、ワイヤの繰出点は水上ロボットの位置より高い位置となるが、ワイヤ長に比べ高さの差が小さいと仮定し、上方への運動は無視する。図2においては基礎的な検討のためにワイヤ長は一定とし、ラダーを制御して目標点へ円弧状に移動させる動作を取り上げることにする。ラダー角度は、目標ワイヤ角度から現在のワイヤ角度を引いた値(αg−αc)にゲインを掛けて現在のラダー角度に足し合わせるようにして制御する。
【0011】
(係留装置1個とラダー1個で構成された場合の目標運動の制御に関する問題)
上記段落0010で示した方法でワイヤ角度が目標値に到達して水上ロボットが停留した状態に対して、船体の姿勢を制御する場合、例えば図3のように船体軸を水流方向に対して平行にさせる場合を考える。まず、船体を静止させた状態で力のつり合いを保つためには、喫水部の流体作用力ベクトルFdとラダー1の流体作用力ベクトルFr(1)との合力の方向がワイヤ1と平行で、かつワイヤ1を引っ張る方向である必要があり、このときワイヤ張力F(1)はFdとFr(1)との合力の反力として現れる。したがって、ラダー1を適切な角度θr1で回転させることで、図3のようにベクトルFb=Fd+Fc(1)+Fc(1)=0とできるが、このときワイヤ張力Fc(1)とラダー1における流体作用力F(1)によって発生する水上ロボット重心G回りの各トルクは共に同じ方向となるので、合モーメントベクトルM≠0となり、船体の回転運動が起きて、船体軸を水流方向に対して平行にすることができない。
【0012】
(係留装置1個とラダー1個、ラダー移動機構で構成された場合の目標運動の制御例2)
一方、上記段落0010で示した方法でワイヤ角度が目標値に到達して水上ロボットが停留した状態に対して、ラダー移動機構によりラダー据付位置を図4に示すPrj1から適切な位置P’rj1へ移動させながらラダー1の角度を制御してベクトルFb=0で、かつ合モーメントベクトルMb=0となる状態にすると、図4に示すようにワイヤ角度が目標値αgの状態で、船体軸を水流方向に対して平行に、かつ船体が静止した状態にすることが可能となる。なお、ラダー据付位置の移動可能領域の設定の仕方などによっては、Fb=0、かつMb=0とできない場合がある。
【0013】
(係留装置1個とラダー1個、ワイヤ結合点移動機構で構成された場合の目標運動の制御例3)
同様に、上記段落0010で示した方法でワイヤ角度が目標値に到達して水上ロボットが停留した状態に対して、ワイヤ結合点移動機構によりワイヤの結合点位置を図5に示すPcjから適切な位置P’cjへ移動させながらラダー1の角度を制御してFb=0、かつMb=0となる状態にすると、図5に示すようにワイヤ角度が目標値αgの状態で、船体軸を水流方向に対して平行に、かつ船体が静止した状態にすることが可能となる。なお、ワイヤ結合点位置の移動可能領域の設定の仕方などによっては、Fb=0、かつMb=0とできない場合がある。
【0014】
(係留装置1個とラダー1個、重心移動機構で構成された場合の目標運動の制御例4)
同様に、上記段落0010で示した方法でワイヤ角度が目標値に到達して水上ロボットが停留した状態に対して、重心移動機構により船体重心位置を図6に示すGから適切な位置G’へ移動させながらラダー1の角度を制御してFb=0、かつMb=0なる状態にすると、図6に示すようにワイヤ角度が目標値αgの状態で、船体軸を水流方向に対して平行に、かつ船体が静止した状態にすることが可能となる。なお、船体重心位置の移動可能領域の設定の仕方などによっては、Fb=0、かつMb=0とできない場合がある。
【0015】
(係留装置1個とラダー2個で構成された場合の目標運動の制御例5)
図7で示すラダー2の中心線が水流方向になるようにラダー2を制御し、上記段落0010で示した方法でラダー1を制御することにより、ワイヤ角度が目標値に到達して水上ロボットが停留する。このとき、ラダー1、ラダー2の角度を独立に制御してFb=0、かつMb=0となる状態にすると、図7に示すようにワイヤ角度が目標値αgの状態で、船体軸を水流方向に対して平行に、かつ船体が静止した状態にすることが可能となる。なお、ラダーの据付位置は船体軸上である必要はなく、ラダー制御により、
かつFb=0、かつMb=0を実現できるならば、ラダーの据付位置は図1図8のように設定して構わない。
図8の構成で、ワイヤ長を一定にして岸側にある水上ロボットの2つのラダーに同じ角度を与えると、水上ロボットは係留装置を支点にして図の矢印方向に円弧上を移動する。このとき、張力Fcによる重心G回りのモーメントが発生するため、これに抗するモーメントをラダーや船体喫水部に角度をつけることによって生成する必要がある。これにより船体は水流方向を向かず、斜めになるが、左右のラダーを同じ角度ではなく、それぞれ独立に角度を変えることにより、船体を水流方向に向けることも可能である。
【0016】
(係留装置1個とラダー2個で構成された場合の目標運動の制御例6)
図9では、係留装置1個とラダー2個の構成でさらにワイヤ長を可変にした場合の目標運動の制御例6を示す。この制御例6では、上記段落0010と同様にまず、ワイヤ長一定のままラダー角度を、水上ロボットの目標位置から現在位置を引いた値にゲインを掛けて現在のラダー角度に足し合わせるようにして制御する。ラダー角度が目標位置になったら、次に、ワイヤ長を、水上ロボットの目標位置から現在位置を引いた値にゲインを掛けて現在のワイヤ長に足し合わせるようにして制御する。
上記制御例2〜5に示したように、陸地側に設置された少なくとも1個の係留装置と、前記係留装置から繰出・巻取られるワイヤと、ワイヤ先端に結合された水上ロボットと、前記水上ロボットに設けた少なくとも1個のラダーを有し、かつ、
前記係留装置と前記ラダーを合わせて3つ以上、あるいは
前記係留装置1つと前記ラダー1つとラダー移動機構、あるいは
前記係留装置1つと前記ラダー1つとワイヤ結合点移動機構、あるいは
前記係留装置1つと前記ラダー1つと重心移動機構、
備えていれば水上ロボットの位置を規定できる。
【0017】
(制御システムの基本構成)
図10に本発明の位置制御システムの基本構成を示す。本位置制御システムの基本構成は、陸地側には係留装置と、係留装置にはワイヤの繰出・巻取を制御する係留装置制御手段(CPU)と、水上ロボットの位置・姿勢の検出手段と、水上ロボットの船体側と送受信するための通信システムを備え、ワイヤで係留された水上ロボットの船体側にはラダーと、ラダーを駆動制御するラダー制御手段(CPU)と、ラダー角度検知手段と、陸地側の係留装置と送受信するための通信システムを備え、双方の通信システムを介して情報を送受信することにより係留装置制御手段とラダー制御手段が連携して水上ロボットを目標位置に運動制御できるようにしたものである。また、係留装置制御手段には目標位置等を入力する入力手段(HMI)を設けておく。
また、システムに係留装置とラダーが1つずつしかなく、水上ロボットの位置・姿勢を制御する場合は、係留装置とラダー以外に、ラダー据付位置を移動させることのできるラダー移動機構、ワイヤが水上ロボットに結合する点を移動させることのできるワイヤ結合点移動機構、水上ロボットの重心を移動させることのできる重心移動機構、のうちの少なくとも1つを水上ロボットに搭載する必要がある。また、ラダー移動機構、ワイヤ結合点移動機構、重心移動機構を制御するには各機構上を移動する対象の移動量を検知するセンサならびに駆動制御手段が必要となる。
水上ロボットに搭載するGPS・慣性計測装置により水上ロボットの位置・姿勢を検知できるが、これらの装置だけではワイヤの弛みは検知できないので、ワイヤの繰出量を測定する装置またはワイヤの弛みの有無を検知できるワイヤ張力センサなどを設置して、必要に応じて張力が零にならないようにする。また、係留装置は陸地側に設置されるので係留地点の位置は予め容易に定まるので、係留装置にワイヤ長検知手段とワイヤ角度検知手段を、水上ロボットにワイヤ角度検知手段をそれぞれ備えていれば、GPS・慣性計測装置が無くても水上ロボットの位置・姿勢を算出することが可能となる。ただし、ワイヤが弛んでしまうと水上ロボットの正しい位置・姿勢を算出できなくなるので、GPS・慣性計測装置を用いない場合はワイヤの弛みの有無を検知できるワイヤ張力センサやある張力以下にならないようにできるクラッチなどを設置して張力が零にならないようにする必要がある。
また、スラスタを追加すれば、流れのないところでもラダーを用いた位置制御が可能となる。
【0018】
(ソナーによる地形マップの生成例)
河床や護床の形状をソナーで計測し、地形マップを生成する場合、ターゲットの領域を測定漏れのないようにくまなく移動する必要がある。通常、ソナーのビームを振る方向は図11のように船体の進行方向に垂直な方向で、かつ左右均等の角度で振る。
そこで、図12の破線の波状軌道に沿うように水上ロボットを移動させる場合、河床が水平と仮定するとソナービームを一振りしたときの測定領域は図12中のAA’になる。船体の姿勢が同図のように水流方向に一致している場合、船体の移動に伴って測定領域が幅AA’の帯状になるが、船体の姿勢が斜めになると、測定領域が図12中のBB’になってBB’の流れに垂直な方向の幅はAA’の幅より小さくなることがある。この場合測定漏れが生ずる可能性がある。また、船体の姿勢が揺れると、測定密度分布にばらつきが生ずる。さらに、流速方向に対して船体姿勢を斜めにとると、船体が受ける流体抗力が大きくなる。これらの問題を避けるには、極力、船体の姿勢を流速方向に一致させておくことが望ましい。
【0019】
(係留装置2個とラダー1個で構成されたシステム例)
図13は、係留装置2個とラダー1個で構成された本発明のシステム例を示す。図では2個の係留装置を水流に対して右岸陸地に設置しているが、左岸1個と右岸1個設置してもよい。
【0020】
(係留装置2個とラダー1個で構成されたシステムの変形例)
図14は、図13のシステムの変形例で、2個の係留装置の1個をアンカーで水底に固定し水上ロボット側のウインチでワイヤ2の繰出・巻取を行うようにしたシステムである。
【0021】
(双胴船型水上ロボットと係留装置1個とラダー2個で構成されたシステム例)
図15は、本発明の基本モデル(係留装置1とラダー2)をモジュール化した双胴船型水上ロボットに、さらにスラスタを追加し、船底に音響イメージングソナーや水中観測機が搭載できる。スラスタを追加で装備すれば、流れのない水面での位置制御も可能となり、また、目標位置近傍までスラスタで急速移動可能であり、測定終了後に岸壁まで急速帰還可能となる。
図16は、上記図15のシステムを用いて直線移動制御あるいは波状移動制御を行う例を示したものである。
図17は、上記図15のシステムを用いて橋脚洗堀部を水中観測機で調査する例を示したものである。
【0022】
(ラダー駆動部にウォームギアを用いた例)
図18は、本発明のラダー駆動部にウォームとウォームホイール(ウォームギア)を用いた例であり、ウォームとウォームホイールを用いるとラダー角度保持に駆動力を要せず、電力消費が抑えられる。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明のシステムを利用すれば、水中観測時の位置制御にスラスタ駆動を必要とせず、スラスタ駆動による外乱等をなくすことができる。本システムは、河川、ダム等の水中観測一般に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21