特許第6591343号(P6591343)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6591343
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】非晶質エトリンガイトの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 7/00 20060101AFI20191007BHJP
   B01J 20/08 20060101ALI20191007BHJP
【FI】
   C01F7/00 C
   B01J20/08 C
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-98357(P2016-98357)
(22)【出願日】2016年5月17日
(65)【公開番号】特開2017-206399(P2017-206399A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2018年7月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】所 千晴
(72)【発明者】
【氏名】武藤 研一
(72)【発明者】
【氏名】帆保 駿吾
(72)【発明者】
【氏名】田中 善之
(72)【発明者】
【氏名】中村 壮志
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−093927(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/120732(WO,A1)
【文献】 特開昭52−139693(JP,A)
【文献】 特開2003−020222(JP,A)
【文献】 特開2001−070926(JP,A)
【文献】 特開昭55−071628(JP,A)
【文献】 ZHOU, Q et al.,Cement and Concrete Research,2001年,Vol. 31,P. 1333-1339
【文献】 野澤 里渚子 ほか,Cement Science and Concrete Technology,2016年,Vol. 70,P. 2-8
【文献】 飯塚 淳、山崎 章弘,エトリンガイトを利用したホウ素除去技術,環境浄化技術,日本工業出版株式会社,2014年 5月 1日,Vol.13,No.3 ,P.49-53
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 1/00−17/00
B01J 20/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホウ素の吸着に用いられる非晶質エトリンガイトの製造方法であって、
乾燥状態のエトリンガイトを、加熱温度70℃以上80℃未満、加熱時間3日以上の条件で加熱して非晶質エトリンガイトを生成する加熱工程を備える
ことを特徴とする非晶質エトリンガイトの製造方法。
【請求項2】
水に硫酸アルミニウムを溶解して硫酸アルミニウム水溶液を得る硫酸アルミニウム溶解工程と、
硫酸アルミニウム水溶液に水酸化カルシウムを溶解してエトリンガイトを含むスラリーを生成する水酸化カルシウム溶解工程と、
前記スラリーを固液分離してエトリンガイトを得る固液分離工程と、
エトリンガイトを乾燥させて前記乾燥状態のエトリンガイトを得る乾燥工程と、を備える
ことを特徴とする請求項記載の非晶質エトリンガイトの製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程において、加熱温度を40℃以上50℃以下とする
ことを特徴とする請求項記載の非晶質エトリンガイトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非晶質エトリンガイトの製造方法に関する。さらに詳しくは、ホウ素の吸着に好適な非晶質エトリンガイトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホウ素を含有する水(以下、「ホウ素含有水」という。)は、自然界において地下水、海水などとして存在している。また、ホウ素はホウ素化合物を原材料として使用する工業、例えば、ガラス工業をはじめ、医薬、化粧品原料、石鹸工業、電気めっき工業などで生じる廃水、発電所から生じる廃水、ゴミ焼却場で生じる洗煙廃水などの廃水に含まれている。ホウ素含有水の起源によっては、ケイ酸イオンも同時に含有される場合がある。
【0003】
ホウ素は、動植物にとって必須の微量栄養素であるが、その反面、農業用水中に数mg/L以上の濃度で含まれている場合、植物の成長を阻害することが知られている。また、ホウ素を人体に継続的に摂取したとき、健康障害が生じるおそれがあることから、ホウ素の人体摂取量が法令で規制されている。例えば、水道水の水質基準では水道水に含まれるホウ素濃度が1.0mg/L以下に規制されている。また、海域へのホウ素の排水基準ではホウ素濃度が230mg/L以下、海域外への排水基準ではホウ素濃度が10mg/L以下に規制されている。そこで、ホウ素を含有する廃水は、ホウ素を除去する処理を行った後に、放流される。
【0004】
ホウ素含有水からホウ素を除去する方法として、アルミニウムや鉄などの水酸化物とともにホウ素を沈殿させる沈殿法、ジルコニウムやマグネシウムなどの水酸化物にホウ素を吸着させる吸着法、ホウ素含有水を蒸発濃縮してホウ酸を晶析する蒸発濃縮法、アルコール基を有する溶媒によりホウ素を抽出分離する溶媒抽出法、逆浸透膜を用いてホウ素を分離除去する逆浸透膜法などの種々の方法が知られている。
【0005】
しかしながら、沈殿法は、低濃度のホウ素を沈殿させるために共沈剤を多量に添加するため操業資材が多量に必要であり、またホウ素含有澱物である汚泥の発生量が多いという問題がある。吸着法は、ジルコニウムやマグネシウムなどの水酸化物へのホウ素の吸着容量が低いため、多量の吸着剤の添加が不可欠であり、効率性と経済性において実用的でない。蒸発濃縮法は、ホウ素含有水を濃縮しホウ酸を晶析させるために熱源が必要であり、特にホウ素濃度が低い廃水を対象とする場合には、莫大なエネルギーを必要とするので経済的でない。しかも、晶析後のホウ素含有水の中和処理が必要となる。溶媒抽出法は、有機溶媒からホウ素を逆抽出して得られるホウ素含有液の処理のほかに、有機溶媒が微量溶解している処理後の廃水の処理が不可欠である。活性炭などにより有機溶媒を回収除去するなどの処理が必要であり経済的でない。逆浸透膜法は、この方法のみで低濃度になるまでホウ素を除去することが困難であるので、他の方法との併用が必要である。また、膜の閉塞による効率悪化の問題がある。
【0006】
非特許文献1には以下の開示がある。
エトリンガイトの加熱脱水物である非晶質エトリンガイトをホウ素含有水に添加することで、イオン交換によってホウ素除去を行うことができる。
【0007】
エトリンガイト(3CaO・Al23・3CaSO4・31〜32H2O)の構造は、[Ca6[Al(OH)6]2・24H2O]6+により構成されるカラムを持ち、c軸に平行に骨格を形成しており、その周辺にSO42-と残りの水分子を配置した構造である。エトリンガイトの化学式中の31〜32の水分子は次の4種類に分類される。
(1)エトリンガイトに固溶するように存在する1〜2分子
(2)(3)カルシウムイオンに結合する水分子が2種類でそれぞれ12分子ずつ
(4)カラム中に水酸基として存在し、最も強く結合している6分子
【0008】
図7にエトリンガイトの加熱による脱水の様子を示す。縦軸はエトリンガイトの構造を3CaO・Al23・3CaSO4・32H2Oとした場合の脱水した水分子数を表している。常圧下では100℃程度までに上記(1)、(2)の13〜14の水分子が脱離し、その後200℃程度までに(3)の12の水分子が脱離する。
【0009】
200℃で加熱脱水して得た非晶質エトリンガイトをホウ素濃度が約25mg/Lの水溶液に添加した場合、10mg/Lを大きく下回る濃度までホウ素除去が可能である。これに対して、120℃で加熱脱水して得た非晶質エトリンガイトを用いた場合、ホウ素がほとんど除去されない。これは、(3)カルシウムイオンに結合する24の水分子のうち結合がより強固な12の水分子が、ホウ素除去に大きな寄与をしているためと考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】飯塚淳、山崎章弘、「エトリンガイトを利用したホウ素除去技術」、環境浄化技術 2014.5-6 Vol.13 No.3、p.49-53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
非特許文献1によれば、ホウ素吸着能力を有する非晶質エトリンガイトを得るには200℃程度の加熱が必要である。そのため、高温の加熱処理ができる設備が必要であり、また加熱に必要な運転コストが高い。
【0012】
本発明は上記事情に鑑み、コストを抑えつつ、ホウ素吸着能力が高い非晶質エトリンガイトを製造できる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1発明の非晶質エトリンガイトの製造方法は、ホウ素の吸着に用いられる非晶質エトリンガイトの製造方法であって、乾燥状態のエトリンガイトを、加熱温度70℃以上80℃未満、加熱時間3日以上の条件で加熱して非晶質エトリンガイトを生成する加熱工程を備えることを特徴とする。
第2発明の非晶質エトリンガイトの製造方法は、第1発明において、水に硫酸アルミニウムを溶解して硫酸アルミニウム水溶液を得る硫酸アルミニウム溶解工程と、硫酸アルミニウム水溶液に水酸化カルシウムを溶解してエトリンガイトを含むスラリーを生成する水酸化カルシウム溶解工程と、前記スラリーを固液分離してエトリンガイトを得る固液分離工程と、エトリンガイトを乾燥させて前記乾燥状態のエトリンガイトを得る乾燥工程と、を備えることを特徴とする。
第3発明の非晶質エトリンガイトの製造方法は、第2発明において、前記乾燥工程において、加熱温度を40℃以上50℃以下とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、エトリンガイトを比較的低温で加熱して非晶質エトリンガイトを得るので、安価な加熱設備で非晶質エトリンガイトを製造でき、また加熱に必要な運転コストを抑えることができる。それでいて、ホウ素吸着能力が高い非晶質エトリンガイトを製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る非晶質エトリンガイトの製造方法の工程図である。
図2】生成された試料のXRD分析結果を示すグラフである。
図3】加熱時間に対する脱水率の関係を示すグラフである。
図4】加熱時間に対する残留ホウ素濃度の関係を示すグラフである。
図5】加熱温度に対する残留ホウ素濃度の関係を示すグラフである。
図6】試料の添加量に対する残留ホウ素濃度の関係を示すグラフである。
図7】非特許文献1に掲載された加熱温度に対する脱水した水分子数の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る非晶質エトリンガイトの製造方法は、硫酸アルミニウム溶解工程、水酸化カルシウム溶解工程、固液分離工程、乾燥工程、加熱工程を備え、この順に行われる。
【0017】
エトリンガイト(3CaO・Al23・3CaSO4・31〜32H2O)はコンクリートやセメントなどに見られる結晶性の水和物である。非晶質エトリンガイトはエトリンガイトに含まれる結晶水の一部を除去したものである。非晶質エトリンガイトは脱水エトリンガイト、メタエトリンガイトとも称される。
【0018】
硫酸アルミニウム溶解工程では、水に硫酸アルミニウム(Al2(SO4)3)を溶解して硫酸アルミニウム水溶液を得る。ここで、水は特に限定されないが、イオン交換水など不純物の少ないものが好ましい。また、溶解時間を短縮するために撹拌することが好ましい。
【0019】
水酸化カルシウム溶解工程では、硫酸アルミニウム溶解工程で得られた硫酸アルミニウム水溶液に水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を溶解してエトリンガイトを含むスラリーを生成する。ここで、エトリンガイトの生成時間を短縮するために撹拌することが好ましい。また、水溶液のpHをエトリンガイトが効率よく生成する11.5〜11.8に調整することが好ましい。
【0020】
水酸化カルシウムはエトリンガイトを生成するためのカルシウム源となるとともに、pH調整剤として働く。必要に応じて硝酸や水酸化ナトリウムなどのpH調整剤を添加して水溶液のpHを上記範囲に調整する。
【0021】
固液分離工程では、水酸化カルシウム溶解工程で得られたスラリーを固液分離して固形分であるエトリンガイトを得る。得られるエトリンガイトは粉末状である。固液分離の条件は特に限定されないが、固形分の捕捉率をよくするために、最終的な濾材の目開きを0.1μmとすることが好ましい。例えば、孔径0.1μmのメンブレンフィルターを用いて吸引濾過すれば、処理時間を短縮できる。
【0022】
乾燥工程では、固液分離工程で得られたエトリンガイトを乾燥させて乾燥状態のエトリンガイトを得る。得られるエトリンガイトは乾燥粉末である。その水分率は0.01重量%以下、すなわち実質的に絶乾状態とすることが好ましい。
【0023】
乾燥条件はエトリンガイトの付着水を除去できれば、特に限定されない。例えば、熱乾燥機にエトリンガイトを装入し、加熱温度を40℃以上50℃以下に設定し、付着水の蒸発による減量がなくなるまで乾燥させる。
【0024】
加熱工程では、乾燥工程で得られた乾燥状態のエトリンガイトを加熱して、エトリンガイトに含まれる結晶水の一部を除去し、非晶質エトリンガイトを生成する。得られる非晶質エトリンガイトは粉末状である。加熱方法は特に限定されないが、例えば、エトリンガイトを入れた磁器るつぼを加熱炉に装入し、所定の条件で加熱処理すればよい。
【0025】
ここで、加熱温度を55℃以上95℃以下、加熱時間を3日以上とすることが好ましい。加熱温度を70℃以上80℃以下とすることがより好ましい。特に、加熱温度を75℃に設定した場合、加熱時間を3〜9日とすることが好ましい。また、加熱温度を85℃に設定した場合、加熱時間を30日とすることが好ましい。以上の条件で得られた非晶質エトリンガイトであれば、初期ホウ素濃度25mg/Lの廃水を、海域外への排水基準であるホウ素濃度10mg/L以下とすることができる。
【0026】
以上の処理で得られた非晶質エトリンガイトをホウ素含有水に添加すれば、非晶質エトリンガイトにホウ素が吸着される。これを固液分離してホウ素を吸着した非晶質エトリンガイトを分離すれば、ホウ素含有水からホウ素を除去できる。
【0027】
前述のごとく、従来はホウ素吸着能力を有する非晶質エトリンガイトを得るには、エトリンガイトを200℃程度に加熱する必要があると考えられていた。これに対して本実施形態では、エトリンガイトを比較的低温(100℃以下)で加熱して非晶質エトリンガイトを得る。そのため、安価な加熱設備で非晶質エトリンガイトを製造でき、また加熱に必要な運転コストを抑えることができる。それでいて、ホウ素吸着能力が高い非晶質エトリンガイトを製造できる。
【実施例】
【0028】
(非晶質エトリンガイトの生成)
以下の手順で非晶質エトリンガイトを生成した。ビーカーに純水(イオン交換水)300mLを入れ、硫酸アルミニウムを添加した。マグネティックスターラーで1時間撹拌して硫酸アルミニウムを溶解し、硫酸アルミニウム水溶液を得た。つぎに、水酸化カルシウムを添加して、マグネティックスターラーで1時間撹拌した。この際、pH調整剤として硝酸および水酸化ナトリウムを添加して、水溶液のpHを11.5に調整した。得られたエトリンガイトスラリーを孔径0.1μmのメンブレンフィルターを用いて吸引濾過し、エトリンガイトを得た。エトリンガイトを熱乾燥機に装入し、45℃で付着水の蒸発による減量がなくなるまで、約1日乾燥させた。得られたエトリンガイトの乾燥粉末の水分率は0.01重量%以下であった。
【0029】
エトリンガイトの乾燥粉末を入れた磁器るつぼを加熱炉に装入し、加熱して非晶質エトリンガイトを生成した。この際の加熱温度を55、65、75、85、95℃の5通りとした。加熱時間はいずれも3日とした。
【0030】
得られた5つの試料についてXRD分析を行った。その結果を図2に示す。
非晶質エトリンガイトが生成されると、脱水率が増加するに伴い、XRD回折のピークがブロードになることが知られている。図2から分かるように、加熱温度55℃、65℃の試料はエトリンガイトの回折パターンが残っているものの、エトリンガイトには無いピークも現れている。加熱温度75℃以上の試料はほとんど全てのピークがブロードであり、エトリンガイトの明確なピークは観察されなかった。以上より、全ての試料に非晶質エトリンガイトが含まれることが確認された。
【0031】
(脱水率)
前記と同様の手順でエトリンガイトの乾燥粉末を得た後、エトリンガイトの乾燥粉末を入れた磁器るつぼを加熱炉に装入し、加熱して非晶質エトリンガイトを生成した。この際の加熱温度を55、65、75、85、95℃の5通りとした。加熱時間は3、6、9、12、15、18、21、24、27、30日の10通りとした。
【0032】
各試料について、加熱処理前の重量と加熱処理後の重量とを測定し、加熱処理により減少した重量を求めた。そして、加熱処理前の重量に対する減少重量の割合から脱水率を求めた。その結果を図3に示す。
【0033】
図3から分かるように、いずれの試料においても、加熱処理により5〜30重量%減量した。また、いずれの温度条件においても、3日間の加熱によりその温度条件における最大脱水量の大半が脱水されている。加熱温度が75、85℃の場合、他の温度条件に比べて脱水率が高いことが確認された。
【0034】
(ホウ素含有水からのホウ素除去1)
以下の手順でホウ素含有水を調整した。メスフラスコに純水1,000mLを入れ、ホウ素源としてホウ酸(H3BO3)を、ケイ素源としてメタケイ酸ナトリウム(Na2SiO3・9H2O)を所定濃度(ホウ素濃度25mg/L、ケイ素濃度60mg/L)の2倍となるように添加し、溶解するまで撹拌した。つぎに、純水を加えて全体で2,000mLとした。つぎに、pH調整剤として硝酸および水酸化ナトリウムを添加してpH調整した。得られたホウ素含有水は、ホウ素濃度25mg/L、ケイ素濃度60mg/L、pH8.3である。液温は室温である。
【0035】
前記と同様の手順でエトリンガイトの乾燥粉末を得た後、エトリンガイトの乾燥粉末を入れた磁器るつぼを加熱炉に装入し、加熱して非晶質エトリンガイトを生成した。この際の加熱温度を55、65、75、85、95℃の5通りとした。加熱時間は3、9、30日の3通りとした。
【0036】
ホウ素含有水に各試料を添加し、十分な時間保持した。ここで、試料の添加量をAl/B=4とした。Al/Bは、ホウ素含有水に含まれるホウ素に対する非晶質エトリンガイトに含まれるアルミニウムのモル比である。固液分離して得た液相分に残留するホウ素濃度をICP分析装置により求めた。その結果を図4に示す。
【0037】
図4より、全ての試料にホウ素が吸着されていることが分かる。特に、加熱温度75℃、加熱時間3、9、30日の試料は、残留ホウ素濃度が5mg/L以下であり、ホウ素吸着能力が高いことが分かる。また、加熱温度85℃、加熱時間30日の試料は、残留ホウ素濃度が10mg/L以下であり、海域外への排水基準を下回ることが分かる。
【0038】
(ホウ素含有水からのホウ素除去2)
前記と同様の手順でホウ素含有水を調整した。また、前記と同様の手順でエトリンガイトの乾燥粉末を得た後、エトリンガイトの乾燥粉末を入れた磁器るつぼを加熱炉に装入し、加熱して非晶質エトリンガイトを生成した。この際の加熱温度を55、65、70、75、80、85、95℃の7通りとした。加熱時間は3日とした。
【0039】
ホウ素含有水に各試料を添加し、十分な時間保持した。ここで、試料の添加量をAl/B=4とした。固液分離して得た液相分に残留するホウ素濃度をICP分析装置により求めた。その結果を図5に示す。
【0040】
図5より、加熱時間を3日とした場合、加熱温度を70℃以上、80℃以下とすれば、残留ホウ素濃度が10mg/L以下となり、海域外への排水基準を下回ることが分かる。
【0041】
(高濃度ホウ素含有水からのホウ素除去)
以下の手順で高濃度ホウ素含有水を調整した。メスフラスコに純水1,000mLを入れ、ホウ素源としてホウ酸(H3BO3)を所定濃度(ホウ素濃度1,000mg/L)の2倍となるように添加し、溶解するまで撹拌した。つぎに、純水を加えて全体で2,000mLとした。つぎに、pH調整剤として硝酸および水酸化ナトリウムを添加してpH調整した。得られた高濃度ホウ素含有水は、ホウ素濃度1,000mg/L、pH8.3である。液温は室温である。
【0042】
前記と同様の手順でエトリンガイトの乾燥粉末を得た後、エトリンガイトの乾燥粉末を入れた磁器るつぼを加熱炉に装入し、加熱して非晶質エトリンガイトを生成した。この際の加熱温度を75℃、加熱時間を3日とした。
【0043】
高濃度ホウ素含有水に各試料を添加し、十分な時間保持した。ここで、試料の添加量をAl/B=3、4、5の3通りとした。固液分離して得た液相分に残留するホウ素濃度をICP分析装置により求めた。その結果を図6に示す。
【0044】
図6から分かるように、Al/Bを4以上とすれば、残留ホウ素濃度が10mg/L以下であり、海域外への排水基準を下回ることが分かる。このように、ホウ素濃度が1,000mg/Lの高濃度ホウ素含有水に対しても、非晶質エトリンガイトは高いホウ素吸着能力を発揮することが確認された。
【0045】
ところで、図3に示すように、加熱温度を75、85℃とすれば、脱水率が25〜30重量%となる。これはエトリンガイトに含まれる水分子8〜12分子に相当する。このため、非特許文献1に記載された水分子の分類のうち、(1)および(2)の水分子しか脱水できていないとも考えられる。
【0046】
しかし、図4に示すように、75℃で加熱処理して得た非晶質エトリンガイトを用いると、初期ホウ素濃度25mg/Lのホウ素含有水をホウ素濃度5mg/L以下まで低減させることができる。これは、非特許文献1に記載された水分子の分類のうち、(3)の水分子を脱水したことに相当する。
【0047】
この点について本願発明者は以下のように推測する。非特許文献1には加熱時間が明示されていない。しかし、図7はTG−DTAの測定結果のグラフと思われる。この場合、加熱処理は測定機器に設定された昇温速度に従って上昇するため、ある特定の温度における保持時間はほとんど無い。これに対して本実施形態では加熱時間を3〜30日としている。この保持時間の差により、非特許文献1とは異なる変化が生じているものと考えられる。
【0048】
例えば、加熱温度75℃、加熱時間3日の条件でエトリンガイトを加熱することにより、(2)に代えて(3)の水分子が除去された可能性がある。そのため、脱水率がそれほど高くないにも関わらず、ホウ素吸着能力が高いと考えられる。
【0049】
なお、図3に示すように、加熱温度を95℃とすると、75℃、85℃の場合よりも脱水率が低下する。図4に示すように、95℃で加熱処理して得られた非晶質エトリンガイトは、ホウ素濃度を10〜15mg/Lまで低減させる能力はあるものの、加熱時間の増加にともなう残留ホウ素濃度の低下は観察されない。すなわち、加熱時間の長短がホウ素吸着能力に影響していない。そのため、加熱処理の影響や効果が、他の温度条件とは異なる可能性がある。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明で得られた非晶質エトリンガイトは、廃水に含まれるホウ素を吸着、除去するのに利用できる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7