(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記半導体基板は、半絶縁性の半導体基板、又は前記半導体基板と当該半導体基板上に形成された前記第1の化合物半導体層とが絶縁分離可能な半導体基板である請求項5に記載の赤外線発光素子。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下の詳細な説明では、本発明の実施形態の完全な理解を提供するように多くの特定の具体的な構成について記載されている。しかしながら、このような特定の具体的な構成に限定されることなく他の実施態様が実施できることは明らかであろう。また、以下の実施形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、実施形態で説明されている特徴的な構成の組み合わせの全てを含むものである。
【0011】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
<赤外線発光素子>
本発明の一実施形態における赤外線発光素子は、
図1に示すように、半導体基板10と、半導体基板10上に形成された化合物半導体積層部20と、を備える。化合物半導体積層部20は、半導体基板10側から、n型ドーピングされたInSbからなる第1の化合物半導体層21、n型ドーピングされたAlInSbからなる第2の化合物半導体層22、ノンドープであり、第2の化合物半導体層22と同一組成のAlInSbからなる活性層23、p型ドーピングされたAlInSbからなるワイドバンドギャップ層24、及びp型ドーピングされた第2の化合物半導体層22と同一組成のAlInSbからなる第3の化合物半導体層25が、この順に積層された積層構造を有する。
【0012】
半導体基板10と活性層23との間に、半導体基板10側に形成された、n型ドーピングされたInSbからなる第1の化合物半導体層21と、第1の化合物半導体層21の上に形成された、n型ドーピングされたAlInSbからなる第2の化合物半導体層22とを備えることにより、従来の赤外線発光素子よりも優れた発光強度を示す。
次に、本発明の一実施形態における赤外線発光素子の各構成要件について説明する。以下に記載される赤外線発光素子の各構成要件の特徴は、本発明の技術思想を逸脱しない範囲でそれぞれ単独または組み合わせて適用可能である。
【0013】
[半導体基板]
本発明の一実施形態における赤外線発光素子に含まれる半導体基板10は、この半導体基板10上に、半導体基板10側から、第1の化合物半導体層21、第2の化合物半導体層22、活性層23、ワイドバンドギャップ層24、及び第3の化合物半導体層25を、この順に積層することができれば特に制限されない。一例としては、半導体基板10として、GaAs基板、Si基板、InP基板、InSb基板等が挙げられるがこの限りではない。
本発明の一態様における半導体基板10は、一つの半導体基板10上に独立した複数の活性層23を直列又は並列に接続可能にする観点から、半絶縁性又は第1の化合物半導体層21と絶縁分離可能な基板からなる。
【0014】
[第1の化合物半導体層]
本発明の一実施形態における赤外線発光素子に含まれる第1の化合物半導体層21は、n型ドーピングされたInSb層であり、半導体基板10上に積層される。n型ドーパントとしては、シリコン(Si)、テルル(Te)、スズ(Sn)、硫黄(S)、セレン(Se)等が挙げられる。
バーンシュタイン・モスシフトにより発光波長に対する透過性を高め、発光強度を向上させる観点から、n型ドーピングの量は、本発明の一態様においては5×10
18[cm
−3]以上であり、また、一態様においては1×10
19[cm
−3]以上である。
活性層23の結晶性を高め、発光強度を向上させるため、本発明の一態様では第1の化合物半導体層21の膜厚は臨界膜厚以上であり、また、一態様では0.5μm以上である。
【0015】
[第2の化合物半導体層]
本発明の一実施形態における赤外線発光素子に含まれる第2の化合物半導体層22は、n型ドーピングされたAl
xIn
1−xSb層(0≦x≦1)であり、第1の化合物半導体層21上に形成される。このAl
xIn
1−xSb層のAl組成x(0≦x≦1)は、必要なバンドギャップの大きさや薄膜成長の容易さ等を考慮して設計されるが、本発明の一態様ではAl組成xは0以上0.1以下であり、また、一態様では0.02以上0.06以下である。
【0016】
第2の化合物半導体層22としては、具体的には、Al
xIn
1−xSb層(0<x<1)、InSb層、AlSb層を適用することができる。
n型ドーパントとしては、Si、Te、Sn、S、Se等が挙げられる。バーンシュタイン・モスシフトによる発光波長に対する透過性を高め、発光強度を向上させる観点から、n型ドーピングの量は、本発明の一態様では、5×10
18[cm
−3]以上であり、また、一態様では、1×10
19[cm
−3]以上である。
【0017】
活性層23の結晶性を高め、発光強度を向上させる観点から、第2の化合物半導体層22の膜厚は、本発明の一態様では0.1μm以上2μm以下である。
また、半導体基板10上に素子を複数個直列に接続した構造を作製する観点から、本発明の一態様では第1の化合物半導体層21と第2の化合物半導体層22との膜厚の合計は3μm以下である。
【0018】
[活性層]
本発明の一実施形態における赤外線発光素子に含まれる活性層23は、ノンドープであり第2の化合物半導体層22と同一組成のAl
xIn
1−xSb層(0≦x≦1)であり、第2の化合物半導体層22上に形成される。
ここで、「第2の化合物半導体層と同一組成」とは、III族元素であるAl及びInの比率が完全に同一である場合に加え、その差が0.5%以下であることまでを意味する。活性層23としては、具体的には、Al
xIn
1−xSb層(0<x<1)、InSb層、AlSb層を適用することができる。
発光強度を向上させる観点から、本発明の一態様では、活性層23の膜厚は0.1μm以上3μm以下であり、また、一態様では1μm以上2μm以下である。
【0019】
[ワイドバンドギャップ層]
本発明の一実施形態における赤外線発光素子に含まれるワイドバンドギャップ層24は、p型ドーピングされたAl
yIn
1−ySb層であり、活性層23上に形成される。p型ドーパントとしては、ベリリウム(Be)、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、炭素(C)、マグネシウム(Mg)、ゲルマニウム(Ge)、クロム(Cr)等が挙げられる。p型ドーパントのドーピング量は、本発明の一態様では7×10
17[cm
−3]以上であり、また、一態様では1×10
18[cm
−3]以上である。
注入されたキャリアを効率よく活性層23内に留め、キャリアの発光再結合確率を増加させるため、本発明の一態様では、ワイドバンドギャップ層24のバンドギャップは、n型ドーピングされたAl
xIn
1−xSb層からなる第2の化合物半導体層22よりもバンドギャップが大きい。
【0020】
ワイドバンドギャップ層24のバンドギャップを大きくする手段としては、III族元素であるアルミニウム(Al)とインジウム(In)との比率を調整する方法が挙げられる。具体的にはワイドバンドギャップ層24におけるInに対するAlの比率を第2の化合物半導体層22におけるInに対するAlの比率に比べて大きくすることで、ワイドバンドギャップ層24のバンドギャップを大きくすることが可能である。ワイドバンドギャップ層24のAl組成yは、本発明の一態様では、0.15以上0.3以下であり、また、一態様では、0.18以上0.25以下である。
また、活性層23との界面においてミスフィット転位等の格子欠陥が発生することを防ぎ、ワイドバンドギャップ層24の結晶性を高めるため、ワイドバンドギャップ層24の膜厚は本発明の一態様では臨界膜厚以下である。
【0021】
[第3の化合物半導体層]
本発明の一実施形態における赤外線発光素子に含まれる第3の化合物半導体層25は、p型ドーピングされた第2の化合物半導体層22と同一組成のAl
xIn
1−xSb層(0≦x≦1)であり、ワイドバンドギャップ層24上に形成される。
ここで、「第2の化合物半導体層と同一組成」とは、III族元素であるAl及びInの比率が完全に同一である場合に加え、その差が0.5%以下であることまでを意味する。第3の化合物半導体層25としては、具体的には、Al
xIn
1−xSb層(0<x<1)、InSb層、AlSb層を適用することができる。
【0022】
p型ドーパントとしては、Be、Zn、Cd、C、Mg、Ge、Cr等が挙げられる。
化合物半導体積層部20に電極を形成する場合、第3の化合物半導体層25はコンタクト層となる。電極とのコンタクト抵抗は等価回路上のシリーズ抵抗となり、発光素子の電力を消費する。したがって、コンタクト抵抗を下げるため、p型ドーパントのドーピング量は、本発明の一態様では7×10
17[cm
−3]以上であり、また、一態様では1×10
18[cm
−3]以上である。
【0023】
[その他]
本発明の一実施形態における赤外線発光素子は、活性層23に電力を供給するための電極部をさらに有していてもよい。一例としては第3の化合物半導体層25に接続されるp型電極部と、第1の化合物半導体層21及び/又は第2の化合物半導体層22に接続されるn型電極部を有する形態が挙げられる。
また、本発明の一実施形態における赤外線発光素子は、第1の化合物半導体層21、第2の化合物半導体層22、活性層23、ワイドバンドギャップ層24、及び第3の化合物半導体層25がこの順に積層されてなる化合物半導体積層部20は、その一部がメサ構造になっていてもよい。
【0024】
化合物半導体積層部20にメサ構造を設けることによって、基板平面方向に複数の発光層を形成することが可能であり、該複数の発光層を直列又は並列に接続することが容易となる。メサ構造にする方法は特に制限されないが、ウェットエッチング法やドライエッチング法を適用することができる。化合物半導体積層部20にメサ構造を設け、複数の発光層を直列または並列に接続する場合は、化合物半導体積層部20の一部に絶縁層を形成することで容易且つ効率的に赤外線発光素子を形成することができる。絶縁層としては酸化ケイ素や窒化珪素等が挙げられる。
また、化合物半導体積層部20が大気と直接接することを防止するために、保護層を更に備えていてもよい。保護層としては光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂等が挙げられる。
【0025】
<赤外線発光素子の製造方法>
次に、本発明の一実施形態における赤外線発光素子の製造方法の一例を説明する。
本発明の一実施形態における赤外線発光素子は、半導体基板10上に分子線エピタキシー法(MBE; Molecular Beam Epitaxy法)や、有機金属気相成長法(MOCVD: Metal Organic Chemical Vapor Deposition法)によって化合物半導体積層部20を形成することにより製造することができる。活性層23及び第3の化合物半導体層25を第2の化合物半導体層22と同一組成にするためには、各層の製膜条件、すなわち、半導体基板10の温度や供給原料の条件等を同一にすることにより実現可能である。また、ワイドバンドギャップ層24のバンドギャップを第2の化合物半導体層22のバンドギャップよりも大きくするためには、Al原料の供給量を増やすことで実現可能である。
【0026】
<実施形態の効果>
このように、本実施形態では、活性層23と半導体基板10との間に、半導体基板10側から順に、n型ドーピングされたInSbからなる第1の化合物半導体層21と、n型ドーピングされたAlInSbからなる第2の化合物半導体層22とを設けたため、発光強度のより大きい赤外線発光素子を実現することができる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は、上述した実施形態に記載の技術的範囲には限定されない。上述した実施形態に、多様な変更又は改良を加えることも可能であり、そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲から明らかである。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の一実施形態における赤外線発光素子を、実施例を用いて詳細に説明する。
[実施例1]
図1に示すように、半絶縁性GaAs基板(半導体基板10)上に、MBE装置を用いてSnを1×10
19[cm
−3]ドーピングしたn型InSb層(第1の化合物半導体層21)を0.5μmと、Snを1×10
19[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.034In
0.966Sb層(第2の化合物半導体層22)を0.5μmと、ノンドープのAl
0.034In
0.966Sb層(活性層23)を2μmと、Znを1×10
18[cm
−3]ドーピングしたp型Al
0.18In
0.82Sb層(ワイドバンドギャップ層24)を20nmと、Znを1×10
18[cm
−3]ドーピングしたp型Al
0.034In
0.966Sb層(第3の化合物半導体層25)を0.5μmと、を半絶縁性GaAs基板(半導体基板10)側からこの順に積層し、化合物半導体積層部20を形成した。
【0028】
次いで、第3の化合物半導体層25上にレジストパターンを形成し、ウェットエッチングを施すことで、
図2に示すように、メサ構造20aを作製した。さらに各発光素子が電気的に独立となるように、メサ構造20aどうしの間に、酸化ケイ素からなる絶縁溝30を形成し、メサ構造20a及び絶縁溝30を含む化合物半導体積層部20全面に、絶縁層40として窒化ケイ素を形成した。この絶縁層40の一部にコンタクトホール41を形成し、コンタクトホール41を覆うように、チタン(Ti)、白金(Pt)及び金(Au)をこの順に堆積して電極部50を形成し、
図2(ただし
図2(a)では絶縁層40は省略している)に示すパターンが複数個直列接続された赤外線発光素子を得た。
【0029】
[比較例1]
比較例1における赤外線発光素子は、実施例1における赤外線発光素子において、Snを1×10
19[cm
−3]ドーピングしたn型InSb層(第1の化合物半導体層21)とSnを1×10
19[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.034In
0.966Sb層(第2の化合物半導体層22)とに替えて、Snを1×10
19[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.034In
0.966Sb層を用いたものである。このSnを1×10
19[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.034In
0.966Sb層の膜厚は、1μmとした。第1の化合物半導体層21及び第2の化合物半導体層22を、Snを1×10
19[cm
−3]ドーピングしたn型Al
0.034In
0.966Sb層に代えたこと以外は、実施例1と同様の方法で赤外線発光素子を得た。
【0030】
つまり、実施例1における赤外線発光素子は、活性層23と半導体基板10との間に、半導体基板10側から、n型InSb層からなる第1の化合物半導体層21とn型Al
0.034In
0.966Sb層からなる第2の化合物半導体層22とをこの順に設けていたのに対し、比較例1における赤外線発光素子は、活性層23と半導体基板10との間に、n型InSb層(第1の化合物半導体層21)は設けずに、n型Al
0.034In
0.966Sb層(第2の化合物半導体層22)のみを設けた。
【0031】
[発光強度の比較]
このようにして形成した実施例1及び比較例1における赤外線発光素子について、発光強度を測定した。
発光強度は、旭化成エレクトロニクス社製の赤外線センサIR1011と、4.3μmバンドパスフィルタとを組み合わせたものを検出器として用い、IV変換アンプ及びロックインアンプを用いて信号増幅及びノイズ除去を行った上で出力を得た。
実施例1及び比較例1における赤外線発光素子それぞれについて、印加電流を変化させた場合の、発光強度を測定した。
図3にその結果を示す。なお、
図3において、横軸は印加電流〔mA〕、縦軸は発光強度〔a.u.〕である。また、記号「○」は実施例1における赤外線発光素子による測定結果を表し、記号「△」は比較例1における赤外線発光素子による測定結果を表す。
【0032】
図3に示すように、実施例1及び比較例1における赤外線発光素子共に、印加電流が大きいときほど発光強度は大きいが、いずれの印加電流を印加した場合であっても、実施例1における赤外線発光素子の方が、比較例1における赤外線発光素子に比較して約2倍の発光強度が得られることが確認された。つまり、活性層23と半導体基板10との間に、単一なn型Al
0.034In
0.966Sb層だけでなく、n型ドーピングされたInSbからなる第1の化合物半導体層21と、n型ドーピングされたAlInSbからなる第2の化合物半導体層22とを備えることにより、より大きな発光強度を得ることができることが確認された。