特許第6591512号(P6591512)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6591512検出器、ならびに、検出器の校正方法、補正方法、検出装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6591512
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】検出器、ならびに、検出器の校正方法、補正方法、検出装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20191007BHJP
【FI】
   H01L31/10 A
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2017-226950(P2017-226950)
(22)【出願日】2017年11月27日
(65)【公開番号】特開2019-96820(P2019-96820A)
(43)【公開日】2019年6月20日
【審査請求日】2018年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉川 弘文
(72)【発明者】
【氏名】北澤 田鶴子
(72)【発明者】
【氏名】荒川 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】權 晋寛
【審査官】 山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0211873(US,A1)
【文献】 特開平11−177118(JP,A)
【文献】 特開2015−137862(JP,A)
【文献】 特表2002−507739(JP,A)
【文献】 VINES, P. et al.,Versatile Spectral Imaging with an Algorithm-Based Spectrometer Using Highly Tuneable Quantum Dot Infrared Photodetectors,IEEE JOURNAL OF QUANTUM ELECTRONICS,2011年 2月,Vol.47,No.2,pp.190-197
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/00−31/0392、31/08−31/119
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板と、量子井戸または量子ドットを含む光電変換部とを備え、前記光電変換部に電圧を印加することで検出波長をシフト可能な検出器であって、
前記検出波長のシフト可能な波長領域内に、前記検出波長を校正または補正する基準として参照するための波長を有し、この基準として参照するための波長が前記シリコン基板の透過率が極大値、極小値、立上りエッジまたは立下りエッジとなる波長である、検出器。
【請求項2】
前記シリコン基板の透過率が極大値、極小値、立上りエッジまたは立下りエッジとなる波長を基準として検出波長を校正または補正するように構成されている、請求項1に記載の検出器。
【請求項3】
前記光電変換部が前記シリコン基板上に一体的に形成されている、請求項1または2に記載の検出器。
【請求項4】
前記シリコン基板が、前記光電変換部とは別体として設けられたものである、請求項1または2に記載の検出器。
【請求項5】
前記シリコン基板の抵抗値が1000Ω・cm以下である、請求項に記載の検出器。
【請求項6】
前記シリコン基板がジャスト基板である、請求項に記載の検出器。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の検出器を用いて、前記シリコン基板の透過率が極大値、極小値、立上りエッジまたは立下りエッジとなる波長を基準として、検出波長を校正する、検出器の校正方法。
【請求項8】
請求項1〜のいずれか1項に記載の検出器を用いて、前記シリコン基板の透過率が極大値、極小値、立上りエッジまたは立下りエッジとなる波長を基準として、検出波長を補正する、検出器の補正方法。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか1項に記載の検出器を複数含み、それぞれの検出器の検出波長を校正または補正する基準として参照するための波長が同一であることを特徴とする、検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線などを検出可能な検出器、ならびに、検出器の校正方法または補正方法、検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
赤外線を検出する赤外線検出器として、従来より、中間層と、中間層よりバンドギャップが狭い複数の量子ドットを有する量子ドット層とが交互に積層されてなる積層体を有し、積層体に赤外線を照射した際に量子ドット内の電子の励起によって生じる光電流を検出することにより赤外線を検出する、量子ドット型の赤外線検出器が知られている。
【0003】
たとえば特開2009−65141号公報(特許文献1)には、中間層と、前記中間層よりバンドギャップが狭い複数の量子ドットを有する量子ドット層とが交互に積層されてなる積層体を有し、前記積層体に赤外線を照射した際に生じる光電流を検出することにより赤外線を検出する赤外線検出器において、前記量子ドット層の一方の側に設けられ、前記中間層よりもバンドギャップが広い第1の障壁層と、前記量子ドット層の他方の側に設けられ、前記中間層よりもバンドギャップが広い第2の障壁層とを更に有する赤外線検出器が開示されている。このような特許文献1に開示された赤外線検出器によれば、所望の長波長特性を実現しつつ、暗電流が少なく、かつ、十分な感度を有する赤外線検出器を実現することができるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−65141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、量子ドット赤外線検出器(QDIP:Quantum Dot Infrared Photodetector)、量子井戸赤外線検出器(QWIP:Quantum Well Infrared Photodetector)などのサブバンド間遷移を利用した赤外線検出器において、吸収エネルギーは、量子構造に閉じ込められる電子の基底準位と、遷移先である励起準位との差により決まる。この基底準位及び励起準位の位置は量子構造そのもの(形状、組成)に対して、非常に敏感であり、たとえば、量子ドットの高さが1分子層変化するだけで波長が0.05μm変化する場合もある。一般的に量子ドットを用いた光検出器に用いられている量子ドットの密度は1010〜1012cm−2である。現在の量子ドット作製技術において、均一な量子ドットを形成することは非常に困難であるため、量子ドット赤外線検出器の吸収スペクトル(検出スペクトル)はある種の幅(量子ドット構造のバラつきに起因)を持つことが知られている。たとえば、赤外線検出器の面積あたりの量子ドット構造(組成や形状)の平均および分散が1枚のウエハ全面にわたり同一であれば、前述のウエハにより作製される複数の赤外線検出器の検出スペクトル中心及び幅はすべて均一になる。しかしながら、現実的には量子ドット形成装置の温度バラつきや原料供給バラつきなどにより上述の量子ドット構造の平均や分散がウエハの場所により異なることが一般的に知られている。また、量子ドット形成装置内の汚れなどにより、同じ装置であってもロットにより上述の量子ドット構造が異なるため、検出スペクトルが赤外線検出器ごとに異なり、バラつきが大きいという課題があった。これは、たとえば量子ドットのサイズ、密度、量子井戸などの量子構造の製造誤差に起因するものと考えられる。熱源の検知のみを目的とする応用であれば、上記バラつきの影響は小さいが、たとえば非接触温度計やサーモグラフィなど、検出ピークの波長がその精度に大きな影響を有するデバイスへの応用を考えると、製造誤差による検出ピークのバラつきは大きな問題となる。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、赤外線検出器における検出スペクトルなどを含む検出器の検出波長のバラつきを校正または補正可能な検出器、ならびに、赤外線検出器における検出スペクトルなどを含む検出器の検出波長のバラつきを校正または補正する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の検出器は、基板と、量子井戸または量子ドットを含む光電変換部とを備え、前記光電変換部に電圧を印加することで検出波長をシフト可能な検出器であって、前記検出波長のシフト可能な波長領域内に、前記検出波長を校正または補正する基準として参照するための波長を有し、この基準として参照するための波長が前記基板の透過率が極大値、極小値、立上りエッジまたは立下りエッジとなる波長であることを特徴とする。本構成によれば、基板の透過率が極大値、極小値、立上りエッジまたは立下りエッジとなる波長を用いて、検出波長を校正または補正することができ、高精度な検出器となる。
【0008】
本発明の検出器は、前記基板の透過率が極大値、極小値、立上りエッジまたは立下りエッジとなる波長を基準として検出波長を校正または補正するように構成されていることが好ましい。本構成によれば、検出波長が正確であるため、測定精度が高くなる。一方で、生産時のバラつきを吸収できるため、生産工程でかかるコストを低減できる。
【0009】
本発明の検出器において、光電変換部が前記基板上に一体的に形成されていてもよいし、また、前記基板が、光電変換部とは別体として設けられたものであってもよい。一体的に形成された構成によれば、基板と一体化した検出器のみで、上記校正または補正が可能となり、組み立て誤差などの影響を受けない。別体となっている構成であれば、校正または補正を行うときのみ取り付けることができるため、検出時には基板の透過率の変化を受けずに済む。また、基板を取り替えることもできるため、検出波長に合わせ、校正または補正の基準とする基板の透過率が極大値、極小値、立上りエッジまたは立下りエッジとなる波長を調節することが可能となるという利点がある。
【0010】
本発明の検出器において、前記基板がシリコンからなっていることが好ましい。この場合、前記基板の抵抗値が1000Ω・cm以下であることが好ましい。またこの場合、前記基板はジャスト基板であることが好ましい。本構成によれば、シリコンが波長9μm付近で吸収を持つため、上記校正または補正が可能となる。また、基板上に光電変換部を一体的に形成しやすい。ジャスト基板であれば、大型のイメージセンサとするのに特に好適である。
【0011】
本発明の検出器において、前記基板は樹脂からなっていてもよい。本構成によれば、検出波長に合わせ、校正または補正の基準とする基板が吸収する波長を調節することが可能となるという利点がある。
【0012】
本発明は、上述した本発明の検出器を用いて、前記基板の透過率が極大値、極小値、立上りエッジまたは立下りエッジとなる波長を基準として、検出波長を校正する、検出器の校正方法についても提供する。
【0013】
本発明はまた、上述した本発明の検出器を用いて、前記基板の透過率が極大値、極小値、立上りエッジまたは立下りエッジとなる波長を基準として、検出波長を補正する、検出器の補正方法についても提供する。
【0014】
本発明はまた、上述の検出器を複数含み、それぞれの検出器の検出波長を校正または補正する基準として参照するための波長が同一であることを特徴とする検出装置についても提供する。本構成によれば、検出装置の製造バラつきの校正または補正を簡便かつ効率的に行うことができ、ユーザーへ提供する測定結果に誤差が出ることを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、製造誤差に起因して検出スペクトルにバラつきがある赤外線検出器などの検出器において、当該バラつきを基板の透過率が極大値、極小値、立上りエッジまたは立下りエッジとなる波長を基準とした校正または補正によって簡便に補償することができる検出器、ならびに、当該検出器の校正方法または補正方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の赤外線検出器の校正方法を模式的に示す図である。
図2】本発明の好ましい一例の赤外線検出器11を模式的に示す図である。
図3図2におけるInGa1−xAs量子ドット(ここで、0≦x≦1)/InGa1−yAs(ここで、0≦y<1)/AlGa1−zAs(ここで、0≦z≦1)マトリックス16を一部拡大して示す図である。
図4図2に示した赤外線検出器11の電極18,19を電源に電気的に接続した状態を模式的に示す図である。
図5図4に示した赤外線検出器11に様々な電圧を印加した際の検出ピークを模式的に示す検出スペクトルである。
図6図6(a)は、本発明の赤外線検出器におけるブロック図の一例であり、図6(b)は、本発明の赤外線検出器におけるブロック図の他の例である。
図7図7(a)は、シリコン基板と半絶縁性のGaAs基板の赤外透過スペクトルであり、図7(b)は、図5に示した検出スペクトルにシリコン基板の吸収ピーク波長を重ねて示した図であり、図7(c)は、赤外線検出器11に印加する電圧値Vを変化させながら外光(太陽光)の信号(検出信号)を検出した結果を示すグラフである。
図8】本発明の赤外線検出器の校正方法を説明するための図である。
図9】本発明の赤外線検出器の校正方法を説明するための図である。
図10】実施形態1の赤外線検出器の制御の一例を示すフローチャートである。
図11】複数の検出器を用いる場合について説明するための模式図である。
図12図11に示したような複数の赤外線検出器を用いた場合の校正方法について説明するための図である。
図13図11に示したような複数の赤外線検出器を用いた場合の校正方法について説明するための図である。
図14】複数の赤外線検出器がアレイ化され、撮像装置32が形成されている例を模式的に示す図である。
図15】印加電圧の限度の範囲で各赤外線検出器が検出できる波長範囲を示すグラフである。
図16】本発明の好ましい他の例の赤外線検出器41を模式的に示す図である。
図17】実施形態7の赤外線検出器の制御の例を示すフローチャートである。
図18】実施形態8の赤外線検出器の制御の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<実施形態1>
本発明は、基板と、量子井戸または量子ドットを含む光電変換部とを備え、前記光電変換部に電圧を印加することで検出波長をシフト可能な検出器であって、前記検出波長のシフト可能な波長領域内に、前記検出波長を校正または補正する基準として参照するための波長を有し、この基準として参照するための波長が前記基板の透過率が極大値、極小値、立上りエッジまたは立下りエッジとなる波長であることを特徴とする。また本発明の検出器は、前記基板の透過率が極大値、極小値、立上りエッジまたは立下りエッジとなる波長を基準として検出波長を校正または補正するように構成されていることが好ましい。まず、本発明の検出器の一例として赤外線検出器を挙げ、当該赤外線検出器を校正する場合(赤外線検出器の校正方法)について説明する。
【0018】
ここで、図1(a)は、本発明の赤外線検出器の校正方法を適用する前の状態の赤外線検出器で検出された検出ピーク、図1(b)は、本発明の赤外線検出器の校正方法を適用した状態の赤外線検出器で検出された検出ピークをそれぞれ模式的に示している。図1(a),(b)において、縦軸は検出信号、横軸は波長(単位:μm)を示している。図1(a)に示す例において、たとえば、左側の検出ピーク1Aは、赤外線検出器A(量子ドットのサイズが小さい、または、量子井戸の幅が狭い)により検出された検出ピークであり、右側の検出ピーク1Bは、赤外線検出器B(量子ドットのサイズが大きい、または、量子井戸の幅が広い)により検出された検出ピークを示しているものとする。
【0019】
本発明の赤外線検出器の校正方法は、活性層(光吸収層)を含む光電変換部に量子井戸または量子ドットを含む赤外線検出器に適用することを前提とする。活性層に量子井戸または量子ドットを含む赤外線検出器は、印加する電圧によって検出ピークの位置をシフトさせることができる。本発明においては、このような活性層に量子井戸または量子ドットを含む赤外線検出器を校正する方法であって、所定値(オフセット値)の電圧を赤外線検出器に印加するステップを含むことを特徴とする。
【0020】
図1(a)において、実線2Aは、赤外線検出器Aにおいて電圧の印加によりシフト可能な波長領域を示しており、点線2Bは、赤外線検出器Bにおいて電圧の印加によりシフト可能な波長領域を示している。図1(a)では、赤外線検出器A,Bともに、電圧を印加していない状態(すなわち、赤外線検出器Aの印加電圧値(V=0V)、赤外線検出器Bの印加電圧値(V=0V))の検出スペクトル1A,1Bをそれぞれ示している。
【0021】
図1(b)に示す例では、基準となる波長3に検出ピークのピーク値が重なるように赤外線検出器に印加する電圧値(オフセット値:VOFF)を決定し、赤外線検出器A,Bにそれぞれ決定された電圧値の電圧を印加し(ここで、赤外線検出器Aの印加電圧値(V=VA0)、赤外線検出器Bの印加電圧値(V=VB0)であるものとする)、検出ピーク1Aの位置を図1の紙面に関し右側に、検出ピーク1Bの位置を図1の紙面に関し左側にシフトさせる。本発明は、この基準となる波長3として、赤外線検出器が有する基板が吸収する波長を用いることを特徴とする。
【0022】
ここで、図2は、本発明の好ましい一例の赤外線検出器11を模式的に示す図である。たとえば図2には、基板12上に、バッファ層(図示せず)を介して、下部コンタクト層15と、InGa1−xAs量子ドット(ここで、0≦x≦1)/InGa1−yAs(ここで、0≦y<1)/AlGa1−zAs(ここで、0≦z≦1)マトリックス(活性層)16と、上部コンタクト層17がこの順に積層されて構成された光電変換部13を備え、上部コンタクト層17および下部コンタクト層15にそれぞれ形成された電極18,19に、電気的に接続された操作部および検出部(図2には、操作部/検出部14として示している)を備える量子ドット赤外線検出器11が示されている。図2に示す例の赤外線検出器11では、たとえば基板12側から外光(太陽光)20が入射するように構成されている。
【0023】
本発明の検出器において、基板12はたとえばシリコンからなる。シリコン基板は、安価で一般的に使用される基板であると共に、波長9μm付近に吸収があり、大気の窓である8〜14μm帯検出に適している。このようなシリコン基板は、一般的な製造法であるCZ(Czochralski)法により作製される低コストなシリコン基板で好適に実現できるが、別の製造法で得られたものであっても勿論よい。また、シリコン基板はオフ角が0度のジャスト基板であってもよい。この場合、大型のイメージセンサとするのに特に好適である。
【0024】
本発明の検出器において光電変換部13は、上述した9μm付近の波長を吸収範囲に含み、外部からの操作により吸収波長範囲で波長を操作できればよい。図2に示した例の赤外線検出器11において、下部コンタクト層15および上部コンタクト層17は、たとえばn−GaAsからなり、また、電極18,19は、たとえばAuGeNi/Auからなる。また、バッファ層は、主にGaAsからなり、AlGaAsまたはAlAsからなる核形成層や、InGaAs/GaAsまたはInAlAs/GaAsからなる歪超格子層等を含んでもよい。本発明の検出器において、操作部は、外部回路により、光電変換部13に電圧を印加可能に操作できるように構成されていればよい。また本発明の検出器において、検出部は、外部回路により、光電変換部13から得られる信号を検出可能に構成されていればよく、図2に示す例の操作部/検出部14のように操作部と一体化されていてもよい。
【0025】
図2に示した例の赤外線検出器11は、シリコン基板12上に量子ドット構造を直接成長してもよいし、ウエハボンディングを用いたGaAs基板上量子ドット構造のシリコン基板への貼り合わせでもよい。
【0026】
図3は、図2におけるInAs量子ドット/AlGaAs/GaAsマトリックス16を一部拡大して示す図である。図3には、9μm近傍の検出ピークを有するような赤外線検出器を構成する場合を例示しており、たとえば、InAs量子ドット21の高さD1は5nm、ピラミッド形状の底辺長さD2は25nmである。図3に示す例では、このようなInAs量子ドット21は、その周囲がInGaAs層22で覆われており、さらに、このInAs量子ドット/InGaAs層が、GaAs層23により隔てられ、たとえば30層順次積層されて、InGa1−xAs量子ドット(ここで、0≦x≦1)/InGa1−yAs(ここで、0≦y<1)/AlGa1−zAs(ここで、0≦z≦1)マトリックス16が形成されている。ここで、InGaAs層22の厚みD3は10nmであり、InGaAs層22中において、量子ドット21の上側頂上および下側底からそれぞれ厚み2.5nmで量子ドット21を覆っている(すなわち、2.5nm(量子ドット21の上側頂上を覆う部分の厚み)+5nm(量子ドット21の高さD1)+2.5nm(量子ドット21の下側底を覆う部分の厚み)=10nm(InGaAs層22の厚みD3))。また、図3に示す例において、GaAs層23の厚みD4は、40nmである。
【0027】
なお、図3に示した例では、GaAs、InAs、InGaAsを含むデバイス構造について説明したが、その他の半導体、例えば、AlGaAs、InGaP、InAlAs、AlGaAsSb、AlGaInP、InAlGaAsなど、他の材料系でもよく、また量子ドット構造についても上記材料との組み合わせで適宜選択可能である。たとえば、InAs量子ドットの周囲がGaAsからなり、各InAs/GaAsをAlGaAsで隔てた活性層であってもよい。
【0028】
本発明において、上述してきたように、光電変換部が、検出波長を校正または補正する基準として参照するための基板上に一体的に形成されていてもよいが、検出波長を校正または補正する基準として参照するための基板が、光電変換部とは別体として設けられたものであってもよい。すなわち、本発明の検出器は、検出波長を校正または補正する基準として参照するための基板ではない基板上に形成された光電変換部、および検出波長を校正または補正する基準として参照するための基板を、別途備えた検出器であっても良い。たとえば、光電変換部はGaAs基板上に形成し、外光入射側に、検出波長を校正または補正する基準として参照するためのシリコン基板を別途、備えても良い。また、基板は、レンズなどの光学素子であってもよい。例えば波長フィルタでもよく、その場合、波長フィルタにより吸収または反射率が急激に変化することで透過率が急激に変化する立上りエッジまたは立下りエッジとなる波長を、校正または補正する基準とすればよい。
【0029】
図4は、図2に示した赤外線検出器11の電極18,19を電源に電気的に接続した状態を模式的に示す図である。図4に示すように、操作部での操作によって、電源より電極18,19に電圧Vが印加されると、赤外線検出器11に電流Iが流れる。この電流Iを検出部が検出する。この際、赤外線検出器11の検出波長に対応する赤外光が外部から入射すると、当該赤外光が未照射の場合と比較して電流が増加し、検出信号となる。本明細書においては、この増加分を「光電流」と呼称する。
【0030】
図5は、図4に示した赤外線検出器11に様々な電圧を印加した際の検出ピークを模式的に示す検出スペクトルである。図5において、縦軸は検出信号、横軸は波長(単位:μm)である。図5に示すように、特定の波長(印加する電圧範囲の略中央である中央値で検出される波長。例えば、V〜0V近傍(厳密には0Vではない)では8.9μm)に検出ピークを有する検出スペクトルが現れる。これは、赤外光が量子ドットのサブレベル間吸収を引き起こし、光電変換が生じるためである。ここで、赤外線検出器11に印加する電圧の電圧値Vを変化させると、電子のエネルギー準位が変化するため検出ピークの位置はシフトする。たとえば、図5に示すようにV〜0V近傍で検出ピークが8.9μmとなる赤外線検出器の場合、V=1Vの場合には検出ピークは9.2μm、V=−1Vの場合には8.6μmとなり、±0.3μmシフトさせることができる。本実施形態のように、印加する電圧範囲の略中央である中央値が、基板の吸収ピーク波長となるように構成されていると、素子ごとのバラつきが発生したことにより、参照するピークが印加電圧の範囲外になってしまう可能性が低くなる。
【0031】
ここで、図6(a)は、本発明の赤外線検出器におけるブロック図の一例である。図6(a)には、外光(太陽光)にて校正を行う場合を示しており、赤外線検出器は、電流検出信号を流せるようにプリアンプ(トランスインピーダンスアンプ)に電気的に接続され、プリアンプは出力可能に構成されると共に、電圧検出信号を出力するようにドライバ回路に電気的に接続されている。また図6(a)に示す例では、ドライバ回路は、制御信号を流せるようにバイアス回路に電気的に接続され、さらに、バイアス回路はバイアス電圧(印加電圧)を印加可能なように赤外線検出器に電気的に接続されている。プリアンプ、ドライバ回路、バイアス回路は、操作部/検出部14に対応する。
【0032】
また図6(b)は、本発明の赤外線検出器におけるブロック図の他の例である。図6(b)には、外光(太陽光)の代わりに、装置に備え付けられた赤外線発生器(ランプ)にて校正を行うように構成されている場合が示されている。図6(b)に示す例では、ドライバ回路に電気的に接続された赤外線発生器(ランプ)をさらに備え、赤外線発生器から赤外線検出器に光を送れるように構成されたこと以外は、図6(a)に示したブロック図と同様である。
【0033】
なお、図6(a),(b)には、赤外線検出器11は1個のみを示しているが、複数個の赤外線検出器が集積された赤外線検出器アレイの場合には、ドライバ回路、プリアンプを共通利用することも可能である。
【0034】
ここで、図7(a)シリコン基板(一般的な製造法であるCZ法で得られたシリコン(Si)基板)と半絶縁性のGaAs基板の赤外透過スペクトルであり、図7(b)は図5に示した検出スペクトルにシリコン基板の吸収ピーク波長を重ねて示した図であり、図7(c)は、赤外線検出器11に印加する電圧値Vを変化させながら外光(太陽光)の信号(検出信号)を検出した結果を示すグラフである。図7(a)において、縦軸は透過率であり、横軸は波長(μm)である。図7(c)において、縦軸は検出信号、横軸は電圧(単位:V)である。図7(a)に示されるように、シリコン基板は9μmの波長を強く吸収する。このシリコン基板の吸収ピーク波長を図5に示した検出スペクトルに重ねると、図7(b)に示すように、シリコン基板の吸収ピーク波長(9.0μm)は、V〜0Vの場合の検出ピークとV=1Vの場合の検出ピークとの間に存在する。したがって、赤外線検出器に印加する電圧値Vを変化させながら外光(太陽光)の信号(検出信号)を検出すると、図7(c)のようになる。すなわち、光電変換部の検出信号は、検出ピーク波長がシリコンの吸収波長に一致するV=0.3Vにおいて減少する。これは、9.0μmの光は検出器の光電変換部に到達する前にシリコン基板で吸収されるためである。このシリコンの吸収ピーク波長に一致する電圧Vの値をVとする。
【0035】
このように本発明の検出器は、前記光電変換部に電圧を印加することで検出波長をシフト可能であり、前記検出波長のシフト可能な波長領域内に基板が吸収する波長を有することが好ましい。なお、印加電圧の範囲の例として−1Vから+1Vを示したが、基板が吸収する波長が含まれているのであれば、印加電圧の範囲は−1Vから+1Vに限定されるものではない。
【0036】
また、図7(a)の赤外透過スペクトルの測定には、抵抗値が1〜50Ω・cmのシリコン(Si)基板が用いられた。シリコン基板の抵抗値が5000Ω・cm以上である場合には、9.0μmの吸収はほぼない一方で、抵抗値が小さいほど9.0μmの赤外吸収が起こる。抵抗値はたとえば1000Ω・cm以下であることが望ましい。
【0037】
上述のように、量子ドットを光電変換部に持つ検出器の検出スペクトルは量子ドットのサイズや密度に影響を受けるため、製造誤差の影響を受けやすい。また、量子ドットの製造誤差だけでなく、外部回路の製造誤差、回路定数の経時変化などの影響も存在する。以下、本発明の検出器の一例として上述した赤外線検出器を挙げ、当該赤外線検出器を校正する場合(赤外線検出器の校正方法)について説明する。
【0038】
図8および図9は、本発明の赤外線検出器の校正方法を説明するための図である。図7に示した例では、印加電圧0Vでの検出波長が9.0μmを目標スペックとしたが、図8(a)に示すように電圧Vが0Vのとき、製造誤差の影響により赤外線検出器の検出ピークが8.8μmとなっている。このとき、赤外線検出器に印加する電圧Vを変化させながら太陽光を検出すると、図8(b)に示すような検出信号が得られる。つまり、赤外線検出器は0.6Vでシリコンの吸収による検出信号の減少がみられる。ここで、赤外線検出器に印加する電圧Vの基準を0.6V(=V)とする。
【0039】
図9に示されるように、赤外線検出器に印加する電圧Vに対して、V−Vを目標波長を検出するための印加電圧値とすれば、設計通りの動作をする赤外線検出器となる。このようにして、赤外線検出器の製造のバラつきを、製造後に校正することができる。なお、シリコン基板の吸収ピーク波長を基準として参照した電圧を印加しながら検出波長を測定する「校正」に代えて、測定結果の電圧値に、シリコン基板の吸収ピーク波長を基準として参照した電圧を差し引きする「補正」を行うようにしてもよい。
【0040】
また、上述した例では、校正または補正に用いた波長はシリコン基板の吸収ピーク波長の1つである9.0μmであったが、シリコン基板の他の吸収ピーク波長(例えば16.4μm)を用いて校正または補正してもよい。また、シリコン基板の複数の吸収ピーク波長を校正または補正の基準に用いるようにしても勿論よい。
【0041】
また、図10は、実施形態1の赤外線検出器の制御の一例を示すフローチャートである。たとえば、以下の(1)〜(4)のステップを各素子ごとに行う。
【0042】
(1)外光(太陽光)または赤外線発生器(ランプ)の光を受光した状態でバイアス電圧(印加電圧)を−1Vから+1Vに掃引して出力の変化を測定(ここで、掃引範囲を−1Vから+1Vとしているが、あくまで例であり、他の範囲でもよい)、
(2)出力の最小値をサーチ(一般的なピークサーチアルゴリズム)(ここで、最小値は、極小値でもよい)、または、検出信号の急激な変化をサーチ(一般的なエッジ検出アルゴリズム)、
(3)最小値、立上りエッジまたは立下りエッジの(絶対)印加電圧をVとする、
(4)目的の波長(Vからの差分電圧ΔVとして与えられる)に対応する印加電圧を加えて出力を測定。
【0043】
なお、上記(1)〜(3)のステップは、校正の際に毎回行ってもよいし、初期に一度だけ行ってもよい。
【0044】
なお、本発明の赤外線検出器の校正方法は、量子井戸または量子ドットを含む光電変換部を備える赤外線検出器に、オフセット値の電圧を印加するステップを含んでいることが好ましい。たとえば、製品出荷前に校正に適正なオフセット値の電圧を測定しておき、当該オフセット値の電圧を記憶させ、使用時に、記憶させたオフセット値の電圧を印加するように構成されていてもよい。また、上述した例のような構成であるとしても、使用のたびにシリコン基板の吸収ピーク波長を計測するのではなく、製品出荷前に校正に適正なオフセット値の電圧を計測しておき、使用時にオフセット値の電圧を印加するように構成されていてもよい。さらに、校正用のアタッチメントを取り付け可能に赤外線検出器が構成されていてもよい。すなわち、校正用のアタッチメントを取り付けることでシリコン基板の吸収ピーク波長を測定して校正に適正なオフセット値の電圧値を更新できるが、校正用のアタッチメントを取り付けない状態で通常は使用する、というように構成されていてもよい。
【0045】
また上述した例では、シリコン基板を例に挙げて説明したが、基板は樹脂からなるものを用いてもよい。好適な樹脂としては、たとえばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂などが挙げられ、検出波長に合わせ、校正または補正の基準とする基板が吸収する波長を調節することが可能となるという利点がある。
【0046】
<実施形態2>
図11は、複数の赤外線検出器を用いる場合について説明するための模式図である。この場合、用いる赤外線検出器としては、図11(a)に示す例のように図2に示した赤外線検出器11を複数個用いてもよいし(同一または異なる基板から切り出した赤外線検出器)、図11(b)に示す例のように、同一の基板上に複数形成された赤外線検出器であってもよい。また本発明は、上述の本発明の検出器を複数含み、それぞれの検出器の検出波長を校正または補正する基準として参照するための波長が同一である検出装置についても提供する。このような本発明の検出装置によれば、検出装置の製造バラつきの校正または補正を簡便かつ効率的に行うことができ、ユーザーへ提供する測定結果に誤差が出ることを防ぐことができる。
【0047】
図11(b)には、基板12上に、バッファ層(図示せず)を介してn−GaAsからなる下部コンタクト層15Aと、n−GaAsからなる上部コンタクト層17Aと、AuGeNi/Auからなる電極18A,19Aと、InGa1−xAs量子ドット(ここで、0≦x≦1)/InGa1−yAs(ここで、0≦y<1)/AlGa1−zAs(ここで、0≦z≦1)マトリックス16Aと、操作部/検出部14Aとから構成された量子ドット赤外線検出器31A、ならびに、n−GaAsからなる下部コンタクト層15Bと、n−GaAsからなる上部コンタクト層17Bと、AuGe/Ni/Auからなる電極18B,19Bと、InGa1−xAs量子ドット(ここで、0≦x≦1)/InGa1−yAs(ここで、0≦y<1)/AlGa1−zAs(ここで、0≦z≦1)マトリックス16Bと、操作部/検出部14Bとから構成された量子ドット赤外線検出器31Bが集積された例(赤外線検出器アレイ)を示している。
【0048】
また図11(c)に模式的に示されるように、複数の赤外線検出器がアレイ化されており、撮像装置32となっていてもよい。図11(c)に示される撮像装置32において、個々の赤外線検出器は実施形態1で説明したとおりであるが、操作部と検出部を共通化し、統合操作部/統合検出部33としてもよい。
【0049】
図12および図13は、図11に示したような複数の赤外線検出器を用いた場合の校正方法について説明するための図である。図12(a)は、図11(b)に示したような2つの赤外線検出器が集積された、赤外線検出器アレイをそれぞれ電源に電気的に接続した状態を模式的に示す図である。図12(b)に示すように、電圧がV〜0V近傍(厳密には0Vではない)である場合(図12(b)中、それぞれ、V〜0V、V〜0V)、製造誤差の影響により検出器A(赤外線検出器31A)は8.8μm、検出器B(赤外線検出器31B)は9.1μmに検出ピークを有する。このとき、赤外線検出器31Aおよび赤外線検出器31Bの電圧VおよびVを変化させながら太陽光を検出すると、それぞれ図12(c)に示したような検出信号が得られる。すなわち、赤外線検出器31Aは0.6V(=V)でシリコン基板の吸収による検出信号の減少がみられ、赤外線検出器31Bは−0.3V(=V)でシリコン基板の吸収による検出信号の減少がみられる。ここで、赤外線検出器31Aおよび赤外線検出器31Bに印加する電圧Vの基準をそれぞれV、Vとする。
【0050】
赤外線検出器31Aおよび赤外線検出器31Bに印加する電圧をV、Vからの差分(ΔV、ΔV)とすれば、ΔV=ΔVの時、赤外線検出器31Aおよび赤外線検出器31Bの検出ピーク波長は略一致することになる。ここで、図13(a),(b)は太陽光を検出した際の赤外線検出器31Aおよび赤外線検出器31Bの検出スペクトルである。図13(a)において、縦軸は赤外線検出器31Aの検出信号、横軸はVからの差分の電圧値(ΔV)であり、図13(b)において、縦軸は赤外線検出器31Bの検出信号、横軸はVからの差分の電圧値(ΔV)である。図13(a),(b)から分かるとおり、およびVを基準にすることにより、赤外線検出器31Aおよび赤外線検出器31Bの製造誤差に起因する検出ピークの差を電圧の印加による検出ピークの位置のシフトにより簡便に補償することが可能になる。すなわち、本発明の赤外線検出器の校正方法では、基板が吸収する波長を赤外線検出器に印加する電圧の基準電圧とすることで、個々の赤外線検出器における検出ピークのバラつきを補正することが好ましく、この際、基準電圧からの差分を電圧値として赤外線検出器に印加して検出ピークの位置をシフトさせることで、電圧印加の際の波長方向の検出ピークのバラつきを防ぐことができる。また、前記基準電圧の際の検出信号から、各赤外線検出器の感度バラつきを検出し、各赤外線検出器の感度バラつきを補償するように信号処理を行うようにすることが好ましい。このようにすることで、複数の検出器でそれぞれ別の波長を検出して比較する場合や、アレイ化してイメージングする場合などに、検出波長のバラつきによって、ユーザーへ提供する測定結果に誤差が出ることを防ぐことができる。
【0051】
本発明の検出器として、集積化された2つの赤外線検出器31A,31Bを例に挙げたが、3つ以上の赤外線検出器が集積されていてもよいし、集積化されていない複数の赤外線検出器の検出波長を揃える目的で本発明の赤外線検出器の校正方法を適用してもよい。
【0052】
<実施形態3>
図14は、複数の赤外線検出器がアレイ化され、撮像装置32が形成されている例を模式的に示す図である。図14に示す例の撮像装置32は、図11(c)に模式的に示した撮像装置32と同じであり、個々の赤外線検出器は実施形態1で説明したとおりであるが、操作部と検出部は共通化され、統合操作部/統合検出部33とされている。統合操作部は、個々の赤外線検出器への印加電圧を操作する部分であり、個々の赤外線検出器に同一の印加電圧を印加するように構成される。また、統合検出部は、個々の検出部からの検出結果をとりまとめ、統合操作部により、撮像装置全体の校正または補正を行うように構成される。
【0053】
ここで、以下は、統合検出部が得た、各赤外線検出器に対して、実施形態1、2で上述したように校正を行った際に得られた基準電圧Vの値の例である。
(検出番号) (V
1 0.02V
2 −0.3V
3 −0.2V

N 0.2V
統合操作部では、これらの値を元に、各赤外線検出器に対して印加電圧を設定すればよい。印加電圧は、個々の赤外線検出器に対して設定してもよいし、基準電圧Vの平均値を、外部回路のオフセット電圧として設定し、該平均値からのずれを個々の赤外線検出器に付属する回路で調整してもよい。
【0054】
なお、赤外線検出器を破壊しないよう、赤外線検出器に印加される印加電圧には限度がある。図15は、実施形態1、2で上述したように校正を行った結果、印加電圧の限度の範囲で各赤外線検出器が検出できる波長範囲を示している。
【0055】
統合操作部は、全ての赤外線検出器が検出できる波長範囲(斜線が施された領域)を元に、赤外線検出器に印加する印加電圧の範囲を再設定する。たとえば、印加電圧の限度が±2Vであるとする。上述した基準電圧V分を個々の赤外線検出器に印加電圧として与えると、各赤外線検出器への印加電圧の限度は、±2V−Vとなる。統合操作部は、これを元に全赤外線検出器に印加できる電圧の範囲を設定する。なお、印加電圧を、外部回路の印加電圧と個々の赤外線検出器に付属する回路で調整した場合でも、同様の方法で、印加電圧を検出器を破壊しない範囲とすることができる。
【0056】
<実施形態4>
また図16は、本発明の好ましい他の例の赤外線検出器41を模式的に示す図である。図16に示す例の赤外線検出器41は、基板(たとえばシリコン基板)42と、バッファ層43と、n−GaAsからなる下部コンタクト層44と、n−GaAsからなる上部コンタクト層46と、GaAs量子井戸およびAlGa1−xAsバリアからなる活性層45とから構成される光電変換部と、AuGeNi/Auからなる電極47,48とを含む量子井戸赤外線検出器(QWIP)である。図16に示す例の赤外線検出器41における活性層45は、厚さ8nmのGaAs量子井戸および厚さ15nmのAlGa1−xAsバリアを30周期含むように構成されている。また、図16に示す例の赤外線検出器41では、シリコン基板42の端面が45度に研磨されており、45度に研磨された端面から赤外光23が入射し得るように構成されている。上述のように、活性層に量子ドットを含む量子ドット赤外線検出器(QDIP)だけでなく、図16に示すような活性層に量子井戸を含む量子井戸赤外線検出器(QWIP)に対しても、本発明の赤外線検出器の校正方法を好適に適用することができる。
【0057】
<実施形態5>
検出感度はある程度の電圧を印加する方が高くなるため、V〜0V近傍では、基板が吸収する波長が判別しづらくなる場合がある。本実施形態では、基板が吸収する波長がV〜0Vから離れた電圧値である場合について説明する。0Vから離れたとは、0Vに対し、装置の印加電圧分解能以上の差があればよい。
【0058】
この場合、参照する基板が吸収する波長を検出するための印加電圧V0の設計値を記憶しておけばよい。そして、所定値(オフセット値)の電圧をVOFF=V−V0とし、実施形態1と同様の方法で校正すればよい。
【0059】
このように、本発明の検出器は、活性層に印加する電圧値がV〜V0である場合における基板が吸収する波長となるときに活性層に印加されている電圧値VとV0との差をオフセット電圧とするように構成されていてもよい。
【0060】
<実施形態6>
本実施形態では、基板が吸収する単一の波長だけでなく、基板が吸収する波長を複数参照することを説明する。以下、λ1、λ2の2つの波長を参照する場合を例に挙げて説明する。
【0061】
λ1とλ2に対応する印加電圧の設計値が分かっていれば、λ1を参照することで判明したV1OFFと、λ2を参照することで判明したV2OFFが算出されるが、全波長に対してV1OFFとV2OFFの平均値をVOFFとして適用してもよいし、λ1とV1OFF、λ2とV2OFFから波長とオフセット電圧の関係を線形近似するようにしてもよい。このように、本発明の検出器は、基板が吸収する波長を複数参照して検出波長を校正または補正するように構成されていてもよい。
【0062】
<実施形態7>
測定結果の電圧値に、シリコン基板の吸収ピーク波長を基準として参照した電圧を差し引きする「補正」を行うようにしてもよい。本発明は、検出器の校正方法だけでなく、検出器の補正方法についても包含するものとする。
【0063】
ここで、図17は、実施形態7の赤外線検出器の制御の例を示すフローチャートである。たとえば、以下の(1)〜(4)のステップを各素子ごとに行う。
【0064】
(1)外光(太陽光)または赤外線発生器(ランプ)の光を受光した状態で印加電圧を−1Vから+1Vに掃引して出力の変化を測定、
(2)出力の最小値をサーチ(一般的なピークサーチアルゴリズム)(ここで、最小値は、極小値でもよい)、または、検出信号の急激な変化をサーチ(一般的なエッジ検出アルゴリズム)、
(3)最小値、立上りエッジまたは立下りエッジの(絶対)印加電圧をVとする、
(4)測定結果の印加電圧とVとの差分電圧ΔVを算出し、波長に換算する。
【0065】
図17に示したフローチャートにおいて、図10に示したフローチャートと異なるのはステップ(4)であり、Vをオフセット値として与えた状態で印加電圧を加えて測定するのではなく、(1)の測定結果の印加電圧の値をVで補正している。
【0066】
特に赤外線検出器がアレイ化されている場合、個々の素子にオフセット値を設定するよりも、測定後にデータを補正した方が簡便であるというメリットがある。
【0067】
本実施形態で説明した補正方法は、実施形態1のVが印加電圧範囲の中央値である構成、実施形態4のVが0Vから離れた電圧値である構成、実施形態5の2つの検出値を参照する構成にも利用することができる。
【0068】
<実施形態8>
本実施形態では、印加電圧Vを決定せずに、測定結果を補正する。ここで、図18は、実施形態8の赤外線検出器の制御の例を示すフローチャートである。たとえば、以下の(1)〜(3)のステップを各素子ごとに行う。
【0069】
(1)印加電圧を−1Vから+1Vに掃引して測定、
(2)出力の最小値をサーチ(一般的なピークサーチアルゴリズム)(ここで、最小値は、極小値でもよい)、または、検出信号の急激な変化をサーチ(一般的なエッジ検出アルゴリズム)、
(3)最小値、立上りエッジまたは立下りエッジが出ている波長を基板の透過率が極小値、立上りエッジまたは立下りエッジとなる波長と一致するよう、印加電圧を波長に変換する。これは、印加電圧を波長に変換する際、オフセット波長を加えることになる。
【0070】
すなわち、図18に示したフローチャートでは、印加電圧Vを決定するステップを設けず、そのまま波長に換算している。このようにすることで、ステップ数が少なく、Vを保持(記憶)する必要がなく簡便であるというメリットがある。
【符号の説明】
【0071】
1A 赤外線検出器Aによる検出ピーク、1B 赤外線検出器Bによる検出ピーク、2A 赤外線検出器Aの電圧印加によりシフト可能な波長領域、2B 赤外線検出器Bの電圧の印加によりシフト可能な波長領域、3 基準となる波長、11 赤外線検出器、12 基板、13 光電変換部、14,14A,14B 操作部/検出部、15,15A,15B 下部コンタクト層、16,16A,16B InGa1−xAs量子ドット(ここで、0≦x≦1)/InGa1−yAs(ここで、0≦y<1)/AlGa1−zAs(ここで、0≦z≦1)マトリックス、17,17A,17B 上部コンタクト層、18,18A,18B 電極、19,19A,19B 電極、20 電磁波、21 量子ドット、22 InGaAs層、23 GaAs層、31A,31B 赤外線検出器、32 撮像装置、33 統合操作部/統合検出部、41 赤外線検出器、42 基板、43 バッファ層、44 下部コンタクト層、45 活性層、46 上部コンタクト層、47 電極、48 電極。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18