【0009】
一般に流水下の水上ロボットに作用する力として重力、浮力、流体抗力、揚力などが挙げられるが、ここでは鉛直方向の運動は無視し、水平面運動では主に流体抗力と揚力が働くとする。また、抗力と揚力の合力を流体作用力と呼び、水上ロボットに作用する水平方向の外力は流体作用力とワイヤに発生する張力とする。さらに、水上ロボットはi本のワイヤで係留され、水上ロボットにはk個のラダーが装備されていると仮定する。
図1はi=1,k=2の場合を示す。
図1に示すように、船体の喫水部(draft)が受ける流体作用力ベクトルをF
d、ワイヤh(ただしh=1,2,…,i)の張力ベクトルの水平方向成分をF
c(h)、ならびにラダーj(ただしh=1,2,…,k)が受ける流体作用力ベクトルの水平方向成分をF
r(j)、船体の質量をm
b、慣性モーメントをI
b、水上ロボットの重心Gの位置ベクトルおよび姿勢ベクトルを、
水上ロボットの重心Gから水上ロボットの喫水部、ワイヤh、ラダーjのそれぞれの流体作用力が作用する各点までの位置ベクトルを、
とする。このとき水上ロボットの重心Gに作用する力ベクトルF
bとモーメントベクトルM
bは次式で表される。
したがって、水上ロボットの運動方程式は以下のようになる。
なお、流体作用力ベクトルF
d、F
r(j)はそれぞれ抗力ベクトルf
Dd、f
Dr(j)揚力ベクトルf
Ld、f
Lr(j)に分けられ、次式で表すことができる。
ここで、以降においてX
nという変数の表記がある場合、添え字nはdまたはrを表し、nがdの場合は水上ロボットの喫水部を、nがrの場合はラダーを表す変数Xであるとする。流体の密度をρ、物体(喫水部またはラダー)と流体の相対速度ベクトルをv
n、流体の流れに垂直な面に対する物体(喫水部またはラダー)の射影面積をS
Dn、流体の流れに平行な面に対する物体(喫水部またはラダー)の射影面積をS
Ln、抗力係数をC
Dn、揚力係数をC
Ln、水平面内で相対速度ベクトルv
nに垂直な単位ベクトルをe
pn、とすると、水上ロボットの喫水部とラダーに作用する抗力ベクトルf
Dnと揚力ベクトルf
Lnは次式で求まる。
よって、機構定数m
b、I
bや密度ρを既知とし、係数C
Dn、C
Lnの値が実験等で与えられ、相対速度ベクトルv
nや射影面積S
Dn、S
Ln、位置ベクトル
を算出でき、かつ全てのワイヤの張力ベクトルF
c(h)をセンサ等により測定できる、あるいは全てのワイヤをバネ・ダンパなどでモデル化してその伸びからワイヤ張力ベクトルF
c(h)を計算できるものとすると、水上ロボット重心にかかる合力F
b、合モーメントM
bが求められるので、運動方程式により水上ロボットの時々刻々の位置・姿勢を算出できる。以上、運動方程式の2つの式と流体作用力の4つの式ならびに水上ロボットの形状モデルにより係留された水上ロボットの大まかな挙動を把握できる。
【実施例】
【0010】
(係留装置1個とラダー1個で構成された場合の目標運動の制御例1)
図2に目標運動の制御例1を示す。
図2左に示すように、ワイヤの繰出点は水上ロボットの位置より高い位置となるが、ワイヤ長に比べ高さの差が小さいと仮定し、上方への運動は無視する。
図2においては基礎的な検討のためにワイヤ長は一定とし、ラダーを制御して目標点へ円弧状に移動させる動作を取り上げることにする。ラダー角度は、目標ワイヤ角度から現在のワイヤ角度を引いた値(α
g−α
c)にゲインを掛けて現在のラダー角度に足し合わせるようにして制御する。
【0011】
(係留装置1個とラダー1個で構成された場合の目標運動の制御に関する問題)
上記段落0010で示した方法でワイヤ角度が目標値に到達して水上ロボットが停留した状態に対して、船体の姿勢を制御する場合、例えば
図3のように船体軸を水流方向に対して平行にさせる場合を考える。まず、船体を静止させた状態で力のつり合いを保つためには、喫水部の流体作用力ベクトルF
dとラダー1の流体作用力ベクトルF
r(1)との合力の方向がワイヤ1と平行で、かつワイヤ1を引っ張る方向である必要があり、このときワイヤ張力F
c(1)はF
dとF
r(1)との合力の反力として現れる。したがって、ラダー1を適切な角度θ
r1で回転させることで、
図3のようにベクトルF
b=F
d+F
c(1)+F
c(1)=0とできるが、このときワイヤ張力F
c(1)とラダー1における流体作用力F
r(1)によって発生する水上ロボット重心G回りの各トルクは共に同じ方向となるので、合モーメントベクトルM
b≠0となり、船体の回転運動が起きて、船体軸を水流方向に対して平行にすることができない。
【0012】
(係留装置1個とラダー1個、ラダー移動機構で構成された場合の目標運動の制御例2)
一方、上記段落0010で示した方法でワイヤ角度が目標値に到達して水上ロボットが停留した状態に対して、ラダー移動機構によりラダー据付位置を
図4に示すP
rj1から適切な位置P’
rj1へ移動させながらラダー1の角度を制御してベクトルF
b=0で、かつ合モーメントベクトルM
b=0となる状態にすると、
図4に示すようにワイヤ角度が目標値α
gの状態で、船体軸を水流方向に対して平行に、かつ船体が静止した状態にすることが可能となる。なお、ラダー据付位置の移動可能領域の設定の仕方などによっては、F
b=0、かつM
b=0とできない場合がある。
【0013】
(係留装置1個とラダー1個、ワイヤ結合点移動機構で構成された場合の目標運動の制御例3)
同様に、上記段落0010で示した方法でワイヤ角度が目標値に到達して水上ロボットが停留した状態に対して、ワイヤ結合点移動機構によりワイヤの結合点位置を
図5に示すP
cjから適切な位置P’
cjへ移動させながらラダー1の角度を制御してF
b=0、かつM
b=0となる状態にすると、
図5に示すようにワイヤ角度が目標値α
gの状態で、船体軸を水流方向に対して平行に、かつ船体が静止した状態にすることが可能となる。なお、ワイヤ結合点位置の移動可能領域の設定の仕方などによっては、F
b=0、かつM
b=0とできない場合がある。
【0014】
(係留装置1個とラダー1個、重心移動機構で構成された場合の目標運動の制御例4)
同様に、上記段落0010で示した方法でワイヤ角度が目標値に到達して水上ロボットが停留した状態に対して、重心移動機構により船体重心位置を
図6に示すGから適切な位置G’へ移動させながらラダー1の角度を制御してF
b=0、かつM
b=0なる状態にすると、
図6に示すようにワイヤ角度が目標値α
gの状態で、船体軸を水流方向に対して平行に、かつ船体が静止した状態にすることが可能となる。なお、船体重心位置の移動可能領域の設定の仕方などによっては、F
b=0、かつM
b=0とできない場合がある。
【0015】
(係留装置1個とラダー2個で構成された場合の目標運動の制御例5)
図7で示すラダー2の中心線が水流方向になるようにラダー2を制御し、上記段落0010で示した方法でラダー1を制御することにより、ワイヤ角度が目標値に到達して水上ロボットが停留する。このとき、ラダー1、ラダー2の角度を独立に制御してF
b=0、かつM
b=0となる状態にすると、
図7に示すようにワイヤ角度が目標値α
gの状態で、船体軸を水流方向に対して平行に、かつ船体が静止した状態にすることが可能となる。なお、ラダーの据付位置は船体軸上である必要はなく、ラダー制御により、
かつF
b=0、かつM
b=0を実現できるならば、ラダーの据付位置は
図1や
図8のように設定して構わない。
図8の構成で、ワイヤ長を一定にして岸側にある水上ロボットの2つのラダーに同じ角度を与えると、水上ロボットは係留装置を支点にして図の矢印方向に円弧上を移動する。このとき、張力F
cによる重心G回りのモーメントが発生するため、これに抗するモーメントをラダーや船体喫水部に角度をつけることによって生成する必要がある。これにより船体は水流方向を向かず、斜めになるが、左右のラダーを同じ角度ではなく、それぞれ独立に角度を変えることにより、船体を水流方向に向けることも可能である。
【0016】
(係留装置1個とラダー2個で構成された場合の目標運動の制御例6)
図9では、係留装置1個とラダー2個の構成でさらにワイヤ長を可変にした場合の目標運動の制御例6を示す。この制御例6では、上記段落0010と同様にまず、ワイヤ長一定のままラダー角度を、水上ロボットの目標位置から現在位置を引いた値にゲインを掛けて現在のラダー角度に足し合わせるようにして制御する。ラダー角度が目標位置になったら、次に、ワイヤ長を、水上ロボットの目標位置から現在位置を引いた値にゲインを掛けて現在のワイヤ長に足し合わせるようにして制御する。
上記制御例2〜5に示したように、陸地側に設置された少なくとも1個の係留装置と、前記係留装置から繰出・巻取られるワイヤと、ワイヤ先端に結合された水上ロボットと、前記水上ロボットに設けた少なくとも1個のラダーを有し、かつ、
前記係留装置と前記ラダーを合わせて3つ以上、あるいは
前記係留装置1つと前記ラダー1つとラダー移動機構、あるいは
前記係留装置1つと前記ラダー1つとワイヤ結合点移動機構、あるいは
前記係留装置1つと前記ラダー1つと重心移動機構、
備えていれば水上ロボットの位置を規定できる。
【0017】
(制御システムの基本構成)
図10に本発明の位置制御システムの基本構成を示す。本位置制御システムの基本構成は、陸地側には係留装置と、係留装置にはワイヤの繰出・巻取を制御する係留装置制御手段(CPU)と、水上ロボットの位置・姿勢の検出手段と、水上ロボットの船体側と送受信するための通信システムを備え、ワイヤで係留された水上ロボットの船体側にはラダーと、ラダーを駆動制御するラダー制御手段(CPU)と、ラダー角度検知手段と、陸地側の係留装置と送受信するための通信システムを備え、双方の通信システムを介して情報を送受信することにより係留装置制御手段とラダー制御手段が連携して水上ロボットを目標位置に運動制御できるようにしたものである。また、係留装置制御手段には目標位置等を入力する入力手段(HMI)を設けておく。
また、システムに係留装置とラダーが1つずつしかなく、水上ロボットの位置・姿勢を制御する場合は、係留装置とラダー以外に、ラダー据付位置を移動させることのできるラダー移動機構、ワイヤが水上ロボットに結合する点を移動させることのできるワイヤ結合点移動機構、水上ロボットの重心を移動させることのできる重心移動機構、のうちの少なくとも1つを水上ロボットに搭載する必要がある。また、ラダー移動機構、ワイヤ結合点移動機構、重心移動機構を制御するには各機構上を移動する対象の移動量を検知するセンサならびに駆動制御手段が必要となる。
水上ロボットに搭載するGPS・慣性計測装置により水上ロボットの位置・姿勢を検知できるが、これらの装置だけではワイヤの弛みは検知できないので、ワイヤの繰出量を測定する装置またはワイヤの弛みの有無を検知できるワイヤ張力センサなどを設置して、必要に応じて張力が零にならないようにする。また、係留装置は陸地側に設置されるので係留地点の位置は予め容易に定まるので、係留装置にワイヤ長検知手段とワイヤ角度検知手段を、水上ロボットにワイヤ角度検知手段をそれぞれ備えていれば、GPS・慣性計測装置が無くても水上ロボットの位置・姿勢を算出することが可能となる。ただし、ワイヤが弛んでしまうと水上ロボットの正しい位置・姿勢を算出できなくなるので、GPS・慣性計測装置を用いない場合はワイヤの弛みの有無を検知できるワイヤ張力センサやある張力以下にならないようにできるクラッチなどを設置して張力が零にならないようにする必要がある。
また、スラスタを追加すれば、流れのないところでもラダーを用いた位置制御が可能となる。
【0018】
(ソナーによる地形マップの生成例)
河床や護床の形状をソナーで計測し、地形マップを生成する場合、ターゲットの領域を測定漏れのないようにくまなく移動する必要がある。通常、ソナーのビームを振る方向は
図11のように船体の進行方向に垂直な方向で、かつ左右均等の角度で振る。
そこで、
図12の破線の波状軌道に沿うように水上ロボットを移動させる場合、河床が水平と仮定するとソナービームを一振りしたときの測定領域は
図12中のAA’になる。船体の姿勢が同図のように水流方向に一致している場合、船体の移動に伴って測定領域が幅AA’の帯状になるが、船体の姿勢が斜めになると、測定領域が
図12中のBB’になってBB’の流れに垂直な方向の幅はAA’の幅より小さくなることがある。この場合測定漏れが生ずる可能性がある。また、船体の姿勢が揺れると、測定密度分布にばらつきが生ずる。さらに、流速方向に対して船体姿勢を斜めにとると、船体が受ける流体抗力が大きくなる。これらの問題を避けるには、極力、船体の姿勢を流速方向に一致させておくことが望ましい。
【0019】
(係留装置2個とラダー1個で構成されたシステム例)
図13は、係留装置2個とラダー1個で構成された本発明のシステム例を示す。図では2個の係留装置を水流に対して右岸陸地に設置しているが、左岸1個と右岸1個設置してもよい。
【0020】
(係留装置2個とラダー1個で構成されたシステムの変形例)
図14は、
図13のシステムの変形例で、2個の係留装置の1個をアンカーで水底に固定し水上ロボット側のウインチでワイヤ2の繰出・巻取を行うようにしたシステムである。
【0021】
(双胴船型水上ロボットと係留装置1個とラダー2個で構成されたシステム例)
図15は、本発明の基本モデル(係留装置1とラダー2)をモジュール化した双胴船型水上ロボットに、さらにスラスタを追加し、船底に音響イメージングソナーや水中観測機が搭載できる。スラスタを追加で装備すれば、流れのない水面での位置制御も可能となり、また、目標位置近傍までスラスタで急速移動可能であり、測定終了後に岸壁まで急速帰還可能となる。
図16は、上記
図15のシステムを用いて直線移動制御あるいは波状移動制御を行う例を示したものである。
図17は、上記
図15のシステムを用いて橋脚洗堀部を水中観測機で調査する例を示したものである。
【0022】
(ラダー駆動部にウォームギアを用いた例)
図18は、本発明のラダー駆動部にウォームとウォームホイール(ウォームギア)を用いた例であり、ウォームとウォームホイールを用いるとラダー角度保持に駆動力を要せず、電力消費が抑えられる。